【随想】再起の祈り
影絵 企鵝
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シナリオID:3050
オープニング
あるところに、貴族の青年がいました。彼は優れた観察眼を持っていましたが、極めて強い猜疑心により、常に何者かを疑いながら過ごしていました。
特に気掛かりとしていたのは、寄り子の家から輩出された一人の若い騎士でした。彼は才能に溢れており、戦場に臨めば常に戦果を挙げ、誰もが彼に注目していました。
自領の近くに死霊術師が屍の軍勢を引き連れ現れた時、青年は焦りました。王国騎士の増援にはかの騎士がおり、彼が戦果を挙げようものなら、寄り親の領地を救った忠勇として、また一段と箔が付くであろうと確信したのです。そして、彼ならばやってのけるだろうと。
無謀な突撃でした。青年は自らの軍勢だけを取りまとめ、死霊術師を討とうとしたのです。騎士に功を稼がせないようにするには、そうするしかないと。
その結果、軍勢は総崩れとなり、援軍にやってきた騎士達を戦場の只中に放り出すことになりました。そして騎士は――無事に死霊術師を討ち果たしてしまったのです。
騎士は『神威の射手』と綽名され、若くして隊を一つ預けられる躍進を遂げました。一方の青年は、王国騎士を徒に危険に晒した『戦下手』として、陰で嗤われるような有様となってしまいました。
彼は恨みました。妬みました。騎士の才覚を。そして何よりも恐れました。その才覚が、彼の支配から離れるその瞬間を。そこで彼は、あらゆる手管を通じて、青年が騎士でいられないようにしたのです。
一度はそうして騎士を落胆の淵に沈める事に成功しましたが、運命は騎士に味方し、再び浮上の機会を与えたのです。
思い通りにならない世界の条理にグランツ伯が憤然とした時、『幽霊』は彼に憑りついたのです。
●陰湿なハーミット
グランツ伯領で前触れもなく発生した暴動。事と次第を検めるため、ペルラン侯爵は監察官の派遣を決めた。彼の失脚ももう間もなくの事、何故このような事態になったのかと考えた。そして彼は、やはり鴉の群れこそが己の癌だと考えたのである。
グノーシス・ミレナリアは、グランツ伯の眼前へと再び姿を現した。夜闇に包まれた書斎の中、彼は瞳を紅く煌々と輝かせ、グノーシスへじっと対峙する。
「もう一度聞く。貴様はフィーギル家の連中と通じているんだな」
「少なくとも、あの女の子は君よりは見込みがあるからね」
グノーシスが微笑むと、グランツ伯はワインを飲み干し杯を投げ捨てた。
「ならば滅ぼす。どうせ終わりになるのなら、奴らも道連れにしてやる」
息巻くグランツ伯に、グノーシスは微笑んだまま杖をグランツ伯の顔に突き付ける。
「君はやはり“そこ”止まりだ。余りにも近視眼的で、己の保身以外に興味が無い。そのような人間に、大事を為せるわけがない」
「貴様に何がわかる。どうせ貴様には失うものなど何もないくせに」
グランツ伯が唸ると、グノーシスは深々と頷き、杖で床を打ち鳴らした。
「その通りだ。私にはもう何もない。だからこそ、誰かに手を差し伸べる余裕がある」
するすると石壁を這いずり、窓から白い鱗の蛇が入り込んできた。口元に加えたカンテラに青白い光が灯り、グランツ伯の顔を照らす。
「君にお似合いの御遣いをあげるよ。……それで魂の未練を晴らしたまえ」
●鴉が喚ぶ雷
王国北方、ティロール領。エレアノール・シュヴァリエはようやく安全圏に辿り着いた。ここは彼女と断金の契りを結んだマティアスの治める領地。後は山の民の手引きを受けて山脈を越え、王国から逃れるだけ。そのはずだった。
「グランツ伯がここに軍を向けているですって?」
山の民の長、キリアンからもたらされた話を聞いて、エルは思わず素っ頓狂な声を上げる。
「街に下りていた者が、夜に乗じての軍の出立を確認している。身なりはともかく、姿勢が悪い。正規軍というよりは、略奪兵の集まりだ」
「マティアス達を攻めることに一体何の利益があるの。そんな行為、侯爵は元より、宮廷だって見過ごすはずがないわ」
「知らん。が……聞くところでは城下の暴動を起こした者をいたく残酷に殺したと聞く。乱心しているのだろう」
エルは唇を噛むと、慌ててその場から飛び出そうとする。キリアンは咄嗟にそんな彼女の腕を掴んだ。
「待て、どこに行く。お前は罪人だろうに」
「でもこのまま放っておくことなんて出来ない」
睨み合う二人。そこへ、一人の少女が木箱を抱えて彼女へ差し出す。
「……エレアノールさん、これを。ミネルヴァさんが、ここに来たら貴方に渡せと」
「ミーナが?」
エルは木箱を置いて蓋を開く。そこに収められていたのは、カトリーヌ・ロミューラの被っていた鴉の兜。それからドレスだ。それを見たエルは一瞬怪訝な顔をしたが、やがてはっと目を見開く。
「ミーナ。……貴方が私に頼みごとをしたのは、このためだったのね」
兜をそっと撫でると、彼女は立ち上がってキリアンに向き直る。
「キリアン、ギルドの集会所へ向かって、冒険者を集めて。今は逃亡中の身だけど、必ずお礼はする」
「……乗り掛かった舟だ。出来るだけ掻き集めてこよう。……で、お前はやるんだな」
キリアンに問われると、エルは少女がもう一つ差し出した剣を手に取る。その刃に稲妻を一瞬纏わせ、彼女は胸元に剣を掲げる。
「ええ。私は今から鴉の騎士よ」
グランツ伯が手勢を引き連れて向かっているとの報をキリアンから聞き、マティアス達も急いで迎撃態勢を整えていた。領民達を砦の中に避難させ、戦える者は弓を持たせて兵士とする。マティアスとミネルヴァも武装して、いざという時の準備を整えていた。
「伯爵! 随分と壮観ですな!」
曲輪の上に立ち、火を掲げて村の端に立つグランツ伯の軍勢を見渡してマティアスが叫ぶ。
「事と次第によっては侯爵も宮廷も黙っておりますまい! 一体その軍勢で何をなさるおつもりか!」
「決まっている! 私の命運を破壊した貴様らを此処で討ち滅ぼすのだ!」
高らかに言い放ったグランツ伯。マティアスへの憎悪を剥き出しに、その剣を抜いて掲げた。月明りに照らされ、血に染まった刃が歪に輝く。
「待て! ティロール領に対するそのような乱暴狼藉、この私が許さぬ!」
その時、砦の上に立った一人の女が叫んだ。彼女は鴉の兜を被り、板金の付いた黒いドレスを纏っている。グランツ伯はそんな彼女を睨みつける。
「誰だ!」
「我が名はカトリーヌ・ロミューラ! 鴉の騎士のカトリーヌだ!」
大音声で叫んだ彼女は、そのまま屋根から飛び上がる。その剣先には閃光塗弾のピンを引っ掛け、鍔に埋め込まれた紋具は多量のエーテルを込められて今にも弾け飛びそうなほど震えていた。
「この名! 決して忘るること勿かれ!」
彼女が剣を振り下ろした瞬間、紋具からエーテルが解き放たれ、稲妻の光が駆け抜ける。その光に紛れて飛んだ閃光塗弾も弾け、地上に立つグランツ勢の眼を眩ませた。
「いざ! その力、お頼み申し上げる!」
光が薄れたその時、冒険者達が一斉に影から飛び出した。手近な有象無象を軽やかに制圧すると、そのまま武器を構えて彼方のグランツ伯と対峙する。伯は眼を爛々とさせて一頻り笑うと、剣を振り上げ叫んだ。
「全て滅ぼしてくれる! やましい鴉も、それに手を貸す愚か者も!」
煌々と輝く火を銜えた蛇がどこからともなくするすると現れ、伯と共に君達を睥睨した。
解説
マスターより
リプレイ
閃く雷光の中心に立っていたのは、月を象る杖を空へ掲げるレティシア・レインフィール。夜の空が僅かに震え、杖の先から黄金色のエーテルの波動が広がる。その波動を浴びた仲間達もまた日輪の光を纏い、各々村の中を走り出す。その姿を目に捉えたグランツ伯は、じりじりと歯を剥き出す。
「これはレインフィールの御令嬢! お前も鴉の味方をするのか! この者どもは先祖の代より連綿と続く主従関係を蔑ろにし、王党派へと近づいた唾棄すべき裏切り者なのだぞ!」
彼の怒号と共に、蛇は鎌首をもたげて牙を剥く。レティシアは村の坂道をしずしずと歩いて下りながら、グランツ伯の狂って揺れ動く瞳を見据える。
「なるほど。伯爵様にも、伯爵様なりにご事情があったのかもしれません。……ですが、此度の事も含め、これまで為さった事は決して許される事ではございません。然るべき場で裁きを受け、罪を償うべきでしょう」
「この私が一体いかなる罪を犯したというのだ」
グランツ伯はせせら笑う。レティシアは決然と応えた。
「今まさに。いかな理由があろうとも、国王の許可無しに他の領主へ兵を向けることなどあってはならないことです。秩序紊乱の罪を以て、貴方は裁かれなければなりません」
「裁けばよい。だがその前に私がこの鴉を裁く!」
蛇がその口蓋を大きく開くと、その喉の奥が紅色に光る。湧き上がる炎が牙を嘗めた瞬間、燃える巨弾を目の前の畑目掛けて吐き出した。コルネリウス・アーラはその光を見るや、一気に走り出して神材の盾を構える。直撃する炎の塊。鈍い音と共に塊は弾け飛び、幾つもの火となって辺りに散らばる。コルネもその勢いに圧されてその場にひっくり返ったが、それでも背後の畑は守り抜いた。
「裁かせません。ここで終わるのは貴方と、貴方に付き従った者だけです」
剣を地面に突き立て立ち上がると、コルネはグランツ伯を睨む。グランツ伯は顔をしかめ、低く唸った。
「余所者が手出しをするな。森に大人しく引き籠っていろ」
「お断りします。私はパンクリアース学園に籍を置く者。王国の騒動は最早他人事ではありませんので」
コルネはその眼を蛇へと向ける。舌を覗かせ威嚇するアンゲロスに、彼女はエーテルを念じて叩きつけた。
「あなたの相手はこちらです。余所見しないでくださいね!」
蛇は舌を震わせ鳴くと、とぐろを解いてするするとコルネへと近づいていく。コルネは村の外れに背を向けるように立ち、コルネへと相対した。グランツ伯は腰に下げた長剣を抜き放つと、コルネへと目を向ける。
「なら貴様から殺してやる」
その眼を深紅に輝かせ、血塗られた刃を構えてコルネへと襲い掛かる。だがその時、夜闇の向こう側から飛んできた一筋の雷が槍となってグランツ伯に襲い掛かった。グランツ伯は左手の盾を構えて咄嗟に槍を受けたが、槍は電光となってグランツ伯の身体を走り抜け、その足を痺れさせる。
「今度の不届き者は一体誰だ!」
「リブラネスタは『ミュラース』の店主、ルアンナ・ミュラーです」
「リブラネスタ! 貴様もまた余所者か!」
口角泡を飛ばしてルアンナへと動かぬ足を乗り出そうとするグランツ伯だったが、ふと急に落ち着き払って剣を構え直す。
「……いや、聞いたことがあるぞ。私の領地に出入りしていた商家の娘がお前と同じだった。そう、セラフィアスだったか。……果たしてお前がそうか」
「その通りです。でも私はもうセラフィアスじゃない」
ルアンナは杖を振るい、その宝石にエーテルを纏わせる。
「両親が為してきた不埒を断ち切るために私は戦うと決めました。……同じ不埒を為す貴方も、私は許しません」
「貴様の親と一緒にするな!」
グランツ伯は剣を高々と掲げると、ルアンナ目掛けて走り出す。ルアンナは咄嗟に身構えるが、グランツ伯の刃が届くよりも先に、夜風となって突っ込んできたアーテミシアがグランツ伯の懐へと飛び込んだ。ガントレットを振り抜き、グランツ伯を思い切りよく殴りつける。グランツ伯は咄嗟に盾を挟んで受け止めるが、その衝撃を打ち消すことは出来ず、空へ大きく吹き飛ばされる。彼は身を捻ってどうにか着地、眦を裂くような顔で彼女を睨む。
「貴様もこの私の邪魔立てをするか!」
(こりゃ完全にイッちまってるな。何が有ったか知らねえが、こンなのが相手じゃチト遊び甲斐はなさそうだな……)
上ずった声でまくしたてるグランツ伯に眉を顰めるアーテミシア。さりとて周りの雑兵を相手にするのは一層つまらない。彼女にとって、グランツ伯を相手取って立ち回る以外の選択肢はなかった。拳を構えて再びグランツ伯に肉薄すると、衝撃波をもう一度叩きつける。村の外れまで押し出したところへ正面切って向かい合い、アーテミシアは不敵に笑う。
「さあて、これでしばらく邪魔は入らねえ。一丁お遊戯会と洒落込みますかね?」
アーテミシアとグランツ伯が組み合っている間に、グランツ伯が連れてきた略奪兵達は村の中心の矢倉へめがけて押し寄せていた。リディリディ・トゥラ・イェレミースは民家の屋根の上によじ登り、少しよろけながら軍勢を見渡す。松明を掲げた敵が彼女に気付き、その松明を投げつけてきた。リディは白葉の盾をそっと差し出し、松明の火を屋根の外へと反らす。宙を舞う火に照らされた男の顔は土埃にまみれ、いかにも育ちが悪そうな印象を与える。
(揚々と同じ国の村を襲えるような手合い、生かしておいてもいいことはありませんね)
リディは杖を掲げると、敵の群れ目掛けて杖を振り抜く。兵士達の掲げる松明の火が、不意に揺れる。風がやにわに黙り込み、その瞬間、夜の帳が一気に膨れ上がった。遅れて爆音が轟き、巻き込まれたごろつき兵の群れは派手に吹き飛ばされる。爆発に巻き込まれた者達は、物言わぬ亡骸となってその場に転がり、巻き込まれずに済んだ者達も、喚きながら慌てて後ろへ退いていく。リディは魔法の矢でさらに追撃を仕掛けようとするが、暗闇の中から飛んだ矢が彼女の脇腹に直撃した。
「くぅ……」
リディはとっさにその身を引っ込め、屋根の影に屈み込む。堅く作った白金の鎧が彼女の身を守ったものの、じんわりと痺れるような痛みが走り抜ける。彼女を狙ったシューターは、血走った目で彼女の姿を追いかけ、屋根越しに彼女を射貫こうとする。
そんなシューターを物陰から窺っていた少女が一人、杖を掲げてシューターへと狙いを定める。
「どこを見ているのかしら?」
アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは杖の先で虚空を切り、無数の小さな火の弾を呼び起こす。シューターは慌てて振り向いたが、火の弾は既に放たれた。彼の周囲を取り囲むように飛び抜けた炎は、シューターや周囲の雑兵を纏めて薙ぎ払う。
「さあ、こちらを見なさい。ここにあるは貴方達の命を刈り取る者よ」
頭上に太陽の如く燃え盛る巨大な火球を浮かべ、アウレーリアは薄っすら笑みを浮かべる。炎に照らされた彼女の爛々と輝く翡翠の眼に気圧され、雑兵達はずるずると後退りする。
「カトリーヌ!」
「任せたまえ!」
アウレーリアの合図に素早く応じ、飛び出してきたカトリーヌが稲妻纏う剣を振り抜く。黒雲が敵の頭上に一瞬で生まれ、突き刺さった雷撃が弾けて傍の兵士達を脅かす。彼らの足が止まったところへ、アウレーリアはさらに頭上の太陽を投げつける。雷に足止めされていた兵士達は、太陽が弾ける瞬間をただ見ていることしか出来なかった。
悲鳴。紅蓮の炎に襲われた兵士達は、その場にのたうち回って火を消そうとする。だが、神の恵みを授けられなかった者達は、あっという間に消し炭となってその場に転がる。
情け容赦のない攻勢。怖気づいた兵士達はアウレーリアから離れるように散り散りとなって逃げ出す。パン焼き小屋の煙突に隠れたキリアン・フィッツジェラルドはサーマルアイで暗がりに逃げる敵の姿を捉えながら、弓を構える。
「民の人命と財産を守る事も、我ら授恵者の務めです」
光の矢を一本放つ。矢は夜空の中で無数の破片に砕け散り、兵士達の頭上に降り注いだ。肩や足を射貫かれた雑兵はバタバタと倒れ、正規兵は素早く振り返って剣を構え、屋根の上のキリアンを威嚇する。
「てめえ、降りてこい」
「お断りします」
「はん! ならこうしてやる!」
兵士は歯を剥き出すと、一気にキリアン目掛けて突っ込み、光に包まれた刃をパン焼き小屋に叩きつけた。素朴な土壁はあっという間に砕かれ、パン焼き小屋があっという間に吹き曝しとなってしまう。
「てめえごとこいつをぶっ壊してやればいいってわけだ!」
「……ふむ。それは勘弁被ります」
キリアンは屋根から軽やかに飛び出すと、身を捻りながら弓を引き、鋭い一射を兵士の方目掛けて撃ち込む。呻いて後退りする兵士を睨みつけ、彼はさらに弓を引いた。
「ですが、地の利を失ったとて、後れを取るつもりはありません」
アウレーリア達の気勢に圧倒され、グランツ伯が連れてきたガラの悪い雑兵の群れが次々村から逃げ出そうとする。アーテミシアを振り払ったグランツ伯は、眼をぎょろつかせて吼えた。
「退くことは許さんぞ! 戦え!」
近づいてきた雑兵目掛けてグランツ伯はエーテルの刃を放つ。突然の一撃を避けることは出来ず、男はその身を真っ二つにされその場に転がる。あっという間に肉塊となった男を見て、雑兵達は息を詰まらせ足を止める。前門の虎後門の狼、彼らはどこにも行けずにその場に縮こまることしか出来ない。
「行け! 何故行かぬ!」
「思い通りには決してならないのが現実であり、それにどう向き合い続けるかが『生きる』ということでしょう」
グレイブ・ヤードは刀を抜き、グランツ伯へとつかつかと間合いを詰めていく。
「子供の我儘と何も変わりやしません。儘ならない現実に駄々を捏ね、現実に目を背け続ける。その結果がこれなのです」
グランツ伯は歯ぎしりしながらグレイブを睨む。
「おのれ、貴様も私を愚弄するか!」
いきなり間合いを詰めて襲い掛かる。グレイブは咄嗟に身を引き、その刃をひらりと受け流す。そのまま軽く伯の鎧に刃を一当てして、彼の血走った目を尻目にかける。
「出来なかった過去から学び、出来る事で未来を補う。そうやって人は前に進み続けてきたのです」
再び正対したグレイブは、その切っ先をグランツ伯の喉元へと突きつけた。
「それが出来ないのなら、大人しくお引き取りください」
●嫉妬の炎は掻き消えて
冒険者達の攻勢に育ちが悪いだけの雑兵達はただ戦意を喪失し、その場に立ち尽くすだけの雑兵と化した。残るは狂った伯爵についてきた狂った兵士。既に天運は敵に味方していると知れてなお、彼らは抵抗をやめなかった。
「いい加減諦めてはいかがですか。投降すれば命までは取りませんよ」
キリアンは弓を構えて兵士達を見渡す。だが、彼らは笑みを深めるばかりだ。
「はいそうですかと降るような奴はな、最初からここには来ちゃいないんだ」
「そうですか。では……」
キリアンは天へめがけて光の矢を放つ。彼らが一瞬その矢を目で追った瞬間、身を低くして詰め寄ったカトリーヌが鋭く剣を突き出した。轟く雷鳴。雷に打たれた光は砕け散り、稲妻を纏った光の刃となって降り注ぐ。手練れ二人分の威力が乗った一撃を受けた兵士達は、堪えきれずその場に崩れ落ちる。
「今だ! 起き上がる前に捕縛しろ!」
マティアスの叫びと共に、砦からティロール兵が一斉に飛び出した。槍の石突を突き付けて抑え込みながら、鉄の鎖で兵士を縛り上げていく。それを見届けたキリアンは、彼らに小さく敬礼する。
「皆さんの戦う決意に敬意を表します」
そのまま彼は翻り、仲間達へと駆け寄りながら叫んだ。
「手勢は無力化しています! 後はその大蛇と伯爵のみ!」
兵士が縛り上げられる様を見届けたリディは、すぐさま村の外れへと目を向ける。グランツ伯の横で、大蛇があちらこちらへと炎を撒き散らしていた。盾を構えたコルネが右に左に走り回り、その身を挺して火を逸らしているが、さしもの彼女もやや苦しげにしている。
(早急に片付けないと……)
リディは杖を両手で構えると、小走りで大蛇の方へと向かう。こんな時に鎧の重さが少し恨めしい。
「コルネさん! 今……援護、します!」
走れる限りの速さで駆け付けたリディは、両手で握った杖を頭上に掲げる。エーテルを素早く練り上げると、彼女はその杖を蛇へと向ける。
「そちらが炎をばら撒くのなら、私は氷雨を浴びせましょう」
蛇の周囲を取り巻くように、幾つものエーテルの刃を浮かべる。夜があっという間に冷え切り、蛇の身体やあぜ道の石は露に濡れた。蛇は瞬膜をぬるりと動かし、新たにやってきた闖入者へ対応しようとその首を揺らす。
「……あなたの、災厄とならんことを」
蛇の頭が刃の一つに触れた瞬間、刃は氷の粒となって弾ける。弾けた粒が別の刃に当たるとその刃も弾けていき、大量の氷の刃が次々と蛇の身体へと突き刺さっていった。身を縮こまらせる冷気に襲われ、蛇は僅かに怯む。リディは慌てて声を張り上げた。
「コルネさん、今です!」
「ありがとうございます!」
コルネは蛇が怯んだ隙を突いて、素早く蛇の喉元へと潜り込んだ。その身を縮め、一気に跳ね上がってその喉笛に一撃を加える。しかしその鱗は堅く、表面が僅かに凹んだだけで傷をつけるには至らない。コルネは唇を軽く噛んだ。
「そう簡単には行きませんか」
蛇は口蓋を大きく開くと、紅蓮の爆炎をコルネ目掛けて吐き出してくる。彼女は盾を構えて炎を受け止めるが、盾は赤熱し、彼女の腕を容赦なく灼いていく。コルネは歯を食いしばって耐えた。
「う……」
火は止んだが、盾は熱を持ったまま、コルネを苦しめ続ける。だが、その盾を捨てる事はしない。盾を捨てるは誇りを捨てると同じことだ。
そんな彼女の背後で、レティシアは杖を掲げる。治癒の願いを込めたエーテルを放ち、蛇の灼熱に炙られた彼女の火傷を回復させていく。
「コルネリウス様、どうか無理はなさらず。状況はこちらの優位へと傾いておりますので」
天から見下ろしたような感覚を広げて周囲を窺うと、兵士対応に当たっていたキリアンやカトリーヌも今まさに駆け付けようとしているところだった。
コルネは振り返ると、小さく首を振った。
「すみません。……でも、ここはもう少し意地を張らせてもらいます」
剣を構え直すと、コルネは蛇を再び睨みつける。蛇は喉を再び赤熱させると、今度こそ彼女を焼き尽くそうと狙いを定める。
「我慢比べなら決して負けませんよ!」
コルネは叫ぶと、蛇が火を吐くよりも先に飛び出し、その刃を再び喉笛へ叩きつけた。大量の熱を蓄えていた喉の鱗はその一撃でとうとう砕ける。血が噴き出し、蛇は大きく仰け反る。炎の塊が空へ飛び、爆音と共に弾けた。
駆け付けたアウレーリアは、蛇が見せた隙を見逃さない。杖を振ると、エーテルの波動を放って蛇の身体に取り巻かせる。蛇は反撃しようとするが、途切れ途切れの炎が吐き出されるだけだった。その有様を見た伯爵は吼える。
「この蛇め! 貴様も私の期待を裏切るか!」
髪を振り乱す伯爵を横目に、アウレーリアはせせら笑った。
「ふふ……哀れな哀れな伯爵様。希望と現実の落差に耐えられなくなってしまったのね。そのまま夢に溺れ切ってしまった方が幸せだったでしょうに。……嗚呼、けれど」
蛇は周囲を睥睨して威嚇する。喚き散らす伯爵に呼応するように。
「最後まで抗うことを諦めぬ一念……いっそ愛しいですね」
アウレーリアは杖の竜石を撫でる。石の奥に紅蓮の火が宿り、彼女が杖を掲げると、杖から次々と飛び出した火が彼女の周囲を取り巻く。
「ならばその妄執、この私が圧し折り仕りましょう」
彼女は素早く杖を突き出す。高らかに風を切りながら、炎は一群となって次々に飛び抜け、蛇の巨体を一気に薙ぎ払う。一発がコルネの切り裂いた喉に突き刺さり、傷を焼かれた蛇は悶え苦しむ。
「畳み掛けます!」
キリアンが畦道の向こうから飛び出し、蛇の喉笛に矢を一発撃ち込む。矢は深々と肉に食い込み、焼けた血が滴る。コルネは盾を構えると、じっと狙いを定める。
「これで終わりにしましょう」
一気に飛び出したコルネは、口蓋の裏から剣の切っ先を深くねじ込む。とうとう致命の一撃を受けた蛇は、全身を震わせて宙へ舞い上がり、そのままのたうち回った。その瞬間、グランツ伯も甲高い悲鳴を上げる。
「ああ! 何だこれは! あの狼め、狼め! 何を仕込んだ!」
頭を抱えてふらつく伯爵を前に、アーテミシアは訝しげに眉を顰めた。
「何だよ。ますますおかしくなりやがった」
「おのれ……おのれ!」
グランツ伯は眼を剥いて、目の前に立つアーテミシアへと飛び掛かる。口角泡を飛ばし言葉にならぬ叫びを喚き散らしながら、剣を振り回して彼女へと叩きつける。彼女は鎚を両手両足を使って器用に振るい、その刃を逸らしていく。
「おいおい、そんなんじゃいつまで経ってもオレには傷一つ付けられんぜ」
「侮るな! この私を!」
グランツ伯は剣にエーテルを纏わせると、一直線に突進し、剣を真っ直ぐに突き出す。アーテミシアは鎚の面を合わせて受け止めるが、エーテルの弾けた衝撃に煽られ、彼女は僅かに仰け反る。グランツ伯はその隙を突いてさらに詰め寄ろうとするが、ルアンナの放った爆音と閃光波がそこへ襲い掛かる。
「ぐぬぁ!」
熱線に煽られたグランツ伯は、よろめきながらその場に膝をつく。杖を正面に構えて、ルアンナは歯を剥き出す。
「もうこれ以上貴方の好きにはさせませんよ。貴方はここで捕まって、然るべき裁きを受けるんです」
「裁きだと!」
流れる鼻血を乱暴に拭い、グランツ伯は、半分白目を剥きながらルアンナを睨んだ。
「私は守ろうとしただけだ。始まりの百家の血脈を。それに相応しい名誉を!」
「その結果がこれですか」
ルアンナは吐き捨てる。自らの地位を守るために何でもする人間というものを、彼女は良く知っていた。よく知っていたからこそ許せない。
「悪事を為して築き上げた栄誉など砂上の楼閣です! 何の価値も無い!」
ルアンナはダメ押しにもう一撃閃光波を放つ。立ち上がろうとしていたところに再び爆音を叩きつけられたグランツ伯は、顔面に直撃を喰らって引っくり返り、もんどりうって転がった。その姿を見届けたルアンナは、アーテミシアに一瞥を送る。
「さあ、今のうちに!」
「はっ。そんな事してくれなくたって平気だってのに」
アーテミシアはやれやれ肩を竦めると、鎚を担いで力強く両足を踏みしめる。全身にエーテルを纏うと、左手のガントレットを構え、三度グランツ伯の懐へ飛び込む。
「さっきのお返しだ。そろそろ潰れな」
強烈なアッパーカット。顎を打たれたグランツ伯は、軽々と空を舞い、ついに地面へ叩きつけられた。腰を打った伯爵は、呻きながら芋虫のようにその場へ這いつくばる。
「おのれ……このまま、このままでは終わらせんぞ。マティアス、貴様だけは……」
懐のナイフを震える手で取り出すと、彼は仰向けになり、その首筋を掻っ切ろうとする。だが、鋭く伸びた刀の切っ先が、その刃を取り上げてしまった。
「そうは行かない。貴方は生きて此度の乱行に対する裁きを受ける必要がある。乱行の最中で寄り親を死なせたという始末の悪い評判を子爵に擦り付けようとしても、無駄な事」
「貴様……」
グレイブは蔑み切った目でグランツ伯を見下ろした。
「貴方は負けたという現実から逃げる為に乱行を積み重ねている。貴方に従わない兵士を脅して連れてこなかったのは、いざという時の寝返りを避けるためだ。つまり、貴方は自分の所業の価値を理解するだけの分別があるということです。貴方はつまり、狂うことすら半端だというわけで」
冷然と言い放つと、彼はグランツ伯の利き手を押さえつけた。
「ねぇ、レクトル・グランツ。お前は本当は気付いているんだろう? 終わったんだと」
グレイブが容赦なく止めの言葉を放った瞬間、やにわにグランツ伯の眼が揺れた。深紅の光が瞳から消え去り、茫然と彼は空を見上げた。
「グランツ……何人にも……脅かされず……」
うわごとを呟き続けるグランツ伯。そこへレティシアがいそいそと歩み寄る。彼女はロープを取り出すと、グランツ伯の口元に巻き付け、舌を噛み切れないようにする。
「貴方にはあまりにも哀れです。己が妄念に振り回されるばかりの人生など……」
彼女の言葉も、今やグランツ伯には届かない。レティシアは小さく溜め息を吐くと、駆け付けたマティアスとカトリーヌを見上げる。
「……マティアス様、カトリーヌ様、引き続き周囲の警戒をお願いしたく思います。またグノーシス様が手を下してこないとは限りませんので」
二人は共に目配せし、小さく頷いた。
「委細承知仕った。責任を以て果たそう」
グランツ伯によるティロール領強襲は幕を閉じた。畑や家に多少の損壊はあったが、建て直すのに支障はない。冒険者の手によって、ティロール領の住民は無事に守り抜かれたのである。
●再起の祈り
夜明けと共に、ようやく砦の外に出られたティロール伯の住人達。彼らは早速村に転がる死体を片付け、畑や建物の被害を確かめ始めた。リディはそんな村人達の姿を傍からぼんやりと眺めていた。そんなところへ、ふらりとミーナがやってくる。
「面白いものでも見られましたか?」
「……そ、そんな。ただ……死体に触っても平気なんですね、と。私は見るだけで結構うええ、ってなるのに……」
「平気なわけではないと思いますよ。でも、私達は元々北方の守りを固める為に日々鍛錬してきた兵士だっていう気概がありますから。別に死体の片づけくらい、なんとも」
「お、お強いんですね」
リディがぽつりと呟くと、ミーナはふと頬を緩めた。
「まあ、来てもらえなかったら助からなかったと思いますし。ありがとうございます」
レティシアによって縛り上げられたグランツ伯や生き残りの兵士は、村の外れで縛り上げられ、連行の時を待っていた。キリアンは仰向けに転がったままのグランツ伯に歩み寄り、彼の顔を覗き込む。
「此度の騒乱はグノーシスとフィーギル領との繋がり故と言いますが、それほど、グノーシスについて詳しいと見受ける。どうして卿はグノーシスの事をそこまで存じているのでしょうかね」
キリアンはグランツ伯の目を覗き込む。猿轡を噛まされた彼は答える口を持たなかったが、そもそも彼は白む空をただ焦点の合わない目で見上げるばかりだ。アウレーリアもそんなグランツ伯を一瞥する。
「その調子じゃあ、猿轡を外してもまともな返事は無さそうね」
「ええ。それでも類推することは出来ます。暴動の現場にグノーシスがいた事、死霊術師でもない彼がこうしてアンデッドを連れてここまでやってきたことを考えれば、彼こそグノーシスに繋がりがあったのではないでしょうか」
「かもしれないわね。そして何かのきっかけで彼もグノーシスの手に落ちたと。赤く光る眼は、エレアノールやあのホムンクルスにも一致するし」
アウレーリアは溜め息を吐くと、山際に伸びる紫色の空の果てを見つめる。峠の向こう側には、なおも再建が続く旧帝国領が広がっている。全てを取り戻そうと四苦八苦する自分の領地も。そして足元には、全て失った男が転がっている。
「ここまで来たら、いっそ命も取ってしまった方が余程慈悲深いと思うけれど、命は取らないという契約だし、仕方が無いわね」
「罪が糾弾されたとしても彼は死なないでしょう。そう簡単に貴種の命は取れません。おそらくどこかの城や塔に幽閉されることになるかと」
「でしょうね。そして彼はそこで死ぬ。何らかの企みか、病か、その果てはわからないけど」
死ぬ。アウレーリアがそう呟いた時、今まで黙っていたグランツ伯が急に呻き始めた。けれどその力は弱弱しく、縄目を解こうとあがく様子も見せない。
「極限まで押し込められた心の歪みは、遂に何事も為すことなく朽ちていくのかしら」
アウレーリアは詩を諳んじるように呟く。それを聞いてか聞かずか、転がったままのグランツ伯は急に歔欷の声を上げ始めた。その声を聞いて、アウレーリアは眉を顰める。
「それともこんな、嘆きの合唱を重ねて世界の奏でる旋律に涙でも流そうというのかしら」
一方、アーテミシアはあぜ道に転がされたままのアンゲロスをしゃがんで眺めていた。頭を貫かれて死んだ大蛇は、彼女が眼で見て取れるほどに早く朽ち果てようとしていた。鱗の一枚一枚が干からび、剥がれて地面に落ちていく。
「こいつもデカいだけで、ろくにヒリヒリしやがらなかったな……まあだが……」
アーテミシアは歴戦の勘で察していた。グノーシスも死霊術師なら、捨て駒同然の存在に一等の下僕を与えはしないだろうと。つまるところ、あの白狼はまだ手駒を自分のところに控えているに違いないと。
「そいつだったら、もう少し遊び甲斐のある相手にならねえもんかな」
「主君とグノーシスの関係、貴方達は何かご存じではありませんか」
グレイブはカトリーヌと共に、生き残った兵士を尋問していた。今まさに命運は彼らの手の内にあるというのに、兵士は相変わらずふてぶてしい。
「知らん。もしそいつの事を知っていたら、とっくにそいつの下についてるさ」
「ふむ……あの狼は入念に尻尾を隠しているようで。自分は幽霊だのと狂ったような事を言う割に、あれもやり方はしっかり狡い」
グレイブが肩を竦めると、カトリーヌも小さく唸った。
「仕方ない。私もこの件はもう少し探ってみる事にしよう。失礼」
静かに一礼してその場を去るカトリーヌ。レティシアはそんな彼女の後を追いかけ、小さな声で呼び止める。
「ご無事で何よりです、カトリーヌ様」
「おお、君こそ大事無さそうで何よりだ。また助けられてしまったな」
「ほんの少し力添えしただけです。せっかく貴方がここと定めた止まり木を、失ってほしくなかったのです」
喩え名が変わっても、愛する方のお側に居られるように。己の運命と彼女の運命を重ね合わせつつ、レティシアは心の中で付け加える。だが、レティシアはひっそり首を振った。
「……いや。私にはこの村の外でやらねばならぬことがあるよ」
彼女がそう答えた時、既に彼女の目の前にはマティアスが正対していた。
「カトリーヌ。お前には苦労を掛けるが、すぐ次の任務へ取り掛かってもらう」
「何なりと」
カトリーヌは主人へ向かって恭しく頭を下げる。マティアスは部下から紋章入りの旗を受け取ると、彼女へそっと差し出した。
「旧帝国領を視察しろ。メアリー王女が帝国の忘れ形見と結婚することになったのだ。これから帝国と王国が融和するというなら、我々の立場もまた変わるからな」
「はい。直ちに発ちます」
彼女は旗を受け取ると、力強く答えた。
「それでよろしいのですか?」
レティシアは伏し目がちに尋ねる。これではマティアスと彼女は結局離れ離れだ。だが、彼女はくすりと笑って応えた。
「私はワタリガラスの翼で爪だ。どこへだって飛ぶさ。そしてそのうち戻ってくる」
カトリーヌは踵を返すと、揚々とした足取りで山の方角へ歩き去る。コルネとルアンナはそんな彼女の背中を見送っていた。
「……結局あの人は王国からいなくなってしまうんですね」
「ずっと身分を偽り続けるのも無理がありますよ。王国の外でなら、あの人はあの人のままで生きていても問題はないし、その姿を見せておく方がいい、のかなと」
「そういうこと」
いきなり後ろから割って入り、ミーナが二人に話しかける。彼女の不意打ちに、二人は思わず飛び上がってしまった。
「ミーナさん!」
「びっくりしたじゃないですか……」
「ふふん」
ミーナはほんの少し得意げな顔をした後、ふと頬を引き締めて二人を見渡す。
「ありがとう、二人とも。とても助かった。特にコルネは、ずっとあの蛇の攻撃から私達の家や畑を守ってくれて。おかげですぐ立て直せそう」
彼女はふとコルネの左腕へ目を向ける。火傷こそ治療されたが、大蛇の炎に晒され続けた服の袖はすっかり灼けてしまっていた。ミーナは目を伏せて尋ねる。
「……どうしてそこまでしてくれるの?」
「私は貴方の友人だからですよ。当たり前です」
コルネは胸を張って応える。単刀直入の言葉に、ミーナは小さくはにかんだ。
「友人、か。……そうなんだ」
「友達の窮地には全力を尽くしますとも。後悔したくないですからね」
ルアンナも相槌を打つ。
「エレアノールさんの事も、この村の事も、守れてよかったです」
「ありがとう。……でも、これはまだきっかけに過ぎないから。姉さんに屈辱を与えたツケは絶対に払ってもらうつもり。これからも協力してくれる?」
ミーナに問われたルアンナは、にっと白い歯を見せた。
「もちろんです! 何かあったらいつでも呼んでくださいね!」
コルネもミーナへ頷いてみせると、ふと村の全体を見渡してみる。何となく“彼”がどこかにいるような気がしたが、相変わらずその姿は見えない。
「……全てを恨んで壊そうとしても、結局何も残らない。それは寂しいと思います」
コルネは何処とも知れぬ彼に向かって問いかける。
「グノーシス。それが“貴方”の望みなんですか」
かくして、エレアノールの刑罰に端を発する騒乱は幕を閉じた。エレアノールは国外へ逃れて放浪の身となり、グランツ伯は何処かの塔に幽閉されて親戚筋の人間がその領地を継ぐこととなった。ティロール家とグランツ家の間に結ばれていた寄り親、寄り子の関係も改めて見直されるだろう。
しかし真の問題の根は朽ちていない。あちらこちらに揺れ動く幽霊は、まだ悠々とこの世を彷徨っているのである。
【随想】編 おわり
マスターコメント
ロングシナリオ普通 報酬:標準8 / 6〜8人
2023年07月12日 10時51分42秒 公開
参加者
相談掲示板
ヒーラー、グレイブ・ヤードです。 あのままというのも気になりましたので・・・しかしまあ
ウォーリアのコルネリウスです。よろしくお願いします。 敵の数が多いですし、此方の各々の配置・分担はしっかり確認して挑みたいですね。 必要なことは、大まかにはグランツ伯の生け捕り、民家や畑の焼損を抑える、グランツ軍を叩く、あたりでしょうか。 グランツ伯は敢えて攻撃を受ける形で引き付ければ、こちらからは執着を付与せずに対応が可能ですね。 生け捕りにしなければならないので、手足を潰す程度に抑える必要はありますか。 民家や畑の焼損を抑えるにはアンゲロスの破壊特性も抑えないといけませんかね。 グランツ軍の方は数を減らしても戦意喪失させられるか、と思うので殲滅を目指す方が良いでしょうか?
ウォリアーのアーテミシアだ。 あの蛇もさっさと何とかしたほうが良さそうだな。放っておいたらやりづらくなってかなわねえし成功度も下るしな。 軍に関しては…ウォリアーから潰したほうがいいか。所詮金で集まった連中なんて不利になったらさっさと逃げるだろうぜ。 オレは蛇相手じゃなきゃどこに行っても構わねえぞ。相性的にはグランツの相手してる方が有利か。
どうも。シューターのキリアン・フィッツジェラルドと申します。 とりあえず、やるべき事としては孤高者の双波で敵が何処にどれくらい居るのか索敵しつつ、民家などの構造も把握して伝達する次第です。 回数は2回程度とはいえ、民家などの被害を抑えつつ上手い事利用するという事で曲射・極をも使ってみるつもりで。 アンゲロスがグランツ伯の意志に同調して動くとなると、なまじちょっとやそっとのダメージを与えた程度では却って彼を刺激する事にもなり、そうなるとアンゲロスの勢いが増しかねないですね。 生け捕りにする必要もあるとなれば、手足を潰す程度のダメージを与える事に加えて手勢をも殲滅して、万策尽きるという形で心を折る事でアンゲロスの動きをも鈍らせられればいいのですが……
キャスターのルアンナです。いよいよ最終章というところですね。 アーミテシアさんも言っていますが100人の兵士は所詮は寄せ集めですし、リーダー格の授恵者を倒してしまえば総崩れになって脅威ではなくなると思います。 私は誰に行きましょうかね、今のところはグランツ伯爵を希望します。
キャスター、アウレーリアです。宜しく。 敵軍自体に対しては、殺してはいけないという制限はありませんね。 積極的に火でも着けて回らない保証もありません。薙ぎ払うとしましょう。 まずシューター、ウォーリアを叩いておけば、あとは多少片手間でも足止め出来るでしょうか。 カトリーヌ達とも手分けすれば、手が足りないということはないでしょう。 ザラストラも早めに無力化しないと、地形にも友軍にも被害が大きいので。 こちらは本腰入れて対処したいですね。マジックディソナンスを用意しようと思います。
No.7
キャスターのリディリディです。 よろしくお願いします・・・。 そうですね。 地形への影響も考えるとアンゲロスは早めに撃破しておきたいです。 それと・・・。 グランツ軍は一般人が多いとはいえ、数が数なので、私はこちらも早急に対処しようと考えています。
ごきげんよう。 ヒーラーのレティシア・レインフィールと申します。 皆様、よろしくお願い致します。 必要な事に関しましてはミネルヴァ様と子爵様をお守りする事が最低条件ですので その他についてはコルネリウス様が仰ったもので間違いはないかと。 あとはエレ……いえ、カトリーヌ様の正体を隠しきるのも必要となりますでしょうか。 此度の戦いは夜間ですけれど月明りはございますので、個人の行動次第ではございますけれど 汎用スキルについては『暗視』よりも別の物を優先してよろしいかもしれません。 グランツ軍は授恵者を優先して撃破し戦意喪失を狙う事に異論はございません。 逃亡者については放置されるか、逃亡中の民家や畑への被害防止の為に然るべき対応をされるか。 この点についても予め意思統一する必要がございますね。 現時点ではウェイブ・オブ・インフィニティロアでの戦力底上げや 各回復での支援を予定しておりますので 特に戦闘が激しくなると予想される対伯爵様か対アンゲロスを想定しております。
なるほど、確かに寄せ集めですものね。グランツ軍については授恵者を優先して撃破という方針で私も異論ありません。 エ…カトリーヌさんについてもバレないようにというのは大事ですね。 では私はアンゲロスの方へ回りましょうか。クラスがキャスターとのことですし、魔防を上げるようにしていこうと思います。
ンじゃ、オレはグランツに行くかね。30程度のウォリアーなら特に問題ねえし…周りが片付くまで遊ンでてやるか。
>逃亡者 出来る限りは始末したほうがいいのかもしれない、とは思わなくもないですが、無理もできないかなとは思います。 自由に動けるってことは八つ当たりも自由になりますからね 勝手な逆恨みとかは枚挙にいとまがありませんし。 「範囲系の攻撃でできるだけ巻き込む」とかの対処になるかなとは思います。 幸い、それが本文といえる方の支援も得られますし >主な対処 ん-、「伯爵」の足止めでもしましょうか? 誰かは前に出る必要があるでしょうし、「執拗」の効果を含めても 「食らっても回復できれば」アンゲロス討伐までの時間も稼げるでしょうし、疲労を積み重ねればいかにバーサーク状態でも動きは鈍るでしょう。 疲れ果ててしまえば捕縛も難しくはないでしょうから。
>戦闘方針 戦闘開始時は伯爵様とアンゲロスは近い位置ですけれど 分断及び引き離しはなさいますか? 仮に引き離した場合、伯爵様が不利を悟られましたら身を守られる為 アンゲロスを呼び戻そうとなさるのではないかと予想しておりますけれど……。 私もそちらに向かう場合はグランツ軍対応班にはヒーラーが不在となりますので 回復面についてご意見を頂けますと有難く存じます。 あとは捕縛の為、伯爵様については序盤はあくまで足止めを行い 先にアンゲロス撃破やグランツ軍の無力化を行うという認識でよろしかったでしょうか? >遊軍 基本的には各自のご判断にお任せするとして 接近されると私達と共に範囲攻撃に巻き込まれますので 砦からの射撃や投石での支援に専念して頂いた方がよろしいかもしれません。 カトリーヌ様についてはある程度グランツ軍を攻撃して頂いた後は 距離を保ちながら伯爵様に攻撃をして頂くのもよろしいかと。
まぁ変な話(というわけでもないですが) 「伯爵の命以上に優先する事項はない」という感じかと思われます。 撃破や無力化は伯爵捕縛のための障害ではありますので先に行う必要性はありますし、皆さんそれ相応に対応を考えていらっしゃるかと思います。
>戦闘方針 すみません、反応ギリギリになってしまいまして。 私はアンゲロスに執着付与で引き付けておくつもりでしたので、グランツ伯がアンゲロスを呼び戻そうとした場合はこちらで抑えます。 遊軍についての扱いはレティシアさんの案で問題ないかと思います。
引き離しはオレがドラチャリ使うよ そっからタイマンで抑え込むのがオレのいつものやり方だし