【聖祭】祈りを空へ

夜月天音

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シナリオID:3376

オープニング

 例年通りにロスガリア大陸に聖霊節がやって来た。
 ただし、いつもと違うのは戦時下のため、皆が皆心の底から楽しめないという事。
 そんな中、芸術家や職人達が多く住まう辺境都市群のヴェルクリエで芸術家の卵達がちょっとした催しを行っていた。

 満月と星々が煌めく夜空の下、
「あたし達が紙で作ったスカイランタンに祈りや願い事を書いて、中にある蝋燭に火をつけて空に飛ばしてみませんか? 書く物と火をつける物は貸しますよ!」
「祈りはきっと届くよ! 空はここと戦場と繋がっているから!」
「芸術家の卵の僕達の作品発表に付き合うつもりで、いかがですか?」
 芸術家の卵達がテラリウムのランタンが照らす通りに立ち、紙製の小さなランタンを配っていた。
 彼らの話を聞いた人々は、
「どうか、彼が無事に戻ってきますように」
「ロスガリアが平和になりますように」
「みんなが生きて帰ってきますように」
 祈りや願いを書いて、蝋燭に火を灯して空へと放った。

解説

 芸術家の卵達の作品発表に付き合い、スカイランタンに祈りや願い事を書いて空に飛ばして下さい。  また、スカイランタンは飛ばさず、見学をするだけでも構いません。  活動時間は夜になります。 【スカイランタンについて】 芸術家の卵達が紙で作った小さなランタンです。中には蝋燭があり、紙の部分に祈りや願い事を書いて点灯して熱気球のように空へ放って下さい。 筆記用具と点火用の道具は彼らから借りる事が出来ます。 ※こういう冒険者や住人と交流したいなど、希望などがありましたら、プレイングに記載をお願いします。 ※公式NPCとは交流出来ません。

マスターより

 オープニングを読んで頂き、ありがとうございます。  ロスガリア大陸の平和を祈る静かな聖霊節を過ごしてみませんか。

リプレイ

 例年通りにロスガリア大陸に聖霊節が訪れるものの、戦時下のため、しめやかなものであった。辺境都市群のヴェルクリエにおいても同様であった。
 ただ、土地柄故か芸術家の卵達が自分達が作ったスカイランタンに祈りを書いて空へ飛ばすというちょっとした催しを始めていた。
 願いを背負ったスカイランタンは、夜空を彩り幻想的な光景を生み出した。

「願い事……ですか」
 ヴィルヘルミナは渡されたスカイランタンを見つめながら、書くべき物は無いかと頭を巡らし始めた。
(まずは生きて帰らねば始まらないと……流石に野暮な気がしますが……あの子と約束しましたからね)
 真っ先に浮かんだのは、大切な人の顔と交わした言葉の数々と結んだ約束。
「……ずっと一緒にいる、と」
 約束を口にしたヴィルヘルミナは、そっと首に巻いている白い薔薇を彩ったチョーカー『白き祝福』を宝物のように優しく触れた。
(願いがあるとするならそれを果たす事ですが、どちらかというと願掛けというよりは……)
 口にしておきながら願い事にしては少し違うと感じ、
「生きて戻る決意表明の方が正しいですね。これは……」
 茶目を含んだ悪戯っ子のような様子を見せる。
(冒険者の私は、きっと此度の出来事では死地に赴く事に……もしもの事もあり得るでしょう。かといって、座して受け入れるほど往生際が良い訳でもない……結んだ約束を果たすためにも……)
 仕事の危険さから万が一を想像するのは容易いため、思いついた願い事を叶えるのは簡単ではないと理解しているものの、他の願い事は思いつかない。
 結果、
「……私の願いは……」
 ヴィルヘルミナは、スカイランタンに真っ先に胸の奥に強く浮かんだ願い事を綴った。
「……書けました。やはり、私の願いはこれしかありませんね」
 書き終えたヴィルヘルミナは願い事を確認してから、
「……皆さんはどんな事を書くのか……」
 周囲をきょろり。
 ふと、
「あ、あれはコルネリウスさん……参加していたのですね」
 スカイランタンに熱心に願い事を綴る顔見知りのエルフの女性を発見。
「……気になりますが……」
 顔見知りや他の多くの人達の願い事を書く様に興味が湧くものの、
「聞くのは流石に何なので思いを馳せる程度に留めましょう」
 気軽に問うものではないと弁えて胸の内に留め、自身のスカイランタンを点火して空へと放った。
「…………綺麗」
 ヴィルヘルミナは、闇夜に浮かび遠ざかる幾つもの小さな灯りの幻想的な光景に感嘆した。
「……1つ1つに願い事が込められて」
 ヴィルヘルミナは光景の美しさへの感嘆が落ち着くと共に、全てのスカイランタンに何かしらの願いが込められている事に気付く。
 同時に、
(……どうか、願いが叶いますように)
 胸中で自分と皆の願いが叶う事を思うのだった。

「……願い事ですか」
 コルネリウス・アーラは貰ったスカイランタンを見つめ、
(フィルエスの実家に居る家族の平和……? 幽界樹の調査やエーテルの研究で忙しく飛び回る父が健勝でいること? 大切に思うひとが歩む道を、困難を、どうか無事切り拓けるように? それとも……)
 真っ先に思いつくのは、親しき者達の無事だ。
「あぁ、願い事が尽きません……書き切れないので絞りませんと……。どうしましょう」
 書き切れないほど生まれる願い事に困ってしまい、スカイランタンに筆を向けた手が止まってしまう。
「……おじさまは」
 連れの事が気になり隣をちらりと見るが、
「邪魔はしない方が良さそうですね」
 スカイランタンを見つめ考え込んでいる様子から声を掛ける事をやめ、
「何を書きましょうか」
 自身の願い事に向き直るも一向に思いつかず、
(この3年あまり、色んな出来事がありましたね。沢山の人と出会い、多くのことに挑戦し、学び、背中を押してもらって……自分自身の想いにも、ようやく向き合えるようになって……同胞を、友人を、部下を、好敵手を、喪くした事は辛く悲しいことだけど……)
 これまでの出来事を振り返る事にした。出会いだけでなく、沢山の別れからも得たきっかけと覚悟を。
 そして、
(……その経験の中で、強く願ったことがある。長命種の私は、否が応でもいつか皆を見送る日が来る。ならば、私の願いは……)
 幸も不幸も全てを記憶する為の力『永遠の枷』を持つからこその逃れられぬ宿命を噛み締め、悩んでいた筆を滑らせる。
(せめて見送るその瞬間は、私も笑顔でいたいから。私の大切な人たちが、皆、健勝でありますように。共に生きて、この動乱を乗り越えられるように)
 願い事は決まった。
 記す願いは、
「いつか来る『その日』まで、皆が笑っていられるように」
 短いが込める想いはあつく重い。
 書き終えた所で、
「おじさま、書けましたか? 一緒に空に飛ばしませんか?」
 コルネリウスは隣に声を掛けた。

「さて、何を書こうかな」
 ディレイン・オールドケイジはスカイランタンを見つめながら、記す願い事に頭を巡らす。
(一番に思いつくのは、彼らが楽しく元気でいてくれることかな……そのためにできることはできる限りしたい……今回の参加もその一環で……)
 真っ先に思いついたのは友人の事。隣で願い事を熟考するコルネリウスをチラリ。
「……友人たちとの楽しい日々ができるだけ長く続くように、と」
 ディレインは、迷う事無く願い事を綴った。
(無茶をする者が多くてこっちの気苦労は絶えないけど……)
 綴った願い事を見ながら無茶しがちな友人達の顔を思い浮かべ、重い溜息をこぼした。しょっちゅう胃薬を使っているだけに。
「もう1つはこれしかないかな」
 ディレインの願い事は1つではない。
「……眠りについたひとたちが安らかであるように」
 命を大切に思うが故の願い。
(救えなかった時や看取った時……あの時に感じた無力感はまだ……彼らの眠りが安らかであって欲しい)
 有する『医療・薬学』の心得を活かしたりと医者として活動してきた中で抱える事になった無力感はいまだに拭い切れず、胸の奥に澱となって溜まっている。ただ、この考えはなるべく人には見せないようにしているが。
「……書けた」
 ディレインが願いを書き終えた所で、コルネリウスに声を掛けられた。
「あぁ、書けたよ。もちろん、一緒に飛ばそう」
 ディレインは友人の誘いに快く乗った。
 という事で、コルネリウスとディレインは、共に願いを背負ったスカイランタンを夜空へ飛ばした。

「……綺麗ですね」
「そうだね」
 スカイランタンを飛ばし終えたコルネリウスとディレインは、揃ってベンチに座り、幻想的な夜空を見学していた。
(無茶しないとは言い切れないけど、彼女は鉄壁の防御を誇るのでひとまず安心、というか後衛としてはかなり頼りになる前衛で、何より種族的に多くの知人を見送るだろう彼女は、精神面の方が心配かな。強くて堅いものは、どうしても折れやすいから)
 先程綴った願い事の余韻なのか、ディレインは夜空から隣に座る友人に視線を動かした。
「おじさま、私は壁エルフのお姉さんですよ。絶対に倒れませんから、安心してください」
 動かない表情の奥にある心配げな気配に気付いたコルネリウスは、ディレインの不安を払拭しようとドヤ顔で言った。
「そう言われたら、安心するしかないね」
 『洞察』を働かせ、発言が心底の物だと知ったディレインは心配を引っ込め、
「最近の事なんだけど……」
 場の空気を変えようと当たり障りのない話を始めた。
「そう言えば……」
 話に乗ったコルネリウスは、共通の友人がやらかした話を口走った。
 他には少しだけ未来を想像した話など、他愛のない話をするも願い事の内容に関しては、互いに気遣ってか口にする事は無かった。
 ただ、お喋りがひと段落した所で、
「あっ」
 忘れ物でもあったのか、慌てたようにコルネリウスが勢いよくベンチから立ち上がった。
「コルネちゃん、どうしたんだい?」
 驚いたディレインは聞き返した。
「あともう1つ、ちゃんと書かなくちゃいけない願い事がありました」
 コルネリウスは人差し指を立て、もったいぶって言ったと思ったら、
「おじさまが心穏やかに過ごせますように、と」
 にっこりと穏やかな笑顔をディレインに投げた。
「自分ももうひとつランタン飛ばそうかな」
 ディレインがコルネリウスに続くようにゆるりと立ち上がった。
「コルネちゃんが長い道のりを笑って過ごせるように、と」
 お喋りに興じる内に抱いたコルネリウスに対する心配事を払拭するための願い。
 コルネリウスとディレインは、追加の願いを綴ったスカイランタンを仲良く夜空に飛ばした。

「とても美しい光景ですわね……」
 スカイランタンに彩られた夜空の美しさに、ネーヴェ・グラヌローザの呟きがほろりと零れ落ちる。
「……懐かしいなぁ」
 風景の美しさよりも懐かしさが先行するアルフィー・リッパー。
「……?」
 ネーヴェが不思議そうな顔で、こてんと首を傾げた。
(…………可愛いな)
 アルフィーは懸想する人の可愛さに心が掴まれつつも、
「あぁ、前にもこうやってランタンを飛ばすイベントに参加したことがあってさ。俺の大切な人たちは皆なくなって空の上に行っちゃったけど、こうやってランタンを飛ばしたら思いが伝わる気がして。その時に仲間の事とか、冒険の事とか願い事と一緒に思いを込めて空に飛ばしてきたんだ」
 答えるべき事はしっかりと答える。昨日の事のように鮮やかに思い出せる。
「……素敵ですわ」
 ネーヴェは、アルフィーの話に共感しふんわりと笑いつつ、
(……思い……私(わたくし)が伝えたい思いは……)
 手にあるスカイランタンに視線を向け、書く願い事に頭を巡らし始めた。
 その時だ。
「だから、今日はネーヴェの事を俺の家族たちに紹介したいんだけどいいかな?」
 アルフィーの思いがけない言葉が掛けられたのは。
「……わ、私をですか?」
 あまりの不測の事態にネーヴェはいささか驚き、こぼれる声が僅かに震えた。
「その、大切な人だって」
 反応を伺うようにそろりと言うアルフィー。
 その言葉にネーヴェはどきりと心臓を跳ねさせ、
「大切……ええ、勿論ですわ。とても光栄です」
 一瞬、言葉に詰まるも何とかいつものように平静を装って笑顔で返した。
「……ネーヴェ」
 アルフィーは可愛らしい笑顔に僅かに見惚れてしまうも、
「俺達も願い事を書こうか」
 何とか奥に隠し、願いを書く事を促した。
「そ、そうですわね」
 ネーヴェも乗った。
 という事で、スカイランタンと睨めっこを始めた2人の頭に真っ先に浮かんだのは願い事云々ではなく、甘くももどかしい先程のやり取り。
(……『大切な人』……アルフィーさんに他意は無い。純粋な気持ちでああ仰って下さったはず……何より素直に、とても嬉しかった……なのに言葉に詰まってしまって……彼が気付いていなければいいのですが……)
 恋情を抱く相手に『大切な人』と思われている事が嬉しかったり自分の情けない反応に恥ずかしくなったりと可愛らしいネーヴェ。
(俺はずるいな……あそこで、友達としてなのか、恋愛としての好きの大切なのか分からないようにぼかして、『大切な人』だなんて……)
 踏み出せなかった自分の狡さに深い溜息のアルフィー。
(……あの言葉の真意をいま、聞いてはいけない。もし聞いてしまって、今のこの、穏やかな時間が壊れてしまうのは……とても、怖いことだもの)
 ネーヴェは、隣で書いている彼の横顔をちらりと見る。
(……恋は幸せな物だって思っていた、ネーヴェの事好きってわかってから、彼女と一緒にいるのは嬉しくて楽しくて幸せで、でももし好きって伝えて、彼女がそういう気持ちがなかったら友達としてもいられなくなるんじゃないかって思ったらすごく怖くて……)
 アルフィーは、スカイランタンを通して自分の思いと向き合う。
 互いに愛しさ故に恐れを抱き、互いの気持ちを確かめないでいる2人。だが、端から見るとしっかりとそう見えたりするのだが。
(ロスガリアの平和や大切な妹と親友と親しい人たちの安寧はいつも想って願っていることだから……)
 ネーヴェの脳裏をよぎったのはいつも願っている事。
 だが今回綴るのは、
(……だから、今この瞬間は、彼のことだけを願っても許されるでしょうか……)
 愛しい人を想う願い。願わずにはいられない願い。
「アルフィーさんの幸いと、共に生きて帰れるように」
 ネーヴェは小さな呟きと共にそっとスカイライタンに願いを書いた。
(大切な人が幸せであるように、できればその隣に、自分も入れるように)
 自分と見つめ合った末にアルフィーが執着したのは、やはり愛しい人の隣。
「決戦で、ネーヴェも俺も生き残れるように願いを込めよう」
 アルフィーは、思いを込めるようにしっかりとスカイランタンに願いを書いた。
 丁度書き終えた所で、
「アルフィーさん、書けましたか?」
 ネーヴェが訊ねて来た。
「あぁ、書けたよ。ただ、欲張りかもしれないけど……」
 と言ってアルフィーは自身の願い事を見せてから、空へとスカイランタンを飛ばした。
「まあ!」
 アルフィーの願い事を見た瞬間、ネーヴェは驚きの一声。
「ネーヴェ?」
 アルフィーが不思議そうな顔をすると、
「……同じですわ」
 と言って、ネーヴェはスカイランタンに書いた自身の願い事を見せた。
「本当だ。凄い偶然だ」
 見た瞬間、アルフィーは驚いた。
(……ネーヴェと同じ願い、か……)
 同時に、愛しい人と願いが同じだったという嬉しさが胸の奥を満たしていく。
「欲張りなんて事はありませんわ。互いが同じ願いをするんですもの、きっと叶うはずです……いいえ、叶うように、力を尽くしますわ」
 アルフィーの胸中なんぞ知らぬネーヴェは、微笑んでスカイランタンをそっと夜空へ向けて手放した。
(とーと、かーか、じいちゃん、ルーシェ。今となりにいる人が、今俺が大好きな人だよ)
 アルフィーは、空の向こうの家族や恩人に愛する人を紹介しつつ、スカイランタンを飛ばすネーヴェの横顔を盗み見る。
(……綺麗だ)
 アルフィーは、ランタンの明かりに照らされたネーヴェの美しさに魅了され、
「……うん、綺麗だ」
 胸中の言葉に返すように小さくこぼした。
「……もうあんなに遠くまで飛んでいますわよ」
 何も知らぬネーヴェは、幻想的な光景に素直にはしゃいでいた。

マスターコメント

 参加者の皆様、参加して頂き大変ありがとうございました。そして、お疲れさまでした。  スカイランタンに思い思いに願いを綴り飛ばして頂いたりお喋りや思いを馳せたりと、芸術家の卵達の催しを盛り上げて頂き、ありがとうございました。  ほんの僅かでも楽しんで頂ければ、幸いです。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準5 / 4〜8人

2023年12月30日 21時44分36秒 公開

大成功

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0