【祝祭】オロージオ・フェスタ!【刻時】

白葉うづき

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シナリオID:3454

オープニング

●それから
 街が白く染まっていた。降り積もる雪は静かに、優しく、さまざまなことが起こったキャンティ地区を包み込む。街の中はいたるところに灯りがともり、色鮮やかな光が賑やかに観光客や住民たちを淡く照らしていた。
 その中で、広場にある時計塔が大きく変わっていた。抉るように削り取られた側面に、光を帯びたで形作られた蔦の装飾が張り巡らされ、時折花の幻影が浮かんでは消えていく。イルミネーションを後ろに従える形でステージも用意され、加えて定時になると時計塔全体がライトアップされる仕掛けも施されているようだ。数日前から住民たち一丸で準備していた祭りは、いよいよ当日、本番を迎えた。

「めでたいのはわかる。でも僕まで呼びつけないでいいだろう」
「いーじゃん、皆で祝いたいんだよテオは」
 白い息を吐き、ネーベルとヴィンツ・ラッテは街の様子を眺めながら歩いていた。あれから住民たちの熱の入りようがすさまじく、あっという間に準備が進み、いつもよりも気合いの入った祭りとなっている。時々空に光の花が打ち上げられたり、芸術家たちが協力し、人類側が勝利した戦いを模して作った巨大な雪像が並んでいたりしていた。吟遊詩人はその物語や今回の地区の騒動を吟じ、明るく弾むような曲を音楽家たちが奏で、それに合わせて踊る人もいる。食べ物の屋台も数多く並び、キャンティ地区としてはこれまでにないくらい大規模な祭りとなっていた。
「あの時計塔、君と、それから今回の事件に加担した者たちで飾ったと聞いた。そこに、デボリアもいたとか」
 ヴィンツは頷く。
 責任を問われたデボリアは、プフェンベルク商会を追放。同時に社会奉仕を命じられる形となっていた。追放の話も出たが、テオドールが止めている。
「迷惑かけたから、オレ主導で皆やるぞーってやったんだ。彼女も黙々とやってたよ。オレも頑張ったー! 疲れたー! 褒められたーい! でも当たり前だからいー!」
「面倒だな君。あれの話し合いにも参加しているらしいし、珍しく殊勝だ」
 騒動の主犯ではないにしろ、反省しているらしいヴィンツは時計塔周りの装飾を引き受けたほか、神具をどうするかについても協力していた。
「結局、正しく知識を伝えることにして、壊すことはしないって。でもセットで置いておくのは危険だから、神具は遺構の奥の奥に置いて、街の技術者と一緒に何重にも鍵をしたよ。オレも面白い仕掛けいっぱい仕掛けた! 開けるための鍵や方法の情報は地区代表が持つ、代々ね」
「時計塔の遺構は?」
 ぐて、っとしていたヴィンツが何もない場所(マジカルポケット)から針を取り出す。それは時計の長針に似ていた。
「そこも塞いで鍵をした。鍵はオレが持ってろって。代々続く予定ないのになー、どうしよ」
「君にとっては難題だなそれは、まあ応援しているよ。……さて、僕はバーにでも行くことにしよう。君は?」
「甘いもの食べたらステージに顔だそっかな。時計塔の仕掛けも見たいし」
「ヴィンツ」
 雪を踏み、別々の場所に歩き出そうとして、ネーベルが振り返る。
「君はもう迷い子じゃないな。この地区の誇るべき住民で、ここは君の故郷だよ」
 ヴィンツは目を瞬かせた後、少し視線を揺らして頷いた。

●オロージオ・フェスタ!
「さあ! オロージオ・フェスタが無事開催されたよ! このステージでは時間を区切って技術者や発明家、表現者たちが自分の作品や技を紹介する場となっている! 飛び入り参加ももちろん歓迎! 皆で盛り上げていこう!」
 歓声が大きく響く。声を拡大させる紋具を使いながら、地区代表テオドール・ヘルツィンは楽しそうにステージを駆け回る。司会進行を務める彼は元々お祭り好きであり、もろもろの騒動で我慢していた分、いつもよりテンションが高く振り切れていた。
「さて、それじゃあ最初は……と、その前に」
 中央に戻ってきたテオドールは、大きく頭を下げた。
「最近は戦争だけでなく、地区の中で皆を不安にさせてしまった。本当に申し訳ない。けれどそれはもう解決した。冒険者の皆さんと、ここにいる皆のおかげで。だからこそこんなに賑やかな祭りも開催できた。一度失敗したからって終わりじゃない。僕たちは揺らいでも躓いても、何度だって立ち上がれる。ここは君たちを見守り、暖かく支える故郷だ。これからも僕は皆に協力して応援していくよ。君たちも自分だけの輝きを大切にしてほしい。皆に拍手を!」
 わ、と歓声が上がり拍手が起こった。それは長く鳴りやまず、テオドールは瞳を細めて、幸せそうに笑う。
「――さて。それじゃあ最初にいこうか。エントリーナンバー1……僕! テオドール! お嫁さん募集中です! 何でも一緒に楽しんで日々を過ごしてくれる、そんな人を探してます! 心当たりのある方はいつでも僕のところに来てください、お話ししましょう!!」
「積極的だか消極的だかわかんねえぞー!」
「人妻でもいいかしらー!」
「駄目です! それじゃ次は――!」

 賑やかな声が聞こえてくる。どうせいつものように騒がしい一日が始まって終わるのだろう。祭りは、嫌いではない。けれど今は出ていく気にはなれなかった。もう商会も手放した。ここにいる意味もないし、この屋敷だって数日後には自分のものではなくなる。いても白い目を向けられたり腫物扱いされたりするだけなのに。
「あたくし、何してるのかしら」
 大きく息を吐いて、雪と光のちらつく外を眺めた。

「なかなかの紋具。やっぱり連れて行こうかな、迷うなー」
 時計塔の近く、屋台で売られていたひよこの仮面をかぶった男がぶつぶつ呟いている。男はしばらく近くのステージを眺め、それから人込みの中へと消えていった。

解説

●オロージオ・フェスタ  聖霊節と戦勝を祝う祭りが混在したお祭り。  雪が降り、家々の壁や窓にはイルミネーションのように紋具の光が灯る。 ●広場  時計塔は色鮮やかに飾られ、発明家が祝砲を上げ、芸術家が特大の雪像を作り、音楽家が祝いの音楽を鳴らし、さまざまな屋台が並んでいます。ステージでは飛び入り参加も募集中。 ≪オススメ≫  ・ホットワイン  ・オロージオチキン(平べったくて食べやすい、スパイスの利いたチキン)  ・ブンテトルテ(さまざまな色・味のクリームと果物が乗ったタルト。名物。季節限定商品がある)  ・屋台  珍しい野菜や果物を使った食べ物が売っている。青空ベリーと房カボチャのケーキ、夜明けニンジンとかくれんぼイモの煮物、ばくはつ豆おにぎり、ストローを突き刺して飲める甘いジュースポテトなど。 ・ガラス屋『ソルリ』  掌大の大きさの球形ガラス『ソルリ』を売っている。似た柄を選ぶと相性がいいと言われ、手を繋いで一緒に時計塔に飾るのが流行り。  ・ヴィヴィド・トレ  鮮やかなイルミネーションを乗せた時計塔。破壊された部分は鍵がかかっていて出入りできない。持ってきた物を飾って、感謝したいこと、未来への願いを祈ることが流行り。定時になると時計塔全体がライトアップされる。時計塔を登れば地区が一望出来る。 ●バー『夢の涙』  落ち着いた雰囲気のバー。「もう会えない人」「会いたい人」が隣に座っているように見える、不思議なカクテルを作ってもらえます。 ●NPC ・テオドール・ヘルツィン  キャンティ地区地区代表。不思議なことや楽しいことを愛する三十代の男性。ステージでお嫁さん募集中。 ・ネーベル  街に古くから住むエルフ。バーにいる。冒険者が訪ねれば一杯奢ってくれる。 ・ヴィンツ・ラッテ  授恵者で紋具技術者。今回いろいろ働いてへろへろになっている。甘いものの屋台とステージ近くにいる。 ・デボリア・プフェンベルク  今回の騒動の責任を取る形で商会から退き、それでも街からは出ていかない様子。自身の屋敷にいる。 ・謎の男  キャンティ地区の遺構や神具に詳しかった授恵者の男。祭りのどこかにいる。 ●備考  このシリーズにて称号を獲得した方は、その称号に関係する人に会いに行くことが簡単になります。

マスターより

お世話になっております。白葉うづきです。 ヴェルクリエを取り巻く騒動、【刻時】の最終回となります。 全三回のシリーズであり、前作は「【刻時】時計塔と謎の遺構」「【刻時】時留めの針」がありますが、参照せずとも問題ありません。どなたでも歓迎です。 ヴェルクリエのキャンティ地区で、開けていなかった聖霊節と戦勝パーティーが入り混じった大きなお祭りが開催されました。最近暗い話題ばかりだったので全体的にはっちゃけています。 あなたにとっての故郷に思いを馳せつつ、ぜひお祭りを楽しんでください。 何かご質問・雑談があればヴィンツが掲示板にてお答えします (出発間際だとお返事が間に合わない可能性があります)。 皆さんのアニエピカライフが素敵なものになりますように! ご縁がありましたらよろしくお願いいたします。

リプレイ

●時を忘れて
 雪が舞い落ちる広場は笑顔の人々であふれていた。楽しそうな声が響き、賑やかに祭りを彩っている。その平和な光景を、ゲルダ・クラインは安堵した心持ちで眺めていた。彼らの故郷を守ることが出来たのだ。
 バーの扉を開くと、鈴の音がした。
「ゲルダか」
「はい。ネーベル様がこちらにいらっしゃるとお聞きして」
 座ってと促され、ひとつ離れた席に座る(これが彼の距離らしい)。そうしてゲルダは礼を告げた。
「僕は何もしてない。君たちが動いた結果だ……と言っても納得しなさそうだから受け取るけど」
 面白いものがあるよ、と説明されたカクテルには首を振った。
「会えない人は会えないままでいいんです。会いたい人には、自分で会いに行きます」
「強いな。でも、同感だ」
 そのままぽつぽつと、静かで穏やかな会話が程よく続く。
「年寄りのお節介だけど。背を伸ばし続けて疲れたら、ここに息抜きに来るといい」
 少なくとも一人は話し相手になるから。酔い交じりにそうネーベルは零した。

 広場に並んだ屋台からいい匂いがする。見た目も気になるものがたくさんあって、目移りがすごい。気になる匂いを追いかけながら、ゲルダは近くの屋台を覗き込んだ。『ブンテトルテ』と書かれている。
「お嬢さん初めてかい?」
「はい。おひとつ、いただけますか?」
「あいよ!」
 威勢のいい女将さんにもらったのは、色鮮やかで小振りなフルーツタルト。白い生地の上に塔みたいに高い飾りがあって、その周りをオレンジ、イチゴに似たきらきらした果物が綺麗に並んでいる。ぱくりと食べると、優しい甘さと甘酸っぱさ。楽しんでいるうちに、いつの間にか食べきっていた。
(あ……)
 美味しそうな匂い。誘われるまま進めば、スパイスで綺麗に彩られたお肉さん。すぐさま注文して、ぱくり。香ばしさと肉汁が口の中に広がった。ほう……と幸せな心地に浸りながら気になるものを注文していく。お肉や野菜、煮物におにぎりにケーキ。美味しいな。賑わうステージを、空に咲く花火を見ながら、片っ端から注文した料理をゲルダはゆっくりたいらげていった。

 淡い光が灯る街中に、ちらちらと雪が舞っていた。人にあふれ、賑わう祭りはこの場にいるだけで胸を高鳴らせていく。けれど、それだけが理由じゃない。ちらりと見た隣には愛しい横顔。アルフィー・リッパーは繋いだ手を確かめるように握り返す。
「寒くありませんか」
「平気。ネーヴェこそ寒くない?」
「ええ。こうして温かさを分けてもらってますから」
 ネーヴェ・グラヌローザも手を握り、アルフィーに向かって柔らかく微笑む。重なり合っている手が熱いと、アルフィーは感じていた。想いを通わせた人(恋人)とのお出かけ(デート)はこんなにも幸せなものなのらしい。
 雪を踏み、祭りを見学した二人はやがてガラス屋へ。時計塔に飾るソルリ(ガラス玉)をそれぞれ選んだ後、せーので手を開く。アルフィーの手のひらには、猫と雪の結晶が描かれたガラス玉。ネーヴェのガラス玉もよく似た柄だ。
「ネーヴェの、黒猫だ」
「あなたに似ていると思ったら、つい」
「俺もネーヴェに似てる子だなって」
「ふふっ、お揃いですのね」
 よく似た柄を選ぶ二人は相性がいいらしい。自然と手を繋いで、二人は時計塔へと向かった。

「あの夜を、思い出しますわね」
「!」
 ソルリを飾った後、時計塔の上でネーヴェと街を眺めていたアルフィーの耳に、そんな言葉が届く。思い当たった(あの告白の日だ)アルフィーは、すぐさまピンと尻尾を立て頬を染めた。
「あの時は、夢かと思ったけど、夢じゃなくて。戦いが終わって一緒に帰ってこれた。今もネーヴェが隣にいて、俺は世界一幸せなやつだ」
 素直な気持ちは彼女に届いただろうか。彼からこぼれ出た言葉に、ネーヴェは瞳を細める。
「夢じゃありませんとも。そんな風に言って貰える私はきっと今、世界一幸せな女ですわ」
 これからも、二人で平和な時間を歩んでいける。今年も、その先もきっと。
「あなたと一緒に色んなことをしたいわ、……アル」
「へ、え」
「……そう、呼んでも構いませんか?」
(かわいすぎて爆発しそう)
 控えめに動く唇も伺う瞳やしぐさも何もかも、愛しい。
「ダメなわけないだろ! アルって呼んでほしい」
 抱きしめてもいいかな、と広げた腕にネーヴェは身を寄せる。背中に手を回すとアルフィーの温もりが伝わってきて、自分の頬まで熱が移った。

 時計塔の後は、屋台を巡る。雪を払った椅子へどうぞとネーヴェを座らせ、その向かいにアルフィーが座った。乾杯、と口に含んだホットワインも、良い香りのするオロージオチキンもスパイスが効いていて、体の中から温まりそうだ。
「アルは、もう大分お酒に慣れたかしら?」
「誰かと一緒に飲むのは美味しいって思う」
 呼ばれ慣れない呼び名にドキドキしながら、幸せな会話は続いていく。不意に、アルフィーが荷物を探り出した。
「そうだ。バタバタしてて渡す機会がなかったんだけど……これ。ネーヴェの誕生日プレゼント」
 取り出したのは、リング。
「まあ……!」
 手作りと分かるそれを、ネーヴェは見つめる。途端にアルフィーは言葉を続けた。
「こ、こういうのは早いだろうか? その、深い意味はないんだ。その、恋人としてプレゼントしたいなって」
 恥ずかしさや照れや色んなものがないまぜになってぐるぐるする。そんなアルフィーにネーヴェは微笑み、そうして、右手を差し出した。
「いえ、……嬉しいです。ありがとうございます。その、……付けて頂いても?」
「も、もちろん」
 ネーヴェの薬指に指輪がはまる。似合ってると告げれば、はにかむように笑ってくれて、また心臓が爆発した(可愛すぎる!)。

 甘いものを探していた二人は、勧められたジュースポテトを注文する。ネーヴェが受け取ってみると、ぽってりとしたポテトに二つのストローが刺さっていた。
「アル」
「ん? ……はっ」
 ピン。アルフィーの尻尾も耳も立つ(こ、これはもしかして)。
「折角ですから、一緒に飲みましょうか……?」
「ネ、ネーヴェがいいならもちろんだ」
 二人でポテトを持ち、ストローをつまんで口に当てる。アルフィーが視線を上げると、ほんのり頬を染めたネーヴェがいた。
(好き、だな)
 幸せが胸に、全身に流れ込んでくる。温かできらきらした想いが、二人を満たしていた。

●訪れなかったいつかを紡ぐ
 虹色のようなカクテルを呷り、ルーンス・ラグネルは幾度か瞬く。程よい甘さが喉を通ると、誰かが隣いる気がした。
 隣の席、そしてもう一つ隣に、どこか見覚えのあるような男女が座っている。恐らく彼女の両親。すでに亡くなっている、記憶の中の幻影の存在。
「僕は全然覚えてないけど……お久し振りです」
 二人は嬉しそうに微笑む。女性がじっと見つめてるのを見て、ルーンスは察した。きっと彼女(僕の婚約者で、彼女の娘)のことを聞きたいのだろう。
「彼女は元気ですよ。僕とにいさまの取り合いする位には」
 そう言うと楽しそうな微笑みが返る。安心したわ、とでも聞こえてきそうだ。男性も何度か頷いている。ルーンスにとっての義両親である二人が穏やかな表情を浮かべていると、不思議と胸が温かくなった。義父は病死、けれど義母は悪意の絡む事故死。娘を守れた代わりに、娘のそれからを見守ることが出来なかったのは、どんなに無念だったろう。
 ルーンスと婚約者との始まりは、にいさまを冷遇するクソ共への対策としての結託。だけどいつの間にか、共に時間を過ごす内に僕らの心も近づいた。忘れてはいけないのは、にいさまへの敬愛っぷりだ。僕も彼女も負けないくらいにいさまを慕っている。その面ではライバルだ。
 もっと聞きたそうな二人に話を続ける。彼女が持つ足の障害は一生付き合うことになるだろうこと、ルーンスたちはいち商人としての彼女を評価し、信頼を置いていること。
「僕も人生の共犯者とは二人で幸せになるつもりです。彼女以外僕の相手は務まらないと思いますし、彼女も僕以外自分の相手は務まらないと思ってるでしょうし」
 話を続ける中で、ルーンスはひとつ報告をする。
「僕も父親になります」
 告げた途端、二人は驚きに目を見開く。そして、泣きそうなくらい幸せそうに微笑んでくれた。
 ルーンス、婚約者、にいさま。三人のことや、これからの未来のこと。幸せをはらんだ話は、尽きることがなかった。

●楽しく過ごすこと
「はーいっ! ギュンタ、お嫁さんに立候補するのですよー!」
 ステージに上がるとともにレラ・F・ギュンターが叫んだ言葉に、客席辺りがざわめいた。まさか本当に来るとは、という反応だ。
「直接来たね!?」
「面白そでしたから。場も盛り上がるのもよろしかと」
「その気持ちは率直に言って僕もわかる」
 頷くテオドールが勘違いする前にレラは続けた。面白みで名乗り出たわけではなく、本気だと。
「ギュンタも常日頃から似たよなことを思ってまして。あなたのお側でならそれが続けられる、なんならより一層楽しくなるやもと! テオドールさんもしっかりなさってて面白い方ですし」
 ふたりなら幸せは2倍に、悲しみは半分こだ。きっと彼とならそれが出来る。
「ギュンタ、幸せ感じて生きてゆきたいのです」
 ギュンタはいっつも幸せですけどね、とレラは笑う。精いっぱいの言葉を告げた彼女を、初めは目を瞬かせていたテオドールはまっすぐ見つめていた。
「君の気持ちはわかった。だから僕も真剣に考えた。……そうだな、どうにも僕には、君が希望の塊に見えてしまってね」
 年若い彼女を傍に置いておくのは気が引ける。まだ色んな素敵なものを、世界を自由に見てほしい。そう続けたが。
「ギュンタ、ホムンクルスですよ?」
「そうなんだ!?」
 肝心なところを伝えてなかった。
「見た目がやっぱり気になります?」
「んー。濁しても仕方ないから言うけど、僕は子どもが欲しい」
 そもそも名乗り出る人がいることすら予想外だったらしい。養子を取る方法もあるが、今の選択肢にはないとのことだ。レラはぐす、と鼻を啜った。
「ご、ごめんね、でも友達は大歓迎だから」
「そですか! ならお友達です!」
 すぐに立ち直ったレラとテオドールは、がっちり握手をした。

 その後、レラは時計塔研究者たちのグループに招かれる。紋具に始まり遺構や神具の話まで盛り上がり、レラはふと告げる。
「ギュンタもしばらく手伝ってってよろしですか?」
「もちろん!」
 それからはぬいぐるみも交えて話をした。いつかぬいぐるみさんたちが動けるようになったらと、夢に満ちた想像しながら。

●彼の理由
「――いいだろう! 君の疑問にはすべて答えてあげる!」
 こんな人込みの中で僕を見つけたご褒美だと、楽しげにひよこ面をかぶった謎の男が告げる。少し面食らったナハティガル=ラーだが、それならば話が早い。
「まずこの地区だね。元々ここには、神代の時代に作られた居住区があった。その遺構の上にこの地区は在る」
 辺境都市群には、記録もないほどはるか昔の、かつ高度な技術力で構築された都市が多い。ここもその一部なのだろう。
「で、今回の神具だ。前も言った通り、『時留めの針』は発動させた者が任意の存在の時を止めることができる。そして、その対象は限られない。人でも魔獣でも――大型のクリーパーでさえ例外じゃなくね」
「……そういうことか」
 ナハティガルは想像した。強力なクリーパーが街を襲ってきた時、神具を発動させてその動きを止めれば――その間に他の者が討伐できる。あれは、街の防衛のための神具だ。
「そんな大層な効果を発動させるためには大量のエーテルが必要だった。そこで作られたのが、僕たちが戦ったあの塔。神具を発動させ、効率よく周囲の人からエーテルを集める装置だ」
 住民は神具をあがめ、扱い、エーテルを提供する代わりに敵から守ってもらう。そんな関係が、神代の時代にはあったのかもしれない。出土品に武器が多かったのもそのためか。
「よくわかった。ただまだ気になることがある。アンタとヴィンツの関係だ」
「ああ、そんなこと」
 男は面を捨てる。壮年の男だ。くすんだ灰髪に、金色の瞳。
「関係だけ言うと父親だね。迷宮に捨てられた子どもがどう育つかって実験してたから、あれのことは大体知ってる」
 そうして、微笑む。
「僕はヴィリ。冒険者(シーフ)兼考古学者。世界を知ることがすべて。今回は伝承を集めて知ったことを確かめに来ただけ。まだ一線は越えてないただのヒト。あれを超越者にするのも楽しそうだなって思ったけど……ナハティガルはどう? 素質あるよね」
「ふざけるな」
 けらけらと笑い、君とはまた会いたいな、と男は踵を返す。――今すぐ摘んでおくべき芽だったのかもしれない。そう思わせるだけの狂気が存在していた。

●豪商の心
「わたしくを笑いに来たの? それならどうぞご勝手に」
 デボリア・プフェンベルクは優雅に微笑む。他人に萎れた様子を見せないのはさすがやり手の商人だろうか。ロゼットは首を振る。
「いいえ。少し話でもと思いまして」
「今さら何を話すというの?」
「例えば、貴方の屈辱について」
 ロゼットは、この部屋に来る前に、彼女についてあらかじめ部下から話を聞いていた。いわく、地区代表(テオドール)に受けた屈辱があると。
「そんなこと? ……まあいいけど」
 デボリアは瞳を細める。
「わたくしあの男が好きだったのよ。若い頃に想いを伝えもしたわ、でもあの男、なんて言ったと思うかしら。『君の造った彫像は好き』ですって! あの芸術変態!!」
 ――そこからとんでもない量の愚痴が続いた。要は、地区代表は筋金入りの芸術馬鹿らしい。そのせいで今も独り身なのはいい気味だと吐き捨てられる。
「それで……ああ、差し入れもありがと。貴女も食べなさい?」
 根気よく聞いてあげるといくらか心を許してもらえたようだ。彼女が落ち着いたところで、ロゼットは話し出す。
「商売をやり直してみる気はありませんか」
「……どういうことぉ?」
 彼女は、根っからの悪人ではないとロゼットは理解していた。自分の利よりも街のことを考えた判断を咄嗟に下せる、そんな人がやり直せない訳がない。そして今回の行動を起こすまでの、美貌に対する凄まじい執念。若さや美しさを保つ、磨く、そんな方法を彼女は知りつくしているはずだ。
「貴方の勧めならと信用してくれる人が多いでしょう。興味がありませんか、人から美しさを奪うのではなく与えること。どうでしょうか」
 ロゼットの言葉を聞いた彼女は、やがてぽつりと呟く。
「貴女、厄介ねぇ。……はあ」
 瞳を細めたデボリアは、大きく息を吐いた。そして視線を上げる。
「聞いてたらやる気が出てきちゃうじゃない。ここまで煽ったんだから付き合いなさぁい? いいわよね、ロゼット?」
 話し相手を捕まえたデボリアは、化粧品についてアイディアを次々と披露する。その顔は生き生きと、輝いて見えた。

マスターコメント

お祭りは楽しんでいただけたでしょうか。 【刻時】はこれにて終了となります。街を助けていただき、またそれぞれの人物を気にかけていただきありがとうございました。謎の男もここからは去ったため、この地区はより良い時間を過ごしていけることでしょう。 MVPは記録には残りませんが、楽しんでくださった皆様へ。 ご参加いただきありがとうございました!
ショートシナリオ

ショートシナリオ易しい 報酬:無し7 / 4〜10人

2024年02月15日 10時10分57秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ロゼット

    ロゼットよ。よろしくね。 シリーズの参加者はお疲れさま。 今回はお祭りのようだから、飛び入りも良いみたいね。 私は祭りと、デボリアさんにちょっと会いに行こうかと。

  2. レラ・F・ギュンター

    ギュンターです! シリーズ最終回ですね。どぞ、よしなに。 なんだか面白そなのでステージのお嫁さん募集に名乗り上げてみたいと思ってます。盛り上がるとよろしですね。 それと研究者さんのとこへ行くつもりですっ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0