【信焉】象られた信仰

崎田航輝

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シナリオID:2944

オープニング

「危険な調査に出向いてくれてありがとう」
 ソーレアル信仰区。
 蒼鷲(あおわし)神殿のもと、冒険者達を見回しながら……神徒ファビアンは労いの言葉をかけていた。
 前回、冒険者によって多くの情報を得る事ができた。 
 そこに感謝を浮かべながら……しかしファビアンの声は静かでもある。
 それは、見えた事実が認めたくないものでもあったからだろう。
「僕達の敵。暴くべき悪の正体は……敬虔な信仰者の立場にある者だったようだ」

●目論見
「情報を、整理したいと思う」
 報告書を手に、ファビアンは冒険者達に確認するように述べる。
 その真実を自らにも言い聞かせようとするように。

「まず、ナダキア信仰区にて、増加した反信仰の犯罪者や蛮族――これは一人の神徒が扇動していたものだった」
 辺りで活動する賊の証言で、「ナダキアが狩り場」だと触れ回る人物が居たと判った。
 その人物の風貌が、一人の神徒と一致する事が判明したのだ。
 それが聖白神座会のリーダー格、エルトルだ。
「状況や他の証言でも、彼以外にそれを出来る人物は居ない。エルトルは区内の人間や賊に近寄り、犯罪をそそのかしていたんだ」
 それこそが治安の悪化の原因。
「反信仰の罪人は、自然に生まれたのではない。意図的に増やされていた……そういう事になる」

 事はそれに収まらない、と。
 ファビアンは声を静めて続ける。
「エルトルの動きは独断でなく、指示されたものだったようだ。指示者は、神官長グレオサ――ナダキアの実質的な統治者だ」
 元々、これだけの動きをエルトル一人で行うのは不可能だろう。
 初めから、グレオサの意向で動いていたと見て間違いない。
「エルトルが犯罪者を仕立てる。そして捕まった罪人達を……神官長が裁く、という役割なのだろう。不都合な事は、統治者として隠蔽しながら」
 ナダキアにおいて、反信仰の罪は神官長の裁量で罰が決まる。
 おそらく、“物言えぬ”結末にされた罪人も少なくないのだろう。
「事情を知らぬ一般人にとっては、反信仰者が減るのは良い事に映るだろう」
 故に一般信徒達は、神官や神徒を一層尊敬し……より敬虔になってゆく。
「逆に、事態のおかしさに勘づいたり、神殿に異を唱えるような事をすれば――たちまち反信仰者の烙印だ」
 そういった者は罪人となり……表から消えていなくなる。
 ファビアンは怖気を声に滲ませる。
「これは信仰を盾にした独裁だ」

●依頼
「実際の所、グレオサが如何な目的でこの謀略を行っているのかは判らない」
 ファビアンは深く呼吸をしてからそう言った。
 ただ、と続けて。
「この統治に、利益はないように思う」
 賊や犯罪者が生まれる事で、ナダキア区自身が多少なりとも打撃を受けている。
 裕福な区でもないし、経済的にも上向きになる材料はないだろう。
「……だからこそ。グレオサはこれを損得勘定抜きでやっている可能性がある」
 反信仰の人間を裁く、ただそれだけの為に、と。

 これを早急に止めねばならないと、ファビアンは言う。
「貴方達が集めてくれた情報だけでも、既に十分な量と質がある」
 これを使う事で、表立っての告発も出来るかもしれない。
 ただ……ファビアンは、まだそれは行わないと言った。
「ナダキアには、今も反信仰の烙印を押された罪人達がいる。彼らはいわば、人質だ」
 グレオサは、その気になればどれだけ大勢だろうと処刑するだろう。
 その危険がある以上、悪戯に事を大きく出来ない、と。
「出来る事があるとすれば……直接捕縛に出向く事だ」
 ファビアンは先日、近隣の神殿と相談したという。
 そこで、グレオサとエルトルを表に出す事が出来れば、合議の場で糾弾も出来るという結論を出していた。
「そこまで行けば、ナダキアの市民も自分の区の実態に気づくはずだ」
 そうなればグレオサはもう指導者では居られなくなる。
「だから、貴方達の力を借りたい」

「無論、簡単な仕事ではないだろう」
 ナダキアは神徒が守っているし、グレオサ一人でも一騎当千だろう。
 だから、とファビアンは続ける。
「まずは神徒エルトルを狙いたい」
 反信仰者を作り出す実行役。そのエルトルが突然居なくなれば、グレオサも大きな動きを取りにくくなるはず。
「グレオサの戦力を削る上でも有効な手段だと思う」
 勿論、エルトルも強者ではあろう。仲間の神徒とも行動を共にしているはずだ。
「単独になる瞬間を狙うか、迅速さを重視するか。危険を承知で、エルトル以外の神徒に何か働きかけをするか……」
 方法は任せたい、とファビアンは言った。
「グレオサが動く前に、エルトルを捕縛してきて欲しい」
 暴走した統治を止める為に、と。

●信仰者
「収容所の罪人達が、騒ぎを大きくしているようだな」
 巡回に向かう途中、そう声をかけられてエルトルは振り返る。
 仲間のベテラン神徒の一人が居た。
 彼は心配そうにエルトルを見ている。
「一人で平気か?」
「ああ、問題ない」
 エルトルは力強く答えてみせた。
「しっかりと抑える。必要とあらば剣も振るうさ」
「気をつけろよ。賊も交じっているんだ」
「我々は神のみもとにいる。信仰を知らぬ者や反信仰の人間になど、後れはとらないさ。収容所は引き続き俺に任せて……お前は若手達を見ててやってくれ」
「判った」
 去っていくその神徒の背を、エルトルは見ていた。
 彼も相応の実力者だ。
 それでも、数いる賊や犯罪者の多くが、エルトルが扇動して仕立てた人間なのだとは気づいていないようだった。
 牢の巡回はエルトル一人で行う事になっているから、仕方のない事ではあるが。
「愚かなものだ」
 本当に敬虔だというなら、罪人の質の変化に気づいてしかるべきだとエルトルは思う。
 だが、神徒達は一度反信仰者とされた人間の事を、それ以外の存在として認識しない。
 彼らにとっては、それが敬虔という事なのだろうが――エルトルにとっては二流だった。

 幼い頃、優秀じゃないからと、他の兄弟と比べられて捨てられた。
 それからずっと、エルトルは何かの一番になりたかった。
 信仰というものに共感した事はない。
 ただ、敬虔に振る舞っていればここでは周りに評価された。
 それからエルトルは今も、“一番敬虔な神徒”を続けている。
「……」
 グレオサが、なぜこんな事を命じているのかは判らない。
 それでも、神官長の右腕でいられるのは気分が良かった。
 それに――信仰者を続ける自分からすれば、反信仰者扱いされるような人間は二流以下だ。
「そんな奴ら、死んでも仕方ない」
 だからエルトルは今日も仕事を続ける。

解説

●目的  神徒エルトルを捕縛する。 ●ナダキアへの潜入法について  前回まで使用していた抜け穴が使用可能。ナダキアの東端に入る事が出来る。  それ以外でも侵入を試みる事は出来るが、神徒の巡回に出くわす可能性は非常に高い。 ●エルトルについて  捕縛はいつ試みても構わない。  エルトルは時間によって特定の予定をこなしている。詳細は以下。 ・早朝  神殿傍の拠点から出て、神殿での祈りや鍛錬をこなす。 ・昼  区内や周辺の巡回。 ・夕刻  罪人収容所内の巡回。  牢の巡回はエルトル一人で行うが、近場まで聖白神座会が3人同行する。   ・夜半  神殿での祈りの後、拠点に戻る。  神官長や賊との接触などは、各予定の間に行っているものと思われる(いつ行うかは不明、行わない日もある)。  なお、早朝、昼、夜半の予定においては、聖白神座会の3分の1程度の人数が、入れ替わりつつエルトルと同行する。  エルトルは剣を装備したウォーリア。  聖白神座会の中では最も戦闘力が高い。範囲攻撃や近接の強力な攻撃など、バランスよく使用する。 ●聖白神座会について  総勢60人程。  一箇所に揃う事はなく、常に40人程度は複数に分かれて区内や周囲の巡回にあたっている。  半数が授恵者。剣または短剣を装備しており、ウォーリアが多い。  殆どの構成員が、エルトルや神官長の目論見には気づいていない。  侵入者は、基本的に敵とみなす。

マスターより

連作の第三話になります。 ナダキアにて、犯罪扇動を行っていた神徒の捕縛を目指します。 今回は行動をいつ起こしても構いません(複数日に渡っても可)。 エルトルが単独になるのを狙う場合は、動向を見張る必要があるのである程度の時間は必要になり、察知されるリスクも上がるでしょう。 神徒がいる状態で仕掛ける場合は、迅速に始められますが敵の戦力が増える可能性があります。 戦いや捕縛を試みる前にナダキア内で動く事も出来るので、働きかけておきたい事があれば試してみるのも良いでしょう。 その間も神徒やグレオサに気取られる可能性はあるので、警戒はしておくと良さそうです。 皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。

リプレイ

●潜入
 ソーレアルを発った冒険者達は、ナダキアへの潜入に動いていた。
 遠目に見えてきたその信仰区は今も、異質な静寂に満ちているようで。それは歪な形の統治が続いている証左でもある。
「なんとも、度し難いものですね」
 信仰が人々の自由を奪う事もある。
 頭では理解できても、それが目の前にある事を、ラモンは容易には飲み込めぬ心持ちだ。
「ある種、人々を押さえつける事に信仰を“利用”しているようなものでしょうか」
「……そうね。自分達で火を付けた後、それを消火することで住人の支持を得る――行っている事は、それと同じだもの」
 ロゼットはそう声を静める。
「……グレオサという神官長は何を考えているのかしら」
「少なくとも、賢く思いとどまるような人間じゃないかも」
 そう口を開くのはルーンス・ラグネル。
 出立前、ファビアンに話を聞いた事を思い出す。

 ファビアンに尋ねたのは、過去ソーレアルで起きた事件との関連性だ。
「当時の組織は確かに撲滅された」
 ファビアンはそう答え……同時に「賊と神徒の小競り合いなどを除けば、あれから大規模な事件と言えるものは近隣では起きていない」とも言った。
 それは、グレオサが従うような大きな勢力が存在しない事を強める情報だ。

「何かの後ろ盾があるのかも、とも思ってたけど……グレオサはあくまで独断で動いてそう」
 一人でここまでの事が出来てしまうなら、と。
 ルーンスは言葉を続ける。
「理屈が通じる相手じゃないと思う」
「神官の身でありながら、人を“反信仰”なんてものに仕立て上げちまうんだからな」
 カイン・ステラは周りの山々を眺めて声を零した。
 シグモルと言えば、他でもない火神ボルガニスクのお膝元。
 その御稜威の御前にひれ伏す振りをして振り翳す罰当たりな連中は――と。
「クソ未満だな」
 小さく呟く――火山に縁のあるイアース様もお嘆きだろうな、と。
 ロゼットはそっと目を閉じる。
 その行いに神徒までもが加担している事。
 同じ神徒として、心苦しさも感じないでは居られない……けれど、それ故に。
「私達が、止めないと」
「ええ。行きましょう」
 エミリア・シバが髪を帽子の中に纏め、エーテルも纏って男装すると――シンディー・ホシカも髪をツインテールに結ってその印象を変えて頷く。
「合流は、抜け道の近くね」
 それに皆は頷き、区内へと潜り込んだ。

(前と変わらない……ううん、前よりもっと窮屈な空気になったかしら)
 香水を纏い、奔放な足取りで細道をゆく。
 『踊り子のツバキ』となったシンディーはまず、裏通りを目指していた。
 それは決行に必要な準備の為。
 静けさと薄暗さに満ちる一帯に入ると……見覚えのある人影も見え始める。その中で、彼らを束ねる男――メットがこちらに気づいた。
「お前は」
「また来ちゃった」
 シンディーはそう笑みを浮かべ……再び裏通りの奥部へと案内される。
 彼らは無論、歓迎の様相。
 シンディーが挨拶代わりにと舞踏を披露すると、皆が集まってその姿に心を踊らせていた。
 メットは暫しそんな時間を楽しんでから、尋ねる。
「あれからどうだ」
「どんどん過ごしにくくなって、嫌になっちゃう。そっちは?」
 シンディーが返すと、彼らも「同じだ」と答えた。
「ここの仲間は無事だが……別の小さな集まりが、新たに捕まったようだ」
 そう、とシンディーは痛ましさに声を零す。
 エルトルが動き続けているのだろう。
 他ならぬメット達も、その標的だと考えれば――
(あまり猶予は無いわね)
 シンディーは機を見て口を開く。
「教えてほしいことがあるんだけど」
 それは神徒の巡回の手薄な経路や、彼らに近づかれた際にやり過ごす手段についてだ。
「何か仕掛けるのか?」
「ええ、ちょっと、ね」
 シンディーの言葉に、彼らは頷いて持てる情報を与えてくれた。
「近くに来たら裏通りを使え。気をつけろよ」
 その言葉に礼を返して……シンディーは得た情報を書き記していく。

 神殿は変わらぬ静けさを保っている。
 同時に以前よりも、緊張した空気が色濃くなったようにも思えて――
(まるで息苦しい程ですね)
 遠目に様子を窺うラモンは一度、吐息を零していた。
 彼ら自身は、この変化をどう感じているか否か。
 出入りする神徒達を観察しながら――その中にエルトルの姿が見えると、ラモンは注意深く行動を追い始めた。
 祈りの後、エルトルは仲間と共に巡回に出て区内を広く見張る。
 その言動は、敵を憎む神徒そのものにも見えて。
(自らが仕立て上げた状況の中で、あそこまでの態度が取れるとは)
 周りの神徒が疑わぬのも無理からぬように思えた。
 だが神官たるラモンには、そこに歪さを捉えないではいられない。彼の根底にあるのが、信仰とは異質の原動力に見えたから。
 その内に、山岳を巡ったエルトルは区内に戻る。
(時刻には正確なようですね)
 ラモンは仔細を書き取りながら、更に動きを追う。
 するとエルトルが収容所に向かい始めたから――
(このあたりで交代したほうが良さそうですね)
 長く追い続けるのも、リスクがある。
 故に後は任せる、と――丁度道ですれ違ったエミリアと小さく視線を交わした。

 合図を受けたエミリアは、収容所へと歩みを向けていた。
 エルトルは今、少人数の神徒と行動を共にしているが――
(牢には仲間を近づけさせたくないはず)
 そのエミリアの予想通り……エルトルは外で仲間と分かれ、単独で建物の中へと入っていった。
 残った神徒は近隣の見張りを続けるようだ。
(エルトルが単独になるのは、おそらくこの時間だけね)
 と、そこで足元に栗鼠が現れる。
 カインの元からやってきたランだ。
(助かるわね)
 エミリアは内部の調査をランに任せ……自身は一先ず周囲を観察する事にした。
 すると見張りの神徒は、収容所から大きくは離れないと判る。
 彼らに見つかって助けを呼ばれたら、多くの神徒と戦う事になるだろう。
(事を起こすなら、先に収容所で待っておく方が良さそうね)
 夕刻前なら、彼らの見張りもない。
 収容所から出てきたエルトルは、そのまま神殿の方へ向かう。外の神徒とは途中で合流する形を取るようだから――
(脱出も何とかなりそう)
 エミリアは時刻を確認し、収容所内で作戦を実行するだけの時間がある事も確認した。
 その後のエルトルの行動は再びラモンに追ってもらい――エミリアは一応、収容所へ改めて潜入。
 戦場と出来る場所にもあたりをつけてから、皆との合流へ向かう。

 カインはエルトルが収容所に入った直後、ランをそこに潜り込ませて調査中。
 エルトルには不用意に近づけないが――それでも単独だという事は判った。
(罪人の管理は一人でやってる訳だ)
 聴覚から、牢に響く罪人の訴えが聞こえる。
 エルトルは彼らに取り合うでもなく、ただ雑務を行うように巡回しているようだ。
(自分で捕らえたとはいえ、信仰に関わる訴えに何も感じないもんかね)
 カインはそこに違和感を覚えないではいられない。
(……全部を成果の為の“お仕事”と考えてるタイプか)
 エルトルが収容所を出ると、カインはエーテルの波を走らせて警戒を続けつつ……他の神徒の様子も窺ってみる。
 するとこの現状の原因には、神徒達の鈍感さも関わっていると判ってきた。
『信仰に仇なす者は増えるばかりだな』
『だが、グレオサ様も奮闘して下さっている。状況は改善するだろう』
 聞こえるのはそんな会話。
 経験豊富な者ほど、グレオサの神官時代からの働きを知っている。故に、ある種の信仰をグレオサ自身にも抱いているのだろう。
 新人に近い神徒の方が、現状に疑問を抱いているらしいのもその証拠か。
(思考停止もグレオサの思惑通り、か)
 心に呟きつつ、カインは彼らの動きを更に追ってゆく。

 商人を装って町を縫い――ロゼットは首長宅を訪ねていた。
「ロゼット殿か。あれから何か問題は」
「私達は無事です。今回はお話があって参りました」
 迎えたニザーブに、ロゼットは答えてから……事情を伝える。
 ニザーブは瞑目した。
「……そうか。やはり神官長とエルトルが」
「私達はこの状況を打破しようと思っています」
 ロゼットが告げると、ニザーブは「助力に感謝する」と述べながら……すまない、とも言った。
「本来は、私が解決すべき問題だ」
 そこには何も出来なかった無力感が滲んでいる。
 けれどロゼットは「首長だから出来る事がある」と伝えた。
「グレオサの独裁を止めれば、少なからず変化は訪れます。その時、ナダキアが混乱に陥っては住人達が困ってしまうでしょう」
 だから区の秩序を保つ事を、とお願いする。
「神徒にも、体制に疑問を感じる者は居ました。独裁が止まりさえすれば、呼びかけに応えてくれるはずです」
 それこそ統治者や神徒の本来の役目。
 ニザーブは言葉に深く頷いて、了承を告げた。
「ただ、グレオサやエルトルは強い。気をつけてくれ」
 それにロゼットも頷きを返していた。

「このルートなら、脱出の時に見とがめられる危険は少ないわ」
 合流後、シンディーは皆へ使える経路を伝えていた。
 ルーンスは頷く。
「後は抜け穴で出れば問題なさそうだね」
「ええ」
 後は自分達の戦い次第、と。
 告げたシンディーは――翌夕方、踊り子の姿から髪型を戻し……魔甲を着け、杖を手に携えた。
 それは他ならぬ冒険者の姿で。
「行きましょ」
 頷く皆と共に、作戦へ乗り出す。

●策戦
 罪人収容所。
 牢からの声が木霊する回廊へ――独りで歩んできたエルトルは、はっと立ち止まる。
 それはそこに潜む者達の気配を感じ取ったからだろう。
「何者だ」
 剣に手をかけ、声を響かす。
 それに対してまず姿を見せたのは――かつりと歩み出たルーンスだった。
「やあ」
「侵入者か」
 こちらの正体ははかりかねたろう。
 それでもエルトルは敵意を見せ、剣を抜こうする、が。
「おっと、自由にはさせませんよ」
 声と共に影から飛び出たのが、ラモン。エルトルの反応よりも早く、暗針を奔らせ――エーテルの糸でその体を縛った。
 目を見開くエルトルに、ラモンは声を向ける。
「貴方のことを調べさせていただきましたが、あまりにも不審な行動が多い」
 ですので少々お話を聞かせていただきたく、と。
 言った言葉に、ロゼットも歩み出て声を継いだ。
「神徒エルトル。私たちと一緒に来てもらうわ」
「……」
 エルトルは僅かに唸る。
 だが直後には、刃を抜いた。
 自らの行いを糾弾されているとは理解しただろう。それでも見せるのは、頑なまでの戦意で。
「侵入者は敵だ。敵を討つのが、俺の責務だ」
「責務、ね」
 と、呟くのはルーンス。
 次に見せるのは、とびきりの笑顔だ。
「その砂山の見晴らしがそんなに良いのかな、お山の大将」
「……何だと」
 エルトルは、怒りに声を低める。
 全くもって、それはルーンスの予想通りの反応だった。
 “神より自分の力”。エルトルがそういう類の人間だと、ルーンスはその動向から推測が出来ていた。
 自身に実力があると驕り、それ故他人を見下す。
 そこにあるのは信仰とは無縁の自尊心。
 だから挑発するなら突くのはそこだ、と―――ルーンスは一層笑みを増して。
「よーく空を見上げてなよ、その砂山崩れるんだし」
「――」
 エルトルは剣を握り締め、ルーンスへ走った。
 それこそ予定通りの動き。
 疎かになったその足元へ、まずは疾駆したエミリアが一撃。エーテルを纏った針先で刺突を打ち、動きを一層鈍らせる。
 よろけたエルトルは、それでもルーンスへ剣を振り下ろすが――ルーンスはエーテルの波動を開放して守りを向上済み。
 だけでなく、更に己を光で纏い……剣撃を防ぎ切った。
 直後には、ロゼットが攻撃態勢。
「そこまでよ!」
 光を抱かせた棍を振り抜いて――エルトルの膚を強烈に抉った。
 エルトルはふらつき、血交じりの声を零す。
「……我らが栄光の敵め」
「信仰の敵とは言わないんだな、正体が知れてる相手には」
 カインは弓を引きながら言ってみせる。
「なあ、てめー日常生活で火神様に感謝してねぇのかよ」
「……」
「俺は信仰違うんで地神様に感謝してるけど。……燃やし尽くされたり地に埋められて生きてる奴なんざいねえ、平等に死ぬ」
 あくまで生かしてもらってるだけだろ、と言葉を差し向けて。
「そう考える事はねぇのかよ」
「……俺は、自分の力でここまできた」
 殺すつもりの相手には、隠し立てもしないのだろう。エルトルは言って剣を握り直す。
「信仰もその道にあったものの一つでしかない」
 同時、踏み込もうとするが……一手早く、カインが矢を打ち込みエーテルで蝕む。
 苦悶するエルトルは、一度大きく下がろうとするが――
「させないわ」
 シンディーが天地のエーテルを凝集。
 揺蕩う陽炎を一点に集め、鮮烈なまでに輝く氷の矢を射出していた。
 突き抜けるように飛翔するその一撃が、エルトルを貫いて動きを阻む。
「もう、観念する事ね」
「……」
 シンディーの言葉に、エルトルは身じろぎもままならない。皆はそのままエルトルの体力を奪い去り、捕縛に成功した。

 一行は牢へも赴いた。
 罪人達はこちらの騒ぎには気づいていたようで――冒険者であると告げたラモンが事情を語ると、驚きを見せる。
「……私達は、どうなるのでしょうか」
 彼らの不安に、ラモンは「大丈夫です」と答えた。
「必ず助けますのでもう少々辛抱してください」
「反信仰の冤罪はきっと晴らしてみせるわ」
 ロゼットもそう伝えると、彼らの顔に僅かだが安堵が宿る。
 ロゼットは「その為に」と続ける。
「エルトルの事だけど、何か聞かれても収容所には来なかったと言っておいてほしいの」
 彼らは頷きながら、中には迷う者はいるようだったが……ルーンスも口を開いた。
「反信仰の烙印を押されたままでいるよりも――真の罪人の反信仰を白日の下に晒すことこそ、長き眠りに就いた火神様の安寧を守り、信仰を示すことじゃないでしょうか」
 彼らの多くは元々、敬虔に生きてきた者達でもある。
 その言葉に、最後には納得を見せてくれた。
 こうして約束を取り付けると――「それじゃ」とシンディーが皆へ目を向けて。
「エルトルを連れて脱出するまでが任務でしょ?」
 早く行きましょ、と笑いかける。
 皆は頷いて、区外を目指した。
 気絶しているエルトルを一瞥して、ラモンは心に呟く。
(信仰は誰かを救うものであってほしい、というのは理想論だとしても――)
 そう願わずにはいられない、と。

 途中、エミリアは一度別行動。
 エルトルから剥いだローブで変装し、その拠点へ潜り込み……グレオサとのやり取りを記録したメモを見つけて回収した。
(グレオサは、エルトルの事を敬虔だと思い込んでいたようね)
 或いは、もはや信仰に関しても正常な判断が働いていないのかも知れない。
 思いながら、エミリアは可能な限りの工作をして――脱出した。

マスターコメント

お疲れ様でした。 周到な準備と計画により、街や他の神徒へ被害等を出さず、エルトルを単独で捕らえる事ができました。 敵方の計画に穴を開けた事により、ナダキアの解放へと大きく近づいた事でしょう。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜8人

2023年05月09日 10時31分54秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. シンディー・ホシカ

    キャスターのシンディーよ。 何も知らない信徒を巻き込まないようにするには、 動く時間帯は「夕刻」だと思うんだけど、どう?

  2. ロゼット

    ヒーラーのロゼットよ。 そうね…不特定多数に目撃されそうな他の時間帯よりは、 ある程度、リスクが分かっている夕刻が考えやすいかもね。 夕刻だと、この2つのタイミングがあるかな。 ・罪人収容所への移動中 ・罪人収容所の巡回中 移動中はウォーリア3人の同行があるけど、無力化できない 人数ではないのと、屋外だから後の離脱がしやすいのが利点かな。 それこそ賊を装って、誘拐というフリでやっても良いかしら。 治安の悪さを利用する形ね。 巡回中はエルトル単独だから、無力化するのは楽ね。 ただ収容所に入って待ち伏せるのか、後から追って収容所に 入るのかの段取り決めと。あと罪人達には目撃されるでしょうから、 彼らに対してどうするのかね。 長のグレオサに怪しまれないために、秘密裏に、もしくは、 たまたま誘拐されたのがエルトルだった、という風に終えないとね。

  3. エミリア・シバ

    シーフのエミリアよ、よろしくね。 何日か時間をかけてもいいようだし、夕刻におけるエルトルの巡回の詳細や襲撃予定場所の選定なんかに少し時間を使って調べたりとかするといいかもしれないわね。 もちろんマスコメにあるように察知されるリスクもあるからじっくりと観察をし続けるのはkびしいかもしれないけれど。 1~2日ぐらい様子を見る時間はあったりしないかしらね?と思っているわ。

  4. シンディー・ホシカ

    シンディーよ。 もし収容所を戦いの舞台に選ぶのなら、囚人達も解放したいわね。 微罪を針小棒大にされて投獄とか、批判的な言動だけで罪人にされたって人がほとんどなようだし。 「仲間を救いに来た者達と争いになって誘拐された」という偽装にもなるかなって。 「犯人は外部から来た冒険者だ」と察知されるのも、できるだけ避けた方がいいのよね?

  5. ロゼット

    早朝、昼、夜半は20人程と一緒に行動しているようだから、 エルトルだけを狙って捕縛するのは、ちょっと厳しいかしら。 夕刻に、罪人収容所への移動中に 4人(エルトルと他3人)でいるところを狙うか。 他の3人は…殺したくはないのだけど、これは悩み中ね。 罪人収容所の巡回中に、エルトル1人のところを狙うか。 罪人には、事情を明かしてしまって後々、違法な罰は 与えないことを条件に、黙っていてもらうか。 無用な血を流さない方針なら、収容所の巡回中が良いのかしら…。 >シンディー >囚人解放 気持ちは分かるけど、ちょっと難しいと私は思うわ。 そこまで人数を大きくしてしまうと、脱出時に発見されそう。 今の段階で冒険者の仕業と察知されるのは避けたいわね。 >エミリア >1~2日ぐらい様子を見る時間 (複数日に渡っても可)とあるから、大丈夫と思うわ。 もちろん無期限に伸ばして良い訳じゃないでしょうけど。 夕刻、移動中にエルトルと他3人が分かれる「近場」の 場所を探っておいて、その場所を狙うというのもありかな。

  6. ルーンス・ラグネル

    ルーンス・ラグネルだよ。 よろしくね。 僕も彼だけを狙っては難しいかと思う。 1人になった所を狙うか、4人でいる所を狙うか。 このどちらかじゃないかと思う。 1人になった所を狙うなら、反信仰者を味方に引き入れた方がいいと僕も思う。 罪人を仕立て上げているなら、その罪人の性質は本来敬虔な信者へと変わってる筈なんだよね。冤罪である可能性だってある。 最終的に釈放させること、反信仰は冤罪(器物破損や暴行などやっていたらそれはそれとして別に考える)であること、ナダキア本来の姿を取り戻すこと(解決後にここ出たかったら希望が通るよう助力する)を条件に今回釈放は無理でもそこに繋がる一手へ協力するよう取引する価値はあるかなって。 4人でいる所を狙うなら、他の3人も捕縛かな。 エクトル捕縛し尋問したとしても彼が本当のことを言っている保証もないので、情報源は少数であれば他にも欲しい。 エルトルはウォーリアであるし、ウォーリアが多いとあるので、他の3人もウォーリアと見ていた方がいいとは思うけど、ウォーリア以外も混じっていたり、(半数が授恵者ともあるので)そもそも授恵者ではない可能性も一応あるね。 シーフは場所的にいないんじゃないかとは思いたいけど、連携されると捕縛の難易度が上がるので、僕としては1人になった所を狙いたいな。

  7. シンディー・ホシカ

    そうね、囚人解放は今回は見送りましょう。 「戦う相手、エルトル一人。でも察知されずに敵地で過ごしながら、動向を探る時間が必要」 「敵地で過ごす時間は短縮されて察知される可能性は低くなるが、複数相手の戦闘になる」 最終的には、どちらのリスクを取るのを決めるってことになりそう。

  8. ラモン

    失礼、顔出しが遅れました。 ラモンと申します。今回もよろしくお願いしますね。 >時間帯 すでに出ているように、私も夕刻がよいかと思います。 1人の時か4人の時か……ですが、個人的には可能であれば4人を捕縛する方針がよさそうに感じます。 『殆どの構成員が、エルトルや神官長の目論見には気づいていない』とありますので、残りの3人についてはその場での説得は難しくても、捕縛後に事情を話して味方側に引き入れる――といった行動も可能かと思います。 ただ、4人とも捕縛する場合は人数によって難易度が跳ね上がるのも事実ですので、現状の参加人数の状態であれば1人の時を狙う、という方針がよいかとも考えています。 >連携について 仮に4人とも捕縛を狙う場合、『エルトルや神官長の目論見』について話すことで、相手側の連携を乱すことも可能なのでは、と思いました。 『侵入者は、基本的に敵とみなす』とはありますので希望論ではありますが、彼らに現状への疑問を投げかけることで、多少なりとも相手側の動きに隙を生じさせることができるかな、と。 >囚人釈放 現状彼らを解放することは難しいですが、ルーンス様の仰るようにこちら側に引き入れることは有用かと思いました。 上手くすれば、口裏合わせなんかも頼めそうです。

  9. エミリア・シバ

    取り急ぎになってしまうけれども。 それじゃあ、おねえさんは、変装やフェイクカバーなどを使って、エルトルの動向そのほかを探るようにして情報を集めてみるわね。 特に「近場」の場所は襲撃するときに重要になると思うから毎回どのあたりなのかとかは確実につかみたいわね。 あとは、夕刻巡回中一緒にいるのが授恵者かどうかっていうのも重要そうだからそこも。 襲撃のタイミングは収容所の巡回中のエルトル一人になった時がいいかなとおねえさんは思ったわね。 理由としては、オープニングからすると3人の中にはベテランもいるようだし、単純に現状の人数だとそもそもの目標の捕縛が難しくなるかしらって思ったわね。 そういえば、ウォーリアーが多いそうだけれど、前に捜波に反応できるか探ったときは反応できてた人もいるから、シューターもしくはシーフが完全にいないとも言い切れないかもしれないわね。

  10. ロゼット

    なら夕刻、罪人収容所を巡回中のエルトルを狙いましょうか。 人数も増える様子はなさそうだし、残りの時間も少ないわ。 >要点まとめ ・夕刻、罪人収容所を巡回中のエルトルを狙う ・牢屋の罪人は冤罪の無効などを条件に口裏を合わせてもらう →「エルトルは収容所には来なかった」で口裏合わせ? ・作戦開始前に準備日(偵察など)を設ける エルトルを収容所で待ち伏せるか、後から収容所に入るかは、 悪いけどエミリアに、収容所の様子も探ってもらえないかしら。 収容所の罪人に口裏合わせは「エルトルは来なかった」で 良いかしら。彼らが余計に疑われるのも申し訳ないし。 エルトルとの戦闘(捕縛)は、1人なら負けないと思うけど、 大声で異変を叫ばれ続けると危ないから、長引くと危険ね。 あと私も作戦開始前に、ナダキア内で動いて良いかしら。 前回、聞き込みで会った区の首長さんに会っておきたいわ。 次回以降に備えて、内部に協力者は居た方が良さそうだし。

  11. カイン・ステラ

    カイン・ステラ、シューターだ。 シューターの手が必要そうかなと思って参加するぜ。 感波を使われている可能性も低くねぇみてぇだし、基本捜波は控えた方が良さそう。 隠密性の高さより栗鼠を出す予定。 収容所の内外を警戒する必要もありそうなんで、この辺りはエミリアの動きと連携した方が良さそうかな。

  12. シンディー・ホシカ

    エルトルが巡回中に一人になった時を狙う。 私もそれで決まりで大丈夫よ。 私は前回に犯罪者達と顔見知りになった縁で、そっちに潜り込んでおくわ。 巡回が手薄になる時とか、やり過ごすコツとかを聞き込んで、エルトルを捕縛した後での脱出ルートも視野に入れての行動をしようかなって。 戦闘ではキャスターとして後方から魔法での援護。 悪影響を与える対個人魔法で、弱体化を図るわね。

  13. ロゼット

    捕縛時、戦闘では前衛にあがって近接戦闘のつもりよ。 私はこれで最後、後は現地で頑張りましょう。

  14. エミリア・シバ

    収容所の様子もね、了解よ。 あとは、エルトルの捕縛がうまくいけばだけれど、フェイクカバーを持っていく予定なので。 エルトルに化けてちょっとぐらいならごまかせるかしら?と考えてるわね。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0