オーロラのおひめさま

七海真砂

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シナリオID:3465

オープニング

 するとオーロラの蝶々がひらひら舞って、女の子のお洋服はオーロラのドレスに早変わり。
 オーロラのお姫様のできあがりです。

「うわあああああああああん!!」
「な、なんじゃ?」
 その日、クリエスター山脈を越えるための旅支度をしていたオペラは、大声で泣く子供の声に目を丸くしていた。見れば、冒険者ギルドの方から、ガン泣きしながら女の子が歩いて来る。
「……おじょうちゃん、どうしたのじゃ?」
「おじょうちゃんじゃないの、ヘレンちゃんなの」
 ぐすんと鼻を鳴らして、ヘレンと名乗った女の子は、冒険者ギルドへ依頼に行ったけれど、断られてしまったのだと肩を落とした。
「ふむ。……依頼には報酬が必要じゃからなあ……」
「しってる。だから、とっておきをもっていったのよ」
 これ、と取り出したのは小瓶。中には、チョコレートが十粒ほど……。
(なるほど。一人一粒のチョコレートでは……)
 報酬にならんと門前払いせざるをえないじゃろうなあ、とオペラは大体の状況を理解した。
「それでヘレン。何を依頼したかったのじゃ?」
 内容によっては、オペラが個人的に力になってあげる事もできるかもしれない、と。
 そう問いかけてみると、ヘレンは「あのね」と涙を拭って言う。
「わたし、『オーロラのおひめさま』に会いたいの」

「すみませんすみませんすみません!!!」
 ヘレンと一緒に彼女の家を訪れ、事情をかいつまんで説明すると、ヘレンの父親は平謝りだった。
(親子じゃな~……)
 その叫びっぷりがそっくりだったから、妙な所でオペラは感動してしまった。
 ま、それはさておき。
「『オーロラのおひめさま』というのは、なんのことかの?」
「あ、ああ。亡くなった妻が娘に話していた物語です……」
 クリエスター山脈の向こう側、誰のものでもない土地に迷い込んだ女の子が、『オーロラの蝶々』と出会って『オーロラのお姫様』になる、おとぎ話のようなものだという。
「なるほど……では会いたくても会えないという訳じゃな」
「ええ、まあ……オーロラの蝶自体は実在しているのですが……」
「ほう?」
 完全に架空の話かと思いきや、どうやらそうでは無いらしい。
 よくよく聞いてみると、亡くなった妻というのは元々昆虫学者で、クリエスター山脈の向こう側に生息しているオーロラの蝶も、研究していた昆虫のひとつらしい。
「あまりに綺麗なので、それを元に物語を作ったと……言っていました……」
「では、オーロラの蝶の所へ行き、蝶々を誰かが纏えば、物語の再現はできる、と……」
「はい、おそらくは……」
 再現してあげられるのなら。
 小さな女の子のささやかな夢、叶えてあげることも、できるかもしれない。
「で、オーロラの蝶というのは、どの辺りにおるのじゃ?」
「ええと、地図の、この辺りの……」
 父親が示したのは、確かにクリエスター山脈の向こう側。シルトラース帝国……というよりは、ケンタウロスの聖地の外れに近い辺りだった。
「誰のものでもない土地……なるほどのう」
 しかし今は、ケンタウロスの領土として認められつつある土地だ。行くのなら、冒険者ギルドを通じて、一報を入れておいた方が良いだろう。
「わかりました。でしたら、改めてお願いします。ヘレンに、オーロラの蝶を見せてやって貰えませんか?」

「というわけで、じゃ。ちょいと蝶々を見に行ってみないかの?」
 オーロラのようにきらめく美しい蝶々を眺めつつ、チョコレートを溶かして作ったホットチョコレートを飲むなんてどうじゃろう、と、チョコレートの入った小瓶片手に誘い掛けるオペラだった。

解説

 オーロラのように、きらきらきらめく蝶々。冬の時期に現れる、そんな不思議な蝶々を見に行ってみませんか。  ヘレンちゃんが報酬として差し出したチョコレートを使った、ホットチョコレートが振る舞われます。他に色々持参しても楽しいかもしれません。『オーロラのおひめさま』ごっこもできますし、『オーロラのおひめさま』がいたら、ヘレンちゃんは喜ぶでしょう。  ケンタウロス領に一報を入れたので、代表してルカンドラたちが一応様子を見に来ています。  オーロラの蝶のことは彼らもあまり詳しくは知らないようで、蝶々を見物したい女や子供のケンタウロスが何人か一緒に来ています。特に何も無ければ、彼らは彼らで少し離れた所から蝶々を見物します。

マスターより

 旅に出たオペラさん、一人の女の子と出会ってひとやすみ。  一緒に、ちょっと不思議な蝶々を見に行ってみませんか。  よろしければ、ご参加、お待ちしております。 ※オペラは現在旅の途中です。オペラの旅に同行したい方がいらっしゃいましたら、プレイングでどうぞ。称号を付与いたします。

リプレイ

 上って、下って、また上り。
 『オーロラのおひめさま』のお話をヘレンちゃんから聞きながら、何度も坂道を繰り返し移動して、一行はクリエスター山脈の向こう側に広がる平原へと辿り着いた。
 ここに、ヘレンちゃんのお母さんが研究していた、オーロラの蝶がいるはずだ。
「この時期、普通の蝶は蛹になって春を待つものですし、オーロラの蝶は魔獣かもしれません」
「なるほど、確かにのう」
 トーラの推測に、オペラも頷き返す。雪に覆われる地域に普通の蝶がいるとは、確かにあまり考えにくい。
 仮に魔獣だとしても、この寒い季節にわざわざ活動するのには、何か理由があるのではないだろうか……とトーラは考えていた。
「この時期にしか咲かない花に集まったり、繁殖のために群れを作るなどでしょうか。ルカンドラさんに、心当たりがないか、話を聞いてきますね!」
 ルカンドラ達ケンタウロスならば、この辺りの植物を見る機会があるかもしれない。トーラはひとっ走り話を聞きに行くと、身振り手振りで用件を伝える。
「じゃあ俺達は水場の近くを見て来よう」
「留守は任せよ! ヘレンちゃん、ホットチョコレートを作りながら待つのはどうじゃ?」
「うん!」
 ヨル・スレイマンとナハシュが出向くのを見送り、残ったオペラは持参した材料とヘレンちゃんが提供したチョコレートを使って、ホットチョコレートを煮込み始める。ヘレンちゃんがオペラと一緒になって鍋を見つめている間に、レラ・F・ギュンターは持って来た包みを解いて、最後の仕上げを試みるのだった。

 ルカンドラ達によると、冬でも時折咲く花が目撃されることがあるらしい。ヨルとナハシュが水場の近くで見つけた痕跡と、花が咲く地点を照らし合わせつつ位置を絞って探ってみると――。
 ひらり、と。
 太陽の光にカーテンが揺れるかのように、柔らかな光が煌めいた。緑に、赤に、紫に……ゆらり、ゆらゆら光が揺れる。
「……あれか」
 なるほど、確かにオーロラのように煌めく蝶だ。ヨルはすぐにナハシュと頷き合って皆を呼ぶ。
「じゃあ、ちょっと実験してみよう」
 ナハシュはキンモクセイの花が入った蜂蜜の小瓶を取り出すと、エリアサイレンスを作成して蝶の動きを待つ。ひらり、ひらり……揺れるように舞いながら、蜜の香りに誘われた蝶たちは、ゆっくり小瓶へと集まって来る。
(よしよし)
 小瓶を軽く動かせば、その動きにつられるように蝶が舞う。右から左へ、左から右へ。もともと軽装だったナハシュの姿は、まるでオーロラの蝶を纏ったかのようで。
「すごーい!」
 ヘレンちゃんは、思わず歓声を上げた。
 だって、だって。

 ――するとオーロラの蝶々がひらひら舞って、女の子のお洋服はオーロラのドレスに早変わり。
 ――オーロラのお姫様のできあがりです。

 何度も聞いた、あの物語みたいだったから!
 狙い通りに成功したことをドヤ顔で喜ぶナハシュの姿に、ヘレンちゃんはキラキラしたおめめを向けている。
「ヘレンちゃんもやってみますか?」
 トーラも同じ蜂蜜が入った小瓶を持っているので、小瓶の蓋を開けて差し出してみる。面白そう! と頷くヘレンちゃんに「それではこれをどうぞ」とレラは衣装を差し出した。
「このベールとケープを羽織れば、お姫様度アップ間違いないのです!」
「すてき……!!」
 お洋服が蝶々でオーロラのドレスになるなら、その上に合わせてみる小物を用意しておいてはどうだろうかと考え、キラキラしたオーロラに似た生地を用いて作ってみたのだ。ヘレンちゃんから聞いた物語のイメージを守る事を意識しながら腕によりをかけたそれらを、ヘレンちゃんは気に入ってくれたようだ。
「ナハシュさんを真似して、そーっと近付いてみましょう」
 レラに貰ったケープを羽織り、小瓶をヘレンちゃんに渡すと、トーラが足音を忍ばせながらオーロラの蝶々の方へ向かう。頷いて、ゆっくり、静かに、慎重に、蝶々の方へ近付いていくと……。

 ふわり。

「ゎ……!」
 オーロラの蝶々が舞い降りて、ヘレンちゃんの方へ寄って行く。ゆーっくりゆーっくり小瓶を動かしたら、蜜の香りにつられるように、蝶々たちが舞っていく。
「お、上手いじゃん」
 小瓶を手放したナハシュが、ヘレンちゃん達の様子を見て笑う。
「どうだ? 俺はもっといい感じにオーロラ纏ってたろ?」
 ヘレンちゃんよりも器用に出来ていたんじゃないかと、ヨルを振り返ったナハシュに他意は無い。無いからこそヨルは素直に褒めることにする。
「纏ってた」
「へへっ。にしてもいい羽根してんなあ! 見ろよ、あれ絶対売れるぜ」
 トーラだけでなく、ベールを羽織ったレラやオペラも一緒になってヘレンちゃんと共に蝶々と戯れる様子を眺めつつ、ナハシュは思わず算盤を弾くような目つきをする。
「……ナハシュ」
「わかってるわかってる、獲っちゃダメなんだろ?」
 複雑な顔つきで呟くヨルを振り返り、今回は見るだけにしておくよと笑うナハシュ。その笑みは、まるでさっきの……オーロラの蝶を纏っていた最中の顔と、同じで。
(本当に、夜の星が降りてきたようだったよ)
 あまりに綺麗だったので、つい言葉を失って見惚れてしまったということは……内緒にしておこうか、どうしようか。
(……月からやって来たお姫様が、やがて月に帰ってしまう……あれは、どこの国の、御伽噺だっけ……)
 一瞬、そんな事を考えて。
 君が本当にお姫様になってしまったら困るな、なんて。
 思ったりしたのは、きっと些細なことだ。
「――飲むだろ? 赤ワインがまた合うんだ」
「お! いいねぇ」
 ホットチョコレートを貰いつつ、蝶を鑑賞といこうか、と呟きながら赤ワインのボトルを出したヨルを見て、ナハシュはニヤリと頷く。

「どうじゃろ?」
「ふふふ、とってもきれいなのです」
 ナハシュから借りた小瓶を使い、オペラが静かに指先を動かすと、集まってきた蝶々たちがひらりひらりと舞い飛ぶ。
「どうですか? ギュンタのスカートも、今だけはお姫様のドレスなのです」
「うむ、似合いじゃ。これをこうすると……」
 レラが持つ蓋の部分にも蝶々が集まり、ふわりとオーロラのベールが揺れる度にキラキラ美しいドレスを作り上げてくれる。そこに、瓶を持ったオペラが近付けば――二人分の蝶が一緒になって、ドレスを豊かに形取る。
「この蝶を、更にヘレンちゃんさんへ移すと……!」
「いろんな色が混ざり合って、とても綺麗です!」
 レラとトーラがオーロラの蝶々を更にヘレンちゃんの元に集めていくと、様々な色に煌めく蝶のドレスができあがる。

 ふわり、ひらり。
 ゆっくりと、時には少しだけ俊敏に。羽ばたくオーロラの蝶々のダンスを、間近に眺めながら堪能する。

 あまり長い時間だと、蝶々も疲れてしまうだろう。ひとしきりオーロラのドレスを楽しんだ一行は小瓶をしまうと、ホットチョコレートを手に、ゆっくり舞うオーロラの蝶々を眺めていた。
「綺麗だったね。絵画に残しておけるならそうしたかった……」
 残念そうに呟くヨルが誰の姿を思い浮かべているのか、気付いていないのはきっと本人くらいだろう。
「絵画ではありませんが……ヘレンちゃんさん、よろしければこちらの人形をどうぞなのです」
「これ……おひめさま?」
 首を傾げるヘレンちゃんに、レラが力いっぱい頷き返す。
 そう、レラが差し出したのは、小さなオーロラのおひめさま人形。独特の愛嬌を持つおひめさまは、オーロラ色のドレスを着て、皆とお揃いのケープとベールを羽織っている。
「すごぉい!」
 さっき楽しそうに笑っていた『お姫様』みたいなお人形。「今日の思い出が、いつまでも残るのう」とオペラに呼びかけられて、ヘレンちゃんは「うん!」と嬉しそうに、人形を抱きしめた。

マスターコメント

 蜂蜜を使って、オーロラの蝶々をコントロールするのはお見事でした。  ご参加、ありがとうございました。楽しいひとときになっていれば、幸いです。
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:標準4 / 4〜25人

2024年02月26日 09時33分20秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. トーラ

    成立ですね! トーラです。よろしくお願いします! オーロラの蝶探しということですけれど、情報が少ないのでいろいろ探し回る必要がありそうですね。 シーフとして移動には融通が効きますのでそれを活用して探してみようと思います。

  2. ヨル・スレイマン

    ヨル・スレイマン。宜しくね。 俺はあんまり足は早くないから、ある程度当たりをつけながら探す感じになるかな。 何かわかれば共有もするよ。 ホットチョコレートは赤ワインを入れると美味い。蝶を見ながら飲めるといいね。

  3. レラ・F・ギュンター

    ギュンターです!どぞ、よしなに。 ギュンタはあんまり探し物が得意とゆわけではないので、ヘレンちゃんさんとオーロラのおひめさまごっこをする準備をしたいと思ってます!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0