【微獄】死の接点

革酎

コメント 14

シナリオID:3020

オープニング

●戦術家の思惑
 リーンエス王国とディズル大湿地帯の領境には幾つもの貴族が自領を構えているが、貴族派貴族カクタス・ラベネルガー侯爵も、それら領境地貴族のひとりである。
 ラベネルガー侯爵は始まりの百家のひとつに数えられる名家であり、その家格と威風は周辺に展開する弱小貴族の比ではない。
 そんなラベネルガー侯爵家だが、王国内地での権力争いばかりでなく、対ディズルという面でも王国防衛線の一角を担っているという自負があり、貴族派の中でも武門の家として知られていた。
 例えば、西方辺境伯家はシラー砂漠から流入する蛮族を封じ込める為に、主にシラー砂漠との間の領境で自領や寄り子貴族による防備を固めている。
 その一方でディズル大湿地帯にも不埒な輩は少なからず存在するから、領境地の各領主達はそれなりの防衛線を張り巡らせている。が、最大の脅威は矢張り何といっても雲霞鳥であり、この魔獣の侵入に対する防備に力を注いでいる貴族は少なくない。
 ラベネルガー侯爵家も対雲霞鳥という面では非常に博識であり、同時に武を重んじるリザードマンの気質にも精通している為、歴代の当主達は常に対ディズルに於ける戦術眼を磨き続けてきた。そういった歴史もあり、現当主のカクタスも相当な戦術家として、当地周辺では幅を利かせている。
 そして何より、カクタス自身も授恵者であった。覚醒したのは十数年前というから、その経験と力量は最近覚醒したばかりの駆け出し冒険者の比ではないとも噂されている。
 そのカクタスの耳に、王都グランスパーダや西方辺境伯領都で発生した謎の奇病蔓延の報告が飛び込んできたのは、数週間程前のことだった。
 当初は静観の構えを見せていたカクタスだったが、或る情報に触れたことで思考を一変させた。
(サキスロームにゾルケナラだと?)
 深夜、自邸の執務室で取次の侍従からの報告を受けたカクタスは、喉の奥で唸りながら太い腕を組んだ。
 これは果たして、偶然なのか。
 実のところカクタスは、数カ月前から王都グランスパーダに向けて何人かの密偵を派遣している。近年の貴族派貴族に対する風当たりが自家にも響いてくるのではないかという予測から、情報収集を密にする必要があると考えたからだ。
 その密偵のひとり、ブラト・ケイズはバナハン魔術研究振興会に潜入していた。ケイズは西方辺境伯ルーヴェン・アクファリテが謎の古文書解析を依頼したという不確定情報を明らかにする為に、カクタスが己の直感を信じて潜入させたという経緯がある。
 ケイズからは、サキスロームとゾルケナラという聞き慣れない固有名の報告がもたらされた。
 それが何であるのかを更に調べさせようとした矢先に、例の奇病蔓延の一報が飛び込んできた訳だが、ここで更に驚くべき事実が舞い込んできた。
 メドゥの指先幹部『緑の人差し指』ラネンターカムの使者を名乗る者が現れ、サキスロームとゾルケナラに関する情報を提供したいと申し入れてきたのである。
 使者曰く、今回の奇病騒ぎにはサキスロームが大いに関わっているということらしい。
 但し、このラネンターカムからの使者は情報提供と同時に、或る話を持ち掛けてきた。
 カクタスは内心で驚きつつも、侍従を退がらせてその使者なる人物との面会に応じることにした。
 尚、その使者は『青の中指』と名乗っているとの由。

●糸口を掴む為に
 ルーヴェン・アクファリテは西方辺境伯領都の一角で猛威を振るっている奇病の対応に当たる為、ひとまずグランスパーダを去っていった。
 残された近衛騎士ジュール・J・ヴェルジーは、引き続き王都の下町シンバトエ居住街区での奇病蔓延対応に当たることになったが、同時に、バナハン魔術研究振興会の研究員エルゼン・カナクの死と、彼が解析を進めていたサキスロームとゾルケナラに関する情報収集にも当たらなければならなかった。
 そしてそのカナク研究員を殺害したのは、現在行方不明となっている同僚研究員ブラト・ケイズと目されているが、彼の行方は今のところ掴めていない。
 残されていた唯一の手掛かりは、貴族派貴族にして始まりの百家にも連なる名家ラベネルガー侯爵が出したと思しき封書の残骸だった。
 だがそれとて、ラベネルガー侯爵が今回の一件に関わっているといい切れる決定的証拠にはなり得ない。その為ジュールは、密かにラベネルガー侯爵とその周辺を探る必要があると考えた。
(まずはブラト・ケイズの身柄を押さえる必要があるな)
 シンバトエ居住街区近くの行政支所で奇病の蔓延状況を事細かに記した感染報告書をじっと睨みつけながら、ジュールは頭の中で幾つものストーリーを描いていた。
 ラベネルガー侯爵は文武両道の手強い相手だ。そう簡単に尻尾を掴ませるとは思えない。
 であれば、今のところ唯一の泣き所にもなり得るブラト・ケイズの身柄を確保するのが、一番の得策であると考えられた。
 但し、天陽道の横槍が入ってくる可能性もある。
 過日の報告書によれば、天陽道側もラベネルガー侯爵とは未だ繋がりが無さそうな空気感ではあったが、この両者が結びつけば、それはそれで厄介だ。
 勿論、天陽道がラベネルガー侯爵と手を結び、その事実が明るみに出ればラベネルガー侯爵を叩く大義が出来るが、恐らくそこまで上手く話が進むことは無いだろう。
(……ならば、動くのは早いに越したことは無いか)
 ジュールは感染報告書を書棚に戻し、王都内の冒険者ギルドへと足を急がせた。彼自身、ラベネルガー侯爵領に踏み込む腹積もりだった。

解説

状況:  PCの皆様は王都グランスパーダの冒険者ギルドにて、近衛騎士ジュール・J・ヴェルジーからの依頼でラベネルガー侯爵領に到着したところからスタートして頂きます。  今回の目的は前回姿を消したバナハン魔術研究振興会の研究員ブラト・ケイズの身柄を押さえることです。  王都グランスパーダ内では既にその消息が絶たれており、現在はラベネルガー侯爵領に逃げ込んでいるものと推測されます。  現時点ではラベネルガー侯爵はまだクロと決まった訳ではない為、極秘裏にケイズの身柄を確保する必要があります。  尚、ケイズの外観的特徴はバナハン魔術研究振興会からの情報提供で面が割れていますが、ケイズの方はPCの皆様のことを知りませんので、その点を逆手に取れば上手く捜査を進めることが出来るかも知れません。  また、今回も天陽道が横槍を入れてくる可能性は非常に高いと見て頂いて結構です。 敵:  現時点で想定し得る敵は天陽道ですが、ラベネルガー侯爵配下の密偵や傭兵辺りが手を出してくる可能性もあります。どの場面でどの敵と遭遇するかは全く不明である為、明確な敵情報はありません。 NPC:  王国騎士団近衛隊のジュール・J・ヴェルジーがEXCとして登場する他、法衣貴族ウェズリー・バナハン侯爵が登場する可能性があります。

マスターより

 皆様、こんにちは。  連作【微獄】の第四回OPをリリース致します。  今回も、EXCのジュール・J・ヴェルジーさんをお借りしています。  王都グランスパーダ、シラー砂漠のラネンターカム陵ときて、今回はディズル大湿地帯に接する大貴族ラベネルガー侯爵領が舞台です。  やるべきことは明白ですが、手がかりが非常に乏しく、今回も知恵を絞る必要があります。敵が現れるかどうかもまるで分かりませんので、中々厄介な状況ですが、上手く標的を捕捉し、身柄確保に繋げて下さい。  それでは、ご縁があればご参加のご検討宜しくお願い致します。

リプレイ

●掴めぬ足取り
 ディズル大湿地帯に接するラベネルガー侯爵領の領都は、国境から幾分内地へと入ったところにあるペンデスという町で、広い敷地の割には人口は然程に多くは無い。
 このペンデスにある幾つかの宿屋のうちのひとつに、リーンエス王国近衛騎士ジュール・J・ヴェルジーが部屋をまとめて人数分確保した。
 彼が追う唯一の手掛かりブラト・ケイズ。その捜索の主力たる冒険者達の為に、活動拠点が必要だと考えたからだ。拠点の設置を先に提言したのは冒険者の方だったが、彼らの懐を痛めるのはどうかと考えたジュールが、王国の予算から出そうということで自らこの宿を確保した格好だった。
 態々拠点を設けるということは、ケイズ捜索にはそれなりの日数がかかる、と踏んだからでもある。
 事実、ペンデス内を捜索している冒険者達はケイズの足跡を追うのに中々苦労していた。
「今日はラベネルガー侯爵邸の出入り業者を片っ端から洗ってみたよ」
 日もとっぷり暮れた時間帯。
 宿部屋に戻るなり、キオルティスは変装用の帽子や外套を脱ぎながら小さく肩を竦めた。この様子を見ると、芳しい情報は得られなかったらしい。
「真っ当な業者もそうだけど、時間的に変なタイミングで訪れる業者にも目を光らせていたんだけどね」
 ラベネルガー侯爵は始まりの百家に連なる名家というだけのことはあり、その邸宅も非常に大きく、出入りする業者は一日を通して両手の指で数え切れない。しかしどの業者も特に怪しい気配は漂わせていなかった。
 食品や服飾品を納入する業者、洗濯業者、庭師、侯爵邸に併設される行政庁舎に勤務する役人、他諸々。
「業者さん……そんなにたくさん、いるのですか……」
 今回は主に戦闘担当として同行していたミゼリア・L・ステュクスが、ベッドの端で他のメンバー達が使用する変装用の衣装を丁寧に畳みながら、小首を傾げた。
 戦闘以外ではほとんどやることが無い為、皆が宿に引き返してくる時は彼らの身の回りの世話を手伝う時間が多くなるらしい。尚、変装用の衣装も全てジュールが調達していた為、宿に戻った冒険者は最初にジュールの宿部屋に足を運び、そのついでにその日の進捗を報告することになっていた。
「意外とおとなしいっつうか、辛抱強く潜伏してるみてぇだな」
 キオルティスより少し前に戻ってきていたハヤト=ガラン=ヴォルファングも同様に変装用衣装から自前の私服に着替えつつ、面倒なことになりそうだと頭を掻いた。
「過激派の貴族派貴族が裏で糸引いてるってぇから、もうちょっと派手に動くかと思ってたけどな」
 実際、前回は中々の大立ち回りの挙句に逃走を許してしまった。尤も、あの時は天陽道による横槍があったから、というのも大きな理由ではあろうが。

 同じ頃、ひと足早く宿に引き返していたロゼット、ジュスト・ヴェルジー、そしてローザリカ・L・ディオールの三人は、宿に隣接する安酒場で少し遅めの夕食にありついていた。
「どうも侯爵邸周辺は、不発に終わりそうだね」
 味付けの濃い肉料理をつつきながら、ローザリカは軽い溜息を漏らした。
 ラベネルガー侯爵は授恵者であり、百戦錬磨の策士でもあると聞く。であれば、自らの拠点近くで危ない橋を渡る様なことをしないのも、当然といえば当然か。
「ペンデスまでは割りと簡単に追跡出来たけど、流石にここから先は向こうも慎重になってるって感じかしらね……」
 ロゼットは堅いパンを頬張りつつ、上体を木椅子の背もたれに預けて天井を仰いだ。
 ケイズが潜伏するなら侯爵邸近くを最初に疑ったのだが、不発に終わりそうな予感が漂っている。恐らくケイズ自身も、王都グランスパーダで冒険者達に追跡されている事実を知ったからには、相当慎重になっているのだろう。
「で、ジュストはどうだったの?」
「非番のメイドに声をかけて色々訊いてみたけど、こちらも空振りだったね」
 粗末な木製テーブルに頬杖をついて吐息を漏らしたジュスト。ところが訊いたロゼットではなく、ローザリカの方が何故か鋭い反応を返してきた。
「非番のメイド? まさか、また若い娘を誑し込もうとした訳かい?」
「あ、いや、そうじゃなくて……」
 ローザリカに詰められ、口を滑らせてしまったと内心で焦るジュスト。勿論これも任務の為だからとローザリカ自身は理解しているのだろうが、こうも簡単に他の女と接触を取ったと白状してしまうジュストも、如何なものであろう。
 実をいえばローザリカも聞き込みの際にはケイズをひと目惚れした相手だと吹聴し、態々頬を赤らめる演技までしてみせたのだが、そんなことはこの場ではおくびにも出さない。
 男女の恋の駆け引きや機微に関しては、ローザリカの方が一枚上手か。
「非番なら気が緩むだろうからって魂胆だったんだろうけど、ジュストもちょっと気が緩んでない?」
「その通り。どうやって若い娘さんを誑し込んだのか、後でじっくり聞かせて貰うよ」
 ロゼットとローザリカに煽られたジュストは、半ば誤魔化しの乾いた笑いを返すしかなかった。
 そんなジュストに苦笑を返してから、ロゼットはふと真顔に戻って考え込んだ。
「ブラト・ケイズは……本当にカナク研究員を殺害したのかしら」
 この点についてはロゼットのみならず、ジュストもローザリカも明確な答えを持っていなかった。

●再びの飯綱
 翌日、キオルティスはペンデスの貧困層街区、所謂スラム街へと足を延ばした。
 ラベネルガー侯爵邸周辺は治安が良い為、敵の襲撃についてはほとんど考える必要は無かったが、スラム街となると話は別だ。
 そこかしこで喧嘩や物取りといった物騒な事態が頻発する区域である。天陽道が襲撃してきたとしても、いつもの騒ぎのひとつだと認識されて町の警備隊すら駆けつけてこないだろう。
 このスラム街での調査に於いてこそ出番が巡ってくるかも知れないと考え、今回はミゼリアも同行した。
「成程……こういうところなら、身を隠すのも簡単って訳か」
 スラム街に目を付けたキオルティスの眼力に、ハヤトは素直に感嘆した。
 ジュストやローザリカといった貴族出身者では中々そこまで思いつかないだろうし、ロゼットも侯爵邸周辺にケイズが潜んでいるものと思考を絞っていた為、このスラム街という発想はキオルティス以外には持ち得なかったといって良い。
 そのキオルティス主導でのスラム街捜索を進めてゆくうちに、驚くべき事態が判明した。
 どうやら、ここでも例の奇病が蔓延し始めている兆候が現れていたのである。
「感染の傾向を探るとしよう。その中心地に、ブラトが居るかも知れない」
 キオルティスの指示に従い、仲間の冒険者達は感染者と思しきスラム街住民の位置を把握し、その密集度や発病時期などから少しずつ、感染拡大の起点となった場所を特定していった。
(まさかこんな形で、シンバトエ居住街区での経験が活きることになるとは)
 ジュストは傍らのローザリカをちらりと盗み見た。ローザリカはシンバトエで老夫婦の無残なる最期を目の当たりにし、そのプライドをずたずたに引き裂かれた。あの時の彼女の心情を考えると、奇病を足掛かりにケイズの居場所を特定してゆくという方法は中々精神的にしんどいものがある。
 それでもローザリカは表情を変えずに、淡々と捜索を進めていた。ジュストに心配をかけまいとして敢えて気丈に振る舞っているのが、手に取る様に分かる。
 だが、事態はそんなふたりの葛藤など待ってはくれなかった。
「この風は……あの時の」
 スラム街のごみごみとした一角で、不意に突風が吹き荒れ始めた。
 ロゼットは咄嗟に、グランスパーダで襲って来た天陽道の唱紋士を思い出し、臨戦態勢に入る。そのロゼットの前でミゼリアが漆黒の刃を抜き払い、真紅の瞳を煌めかせて甘美なる体香を振り撒き始めた。
「そう何度も、同じ相手にしてやられる訳にはいかないな」
 ローザリカが扇を扇ぎ払うと、癒しの力を纏う小鳥が静かに舞い始めた。
 一方でジュストは、無数の光蝶を周辺に展開し、突風の中に潜んでいる半透明の敵の襲来に備えた。
 飯綱、と呼ばれる小型の妖怪は、ミゼリアに対して集中的に攻撃を仕掛けてきた。ミゼリアは全身の至る所に細かい傷を負い始めたが、それでもお構い無しに敵の群れを自らに引き寄せ続ける。
 このミゼリアの献身的な戦術が功を奏し、他の面々は飯綱への攻撃に専念することが出来た。
 ジュストの術で動きが相当に鈍っているところに、ハヤトとキオルティスが疾風の如き斬撃を加えてゆく。
「今度は思い通りにゃさせねぇぞ鼬野郎!」
 ハヤトが鋭く吠えた。
 出来ればビッグオウムの厩舎から風除けのゴーグルを借りてきたかったが、ゴーグルは貴重な道具であると断られた為、今回も肉眼での戦闘を余儀無くされた。
 が、ミゼリアの徹底した盾役と、ジュストの魔術が飯綱対策として非常に有効に作用した。
 このスラム街での戦闘では前回の様に後手を踏むことも無く、キオルティスとハヤトの斬撃、更にはロゼットのエーテルを乗せた強烈な一撃や、ローザリカの肉弾戦で次々と有効打を撃ち込んでゆくことが出来た。
 すると――。
「国木田、もう良い、退がれ。この御仁らは既に飯綱の対処法をしっかり練っておられた様だ。最早、飯綱単体では通用せん」
 どこかで聞き覚えのある声が静かに響いた。ローザリカは天陽師蘆屋 外伴(あしや げはん)が近くに潜んでいると咄嗟に見抜いたが、しかし相手はどこかに姿を隠したままであり、飛び出してくる気配は無い。
 やがて、突風が止んだ。
 ミゼリアは全身に細かな傷を刻まれて血まみれの凄惨な姿で尚も仁王立ちとなっていたが、その後しばらく経っても敵が再び姿を現すことは無かった。
「どうやら、今回はこっちの勝ちと見て良さそうね」
 ロゼットのひと言で、他の面々も得物を収めた。

●超微細型魔獣の真実
 冒険者達は遂に、ケイズの居場所を突き止めた。
 スラム街の一角に立つ集合住宅に、つい最近ひとりの男が住みつき始めたという情報を得て、まずはキオルティスとハヤトが件の部屋に乗り込んでゆく運びとなった。
 そこに、ケイズが居た。恐ろしく憔悴し、酷く弱っている。明らかに脱水症状を起こしていた。
「まさか……奇病に感染している?」
 キオルティスはすぐに屋外のロゼットとローザリカを呼び、応急処置に当たらせた。奇病は、治癒術で一時的にその進行を弱めることが出来るのは周知の事実だ。
 ここで再び、あの老夫婦の惨劇が――とも思ったが、ジュストはそれでもローザリカに処置を任せた。今は、そんなことをいっていられる状況ではないのである。
「まずは……ここをでましょう。あんまり、きれいなとこじゃ、ありませんし……」
 ミゼリアがいう様に、この室内は兎に角不潔だ。吐瀉物や糞尿が掃除もされずに放置されているから、異臭も凄まじい。
 そうしてハヤト、キオルティス、ミゼリアの三人で即席の担架を作り、そのままケイズを冒険者達が宿泊している宿屋へと連れ込むことにした。
 ケイズはジュールの宿部屋のベッドで、病体のまま尋問を受けることとなった。
 ところが意外にも、ケイズはジュールからの問いかけに素直に応じる構えを見せた。
「サキスロームとゾルケナラは……いずれも超微細型魔獣です。サキスロームは他の生物の血肉を餌とし、その排泄物として非常に強力な毒素を出す。そしてゾルケナラはサキスロームを餌とする魔獣で、いわばサキスロームによる奇病を抑える為の特効薬みたいな存在です」
 更にケイズ曰く、サキスロームの毒素は授恵者には通用しない、と。この毒素によって命を落とすのは非授恵者の一般人のみであるらしい。
 幸い、ケイズはゾルケナラを持たされていた為に死を免れることは出来たが、ゾルケナラが体内のサキスロームを食い尽くすまでは前段階の症状、即ち下痢や嘔吐、発熱などによって相当に苦しめられたとの由。
 ではそのゾルケナラをケイズに持たせたのは誰なのか――その疑問が湧いてきたところで、思わぬ来客によって尋問が中断された。
 ラベネルガー侯爵からの使者が現れ、冒険者達とジュールを侯爵邸に招きたいというのである。
 予想外の展開であった。

 カクタス・ラベネルガー侯爵は壮年の偉丈夫だった。
 彼に招かれ、侯爵邸の広い応接室に招かれた一同は、そこで驚くべき事態を告げられた。
 ラベネルガー侯爵は休眠状態のゾルケナラを、ほんの僅かではあるが所持しているということらしい。どこで入手したのかは教えてくれなかったものの、彼はこのゾルケナラを、奇病が蔓延しているスラム街に持ち込んで欲しい旨を告げた。
「既にケイズから聞き及んでおるでしょう。授恵者は、例の奇病には罹患しない。その為、奇病発生地で住民を救う為にゾルケナラを配布するには、冒険者の助力が必要となります」
 そこでラベネルガー侯爵は、現在このペンデスに滞在している授恵者達、即ちジュールと彼の協力者達を頼ろうと考えたらしい。
「ところで、エルゼン・カナクという研究員を殺害したのは?」
「分かりません。ケイズは単に巻き込まれただけだ、と報告を寄越してきましたのでね」
 ロゼットの疑問に対し、ラベネルガー侯爵は何食わぬ顔で応じた。相当な曲者の様にも思えたが、証拠が無い以上、それ以上の追及は出来ない。
「ゾルケナラは、ここのスラムに配る分量以上はお持ちではないのか?」
 ジュールが隻眼を煌めかせて追及した。が、ラベネルガー侯爵は残念そうにかぶりを振る。
「生憎……王都や西方辺境伯領の患者達を救えるだけの分はありません。しかしながら」
 今、ある伝手を頼ってゾルケナラを更に入手しようと試みている、とも応じた。その伝手が何者なのかという点についても、ラベネルガー侯爵は言葉を濁した。
 結局ジュールは、ラベネルガー侯爵からの依頼を受けることにした。スラム街の住民も、王国の民だ。
 彼らを見捨てる訳にはいかないというのが、近衛騎士としての決断だった。
(それにしても……わたしたちが、ここにいること、どうやって、しったのでしょう……?)
 侯爵邸を辞する際、ミゼリアはふとそんなことを疑問に思ったが、大したことでもない為、遂に口にすることは無かった。
 一方で――。
(あの侯爵、何か隠してやがるな)
 ハヤトは今回の一件がこれで終わるとは、考えていなかった。
 何故ならラベネルガー侯爵邸内に、因縁の敵――青の中指の体臭が僅かに残っていたのを感知したからだ。
 否、ハヤトやミゼリアだけではない。
 他の冒険者達も同様に、疑念にまみれていた。余りにも、色々と不審点が多過ぎる。今回の様な幕引きは釈然としない点に溢れていた。

マスターコメント

 皆様、お疲れ様でございました。  無事にケイズを発見し身柄を押さえることが出来ましたが、更に思わぬ人物からの接触もあり、事態は想定外の方向へと流れ始めています。  まだまだ不審点は多い為、これで事件の解決ということにはなりません。  が、まずはサキスロームとゾルケナラの正体判明まで辿り着けたことで、今回は見事に大成功です。  MVPはスラム街を捜索対象に考えていたキオルティスさん一択で。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:標準6 / 4〜8人

2023年06月25日 13時05分14秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ロゼット

    ヒーラーのロゼットよ。 前回に引き続き、難しい依頼だけど頑張りましょう。 >考えること1「人探し」 >極秘裏にブラト・ケイズの身柄を確保する どこでどうやってブラト・ケイズを探し、確保するかね。 ブラトの外観的特徴は、判明しているらしいから、 ラベネルガー侯爵領を探しまわるだけでも、遭遇できる 可能性はあるけど、何か目星は欲しいところね。 例えば、彼がラベネルガー侯爵と繋がっているなら、 侯爵の邸宅を見張ることで、出入りを目撃できるかも? 注意として、侯爵と事を構えるにはまだ証拠が無いから、 ブラトを確保するのは別の場所を選ばないといけないかな。 >考えること2「敵」 >想定し得る敵への対策 今のところ、遭遇しそうな敵の顔ぶれは。 ・天陽道の蘆屋外伴 ・蘆屋の配下『あやかし法師』の国木田賀次郎 ・国木田が使役する妖怪『飯綱』 ・『青の中指』ジルベル この辺りかしら。国木田と妖怪『飯綱』については 前回の「【微獄】消えた魔術師」に初登場した相手ね。 妖怪『飯綱』については、前回の感想だとこんな感じ? 前回の参加者で、間違ってるところがあったら教えてね。 >妖怪『飯綱』 ・豪風と共に現れる鼠大の大きさの魔獣(複数) ・風の中を飛び回り半透明の姿をしている ・戦う者は強風により、まともに目を開けていられない ・視認が必要な攻撃手段は狙うのが困難 ・速さと移動距離、数を強みにして斬撃で攻撃してくる 前回も妨害してきたし『飯綱』が出てくる可能性は高そう。 今のところ思い浮かぶのはこれぐらい。長文、失礼したわ。

  2. ジュスト・V・ケレス

    キャスターのジュストだ。 今回もよろしく頼む。 >ブラト・ケイズの捜索、身柄の確保 密偵としては自身と侯爵との繋がりはばれたくないだろうが、恐らく早めに侯爵と接触なり連絡を取りたいと考えている気がするね。 身を潜めるにしても侯爵邸に極力近い場所にいるかもしれない。 ロゼット殿が挙げてくれたように屋敷の出入りを監視するのも良いと思うけれど、有力貴族の屋敷だからね。 確保は勿論のことあからさまな監視や調査は屋敷近辺でするのはまずいから、隠蔽なり何かしらの目立たない工夫は必要だと思ったよ。 >想定し得る敵への対策 PL情報ではあるけれどジルベルは侯爵と接触したがっているようだし、侯爵邸付近で活動する時は遭遇しそうだね。 ブラトの居場所も天陽道の方が先に見つける可能性もあるし、捜索途中でかち合う可能性もあるんだけれど……領内で派手な戦闘をすると、侯爵が他に雇っている密偵や私兵、傭兵の類に目をつけられそうなのが悩ましいね。 ロゼット殿が纏めてくれた飯綱の特性的に有効なのは対象を識別しない範囲攻撃かなぁと考えたんだけれど。

  3. キオルティス

    シーフのキオルティス。キオでもルティスでもお気軽に。 今回も宜しくね。 >ブラトの捜索/確保 密偵としての侯爵との連絡方法が分からないのが痛いね… 今までの状況から行くと、侯爵に直接目通りしてないだろうから 今回もその可能性は十分にあるだろうし。 元より文武両道で相当の戦術家である侯爵が、既に怪しいと睨まれた密偵に 直接会うような真似をするとは俺には思えないんだよね。 そんな訳で。 俺は出入り監視をするなら情報の定時連絡を担っているような人物… そうだね、怪しい時間帯の業者なんかを監視。 その後、その足取りを追跡することでブラトに辿り付けたら…と 現時点では思ってる。あとは邸から出て来た侍従に着目するとか、かな。 他には基本的に侯爵との連烙を自ら取ってないと考えてるから 足で調査するなら郊外…スラムとか安酒を提供する場に赴きたいかも。 >敵対策 ジルベルは確かに公爵邸周囲に居そうだね。 敵対策はロゼットさんやジュストさんが先に出してくれている通り、 飯綱をメインにしておくのがベスト、かな。 いっそ袋小路に追い込んで三方塞いだ上での範囲攻撃… …いや、追い込むこと自体が難しい…か。 何かで風を遮るか、もしくは視覚の保持≒飯綱の可視化を計るか?うーん。

  4. キオルティス

    連投ゴメンね。ちょっとだけ補足。 >他には基本的に侯爵との連烙を自ら取ってないと考えてるから この部分だけど、『侯爵との連絡を【直接】取ってない』と言う意味ね。 紛らわしくてゴメン!

  5. ローザリカ・D・ケレス

    ヒーラーのローザリカ、引き続きよろしく頼もう。 ブラト捜索の僕からの案は浮かんでいないんだが挙がっている意見に異論はないし、 懸念点は頭に叩き込んで領内での行動には充分気を付けて挑みたいと思うよ。 >ジルベル ブラトには僕らの事は知られていないが、ジルベルには顔がバレている。 少しでも見つかるのを防ぐために変装でもして動いた方がいいだろうか? ……思ったんだが、モヒカンセンサーが役にたったりするだろうか。 密偵や傭兵、変装したジルベルなんかの判別に活かせたらと思ったんだが僕は未収得でね。 これから修得して持っていくかは少し、いやモヒカンの響き的にはかなり悩む。 >飯綱 これに対しては祈雷を試してみたいな。 オブジェクト召喚だから、敵を狙って放つ必要はないし発動できれば必中。 発動まで時間がかかるし準備中に範囲外に逃れられる可能性はあるんだが、それはそれで。 僕らの周りから退いて貰う分には視界が開けるメリットもあるから、 その隙に他の誰かの範囲魔法を叩きこむなどの戦法も取れるんじゃないかと思って。

  6. ロゼット

    >『飯綱』対策 スキルに依存しない、誰でも可能な案だと閃光塗弾とか。 暴風が起きたら即に起動、どうせ目は開けてられないのだし。 飯綱も魔獣、生き物なら視覚ぐらいは持ってる、はず。 あと暴風が常時発動とは思いにくいから、任意発動する風なら、 閃光で目が眩んだ時くらい、風が止んだりしないかなって。 ペイント弾の効果の方で半透明の姿に色付けする手もあるけど、 ペイント弾は対象に「命中」させないと塗料が付かないのがね。 利点は「道具1個で誰でも出来る」かな。数が増えれば強烈だし。 他の案も考えつつ、最初に試しでやってみても良いかもって。 >ローザリカ 祈雷は【対象識別】で対象の知覚が前提だから厳しい、かも? キャスターの空間爆砕みたいな、【爆】攻撃は有効だけど、 飯綱が近接型だから、味方を巻き込むのには注意がいるかな。

  7. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! >ジルベル こいつとは長ぇことやりあってっから臭いならバッチリ覚えてるぜ。 調査の段階で嗅ぎつけりゃあ野郎が絡んでるってのはすぐに気付けると思うからな、警戒は促せると思うぜ。 >飯綱 こいつにゃ前回いいようにやられたからな… 今回はリベンジできっちりお礼参りさせて貰うぜ! 個人的にゃゴーグルを用意してって強風対策するつもりでいんぜ! >調査 あとは街中での調査は俺の格好だと目立つだろーしヒューマンにでも変装するつもりでいんぜ。

  8. ジュスト・V・ケレス

    >ブラト そうだね、俺も半ば足がつきかけている密偵を侯爵自ら逢う可能性は高くないと思う。 間に挟むなら侯爵の家臣、使用人、傭兵や私兵の類もしくは他の密偵やそれらが化けた出入りの業者あたりか。 キオルティス殿が業者をあたるなら俺は使用人あたりの動きに探りを入れようかな。 >調査 俺も変装はする予定。 >『飯綱』対策 通常の視覚が頼りにならないのならサーマルアイという手もあるかな。 飯綱に体温がなくても術者はあるだろうし、術者の方向が風上になると推測すれば飯綱のいる凡その方向も辺りがつけられるかも。 そうすれば閃光塗弾のどちらの効果も狙えるのではないかと思ったよ。

  9. キオルティス

    >ブラト ジュストさんは使用人始め、侯爵配下の調査だね。了解。 俺も密偵との連絡役が居るなら侯爵に近しい者、もしくは出入りの有る者かと。 もしかするとその両者ってことも有り得るよね。業者→使用人→侯爵、みたいな。 あと、危惧しているのは実は領内にブラトは居ない状況とかかな。 この辺りは領門は無理だとしても、移動に必要なグランスパーダからの馬車の 貸し出しや乗り合い状況や出立準備なんかを探りたいけれど…外れた時の 時間的なリスクが大きすぎる…かな。 とりあえず俺は先に言った通り、出入り業者とスラムor場末の酒場辺りを 探ってみたいと思うよ。 >変装 そうだね、俺も何らかの変装なり何なりはして行くよ。 >飯綱 そうか…飯綱を叩かなくても、術者を叩けば良いのか! それならジュストさんが言うように風上にアタリを付けた上で、もしかすると 飯綱自体の捕捉にも繋がるかもしれないサーマルアイで捜索するのも良いね。 妖怪≒魔獣なら、その使い手を倒せば消えずとも戦い易くはなるだろうし。 閃光手榴弾も使ってみるのは良さそうだね!

  10. ロゼット

    明後日が出発ね。 私は地道に聞き込みにまわってみるわ。 調査期間には言及がないけれど、ひとまず拠点代わりに 宿とかを抑えておいて、見たり聞いたりした情報を報告、 連絡、相談する感じで良いかしら。 で、ブラドの足取りが掴めた感があれば集結して動く? 障害(敵)が誰であれ、単身では少し厳しいでしょうし。 どう進展するか分からないから基本は、という感じだけど。

  11. ローザリカ・D・ケレス

    一応、僕の方で変装スキルも持っていこうかな。 貴重なスキル枠が被っても勿体ないし、変装者の手伝いをする旨もよければ書こう。 >情報交換・団体行動 拠点を決めての情報交換も了解した。 最初は手掛かりも無い中の捜索だからばらけるとしても、 ロゼット君の言うように何か掴んだ後は複数人で動くのも良いと思う。 >調査 屋敷を出入りする者は複数人いるだろうから僕もそちらを気に掛けつつ…… 超聴覚で話し声を拾えるようにしながら街中を広く探したりもしようかな。 >飯綱 祈雷の件は指摘をありがとう、その点が抜けていた。 閃光塗弾や、術者の当たりを付けて狙う案も良案に思う。 僕もそのあたり協力できるよう考えていくよ。

  12. キオルティス

    発言の合間、短くてゴメンね。ちょっと気に掛かったので補足。 まだ行動を決め兼ねている人が居れば。だけれど。 ジュストさんや俺は公爵とブラトに直接の接触はないと思っているけれど それが外れの場合も有り得ることだって十分に有るから、そこを重点的に 調査する人が居てもオッケイだと思う。 『絶対』って言うことは無いし、幾らでも可能性はある。 意見や視野は色んな方向に持っていた方が良いし、そこは流れる必要性は 全く無いと思うんで、その辺り、考えて行動しても良いと思う。 お互いの足の引っ張り合いにならないような行動なら、だけれど。 >情報交換 うん、ロゼットさんの言う感じで了解。 基本的に情報共有は徹底してやるつもりだったけれど、宿なんかの拠点で 着実に出来る方が、その先の進展もスムーズに進みそう!

  13. ジュスト・V・ケレス

    >情報共有・流れ そうだね、可能かどうかは状況次第だし、それぞれの調査中に襲撃を受ける可能性はあるけれど 拠点となる宿などを確保しておいて、そこで各々が集めた情報を交換・共有 ブラトの居場所にあたりをつけられたら皆で確保しにいく って感じで考えていたよ

  14. ロゼット

    プレイングは提出したわ。 邸宅の出入りは、キオルティスやジュストも触れているし、 私は聞き込みにあたってみるわ。 >行動を決め兼ねている人が居れば 「侯爵の邸宅に来る人を見張ります」だけでも、 アタリを引く可能性はあるからね。 深読みしすぎて、ハズレを引くことも多々あるし。 奇病も時間が経っているし、早く解決の目途を掴みたいわね。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0