【幻秋】廃屋で出会う未来の自分?
夜月天音
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シナリオID:3299
オープニング
快晴の朝、辺境都市群のヴェルクリエ、冒険者ギルド支部。
「テリーズ・トラ・トリュース!」
女性職員が訪れた冒険者に、笑顔で収穫祭の挨拶をした。
「不思議な体験をしてみませんか? 実は裏路地にある平屋の建物を業者が処理をしようとした所、奇妙な霧が発生していて、中に入ると未来の自分に出会ったという不思議な体験をしたという話が出て……それが原因で処理は延期されました」
挨拶を終えるなり、女性職員はこの時期ならではの依頼を紹介し始めた。
「廃屋のため、安全性が少し心許ないので一般の方は立ち入り禁止にしていますが、危険に慣れた冒険者ならいつ訪れても構わないという事です。どうです? 未来の自分に出会ってみませんか? 出入りは自由ですよ?」
女性職員は依頼だけではなく、注意事項を伝えるのも忘れない。ちょっぴり申し訳なさげな顔をして。
その頃、当の廃屋では周囲に人垣が出来ていた。
「ねぇねぇ、未来の姿はどうだった?」
「すげぇ霧ばっかりだなぁ」
「よぉし、行くぞー」
「未来の自分と話しちゃった!」
「これが今回の収穫祭名物の不思議空間『夢幻の霧』か」
好奇心や恐怖に満ちていた。
「テリーズ・トラ・トリュース!」
女性職員が訪れた冒険者に、笑顔で収穫祭の挨拶をした。
「不思議な体験をしてみませんか? 実は裏路地にある平屋の建物を業者が処理をしようとした所、奇妙な霧が発生していて、中に入ると未来の自分に出会ったという不思議な体験をしたという話が出て……それが原因で処理は延期されました」
挨拶を終えるなり、女性職員はこの時期ならではの依頼を紹介し始めた。
「廃屋のため、安全性が少し心許ないので一般の方は立ち入り禁止にしていますが、危険に慣れた冒険者ならいつ訪れても構わないという事です。どうです? 未来の自分に出会ってみませんか? 出入りは自由ですよ?」
女性職員は依頼だけではなく、注意事項を伝えるのも忘れない。ちょっぴり申し訳なさげな顔をして。
その頃、当の廃屋では周囲に人垣が出来ていた。
「ねぇねぇ、未来の姿はどうだった?」
「すげぇ霧ばっかりだなぁ」
「よぉし、行くぞー」
「未来の自分と話しちゃった!」
「これが今回の収穫祭名物の不思議空間『夢幻の霧』か」
好奇心や恐怖に満ちていた。
解説
霧が立ち込め不思議空間「夢幻の霧」と化した廃屋に入り、未来の自分とお喋りをしたりと交流してみて下さい。
または廃屋には入らず野次馬と交流する事も可能です。
活動時間は朝から夜までとなっております。
【廃屋について】
裏路地に佇む平屋の古くなった建物です。
収穫祭が終了したら処分されます。
本日は不思議空間「夢幻の霧」の怪奇現象により建物内に霧が立ち込めています。
【不思議体験について】
霧に満ちた建物内に入ると未来の自分に出会う事が出来ますので、触れたりお喋りをしたりと交流する事が可能です。
出会う未来の自分は、冒険者として大成していたり悪人に落ちぶれていたりと様々な姿をしています。出入りが自由のため、入る度に違う未来の自分に出会う可能性があります。
ただし、出会った未来の自分はあくまでも怪奇現象の産物のため、必ずしも本当に出会う未来とは限りません。
※活動時間、こういう冒険者や住民と交流したいなど、希望などがありましたら、プレイングに記載をお願いします。
※公式NPCとは交流出来ません。
マスターより
オープニングを読んで頂き、ありがとうございます。
未来の自分に出会ったり野次馬に加わったりと、収穫祭の怪奇現象を思い思いに体験してみて下さい。
リプレイ
快晴の朝、収穫祭で賑わう辺境都市群のヴェルクリエに佇む廃屋に不思議空間を生む『夢幻の霧』が立ち込め、訪問者に未来の自分を見せていた。ちなみに、収穫祭終了後廃屋は取り壊された。
「ここが遺跡の最深部ですか! 不思議な霧の大広間!」
「未来の自分に会える! これは冒険の匂いがしますね!」
霧の中を歩き回った末に出会った2人のエルナ・クルプファルツ。
続いて互いの顔を見合わせ、
「私!?」
2つの口から飛び出たのは、驚愕。
「こんがらがりそうですが、ひとまず落ち着きましょう」
先を制したのは、過去のエルナ。
「私はエルナ・クルプファルツです。そして、ここは……」
エルナは自己紹介と朝から侵入して至るこの状況を知らせた。
「そういう事ですか。ならば、私は未来のエルナです!」
納得して元気に名乗る未来のエルナの姿を改めて見やり、
「見た所、ザ・探検家という感じですが……」
エルナは探る言葉を掛ける。探検帽に探検家の服を纏い背にはリュックとロープ、手にはランタン。
「その通りです! 未知なる神秘と秘宝を求めて! いざ! 危険とロマンと冒険の遺跡探索へ!」
未来のエルナはドヤ顔を浮かべ、
「……という事で、出発したらここに辿り着いた訳です!」
ここに至る状況にワクワクだけでなく、
「これも何かの縁! ここまでの冒険譚をお話します! まずは最近の一番の発見からです!」
ノリノリで冒険譚を語り出した。
「一番の発見?」
エルナも聞く気満々だ。
「はい、転がる大岩の通路です! 実在したのですよ! 逃げ切るのは大変でした! これは、文書をまとめて、ロスガリア大岩学会で発表するつもりです!」
何とも賑やかな冒険を手振り身振りで話す未来のエルナ。
「発表ですか? 凄いです!」
エルナは驚きと感嘆と共に忙しなく拍手をする。
「自分に褒められるのは、少し照れますね」
未来のエルナは、自分からの褒め言葉に一際気恥ずかしくなりながらも、
「あ、あと、黄金の池! ……のような巨大スライムさんのお話や燃え盛る大河! 触れると凍る水に下から登る稲妻! 話したい冒険は山程あります!」
生き生きと冒険譚の品揃えを発表する。どの話もすぐには語り尽くせぬのは明らか。
「どの冒険譚も大変なもののようですね」
冒険者として苦労を理解するエルナは、感心するばかり。
「はい! みんなで力を合わせて乗り切れば、どんな困難も何のそのです!」
頼りになる者がいるらしい未来のエルナは、
「不老不死の秘薬はまだまだ見つかりませんが、世界にはこれだけ不思議なものが溢れているのですから、きっとどこかにあります!」
成果は無いと言いながらも冒険心を一層滾らせ、
「希望と共に! 今日も冒険冒険です!」
希望と自信に満ちた笑顔。
「冒険ですか。しかし、私は……」
未来の自分の言葉を遠くに感じ、エルナの元気が萎む。
「大丈夫! 過去の私もきっと今に追いつけますよ! その時を楽しみに待っていますね!」
未来のエルナは全力でエルナを励ましてから元気一杯に、霧の向こうへ。
「はい! 私、頑張りますから!」
エルナは未来の自分が消えた霧に向かって、叫んだ。
(もう将来は既に決まっているけれど、それ以外の未来があるとしたら)
イズル・M・ヴォルゴールには、次期領主の将来があり自身も受け入れてはいるが、好奇心から霧が満ちる朝の廃屋内を歩いていた。
その時、
「収穫祭時期に夢幻の霧が出るのは何年ぶりだ? しかも、過去に戻る霧とは珍しい」
馴染みがあり過ぎる声と共に前方の霧からもう1人のイズルが現れた。
(未来の自分のはずだが、変わっているのは服装程度で、大きく見た目が変わっていない……という事は、近しい未来だから?)
イズルは未来の自分を観察し考え込む。
その周囲を黒い長衣を纏った未来のイズルがうろちょろしたり、
「今どのあたりの時代? 元気かい?」
声を掛けたり触ったりする。
程なくして、
「……時代? こういう体験を何度もしていると?」
イズルは我に返り、訊ねた。
「勿論! 一番衝撃だったのは領地を思うあまり神化した姿と邂逅した時だな」
肯定する未来のイズルの思いを馳せる瞳は、どこか遠くを彷徨う。
「酒精の神と言っていた。芳しく華やかな果実酒の匂いがした。そういう君も少し似た匂いがするぞ」
未来のイズルは、細かな匂いさえも判別する鼻の頭を得意げに擦った。
「……そうかな」
自身の匂いが気になり確認するイズル。『醸造』の技術が活かされる領地出身故か酔いの香りがする。
(人を匂いで探る姿……確かに未来の自分だ)
指摘により図らずも、イズルは眼前の人物が確かに未来の自分だと確信し、
「思いのほか見た目が変わっていないな」
気遣わず疑問を聞き返す。
その発言をきっかけに未来のイズルは、
「……見た目……確かに死霊術の本質を理解してから、世界の理からズレたのか老いが遅い気がするな。やはり……」
思考の海に漕ぎ出すものの、
「考えに耽っている所悪いんだけど、問題発言が聞こえた気がするんだが」
イズルに邪魔され、
「あぁ、実は『最も善なる死霊術師』とか『最も危険な回復術師』とか言われてるんだ」
満面の笑みで答えた。
「…………」
二つ名の謂れに心当たりがあるイズルは黙するだけ。
「力が欲しくて死霊術に興味持ったわけじゃないのはわかってるだろうけど、それでも手放しで良かったと言えない事の方が多いかな……失ったものが多くてさ」
見透かすように笑う未来のイズルに対して、
「……家族や友人とはどうなっているんだ? 関係は良好かい?」
返す言葉が出ず、何でもない事を聞くしか出来なかった。
「それ聞かない方がいい。今が生きづらくなるから」
未来のイズルは苦笑で答えを濁した。
「……分かった」
察したイズルは追及するのをやめ、
「それじゃ、いつかまた祝祭の奇跡を信じ、再会を楽しみに待とう。無垢なる種の頃の俺」
残念そうな顔をしての別れの挨拶と共に、霧の向こうに消える未来の自分を見送った。
(格好から見るに、どうやら王国貴族に遣えているようですね。何より気になるのは腕の……)
Alexandra・Hexe・Claudiaは、霧に包まれた昼時の廃屋に入ってすぐに未来の自分に出会い、『洞察』を働かせて細かく観察し、服装から未来の自分の立場を推測する。最も気になるのは腕に煌めく円環に見知らぬ銀のチェーンが加わっている事。
相手もこちらに探りの目を向けている。
「……その容姿……なんというか……」
Alexandraが言い切るよりも先に、
「母に似た、ですか? 私もそう思います……まったく、血筋とは難儀なものです。ね」
察した未来のAlexandraは苦く笑った。
「自分同士というのは嫌ですね……余計な思考まで透けてしまいますから」
Alexandraはうんざり気味に未来の自分を睨め付けてから、乳脂肪からなる液体の『広場の恵み』とココアの特徴を持つ蒸留酒の『迷宮の気まぐれ』をカクテルシェイカーに入れて軽やかに振ってカクテルを作り、グラスに注いだ。
そしてグラスを取り、
「母に近しく見える見た目と振る舞いが自身を切り捨てた母を許しているようで嫌になります」
酒を一口飲んでから、心底憎々し気に言い放った。
「許している? そんな事ある訳ないでしょ。母を許す気は昔も今も毛頭ありません」
未来のAlexandraは、過去の自分と同じ顔をして憎悪を吐いてから、酒を一口。
喉を潤した後に出て来る言葉は、
「ただ、それはそれとして器量に決断にと評価できる点はあります。それに、怒りと分析は切り分けられるはずです」
何とも冷え冷えとしたもの。
「……」
自分と違う部分を垣間見たAlexandraは、ただ黙して酒を飲む。
しばしの沈黙の後、
「腕にあるその銀のチェーンは私のものではないですよね? 学園から持ち出したのですか? 勝手な真似をするのは……」
Alexandraは、先ほどから気になっていた円環の銀チェーンを厳しく指摘した。
「死者へ想いを通じさせるには、勝手以外の手段など無い」
未来のAlexandraはぴしゃりと言い放ち、
「彼女はずっと留守番をしていたというのに、私が連れ出さなくてどうする。彼女を想うのなら……ひとときでも彼女の手足に、心になってほしい」
優しく銀チェーンに触れた。大切な友を想ってか、口調は少し感情的であった。
「……そうですね」
気持ちが分かるAlexandraは静かに頷き、酒を飲んだ。
互いの酒が尽きた所で、
「さ、お互い時間は有限。行きましょう」
未来のAlexandraは、放置されているテーブルにグラスを置いて、Alexandraに背を向けた。
「待って下さい! あなたは、いま」
別れの時を察したAlexandraは、知りたい事があると引き留めようとするも、
「じきにわかります。追いかけてみせなさい、未来を」
未来のAlexandraは詳しくは言わず、ただAlexandraの見覚えのある笑みを湛えて、霧の向こうに消えた。
(未来の自分……ホムンクルスのラケルに、未来とかあるのか、ちょっと迷っていたし、気になることもあって……会えたらいいなと思っていたけど……)
午後の時間帯に霧が満ちた廃屋を歩いた末にラケルは出会った。
「ラケルだよ。過去のラケル」
未来の自分に。
「その姿は喪服だよね」
未来の自分の姿が気になり、事情を問うた。
「おばあちゃんのお墓参りに行く途中だから」
未来のラケルは手にある花束を見つめながら、少し寂しそうに答えた。
瞬間、
「……おばあちゃん……死んじゃったんだね……」
ラケルは悲しさから言葉が途切れ気味になる。おばあちゃんと言うのは、現在間借りをしている家の住人で後見人でもある老婦人の事だ。
「本当に過去のラケルなんだね」
ラケルの反応から未来のラケルは、過去の自分だと信じた。
(……死んじゃった……その時……おばあちゃんは……死……ラケルはいつ死ぬのかな……死ぬとしてもおばあちゃんを1人ぼっちにしたくない……最期まで寂しくないように、なるべく一緒に居られたら……)
考え込んでしまうラケル。おばあちゃんととても仲良しだからこそ。
ひとしきり思考に沈んだ後、
「おばあちゃんは1人ぼっちじゃなかった? きちんと看取れたの?」
ラケルは意を決したように訊ねた。
「看取れたよ。最期まで笑っていたよ」
当時を思い出しているのか未来のラケルは、少し哀しみ混じりに答えてくれた。
「そっか、なら、良かった」
ラケルはほっと安堵をした後、
「おばあちゃんのこと、覚えている?」
未来の自分の心内を知りたくて訊ねた。
「……わすれない、ずっと、おばあちゃんのこと、わすれない」
未来のラケルはぽつりぽつりと、胸の内を明かした。
「ラケル?」
寂しげな様子に胸の奥が締め付けられ、気遣い気に訊ねるラケル。
「……」
掛けられる気遣いに未来のラケルは、口を閉じ真っ直ぐにラケルを見たと思ったら、
「もう、ラケルも、ラケルも、前を見なきゃね……」
ふわりと思いの外綺麗に笑った。
「どうして笑えるの? おばあちゃんが死んじゃったんでしょ? ラケルは1人ぼっちになったんでしょ?」
未来のラケルの笑顔に、ラケルは目を見開いた。笑顔の理由が分からなかったから。
「ラケルは、ひとりぼっちじゃないよ」
見透かす未来のラケルは、笑顔のまま言った。
「実はね、おばあちゃんのお墓参りに行った後、お友達に誘われてた、冒険の旅出るつもりなんだ」
碧眼に期待に満ちた明日を映しながら。
「……お友達……冒険……」
ラケルは意外な事に呆けるばかり。
「大丈夫、ラケルは、笑えるよ」
未来のラケルは、過去の自分を愛しそうにぎゅっと抱き締めた。明るい未来があれと。
「…………うん」
抱き締める手に優しさを感じたラケルは、安堵の頷きをこぼした。
午後になる中、
「これが未来の私……」
ヴォーレリアは霧に満ちた廃屋の中を歩いた末に、無事に出会いを果たした。
(あくまで怪奇現象で、ホムンクルスである自分が、未来にどんな風になっているか気になっていはいましたが)
ヴォーレリアの碧眼と思考は忙しい。
「そうです。過去の私」
そう返す未来のヴォーレリアは、全体の印象が柔らかで余裕があり、身に着けている装備は今の自分より良質であった。
「何か変わった事はありますか?」
ヴォーレリアは、知りたくて未来を訊ねた。
「……変わった事、ですか」
未来のヴォーレリアは考え込んだと思ったら、
「ありますよ。あの事が一番変わった事でしょうか」
はっとした顔に。何やら思いついたようだ。
「それは何ですか?」
知りたくて先を促すヴォーレリア。
「私には今、好きな人がいます」
未来のヴォーレリアが幸せそうに微笑みながら告げた事実は、
「えっ!?」
ヴォーレリアを大層驚かせた。口から頓狂な声が出る程に。
「ホムンクルスの私に、そんな人が現れるのですか?」
ヴォーレリアは驚きの余韻と共に、真偽を問うた。あまりにも信じられぬ事実だけに。
「ええ、冒険者として共に依頼を受けていた人たち。その中で、私を気に掛けてくれた男性。その人をいつの間にか、好きになっていて……」
未来のヴォーレリアは恥ずかしそうな表情で、運命の出会いを話す。
「ホムンクルスの私に、そんな人が……」
ヴォーレリアは呆気にとられるばかりだ。自分と同じ人形のような顔に、人間のような喜怒哀楽が浮かぶから。
「私も自分の感情が、最初はよくわかりませんでした」
未来のヴォーレリアは胸に手を当て、幸せそうに微笑む姿は、色香のようなものまで感じられる。
(同じ姿なのに、何でしょうか、この違いは……)
ヴォーレリアは、未来の自分との違いを感じてか、話に聞き入る。
「彼と過ごす内に考えるようになりました……」
未来のヴォーレリアは、過去の自分を真っ直ぐに見つめ、
「彼はホムンクルスである私のご主人様になりたいと思っているのか……そんなことを考えてしまったり。でもそれを悪くないと思う自分に気がついたりして……」
艶やかな笑みを浮かべて伝える。自身の出自由来の悩みとそれを上回る彼に対する思いを。
「……悪くない、ですか。では、あなたは愛しているのですか」
ヴォーレリアは答えは眼前にあるにも関わらず、確認せずにいられない。
「それは今でも分かりません。胸にあるこの感情が、普通の人たちの言う恋とか愛なのかは。ですが、今の私は、彼の側で共に生きることに喜びを感じていますよ」
未来のヴォーレリアは不安げな言葉と裏腹に、掴んだ喜びを大切に愛しんでいた。
この交流の後、
(私に、そんな人が)
廃屋の外に出たヴォーレリアは、予想外の未来に感慨深くなった。
「ここが遺跡の最深部ですか! 不思議な霧の大広間!」
「未来の自分に会える! これは冒険の匂いがしますね!」
霧の中を歩き回った末に出会った2人のエルナ・クルプファルツ。
続いて互いの顔を見合わせ、
「私!?」
2つの口から飛び出たのは、驚愕。
「こんがらがりそうですが、ひとまず落ち着きましょう」
先を制したのは、過去のエルナ。
「私はエルナ・クルプファルツです。そして、ここは……」
エルナは自己紹介と朝から侵入して至るこの状況を知らせた。
「そういう事ですか。ならば、私は未来のエルナです!」
納得して元気に名乗る未来のエルナの姿を改めて見やり、
「見た所、ザ・探検家という感じですが……」
エルナは探る言葉を掛ける。探検帽に探検家の服を纏い背にはリュックとロープ、手にはランタン。
「その通りです! 未知なる神秘と秘宝を求めて! いざ! 危険とロマンと冒険の遺跡探索へ!」
未来のエルナはドヤ顔を浮かべ、
「……という事で、出発したらここに辿り着いた訳です!」
ここに至る状況にワクワクだけでなく、
「これも何かの縁! ここまでの冒険譚をお話します! まずは最近の一番の発見からです!」
ノリノリで冒険譚を語り出した。
「一番の発見?」
エルナも聞く気満々だ。
「はい、転がる大岩の通路です! 実在したのですよ! 逃げ切るのは大変でした! これは、文書をまとめて、ロスガリア大岩学会で発表するつもりです!」
何とも賑やかな冒険を手振り身振りで話す未来のエルナ。
「発表ですか? 凄いです!」
エルナは驚きと感嘆と共に忙しなく拍手をする。
「自分に褒められるのは、少し照れますね」
未来のエルナは、自分からの褒め言葉に一際気恥ずかしくなりながらも、
「あ、あと、黄金の池! ……のような巨大スライムさんのお話や燃え盛る大河! 触れると凍る水に下から登る稲妻! 話したい冒険は山程あります!」
生き生きと冒険譚の品揃えを発表する。どの話もすぐには語り尽くせぬのは明らか。
「どの冒険譚も大変なもののようですね」
冒険者として苦労を理解するエルナは、感心するばかり。
「はい! みんなで力を合わせて乗り切れば、どんな困難も何のそのです!」
頼りになる者がいるらしい未来のエルナは、
「不老不死の秘薬はまだまだ見つかりませんが、世界にはこれだけ不思議なものが溢れているのですから、きっとどこかにあります!」
成果は無いと言いながらも冒険心を一層滾らせ、
「希望と共に! 今日も冒険冒険です!」
希望と自信に満ちた笑顔。
「冒険ですか。しかし、私は……」
未来の自分の言葉を遠くに感じ、エルナの元気が萎む。
「大丈夫! 過去の私もきっと今に追いつけますよ! その時を楽しみに待っていますね!」
未来のエルナは全力でエルナを励ましてから元気一杯に、霧の向こうへ。
「はい! 私、頑張りますから!」
エルナは未来の自分が消えた霧に向かって、叫んだ。
(もう将来は既に決まっているけれど、それ以外の未来があるとしたら)
イズル・M・ヴォルゴールには、次期領主の将来があり自身も受け入れてはいるが、好奇心から霧が満ちる朝の廃屋内を歩いていた。
その時、
「収穫祭時期に夢幻の霧が出るのは何年ぶりだ? しかも、過去に戻る霧とは珍しい」
馴染みがあり過ぎる声と共に前方の霧からもう1人のイズルが現れた。
(未来の自分のはずだが、変わっているのは服装程度で、大きく見た目が変わっていない……という事は、近しい未来だから?)
イズルは未来の自分を観察し考え込む。
その周囲を黒い長衣を纏った未来のイズルがうろちょろしたり、
「今どのあたりの時代? 元気かい?」
声を掛けたり触ったりする。
程なくして、
「……時代? こういう体験を何度もしていると?」
イズルは我に返り、訊ねた。
「勿論! 一番衝撃だったのは領地を思うあまり神化した姿と邂逅した時だな」
肯定する未来のイズルの思いを馳せる瞳は、どこか遠くを彷徨う。
「酒精の神と言っていた。芳しく華やかな果実酒の匂いがした。そういう君も少し似た匂いがするぞ」
未来のイズルは、細かな匂いさえも判別する鼻の頭を得意げに擦った。
「……そうかな」
自身の匂いが気になり確認するイズル。『醸造』の技術が活かされる領地出身故か酔いの香りがする。
(人を匂いで探る姿……確かに未来の自分だ)
指摘により図らずも、イズルは眼前の人物が確かに未来の自分だと確信し、
「思いのほか見た目が変わっていないな」
気遣わず疑問を聞き返す。
その発言をきっかけに未来のイズルは、
「……見た目……確かに死霊術の本質を理解してから、世界の理からズレたのか老いが遅い気がするな。やはり……」
思考の海に漕ぎ出すものの、
「考えに耽っている所悪いんだけど、問題発言が聞こえた気がするんだが」
イズルに邪魔され、
「あぁ、実は『最も善なる死霊術師』とか『最も危険な回復術師』とか言われてるんだ」
満面の笑みで答えた。
「…………」
二つ名の謂れに心当たりがあるイズルは黙するだけ。
「力が欲しくて死霊術に興味持ったわけじゃないのはわかってるだろうけど、それでも手放しで良かったと言えない事の方が多いかな……失ったものが多くてさ」
見透かすように笑う未来のイズルに対して、
「……家族や友人とはどうなっているんだ? 関係は良好かい?」
返す言葉が出ず、何でもない事を聞くしか出来なかった。
「それ聞かない方がいい。今が生きづらくなるから」
未来のイズルは苦笑で答えを濁した。
「……分かった」
察したイズルは追及するのをやめ、
「それじゃ、いつかまた祝祭の奇跡を信じ、再会を楽しみに待とう。無垢なる種の頃の俺」
残念そうな顔をしての別れの挨拶と共に、霧の向こうに消える未来の自分を見送った。
(格好から見るに、どうやら王国貴族に遣えているようですね。何より気になるのは腕の……)
Alexandra・Hexe・Claudiaは、霧に包まれた昼時の廃屋に入ってすぐに未来の自分に出会い、『洞察』を働かせて細かく観察し、服装から未来の自分の立場を推測する。最も気になるのは腕に煌めく円環に見知らぬ銀のチェーンが加わっている事。
相手もこちらに探りの目を向けている。
「……その容姿……なんというか……」
Alexandraが言い切るよりも先に、
「母に似た、ですか? 私もそう思います……まったく、血筋とは難儀なものです。ね」
察した未来のAlexandraは苦く笑った。
「自分同士というのは嫌ですね……余計な思考まで透けてしまいますから」
Alexandraはうんざり気味に未来の自分を睨め付けてから、乳脂肪からなる液体の『広場の恵み』とココアの特徴を持つ蒸留酒の『迷宮の気まぐれ』をカクテルシェイカーに入れて軽やかに振ってカクテルを作り、グラスに注いだ。
そしてグラスを取り、
「母に近しく見える見た目と振る舞いが自身を切り捨てた母を許しているようで嫌になります」
酒を一口飲んでから、心底憎々し気に言い放った。
「許している? そんな事ある訳ないでしょ。母を許す気は昔も今も毛頭ありません」
未来のAlexandraは、過去の自分と同じ顔をして憎悪を吐いてから、酒を一口。
喉を潤した後に出て来る言葉は、
「ただ、それはそれとして器量に決断にと評価できる点はあります。それに、怒りと分析は切り分けられるはずです」
何とも冷え冷えとしたもの。
「……」
自分と違う部分を垣間見たAlexandraは、ただ黙して酒を飲む。
しばしの沈黙の後、
「腕にあるその銀のチェーンは私のものではないですよね? 学園から持ち出したのですか? 勝手な真似をするのは……」
Alexandraは、先ほどから気になっていた円環の銀チェーンを厳しく指摘した。
「死者へ想いを通じさせるには、勝手以外の手段など無い」
未来のAlexandraはぴしゃりと言い放ち、
「彼女はずっと留守番をしていたというのに、私が連れ出さなくてどうする。彼女を想うのなら……ひとときでも彼女の手足に、心になってほしい」
優しく銀チェーンに触れた。大切な友を想ってか、口調は少し感情的であった。
「……そうですね」
気持ちが分かるAlexandraは静かに頷き、酒を飲んだ。
互いの酒が尽きた所で、
「さ、お互い時間は有限。行きましょう」
未来のAlexandraは、放置されているテーブルにグラスを置いて、Alexandraに背を向けた。
「待って下さい! あなたは、いま」
別れの時を察したAlexandraは、知りたい事があると引き留めようとするも、
「じきにわかります。追いかけてみせなさい、未来を」
未来のAlexandraは詳しくは言わず、ただAlexandraの見覚えのある笑みを湛えて、霧の向こうに消えた。
(未来の自分……ホムンクルスのラケルに、未来とかあるのか、ちょっと迷っていたし、気になることもあって……会えたらいいなと思っていたけど……)
午後の時間帯に霧が満ちた廃屋を歩いた末にラケルは出会った。
「ラケルだよ。過去のラケル」
未来の自分に。
「その姿は喪服だよね」
未来の自分の姿が気になり、事情を問うた。
「おばあちゃんのお墓参りに行く途中だから」
未来のラケルは手にある花束を見つめながら、少し寂しそうに答えた。
瞬間、
「……おばあちゃん……死んじゃったんだね……」
ラケルは悲しさから言葉が途切れ気味になる。おばあちゃんと言うのは、現在間借りをしている家の住人で後見人でもある老婦人の事だ。
「本当に過去のラケルなんだね」
ラケルの反応から未来のラケルは、過去の自分だと信じた。
(……死んじゃった……その時……おばあちゃんは……死……ラケルはいつ死ぬのかな……死ぬとしてもおばあちゃんを1人ぼっちにしたくない……最期まで寂しくないように、なるべく一緒に居られたら……)
考え込んでしまうラケル。おばあちゃんととても仲良しだからこそ。
ひとしきり思考に沈んだ後、
「おばあちゃんは1人ぼっちじゃなかった? きちんと看取れたの?」
ラケルは意を決したように訊ねた。
「看取れたよ。最期まで笑っていたよ」
当時を思い出しているのか未来のラケルは、少し哀しみ混じりに答えてくれた。
「そっか、なら、良かった」
ラケルはほっと安堵をした後、
「おばあちゃんのこと、覚えている?」
未来の自分の心内を知りたくて訊ねた。
「……わすれない、ずっと、おばあちゃんのこと、わすれない」
未来のラケルはぽつりぽつりと、胸の内を明かした。
「ラケル?」
寂しげな様子に胸の奥が締め付けられ、気遣い気に訊ねるラケル。
「……」
掛けられる気遣いに未来のラケルは、口を閉じ真っ直ぐにラケルを見たと思ったら、
「もう、ラケルも、ラケルも、前を見なきゃね……」
ふわりと思いの外綺麗に笑った。
「どうして笑えるの? おばあちゃんが死んじゃったんでしょ? ラケルは1人ぼっちになったんでしょ?」
未来のラケルの笑顔に、ラケルは目を見開いた。笑顔の理由が分からなかったから。
「ラケルは、ひとりぼっちじゃないよ」
見透かす未来のラケルは、笑顔のまま言った。
「実はね、おばあちゃんのお墓参りに行った後、お友達に誘われてた、冒険の旅出るつもりなんだ」
碧眼に期待に満ちた明日を映しながら。
「……お友達……冒険……」
ラケルは意外な事に呆けるばかり。
「大丈夫、ラケルは、笑えるよ」
未来のラケルは、過去の自分を愛しそうにぎゅっと抱き締めた。明るい未来があれと。
「…………うん」
抱き締める手に優しさを感じたラケルは、安堵の頷きをこぼした。
午後になる中、
「これが未来の私……」
ヴォーレリアは霧に満ちた廃屋の中を歩いた末に、無事に出会いを果たした。
(あくまで怪奇現象で、ホムンクルスである自分が、未来にどんな風になっているか気になっていはいましたが)
ヴォーレリアの碧眼と思考は忙しい。
「そうです。過去の私」
そう返す未来のヴォーレリアは、全体の印象が柔らかで余裕があり、身に着けている装備は今の自分より良質であった。
「何か変わった事はありますか?」
ヴォーレリアは、知りたくて未来を訊ねた。
「……変わった事、ですか」
未来のヴォーレリアは考え込んだと思ったら、
「ありますよ。あの事が一番変わった事でしょうか」
はっとした顔に。何やら思いついたようだ。
「それは何ですか?」
知りたくて先を促すヴォーレリア。
「私には今、好きな人がいます」
未来のヴォーレリアが幸せそうに微笑みながら告げた事実は、
「えっ!?」
ヴォーレリアを大層驚かせた。口から頓狂な声が出る程に。
「ホムンクルスの私に、そんな人が現れるのですか?」
ヴォーレリアは驚きの余韻と共に、真偽を問うた。あまりにも信じられぬ事実だけに。
「ええ、冒険者として共に依頼を受けていた人たち。その中で、私を気に掛けてくれた男性。その人をいつの間にか、好きになっていて……」
未来のヴォーレリアは恥ずかしそうな表情で、運命の出会いを話す。
「ホムンクルスの私に、そんな人が……」
ヴォーレリアは呆気にとられるばかりだ。自分と同じ人形のような顔に、人間のような喜怒哀楽が浮かぶから。
「私も自分の感情が、最初はよくわかりませんでした」
未来のヴォーレリアは胸に手を当て、幸せそうに微笑む姿は、色香のようなものまで感じられる。
(同じ姿なのに、何でしょうか、この違いは……)
ヴォーレリアは、未来の自分との違いを感じてか、話に聞き入る。
「彼と過ごす内に考えるようになりました……」
未来のヴォーレリアは、過去の自分を真っ直ぐに見つめ、
「彼はホムンクルスである私のご主人様になりたいと思っているのか……そんなことを考えてしまったり。でもそれを悪くないと思う自分に気がついたりして……」
艶やかな笑みを浮かべて伝える。自身の出自由来の悩みとそれを上回る彼に対する思いを。
「……悪くない、ですか。では、あなたは愛しているのですか」
ヴォーレリアは答えは眼前にあるにも関わらず、確認せずにいられない。
「それは今でも分かりません。胸にあるこの感情が、普通の人たちの言う恋とか愛なのかは。ですが、今の私は、彼の側で共に生きることに喜びを感じていますよ」
未来のヴォーレリアは不安げな言葉と裏腹に、掴んだ喜びを大切に愛しんでいた。
この交流の後、
(私に、そんな人が)
廃屋の外に出たヴォーレリアは、予想外の未来に感慨深くなった。
マスターコメント
参加者の皆様、参加して頂き大変ありがとうございました。そして、お疲れさまでした。
廃屋に起きた怪奇現象によって出会う未来の自分と交流したりと不思議な収穫祭を過ごして頂き、ありがとうございました。
ほんの僅かでも楽しんで頂ければ、幸いです。
ショートシナリオ普通 報酬:標準5 / 4〜10人
2023年11月10日 09時40分20秒 公開
大成功
相談掲示板
これで成立ですね。 よろしくお願いします。 余裕があったなら、悪堕ちやダメになったルートの自分の姿も面白そうですね。
祝!成立! と、言うわけでエルヴンシューターのエルナです! みなさまよろしくお願いしますね! 私は未来の自分に会いに行こうと思います! きっと世界中いろんな所を冒険していると思います!夢とロマンと冒険の遺跡探索ですね!
出発間際で申し訳有りませんがご挨拶に来ました。 ヒーラーのイズル・ヴォルゴールです。よろしく。 未来の自分との会話。 どんな自分と会えるのか、楽しみにしようと思います。
ギリギリ参加のキャスター、ラケルだよ。 よろしくね。 どんな未来だろ。わくわく