【虚夢】魔女が夢見るディストピア
明乃そら
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シナリオID:2998
オープニング
冒険者達は事件を解決していく内に、遂に決定的な証拠を得るのであった。
「この前の屋敷での一件はお疲れ様。保護した若者達はこちらの方でケアしていて、洗脳が解け始めているといった報告を受けてるよ。おかげで少しずつだけど、〝村〟の内部の情報も話してくれるようになったみたいだね」
ドミニク・ログナーが冒険者達を私宅に集め、これまでの事件で判明した情報を一行に伝える。
『祝福の村』は元々ガストーニ商会が立ち上げた慈善事業の一環だ。
不幸な境遇の人々を受け容れ、社会奉仕する。しかし村で実際に行われていたのは、吸血鬼を信奉させて、人々を吸血鬼の従順な餌とする。言わば吸血鬼にとっての人間農場を作るのが、村の目的だったのだ。
そして近隣の街の富豪と手を組み、王国内に麻薬を持ち込み、村の住人達を洗脳させる。その実験場として、あの一帯の地域が使われていたということだ。
「屋敷にあった富豪の日記帳にも、商会との繋がりが記されている。ただ、富豪が亡くなった後も、麻薬の密輸は途絶えていない。果たして今は〝誰〟が手引きしているんだろうね」
更に言うなれば、商会自体も代表のブルーノが捕まったことで、実質壊滅状態のはず。であれば、一連の計画を引き継いで、現在も実行している人物とは――。
「まずは商会を裏で操っていたメドゥの指先。マリアベルという女性幹部が、間違いなく事件の黒幕だろう。それと、富豪の日記帳に書かれていたけど、この件にはあの地方の〝領主〟も大きく関わっているみたいだね」
ドミニクの口から語られる、事件の全容。吸血鬼と王国貴族が裏で繋がっているとでもいうのだろうか。
「――貴族の名前は、ドルトン伯爵。民衆からの評判は決して良くない、絵に描いたような専横的な領主だね」
もしその人物が事件の首謀者の一人であり、しかも貴族でありながらメドゥの指先との関与が事実であれば、王国としては見過ごすことのできない大きな問題だ。
今のままだと伯爵への疑念が膨らみ続け、向こうは不利になる一方。疑いを晴らしたいなら、自ら潔白を証明してもらう以外に方法はない。
「私も伯爵には気になる点が少々あって、何度か面会を申し出たんだけど……多忙だとして、全く相手にしてもらえなかったんだ。でも、ここに来てやっと会う気になったみたいでね。そこでキミ達にも同行をお願いしたいんだ」
急に心変わりしたのは、やはり今回の件を把握しているからだろう。
いつまでも隠し通せるものではないと観念したのか、それとも――。
伝え聞く噂からの評価でしかないが、ドルトン伯爵なる男は、短絡的で地位に胡座を掻いているだけの愚物のようだ。
「……策を巡らすような、そんなに賢い人物とは思えないけどね。多分、適当にあしらって終わらせる心算なんだろう」
こちらを罠に嵌める為だとか、そこまで狡猾で頭が切れる曲者などでは、断じてない。
用心するに越したことはないのだが、何れにしても、この会談を通じて事件の核心に迫れる可能性はかなり高い。
「特にキミ達は、現場で事件を目撃している『当事者』だからね。証拠は十分、後は立ち回り方次第だよ」
ドミニクの冒険者達への信頼感は揺るぎなく。今回もよろしく頼んだよ、と期待を込めて、一行と共に会談に向けての準備を進めるのであった。
●ファム・ファタルの秘めたる欲望
――闇夜の静寂に包まれた、昏き森。
生い茂る木々に囲まれたその中心に、高く聳える、旧き城。
荘厳な造形ながらも、至る部分が朽ちて崩れて、修復された跡はなく。
人の生活の営みすら消えて久しいこの城は、主を失くした廃墟と化して、今は新たな〝主〟の棲み処となった。
月光が射し込む最上階のバルコニー。淡い光に照らされ、浮かぶ二つの人影。
一人は兎耳を生やした半獣人らしき少女の姿。もう一人は、黒いドレスを纏った妖艶な雰囲気漂う女性。
「話によれば、冒険者共が件の村の周りを嗅ぎ回ってるようね」
黒いドレスの女性――マリアベルが煙管を咥えながら、状況を再確認しようと兎耳の少女に問い掛ける。
「イドラもフィリアも、連中に邪魔されたって聞いてるよ。しかも今度は、ドルトン伯爵のところにまでやってきたって、伯爵んトコのメイドが教えてくれたそうじゃない」
兎耳の少女が名前を出した二人は、マリアベルの娘の吸血鬼。そう語る彼女の口元からも、鋭い犬歯がチラリと見える。
「あの男とは商会側との付き合いしかないから、私達の存在のことなど、全く知らない。だけど、余計なことを口走ったりされたら、厄介ね」
だったら冒険者達が来るより先に伯爵を殺っちゃう? と兎耳の少女が目を輝かせながら無邪気に訊ねる。
その提案に、何れは口封じも必要ね、とマリアベルは半分乗り気になりつつも、別の意見を少女に告げる。
「丁度良い機会だから、私も伯爵のところに行くわ。ついでに冒険者に会うなら、〝あの子〟の近況も知りたいし」
マリアベルは殆ど人前に姿を見せようとしない。そんな彼女が自ら出向くと言い出したのは、兎耳の少女にとって驚きでしかなく、それほどまでにクロエが気になって仕方がないと心中を察した。
「ねぇカリギュラ、良かったら一緒に来ない? もしもの時は、貴女の力が必要になるかもしれないから」
兎耳の少女の名を呼んで、お供に誘うマリアベル。
「嘗て、ある街を震撼させた連続殺人鬼。私までも殺そうとした血の気の多さを、私はすごく気に入ってるの」
だからこそ、血の契りを交わして、自分の娘にした。それ程までに、この少女の素質を見込んでいるというのだろう。
口角を吊り上げ、微笑みながら、蠱惑的な目でカリギュラを見つめるマリアベル。
抓んだ煙管を指で弄び、頭の中で巡らす思考。そして彼女が選んだ答えとは――。
「折角だから、彼らを城の晩餐会に招待しようと思ってるの。クロエに案内役をお願いすれば、こちらから連れ戻しに行く手間も省けるでしょうし。後、どうせなら――〝じゃじゃ馬娘〟もクロエと一緒に来てもらおうかしら」
――本来ならば、伯爵と冒険者のみで行われる予定であったこの会談。
そこに思わぬ形で乗り込んでくるマリアベル、彼女の狙いは一体何か。
それぞれに抱く思惑が渦巻いて、始まる前から、既に波乱の兆候を予感させていた。
解説
マスターより
リプレイ
人知れず王国を蝕む吸血鬼の陰謀。その元凶を突き止めるべく、冒険者達はある人物の屋敷に赴いていた。
「お忙しい中お時間を割いて頂き、有難うございます。この度はご協力に感謝します、ドルトン伯爵」
最初にドミニク・ログナーが礼を述べ、一行も恭しく頭を下げて、椅子に座ってふんぞり返る男に挨拶を交わす。
「ふん。何やら私を嗅ぎ回っているようだが……用件は手短かにな」
不機嫌そうな態度で応対をする仏頂面の男こそ、屋敷の主で事件の渦中の人物たる、ドルトン伯爵その人だ。
今回、同行したのは何れもヒューマン以外の人種である。冒険者達は変装を施し、ヒューマンになり済ましてこの会談に臨むのだった。
「では率直に訊きますが、ガストーニ商会と関係を持った経緯を教えてもらえますか?」
ザザ=ステルヴィナが伯爵に臆することなく発言し、聞き込みを始める。
商会の名前を耳にした途端、伯爵の顔が険しくなる。冒険者達は些細な変化も見落とすまいと、洞察力を働かせる。
「単なる仕事の取引相手だ。一介の貿易商と関わるのがそんなに不自然かね?」
話をはぐらかそうとする伯爵だが、冒険者達は間髪を入れず追及する。
「俺達はこの地に流通している麻薬の出所を調べている。『祝福の村』というのは知ってるな」
ナハティガル=ラーが探りを入れるように話を続ける。一連の事件にどれだけ関与しているか、おそらく知らないはずはないだろう。
「商会側が慈善事業で運営している施設だな。それを認可することの何が悪い?」
あくまで人助けの一環として、実情までは把握していないととぼける伯爵。
「伯爵殿は無類の賭博好きと聞きました。噂では、自領の財政もつぎ込んでいるとか。ゴールディの歓楽街でも、相当な額を貢いだものだと察します」
今度はリコリス・アデュラリアが、商会との接点を掘り下げるべく話を切り出す。
伯爵の件でドミニクが気になっていた部分、リコリスはそれを事前に訊いて、疑問を自分の口から投げ掛けた。
「要するに、賭博の負債を帳消しにしてもらう代わりに祝福の村や麻薬の流通を黙認した。違いますか?」
推論を述べるリコリスだが、エルフである彼女は敢えて変装を行っていない。
ドルトン伯爵はそんなリコリスを見下しながら、戯言には付き合い切れんと一笑に付す。
だが冒険者達は見抜いていた。声色が僅かに上擦り、動揺を隠せていない伯爵の挙動を。
冒険者達の質問を誤魔化しながら、場をやり過ごそうとするドルトン伯爵。
それでも、冒険者側は現場で得た証拠を基に、真相を知ろうと問い質し、辛抱強く聞き込みを続ける。
「麻薬を密輸していた富豪のことは存じませんか。彼が残した日記帳に、伯爵の名前も載っていました」
前回の調査で発見した日記帳。そこに記されていた内容を、トーラが教える。
「……さてな。どうせ一回会った程度で、後は勝手に話を広げて書いたのではないかね」
富豪の男の顔など知らぬと、伯爵は意地でも関係性を否定する。が、ここは更に踏み込むべきと、ナハティガルが現場で目撃した出来事を、その惨酷な現実を生々しく語る。
「その富豪だが数年前に死亡し、彼の邸宅には、今は吸血鬼の少女が住んでいた。祝福の村も、連中の計画の為だとか」
救いを求める不幸な民を、家畜化させて餌とする。全ては吸血鬼の贄を増やす目的の為の実験場にされていた、と。
吸血鬼、と聞いた途端、伯爵の表情が一変して強張り、青褪める。
どうやら完全に図星だと、冒険者達は伯爵に弁解の余地を与えぬよう、畳み掛けるように問い詰める。
「貴方の領地で吸血鬼が活動していたのは、紛れもない事実。また、王国内外で事件を起こした吸血鬼の多くは、メドゥの指先の関係者です」
リコリスが過去の事件を例に挙げ、今回の事件もメドゥの指先が黒幕で、伯爵自身も疑われていると指摘する。
「ば、馬鹿な!? 私は商会からの提案を丸呑みしただけに過ぎぬ。そもそも、テロリスト集団と繋がっているなど、全く以て聞いておらぬ!」
伯爵が声を荒げて反論する。商会とメドゥの指先との関係は、おそらく本当に初耳だったのだろう。
「けど、間接的にとは言え……メドゥの指先と関与していたことが公となれば、伯爵様も只では済まないでしょうね」
例え知らなかったとしても、連中の計画に手を貸していたのは間違いない。
ザザは伯爵にさり気なく揺さぶりをかけ、反応を伺いながら、自主的に情報を吐くよう嗾ける。
「隠し立てすれば、お立場はますます悪くなるでしょう。もしご存知のことがあれば、この場で全て教えてはいただけませんか?」
メドゥの指先と共謀した貴族の末路――直近ではゴルティエ元侯爵までもが吸血鬼となるも討伐され、夫人も極刑に処されたことは未だ記憶に新しい。
「商会と取引していた領主が他にもいるなら、知る限りの範囲で教えてくれると有難い」
祝福の村が実験的な施設であるならば、規模が広がることをナハティガルは懸念していた。
近い将来、王国全土が吸血鬼の餌場になってしまうかもしれない。それこそが連中の狙いなのだろう。
●蠢く夜の眷属達
太陽が西に傾き、落ちゆく瞬間。鮮やかな橙色が空一面を塗り替えて、融け込む蒼と混ざり合う。
昼と夜との狭間の黄昏時は、夢と現の境界線。闇の世界の向こうから、異形の影が手を招く――。
「何だお前達! ここが誰の屋敷か分かっているのか! 早々に立ち去れ!」
屋敷の庭で警護していた衛兵達が、招かれざる二人の来訪者を足止めしながら、威嚇する。
「邪魔な奴らだな。ねぇ、殺っちゃって構わない?」
兎耳を生やした半獣人の少女が、目を爛々と輝かせながら、黒いドレスを纏った女に確認する。
すると、その必要はないわ、と黒ドレスの女は兎耳の少女を手で制し、衛兵達の前に歩み寄る。
そして彼らに囁くように甘やかな声が紡がれて、その声はやがて旋律となって歌を奏でる。
彼女の魔性の歌声に、衛兵達は魂を抜かれたように意識を奪われ、その場に崩れ、深い眠りに落ちてゆく。
二人は何事もなかったかのように、昏倒している衛兵達を後目に玄関先まで歩みを進める。
入り口では、屋敷のメイドがスカートの裾を軽く持ち上げ一礼し、二人の到着を歓迎した。
「――お待ちしておりました、〝マリアベル〟様」
「私は騙されていたのだ! 知っていることは何でも話す、だからせめて身の安全だけは保障してくれ!」
我が身が危機と分かるや、伯爵は人が変わったように被害者面して冒険者達に救いを求める。
何れにしても、協力する気になってくれたからには、こちらとしても都合がいい。
冒険者達が伯爵から詳しい話を聞こうとした時――部屋の扉が突然開いて、新たな客を招き入れる。
「今更自分だけ助かろうなんて、虫が良過ぎない? お金に困ってた貴方に手を差し伸べたのは、誰かしら?」
言葉を発したのは、黒ドレスの女。冒険者達は彼女の顔に見覚えがある。事件の張本人が、よもや自ら出向くとは――。
「……お久しぶりですね。貴女がわざわざ足を運ぶとは、どういう風の吹き回しでしょうか」
表情を変えず、平静を装いながら、リコリスが相手の女――マリアベルに視線を向ける。
一連の事件の首謀者であり、メドゥの指先の幹部である彼女が直接乗り込んでくるのは、異例中の異例。
「まさか……嵌められた!?」
トーラが咄嗟に伯爵の方を振り向くが、彼もこの状況は想定外だったか、驚いている様子が見て取れる。
「貴様は確か……ブルーノと一緒にいた女だな。どういう心算でここに来た? 衛兵共は何をやっている!」
伯爵のマリアベルに対する反応から、彼女とは顔見知り程度の仲でしかないと、トーラはその関係性を推し量る。
とは言え、吸血鬼が目の前に現れた以上、冒険者達は最大限に警戒しながら、相手の出方を窺った。
「裏切り者を始末する為に――なんて冗談よ。そんなの、私が来るまでもなく殺れるから」
揶揄うようにクスッと笑うマリアベル。この屋敷には彼女の〝刺客〟が潜り込んでいる。もしその気になれば、いつでも暗殺できたというわけだ。
「口封じでなければ、何のご用かしら? 物騒な護衛まで従えてくるなんて」
マリアベルの後ろに立つ兎耳の少女を鋭く睨み、ザザが低い声音で問い掛ける。
「荒事は互いに望まないだろう。せいぜい穏便に済ませてほしいところだが」
戦闘に発展すれば分が悪いのは自分達だ。最悪の事態だけは避けようと、ナハティガルは話し合いによる解決を相手側にも訴えた。
「ええ、そちらが下手な動きを見せない限り、私達も手は出さない。因みに見張りの衛兵だったら、よっぽどお疲れらしく外でぐっすり眠っていたわ」
不敵な笑みを浮かべつつ、艶を纏った真紅の瞳で冒険者達を一瞥するマリアベル。
彼女の思わせぶりな発言に緊張感が走る中、自分が状況を調べるからと、ドミニクは冒険者達を宥めて部屋を出る。
相手はこちらを挑発し、その反応を愉しんでいるに違いない。だが決してその手には乗らないと、一行は気を取り直し、マリアベルとの話し合いの席に着く。
「……改めて聞かせてもらいます。伯爵を排除する為ではないとしたら、私達に会いに来たとでも言うんですか」
吸血鬼の目的が何なのか、トーラは幾つかの可能性を考えながら、答えを引き出そうと試みる。
「その通り、用があるのは貴方達。面白いことを閃いたから、ちょっと付き合ってもらいたいと思ったの」
吸血鬼からの思わぬ誘い。でもきっと、それはこちらを陥れる為の罠かもしれない。
冒険者達は危険な匂いを感じつつ、相手の胸の内を知るにはいい機会だと、提案の内容を尋ねてみた。
するとマリアベルは喜々とした表情で、こう答えるのであった。
「今度、貴方達を私の城に招待するわ。そこで晩餐会を催すの。後は、そちらの返事次第よ――」
●魔女の誘惑
吸血鬼の城で開催される晩餐会。その客人として、一行を招待しに来たというマリアベル。
しかしまだ詳細が分からない以上、素直に提案を受け入れることは到底できない。
「それだけでは情報が不足しているわ。そもそも城の場所もどこなのか、教えてくれなければ辿り着けないわ」
ザザが即座に聞き返す。自分達を招くのは、相手も拠点を明かすリスクを孕む。
そんな真似をするのは必ず裏に事情がある、そう考えている矢先、マリアベルは躊躇うことなく口を開いた。
「勿論、案内役は付けるわよ。でも条件が二つほど――その案内役として」
「――クロエを連れて一緒に来る。母親として、娘が恋しくなったのか?」
マリアベルの言葉を遮るように、ナハティガルが不意に割り込み、呟いた。
今までの傾向からして、マリアベルという女は独占欲が強くて傲慢な人物であると、性格を分析。
ならば冒険者への好奇心だけでなく、匿っているクロエのことも気になっているはずだ。
自身が答えるよりも先に言い当てられて、マリアベルはむしろ感心しながら、吐息交じりに口元を緩めた。
彼女の望みは、娘であるクロエを取り戻すこと。自らの足で帰ってくるよう仕向けさせるには、この方法が最善であると判断したのだ。
「そうよ。でも、クロエだけじゃなくって、もう一人――アルベール伯爵令嬢も付き添うこと。以上が私からの要求よ」
現在、クロエを保護しているロレッタ嬢。マリアベルの本当の狙いは彼女にあるというのだろうか。
「ロレッタの同行を望むのは、娘の心から彼女の存在を消す為ですか」
リコリスは知っている。クロエもロレッタも、互いに良好な関係を築いているのを。
だからこそ、二人の仲を引き裂こうと企んでいるのではないかと危惧するのだ。
「貴女が娘とする者達は、王国では所謂弱者とされる立場の者。王国貴族であるロレッタは、最高の娯楽とやらの為の消耗品でしかないでしょうから」
初めて会った時にマリアベルは語っていた。貴族が惨めに落ちぶれる様を見届けるのが愉しいと。
即ち、ロレッタこそがこの女吸血鬼にとって最大の標的であり、最も価値ある玩具というわけだ。
「……少しだけ教えてあげるわ。あの娘の母は病気で死んだことになっているけど、本当は私が殺したの」
女吸血鬼が吐露する、罪の告白。しかしどうして今更その真実を、関係無い冒険者達に打ち明けたのか。
「薬と偽り、微量の毒を毎日飲ませ、時間をかけて生を奪った。全てはクロエを私の物にしたかったから」
命の尊厳などなく、欲するモノは手段を選ばず手に入れる。彼女は欲望だけが増幅し続ける怪物なのだ。
「成る程……人間のする所業ではありませんね」
メドゥの指先の構成員には、全員何かしらの『欠落』があると聞く。
そこまで貴族を貶めようとするマリアベルの原動力は何なのか、会話の内容を反芻しながらトーラは思考を巡らせる。
「クロエさんのことを心配していたと思ったけれど……ちょっと事情が違うみたいね」
思っていたより愛情の方向性が歪んでいると、ザザは肩を竦めながら、複雑そうに顔を顰める。
「あの子は優し過ぎるから。もっと壊れて、狂ってほしいの。そしてそんな姿を、あの〝生意気な小娘〟に見せつけたらどうなるか――想像するだけでも血が騒ぎ出してこない?」
自分で語りながら悦に入って、恍惚とした表情で舌舐めずりするマリアベル。
嗚呼、彼女に最も欠けているのは『愛情』なのだ。故に他人の心を弄ぼうとするのだ、と。
「アンタみたいな女は嫌いじゃない。お遊びの相手を御所望なんだろう?」
ナハティガルは物心ついた頃から、暗黒街で生き抜いてきた。そこで性根の腐った連中と渡り合ってきた彼だからこそ、マリアベルのような手合いの扱いには慣れている。
冒険者達を自分の拠点に招き入れるのも、彼女にとっては遊戯の一つ。
享楽的な刹那主義者である彼女には、快楽を満たすことこそ至福であり、全ての行動原理の源なのだ。
「――ならば『城』への招待、謹んでお受けする」
麗しき淑女からのお誘いを、無下に断る理由はどこにもない。
冒険者達が下した結論に、口角を吊り上げ、嗜虐的に微笑むマリアベル。
「成立ね。クロエには昔話も含めて、よろしく伝えておいてもらえるかしら」
満足な結果を得られたマリアベルは、『良い夢を』とだけ言い残し、兎耳の少女と共に姿を消して、屋敷を去った。
その直後――入れ替わるようにドミニクが戻ってきたが、足取りは重く浮かない顔で、疲労の色が濃く見える。
「話し合いは上手く纏めてくれたかな。こっちの方は……残念ながら、悪い報せだ」
深く溜め息吐いた後、ドミニクは外で起こったことを一行に伝える。
曰く、倒れていた衛兵達に外傷はなく、最初は気絶しているだけかと思ったが、気付いた時には手遅れだった。
彼らは眠ったままで一度も目覚めず――最期はまるで溺れるように、息を引き取ったと云う。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:多い4 / 4〜6人
2023年06月03日 05時21分52秒 公開
相談掲示板
ヒーラーのドミニク・ログナーだよ。今回も集まってくれてありがとう。 今回は会談がメインになるけれど、不明な点があったら可能な範囲でお答えするから、よろしくね。
シーフのトーラです。 今回もよろしくお願いします! リーンエス王国の貴族……それも身分が低い相手には傲岸不遜ということは、ドミニクさん以外異種族な現状だと上手く話を聞いて貰えるかも不安ですね……。 とはいえ伯爵位の相手ではどうやっても下になりますし、それを込みで話をするしか無いでしょうか。
シーフのナハティガル=ラーだ。今回も宜しく頼む。 >伯爵との会談 異種族……しかも俺の様なゴブリンは家畜程度にしか思われんだろうな。 それで話が拗れても面倒だし、俺はフェイクカバーで角と耳を引っ込めて唯人に擬態して会談に出席するつもりだ。 会談ではガストーニ商会との取引き――例の麻薬の流通や祝福の村についてどの程度関与しているのか探りを入れてみる予定。 >マリアベル 解説によると『最初は伯爵との会談が行われ、途中からマリアベルが加わる流れになる予定』との事。 マリアベルが乱入して来たら伯爵との会談どころではなくなりそうだが……。
わたしもフェイクカバーを持っていくか悩ましいところですけど、伯爵の安全を確保するためプリズムシャドウ辺りを持っていこうかと思っているので、今のところはそちらを優先しますね。 とりあえず会談に参加しつつ、マリアベルが現れたら会話と攻撃を受けたときの備えをしておくつもりです。
キャスターのザザ=ステルヴィナよ、どうぞよろしくね。 私は変装スキルで耳を隠してヒューマンに変装してみるつもりよん。 もし他にも変装を希望する方がいらしたら、お手伝いさせていただくわね。 >会談とマリアベル 基本的には戦闘行為は発生しない予定らしいけれど、私も念の為にアーケインとクレネルウォールは用意していく予定。 ……晩餐会への招待は強制的にお受けせざるを得なくなりそうよね。