【死軍】ヴァイセントラフ砦防衛戦 1
【貴族喰】ヤコブ・ヴィリアン
(IL:楠木なっく)
吸血鬼ヤコブ・ヴィリアンは死霊術師だった。国家を超えて手配を受けるテロ集団【メドゥの指先】のメンバーでもある。
彼は以前から帝国に、そしてそこに暮らす人々に一方的な親近感を感じていた。
王国で貴族を狙った連続殺人事件を起こしたことで、ヤコブは【貴族喰】の異名で呼ばれている。
それほどに王国貴族を憎んで止まぬ吸血鬼にとって、王国に敵対する国家の住人というだけでも友だと思えた。
帝国崩壊の知らせを受けてすぐに北へと向かったのも、だからだろう。
だが、既に終わってしまった帝国都市ヴィントの惨状を前にして、彼にできることは無かった。
だから、せめてできることをやろうと思ったのだ。
今日も、死者に生を吹き込んでいく。人生の道半ばに倒れた帝国の民達に。
力はどこまでも尽きない。自分の死霊術師としての実力をはるかに超え、万を超える民を立ち上がらせたというのに。
彼らが自分の想いに応えてくれているのかもしれない。ヤコブはそう感じる。
そう思ってみれば、死者たちの声なき声が聞こえる気がした。王国へ、貴族へ、鉄槌を。
そうだ。もしかしたら、ヤコブはそのためにここに来たのではなかろうか。
志半ばに潰えた帝国の民や軍人の、その想いを継ぐために。そう思えば、今の状況も理解できた。
「立ち上がるのです、立ち上がるのです、死者たちよ。ワタシの想いに応えるならば、立ち上がるのです……」
ゆらり、ゆらりと廃墟の中を歩いてくる。死者たちは自分の思い通りに、整列した。やはり、想いは同じなのだ。
「よし。キミ達の願い、ワタシが引き受けましょう。ともに王国を討つ。討とうではありませんか」
死者たちが頷いた、ような気がした。
●
ヤコブの配下には、幾人かの吸血鬼がいた。数は自分でも覚えていない。道具が必要だから作った、程度の認識だった。
それが役に立つ時が来た。
「砦に縁があると分かった者の名をまとめました。ヤコブ様」
「ふむ、よくやりましたね、キミ」
名前すら憶えていない様子の主の誉め言葉でも、配下は蕩けるような笑みを浮かべる。
「では、キミ達は彼らの声なき願いを伝える文を書くのです。もう筆も持てない彼らの代わりにその腕となりなさい」
「……は、文、ですか?」
「砦にいる縁者たちへ、決起を促す文ですよ。彼らもまた王国を憎む帝国人のはずです……。
志半ばにして倒れた者の熱い想いを知れば、必ずや心動かされるでしょう」
そしてともに、手を取り戦うのだ、と。陶然とした目で語る主に、配下達は声に出しては異を唱えなかった。
しかし、心からの同意を返すというわけでもない。
こんな主ではあるのだが、吸血鬼としての子である配下から見れば忠誠の対象だ。陶酔といってもよい。
主の想いを叶える道具など、自分たち以外に増えなくてもよい、と思う者すらいた。
――結果として。配下達が手分けして書いた文は無味乾燥な代物となった。
心の伴わぬ手紙は、ヴィントの様子をうかがっていた斥候の手を介してヴァイセントラフ砦へと届く。
執筆:紀藤トキ
彼は以前から帝国に、そしてそこに暮らす人々に一方的な親近感を感じていた。
王国で貴族を狙った連続殺人事件を起こしたことで、ヤコブは【貴族喰】の異名で呼ばれている。
それほどに王国貴族を憎んで止まぬ吸血鬼にとって、王国に敵対する国家の住人というだけでも友だと思えた。
帝国崩壊の知らせを受けてすぐに北へと向かったのも、だからだろう。
だが、既に終わってしまった帝国都市ヴィントの惨状を前にして、彼にできることは無かった。
だから、せめてできることをやろうと思ったのだ。
今日も、死者に生を吹き込んでいく。人生の道半ばに倒れた帝国の民達に。
力はどこまでも尽きない。自分の死霊術師としての実力をはるかに超え、万を超える民を立ち上がらせたというのに。
彼らが自分の想いに応えてくれているのかもしれない。ヤコブはそう感じる。
そう思ってみれば、死者たちの声なき声が聞こえる気がした。王国へ、貴族へ、鉄槌を。
そうだ。もしかしたら、ヤコブはそのためにここに来たのではなかろうか。
志半ばに潰えた帝国の民や軍人の、その想いを継ぐために。そう思えば、今の状況も理解できた。
「立ち上がるのです、立ち上がるのです、死者たちよ。ワタシの想いに応えるならば、立ち上がるのです……」
ゆらり、ゆらりと廃墟の中を歩いてくる。死者たちは自分の思い通りに、整列した。やはり、想いは同じなのだ。
「よし。キミ達の願い、ワタシが引き受けましょう。ともに王国を討つ。討とうではありませんか」
死者たちが頷いた、ような気がした。
●
ヤコブの配下には、幾人かの吸血鬼がいた。数は自分でも覚えていない。道具が必要だから作った、程度の認識だった。
それが役に立つ時が来た。
「砦に縁があると分かった者の名をまとめました。ヤコブ様」
「ふむ、よくやりましたね、キミ」
名前すら憶えていない様子の主の誉め言葉でも、配下は蕩けるような笑みを浮かべる。
「では、キミ達は彼らの声なき願いを伝える文を書くのです。もう筆も持てない彼らの代わりにその腕となりなさい」
「……は、文、ですか?」
「砦にいる縁者たちへ、決起を促す文ですよ。彼らもまた王国を憎む帝国人のはずです……。
志半ばにして倒れた者の熱い想いを知れば、必ずや心動かされるでしょう」
そしてともに、手を取り戦うのだ、と。陶然とした目で語る主に、配下達は声に出しては異を唱えなかった。
しかし、心からの同意を返すというわけでもない。
こんな主ではあるのだが、吸血鬼としての子である配下から見れば忠誠の対象だ。陶酔といってもよい。
主の想いを叶える道具など、自分たち以外に増えなくてもよい、と思う者すらいた。
――結果として。配下達が手分けして書いた文は無味乾燥な代物となった。
心の伴わぬ手紙は、ヴィントの様子をうかがっていた斥候の手を介してヴァイセントラフ砦へと届く。
執筆:紀藤トキ