【遺言】森の守り人

影絵 企鵝

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シナリオID:3143

オープニング

 旧帝国南東部の、さらに僻地にある小さな森林。その中にさらに小さな家を作って、一人の老エルフが住んでいた。フィルエス大森林を出て市井に過ごしていたが、やがてその暮らしに倦んで再び森の中へと帰ったのだ。以来人を寄せ付けない暮らしをしていたが、それでも指で数える程度には友がいた。エレアノールもその一人。ある日彼女に窮地を救われて以来、彼女が来客した時は適当にもてなしていた。
 彼女が訳ありになってしまっても、それは変わらなかったのである。

 最低限の家具しかない質素な小屋の中、食卓についたエレアノールは旅嚢を下ろしてほっと息を吐く。そんな彼女へ老人は山菜の粥を差し出した。
「我が家じゃこれくらいしか用意できない。満足しろ」
 老人がぶっきらぼうに言うと、エルはくすりと笑った。
「十分よ。ありがとう」
「未だに信じられんな。よもやお前が王国を放逐される身になろうとは」
 エルは眉根を寄せると、匙を乱暴に動かし粥を掻き込む。
「私が未熟だったのよ。グノーシスって名前の狼人間に嵌められて、不穏分子の片棒を担がされて……屈辱極まりないわ」
「グノーシスか。懐かしい名だな」
 老人の呟きを聞いたエルは、皿をテーブルへ置いてじっと詰め寄る。
「あなた、あいつの事知ってるの?」
「……まあな。あいつが若造だった頃に一度会ったことがある。180年は前のことだがな」
「180年?」
 エルは目を白黒させた。老人は頷く。
「お前が見たのが本物のグノーシスなら、今頃200の齢を数える頃だろう」
「そんなに生きてるの? ハーフビーストなのに?」
「奴は昔から人並外れたエーテル操作の才能を発揮していた。それが神具の力も借りているなら、200年生きていても不思議ではないな」
「ふうん……で、その一族の方々はおじいちゃんが徘徊していることに関して何とも思わないのかしら」
 エルが刺々しい口調で言うと、老人は首を振った。
「グノーシスが最後の生き残りだ。ミレナリア一族はもう滅んでいる」
 エルは目を瞬かせる。老人は眉間に皺を寄せて唸った。
「元々ミレナリア一族は帝国内で様々な役目を負っていた。軍に従い戦死者の魂を慰める事もあれば、殺しに遭った者の魂の声を聞き、下手人を突き止めるような事もしていたのだな。だが、彼らは棲家の森で皆死んだ。帝国内で地歩を固めようとする派閥、孤立を貫こうとする派閥の間で骨肉の争いがあった……という話だ」
「何だか含みのある言い方ね」
「ミレナリア一族の力をもってすれば、暗殺の下手人を暴くことも出来た。それが元で失脚した貴族もいたからな。……それを恐れた者は少なくないだろうよ」
「なるほど、ね」
 エルは粥の残りを掻き込むと、旅嚢から地図を取り出す。
「そのミレナリア一族が住んでいた場所を教えて。ちょっと行ってみようかと思うの」
「行ってどうする。彼らが滅んだのも180年前だぞ。今更何が残っているとも思えんが」
 老人が怪訝な顔をすると、エルはにっこりと笑い返した。
「景気付けみたいなものよ。いずれグノーシスにはケジメをつけさせてやろうと思ってるんだから。その前にあいつの故郷を拝んでやろうと思ってね」
 エルは杖を取って構える。
「あいつの尻尾、絶対に掴んでやるわ」

 一方その頃、君達冒険者はとある帝国貴族の屋敷を訪れていた。家族の遺領を改めて任された青年は、気合の籠った眼差しで君達を見渡す。
「領地の南部の森林に、アンデッドの出没を確認している。君達は早速現場へ向かって、これを討伐してほしい。今のところは森から出てくる様子はないが、放っておけば付近の村を襲わないとも限らないからな」
 他に情報は無いか、と君達の誰かが青年に尋ねる。しかし、青年は顔をしかめた。
「見た目が虎のハーフビーストに近い、ということ以外は何もわからない。まさにその森林の内部がどうなっているかを調査するために、目下の脅威を排除してもらいたいんだ」
 調査はついでに必要か尋ねると、青年は首を振った。
「調査については後日改めて行うつもりだ。アンデッドの排除を完了次第こちらへ戻って報告してほしい」
 青年は側に立てかけてあった剣を取ると、その鞘を握りしめて険しい顔をする。
「先祖の名誉を私は再び取り戻すためにも、与えられた土地は全て確かに掌握しなければならない。よろしく頼む」

 貴族に頼まれ森に向かえば、果たして虎人間様のアンデッドが姿を現した。ただの人間より二回りは大きなそれは、樹上で巨大な弓を引き、冒険者目掛けて咆哮する。牙を剥くなり虎人間は素早く飛び出し、鋭く矢を撃ちこんできた。君達は咄嗟に身構えるが、その矢が君達に届くよりも早く、一発の魔弾がその矢を吹き飛ばしてしまった。
「ヘイ!」
 樹上から声がする。君達が振り返ると、純白の長杖を水平に構えたエレアノールが座り込んでいた。
「これは奇遇ね! 貴方達もこの森に用事があるのかしら?」
 彼女はアンデッドへ魔弾を撃ち込むと、君達へと向き直る。
「私も用事があるのかって? ええ、だからさっさとこいつを片付けましょ!」

解説

メイン 森を徘徊するアンデッドを討伐する NPC ☆エレアノール  元王国騎士であり、今や何もない女。多少開き直ったのか特に塞ぎこんだ様子もなく、グノーシスの影を追って森へと単身踏み込んでいた。 ・ステータス  キャスターLv40相当 ・スキル  緋の魔弾(魔弾1)  翠の魔弾(魔弾2)  蒼の魔弾(メテオライト1)  体力温存(重体にならないかわり、本来のレベルより能力が下がる) ・要請  部位攻撃 (PCの指示に基づき特定の部位を狙い撃ちする。命中率のペナルティは受ける) ENEMY(PL情報) ☆アンゲロス『ヒッポリテ』  とある森に住むハーフビースト達を統べた女王の魂を元に構築された虎人型のアンデッド。森の中を自由自在に跳び回り、弓や剣を巧みに持ち替え攻撃する。 ・クラス  シーフLv45相当 ・スキル  宗波  真トリプルファング  ヒドゥンチェイサー2 ・特性  第三の眼 (背後から接近した場合などでも、まるで見ていたかのように反応する事がある) FIELD ☆深い森  人が寄り付かない森林。 ・明度:薄暗い。枝葉が分厚く重なっており、地上に日光が届きにくい。 ・障害物:太い木の幹が多い。範囲攻撃は遮られやすい。 ・足場:太い枝の上には立つことが出来る。密度が高く、移動力があれば飛び回れる。 (以下PL情報) TIPS ・戦闘中探索を怠らなければ、アンゲロスを操る者の存在に気づけるだろう。  →さらに慎重に観察すれば、額に賢者の石が埋まっている事がわかる。 ・これまでにアンゲロスと戦ったことがある者は、見た目が似ていなくとも何かしらが『似ている』と感じる。 ・探索を続行しようとすると、エレアノールが慎重を期すように進言してくる。

マスターより

影絵企鵝です。

リプレイ

●女帝の情熱
 虎人のアンデッドは鋭く吼える。弓を背負って長刀を抜き放つと、枝をしならせ素早く飛び出し、冒険者達の頭上を取りにかかる。コルネリウス・アーラはその動きを見るや、盾を正面に構え、真上の枝へと一息に跳び上がる。盾を素早く振り抜き、振り下ろされた刀の刃を逸らす。
「貴方の相手は私です!」
 彼女はエーテルを込めて叫ぶ。アンデッドはコルネを睨みつけると、彼女の盾の縁を掴み、身体を捻って側面から蹴りを入れてくる。
「これは……」
 コルネはそのまま枝の上で踏ん張ろうとするが、二人分の重さが掛かった枝は折れ、二人は諸共に地面へ落ちる。二人は分かれ、しなやかに地面へ降り立つ。
「良く動きますね」
 上出来のアンデッド。彼女はそんなアンデッドに近頃よく出会っていた。
(……このよく動くアンデッド、最近戦ったものに似てる)
 人馬や大蛇のアンデッド。それを作り出した死霊術師は、たった一人。コルネは剣を構えると、ちらと周囲に目を向ける。
(またどこかにいる……?)
 虎人はそんなコルネに身を低くして襲い掛かるが、エルの放った魔弾がそれの行く手を牽制する。
「そっちばかり見てるんじゃないわよ」
 樹上に居座る彼女へ、レティシア・レインフィールは杖を掲げる。放ったエーテルの波動がエルの身体を包み込み、その腕に輝きとなって染み渡っていく。エルは白い歯を覗かせ振り返った。
「ありがとう、レインフィール嬢。腕回りが軽くなったわ」
 レティシアは頷くと、再び樹上へ跳びあがった虎人を眼で追う。コルネが正面を取り続けているが、常に距離を置かれて刃が相手に届かない。
「エレアノール様、機を見てあのアンデッドの脚を狙ってくださいませ。このままではかの脚回りに振り回されるばかりです」
「脚ね。了解したわ」
 エレアノールは杖の石突を真っ直ぐ虎人へ定めつつ、ララベル・サン・ディーベルに目配せする。
「ねえキミ、あいつを足止め出来る? このままだとちょっと狙いにくいわ」
「任せて!」
 ララベルは双剣を掲げて応えると、足元にエーテルを纏わせ、そばの樹を垂直に駆け登る。そのまま樹上に立って虎人の背後へ狙いを定めると、枝を飛び移って飛び掛かる。それはまるで背後に目が付いているかの如く振り向き、長刀と短刀を抜いてララベルへ反撃しようとした。しかし、ララベルは咄嗟に身を捻り、虎の肩を蹴って間合いを取り直す。
「自在に飛び回れるのは、お前だけじゃない!」
 枝に踵を貼りつかせ、ララベルは挑発するように剣先を振る。歯を剥いた虎は、弓を取って矢を番える。
「そこだ!」
 ララベルは再び飛び出すと、枝を右に左に飛び渡って間合いを詰め、双剣を構える。
「喰らえ、疾風三連撃!」
 彼は両手の剣を鋭く振り抜き、そのまま身を躍らせて三発目に突きを放つ。虎は弓や手甲で一撃をいなすが、ララベルの突きに圧され、その場でじっと踏み止まってしまう。
「上出来!」
 エルは叫んで翡翠の魔弾を放つ。弾丸は左脚に突き刺さり、どす黒い血が噴き出す。虎は一瞬怯んだが、それでもまだよく動く。腕で枝を掴んで跳び上がり、枝の茂みの中へと身を隠そうとする。グレイブ・ヤードは傍らに灯した光の玉の輝きを頼りに、そんな虎の影を追い続ける。
「ふむ……」
 虎が間合いを仕切り直す時、必ずそれは森の中央の方角を塞ぐように移動する。その奥にあるものから、グレイブ達を遠ざけようとしているのは明らかだった。グレイブは刀を振るうと、周囲に人影の幻を象るエーテルの波を解き放つ。
「アレの使役者も随分と慎重なようです。こちらもじっくり戦いましょうか」
 彼の放った波動は、木陰に隠れていたレピド・クロサイトにも届いていた。しかし彼は先の戦いで重い傷を負ったばかり。いくら動けるようになっても、あまり剣戟の前に身を晒すわけにはいかない。
「……それでもここにいる以上は、少しでも役に立たなければな」
 レピドは自らを奮い立たせるように呟くと、木陰から木陰へと渡り歩いて周囲に探知の波を放つ。そんな彼の姿を虎が見るや、刀を抜いて真っ直ぐ飛び掛かってくる。レピドは横ざまに転がってどうにか虎の一撃を躱した。虎は更に追い縋ろうとするが、突如眩い閃光が襲いかかり、虎を大きく仰け反らせ、そのまま石像のように固くなった。リディリディ・トゥラ・イェレミースは杖を構え直すと、さらにエーテルで蜘蛛の糸を練り上げ、虎へと浴びせる。
(森の中に虎のハーフビースト……いかにもな取り合わせですが……)
 リディはぼんやりと考える。これはハーフビーストが怨念を纏ったなれの果てかと。だがその時、再び動き出した虎が大きくもがき、纏わりついたエーテルの糸を振り払ってしまった。リディはそそくさと木陰に隠れながら、唸るアンデッドの様子を窺う。
(でも……これは自然発生とは思えませんね……)
 リディもリディなりに傍に死霊術師がいる可能性に思い至る。虎はリディに振り返ると、それは鋭く吼えて刀を構えた。リディが息を呑んでその身を引っ込める。その後を追って飛び出す虎。ルアンナ・ミュラーはそんな虎の行く手に狙いを定めると、杖を掲げて鋭い雷の槍を生み出す。
「私の新しい武器の力、お披露目です!」
 自らの命を代償として発揮される強力な魔法。稲妻の槍は青白い光を帯び、ルアンナが右手を振るうと、槍は茂みを貫いて飛び抜け、走る虎の脇腹に直撃した。閃光が弾け、虎はその場で崩れ落ちる。虎はすぐさま立ち上がろうとするが、脚がもつれてもう一度その場に膝をついた。虎はそのままの姿勢で弓を構え、ルアンナ目掛けて矢を撃ち返す。その矢は半身の姿勢になった彼女の肩を掠め、傷からは脈々と血が滲む。しかし、彼女は不敵な表情を崩さなかった。
「この程度なら何ともありませんね! ついでにこれも貰ってください!」
 ルアンナは杖を振り抜き、エーテルで作った糸を放って虎を縛り上げようとする。虎は短刀を抜くと、エーテルの糸を絡め取り、その拘束をどうにか防いだ。虎は糸の纏わりついた短刀をその場に突き立て、長刀を振ってルアンナを威嚇しながら立ち上がる。アウレーリア・フォン・ネーベルベルクはそんな虎目掛けて魔弾を一発放った。虎は身体を傾げて直撃を避けると、そのまま手近な樹を素早くよじ登ってアウレーリアを睥睨する。アウレーリアもまた眉を顰めて虎を見上げた。
「この辺りは帝国軍が安全確認した領域のはずなのに、貴方は一体どこから流れてきたのかしら」
 アウレーリアは杖を掲げる。虎は咄嗟にそばの樹へと飛び移ろうとしたが、知らぬうちに枝を結んでいたロープに引っかかって一瞬宙ぶらりんになる。虎はその身を捻って木の根元に降り立ち、弓を取って彼女を威嚇する。かと思えば、虎は急に振り返り、明後日の茂みへ向かって矢を放った。そこに潜んでいたのはレピド。彼は身を伏せどうにかその矢を躱した。
(やはり不自然だ)
 虎からはほぼ見えないはずなのに撃たれた。まるで別の位置にもう一つ目があるかのように。ふと、レピドは振り返って探知のエーテルを放つ。
 そこに潜んでいたのは、一人の少女の影。
「誰かいるぞ!」
 レピドが叫ぶなり、グレイブは咄嗟にそちらへ駆けて光を当てた。白いローブを纏った少女の姿が露になるなり、虎は突如踵を返して少女の前に降り立った。刹那、グレイブの放った光の鎖が虎の身体を縛り上げる。彼は刀を正面に構え、虎の中に納まる魂へと問いかけた。
「汝が意志を問う。死して尚その身を弄ばれる事を選ぶか、大地に眠る事を受け容れるか」
 死霊術師に使役される魂に意志はない。だから答えが返ってこようはずもない。だがそれでも、ほとんど反射的に、虎は吼えた。
「彼女はかつて病を得て死にました」
 少女は虎の代わりに首を振る。
「戦にて死ぬことを誉としていた一族の長だった彼女は、死んでも死にきれなかった。だから“彼”は彼女の願いを聞いたのです。……彼女の救いは戦いの中の他にありません」
 彼女が杖を掲げると、虎は牙を剥いて吼え、刀を取って飛び出す。コルネは咄嗟に正面に回り込むと、盾を突き出しその刀を受け止めた。火花を散らしながら、虎はコルネを押し切ろうとする。リディはそんな虎へエーテルの波動を放ち、その肉体の強度を弱めていく。虎の踏ん張りが僅かに揺らいだ瞬間、ルアンナの放ったエーテルの糸が虎の腕を捉えた。
「今度こそ捕まえましたよ」
 ルアンナは思い切り糸を引き、虎の体勢を崩す。アウレーリアは杖を振り、虎の胸元へ狙いを定めた。
「終わらせてあげるわ。……お望みどおり」
 放たれる一発の魔弾。毛皮を貫通し、腐りかけた体液が溢れる。虎は眼を剥いたまま空を仰ぐと、そのまま横ざまにどうと倒れた。目の前の一部始終に、少女は嘆息した。
「どうか、これで安らかにお眠りください」
 胸元に右手を当て、祈るように立ち尽くす。レピドは、そんな彼女の姿をじっと窺った。両腕には固く包帯が巻かれ、その額には翡翠の宝石が埋め込まれている。
「……アンタ、同族なんだな」
 話しかけると、彼女ははっとして杖を握り直す。
「俺達はこの森のアンデッドを討伐しに来た冒険者だ」
「そして次は私ということでしょうか」
 少女はじりじりと後退りする。その眼は空のように碧い。レピドは首を振った。
「待ってくれ。そっちが戦うつもりがないなら、これ以上アンタと事を構えるつもりはない。今日のところは一旦引き下がる」
「それならこちらも撤退します。……いずれは来るのでしょうが、今日は疲れました」
 無表情のままだが、少女はどこか安堵したように胸を撫で下ろす。アウレーリアはそんな彼女に腕組みしながら対峙する。
「それにしても、こんな人っ子一人いない森に引き籠って何をしているのでしょうね? 死体が欲しければもっと他に良い所が幾らもありましょう。そのくせ、討伐依頼が出る程度には出歩いてみたりして」
「ここには他人から奪うことを生業にしている者も暮らしています。身を守るためには嫌でも戦わなければならないのです。冒険者の方だというのなら、よくお判りのはずです」
「……ええ。それが?」
 アウレーリアが髪を掻き上げると、少女は小さく溜め息を吐いた。
「私達はただ誰にも脅かされない日々を望んでいるだけです」
 それだけ言い残すと、少女はゆらりと背を向ける。レティシアはそんな彼女の背中へそっと呼びかけた。
「お待ちください。……私はレティシア・レインフィールと申します。せめて、お名前だけでもお聞かせ願えないでしょうか」
 レティシアは杖を下ろすと、少女へしずしずと頭を下げる。じっと杖を握りしめていた少女だったが、やがて彼女はそれを引っ込め、彼女も合わせて頭を下げる。
「私はイヴ。グノーシスに師事する者です」
 彼女は頭を下げたまま、腰のベルトから閃光塗弾を一つ手に取る。

 誰が呼び止める間もなく、彼女は閃光の彼方に姿を消した。

●昏き森の向こう側
 静けさに包まれた昏い森。レティシアはイヴのいた木陰に立ち、その地に留まる意志を汲む。浮かびあがるのは一つの景色。見るからにみすぼらしい身なりをした女子供達。その顔は途方に暮れていた。レティシアはその景色を胸に留めながら、エルに向き直った。
「時に、エレアノール様。この度はご助力感謝いたしますが……一体なぜここに?」
「グノーシスの事を調べに来たの。この森が奴の故郷なんですって」
「この森が?」
 ルアンナは目を丸くした。彼女はこめかみに指をあて、イヴの去り際の言葉を思い出す。
「確かに、あの女の子はグノーシスに師事していると言いました。なら、あのアンデッドもグノーシスが操るアンゲロスと同質、いや、そのものかもしれません。……わざわざそれをこの森に潜ませているのは、この森に立ち入らせたくない理由があるからでは?」
「でしょうね。尻尾の毛くらい落ちてないかと思ったけど、それどころじゃなさそう」
 エルは冗談めかして応えつつ、そばの冒険者達を見渡した。
「で、みんなはどうしてここに来たの? 貴方達はグノーシスの事知らなかったでしょ?」
「まあ、そうだな」
 レピドは頷く。
「ここの貴族が今後この森を調査するつもりらしいんだ。俺達の今回の任務は、その障害となるあのアンデッドを退治する事だった」
「そういうことだったのね。まあ、前々からここは賊の格好の隠れ家になってた面もあるし、領主としての威信を高めるために“掃除”をするのは悪くないかも」
 腕組みしている彼女を見つめ、レピドはふと首を傾げた。
「なあ、今日ここでエルに出会った事は黙っていた方がいいか……?」
「その方が助かるわ。帝国内で罪に問われる謂れはなくても、偉い人に睨まれるのはね」
 くすりと笑うエル。リディは杖で顔を半分隠しながら、エルにおずおずと尋ねる。
「あの……シュヴァリエさんは、どうやってここがグノーシスの故郷だと知ったんでしょうか……? どこかで調べるのも難しそうですけど……」
「昔助けたエルフのおじいさんから、ちょっとね」
 エルは老エルフから聞いたグノーシスの話をかいつまんで語る。かくかくしかじかを聞いていたコルネは、一つの憶測を巡らせる。
「つまり、彼らの力を恐れた貴族が、ミレナリア一族を攻め滅ぼしてしまった、ということでしょうか……?」
「彼はそう言いたげだったわ」
 エルの答えを聞きながら、コルネはイヴの立っていた方角を見遣る。その脳裏には、白い狼の低い声が蘇っていた。
――私は幽霊だ――
 一族郎党を滅ぼされ、孤独に二百年近くの時を生きてきた狼。しかしそれは、『ただそこに居るだけ』。コルネは嘆息した。
「彼の言葉の意味、何だか解ったような気がします」

 ララベルは森の茂みの中を練り歩き、足元にイヴの手掛かりが残っていないか念入りに探していた。獣道を探しては、足跡がそこに残っていないか確かめる。
「……見つからないな。かなり念入りに足跡を隠しているね」
 だが見当たらない。ララベルは口を尖らせた。
「シーフを撒くのかあ」
「それだけこの森に慣れているということでしょう。まあ、わざわざ追わなくてもエレアノールが見当をつけてくれるわ」
 アウレーリアは肩を竦める。自領の安全の為と意気込んで来たが、思わぬ影を踏んでしまった。彼女はぽつりと呟く。
「またしても、ね」

 グレイブは森の中に墓穴を一つ掘っていた。物言わぬ虎の亡骸をそこへ納めると、石を拾って簡素な墓標を作り、彼女へ捧げる。墓守としての務めでもあって、次の務めを果たすための布石そのものでもあった。
(あの狼は、この森の奥に何故か人間を囲っている)
 レティシアが見たという光景を想像しながら、グレイブは墓から繋がる一本の獣道の先を眼で辿る。その道の先に、ミレナリアの隠れ里があるはずだった。
「……一体何が望みなのでしょうね?」



 つづく

マスターコメント

この度はご参加ありがとうございました。そしてOPの方では失礼いたしました。 今回はつつがなくアンデッドの排除に成功となりました。なので次回はいよいよ森の奥を調査していく形になります。何がグノーシスを突き動かしているかを知る機会にもなるでしょう。 それではまたよろしくお願いします。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2023年08月23日 10時21分50秒 公開

成功

相談掲示板

  1. グレイブ・ヤード

    (あれはいったい何なんでしょうね) ヒーラー、グレイブ・ヤードです また妙なあれですか 何とかするとしましょうか

  2. レピド・クロサイト

    レピド・クロサイト、シーフだ。よろしく頼む。 ……のっけからすまない、他の依頼にて重体を貰ってしまった。 なので戦闘中もどちらかというと探索の比重を多めに動けたら、と思っている。申し訳ない。

  3. コルネリウス・アーラ

    ウォーリアのコルネリウスです、よろしくお願いします。 レピドさんはお大事にしてください。 探索をしてくださる方も必要ですし、そちらに比重を置いて頂けると非常に助かるかなと思います。 慎重を期す必要はありますので、カバリングを持って、危険時は護れるようにしておきますね。 >方針 視界が少し悪そうなのでその対策と、識別攻撃が必要ですかね。 >ヒッポリテ 第三の眼で背後からの動きも反応できるとの事ですし、奇襲は難しいですけれど、この特性を逆に利用して撹乱させることは出来ないでしょうか?

  4. エレアノール・シュヴァリエ

    こんにちは。どうやら馴染みの報告員がやらかしたようね。まあどうせ回りくどく『幸運を祈る、楽しんでね』って言っただけだと思うから気にしないで。 気になることがあれば私が分かる範囲で答えるわ。じゃあよろしく。

  5. グレイブ・ヤード

    >第三の目 天眼みたいなものだと考えたほうがよさそうですね。 近接の奇襲(近づく)は難しいと割り切ったほうがいいのかもしれません。 とはいえ、「遠距離」であればその限りではないかなとみております。 >視界について 逆に誘い込むつもりでエンライトなど光源を増やしますか? 或いは一回でも接敵出来れば「発光塗料」をくっつけて後の攻撃に生かすことも可能かもしれませんが。

  6. レティシア・R・クラティアス

    ごきげんよう。 ヒーラーのレティシア・レインフィールと申します。 皆様、よろしくお願い致します。 レピド様はお大事になさって下さいませ。 >視界 明度に関しましては既に挙げられておりますように 暗視や光源の用意で対策は可能でございますね。 障害物は範囲攻撃は遮られやすいとの事ですので 単体攻撃でも命中可能な状態に出来ますとよろしいでしょうか? >ヒッポリテ 確かに、第三の目は『天眼』と似たものと推測されますね。 あとはパッシブがヒドゥンチェイサー2である事から 回避と生命、そして抵抗の高さが特徴と予想されますでしょうか。 BS付与で対策をされるのでしたら相応の命中と付与の高さが必要でございますが 命中に関しましては『ウェイブ・オブ・インフィニティロア』で援護が可能かと。 回避や移動への影響目的で 機を見て脚への部位狙いを試されるのもよろしいかもしれません。 >アンゲロスを操る者 戦闘中の探索もとい索敵で恐らく発見出来そうなのですけれど 操っているのでしたら攻撃を与える事で ヒッポリテ様が弱体化、とまではいかずとも行動に影響がありますでしょうか?

  7. ルアンナ・ミュラー

    キャスターのルアンナです、よろしくお願いします。 レピドさんはお大事にして下さいね。 視界は暗視で確保する事にして、ヒッポリテは元がシーフらしく素早いのが厄介ですね。 私は移動や行動を縛れるスキルを多めに用意して行く事にします。

  8. No.8

    キャスターのリディリディです。 よろしくお願いします・・・。 探索、討伐ということになりそうですね。 私は視界の面ではランタンとサーマルアイに頼ることとなりそうです。

  9. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    キャスター、アウレーリアです。宜しく。 視界については、私も暗視で対応しようと思います。 アンデッドですので、もしかしたらサーマルアイには引っ掛からないかも、という懸念が。 マーキングと目晦まし両方の用途で、閃光塗弾を持ち込む心算です。 術師の発見までは良いのですが、交戦は幾分慎重になった方が良いかと。 ENEMYのうちに含まれておりませんし、どれほど強力かも分かりませんので。 以前、似たような状況で迂闊に術師に手を出して失敗寸前まで行ったことがあります。 あくまでも様子を窺うまでに留めた方が安心でしょう。

  10. レピド・クロサイト

    >視界 同じく暗視で対抗しようかと。 敵を引き付けたい者が逆に灯りを持つ、というのも有効そうに思う。 >ヒッポリテ タイミングを合わせて一斉攻撃して第三の目でも反応しきれないようにする、とか……? エルに足を部位狙いしてもらうのも良さそうだ。 >アンゲロスを操る者 術師を攻撃することで起こりそうな可能性は……アンゲロスの弱体化、暴走、術師を抱えて逃げに徹する、辺りか? 個人的には最後の可能性が一番厄介だと考えている。 逃げに徹したシーフを捉えるのはかなり困難だ。 術師に触れるとしても、依頼されているアンゲロスをきっちり討伐してからの方が良いかも知れない。

  11. グレイブ・ヤード

    私はエンライトを準備しておきます。 引き寄せられれば十分ですし、弓だとしても発射方向から割り出せるでしょう? 捕縛できれば御の字かと思い少しばかり準備はしておきました。 後はそう、術者の関係ですが・・・。 ある程度分散していれば「不自然な攻撃範囲」とかで術者の隠れている位置はわかるかもしれませんね。

  12. レピド・クロサイト

    ギリギリに申し訳ない。 >暗視を持っていく予定の人 エーテルイミテイトで暗視をコピーさせて欲しいのだが、大丈夫だろうか?

  13. コルネリウス・アーラ

    >視界 私も暗視を持っていこうと思います。 エーテルイミテイトを使用して頂くのも大丈夫ですよ。 >アンゲロスを操る者 そうですね、術者の存在が特定できてからもアンゲロスを最優先、という方針で私も合わせておきます。 個人行動としては引き付け、味方の護りを重視していきます。

  14. ルアンナ・ミュラー

    >暗視のコピー もちろんOKですよ! >アンゲロスを操る者 術師がどの程度戦えるのかも未知数ですし、一番の目的はアンデッドの討伐なのでよほど邪魔したりして来ない限りはヒッポリテを集中して攻撃ですね。

  15. レピド・クロサイト

    >エーテルイミテイト 返答と快諾ありがとう、感謝する。 暗視・超視覚・看破で術者の情報を少しでも多く得られるように頑張ろう。

  16. ララベル・サン・ディーベル

    僕は、シーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、よろしくね! レピドはお大事に、情報収集頼りにしてるね。 僕も視界は、暗視で対応しようと思うよ。 後、アンゲロス以外の何かが居るの温度変化で気づけるかもだから、念のためサーマルアイも持って行くね。 アンゲロス最優先の方針も、了解だよ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0