【呑竜】我らと子爵、ともに天を戴かず【茜蔓】
岩岡志摩
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シナリオID:3292
オープニング
その名に込められた意味は愛。
その人生より奪われたものも愛。
●欠落
リスタ子爵領におけるヴィガ・リスタ子爵の企ては、冒険者達の尽力により失敗に終わった。
そして子爵は退却中、メドゥの指先幹部『黄の小指』ロコの強襲を受ける。
「遅かったな。だが予定通りだ」
かつて子爵とロコは雇用主と配下という関係だったが、今は仇と復讐者の関係になった。
「お前の殺意は以前から知っていた。だから義勇兵を各地へと散らせた」
義勇兵とは、ロコの故郷や村人として受け入れてくれた人達も含め、多くの人達を虐殺した者達のことだ。
「お前のおかげで、各地にいる我ら王国にとって目障りな連中を痛めつけることができた」
全ては思惑通りと語る子爵に、ロコは奥歯を軋らせる。
「――不愉快です」
子爵に付きまとう死が不愉快だ。
理不尽を押し付けてきた子爵が不愉快だ。
なにより子爵の役に立ってしまった私自身が、不愉快だ。
「ですが貴方は敵を作り過ぎました。貴方はもう終わりです」
「私は授恵者だ。そこらにいる貴族とは鍛え方が違う」
そう言うと子爵は外套を外し、鎧で固めた身を晒す。
そのまま子爵は配下が捧げ持つ兜と武器を装備すると、別の配下に命じて大型の檻めいたものをその場に置かせ、被せていた布も外させる。
檻の中には、鎖で雁字搦めになり猿轡で声を封じられた子供達が泣いていた。
領内の村を襲撃したとき、子爵は生き残った子供達を拉致し、この場まで連行していた。
「お前が襲撃した各地の情報から、お前の弱点に気づいた」
――確かにロコは各地で暴れたが、子供への攻撃は控えていた。
そして子爵は自身が得た情報を分析し、ロコの弱点と欠落を看破していた。
「お前は子供を殺さないのでなく、殺せない。お前の欠落である家族愛と絆を刺激するからだ」
子爵は残る配下に檻への攻撃を命じ、光弾めいた攻撃が檻へと放たれた。
光弾は檻の中にいた子供に命中したが、子供が傷つくことはなく、檻の傍まで接近したロコがダメージを肩代わりしていた。
そのロコへと子爵は肉薄するなり体を旋回させて蹴撃と裏拳、さらに蹴撃を叩き込んでロコを吹き飛ばす。
「お前と家族ごっこをしていた連中を守れなかったことが、そんなに悔しかったのか?」
――特に、お前と親しかった子供達を守れなかったことが。
「違うと頭では理解していても、目の前で子供が死ぬのは耐え切れない。だからこうやって庇う。それがお前の弱さだ」
心の傷を引きはがし、塩をすりこむような子爵の言動に、ロコの喉元まで激情が突き上げた。
「黙れェ!」
ロコは怒号と共に赤い光を纏うと範囲攻撃を2度放ち、最初の攻撃で先程檻を攻撃した者を含め子爵の配下達を斬り倒し、2回目の範囲攻撃で檻と子爵だけを斬り裂いた。
「ここに来るまでかなり無理をしたはずだ。どこまで続くかな?」
エーテルを自身に収束させることで、攻撃を防いだ子爵は倒れた配下に目もくれず、ロコに反撃する。
子爵はロコがここに来るまでの間、生命を削り続けてきたことに気づいていた。
●ともに天を戴かず
子爵の言葉通り、ロコは子爵が子供達を盾にするたび、子供を庇い続けた。
逆に子爵はロコへ容赦なく打ち据え、損傷を負わせていく。
「見捨てられぬ弱者のお前より、全てを捨てることのできる私が強いのは当然のこと」
やがて片膝をついたロコを、子爵は傲然と見下ろす。
「『黄の小指』を討ち取った栄誉は私が頂こう」
「貴殿に栄誉など存在しない」
子爵の言葉に応えるように、風に声が乗ってきた。
子爵が声の方向に視線を向けると、王国より派遣された王国騎士がそこにいた。
その周囲には冒険者ギルド支部を介し、王国騎士からの依頼に応じた冒険者達が集結し始めている。
今回王国騎士はリスタ子爵捕縛という重要な任務を冒険者達に頼むため、使者を介し報酬の増額を冒険者ギルド支部に提示していた。
そして檻に囚われていた子供達を、同行したディノや冒険者ギルド支部職員アルヒ・ラスカスが救出し始めている。
この場に子爵が通るという情報を、様々な人を介する形で王国騎士側へ報せていたのはロコだった。
そして王国騎士や冒険者達がこの場に到着するまで、ロコは足止めを兼ねて子爵を襲い、今に至る。
「リスタ子爵。114人だ」
この地での裁量権を持つ王国騎士は、ある人数を子爵に突きつける。
「ウォレス伯爵領の村が1つ、リスタ子爵領の村が3つ焼かれ、合計114人が犠牲となった」
「王国を正しくするには犠牲がつきものだ」
感情を抑えた口調の王国騎士に、子爵はそう応じた。
「――嘘ですね、それ」
不意にロコの声が割り込んできた。
満身創痍の状態で、ロコは立ち上がる。
「貴方がメアリー王女殿下やレイウェスト皇子殿下、シルトラース帝国の名を貶めたのは、王国のためではありません」
そしてロコは子爵の本質をこの場で暴露した。
「子爵。貴方にとって王国や帝国、ヒューマン至上主義は嫌悪の対象です」
王国騎士がロコに「どういうことだ」と尋ね、ロコはこう答える。
「気に入らないものはぶん殴る。理由は後から作ればいい。子爵の思想はそれだけです」
――ただ暴力を振るいたいからそれが可能となる大義名分を子爵はその都度作ってきた。
ロコの指摘に子爵は沈黙し、王国騎士は憮然とする。
「……そのような理由で?」
「正義と平和という言葉は実に便利だったよ」
王国騎士の物言いに、子爵は悪びれもせずロコの言い分が正しいことを認めた。
「小難しい生き方しかできない軟弱な王族共や、何も残せない馬鹿ども、主体性のかけらもないウジ虫どもは、どうでもいい決まり事や小細工で私達から搾取しやがる」
今のリーンエス王国やシルトラース帝国への不満を、子爵はぶちまけた。
「そんな雑魚どもは全部ぶちのめして自由に生きる。それが私の目指すリーンエス王国だ」
だがリスタ子爵の思想は、女性や子供、老人といった人間達が真っ先に犠牲となることも是としている。
「嫌なら抵抗しろ。負けたなら諦めろ」
そんな世界では繁栄などないが、子爵にとってはどうでもいい。
だからロコは言った。
「貴方は私と同じくどうしようもない――屑です」
「今更王国騎士に媚びを売り、王国の慈悲にでも縋るつもりか?」
そんなロコを子爵は嘲笑い、ロコも笑みで応じる。
「英雄の方々がこれだけのことを仕出かした私と貴方を、許すはずがないでしょう?」
恐らく自分の顔は、眼前の子爵と同じく醜悪に歪んでいるだろう。
だがロコは信じていた。
多くの希望を背負って立つ冒険者こそ、断罪者としてふさわしいと。
そんな皆様に向け子爵は言った。
「お前達も暴力で敵を黙らせきた。ならばわかるはずだ。私の理想が」
「理解する気はない。その必要もない」
王国騎士は子爵の言い分を一蹴すると、皆様に改めて依頼内容を告げた。
「ヴィガ・リスタ子爵を捕獲しろ。息があればいい。手段や経緯は問わない。この場で起きたことの責任は私が持つ」
王国騎士はそう言って、皆様を送り出す。
ヴィガ・リスタ子爵よ。
ただ暴力を振るうために多くの人々を陥れ、自領の民にすら犠牲を強いてきた害悪よ。
今こそ報いを与えよう。
これは復讐と執念の絡まる中に描かれた、愚かしくも血生臭い醜悪な物語。
悔恨と憎悪と。願いの話。
冒険者とリスタ子爵、ともに天を戴かず。
――天を戴くのは――。
解説
マスターより
リプレイ
戦場の西側より進出したハヤト=ガラン=ヴォルファングの胸中には、眼前にいる敵――ヴィガ・リスタ子爵への怒りが渦巻いていた。
「こいつもたいがいなクソ野郎だな……」
現在に至るまで、子爵はあまりにも多くの人々を踏みにじり続けてきた。
「うるぁ! テメェに本物の蹴りっていうのがどんなもんか教えてやらぁ!」
ハヤトは咆哮と共に子爵へと突っ込み、一気に距離を詰める。
そのままハヤトが自身の魂に宿る獣性を解き放つとその身を真横に旋回させ、瞬時に紅雷を纏う竜巻と化したような連撃を繰り出した。
ハヤトの双神刀 紅狗璃と天狼の蹴甲が交互に子爵へと叩きつけられ、その身に損傷を負わせていく。
巧みな身のこなしによってハヤトが子爵との距離を置き、入れ違いにベルク・オスマットが同じ西側より進み出る。
「己が理想のために暴力で相手を黙らせることは否定せんよ。前職から我もそういった道を歩んできたからな」
ベルクはそうした面もあることを否定しない。
「だがそんな我等でも、貴様とは断固として交わらん一線が存在しておるよ」
ベルクは威圧感スキルを駆使しながら、自身と子爵が決定的に異なる点を突きつける。
「カタギ(この場合は暴力とは無関係の人々を指す)に手を出すな三下(論ずるにも値しない者の意味)が。我らが力を振るうのはあくまで同類相手の話」
一気に子爵へと詰め寄ったベルクが、吐き捨てるように言った。
「カタギに手を出す時点で貴様はその辺の畜生にすら劣る。一緒にするな汚物が」
ベルクの殺刀【指折り】が不可視のエーテルをまとって子爵の身に突き刺さると、まとわりついたエーテルが凄まじい勢いで子爵の身を蝕んでいく。
その間にも、東側では人質となった子供達の救出活動がアルヒ・ラスカスとディノの手で進められている。
「子供の避難を手伝って貰えますか?」
トーラは子供達を庇い続けた『黄の小指』メイレに、協力を求めると、自身は救出活動を守るため子爵のもとへ駆け出す。
「ヒューマン至上主義も弊害が多いですが、それに隠れて暴力に酔う貴方も最低ですね!」
恥じるどころか愉悦に浸る子爵に、トーラは憤りを見せる。
そのまま子爵へと肉薄したトーラより、エーテルをまとわせた小人の薄刃が子爵へと斬り付けられ、その一撃を受けた子爵はエーテルに肉体を蝕まれ、命中精度や回避力を低下させる。
フェザーステップを駆使したトーラは再び距離を置くと、グレイブ・ヤードも動き出す。
「貴方が貴族としての立場を持たず、一介の戦士として言うのであれば、その戯言もまだ様になるのですけどねぇ?」
グレイブは子爵の言い分を戯言と切り捨てる。
「飢えで苦しみ。理不尽な暴力に晒され。尊厳を奪われて虐げられたものが言うのであれば――まぁまだ暴力の有用性、正しさに理解はしますがね」
グレイブは子爵を論破しながら、満身創痍のロコに触れる。
「……?」
ロコが常にない戸惑いを示す中、グレイブはリヴァーオブヴァイタルを駆使し、天地を巡るエーテルの流れと接続すると、自身を介して生命力へと転じたものをロコに送り込む。
瞬く間に負傷が癒えたロコに向け、グレイブは子爵討伐への協力を要請する。
「もちろん子供達の安全を確保した後で構いません」
「感謝いたします」
グレイブの要請に、メイレは感謝と共に協力を約束すると、子供達の救出に向かう。
「この状況においては、誰が味方なのかが大事なのだ」
そうした仲間達の動向を、南側よりストレガ・L・リベルガストラは把握していた。
「メドゥの指先は潰すが、この場でのロコ殿は味方なのだ」
ロコが協力を約束したなら、敵は子爵だけに限定できる。
ストレガは自身の戦術眼をもとに、一度子爵から大きく距離を置くと、青藍に光る錨と鎖を顕現して子爵へと投擲する。
「その移動力で各個撃破されないようにする為の弱体化でもあるのだ」
ストレガより放たれた光る錨は子爵に命中すると、錨に付随した鎖が子爵の体へと絡みつき、その移動を妨げにかかる。
「ぬるい攻撃ばかりだな」
子爵は不敵な口調で言い放ち、駆け出した。
――子供達と、その前に立ちはだかるアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトに向けて。
「絶対に子供たちを救って見せる!」
ウンボイクザームを構え、守護の決意を示したアルベルトに、肉薄した子爵の脚甲と手甲が交互に襲いかかる。
輝くエーテルを己の身に収束させて、瞬間的に防御を高めたアルベルトは攻撃を受け止め、子供達を守る。
「リスタ……俺の目の前で子供たちを人質に取るような真似をするとはいい度胸だ」
子爵が羽歩を駆使して後退すると、アルベルトは瞬間的な加速を駆使して追いすがる。
「……後悔させてやる」
一気に踏み込んだアルベルトのシュトルツが稲妻さえも叩き斬るほど素早く、鋭い一撃と化して子爵を斜めに斬り裂き、血を噴出させた。
●守
(機動力を奪い、心を折るためにその足を徹底的に狙い、痛めつける)
軍神の祝福をもとに、ハヤトは次の行動を導き出すと瞬間的な加速と共に、再び子爵との距離を詰める。
子爵の前で跳躍したハヤトの体が宙で旋回し、双神刀 紅狗璃と天狼の蹴甲が竜巻のごとき連撃と化して子爵へと交互に打ち込まれ、子爵の身を斬り裂き、打ち据え、再び斬り裂いた。
ハヤトとは別方向に回り込んでいたベルクも、子爵への横撃をかける。
「片手片足を落とせれば最上だが――」
ベルクは内心の感情をおさえ、子爵の処断は王国に任せると自身を納得させる。
(主君への行いなどで殺してやりたいくらい腸が煮えくり返っているがな)
ベルクは子爵に肉薄するなり、殺刀【指折り】を下から突き上げ、子爵の身へと刃を突きたて、さらに損傷を深くする。
刃を引き抜いたベルクが狐惑乱舞を駆使して子爵から距離を置く間にも、グレイブは話術スキルを駆使して子爵に対する辛辣な物言いを続ける。
「まぁ暴力というか、ただの幼児的な癇癪ですよね」
グレイブから見れば気に入らないから暴力で解決するなど、最たるものだろう。
「いい治療院紹介しますよ? 頭の」
グレイブは自身の頭を指で軽くつつき、子爵を煽る。
一方の子爵はグレイブの物言いに対し、不遜な態度を崩さない。
「暴力は全てを解決する。それの何が悪い」
「そもそも貴方一人なのも、負けた言い訳に数の差を使いたいだけなのでしょうし。下手に兵を引き連れたら裏切られそうですものね」
グレイブは子爵に味方などいないと酷評する。
「腹心さえも子飼いの部下もいないなど、以前の男爵より人望も金もなさすぎませんか?」
グレイブはそう言いながら己自身よりエーテルを引き出すと、アルベルトに向け負傷を癒す光を形成して撃ち放つ。
グレイブからヒール4を受けたアルベルトが回復する中、トーラはストレガと連携する形で行動を控え、ストレガが先に動く。
「逃げられないよう注意したいのだ」
少なくとも物理的に両足を殺すまでは油断しないと、ストレガは心に決めている。
そしてストレガは子爵に見えざる呪詛のエーテルを寄り添わせ、状態異常の解除を妨げにかかる。
「悪運は悪意により尽きるのだ」
ストレガが酷薄に言い放つと、厄災廻呪の効果を見定めたトーラも子爵に向け、再び突っ込んだ。
「貴方のような人がいるから、ロコ達のような人が出るんです!」
その叫びはトーラの偽らざる気持ちだった。
「その行いが巡って自分達に返ってくると何故分からないんですかっ!?」
叫びと共に、子爵の懐へと飛びこんだトーラより、小人の薄刃が肉体を蝕むエーテルをまとって斬り付けられ、攻撃を受けた子爵はその防御を低下させる。
トーラに続く形で、瞬間的な加速を披露したアルベルトが別方向より子爵へと迫る。
「帝国貴族のプライドをリスタに見せつけてやる!」
アルベルトにとって、これは自らの矜持をかけた戦いだ。
「命は奪わないでやる。但し、腕と脚が付いたままだとは思うなよ!」
――虐げられる者の気持ちをわからせ、その恐怖を与えながら倒す。
今まで人々を虐げてきた以上、子爵はその報いを受ける責務があると、アルベルトは考えていた。
「覚えておけ! 帝国貴族はか弱きものを護る為に剣を振るうのだ!」
怒号と共にシュトルツが威力を重視した鋭い一撃と化して振りぬかれ、子爵の胴を斬り裂いた。
「口だけは威勢がいいな」
子爵より再び脚甲と手甲の連撃が迸り、範囲内にいたアルベルトやトーラ、そしてハヤトへと襲いかかる。
アルベルトが輝くエーテルを己の身に収束させて子爵の攻撃を受け止め、トーラはすべての感覚を研ぎ澄ませて攻撃を見切り、躱す。
そしてハヤトは攻撃のタイミングに合わせて踏み込み、身をかがめて子爵の攻撃を躱すと、カウンターの一撃と化した双神刀 紅狗璃で子爵を斬り裂いた。
「オラオラ、どーした? 自慢の蹴りも当たらなきゃ意味ねーぞ?」
ハヤトは子爵の注意を自身に向けさせるため、あえて子爵を挑発すると、別の方角からロコの発した斬撃が子爵を斬り裂き、さらに損傷を蓄積させた。
●決
「よぉ。もうそんくれぇにして無理すんな……」
全ての子供達が救助され、アルヒ達と共に退避を終えた頃、ハヤトがロコに声をかける。
ハヤトはロコがメドゥの指先、それも幹部『黄の小指』であることを承知している。
「代わりは俺達でケリつけてやるからよ……」
それでもハヤトはロコに対し、この場からの退避を促した。
トーラもハヤトの話に加わる。
「リスタ子爵にはわたし達が正しい裁きを受けさせます。それでここは納めて貰えませんか?」
「……」
ロコは答えない。
「先の幽界分樹戦において墓所を荒らした件だが――」
ベルクもロコが大切に守ってきた墓所が、幽界分樹討伐戦の戦場と化した件で謝罪を入れてくる。
以前のロコなら冒険者達に耳を貸さなかったが、これまで冒険者達が成し遂げてきたことが、ロコの心を軟化させていた。
「……いいでしょう。後は頼みます」
メイレはハヤトやトーラ達の提案を受け入れると、冒険者達に後を託す。
そしてロコはその場より退き、姿を消した。
(それはそれで干渉は致しません)
グレイブはロコの離脱を黙認する。
(ロコ殿は逃がしていいだろう。子爵が捕縛できれば王国騎士もそこまで求めないのだ)
(彼女には仕掛けない。今回の一件に関しては彼女には何の問題も無いだろう?)
ストレガやアルベルトもそれぞれ似たような見解に至る中、トーラは子爵に投降を勧告する。
「いくら貴方が強力でも、個人ではこの数には敵いません。武器を捨てて投降して下さい!」
「戯言を」
トーラの勧告を子爵は跳ねのけると、ハヤトとベルクが子爵を挟撃する。
まずハヤトより竜巻のごとき連撃が迸り、双神刀 紅狗璃と天狼の蹴甲が交互に子爵の脚や胴に命中し、その傷をさらに深くする。
「……戯言が酷いから喉を潰したいのが本音だが」
ベルクは子爵の話を聞く耳は持ち合わせていない。
「余罪を考えれば、吐かせる必要がある。この場で殺す訳にも、話せぬようにするのも問題がある」
その一方でベルクは現状を冷静に見極めていた。
(倒した後は猿轡を噛ませて戯言を吠えられないようにするか)
自身の中で折り合いをつけたベルクは子爵との距離を詰め、殺刀【指折り】を突き通す。
ベルクの一撃は子爵の足へと突き刺さり、刃を引き抜いたベルクが狐惑乱舞を駆使して飛び退くと、トーラも別方向より低い姿勢のまま子爵へと詰め寄った。
そしてトーラはエーテルで形成した黒い針を子爵に突き刺し、子爵の生命力やエーテルを排出させる。
「それとも貴方、同情されたいのですか?」
このときグレイブは、口舌の刃で子爵への攻撃を続けていた。
「自分は暴力でしか感情を伝えられない駄々っ子なんです。甘やかしてください、とでも?」
子爵の回答を待たず、グレイブは言葉を継いだ。
「身を守る権力さえもなかったものが吠えるなら同情いたしますが」
そこまで言うと、グレイブは再び自身や装備よりエーテルを引き出し、負傷を癒す光を形成してアルベルトへと撃ち放ち、その負傷を回復する。
「言動が不快だとしても目的は捕縛である為、やりすぎないよう注意はしておくのだ」
ストレガはそうなった時の対処も視野に入れている。
「呪いが入っている間に、さらにかけておくのだ」
ストレガは自身の戦術眼に従い、霧状のエーテルを顕現して子爵へと撃ち放つ。
ストレガの魔霞4を受けた子爵は、その命中精度をさらに低下させていく。
「援護感謝だ。あとは任せろ」
そしてアルベルトもグレイブに短く礼を述べると、再び子爵との距離を詰めていく。
「どうだ? 圧倒的な力で蹂躙される気持ちは」
アルベルトはそう言いながら、自身の戦術眼をもとにシュトルツを振り上げる。
「虐げられる人々の気持ちを知りながら敗北しろ!」
宣告と共に、アルベルトのシュトルツが威力を重視した鋭い一撃と化して落下し、鎧ごと子爵の身を深々と斬り裂いた。
「お前達は暴力で私に勝った」
鮮血を噴き、倒れる中でリスタ子爵は知る。
「……だから、私もお前達も正しい」
敗北は、シュトルツの形を取っていた。
●終
昏倒した子爵をストレガが持参したロープで捕縛する。
「おい、テメェの見下している亜人にぶちのめされた気分はどうだ?」
ハヤトは子爵の心を折るため、そのような物言いを発する。
「貴族派過激派の残党が救出に来ないとも限らんし、連行中に逃走を図らんとも限らん。王国もどこまで対応できるか分からんしな」
ベルクは今後起こりうる事態を想定し、子爵への処置を密かに実施すると心に決める。
「貴方の暴力が自身の破滅を招きました。そんなものが正しい筈無いでしょう!」
そしてトーラは子爵が口走ったことに反論する。
「わたし達が暴力で貴方に勝ったんじゃありません。私欲で振るった暴力が因果として貴方に返って来ただけです」
指摘の後、トーラはこう言い切った。
「勝者と言うなら、この状況を作ったロコです!」
トーラに続き、ストレガも持論を語る。
「正義とは暴力そのものでなく、誰がいかにして暴力を含めた解決手段を執ったのかという大義である」
――それはそれとして、残念ながら正義は勝者が作るものだ。
その部分は内心の呟きにとどめ、ストレガは子爵に告げる。
「我々が正しく、子爵は正しくない。それだけなのだ」
(まあ、そもそも害獣の戯言なので聞く必要がないのだが)
既にストレガの意識は、今回の件を報告書にまとめることへと向けられていた。
「お互い見なかったことにしましょう?」
一方でグレイブは合流した王国騎士に対し、退いたロコの件で話を進めていた。
「――そうだな」
王国騎士は少し思案した後、グレイブの提案を受け入れる。
多くの悔恨と憎悪、願いを伴う一連の事件は、冒険者達の手で幕を閉じた。
マスターコメント
ショートシナリオ難しい 報酬:多い6 / 4〜6人
2023年11月06日 16時21分24秒 公開
相談掲示板
ヒーラー、グレイブ・ヤードです。 これはまた、自分にとって不都合なものは須らく暴力で片づけてそうな感じですねぇ
シーフのトーラです。 よろしくお願いします! 好き勝手言っていますけれど、それはそれとして捕縛するために話し合いましょうか。 子爵はシーフとウォーリアの合わさった様な能力でかつ、魔法攻撃をして来る訳ですか。一見隙は無いですし、総力戦になりそうです。 子供の避難を阻止され無いようにもしないといけませんし、わたしは最初は避難を手伝おうかと思います。
キャスター、ストレガなのだ。よろしくなのだ。 パッシブによって常に最大限移動するから逃げに入られると取り逃がす感じなのだ。 私は移動阻害の付与と、移動阻害が切れないよう呪い付与を仕掛けようかと思うのだ。
シーフのベルクだ、よろしく頼む。 (子v殺)/ とりあえず首から上が最低限無事で呼吸してればいいようなので、寝言ほざけないように喉を潰そうと思う。 後足を潰して逃げられないようにもしないとな♪
ただまあ、超絶に個人的にですが 「罠」を中心に仕掛けたいといいますか 単純な力以外で仕留めたいなあという欲はあります。
罠とはどういったものでしょうか? ストレガさんが呪いの付与まで考えているなら、わたしも破脚砕や破鎧砕などを付与して行こうかと思いますので、他の方は攻撃に集中して頂けたら。
>罠 罠というには少し言葉の綾がありますが 「単純な力押し」ではない手段といいますか、嫌がらせを積み重ねた捕縛といいましょうか。 視界を潰す、転ばせる(足を取らせる)、など非正規手段なもの多めとかですね。 単純なダメージにつながらないけど「単騎故に」行動がつぶされたら致命的ですよねーと。
ウォーリアのアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 締め切り前日に急遽参戦を決めさせてもらったぜ あんな胸糞悪い奴は、達磨がお似合いだ! 命は取らないが、「いろんなもの」を取らせてもらうぜ! 王国の貴族は子供たちの様なか弱き者たちを平気で人質にするようだが、帝国貴族はか弱きものを護る為に剣を振るうということを最期に奴に教えてやろう。
初期地点につきまして、私はD5を希望しておきます。 まぁ、ロコの外傷だけでも完全回復させるつもりですし。 正面のほうが煽りなどしやすい気もしまして
ええと……レイウェストさまも望まないと思いますし、いくらリスタ子爵の言動が不快だからといって過激なことは程々にお願いしますね……? 捕らえるための戦闘で多少の傷は与えることになるでしょうけれど、子爵には私刑でなく王国の裁きを受けさせるべきでしょうし、お二人の行動は主であるレイウェストさまへの評価にも繋がるでしょうから。 わたしもD5から開始してBSを付与して行きますね。 まず破脚砕で命中と回避を下げて、次に破鎧砕で物理防御低下、死齎刃でスリップを付与するつもりです。
大丈夫、大丈夫。私刑じゃなくて合理的判断だから。 授恵者、それも高位授恵者を捕えた後の逃亡阻止や抵抗防止のためだから。 だから四肢潰しも必要な行いだから! (私情が無いとは言ってない) まぁ王族・皇族暗殺未遂に他国軍の詐称など単体でも死罪確定物の罪状が並んでるからな。 迂闊に五体満足で残しとくと破れかぶれで逃亡しそうでなぁ。逃げられんように片足は最低でも潰しときたい。 王国も今の混乱で子爵ごときの監視に有力な人では割けんだろうし。 D1から動いて子爵の意識を子供たちからできる限り逸らそうと思う。
>トーラさん 腕と脚を切り落とすのは、リスタの攻撃手段を奪うのと同時に逃亡防止の為に必要と判断しての事でもある。 そうで無くとも、主君の暗殺を目論んだ上に、帝国騎士を騙り残虐行為を行う等の帝国騎士の名を貶める行為。本来ならば帝国騎士全体の名誉を守る為に、見せしめとして首を刎ねる位しなければならない位(むしろやらなければ今後他国から甘く見られる)だと思うが? その他に、リスタには最期に「暴力により蹂躙される者の苦しみ」を教えなければならないからな
お二人が怒る気持ちも分かります。 子爵のやったことは言い逃れの出来ないことですし、わたしも思うところはそれなりにあります。 ですが、レイウェストさまはメアリー姫と婚約し、名もなき剣士の承認もあったとはいえ快く思わない王国貴族も未だいるでしょう。 未だレイウェストさまの王国での立場は不安定ですし、そういった貴族にレイウェストさまを批難する材料を与える可能性を取るのは得策ではないと思うんです。 帝国騎士の名誉のためリスタ子爵の首をはねるというなら、バルディオン将軍を通じて王国に子爵の身柄引き渡しを要求するなどもっと上の方に委ねるべきかと。 それに、下で「過激なことは程々に」や「戦闘で『多少の傷』は与えることになる」と言ったように、全てを否定するつもりはありません。 やり過ぎないで欲しいんです。
まぁさすがに王国の裁きの場に立てる程度には抑えるつもりはちゃんとあるぞ? というか、確かに帝国の面子もあるが、それ以上に面子を潰されてるのが王国で王家だしな。(義勇兵という他国がらみの国際問題に王女暗殺未遂が自国内から出た) こっちでやりすぎると帝国と冒険者が王国の面子を潰すことにもなるから政治的にな……。 自国の恥は自国で禊を果たしたという政治的決着の得点を立てさせないと後が怖い。 というかこいつのやらかしがこの一連だけなわけが無いから、それらを吐かせる必要もあるし、王国が吐かせて対処したという事実も必要になるから。 アルベルト卿には悪いが、奴の身柄は帝国から王国への借りの返済として譲るべきだろうな。というか生かして捕えるのが最低条件だし。 片腕片足、そこは逃走防止で必要最低限と判断している。 さっきも言ったが奴は高位の授恵者だ。五体満足のままだと王国騎士だけだと無理やりでも逃走するやもしれんし、無事連行できても今の王国の混乱状況では完璧な脱獄防止体制を引けるとは限らん。 主だった王国の過激派は地の底に沈んだが、奴に連動した男爵のような木っ端な奴は残ってる可能性がある。 確実な処断のためにも我としてはこれは譲れんと思っている。
一応ヒールもってくるのだ。 死なない程度にお願いするのだ。 足を殺すのは必要として。
まぁ、死ななければ全快はさせますし見えるような怪我も残させませんので (リヴァーオブヴァイタルは二回使えます) そこだけは一応。 暴力は「証拠が残らなければ」暴力と証明足りえませんし? とはいえ痛みだけはどうしようもありませんし もしかしたら戦闘後だから疲れもあってうっかり治し忘れがあるかもしれません。 難しいですよねえ内部の治療、見えるものでもありませんし。 あ、一応までの認識共有ですけど 「ロコが居なくなっても子爵に集中していて気づかなくても」しかたないですよね?