【祝祭】賽子の女神の祝祭
空色みなも
コメント 1
シナリオID:3470
オープニング
●
コロコロ――。
軽快に賽子の転がる音。
賑やかな、人の声。
抜けるように晴れた空へ、湧き上がっては溶けていく。
エラトゥーン都市同盟が一都市、エルタ・リコ。
この町では現在、卓上遊戯祭が盛大に開催されていた。
会場が会場なら、もちろん発起人はこの人。
「思った以上に反響があったねえ。やっぱり、みんなこうした明るい祭に飢えてたのかね」
冒険者たちのお宿『女神の賽子亭』女将、シリス・アローゼアだ。
お馴染みの腰に手を当てたポーズで、数々の簡易テントが並ぶ会場を満足気に見回している。
テントの屋根に貼られた色はとりどり。
例えば、白はカードを中心とした遊戯のブースであることを示している。
他にも赤はダイスを中心とした遊戯、青はタイルを中心とした遊戯、緑はロールプレイを中心とした遊戯、などなど。
様々なジャンルの遊戯についてブースが出展されている。
これも、ロスガリア大陸各地へ大々的に広報を行ったおかげといえよう。
まだまだ技術的にも卓上遊戯の量産が難しい現状にありながら、噂を聞きつけた有志が駆け付けてくれた。
そうした有志の中には、パンクリアース学園卓上遊戯部の姿もあった。
緑色の布が張られた下で、彩り豊かな魔女たちを演じながら黒の魔女に立ち向かう遊戯の試遊を行っている。
そしてこの場に集まったのは当然、出展側の人々だけではない。
来場者も、数多く訪れている。
もともとエルタ・リコに暮らす人々ばかりではない。
手の空いた卓上遊戯部の部員たちと談笑しているのは、部の卒業生たちだろうか。
卒業生の一人とみられる巻き毛の女性の金髪が、日の光を浴びて眩しく輝いている。
それ以外にも、リーンエス王国やパンクリアース学園の関係者とみられる人物が物珍しさからか見学に訪れていた。
シルトラース帝国やドワーフ王国、シグモル火山からは、シリスから声をかけられた冒険者ギルドの職員が。
噂を聞きつけたシャルガネのシノビや、ディズル大湿地帯のリザードマンが。
そしてフィルエス大森林からは――。
「げ、親父」
森を故郷とするシリスの、関係者たちが来訪しているのが見えた。
「まさか族長の仕事を置いてまで――マルスまで連れて、ほんとしょうがないんだから」
シリスはバツが悪そうに頬を掻く。
が、やがて意を決したように父親のもとへパタパタと駆けて行った。
コロコロ――。
軽快に賽子の転がる音。
賑やかな、人の声。
抜けるように晴れた空へ、湧き上がっては溶けていく。
エラトゥーン都市同盟が一都市、エルタ・リコ。
この町では現在、卓上遊戯祭が盛大に開催されていた。
会場が会場なら、もちろん発起人はこの人。
「思った以上に反響があったねえ。やっぱり、みんなこうした明るい祭に飢えてたのかね」
冒険者たちのお宿『女神の賽子亭』女将、シリス・アローゼアだ。
お馴染みの腰に手を当てたポーズで、数々の簡易テントが並ぶ会場を満足気に見回している。
テントの屋根に貼られた色はとりどり。
例えば、白はカードを中心とした遊戯のブースであることを示している。
他にも赤はダイスを中心とした遊戯、青はタイルを中心とした遊戯、緑はロールプレイを中心とした遊戯、などなど。
様々なジャンルの遊戯についてブースが出展されている。
これも、ロスガリア大陸各地へ大々的に広報を行ったおかげといえよう。
まだまだ技術的にも卓上遊戯の量産が難しい現状にありながら、噂を聞きつけた有志が駆け付けてくれた。
そうした有志の中には、パンクリアース学園卓上遊戯部の姿もあった。
緑色の布が張られた下で、彩り豊かな魔女たちを演じながら黒の魔女に立ち向かう遊戯の試遊を行っている。
そしてこの場に集まったのは当然、出展側の人々だけではない。
来場者も、数多く訪れている。
もともとエルタ・リコに暮らす人々ばかりではない。
手の空いた卓上遊戯部の部員たちと談笑しているのは、部の卒業生たちだろうか。
卒業生の一人とみられる巻き毛の女性の金髪が、日の光を浴びて眩しく輝いている。
それ以外にも、リーンエス王国やパンクリアース学園の関係者とみられる人物が物珍しさからか見学に訪れていた。
シルトラース帝国やドワーフ王国、シグモル火山からは、シリスから声をかけられた冒険者ギルドの職員が。
噂を聞きつけたシャルガネのシノビや、ディズル大湿地帯のリザードマンが。
そしてフィルエス大森林からは――。
「げ、親父」
森を故郷とするシリスの、関係者たちが来訪しているのが見えた。
「まさか族長の仕事を置いてまで――マルスまで連れて、ほんとしょうがないんだから」
シリスはバツが悪そうに頬を掻く。
が、やがて意を決したように父親のもとへパタパタと駆けて行った。
解説
●目的
卓上遊戯祭を盛り上げる。
●状況
ほぼフリーアタックシナリオです。
エルタ・リコで開催された卓上祭で、出展したり、試遊を楽しんだり、買い物をしたり、警備についたり、会場を訪れた人々と単に会話したりできます。
PCたちは盛り上げ役としてシリス・アローゼアから依頼を受けているので、寸志が出ます。
●その他
技術的に再現できる卓上遊戯であれば、だいたいのものはあることにして構いません。
ただし実在のゲームの名称やルールの内容についてはマスタリングが入り、詳細をぼかしたり改変を加えますので、悪しからずご了承ください。
●呼べば出てくる担当NPC(登録・非登録を問わず)
主だった担当NPCを一覧にしますが、それ以外でも一応、ご指名があれば非登録の担当NPCを出せる可能性はあります(一時的に登場させた公式NPCや敵性NPC、リクエストシナリオに固有のNPC、死亡したNPC、などは不可となります)。
【エラトゥーン都市同盟】
シリス・アローゼア
エメス
アネータ・シブリングス
イスタ・シブリングス
アックス・ドレッド
青果商の男
九人の冒険者(アンリ・イーノ・ウォルフラム・エルシア・オルト・カッツ・キッシュ・クララ・ケイ)
アイとベニと飼い主の少女
マンボ・ウーから船を帰還させた船長
【リーンエス王国】
ルウ・エリオ
ジョウ・ヘッジング
リーブス・リテラス
ジュエリア・シャイニー
カーリィ・ブロンド
ハンデルス・トレイダー
クロネ・クラゲン
エルン・フェランド
ホロウ・ミラー
フレイ・アラムハーク
アナーシャ・アラムハーク
リーリー
金髪おさげな受付嬢
シール・ドガール
【フィルエス大森林】
モーリス・アローゼア
マルス・アリアーナ
カルボン夫妻とその子供
【ディズル大湿地帯】
サディーク・アルトゥフーラ
チャキ
赤と青の無謀なリザードマン若者コンビ
【シルトラース帝国】
幸薄そうな受付の青年
【シャルガネ居住区】
アセビ
【ドワーフ王国】
スピリィ
【シグモル火山】
イラ・プティオン
マスターより
お世話になっております、空色みなもです。
連動【祝祭】でのリリースとなります。
アニエピカにおける空色みなもシナリオの集大成、な位置づけのシナリオです。
いろいろなNPCのその後、とか書きたいところですが、解説をご覧いただければ分かる通り、この人数の後日譚をオープニングには詰め込み切れないよ! と、つまりはそういうことです。
皆さんに呼んでいただけた分だけ、NPCのその後も描写します。
関連NPCにシリス・アローゼアが紐づけられていますが、今回は掲示板による質問への回答は行わない予定です。
世界に平和をもたらした皆さんのプレイングをお待ちしております。
リプレイ
●
世界に平和が訪れた。
エルタ・リコ卓上遊戯祭の賑わいは、そのことを実感させるに十分で。
右を見ても、左を見ても、人々の顔は晴れやかだった。
そんな情景の中でも、一際、笑い声に溢れた一画が。
パンクリアース学園、卓上遊戯部の出展ブースであった。
先輩たちが卒業し、五年生にして部長になったハンデルス・トレイダー。
二年生となったその後輩たち、クロネ・クラゲン、エルン・フェランド、ホロウ・ミラー。
そして、今年度の新入生とみられる姿も数名。
どうやら卓上遊戯部も年々、活気を増しているようだ。
現在、そんな輪の中心にいるのは――。
「はい、やっぱりお祭りですから笑顔が大事、ということで! 手軽に大笑いして盛り上がれる大喜利系の遊戯をご用意しました!」
卓上遊戯部と深く関りを持つルアンナ・ミュラー、その人だ。
「ふふ、流石、いいところに目を付けたね」
この場にはゲストとしてシリス・アローゼアも呼ばれている。
町における娘の姿を参観に来たエルフの父親とは、今は別行動をとっているようだ。
「これをお手元にどうぞ」
「この切り抜きは……張り紙の一部、でしょうか?」
ルアンナの配った何枚かずつの紙片を、ハンデルスがしげしげと眺める。
紙片には様々な筆跡で、張り紙やチラシ、手紙の一部のような言葉が書かれていた。
「はい、皆さんは字を読めるけど書けないという設定で、捨てられた書面の切り抜きから想い人にラブレターを作って頂きます!」
ルアンナ曰く、手に入れた言葉を組み合わせて、より熱意とラブの籠った手紙を作った者が勝利という。
「整いました! では、出していきますよ」
そう言ってルアンナが並べた紙片が紡ぎ出した愛の告白は――。
『世界』
『を元気に』
『僕』
『炎の』
『半額』
『積極攻撃!』
紙片の並んだテーブルの周囲に、笑顔の花畑が咲いた。
●
「おっ、やってんな!」
「あ、ナハシュさん! 来てくださったんですね」
卓上遊戯部のブースを見付けてヨッと手を挙げたナハシュへ、ハンデルスが手を振って呼びかける。
「気まぐれで学園入学した頃からの付き合いだからな。なんか面白そうなゲームがあれば混ぜてくれ」
ナハシュは空いた席にどっかと腰かけると、テーブルに並んだ紙片を見て「てか、なんだこれ」と笑ってみせた。
「こちら、ナハシュさんもやってみます? 楽しいですよ」
ルアンナに誘われ、ナハシュも遊戯に加わることに。
「あはは、なんですこれ? 『僕は』『いつまでも』『君を』『お墓に』『エキサイティング!』って!」
繰り返されるネタに走った回答がゲラのホロウにひとしきり受けた後。
「なあ、そういや征竜討伐ゲームとかねえの? もしくはでっけえイカみたいな敵、倒す奴とか」
ナハシュがふと、最近の時勢を反映した遊戯がないか部員たちに尋ねてみる。
「今のところ、僕たちの収集品の中にはないですね」
エルンによると、征竜ではなくドラゴンを倒しに迷宮に潜る遊戯ならありますが、とのこと。
なお、その遊戯ではよく冒険者たちがドラゴンに丸のみされて全滅するらしい。
「今度作ろうぜ、レイド型ボードゲーム。倒すまでの双六でもいいぞ」
「いいですね、是非やりましょう!」
このナハシュの言葉には、クロネが前のめりに同意する。
「はは、遊びや体験から学ぶものは、ただの座学より覚えやすいって誰かが言ってたからな!」
別に座学が全然おぼえられねぇから言ってるわけじゃねぇぞ、と茶目っ気を出してナハシュが付け加えてみせると、周囲から笑い声があがる。
「あ、そうそう。この辺にシグモルに詳しいやつとか来てね? あそこ温泉あるだろ? 各所に別荘もとうって話になっててな」
「シグモルに詳しいとなると――やっぱりイラかね? あ、ちょうどそこでキョロキョロしてるじゃないか。おーい!」
ナハシュに尋ねられ、シリスが近くをうろついていたイラ・プティオンを呼び止める。
彼は普段シグモル火山で依頼を冒険者に斡旋している受付の青年であり、冒険者ギルド繋がりでシリスに声をかけられこの祭を訪れていたのだ。
「できるだけ温泉に近い空き家ですか。そのうえで別荘に適している地となると、すでに押さえられている場所もありますが――」
用件を告げられたイラは、記憶をたどるように思案顔をし。
「条件に適う場所がないわけでもないですね。よければご紹介しましょう」
これから押さえられるかどうかは分からないが、との念を押したうえで、空き家の紹介を約束してくれたのだった。
●
「やはりというべきか、王国と学園の関係者が集まりやすいのはここみたいだね」
各国の人々に挨拶の声をかけてまわっていたシルヴィア・A・カペルも、王国関係者を探すうちに自然と卓上遊戯部のブースに辿り着いていた。
「あら、カペルさん。お久しぶりです、その節はどうも」
その姿を目に留めた卓上遊戯部の卒業生、ジュエリア・シャイニーが声をかけ。
「ジュエリアも久しいね。こうして平穏が戻ってきて、再会できることになったのがなによりだよ」
シルヴィアも笑顔で人類の勝利を祝ってみせる。
もちろん卓上遊戯を純粋に楽しむことも目的の一つであるが、シルヴィアにとってこの祭は各国の情報集めの場でもあり、また、人脈作りの場でもある。
ジュエリアのような王国貴族とも積極的に交流しておくことが、シルヴィアの今後を見据えた戦略であった。
「そうだ。せっかくこうして会えたんだ、久しぶりにアレをやってみる気はないかい?」
「カペルさんがそうおっしゃるということは――いいでしょう、今度は私が勝ちますよ?」
シルヴィアが悪戯っぽくあえてぼかした言葉で問いかけたところ、ジュエリアもすぐにその意を察し、不敵に笑む。
そこでシルヴィアが取り出したのは『BLUE ROSE&TRUE SEED』――カペル領で親しまれる『ROSE&SEED』というカードゲームのセット。
一枚一枚が銅の飾り枠で縁取られた美しいステンドグラスからなる、大切な友人からの贈り物。
「こうも綺麗だと、手に取って遊ぶのが少しもったいなく思えてしまいますね」
「なに、実際に遊ばれてこそ、これも本望だろう。どうか気にせず使ってやってくれ」
和やかに談笑するジュエリアとシルヴィアであったが、五枚ずつのカードをいったん広げると、そこからは真剣勝負。
ジュエリアの『蕾と魔術師』がシルヴィアの『葉と商人』を負かした後。
二人の『苗と農民』が引き分けて――。
(おそらく次は――『種と姫』)
シルヴィアの洞察が見抜いた通り、ジュエリアが『種と姫』を出したところで『蕾と魔術師』がそれを打ち砕く。
しかし、勝負はまだ分からない。
ここで残った二枚のうちどちらのカードを選択しても、両者に勝ち目がある状況。
勝負は――。
シルヴィアが出した『薔薇と騎士』が、ジュエリアの『葉と商人』を制して終わった。
自らに勝利をもたらした『薔薇と騎士』を日にかざし。
そこに描かれた青薔薇を見て、シルヴィアは思う。
(花の領地の後継者として、頑張ろう――)
不可能をも可能にする象徴が、陽光を受け玲瓏と輝いた。
●
そんなシルヴィアとジュエリアの勝負を見守っていた卓上遊戯部の卒業生。
リーブス・リテラスとカーリィ・ブロンド。
勝負の行方を見届け、今は会話に興じていた二人であったが、やがてカーリィが人混みの中に誰かの姿を見付けたようで。
リーブスにも促され、カーリィはその誰かのもとへと駆けていく。
「ヴァンさん!」
「よ、カーリィの嬢ちゃん、また会えたな。チップは倍以上になったかね?」
カーリィが駆け寄った先には、ヴァンゲルス・ロッドがいた。
「わたくしたちはまたお会いできる、っていう賭けでしたわよね? ならたった今、チップが倍以上になりましたわ」
そう言って、くすくすと笑うカーリィ。
「違いない。あれから一年か……久しぶりに顔が見られて嬉しいぜ」
それを見たヴァンゲルスも口角を上げている。
「……元々お前さんにゃ華があったが、ますます綺麗になったな。ハハッ、もう嬢ちゃんなんて呼べねぇな」
「綺麗だなんて、そんな。照れますじゃありませんか」
そしてヴァンゲルスが真顔でそんなことを言ったものだから、カーリィは恥ずかしそうに縮こまっていた。
「さあ、ゲームがてら近況でも聞かせて貰おうか。俺たちならあの魔女のゲームが相応しいかね」
「ええ、そうしましょう! 早速、テーブルと道具をお借りしてきますわね!」
ヴァンゲルスとカーリィが準備を始めたのは、今回、卓上遊戯部がメインで紹介しているものでもある遊戯。
彩豊かな色の魔女となって、黒の魔女へ挑むゲームだ。
プレイヤーの分身となる色の魔女たちの能力をああでもない、こうでもないと相談しながら。
「さて、どうだカーリィ。お前さんの目標は……夢は、叶ったか?」
ヴァンゲルスがそう切り出した。
「そうですわね――まだ夢半ば、といったところでしょうか。それでも頓挫などもしておりませんので、本当にこれからですわ」
カーリィは卒業後、自らの家の領地経営に携わり、領地を経済的に立ち直らせようとしているとヴァンゲルスも聞いている。
やはり長期計画と言うべきか、実現はまだ先になりそうではあるけれども。
ひとまず、望まぬ他家に嫁へ出されるということは留めているらしい。
「俺に何かできることはあるか? お前さんの力になりてぇんだ。っても、一介の情報屋に出来ることなんざ限られてるがな。ああ、結婚相手の素行調査とかもできるぞ? なんてな?」
ヴァンゲルスがそうおどけてみせた後――。
「……お前さんにゃ幸せになって貰わないと困るんでね。頼むぜ、カーリィ」
「ええ、頼まれましたわ。きっと――だから、ヴァンさんも是非わたくしのお力になってくださいまし」
真剣なまなざしを送ると、カーリィもふっと表情を緩めてヴァンゲルスの金の瞳を見つめ返した。
●
賽子の女神は、人類に微笑んだ。
平和を手に入れたことは、一つのゴールではあるけれど。
人々の人生の双六は、まだまだ先へと続いている。
ダイスの音よ。
絶えることなく、この世界に響き渡れ――。
世界に平和が訪れた。
エルタ・リコ卓上遊戯祭の賑わいは、そのことを実感させるに十分で。
右を見ても、左を見ても、人々の顔は晴れやかだった。
そんな情景の中でも、一際、笑い声に溢れた一画が。
パンクリアース学園、卓上遊戯部の出展ブースであった。
先輩たちが卒業し、五年生にして部長になったハンデルス・トレイダー。
二年生となったその後輩たち、クロネ・クラゲン、エルン・フェランド、ホロウ・ミラー。
そして、今年度の新入生とみられる姿も数名。
どうやら卓上遊戯部も年々、活気を増しているようだ。
現在、そんな輪の中心にいるのは――。
「はい、やっぱりお祭りですから笑顔が大事、ということで! 手軽に大笑いして盛り上がれる大喜利系の遊戯をご用意しました!」
卓上遊戯部と深く関りを持つルアンナ・ミュラー、その人だ。
「ふふ、流石、いいところに目を付けたね」
この場にはゲストとしてシリス・アローゼアも呼ばれている。
町における娘の姿を参観に来たエルフの父親とは、今は別行動をとっているようだ。
「これをお手元にどうぞ」
「この切り抜きは……張り紙の一部、でしょうか?」
ルアンナの配った何枚かずつの紙片を、ハンデルスがしげしげと眺める。
紙片には様々な筆跡で、張り紙やチラシ、手紙の一部のような言葉が書かれていた。
「はい、皆さんは字を読めるけど書けないという設定で、捨てられた書面の切り抜きから想い人にラブレターを作って頂きます!」
ルアンナ曰く、手に入れた言葉を組み合わせて、より熱意とラブの籠った手紙を作った者が勝利という。
「整いました! では、出していきますよ」
そう言ってルアンナが並べた紙片が紡ぎ出した愛の告白は――。
『世界』
『を元気に』
『僕』
『炎の』
『半額』
『積極攻撃!』
紙片の並んだテーブルの周囲に、笑顔の花畑が咲いた。
●
「おっ、やってんな!」
「あ、ナハシュさん! 来てくださったんですね」
卓上遊戯部のブースを見付けてヨッと手を挙げたナハシュへ、ハンデルスが手を振って呼びかける。
「気まぐれで学園入学した頃からの付き合いだからな。なんか面白そうなゲームがあれば混ぜてくれ」
ナハシュは空いた席にどっかと腰かけると、テーブルに並んだ紙片を見て「てか、なんだこれ」と笑ってみせた。
「こちら、ナハシュさんもやってみます? 楽しいですよ」
ルアンナに誘われ、ナハシュも遊戯に加わることに。
「あはは、なんですこれ? 『僕は』『いつまでも』『君を』『お墓に』『エキサイティング!』って!」
繰り返されるネタに走った回答がゲラのホロウにひとしきり受けた後。
「なあ、そういや征竜討伐ゲームとかねえの? もしくはでっけえイカみたいな敵、倒す奴とか」
ナハシュがふと、最近の時勢を反映した遊戯がないか部員たちに尋ねてみる。
「今のところ、僕たちの収集品の中にはないですね」
エルンによると、征竜ではなくドラゴンを倒しに迷宮に潜る遊戯ならありますが、とのこと。
なお、その遊戯ではよく冒険者たちがドラゴンに丸のみされて全滅するらしい。
「今度作ろうぜ、レイド型ボードゲーム。倒すまでの双六でもいいぞ」
「いいですね、是非やりましょう!」
このナハシュの言葉には、クロネが前のめりに同意する。
「はは、遊びや体験から学ぶものは、ただの座学より覚えやすいって誰かが言ってたからな!」
別に座学が全然おぼえられねぇから言ってるわけじゃねぇぞ、と茶目っ気を出してナハシュが付け加えてみせると、周囲から笑い声があがる。
「あ、そうそう。この辺にシグモルに詳しいやつとか来てね? あそこ温泉あるだろ? 各所に別荘もとうって話になっててな」
「シグモルに詳しいとなると――やっぱりイラかね? あ、ちょうどそこでキョロキョロしてるじゃないか。おーい!」
ナハシュに尋ねられ、シリスが近くをうろついていたイラ・プティオンを呼び止める。
彼は普段シグモル火山で依頼を冒険者に斡旋している受付の青年であり、冒険者ギルド繋がりでシリスに声をかけられこの祭を訪れていたのだ。
「できるだけ温泉に近い空き家ですか。そのうえで別荘に適している地となると、すでに押さえられている場所もありますが――」
用件を告げられたイラは、記憶をたどるように思案顔をし。
「条件に適う場所がないわけでもないですね。よければご紹介しましょう」
これから押さえられるかどうかは分からないが、との念を押したうえで、空き家の紹介を約束してくれたのだった。
●
「やはりというべきか、王国と学園の関係者が集まりやすいのはここみたいだね」
各国の人々に挨拶の声をかけてまわっていたシルヴィア・A・カペルも、王国関係者を探すうちに自然と卓上遊戯部のブースに辿り着いていた。
「あら、カペルさん。お久しぶりです、その節はどうも」
その姿を目に留めた卓上遊戯部の卒業生、ジュエリア・シャイニーが声をかけ。
「ジュエリアも久しいね。こうして平穏が戻ってきて、再会できることになったのがなによりだよ」
シルヴィアも笑顔で人類の勝利を祝ってみせる。
もちろん卓上遊戯を純粋に楽しむことも目的の一つであるが、シルヴィアにとってこの祭は各国の情報集めの場でもあり、また、人脈作りの場でもある。
ジュエリアのような王国貴族とも積極的に交流しておくことが、シルヴィアの今後を見据えた戦略であった。
「そうだ。せっかくこうして会えたんだ、久しぶりにアレをやってみる気はないかい?」
「カペルさんがそうおっしゃるということは――いいでしょう、今度は私が勝ちますよ?」
シルヴィアが悪戯っぽくあえてぼかした言葉で問いかけたところ、ジュエリアもすぐにその意を察し、不敵に笑む。
そこでシルヴィアが取り出したのは『BLUE ROSE&TRUE SEED』――カペル領で親しまれる『ROSE&SEED』というカードゲームのセット。
一枚一枚が銅の飾り枠で縁取られた美しいステンドグラスからなる、大切な友人からの贈り物。
「こうも綺麗だと、手に取って遊ぶのが少しもったいなく思えてしまいますね」
「なに、実際に遊ばれてこそ、これも本望だろう。どうか気にせず使ってやってくれ」
和やかに談笑するジュエリアとシルヴィアであったが、五枚ずつのカードをいったん広げると、そこからは真剣勝負。
ジュエリアの『蕾と魔術師』がシルヴィアの『葉と商人』を負かした後。
二人の『苗と農民』が引き分けて――。
(おそらく次は――『種と姫』)
シルヴィアの洞察が見抜いた通り、ジュエリアが『種と姫』を出したところで『蕾と魔術師』がそれを打ち砕く。
しかし、勝負はまだ分からない。
ここで残った二枚のうちどちらのカードを選択しても、両者に勝ち目がある状況。
勝負は――。
シルヴィアが出した『薔薇と騎士』が、ジュエリアの『葉と商人』を制して終わった。
自らに勝利をもたらした『薔薇と騎士』を日にかざし。
そこに描かれた青薔薇を見て、シルヴィアは思う。
(花の領地の後継者として、頑張ろう――)
不可能をも可能にする象徴が、陽光を受け玲瓏と輝いた。
●
そんなシルヴィアとジュエリアの勝負を見守っていた卓上遊戯部の卒業生。
リーブス・リテラスとカーリィ・ブロンド。
勝負の行方を見届け、今は会話に興じていた二人であったが、やがてカーリィが人混みの中に誰かの姿を見付けたようで。
リーブスにも促され、カーリィはその誰かのもとへと駆けていく。
「ヴァンさん!」
「よ、カーリィの嬢ちゃん、また会えたな。チップは倍以上になったかね?」
カーリィが駆け寄った先には、ヴァンゲルス・ロッドがいた。
「わたくしたちはまたお会いできる、っていう賭けでしたわよね? ならたった今、チップが倍以上になりましたわ」
そう言って、くすくすと笑うカーリィ。
「違いない。あれから一年か……久しぶりに顔が見られて嬉しいぜ」
それを見たヴァンゲルスも口角を上げている。
「……元々お前さんにゃ華があったが、ますます綺麗になったな。ハハッ、もう嬢ちゃんなんて呼べねぇな」
「綺麗だなんて、そんな。照れますじゃありませんか」
そしてヴァンゲルスが真顔でそんなことを言ったものだから、カーリィは恥ずかしそうに縮こまっていた。
「さあ、ゲームがてら近況でも聞かせて貰おうか。俺たちならあの魔女のゲームが相応しいかね」
「ええ、そうしましょう! 早速、テーブルと道具をお借りしてきますわね!」
ヴァンゲルスとカーリィが準備を始めたのは、今回、卓上遊戯部がメインで紹介しているものでもある遊戯。
彩豊かな色の魔女となって、黒の魔女へ挑むゲームだ。
プレイヤーの分身となる色の魔女たちの能力をああでもない、こうでもないと相談しながら。
「さて、どうだカーリィ。お前さんの目標は……夢は、叶ったか?」
ヴァンゲルスがそう切り出した。
「そうですわね――まだ夢半ば、といったところでしょうか。それでも頓挫などもしておりませんので、本当にこれからですわ」
カーリィは卒業後、自らの家の領地経営に携わり、領地を経済的に立ち直らせようとしているとヴァンゲルスも聞いている。
やはり長期計画と言うべきか、実現はまだ先になりそうではあるけれども。
ひとまず、望まぬ他家に嫁へ出されるということは留めているらしい。
「俺に何かできることはあるか? お前さんの力になりてぇんだ。っても、一介の情報屋に出来ることなんざ限られてるがな。ああ、結婚相手の素行調査とかもできるぞ? なんてな?」
ヴァンゲルスがそうおどけてみせた後――。
「……お前さんにゃ幸せになって貰わないと困るんでね。頼むぜ、カーリィ」
「ええ、頼まれましたわ。きっと――だから、ヴァンさんも是非わたくしのお力になってくださいまし」
真剣なまなざしを送ると、カーリィもふっと表情を緩めてヴァンゲルスの金の瞳を見つめ返した。
●
賽子の女神は、人類に微笑んだ。
平和を手に入れたことは、一つのゴールではあるけれど。
人々の人生の双六は、まだまだ先へと続いている。
ダイスの音よ。
絶えることなく、この世界に響き渡れ――。
マスターコメント
お疲れ様でした。空色みなもです。
このたびは当シナリオにご参加頂き、誠にありがとうございました。
ここまできて色々と感慨深いものもありますが、思いはなによりリプレイに詰め込ませて頂きましたので、楽しんでいただければ幸いです。
またどこかで皆さんにお会いできるのを心からお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
イベントシナリオ普通 報酬:標準4 / 4〜25人
2024年02月13日 11時22分53秒 公開
大成功
相談掲示板
さて、エルタ・リコの卓上遊戯祭へようこそ、だね。 あたしは今回、依頼に関する質問の回答はしない予定だけど、この掲示板も、もしよかったらこれまでの思い出とか語り合う場としても使っておくれ。 ここまでくるのに、冒険者のあんたたちには本当に世話になったね。 少し早いかもだけれど、ありがとうね!