【祈願】託す者
影絵 企鵝
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シナリオID:3386
オープニング
五年ほど前、学園に二人の学生がいた。彼らは王党派と貴族派に分かれて対立する王国の現状を憂いて、変革を望んでいた。
一人が望んだのは、法律が全てを統べる王国だった。王の権威から民衆の喧嘩の仲裁まで、全てが一統された法律によって為される未来を望んだ。
一人が望んだのは、旧い権威を全て除いた、全てが平等な国だった。富める者も貧しき者もない、あらゆる富が共有される未来を望んだ。
二人は相容れなかった。片や王国が王国のまま変わる事を望み、片や王国が終わる事を望んでいたのだから。彼らは決して理解し合う事無く別れ、一人は小領主として理想郷の実験を始め、もう一人は地下へと潜り、変革の時を迎えるべく同志と共に動き出した。
闇に潜んだ一人の青年に、やがて一匹の狼が近づいた。彼は未来など望まない。ただ青年の今を壊したいという熱望に手を貸し、死者たちの願うあらゆる破綻の始まりをもたらそうとしたのである。
●狼の絶望
冒険者ギルド。とあるホムンクルス――イヴに集められた冒険者達が、大きな一つの円卓を囲んでいた。イヴは彼らを見渡すと、淡々とした口調で話す。
「私はグノーシスから後事を託されました。ですがそれは私一人では到底片付けられない難事です。なので皆さんに協力を仰ごうと考えた次第です」
イヴは開いた地図の上に円形のブローチを載せる。茨に飾られた天秤が刻まれていた。
「目標は『幸せの国』と名乗る組織の制圧。長い間をかけて王国の転覆を望む者達が集まり、王国に様々な陰謀を企ててきた地下組織です」
彼女は王国の地図に羽根ペンで幾つも線を引いていく。王都へと向けて。
「組織の中核を為すのは高度な教育を受けた者、商人として財を築いた者、兵士として優れた能力を示した者、様々です。彼らに共通するのは、王国の現状を腐敗と見做し、その破壊を望んでいるという事だけ。彼らは表の顔を残したまま、ひたすら時を待ってきました」
イヴは王都の真上にブローチをずらす。
「しかしその時はいつまでも来ません。彼らの思想を……王国を葬りその上に新たな国を築こうという思想を受け容れる者など、ほんの一握り。行動を起こすだけの人間が集まらないのです」
彼女はもう一つ小さな盤上遊戯の駒を取り出した。白い狼の駒だ。
「そこに現れたのがグノーシスでした。彼は他者の絶望を汲み取り、そこから他人の懐へと入り込んでいく特異な技術がありました。彼は『幸せの国』への協力を申し出ると、彼らの思想と理想を神への挑戦に換言し、“今”が報われないのは神のせいと信じ込ませ、一気に支持者を増やしたのです」
イヴは地図へ幾つも線を引っ張っていく。王国各地から王都へ向けるように。それからブローチを手に取ると、北のグランツ伯領へと滑らせる。
「人手を手に入れた組織は、完全に地下へと潜り、行動を始めました。王都にも遠くないグランツ伯領を混乱に陥らせ、その支配の奪取を狙って。……ですが、皆さんのような冒険者によってそれは阻まれ、グランツ伯領の混乱は既に収束へ向かっています」
彼女は地図にバツ印を刻む。彼らの失敗を端的に示していた。
「……それでもまだ、彼らは機会を窺っています。グノーシスは直接私に彼らの成敗を頼んだわけではありません。ですが、わざわざ私に彼らの情報を伝えたのは、彼らの無謀な暴挙が終わる事をグノーシスが望んだからだと思います」
イヴは円卓に立てかけていた長い布の包みを開いた。中から出てきたのは、彼が常日頃手にしていた蛇の意匠を持つ白い杖。その柄を握りしめると、イヴは改めて冒険者達の目を見つめる。
「私は彼に救われました。……なら、少しくらいは彼に託されてみようと思います。どうか協力して頂けませんか」
●過ぎたる夢
人里離れた古い城址。その基礎を掘り抜いて作られた要害に、リーンエス王国の終わりを望む者どもが集っていた。彼らの群れの中央には、粗末な黒い杖を一本携えた白い狼が立っていた。夜闇の中で焚かれたかがり火の光が、彼の顔に歪な陰影を与えている。彼を囲む者のうち、青年が彼を険しい顔で睨む。
「……今、お前は何と言った」
その声は微かに震えていた。腰に差した剣の柄には手がかかり、今にも抜き放たれんとしていた。しかし狼は少しも狼狽えない。
「聞こえなかったか。叶わない夢からはいい加減に目覚めた方が良いと言っているんだ」
彼らのやり取りを、粗末な身なりの人々がこわごわと見守っている。グノーシスに釣られて組織に加担してしまった、取るに足らない人々だ。
「お前達の理想もいつかこの世に必要とされる時が来るさ。だが今じゃない。お前達のやり方で黄金の夜明けは来ない。お前達が為すべきは……今一度立ち止まって待つことだ」
「我々は何年も待った。何十年も待っている者もいる。一体いつまで待つというのだ?」
髭を蓄えた壮年の男が杖を構えて低く唸る。グノーシスは肩を縮めた。
「私が答える口は持たない。……ある意味では君達を焚きつけてしまった私が言えたことでないことも解っている。だが、どこか遠い所に行き、潜んで待て。君達の理想が受け入れられる時期を。この時代に為されぬのなら、誰かに託せ」
彼に正対する十人の眼の色が変わる。爛々とした怒りが燃え始める。グノーシスは冷めきった眼で、淡々と言葉を続けた。
「私はずっと聞いてきた。誰にも託すことの出来なかった者の未練を。未練は全てを歪ませる。世界に何も遺せなかった怨念になる。……私も、誰かに何かを託すことができなくて、怨念になるのが嫌で、だらだらとこんな年になるまで生きてきた」
彼は溜め息をつく。幾星霜を積み重ねた、疲れ切った白い息。囲う人々は顔を見合わせた。
「私はもう手遅れだ。だがお前達は間に合う。……誰かに未来を託せ。自分で何でも成し遂げようと考えるな」
未来を託せ。その言葉を聞いた瞬間、青年は歯ぎしりした。黒々とした輝きを放つ剣を一気に抜き放つ。
「……グノーシス」
青年は飛び掛かる。グノーシスは身じろぎ一つ出来なかった。
「貴様も“奴”と同じことを言うか!」
振り下ろされる剣。袈裟懸けに切りつけられた傷から、深紅の血が噴き出す。グノーシスはよろめき、その場に膝をつく。青年は彼を見下ろし口角泡を飛ばした。
「これは私の望みだ。私達の! 誰かに託したとて、その者が一体どうして我らの望みを完全に果たしてくれる? だから我らは我らの手で果たすのだ! この世が人間の尊厳を奪い続ける痛みを味わいながら!」
口から血を垂らしながら、グノーシスは力無く笑う。
「それが君達の答えか。……残念だ」
刹那、空から鎧を纏った白い狼が降ってきた。それは青年とグノーシスの間に割って入るように立ち、槍を構えて威嚇する。さらにローブを纏ったイヴが神具を片手に駆け込んでくる。
「貴方達の活動はここまでです。降伏するならば手荒な真似は致しません」
冒険者達も次々に広場へと姿を現す。『幸せの国』の中核構成員は、銘々武器を取って冒険者達へと刃を向けた。
「罷りならんぞ。世界は革命されなければならない! 全ての不幸を除くために!」
「……そんなものは夢幻だ。その夢から醒めたくないのなら……」
グノーシスは息も絶え絶えに呟く。
「私と一緒に眠りに就こう」
解説
マスターより
リプレイ
とある森の古い祭壇。そこに三人の冒険者がいた。コルネリウス・アーラとリディリディ・トゥラ・イェレミース、それからルアンナ・ミュラー。石造りの真新しい墓碑を前に、リディは呟く。
「あまり穿った見方は良くありませんが……あの依頼は、私達が悉く阻んだことで成らなかった事態だから、その後始末をしろ、という事だったのでしょうか」
コルネは墓碑に花を添えながら、ゆっくりと首を振る。
「いいえ。彼はあくまで彼らを助けようとしていたんです」
眼を閉じると、彼の最期の言葉がその声と共に甦る。彼女をこの世に括りつける永遠の枷がそうさせているのだ。コルネは嘆息した。
「……また、知人を亡くしてしまいました」
「彼とはあまり良い縁だったとは言えませんが……それもまた縁は縁、ですか」
ルアンナも墓碑に花を手向ける。それを隣で見つめて、コルネは頷く。
「皆が言葉で解り合えればどんなにいいかと、誰もが公平に幸せな世界になればと、私も思います。……この夢がただの夢幻ではなく、現実に出来るようにしていこうと思います」
三人が耳を澄ますと、木のうろに吹き込んだ強い風が、狼の遠吠えのように響き渡った。
●今を生きる者
砦の中、己の手に武器を構えた革命志望者達。イヴは神具を握りしめ、石畳に突き立てる。刹那、女狼の骸は槍を振り抜く。口布を付けた青年の放った魔法の矢をそれで防ぎ止めると、骸は敵目掛けて踏み込んだ。長弓を構えた痩せぎすの女は、鏃をイヴへ向ける。
「素人め、隙だらけだぞ!」
放たれる一矢。しかし、白い翼の盾を掲げたコルネが鋭く駆け込み、盾を振るって矢を弾き落とした。
「イヴさんには手出しをさせません」
コルネは身を翻すと、兄から託された剣を地から天へと振り上げる。刃が帯びた光が弾けて一本の矢となり、女の脚目掛けて飛んでいく。女は矢を躱すが、女狼がすかさず女の頭上を取った。
「こいつ……!」
鋭く振り下ろされた槍に肩を打ち据えられ、女は床に転がり込む。イヴは神具を構え、そばに立つコルネを見遣った。
「ありがとうございます。宜しければこのまま援護を」
「もちろんです」
コルネが頷くと、女狼は後ろに飛び退き、戦場に倒れ伏すグノーシスを抱え上げて壁際へと逃れた。レティシア・レインフィールはその後を追うように走り、グノーシスを庇った。そんな彼女の前に立つのは、眼鏡をかけた細身の男。
「これは、レインフィール家のご令嬢ではありませんか。貴方のような者までも、我々を狩りに来たのですか?」
彼の声色は冷え切っていた。レティシアは杖を両手で構え、静かに首を振る。
「いいえ。私は交渉に来たのです。どうかこれ以上の抵抗をやめ、投降してください」
「……なんと?」
青年が首を傾げる間に、レピド・クロサイトがその背後を抜け、砦の真ん中に躍り出る。彼は腰のベルトから二振りの暗器を取り出すと、蛇のように辺りを睨め回した。
「人も、王国も、世界すらも常に変わり続けている。アンタらには見えていないようだがな」
篝火を浴びて揺らめく暗器の切先。無精髭を生やした男は、曲刀を抜いて唸った。
「次から次へと……王国はそんなに俺達が怖いか?」
「王国はアンタらのことは二の次だ。もっとデカい問題が幾らでも転がってる。だから俺達が片付けに来たんだ」
髭面の男はヘラヘラ笑い、両腕を開いて身を低くする。
「俺達は顧みるまでもないってか。気に食わないもんだ」
レピドも腰だめに構えた。シーフ同士の睨み合い。一瞬の隙を狙って、じりじりと間合いを削り合う。
「向かってくるなら相手になろう。だが逃げようとするなら……」
「逃げるわけあるかよ。逃げるんならもっと早くにそうしてる」
二人の睨み合いに気づいた小太りの男が、魔法の矢をレピドめがけて放つ。刹那、二人のシーフは一斉に動き出した。互いの得物が触れ合い、火花が散る。
「俺達はもうとっくに退っ引きならないんだよ」
あっという間に砦全体へと波及していく戦闘。愚かなだけの者達は立ち尽くすことしか出来ない。ルアンナはそんな彼らを鋭く指差し叫んだ。
「死にたくなかったらそこを動かないでくださいよ! 私の魔法に巻き込まれたって、こっちは責任持てませんからね!」
彼女は大きな宝玉の埋め込まれた杖を振るい、光の嵐を巻き起こす。砦に満ちる轟音が、ルアンナの脅しが冗談ではないと知らしめる。愚衆はますます縮み上がった。彼らが震えて戦場を見つめる中で、ルアンナは早速短剣を構えた仮面の男へと狙いを定める。稲妻の光に取り囲まれた仮面の男は、摺り足でルアンナの出方を窺っていた。
「右を見ても左を見ても、名の知れた冒険者だらけだな。あの狼め、一体何をしてくれた?」
「事情を全て聞きました。この下らない事態も貴方達を片付ければ全て終わるんですね」
くぐもった声で唸る男に、ルアンナはにべもなく答える。杖を突き出して魔弾を一発放つ。男はその場で大きく身を伏せて躱すと、再び立ち上がって懐から羊皮紙を一枚取り出す。
「ルアンナ・ミュラー。今でこそリブラネスタのミュラー家の一員となっているが、本来はリーンエス王国の商家セラフィアス家の生まれだったな。そしてお前がセラフィアスでなくなった理由は、商会ぐるみでこなしてきた悪事が明るみになったからだ」
「今更そんな昔話を聞かされたところで、くすぐられた気分にもなりませんよ」
ルアンナが眉を顰めると、仮面の男はその身を捻って光の嵐を抜け出し、中段になって短剣の切先を首筋へ向ける。
「お前がどう思おうと問題にはならん。財を成すために悪事を働くのは富の多寡がこの世の権力構造に結びつくが故だ。故に我々は富を個人の所有から引き離さなければならないと決意した。個人が富を持てなければ、富のため悪事を働くことはなくなる!」
男はいきなり両手を合わせる。高らかな音と共にその姿がルアンナの目の前から掻き消えた。ルアンナは杖を担ぎ、残された空白を睨む。
「そんなやり方はあまりにも極端ではありませんか?」
グノーシスを斬りつけた青年には、仮面を外したグレイブ・ヤードが立ちはだかる。彼は黒い柄の祭祀刀を抜き放ち、中段に構えて青年の形相を冷徹に観察する。
「誰かに依存して、縋って、頼って、それで革命とは。随分とまぁ、人任せな革命ごっこもあったものですね」
「我々の願いが戯れだというのか」
青年は怒りを必死に噛み殺し、平静を装い尋ねる。
「戯れならまだいい。貴方は「奪う側」に回りたいだけでしょう? 与える事をせず、考える事をせず、自分を理解しない者を排除して幸せだと宣いたいのでしょう」
「貴様、我らの大願を侮辱するか!」
青年はこめかみに青筋を浮かべ、グレイブへと刃を突き出す。グレイブは半身になって刃を逸らす。その切っ先は肩口を掠めて血が滲んだが、傷口は彼自身の治癒の力によってすぐに塞がる。
「ほら、今だってそうでしょう? 自分の気に触る事を言われたから奪おうとする」
「……おのれ!」
青年は牙を剥き、力任せに剣を叩きつける。グレイブがその身を屈めてひらりと躱すと、刃は柱に直撃した。根元が折れて柱は倒れ込み、広間の石畳を砕いて鈍い音を立てる。巻き上がる土煙と共に、砕けた破片が壁際で小さくなる人々のところまで飛んできた。石ころ一つが一人の男の頭に鋭く当たり、男はその場に倒れ込む。そばにいた女は気絶した男を見下ろし悲鳴を上げた。その悲鳴が喇叭代わりになって、群衆は咄嗟に砦への出口へと殺到する。しかし、そこにはすでに分厚い鉄の壁が鎮座し、出口を塞いでしまっていた。
「か……壁がある……?」
「どうして……」
彼らは青くなりながら周囲を見渡し、やがてそんな彼らをじっと見つめる一人のエルフに気がついた。リディだ。リディは杖を両手で握りしめたまま、じっと人の群れを見つめている。男は蒼白な顔で叫んだ。
「な、なんで何も言わねえんだよ……!」
リディは唇を結んだまま彼らから背を向ける。緊張で口が乾いて何も言えなかっただけだが、それでも彼らにとっては強烈な脅しになったらしい。へなへなとその場にへたり込む。
それを遠巻きに見ていたもう一群は、反対側の出口から逃れようとする。だが今度は入り口に無数の稲妻が走る澱みが一つ顕出した。愚衆は悲鳴をあげて仰け反った。
「ご安心を。抵抗しない者に危害を加えるつもりはありません」
つかつかと靴の踵を鳴らして、アウレーリア・フォン・ネーベルベルクが姿を見せる。異形の籠手を嵌めた左手を振ると、さらに澱みが愚衆の周囲に二つ現れた。
「だから黙ってそこで見ていてください」
アウレーリアは透かし彫りの盾を構えると、分厚いローブに身を包む壮年の隠者と対峙する。長髭の隠者は魔導書を開いて彼女を指差す。放たれた魔弾が、アウレーリアの盾で弾けた。
「話は色々と聞きました。そこで私は貴方に問いたい」
「何だね」
隠者が口髭を揺らすと、アウレーリアは反撃の魔弾を放つ。
「貴方達が理想とする世界の中で、一体誰が富の分配を決めるのでしょう。平等を如何に量るのでしょう」
アウレーリアは隠者へと詰め寄りながら、さらに語気を強めて問いかける。
「『より平等』な者の下で、皆が等しく貧しい世界を生まぬという保証は?」
隠者は眉根を寄せる。辟易したと言わんばかりに。
「分つという考えがそもそもの過ちなのだ。個人を量ろうとするから、均衡が破れる。そもそも富とは一つになるもの。持たぬ者から溢れ落ち、持てる者に転がり込む」
隠者は巨大な爆炎を頭上に作り出してアウレーリアへと押し出す。隠者の中に燃え盛る烈火を見上げ、アウレーリアは左の籠手を固く握り込む。
「故に我らも巨大な一つの怪物になるのだ。誰もが己に為し得ることを為し、国土を骨肉、富を血にした一個の生命となること以外に、誰もが等しく恵みを享受する道はない」
放たれる猛火。アウレーリアはそれを正面から受け止めた。その炎が彼女の鎧を包み込み、一度はぐらりとよろめいたが、彼女は倒れず歩み続ける。
「なるほど、とても受け容れ難い考え方です。賛同者が現れないのも頷ける」
彼女は炎を左手で振り払うと、そのまま開けた天からエーテルを引き寄せ、再び魔弾を隠者へ放つ。
「貴方達にとって理想でも、より大勢の民がそれを望んでいない。それを独りよがりというのではありませんか」
「独りよがりだとも。だが為政とは須く独りよがりなものだ。民が望んでいるのは、食事と寝床であって政ではないのだからな。寝食が齎されるなら政のあり方など誰も関知せぬ。望まれていないから変えぬというなら、世界は変わらぬまま朽ちていくぞ」
隠者は眼を見開くと、エーテルを練り上げ鋭い光の刃を作り出す。アウレーリアは隠者の眼前で石畳を踏み締めると、左手を天へ掲げた。
「なるほど。なら申し上げることは一つです」
彼女の掲げた掌に大量のエーテルが凝縮された。びりびりと空気が震え、薄暗がりの戦場でちらちらと明滅する。
「民の一人一人を安んずることが為政者の使命。揺らぐ天秤を公正と公平で支える覚悟無くして、為政者たる資格無し!」
故郷と民の忠臣は吼え、左手を突き出す。隠者も負けじと光の刃を放ったが、アウレーリアの放った極大の閃光波は瞬く間に隠者へ襲い掛かり、彼を石畳へ叩きつけた。白髪を赤く染めた隠者は、天を見上げて呆然と呟く。
「……堂に入ったものだ。年端も行かぬ娘御が」
額を濡らす汗を拭うと、アウレーリアは倒れた隠者のそばに歩みより、その手足を縛り上げる。
「やがて、また世界にまた変節の時が来るでしょう。伝統が変節に耐えられなかった時のため、対案の芽はいつもあるべきだった」
頭から血を流して呻く隠者を見下ろし、アウレーリアは冷然と言い放つ。
「それが、時流を読めないばかりにこんなところで摘み取られてしまう。所詮、貴方達の手には余る理想だったということね。……残念だわ」
柱と柱の間を飛び回り、レピドと髭面の男は斬り合いを続ける。繰り出される曲刀の切先を紙一重で躱し、そのまま敵の脇腹へ大振りの蹴りを見舞う。髭面の男は歯を食いしばって耐えた。
「こいつは手練だな。お前もどうせ碌な仕事しちゃいなかったんだろ」
「らしいな」
地面に降り立つ二人。レティシアがレピドへ、小太りの男が髭面に、癒しの光を放つ。首を回し、髭でざらざらの顎を撫でながら、男は、ふと顔を曇らせる。
「俺もそうだ。甲斐のねえ人生さ。そんな俺に、このジジイが使命を与えると言った」
男は横目に隠者を見遣る。彼は倒れて天を見上げ、組み合っていたアウレーリアは別のキャスターと魔法のぶつけ合いを繰り広げている。男は溜め息をついた。
「……まあやられちまったみてえだが」
曲刀を構え直し、男はレピドへ突っ込む。再び暗器を交わらせ、レピドは男の眼を覗き込んだ。
「アンタは、義理で戦ってるのか」
「まあな。ジジイの御託が実現したとして、俺みてえな碌でなしは真っ先にお払い箱だろ。だがな、こいつらのギラついた眼を見てたら、そんな最期も面白いって思ったんだ」
「よくわからない感情だ」
レピドは淡々と切り返すと、瞬間的に全身へエーテルを漲らせ、この場の何よりも速く男へと突っ込んだ。男が身構える間もなく、目にも止まらぬ早業で両肘両膝を砕く。身体の支えを失った男は、その場にガックリと崩れ落ちた。
「そうか。そいつはきっと……お前が諦めてないからだろう」
「かもな。俺は色々な人と出会って、俺なりに生きていくことに決めた」
暗器を染める血を拭い、レピドは目の前に立つ小太りの男へ眼を向ける。仲間達はそれぞれの敵に応戦するのが精一杯で、彼を守る者は一人もない。男は杖を握りしめると、レピドへ真っ直ぐ突っ込んできた。
「栄光あれ!」
鼻白んだ顔をしたレピドは、容赦なく男の足を引っ掛けると、鳩尾に深い膝蹴りを叩き込んだ。男がぐにゃりと曲がった隙にレピドは男の背中を踏み付けにした。もがく男を押さえつけ、レピドは敵を睥睨する。その気迫に、思わず近くの男女がたじろぐ。武器の切先も泳いだ。
「難しい局面だぞ」
「退路の確保を意識すべきだ」
男女は頷くと、男の方がすぐさま矢を放つ。エーテルで固められた鏃はいきなり白煙を巻き上げ、砦の一角を覆い尽くした。女は盾を正面に構えると、広間の出口を目指して突っ走る。その方向には、柱の陰にひっそり立っていたリディがいた。リディは目を丸くすると、杖を正面に構える。
「そんな……一体どうしてこっちに来るんですか……」
「お前がそこに立っているだけだ!」
女は長剣を振りかざしてリディに襲いかかる。重い鎧を着込んだリディには到底避けられない動き。リディは盾を突き出すと、腕を横に振って何とか剣先を逸らした。
「ちょっと……乱暴なのは、遠慮してもらえませんか……」
リディはつっかえがちな口調で女に尋ねる。女はリディを思い切り蹴りつけた。
「我らの朋輩を打ち倒しておいて、よく言う!」
「それは、そうかも知れませんが……」
リディは女の肩越しに様子を窺う。男の射手も彼女に狙いを定めていた。普段は彼女の近衛騎士であるコルネも、今日はイヴを守るので精一杯だ。
(このままでは押し切られますか……)
杖を振り上げたリディは、大量の光の玉を作り出す。女は後ろへ飛び退くが、リディの放った弾群はそれよりも早く押し寄せ、女と男をまとめて撃ち抜いた。女は盾を掲げて必死に急所を守り、リディを睨みつける。
「貴様!」
「皆さんの目的はよくわからないですが……暴力に頼るのなら、放ってはおけません……」
リディは杖の先をそろそろと動かす。威勢に欠ける佇まいだが、彼女の周囲を取り巻くエーテルの量が彼女の実力を雄弁に物語る。女も男も二の足を踏んだ。
「お……大人しくしてもらいます……」
杖の先に光が瞬いた瞬間、エーテルの波が周囲を駆け巡る。異変を感じ取った二人はその場から離れようとするが、不可視の波紋から逃れることはできない。もう一度光が輝いた瞬間、エーテルは一気に破裂し、爆心地の二人を錐揉みに吹き飛ばした。
一人また一人と倒れていく革命志望者達。ルアンナと対峙する仮面の男は短剣を逆手に構え、彼女の背後を取るように砦の柱を飛び回る。
「数の上では我々が優っていたというのに。覆されたというのか」
「こんな闘い、修羅場のうちにも入りませんよ」
「……我々を侮るか!」
男は仮面の奥でその眼を爛々とさせ、一気にルアンナの懐へと踏み込む。ルアンナは咄嗟に身を翻し、腕甲を振り抜く。心臓目掛けて突き出された刃は腕甲の傾斜に当たって逸れ、脇腹を深く掠めた。紅いドレスから、真紅が舞い散る。それでもルアンナは極北のように冷たい眼差しを揺るがさない。
「ただ事実を述べただけです。一度斬られたくらいじゃ倒れませんよ」
「なら切り刻む!」
男は再びルアンナの急所を狙って踏み込む。最高速で、一直線に。それこそが彼女の狙いと知らずに。
「捉えました」
放たれる眩光。仮面の隙間にも容赦なく入り込み、男は苦悶の声をあげて仰け反る。ルアンナは踊るように大きくその身を振り回すと、杖の先を思い切り男の顔面へ叩きつけた。杖に溜め込んだエーテルを何のスキルもなく叩き込む単純極まりない一撃。しかしそれはあまりにも強烈だった。男の仮面を叩き割り、そのまま地面にねじ伏せる。
「危険すぎる……これほどの力がどんな国家からも独立しているだと……」
昏倒した男は、這いつくばりながら呻く。その首元に杖の石突を突きつけ、ルアンナは吐き捨てた。
「何をぶつくさ言ってるんですか?」
ルアンナと仮面の男の決着を目の当たりにして、射手の女は苦虫を噛み潰した顔をする。弓を下げ、ずるずると退いた。
「くそっ……こんなところで終わるわけには……!」
「今更逃げようとしたって、そうはいきませんよ」
コルネは剣をくるりと回して構え直し、女目掛けて突進する。女も脱兎のごとく戦場を離れようとするが、イヴが放った一発の魔弾が女の肩を捉え、その体勢を崩した。コルネはその隙をついて一気に加速すると、女の脛を剣の腹で思い切り殴りつける。
「あぐっ……」
「大人しくしていてください」
女が怯んで動けないところへ更に踏み込み、思い切り床へ捻り倒す。シャツの襟を締め上げ、女をそのまま昏倒させた。
「イヴさん、援護に感謝します」
コルネが振り返ると、イヴは杖を握りしめて小さく頷いた。
眼鏡の男とレティシアの対峙も続いていた。その眼を逸らさず、レティシアは男へ辛抱強く訴える。
「投降していただければ命だけは取らないように掛け合います。裁きの場で皆さんの主張を話す時間を用意するよう可能な範囲で取り計います。ですから……」
「不可能なことを言うべきではありません」
レティシアの言葉を男はぴしゃりと撥ねつける。彼は杖をレティシアへ向け、氷のような視線で睨む。
「エレアノールの末路を見たでしょう。彼女ですらあの結末なら。我々はこの国に叛く者として徹底的に否定されましょう」
彼はついにレティシアの間合いへと踏み込むと、思い切り杖をレティシアへと振り下ろした。彼女は咄嗟に杖を突き出しその一撃を受け止める。
「たかだか伯爵程度の娘に、それを曲げる力などありません。それがこの国です」
「……確かに今は、そうかもしれません」
レティシアは華奢な身体で青年の攻撃を必死に押し留めながら、真っ直ぐに青年を見上げる。
「私も、ずっとそういうものだと受け容れてきました」
ずっとレティシアは湖に揺らめく葦だった。風が吹いても波が立っても、ただ流され揺れるばかりだった。
「ですが、私自身の道を選びたいという意思が、私にもまだあると知りました。どんなに困難な道だとしても、選んで進みたいと。貴方達も、どうしても果たしたい願いを持って、今まで進んで来たのではないのですか?」
かつて学園で月明かりのように儚い美貌を讃えられた佳人が、陽光のように揺るがぬ熱意をその瞳に込めて青年に対峙する。彼女をひたすらに威圧していた青年だったが、彼女の意志が確固たると知るや、不意に杖を手放してその場に腰を落とした。
「分かりました。ならば貴方だけに託しておくことにしましょう」
帰順の意志を示したヒーラーの青年。その姿を見るや、グレイブと対峙していた剣士は一気に頭へ血を上らせ、彼へ斬りかかった。
「貴様も裏切るのか!」
グレイブは咄嗟にその間に割って入ると、刀を振るって怒れる一閃を逸らす。
「貴方は実のところ、革命が成し遂げられると信じていないでしょう。だからこそ、そうして逆上してしまうのです」
「信じていないだと」
真っ赤な顔が一瞬にして真っ白になる。青年は諸手で剣を握り、力任せにグレイブへ襲い掛かった。グレイブはその一撃一撃を冷徹に捌きながら、手刀や肘鉄を浴びせて青年を消耗させていく。
「しかしそれをどうしても受け容れる事が出来ない。己ではどうにも出来ないことがあるという現実を受け容れられず、自分は何者にもなれないという恐れから目を逸らすために、“この世を正すためにはこれしかない”と信じ込もうとしている」
グレイブの王の如き堂々たる気迫に、青年は既に呑み込まれていた。不揃いの息をして、青年は呻く。
「俺が妄想に浸っていると言いたいのか」
「その通り」
「貴様!」
青年は掠れ声で叫び、大上段に刃を振り被って突っ込んだ。グレイブは刀を八相に構えると、青年の一撃に合わせて軽く刀を振り抜き、青年の剣をいとも容易く折ってしまった。茫然と立ち尽くす青年に、グレイブは刀の切っ先を突き付ける。
「都合の良い妄想に縋ってんじゃねえ! あぁ、そうだ。世界には不幸なんぞ腐るほどある! どうしようもねえ、どうにもできねえからこそ、少しでも今出来る事を続けてるんだろうが! きっといつか、今よりマシな明日が来ると信じてな!」
グレイブは声を荒らげる。過去と未来を繋ぐ“現在”から逃げようとする彼は、最も唾棄すべき存在だった。
「都合の良い妄想か」
青年は不意に肩を震わせ笑い始めた。頬を震わせ、彼は折れた切っ先を突き出す。
「……ああ、そうだ。わかっていたさ。だが、俺達が知覚出来るのは生きている時だけだ。死んでからの出来事なんてものは全て虚構だ!」
その眼を濁らせているのは恐怖だった。誰かに託し、舞台を降りる事への。
「だから俺が成し遂げなければ意味が無い。この血潮が巡っている間しか、世界に革命を成し遂げる事は出来ないんだよ! 無理でも無謀でも、何かに頼ってでも!」
青年は折れた剣を構えて飛び出す。しかし既に勝負は決していた。グレイブは擦れ違いざまに鋭く膝を蹴り抜き、その皿を砕く。地面にどさりと転がり込んだ青年は、小さく呻いた。
「……奴も、お前も、どうして虚構を現実だと信じられる?」
「俺の目に見えているもの全てが、今は墓の下に眠っている者達の手で創られているからだ。だから俺も、まだ居ない者のためにやれることをする。それだけだ」
青年はもはや語る言葉を持てなかった。片手でその顔を覆い、唇が白くなるほど噛み締める。刀を鞘に納め、グレイブはその腕を掴み上げる。
「そんな簡単な事も解らねえかよ」
●白む東の空
戦意を失った群れは皆ロープでまとめられ、逃げられないようになった。グレイブは広間の真ん中に焚き火を組むと、枯れ草を積んで火を灯す。白い煙がもうもうと立ち昇り始めた。
「この狼煙を合図としてヘーゼル伯の軍兵がお前達を連行するために駆けつける手筈になっている。到着には一刻ほど掛かるだろう。今のうちから運命を受け入れる支度をしておけ」
革命志望者達は何も応えない。そんな彼らの姿を一頻り眺め、アウレーリアは踵を返す。彼女の眼の先には、イヴに助け起こされるグノーシスの姿があった。彼は薄目を開いてアウレーリアを見上げる。
「終わったらしいね」
「ええ。最後まで私達に一杯食わせようとして……相変わらずの狼ぶりね」
「こうするしかなかったのさ」
グノーシスは肩を震わす。肩を竦めて見せたかったのだろうが、その動作すらもうままならない。
「後悔し通しの人生だったでしょうけどね。満足した?」
アウレーリアの問いかけに、狼はただ目を細める。
「少なくとも、君達の目の前に化けて出ることはないだろうね。死してただ去るのみさ」
「そう」
幾度となく火花を散らした果てに待っていた呆気ない幕切れ。投げつけようと思ってきた言葉が幾つも浮かんでは霧散し、やがてアウレーリアは溜め息を一つだけ溢した。
「まあ、いいわ。最期にそれならいい」
背を向けて立ち去るアウレーリアと擦れ違うように、レティシアが狼の許へ駆けてくる。彼女は狼の深い傷を見渡すと、迷わず治癒の光を当てた。しかし、どれだけエーテルを流し込んでも、開いた傷口は塞がらない。
「……どうして」
茫然とするレティシア。グノーシスはその手を押しとどめると、小さく首を振った。
「無駄だ。私はそもそも“人間”としての限界に達しているんだ。これより先は化け物になるか死ぬか、二つに一つだ。私は死ぬことを望むよ」
「そう、ですか」
沈痛に目を伏せるレティシア。グノーシスはイヴの手を離れてその場に座り込んだ。
「でも、少しは楽になったか」
薄紫色になる空を見上げる狼。レティシアは俯いたまま口を開く。
「貴方は過ちを犯しました。傷つけた人々への罪は、決して許されるものではないでしょう。……けれど、イヴ様のように救われた方も確かにいた」
「そうだろうか」
ふらふらと立ち上がったグノーシス。レティシアはその横顔をようやく見上げる。自らの首飾りを握りしめると、レティシアはおずおずと切り出した。
「……彼の姿をもう一度見せてくださって、ありがとうございます。私の幸福を願ってくださった事も、感謝しております」
「君には勝手に同情していたんだよ。自分ではないものに生かされるのは苦しいからね」
「確かに、ずっと誰かの意のまま生きてきたと思います。ですが……」
レティシアは手を開き、グノーシスに首飾りの先を差し出す。指輪が朝日を浴びて澄んだ輝きを放っていた。
「彼以外に、共に生きたいと、そう望む相手が出来たのです。叶うのならば、私はその方と共に幸福になりたいと思います」
「必ずそうしてくれたまえ。私はもう、誰の未練も掬い取ってやれないから」
グノーシスはそう言って髭を揺らす。レティシアは頷くと、そばに立つイヴの背中を押した。正面から向かい合う二人。狼が黙り込むと、イヴは杖を揺らして微笑んだ。
「安心してください。ミレナリアの使命は、私が継ぎます」
眼を見開いたグノーシス。その顔は次第に緩み、へらりと自嘲気味に笑った。
「そうか。……君は、強いな」
イヴとグノーシスのやり取りを見守っていたコルネも、彼の表情を見て相好を崩した。彼の正面に向き直ると、コルネは目を細める。
「私に言われたくはないかもしれませんが……貴方も不器用な人ですね、グノーシス」
「私は死人とばかり関わってきたからね」
グノーシスは砦の外に出ると、街道の彼方を見遣る。空が白み、パンを焼く煙が細く棚引いている。コルネがちらりと傍に眼を向けると、リディが二人の事を不安げに見守っていた。コルネはリディに目配せすると、再びグノーシスを見上げる。
「王に叛いた彼らは裁かれなければなりませんし、その願いが叶うことはないかもしれません。けれど、彼らの声を聴き、時間をかけてこの国を変えていくことは出来ると、私は思っています」
「それはきっと厳しい道だよ。君なんて、これから私の倍は生きるのだろうに」
「私は約束は守ります。人一倍記憶力もいいんですよ」
何世紀経ったとしても、色褪せる事なく心に留める。既にコルネは人の矩を越えぬ限度まで、その魂の形を変えていた。狼はそれを見透かしたのか、肩を竦める。
「それは頼もしいね」
彼がコルネから眼を逸らすと、ふとレピドと眼が合った。レピドはフードを脱ぐと、狼の目の前まで歩み寄る。
「アンタに会えて良かった」
狼が首を傾げると、レピドはバツが悪そうに髪を掻き上げた。
「都合がいいと言われそうだが……あの時アンタの術の力を借りて、過去の俺は今の俺に託してくれたんだと思う。その未練を、怒りを、痛みを、後悔を」
水底で対峙するもう一人の自分。その姿は今もはっきり焼き付いている。
「……そして望みを。結局、名前だけはどうにも思い出せないんだが……」
「それで良いんだ。君は、他ならぬ君であるべきだ」
グノーシスは遠い目をしてのっそりと首を振る。レピドは頷くと、懐から一冊の日記帳を取り出し彼に見せた。
「わかった。俺は二度と忘れないよ。そいつに託されたものも、これまで出会った人たちに託された思いも。まとめて抱えて、時には誰かに託しながら生きていく。……ありがとう」
「……君の最期が、満ち足りたものであることを願うよ」
レピドの額に手をかざし、彼は一頻り祈りを捧げる。それを終えた狼は、ふっと魂を吐き出した。彼は天を仰ぎ、そのまま草原に倒れ込む。コルネとレティシアは彼の死を見届けると、静かに頭を垂れる。
「安心して眠ってください。……貴方の望み、託されました」
「長い間、お疲れさまでした。心安らかに、お休みなさいませ」
私は幽霊だった。己の進むべき道を同胞と共に失って、同じ境遇の死霊達に同情して破滅を願ってしまった愚か者だった。
そんな私から何かを託されようという物好きがいるらしい。ならば願おう。誰もが満足して終わりの迎える事が出来る世界を。死霊術が無用になる世界を。喩えそんな世界が無理だとしても、それを目指してくれるだけで、私はきっと報われるから。
おわり
マスターコメント
ロングシナリオ難しい 報酬:標準7 / 6〜10人
2024年01月02日 00時40分08秒 公開
参加者
コルネリウス・アーラ
ルアンナ・ミュラー
レティシア・R・クラティアス
- イェレミース トゥラ リディリディ
グレイブ・ヤード
アウレーリア・フォン・ネーベルベルク
レピド・クロサイト
相談掲示板
ウォーリアのコルネリウスです、よろしくお願いしますね。 >方針 個人的には最期にグノーシスと少しでも話がしたい、と思っています…ので、早期対処が出来たら良いなと。 彼の望みも汲んであげたいです。 >イヴさん イヴさんがシルヴィアを使えるようにするのでしたら、グノーシスとイヴさんを護る必要がありますね。 >「幸せの国」 「戦闘によって一人の死傷者も出さない」ことも目標の1つですから、中核メンバーは殺さずに倒し、捕縛することになると思いますが構成員はどうしましょう? 人数も多いので全員逃走阻止するのであれば、呼びかけなどが必要になってくるかと思いますが。
ヒーラー、グレイブ・ヤードです。 >死傷者を出さない 死ななければというか心を折る方面で行くか あるいは即時回復のできる手段を準備しておくか、とかですかね 末端まで逃げないようにするのは・・・出入口を抑えるための人員がいればまだ、と思います。 聞く耳を強制的に持たせる意味でですが
レピド・クロサイト、シーフだ。よろしく頼む。 >方針 早期対処を狙うのには賛成だ。 >死傷者を出さない 中核の連中は拘束して猿轡、みたいな感じになるだろうな。 末端は40人もいるからな……威圧感辺りで脅してその場に留まらせるとか、出入り口を人員ないしオブジェクト発生系の魔法で塞いでしまう、とか? イヴとグノーシスは二人ともその場から動かせそうにない以上、その場でなんとか護らないといけない感じか。
No.4
キャスターのリディリディです。 遅くなってしまってすみません。 その・・・、よろしくお願いします。 >オブジェクト アイアンウォールを召喚すれば視覚的にも出ることができないといった印象を与えられそうですね。それなら私が設置しましょうか。 あ、でも追い詰められてパニックになられると怖いですが・・・。 >死傷者を出さない 説得は時間がかかりそうですし、まずは四肢や武器を狙うといった形にしようと思います。
>末端構成員 そうですね、塞いでパニックになるのは少し懸念があります。人数が人数ですから、物理的に逃走を防ぐ方法以外で取り逃さないというのもやはり少々難しそうですね…。 熱望は冷えているようですから、カリスマと話術などで言いくるめが出来れば平和的に留めさせられそうですが、この手の呼び掛けは私は少々不得手ですので悩みどころです。 >個人行動 いまのところはイブさんがシルヴィアを動かす間、護るように動けたらと考えています。 その間グノーシスも無防備になるので、彼を護って頂ける方もいらっしゃると助かります。
まぁ呼びかけ程度はやるつもりではありますが、少なくてもグノーシス抜きで組織が維持できるだけの二番手もいなさそうですし、このままの活動に不安を煽る程度はできますよ。
キャスター、アウレーリアです。宜しく。 多数を同時に非殺傷で無力化するのは厳しいですね。 移動妨害と言葉による鎮静化を組み合わせるしかなさそうでしょうか。演説を持って行こうと思いますので、末端構成員はそれでなんとか。 中核メンバーには攻撃判定のあるBSスキルを当てても大丈夫でしょうか……死者は出さない心算ですが、死”傷”者と言われるとかなり厳しい制約になりますので。 それでも良ければ、加減しつつ中核の無力化・拘束を担当したいと思います。
ごきげんよう。 ヒーラーのレティシア・レインフィールと申します。 皆様、よろしくお願い致します。 基本的には回復を行う形となりそうなのですけれど グノーシス様の護衛役が不在ですので僭越ながら私が担当致しますね。 末端構成員の皆様の逃走も気掛かりではございますが 状況次第では中核メンバーに攻撃を向けられる可能性もございますので そちらについてもある程度は警戒された方がよろしいかもしれません。