【死軍】ヴァイセントラフ砦防衛戦 4
何も知らないヤコブ・ヴィリアン
おお、新たな年、新たな夜明けが来るのはもうすぐ……。
来年こそ、正しい道に目覚めた冒険者と手を取り、愚かなバルディオンや王国に天誅をくだすとき。
ああ、今から楽しみですねぇ……。
来年こそ、正しい道に目覚めた冒険者と手を取り、愚かなバルディオンや王国に天誅をくだすとき。
ああ、今から楽しみですねぇ……。
(IL:楠木なっく)
ヴァイセントラフ砦の攻防戦が集結した後に、冒険者ギルドに奇妙な依頼が来ていたことを覚えているだろうか。
【死軍】と名付けられた死者の軍勢を王国へけしかけた首謀者たるテロリスト、ヤコブ・ヴィリアンの名義で出された噴飯物の依頼の事だ。
依頼内容は、死軍が作りだされた悲劇の舞台のヴィント市近郊から、国境付近にある彼の拠点までの往復を護衛するという物だった。
その依頼に冒険者たちには思う事もあったであろうが、表向きはかの吸血鬼を徹底的に歓待し、ヤコブの口を氷結中の湖のように滑らかにした。
同行した配下の吸血鬼たちは冒険者の言動を怪しんでいたようだが、ヤコブ自身が雇用した冒険者たちを進んで排除することはできなかったようだ。
もともと、拠点の入り口までの護衛が約束ではあったが。冒険者たちは首尾よく拠点へ招かれることに成功した。
そして、拠点の内部構造や守備戦力、罠の有無までを徹底的に調べ上げてくる。奇襲をかけるには十分な情報量だった。
残念ながら拠点自体の性質がヤコブ個人の記念品置き場というべきものであったため、帝国軍の早期反攻作戦の目標からは除外されたのだが……。
「そういう事ならば、攻略はこちらが主導して行って構わないかな?」
すっかり顔パスになったウィリアムが気安く言う。バルディオンはこの王国王子を心から信頼はしていない。
リーンエス王国とシルトラース帝国の間の歴史がそれを許さない。
が、執務室に予約なしで通す程度には、当面の共闘相手として信用していた。
「理由を尋ねても?」
「一つ目の理由。テロ組織の拠点は仮設のうちに破壊しておきたい。安寧に微睡む我が王国としては、平和を脅かすテロ組織は脅威だからね」
「それは理解できる。それから?」
「それともう一つはガス抜きだよ。ゾンビ軍団は追い返した。でも、ヤコブ本人は無傷で偉そうに口上を述べていったんだろう?
一つ、ぎゃふんと言わせてやりたいと思うのが人情というものだ。でも、帝国軍が自ら動けない事情があるのは分かる。懐事情もね。
だから私達が代わりに冒険者に依頼しようと思うのさ」
バルディオンはウィリアムがそう語る様子を黙って見つめている。芝居がかった様子で両手を広げていたウィリアムが、諦めたように苦笑した。
「や、賢猪将軍どのは一筋縄ではいかないな。もう少し乗せやすい相手を先に通すべきだったかな?」
「それはレイウェスト殿下の事を言っているのか?」
「いや、失言だったか。でも、この辺りで殿下に分かりやすい功績をつけてあげてもいいだろう、と友人としては思うんだけど」
また、じりじりした沈黙が流れる。バルディオンは何も言わないが、今度もウィリアムが両手を挙げた。
「わかった。率直に言おう。ヤコブの宝物の中には、うちの貴族連中が奪われた家宝なんかがある。要するに、貴族の名誉の問題だ」
「……決定が軍略の範疇ではない、ということか?」
「そう。私としても、国内の貴族に貸しは作っておきたい。これは王国内の政治の話なんだよ、将軍。分かって欲しい」
今回ウィリアムがわざわざ確認を取りに来たのは、問題のアジトが国境線付近、正確に測れば旧帝国内に位置するからであった。
とはいえ、両国の力関係を考え、また申し出の内容を勘案すればバルディオンに否という道理はないものでもある。
「……貴君らには借りがある。それに共同作戦はまだ継続中だ。その程度の越境作戦に許可は要らないだろう」
「それでもね。こうして許可を取って、援軍の貸しを返してもらったっていう実績も、国家の間では大事な事だ」
「政治は好かない。が、今後はそうも言ってはいられないのだろうな……」
「ご愁傷さま、だけどその通り。今後の帝国の事を貴方が真摯に想うなら、政治から距離を置くべきではない、と思うよ」
「忠告には、感謝する」
●
「おかえり。ずいぶん手こずったようだな」
会談を終えて、執務室に戻ったウィリアムを、トマス・メルヴィン・アーチボルト辺境伯が気安い様子で出迎えた。
この場では通り一遍の盗み聞きなどがなされていないことは、彼の手勢と彼自身で確認済みゆえのことだ。
厳密に言えば、確認してその結果を自分たちは信用しているという、アピールでもあるのがややこしいところだが。
「首尾はどうだった?」
「ふう……。何とか、ぎりぎりうまくいった、かな」
短時間の会談だというのに、ウィリアムはすっかり疲労した様子で椅子にだらしなく腰掛ける。
「将軍をペテンにかけるのはお勧めできないが」
「別に悪い事をしようという訳じゃないさ。冒険者に、帝国や同盟からばかりではなく、王国からの依頼を受けてもらいたくてね」
帝国の今後の為にも、バランスは取っておくべきだろう? と微笑するウィリアムに、トマスはため息を返した。
「シグモルのGP教徒のような素振りはやめて欲しい。本音は?」
「本音も同じさ。冒険者にはリーンエス王国の現体制をクライアントとして信頼し、我が王国への愛着を持ってほしい。双方の友好のためにね」
「……なるほど」
わざわざ嫌らしい言い方をしている偽悪趣味の王子に合わせずとも。
現在の王国国内の状態を考えれば、それは確かに必要なことではあった。
■■■ヤコブ・ヴィリアンのアジトの情報【秘】■■■
(情報入手当時のものであり、各依頼で更新されている場合はそちらを優先すること)
・敵外部戦力
ゾンビクリーパーが少数
・敵屋内戦力(必要に応じて外部へ出てくる可動戦力)
吸血鬼が6体
ゾンビが最低40体(補充の可能性あり)
・形状
洞窟をゾンビの手で拡張した半人工の洞窟で、完成した区画では床や壁面などは平ら。
未完成の区画は鉱山のような様相である。全体としては通路で部屋や広間をつないだアリの巣状の構造となる。
入り口は複数あり、一か所を攻略しても他の出入り口が機能している可能性がある。
地質は柔らかめで、適切に破壊すれば部屋単位で崩落させることは可能と思われる。
・罠
機械式のものは存在していない
通路や扉に霊体系のアンデッドが仕掛けられているケースがある
・鍵
扉などに機構はあるのだが通常は使われていない。
警戒態勢に入れば使われるかもしれない。
・宝物
ヤコブの戦利品1(【貴族喰】の異名を得た当時の、貴族一族からのもの)
ヤコブの戦利品2(返り討ちにした王国騎士などの遺品)
ヤコブの個人的趣味のアイテム(趣味の悪い服や見た目だけの武具など)
執筆:紀藤トキ
【死軍】と名付けられた死者の軍勢を王国へけしかけた首謀者たるテロリスト、ヤコブ・ヴィリアンの名義で出された噴飯物の依頼の事だ。
依頼内容は、死軍が作りだされた悲劇の舞台のヴィント市近郊から、国境付近にある彼の拠点までの往復を護衛するという物だった。
その依頼に冒険者たちには思う事もあったであろうが、表向きはかの吸血鬼を徹底的に歓待し、ヤコブの口を氷結中の湖のように滑らかにした。
同行した配下の吸血鬼たちは冒険者の言動を怪しんでいたようだが、ヤコブ自身が雇用した冒険者たちを進んで排除することはできなかったようだ。
もともと、拠点の入り口までの護衛が約束ではあったが。冒険者たちは首尾よく拠点へ招かれることに成功した。
そして、拠点の内部構造や守備戦力、罠の有無までを徹底的に調べ上げてくる。奇襲をかけるには十分な情報量だった。
残念ながら拠点自体の性質がヤコブ個人の記念品置き場というべきものであったため、帝国軍の早期反攻作戦の目標からは除外されたのだが……。
「そういう事ならば、攻略はこちらが主導して行って構わないかな?」
すっかり顔パスになったウィリアムが気安く言う。バルディオンはこの王国王子を心から信頼はしていない。
リーンエス王国とシルトラース帝国の間の歴史がそれを許さない。
が、執務室に予約なしで通す程度には、当面の共闘相手として信用していた。
「理由を尋ねても?」
「一つ目の理由。テロ組織の拠点は仮設のうちに破壊しておきたい。安寧に微睡む我が王国としては、平和を脅かすテロ組織は脅威だからね」
「それは理解できる。それから?」
「それともう一つはガス抜きだよ。ゾンビ軍団は追い返した。でも、ヤコブ本人は無傷で偉そうに口上を述べていったんだろう?
一つ、ぎゃふんと言わせてやりたいと思うのが人情というものだ。でも、帝国軍が自ら動けない事情があるのは分かる。懐事情もね。
だから私達が代わりに冒険者に依頼しようと思うのさ」
バルディオンはウィリアムがそう語る様子を黙って見つめている。芝居がかった様子で両手を広げていたウィリアムが、諦めたように苦笑した。
「や、賢猪将軍どのは一筋縄ではいかないな。もう少し乗せやすい相手を先に通すべきだったかな?」
「それはレイウェスト殿下の事を言っているのか?」
「いや、失言だったか。でも、この辺りで殿下に分かりやすい功績をつけてあげてもいいだろう、と友人としては思うんだけど」
また、じりじりした沈黙が流れる。バルディオンは何も言わないが、今度もウィリアムが両手を挙げた。
「わかった。率直に言おう。ヤコブの宝物の中には、うちの貴族連中が奪われた家宝なんかがある。要するに、貴族の名誉の問題だ」
「……決定が軍略の範疇ではない、ということか?」
「そう。私としても、国内の貴族に貸しは作っておきたい。これは王国内の政治の話なんだよ、将軍。分かって欲しい」
今回ウィリアムがわざわざ確認を取りに来たのは、問題のアジトが国境線付近、正確に測れば旧帝国内に位置するからであった。
とはいえ、両国の力関係を考え、また申し出の内容を勘案すればバルディオンに否という道理はないものでもある。
「……貴君らには借りがある。それに共同作戦はまだ継続中だ。その程度の越境作戦に許可は要らないだろう」
「それでもね。こうして許可を取って、援軍の貸しを返してもらったっていう実績も、国家の間では大事な事だ」
「政治は好かない。が、今後はそうも言ってはいられないのだろうな……」
「ご愁傷さま、だけどその通り。今後の帝国の事を貴方が真摯に想うなら、政治から距離を置くべきではない、と思うよ」
「忠告には、感謝する」
●
「おかえり。ずいぶん手こずったようだな」
会談を終えて、執務室に戻ったウィリアムを、トマス・メルヴィン・アーチボルト辺境伯が気安い様子で出迎えた。
この場では通り一遍の盗み聞きなどがなされていないことは、彼の手勢と彼自身で確認済みゆえのことだ。
厳密に言えば、確認してその結果を自分たちは信用しているという、アピールでもあるのがややこしいところだが。
「首尾はどうだった?」
「ふう……。何とか、ぎりぎりうまくいった、かな」
短時間の会談だというのに、ウィリアムはすっかり疲労した様子で椅子にだらしなく腰掛ける。
「将軍をペテンにかけるのはお勧めできないが」
「別に悪い事をしようという訳じゃないさ。冒険者に、帝国や同盟からばかりではなく、王国からの依頼を受けてもらいたくてね」
帝国の今後の為にも、バランスは取っておくべきだろう? と微笑するウィリアムに、トマスはため息を返した。
「シグモルのGP教徒のような素振りはやめて欲しい。本音は?」
「本音も同じさ。冒険者にはリーンエス王国の現体制をクライアントとして信頼し、我が王国への愛着を持ってほしい。双方の友好のためにね」
「……なるほど」
わざわざ嫌らしい言い方をしている偽悪趣味の王子に合わせずとも。
現在の王国国内の状態を考えれば、それは確かに必要なことではあった。
■■■ヤコブ・ヴィリアンのアジトの情報【秘】■■■
(情報入手当時のものであり、各依頼で更新されている場合はそちらを優先すること)
・敵外部戦力
ゾンビクリーパーが少数
・敵屋内戦力(必要に応じて外部へ出てくる可動戦力)
吸血鬼が6体
ゾンビが最低40体(補充の可能性あり)
・形状
洞窟をゾンビの手で拡張した半人工の洞窟で、完成した区画では床や壁面などは平ら。
未完成の区画は鉱山のような様相である。全体としては通路で部屋や広間をつないだアリの巣状の構造となる。
入り口は複数あり、一か所を攻略しても他の出入り口が機能している可能性がある。
地質は柔らかめで、適切に破壊すれば部屋単位で崩落させることは可能と思われる。
・罠
機械式のものは存在していない
通路や扉に霊体系のアンデッドが仕掛けられているケースがある
・鍵
扉などに機構はあるのだが通常は使われていない。
警戒態勢に入れば使われるかもしれない。
・宝物
ヤコブの戦利品1(【貴族喰】の異名を得た当時の、貴族一族からのもの)
ヤコブの戦利品2(返り討ちにした王国騎士などの遺品)
ヤコブの個人的趣味のアイテム(趣味の悪い服や見た目だけの武具など)
執筆:紀藤トキ