【突壁】武器求める餓鬼の群れ

馬車猪

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シナリオID:3077

オープニング

 好々爺として知られるドワーフ鍛冶が怒りで全身を赤く染める。
「あのクソ鍛冶生きてやがったか!」
 孫弟子にも丁寧語で接するのに今は怒声で耳が痛いほどだ。
「このっ」
 鑑定を依頼されたハンマーを睨み付ける。
 言葉にするのもおぞましい素材と製法が使われている品だ。
 使い手に要求される格(レベル)はかなり高く(推定LV70)性能も相応。
 技術だけ見れば極めて高品質であった。
「本当に腕だけは良かったんだがな」
 肩を落として息を吐き出す。
 怒りの勢いは衰え、ハンマーを目にする前より明らかに老け込んで見えた。
「まさかシグルラン様より優れた鍛冶が?」
 鑑定を依頼した冒険者ギルド職員の顔には、驚愕と恐れが浮かんでいる。
「いや全然」
 よたよたという擬音をつけたくなる動作で椅子に座る。
「年齢と伸び代を無視して比較しても嬢ちゃ……ではなくてシグルラン様の方が上だった。今は差がもっと開いているよ」
 老ドワーフは穏やかに語るが目は冷ややかだ。
「才能の差か性根の違いかは知らんが外道に手を出した程度では追いつけない。……世に害をもたらすには十分な腕と性格なのが問題だがね」
 腕は私より上だ、とドワーフ王国の中でも十指に入る凄腕鍛冶が言い切る。
「このハンマーを造った場所はおそらく……」
 製法を後の世に残す必要はないので徹底的に破壊してくれ、と老人は強く願うのだった。

●
 ヴィントからかなり離れた、分類としては帝国南西部。
 住民の避難が終わってから誰も戻っていないはずの町(場所)に、古びてはいるが現役の雰囲気がある工房があった。
「凄い。これほどの武器が」
「それは俺のだ!」
 荒んだ、という表現ではとうてい足りない雰囲気の男女が武器を奪い合っている。
 どれも威力はありそうだが作りが荒く、研究と開発のための試作品(改善点を見つけるための半ば意図的失敗作)という感じだ。
 冒険者なら手に取る前に「それより確実に良いのがありますので……」と職人や商家の人間に声をかけられるような、使い手のことを考えていない品でもある。
(ひっでぇことになってんなぁ)
 もとは町の壁だった残骸にリットが入り込んでいる。
 新進気鋭の帝国代官(まだ見習いです)であるはずなのに、顔も服も薄汚れた格好が非常に似合っている。
 薄汚れ具合では相手も大して変わらない。
 棍棒?(剣っぽい)やハンマー?(とにかく重そう)を振るときの速度と正確さを見れば、相手の1人1人がリットより格上であることは確実だ。
 しかしリットは違和感に気付いている。
(たしか武器は馴染ませないと良い武器もなまくらっぽくなるんだっけか)
 冒険者が結構気軽に使う竜鉄製武器は、希少な素材と高度な技術と人類社会から許容が全て揃って初めて手に入れられる武器だ。
 冒険者は圧倒的な実績で勝ち取った(初心者にはかなり高額かもだがそれはそれ)。
 メドゥの指先のような人類社会の害悪には、冒険者と同じような入手方法はない。
 下級幹部ですらない指先は特にだ。
 工房にたむろす指先達は非常に強く見えるが、実際は格(レベル)の割に装備の質が低く、手に入れた武器もまだ馴染んでいないので重りにしかなっていない。直前に手放した武器を使った方が数倍強いはずだ。
(これなら俺でも勝てそう……やっぱ無理)
 数も質もリットとその仲間達より上だ。
 リットは大人しく、冒険者が来るのを待つことにした。

●
「討伐依頼です」
 冒険者ギルドの職員は真剣だ。
「メドゥの指先の関連施設が発見されました」
 小規模な実験場兼工房であり、既に主要な人材は退去していると思われる。
 しかしその場に残された装備の性能はかなりのもので、放置すれば格(レベル)の割に装備が貧弱なメドゥの指先構成員が大幅に強化されねない。
「どうしてこうなっているかは分かりません」
 メドゥの指先の幹部が悪名高いドワーフ鍛冶と組んで何かをしているのでは、と帝国やドワーフ王国が推測しているがまだ推測の段階だ。
「いずれにせよ、法的にも倫理的に問題がある武器が生産され、その一部が放置されているのが事実です」
 地図を広げる。
 帝国南西部にある放棄されているはずの小さな町、正確にはその壊れた壁の近くにある大規模工房だ。
「現地の授恵者が見張りをしているはずです。至急現地へ向かい、討伐をお願いします」
 職員はそう言って、静かに頭を下げた。

解説

●目的  新しい武器を手に入れはしゃいでいるメドゥの指先構成員の討伐 ●戦場  無人の町にある無人の工房  鍛冶場と倉庫が開け放たれていて、建物の前にある平地に武器が根こそぎ運び出されています  嗅覚に優れた人は、土地と建物にこびりついた死臭に気づけます ●敵 ・真新しい剣や棍棒やハンマーを装備した男女  6人います  冒険者に気付くといがみ合いを止めて連携して迎撃(可能なら包囲)しようとしますが、武器がまだ馴染んでいないことに気付いて帯剣している剣に持ち替えようとします。そのときかなり隙ができます  レベルはかなり高めで、全員ウォーリアです ・古びた杖とローブを装備した老年のヒューマン男性  新しい武器に手を出さず周囲を警戒しています  レベルは飛び抜けて高く、とても強い冒険者とゴブーナの中間あたりです  しぶといタイプです ●他 ・ゴブーナ  とても悪い人  「長生きな戦闘狂ゴブリン」とだけ覚えておけばOKです  冒険者が戦闘開始してから、いつの間にかリットの近くに現れてリットを観察しています  構成員の戦闘の勝敗には興味がないようです  妙にやる気になっていて、冒険者が誘うと生死を賭けた戦いが始まりますが誘わないと考えごとをしながら去って行きます ・リット  現地の人  「冒険者より力も頭も弱い授恵者が役人っぽい仕事をしている」とだけ覚えておけばOKです  基本的に冒険者の指示に従おうとします。指示がない場合は戦闘には直接関与せず警戒を続けます ・オープニングに登場したハンマー  鎮魂の儀式を行った後に封印または破壊される予定です  現在は安全な場所に保管されていますが、冒険者がこの依頼に持ち出そうとしたら許可は出ます  奪われると危険かもしれません

マスターより

 初心者歓迎!  それ以外も歓迎!

リプレイ


●
「準備を十分に整えての奇襲で行きたい所ですが」
 フリーダ=ブロムヴィストは神材を使った剣盾鎧の重武装なのにとても速い(移動4&INI28)。
 しかし白銀に輝く武具は結構目立つ(隠蔽が43)。
「1番の注目を浴びないのはひさしぶりかもしれませんね」
 シルク・メイプルリーフの発言は傲慢に響くかもしれないが実際は控えめですらある。
 圧倒的な美貌と健康と理性を融かす(とろとろにする)色気は、あと少し成長すると本格的に人外の領域に到達してしまいそうだ。なお彼女も結構目立ってはいる(隠密は34ある)。
 6人もいる敵の前衛(高レベルの賊)は、使い慣れぬ武器とは対照的に使い込んだ防具を身につけている。
 シルクがもたらした加護(ピンク光)で強化された上に攻撃特化の構えをしても、レピド・クロサイトの攻撃力では短時間では攻めきれない。
 しかしレピドは冷静だ。
(新武器に浮かれて隙を晒した相手に刺激の強い冒険者を2人当てると……やはりこうなるか)
 ほんの一呼吸待つことで6人(敵前衛)の混乱が拡大する。
(ここだ)
 これ以上待つと連携が復活するいう絶妙のタイミングで、レピドは6人を無視して(横を通り過ぎ)敵の唯一の後衛(キャスター)に迫る。
 特別な加速(チャージング等)はないが移動速度が素晴らしい。
 短刀(神材刀製)の間合いも闘気槌によって拡大し、一部の前衛(ウォーリア)が後衛(キャスター)を庇おうとしても範囲攻撃には対応しきれない。
 キャスターが表情を歪める。
 巨大光塊に飲まれる前にエーテルを展開して直撃を防ぎ、しかしそのときにはフリーダが目の前にまでやって来ていた。
「見た所工房の主はいない様子ですが」
 観察も攻防も1度にできてしまうのが熟練冒険者というものだ。
 盾を構えたままキャスターとは別のエーテルを展開したフリーダが、考えをまとめるだけにしては大きな声で綺麗に発音する。
(この盾と鎧はっ)
 吹き飛ばされる老人(キャスター)は、フリーダの装備から微かに漂う気配に驚愕して着地の体勢を大きく乱した。
「啓示によれば『弘法筆を選ばずとは言いますが、相手は弘法では無いのでサクッと倒しましょう』との事です。
しかし『弘法と工房で二重にかかりました』というのはあまり面白くはないと思いますよ?」
 どういう意図で言っているかは分かっても、はるか遠く(次元違いか時空違いかそれ以外は不明)の文物については理解しきれない所もあるフリーダであった。

●
 賊は、今からでは上司(老キャスター)を直接助けることは不可能と判断し、新武器を諦め生き残るため敵(冒険者)の後衛を目指す。
「なンだ、随分とお楽しみだったじゃねえか。もういいのか?」
 アーテミシアは跳んでくる(チャージングしてきた)ウォーリアを迎え撃つ。
 賊の剣は鋭く重く、結構な鎧も中身ごと貫く威力がある。
「は、おもちゃを取り上げられたガキみてぇだな」
 籠手(シールドガントレット)を巧みに操り(で装甲防御を行い)受けて耐える。
 鍛え抜かれた技と体、そして洗練されたスキル(エーテル運用)は巨大な威力とぶつかっても折れはしない。
 アダマントボディの効果もあり実害はかすり傷程度だ。
「……おもちゃで満足しとけばよかったのによ」
 アーテミシアは、ハンマー(竜骨の戦槌)を片手で器用に操り真上から振り落とす。
 賊の防御は間に合ったのに衝撃で剣が揺れ膝まで揺れる。
「こンな血の臭うところでやってる辺り、シロートと大差ねえな?」
 挑発7割、事実3割の言葉をぶつけて観察する。
(そろそろか)
 光がのたうち狂える大蛇のごとく荒れ狂う。
 見るだけで痛みを感じそうな光景であるのに痛みはなく、移動を邪魔する効果だけが空間に染みつく。
「とまれ先ずは敵の排除からなのだ」
 ストレガ・L・リベルガストラは淡々としている。
 雷蛇大禍(エルヴォルテクス)は素早く(サブ行動で)行使可能な術であり連続(メインとサブで)行使も可能だ。
 6箇所の移動阻害オブジェクトは対抗手段を持たない者には致命的とすらいえる。
 古参構成員らしい指先達が、まともな連携もできずに個々の戦いを強制されていた。
 それでも戦歴だけなら冒険者の大部分を上回る彼等(指先達)は今回も生き延びる自信があった。
 だが1つの足止め空間(オブジェクト)を抜けた直後に霧に包まれ数秒で雷を天から浴びせられる。
 雷としては威力は弱く、しかしまるで落雷のタイミングが分かっていたかのように冒険者が攻めてくるのが最も恐ろしい。
「良い武器に心を惹かれるのはわからんでも無いが、それで警戒が疎かになってはな」
 直前の霧と雷の原因であるフェイサル・セイフはこの時点では治療(ヒール)に事実上専念している。
 敵の格(レベル)は高い。
 反撃は強力で、ヒールという援護なしでは万一が有り得た。
「――教育してやるとしよう。代価は高くつく事まで含めてな」
 賊に酷く汚い言葉と口調で挑発されてもフェイサルは揺るがない。
 剣や槍が引き起こす衝撃波が飛んでくる状況でもアルマ・ヴァレンタインは普段通りの態度だ。
 神材製の防具(胸当て)や授恵者としての格(レベル)の強さもあるが、1番の理由は本人の精神力と正確だろう。
「狙われてるー……!」
 武器が祭刀(神材製)なので分かり易いのかもしれない。
 結構な前衛授恵者でも防具ごと削り殺されそうな攻撃は2人から3人分アルマへ集中。
 強い生命力とかなりの防御を誇るアルマは気絶することすらなく耐えて、フェイサル(堅甲で支援もしてくれた)によるヒールで一息つく。
 お互い能力が高いので余程の特化型でない限り隠密(隠蔽・奇襲)は通じにくい。
 判断能力も地力もあるので前衛後衛の境も曖昧になる。
「いまのは危なかったぞー……!」
 だからアルマは正面から殴り返す(反撃する)。
 極めて強力な治癒能力を支える力(魔力&物理)も極めて強力であり、種類としては単なる光の矢(エーテルアロー)が必殺技(特性スキル)じみた威力で巧みな防御をこじ開け中をえぐった。
「うわあぶなー」
 反撃が来る。
 黄金色の光を残して慌てて回避する。
 敵も弱くはないしむしろ非常に強い。
 アルマの魔力が抜群に高いのは事実だが、ウェイブ・オブ・インフィニティロアの助けがなければもう少し苦戦していただろう。
「俺場違いじゃない?」
 ディレイン・オールドケイジの言葉は気弱で、対照的に行動は合理を極めている。
 常に距離をとって戦う。
 攻撃するのは実体の刃(祭刀)ではなくそれを用いて生じさせた不可視の衝撃。
 敵味方が動き続ける状況では攻撃の機会がないときもあるが、敵と比べれば近くにいる味方をスキルで癒やす機会は常にある。
「どこで何をしてあれだけ鍛えたんだか」
 察してはいるが口には出さない。
(あのハンマーっぽい武器が転がってるね。……よほどろくでもない作り方されてたってわけだ)
 物理的な死臭だけでなく場所の気配が死に近い。
(で、その試作品を手にして喜んでるのがあいつら、と)
 武器による範囲攻撃がディレインを巻き込むが対単体攻撃とは違って威力は極端には高くない。
 味方を巻き込む広範囲回復術(ハイパーヒーリングオーラ)と素早い回復術(サイドヒール改)でディレインは自身の体調を万全にする。
(武器は持って帰って、ハンマーと一緒に鎮魂の儀式やってもらわないとね)
 祭刀を構え直して賊に視線を向ける。
 それは微かな動きであり、同時に強烈な挑発になっていた。

●
 格(レベル)の差があっても装備の質が逆なら差は縮まる。
 得意分野が違うなら、有利不利が逆転してしまうことだってある。
「お見事です」
 微かに息を乱したフリーダの前で、防ぐ手段も逃げる手段も全て失ったキャスターが倒れ伏す。
 フリーダは無傷に近いが状態異常に耐え続ける戦いは過酷だった。彼女でなければそこから冒険者の作戦が破綻していた可能性すらある。
「これでキャスターか」
 1つの煌めきにも見える3連撃を繰り出した直後のレピドが、彼としては非常に珍しく驚きを露わにする(声に微かな興奮があった)。
 完全に追い詰めてから5秒ほどしぶとく抵抗(防御と反撃)された。
「危なかったな」
 反撃を躱せはしたがそれがフリーダの援護があったからだ。
 この老人、格(レベル)は間違いなく高かった。
「指揮官は粘り強さが長所だったか」
 敵キャスター(凶悪な状態異常と回避)とフリーダ(凄まじい術抵抗)を見ていたフェイサルはそんな感想を口にする。
 作戦がうまくいったのは冒険者だが流した血は同程度。
 しかし顔色は明らかに冒険者の方が良い。
 フェイサル達ヒーラーが非常に良い仕事をしているのだ。
 フェイサルは、敵(ウォーリア)が地面の得物(新武器)に気をとられたときなど自身への回復をやや軽視してでも攻めかかる。
「お前達はどうだ? もう少し気を張ってみろ」
 ダマスカス鋼の盾で反撃の斬撃を防ぎながらフェイサルは静かに言葉を投げかける。
 まだ戦闘が始まって30秒も経っていないのに、決着は近そうだ。
 青藍に光る鎖がウォーリアに絡みつく。
 この足絡之呪(スネアアンカー)は長射程の状態異常(移動阻害)であり、付与術の達人であるストレガが使うと戦場に決定的な影響を与える。
「気付くのが遅いのだ」
 最初は最も離れた目標に、徐々に自らに近づけ最後(4人目)がこれだ。
 敵(ウォーリア)の対術抵抗も低くはないがストレガの付与術には全く歯が立たず時間切れを待つしかない。
「シスターブリーカー!」
 典型的後衛(ヒーラー)に見えるシルクを人質にしようとしたウォーリア(足止めされていない2人のうち1人)は、凶悪とすらいえる祝福と過激ともいえるデザインのローブを着こなすシルクに大地に沈められている。
 渾身の一撃(棍棒)がアーテミシアの背後から振り下ろされる。
 気配を感じて体の向きを変えて装甲で受けるがこの戦場で始めて受ける強い痛みがある。
 引きつった表情で勝ち誇る賊とは対照的に、アーテミシアは微かに眉を動かした後向きを変えずに直進(チャージング)する。
「お前ら鈍ってるぜ」
 訓練と実戦と休養をバランス良くとれていたならアーテミシアももっと苦戦していたかもしれないが、官憲から逃れるために労力を費やす賊(メドゥの指先の下っ端)にそんな余裕はない。
 進路を変えて鎧袖一触(ドラゴンチャリオット)で最も元気な賊を吹き飛ばす。
 賊側の連携は完全に崩れ、まだ生きているのに完全に死に体と(圧倒的な不利な体勢に)なった。
「……降伏は、しないか」
 移動ができない相手を、レピド達は1人ずつ処理していった。

●
(すっげー)
 リットに隠密の適性は皆無だが、油断はせず無駄口を叩かないという真面目さはあった。
「そうだな」
 だから、脳内でだけ発した言葉に返事があった瞬間頭が真っ白になる。
『君には周囲の警戒をお願いしたいんだけど、もし何か見つけても、絶対にひとりで向かっていかないでね。まずおじさんたちに伝えるようにして。もうひとりの体じゃないんだから……ってこれ語弊があるな』
 世話になったおっさん(ディレイン)からの言葉を思い出せたのはただの幸運だ。
 考える前に市壁の残骸から飛びだし、冒険者に向かって全力疾走して息が切れてきてようやく自らの状況に気付いてディレインに深く感謝する。
(逃げたいけど背中見せたら危なそうだなあ……)
 リットを背中に庇い、ディレインは肩をすくめていた。
「そのトシでソッチ方面に目覚めたとか言わねえよな、オイ。年齢差がありすぎて犯罪だぞ」
 死臭と血臭が漂う戦場で、アーテミシアはゆっくりと近づいて来るゴブリンに目を向ける。
「それもありか」
 ゴブーナ(メドゥの指先幹部)は怒りも恥ずかしがりもしない。
 結局このゴブリンは、自らの欲(欠落)にしか興味がないのだ。
「リット君はあげませんよ」
 シルクは戦闘用装備のままリットを背後から抱きしめる。
「許せるのは見ることだけです可愛いいですし」
 遠目で見ただけで男の性癖と人生をねじ曲げてしまいそうなエルフ美女による抱擁は、恐怖に苛まれたリットを色々な意味で熱くしている。
「独創的な苦行だな?」
 男女関係的な気配は感じられず、ゴブーナは本当に久々に困惑した。
「ゴブーナ様ですか。どうやらこの工房の店主は留守にしているようですが、なにかお求めで?」
 フリーダはいつでも戦闘を始められる体勢と心構えだ。
「たいした用はないよ」
 構成員の面倒を見るより、新たな強者(古参授恵者視点)の観察の方がゴブーナにとってははるかに重要なので当初の目的は忘れた。
「ひょっとして以前のハンマーを探しにきたのー……? とっくに回収済みでお焚き上げ準備が進んでいるよー……」
 アルマは言葉で反応を探る。
「それは私の注文したハンマーかもしれないな」
 ゴブーナはアルマの装備を注視している。
(神材装備未満の武器しか調達できてないー……?)
 アルマの推測は事実から遠くない。
 ゴブーナの視線が動く。
 見た目よりはるかに歳をとったゴブーナは、同じ種族のストレガを見て所属も性質もだいたいを察する。
 ストレガは敵意も好意も見せない。
(あちらも思う所があるようなのだ)
 ゴールディの知識階級に属するストレガは若かりし頃のゴブーナが何をしたかどんな性格だったかも少し手間をかければ調べられるし実際調べた。
(明確に敵ではあるがこの場で戦う理由はないとみるのだ)
 挑発されても応じない。
 相手にしないことで萎えさせて撤退させるという試みだ。
「我慢するのだ」
 恐怖と焦りで剣の柄に手を伸ばそうとしたリットを諫める余裕もあった。
 ゴブーナの気配と言動を観察していたレピドは、相手(ゴブーナ)が油断こそしていないが意識が内側に向いているのに気付いた。
「……何を考え込んでる?」
「老人は新しい情報を咀嚼するのが苦手なんだ。強くならないと思った者(リット)が強くなり、強くなると思った者達(冒険者)が予想外の形で予想より強くなる」
 ゴブーナは静かに、そして楽しげに微笑み歩み去る。
 死にきれずにうめく構成員には、全く意識を向けなかった。

●
「命乞いしか聞くつもりはない」
 フェイサルは暴れようとする賊を傷つけずに制圧する。
 その後は治療だ。
 命をつなぎ止めるために痛みが強い治療法と強い薬を使うことになるが、高位の授恵者なのでその点は問題ない。
(必ず助けられる訳ではないが)
 物資も限られているので、フェイサルほど医療と薬学に通じていてもこれが限界で最善だ。
 同じく医に通じているディレインはその知識と技量を少し違う方向に使っている。
「そっちも縛っちゃおうねー」
 絶妙な猿ぐつわで自決阻止。
 手足の指を拘束して自害だけでなく反撃まで封じる。
「持ち出せも破壊もできないなら埋めるだろう」
 レピドは宗波という特級の調査手段を持つだけなく、闇の中に棲む連中のやり方も予測できる。
「ここだ。……大きいな」
 マジカルポケットを使った安全確実な輸送を目指していたが、全ては無理そうだ。
「お馬さんと荷馬車に目一杯積んでぎりぎりー……?」
 アルマはレピドがマジカルポケットを使えると教えられほっと息を吐き、掘り出されたものを確認して納得すると同時に表情を曇らせる。
 建物前に運び出されていたもの(試作品)も酷かったが製造設備はさらに酷い。
(推測するに、武器の素材は凄惨な手法で殺害された人間の魂ではないかと思うのだ。おそらくホムンクルスの製法に似た外法。怨恨は力になってしまうのだ)
 ストレガは検分も報告書作成も同時に行っている。
(全部持ち帰って破壊してもらうのだ)
 この意見に反対する者は、真っ当な社会にはまずいない。
(手遅れの被害者か)
 フェイサルは黙祷する。
 これだけは予想が外れて欲しかった。
「良い武器は使い手を選び応えるがな、悪い武器は使い手を滅ぼすものだ」
 生産されていた武具の製法に繋がる資料等まで、確実に破壊するつもりだ。
「やっぱオモチャか」
 アーテミシアはうんざりとした表情で、最後の武器(試作品)を出発する荷馬車へ載せた。

マスターコメント

 お疲れ様でした。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 6〜8人

2023年07月11日 13時42分16秒 公開

普通

相談掲示板

  1. No.1

    シスターシルクです ゴブーナさんにはリット君はあげられませんので早々に保護しておかなければ。

  2. フリーダ=ブロムヴィスト

    ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 基本的には奇襲で一気に攻め込むのが良いかと思います。 ウォーリア達がいがみ合っている間に範囲攻撃で一気にダメージを稼げると有利に立てそうですし、 武器持ち替え中の隙を突いて大きく数を減らせると数的優位を狙えるでしょう。 懸念事項としては周囲を警戒しているヒューマン男性ですが、 こちらは抑え役を数名用意して抑えつつ、ウォーリア達を倒したら包囲して叩くのが良いかと。 魔法系なのか物理系なのかわからない点が不安要素ですが…… ゴブーナについてはとりあえず放置で良いかと思いますが、 リット様がびっくりして交戦開始……とならない様にしたい所ではあります。

  3. ディレイン・オールドケイジ

    ディレイン・オールドケイジ、ヒーラーだよ。よろしく。 おじいさんはウォーリアたちのお目付役なのかもね。 ヒーラーかキャスター…どっちにしろ手間かけさせてくれそうなのがなぁ。 まあ今回はこっちのヒーラーも多いし、回復を怠らずにいければ、ってところ。 範囲バフはシルクちゃんかアルマちゃんにお願いしてもいいかな? ゴブーナについては、おじさんは多分初見かな。 リット君には周囲の警戒を続けてもらって、変な人(ゴブーナ)を見つけたら教えてねって伝えとく感じ? 1人で向かっていくな、とは言いふくめておいたほうがよさそう。

  4. レピド・クロサイト

    レピド・クロサイト、シーフだ。よろしく頼む。 基本方針は奇襲で一気に、に異論はない。 ゴブーナに関しては俺も初見だな。 この状況だと特に戦う理由もないかな……という感じなので、積極的に戦いに誘うつもりはない。 何やら目をつけられてる?リットには気を付けないとだけども。

  5. アーテミシア

    ウォリアーのアーテミシアだ まあ奇襲かけて叩くのが一番か。ドラチャリで分断したりすればいいかもしれねえ。 あのゴブリン女がソッチ方面に目覚めたとは思えねえけど、相手するとなると総力戦だからなあ。ちょっちキツイか? やるならやってもいいけどさ。 あの武器ちょっと興味あンな…持って帰れねえか(

  6. ストレガ・L・リベルガストラ

    キャスター、ストレガなのだ。よろしくなのだ。 奇襲賛成。初手にアーケインテンペスト撒いてスネアジャベリンで足止めしようかと考えているのだ。 ゴブーナは報告書で知ってるが会うのは初めてなのだ。 ここで戦う理由はないと思うのだ。

  7. No.7

    ではウェイブ・オブ・インフィニティロアもどきを発動いたしますので受けられる方々は私の近くで少々お待ちいただければと思います(INIが低い) 相手にヒーラーが居なければ負けるようなことはないでしょうね

  8. アルマ・ヴァレンタイン

    ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー あたらしー武器でテンション上がってきた あると思います…それはそうとして奇襲でいいと思うよ 一応テレパス準備とボクも範囲バフもってくようにするね ついででゴブーナさんと戦うのはしんどいからパスに一票 話ができそうなら前回の厄はんまーの件を教えて 使い手(予定)がゴブーナさんだったのか答え合わせしたいなと 状態異常に強いと短時間なら持てるっぽいし 試作品とはいえ今回のもお持ち帰りしてお焚き上げに出したいところ…

  9. フェイサル・セイフ

    フェイサル・セイフ、ヒーラーその4だ。 今回は宜しくお願いする。 良い武器に心躍らせるのはわからなくもないが、それで常在戦場の心構えが揺らいでは、な。 素早く態勢を整えて奇襲に異存は無い。 ヒーラーも多いし、私も範囲攻撃を持ち込んでいこう。 して、ゴブーナか。 私も名前は聞いた事があるが、会うのは初めてだな。 特に戦闘を仕掛ける理由も無いと私も思うが、他にも何かやりたい事があるという人はいるのかな?

  10. ディレイン・オールドケイジ

    奇襲で決まりかな? シルクちゃんとアルマちゃんは、範囲バフ持ち込みありがとう。 おじさん自身は、おじいさんがキャスターだった時用に範囲ヒールを持ってくつもり。 もしおじいさんがヒーラーだったら…なるべくウォーリアから離して先に対処しちゃいたいとこではあるかな。 ゴブーナに関しては、戦闘にだけはしないでほしいけど、みんなにお任せするよ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0