【学進】花咲く春はもう近く
コースケ
コメント 0
シナリオID:3457
オープニング
●蕾は未だ硬く
パンクリアース学園内にある憩いの森。そこでは数名の生徒が学園祭に向けての作業を行っていた。
「私、生徒会長に立候補しようと思うの」
「「……は?」」
パンクリアース学園の五年生で、この憩いの森を管理するガーデニング愛好会の会長であるリエル・サンウッドのいきなりの発言に、愛好会のメンバーは揃って驚きの声を上げる。
「リエル、私の耳には生徒会長と聞こえたんだけど、生徒会役員の聞き間違いじゃなくて?」
「どうしたんですか急に? 先輩は今までそういう事に興味ないって言ってたのに!?」
「そもそも、当選する見込みはあるんですの? 貴族派、王党派どっちつかずの立場じゃありませんか?」
「姉様ならきっと当選しますよ!」
様々な言葉が飛ぶが、一応は子爵令嬢であるリエルに対し身分を問わず遠慮無い言葉が出るのはある意味人徳だろうか。リエルは次々に言葉をかけられ少し戸惑った様子だったが、一同からの言葉が収まるのを待って口を開く。
「ええと、これまでいろんな人――特に冒険者の人達――にお世話になったじゃない? 私もあと一年で卒業だし、私に出来ることでそういった人達に恩返しが出来たらなと思って」
当選するかは別として、何かしたいという気持ちは本物らしい。そう言う事ならと一同も納得し、既に応援する派閥がある者以外は協力を申し出る。
「まずは公約を決めないといけませんわね。リエルに何か案はあるのかしら?」
「ええと……、記念樹を植える、とか?」
「ふわっふわですわね……」
まずは公約を固める必要がある様だ。
●喧騒の学舎
パンクリアース学園の教員であるカメリアは、学園内を散策しながら口元を綻ばせる。
運動場では様々な種族の生徒が肩を並べて競技に向けて練習を行い、食堂を借りた生徒達がメニューの開発を行っていた。作っているのはシャルガネ風の料理らしく、焦げた醤油の香りが鼻腔をくすぐる。
皆声を上げ、楽しげに目の前の事に打ち込んでいた。
「時期はずれてしまいましたが、またこの景色が戻って来たのですね……」
老齢であることと、何より昨年秋からの王都で起きた騒乱を理由に、息子夫婦から引退し一緒に暮らすことを提案されていたカメリアだったが、それを断り学園に戻ったのは、僅かな人数でも生徒達が戻って来るのであればそれを迎えたいと思ったからだ。
勿論全ての生徒が復学した訳ではないが、この喧騒が戻ってきた事が何より喜ばしかった。
「生徒会選挙も行われますし、かってない程の盛り上りとなりそうです」
それだけに羽目を外す生徒が出るかもしれないが、多少の事は大目に見ようと心中で呟き、カメリアは散策を続けるのだった。
パンクリアース学園内にある憩いの森。そこでは数名の生徒が学園祭に向けての作業を行っていた。
「私、生徒会長に立候補しようと思うの」
「「……は?」」
パンクリアース学園の五年生で、この憩いの森を管理するガーデニング愛好会の会長であるリエル・サンウッドのいきなりの発言に、愛好会のメンバーは揃って驚きの声を上げる。
「リエル、私の耳には生徒会長と聞こえたんだけど、生徒会役員の聞き間違いじゃなくて?」
「どうしたんですか急に? 先輩は今までそういう事に興味ないって言ってたのに!?」
「そもそも、当選する見込みはあるんですの? 貴族派、王党派どっちつかずの立場じゃありませんか?」
「姉様ならきっと当選しますよ!」
様々な言葉が飛ぶが、一応は子爵令嬢であるリエルに対し身分を問わず遠慮無い言葉が出るのはある意味人徳だろうか。リエルは次々に言葉をかけられ少し戸惑った様子だったが、一同からの言葉が収まるのを待って口を開く。
「ええと、これまでいろんな人――特に冒険者の人達――にお世話になったじゃない? 私もあと一年で卒業だし、私に出来ることでそういった人達に恩返しが出来たらなと思って」
当選するかは別として、何かしたいという気持ちは本物らしい。そう言う事ならと一同も納得し、既に応援する派閥がある者以外は協力を申し出る。
「まずは公約を決めないといけませんわね。リエルに何か案はあるのかしら?」
「ええと……、記念樹を植える、とか?」
「ふわっふわですわね……」
まずは公約を固める必要がある様だ。
●喧騒の学舎
パンクリアース学園の教員であるカメリアは、学園内を散策しながら口元を綻ばせる。
運動場では様々な種族の生徒が肩を並べて競技に向けて練習を行い、食堂を借りた生徒達がメニューの開発を行っていた。作っているのはシャルガネ風の料理らしく、焦げた醤油の香りが鼻腔をくすぐる。
皆声を上げ、楽しげに目の前の事に打ち込んでいた。
「時期はずれてしまいましたが、またこの景色が戻って来たのですね……」
老齢であることと、何より昨年秋からの王都で起きた騒乱を理由に、息子夫婦から引退し一緒に暮らすことを提案されていたカメリアだったが、それを断り学園に戻ったのは、僅かな人数でも生徒達が戻って来るのであればそれを迎えたいと思ったからだ。
勿論全ての生徒が復学した訳ではないが、この喧騒が戻ってきた事が何より喜ばしかった。
「生徒会選挙も行われますし、かってない程の盛り上りとなりそうです」
それだけに羽目を外す生徒が出るかもしれないが、多少の事は大目に見ようと心中で呟き、カメリアは散策を続けるのだった。
解説
パンクリアース学園での体育祭、学園祭を楽しみ、生徒会選挙活動を行う。
●体育祭
PC同士、または対NPCとで任意の競技を行ったり、それらの観戦を行える。
競技は名前や内容がアレンジされる可能性があります。
●学園祭
出店や出し物をしたり、それらを楽しむ事が出来る。
ガーデニング愛好会と特殊作物研究部は共同でカフェを開く模様。前回の様子は『【学祭】憩いの森でお茶会を』に描かれています(参照必須ではありません)
●生徒会選挙活動
生徒会選挙活動を行ったり(実際に立候補する場合はイベントページの専用フォームに入力が必要です)、それらの応援等を行える。
【注釈】この活動が実際の票数獲得に繋がることはありません。リプレイを読んで名前を覚えた方が投票してくれるかもしれませんが、あくまでフレーバーであるものとしてご理解下さい。
●NPC
リエル・サンウッド
リーンエス王国南部に領地を持つ貴族派貴族、サンウッド子爵家の長女で春からパンクリアース学園6年生の17歳。
ガーデニング愛好会(通称:庭愛会)の会長であり、明るい金髪を動きやすいよう後ろで結んだ快活な少女で、誰にでも親切に接するため男女問わず人気がありますが、卒業した特殊作物研究部の前部長と結婚の約束をしています。
生徒会長に立候補しようとしているので、そのアドバイスも歓迎です。実は立候補する役職に拘りは無いので、変更の提案も妥当と判断すれば受け入れます。
エリク・サンウッド
リエルの弟で春からパンクリアース学園2年生の13歳。
シスコン気味で姉に近付く男へは威嚇から入る。
授恵者でクラスはウォーリアだがまだまだ修行中。
姉の選挙活動は全力で応援する構え。
カメリア
パンクリアース学園教員で庭愛会の顧問。温和な性格で多少の問題は生徒の自主性に任せて見守る主義。
フォルトゥナ・アルヴァ・クラティアス
パンクリアース学園長。学園祭は個別に回っていて、体育祭は訓練場で観覧、生徒会選挙活動中は基本的に学園長室に居て訪ねれば時間を割いてくれる。
ジルワード・ファルゲン
パンクリアース学園校長。学園祭は個別に回っていて、体育祭は訓練場で観覧、生徒会選挙活動中は基本的に校長室に居て訪ねれば時間を割いてくれる。
その他、庭愛会と特作研のモブ部員達や体育祭の競技相手、文化祭を楽しむ生徒など。
上記以外の公式NPCや他マスター様のNPCは登場させる事は出来ませんのでご了承下さい。
マスターより
お世話になっております。コースケです。
【学進】連動ですがとりあえず全部詰め込んでみました!
何をすれば良いか分からない方はリエル達のカフェを手伝ったり、お客様として訪れたりして頂ければリエルと私が喜びます!
リプレイではプレイングを頂いたシーンを中心に描写しますので、体育祭や学園祭、生徒会選挙活動を通しで描写するものではない事をご理解下さい。
分かりにくいこと等あればリエルが回答いたします。
冒険者であるPCはパンクリアース学園関連の設定がなくても、聴講生として学園内で行動したり、部活動への参加もできるので、どんな方も気兼ねなく参加して頂けたらと思います。
エピローグ期間ではありますが、興味がありましたらパンクリアース学園に接してみては如何でしょうか。
よろしければご参加お願いします!
リプレイ
●学園参観
(髭くらい剃ってくるべきだったかなあ)
パンクリアース学園の門をくぐったディレイン・オールドケイジは、そんなことを考えながら顎を撫でる。
「貴族社会とは縁遠くて、マナーとかわかんないんだよねえ」
その理由は、先ほど門番から向けられた値踏みする様な視線だった。
身に付けているのはよれよれのシャツとズボンといった何時もの姿であり、こういった場に相応しくない気はしている。だが、襟付きのジャケットは着ているので(ディレイン的には)大丈夫な筈である。
「……まあ、考えてもしょうがないか」
ディレインはあっさり思考を放棄すると、目的の場所へ足を向ける。
まだ新しい建物の横を曲がると、森と言うには些か小さいが、小川を境に広葉樹と針葉樹が分けて植えられたスペースに、生徒らしい少年少女達がエプロン姿で動き回っているのが見えた。
「あ、いたいた。おーー……」
その中の一人に声をかけようとしたディレインだったが、思い直して声をかけるのを止める。視線の先には、赤銅色の髪のエルフの少女が他の生徒達と作業をしていた。
「コルネさん、風よけは席の四方を囲むので良いですか?」
「そうですね……。風上を中心に風を防ぐ位置に立てましょうか。折角のガーデン喫茶なのですから、お茶やお菓子を楽しみながら木々やお花を眺めれるようにした方が良いでしょうし」
「なるほど……!」
ガーデニング愛好会の部員として開店の準備を行うエルフの少女――コルネリウス・アーラ――は花鳥園経営の実績やハーブ等にも詳しいこともあり、何かと他の部員から頼られていた。
それらの対応を一通り終え、ひと息ついたコルネリウスは、こちらを見てにこにこしているディレインと目が合う。
「ディレインおじさま!? 何時からいらしていたんですか?」
「うん。ちょっと前からね」
「声をかけて下されば良かったのに」
「いやあ、学生やってるコルネちゃんが微笑ましくてね」
「もう!」
拗ねたように頬を膨らますコルネリウスにごめんごめんと謝るディレインだったが、その言葉は心からのものだった。他者を護るため戦いでは先頭に立ち、時にその手が届かず溢れ落ちる命に傷付く彼女が、年相応に同年代の友人達と笑い合える場所があることが喜ばしい。
「あ、これは私の奢りです。お茶は身体が温まるよう、カモミールにしてみました」
「こんなに?」
そんな事を考えていたディレインだったが、案内された席でコルネリウスが運んで来た皿に盛りっと乗せられたお菓子の山に目を丸くする。これはもっと食べて肉を付けろという事だろうか。
「やれやれ。これは長居する事になりそうだね」
「ごゆっくりどうぞ。沢山食べて下さいね?」
観念して笑うディレインに、コルネリウスはすまし顔で笑いかけた。
●学生議会
「それでは、学生議会を開会する」
1222年度生徒会副会長であるジュスト・ヴェルジーは、学園祭の企画として公約でもある学生議会を開き議長を務めていた。
議会に出席する生徒は派閥を問わず貴族及び平民生徒が集められており、更に設けられた傍聴席には、フォルトゥナ・アルヴァ・クラティアス学園長と、ジルワード・ファルゲン校長の他、学園祭を見学に来ていた卒業生や各地の有力者も座っている。
傍聴席を設けるにあたって、生徒達が発言を控える――たとえば寄親など家同士の力関係によっては、その前で不用意な事を口に出せない相手と言うものが王国には多いのだ――事が無いよう、王国の関係者は出席する生徒と縁遠い者を選出し、国外からは王国と関わりがあり、王国の縮図である学園の内情に触れるこの議会を傍聴して問題のない上に、平民授恵者生徒の囲い込みを行わない、もしくは行っても王国の利となる者が招待されていた。
その選定には学園の職員による多大な協力があり、その協力を取り付けるためジュストは優雅なる問題解決方法を振るったのだが、その手腕は齢19とは思えないものであった。
「議題は『次年度新入生を迎えるにあたって、在校生は何をすべきか』。パンクリアース学園、ひいてはリーンエス王国のより良い未来に繋がるよう、皆、忌憚無い意見を聞かせて欲しい」
議題を読み上げ、ジュストは生徒を見回す。傍聴席への招待者には気を配っているとはいえ、フォルトゥナとジルワードという学園のトップである二人がいる以上、全く議論に影響しない訳はない。だが、ジュストはそれも想定し、二人を前にしても物怖じしない生徒を何人か議会に呼んでいた。
彼らから活発に意見が出れば、つられて他の生徒も意見を出してくれるだろう。
(君ならやってくれるだろう?)
そう胸中で呟き視線を向けると、こちらの意図を察したのか一人の生徒がにやりと口を歪めて手を上げる。
(さて、どんな意見を聞かせてくれるかな?)
期待と少しの不安を胸に、ジュストはその生徒を指名した。
「本日のご出席ありがとうございました」
閉会後、ジュストが挨拶に向かうと、フォルトゥナはねぎらいの言葉と共に感想を伝えてくる。
「貴方もお疲れ様です。活発な議論が行われた事も喜ばしいものでした。王国外からも傍聴人を呼びたいと聞いた時は驚きましたが、恙無く終了して何よりです」
「ご協力頂いた先生方と、何よりそれを後押しして下さりました学園長と校長のお力あってのものでございます。そちらも重ねてお礼申し上げます」
頭を下げるジュストに、フォルトゥナは教育者として言葉をかける。
「それを仕切った貴方の手腕あっての事です。胸を張りなさい。ジュスト・ヴェルジー生徒会副会長。自己の能力を過小評価する事は、過大評価する事と同様に歪なものです。自身を正しく見つめ、上を目指す姿勢を維持し、伸びて行くことを期待しております」
そう言って立ち去るフォルトゥナに無言で頭を下げたジュストは、その背中が消えた事を確認して大きく息を吐く。
「ふう。……過小評価か」
●白と黒の薔薇
「まあ! 使ってくれているんですのね?」
「うん。折角ネーヴェからもらったものだから」
ガーデン喫茶を訪れたネーヴェ・グラヌローザは、対応に現れたアルフィー・リッパーの黒いワークエプロン姿に目を輝かせた。
「そう言って頂けると選んだ甲斐がありますわ」
「っと。折角来てくれたんだしちゃんと接客しないとな」
そう言って微笑むネーヴェの笑顔に釣られるように笑みを浮かべ、アルフィーはテーブルへ案内する。
「どうぞこちらへ、お嬢様」
「はい。よろしくお願いしますわ」
恭しくお辞儀をして差し出すアルフィーの手を取り、ネーヴェは席へ案内を受けるが、アルフィーの尻尾がぶわっとしていることに気付きくすくす笑い声を出してしまう。
「……笑うなよ」
「ごめんなさい。でも、無理はしなくて良いんですのよ」
謝るネーヴェに、アルフィーはいつものぶっきらぼうな調子に戻ると、お茶とお菓子をトレイに乗せて運んでくる。
「これ、俺も手伝って作ったんだ。ネーヴェ、かぼちゃ好きだろ?」
「覚えていてくれたんですのね? 嬉しいですわ」
ネーヴェは目の前のぼちゃプリンに目を輝かせ、アルフィーに微笑みかける。
「出来立てだから気を付けてな。お茶はカモミール」
「ホットプリンですのね? では、いただきます」
陶器の器に入ったプリンをスプーンで掬って口にいれると、卵とかぼちゃの風味が口に広がる。それは懐かしさを感じさせる味だった。
(前回の学園祭でもこちらでかぼちゃプリン作りをしましたっけ)
ネーヴェは一昨年の秋の学園祭で、落ち込んでいた自分を親友が励ましてくれたことを思い出していた。
『今の気持ちは……昨日より幸せに成る為に必要だったんだよ』
そう言って抱き締めてくれた時の温かさは今でも覚えている。
「……美味しくなかったか?」
「! ごめんなさい。ちょっと考え事をしていましたの。とても美味しくて温かいですわ」
物思いに耽っていたネーヴェは、謝罪をして正直な感想を伝えるとアルフィーの顔に笑顔が戻る。
「そうか。美味しいなら良かった」
「はい。このカモミールティーも美味しいですわ」
身体を温めるカモミールもアルフィーが自分を気遣って選んでくれたのだろう。彼の不器用な優しさに、寒い時期の屋外なのに身体だけでなく心も温かくなるのを感じてネーヴェは親友への感謝を心の中で呟く。
(本当に、その通りになりましたわね)
●蒼玉の訪問
「学園長のお時間が許せばお茶をご一緒したく参りましたが、よろしいでしょうか?」
「よくお越し下さいました。蒼玉の後継からのお誘いとあれば、喜んでお付き合いさせて頂きましょう」
学園長室を訪れたシルヴィア・A・カペルの誘いに応じたフォルトゥナは、柔和な笑みを浮かべて従者にお茶を用意させる。
お茶会での話題の中心は、やはり学園の事だった。
「白銀花の祝祭でお会いした時や、冒険者ギルド部創設の時、兄姉制度についてご助言を頂いた事について感謝致します。学園長は承認者ではあれど、あくまで改革を実行するのは生徒1人1人である……そのお言葉は大切なものでした」
「此方こそシルヴィア様には感謝しております。卒業後も協力を頂いているのですから」
フォルトゥナの言う通りシルヴィアは学園の卒業生ではあるが、聴講生の立場から様々な活動を行っている。現在も、学園交流部の設立のため活動している最中であった。
「OGの身ではありますが、大切な友人達と共に、いずれ全ての学園生が笑える空間を作る為に尽力していきたいと思います」
「はい。期待させていただきますね」
学園、ひいては王国の為になると信じて行動するシルヴィアに、フォルトゥナは微笑みと共に激励の言葉をかけた。
●三寒四温
ガーデニング愛好会の開くガーデニング喫茶だったが、まだ寒いこの時期に野外でお茶を楽しむ者はそう多くはなく、部員達も別の出し物を見に行ったり、空いた席で寛いでいた。
そんな中、ディレインの席にはコルネリウスだけでなく、アルフィーとネーヴェ、リエルまで集まって雑談に興じている。
「薬草は昔から色々育ててるんだよね。ガーデニングとはちょっと違うかもだけど――」
「お医者様なら、薬効のあるハーブの他にも色々と詳しそうですよね」
「そうだねえ。昔から林檎が赤くなると医者が青くなるなんて話もあるけど、おじさん的には医者の出番は無い方が幸せだと思うんだよね」
「お医者様にかからないのが一番なのは同意しますけど、そうなったらおじさまはご飯が食べれなくて本当に青くなってしまいますよ?」
「おっと、やぶ蛇だったか」
やがて、話題はリエルの生徒会選挙に移る。
「立候補されるんですね! 公約については、私はリエルさんらしくて良い案だと思うんです」
「記念樹、私もとても素敵だと思います。これから益々多種多様さを増していく学園生同士の架け橋となると宜しいですわよね」
「俺もいいと思う。会長らしくて」
「そうですか? じゃあ、それで行ってみますね!」
前生徒会役員であるコルネリウスに、現役員のネーヴェ、更にネーヴェと共に時期の生徒会選挙に立候補するアルフィーの言葉に自信を付けたリエルは、正式に記念樹の植樹を公約に生徒会長へ立候補する事を決定する。
「頑張ってください。この森と一緒に成長していくものが残るのは、私も嬉しいですから」
「コルネリウスさんありがとうございます。ネーヴェさんにアルフィーさんも、一緒に頑張りましょうね!」
「はい。お互い頑張りましょうね!」
「うん。ネーヴェと会長と一緒なら、俺ももっと頑張れると思う」
盛り上がる四人を、ディレインはお茶を啜りながらにこにこと眺めていた。
「若いって良いねえ」
●花咲く春はもう近く
「ふう。もうこんな時間か」
学生議会の意見の纏めの作成に没頭していたジュストは、すっかり日が傾いていたことに気付き瞼を揉んで伸びをする。まだ気温は低いが、日の落ちる時間は日に日に長くなっており、春が近付く事を予感させていた。
「おや、あれは……」
外を見れば、アルフィーとネーヴェが並んで歩いている。それを目にして自分の隣に半身とも言える婚約者が居ないことをつい、意識してしまう。
「早く片付けてしまおう」
呟いてジュストは再び書類に向かう。時期生徒会への引き継ぎ資料まで作らなければならないが、今ならかってない速度で書き上げることが出来そうだ。
「お付き合い頂き、感謝いたします」
「こちらこそ有意義な時間を過ごすことが出来ました。またいらして下さいませ」
シルヴィアは学園長室を辞そうとしていた。
「おや……?」
シルヴィアは窓の外に植えられた植物に、蕾が膨らんでいる事に気付く。葉の形は同じだが、株ごとに白や桃色、紫といった様々な蕾の色をしていた。
「あれは……大三角草でしょうか?」
花を特産品とするカペル侯爵領の後継として、シルヴィアはその植物の名前に心当たりがあった。
「そうですね。生徒が植えたもので、いち早く春を告げる花だそうです。別名は確か……?」
「――雪割草。この花が咲くということは、もうすぐ春ですね。新入生達と会うのが楽しみです」
春に入学する新入生にとって、この学園での生活が良いものであることを願い、シルヴィアは笑みを浮かべた。
(髭くらい剃ってくるべきだったかなあ)
パンクリアース学園の門をくぐったディレイン・オールドケイジは、そんなことを考えながら顎を撫でる。
「貴族社会とは縁遠くて、マナーとかわかんないんだよねえ」
その理由は、先ほど門番から向けられた値踏みする様な視線だった。
身に付けているのはよれよれのシャツとズボンといった何時もの姿であり、こういった場に相応しくない気はしている。だが、襟付きのジャケットは着ているので(ディレイン的には)大丈夫な筈である。
「……まあ、考えてもしょうがないか」
ディレインはあっさり思考を放棄すると、目的の場所へ足を向ける。
まだ新しい建物の横を曲がると、森と言うには些か小さいが、小川を境に広葉樹と針葉樹が分けて植えられたスペースに、生徒らしい少年少女達がエプロン姿で動き回っているのが見えた。
「あ、いたいた。おーー……」
その中の一人に声をかけようとしたディレインだったが、思い直して声をかけるのを止める。視線の先には、赤銅色の髪のエルフの少女が他の生徒達と作業をしていた。
「コルネさん、風よけは席の四方を囲むので良いですか?」
「そうですね……。風上を中心に風を防ぐ位置に立てましょうか。折角のガーデン喫茶なのですから、お茶やお菓子を楽しみながら木々やお花を眺めれるようにした方が良いでしょうし」
「なるほど……!」
ガーデニング愛好会の部員として開店の準備を行うエルフの少女――コルネリウス・アーラ――は花鳥園経営の実績やハーブ等にも詳しいこともあり、何かと他の部員から頼られていた。
それらの対応を一通り終え、ひと息ついたコルネリウスは、こちらを見てにこにこしているディレインと目が合う。
「ディレインおじさま!? 何時からいらしていたんですか?」
「うん。ちょっと前からね」
「声をかけて下されば良かったのに」
「いやあ、学生やってるコルネちゃんが微笑ましくてね」
「もう!」
拗ねたように頬を膨らますコルネリウスにごめんごめんと謝るディレインだったが、その言葉は心からのものだった。他者を護るため戦いでは先頭に立ち、時にその手が届かず溢れ落ちる命に傷付く彼女が、年相応に同年代の友人達と笑い合える場所があることが喜ばしい。
「あ、これは私の奢りです。お茶は身体が温まるよう、カモミールにしてみました」
「こんなに?」
そんな事を考えていたディレインだったが、案内された席でコルネリウスが運んで来た皿に盛りっと乗せられたお菓子の山に目を丸くする。これはもっと食べて肉を付けろという事だろうか。
「やれやれ。これは長居する事になりそうだね」
「ごゆっくりどうぞ。沢山食べて下さいね?」
観念して笑うディレインに、コルネリウスはすまし顔で笑いかけた。
●学生議会
「それでは、学生議会を開会する」
1222年度生徒会副会長であるジュスト・ヴェルジーは、学園祭の企画として公約でもある学生議会を開き議長を務めていた。
議会に出席する生徒は派閥を問わず貴族及び平民生徒が集められており、更に設けられた傍聴席には、フォルトゥナ・アルヴァ・クラティアス学園長と、ジルワード・ファルゲン校長の他、学園祭を見学に来ていた卒業生や各地の有力者も座っている。
傍聴席を設けるにあたって、生徒達が発言を控える――たとえば寄親など家同士の力関係によっては、その前で不用意な事を口に出せない相手と言うものが王国には多いのだ――事が無いよう、王国の関係者は出席する生徒と縁遠い者を選出し、国外からは王国と関わりがあり、王国の縮図である学園の内情に触れるこの議会を傍聴して問題のない上に、平民授恵者生徒の囲い込みを行わない、もしくは行っても王国の利となる者が招待されていた。
その選定には学園の職員による多大な協力があり、その協力を取り付けるためジュストは優雅なる問題解決方法を振るったのだが、その手腕は齢19とは思えないものであった。
「議題は『次年度新入生を迎えるにあたって、在校生は何をすべきか』。パンクリアース学園、ひいてはリーンエス王国のより良い未来に繋がるよう、皆、忌憚無い意見を聞かせて欲しい」
議題を読み上げ、ジュストは生徒を見回す。傍聴席への招待者には気を配っているとはいえ、フォルトゥナとジルワードという学園のトップである二人がいる以上、全く議論に影響しない訳はない。だが、ジュストはそれも想定し、二人を前にしても物怖じしない生徒を何人か議会に呼んでいた。
彼らから活発に意見が出れば、つられて他の生徒も意見を出してくれるだろう。
(君ならやってくれるだろう?)
そう胸中で呟き視線を向けると、こちらの意図を察したのか一人の生徒がにやりと口を歪めて手を上げる。
(さて、どんな意見を聞かせてくれるかな?)
期待と少しの不安を胸に、ジュストはその生徒を指名した。
「本日のご出席ありがとうございました」
閉会後、ジュストが挨拶に向かうと、フォルトゥナはねぎらいの言葉と共に感想を伝えてくる。
「貴方もお疲れ様です。活発な議論が行われた事も喜ばしいものでした。王国外からも傍聴人を呼びたいと聞いた時は驚きましたが、恙無く終了して何よりです」
「ご協力頂いた先生方と、何よりそれを後押しして下さりました学園長と校長のお力あってのものでございます。そちらも重ねてお礼申し上げます」
頭を下げるジュストに、フォルトゥナは教育者として言葉をかける。
「それを仕切った貴方の手腕あっての事です。胸を張りなさい。ジュスト・ヴェルジー生徒会副会長。自己の能力を過小評価する事は、過大評価する事と同様に歪なものです。自身を正しく見つめ、上を目指す姿勢を維持し、伸びて行くことを期待しております」
そう言って立ち去るフォルトゥナに無言で頭を下げたジュストは、その背中が消えた事を確認して大きく息を吐く。
「ふう。……過小評価か」
●白と黒の薔薇
「まあ! 使ってくれているんですのね?」
「うん。折角ネーヴェからもらったものだから」
ガーデン喫茶を訪れたネーヴェ・グラヌローザは、対応に現れたアルフィー・リッパーの黒いワークエプロン姿に目を輝かせた。
「そう言って頂けると選んだ甲斐がありますわ」
「っと。折角来てくれたんだしちゃんと接客しないとな」
そう言って微笑むネーヴェの笑顔に釣られるように笑みを浮かべ、アルフィーはテーブルへ案内する。
「どうぞこちらへ、お嬢様」
「はい。よろしくお願いしますわ」
恭しくお辞儀をして差し出すアルフィーの手を取り、ネーヴェは席へ案内を受けるが、アルフィーの尻尾がぶわっとしていることに気付きくすくす笑い声を出してしまう。
「……笑うなよ」
「ごめんなさい。でも、無理はしなくて良いんですのよ」
謝るネーヴェに、アルフィーはいつものぶっきらぼうな調子に戻ると、お茶とお菓子をトレイに乗せて運んでくる。
「これ、俺も手伝って作ったんだ。ネーヴェ、かぼちゃ好きだろ?」
「覚えていてくれたんですのね? 嬉しいですわ」
ネーヴェは目の前のぼちゃプリンに目を輝かせ、アルフィーに微笑みかける。
「出来立てだから気を付けてな。お茶はカモミール」
「ホットプリンですのね? では、いただきます」
陶器の器に入ったプリンをスプーンで掬って口にいれると、卵とかぼちゃの風味が口に広がる。それは懐かしさを感じさせる味だった。
(前回の学園祭でもこちらでかぼちゃプリン作りをしましたっけ)
ネーヴェは一昨年の秋の学園祭で、落ち込んでいた自分を親友が励ましてくれたことを思い出していた。
『今の気持ちは……昨日より幸せに成る為に必要だったんだよ』
そう言って抱き締めてくれた時の温かさは今でも覚えている。
「……美味しくなかったか?」
「! ごめんなさい。ちょっと考え事をしていましたの。とても美味しくて温かいですわ」
物思いに耽っていたネーヴェは、謝罪をして正直な感想を伝えるとアルフィーの顔に笑顔が戻る。
「そうか。美味しいなら良かった」
「はい。このカモミールティーも美味しいですわ」
身体を温めるカモミールもアルフィーが自分を気遣って選んでくれたのだろう。彼の不器用な優しさに、寒い時期の屋外なのに身体だけでなく心も温かくなるのを感じてネーヴェは親友への感謝を心の中で呟く。
(本当に、その通りになりましたわね)
●蒼玉の訪問
「学園長のお時間が許せばお茶をご一緒したく参りましたが、よろしいでしょうか?」
「よくお越し下さいました。蒼玉の後継からのお誘いとあれば、喜んでお付き合いさせて頂きましょう」
学園長室を訪れたシルヴィア・A・カペルの誘いに応じたフォルトゥナは、柔和な笑みを浮かべて従者にお茶を用意させる。
お茶会での話題の中心は、やはり学園の事だった。
「白銀花の祝祭でお会いした時や、冒険者ギルド部創設の時、兄姉制度についてご助言を頂いた事について感謝致します。学園長は承認者ではあれど、あくまで改革を実行するのは生徒1人1人である……そのお言葉は大切なものでした」
「此方こそシルヴィア様には感謝しております。卒業後も協力を頂いているのですから」
フォルトゥナの言う通りシルヴィアは学園の卒業生ではあるが、聴講生の立場から様々な活動を行っている。現在も、学園交流部の設立のため活動している最中であった。
「OGの身ではありますが、大切な友人達と共に、いずれ全ての学園生が笑える空間を作る為に尽力していきたいと思います」
「はい。期待させていただきますね」
学園、ひいては王国の為になると信じて行動するシルヴィアに、フォルトゥナは微笑みと共に激励の言葉をかけた。
●三寒四温
ガーデニング愛好会の開くガーデニング喫茶だったが、まだ寒いこの時期に野外でお茶を楽しむ者はそう多くはなく、部員達も別の出し物を見に行ったり、空いた席で寛いでいた。
そんな中、ディレインの席にはコルネリウスだけでなく、アルフィーとネーヴェ、リエルまで集まって雑談に興じている。
「薬草は昔から色々育ててるんだよね。ガーデニングとはちょっと違うかもだけど――」
「お医者様なら、薬効のあるハーブの他にも色々と詳しそうですよね」
「そうだねえ。昔から林檎が赤くなると医者が青くなるなんて話もあるけど、おじさん的には医者の出番は無い方が幸せだと思うんだよね」
「お医者様にかからないのが一番なのは同意しますけど、そうなったらおじさまはご飯が食べれなくて本当に青くなってしまいますよ?」
「おっと、やぶ蛇だったか」
やがて、話題はリエルの生徒会選挙に移る。
「立候補されるんですね! 公約については、私はリエルさんらしくて良い案だと思うんです」
「記念樹、私もとても素敵だと思います。これから益々多種多様さを増していく学園生同士の架け橋となると宜しいですわよね」
「俺もいいと思う。会長らしくて」
「そうですか? じゃあ、それで行ってみますね!」
前生徒会役員であるコルネリウスに、現役員のネーヴェ、更にネーヴェと共に時期の生徒会選挙に立候補するアルフィーの言葉に自信を付けたリエルは、正式に記念樹の植樹を公約に生徒会長へ立候補する事を決定する。
「頑張ってください。この森と一緒に成長していくものが残るのは、私も嬉しいですから」
「コルネリウスさんありがとうございます。ネーヴェさんにアルフィーさんも、一緒に頑張りましょうね!」
「はい。お互い頑張りましょうね!」
「うん。ネーヴェと会長と一緒なら、俺ももっと頑張れると思う」
盛り上がる四人を、ディレインはお茶を啜りながらにこにこと眺めていた。
「若いって良いねえ」
●花咲く春はもう近く
「ふう。もうこんな時間か」
学生議会の意見の纏めの作成に没頭していたジュストは、すっかり日が傾いていたことに気付き瞼を揉んで伸びをする。まだ気温は低いが、日の落ちる時間は日に日に長くなっており、春が近付く事を予感させていた。
「おや、あれは……」
外を見れば、アルフィーとネーヴェが並んで歩いている。それを目にして自分の隣に半身とも言える婚約者が居ないことをつい、意識してしまう。
「早く片付けてしまおう」
呟いてジュストは再び書類に向かう。時期生徒会への引き継ぎ資料まで作らなければならないが、今ならかってない速度で書き上げることが出来そうだ。
「お付き合い頂き、感謝いたします」
「こちらこそ有意義な時間を過ごすことが出来ました。またいらして下さいませ」
シルヴィアは学園長室を辞そうとしていた。
「おや……?」
シルヴィアは窓の外に植えられた植物に、蕾が膨らんでいる事に気付く。葉の形は同じだが、株ごとに白や桃色、紫といった様々な蕾の色をしていた。
「あれは……大三角草でしょうか?」
花を特産品とするカペル侯爵領の後継として、シルヴィアはその植物の名前に心当たりがあった。
「そうですね。生徒が植えたもので、いち早く春を告げる花だそうです。別名は確か……?」
「――雪割草。この花が咲くということは、もうすぐ春ですね。新入生達と会うのが楽しみです」
春に入学する新入生にとって、この学園での生活が良いものであることを願い、シルヴィアは笑みを浮かべた。
マスターコメント
お待たせしました。
長めに日数を頂いていたのですが、今回は難産で想定より時間がかかってしまいました。申し訳ありません。
とは言え、PCさんを書くことは楽しく書かせて頂いております。
それが少しでも伝わって頂いて、リプレイを楽しんで頂ければ幸いです。
ご参加ありがとうございました!
イベントシナリオ普通 報酬:無し6 / 4〜25人
2024年02月22日 01時10分14秒 公開
成功
相談掲示板
投稿はありません