【微獄】凶悪なる置き土産

革酎

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シナリオID:2911

オープニング

●領都を襲う奇病
 リーンエス王国の西方に位置するシラー砂漠は今も尚、内地のひとびとにとって脅威であり続けている。
 このシラー砂漠からの外敵侵入を防ぐ為に、防護壁としての役割を果たしているのが西方辺境伯と、その寄り子貴族達だ。
 昨年、西方辺境伯領都はシラー砂漠最大級のバルバロイ組織『太信党』との激戦に於ける決戦地として、凄まじいまでの破壊の嵐に呑み込まれた。
 それから数カ月。
 漸く復興の槌の音が鳴り止み、ひとびとに平穏な日々が戻ろうかという頃――今度は町の内側から、住民生活を脅かす事態が出来した。
 一部の区画で、謎の奇病が突然流行し始めたのである。
 罹患者は最初のうちは高熱や下痢、嘔吐といった症状に数日苦しむだけであったが、或る日突然、全身の皮膚がペースト状に溶解し、程無くして筋肉や内臓がどろどろに崩壊して、最後には血まみれの肉塊と化して無残な死を遂げた。
 進行の早さと脅威的な致死性もさることながら、最大の問題はその伝染性であった。
 最初は数名規模に過ぎなかったが、僅か半月の間にひとつの居住街区を完全隔離しなければならない程の規模へと拡大した。
 事態を重く見た西方辺境伯ルーヴェン・アクファリテは護兵団長ダルヴィン・ケルソーに命じて隔離措置を取る同時に、王都グランスパーダに向けて同様の奇病が他所で広がった形跡が無いかを問い合わせた。
 結果――返ってきたのは王家からの回答ではなく、近衛騎士ジュール・J・ヴェルジーの来訪という奇妙な意思表示だった。
 勿論ルーヴェンは、王家は何かの意図があってジュールを派遣したのであろうと即座に察し、彼を西方辺境伯邸へと招き入れた。

●隻眼の老魔術師、再び
 応接間へと通されたジュールは挨拶もそこそこに、グランスパーダの下町シンバトエ居住街区で起きた同様の奇病拡大と封鎖措置について説明した。
「最初の感染者はラネンターカム陵から帰還したギルド職員か……」
 ジュールからの説明を聞き終えたルーヴェンは、太い腕を組んだまま渋い表情を浮かべ、傍らのダルヴィンに対し、西方辺境伯領都で発生した感染拡大の最初の罹患者の中に、冒険者ギルド職員が居ないかと訊いた。
 既にある程度の情報を収集し終えていたダルヴィンは、確かに該当する者が居ると頷き返す。
「その人物も、先日のイダの刻印除去に於けるラネンターカム陵地下での事後措置を担当していた様です」
「ほぼ決まりですな……ラネンターカム陵地下の調査状況は、どこまで進んでいるのでしょうか」
 ジュールに問われたルーヴェンは、卓上に広げた資料の山の中から、一冊の文書を取り出した。
「恥ずかしながら、完璧に全部を把握した訳じゃねぇな……まだ二割程、調査未完の区域がある」
 それらはいずれも、地下だ。つまり、グランスパーダと西方辺境伯領都のそれぞれで最初の感染者となった冒険者ギルド職員は、知らず知らずに調査未完区域に足を踏み入れ、奇病の原因となった『何か』を持ち帰ってしまった可能性がある。
 かつてラネンターカム陵を本拠地としていた太信党は地上部だけを使用し、地下には一切手を出していなかった。その為、連中がこの奇病に罹患することはなかったのだろう。
 逆に、陵の地下を根城としていたのは――。
「緑の人差し指ラネンターカム……あの女が何か知っている可能性はあるな」
 しかしラネンターカムは現在行方不明だ。エーテル浄化者の力を併せ持つ子吸血鬼セティア・オルストフ伯爵令嬢と共に。
 とんでもねぇ置き土産を残していきやがったと低く毒づいたルーヴェンだったが、その視線はすぐに前を向いた。次に何を為すべきか、彼は分かっていた。
「ラネンターカム陵地下の調査未完区域に手を入れる。ジュール、手伝ってくれるか?」
「その為に、私はここへ参りました」
 ジュールは騎士の礼を以てルーヴェンに応じた。
 この後ダルヴィンは冒険者ギルドへと足を運び、ジュールと共にラネンターカム陵地下の未踏部調査を引き受けてくれる冒険者の募集へと踏み切った。

●天陽師が目指すもの
 老齢の凄腕天陽師蘆屋 外伴(あしや げはん)は、暗闇の中に居た。
 彼もまた、成り行きとはいえこうして再びシラー砂漠に戻ってくることになろうとは思っても見ていなかったが、しかしやるべきことはしっかりと成し遂げなければならない。
 背後にはいくつかの影が静かに蠢いている。いずれも病的に白い肌と異様に膨れ上がった腹を持つ屍の怪物、即ち屍餓鬼共であった。
 蘆屋外伴は更に、二枚の式符を懐から取り出し、闇の中の宙空へと投じた。式符はそれぞれ筋骨隆々の化け物と入れ替わる様にして虚空へ消えた。
 現れたのは牛の頭を持つ式鬼と、馬の頭を持つ式鬼が一体ずつ。屍餓鬼共と合わせると、結構な戦力だといえるだろう。
「さて……冒険者よりも先に回収したいところじゃが、果たしてそう上手くいくかどうか」
 低く呟いた蘆屋外伴は二体の式鬼と屍餓鬼の群れを率いて、ひんやりと頬を撫でる冷気の中へと、石段を下りて行った。

解説

状況:  PCの皆様はリーンエス王国西方のシラー砂漠へと足を運び、西方辺境伯ルーヴェン・アクファリテからの依頼でラネンターカム陵地下へと足を踏み入れたところからスタートして頂きます。  星形の巨大ピラミッドは地上部は全て踏破されていますが、地下はまだ二割程が未調査です。この未調査区画内を隈なく調べ、王都グランスパーダと西方辺境伯領都でほぼ同時に発生した謎の奇病の原因に繋がる手がかりを探して下さい。  ラネンターカム陵地下に潜んでいた魔獣やアンデッド、クリーパー等は既に討伐済みですが、謎の奇病発生にメドゥの指先やそれに類する組織の関与も疑われる為、戦闘発生の可能性が考えられます。 敵:  天陽師の蘆屋外伴、及びその配下として行動する屍餓鬼、式鬼が襲い掛かってきますが、スタート時点ではその存在は認知されておりません。  接敵して初めて敵の規模や実力が分かるという幾分不利な状況です。  PL情報として開示出来るのは、以下の通りです。  ・蘆屋外伴 熟練冒険者が数名がかりでやっと互角に戦える強敵。  ・屍餓鬼 獰猛で俊敏な食屍鬼。十数体程度がラネンターカム陵地下に侵入済。  ・式鬼 牛頭と馬頭がそれぞれ一体ずつ、ラネンターカム陵地下に侵入済。 NPC:  王国騎士団近衛隊のジュール・J・ヴェルジーがEXCとして登場する他、NPCとして西方辺境伯ルーヴェン・アクファリテ、護兵団長ダルヴィン・ケルソー辺りが登場する可能性があります。

マスターより

 皆様、こんにちは。  連作【微獄】の第二回OPをリリース致します。  今回も、EXCのジュール・J・ヴェルジーさんをお借りしています。  さて前回は王都グランスパーダが舞台でしたが、今回からは再びのシラー砂漠です。  辛うじてパンデミック寸前で踏みとどまっている現状ですが、このまま放置していてはいずれ大きな災厄にも繋がりかねないので、是非奇病の原因に繋がる手がかりを見つけて下さい。  それでは、ご縁があればご参加のご検討宜しくお願い致します。

リプレイ

●再び、ピラミッド地下へ
 嫌な臭いが、冒険者達の鼻腔を衝いた。
 黴か、砂埃か――或いは乾いて凝り固まった血か。
 灼熱の外気からは考えられぬ程にひんやりとした地下の空気は、謎の奇病の手がかりを求めて訪れた冒険者達を、奇妙な拒絶感を覗かせながら静かに迎え入れた。
 リーンエス王国西方に位置するシラー砂漠内の一角。上空から見れば星形を模る巨大なピラミッド、その名もラネンターカム陵。
 その地下部へと足を踏み入れた冒険者達と、そして近衛騎士ジュール・J・ヴェルジー。
 敵らしい影はまだどこにも見えぬというのに、ねっとりとまとわりつくような闇は頭上から覆い尽くすかの如き圧迫感を押し付けてくる。
「さて……それじゃあ行こうか」
 索敵と調査を兼ねて、キオルティスが集団から僅かに先行した。その左右には、ハヤト=ガラン=ヴォルファングとベルク・オスマットが立つ。
「仮にもギルド職員が、原因になりそうなものについて報告しとらん。ということは、あからさまな毒物の類ではないと見た方が良さそうか」
 ゆっくりと歩を進めながら、ベルクが思案顔で腕を組んだ。
 奇病の原因となり得るものが最初から異形の存在であれば、そもそもギルド職員は近づこうともしなかっただろう。だが現実に、彼らは奇病を知らずのうちに持ち帰ってしまった。これは即ち、一見しただけでは奇病に繋がる印象が欠片にも感じられなかったことを意味する。
「さ~て、鬼が出るが蛇が出るか……?」
 一方、ハヤトは余り細かくは考えていない様子。どの道、奇病の原因も正体も今の時点では分からないのだから、考えても仕方が無いと割り切っているのかも知れない。
 やがて三人は、ふた手に分かれて散っていった。自らの得意とする探索技術と索敵能力を最大限に活かして、必ずや何らかの手がかりを得るという強い決意を滲ませつつ、闇の中へと消えてゆく。
 先行する調査組三人にやや遅れる形で、五人の冒険者達と近衛騎士ジュールは前後に警戒の視線を走らせながらゆっくりと歩を進めていった。
「お爺様……今回も天陽道が絡んでいると思われますか?」
 何となく予感めいたものを覚えて、ジュスト・ヴェルジーが祖父ジュールに訊いた。
 ジュールは正面に視線を据えたまま、僅かに頷き返す。
「シンバトエ居住街区周辺で、天陽道の間者らしき姿を確認している。奴らが今回の件に絡んでいる可能性は、決して低くは無かろう」
 低い声音に小さく反応したのはジュストではなく、その傍らで黙然と唇を噛み締めていたローザリカ・L・ディオールだった。
 ローザリカはシンバトエ居住街区で、己の非力さを思い知らされた。
 奇病に蝕まれた挙句、無残な最期を遂げた老夫婦。ローザリカはあのふたりを助けることが出来なかった。
 涙が出る程に、悔しかった。もう二度と、あの様な悲劇を繰り返してはならないと自らにも誓った。ところがその元凶にまたもや天陽道が関わってきているとなれば、今度こそ借りを返さなくてはならぬという決意めいた思いが湧き起こりつつある。
 過日、天陽師蘆屋 外伴(あしや げはん)と接近戦に及び、力と力の戦いで僅かに屈せざるを得なかったという事実がある。今度こそあの老人に勝ちたいという思いと、謎の奇病を必ずや根絶してみせるという決意が、今のローザリカを衝き動かしているといって良い。
 そんなローザリカの半ば暗鬱にも近しい思いに、ジュストは危惧を抱いていた。
「ロゼ、余り気負い込まない方が良い」
「それは……分かってるさ」
 心配そうな色を覗かせるジュストに応じながら、しかしローザリカは表情を一切変えなかった。

●現れた仇敵
 天陽道が絡んでいるかも知れない――その予想は、思った以上に早い段階で的中する格好となった。
 イダの刻印除去の為にゴブリン達が滞在していた地下の一室。その内壁や石床をつぶさに調査していたコルネリウス・アーラの前に突如、牛の頭を持つ巨大な人影が姿を現したのである。
 その巨漢が式鬼の牛頭であることは、すぐに分かった。
「ここに式鬼が現れたということは……」
「偶然とは思えないわね。タイミングが良すぎる」
 コルネリウスの言葉を受けて、ロゼットも戦闘態勢に入りながら後方のジュールに視線を流した。
 式鬼だけが単独で行動しているとは考えづらい。必ず、この式鬼を放った術者がどこかに居る筈だ。或いは、目の前の牛頭は自分達を足止めする為の囮役なのかも知れない。
「こちらにも、敵が!」
 ルアンナ・ミュラーが少し離れた位置で鋭く叫んだ。
 見ると、彼女の間合いの中に馬の頭を持つ式鬼、即ち馬頭が腰を落として身構えていた。
 牛頭にしても馬頭にしても、一体だけでもかなり手強い相手だ。それが二体同時に現れたということは、この石室内で冒険者達の主力班を必ずや足止めしてみせようという意図が垣間見える。
 であれば、矢張り調査は継続して進めるべきだろう。
「馬頭相手の盾役は、僕に任せて貰おう!」
 たったひとりで牛頭を相手取っているコルネリウスは、流石に馬頭までは手が廻らない。そこでローザリカが麗花傘を構えて馬頭の真正面に立ち塞がる。これでジュストが魔法攻撃に専念出来れば、何とか形にはなるだろう。
「お爺様は行って下さい。敵の狙いが足止めであるなら、お爺様の調査技術を活かすことは敵の意図を砕くことに繋がります」
「……よし、分かった。お前達も無理はするな」
 ジュールは孫からの申し入れを素直に受け入れた。そのジュールには、ロゼットが同行を申し出る。ジュールひとりでもベルクやキオルティスと合流すれば十分な調査能力を発揮することが出来るだろうが、そこにロゼットが加わることで、更にジュールの調査力を身近で守り通すことが可能となるだろう。
「頼んだわよ、皆……さぁジュール、行きましょう」
「うむ。キオルティスは兎も角、ベルクが心配だな」
 頷き返しつつ、ジュールはロゼットと肩を並べて石室を飛び出していった。
 残った面々は他に襲い来る敵が居やしないかと警戒の念を張り巡らせつつ、二体の式鬼との戦闘に突入。
「ローザリカさん! まずは派手に一発ぶちかまします!」
 ルアンナの叫びを受けて、ローザリカは防御態勢を取ったまま素早く後退した。と同時に、馬頭の頭上空間で爆発的な衝撃波が炸裂した。
 馬頭はぐらりと上体を揺らしたが、しかし斃れるには至らない。恐ろしい程の耐久力を見せて、ローザリカめがけて突進し始めた。
 ところがそこへ、横合いから弾丸の如き勢いで突撃してくる影があった。
 ハヤトだった。
「うるぁ! てめぇの相手はこの俺だ!」
 目にも留まらぬ速さで繰り出される刃の連撃に、馬頭も堪らず後退を余儀なくされた。式鬼も魔獣の一種ではあるが、戦術的な思考が可能な程度の知能はある様だ。
 その隙を衝いて、ジュストが稲光の連鎖を走らせて馬頭の動きを封じた。
「同じ威力がもう一撃……これなら、どうだ?」
 次いでジュストが放った圧倒的な破壊力を誇る衝撃波が、馬頭に襲い掛かった。流石にこれは効いたらしく、下半身がぐらりと揺れた。
 このまま一気に押し切れるかも知れない――咄嗟に判断したジュストはルアンナとタイミングを合わせ、膨大な潮流の如きエーテル波動の破壊波を叩き込むべく、術式発動の態勢に入る。
 一方、牛頭を相手にたったひとりで奮戦していたコルネリウスは、盾を駆使した守りで徹底的に防御に徹し、ひたすら牛頭を自身に引き付けることに専念していた。
「馬頭が片付けば、つぎはこちらの番です。それまでは、例えひとりででも封じ込めてみせます」
 コルネリウスの守りの硬さは最早定番中の定番といって良い。事実、恐るべき強敵である筈の牛頭を相手に廻しても単独でその動きを封じることが出来ていた。
 他の面々が馬頭を撃破するまで、十分に持ち堪えることが出来るだろう。
(ひとりでも多く、これ以上犠牲者が増えない様に……奇病の原因、必ず見つけましょう)
 そんなことを考えながら、コルネリウスは牛頭の強烈な拳撃を盾で受け続けた。

●ふたつの名前
 石室を抜け出したジュールとロゼットは、まずベルクとの合流を優先させた。
 現在のベルクの体調は万全とはいえず、仮に敵と遭遇すれば命を落とす危険性もあったからだ。そのベルクとは数分もしないうちに、合流を果たすことが出来た。
 ベルク自身も己が戦いでは足を引っ張ることを重々承知しており、己の行動範囲を事前に知らせておいた。賢明な判断といえるだろう。
「以前来た時には余り気にもかけなかったが、古文書の様なものが色んなところに隠されておったぞ」
 ベルクがほぼ一冊の書物に匹敵する量の古文書を差し出すと、ロゼットは早速、西方辺境伯邸から借り受けてきた古代の砂漠民の文字情報たる字換表と照らし合わせてみた。
 大半はこのラネンターカム陵周辺で生じた様々な出来事の記録程度のものであったが、中にひとつだけ、病に関する記述が見受けられた。
 神代の頃から存在する謎の病で、これに罹患すると全身の肉が爛れる様にして崩れ、やがて肉片となって知を迎えると記されている。
「ところで、また天陽道の式鬼が現れたのか」
 ベルクの問いかけに、ロゼットとジュールは渋面のまま頷き返す。今は牛頭と馬頭だけだが、他にも潜んでいる可能性はあった。
 と、そこへキオルティスが足早に歩を寄せてきた。その面が緊張に彩られている。
「屍餓鬼……といったか。腹が膨れたアンデッドの群れが、この先の通路に充満していたよ」
 曰く、その数は十数体程度だが、もしあの集団にベルクが遭遇していれば非常に拙いことになっていたかも知れない。
 だがキオルティスの分析によると、屍餓鬼の群れは積極的にこちらの動きを探るというよりも、防衛線の様な形で一カ所に居座っている様にも見えたとの由。
 或いは、その先に何かがあるのかも知れない。
「屍餓鬼が十数体程度なら、私ひとりで何とでもなる。ひと当て、してみるか」
 ジュールの提案を受け、一度はキオルティスの案内で件の通路へと向かった。
 見ると、確かに屍餓鬼の群れが闇の中で蠢いている。が、それらは全て、ジュールの放った轟然たるエーテル波動の破壊波で一掃することが出来た。
 それらの屍の上を通り抜けて、キオルティスとベルクが更に奥へと進むと、赤死の間と記された狭い石室に辿り着いた。
 そしてそこで彼らが見たのは――天陽師、蘆屋外伴の姿だった。
「ぬぅ……近衛騎士殿に冒険者までもが……牛頭と馬頭は、何をやっておるのか」
「貴方がここに居るということは……王国の奇病は、ラネンターカムの仕業ということかしら」
 ロゼットは蘆屋外伴の長身を見るなり、光の柱での封じ込め策に出ようとした。が、蘆屋外伴もロゼットの手の内は理解しているらしく、ロゼットが術式発動に入るよりも早く、灼熱の劫火の壁を双方の間に走らせた。
 そして冒険者達が拙い、と思った次の瞬間には、老獪なる天陽師の姿はもうそこには無かった。
「……随分、あっさり逃げたな」
 強敵に遭遇したことで内心で肝を冷やしていたベルクだったが、蘆屋外伴の想定外の遁走に拍子抜けした顔を見せていた。
 その間もキオルティスは、一見すると瓦礫やガラクタだらけの石室内を細かくチェックしている。彼はその凄まじいばかりの捜索能力を駆使して、普通であれば見逃してしまうであろう幾つかの痕跡を発見した。
「破壊された壺らしきものがある……破片を組み合わせると、ふたつ分になる様だが」
 壺の破片は合計、二組。掻き集めてみると、その表面に何らかの文字が描かれていたことが分かった。
 いずれも古代の砂漠民が使用していた文字だ。早速ロゼットが字換表と照合してみた。
「サキスロームとゾルケナラ……何かの名前かしら?」
 小首を傾げるロゼット。
 その傍らでジュールが、水袋を開いて赤い液体を壺の破片に垂らしていた。それは、ローザリカが用意していた彼女自身の血液だった。
 ジュールの作業の様子を傍らで眺めていたベルクとロゼットは、喉の奥で驚きの声を漏らした。
 ローザリカの血液を垂らした壺の破片表面で、変化が生じていた。何か、微細な物が動いている。それはシンバトエ居住街区の遺体安置所で目撃した、血肉の塊と化した遺体表面上に居た何かと酷似していた。

●再び王都へ
 牛頭と馬頭を撃破したコルネリウス、ルアンナ、ジュスト、ローザリカ、ハヤトの五人は、赤死の間から引き返してきたジュール、ベルク、ロゼット、キオルティスらと合流し、奇病の原因と思われる微細な『何か』がこのラネンターカム陵地下にも存在している事実を知った。
 そして今はそれだけで充分であるとして、西方辺境伯領都へと引き返した一行。
 彼らは西方辺境伯邸の応接室に通され、席を与えられた。
 そこで西方辺境伯ルーヴェン・アクファリテに事の次第を報告すると、ルーヴェンはそういえばと何かを思い出した様子で、護兵団長ダルヴィン・ケルソーから一枚の文書を受け取った。
 そこには王都グランスパーダにある魔術研究部署のひとつに、ある古文書の解析を依頼したという記録が記されていた。
 その古文書に出てくる文言に、サキスロームとゾルケナラのふたつが含まれていたというのである。
「結果の方は、もう受け取っておられるのですか?」
 コルネリウスの問いに、ルーヴェンはまだだとかぶりを振った。が、時期的にはもうそろそろ結果が出ていてもおかしくはないだろうという話だった。
 だが、もし蘆屋外伴がサキスロームとゾルケナラなる謎の存在を探していたとすれば、王都の魔術研究部署が危ない。天陽道に狙われる危険性は十分にある。
「まずはその解析結果を入手する必要がありますな……私はすぐにでも王都に引き返します」
「じゃあ、俺も行こう。実際に自分の目と耳で結果を知りたい」
 応接室の椅子から腰を浮かせたジュールに続いて、ルーヴェンも立ち上がった。
 天陽道はまだルーヴェンが魔術研究部署に古文書の解析を依頼した事実は知らないだろうが、それもいずれは突き止められるだろう。
 連中に知られる前に、解析結果を受け取る必要があった。
「ラネンターカムは、そのサキスロームとゾルケナラなる存在を知っていたのでしょうか?」
 ジュストの問いかけに、ルーヴェンは渋い表情で頷き返した。
「恐らくはな……長いこと、あのピラミッドの地下に引き籠ってたんだ。誰よりも一番詳しいだろうぜ」
 こうして、舞台は再び王都グランスパーダへと移る。
 天陽道よりも先に、唯一の手掛かりを押さえる為に。

マスターコメント

 皆様お疲れ様でございました。  西に行ったり中央に戻ったりと中々忙しいですが、確実に真相には近づきつつあります。  今回はジュールさんを無駄に強敵との戦闘に巻き込ませなかったのが勝因といって良いでしょう。賢明な判断でした。  それでは、機会がございましたらまた宜しくお願いします。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2023年04月22日 12時25分23秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ベルク・オスマット

    すまない、本当にすまない。 シーフのベルクだ。 先日帰ってきた依頼で重体になってしまったので索敵と調査ぐらいしか役に立てそうにない。 本当に申し訳ない。。。

  2. ロゼット

    ヒーラーの神官戦士ロゼット、参加したわ。 ベルクはお大事に。戦闘依頼に連続で入ってると怖いわね。 私も難易度のキツそうな依頼の、結果予定日を見直したわ。 依頼の内容としては、未調査区画内で(奇病の原因)調査と、 途中で遭遇するだろう蘆屋外伴達との戦闘で良いのかしらね。 敵の存在はPL情報だから、索敵が大事になりそう。 蘆屋外伴はシノビ出身、暗闇で姿を隠すなんて得意でしょうし。 隠れるのに向いてなさそうな屍餓鬼や式鬼を先にけしかけて、 外伴は暗闇から隙をついてくるって戦術もありそうかなって。

  3. ジュスト・V・ケレス

    キャスターのジュストだ、よろしく。 ベルク殿はお大事にね。 今回は交戦も予想されるけれど、未調査区域の調査が肝要だし索敵などで助力頂けるのは大いに助かるよ。 ロゼット殿が触れてくれているけれど、多分式鬼で冒険者の足止めをしている間に蘆屋が奇襲を仕掛けてくる、もしくは完全にPL情報だけれど冒険者を出し抜いて何かを回収しようとしているように見受けられるね。 式鬼達に襲われた場合、交戦する面々と調査や索敵などを継続して行う面々に別れても良いかもしれないと思ったよ。

  4. ローザリカ・D・ケレス

    ヒーラーのローザリカ、よろしく頼もう。 ……なんとしても奇病を食い止めるために、手がかりは必ず見つけなければ。 ベルク君はお大事に。 あまり無理はせぬよう、索敵を頼りにさせて貰えたら助かるよ。 地下の未調査部分は2割程度とのことだしとんでもなく広いわけではなさそうか。 その範囲を隈なく調べる必要があるが、不測の事態や敵の存在が危ぶまれる…… ロゼット君が示唆してくれたような戦法に警戒する為にもある程度固まって動き、 分かれるにしてもジュストが挙げたような分け方で2班くらいが良さそうに思ったかな。

  5. ルアンナ・ミュラー

    キャスターのルアンナです、よろしくお願いします。 ベルクさんはお大事にして下さいね…! 私は調査よりは戦闘の方に重点を置いた行動になると思います。

  6. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! ベルクは無理すんなよ? 戦闘になったら任せとけ♪ 蘆屋外伴の野郎が出張ってやがるとなると地下にはやっぱり何かあると踏んでまず間違いはねぇだろ。 向こうが戦闘を仕掛けて来たら応戦組と外伴の同行に注意しつつ調査に向かう班に分けるって案にも賛成だぜ!

  7. ロゼット

    屍餓鬼は戦闘以外は無理そうだし、式鬼なしで私たちの 足止めになると敵も思わないでしょうから展開としては。 A: 遭遇戦で蘆屋外伴を含む全部と戦闘になる 蘆屋外伴が目的(回収)を終えているかは不明 B: 遭遇戦で屍餓鬼と式鬼だけ(足止めに)現れる 蘆屋外伴は目的(回収)のために別行動してる こんな感じかな。 Aの時は、全員で迎撃かしら。 Bの時は、敵の足止めに対応しつつ、外伴への対抗に ジュールさんと他に誰かをつけた班分けで調査続行かしら。 >ラネンターカム陵地下 あと以前、ラネンターカム陵地下の調査に参加したのだけど、 怪物の他にトラップの類も残っていたわ。もしベルクや他に、 罠発見が可能なら、行動に少し入れてもらえたら。

  8. コルネリウス・アーラ

    遅くなりましてすみません。ウォーリアのコルネリウスです。 ベルクさんはお大事にしてくださいね。 おおまかな予測としてはロゼットさんが挙げてくださっている認識でよさそうですね。 Bで班が分かれる場合は2班という方針で異論ありません。この際は、私は調査よりも戦闘の方重視で動く予定になりそうです。

  9. ジュスト・V・ケレス

    俺もAなら全員で迎撃、Bなら二班に分かれるという認識だね。Bの調査班の方はお爺様と、最低でもシーフ一人は欲しいかな。 ちなみに俺は交戦の方に注力しようかと考えていたけれど、調査が手薄過ぎるようなら調査の方へ加わるよ。 交戦用には対個と対群両方のスキルを用意していくけれど、屍餓鬼が存在している時は屍餓鬼を優先して対応しようかな、と。 汎用で一つは看破を持っていく予定だから、罠の類には可能な範囲で注意するつもりではある。 あとは奇病の原因となった『何か』についても、交戦開始までは手掛かりを掴めるように努めたい。 一応エンライトも持ち込み予定だよ。

  10. ベルク・オスマット

    方針は了解した。 >罠 承知した、シーフツールと罠解除を持っていこう。暗視が持っていけないから光源も持っていくか。

  11. ロゼット

    ルアンナとコルネリウスが戦闘側の希望ね。 ベルクは今回は安全第一にしてもらうとして。 >Bの展開だった時 私は戦闘、調査どちらでも合わせるわ。 ローザリカの気持ちにもよるけど、調査側に入りましょうか? (王国のことなので心情的に自分が、とかあれば遠慮なく) 索敵とかは平凡だわ。外伴と鉢合わせた時にジュールさんを 回復・強化で支援したり、光縛封で少し時間稼ぎしたりかな。 時間を稼げば、勝った戦闘班が追い付いてきてくれそうだし。 戦闘班だと、屍餓鬼を攻める前衛か、式鬼から守る前衛ね。 式鬼には1度潰されたこともあるし、式鬼に再戦しようかな。 汎用技能としては、暗視、看破ぐらいは覚えているわ。

  12. キオルティス

    シーフのキオルティス。顔出しが遅くなってしまって申し訳ない。 とりあえず、担当希望として。 俺はBになった場合は調査に行こうかと思っているよ。 ベルクさんのみでの索敵/罠解除でも良いとは思うけれど 多角的に行うならば、もう1人位はシーフが居ても良いかな、と。 もし調査に向かうなら、宗波で索敵及び内部構造の把握と 罠解除は必携で行くよ。

  13. ローザリカ・D・ケレス

    班分けとその流れなど承知した、異論もないよ。 >ロゼット君 申し出ありがとう。 調査はあまり得意な性質ではなくて、君を頼りに出来ればとても心強い。 調査側、お願いしてもいいだろうか。 >自身の行動 暗視と、接敵に気付くための超聴覚あたりを持っていこうかな。 班分け時は戦闘班へ。回復手段の他は近接戦闘の予定になるよ。

  14. ロゼット

    Bの展開、式鬼と屍餓鬼だけと戦闘になった場合は、 ジュールさんと私とキオルティス、ベルク(索敵・調査専念)で 先に進んで、蘆屋外伴より先に奇病の原因を抑える。 あくまで展開予想のひとつだけど、これで良いかしら。 >ローザリカ 了解したわ。この展開になった場合は、原因を抑えてみせるわ。

  15. ジュスト・V・ケレス

    Bの場合キオルティス殿とロゼット殿も調査班として動いて蘆屋より先に奇病の原因を抑えて貰うので異存ないよ。 俺は調査組の安全確保の方に専念させて貰うね。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0