医餓
革酎
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シナリオID:3365
オープニング
リーンエス王国南西部にはかつて、ドルコフ・アルゼマン侯爵を筆頭とする貴族派貴族の一大派閥が存在していた。
しかしながら、アルゼマン侯爵とその右腕たる寄り子貴族カムレオ・ジルクック伯爵は、リーンエス王家と西方辺境伯ルーヴェン・アクファリテに対する反逆の罪で多くの領地が没収となった。そして直接加担しなかった同派の貴族らはそれぞれ寄り親を変えて、辛うじてその領地を保全することが出来た。
それら旧アルゼマン侯爵の寄り子貴族のうち、クレビオン伯爵家はアクファリテ西方辺境伯家に寄り親を変えるという大胆な策で自領保全に大いなる後ろ盾を得た成功例のひとつとなり、他の旧アルゼマン侯爵家寄り子貴族達から羨望の眼差しを受けるに至っている。
しかしクレビオン伯爵家の強みは、寄り親の威光だけにとどまらない。当家は代々医療の血筋であり、受け継がれてきた技術で多くの顧客(大半は他家の貴族や豪商などだが)から多額の報酬を得ることで、その辣腕ぶりを大いに発揮していた。
現当主ウォーレス・クレビオン伯爵も、貴族でありながらいっぱしの医療技術の持ち主として周辺にその名を知られている人物である。決して凄腕という訳ではないが、彼の医術は大変に重宝されてきた。
ところがウォーレスはここ最近、余り表情が冴えない。というのも、彼はひとつの危惧を抱く様になっていたからだ。
(冒険者の中には、決して無視出来ぬ程の高い医療技術を持つ者が現れたと聞く……このままでは、拙い)
初冬の或る日。
ウォーレスは自邸の執務室でひとり、面に渋い色を滲ませて天井を見上げていた。
高度医療技術を誇る冒険者の出現という噂が事実であれば、顧客離れが生じる恐れがあった。否、噂が出回り始めた時点から既に、お得意様たる幾つかの貴族家との連絡が疎遠になり始めている。
(この時流に対抗するには、我が家の技術を更なる高みに持っていかなければならないな)
その為ならば自領内の中間層以下の領民を利用することも視野に入れるべきだ。そもそも、医療報酬もまともに払えぬ市井民など、少々犠牲になったところで痛くも痒くもないだろう。
症例の研究や医療技術向上の為の練習台、或いは治療法の確立や実験中試験薬の完成など、やるべきことは多い。時間を惜しんでいる余裕は無かった。
(あの女に、また手を借りるか)
ウォーレスが思い浮かべた女とは、メドゥの指先幹部『緑の人差し指』ラネンターカムであった。実はウォーレスに、西方辺境伯家への寄り子移籍を進めたのも、彼女であった。その先見の明と数百年を生きた知恵者の力を借りれば、事が上手く運ぶかも知れない。
ラネンターカムはサキスロームと呼ばれる超微細型魔獣による疫病伝播について詳しかった為か、クレビオン伯爵家の医療にも少なからず関心を寄せていた。
あの女ならば今度もまた、手を貸してくれるだろう。
●男の直感
西方辺境伯領都の東門に、十数名の農民が駆け込んできた。
聞けば、彼らはクレビオン伯爵領の下層領民という話であった。この者達はいずれも領主ウォーレス・クレビオン伯爵の暴虐ぶりを訴え、寄り親たるアクファリテ西方辺境伯に救いを求めたいと申し入れてきた。
現西方辺境伯当主ルーヴェン・アクファリテは、彼らに直接応対した護兵団長ダルヴィン・ケルソーを執務室に呼び、逃げ込んできたクレビオン伯爵領民らの訴えの内容を説明させた。
「医療の実験台?」
「はい。彼らの家族が突然奇妙な病に罹患したり、原因不明の負傷で動けなくなったところを、いきなりクレビオン伯爵家の私兵が連れ去っていったとのことです。名目は治療の為ということですが、どうも事実は異なり、かなり非道な真似に手を出しているのだとか」
命からがらクレビオン伯爵邸から逃げ出した領民のひとりが、自身の家族に領主の非道について暴露したことから、今回の問題が発覚したらしい。
治療の名を借りた人体実験――それが、ダルヴィンが示した可能性であった。
実のところ、ルーヴェンもクレビオン伯爵家を自身の寄り子に迎える際、極秘裏に周辺調査を進めていた。前の寄り親があのアルゼマン侯爵だからということもあり、少々警戒していたのである。
「妙にきな臭ぇ家格だとは思ってたが、結局尻尾出しやがったってぇ訳か」
しかし今回ルーヴェンが何より関心を寄せたのは、連れ去られた領民を襲った直前の病や怪我、という面であった。余りに都合の良いタイミングであろう。
何かしらの混沌魔術が使われたケースも考えられる。
「メドゥが絡んでいる可能性もありますね」
「俺の直感だが……またラネンターカムの奴じゃねぇのか」
ルーヴェンの渋い表情に、ダルヴィンは曖昧に小首を傾げるばかりである。流石にそこまでの情報は無い。
が、ルーヴェンの決断は早かった。
「どっちにしろ、そんな奴を放っておいたらこっちの監督問題にも関わってくる。かといって、うちが直接動くには根拠が足りねぇ……冒険者を集めろ」
「彼らに、決定的な証拠を掴ませるのですね」
ダルヴィンは腰を上げて執務室を辞去しようとしたが、ルーヴェンの声がその背中を追いかけてきた。
「決定打が出たら、その場で実力行使に及んでも構わねぇ。俺の代理執行書を持たせておけ」
承知致しました――肩越しに一礼したダルヴィンは、その足で冒険者ギルドへと向かった。
解説
マスターより
リプレイ
クレビオン伯爵領都内、某所。
どちらかといえば下町の、寂れた通りに面する廃屋の一階に、数人の冒険者達が顔を揃えていた。
「やぁ、お帰り。どうだった?」
蝋燭一本の薄暗い室内に入室してきたコルネリウス・アーラとルアンナ・ミュラーを、ディレイン・オールドケイジが出迎えた。
ふたりは揃って、浮かない表情を滲ませていた。
「連れ去られた領民のご家族から拉致時の状況は聞き出せましたが、病状や負傷に関する詳しい情報に関しては矢張り、何も分からない様でした」
コルネリウスは、溜息交じりにかぶりを振った。
領民は医療にはまるで素人だ。病や傷に関しても、簡単な症状や見た目の負傷具合程度は説明出来るが、直接手がかりに繋がる知見が得られないのは無理からぬ話であった。
一方、ルアンナは眉間に皺を寄せながらも手書きのメモを卓上に広げた。
「突然奇妙な病に罹患したとか、原因不明の傷を負ったとか、いずれも明らかに人為的な形跡が見受けられますけど、その原因には皆さん全く思い当たる節が無かったそうです」
伯爵側から食糧や水の支給等も無かった、という話である。
しかし、病や負傷で動けなくなった領民のもとへは、半日を待たずして伯爵私兵が踏み込んできたという証言から考えれば、予め何かを仕込んでいたことは間違い無さそうだ。
「西方辺境伯のところに逃げ込んできた領民達も、発症や負傷直前には、特に変わったことは無かったっていってたわね」
ディレインの傍らでロゼットが宙空の一点を見つめ、記憶を手繰る様に言葉を繋いだ。
敵はどうやら、相当に巧妙な方法で領民に罠を仕掛け、そして速攻の勢いで連れ去っている。所業は非道ながら、その戦術は見事なものであった。
単なる聞き込みだけでは情報収集には限界があるのかも知れない――そんな空気が漂い始めた中で、ディレインだけは様子が違った。彼は、その卓越した医療知識をフルに活用し、何が起きたのかをある程度推測するところまで達していた。
「まず病だけど、住民間で流行する伝染性のものじゃなく、明らかに感染源となるものがありそうなものばかりだったよ。恐らく鼠の死骸や、汚泥、糞尿といった不潔なものを水や食料に混ぜ込んでるだろうね」
それらは単なる食中毒に留まらず、様々な悪性の病を引き起こす。罹患住民の家族や友人達からの証言からも間違いないだろう。
これまでのところ発症者や負傷者は全て伯爵私兵に連れ去られており、実際の診察は叶わなかったが、ディレインは己の推測に自信を持っている。尤も、領内の商店では薬品や薬草の類が一切扱われていないのは想定外だった。クレビオン伯爵が医療関係の全てを掌握する為か、それらの品々の売買を領内では一切禁じているとの話だった。
「このまま聞き込みを続けていても、恐らく証拠を得るには至らないわね……傷の方は?」
ロゼットの問いに対し、コルネリウスは漠然と小首を傾げるばかりだが、ルアンナは違った。曰く、魔力を遠隔から叩きつける系統の攻撃魔法による打撃や斬撃に近しい形跡が視られた、というのである。
「魔法攻撃となると、私兵ではなく、別の誰かが協力している可能性がありますね」
当初は伯爵私兵のみが暗躍していると推測していたルアンナだったが、その推測は早々に覆された。敵側には思った以上に、厄介な存在が関わっているかも知れない。
「そうね……例えば、ラネンターカムとか」
ロゼットのひと言に、他の三人は一様に渋い表情を浮かべた。あり得ない話ではなかった。
●掴んだ手がかり
ジュスト・ヴェルジーとローザリカ・L・ディオールは、クレビオン伯爵領都に拠点を置く、ある豪商宅を訪問していた。
幸運にも、件の豪商はローザリカの商人としての伝手からその存在を知り得ることが出来た。そうしてふたりは西方辺境伯の代理執行書をちらつかせ、半ば強引に面会を実現させたのである。
老齢の豪商は一気に青ざめた。西方辺境伯が動き出したことを知った上でのこの反応ということは即ち、彼がクレビオン伯爵の悪行について何らかの事情を知っていることを雄弁に物語っている。
この男を落とせば突破口が開ける――ジュストとローザリカは一気に突き崩す姿勢で臨んだ。
「伯の悪事が公のものとなり、王家が介入してきた場合……知らずに取引していたとしても、貴殿の商会も無事では済まないでしょう。協力して貰えるなら、見返りとして瑕疵がつかないよう口添えすることも吝かではありませんが」
ジュストのこの脅しは効果覿面だった。彼の医療系貴族としての面が、目の前の男に危機感を抱かせるには十分な材料として機能している。
そしてローザリカが、更に追い打ちをかける様に畳み掛けた。
「沈みゆく船と命運を共にするか、僕達に協力して商会の未来を切り開くか……どちらに利があるかは明白だと思うけどね」
このひと言が、決定打となった。豪商は遂に口を割り、クレビオン伯爵が領民を連れ去ってゆく先についての情報を喋り出した。
曰く、病を患った者は伯爵邸内へ、そして負傷者は私兵寮へと連れ去られるらしい。双方とも同じ敷地内にあるが、警備体制は伯爵邸の方が堅牢だという話であった。
そして丁度同じ頃、領民に扮して病に罹患した風を装っているハヤト=ガラン=ヴォルファングが、他の領民達と共に今まさに、伯爵私兵の馬車に乗せられて伯爵邸へ連れ込まれようとしていた。
(全く……王国貴族派のお貴族様ってなぁ、まともな奴は居ねぇのかよ……)
内心でボヤきつつも、ハヤトは馬車道の向こう側へと視線を走らせた。姿は見えないが、レピド・クロサイトが密かに並走している筈である。
ハヤトや他の領民を乗せた馬車はやがて、伯爵邸裏手の大きな離れの前で停車した。どうやらここが、実験の場となっているらしい。
その様子を、同じく足を止めたレピドが遠巻きに眺めていた。
(……毒は時として薬にもなるが、今回は医者が毒と化したか)
レピドはハヤトが自力で脱出するであろうと信じ、自らは仲間のもとへ引き返すことにした。ここから先はクレビオン伯爵の身柄拘束と同時に、拉致された領民の救出も並行させなければならない。とてもではないが、ふたりだけでは手が足りないだろう。
幸い、ここから臨時本拠たる廃屋までは、レピドの足なら三十分とかからない。今夜には全員で突入を仕掛けることが出来るだろう。
だが離脱する際、レピドは伯爵邸内に異様な空気を察知した。
人間以外の何かが潜んでいる。それも複数だ。恐らく敵兵力であろうが、この感覚は過去にも察知したことがあった。
(アンデッドか)
レピドは半ば直感的に、そう結論付けた。
となれば、最早猶予は無い。実験台にされた上に命を落とした領民が、死霊術の餌食となっている可能性も十分に考えられた。
どうやらクレビオン伯爵という人物は、想像以上に非道な輩だと見て良さそうだった。
●突入
その日の夜――。
クレビオン伯爵邸の敷地内は、複数対複数の激しい戦闘音に包まれた。
「私達は西方辺境伯の代理よ! 投降しなさい!」
開戦直後、ロゼットが声高に叫ぶと、伯爵私兵に動揺が走った。彼らは確かにクレビオン伯爵の子飼いの兵力だが、更にその上位権力者たる西方辺境伯の代理執行書がロゼットの手で堂々と提示されたことで、保身に走りたいという恐怖感が生じたのであろう。
だがその直後、思わぬ事態が生じた。
敷地内の中庭方面から、獰猛な勢いで駆け出してくる集団が冒険者のみならず、伯爵私兵に対しても容赦無く襲い掛かってきたのである。
「まさか……吸血屍!」
コルネリウスは咄嗟に悟った。このアンデッド共はいずれも実験台にされた領民の成れの果てと見て良さそうだが、それよりも問題なのは吸血屍を誰が製造したのか、だ。
(私が知る限り、現時点で吸血屍を生み出すことが出来るのは……!)
半ば、コルネリウスは確信していた。今回の一件、裏でメドゥの指先幹部『緑の人差し指』ラネンターカムが絡んでいる。であれば、領民達に襲い掛かった原因不明の負傷の原因についても推測がつく。
つまりはあの女吸血鬼が魔術的な遠隔攻撃で、領民に凶器無き傷を負わせていたのだろう。
「領民は、傷つけさせない!」
コルネリウスが私兵と吸血屍の双方を相手取っている間に、ローザリカが領民の救出に当たった。勿論、彼女ひとりでは到底手が廻らない為、ハヤトとロゼット、レピドといった面々もアンデッドの群れから守りつつ、領民達の脱出に全力を注いだ。
「俺達が守ってやるから、全力で走れ!」
ハヤトの呼びかけを受けて、救出された領民達は恐怖に顔を引き攣らせながらも必死に脱出してゆく。
「……可哀そうに……せめて安らかに眠って頂戴」
ロゼットは、アンデッドと化した領民達に憐れみを覚えつつ、しかし全力を以て祭棍を振るった。彼らを鎮魂する為には、吸血屍としての亡骸を沈黙させなければならない。
一方ディレインとジュスト、そしてルアンナの三人はウォーレス・クレビオン伯爵の身柄確保へと動いた。
伯爵邸内へと突入したところで何人かの伯爵私兵と遭遇したが、盾役のディレインが相手の攻撃を捌き、その間にルアンナとジュストが攻撃魔法を叩き込むという連携で難無く撃破した。
やがて、三人は伯爵邸裏手の離れへと突入した。
そこには、惨たらしい人体実験の現状が生々しく残されている。これをこのまま現場保全すれば、決定的な証拠となるだろう。
だがそれも、クレビオン伯爵を無事に確保出来ればの話だ。ここで取り逃がせば、クレビオン伯爵は証拠隠滅を図るだろう。それだけは絶対に阻止しなければならない。
「……そこか」
物陰に隠れている人影を、ジュストが最初に発見した。ジュスト自身は魔術師に過ぎないが、相手も隠蔽の素人だったことが幸いした。
そしてルアンナとディレインが引きずり出すと、白衣姿の壮年男性が姿を現した。
クレビオン家現当主、ウォーレス・クレビオンそのひとであった。
「医療は身分や種族に関わらず、そこにある命をただ救う為のもの。政や金の為にあるわけじゃない」
「な、何を知った風な口を……!」
ディレインの淡々とした声に対し、クレビオン伯爵は奥歯を噛み鳴らした。若造が偉そうな口を叩くな、といわんばかりの醜悪な表情だった。
その傍らではジュストが、小さく肩を竦めた。
「俺が継ぐ予定のケレス家も医療系貴族。優秀な治療師をひとり喪うのは惜しいが、後は任せてくれ給え」
流石にこのひと言は効いたらしく、クレビオン伯爵はがっくりと項垂れた。
●力量差
コルネリウスは、はっと息を呑んで振り向いた。
ロゼットやレピドの協力もあって、何とか吸血屍を全て片付けたところで異様な気配が背後に出現したのである。
見ると、中庭の一角に病的に白い肌の美女が艶然と佇んでいた。ラネンターカムだった。
「……先日のタワーブレイン戦では成り行き上、庇うことになりましたけど……今日は、場合によってはそうはいきませんよ」
「ふふん、分かっておる。他の連中はどうあれ、壁エルフが居るとあっては、わしひとりではどうにもならんからのう」
ラネンターカムは、コルネリウスの盾役としての鉄壁の防御力を何よりも警戒しているらしい。
更にハヤトとローザリカもその気配に気づいて臨戦態勢を取ったが、緑の人差し指の視線は相変わらず、コルネリウスをじっと見据えたままだ。
「今宵は退く。わしにも考えがあるよってのう」
直後、美貌の女吸血鬼は一瞬で姿を消した。彼女特有の瞬間霧状化であろう。
最大の敵が姿を消したことで、張り詰めた緊張が一気に緩和した。と、そこへクレビオン伯爵を連行したディレイン、ルアンナ、ジュストの三人が引き返してきた。
が、問題はこれで終息した訳ではない。クレビオン伯爵が手勢を用いて罹患させた一部の領民達が、深刻な病状を訴えて身動きもままならないのである。
ローザリカとロゼットが彼らの手当てに廻ったが、領民達の肉体を蝕む病魔は治癒師の技術を用いてもすぐには好転しなかった。
「ルアンナちゃん、離れで掻き集めてきた薬剤、出して貰える?」
「え……これまだ、実験中の薬なんじゃないですか?」
戸惑いながらもディレインの要求に応じて、薬剤の入った壺を幾つか並べたルアンナ。一体何をするつもりなのかと、ジュストやローザリカも興味をそそられて覗き込んだ。
ディレインは、矢張りそうかとひとり頷きながら、ルアンナが並べた薬剤の中から幾つかピックアップし、半ば目分量でそれらを混ぜ合わせ、そして病状に苦しむ領民へと投薬した。
すると、驚くべき事態が生じた。投薬を受けた領民達はたちどころに苦痛が和らぎ、呼吸も落ち着き始めたのである。
その様子を見て、誰よりも驚愕していたのはクレビオン伯爵だった。
「ば、馬鹿な! それはまだ、実験中の筈だ!」
「あんたにとっては実験中でも、俺には知ってて当たり前の薬剤なんだよ」
その応えに、愕然たる表情で膝を落とすクレビオン伯爵。
ディレインの超人的な医療技術には、ジュストやロゼットも驚きを禁じ得なかった。
ただただ言葉を失うクレビオン伯爵だが、その彼に対し、レピドが顔色ひとつ変えず淡々と話しかけた。
「俺は、命を救える力を持つ医者のことを尊敬している。命を守るのは大変なことだ。奪うよりもずっと、ずっと……アンタはなんで医術を身に着けたんだ? それは誰かの命を守る為じゃないのか?」
抑揚の無い声音だけに、その一言一句がクレビオン伯爵の心臓に深く突き刺さったのは想像に難くない。
そんなクレビオン伯爵を漫然と眺めてから、ハヤトは西の方角に視線を向けた。
「んで、どうする? 西方辺境伯に、直々に検分して貰うか?」
「その方が確実だろうね。商売にしても政治にしても、物的証拠が一番の武器になるだろうし」
応じたのはローザリカだ。当初は証拠品を持ち帰ることも考えていたが、敵を制圧した今、手付かずのまま現状を保全している実験室をそのまま西方辺境伯に検分して貰った方が手っ取り早い。
ルーヴェン・アクファリテ西方辺境伯はフットワークの軽い人物だから、ここまで足労することも決して厭わないだろう。
それから数日後。
クレビオン伯爵領都にまで足を運んだルーヴェンは、冒険者達の案内で伯爵邸内を細かく検分し、全ての証拠品を押収させた。
その上で、今回だけは大目に見てやると宣言した。
「けどな、次は無ぇぞ。今度また俺の目の届くところで舐めた真似しやがったら、そん時ゃ容赦無く、王家に突き出すからな。そのつもりで居ろ」
寄り親であり、西方辺境伯という雲の上の存在ともいうべき権力者からの沙汰に、クレビオン伯爵はただ頭を垂れるしか無かった。
マスターコメント
ショートシナリオR難しい 報酬:多い8 / 4〜8人
2023年12月17日 16時16分52秒 公開
相談掲示板
ヒーラーのディレイン・オールドケイジ。よろしく。 研究も実験も薬が本当に効くのか試すことも、確かに医療技術の進歩には必要なことなんだけどさぁ…同意を得ずに被験者にするのは違うと思うんだ。 治すべき病気や怪我が、他人から故意に発生させられたものであるならそれ以前の問題だし。 さーて、まずは連れ去られた人の家族や近所の人から、その時の話や伯爵の行動の変化とかについて聞き込みになるのかな。
ロゼットよ。よろしくね。 …医療に関わる人にとっては他人事じゃないわね。 関係者からの聞き込みで領内をまわることも大事だし、 伯爵邸を見張ったり、潜入を試みたり、かしら。 ただ、逃げ出した領民がいることに気づいていれば 警備も厳重になっていそうだから、伯爵邸は注意ね。 私たちの介入が察知されると、連れ去られた領民ごと、 口封じ、証拠隠滅をはかる可能性があるから慎重に。 できれば強硬手段に出る段階の前で、誘拐された領民の 居場所を特定しておいて、同時に保護しに動きたいかしら。
キャスターのジュストだ。 全く頭の痛い話だね……同じ貴族として放っておけないし、尽力しよう。 よろしく頼む。 実験台にされている領民を保護出来れば確かな証拠になるだろうが、ロゼット殿が触れてくれているように既に幾らか脱出されている現在ガードはかなり厳しくなっているだろう。証拠隠滅の為処分されてしまう可能性も十分有り得る。 慎重に捜査を進めたいのは同意だ。 >領民はどこに囚われているのか ・クレビオン伯邸宅内、もしくは地下含む敷地内の施設 ・領内の名義などはクレビオン伯ではないが伯の息のかかった施療院 ・郊外の人目につきにくい場所 あたりが候補だけど、連れ去り現場を目撃した人を探して聞き込みし足取りを追う、クレビオン伯と取引している商人に金を握らせてこちらに引き込んで実験に使いそうな物資をどこに運んでいるかを掴む……みたいな手段で目星をつけられないだろうか? >流れ ①住民への聞き取り調査などを進めて実験台にされている、これからされそうな領民の居場所を掴んで救出方法を検討 ②商人や他の貴族、施療院勤めの人間などからも情報収集して領民の被害報告以外の非人道的な実験をしている証拠を掴む ③こちらの動きを察して領民の処分に動くタイミングかその前に領民救出 ④証拠を揃えた上で身柄を抑える こんなイメージだけど、③④は二手に分かれて同時に行う手もあるね。 ただ、③と④は戦闘が起きることが予想されるので、その備えもしておきたい。
ヒーラーのローザリカ、よろしく頼もう。 貴族としても治癒師としても、人としても……このやり口は赦し難い。 誘拐された領民の居場所を調査で掴み、同時ないし領民救出後に伯爵の身柄確保などの手段に出る流れに異論はないよ。 相手方のガードが固くなっているだろうことから慎重になるべきだというのにも同意する。 私兵が連れ去っていったことはわかっているし、密かに私兵を張ることで犯行後どこへ連れ去っていくかを追えることもあるだろうか。 ひとり逃げ出した分を補充に動く可能性もあるのではないかと思って。 すでに連れ去られた人物の住居と私兵の行動範囲(巡回場所など居てもおかしくない場所など)に接点がないかなども聞き込みやらで探れればとも思ったよ。 実験に使いそうな物資から辿る案も有効そうに思う。 もし金を握らせる手段に出るなら、Lv4までなら賄賂のスキルを上げていたから協力も出来るかもしれない。
流れは了解。 なんだけど、伯爵の身柄確保より先の領民救出は、もしかしたら難しいかもしれないね。 歩けない人や起き上がれない人がいる可能性を考えると、安全確保までが確実じゃないかと…見張りと戦闘ってことになっちゃうか。 >証拠 連れ去られた領民だけだと言い逃れされてしまわないかな。 医者でもある伯爵が、伝染病を懸念して患者を一つ所に集めるために領主の権限を使った、とか。 ただ、…これは予測でしかないんだけど、発生から現在までの治療経過を含めた過程の記録をとってると思う。実験だというなら、少なくとも結論が出るまでは残してるはず。これの「発生」に人為的なものが記載されていれば、より確実かなって。 まあ記録があるなら領民のそばだろうし、領民の居場所をつかまないことにはね。 聞きこみや私兵の足取りで得られた情報から、ある程度の人数を寝かせておける空間という条件で絞れないかな…
おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! またまたとんでもねぇお貴族様が炙り出されてきたもんだな! だいたいの方針はわかったが、捕らえられちまった領民の居場所を探るってーのと決定的証拠を掴むってんなら、フェイクカバーで領民に変装して奴等の仕掛けた病気やらに罹ったって噂を流し敢えて囚われて内部から探るってのもどーかと思ったんだけどよ! なんならレピドが良けりゃ2人で潜入して証拠を掴んだらどっちかが知らせに抜け出し1人は領民の安全確保に残るみてーなことも考えてみたぜ!
遅くなってしまいすみません、ウォーリアのコルネリウスです。よろしくお願いしますね。 方針についてはジュストさんが挙げてくださっている流れが良さそうに思います。 連れ去る領民の選定基準って、やはりあるのでしょうかね? 領民の救出と伯爵の確保、出来れば同時に出来ると良いのですけれど。
レピド・クロサイト、シーフだ。よろしく頼む。 ……改めて考えてみると、信用出来ない医者とはとても恐ろしいものだな。 ここまでの流れと慎重に行くという方針に異論はない。 >ハヤト 俺は構わない、内部から探れればその分証拠も増やせそうだし有効だと思った。
キャスターのルアンナです、こんな人にお医者さんを名乗って貰いたくないものですね…! 実験台として連れて行かれている人達は突然ケガや病気になっているんですよね。原因がよく分からないとも。 私兵が病気の元やケガの要因を仕込んでるとしか考えられないですし、何とか私兵を尾行出来ないか考えてます。
ジュストの挙げた「流れ」で異論ないわ。 私は潜入には向かないから、聞き込みにまわろうかな。 領民の居場所(伯爵邸、別の私設など)にもよるけど、 領民の救出と、伯爵の捕縛は同時の方が良いと思うわ。 2手に分かれる必要があった場合に備えて、 「領民の救出優先」と「伯爵の捕縛優先」で選ぶなら、 自分はどちら側が、希望があれば言っておくのはどうかしら。 どちらでも良い、少ない方に参加、とかでも構わないわ。 私は選ぶなら、「領民の救出優先」かな。 実験の状態によっては、何らかの治療が必要になるかもだし、 ディレイン程じゃなくても、医療技能者が居て損はないかなと。
2手に分かれる場合に備えて表明をしておくのも大事だね、良いと思う。 僕は明確な希望はないから、ディレイン殿の希望次第で動こうか? ディレイン殿が領民側に行くならヒーラー不在にならないよう伯爵側に行くし、 逆に伯爵側に行くようなら領民側に行って少しでも治療の手を増やそうかなと。 ひとまずその旨の表明まで。
そう、だなぁ… 一言言ってやりたいし、伯爵側に行こうかな。 ロゼットちゃんが領民のほうに行ってくれるなら治療的な心配もひとまずいらないだろうし。 そうそう、調査の時は薬や薬草を扱う店を回ってみようと思ってるよ。
おっと、ローザリカちゃんもありがとう。 一言言いたいのはおじさんのわがままだから面倒かけることになっちゃうんだけど、よろしくね。
>レピド んじゃ、一緒に潜入してみっか! 今までの領民が病や怪我で動けなくなるといきなり私兵がやってくるってこたぁ、奴等が何かしら仕掛けて来て確信犯で連れ去ってんじゃねーかと思うからよ。 ひとまず私兵共の動きを監視して標的になった領民を特定したら入れ替わりに先回りするってーのが確実かと思ったがどーだ? あとは捕まった後の足取りをどーやって皆に伝えるかの手段たな… 何か良い案あるか? っつーわけで俺は領民側に回ることになるわけだな。
俺は調査に関しては実験に必要な薬品や資材を扱う商会や商人周りを探ってみようかな。 二手に別れる場合は伯爵側へ行こう。 >捕まった後の足取り 移動中閃光塗弾の塗料を垂らせるような仕込みをしておくとか、あとは俺の方で遠見を用意して追跡する手もあるね。
私は主に聞き込みに回ろうと思います。 二手に分かれる場合はどちらでも問題ありませんので、人手が足りない方…伯爵側のほうが良さそうでしょうか? そちらに回りますね。
私兵共の動きを監視してターゲットと入れ替わるんだな、それが良さそうに思う。 閃光塗弾の塗料か……やってみるが、バレて消される可能性も捨てきれないので遠見もあるとより確実かも知れない。 それか、ハヤトがフェイクカバーで潜入して攫われた所を俺が宗波でハヤトをマークして追跡、場所を特定次第皆に知らせに戻る……みたいに完全に分業にしてしまうか。
・領民側 ロゼット ローザリカ ハヤト ・伯爵側 ディレイン ジュスト コルネリウス 俺は行動的には領民側に行った方がスムーズ……かな。
プレイングは提出したわ。 後は現地で、頑張りましょう。 >ディレイン >一言言ってやりたいし、伯爵側に行こうかな 了解。良い言葉を期待させてもらうわ。
>レピド 確かに確実に領民達の囚われてる場所を特定すんならその方が良いかもしんねーな! 閃光塗弾の塗料だとバレる可能性も高ぇしな!
>ハヤト 返答に感謝を。 では分業にして場所を特定しよう。……気をつけてな。