【恨縁】交差する鋭き刃牙と巡る縁
広大野人
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シナリオID:3120
オープニング
貧困街の一角、今日一日を生き残れるかどうかすら分からない程に、追い詰められた人々が集まり、呪詛にも似た言葉を交わしていた。
「領主の野郎……俺らへの施しも同罪だって……」
「雇わせるのも、な……」
数人の住民達は重々しい雰囲気だった。
年齢性や別も様々だが、一つだけ共通した事があった。絶対ヒューマン主義に反した事だ。
人間関係や衣食住を奪われ、中には妻子を人買いに売られた者もいたし、無実の罪で投獄や罰金を払わされた者もいる。
「……このまま、死ねという事かよ」
誰かが呟くように発した言葉に、誰も応える事ができず、ため息とすすり泣きが響いた。
街は以前からヒューマン優先な思想だったが、ここ最近、特に過激だ。投獄されるならまだしも、突然、行方不明になる……といったケースもあった。噂によると死ぬまで強制労働させられるらしい。
「せめて、力があれば一矢報いる事ができるのに……」
誰かが言った台詞に、皆、頷いた時だった。
『声』が響く。
「そなたらの欠落を埋める願い。わらわが聴き遂げよう」
薄明りの中、フードを深く被った人物が、彼らの前に姿を現した。
●???
絶対ヒューマン主義。
人の権利を行使できるのはヒューマンのみであり、亜人を含む他全ての種族はヒューマンの繁栄の為に存在する。あらゆる事において、ヒューマンが優先……という極めて排他的な思想だ。
ヒューマンの血統こそが正義と主張する一部の保守的な貴族派と迎合し、自らの主義を否定する存在を弾圧してきた……ところが、強く抑えつければ、強く反発を受けるのは当然の事。
その日、レルドク領都は暴徒による騒ぎと蟻亜人の大規模な襲撃を同時に受ける事となったのだ。
「部隊の編制はまだ終わらないのか!」
領主であるザンディラ・レルドク子爵が従者に鎧を着させながら叫ぶ。
執事の一人が淡々と答えた。
「申し訳ございません。街中で暴れている者達が思いの外、手に負えず……」
「たかが一般人に何を手こずっているのだ!」
「そ、それが……授恵者にも匹敵する力を持っていまして。一部の者はエーテルさえも行使しているとか」
部下の返答に領主は憮然とした表情を浮かべた。
暴徒を鎮圧してからでないと、蟻亜人との戦いに集中できない。最悪、門が内側から破られてしまえば侵入を許してしまうし、挟み撃ちされる可能性もあるのだ。
準備を終えた執事と従者が退室してから、隠し部屋に潜んでいたマガリー・アフレが身軽な動作でザンディラの前に跳んだ。
「『赤の親指』にしてやられたわね。暴徒は寄生型魔獣に支配されている可能性もあるわ」
「マガリー殿で支配を奪い取れないのか?」
領主の質問に魔獣使いは両肩を竦める。
「私の専門は狼型の魔獣だけよ」
「分かった。蟻亜人の足止めを任せた」
領主の言葉に「高くつくわよ」と応え、マガリーは隠し通路へと消えていった。
●
エナハルト・ティルムとイェルド・ルリンの二人は装備を整えながら、これまでの経過を整理していた。
「寄生型の魔獣……キリリウヌでは死者の身体を操るタイプだったと思いますが、今回は生きている者に寄生するタイプという事ですね」
辛い過去を思い出し、エナハルトは険しい表情になった。
それはイェルドも同様だ。
「魔獣使いについては謎が多い。複数人の暴徒を同時に支配する事ができるのか?」
暴徒の詳細は分からないが、衛兵の詰所を襲い、幾つかの小さい門を開いているという。
それらを実行するには指示を出す者が近くにいる事が必要なはずだ。しかし、暴徒は街中に広く分散しており、その説明がつかない。
「仕掛けが分かりませんが現状、そういうものとして扱うしかないって事ですね」
「そうだな。とにかく、領主から協力要請があった以上、俺達は暴徒の鎮圧に向かう必要がある。蟻亜人の襲撃に関しては、冒険者達に任せるしかないだろう」
数人の冒険者でどこまで足止めできるか分からないが、何もしない訳にはいかないだろう。蟻亜人を街中に入れてしまえば、最悪、住民達に被害が及ぶ。
「では、早速、冒険者達を……」
そう言いかけたエナハルトをイェルドが制した。
「待て。少し、タイミングをズラしてもいいかもしれない」
「というと?」
「リザードマンの集落に狼型魔獣が襲って来ただろう。蟻亜人との戦いでも狼型魔獣がレルドク領の援軍のような形で出現した。レルドク領と狼型魔獣に繋がりがあると考える方が自然だ」
イェルドの話にエナハルトは一考する。
「……つまり、今回も狼型魔獣は出現すると?」
「蟻亜人を率いているのはミュルコレオで間違いないだろう。指先幹部である以上、かなりの力量のはずだ。戦況によっては狼型魔獣を率いる魔獣使い……マガリーも姿を見せる可能性があると俺は考える」
マガリーが魔獣を使って集落を滅ぼす事で、レルドク領主は邪魔者がいなくなった領外の資源を無法に得ている……この構図を明らかに出来る機会の一つなのだ。
「しかし、イェルド先輩。万が一にも狼型魔獣が現れなかった場合……街に被害が出る場合もありますよ? 被害を最小限に留めるのであれば、今すぐにでも冒険者を向かわせるべきです」
「わかっている。俺らの役目は、王国民を守る事だ……だからこそ、確かめなければいけない事があり、その為に責任を負う事になるのであれば……それは、俺が受け持つ」
イェルドの強い覚悟に、エナハルトはただ黙って小さく頷くのであった。
●
4本の短槍を同時に繰り出す者。2つの棘盾を備え弓矢を放つ者。鞭と棍を巧みに振り短剣を投げる者。
いずれも戦いに特化された蟻亜人達だった。動きを妨げない程度に金属で補強を加えられた革鎧は赤黒色に統一され、遠くからみるとまるでどこかの軍隊のようにも見えた。
軍隊蟻と評しても過分はないだろう。
レルドク領都へと全速力で前進している所を側面から狼型魔獣が襲いかかったが、蟻亜人の群れはあっという間に魔獣共を蹴散らした。
「通常種じゃ、足止めにもならないのね」
マガリーが冷気を宿した狼型魔獣の群れと共に姿を現す。
新手に気が付いた蟻亜人達が一斉に立ち止まると、その中央からミュルコレオが進み出た。
「以前、そなたにはメドゥに関わりのある者として警告はしていたはず。容赦はせぬぞ」
「王国を嫌っている割には、貴族からの貰い物が気に入ったようね」
蟻亜人共が身に付けている装備はいずれも王国産である……かつて王国内で暗躍していた別の指先幹部の組織から援助を受けていたのだ。
「そなたこそ、その冷気を纏う狼……それだけの数を揃えるのに、どれだけの人間を餌としたことか」
「全てはヒューマンに優先するのだから、命を餌として差し出すのは当然の事よ」
二人の視線が宙でぶつかった。
そして同時に手を挙げると、それぞれが相手に向かって指差す。
「「やれ」」
蟻亜人と魔獣の咆哮がレルドク郊外に響き渡った――。
解説
マスターより
リプレイ
完全武装の蟻亜人が狼型魔獣に対して苛烈な攻撃を仕掛ける。
その経過を冒険者達は一定の距離を保ったまま観察していた。
「しかし……奇妙な戦場もあったものだ」
シルヴィア・A・カペルの言葉が戦場の喧騒に流れ埋もれていく。
蟻亜人が身に付けている武具はいずれも真新しい。数も多いし、ミュルコレオが容易く用意できるものではないはずだ。
静かに進み出たミア=リゼルは過去にミュルコレオと遭遇した時の事を思い出していた。
「せんせいと何らかの約束はしていたようですね。組織から援助を受けていた可能性はあるかもしれません」
「指先幹部同士で繋がり……出来れば、街中で暴れている住民の情報まで確認したい所だよ」
ジード・ランスウッドが率いた組織は暴徒の反乱を主体としたテロ行為とも言えた。ミュルコレオが模倣したのか技術指導を受けたのか……。
街中で戦っている王国騎士だけではなく、ミュルコレオからも情報を得られればベストだが、簡単にはいきそうにない。
「綺麗事を並べたてて終わらせたくないです。せんせいのためにも……ルベアさんのためにも……」
彼女をチラリと盗み見たミアにシルヴィアは優しく頷いた。
そのルベア・ベルニはグッと噛み締めてマガリー・アフレを睨みつけていた。
「……バッカみたい」
故郷や多くの亜人達の集落を踏み躙りながら都合の良い貴族は守る――絶対ヒューマン主義とそれに迎合する連中に向けて、胸の奥から漏れたルベアの台詞。
けれど、蟻亜人の脅威に対し、領都に住む住民達の命を軽んじている訳ではない。
「ミュルコレオの能力が分からないのもあるし……利用させてもらうわ」
「双方、最終的には討伐必須の相手なんだよね。それでも今回は、領都への蟻亜人侵入阻止が俺達の役割」
隣で戦況を見つめていたキオルティスが応えるように言葉を紡ぎ続ける。
「だから、この状況は折角の機会だ。確り利用させて貰うよ」
完全な乱戦となっているが、明らかに蟻亜人の方に軍配が上がっている。マガリーと狼型魔獣では力不足なのは明らかだ。だが、マガリーは退かない。
恐らく、足止めのつもりなのだろう。領都の暴徒を鎮め、レルドク軍が出撃してきたら数に劣る蟻亜人達に勝ち目は無い。
「タイミングを見誤らない事が大事なんだよね。どこまでマガリーが粘れるか、かな」
仲間の台詞にルベアは頷き……ながらも、胸奥に痞えた何かに不安を感じる。
表しようのない感覚に戸惑いつつ、ルベアは短剣を握った。
「大丈夫、私は落ち着いてる……」
多分……と続いた単語が漏れた事に彼女自身、気が付いていなかった。
冒険者達から〝生かさず殺さず〟で経過を見られていたマガリーだったが、善戦虚しく、徐々に押されていく。その間、ナハティガル=ラーはミュルコレオから視線を外さなかった。
「暴徒に力を与える事が出来るのなら、逆に授恵者を弱体化する事も可能なのかもしれん」
果たして、その手段は別か同じか……そこまでは分からなかった。
寄生魔獣を使うのであれば侵入経路を防げば良い。だが、戦場で多人数相手に複数の寄生魔獣を同時に操る事よりも、毒のようなエーテルを放出する方が早いのではないかと分析した。
「使うとしたら、俺達が積極的に仕掛けた時だな」
あるいは、効果範囲の問題か……。安易に手の内を見せないのは冒険者達を警戒しているからだろう。
ドンと大地を戦槌で叩き、その反動で上段に構えたアーテミシアが不敵に笑う。
蟻亜人の中に見た事のある存在を見つけていた。奴はメドゥの指先『赤の親指』として指名手配を受けている大物でもある。
「さて、と……いよいよ、三つ巴だな。なかなか面白くなってきたじゃねえの」
「蟻亜人の特異個体というだけあって、攻撃方法も多彩だ。挑むなら油断だけはするな」
ここまでの戦闘の経過で、ミュルコレオが毒液を使って攻撃する事は確認が取れた。生物上の『蟻』と類似している能力を持つのであれば毒針や飛行能力、地中に潜る能力も持っているはずだ。
「あぁ、ガツンとド真ん中に飛び込んでもいいけどよ……蟻亜人の方からいこうかね」
一番手前側の蟻亜人に向かって、アーテミシアは駆け出した。
その動きはミュルコレオをすぐに動かした……というよりも、警戒されていたので当たり前だろうか。
「さて、と……テメエにゃ、特に恨みも面識もねえし、思うところもねえが……ま、運が悪かったな。最期にちょいと遊んでやるよ」
対してミュルコレオは蟻亜人数体に冒険者達を迎撃するよう命令した後、アーテミシアに応える。
「わらわはしっかり覚えておるぞ、『耳長』」
その返しにアーテミシアは否定の言葉を叫ぶのであった。
●
「やはり、敵ながら軍隊として高度に統率されているミュルコレオと蟻亜人に軍配が上がるか……」
ナハティガルが蟻亜人の一体を標的と定めた時だった。
不可思議な力の流れがミュルコレオを中心として広範囲に解き放たれた。それは支援魔法の準備をしていたミアよりも早く展開されてしまう。いや、もし間に合ったとしても抵抗に成功するには運が必要なほどの強度だった。
「これは……エーテルが?」
ミアが驚きながら自分の身体を確かめる。特に変化はないのだが、例えるのなら目に見えぬ濁流が身体の力を押し流してしまったような感覚に襲われていた。
異変の内容はアーテミシアもすぐに分かった。
「小賢しい真似しやがって!」
備えとしてセットしていたスキルの内、幾つかのエーテルが消耗してしまったのだ。
4本の短槍を同時に鋭く突き出して来た蟻亜人の攻撃をアーテミシアはシールドガントレットと防御スキルで対応するが捌き切れずに1本が突き刺さる。
慌ててミアが回復魔法を行使して傷を治すが……使用回数が半分ほど削られた事の方に驚きを隠せない。
「長期戦は不利ですね……支援魔法は使えそうですけど」
「その前にぶったおすだけだぜ」
戦線は蟻亜人が二面同時になっているが、ここに来て、マガリーに対する攻勢が強くなっているようだった。
その戦況の動きをナハティガルは冷静に分析する。
「様子見していたのは俺達だけじゃなかったという事か」
ミュルコレオは冒険者達の動きが確定するまで全力を出すような事をしなかったようだ。自身と幾体かの蟻亜人で冒険者を足止めしている間に、マガリーを倒すつもりのようだ。
そうなると、マガリーを泳がして領主との繋がりを確認しようと考えた冒険者達の目論見が崩れる事になる。
マガリーを助ける訳ではないが、簡単に倒されないよう、そちらに向かった蟻亜人の戦力を減らす必要があるが、その為には戦線を突破しなければならない。
その切っ掛けを作るため、キオルティスが強引に踏み込んだ。
「蟻亜人は武装したまま地中に潜れるから奇襲には気を付ける所だね」
狼型魔獣は冷気を自在に操る事で遠近、隙の無い戦い方が出来るようだったが、地中から奇襲してくる蟻亜人には無対策だった。対峙している蟻亜人とは別の蟻亜人が突然、側面や背後に現れれば連携も崩れてしまうからだ。
地中を感知する能力をセットしてきた意味はあったというものだ。
シルヴィアは半減したエーテルを練って魔法攻撃を放つ。
「分かっていれば、対策は立てようがあるだけマシというものだね……ミュルコレオの能力さえなければ、だけど」
「スキルを用いるエーテルを半減させる能力かな……これは厄介だよ」
幸いな事に元々、使用回数が1回しか使えないものに関しては効果を発揮しないようだが、それでも本来、4回使えたものが2回しか使えなくなってしまうのは脅威だ。
キオルティスの感想にシルヴィアは頷きながら、言葉を紡ぐ。
「蟻亜人の特異個体であるミュルコレオのみが扱える能力……女王物質と仮に呼んでおこうか」
「という事は、女王物質の影響をマガリーも受けている可能性は高いって事だね……今だ、ルベアさん!」
辛うじて戦線を押し上げた所で、授恵者としての能力を活かし、ルベアは仲間達から孤立しない程度の距離まで跳んだ。
●
防戦一方のマガリーは突出してきた冒険者に視線を向けた。
「恩を売るつもりなら無意味よ」
「そんなつもりは無いわよ。それより、アナタがそんなになってまで、領都への蟻亜人の侵攻を邪魔する理由が知りたいわ」
しかし、その問いに返事は無い。余力の無い戦闘中だから……とは思えないが。
「……吐きなさいよ。アナタの目的も、領主との繋がりも、全部。そしたら、ここで死なせるのだけは止めてあげる」
「バカね。そんな事に応じるとでも思ったの」
幾つもの光弾を作り出し、ルベアに放つ――けれど、光弾はルベアではなく、周囲の蟻亜人共に直撃した。
意図的に外したのか、それとも、ただの偶然か……ルベアが言葉を発するよりも早く、ミュルコレオの声が戦場に響いた。
「同じ血が流れているかもしれぬと思い、覚悟が欠けているうちは、指先にはなれぬぞ」
その台詞にルベアは呆然と立ち尽くす。
「……今、なんて……」
「素奴の過去は知らん。しかし、組織は一つの可能性を示した。マガリー・アフレは半獣人の血を引いているとな」
『赤の親指』が発した言葉にナハティガルはミュルコレオと同じ推察に辿り着く。
「そうか。灰狐のハーフビーストを惨殺して回っていたのは自身に流れる血への恨み。同時に、ルベアは同じ立場、同じ血を引く、唯一の血縁者かもしれないのか」
だから、半獣人に対して敵対的な姿勢であるはずのマガリーは、ルベアに対して別の態度だったのだ。
会話の流れにミアが驚きのあまり、口元を手で抑える。
「で、でも、まだ真実とは限らないのでは?」
「もし、事実だとしたら……多くの命を奪ってきた魔獣使いとルベアさんは……」
それ以上、キオルティスは言葉にしなかった。誰よりもルベア自身が強いショックを受けているのだから。
不意に訪れた沈黙が恐ろしかったが、直後にマガリーが強大な魔法を行使する。
「人のことをあれこれと!」
頭上に轟々と出現させた炎塊から幾つもの球が全周囲に向かって放たれた。ミュルコレオと蟻亜人だけではなく冒険者にも降り注ぐ。
しかし――ルベアにだけは当たらなかった。
「なんで……よ……」
けれど、混乱しているのはマガリーも同様だった。
「煩いのよ!」
頭を左右に振りながら叫ぶと、戦場から離脱するように走り出した。
ルベアは追いかけようとしたが狼型魔獣が行く手を塞ぐように邪魔をする。そこへ蟻亜人共の猛攻。戦場は完全な乱戦状態となった。
その中を低い姿勢でキオルティスが疾走する。逃亡するマガリーを追跡する為だ。
「後は頼んだよ」
マガリーが離脱してしまえば、残された狼型魔獣は全滅必至だろうし、そこに割り当てられていた蟻亜人の戦力が全て冒険者側に向く事になる。キオルティスが抜ければ戦いは更に厳しいものになるだろう。
極めて危険な賭けだったが、キオルティスはその後、無事に役目を果たす事になった。
●
最後の足掻きとばかりに暴れ回る狼型魔獣は冒険者と蟻亜人を区別なく襲い掛かってくるし、蟻亜人も優れた身体能力を活かして冒険者達に挑んでくる。
「スキルに依存しなければ戦う事自体には何の影響も無いな」
ナハティガルが左右の短剣を素早く繰り出し、蟻亜人の一体を葬った。
使用回数が設けられているスキルでなければ女王物質を受ける事はないのだ。
「俺達の目的は領都からの援軍が出撃してくるまでの足止めだ。無理する必要はない」
冒険者達にとって長期戦が不利な形とはなっているが、ナハティガルはあえて声を大にして告げる。
味方の士気を保つと同時に、ミュルコレオに伝える為だ。
武装蟻亜人が授恵者並みの戦力を有していても数では圧倒的にレルドク軍が勝っているのだ。野戦になれば蟻亜人達の勝機はゼロだ。
「忌々しい、ゴブリンな事だ。あの街は住民すらヒューマン主義なのだぞ」
「下らん話だ」
ミュルコレオの言葉を一蹴したナハティガルは手を止める事なく、次の獲物に対峙。
援護するようにシルヴィアの魔法攻撃が放たれ、ミアが蟻亜人の攻撃を受け止めた。
「範囲攻撃の回数に制限があるのは苦しいですが、攻撃手段がなくなった訳じゃないから」
「回復魔法は私達で節約しながら使います」
乱戦になった後、ヒーラーの活躍は目覚ましかった。後は領都からレルドク軍が出撃すれば冒険者達の勝利条件は達成する。
この戦況、煮え切れないのは蟻亜人達の方だろう。
「ミュルコレオと戦う時は、可能な限り挟撃したい所だけど……この状況だと難しいようだ」
戦力が不足しているのは冒険者側も同じ。
突破口が見いだせればと思ったが、ミアの精神感応阻害は通じなかった。
「蟻亜人への命令は……支配とは違うようですし……」
しかし、一つ分かった事はある。それは寄生魔獣の支配と蟻亜人の支配は別という事だ。ミュルコレオ自身が蟻亜人の特異個体である以上、蟻亜人達は家来といった認識なのかもしれない。
ルベアは衝撃的な話の後だったが、戦闘中である事が幸いした。今は戦闘に集中しなければならないからだ。次から次へと迫って来る蟻亜人の攻撃を避けつつ、ミュルコレオへと近づく。
「……アナタもアナタで分からないけどね。ヒューマン全てが異種族の敵じゃないのに」
「では、認識を改めよう。生存競争相手だと」
「そうじゃなく――」
返した言葉を言い切るよりも前に奮戦を続けるアーテミシアが割って入る。
「止めとけ。そいつらには無駄だ」
アーテミシアは戦槌を叩きつけて転がった蟻亜人を蹴り飛ばし、ミュルコレオへと肉薄した。
「テメーの芸が回りくどいって事はわかった。純粋なパワーじゃなくて安心したぜ!」
「そなたの分かりやすい行動は好ましいぞ、『耳長』」
「『耳長』じゃねぇって言ってるだろ!!」
残しておいたエーテルを絞り出して、渾身の一撃を放つ。
受け流しつつ間合いを取ったミュルコレオ。多少のダメージは通ったようだ。
「その闘志を、わらわは称えよう。そして、理解するがいい。わらわとそなたの力の差を」
ググっと手に込めた何かを幾つか放つと、それらは瞬く間に成長して人の形……いや、ミュルコレオを模した。
「分身か? いや、分体か!?」
咄嗟に防御姿勢を取った。防御系スキルを温存していなければ、アーテミシアは分体共の一斉攻撃で取り返しのつかない結果になっていたかもしれない。
辛うじて立ち続けるアーテミシアの目は不敵に笑っていた。
「……ま、運がなかったな?」
言葉の意味を確認するように、ミュルコレオは領都の方に視線を向ける。
土煙を立てながら、レルドク軍が一直線に向かって来ていた。
「そなたら、命拾いしたの。しかし、幸運はいつまでも続かぬぞ」
捨て台詞を吐くと、ミュルコレオは蟻亜人らと共に地中へと潜り消え去っていくのであった。
マスターコメント
ショートシナリオ難しい 報酬:多い6 / 4〜6人
2023年08月09日 12時01分22秒 公開
相談掲示板
シーフのルベアよ、よろしく。 まず前提として、乱入して三つ巴を仕掛けるか、どちらかと共闘を持ちかけるかというのを決めておかないといけないと思うんだけど…。 あくまで個人の気持ちとしては、共闘はどっちとも嫌。 どちらとも、考え方ややってることは放置してていいものじゃないと思うし、加えてマガリーについては…ね。 ただ共闘より三つ巴の方が明らかに難易度は高いのは分かるし、「そうすべき」という理由があるなら共闘を持ちかけるというのもアリだとは思う。 …その場合、私は自分の気持ちに蓋をすることになりそうだけど、それはそれとして。
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 前作の商会の元従業員は絶対ヒューマン主義に反した者だった、という事かな。 >方針について 私は今回、ルベアの意思を最優先にして動くつもりだよ。 マガリー・アフレはルベアにとって仇敵。共闘は心情的に不可能だろう。 また、「(PL情報)冒険者が様子見に徹した場合、狼型魔獣とマガリーが敗れます」「(PL情報)冷気を纏う狼型魔獣は人を餌として繁殖・飼育され続けています」とある事から、客観的に見ても、様子見に徹した後にマガリーを討つのが良いのではないかと思っている。 今後狼型魔獣の被害者を増やす訳には行かないし、マガリーとレルドク領主の繋がりも明らかにできるかもしれない。 ミュルコレオについて、私達は殆ど能力を知らない状態だ。 「様子見に徹した後にマガリーを討つ」のはミュルコレオとの共闘ではなく、あくまで敵同士で削り合って貰い、情報を得たところで確実に倒すイメージだよ。それなら三つ巴となっても多少難度は下がるだろう。ミュルコレオが深手を負っているなら追撃も出来るかな、って。
キオルティス。今回も宜しくね。また悩ましい依頼が出たものだね。 まずは感情論を抜きにして。 どちらかに与すべきならば、マガリーと共闘するのがベストだと思う。 俺たちは領主からの協力要請の許、蟻亜人の足止めをすべきだからね。 マガリーを無事な儘で今後も泳がせることで、繋がる領主との関連性も 分かることももう少し出て来るだろうとも思うし。 ただ。イェルドさんの賭けに乗ってみるのも悪くないと思ってる。 シルヴィの言うどちらにも与せず『手負いのマガリーを討ってしまう』 このパターンだね。 巧く行けば蟻亜人は撤退、マガリーは討伐って形も可能かもしれない。 但し、これはレルドク領軍が出撃して来るまでに事を全て終わらせる、 その必要が在ると思ってる。 マガリーとレルドク領主は繋がっており、その二者と蟻亜人は反している。 その状態で蟻亜人=ミュルコレオ<マガリーを先に討つと言う場を見られるのは 得策じゃないのではないか、と俺は思っているんだけれど、どうだろうか。 様子見するにしても状況が重要になって来るな、と思っているよ。 暴徒がどれほどの勢いで暴れていて、尚且つ、鎮圧に時間が掛かるか。 蟻亜人たちとの戦場へのレルドク領軍の内偵や様子見してくる者の有無。 マガリーから情報を引出せるかどうか。 討伐後のマガリーを完全に俺たちの手中に収められるか。 この辺りが確実でないと、今後の領内での動きへの影響を考えておいた方が 良いかもしれないな、と思ったりもする。 ただ。心情を加味した上であれば、俺はシルヴィの意見に大賛成だよ。 ルベアさんの心を乱したくはないとも思ってる。
連投ゴメンね。 どちらに与する、もしくは三つ巴になるにせよ。 少しの間は様子見をして、マガリーとミュルコレオ、双方の戦い方や 攻略法を見出す時間は必要かな、とも思っているよ。
ヒーラー、ミア=リゼルです。よろしくお願いしますね。 共闘の部分をどうするか、やはり決めておきたいところではあるのですが、それはおそらくこの依頼の主要な問題ではない…と思います。この問題に固執すれば本質を見失うでしょう。 共闘はあくまで可能性として示唆されているのみ。であれば「消極的選択」も視野に入るかと思われます。というより、心情も鑑みるのであれば個人的にはこれが最善手…という気はしますね。 つまり、目的をミュルコレオさん討伐、あるいはそれに準ずる成果を得ることにのみ絞り、マガリーさんについては「保留する」ということです。状況を傍観するか、我々に加勢するかをマガリーさんに選択させる…ということですね。 共倒れを狙われそうであっても、我々にとっては軍の到着までの防衛戦になるだけですから。
ウォリアーのアーテミシアだ。 両方ブッ飛ばしたいならそれでいいンじゃねーの? ちと面倒だけど出来ないわけじゃないだろ。オレはそっちのが楽しめそうだ。 ミュルコレオでもマガリーでもドラチャリが効くなら『相手の集団側にブッ飛ばす』ことができりゃグッとラクになるな。 どういう手で来るにしても消耗は強いられるな。 オレは相手に対して何のしがらみも面識もねーから、どっちか片方を叩くにしてもどっちでも構わねえぞ。
シーフのナハティガル=ラーだ。――今回も宜しく頼む。 >方針について とりあえず感情面でのあれこれは置いておくとして。 今回の依頼において最悪の事態とは『レルドク領都が蟻亜人に制圧される』事であり、俺達はそれを回避する為に立ち回る必要がある。 具体的には既に述べられているように、レルドク領軍が出撃するまでの間、狼型魔獣とマガリーが撃破されないように(あくまで矢面にはマガリー達を立たせながら)加勢するのが妥当かと。 全体の勝敗が決した後、弱っているマガリーを討つor捕縛する事に関しては反対も賛成もしない。 個人的には『状況的に可能なら』狙ってみるのも有り……と思うくらいだろうか? ただマガリーはレルドク領主に雇われている為、討伐や捕縛には理由が必要と思われる。
皆、色々な意見をありがとう。出来る限り最善の道を探したいところだね。 確かに私達の今回の任務は「蟻亜人の対応をし、領都に侵入させない事」だ。 蟻亜人=ミュルコレオ<マガリーを先に討つと言う場を見られるのは得策じゃないし、マガリーを討つにしても理由が必要になる。今後領内で動けなくなったら困るというのも同感だよ。 前回の依頼で「レルドク領は度々魔獣の脅威に晒されていた事。若い頃は領主自ら魔獣狩りに勤しんだ事」は領主の口から直接聞いている。「戦場に向かったら蟻亜人と魔獣が戦っていた。蟻亜人の足止めは勿論、レルドク領の為にも魔獣と魔獣使いは倒すべきだと思った」とでも言えば、マガリーを攻撃する理由については何とかなるかな?と思う。 ただ、問題はマガリーと領主の繋がりを明らかにする方法……皆の話を聞いて、今回マガリーを討伐すると証拠を掴めなくなってしまう危険性が高いと思った。 ミアやナハティガルが言ってくれたように、マガリーを(共闘はしないけれど)矢面に立たせ、ミュルコレオと蟻亜人対応をするという方針で行く。マガリーはキオが言ってくれたように泳がせて領主との繋がりを探る、というのが良さそうだと思ったよ。魔獣を飼育する場所が何処かにあるなら探し当てないとだしね。ルベアの意見も聞かせて貰いつつ。
>マガリーを泳がせる そうね…。 シルヴィアさんが言っている通り、領主との繋がりも明らかにする必要はある。 そう考えると、討伐するのは今じゃない、かな。 矢面に立たせておけば、こちらに割くリソースの余裕はマガリーにはないと思うし…。
ルベア、承諾してくれて本当にありがとう。 マガリーを討つ機会は必ずあると思う。その時を待とう。 >方針 『マガリーを(共闘はしないけれど)矢面に立たせ、ミュルコレオと蟻亜人の対応をする』『マガリーは泳がせて領主との繋がりを探る』で良いかな? 補足や別案があれば遠慮なく言って欲しい。 >戦闘について ミュルコレオの能力については不明だから、まずはミュルコレオとマガリーの戦闘を見ておきたいな。ただ、二人とも序盤は後方で互いに牽制している様子。私達はまず、蟻亜人の撃破をした方が良さそうだ。 私は今回、魔法攻撃と回復スキル主体で行く予定だよ。
んー、そいじゃミュルミドン連中相手にするってことでいいのか。 オレは構わねえぞ。 とりあえずは陣形を整えながらゆっくり近づいて後は成り行きまかせか?
>方針 シルヴィアが述べているように、 ・マガリーを(共闘はしない)矢面に立たせ、ミュルコレオと蟻亜人の対応をする ・マガリーは泳がせて領主との繋がりを探る 上記の方針で異論はない。 >個人 序盤は戦術眼で戦況観察。(同時にミュルコレオ、マガリーの能力を探る) マガリー陣営の形勢が悪くなって来た頃を見計らい、狼型魔獣とマガリーが撃破されないように真トリプルファング等で蟻亜人を攻撃して加勢。 ……現状では上記のような行動を予定している。
>方針 俺もシルヴィの示してくれたモノで問題ないよ。 マガリーを泳がせる件については言い出した身として 俺の方のプレの方に記載しておくね。 >行動 両敵の攻撃方法なんかの観察をしつつ、戦況を見計らって マガリーが出し惜しみしない程度に加勢。 あとは蟻亜人が俺たちの防御線を抜けないように 行動する予定だよ。 蟻亜人に地中から抜けられるのも御免被りたいからね。
私もその方針で問題ありません。 具体的な動きについては、今夜書き込みますね…!
お待たせしました、背後が帰宅後うっかり眠ってしまっていて… 持ち込むスキルは、そうですね…特性はインフィニティロアを。長期戦になりそうであれば繋ぎにと考えています。またコモンブラッド+防御バフをご用意しますね。残りは解呪、回復をつめて堅固継戦に備えます。
間が空いてしまって申し訳ない。 キオ、マガリーを泳がせる事についての記載感謝だ。とても助かるよ。 『マガリーを(共闘はしないが)矢面に立たせ、ミュルコレオと蟻亜人の対応をする』については私のプレで全体方針として書いておくね。 >個人行動予定 蟻亜人が領都に入らない事を最優先に動く予定。 と同時にミュルコレオとマガリーに削り合って貰えるよう、戦力が均衡になるよう意識して蟻亜人を攻撃するよ。 ミアがインフィニティロアとコモンブラッドを持って行ってくれるなら、私はハイパーヒーリングオーラを持って行こう。もう一つの特性スキルについては考え中だ。 ミュルコレオの能力は「授恵者は全力が出せなくなる場合がある」……毒蟻という可能性もあるのかな。一応解呪も持って行くね。
とりあえずオレはミュルコレオを抑える程度の事はしておく というか、それくらいしかヤルことねえな。後は接近してきた雑魚を叩く位だな。 直接戦闘以外のことは任せるわ
アーテミシアも方針に承諾してくれてありがとう。 最初はミュルコレオも後方にいるようだから、戦況を見つつ、彼女を引きずり出す為にも雑魚(蟻亜人)から倒す方が良いかもしれない。 アーテミシアは今回唯一のウォーリアだ。戦闘面・火力面でも頼りにしている。よろしく頼むよ。