【生祝】肉は焼けば美味い
一乃口
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シナリオID:2932
オープニング
リブラネスタの冒険者ギルドで、アルタラは駆り出された雑務をこなした直後だった。
「やれやれ……肩が凝りますね」
作業に駆り出されたのは昼休憩の直後、窓から見える外の様子は陽が落ち始めている。
重労働であった。
ぐるりと腕から肩を回す、やっと一息つける――そう思った所であった。
「あ、丁度いいですわ」
「……」
嫌な予感がし、アルタラは伏せた顔を上げぬように努めた。
「――えぇ確か、アルタラ様でしたわね?」
カツンと木目を踏む靴音、響く凛とした声に一瞬ロビーに見えた気がするカオ。
(やれやれです)
このまま気付かぬフリで切り抜けようとした所で、引くような性格では無いだろうと予測が立てば諦めも肝心だ。
アルタラはゆっくりと振り返り、溜め息をつく。
その眼前にはパトラ=L=アルアータの姿があった。
「珍しいですね、パトラさん」
「えぇ、仕事もありましたから」
(仕事も、ですか――)
エスト・ポーラの件をここで口に出すのは、無神経だろう。
アルタラは思った事を口に出さずに、事務的に応じる。
「それで、僕に何か用ですか……?」
正直、先方が自分に声を掛けてくるような――そんな要件は見当も付かなかった。
「えぇ、これをお願いしたくて」
羊皮紙にまとめられた内容、文面を見てアルタラは少しだけ身構えて受け取る。
「これは――」
幾つかの用紙を捲り、内容へ視線を通した。
「引き受けてくださるかしら?」
「……えぇ、それは構いませんが」
「助かりますわ、それではよろしくお願いしますわね」
そう言うとパトラは足場やにギルドを後にした。
(……やれやれ、ですね)
その背を見送ると、アルタラは多少の残業を覚悟したのだった。
●
冒険者ギルドに張り出された依頼――いや、参加者募集の掲示が貼られる。
(こう言うのは苦手なんですがね)
張った肩の凝りをほぐすように肩を回すアルタラは、仕事の一区切りに息をつく。
アルタラは個人的に新しい場所を開拓すると言うよりは、行き付けの店や日々をルーティンワークに過ごす人間だ。
今回のパトラからの依頼に対して、アルタラは先方との交渉やらを担う事になり。
正直、結構肩を凝る思いをした。
(……できれば何度もやりたくはないですね)
重なった羊皮紙を眺め、アルタラは再び溜め息をつく。
アルタラがパトラから受け取った羊皮紙。
それはアルアータ商会の代理として、冒険者達が祝える場を準備開催を依頼する内容であった。
「やれやれ……肩が凝りますね」
作業に駆り出されたのは昼休憩の直後、窓から見える外の様子は陽が落ち始めている。
重労働であった。
ぐるりと腕から肩を回す、やっと一息つける――そう思った所であった。
「あ、丁度いいですわ」
「……」
嫌な予感がし、アルタラは伏せた顔を上げぬように努めた。
「――えぇ確か、アルタラ様でしたわね?」
カツンと木目を踏む靴音、響く凛とした声に一瞬ロビーに見えた気がするカオ。
(やれやれです)
このまま気付かぬフリで切り抜けようとした所で、引くような性格では無いだろうと予測が立てば諦めも肝心だ。
アルタラはゆっくりと振り返り、溜め息をつく。
その眼前にはパトラ=L=アルアータの姿があった。
「珍しいですね、パトラさん」
「えぇ、仕事もありましたから」
(仕事も、ですか――)
エスト・ポーラの件をここで口に出すのは、無神経だろう。
アルタラは思った事を口に出さずに、事務的に応じる。
「それで、僕に何か用ですか……?」
正直、先方が自分に声を掛けてくるような――そんな要件は見当も付かなかった。
「えぇ、これをお願いしたくて」
羊皮紙にまとめられた内容、文面を見てアルタラは少しだけ身構えて受け取る。
「これは――」
幾つかの用紙を捲り、内容へ視線を通した。
「引き受けてくださるかしら?」
「……えぇ、それは構いませんが」
「助かりますわ、それではよろしくお願いしますわね」
そう言うとパトラは足場やにギルドを後にした。
(……やれやれ、ですね)
その背を見送ると、アルタラは多少の残業を覚悟したのだった。
●
冒険者ギルドに張り出された依頼――いや、参加者募集の掲示が貼られる。
(こう言うのは苦手なんですがね)
張った肩の凝りをほぐすように肩を回すアルタラは、仕事の一区切りに息をつく。
アルタラは個人的に新しい場所を開拓すると言うよりは、行き付けの店や日々をルーティンワークに過ごす人間だ。
今回のパトラからの依頼に対して、アルタラは先方との交渉やらを担う事になり。
正直、結構肩を凝る思いをした。
(……できれば何度もやりたくはないですね)
重なった羊皮紙を眺め、アルタラは再び溜め息をつく。
アルタラがパトラから受け取った羊皮紙。
それはアルアータ商会の代理として、冒険者達が祝える場を準備開催を依頼する内容であった。
解説
●解説
【1】桜満ちる泉
見頃を過ぎた桜並木が川上にある小さな村。その村では桜の見頃に客は少なく散る頃が見頃な小さな名所。
船着き場で小舟を借り、船の上から花弁に満ちた水上散歩を楽しむことができる。ウォーターウォーク可、水泳は不可能では無い。
舟に乗らずに、泉を囲むガゼボで過ごすのも良いだろう。
【2】居酒屋
知る人ぞ知る、酒場「踊る子熊亭」――から少し歩いた所にある大衆酒場である。
件の酒場ではうっかり上司の陰――話ができない為、冒険者ギルド職員での利用者が多いらしい。
周りを気にせず騒いでも大丈夫だ。名物料理はビーフシチュー。
【3】BBQ
飲んで食べて騒ぐ、外が一番無難でしょう。と場所を備えた。
ある程度の食べ物や飲み物は準備されているが、近くに森もあり『自給自足可』の書き添えがある。
焼いた肉は美味い、冒険者時代の経験が活きている。
【4】リブラネスタ街の散策
今回はエスト・ポーラではありませんが、以前のシナリオのようにプレイングでご指定頂ければ大凡の対応が可能です。
自由に街を散策できる、買い物やデート等、お祝い向けのレストラン等も豊富にご利用頂けます。
マスターより
17度目まして、一乃口です!(五体投地)
エスト・ポーラが大変な事になっていますね。
5月にはそのようなシナリオも、ご提供したい予定です。
今回は冒険者ギルドのアルタラ氏が代理開催をしております。
皆様のご参加、お待ちしております!(五体投地)
リプレイ
リブラネスタから更に移動した、片田舎にある小さな寂れたと言う表現が似合う村だ。
その村では目立つ有名なモノは無いが、この時期に限ってはそうでもない。
それは、上流部の桜が散る事で垣間見える。
この時期だけ観光客の足もある、湖の上には桜の花弁がその湖面を満たしているのだ。
この場所を訪れた御邑 都と御邑 奈月、姉妹の姿もここにある。
時間を少し遡る。
「……」
「月ちゃ~ん」
妹の名前を呼びながら、姉の都が背後から奈月に抱き着いて来る。
「ぁ……お姉ちゃん」
「月ちゃんはお悩み中~?」
流石姉妹と言った感じだろう。都は奈月の顔を見て、何かに迷っている事に気付く。
奈月は小さく頷くと、悩みを姉に打ち明けた。
「行先を迷ってるんだねぇ~。そーかぁー♪ なら僕が決めてあげるよぉ~」
そうして、今この場所を訪れた所だ。
「わぁ……ぁ……~♪」
緋色の瞳を輝かせ、銀髪を揺らしながら奈月は湖の周りをぱたぱたと歩く。
その楽しそうにはしゃぐ妹の笑顔を見て、姉の都も嬉しそうに微笑んだ。
(お姉ちゃんに決めて貰うことにしましたが……大正解な気がします)
湖の近くに見える桜の木は、既に葉桜へと移り変わりつつある。
その木々を見ても、きっととても綺麗な桜が咲いていたのだろうと、奈月は想像をして想い馳せた。
(今度はあの人と一緒に……行きたいな。へへ……♪ 予定がまた増えちゃいました♪)
奈月の表情の変化は、遠くを見て。そして、ウキウキとした笑顔を見せる。
(あ~。恋人さんのこと……かなぁ~?)
その表情の変化から、都はバッチリと推測してみせる。流石姉である。
奈月は姉の視線に気付く、と言うより姉の指が奈月の頬をふにふにとしていたのだった。
その都の顔は、可愛い妹を見てにこにことした笑顔になる。
「な、なんでも……ない、です……!」
そう言うと散歩の続きと、言わんばかりに奈月は歩き出した。
「待って待って~」
嬉しそうに、その後ろを都も追った。
観光地と言うだけあって、すれ違う人も相応に目を引く。
都の茶瞳には、湖の近くにある椅子に座る恋人達の姿も眼に付いて居た。
(散る頃が見頃なのも納得できます。すごく……素敵……です!)
姉との散策を楽しみながら、自然を楽しむ奈月。この場所はお気に入りの1つになりそうだ。
「えへへぇ~♪ 月ちゃん可愛いなぁ~。……この景色はやっぱり恋人さんと見たいよねぇ~」
何時ものように後ろから抱き着くと、都は奈月の頬をつつきながら言う。
「はわぅ?! ……あ、あの人……あの人は……関係ない……ですよ……?!」
見る見ると頬を、耳まで真っ赤にしてしまう奈月を、やっぱり可愛い妹だと都は悪戯っぽく笑う。
図星だったんだろうと、都は思いながら頬をつつくのをやめなかった。
「ちょっと意地悪しちゃったかな~?」
「……あぅ」
ぽんぽんと都に撫でられた奈月、都はそんな妹を見てやっぱり可愛いと思って居た。
「月ちゃん、もっと一緒にお散歩しよー♪」
「う、うん……!」
都に手を引かれる奈月、姉妹は仲良く散歩を楽しむのだった。
●
肉。
職が無くても、肉を食ってればどうにかなる。
等と言う格言があるとか無いとか、そんな話を酔っぱらった年寄りから聞いたことがあるとはアルタラの記憶である。
(さて、とりあえず準備はできましたね)
ゴトと荷物を置き、焼き場等の準備を整えた。
先に会場を訪れ、現地調達に向かった1名を除けば、そろそろ他の冒険者達も訪れるだろう。
伝う汗を拭い、その視線は森へと向いた。
(たまにゃ自給自足も悪くねぇ)
ルイドは獲物の痕跡へ灰と紫玉を至ると所まで走らせる。
森の景観に溶け込めるマントを纏う。
痕跡を探しながら周囲の気配へと神経を巡らせ一歩、また一歩と音を殺して歩いて行く。
(……これは)
足跡。
茂みの下へと続く足跡を、音を立てぬようになぞる。
真新しい糞を見付け、その先を見る。
日向に横たわる、鹿を見付けた。
(この距離なら行けるな)
土読で踏み込む。
一足飛びに間合いを詰めたルイドが手にした明鞘彼誰を構える。
その気配に気付いた鹿が、首を上げるが――もう遅い。
「悪いな」
鹿を殴打する。
鈍い音に押しつぶされる獣の悲鳴が、森に消える。
ジュ――――ッ! と音を立てる炭火の上の肉、肉、肉、野菜は添えるだけ。
煙も多少目や鼻に付くが、それ以上に焼ける肉から迸る肉汁。滴った脂で爆ぜる火の粉が食欲を駆り立てる。
「ん、ぐっ……。ぷはぁー!」
ベルク・オスマットは焼き上がった肉を片手に、片手にエールを持ち交互に食っては飲み、食っては飲んだ。
少し前の事である。
「飲んで食って騒ぐ、それに理由など要るのか? いや、要るまい」
そうキリッとした表情で小女は言っていた。
刃のような雰囲気。その紅眼は迷い無く言って居た。
「美味い!」
むしゃむしゃ。
串に通った肉を、口の端で捕まえれば引き抜いて口の中へと放り込む。
噛むたびに肉汁とタレの旨味が舌の上で踊る。
辛口なタレの風味が残る口内へ、片手に持ったエールを流し込むのだ。
「くぅ! この酒も合う、美味い!」
華奢な見た目の、どこにそれだけの肉や酒が収まるのか。
結構な量を平らげて行くベルク。
割とべろんべろんになりつつある。
さっきまでのクールな雰囲気の人物は何処かに行ってしまったのだろう、漂う煙のように。
「酒と肉の追加だ! まだあるんだろう?」
「えぇ、まぁ」
アルタラは焼いて食う、飲むを繰り返すベルクのもとに追加の肉と酒を運んだ。
「遅いぞ、アルタラ殿!」
何回目だったか、アルタラはもう数えてない。
「……」
早いのはペースの方では? とアルタラは思ったが突っ込まなかった。
冒険者の胃袋を前にすれば、牛一頭くらいは1人で平らげてしまうのでは無いか? そう冒険者ギルドで噂をしていた話を思い出した。
(……減った荷物分より軽ければいいですが)
1人運搬確定だろう、とアルタラは空を仰ぎ見る。
眉間の皺が深度を増す傍らでは、平和なBBQ会が催されていた。
おかん、じゃなかった。カイン・ステラだ。
エプロン姿が似合い過ぎて違和感が無い、おカインにエプロンだ。
今回は『アウトドアでご馳走作れ』とのミッションが、子供達から課せられたと言う。
「BBQ会場だけど、できるだろ」
流石おかん、自信に溢れている。
購入して置いた牛の肉塊に下味を馴染ませる。その間にも幾つかの工程を熟す姿はお――シェフのようだ。
「野営料理の参考にしたくてね」
リクエストに応えてくれた2人にありがとうを、添えながらルーンス・ラグネルは楽しそうに笑う。
なおヴィナスに関しては、カインの料理を観察しながら。
(冒険者向けに野営料理の需要あるだろうし。カインなら難易度別のレシピ本を書けるだろうから、後で話もちかけよう)
とビジネスに思考を一部割いているが、カインの指示を受けながらローストビーフ作りに取り組んでいる。
湯煎と過熱の加減をカインから教わったヴィナスがメインディッシュを手掛け。
(メインは兄貴の方がいいだろ)
と言うルーンスを良く知るからこその、カイン判断だ。
その間にカインはスキレットを使ったパン作りに、サラダ作りと手際がとても良い。
カインの手際の良さを横目に、ヴィナスは自身の調理に集中する。
「ルーンス、調味料を取ってくれないかな?」
「いいよ、どれなの?」
調理をする2人を、ルーンスも少し手伝いながら時間は過ぎて行く。
良い匂いがしてくる度に、ルーンスは待ち遠しく思った事だろう。
BBQっぽさも大事にし、肉や野菜の串焼きも食べ頃になった時。ローストビーフも完成する。
完成した品々が並ぶ。
「うん、美味しいよ。にいさま!」
ヴィナスのお手製ローストビーフを、ルーンスは喜んで食べた。
メイン以外にもパンやサラダ。串焼きの肉と野菜と賑やかなテーブルだ。
「なかなか良い出来だな」
カインもその味に合格点と言った表情で食べて居る、2人を見てヴィナスは安堵し共に料理を食べる。
ルーンスに取っては2人が作ってくれた料理が、この世で何よりも美味しいご馳走になるだろう。
楽しい食事の時間が過ぎて行く。
近くでも肉を焼く香りが漂う、そんな環境で3人は談笑を交え料理を味わって行く。
「そろそろ頃合いだな」
カインはそう言うと保温の工夫をしていた鍋から、ミルクアイスを取り出した。
更に薔薇とラズベリーのコーディアルでアフォガード風に仕上げた、特製デザートを準備して並べる。
「誕生日おめでと、ルーンス」
「ありがとう! カインママ!」
ルーンスからママと呼ばれる事に対し、何時もなら小言を返すカインも今日は流して素直に誕生日を祝う。
「デザートも準備してるとは流石ママ」
「ママじゃないって」
ただし、ヴィナスはダメだった。誕生日じゃないもんな。
デザートを食べ終えた後、ルーンスが淹れたハーブティを3人で飲む。
静かな時間、ルーンスが2人に向かって語る。
「さて、昨年と違い今年の1年はにいさまも加わって準備を進めることができる……実りある1年にしたいね」
「頑張らないとね」
ルーンスの言葉に、ヴィナスも笑顔で頷く。
2人は同じ目標を胸に、その計画の先を見据える。
カインは相変わらず仲の良い兄弟だなと、のんびりとハーブティを味わっていた。
狩りから戻って来たルイドが、適切な処置を難無く終え、肉を捌き終える。
既に肉を焼いている面々とそう遠くない場所で、肉を焼き始めていた。
皮や骨などは、別の使い道もあるだろう。それは一端置いておく。
「うん、美味いな」
自分で獲った獲物、焼き上がった肉を頬張り。そして酒と味わった。
飯と酒への見識は深くなって行く。
魚介も美味いが、肉も美味い。ルイドがそう思って居た所でふと視線が休憩しようとしているアルタラを見付けた。
「……なんか、疲れてんな?」
「…………そうですね」
この男、自分の分の飯を失念していた。
「良かったら肉でも食うか?」
「おや、いいんですか。では頂きます」
ルイドのスタミナ増強仕様の肉料理は、労働を経たアルタラには丁度良かったと言う。
ご馳走様です。
そんな様子を見ていたルーンスも、アルタラの元へ足を運ぶ。
「はい、アルタラさん。差し入れだよ」
「おや、ありがとうございます……ハーブティですか、頂きます」
ルーンスからハーブティを受け取る。
「口に合わなかったら、癒しが必要な方にどうぞ」
「……そうですね、いえ。今は大丈夫でしょう」
アルタラの視線が向いた先に、ルーンスも視線を向けた。
「ぐごぉ――」
寝息を立てて大地に大の字を描く、ベルクの姿が見える。
ついでに炭化した野菜の姿も、空いた酒瓶の数もなかなかにある。
「あぁ……」
流石のルーンスも、その光景に引き笑いであった。
「当分起きないでしょう、あの様子だと」
アルタラはハーブティに口を付ける。ハーブティの薬効は、胃痛にも効いたかも知れない。
片付ける。
それまでやるのがBBQだと、アルタラの残業はもう少し続く。
その村では目立つ有名なモノは無いが、この時期に限ってはそうでもない。
それは、上流部の桜が散る事で垣間見える。
この時期だけ観光客の足もある、湖の上には桜の花弁がその湖面を満たしているのだ。
この場所を訪れた御邑 都と御邑 奈月、姉妹の姿もここにある。
時間を少し遡る。
「……」
「月ちゃ~ん」
妹の名前を呼びながら、姉の都が背後から奈月に抱き着いて来る。
「ぁ……お姉ちゃん」
「月ちゃんはお悩み中~?」
流石姉妹と言った感じだろう。都は奈月の顔を見て、何かに迷っている事に気付く。
奈月は小さく頷くと、悩みを姉に打ち明けた。
「行先を迷ってるんだねぇ~。そーかぁー♪ なら僕が決めてあげるよぉ~」
そうして、今この場所を訪れた所だ。
「わぁ……ぁ……~♪」
緋色の瞳を輝かせ、銀髪を揺らしながら奈月は湖の周りをぱたぱたと歩く。
その楽しそうにはしゃぐ妹の笑顔を見て、姉の都も嬉しそうに微笑んだ。
(お姉ちゃんに決めて貰うことにしましたが……大正解な気がします)
湖の近くに見える桜の木は、既に葉桜へと移り変わりつつある。
その木々を見ても、きっととても綺麗な桜が咲いていたのだろうと、奈月は想像をして想い馳せた。
(今度はあの人と一緒に……行きたいな。へへ……♪ 予定がまた増えちゃいました♪)
奈月の表情の変化は、遠くを見て。そして、ウキウキとした笑顔を見せる。
(あ~。恋人さんのこと……かなぁ~?)
その表情の変化から、都はバッチリと推測してみせる。流石姉である。
奈月は姉の視線に気付く、と言うより姉の指が奈月の頬をふにふにとしていたのだった。
その都の顔は、可愛い妹を見てにこにことした笑顔になる。
「な、なんでも……ない、です……!」
そう言うと散歩の続きと、言わんばかりに奈月は歩き出した。
「待って待って~」
嬉しそうに、その後ろを都も追った。
観光地と言うだけあって、すれ違う人も相応に目を引く。
都の茶瞳には、湖の近くにある椅子に座る恋人達の姿も眼に付いて居た。
(散る頃が見頃なのも納得できます。すごく……素敵……です!)
姉との散策を楽しみながら、自然を楽しむ奈月。この場所はお気に入りの1つになりそうだ。
「えへへぇ~♪ 月ちゃん可愛いなぁ~。……この景色はやっぱり恋人さんと見たいよねぇ~」
何時ものように後ろから抱き着くと、都は奈月の頬をつつきながら言う。
「はわぅ?! ……あ、あの人……あの人は……関係ない……ですよ……?!」
見る見ると頬を、耳まで真っ赤にしてしまう奈月を、やっぱり可愛い妹だと都は悪戯っぽく笑う。
図星だったんだろうと、都は思いながら頬をつつくのをやめなかった。
「ちょっと意地悪しちゃったかな~?」
「……あぅ」
ぽんぽんと都に撫でられた奈月、都はそんな妹を見てやっぱり可愛いと思って居た。
「月ちゃん、もっと一緒にお散歩しよー♪」
「う、うん……!」
都に手を引かれる奈月、姉妹は仲良く散歩を楽しむのだった。
●
肉。
職が無くても、肉を食ってればどうにかなる。
等と言う格言があるとか無いとか、そんな話を酔っぱらった年寄りから聞いたことがあるとはアルタラの記憶である。
(さて、とりあえず準備はできましたね)
ゴトと荷物を置き、焼き場等の準備を整えた。
先に会場を訪れ、現地調達に向かった1名を除けば、そろそろ他の冒険者達も訪れるだろう。
伝う汗を拭い、その視線は森へと向いた。
(たまにゃ自給自足も悪くねぇ)
ルイドは獲物の痕跡へ灰と紫玉を至ると所まで走らせる。
森の景観に溶け込めるマントを纏う。
痕跡を探しながら周囲の気配へと神経を巡らせ一歩、また一歩と音を殺して歩いて行く。
(……これは)
足跡。
茂みの下へと続く足跡を、音を立てぬようになぞる。
真新しい糞を見付け、その先を見る。
日向に横たわる、鹿を見付けた。
(この距離なら行けるな)
土読で踏み込む。
一足飛びに間合いを詰めたルイドが手にした明鞘彼誰を構える。
その気配に気付いた鹿が、首を上げるが――もう遅い。
「悪いな」
鹿を殴打する。
鈍い音に押しつぶされる獣の悲鳴が、森に消える。
ジュ――――ッ! と音を立てる炭火の上の肉、肉、肉、野菜は添えるだけ。
煙も多少目や鼻に付くが、それ以上に焼ける肉から迸る肉汁。滴った脂で爆ぜる火の粉が食欲を駆り立てる。
「ん、ぐっ……。ぷはぁー!」
ベルク・オスマットは焼き上がった肉を片手に、片手にエールを持ち交互に食っては飲み、食っては飲んだ。
少し前の事である。
「飲んで食って騒ぐ、それに理由など要るのか? いや、要るまい」
そうキリッとした表情で小女は言っていた。
刃のような雰囲気。その紅眼は迷い無く言って居た。
「美味い!」
むしゃむしゃ。
串に通った肉を、口の端で捕まえれば引き抜いて口の中へと放り込む。
噛むたびに肉汁とタレの旨味が舌の上で踊る。
辛口なタレの風味が残る口内へ、片手に持ったエールを流し込むのだ。
「くぅ! この酒も合う、美味い!」
華奢な見た目の、どこにそれだけの肉や酒が収まるのか。
結構な量を平らげて行くベルク。
割とべろんべろんになりつつある。
さっきまでのクールな雰囲気の人物は何処かに行ってしまったのだろう、漂う煙のように。
「酒と肉の追加だ! まだあるんだろう?」
「えぇ、まぁ」
アルタラは焼いて食う、飲むを繰り返すベルクのもとに追加の肉と酒を運んだ。
「遅いぞ、アルタラ殿!」
何回目だったか、アルタラはもう数えてない。
「……」
早いのはペースの方では? とアルタラは思ったが突っ込まなかった。
冒険者の胃袋を前にすれば、牛一頭くらいは1人で平らげてしまうのでは無いか? そう冒険者ギルドで噂をしていた話を思い出した。
(……減った荷物分より軽ければいいですが)
1人運搬確定だろう、とアルタラは空を仰ぎ見る。
眉間の皺が深度を増す傍らでは、平和なBBQ会が催されていた。
おかん、じゃなかった。カイン・ステラだ。
エプロン姿が似合い過ぎて違和感が無い、おカインにエプロンだ。
今回は『アウトドアでご馳走作れ』とのミッションが、子供達から課せられたと言う。
「BBQ会場だけど、できるだろ」
流石おかん、自信に溢れている。
購入して置いた牛の肉塊に下味を馴染ませる。その間にも幾つかの工程を熟す姿はお――シェフのようだ。
「野営料理の参考にしたくてね」
リクエストに応えてくれた2人にありがとうを、添えながらルーンス・ラグネルは楽しそうに笑う。
なおヴィナスに関しては、カインの料理を観察しながら。
(冒険者向けに野営料理の需要あるだろうし。カインなら難易度別のレシピ本を書けるだろうから、後で話もちかけよう)
とビジネスに思考を一部割いているが、カインの指示を受けながらローストビーフ作りに取り組んでいる。
湯煎と過熱の加減をカインから教わったヴィナスがメインディッシュを手掛け。
(メインは兄貴の方がいいだろ)
と言うルーンスを良く知るからこその、カイン判断だ。
その間にカインはスキレットを使ったパン作りに、サラダ作りと手際がとても良い。
カインの手際の良さを横目に、ヴィナスは自身の調理に集中する。
「ルーンス、調味料を取ってくれないかな?」
「いいよ、どれなの?」
調理をする2人を、ルーンスも少し手伝いながら時間は過ぎて行く。
良い匂いがしてくる度に、ルーンスは待ち遠しく思った事だろう。
BBQっぽさも大事にし、肉や野菜の串焼きも食べ頃になった時。ローストビーフも完成する。
完成した品々が並ぶ。
「うん、美味しいよ。にいさま!」
ヴィナスのお手製ローストビーフを、ルーンスは喜んで食べた。
メイン以外にもパンやサラダ。串焼きの肉と野菜と賑やかなテーブルだ。
「なかなか良い出来だな」
カインもその味に合格点と言った表情で食べて居る、2人を見てヴィナスは安堵し共に料理を食べる。
ルーンスに取っては2人が作ってくれた料理が、この世で何よりも美味しいご馳走になるだろう。
楽しい食事の時間が過ぎて行く。
近くでも肉を焼く香りが漂う、そんな環境で3人は談笑を交え料理を味わって行く。
「そろそろ頃合いだな」
カインはそう言うと保温の工夫をしていた鍋から、ミルクアイスを取り出した。
更に薔薇とラズベリーのコーディアルでアフォガード風に仕上げた、特製デザートを準備して並べる。
「誕生日おめでと、ルーンス」
「ありがとう! カインママ!」
ルーンスからママと呼ばれる事に対し、何時もなら小言を返すカインも今日は流して素直に誕生日を祝う。
「デザートも準備してるとは流石ママ」
「ママじゃないって」
ただし、ヴィナスはダメだった。誕生日じゃないもんな。
デザートを食べ終えた後、ルーンスが淹れたハーブティを3人で飲む。
静かな時間、ルーンスが2人に向かって語る。
「さて、昨年と違い今年の1年はにいさまも加わって準備を進めることができる……実りある1年にしたいね」
「頑張らないとね」
ルーンスの言葉に、ヴィナスも笑顔で頷く。
2人は同じ目標を胸に、その計画の先を見据える。
カインは相変わらず仲の良い兄弟だなと、のんびりとハーブティを味わっていた。
狩りから戻って来たルイドが、適切な処置を難無く終え、肉を捌き終える。
既に肉を焼いている面々とそう遠くない場所で、肉を焼き始めていた。
皮や骨などは、別の使い道もあるだろう。それは一端置いておく。
「うん、美味いな」
自分で獲った獲物、焼き上がった肉を頬張り。そして酒と味わった。
飯と酒への見識は深くなって行く。
魚介も美味いが、肉も美味い。ルイドがそう思って居た所でふと視線が休憩しようとしているアルタラを見付けた。
「……なんか、疲れてんな?」
「…………そうですね」
この男、自分の分の飯を失念していた。
「良かったら肉でも食うか?」
「おや、いいんですか。では頂きます」
ルイドのスタミナ増強仕様の肉料理は、労働を経たアルタラには丁度良かったと言う。
ご馳走様です。
そんな様子を見ていたルーンスも、アルタラの元へ足を運ぶ。
「はい、アルタラさん。差し入れだよ」
「おや、ありがとうございます……ハーブティですか、頂きます」
ルーンスからハーブティを受け取る。
「口に合わなかったら、癒しが必要な方にどうぞ」
「……そうですね、いえ。今は大丈夫でしょう」
アルタラの視線が向いた先に、ルーンスも視線を向けた。
「ぐごぉ――」
寝息を立てて大地に大の字を描く、ベルクの姿が見える。
ついでに炭化した野菜の姿も、空いた酒瓶の数もなかなかにある。
「あぁ……」
流石のルーンスも、その光景に引き笑いであった。
「当分起きないでしょう、あの様子だと」
アルタラはハーブティに口を付ける。ハーブティの薬効は、胃痛にも効いたかも知れない。
片付ける。
それまでやるのがBBQだと、アルタラの残業はもう少し続く。
マスターコメント
ご参加ありがとうございました!!(五体投地)
4月中にお届け出来なくてすみません。
楽しんで頂ければ幸いです。
イベントシナリオ易しい 報酬:無し7 / 4〜25人
2023年05月01日 17時12分30秒 公開
大成功
相談掲示板
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