盗まれたお洋服!! 王都に芸術仮面現る!
おおくまねこ
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オープニング
「あれ? 私のお洋服がない? たしかにここに入れていたはずなのですが……」
その日、パンクリアース学園第三演劇部のマリリン・クリニエーラは劇のお稽古を終え、私服に着替える為に更衣室に戻ってきていた。しかし、なぜか、ロッカーのカギが開いており、中に入れていたはずの自分の洋服がなくなっていることに気付いた。
「あ、私の服もないわ!」
「ボクのもない!」
洋服が盗まれたのはマリリンだけではなかった。性別や種族を問わず、第三演劇部員の洋服が合計十着ほど行方不明になっていたのだ。幸いなことに下着や財布などは取られておらず、洋服だけがなくなっていた。
「ともかく、先生に知らせましょう。被害届を出さないと」
「うう、あの青のワンピース、お気に入りでしたのに……洋服泥棒、許すまじ!」
マリリンの背中からは、怒りの炎が立ち昇っていた……。
●
「ふむ、それは奇妙ですね……分かりました、事件として受理しましょう」
第三演劇部の被害者一同と部長のラティオが被害届を出しに行くと、教務主任のラミアスは神妙に頷いた。事情聴取を行い、学園生達を退席させた後、ラミアスは事務職員のウィーズルを呼び、ため息を吐いた。
「これで、三件目ですか」
「パンクリアース学園で洋服泥棒……ずいぶん、太い奴もいたもんッス。外部犯じゃなさそうッスよね」
パンクリアース学園は「貴族の為の学校」である。平民が貴族の私物を盗めば(盗んだのが家宝とかパンツとかじゃなくても)、死刑すらあり得る。そもそも、セキュリティも厳重なので(学園の警備員は退役したリーンエス王国騎士である)、コソ泥の類は敷地に入ることすら不可能だ。
「ええ、犯人はおそらく、学園内部の人間……そして授恵者でしょう。ウィーズルさん、あなたの意見を聞きたい。犯人はどんな人物だと思います?」
「普通に考えると聴講生が一番怪しいッスから……そう思わせたい、貴族派の誰か、じゃないッスかね。貴族や豪商の子女がお金に困って物を盗むとは考えにくいですし、学園の関係者じゃなきゃ、そもそもこの学園には入れません。盗まれたものの特徴的にも、金銭的な理由での犯行じゃなさそうですし……『開かれた学園』の方針に不満を持つ誰かなんじゃないかと」
ウィーズルの答えに、ラミアスは頷いた。
「ふむ。私もその線が一番可能性が高いと思うのですが、一つ腑に落ちない点があります。犯人はなぜ洋服だけを盗んでいるのでしょう。窃盗疑惑で学園を混乱させたいなら、洋服を盗むのは中途半端な対応に見えるのですが……」
「確かに、そこは謎ッスね……」
●
実のところ、ラミアスとウィーズルの推測は「学園内部の人間の犯行」という点だけ当たっていたが、動機については見当はずれであった。犯人に政治的思想などはなく、常人にはおよそ理解しがたい理由で学園生から洋服を盗んでいたのだ。
「そこまでだ。宝石泥棒よ。もう逃げられんぞ」
「な、何者だ、てめえは!?」
王都グランスパーダの夜の路地裏にて。宝石屋の店主をぶん殴り、店に飾ってあった宝石を奪った男は、奇妙な恰好をした男に追われていた。追ってきている男は王都の治安を守る衛兵ではない。もちろん王国騎士でもない。なぜならば、男は黄金の蝶を象ったマスクで顔を隠し、少女用と思しき青色のワンピースを着込んだ変質者だったからだ。
「私の名を知りたいか? ならば教えてやろう。私は芸術神の使者。その名も、『芸術仮面』!」
芸術仮面はノリノリでポーズを決めた。
「く、くそ、この変態め! こんなことで捕まってたまるかよ!」
「逃がしはせん! 喰らえ、我が芸術の輝きを! オカモトゥ・ボンバー!」(大爆発)
「グワーッ!!」
……。
「美しい……やはり、美しいものと醜さの両立の中にこそ、真の芸術がある」
自分の仕上げた「芸術」を眺めていたマスクマンは、悦に入っていた。その芸術とは、恥ずかしいポーズで拘束され、女物の洋服を着せられた宝石泥棒の姿であった。そう、この芸術仮面こそ、学園生から洋服を盗んでいる連続窃盗犯であり、その正体は、(歪んだ)信仰心溢れる美の探究者だったのだ。
●
「あっちですね、爆発音がしたのは!? 行きますよ!」
「はい、アリエス様!」
衛兵と共に王都のパトロールをしていた王国騎士アリエスは、爆発音がした路地へと走った。最近王都で暗躍している謎の自警団員系変質者、芸術仮面。犯罪者を捕らえる行為こそ違法ではないが、野放しにしていると王都の民が不安がる可能性が高いため、王家は王国騎士のアリエスを動かし、この変質者を秘密裏に追っていた。なお、変質者相手に王国騎士を派手に動かすのは法衣貴族からの反対意見もあったため、捜査の主力は衛兵であり、王国騎士で動いているのは新人のアリエスのみであった。
「止まりなさい!」
剣を抜き、叫びながら通路に飛び込んだアリエスは苦々しい顔になった。
「くっ、遅かったようですね……」
「う、ううーん……」
そこにはすでに芸術仮面の姿はなく、すね毛とパンツ丸出しで開脚しながら意識を失っている女装中年男の姿だけがあった。
●
その翌日、パンクリアース学園から冒険者に依頼が出された。
――最近学園で起こっている洋服泥棒の正体を突き止めて欲しい。もし学園内部の者の犯行であった場合は、なるべく事を荒立てたくないため、できるだけ内密に調査されたし。
解説
マスターより
リプレイ
「学園生、聴講生の皆さん、よくぞ集まってくださいました。この学園の生徒の衣服が盗まれるなど、あってはならない事態です。一刻も早く、そしてできる限り秘密裏に犯人を捕まえてください」
教務主任、ラミアスは集まった冒険者達(冒険者は学園生でなくても全員聴講生の資格を持つ)に頭を下げた。
「性別関係無くお洋服を盗むなんてニッチな……いえとても迷惑な輩ですね! 被害が広がっても困りますし早く見つけて捕まえないとです!」
シェルリア・リトヴァールは張り切っていた。犯人の性別と容姿、そして動機次第では詳しく話を聞かなければならないかもしれない。
(ラミアス先生にも喜んでほしいですしね!)
ラミアスはハイスぺイケメン眼鏡教師であった。彼は女子生徒にモテる。シェルリアはウィリアム王子との後輩下剋上カップリングを推しているので、普通のファンとはちょっと違うが。彼女がたびたびラミアスの肖像権を侵害して生徒会指導室に連行されているのも、全ては推しへの愛ゆえである。
「服なんて盗んで一体どうするんでしょう、……あまり考えたくありませんが」
クローリカは渋い顔をした。
(犯行動機を考察するのは捜査においては重要ですが、深く考えると嫌な予感しかしないので、動機を掘り下げるのは後回しにしましょう)
「人のお洋服を盗んじゃう人が……! しかも特定の人や近しい人ばかりなのは複数の危なさが重なっている感じがしますので、危なさがエスカレートしないうちに何とかしないと!」
フロマーシュ・ダイヤドロップは戦慄した。彼女の頭の中では、どのような最悪の事態が展開されているのだろうか。
「学園で洋服が盗まれるのはあってはならないことだ。学ぶ環境で学んではいけないことが起きている。これを模倣する者が出てしまっては一大事だが……」
ライナ・フレイヴァルツも深刻な表情だ。割れ窓理論、という言葉がある。もしこの窃盗犯を放置していてはやがて学園の秩序は崩壊し、好きな子の衣服を盗む不良が大量発生したり、洋服転売ヤーが横行する事態になったりするかもしれない。
「ラミアス先生。被害者の話を聞きに行きたいのですが、お名前を教えてもらっていいですか?」
「犯行時刻も教えてもらえるとありがたいですね」
コルネリウス・アーラとクローリカが尋ねるとラミアスは頷き、被害者の名前と学園、所属クラブ、そして被害報告があった時間が載ったリストを見せてくれた。中には十数名ほどの学園生の名があり、被害者の中には貴族の家柄の者も混ざっていた。被害者は女子の方が多かったが男子も少し混ざっており、水泳部の男子のものなども盗まれていた。
だが、下着や財布などは盗まれておらず、犯人は上着だけを盗んでいったようだ。金に困った物盗りとも、性的な意味での変態とも微妙にズレた盗みの傾向に、冒険者達は首を捻る。
「え、マリリンさんもですか?」
シェルリアはリストを見て唖然とした。被害者のリストには、何かと冒険者に縁のある先代生徒会会計も混ざっていたのだ。
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コルネリウスとフロマーシュ、そしてシェルリアはさっそく第三演劇部の部室に向かった。第三演劇部にはマリリンやほか数名の被害者がいる。マリリン達は事情聴取に快く応じてくれた。
「こないだ演劇のお稽古を終えて、着替えようと更衣室に戻ってきたら、私や後輩達のお洋服がなくなっていたんです!」
マリリンは大変に立腹した様子でそう答えた。
「マリリンさん達のお洋服はどういったものでした? 演劇用の衣装じゃなくて私服が盗まれたんですよね?」
今度はコルネリウスが尋ねた。
「はい。私が青のワンピースで、こっちのエルミーラがミランズのスカートを……」
「ふむふむ。ミランズといえば、王都で最近流行りのブランドですね……他の被害者の方も、なんだかおしゃれさんな方が多い気がします」
シェルリアは頷くと、冒険者達に「犯人は流行りのブランドのものを優先して狙っているみたいです」と耳打ちした。シェルリアはドゥジン作家だ。絵画に明るいせいか、ファッションにも人並以上の知識があった。
「なるほど……? おしゃれな方を優先して狙っているというわけでしょうか。私、他の被害者の方にも聞き込みしてきます!」
フロマーシュは他の被害者にも話を聞くべく、第三演劇部を後にした。
「私達のお洋服、冒険者の方々も探してくれているんですね! ありがとうございます。あの服、まだ一回しか着ていないので、捜索よろしくお願いします!」
「ええ、もちろんです!」
「犯人も見つけてとっちめてやります! 期待しててくださいね!」
コルネリウスとシェルリアはマリリンにいい笑顔で返答した。
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フロマーシュが確認したところによれば、被害はやはり下校時刻の少し前に集中していた。学園から人が少なくなり、残っている学園生も部活に集中している頃だ。更衣室は学園に無数にあり、第三演劇部ほか各クラブにも専用の部屋が一部屋与えられていたということだ。
「人が少なくなってる時間帯が狙われているということですね。毎回別のクラブがターゲットなようなので、次はまた、別のクラブが狙われるかもですね!」
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「学園内部の者と見られる洋服泥棒がいるってことですよね。とりあえず俺は教師を当たってみましょう」
オゴスは、事件の当日のアリバイのなさそうな教師を探していた。そのうちの一人が美術教師のネイキッド・ルーザックだ。オゴスはとりあえず、聴講生として美術の授業に混ざることにした。
(おおっぴらに捜査をするとよろしくないですし……この方がもし犯人なら、ここで大捕り物になるのはまずいでしょう。慎重に探りを入れないと)
オゴスが空いた席に座っていると、学園生達からかなり好奇の目で見られ、露骨な舌打ちや、消しゴムのカスなども飛んできた。しかし、明らかに聴講生であるオゴスに直接つっかかってくる者はいなかった。
(ヒューマン至上主義者の国の洗礼ってやつですか。まあ、この程度なら想定の範囲内です。放っておきましょう)
授業が終わった後、オゴスは美術室で彫刻を掘っていたルーザックを訪ねてみた。
「ふむ、君はゴブリンだな。確か今日、私の授業を聴講していたな」
さすがにゴブリンは目立っていたのか、ルーザックはオゴスのことを認知していた。
「ええ。その通りです。オゴスと申します。ちょっと王国の芸術に興味がありまして」
「なるほど、それは素晴らしい。国や種族は違えど、芸術に貴賤はない。芸術に理解を示さない者だけが卑しいのだ」
(なるほど、立派な先生だ)
芸術家らしくちょっと変わった感じはするが、種族や身分の違いによる偏見がなさそうな点は好感が持てる。オゴスは感心した。
(だとしても、この先生も容疑者の一人です。事情聴取はしないと)
「それで、私に何の用かね。オゴス君」
「ルーザック先生。俺は学はあんまり無いんですが……芸術とは何でしょうか」
オゴスはとりあえず、適当な話題を振ってみた。
「いい質問だ。芸術とは、美の表現であり、己の内なる衝動の解放であり、一瞬の輝きであり、永遠でもある。少し長い話になるが、人類の芸術の起源は――」
オゴスが質問をすると、ルーザックはやたら哲学的で壮大な話を始めた……。
「――つまり、『醜さと美しさの同居』こそ、芸術の一つの到達点なのだ」
一時間ほど話したが、ルーザックの言動に特に不審な点はなさそうだった。金に困っていそうな感じはしないし、学生の服を盗む理由も特になさそうである。
(つまり、枯れた花や壮麗な廃墟といった退廃的な美こそが芸術だと……深い話ですね)
「ありがとうございます。ちょっとは俺も芸術ってもんが分かった気がします」
「うむ。理解してもらえたなら幸いだ。またいつでも私の授業を聞きにきたまえ」
「ありがとうございます、先生」
オゴスはいい笑顔でルーザックに礼を言い、美術室を後にした。だがこの数時間後、オゴスは自分がとんでもない勘違いをしていたことに気付くことになる……。
●
「すみません、ちょっとお話を伺いたいのですが、貴方達は聴講生の方でしょうか」
クローリカとライナが他の被害者の話を聞こうと学園構内を移動していると、赤毛の女性が声をかけてきた。
「おや、あなたは……どこかで見覚えがあるような」
クローリカはどこで彼女を見ただろうかと、記憶をたどる。
(ああ、確か、先日の王都でのコスプレパーティの時に会場の警備をしていた女性ですね。不敬なコスプレをしていた方を別室に連行していく姿を見た覚えがあります)
「ええ、構いませんよ。何のお話でしょうか」
「助かります。この洋服を着ている方に見覚えはありませんか?」
アリエスは極めて精巧に書かれた一枚の絵を取り出した。そこには、涼し気なデザインのブルーのワンピースが描かれていた。ライナとクローリカは顔を見合わせる。
「あれ、マリリンさんの服じゃありません?」
「私もそう思う」
クローリカの言葉に、ライナは頷いた。
「おそらく我々の知り合いの服ですね」
「! 知っているのですか! その人のところに案内していただけますか!?」
「構わない。ところで、その服は今行方不明でな。持ち主もどこに行ったか探しているんだ。そのワンピースがどこにあるのか聞かせてくれないか?」
ライナが尋ねると、アリエスは苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「う。あのー。その……この服はですね……」
「我々は冒険者です。学園で発生中の連続洋服窃盗犯について調査をしています。知っていることがあるなら教えてくれませんか?」
クローリカがそう告げると、アリエスは観念したのか、深いため息を吐いた。
「分かりました。どうやらあなた方も無関係ではなさそうなのでお話しましょう。私は実は王国騎士でして。今、衛視と協力して王都に出没する授恵者の変質者を追っているのです……このワンピースは、最後に犯人が着用していたものです」
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空き教室に集まった冒険者達は調査結果を報告し合った。王都の事件と学園の窃盗犯はおそらく同一だと判断したアリエスも一緒に来た。
――王都に芸術仮面を名乗る不審者がおり、そいつが捕らえた犯罪者に異性の服を着せて回っている、あと芸術仮面は盗んだマリリンのワンピースを自ら着用しているすね毛丸出しのオッサンである……。
王国騎士アリエスのもたらした情報は、色んな意味で冒険者達に衝撃を与えた。
「……な、何に美を見出すかの感性は人それぞれですが、俺には理解が及びません」
オゴスは汗を浮かべた引き気味の表情で目を背けた。
(……変態さんにご縁がある気がしますね。美的感覚は人それぞれですので、それについてはとやかくは言いませんが……!)
コルネリウスの脳裏にベールコートでの忌まわしい記憶が蘇る。どうやら、また変質者を相手にしなければいけないようだ。
「友人のお気に入りのお洋服が無くなるばかりか、中年男性が着ている(着せられている)と思うと……同情を禁じえません、捕まえましょう」
コルネリウスはせめてマリリンのお洋服の仇を取ろうと、決意を新たにした。
「王都にも定期的に変質者が出没するようですね」
昨年、王都で露出狂を捕縛したクローリカは遠い目をした。そろそろ『変態ハンター』とかいう不名誉な称号が与えられるかもしれない。
「美術部員としてもドゥジン信徒としても、芸術を勘違いしてる輩を放置出来ないです!
芸術の方向性は人それぞれですし個性というものですけど、それを押しつけたり犯罪に走ったりするのは言語道断なのですよ!」
シェルリアはご立腹だ。芸術仮面は芸術神オカモトゥの信者だという。同じ芸術の神を崇める者として、その男の暴挙は看過できない。
「芸術仮面か……芸術仮面の言う、そもそも『芸術』とはどういうものなんだろう。美とはすなわち芸術なのか? ……それについて詳しそうな人物と言えば、やはり美術教師だろうか?」
ライナはぽつりとつぶやいた。
(お洒落なワンピースとすね毛……美しさと醜さの同居……? まさか……)
「美術教師ですか……実は、一人心当たりが……立派な先生だと思うんですが、もしかしたら……あの方かも……」
オゴスはためらいがちに、そう口にした。
「誰です?」
アリエスが尋ねると、オゴスは「ネイキッド・ルーザック先生です」と答えた。
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「では罠を張りましょう。わざと盗みやすい状況を作り、更衣室の入り口を張り込みしておけば、犯人は見付かるのでは? 犯人はマリリンさんのお洋服が気に入っているようですから、また第三演劇部に出没するかもしれませんね」
クローリカはそう提案した。
「マリリンさんは他のクラブにも所属していますから、別のクラブで活動している時に狙われるかもしれません。ドゥジケット準備会の方は私が見張りましょう」
フロマーシュはドゥジケット準備会の見張りに挙手した。
「となると、囮にするためのお洒落な衣装がいりますね!」
シェルリアが言うと、冒険者達は顔を見合わせる。かくして、急遽冒険者達によるぷちファッションショーが開催された。審査員にアリエスを交え、冒険者達は囮について協議した。
「協議の結果、優勝はライナさんになりました。ライナさんのお洋服を囮にしましょう」
シェルリアが言うと、ライナは困惑した。
「わ、私か?」
「はい。ライナ様が一番お洒落だと思います。黒色の統一感もありますし」
フロマーシュも頷いた。
「わ、分かった。じゃあ私の服をドゥジケット準備会の部室に置いておこう……」
ライナはフロマーシュから予備の服を借り、自分の私服は第三演劇部の机の上に置いた。
「マリリンさんのロッカーには私のお洋服をダミーとして入れておきましょうか。また盗まれたら悲しいでしょうし。私は新聞部の部室を見張りますね」
自分の予備の服を袋に詰めながら、コルネリウスが言った。
●
そして、その翌日の放課後。ルーザックを見張っていたオゴスは、テレパスで仲間達に連絡を送った。
(ルーザック先生が動き出しました。人払いをお願いします。小汚い野生の小動物が紛れ込み、これから冒険者が対処にあたるとでも説明してください)
(こちらコルネリウスです。了解しました。アリエスさんにも連絡しておきますね)
(フロマーシュ、了解です。このまま掃除用ロッカーの中で待機します!)
(ライナ、了解した。私はオゴスと共にルーザックを追跡する)
「そろそろ下校時間だぞ。早く帰りなさい」
威厳のあるローブを着たルーザックは校舎内を徘徊し、まだ校舎内に残っている学園生達に下校を促し始めた。一見、ごく普通の教師の姿だが……。
「む、あれは……」
ドゥジケット準備会の部室の机の上に放置されたライナの私服を着て、動きを止めるルーザック。
「……」
ルーザックは挙動不審なそぶりを見せた後、ドゥジケット準備会の部室へと侵入していく。ルーザックはあっという間に窓のカギをこじあけ、年齢に見合わぬ軽やかな身のこなしで部屋に飛び込んだ。
(全員、ドゥジケット準備会の部室に集合してください! 今なら現行犯逮捕できます!)
オゴスはテレパスで仲間達に念を送った。
(あんな見え見えの罠に引っかかったのか……)
遠い目をするライナ。そして冒険者達は集まり、ドゥジケット準備会の部室を取り囲んだ。
●
「ルーザック! 芸術仮面の容疑で逮捕します! この変態め!」
王国騎士の鎧を着たアリエスは更衣室に踏みこみ、気持ち小声で叫んだ。
「なに!? 王国騎士だと!? フフフ。バレてしまっては仕方がない。そう、私こそが芸術仮面だ! 見せてやろう。私の真の姿を!!」
美術教師ルーザック……否、王都の治安を乱す怪人『芸術仮面』は高らかに叫ぶと、着用していたローブを脱ぎ捨てた!
「なっ……」
冒険者達は言葉を失った。ルーザックは学園教師としての勤務中も、ローブの下にマリリンのワンピースを着ていたのだ!
「ふはは、さらばだ!」
冒険者達があっけにとられている間に、ルーザックは懐から取り出した仮面を着用すると、窓を突き破り、廊下へと躍り出た! だが、廊下には芸術仮面を捉えるべく集まった冒険者達が勢ぞろいしている!
「ルーザック先生、もう観念してください」
芸術仮面に捜波でマーキングを施しながら、オゴスは降伏を勧告した。
「だめだ! 私の芸術はまだ完成していないのだ! ここで捕まるわけにはいかん!」
ルーザックはなおもこの場から逃げることをあきらめない。そして芸術仮面は、武器である教鞭を抜いた!
●
「貴方のような芸術家がいるかっ!」
ライナは吠え、芸術仮面の仮面を叩き割らんと疾駆した。しかし、ルーザックの頭上に空いたマジカルポケットから飛び出したペーパーゴーレム達がライナの前に立ちふさがり、その行く手を阻む。
「邪魔だ!」
ライナはペーパーゴーレムをまとめて吹き飛ばすべく、漆黒のナイフを天に翳した。その直後、ペーパーゴーレム達の頭上から、大粒の黒い雨が雨あられと降り注ぐ。しかし、ぺらぺらの紙で出来たペーパーゴーレム達は黒弾の余波で当たる前に吹っ飛んでしまい、ライナの魔法をやり過ごしてしまった。
「何ッ!?」
「ふむ。美しい技だ。ならば私の相応のものを見せよう!」
芸術仮面の全身が恒星の如く輝く。その直後、エーテルの大爆発が冒険者達へと襲い掛かった!
「芸術神よ、照覧あれ!」
カッ!
その瞬間、直径50メートルほどの空間が輝きに飲まれた。しかし、範囲のわりに威力はさほどではなかったのか、冒険者達は全員生きていた。爆心地に近かったドゥジケット準備会の部室の備品はぐちゃぐちゃになり、校舎の壁にも穴が空いたが。
「ああー! 私達の部室がー! 芸術を勘違いしてる輩を放置出来ません! 天誅!」
怒りに燃えるシェルリアは吠え、祭刀でペーパーゴーレムを切り捨てた。
(マリリンさん! あのお洋服は諦めてください! どうせもう着れないので!)
コルネリウスは心の中で被害者に詫びながら、芸術仮面へと突進した。途中で道を阻んできたペーパーゴーレムを一刀で切り捨て、芸術仮面を睨み付ける。
「芸術仮面! 貴方を監獄という墓場にぶちこんで差し上げます! 死んだところで、巨匠にはなれないでしょうけど!」
ライナの『晦冥の燐火』で空いた隙間を駆け抜けたクローリカは芸術仮面へと鋭い突きをお見舞いした。芸術仮面の仮面が抉れ、ダンディな素顔がチラリと除く。
(人払いは済ませたとはいえ、あの爆発技はまずい! 早めに倒してしまわないと!)
ペーパーゴーレム達はわらわらと集まり、芸術仮面に近づかんとする冒険者達へと襲い掛かった。エーテルがこもっているのか、ペーパーゴーレムのパンチは見た目より重い。ぶん殴られたライナとアリエス、フロマーシュから、ゴン、という鈍い音がした。
「芸術仮面様、お覚悟!」
「貴方は豚箱にぶち込みます!」
フロマーシュとアリエスは剣を振るい、それぞれの眼前のペーパーゴーレムを一刀両断した。
●
「ぬおお!」
二回大爆発を起こした芸術仮面だったが、必殺技は二度で品切れだったらしい。一分と立たずに十四体のペーパーゴーレムを殲滅されたルーザックは、前後を冒険者に挟まれ、追い詰められていた。逃げ出そうにも戦場となっている廊下は狭く、そんな隙は皆無だ。フロマーシュの殺気の檻とコルネリウスのエーテルの鎖でがんじがらめになっている芸術仮面の命はもはや風前の灯である。
「うおおおおっ!」
一か八か、ショルダー・タックルでフロマーシュを突き飛ばし、強行突破を試みる芸術仮面。しかしフロマーシュの殺界は芸術仮面をエーテルの領域で抑え込み、彼の移動を許さない。
「とどめです! 芸術仮面様!」
ズバシュッ!
フロマーシュの斬撃がマリリンのワンピースもろとも、芸術仮面の胴体を深々と切り裂いた。
「がはっ……!」
芸術仮面はガクン、と崩れ落ち、仮面がカランと音を立てて地面に転がる。気絶したルーザックのどこか満足そうな顔を見下ろし、シェルリアは呟く。
「芸術の方向性は人それぞれですし個性というものですけど、それを押しつけたり犯罪に走ったりするのは言語道断なのですよ! 立体物もまた芸術……ドゥジン神はけして拒みはしません」
●
「冒険者の皆さん、ご協力ありがとうございました! この変態仮面は私が責任をもって、牢獄にぶち込んでおきます!」
アリエスはぴしっと敬礼すると、ルーザックに手錠をかけて連行していった。
「ではコルネリウスさん、後のことはよろしくお願いいたします」
「はい、お任せください」
シェルリアに見送られ、コルネリウスは神妙な顔で第三演劇部の部室へと入っていく。
「あ、コルネリウスさん! 私のお洋服は見つかりましたか!?」
「はい。見つかりました。ですが、ここには持ってこれません」
「?」
「落ち着いて聞いてください。実は……」
芸術仮面が着用した状態でかつ、冒険者達の集中攻撃でズタズタになったマリリンのお洋服はお亡くなりになってしまった。コルネリウスは昨晩起こったことを包み隠さずマリリンに話した……。
「そんな、ひどい!」
コルネリウスの胸の中でワッと号泣するマリリン。
「元気を出してください、マリリンさん……今度気分転換にどこかに一緒に遊びに行きましょう」
(平民の私に、お金持ちのマリリンさんに新しいお洋服をプレゼントするのは無理ですし)
「はい……ありがとうございます……もうじき夏休みですし……ちょっとぐらい遠出しても……」
顔を上げたマリリンの頬に涙の痕はなかった。周りに演劇部員がたくさんいたので、ちょっと盛り上がってみただけだったらしい。
●
「少々校舎が損壊したものの、捕縛劇が数分の出来事だったため、幸い目撃者はごく少数です。皆さん、ありがとうございました。しかし、芸術仮面ですか。まさかあのような変態が教職員の中に紛れ込んでいたとは。老境に入り狂う、というやつでしょうか?」
冒険者達から事の顛末を聞いたラミアスは、しきりに首をひねる。こうして、王都を騒がせた怪人・芸術仮面の事件はひそかに解決されたのであった。
マスターコメント
ミドルシナリオ普通 報酬:多い6 / 6〜10人
2023年07月09日 16時20分37秒 公開
相談掲示板
うわあ、なんともキモチワルイ服泥棒がいたものですね…。ウォーリアのクローリカです。 マリリン様のお洋服にご執心のようですし盗む瞬間を張り込んで捕らえる、というのが一番確実そうではありますが要項に「なるべくこっそり」とあるので…、学園内でペーパーゴーレムを展開させる訳にはいかないですね。 怪人『芸術仮面』として変態義賊をやっている所を捕らえるのが無難でしょうか。
シーフのオゴスと申します。どうぞよろしくお願い致します。 犯人は一体何ザックなんでしょう……。 それにしても、なんという犯行……。 アリエスさんは立場上、軽々しく捜査状況を口にはできないとのことですが、とても役に立つ情報を持っておいでだ。 学園の洋服窃盗犯の情報を伝えてアリエスさんが芸術仮面との関係にピンとくれば、協力体制が築きやすいでしょうか。
キャスター、ライナ・フレイヴァルツだ。宜しくな。 芸術とは理解されないものだと聞いたことがあるが、 歪んでいるというかなんというか…。美とはいったい。 盗む瞬間を張り込んで捕らえるには、着ている洋服を一時的に脱いでいる状況が必要だな。 と、なるとやはり…マリリンさんが第三演劇部の稽古で着替えている状況が望ましいか? 二度も同じ被害に遭わせてしまうのは心苦しいのだが…。 あるいは、アリエスが芸術仮面がこれまでに出没したスポットを知っていないだろうか? オゴスさんの言うように捜査情報を簡単には話さないようだし、 自然な形で誘導していくのもイイと思う。 それとなくアリエスの聞き込みをルーザック氏に会うように誘導するのも良いかもしれないな。 美術教師なら芸術の理解もあるだろうということで。
ヒーラーのシェルリア・リトヴァールといいます、よろしくお願いします! 美術部員としてもドゥジン信徒としても、芸術を勘違いしてる輩をほっとけないです! 私は学園生ですし、話術スキルもありますので 被害者に話を聞いたり、噂話の体で情報集めとか出来そうでしょうか?
ウォーリアのフロマーシュ・ダイヤドロップと申します。皆様よろしくお願いいたしますっ! というか人のお洋服を盗んで自分で着ちゃうのですか!? なるべくこっそりできればですので、犯人にできるだけ気づかれないようにしながら包囲網を敷いていければですが… そのためにもアリエス様とも協力できれば何よりですので、情報交換できるようにあまり目立たないようにしながら情報収集できれば、でしょうか? 幸い、私も学園生徒ですし、そこも利用していけたら利用していこうと思いますっ
ウォーリアのコルネリウスです。遅くなりまして申し訳ありません。 包囲網を敷くのでしたら持てる方はテレパスを持ち、追い込んでいくのもいいかもしれませんね。 ライナさんの仰るようにお洋服で釣ると確保しやすいかも、と思います…。 私はマリリンさんにもお話を伺いながら、ご協力頂けるように説得してみようと思います。
皆様、こんにちは。マリリンです。私のお洋服......。出発は今夜23時となります。よろしくお願いしますわね。