【焔手】辺獄の決戦
コースケ
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シナリオID:3246
オープニング
「奴の目的は神殿の奥に眠るボルガニスク神の力を得ることよ。その為に神徒と各神殿の目を辺獄に向け、守りを薄くしたんじゃ」
帝国過激派から見捨てられたフラムは、メドゥの指先幹部である緑の小指ことレムナントに拾われ、その協力を強いられていたという。だが、そのレムナントに切り捨てられたフラムはもう協力する理由も無いと助命のためその計画をぶちまけた。
「今頃はボルガニスク神殿へ向かい長虫に掘らせた穴を進んでいる頃じゃ。辺獄を出れば別の魔獣を操ってボルガニスクの所へ向かおう。早く追わねば間に合わなくなるぞ?」
「確かに、鳥の魔獣などを捕まえられれば追うことは困難だね。辺獄内か、せめて外に出た直後にでも捕まえないと手遅れになる」
フラムの指摘に、エルフの魔獣使いディアナ・ローロシェーナスが渋面で肯定する。レムナントが扱う魔獣支配の技は元々ディアナのものであり、その性能は誰よりも理解していた。
「ならば一刻も早く緑の小指を追わなければなりません。申し訳ありませんが、再度お力をお貸しください」
レムナントの狙いを知ったためか、血の気の引いた顔でマグダリアが頭を下げる。
「とは言え、あんたは休むべきだ。フラフラじゃないか」
「いいえ。私も同行します」
マグダリアは緑の小指の魔法から冒険者の一を庇い、満身創痍の状態だった。
それでも、自身の傷を無視して負傷した冒険者達へ残り回数の限られた治癒を施しており、冒険者からの治癒も頑なに拒否していた。とても追跡に加われる状態では無い。
「傷に障るよ? そもそも、どれだけ急いでも間に合うか判らないのに、そんな身体で着いて来れる訳がないじゃないか!?」
「それでも! シグモルの民を護る神徒として、神の危機に座して待つ訳にはいかないのです! 足手まといと言うなら置いて行ってくれて構いません」
「辺獄がどんな場所か知らないとは言わせないよ! 負傷した神徒と地上に戻れって言ってんだよ!」
険悪に睨み合う二人に、冒険者の一人が声をかけた。
――彼が、協力してくれると言っています――
●緑の小指
身体が酷く熱い。傷は癒した筈だが、身体の芯に籠った熱が抜けていない。
本来なら引いて熱が引くのを待つところだったが、ボルガニスク神殿が手薄なこの好機を諦めるつもりは無かった。
「……いよいよだ。火生の神の力を得れば、この欠落も埋まる」
これ迄幾度も繰り返して来た。
その度に己の欠落の深さを知り、奪ったものを投げ棄てた。
頭の隅の冷静な部分が、また同じことを繰り返すのかと問う。
また別の部分は、己に神の力を受け止める器など無いと嗤う。
「――知ったことか」
自身が壊れる程大きなものなら、欠落も埋まる。
そんな確信を抱くレムナントの瞳は、かってない熱を帯びていた。
●青玉の猟犬
『ハッハッハッ……』
陽の差さぬ地下空洞を青が走る。それに驚いた魔獣が行く先を開け、飛びかかろうとしたクリーパーが猟犬の背の冒険者からの魔法を受け退散した。
「方角はもう少し左に! もっとスピードを上げれるかい!?」
『オンッ!』
相棒の影猫を緑の小指が操る溶岩長虫の穴に送り、エーテルリンクを介してその行方を把握するディアナが指示を出す。
一行はアーマーハウンドの特異個体であるサピラの背に乗り、辺獄を進んでいた。
サピラは地理を把握しているのか、迷いなく辺獄の暗闇を駆けて行く。エーテルによる交感が可能なディアナでなくとも、サピラの全身が喜びに跳ねていることを感じとれるだろう。
「役に立てることが嬉しいんだね。ありがとう。――さて。そろそろ緑の小指に追い付く筈だ。覚悟は出来てるかい?」
「申し訳ありませんが、冒険者様だけが頼りです。このシグモルの危機をお救いください……!」
ディアナとマグダリアの言葉に頷くと、冒険者達はサピラの背から飛び降り走り出した!
解説
マスターより
リプレイ
角灯と魔法による光が辺獄の空洞を照らす。一行はディアナの使役する影猫のフェリスの後を追い、緑の小指ことレムナントが居る地点へ向かっていた。
消耗した状態での追跡であったが、一行の士気は高い。
(一刻も早く、レムナントを止めないと!)
その筆頭であるロゼットは神材の祭棍を握る手に力を込める。レムナントの狙いが神殿の奥で眠るボルガニスク神の力の収奪であることを知り、神徒、いやシグモル火山帯で生まれ育った者として、何としてもそれを止めるべく足を進める。
(ボルガニスク神の力、を、得る……。それは無理、でも、ない、のかな? ボルガニスク様、は、力、を、使い果たして、眠っているところ、だし)
ロゼットに続くエルは、レムナントによるボルガニスク神の力の収奪の可能性について考えを巡らせていた。
人の身で神の力を奪う事は、超越者である帝国皇帝が当のボルガニスク神の力を奪った前例もある。加えて、今のボルガニスク神は力の多くを失い眠りに就いている。レムナントが超越者で無くとも、可能性はあるように思えた。
(……なおさら、させる訳、には、いかない、し、ディアナさんの、力、を、取り戻す、のと、サピラさん、の、安全のため、にも。ここで、止めない、と)
別れる前のサピラの様子を思い出し、エルは決意を込めて先を見据えた。
(彼の安全を確保するためにも、まずはあの悪党を討つ)
Alexandra・Hexe・Claudiaもまた、決意を胸に洞窟を進む。
自分達を背に乗せて走っていた時のサピラが喜びを露にしていた様子に、Alexandraはサピラの孤独を感じ取っていた。
(彼を一人にはしない)
全ての障害を排除し、サピラと共に青空の下を往くという宿願を果たすため、まずはあの悪党を討つのだ。
(また無茶をしなければ良いが……しかし、ボルガニスク神の力の収奪を目論むか)
ナタリア・フィッツジェラルドは、Alexandraを横目にレムナントの目的を考えていた。
帝国貴族であるナタリアにとって、ヨゼフ皇帝と帝国過激派がこのシグモル火山帯で起こした騒動は完全には無関係とは言い難く、再度火生の神の力を狙う一味にその残党が関わっていたことは頭の痛い話であった。
(せっかく復興を進めているのだ。これ以上我々の足を引っ張らないで欲しいものだな)
ナタリアは自領の復興のため身を粉にして働く主君の顔を思い出し、彼女の為にもレムナントの目論見を潰す覚悟を固める。
(成程、満足しないわけですね。受け止める器が毀れているなら、永遠に零し続けるしかない)
一方、グレイブ・ヤードはレムナントの在り方に得心していた。かってレムナントに指摘されたようにグレイブにも欠落はある。
だが、己の欠落を代替物で埋めることを是としないグレイブと、神の力を奪ってでも埋めようとするレムナント。その欠落に対する姿勢は真逆であり、相容れないものであった。
(ここまで正反対だとまるで喜劇ですが、幕は下ろさねばまりません)
暗闇の中、密かに口角を上げてグレイブは仲間の後を追うのだった。
●休息
かすかな足音にレムナントは目を開く。
軽い休憩のつもりだったが意識を失っていたらしい。身体を預けていた石筍から身を起こし、幾度かエーテルの波動を走らせ足音の主を探る。
「9……数が多いな」
眉間に皺を寄せながらやり過すか思案する。だが、捜波による位置把握は相手がまっすぐこちらに向かっていることを示していた。
(位置が割れている……つけられたか)
相手は自分がここに居ることを確信していると判断したレムナントは、迎撃の準備をすべく意識を集中する。
やがて、頭上で何かが動き始めた。
●襲撃
「ご苦労だった。あとは下がっていてくれ」
ナタリアの言葉に、フェリスが踵を返してディアナの元へ帰ってゆく。
それを見送った一行が空洞に足を踏み入れた瞬間、地鳴りの様な音が頭上から響く。
「……上に何か居るぞ」
鋭敏な聴覚を持つセリオス・オーガストとアーテミシア、ナタリアがいち早く反応し、散開した一行が見上げる中、天井を崩し溶岩蚯蚓が姿を現した!
「オレが止める!!」
巨大なワームの体当たりを、アーテミシアはシールドガントレットでいなして受け止めた!
「手筈通りに行くぞ」
「合わせるわ!」
「了解、です……!」
動きを止めた好機にナタリアとロゼットが得物にエーテルを込めてワームを攻撃し、エルも竜骨の魔弓に矢を番え、エーテルを込めて放つ!
「仕止めるぞ」
「わ、わかりました……!」
「了解です。今の傷口を広げる役割程度しかできませんけどね」
三人の攻撃を受けたワームの動きが鈍り、そこへセリオスの神材の弓から放たれた高威力の矢と、リディリディ・トゥラ・イェレミースの持つリディの杖から放たれたエーテル弾が突き刺さり、グレイブが踏み込んで無銘祭祀刀で傷口を抉った!
「協力に感謝を。さて、生き埋めになるつもりはありません――」
Alexandraは痛みにのたうつワームの前に立つと、星海へ紡ぐ朋友譚と名付けた弓型の魔術刀にエーテルを収束させる。
「――早急に撃破させて貰いましょう!」
収束したエーテルの量は凄まじく、眩い輝きが洞窟内を照らす。Alexandraは弓型の魔術刀を握り締め、目も眩まんばかりの輝きを至近距離からワームの頭部に叩き付けた!!
動きを鈍らせた相手に対してほぼ100%命中する超高威力の一撃の直撃を受けたラーヴァワームは頭部の大半を失い、べしゃりと地面に胴体を投げ出し動かなくなる。
「追撃の必要は無い様ですね。これで主犯に集中――」
「あっ、気を付けて下さい!」
「奥から来る。散開!」
下敷きにならないようワームの死骸を躱すAlexandra達に、看破能力の高いリディリディと、不意討ちを警戒していたナタリアが警告の声を上げる。次の瞬間、無数の光球がAlexandra達に降り注いだ!!
●物差し
「……お前達だったとはな。よく生き延びたものだ」
「チッ、不意討ちたァ陰険なヤローだ」
光球を撃ったレムナントが一行に疑問を投げかけ、アーテミシアは忌々しげに血混じりの唾を吐く。
前に出て居たため光球を受けた者の内、アーテミシアとAlexandraはスキルで身を守って余裕があったが、ロゼットとナタリア、グレイブは被害が大きい。特に、グレイブは意識を失いかけている。
「やむを得ん、立て直すぞ!」
ナタリアを中心に淡く発光する魔法陣が広がり、範囲内の者の傷が癒えてゆく。だが、魔法に対し高い防御力を持ち、防御魔法で被害を最小限に抑えていたAlexandra以外の傷は完治していない。
ロゼットとグレイブだけでなく、エルまで回復に回って立て直しに集中する中、反撃に転じる者が居た。
「守ってばかりでは押し切られてしまいます……!」
「同感だ。時間をかければ相手の有利になる」
戦術的な点から攻撃を呼びかけるリディリディにセリオスも同意し、タイミングを合わせてレムナントへ攻撃を仕掛ける!
リディリディが放った蒼白い光の槍は、意識を攻撃に割いていてもぎりぎりで避けられてしまうが、神材の弓から放たれるセリオスの矢は威力だけでなく精度も高く、レムナントの身体に深々と突き立った!
「チッ、いつぞやの射手か」
舌打ちするレムナントへ、ロゼットとナタリアが声を上げる。
「レムナント、ここを通す訳にはいかないわ!」
「神の力を奪うなど、見過ごしておけん」
「そうか。……ククッ、クハハハ!!」
「何が可笑しい?」
「そうか。神を守るため疲弊した身で追って来たという訳か」
レムナントの隻眼が狂喜に染まり、普段不服げに引き結んでいる口がつり上がる。
「そこまで必死になる程、ボルガニスク神の力は価値があるものという事だ。そうで無くては奪う価値は無い!」
「他人の基準で価値を決めるというのか?」
「そうだ。俺の目には全てが無価値に映る。測る物差しが無ければ他人のものを使うしか無かろうよ?」
レムナントの右手が陽炎を纏い、握る斧槍が赤熱する。
「本気で相手をしてやる。貴様らの覚悟を見せてみろ!」
●緑の小指
「まずはお前からだ」
前進したレムナントが右手を掲げると極大の閃光波がナタリアを襲う!
「くっ、狙われたか――」
高威力の閃光波の直撃を受けたナタリアは魂刈の銀鉤を杖に何とか身体を支えるが、レムナントの強大な付与能力に抗えず行動不能に陥ってしまう。授恵者として熟練の域に達しているナタリアだったが、その抵抗力を持ってしても、回復にはかなりの時間を要するだろう。
そして、集中が途切れたため回復の魔方陣が消滅してしまう。
「まず、一人だ」
更にレムナントはシーフの如き機動戦術で石筍の陰に身を隠した。
「射線、が、切ら、れ、ました」
「これは不味いですね……」
遮蔽を取られたエルとリディリディが移動するが、リディリディの足では射線を確保出来る位置まで進めず、エルの放つ矢は躱されてしまう。
「オレが追い出してやる!」
「逆から回って下さい」
アーテミシアが突進して回り込み、グレイブが逆から踏み込んで同時に仕掛ける!
「フン、やるに事欠いて神の力たぁな……そういうのはガキの頃に済ませてもらいてえな? 無駄にトシだけ食ったガキってか。とにかく、今度こそお仕置きしてやらぁ!」
怒声と共にアーテミシアの竜骨の戦槌が振り下ろされ、グレイブの祭祀刀がほぼ同じタイミング突き出される! だが、レムナントは斧槍の柄で祭祀刀の刃を滑らせ、二人の間をすり抜けて戦槌を躱す!
「ちょこまかと鬱陶しい!」
「……見誤りましたか」
アーテミシアが吠え、グレイブが渋面になる。
戦闘技術そのものに大きな開きは無いと見ていたグレイブだったが、前回はマグダリアによる支援を受けての交戦であり、今回はそれが無いため技術の開きが想定より広い。そのため、連携しての攻撃にも対応されている。
だが、そのレムナントも顔を顰めていた。見ればその背に矢が突き立っている。
「ここまで早く使うことになるとは」
その矢を放ったセリオスにとっても、ここで切り札を使うことになったのは想定外であった。とはいえ、機を逃せば獲物を射る機会を失いかねない。
「今の内に!」
足を止めたレムナントを見てAlexandraが叫び、一同は一斉に攻撃を開始する!
それらの内、アーテミシアの戦槌とロゼットの祭棍は命中するが、他は避けられ、祭棍の込められたエーテルもレムナントの抵抗に阻まれる。
「次は貴様だ」
レムナントは、囲まれた状態から跳躍でセリオスの眼前に着地し、赤熱する斧槍を一閃する!
「!?」
攻撃の届かない距離を取っていた筈だが、どんな軽装のシーフでも一度には詰めれない距離をレムナントは一足飛びに詰め、驚愕した表情のままセリオスが血を吐いて倒れる。
「セリオスッ! いま癒しを……」
「そんな余裕を与えると思うか?」
ロゼットが駆け寄ろうとするが、疾風の如く駆けたレムナントが眼前に迫る。
「てめぇっ――」
アーテミシアが割って入り阻止しようとするが、レムナントは斧槍にエーテル塊を纏わせ、纏めて上段から叩き付ける!
「くっ……!」
「これは……!」
巻き込まれたロゼットとアーテミシア、グレイブは小手や盾で受け止めるが衝撃が重い。
非常に守りが固く生命力も高いアーテミシアはまだ余裕があるが、前衛として十分な防御力を持つロゼットでさえ酷い傷を受け、グレイブは再び気絶しそうな程の傷を受けていた。
「これが緑の小指の本気ですか」
「回復で手一杯だけども……」
自身を癒し意識を繋ぐグレイブが呻き、ロゼットの回復も残り少ない。対してレムナントは身体からの陽炎を増大させ、熱と狂喜を孕んだ左目で一同を睥睨する。
「……もっとだ。もっと見せろ。お前達の大切な神を! 守りたい神を! 価値のある神を! そして、それを全て俺に寄越せ……!!」
「煩わしい!」
そして、レムナントに翻弄されるAlexandraは苛立ちを露にしていた。
彼女の手の魔術刀は術師用の武器であるが、単体ではエーテルを飛ばす機能を持たず、遠距離への攻撃については使用者の術に依存する。
しかし、Alexandraに残る攻撃の術はエーテル光波のみであり、命中率を上げるため味方とタイミングを合わせて攻撃する場合、諸共に巻き込んでしまう可能性が高い。
魔術刀による接近戦なら味方を巻き込む事もないが、接近戦に備え戦士並みの重装備で移動の低下しているAlexandraと、シーフ以上の機動戦術を行う今のレムナントでは相性が悪かった。
「彼の為にもここで叩かなければならないというのに……!」
攻撃して来ないため脅威として見ていないのか、レムナントはAlexandraを警戒する様子はなく、冒険者の戦力を削る事を徹底していた。
「この状況をどう打開すべきでしょうか……」
グレイブが思案するが、光明は見えてこない。勝ち筋が遠退く様な状況に、Alexandra以外の者も焦燥感が募っていた。
●転機
「あ、あの! 相手も余裕はない筈です!」
洞窟内に声が響く。重苦しい空気をはね除けようと、リディリディが必死に声を上げたのだ。
「範囲攻撃を連続で撃ってこない事とか、向こうもスキルが無くて必死なんだと思います。だから、これからは意地の張り合――ひぇっ!」
レムナントに睨み付けられ、怯えたリディリディが柱に身を隠す。だが、それは戦術的にレムナントの痛いところを突いた証拠でもあった。
「そう、です、ね。ここで、止め、ます……!」
リディリディの言葉に奮起したエルも、決意を込めてレムナントの前に踏み込み、至近距離から矢を番え魔弓の弦を引き絞る!
「破れかぶれか? ――チッ!」
捨て身の突撃かと油断したレムナントだったが、放たれた矢が今までより精度が高い事に驚愕し、矢を受けつつもエルを切り伏せる。
「後は、お願い、し――」
奥の手により文字通り一矢報いたエルだったが、焔手による強化を受けたレムナントの斧槍を躱す事は出来ず倒れ伏した。
「エルッ!」
「今は彼女の意を汲んで最善を尽くすべきです」
駆け寄ろうとするロゼットを制止し、グレイブがセリオスを癒し意識を取り戻させる。現状最もレムナントに有効な攻撃が出来るのはセリオスであるからだ。
「すまない」
「癒しはあと一回で打ち止めです。こちらこそすみませんが、完治させる余裕はないので気を付けて下さい」
セリオスは頷くと、攻撃を避け石柱の陰に滑り込んだ。
●我慢比べ
「次はお前だ」
上段から斧槍が振り下ろされる! リディリディは白葉の盾を構え光の膜でそれを受け止めるが、斧槍は光の膜に食い込み、リディリディの肩をざっくり抉っていた。
「……いま、です!」
「!? 小賢しいエルフめ!」
攻撃を受けたリディリディは、盾の裏に隠して発動させた光の矢をカウンター気味に放つが、レムナントはすんでのところでそれを避け距離を取る。
「私は構わないので他の方に……!」
痛みに膝を付くリディリディは、グレイブからの癒しを断り意識を失う。一度見た以上同じ手が通じる相手では無いと判断したからだ。
「腰が引けてンぞジジィ! 本気出すンじゃ無かったのかぁ!?」
「いい加減、裁きを受けなさい!」
アーテミシアの戦槌がレムナントを捕らえきれず石壁を叩き、Alexandraのエーテル光波がレムナントを呑み込む事なく石筍を瓦礫に変える。
レムナントの焔手は効果を増し、攻撃しては遮蔽に入る機動戦術はほとんどの者は攻撃の機会を得ることが出来ずにいた。攻撃を待ち受けての反撃も、単体ではレムナントを捉える事が出来ない。
「不味いわね……」
「とは言え、このままでは分の悪い賭けに出る位しか無さそうなのですがね」
ロゼットとグレイブには切り札が残っていたが、それでレムナントを倒せるかは未知数であった。そもそも、今のレムナントには当てることが出来るかも怪しい。
尋常でない身体強化はレムナントの身体にも負担がかかっている様子だが、このままでは冒険者達が倒される方が早いだろう。
(……ここで負けたら、先生はきっと捨身でレムナントと戦う)
最悪の場合、ロゼットは恩師であるマグダリアを失い、レムナントはボルガニスク神の力を収奪してしまうだろう。
(神と師、私の大切なものを守るためにも絶対に退けない!)
だが、既にロゼットとグレイブだけでなくアーテミシアも癒しを使い果たしていた。
打たれ強いアーテミシアとAlexandraが積極的に攻撃を引き受けているお陰で何とか持ちこたえているが、その二人も傷だらけであり、長くは持ちそうもなかった。
「戦神よ、私達の戦いをお見守り下さい……!」
ロゼットは覚悟を決め、祭棍を握り締めた。
●雌伏
セリオスはレムナントを牽制するため矢を放ち、すぐに移動して石筍の陰へ身を隠つ事を繰り返しながら思案する。
(さて、どうするか)
故郷で幾度となく野生の獣と行った、狩るか狩られるかの攻防にも似たやり取りをここシグモル火山帯の地下で行っている事に奇妙さを感じつつも、石筍の向こうにいる緑の小指という大物を仕止めるべく機を伺う。
(狙われる前に最も有効な一矢を……)
その視界の端で、反撃の起点となる者が動こうとしていた。
●終止
「こんなものを持っていたか」
「……お前っ!?」
焦れたレムナントがAlexandraの腕を掴み捻り上げる。
「テメェ何しやがる!?」
「離れて下さい! 収奪されました!」
駆け寄るアーテミシアへAlexandraが制止の声を上げる。だが、レムナントは斧槍を輝かせ、次の瞬間に巨大なエーテル光波で二人をなぎ払った!!
「……これで邪魔物は消えた。後は一人ずつ仕止めてここを出れば、火生の神の力は俺のものだ!!」
レムナントが勝利を確信し声を上げる。だが、その宣言を否定しながら飛び出す影があった。
「気が早えンだよ! それとも耄碌して右目も見えなくなったか!?」
「ゴフッ!? 貴様、まだ……?」
レムナントの気が緩んだ隙を突き、アーテミシアが突進で間合いを詰め、体ごとレムナントにぶつかり石筍へ押し付けたのだ。その身に纏う竜鉄の全身鎧とシールドガントレットには、守りの残滓が光っている。
「放せっ――ぐっ!」
アーテミシアを引き離そうと振り上げた腕を、セリオスの放った矢が射貫き、渾身の力で押さえ付けるアーテミシアが叫ぶ!
「構わねぇからオレごと撃て! これ逃がしたら後がねぇぞ!!」
「しかし……」
躊躇するAlexandraだったが、後ろからエーテルの光が広がり、アーテミシアごとレムナントを包んで集束してゆく。
「アーテミシアさんの言う通りです。これを逃せば機会は、ありません……!」
振り替えると、身を起こしたリディリディが魔法の集中をしていた。視線を下ろせば、その足元には淡く魔方陣が光っており、その中心を見てレムナントの隻眼が驚きに開かれる。
「貴様、何故動けるっ!?」
「何時までも寝ている訳にはいかんからな。何より、貴様は自身の能力を過信し過ぎだ」
再度発動していた魔方陣を維持しながら閃光波の影響を脱していたナタリアが駄目出しする。見れば、魔方陣の範囲に入っていたエルも意識を取り戻していた。
「すみません、痛いと思いますけど我慢して下さい……!」
「へっ、耳長のクセに気合い入ってンじゃねぇか。遠慮なくぶちかませっ!」
集束したエーテルが爆発し、レムナントとアーテミシアを呑み込む! 全身に裂傷を受けたレムナントがアーテミシアを押し退けようとするが、シールドガントレットの腕が首を掴む。
「この、放せ……!」
「……まだ、勝負は着いてねぇぜ?」
裂傷から流血し、レムナントより負傷の酷いアーテミシアだったが、その目はレムナントが気圧される程の狂気じみた気迫を孕んでいた。
「その覚悟、無駄にはしません!」
Alexandraも覚悟を決め、星海へ紡ぐ朋友譚を構えると最後に残った術を発動させる!
「貴様、俺と刺し違えるつもりか!?」
「へっ、地獄には一人で行きやがれ。教えてやるよ。勝負ってのはな……楽しんだほうが、勝つンだよ」
そう笑うアーテミシアごと、レムナントを光の奔流が呑み込んだ!!
「……手傷を追い過ぎたか」
荒い息をしながら足元に倒れるアーテミシアを見下ろし、レムナントは逃走の構えに出る。だが、その前に無・神・論で能力を向上させたグレイブが、強化された足で回り込み立ち塞がる。
「そうは行きません。ここで幕は引かせて貰いますよ」
「レムナント、覚悟しなさい!」
グレイブの祭祀刀は弾かれたが、同時に突き出されたロゼットの神材の祭棍が、レムナントの身体に爆発的な衝撃を伝えた!
「ぐっ、邪魔だ……!」
それでも倒れないレムナントは、斧槍でグレイブを弾き飛ばすとふらつきながら退路を目指す。だが、その背にセリオスの矢が突き刺さり、続いてエルとナタリアの矢と、リディリディの魔力の矢が連続で突き立つ!
「グッ!」
「これで終わり、です」
Alexandraの魔術刀の一撃を受けたレムナントは、悪態を付きながら崩れ落ちた。
「くそ、結局、この手は何も掴め……な……」
「終わったか。私はアーテミシアを見てくる」
「ああ」
「わたし、も、アーテミシアさん、を……!」
レムナントが倒れたことを確認したナタリアとエルがアーテミシアへ駆け寄るのを横目に、セリオスが息を吐く。その視線の先で、レムナントの死体に異変が起こっていた。
「あの、身体から火が……? これはあのスキルの反動なのでしょうか……?」
「悪党の当然の末路。と、言ったところですか」
リディリディとAlexandraの眼前で、レムナントの身体は瞬く間に灰となってゆく。残ったのは人の形の灰と、赤黒い斧槍だけだった。
「……貴方が欠落と呼ぶそれは、奪うことでは絶対に満たされない。可能性があったとすれば、誰かから与えてもらうことだったのよ」
最後の言葉を思い出し、ロゼットはレムナントへ言葉を呟き目を伏せた。
意識を取り戻したグレイブは、一人でレムナントの最後の場所に立っていた。
「想像だがね、達成感も満足感も、どんな技術も『奪える』アンタにとっては、無価値だったんだろうよ」
無価値だからこそより大きなものを求め、しかし毀れた器では満たされず別のものに手を出す。結局は意味の無い事だったのだろう。
「鉄の欠落を鉄以外で埋めようが、アンタが知るようにそこから腐るだろうにな」
そう暗闇に呟き、グレイブは踵を返し歩き出した。
マスターコメント
ミドルシナリオ非常に難しい 報酬:多い8 / 6〜10人
2023年10月16日 10時52分17秒 公開
参加者
アーテミシア
- イェレミース トゥラ リディリディ
グレイブ・ヤード
セリオス・オーガスト
ロゼット
Alexandra・Hexe・Claudia
ナタリア・フィッツジェラルド
エル
相談掲示板
ヒーラーの神官戦士ロゼット。よろしくね。 成立まではあと2名ね。 特殊ルールのタイミング選び、希望はあるかしら。 Aはレムナントも、厄介なスキルのいくつかが消えるのが利点ね。 アクセラレイター、真・空間爆砕、英雄再起は1回のスキルだから、 半分で端数切り捨てならゼロになって、使用不可かな? ただ暗所、遮蔽となる石筍が点在と、戦場が不安定ね。 Bは互いに消耗なし、万全での戦闘ということね。 視界も問題ないし、足元も確か、戦いやすくはあるわ。 ただレムナントも、厄介なスキルを全部使えるから簡単ではない。 私はちょっと悩み中、どちらでも、やりようはあるけど。
ウォリアーのアーテミシアだ。 さて…どうすっかね。英雄再起が0になるならAの方がいいかもしれねえな。アレを2回も削り倒すのは流石にちと骨だし、遮蔽があるなら空間爆砕も多少は避けやすくなるか?
キャスター、クラウディアです。よしなに。 私も選ぶとするならA…ですね。 スキルの目減りは敵味方双方で明瞭ですし、なにより魔獣支配が"増援"として機能しない方がよほど助かります。 ただ…そうですね。 遮蔽を勘定に入れるなら、それらを敵方の勝手で粉砕できてしまう現状はよくありません。 最低限ラーヴァワームの制御を成り立たなくさせて…可能であれば早急に撃滅したい。 そこでひとつ尋ねたいのですが…参加者のなかにラーヴァワームに対し移動・回避面でBSの付与を準備できる方はいらっしゃいます? 手持ちの特性スキル…〈ノヴァクラスター〉にはほぼ完全クリティカルを狙える条件がありまして。 この一撃でもってワームを昏倒させ、口腔部への火力集中により殲滅する…といった流れが取れたらな と。
ヒーラー、グレイブ・ヤードです。 私としては選択肢はAですね。 >BS BSは確定付与が難しいですからね・・・。
あと1名ね。成立はなんとか、いけるかな…? 「英雄再起(復活、体力全快)」は確かに厄介だし、 A寄りの意見も多そうだから、「A」を選びましょうか。
ンじゃ、Aで決まりだな。切り札切らせた後なら何とかなるだろ。 BSは一応破脚砕はあるかね。効くかどうかは分からねえけど
ぎりぎり、に、すみません。 エル、です。…シューター、です。 どうぞ、よろしく。 選択肢、A、了解、です。
・・・ん、シューターのセリオスだ。おなじくぎりぎりだがよろしくたのむ 選択肢も了解だ。とりあえず暗所だから暗視はもっていくな
方針は決まった。あとは作戦だな。 とりあえずワームを始末してからあのジジィを叩くか? 破脚砕が決まればクラウディアのスキルで一気に叩けるみてえだけど。
>(A:辺獄内)の情報 既に言ってる通り、暗所だから暗視や照明の用意がいるわね。 「遮蔽となる石筍が点在」とあるから、射撃を手段にする人は、 敵が遮蔽物の陰に隠れて狙えない状況は、考えておいて欲しい。 敵は消耗したレムナントと魔獣ラーヴァワーム。 >レムナントの情報 レムナントの特性スキルは、スタンブラスト1回、 ホライゾナルジャンプ2回、宗波、あと焔手ね。 「焔手」の効果は、物理攻撃、物理防御、命中、回避、抵抗、 移動が強化される代わりに、自身がスリップ効果を受け続ける。 時間経過でレムナントはダメージが溜まっていくけど、 強化段階も10%、20%と上昇していくから強くなっていく。 >ラーヴァワームの情報 身体を振動させて岩盤を掘り進み獲物を襲う魔獣。 岩盤に潜り、二ラウンドに一回這い出てきて攻撃を行う。 振動や音が予兆としてあるので狙われた場合でも回避や防御は 可能だが、この魔獣の攻撃は常に【物防減:-50%】を伴う。 途中参加の人は、敵の情報は入れておいてね。
>アレクサンドラ >回避面でBSの付与 「破脚砕3」での行動阻害はあるわ。 命中して、かつ抵抗を抜けたら、だから確約はできないけど、 それで良ければセットして、ワームを殴ってみましょうか。 「ノヴァクラスター」はゼロ距離じゃないと撃てないから、 逆にワームの攻撃で倒されないための備えはいると思うわよ。 >アーテミシア レムナントも、ワームが倒されるまで待ってはいないでしょうし、 破脚砕はこちらで試すから、レムナントに張り付いてもらえない? 強化状態のレムナントの攻撃は、後衛だと一撃で倒されそう。 私がレムナントで自由に動けるなら、移動力とフェザーステップで 倒しやすい後衛から、数を減らしていきそうだわ。
オレは張り付くのは構わねえが…アイツどうもオレが来ると逃げるンだよなあ。いっそ殺界でも用意するかね。装甲防御使えなくなるからチト両刃になるか あるいはいつも通り守りをガチガチにして接近戦するか。 どのみち早めに勝負決めねえとエーテルインストールで手に負えなくなるがな。
No.13
すっかり遅れてしまってごめんなさい。 キャスターのリディリディです。よろしくお願いします。 それでは私がスネアージャベリンでレムナントの移動阻害を発生させましょうか?少しは張り付きやすいかもしれません。
私の装備構成は、零距離で張り付いて魔攻でぶん殴るケースも視野に入れたスタイルです。あわせて耐久面も強化してあります。 加えて、今回はワームの特性である【物防減:-50%】… こちらを《攻撃重視》かつ〈エーテルバリア(無印or改)〉で受ければその影響は微小となりましょう。当該スキルは【防減無効】がデフォルトですから。 チャンスを作る上で真っ向からワームの攻撃を受けられる回数は二回、せいぜい三回が限度ですが…こと短期決戦であれば十分な試行回数と見ました。 ただ、先に話した通りのデバフ支援と…可能であればどの地点からワームが出現するかの予測も正確にしたい。 この点は〈捜波〉をひとつ積める方がいればかなりの前進 でしょうか…? ―すべてを満たすのは条件として厳しくもありますが…ご助力いただけるなら最短の決着を引き寄せて見せましょう。
ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 選択肢に関しても了解だ、互いに消耗した状態での戦闘となればヒール系の使い手が要されるだろうし。 汎用スキルに関してはこちらからはサーマルアイを持って行こう。 守りをガチガチに固めた上での殴り合いといこうなら、堅甲を最優先で持っていくか。 輝刃も併せてというのもアリだろうけど、アクションスキルの回数も消耗した状態だろうから、なるべくなら回復系にリソースを回したいと思っている。
んー、それじゃオレはいつも通りガチガチにして突っ込むか。取られたり回数0になっても困る特性ないし 明かりは暗視があるから問題ねえ。 場所が狭いならチャージングもいらねえな。装甲防御とヒールだけ持っていくか
ラーヴァワームへの『行動阻害』はプレイングに入れたわ。 1枠の特性はアークインパルスの、高命中をレムナント用に。 あとは「焔手」は魔法防御は強化されないみたいだから、 魔法攻撃での打撃で、ダメージを狙ってみるわ。 レムナントの強化によっては、終盤は最後まで立っていれば 勝ちになりかねないけど、ここで決着をつけましょう。
あ、やっぱチャージングは入れとくか ワームに邪魔されそうだし