【散黒】我遮髑髏

革酎

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シナリオID:2989

オープニング

●超人達の邂逅
 どことも知れぬ、薄闇の中。
 そこに、ふたつの人影が佇んでいた。
 一方は漆黒の忍闘衣を纏った巨漢、天陽道の首領鬼一 劉厳(きいち りゅうげん)。
 そしてもう一方は――語らずの智者として知られた男、エフレム。
 皇子レイウェスト・バルダスと袂を分かち、現在は行方をくらませていた筈の人物であった。
「お初にお目にかかります。それがしは天陽道を束ねる鬼一劉厳と申します。お会い出来て光栄に御座る、エフレム殿」
「……拙に、何か御用か?」
 恭しく丁寧に挨拶を述べる鬼一劉厳に対し、エフレムは顔色ひとつ変えず、淡々と応じた。
 鬼一劉厳は全身血まみれだった。つい先程まで、彼は帝都の外で無数のクリーパー共を相手に廻して激闘を繰り広げ、その挙句に生死の境を彷徨っていたのだが、ひたすらにその名を呼び掛け続けていたエフレムに救出され、今は安全な場所で対面を果たしていたのである。
 だが鬼一劉厳は己の疲弊ぶりは全く無視して、いきなり本題から入った。
「単刀直入に申し上げます。エフレム殿のご協力を賜りたい。我らにご協力頂くことは、延いてはレイウェスト殿下をお守りすることにも繋がります」
 ピクリ――エフレムの瞼がほんの一瞬、微かに揺れた。
 鬼一劉厳は内心で、読みが当たったとほくそ笑んだ。エフレムが今尚レイウェストを守る立ち位置に居ることは推測に過ぎなかったのだが、この反応を見る限り、その推測は当たっていた様だ。
 ここは攻め切るに限る――鬼一劉厳は更に言葉を繋いだ。
「過日、帝国魔導院エスタル支部長クライス・アクバー殿が凝黒紋具なる装置を完成させました。これは幽界樹の黒い霧を無効化する機能を具えております」
 エフレムはその事実を知っているのか、どうか。しかし彼は鬼一劉厳の言葉にはいちいち反応せず、静かに耳を傾けている。
 鬼一劉厳はここからが勝負どころだと内心で自らに気合を入れ直した。
「しかしながら、この凝黒紋具には唯一、弱点が御座いましてな……真逆の原理を用いた紋具或いは神具を用いれば、その効果はたちどころに無効化されてしまうので御座る」
 ここで鬼一劉厳が一例として持ち出したのは、彼ら天陽道が駆使する式鬼召喚術だった。
「我らが駆使する式鬼召喚術と同様の原理を持つ紋具や神具がこの世に存在すれば、折角の凝黒紋具も役立たずと化してしまいます。メドゥの指先辺りがその様な機能を有する装置を持っていたとしても、決して不思議では御座いますまい」
 凝黒紋具の開発ベースとなった天言殺呪は周囲の気体や液体を一点に凝縮する技法だが、これに対して式鬼召喚術は式符を霧散させる、即ち個体を気体に発散させる技法なのだという。
 これと同じ原理を用いた紋具或いは神具が存在したとして、これを凝黒紋具使用の場面にぶつければ、黒い霧除去は失敗するであろうというのである。
 その為、鬼一劉厳は自分達が用いる式鬼召喚術をベースとして、試作品としての対凝黒紋具装置――散黒紋具を敢えて開発し、これの効果をどの様に封じるかを先んじて研究しておけば、凝黒紋具の効果が阻害されるのを阻止する戦術が早期に確立出来るだろうと述べた。
「レイウェスト殿下のお望みは幽界樹打倒。その為には凝黒紋具の効果を妨げる存在は早めに潰しておくに越したことは御座らぬ。それ故、エフレム殿のご協力を賜りたい」
 エフレムの理解は、早かった。
 と同時に、彼は拍子抜けする程に鬼一劉厳を拒絶しなかった。
 少し考えれば、天陽道は存在そのものが怪しまれておかしくないものであるのに、エフレムは疑う素振りを見せなかった。
 何かが奇妙だが、しかし鬼一劉厳からすれば、エフレムの協力が得られさえすれば、後はどうでも良い。
「……心得た。では、協力を」
 エフレムからの短い応えに、鬼一劉厳は深々と頭を下げた。

●意図の読めない強奪
 元シルトラース帝国魔導院エスタル支部長クライス・アクバーは厳しい表情で南部鎮守都市ヴィントへと駆け付けた。
 この一週間、ヴィント保管の本格式凝黒装置に用いる補充用エーテル石が、ケンタウロスの聖域からの移送中に輸送部隊が襲撃され、強奪されるという事件が相次いだのだ。
 輸送部隊の生き残りからの証言によれば、見たことも無い連中が謎の怪物を駆使して奇襲を仕掛けてきたというのである。
 クライスがそれらの証言をもとに調べたところ、襲撃犯は天陽道傘下の唱紋士達と推測された。
 だが、その理由が分からない。
 何故天陽道が、エーテル石を必要としているのか。
(いや……理由などこの際、どうでも良いか。奴らがエーテル石を強奪しているのは事実だ)
 クライスはすぐさまヴィントの冒険者ギルドに駆け込み、エーテル石奪還の人員募集を申し入れた。
 既に奪われたエーテル石はその大半が持ち去られているだろうが、今から追えば全部とはいわずとも、せめて一部ぐらいは奪還出来るかも知れない。
 冒険者の人数がある程度集まり次第、すぐに後から追いかけさせる様にと受付嬢に伝えてから、クライスは単身馬を駆って襲撃現場へと走った。
 連中の足跡を見失う前に、先行してその姿を捉える為に。

 ヴィントを発って結構な時間が経過した。
 クライスは遥か前方の平原を行く巨大な影に、思わず眉を顰めた。
 まるで巨人かと思える程の、超大型の人骨がのっそりと四つん這いで進んでいる姿が見えた。
(我遮髑髏(がしゃどくろ)か)
 クライスは天陽道に属する唱紋士の中に、あやかし法師と呼ばれる種の術師が居ることを知っていた。
 式鬼使いが式鬼を使役するのに対し、あやかし法師は妖怪と呼ばれる魔獣を使役する。要は操る対象が異なるだけで、いずれも同じ魔獣使いの一種に過ぎない。
 但し、式鬼は接近戦での物理戦闘技術一辺倒なのに対し、妖怪は魔術的なものも含めて、様々な戦闘能力を具えている。冒険者には戦士や魔術師が居る様に、天陽道の魔獣にも同じ様な棲み分けがあるという訳だ。
 我遮髑髏は見た目こそはアンデッドに見えるが、その正体はガーゴイル等と同じ無機物型の魔獣だ。
 ただ、その戦闘力は極めて厄介だ。巨大である分、耐久力と破壊力は相当に高い。
 更にその我遮髑髏周辺には、全身がぬめぬめと光沢を放つ水棲生物の如き人影も幾つか見える。
(あれは河童だな……次から次へと面倒な妖怪を)
 赤い皮膚、黒い皮膚、そして青い皮膚を持つ三体。クライスの記憶が確かならばそれぞれ色名を頭に付ける種の河童共の筈だ。
 クライスは敵との距離を維持したまま、密かに追跡を続けた。

解説

状況:  PCの皆様はヴィントの冒険者ギルドでクライス・アクバーからの依頼を受けて、エーテル石強奪犯の追跡を開始したところからスタートして頂きます。  既にクライスが先行して強奪犯の姿を遠目に捕捉しながら追跡している為、彼と合流して追撃戦を仕掛けることが可能な段に至っています。  但しクライスが冒険者ギルドに残していった情報によると、敵は天陽道の唱紋士で、巨大な骸骨の化け物を一体、更には見たことも無い魔獣の如き化け物を数体、従えているとのことです。  敵の編成や実力はほとんど未知数である為、警戒しての追撃戦が必要となります。 敵:  天陽道の唱紋士と、それらが使役する化け物共が相手です。  超巨大な人間の骸骨は、ジャイアント級のサイズを誇るスケルトンの如き怪物と思って頂ければ結構です。  それ以外の魔獣は、全身が濡れており、背中に亀の様な甲羅を背負っていたとの目撃情報もあります。  正確な数も不明ですが、妖怪についてそれなりに知見のあるクライスとの合流を優先させれば、彼からある程度の情報を得ることが出来るでしょう。 天陽道:  本連作に登場する天陽道は、シャルガネのシノビから離反した呪術師集団です。  呪術とはいっても実際に呪いをかける訳ではなく、普通の授恵者と変わらない攻撃・バフ・デバフ付与魔法を呪術と称して使用しているだけです。  天陽道の呪術は天言殺呪と呼ばれており、概ね超強力型魔弾と標的を選り分ける選択性能のあるメテオライトを複合させた一撃必殺の遠隔魔法攻撃と思って頂ければ間違いありません。  所属する下位の術師や戦士は全て唱紋士と呼ばれ、天言殺呪(天陽道独自の攻撃魔術)、桐蓬忍道(天陽道独自のシノビの体術)、覇残抵儀(天陽道独自の殺人格闘術)、式鬼術(鬼と呼ばれる魔獣を使役する術)といった技を一種類だけ駆使しますが、最近になって反魂法師という名称の死霊術師をも唱紋士として迎え入れた様です。  尚、首領クラスの鬼一劉厳、並びに蘆屋外伴の両名は上記の技をほぼ全て習得している超人級のボス敵で、そう簡単に斃せる相手ではありません。 NPC:  元シルトラース帝国魔導院エスタル支部長クライス・アクバーが味方戦力として登場します。

マスターより

 皆様、こんにちは。  新しい連作【散黒】の初回OPをリリース致します。  OP前半は完全にPL情報となりますが、天陽道が何を考えてエフレム師と接触したのか。その辺は今後の展開でおいおい分かってくるでしょう。  それでは、ご縁があればご参加のご検討宜しくお願い致します。

リプレイ

●妖怪、と呼ばれる存在
 元シルトラース帝国魔導院エスタル支部長クライス・アクバーは、ヴィント方面から駆けつけてくる幾つかの馬蹄の響きに、漸く援軍到着かと内心で胸を撫で下ろした。
「よぅ、クライス! 応援に来たぜ!」
 鞍から飛び降りていの一番に走り寄ってきたハヤト=ガラン=ヴォルファングに、クライスはよく来てくれたと静かに頷き返した。
「グランスパーダでの疫病騒ぎといい、今回といい……色々と騒がしてくれる連中だね」
 ハヤトに続いて、キオルティスも足早に駆け寄ってくる。
 ふたりにとって天陽道は何かと因縁のある相手であり、メドゥの指先と同じく、決して捨て置けぬ仇敵の様な存在になりつつあった。
「しかし、また随分と巨大な怪物が居たものだな。あれも魔獣なのか?」
 ふたりから少し遅れて、アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトからの幾分呆れた調子の声。
 遥か前方の丘陵地帯をのっそりと進む四つん這いの巨大な人骨。クライス曰く、あれは我遮髑髏と呼ばれる妖怪、という話であった。
 妖怪とは、天陽道が使役する魔獣の一種だということらしい。その召喚方法は式鬼とよく似ているが、妖怪は諸々の魔法的な攻防能力を具えており、物理一辺倒の式鬼とは随分と勝手が異なるらしい。
「さて、相手が天陽師なら厳しいが、どれ程の手練れなのやら」
 左掌を眉の高さにかざして遠くを望む仕草を見せるベルク・オスマット。大体の数をざっと読んでから、彼女はひとり、気配を殺して早々に仲間達のもとから姿を消した。隠蔽状態のまま敵の後方に廻り込み、奇襲を仕掛ける算段らしい。
「あの大きいのは我遮髑髏……で、その横に居るのが河童ってやつ? あんなに目立つ集団なのに隠れる気も無いってことは、余程の自信がありそうね」
 クライスから敵に関する情報を聞き終えてから、ロゼットは小さく肩を竦めた。
 河童についてはシャルガネ居住区周辺で見られる水棲魔獣だったと記憶しているが、この水気も何も無い丘陵地帯を闊歩しているということは、必ずしも水そのものが必要という訳ではないということだろうか。
「じゃ、その河童っていうのと唱紋士は、私が始末しますね」
 じぃっと遠くを眺めるロゼットの傍らで、ルアンナ・ミュラーが悪戯っぽい笑みを浮かべた。
 式鬼も妖怪も共に魔獣の類だというのであれば、その使役者たる唱紋士を叩けば良い。
 但し唱紋士は通常の魔獣使いとは異なり、個人の戦闘力も中々に高い。その点を加味して挑まなければ、手痛いしっぺ返しを喰らうことにもなる。油断は禁物であった。
「あのデカいのは俺が引き受ける。ヴォルファングさんは河童とかいう連中を頼まれてくれるか」
「おぅ、任せとけ。けどよぉ、あのぬめぬめと光ってるのは全身が濡れてんのか? デケェ骨の方はやけに石っぽい感じだし……シャルガネの妖怪ってのは、よく分かんねぇな」
 アルベルトに応じつつも、ハヤトは何ともいえない表情を浮かべてクライスに視線を流した。
 クライスも、話に聞くばかりで実際に遭遇するのはこれが初めてだとかぶりを振った。つまり、実戦という意味ではこの場の全員がぶっつけ本番ということになる。
 手の内が読めない間は、慎重を期した方が良いかも知れない。
「アルベルト、場合によっては防戦に切り替えて頂戴……それにしても、砂漠の蛮族にも魔獣使いは居たけれど……違いはあるのかしら? その辺、何か分かる?」
 ロゼットに水を向けられたクライスは、済まないが分からないとかぶりを振った。
 如何に博識なクライスといえども、何から何まで全て知っているという訳では無さそうであった。

●意外なる強敵
 バンビは、ハイスピードキャスターだ。
 当然彼女にとっては最速の詠唱、最速の魔術発動こそが至上命題なのだが、その次に重要な要素として掲げているのが、敵を知ること、であった。
(耐性のある敵に、その属性で攻撃を仕掛けること程、愚かなことはありませんわ)
 今回バンビが狙いを定めているのは、三体の河童共であった。
 赤、黒、青の三種の肌色に分かれたこれら三体の河童には当然、その防御耐性にも何らかの特徴がある筈であろうというのが、バンビの読みであった。
 その点をクライスに訊いてみると、意外なことに、防御耐性に関しては色は関係ないということらしい。
「赤は焼ける様な酸での攻撃、黒は腐食、青は猛毒の黴という具合に、攻撃能力の差を表している」
 と、クライスは説明した。
「それなら、だいぶん楽ね。耐性に差があるなら処理が厄介だと思ってたけど」
 同じく対河童戦に於ける魔法攻撃担当のアウレーリア・フォン・ネーベルベルクが、安堵した様にほっとひと息入れた。
 初見の敵は、何が効いて、何が効かないのかが特に重要だ。攻撃手段も不明であることが多い為、防御を崩すのに手間取ると思わぬ苦戦を強いられることも珍しくない。
 そういう意味では、バンビとアウレーリアが早々にクライスから敵情報を知り得たのは僥倖といえた。
 だが、余りのんびりとはしていられない。どうやら敵側も、こちらの追撃に気付いたらしく、歩を止めて転進する様子が見えた。
「距離を詰められる前に、先手必勝ですね」
 ルアンナが雷の力を宿した魔力の槍発動の態勢に入ると、バンビは更にそれよりも早く、必殺の空間爆砕を仕掛けに入った。
「あーはん、スロー過ぎて欠伸が出ますわ」
 お互いにそこそこ距離が詰まってきたところで、まずバンビの魔力が大気中に極大の爆裂威力を発動。巨大な人骨と三体の河童がその場に押し潰される様にして直撃を浴びた。
 しかし、我遮髑髏も河童共もすぐに態勢を立て直し、距離を詰めてくる。どうやら魔法防御は相当に高いらしい。
 ならばとルアンナが雷の槍を叩き込む。先頭を駆けてくる赤河童に命中し、その動きを若干鈍らせることが出来たものの、期待した程の効果は出ていない様にも見えた。
「それなら爆炎の一撃はどうかしら。陸上で炙られて乾いてしまうが良いわ」
 最後にアウレーリアの放った緋色の幻日が、猛爆の炎となって河童共を容赦無く焼いた。これも確かに効果はあった様に見えたが、すぐさま河童共は態勢を立て直し、猛然と迫ってくる。
 流石に拙いと考えたアウレーリアは、ハヤトが前衛に入るまでの間だけでもと時間稼ぎの雷の網を張り巡らせた。これでいきなり接近戦を仕掛けられて、三人の魔術師が窮地に陥るということはない。
 アウレーリアの攻撃に次いで、ルアンナも爆炎を叩きつけて河童共の体表を干からびさせようと試みた。これも多少の効果はある様に見えたが、決定打にはなり得ない。
 バンビも次なる攻撃魔法発動態勢に入っていた。三人の魔術師の中では、バンビの詠唱が最も速い。この速さを存分に活用して、対河童戦の主導権を握らなければならない。
「うるぁ! ブレイブファング傭兵団のハヤト様が妖怪退治に参上だぜ!」
 アウレーリアが仕掛けた足止めの間に距離を詰めたハヤトが、河童共の間へと果敢に飛び込んでいった。
 ハヤトが接近戦を担当してくれるお陰で、ルアンナもバンビも、そしてアウレーリアも安心して魔法攻撃に専念出来るというものであったが、ハヤトの二刀流と蹴りの乱打が躱されてしまえば、その矛先は間違い無くバンビに襲い掛かる。
 そうなる前に、決着へ持ってゆく必要があった。
「私が時間差で河童共を足止めするから、ふたりは徹底して攻め続けて頂戴」
 アウレーリアの指示に、ルアンナとバンビは詠唱しながら頷き返した。魔術師同士でもある意味、前衛と後衛の様な役割分担が明確に分かれるケースがある。今回が、まさにそうであった。

●巨骨攻略
 我遮髑髏はただ大きいだけではない。
 その破壊力も圧倒的で、今回は盾役として前に出ているアルベルトの守りを、これでもかと崩しにかかってくる勢いだ。
 アルベルトも後手に回ってからでは遅いと考え、接近した直後には雷撃の如き鋭い刃を次々と繰り出し、我遮髑髏の胴部に効果的な痛打を叩き込んでいた。
 手応えはあった。しかし、この巨大な骸骨は斃れない。崩れようともしない。
 となれば、後はキオルティスの変幻自在の多彩な攻撃に任せるしか無かった。
 キオルティスは一撃離脱戦術に徹し、接近した際には目にも留まらぬ速度での連撃に加え、エーテルを纏わりつかせる攻撃を効果的に撃ち込んでいった。
(表情も無いし、痛がる素振りも無いから、効いているのかどうかも判断し辛いな)
 内心で渋面を浮かべつつ、それでも攻撃の手を緩めないキオルティス。
 我遮髑髏の攻撃はアルベルトが一手に引き受けてくれている。そのアルベルトも無限に巨大な打撃を受け続けることが出来る訳ではないから、ロゼットが専属の治癒師としてサポートし続けていた。
(これは、前に出るのは無理かな)
 余裕があれば自らも攻撃に加わることを考えていたロゼットだったが、今ここで治癒の手を放棄すれば、間違い無くアルベルトが斃されてしまう。そうなれば戦線は瓦解するだろう。
 ここは兎に角、我慢の一手だ。既にアルベルトには防御系の支援術も施し、徹底して盾役の補助に廻っているロゼット。キオルティスの多段攻撃が確実に我遮髑髏の耐久力を削っていると信じて、この戦術をひたすら続けるしかないだろう。
 そんなロゼットの視界内で、唱紋士がひとり、突然崩れ落ちた。
 それまで気配を徹底して殺していたベルクが奇襲を仕掛け、見事成功したのである。この唱紋士がひとり斃れた瞬間、黒河童がいきなり発狂したかの様に暴れ始めたのだが、防御も何も考えない暴れっぷりには付け入る隙が大いにあった。
 この黒河童をルアンナとアウレーリアの魔法連撃で即座に仕留め、残る赤河童にはハヤトが、青河童にはバンビがそれぞれ集中して攻撃を加え続けた。
「あっちは目途が付きそうだな……なら我遮髑髏、貴様も早々に斬る!」
 アルベルトが戦局有利と判断し、再び攻撃に転じた。
 既に我遮髑髏には相当な打撃が蓄積している筈だ。ここからは一気呵成に押し切る方が吉だ。
 ならばと、ロゼットも前に出た。
「キオルティス、勝負に出るわよ!」
「了解……それにしても妖怪、か。中々興味深い魔獣だったね」
 得物に眩いエーテルを纏わせたロゼットが前に出ると、キオルティスもタイミングを合わせて攻勢に転じた。その流れる様な連携は我遮髑髏の腕を破壊し、脚部を砕き、そして遂には頭蓋骨をも粉砕した。
 これで勝負あったかと思われたが、しかし我遮髑髏は尚も崩れない。どうやら急所というものが無いらしいこの巨大な骸骨は、全身を破壊し尽くさなければ斃し切れないらしい。
 だが、それもそう長くは続かなかった。
 それまでに蓄積されていたキオルティスによる打撃が、ここで効果を見せ始めた。
 我遮髑髏は次第に動きが鈍くなり、最終的にはただの巨大な的として、アルベルト、キオルティス、ロゼット達の絶え間無い攻撃を受け続けるばかりであった。
 そしてその巨体は、遂に崩れ落ちた。
「次はやっと本命、唱紋士だね」
「ひとりも逃がしちゃ駄目よ」
 キオルティスとロゼットが、三人の唱紋士を相手に廻しているベルクの加勢に入る。
 アルベルトはここで一旦、退いた。流石に我遮髑髏から浴び続けた打撃は彼の頑健な肉体をして尚、幾分の休息を必要せしめた。
 だが入れ替わる様にして、クライスが前に出た。この格闘魔導師が戦線に加わるということは即ち、ほぼ勝利が確定しているといって良い。

●語らずの智者の影
 対河童戦も、いよいよ大詰めだ。
 赤河童はハヤトの二刀流と蹴り連撃の猛攻を浴びて、遂にその場に崩れ落ちた。
 一方の青河童に対しては、アウレーリアが仕掛けた足止めの効果で依然として接近を許さず、バンビの超高速魔術の連弾とルアンナの炎の魔術で、半ば一方的に攻撃を叩き込んでいた。
 最早為す術も無くなった青河童はやがて、赤河童とほぼ同じタイミングで討ち倒された。
「あら、我遮髑髏の方はもう、片付いていらっしゃったのですね」
 幾分がっかりした表情のバンビだが、ルアンナは魔力を使い果たしたのか、やり切ったという満足感と同時にその場に座り込んでしまった。
「後はもう、お任せします。ちょっと疲れちゃいました」
 そんなルアンナを尻目に、アウレーリアは唱紋士との戦いに入っているキオルティス、ロゼット、ベルク、クライスといった面々の加勢に入った。
 唱紋士は既にふたりが斃され、残るふたりもキオルティスに脚を破壊されて逃げることも叶わず、最大戦力たる妖怪をも失って半ば戦意喪失していた。
 結局、ふたりの唱紋士をキオルティスとベルクで無力化したところで戦闘は終結した。
「メドゥとも協力体制にあるテロ組織の構成員には、手抜きも容赦も不要だな」
「それにしても、エーテル石は用途が限られた、売り物にはならない貴重品だわ。これを欲しがるのは、使い道に当てがあるひとだけ……帝国軍から奪う辺り、余程大きな目的があると見た方が良いわね」
 キオルティスがロープで縛りあげる間、ベルクとロゼットがクライスに対し、どの様な尋問を加えるべきかと意見を伺ったが、クライスは小さくかぶりを振った。
「こいつらは所詮は下っ端だ。どうせ何も知らん」
 事実、ベルクとキオルティスが尋問したところでほとんど有効な情報は得られなかった。この唱紋士共は帝国の輸送隊からエーテル石を奪った後、所定の引き渡しポイントで他の運搬担当の唱紋士に引き渡すところまでしか役割を与えられていなかった。
 だがクライスは、別の情報を得ていた。
 この唱紋士共には羊皮紙での指示書がしたためられていたのである。
 その内容を見た瞬間、彼の表情には厳しい色が浮かんでいた。
「何か、分かったの?」
「……この帝国式魔導算術には、見覚えがある」
 傍らから覗き込んできたアウレーリアに、クライスは渋い表情を向けた。アウレーリアも、そしてバンビも同じく魔術師だからある程度の内容は理解出来るが、しかしここまで高度な魔導算術となると細かいところまでは分からない。
 しかし、クライスには全て理解出来ている様子だった。
「これを書いたのは恐らく、エフレム師だな」
「何……あの糞駄蜥蜴、間接的にメドゥと繋がっておったのか」
 その瞬間、ベルクが険しい表情を見せた。
 が、クライスはこの件は他言無用、帝国上層部にもまだ知らせるなと釘を刺してきた。
「袂を分かったとはいえ、レイウェスト殿下にはショックが大き過ぎる情報だ。今、この内容を殿下のお耳に入れるのは拙い」
 故に、この件は冒険者ギルドへの報告だけに留める様にと、クライスは冒険者達の顔をゆっくり見渡しつつ、静かに告げた。

マスターコメント

 皆様お疲れ様でした。  戦術、戦力分担、配置のいずれをとっても無理が無く、非常に合理的な作戦を取られていました。  但し今回得られた情報は、ひとまず皆様の胸の内にだけ仕舞っておいて下さい。  レイウェストの耳に入れるのは、今はまだちょっと刺激が強過ぎますので。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2023年06月04日 22時32分38秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ロゼット

    ヒーラーのロゼットよ。 追撃する敵は、我遮髑髏に赤、黒、青の河童、 それに魔獣を使役する天陽道の唱紋士と。 我遮髑髏はジャイアント級、5~10mぐらいの巨体ね。 河童については詳細は不明だけど、単純な格闘以外にも 何か攻撃手段があるかもしれないわ。 何故エーテル石を奪ったのか、どこに運んだのか、 追及するためにも唱紋士だけは、生かして捕まえたいわね。

  2. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウォーリアのアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 今回俺は我遮髑髏撃破に向かう予定だ。

  3. バンビ

    ハイスピードキャスターのバンビですわ。今回も良しなに。 最速の範囲攻撃で露払いしますわね。

  4. ロゼット

    参加者が埋まったわね。 ウォーリア1、シーフ3、キャスター3、ヒーラー1、ね。 ヒーラーが私だけだから、私は我謝髑髏を希望している アルベルトの回復を主に、シーフへの支援かしら。 前衛を持たせておけば、キャスターが順に落としてくれそうかな。

  5. キオルティス

    遅くなってすまない。 シーフのキオルティス。キオでもルティスでもお気軽に。 今回は宜しくね。 >我遮髑髏 随分大きいんだね。その分、避けられるなんてことは無さそうだけれど。 物理一辺倒なのか、魔法イケるのか、分からないのが難点かな。 とりあえず、もしこいつに当たるならスリップ状態を狙ってみようかな、と。 あとは質量に潰されないように動かないと拙いだろうね。 >河童 格闘戦に持ち込まれたら強いだろうし、引きで叩く方がベスト、かな。 ロゼットさんの言うように、格闘以外にも攻撃手段を持っている場合、 何らかの対策が無いとツラいかな。 魔法的な攻撃なのか、それともバフデバフ系なのか… どっちにしろ、何となく我遮髑髏より厄介そうな気もしないではないね。 >唱紋士 こいつの扱いも考えておかないといけないね。 捕縛は俺も必須だと思うけれど、その前に戦闘不能にすることが必須だし。 そういえば、今回の魔獣たちはこの唱紋士の配下≒従属なんだろうか。 もしそうなら、この唱紋士を倒せば統率とか取れなくなるのかな…。

  6. ルアンナ・ミュラー

    キャスターのルアンナです、よろしくお願いします。 >唱紋士 魔獣をコントロールしているのだとすれば、先に戦闘不能まで持ち込んでしまえば統率が無くなって倒しやすくなるかもですね。最低一人は生かして色々聞き出したい所です。 私はまず唱紋士&魔獣から当たってみたいと思います。

  7. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    キャスター、アウレーリアです。宜しく。 それでは、私は河童の相手をしてみようかと思います。 と言っても、能力不明なので具体的にこうする、というプランはないのですが。 なんだかそれぞれ属性や耐性に違いがありそうな気がするので、色々試してみましょう。 もしかしたら、魔法の効きが悪い場合があるかも知れません。 どなたか物理屋さんが付いてくれると安心かな、という気がしています。

  8. ベルク・オスマット

    シーフのベルクだ、よろしく頼む。 とりあえず隠れて後ろに回り術士を奇襲して見ようかと思う。 連携を乱せたり、自身の安全に拘って戦力を逐次投入にできるかもしれん。

  9. ロゼット

    関係のない(別MSさん)過去の依頼だと、 河童は水系の単体魔法射撃を使っていたわね…。 >唱紋士 先に倒せば、使役する魔獣に何らかの影響は出そうね。 とはいえ唱紋士を倒して終わることはないでしょうから、 最終的にこっちが魔獣に撃破されないようにしないとね。 >自身の行動 アルベルトを「堅甲」で防御強化、ヒール4で負傷回復。 シーフやキャスターをサイドヒールで回復の予定ね。 攻撃の心配はいらなそうだけど、河童がキャスターを 狙う場合に壁役になれるように、戦況を見ておくわ。 河童相手なら、私の攻撃でも少しは通るでしょう。

  10. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 今回の相手はシャルガネでは良く聞く妖怪が相手ってわけか! 今んとこどんな能力で来るかわからねぇってのが1番厄介だな。 ベルクが唱文士を潰しに動いてくれるっつーなら俺は河童共相手の前衛として引き付け役に回るとすんぜ! 何となく色でどんな系統の能力を使って来そうかは予想しとくくれーしか対策も思いつかねーけどな!

  11. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    >ロゼットさん 援護感謝します。 全力で頑張らせていただきます。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0