【北乱】決着へのカウントダウン
革酎
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シナリオID:3016
オープニング
エスト・ポーラ市議会は全部が全部、リブラネスタや南部諸都市を目の敵にしている訳では無い。
中には長年の対立を水に流し、手を取り合って未来志向の対話をしていくべきだという平和な思想を持つ者も居る。それが穏健派と呼ばれる市議会議員達である。
その穏健派議員達とローヴィス・クレイヴラー市長は、かつては非常に良い協力関係にあった。
ところが昨今ローヴィス市長が見せた強硬論への変貌は、彼らの間に深刻な溝を刻む結果となった。
穏健派議員達はここ数カ月は息を潜めて事の成り行きを静かに眺めるしか無かったのだが、過日のリブラネスタ海軍との大海戦にて、両軍痛み分けに終わった結果を受けて再び息を吹き返した。
今からでも遅くはないから、リブラネスタに休戦を申し入れて改めて話し合いの場を設けようと、市の内外に提言し始めたのである。
事実彼らは対南部強硬派やエスト・ポーラ海軍を黙らせた上で、リブラネスタ市議会に休戦を申し入れた。
しかしリブラネスタ側は、ローヴィス市長の捕縛、或いは無力化を条件として突き返してきた。
穏健派議員達は即答することが出来ず、最大限努力すると応じるだけに留めた。ここ最近の態度の急変は確かに眉を顰めるものがあったが、ローヴィス市長とは長年に亘って良好な関係を築き上げてきた。そのローヴィス市長を、軽々と切り捨てることは出来ない。
平和を望む穏健派議員達ではあるが、リブラネスタへの対応とローヴィス市長との長年の友好関係の間で、板挟みに苦しむ格好となってしまった。
果たして、どちらを取るべきか――実に悩ましい現状が彼らを窮地に追い込もうとしていた。
ところが、ローヴィス市長はそんな穏健派議員達の葛藤をまるで無視するかの如く、あり得ない対応を取ってきた。
リブラネスタ海軍との大海戦にも投入したレッドペリカン部隊を動員し、穏健派議員の長老格カーレス・オートンを襲撃しようと画策しているとの噂が流れ始めていたのである。
穏健派議員達は驚くと同時に、怒りを滲ませた。
ローヴィス市長がその様な暴挙に打って出るのであれば、最早容赦する必要は無い、と。
●好機を掴め
リブラネスタの冒険者ギルドに、リブラネスタ市政議員のひとりエルムダール・スアレスが姿を見せた。
その傍らには、この町では見慣れない顔の中年男性。
スアレス議員は受付嬢に、彼はエスト・ポーラ穏健派議員のドルロイ・フィオーだと紹介した。スアレス議員とは以前から個人的に交友を結んでおり、今回の両都市の対立には当初から頭を痛めていたのだという。
そのフィオー議員が密かにスアレス議員のもとを訪れ、リブラネスタの冒険者ギルドで依頼を申し入れたいと頼み込んできたのである。
よくよく話を聞いてみると、エスト・ポーラではローヴィス市長が穏健派の長老格オートン議員に刺客を送り込み、穏健派一掃の足がかりにしようと目論んでいるとの由。
しかしエスト・ポーラ市内でオートン議員を守る為に動けば、必ずやローヴィス市長の情報網に引っかかってしまう。そこでフィオー議員は態々リブラネスタにまで足を運び、スアレス議員を頼ったという訳だ。
「だがこれは、却って好都合でもある」
スアレス議員は受付嬢に、自信ありげな笑みを向けた。
対リブラネスタで動く分にはエスト・ポーラ市議会や海軍の支持を大いに集めているローヴィス市長だが、如何に煙たい存在とはいえ、同じ市議会の議員に刃を向けたとあっては、流石に弁明の余地も無い。
リブラネスタ内では今のローヴィス市長は偽物だという観測が広がっているものの、決定打となる証拠が無い為に手を打ちあぐねていたのだが、ここへ来てローヴィス市長自らが尻尾を掴ませる好機を演出してくれた。
これを見逃す手は無い。
「成程……偽物かどうかを問わず、ローヴィス市長を叩く口実が出来たって訳ね」
不意に横合いから、スアレス議員もよく知る女性の声が響いた。
リーヴァー・シュランドルだった。
彼女は先だっての大海戦にも参戦していたが、その後の対エスト・ポーラ情勢が気になり、そのままここリブラネスタに滞在し続けていたのである。
「引き受けてくれるかね」
「えぇ、勿論。良い加減、決着に持ち込まないとね。この機を逃すと、だらだらと時間だけが過ぎちゃうわ」
スアレス議員に応じながら、リーヴァーはたった今、受付嬢が作成したばかりの依頼票に自身の名を書き込んだ。
解説
マスターより
リプレイ
エラトゥーン都市同盟北部の雄エスト・ポーラ。
その近郊に居を構えるエスト・ポーラ市議会穏健派議員の長老格カーレス・オートンは、自慢の広い邸宅に冒険者達を迎え入れた。
彼の命を狙っているエスト・ポーラ市長ローヴィス・クレイヴラーを撃退する為に、ということで集まってきた冒険者達は、オートン宅に到着するや、すぐさまその邸内構造や敷地の状況、建屋の配置等をつぶさに見て廻った。
「今回はレッドペリカンと呼ばれる巨鳥型の魔獣が襲来することが予想されます。オートン先生はこの一番頑丈な居館の一階で待機して下さい。良いですね?」
応接室に引き返してきたアウレーリア・フォン・ネーベルベルクが神妙な顔でその様に告げると、オートン議員は全てお任せしますとばかりに、素直に頷き返してきた。
「議員、貴方を失う訳にはいかない。俺達冒険者からの声がかかったら、必ずその指示に従って動く様に努めて頂きたい」
いつもは余裕の表情を崩さないキオルティスだが、今回ばかりは少し様子が異なる。
襲撃者の中にメドゥの指先幹部『青の中指』ジルベルが潜んでいる可能性があり、その対処には緊張感を持って当たらなければならないからだ。
しかし敵はジルベルだけではない。レッドペリカンや魔獣使い達、そして授恵者であることが判明したローヴィス市長自身も決して侮れない相手だ。それらの敵からオートン議員を守りつつ、ローヴィス市長捕縛をも成し遂げなければならないのだから、中々に負荷の高い任務といえるだろう。
「どちらの側にも、自分なりの正義がある。有史以来、それはいつだって変わりませんが……」
広大な前庭のチェックを終えたグレイブ・ヤードも引き返してきた。今回グレイブはオートン議員の傍らに張り付き、常に彼の身を守り続ける役回りだ。派手さは無いものの、誰かが請け負わなければならない役目だ。
いざとなればオートン議員の身代わりになることも出来るし、オートン議員の身に何かあれば即座に治癒術を仕掛けることも出来る。今回集まった面子の中では、グレイブ以上の適任者は居ないだろう。
「問題は矢張り、ジルベルかな」
ここでキオルティスは、ふと腕を組んで考え込んだ。
過日の海上決戦ではサンダールビー号からシャープウィンド号への侵入を許し、まんまと引っ掻き回されてしまった。兎に角、相手にとって一番嫌なところを衝いてくるのがジルベルだ。
「認めるのは癪だけど、矢張り青の中指と呼ばれるだけのことはある。彼の一番の怖さは高い戦闘力じゃなく、こっちの心理の裏を的確に衝いてくるところだね」
窓の外を凝視しながら、キオルティスは小さな吐息を漏らした。
時刻は陽が沈み始める頃合い。奇襲は視界の利かない夜、というのが定石だ。恐らく勝負は今夜だろう。
それにしても、とキオルティスは青の中指の狡猾さに頭の奥が痺れる様な感覚を覚えた。
頭脳戦や心理戦を仕掛けてくる敵が如何に面倒な存在であるのかを、改めて思い直す。それだけに今回は一矢報いたいとの思いも強い。
「でも、これだけ過激にやらかしてくれると、政治的には好都合ね。対立の全責任を市長に取らせて手打ち、というのが犠牲も少なくて良いんじゃないかしら。事態の真相究明は、また別の話ですけれども」
アウレーリアがやや含みを持たせたひと言を向けると、オートン議員もその辺はしっかり心得ているらしく、リブラネスタとの関係改善に関しては是非お任せを、と微かな苦笑を返してきた。
その時、居館外部を守っている仲間達の間で、僅かなざわめきが巻き起こった。どうやら敵襲らしい。
「案外、早かったですね」
幾分の驚きを示しつつ、グレイブは自身のエーテルを駆使してキオルティスとアウレーリアの肉体に強化術を施した。ふたりの肉体が、淡い黄金の輝きに包まれる。
いよいよ、迎撃戦の開始だ。
●現れた巨鳥
オートン宅上空を、三羽の赤い巨鳥が舞っている。
レッドペリカン部隊だ。
過日の海上決戦時、サンダールビー号の甲板で近接戦闘に及んだコルネリウス・アーラは、薄闇に包まれつつある濃紺色の東の空にその姿を認めただけで、すぐにそれと分かった。
「……来ましたね」
前庭の中央、やや古びたポーチの傍らで、コルネリウスは低く唸った。
今日この場で必ず決着へと持ち込む。その為には、あのレッドペリカン部隊が邪魔だ。
この時、コルネリウスは居館の正面玄関口に視線を走らせた。
もしもレッドペリカンが一羽でも屋内に侵入すれば、あの玄関口から一気に突入してオートン議員の傍らに駆けつける算段だ。
今はキオルティスやグレイブ、更にはアウレーリアといった面々がオートン議員の脇に張り付いているが、彼らだけではレッドペリカンの猛攻を止められるか分からない。
「それじゃあたしは、下りてきた奴から手当たり次第に相手しちゃおっかな」
コルネリウスの傍らで、リーヴァー・シュランドルが愛用の剣を鞘から引き抜いた。以前はロモズ歩兵団の団長と隊長という上下関係がふたりの間に多少なりとも横たわっていたのだが、今は完全に同じ一介の冒険者同士という間柄であり、どちらかといえば戦友に近い。
そのリーヴァーから団長職を引き継いだ二代目たるコルネリウスとしても、非常に声をかけやすい仲間として頼ることが出来る。
「あの一番大きいのは屋内へ入るのは無理でしょうね……外で、仕留めて下さいますか?」
「オッケェ! 任せて頂戴!」
コルネリウスの指示を受けて、リーヴァーは三羽の中でも特に体格の大きい個体が低空に降下してきたところで自身の刃から衝撃波を叩きつけた。
リーヴァーから先制攻撃を浴びた最大個体はコルネリウスの目論見通り、リーヴァーに釣り出されて前庭の広い一角での戦闘に突入した。
残るは二羽。
「魔獣使い共はまだ、姿が見えねぇな」
同じくポーチの傍らで刃を抜き払ったケン・Z・ブラッドリーが、上空から地上へと視線を落として周辺に警戒の念を走らせる。魔獣が姿を見せた以上は、その主たる魔獣使いもきっとこの近くに居る筈だ。
だがその姿が、まだ見えない。陽が沈み、邸宅全体が薄闇に覆い尽くされた頃合いを見計らって突入してくるものと見て間違いないだろう。
レッドペリカンを操る魔獣使い共は、いずれも熟練の戦士としての技量も持ち合わせていた。レッドペリカンをある程度自由に戦わせておいて、自分達も突入戦力として攻撃に参加してくる腹だろう。
「固まって突っ込んできてくれると、有り難いんですけどね……」
コルネリウスのすぐ隣りで、ルアンナ・ミュラーの渋い表情。
足止めの魔術で敵を遠隔に縛り付け、各個撃破に持ち込んでゆくことが出来れば最高なのだろうが、敵もその辺は考えているかも知れない。となれば、ルアンナの足止めが効くのはせいぜいひとりか、良くてふたり。
ともあれ、敵が迫ってくるのはもう時間の問題だ。
ルアンナは僅かな変化も見落とすまいと、己の視線を前後左右へと走らせて、人型の敵性個体の識別に意識を集中させた。
●ローヴィス市長突入
更に闇が濃くなり始めたが、視界に不自由さを感じる程ではない。
だが下手に色々と中途半端に見えてしまう分、動くものとそうでないものは区別が難しい。
そんな中でアーテミシアは視覚ではなく、嗅覚と聴覚にものをいわせて敵の接近を感知した。薄闇に覆われる中を飛び回る赤い巨鳥とは異なり、茂みや物陰から接近してくる黒い人影は目で見て判断するのはほぼ不可能だろう。
「ふん……おいでなすったな。どんなもンか、見せて貰おうじゃねぇの」
肩に担いでいた戦槌を下ろし、前庭の用具小屋の屋根上から飛び降りて、戦闘態勢で動きのある方角へと一気に走る。
別方向から、アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトも駆けつけてきた。アルベルトは敵を直接発見するのではなく、アーテミシアの動きに注目していた。この薄闇の中ではアーテミシアの感覚こそが最も頼りになることを直感で理解していたのかも知れない。
現れた人影は、ふたつ。
一方は黒いフード付きのマントに身を包んだ魔獣使い。
そしてもうひとりは、ローヴィス市長そのひとだった。
正直、アーテミシアにとっては政治がどうのこうのという小難しい話はどうでも良い。今の彼女が考えているのは市長をさっさと叩きのめし、とっ捕まえてケリを着ける。
シンプルに、それだけだった。
もしも青の中指が要らぬ横槍を挟んで来たら、ローヴィス市長を間合いから弾き飛ばしてこちらの戦い易い位置を取ることも考えていたが、現れた人影の中にはジルベルらしき姿は見えなかった。
「ローヴィス! 貴様を確保する!」
まだ少し離れた位置から、アルベルトが鋭く吠えてきた。
が、位置的に見ても先に接敵するのはアーテミシアの方だ。
「さて、何しに来たのか知らねぇが、ちったぁ骨のあるところ見せて貰いてぇもンだな」
アーテミシアは突如、弾丸の如き軌道を見せてローヴィス市長を弾き飛ばした。その先には、アルベルトが待ち構えている。
いきなり仲間が傍らから消えた魔獣使いは明らかに狼狽していた。そこへアーテミシアの戦槌が容赦無く襲い掛かる。
「パワーが足りねぇんだよ、パワーがよ」
戦槌による一撃を浴びて早々に腰砕けとなっている魔獣使いに、アーテミシアはうっすらと笑みを向けた。
一方、ローヴィス市長を間合い内に捉えたアルベルトは、雷の如き勢いの剣戟を浴びせた。
最初の一撃でローヴィス市長の肩口に相当な威力の打撃を叩き込むことが出来たが、しかしアルベルトは一切手を緩めない。ここは全力で押し切るべきだろう。
何故なら、アルベルトの頭の中にはジルベルの影がちらついている。あの男が介入してくれば、局面を一瞬でひっくり返される可能性がある。そうなる前に決着へと持ち込みたい。
「手加減はせん! 一気に押し切る!」
その宣言通り、アルベルトの放つ刃の連撃は更に鋭さを増し、薄闇の中で白銀の軌跡が縦横無尽に奔った。
一方、別方面では稲妻の網が躍っていた。
ルアンナが魔獣使いかジルベル辺りを捕捉し、その足止めに成功したのだろう。
しかしレッドペリカンは相変わらず自由に空中戦を仕掛けてきている。最大個体の一羽は既にリーヴァーが前庭の一角で封じ込めているが、残る二羽はひたすら急降下と急上昇を繰り返して、地上のコルネリウスとケンに一撃離脱戦法で挑んでいた。
そして、いよいよ西陽が近隣の山の稜線向こうに消えようとしたその時。
「おう、派手にやってんなぁ」
聞き覚えのある声が、裏手方面で呑気に響いた。
●白銀虎の怪人
青の中指ジルベルの出現に合わせて動いたのは、ロゼットとレピド・クロサイトの両名だった。
ロゼットは、海上決戦でジルベルに好き放題やられた点を悔い、名誉挽回を狙っている。
一方でレピドは、ジルベルが自由に動いた場合のリスクを、嫌という程に見せつけられた。今宵はもう二度とその様な失敗はしないと腹を括っている。
「ジルベルの狙いは市長の回収、じゃないかしら」
市長が偽物だった場合、その証拠をこちらに渡さない為にジルベルが姿を現した――ロゼットはそう考えていた。
しかしレピドは、そこまで絞り込んだ読みは頭の中には置いていない。ジルベルが何を狙っていようと、その動きを徹底的に封じ込めればそれで良いのである。
(オートン議員を暗殺してリブラネスタとの関係に溝を刻むのが目的か? 或いはもっと別の何かが……)
そんなことを考えながらも、レピドはジルベルとの間合いをどんどん詰めてゆく。そのすぐ後ろに、ロゼットが続いた。
(まずは先手必勝、一撃必中……!)
ロゼットは最初に接敵するレピドにジルベルの意識が向いた瞬間を狙い、祭棍に込めた光輝くエーテルの強力な破壊衝撃を叩き込まんとして挑みかかる。絶対に回避させぬという強い意志を持って振りかざした祭棍は、まさに瞬速の一撃と化してジルベルの脇腹を襲った。
ジルベルは二刀流の片刃剣の一方を器用に操って防御態勢を取ったが、それでもロゼットの放った破壊衝撃は完全には止められず、ジルベルの長身を盛大に吹き飛ばした。
「よし……入った!」
思わず握り拳を作ったロゼットだが、レピドはこの程度では済まさぬとばかりに更に追撃の刃を向ける。
エーテルを纏わせた神材刀『朔』が、一瞬で態勢を立て直したジルベルの肩口を襲った。掠り傷程度ではあったが、しかしそれで十分だ。ジルベルの肉体はこの瞬間から、徐々に蝕まれ始める。
ところが、ジルベルは涼しい顔だ。よくよく見れば、先程ロゼットが初撃を叩き込んだ脇腹も、回復している様に見えた。
「そうか……壊密宗による肉体改造」
「おっと、良い記憶力してるねぇ」
晴れやかに笑うジルベルに、ロゼットは渋面を浮かべた。この男を斃し切るには複数による極大の破壊力を一斉に叩き込む必要があるという話を、以前に誰かから聞いたことがある。
その理由が、これだ。今はもう組織自体が滅んでいる壊密宗。その首領から直々に肉体改造を施されたジルベルの強靭な生命力は、最早魔獣の生命力並みだ。否、中型以上のクリーパーに匹敵するといわれても、驚かないかも知れない。
「俺の為に態々ふたりも手ぇ割いてくれたのか? そいつぁ光栄だなぁ」
「改めまして。貴方がジルベルね。貴方の仲間、ラネンターカムはどこに居るの?」
ロゼットは緑の人差し指の名を挙げた。
それだけではなく、ラネンターカムの子吸血鬼と化したセティア・オルストフの所在も訊いた。だが当然、ジルベルは答えない。
「別に良いわ……でもセティアも、そしてあの猟姫も、必ず不死の束縛から解き放ってみせるわ」
「ほほぅ、そうかいそうかい。まぁ精々頑張んな」
ジルベルは舌戦にはまともに応じるつもりは無いらしいが、刃を交える物理戦闘は逃げる気など無い様だ。
この時、レピドはローヴィス市長の救援に向かおうとしないジルベルの奇妙な態度に違和感を覚えたが、兎に角も今は目の前の敵を封じることだけに全力を投じることにした。
(考えるのは、後からでも出来る)
相手の出方に不審を覚えつつも、一瞬で頭を切り替えたレピド。
集中力とは、如何に直前までの己の思考に囚われずに、目の前の事象に全神経を投入することが出来るかで、その効果が左右される。
今のレピドはまさに、集中力の塊であった。
だがジルベルはレピドが次なる攻撃に出る前に、背負っていた総刃製のブーメランを突如、明後日の方向に投じた。その向かう先は、ローヴィス市長が突入戦を仕掛けた方角だった。
●邸内での攻防
突如、明後日の方向から巨大な総刃製ブーメランが飛来した。
アルベルトとアーテミシアは咄嗟に躱したが、その隙を衝いてローヴィス市長が居館玄関口へと走る。
「おいおい、逃げんのかぁ?」
態勢を立て直したアーテミシアも一瞬走り出しかけたが、その前に魔獣使いと刃を切り結んでいたアルベルトにちらりと視線を投げかける。
アルベルトは、先に行けと応じてきた。
「この魔獣使いを仕留めてから、俺も後から追う!」
「悪ィな。ンじゃあ、そうさせて貰うぜ」
アルベルトに応じてから、アーテミシアも居館玄関口へと走った。
一方、前庭中央付近ではコルネリウスとケンもローヴィス市長の居館内突入を視認していたものの、レッドペリカンと魔獣使い共への対応で手一杯であり、居館内への救援に駆けつけることが出来ない。
ところがここで、ルアンナがコルネリウスにローヴィス市長追跡を、と声をかけてきた。
「でもそれでは、ルアンナさんが」
「大丈夫です! もう十分にコルネさんが打撃を入れてくれていますから、後は斃し切るだけです!」
ルアンナがいう様に、上空を舞う魔鳥の一方はコルネリウスが散々に剣戟を浴びせ、相当に生命力を削り切っている。あともうひと息、最大火力を叩き込めば仕留められる筈だ。
「俺が盾役で残るから、気にするな。行ってくれ」
ケンも背中を後押し。コルネリウスはここで漸く、腹を括った。
そして居館邸内一階では、突入してきたローヴィス市長の前にキオルティスが立ちはだかっていた。
「今回もジルベルが一枚噛んでたみたいだけど、一緒じゃないのかい?」
ローヴィス市長が必死に繰り出す刃を軽く捌き、逆に鋭い連撃を次々と叩き込んでゆくキオルティス。当初は魔獣使いがフリーになって突入してくるかと予測していたが、現状はルアンナやケン、或いはアルベルトといった面々が上手く封じ込めている。
ジルベルもロゼットとレピドで抑え込んでいるから、ローヴィス市長相手ならば攻性防御に出ても全く問題無いだろう。
「っていうか……キミは市長さん、なのかい?」
「つべこべ五月蠅い奴め! さっさとそこを退け!」
余裕たっぷりに応じるキオルティスに対し、ローヴィス市長は切羽詰まった感が強い。何かに、或いは誰かに追い詰められているのだろうか。
ともあれ、意外な程に気合が十分で、キオルティスの無限に近しい手数を何とか躱して、オートン議員に迫ろうとした。が、出来なかった。
アウレーリアが仕掛けた稲妻の網がローヴィス市長の足を絡め取り、接近を許さなかったのである。
グレイブもオートン議員を守る為にと前に出たが、この分なら安心して見ていられそうだ。
更にそこへ、コルネリウスとアーテミシアが駆けつけてきた。最早こうなると、圧倒的な戦力差が生じているといって良い。
コルネリウスがグレイブと共にオートン議員を守る位置に入り、アーテミシアがローヴィス市長に戦槌によるパワフルな攻撃を仕掛けた。
ここでキオルティスは、邸外の様子に意識を切り替えた。未だ、レッドペリカンと魔獣使いは健在らしく、激闘が続いている。
「ここはもう、任せて良いかな?」
「あぁ。さっさとケリつけちまうよ」
アーテミシアの応えを受けて、キオルティスは邸外へと駆け出していった。
●決着
オートン議員邸での防衛戦は、そろそろ終幕を迎えつつあった。
まず邸外ではケン、ルアンナ、キオルティス、アルベルト、リーヴァーの五人でレッドペリカンと魔獣使いを全て撃破するに至っていた。
そしてジルベルはというと、こちらもロゼットとレピドが懸命に抑え込んでいたが、ローヴィス市長が邸内突入後に窮地に陥ったと見るや、意外にも退却する気配を見せ始めたのである。
ローヴィス市長を庇うでもなく、口封じのために始末する訳でも無い。ただ見捨てようという訳だ。
そのジルベルの方針に、ロゼットもレピドも拭い様の無い違和感を覚えた。
「おやおや、こいつぁもう駄目だな……んじゃ、お疲れさん」
直後、ロゼットとレピドの目の前が眩い閃光に包まれた。と思った次の瞬間には、ジルベルはもう姿を消してしまっていた。
余りにあっさりと退いていった青の中指。その呆気無さに、ロゼットもレピドもただ茫然と、互いに顔を見合わせるばかりであった。
そして邸内では、アーテミシアが完全に力でローヴィス市長をねじ伏せていた。
「悪いけど、少し手伝ってくれるかしら? 彼の上着を剥ぎ取りたいんだけど」
「上着、ですか」
アウレーリアに請われて、グレイブは幾分戸惑いながら叩き伏せられたローヴィス市長の上着を剥ぎ取る。そしてアウレーリアは、左肩口から背中にかけての一帯をじっと凝視した。
「前もってスアレス議員から聞いていたんだけど、本物のローヴィス市長なら左の肩口から背中にかけて、古傷の跡があるらしいのよ」
「成程……つまり、このローヴィス市長は偽物」
グレイブも漸く、合点がいったらしい。
そして邸外から駆けつけてきたレピドが母蜘蛛糸のロープでローヴィス市長を拘束してから、グレイブが改めて誰何した。
ローヴィス市長は、自嘲する様に低く笑った。
「そうとも、俺はローヴィスじゃない。双子の弟、ルトルガー・クレイヴラーだ」
本物のローヴィス市長は、既にこの世には居ない。そしてその屍は死霊術師がゾンビとして再利用している筈だ、と更なる衝撃情報まで飛び出してきた。
「でも授恵者だったとはね……偽物にするなら、随分とコストのかかった話ね」
「違うな……授恵者に目覚めたからこそ、俺がエスト・ポーラの全権を握るべきだと考えたまでだ」
この呻く様なひと言に、グレイブは自らの言葉を再び思い返していた。
(誰にでも、それぞれの正義がある……彼の場合も、また……)
勿論、暴力や戦争によって為される正義はもってのほかだが、国家というものは力を以て正義の地盤とする。何とも皮肉な話であろう。
「これで、終わったと思って良いのでしょうか」
愛用の剣を鞘に収めながら、コルネリウスはどうにも釈然としない表情で呟いた。
しかし、今回の騒乱の元凶たるローヴィス市長の偽物ルトルガー・クレイヴラーの捕縛は為った。これでエスト・ポーラ市議会穏健派は大手を振って、リブラネスタと休戦協定の締結に踏み切ることが出来るだろう。
全てはメドゥの指先による謀略であり、エスト・ポーラもまた被害者に過ぎなかった、という名目で。
薄暗い室内に、ひとりの男が居た。
その男の前では、ジルベルが酒壺片手に小料理を摘まんでいる。
「どうだい。上手くいったろう? ルトルガーの奴が全部引き受けてくれたから、もうお前さん達に嫌疑が向く可能性は完全に無くなったぜ」
「しかし、よく疑われなかったものですな。市長がオートン議員を襲撃するなんて情報が、対抗勢力である穏健派の耳なんかにどうやって届いたのか……普通ならまずそこに疑念を抱きそうなものですが」
その男――エスト・ポーラ市議会穏健派議員ドルロイ・フィオーは、心底驚いた様子でかぶりを振った。
対してジルベルは、そりゃそうだと軽く笑った。
「冒険者共はルトルガーへのリベンジにばっかり気がいってるから、こんだけ不自然な情報でも、全く気にもしやしねぇよ」
ルトルガーはトカゲの尻尾切りに遭った。単に、それだけであった。
「フィオー商会なんかの武器販売業者は、俺らみてぇなアウトローが居ねぇと商売あがったりだからなぁ。今後もお互い持ちつ持たれつで、宜しく頼むぜ」
ジルベルは心底機嫌良さげに、酒壺をぐいっと呷った。
マスターコメント
ミドルシナリオ難しい 報酬:多い10 / 6〜10人
2023年06月10日 18時02分44秒 公開
参加者
相談掲示板
ヒーラー、グレイブ・ヤードです。 護衛(直衛)と迎撃、と別れるべきなのでしょうかねぇ?
ヒーラーのロゼットよ。よろしくね。 >護衛と迎撃と分かれるべき? もしくは市長対応、ジルベル対応、魔獣(使い)対応とかで 分かれるか、かな?相手の出方が分からないし。 レッドペリカンは身体の大きさから、邸宅には入って これなさそうだけど、邸宅ごと破壊しにくる感じかしら。 それを並行して、ローヴィス市長とジルベルが侵入してくる? >懸念 【北乱】のページで、ジルベルが「後始末」を任されているから 襲撃に失敗したら、市長を口封じのために殺害する役目も持って いるんじゃないかと想像したのだけど…可能性、無いかしら。
ウォーリアのケンだ よろしくな とりあえずはカーレス護衛とローヴィス捕縛は必須事項ってのが厄介だな 守ることに徹するわけにはいかないがおろそかにできないってのは‥‥動き方をしっかりすり合わせないといけなくなるからな 普通に考えればまずは護衛を第一に行動し捕縛対象が出てきたら戦力を分けるという形になるだろうからあらかじめ担当する敵を決めておくというのはありだと思う 面倒なのはやはりジルベルか? なんだかんだであいつに好きに動き回られると最後の最後でひっくり返される感がある
ウォーリアのアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 俺は、今回ローヴィス市長の捕縛(又はローヴィス市長を討ち取る)に向かう予定だ。 ジルベルの妨害があった場合はジルベルに向かうことも考えている。 因みに、今のところの仮プレイングは以下の通りだ。 ※アドリブOK ・心境及び目的 ジルベルを警戒しつつローヴィス市長の身柄を確保するぜ! ・台詞 「ローヴィス!貴様を確保する!」 「ジルベル!やはり貴様も居やがったか!!」 ・全体的な行動(数字の順に行動する予定) 1:ローヴィス市長の確保を目指す(生死を問わない、場合によっては命を奪う) 2:ローヴィス市長を狙うためにジルベルから倒す必要がある場合はジルベルに向かう(ジルベルに対しては生け捕りを狙う余裕はないので命を奪うことを厭わない) ・戦闘での行動 ローヴィス市長及びジルベルに対して最初は『千鳥雷切斬』を使用、その後『鋭撃3』を使用 攻撃を受けたら『重点硬化3』を使用 敵に近づくとき及び前進する時は『チャージング』を使用 仲間との連携を重視 仲間の攻撃魔法に巻き込まれないように気を付ける
ウォリアーのアーテミシアだ。 オレはまあ、何処へ行っても構わねえぞ。相手が物理系なら抑え込むのは簡単だしな。 護衛するにしてもどこで迎え撃つかかな。地下でもあればそこに押し込んで入り口守ってれば何とかなるかもしれねえが。
レピド・クロサイト、シーフだ。よろしく頼む。 サンダールビー号での事を思うと心情的にはジルベルに当たりたい。 が、偏り過ぎても不味いだろうし希望人数次第では他のところでの行動も考える。 >ジルベルの「後始末」 口封じは十分考えられると思う。 むしろまだ市長を生かしている事がほんのり疑問なくらいだが……
一応ヒーラーですから私は直衛を考えてはいましたね。万が一は大体防げますし。 勿論他の方が行うのであればまた別ですが 支援などを重視しようかとは思っています
ウォーリアのコルネリウスです、よろしくお願いします。 >護衛と迎撃と分かれるべき? カーレスさんの護衛、応撃と二手には最低でも分かれる必要がありますね。 その上で応撃する方はペリカンと市長、ジルベルの対応にそれぞれ当たった方がよいかなと思っています。 襲撃はロゼットさんが仰っているような流れは想定に入れておいた方が良さそうです。 >懸念 市長は(抵抗し続けるなら)生死は問わないとの事ではありますが、ジルベルによる口封じは可能性はあるのではと思います。 万一殺害という結果になった場合でも、身柄確保自体は必要ですし、殺害という結果になった場合でも遺体は持ち去られないようにしたいですね。 >個人 ひとまずカーレスさんの護衛に回ろうかと考えています。 全体の希望などを見ながら調整しますね。
キャスターのルアンナです、よろしくお願いします。 ジルベルのローヴィス市長殺害の可能性はあると思います。もう南北闘争は終わったようなものですし、これ以上指先が市長を利用する理由も無いでしょうし…。 私はローヴィス市長迎撃に行こうと思ってます。
オレもローヴィスにしておくか。よっぽどブッ飛んだ隠し玉でもなきゃ倒すだけなら大して苦労はしねえだろ。 問題は横槍かまされた時にどうやって防ぐか、かね。 ペリカンと魔獣使いの強さはどんなモンかハッキリしねえけど、数で劣ると抜かれて護衛対象が危ないかもしれねえな
キャスター、アウレーリアです。宜しく。 私は、立ち回り的にはオートン議員の護衛に回ろうと思っています。 ただ戦場は一か所ですし、護衛と迎撃という概念で変に戦力分散しても宜しくないかと思いますので、あくまで軸足がどちらか程度の心算で。 クレイヴラー市長が議員の前に出てくるようなことがあれば、当然迎撃戦闘を行います。 寧ろ、身柄拘束が成功条件のうちということは逃げられる可能性があるということですので。 防衛的な内線戦術を意識するより、積極的に相手の退路を断ちに行く行動が必要ではないかなと。 流石にジルベルまで確保できるとは期待していませんが、単独離脱を選ばせる程度には包囲の圧を掛けないと、二人で仲良く撤収されてしまいそうです。
遅参、申し訳ない。 シーフのキオルティス。今回は宜しくね。 市長と議員、どちらでも構わないけれど… そうだね…一応、建前的には議員を護衛にしておこうかな。 アウレーリアさんの言うように、俺も軸足をどちらにするか …程度の心積りでそれに固執する感じではないけれど。 移動が必要そうなら、移動も可能なので言ってくれれば。
>護衛の仕方 屋敷の情報は無いけど、空からの襲撃に備えるなら、 オートン議員の待機は1階の、外から離れた部屋が良いかしら。 地下室でもあれば理想?だけど、一般的な屋敷として。 >レッドペリカンと魔獣使いの強さ 前の海戦では、レッドペリカンは空中でシューターの射撃を避け、 高速刺突はウォーリアが大きな傷を負うぐらいの強さがあったわ。 魔獣使いは1対1なら冒険者が優勢だけど、狙おうとしたら ペリカンと連携で応戦してくるから、2対1を強いられてたわね。 >行動 ジルベル対処がレピド単独だったから、私が入ってみるわ。 彼は本気で戦うか分からないけど、フリーにしてしまうと、 全体を攪乱したり、穴を突きにくるみたいだから。 下に発言から、護衛寄りや、狙う対象で配置をまとめたわ。 配置移動とかの参考に。 >各自の予定(発言より) ・護衛寄り キオルティス アウレーリア コルネリウス グレイブ ・迎撃寄り >ローヴィス市長 アーテミシア ルアンナ アルベルト >ジルベル レピド ロゼット ペリカンと魔獣使いが、積極的には狙われない配置に なっているから、彼らは自由に行動してきそうな感じね。
間が空いてすまない レッドペリカンと魔獣使いのことを考えるると護衛の人数が多い方がいいと思うんで俺も最初は護衛として動こうと思う 状況変化によっては市長やジルベルの方にも回るつもりだけどどうかな?
ケンを護衛寄りに入れて予定を更新しておくわ。 配置自体に正否はないと思うから、後はどう対処するかね。 向こうも何かしら工夫はしてくるでしょうから。 >各自の予定(発言より) ・護衛寄り キオルティス アウレーリア コルネリウス グレイブ ケン ・迎撃寄り >ローヴィス市長 アーテミシア ルアンナ アルベルト >ジルベル レピド ロゼット
ギリギリになってしまってすまない、先の発言の通りジルベルを抑えにいくつもりだ。 仮に逃げ回られても追い付けるように、索敵&マーキングの宗波や移動力を上げる疾風足などを持っていく。 もう奴にウザがられるくらい徹底して張り付いてやろうかと。 >ロゼット まとめとジルベル対応への同行助かる。よろしく頼む。