想い出のブラコン
おおくまねこ
コメント 2
シナリオID:2908
オープニング
●
「今日は冒険者の皆様に依頼を持ってきましたわ!」
久々に王都の冒険者ギルドに姿を現した自称「商家の娘、メイ」(メアリー・リーンエス)はハイテンションに叫んだ。彼女の隣には冒険者の知人が多い学園生のマリリン・クリニエーラと、下級生と思しき黒髪の少女もいる。メアリー王女はニコラ侯爵との戦いで重傷を負い、しばらく安静にしていたそうだが、もうすっかり元気なようだ。
「冒険者の皆さん、初めまして。私は都市伝説研究部員のユリアです。今回の依頼人です。 マリリン先輩とメイさんに相談したら、ここに依頼を出すのがいいと聞きました」
三人娘の中で一番若い少女、ユリアはぺこりと頭を下げた。どうやら彼女はメアリー王女の正体については知らない模様。メアリー王女はユリアの後ろで人差し指をぴっと立て、冒険者達にウインクを送った。
「皆さんは『ブラコンの幽霊』のウワサをご存じでしょうか?」
なにそれ。ブランコの幽霊じゃなくて?
「この王都グランスパーダの郊外に、古い大きなお屋敷があります。なんでも、始まりの百家に連なる名のある貴族が住んでいたそうですが、流行り病で家系が途絶え、今では住む者がいなくなってしまったのだとか……」
ユリアは顔をライティングの紋具で照らし、おどろおどろしい雰囲気たっぷりに幽霊屋敷のウワサについて語り始めた……。
●
「そのお屋敷には、とても美しい子供の幽霊が出るのだそうです。そして、その幽霊には生前とても仲の良い『きょうだい』がおり、将来は『きょうだい』と結婚する気でさえいたとか。ちょっとアレな話ですが、昔の貴族ならまあ、ギリギリアリかなあ、というラインです。隣の国でもそういうお話、ありますし。こほん。あ、ちなみに『きょうだい』とぼかしているのは、幽霊の性別がわからないからです」
(ユリアちゃん……。あなたの後ろに立ってる方、その隣の国の方と縁談の噂があるのですわよ……『近親婚とかドン引きですよね』とか口走らなくて本当によかったですわ!)
メイの正体を知っているマリリンは頑張って笑いを堪えていた。
「『きょうだい』に強い未練をもった幽霊の子は、その未練から、現世に今もとどまり続けているのだそうです。そして、その幽霊は不思議な力をもっているそうです。それは……屋敷を訪れた人たちを、『きょうだい』に変えてしまう呪いです」
ユリアはそこで一度言葉を切り、息継ぎをした。
「屋敷に訪れた人はなぜか、自分をその子の『きょうだい』だと錯覚してしまうそうです。幽霊は屋敷を訪れた人に危害は加えてこないそうですが、屋敷に入った人たちは例外なく『きょうだい』だと錯覚し、その子と一日中遊んでしまうそうです。中には時々、屋敷に入った人同士で『きょうだい』だと思ってしまうケースもあるのだとか。侵入者同士が特に親しいと、その洗脳バグみたいな現象が起こりやすいそうです」
ゴクリ。ユリアの恐ろしい発言に冒険者達は息をのんだ。なんて恐ろしい能力なんだ……。羞恥プレイ待ったなしでは? あと、雰囲気的にメアリー王女がそのままついてきそうな気配なのも脅威である。
「まあ、わたくしはそんな洗脳になど引っかからないでしょうけど、用心は必要ですわね」
メイは髪をかき上げながら、盛大にフラグを立てた。
「現在ではその屋敷は時折肝試しに王都の人達が遊びに行く隠れ観光スポットになっているそうです。都市伝説研究部としては、真相をぜひ確かめたいです。皆さん、一緒に遊びに行きませんか?」
ユリアの言葉に、冒険者達はしばし考えた。
●
冒険者達が門をくぐり、屋敷の中に入ると、空中から滲み出るように、銀色の髪の美しい子供が出現した。髪は短めで、性別は男の子にも女の子にも見える。
「わあ、今日はずいぶん、たくさんの人が遊びにきてくれました」
幽霊はにっこり笑うと、ふわふわと宙を漂い、冒険者達の前に顔を近づけてきた。
「あなたは、わたしの『きょうだい』ですか?」
問いかけと共に、幽霊の紫色の瞳が妖しく輝いた。
「ハッ! そういえばわたくしには二人のお兄様がいた気がしていましたが、もっとたくさんいた気がしましたわ! そして、わたくしは末っ子ではなく、妹と弟もいたような……!」
「メイ様! 実は私も、今日まで末っ子だと思っておりましたが、生き別れのお姉様やお兄様がいたような気がしますわ……!」
「実は私も……あの子はきっと私のお姉ちゃんです!」
突然、秘めたる願望をのたまいだすメアリー、マリリン、ユリア。その時、冒険者の脳内にも「きょうだい」とのハートフルな記憶が溢れ出した! 幽霊のウワサは真実だったのだ!
「今日は冒険者の皆様に依頼を持ってきましたわ!」
久々に王都の冒険者ギルドに姿を現した自称「商家の娘、メイ」(メアリー・リーンエス)はハイテンションに叫んだ。彼女の隣には冒険者の知人が多い学園生のマリリン・クリニエーラと、下級生と思しき黒髪の少女もいる。メアリー王女はニコラ侯爵との戦いで重傷を負い、しばらく安静にしていたそうだが、もうすっかり元気なようだ。
「冒険者の皆さん、初めまして。私は都市伝説研究部員のユリアです。今回の依頼人です。 マリリン先輩とメイさんに相談したら、ここに依頼を出すのがいいと聞きました」
三人娘の中で一番若い少女、ユリアはぺこりと頭を下げた。どうやら彼女はメアリー王女の正体については知らない模様。メアリー王女はユリアの後ろで人差し指をぴっと立て、冒険者達にウインクを送った。
「皆さんは『ブラコンの幽霊』のウワサをご存じでしょうか?」
なにそれ。ブランコの幽霊じゃなくて?
「この王都グランスパーダの郊外に、古い大きなお屋敷があります。なんでも、始まりの百家に連なる名のある貴族が住んでいたそうですが、流行り病で家系が途絶え、今では住む者がいなくなってしまったのだとか……」
ユリアは顔をライティングの紋具で照らし、おどろおどろしい雰囲気たっぷりに幽霊屋敷のウワサについて語り始めた……。
●
「そのお屋敷には、とても美しい子供の幽霊が出るのだそうです。そして、その幽霊には生前とても仲の良い『きょうだい』がおり、将来は『きょうだい』と結婚する気でさえいたとか。ちょっとアレな話ですが、昔の貴族ならまあ、ギリギリアリかなあ、というラインです。隣の国でもそういうお話、ありますし。こほん。あ、ちなみに『きょうだい』とぼかしているのは、幽霊の性別がわからないからです」
(ユリアちゃん……。あなたの後ろに立ってる方、その隣の国の方と縁談の噂があるのですわよ……『近親婚とかドン引きですよね』とか口走らなくて本当によかったですわ!)
メイの正体を知っているマリリンは頑張って笑いを堪えていた。
「『きょうだい』に強い未練をもった幽霊の子は、その未練から、現世に今もとどまり続けているのだそうです。そして、その幽霊は不思議な力をもっているそうです。それは……屋敷を訪れた人たちを、『きょうだい』に変えてしまう呪いです」
ユリアはそこで一度言葉を切り、息継ぎをした。
「屋敷に訪れた人はなぜか、自分をその子の『きょうだい』だと錯覚してしまうそうです。幽霊は屋敷を訪れた人に危害は加えてこないそうですが、屋敷に入った人たちは例外なく『きょうだい』だと錯覚し、その子と一日中遊んでしまうそうです。中には時々、屋敷に入った人同士で『きょうだい』だと思ってしまうケースもあるのだとか。侵入者同士が特に親しいと、その洗脳バグみたいな現象が起こりやすいそうです」
ゴクリ。ユリアの恐ろしい発言に冒険者達は息をのんだ。なんて恐ろしい能力なんだ……。羞恥プレイ待ったなしでは? あと、雰囲気的にメアリー王女がそのままついてきそうな気配なのも脅威である。
「まあ、わたくしはそんな洗脳になど引っかからないでしょうけど、用心は必要ですわね」
メイは髪をかき上げながら、盛大にフラグを立てた。
「現在ではその屋敷は時折肝試しに王都の人達が遊びに行く隠れ観光スポットになっているそうです。都市伝説研究部としては、真相をぜひ確かめたいです。皆さん、一緒に遊びに行きませんか?」
ユリアの言葉に、冒険者達はしばし考えた。
●
冒険者達が門をくぐり、屋敷の中に入ると、空中から滲み出るように、銀色の髪の美しい子供が出現した。髪は短めで、性別は男の子にも女の子にも見える。
「わあ、今日はずいぶん、たくさんの人が遊びにきてくれました」
幽霊はにっこり笑うと、ふわふわと宙を漂い、冒険者達の前に顔を近づけてきた。
「あなたは、わたしの『きょうだい』ですか?」
問いかけと共に、幽霊の紫色の瞳が妖しく輝いた。
「ハッ! そういえばわたくしには二人のお兄様がいた気がしていましたが、もっとたくさんいた気がしましたわ! そして、わたくしは末っ子ではなく、妹と弟もいたような……!」
「メイ様! 実は私も、今日まで末っ子だと思っておりましたが、生き別れのお姉様やお兄様がいたような気がしますわ……!」
「実は私も……あの子はきっと私のお姉ちゃんです!」
突然、秘めたる願望をのたまいだすメアリー、マリリン、ユリア。その時、冒険者の脳内にも「きょうだい」とのハートフルな記憶が溢れ出した! 幽霊のウワサは真実だったのだ!
解説
舞台:王都郊外の洋館
状況:
リーンエス王国の王都グランスパーダの郊外にある古いお屋敷に、美しい少女(少年)の幽霊が出るという噂が流れています。噂によれば、その幽霊は「きょうだい」に強い未練を残し、この世に残っているそうです。
それを裏付けるように、幽霊には奇妙な能力が備わっていました。それは、屋敷に立ち入った者に幻覚を見せ、「きょうだい」にしてしまうという呪い(?)です。
屋敷は現在は半ば観光地化しており、妹や弟が欲しかった一般人や、ドゥジン教徒が時折訪れています。冒険者達は都市伝説研究部員たちと共に、噂の真相を探りに行きます。
●登場NPC
フラン
・幽霊屋敷に出没するゴースト。男の子にも女の子にも見える、十歳ぐらいの美しい子供。アンデッドだが超弱く、害もない為、「可愛いので成仏するまで一緒に遊んであげよう」的な理由で退治は見送られている。
・強力な精神感応能力により、侵入者を自身の「きょうだい」であると誤認させる。さらに、白昼夢レベルの強い幻覚を見せることができる。効果は一日ぐらいで解ける。
・たまに精神感応能力のバグで侵入者同士で「きょうだい」だと認識してしまうことがある。
・おままごと、りょこう、ヒーローごっこ、おにんぎょうあそび、こいばな、プロレスごっこ、ぼうけんのおはなし、あそびならなんでもこい。
ユリア・ロイヤルホスト
都市伝説研究部員。学園の新二年生。依頼人。黒髪の儚げな雰囲気の少女。
マリリン・クリニエーラ
学園の新四年生。都市伝説研究部員ではないがユリアの保護者枠。
一人っ子なのできょうだいへの憧れがある模様。
商家の娘、メイ
幽霊騒ぎの調査をするために(実家から脱走して)ついてきた謎のロイヤル妹。その正体がメアリー王女であることはギルドでは公然の秘密である。
末っ子なので昔は妹か弟が欲しかった模様。冒険者がメイの「きょうだい」であると主張した場合、「そうだった気がしますわ!」と姉や妹になってくれる。
護衛の王国騎士(レベル50以上)が数名こっそりついてきている。
●催眠バグと幻覚について
プレイング内で同意を確認できるPC同士で「きょうだい」になることが可能です。幻覚能力により、何でもアリな想い出づくり(シャルガネ旅行に行ったとか、一緒にクリーパー退治をしたとか。「同じ夢を見た」、という扱いです)もできます。もちろん、幽霊のフランやメアリー王女等のNPCとも「きょうだい」になれます。
マスターより
今日は4月1日です。ということは、分かりますね? 一日限りの「きょうだい」の嘘を楽しみましょう!
※便宜上「きょうだい」で表現を統一しておりますが、もちろん「姉妹」でもOKです。
リプレイ
●レタラの場合
問題の洋館に着く少し前。レタラ・スマリはメイに快復の祝辞を送っていた。レタラはメイが組織したドゥジケット準備会の正式メンバーの一人であり、貴重な男子部員の一人であった。
「メイ嬢、久し振りだな。あの時(ニコラ侯爵との決戦)は心配したぞ。……すっかり良くなったようで何よりだ」
「ええレタラ様、お久しぶりですわ。休み中も、ちゃんと執筆活動は続けておりましたわ」
「流石だな」
メイの衰えない情熱にレタラは感嘆した。
●
そして今。
(……何故だろうか。メイ嬢が、生き別れの妹に思えて来た。魂の同胞であるドゥジン教徒たる彼女が、オレの、妹……だと……?)
「どうしたのですか? レタラお兄様」
「メイ? そうか……。俺はメイの実の兄だった……な……」
ゴーストの洗脳にかかったレタラはメイの兄になってしまった。妹とは普段から共に原稿をしている仲で、今日はネタ集めを共に行うつもりでここに来た……気がする。
「メイはどのようなシチュエーションが好みだ? オレは最近、ウィル×ラミが気になっているな」
「なるほど。この王都では鉄板の組み合わせですわね。わたくしも、あの二人の仲は臣下や友人関係を超えたもの……つまり『愛』なのではないかと思っておりましたの。ですが、私はあえてラミ×ウィルを提唱いたします。ラミアス先生の方からお兄様にグイグイ行っているのでは?」
「……! 何か具体的なネタを掴んでいるのか?」
「ええ。お兄様はその昔、ラミアス先生と一緒に教室を抜け出して……」
「……! その話、ぜひ詳しく」
レタラはメイ(推しの兄)からウィリアムの若き日のやんちゃの話を聞いたり、最近のラミアス先生の学園での様子をメイに聞かせたりした。
……。
「メイ、今日は存分に推しについて語り合おう」
「ええ、レタラお兄様」
……。
「……いや待て、相手は王族だろう!?」
途中でレタラは我に返った。
●コルネリウスの場合
「あら、なんだか私はきょうだいをたくさん連れてここに来たような……」
ゴーストの精神波を浴びたコルネリウス・アーラは一瞬、意識がぼんやりした。ハッと周囲を見渡すと、近くにはマリリンがいた。
「コルネリウスお姉様。大丈夫でしたか?」
「ええ、大丈夫ですよ。マリリンさん。今日から私がおねえちゃんですよ! いっぱい甘えてください」
コルネリウスはニコニコと微笑んだ。そういえば、マリリンも自分の妹だった気がする。エルフであるコルネリウスの実家には「きょうだい」がたくさんいたし、コルネリウスには家族にような付き合いをしている孤児たちもたくさんいる。いわば、コルネリウスはお姉さんの専門家なのである!
「はい! 実は私、前からやってみたかったことがあるのです。学園のお友達には言い出しくい遊びなんですが……」
「? 一体どんな遊びです?」
「その……決闘ごっこを」
マリリンは恥じらいながら希望を告げた。
「ええ、いいですよ。私は頑丈なので、ちょっとぐらい当たっても大丈夫ですから」
壁エルフは慈母のような微笑みを浮かべた。
「ありがとうございます! コルネリウスお姉様!」
かくして、甲冑を着込んだマリリンと、普段着で盾だけ持ったコルネリウスの決闘ごっこが始まった。
「行きますわよ、コルネリウスお姉様! 今日こそ決着をつけて差し上げます!」
「来なさい、マリリンさん。溢れる姉パワーで返り討ちにしてあげます」
キンキンキンキンキン!
マリリンは素人そのものの動きでコルネリウスへとこん棒を振り回した。コルネリウスはマリリンの攻撃の軌道を余裕で見切り、盾で正確に弾いたり、兜でこん棒を受け止めたりし、その場からほとんど動かずにいなし続けた。
「あ、なんか面白そうなことしてる! ボクも混ぜて!」
二人が遊んでいると、途中でゴーストのフランも参戦してきた。
「フランさんもやりたいの? いいですよ、二人まとめてかかってきなさい」
「わーい」
コルネリウスは笑う。盾一枚ではちょっとしんどくなったので(反撃していいなら話は別だが)コルネリウスは利き手に棒も持つことにした。
ガキンガキンガキン!
二対一となり、より激しさを増した決闘ごっこ。15分ぐらいでマリリンとフランは力尽き、三人とも無傷のまま決闘ごっこは終了した。
「疲れたけど、楽しかったですわ! ありがとうございます、コルネリウスお姉様」
「コルネリウス! 強い! ゴーレムみたい!」
「うふふ。二人とも、意外とやんちゃなんですね」
……。
「マリリン! マリリン! こっちにきて! レタラお兄様と一緒に書いたドゥジンシのペン入れを手伝ってくださいませ! 今度のは大作ですわ! ウィリアムお兄様とラミアス先生が××でピーな純愛ものですわ!」
「あ、コルネリウスお姉様。メアリーお姉様が呼んでいるので、ちょっと行ってきます!」
「ええ、いってらっしゃい」
「じゃあコルネリウス、一緒に絵本読んで!」
「はいはい」
きょうだいが多いと大変だ。パタパタと走っていくマリリンを見送り、コルネリウスは苦笑した。
●アリッグとシルクの場合
「はっ! 大丈夫でしたか、じゃねえ、大丈夫だったか? シルク姉」
おめでとう! アリッグ・レイダーは幽霊の洗脳により、一緒に来ていたシルク・メイプルリーフ
が自分の姉であると誤認してしまった!
「ええ、お姉ちゃんはなんともないわ。それより、アリッグは甘えたい年ごろなのかしら?」
「えっ」
もちろん、シルクもアリッグのことをかわいい弟だと認識していた。シルクはニコニコとシスタースマイルを浮かべ、アリッグへとにじり寄っていく。
「べ、別に甘えたいわけじゃねーよ!」
アリッグはぷいとそっぽを向いた。素直になれないお年頃なのだ。
「嘘ばっかり。小さい頃はたくさん甘えてくれたのに最近はいっしょに遊んでもくれません」
シルクは唇を尖らせる。そして、突然、アリッグに相撲の立ち合いの如く突進。アリッグをホールドしたまま、床に押し倒してしまった。
「昔みたいにプロレスごっこしましょう」
にこにことアリッグの腹の上に座るシルク。
「やめろよっ! 放せよ! 他の連中も見てるだろ!?」
アリッグは姉の狼藉に猛抗議した。が、シルクは聞く耳持たず、アリッグの両手をしっかりつかみ、吊り天井固めをかけた。
「ほら、高い高いー」
「痛い! 痛い!」
「じゃあ次はこれです」
シルクはアリッグから手を放すと、ブリッジで彼を上空へと跳ね上げた。お手玉のようにぽーん、ぽーんとアリッグを何度か跳ね上げた後、シルクは空中でアリッグを掴み、いつの間にか敷かれていたマットの上に着地した。アリッグはそのままシルクにマットに叩きつけられ、また拘束された。
「ちょ、ちょっと待て! 顔に色々と当たってる!」
「うふふ、次は飛行機投げですよ~」
シルクに脚を掴まれ、ぐるぐると回されたアリッグは目を回した。
●
「ほらほら、アリッグ、一緒にパフェ食べに行きませんか?」
「そ、そんなんで俺の機嫌が直ると思うな! いいよ。行くよ。……勘違いするなよな。一人じゃパフェ屋には入りにくいから、仕方なくだからな!」
「はい、あーん」
「あ、ああーん……」
シルクにクリームの乗ったスプーンを差し出されると、アリッグは仏頂面で口を開いた。
「アリッグ、今夜は一緒に寝ましょう」
「仕方ねえな……。今夜だけだからな」
「アリッグ、一緒にお風呂に入りましょう。背中流してあげる」
「それはダメだろ! いい年なんだから一人で入れよ!?」
アリッグはツンデレな態度をとりつつも、しっかりとシルクに甘え倒した。
●
「あれ、俺寝てたのか……。夢にしちゃ、妙にリアルだったな……」
「アリッグさん、意外と甘えん坊さんなんですね」
アリッグが振り返ると、シルクがニコニコしていた。
「夢だけど、夢じゃなかった――!?」
アリッグは羞恥のあまり手で自分の顔を覆ったという。
●シルヴィアの場合
「メイ、マリリン。今日は推しや推しCPのイメージフラワーを決めようじゃないか。もう学園は卒業したし、これからはドゥジケット部員活動に注力出来る」
シルヴィア・A・カペルは微笑むと、古典絵画集と花言葉辞典を広げた。シルヴィアは子供の頃妹が欲しかった。そのせいか、彼女もゴーストの洗脳にかかり、メイとマリリンを妹だと認識していた。
「「はい、シルヴィアお姉様」」
メイとマリリンは声を揃え、ウィリアム王子×レイウェスト皇子の薄い本を取り出した。なんで持ち歩いてんだそんなもん、というツッコミは野暮だろう。すべては幻覚の中での出来事なのだから……。
「メイはカンパニュラ、マリリンはデイジーが似合いそうだね」
花言葉辞典のページをめくりながら、シルヴィアが微笑む。
「まあ、シルヴィアお姉様。私がデイジーだなんて、そんな」
マリリンははにかんだ。なかなかの面の皮の厚さであった。
「さて、では本題に入ろう。ウィリアム王子とレイウェスト皇子殿下について、一番詳しそうなメイにご教示いただこうかな」
シルヴィアはまだドゥジン教徒としては新人だ。数冊買ったことが程度である。そこで、作家であるメイの意見を聞くことにした。
「ええ、よろしいですわ。そのお二人の仲でしたら、わたくしは世界でも三本の指に入るほど詳しい自負がありますわ」
メイ(今月レイウェスト皇子と正式に婚約予定)は満足げに頷いた。いいのか、それで。
「王子と殿下には桔梗の花が似合う。お二人とも恋人に尽くしそうなイメージだ」
「そうですわね。お二人とも、愛した人を裏切るような真似はしないでしょう。ですが、お兄様はああ見えていたずらが好きな方なので、レイウェスト皇子を振り回してしまいそうですわ」
「確かに」
以前のウェディングドレス事件を思いだし、シルヴィアは苦笑した。
「最近はオルセン太守にも可能性を感じている。彼は実はツンデレという奴なんじゃないかと」
「なるほど、レイウェストの気を引こうと、あえて彼につれない態度をとっているというわけですわね!」
シルヴィアの言葉に、メイが頷いた。すると、マリリンは別の可能性を提示する。
「想い人が困る顔を見るのが楽しいドエスショタの可能性もありますわ!」
「わたくしは王国騎士のマリオンとイーライがただならぬ仲にあるのではないかと考えておりますわ。二人は二階のパトロール担当の騎士なのですが……単なる同僚以上の絆を感じるのです。二人はまるで兄弟のようですわ。もしかすると、中庭とかで密会しているのかもしれませんわ。あ、こちらがその二人が主人公のドゥジンシです」
メイはそっと執筆途中の新作ドゥジンシの原稿を取り出した。シルヴィアとマリリンは一枚ずつ原稿を読み、回し読みをした。
「まあ。いけませんわ、メイ様。忠節の騎士達が王城で逢瀬を重ねるなど……あってはならないことです」
メイの原稿を見たマリリンは顔を赤らめた。こうして、三姉妹(偽)は花言葉や愛について語らいながら、女子らしいひと時(?)を過ごしたのだった。
●ヴィナスとルーンスの場合
ヴィナスとルーンス・ラグネルは元より実の兄弟である。しかし、フランの精神波を浴び、二人はフランも自分達の『きょうだい』だと認識してしまった。
「わーい、素敵なお兄様が二人も! でも大きい方のおにいさまの方が素敵かも」
ゴーストのフランは大喜びだ。弟なのか妹なのかはいまいち判然としないが、この際どっちでもいいだろう。あと、フランはヴィナスの方を特にお気に召したらしい。
「む。僕の完璧なにいさまに目を付けるとは。見る目は確かだけど、これは見過ごせないな!」
ルーンスは警戒心を露わにし、フランを見た。このままでは敬愛する兄をフランに奪われてしまうかもしれない! とはいえ、相手は幼い子供だ。いきなりつまみ出したりするのは大人げないので、笑顔を作りつつ、とりあえず様子を見ることにした。
「なにして遊ぶ?」
フランはわくわくした様子で二人に問いかけた。
「お茶会トークかな!」
「そうだね。にいさま!」
「よし、じゃあさっそくお茶とお菓子の用意だ!」
「そろそろ春だね。この季節なら、春摘みものの紅茶の仕入れを……」
「今年は学園の新入生向けの商品開発もいろいろ……」
「ボク、お菓子が食べたいな!」
「ははは、フランはくいしんぼうだね。特製のハーブクッキーがあるよ」
「さすがにいさま、抜かりないね!」
「わーい! とってもいい匂い!」
三人はお茶菓子を食べながら、なごやかな時間を過ごした。
……。
「にいさま。なんだか今日はさわやかなお茶会だね?」
「やだな、俺達だってたまには普通のお茶会もやるよ」
ルーンスの鋭いツッコミにヴィナスはさわやかな笑顔で返した。今日はいつもとは違い、商家の裏側的なドロドロした話題は出ていない。まだ幼いフランへの配慮である。しばらくおしゃべりしていると、ふいにフランが叫んだ。
「ヴィナスおにいさま、おままごとしよ!」
「よし、やろうか、フラン、にいさま」
フランがヴィナスにおままごとをねだると、ルーンスはさりげなく自分も参加を表明した。
(にいさまとおままごとで独占なんてさせるわけないでしょ)
フランはムッとルーンスを睨む。その瞳は「このお邪魔虫め! 空気読みなさいよ!」と語っていた。ルーンスは涼しい顔でフランの敵意を受け流している。三人はヴィナスを中心に据え、横並びに三人並んで座った。
「ちょっとフラン、にいさまと近くないか?」
「ルーンスこそ近いわ」
「僕こそ近い? 何いってんの、僕はにいさまと年が近い兄弟だから当たり前でしょーが」
「……」
間にヴィナスを挟み、火花を散らすルーンスとフラン。ヴィナスは「お兄ちゃん、きょうだい仲良しがいいな」と苦笑した。ヴィナスにたしなめられ、二人は矛を収め、ヴィナスに密着した場所に座り直したのだった……。
●
ヴィナスとルーンスが目を覚ますと、いつの間にかフランは消え、二人は洋館の中庭で寝ていた。どうやら幻覚を見せられていたようだ。感謝のしるしなのか、二人のすぐそばには、庭に生えていた花が二輪置かれていた……が、ヴィナスの方だけ明らかに花が大きかった。
「僕の兄弟はにいさまだけ」
「妬かれるのは兄冥利だね」
ルーンスがニコニコしながら言うと、ヴィナスは微笑んだ。
●イズルとペルゼィックの場合
イズル・M・ヴォルゴールとペルゼィックは気が付くと、どこかのお屋敷の庭先にいた。
「イル? あれ、俺達何してたんだっけ」
「ジーク? 確か仕事の途中だったような……」
(なんだか、やらないといけないことがあったような。離れ離れになってるなんてかわいそうだし……ん? 誰の事だろう?)
「さあ、お二方。初めてくださいませ」
イズルとペルゼィックが困惑していると、メアリー王女が二人に声をかけた。彼女の傍らには、見覚えのないちっこい子供もいる。
(見覚えがない? いや、あの子は俺とイルの『姉さん』じゃねえか)
(そうだ。思い出したぞ。俺はフラン姉さんに見せるために今からジークと剣術の手合わせをするんだった)
フランの幻覚に取り込まれたペルゼィックとイズルは、フランと合わせて自分達が三人きょうだいであったことを思い出した。メアリー王女は……たぶん今回の雇い主か何かだろう。
「いくぞ、ジーク!」
「こい、イル!」
二人の試合が始まった。先に仕掛けたのはイズルだ。戦槌を手にペルゼィックの懐まで飛び込んだイズルは、勢いよく、ハンマーをイズルへと叩きつけた。
ガキン!
逆腕のロングソードで戦槌の一撃を受け止めたペルゼィックは、利き腕のレイピアでイズルに鋭く反撃した。針のように鋭い一突き。渾身の一撃を捌かれた直後で動けなかったイズルは、あっさり戦槌を弾き飛ばされた。
「一本ですわ! 勝者、ペルゼィック!」
メアリー王女が試合終了を宣言した。
「くっ……! もう一回だ!」
「いいぜ、何度でも相手してやる」
……。
「修練が足りねぇ」
ペルゼィックはドヤ顔で言った。
「ジーク強い!」
くたくたになったジークはそう言って笑い、地面に座り込んだ。
(誰とも別け隔てなく同じ態度を崩さず、口調とは裏腹に人に優しくて、いつも俺の前を歩く兄は憧れで自慢の兄さんだ)
「ジーク、イル、お疲れ!」
二人に駆け寄ってくるフラン。
「おう。フラン。お前もしっかり見てたか? 俺の雄姿を」
ペルゼィックはドヤ顔で姉にも勝者アピールした。
「うん、すごかった」
(あれ? ジーク、こんなキャラだったかな……)
イズルは訝しんだが、姉の前では格好つけたいんだろうと流すことにした。
「さて」
(なんか、やたら強そうな奴の視線を感じるんだが……。それも一人じゃねえな……)
不審な気配を感じ、ペルゼィックはきょろきょろと周囲を見渡した。ペルゼィックが探知していたのは、実は敵ではなく、メアリー王女の護衛としてこっそりついてきていたエリート王国騎士達の気配だった。一人しかいない王女であり、末っ子であるメアリーの護衛なので、ぶっちゃけこの場にいる冒険者達の誰よりも強い方々である。
「ちょっと周り見てくる。お前らは屋敷入ってろ」
ペルゼィックは二本の剣を取り、視線の正体を確かめに行こうとした。しかしその時、突然イズルがペルゼィックにしがみついた。
「俺も行く。一人より二人だ」
「ダメだ、お前はこいつ《フラン》守ってろ」
ペルゼィックは首を横に振り、服の袖を掴んできたイズルを引きはがそうとした。
「それならジークもここにいて! ここで守ればいい! 一人で行くなら離さない」
イズルはジークを羽交い締めにし、なぜか頬までくっつけてきた。
「あらあら、まあまあ」
まだその場にいたメアリー王女は頬を染めた。
「これは……本にするか」
なんの脈絡もなく、突然その場に登場したレタラ(ドゥジン作家)も唸った。
「うるせぇ! 離せ言ってるだろぉがっ」
ペルゼィックはイズルを引き離そうと力込めるが……。
「フランも止めて!兄上にギュ!ってして
「了解! ダメよジーク! 行かないで!」
ちっこいフランもイズルの指示に従い、ペルゼィックの腰にしがみついてきた。
「お 前 も 離 れ ろ !」
●
「あれ、ジーク……あれ!? なんで俺達同じベッドで寝てんだ!?」
「イル? うおお!? なんだこりゃ! さっさと離れろ!」
目覚めると、二人はなぜか同じベッドで寝かされており、二人の枕元には、二輪の薔薇の花が置かれていた。
●昇天
――今日はとても楽しかった。『きょうだい』のみんな、ありがとう。
冒険者達は幻覚から覚める前、小さな子供の声を聞いた。それ以降、このお屋敷で幽霊が目撃されることはなくなったという。
問題の洋館に着く少し前。レタラ・スマリはメイに快復の祝辞を送っていた。レタラはメイが組織したドゥジケット準備会の正式メンバーの一人であり、貴重な男子部員の一人であった。
「メイ嬢、久し振りだな。あの時(ニコラ侯爵との決戦)は心配したぞ。……すっかり良くなったようで何よりだ」
「ええレタラ様、お久しぶりですわ。休み中も、ちゃんと執筆活動は続けておりましたわ」
「流石だな」
メイの衰えない情熱にレタラは感嘆した。
●
そして今。
(……何故だろうか。メイ嬢が、生き別れの妹に思えて来た。魂の同胞であるドゥジン教徒たる彼女が、オレの、妹……だと……?)
「どうしたのですか? レタラお兄様」
「メイ? そうか……。俺はメイの実の兄だった……な……」
ゴーストの洗脳にかかったレタラはメイの兄になってしまった。妹とは普段から共に原稿をしている仲で、今日はネタ集めを共に行うつもりでここに来た……気がする。
「メイはどのようなシチュエーションが好みだ? オレは最近、ウィル×ラミが気になっているな」
「なるほど。この王都では鉄板の組み合わせですわね。わたくしも、あの二人の仲は臣下や友人関係を超えたもの……つまり『愛』なのではないかと思っておりましたの。ですが、私はあえてラミ×ウィルを提唱いたします。ラミアス先生の方からお兄様にグイグイ行っているのでは?」
「……! 何か具体的なネタを掴んでいるのか?」
「ええ。お兄様はその昔、ラミアス先生と一緒に教室を抜け出して……」
「……! その話、ぜひ詳しく」
レタラはメイ(推しの兄)からウィリアムの若き日のやんちゃの話を聞いたり、最近のラミアス先生の学園での様子をメイに聞かせたりした。
……。
「メイ、今日は存分に推しについて語り合おう」
「ええ、レタラお兄様」
……。
「……いや待て、相手は王族だろう!?」
途中でレタラは我に返った。
●コルネリウスの場合
「あら、なんだか私はきょうだいをたくさん連れてここに来たような……」
ゴーストの精神波を浴びたコルネリウス・アーラは一瞬、意識がぼんやりした。ハッと周囲を見渡すと、近くにはマリリンがいた。
「コルネリウスお姉様。大丈夫でしたか?」
「ええ、大丈夫ですよ。マリリンさん。今日から私がおねえちゃんですよ! いっぱい甘えてください」
コルネリウスはニコニコと微笑んだ。そういえば、マリリンも自分の妹だった気がする。エルフであるコルネリウスの実家には「きょうだい」がたくさんいたし、コルネリウスには家族にような付き合いをしている孤児たちもたくさんいる。いわば、コルネリウスはお姉さんの専門家なのである!
「はい! 実は私、前からやってみたかったことがあるのです。学園のお友達には言い出しくい遊びなんですが……」
「? 一体どんな遊びです?」
「その……決闘ごっこを」
マリリンは恥じらいながら希望を告げた。
「ええ、いいですよ。私は頑丈なので、ちょっとぐらい当たっても大丈夫ですから」
壁エルフは慈母のような微笑みを浮かべた。
「ありがとうございます! コルネリウスお姉様!」
かくして、甲冑を着込んだマリリンと、普段着で盾だけ持ったコルネリウスの決闘ごっこが始まった。
「行きますわよ、コルネリウスお姉様! 今日こそ決着をつけて差し上げます!」
「来なさい、マリリンさん。溢れる姉パワーで返り討ちにしてあげます」
キンキンキンキンキン!
マリリンは素人そのものの動きでコルネリウスへとこん棒を振り回した。コルネリウスはマリリンの攻撃の軌道を余裕で見切り、盾で正確に弾いたり、兜でこん棒を受け止めたりし、その場からほとんど動かずにいなし続けた。
「あ、なんか面白そうなことしてる! ボクも混ぜて!」
二人が遊んでいると、途中でゴーストのフランも参戦してきた。
「フランさんもやりたいの? いいですよ、二人まとめてかかってきなさい」
「わーい」
コルネリウスは笑う。盾一枚ではちょっとしんどくなったので(反撃していいなら話は別だが)コルネリウスは利き手に棒も持つことにした。
ガキンガキンガキン!
二対一となり、より激しさを増した決闘ごっこ。15分ぐらいでマリリンとフランは力尽き、三人とも無傷のまま決闘ごっこは終了した。
「疲れたけど、楽しかったですわ! ありがとうございます、コルネリウスお姉様」
「コルネリウス! 強い! ゴーレムみたい!」
「うふふ。二人とも、意外とやんちゃなんですね」
……。
「マリリン! マリリン! こっちにきて! レタラお兄様と一緒に書いたドゥジンシのペン入れを手伝ってくださいませ! 今度のは大作ですわ! ウィリアムお兄様とラミアス先生が××でピーな純愛ものですわ!」
「あ、コルネリウスお姉様。メアリーお姉様が呼んでいるので、ちょっと行ってきます!」
「ええ、いってらっしゃい」
「じゃあコルネリウス、一緒に絵本読んで!」
「はいはい」
きょうだいが多いと大変だ。パタパタと走っていくマリリンを見送り、コルネリウスは苦笑した。
●アリッグとシルクの場合
「はっ! 大丈夫でしたか、じゃねえ、大丈夫だったか? シルク姉」
おめでとう! アリッグ・レイダーは幽霊の洗脳により、一緒に来ていたシルク・メイプルリーフ
が自分の姉であると誤認してしまった!
「ええ、お姉ちゃんはなんともないわ。それより、アリッグは甘えたい年ごろなのかしら?」
「えっ」
もちろん、シルクもアリッグのことをかわいい弟だと認識していた。シルクはニコニコとシスタースマイルを浮かべ、アリッグへとにじり寄っていく。
「べ、別に甘えたいわけじゃねーよ!」
アリッグはぷいとそっぽを向いた。素直になれないお年頃なのだ。
「嘘ばっかり。小さい頃はたくさん甘えてくれたのに最近はいっしょに遊んでもくれません」
シルクは唇を尖らせる。そして、突然、アリッグに相撲の立ち合いの如く突進。アリッグをホールドしたまま、床に押し倒してしまった。
「昔みたいにプロレスごっこしましょう」
にこにことアリッグの腹の上に座るシルク。
「やめろよっ! 放せよ! 他の連中も見てるだろ!?」
アリッグは姉の狼藉に猛抗議した。が、シルクは聞く耳持たず、アリッグの両手をしっかりつかみ、吊り天井固めをかけた。
「ほら、高い高いー」
「痛い! 痛い!」
「じゃあ次はこれです」
シルクはアリッグから手を放すと、ブリッジで彼を上空へと跳ね上げた。お手玉のようにぽーん、ぽーんとアリッグを何度か跳ね上げた後、シルクは空中でアリッグを掴み、いつの間にか敷かれていたマットの上に着地した。アリッグはそのままシルクにマットに叩きつけられ、また拘束された。
「ちょ、ちょっと待て! 顔に色々と当たってる!」
「うふふ、次は飛行機投げですよ~」
シルクに脚を掴まれ、ぐるぐると回されたアリッグは目を回した。
●
「ほらほら、アリッグ、一緒にパフェ食べに行きませんか?」
「そ、そんなんで俺の機嫌が直ると思うな! いいよ。行くよ。……勘違いするなよな。一人じゃパフェ屋には入りにくいから、仕方なくだからな!」
「はい、あーん」
「あ、ああーん……」
シルクにクリームの乗ったスプーンを差し出されると、アリッグは仏頂面で口を開いた。
「アリッグ、今夜は一緒に寝ましょう」
「仕方ねえな……。今夜だけだからな」
「アリッグ、一緒にお風呂に入りましょう。背中流してあげる」
「それはダメだろ! いい年なんだから一人で入れよ!?」
アリッグはツンデレな態度をとりつつも、しっかりとシルクに甘え倒した。
●
「あれ、俺寝てたのか……。夢にしちゃ、妙にリアルだったな……」
「アリッグさん、意外と甘えん坊さんなんですね」
アリッグが振り返ると、シルクがニコニコしていた。
「夢だけど、夢じゃなかった――!?」
アリッグは羞恥のあまり手で自分の顔を覆ったという。
●シルヴィアの場合
「メイ、マリリン。今日は推しや推しCPのイメージフラワーを決めようじゃないか。もう学園は卒業したし、これからはドゥジケット部員活動に注力出来る」
シルヴィア・A・カペルは微笑むと、古典絵画集と花言葉辞典を広げた。シルヴィアは子供の頃妹が欲しかった。そのせいか、彼女もゴーストの洗脳にかかり、メイとマリリンを妹だと認識していた。
「「はい、シルヴィアお姉様」」
メイとマリリンは声を揃え、ウィリアム王子×レイウェスト皇子の薄い本を取り出した。なんで持ち歩いてんだそんなもん、というツッコミは野暮だろう。すべては幻覚の中での出来事なのだから……。
「メイはカンパニュラ、マリリンはデイジーが似合いそうだね」
花言葉辞典のページをめくりながら、シルヴィアが微笑む。
「まあ、シルヴィアお姉様。私がデイジーだなんて、そんな」
マリリンははにかんだ。なかなかの面の皮の厚さであった。
「さて、では本題に入ろう。ウィリアム王子とレイウェスト皇子殿下について、一番詳しそうなメイにご教示いただこうかな」
シルヴィアはまだドゥジン教徒としては新人だ。数冊買ったことが程度である。そこで、作家であるメイの意見を聞くことにした。
「ええ、よろしいですわ。そのお二人の仲でしたら、わたくしは世界でも三本の指に入るほど詳しい自負がありますわ」
メイ(今月レイウェスト皇子と正式に婚約予定)は満足げに頷いた。いいのか、それで。
「王子と殿下には桔梗の花が似合う。お二人とも恋人に尽くしそうなイメージだ」
「そうですわね。お二人とも、愛した人を裏切るような真似はしないでしょう。ですが、お兄様はああ見えていたずらが好きな方なので、レイウェスト皇子を振り回してしまいそうですわ」
「確かに」
以前のウェディングドレス事件を思いだし、シルヴィアは苦笑した。
「最近はオルセン太守にも可能性を感じている。彼は実はツンデレという奴なんじゃないかと」
「なるほど、レイウェストの気を引こうと、あえて彼につれない態度をとっているというわけですわね!」
シルヴィアの言葉に、メイが頷いた。すると、マリリンは別の可能性を提示する。
「想い人が困る顔を見るのが楽しいドエスショタの可能性もありますわ!」
「わたくしは王国騎士のマリオンとイーライがただならぬ仲にあるのではないかと考えておりますわ。二人は二階のパトロール担当の騎士なのですが……単なる同僚以上の絆を感じるのです。二人はまるで兄弟のようですわ。もしかすると、中庭とかで密会しているのかもしれませんわ。あ、こちらがその二人が主人公のドゥジンシです」
メイはそっと執筆途中の新作ドゥジンシの原稿を取り出した。シルヴィアとマリリンは一枚ずつ原稿を読み、回し読みをした。
「まあ。いけませんわ、メイ様。忠節の騎士達が王城で逢瀬を重ねるなど……あってはならないことです」
メイの原稿を見たマリリンは顔を赤らめた。こうして、三姉妹(偽)は花言葉や愛について語らいながら、女子らしいひと時(?)を過ごしたのだった。
●ヴィナスとルーンスの場合
ヴィナスとルーンス・ラグネルは元より実の兄弟である。しかし、フランの精神波を浴び、二人はフランも自分達の『きょうだい』だと認識してしまった。
「わーい、素敵なお兄様が二人も! でも大きい方のおにいさまの方が素敵かも」
ゴーストのフランは大喜びだ。弟なのか妹なのかはいまいち判然としないが、この際どっちでもいいだろう。あと、フランはヴィナスの方を特にお気に召したらしい。
「む。僕の完璧なにいさまに目を付けるとは。見る目は確かだけど、これは見過ごせないな!」
ルーンスは警戒心を露わにし、フランを見た。このままでは敬愛する兄をフランに奪われてしまうかもしれない! とはいえ、相手は幼い子供だ。いきなりつまみ出したりするのは大人げないので、笑顔を作りつつ、とりあえず様子を見ることにした。
「なにして遊ぶ?」
フランはわくわくした様子で二人に問いかけた。
「お茶会トークかな!」
「そうだね。にいさま!」
「よし、じゃあさっそくお茶とお菓子の用意だ!」
「そろそろ春だね。この季節なら、春摘みものの紅茶の仕入れを……」
「今年は学園の新入生向けの商品開発もいろいろ……」
「ボク、お菓子が食べたいな!」
「ははは、フランはくいしんぼうだね。特製のハーブクッキーがあるよ」
「さすがにいさま、抜かりないね!」
「わーい! とってもいい匂い!」
三人はお茶菓子を食べながら、なごやかな時間を過ごした。
……。
「にいさま。なんだか今日はさわやかなお茶会だね?」
「やだな、俺達だってたまには普通のお茶会もやるよ」
ルーンスの鋭いツッコミにヴィナスはさわやかな笑顔で返した。今日はいつもとは違い、商家の裏側的なドロドロした話題は出ていない。まだ幼いフランへの配慮である。しばらくおしゃべりしていると、ふいにフランが叫んだ。
「ヴィナスおにいさま、おままごとしよ!」
「よし、やろうか、フラン、にいさま」
フランがヴィナスにおままごとをねだると、ルーンスはさりげなく自分も参加を表明した。
(にいさまとおままごとで独占なんてさせるわけないでしょ)
フランはムッとルーンスを睨む。その瞳は「このお邪魔虫め! 空気読みなさいよ!」と語っていた。ルーンスは涼しい顔でフランの敵意を受け流している。三人はヴィナスを中心に据え、横並びに三人並んで座った。
「ちょっとフラン、にいさまと近くないか?」
「ルーンスこそ近いわ」
「僕こそ近い? 何いってんの、僕はにいさまと年が近い兄弟だから当たり前でしょーが」
「……」
間にヴィナスを挟み、火花を散らすルーンスとフラン。ヴィナスは「お兄ちゃん、きょうだい仲良しがいいな」と苦笑した。ヴィナスにたしなめられ、二人は矛を収め、ヴィナスに密着した場所に座り直したのだった……。
●
ヴィナスとルーンスが目を覚ますと、いつの間にかフランは消え、二人は洋館の中庭で寝ていた。どうやら幻覚を見せられていたようだ。感謝のしるしなのか、二人のすぐそばには、庭に生えていた花が二輪置かれていた……が、ヴィナスの方だけ明らかに花が大きかった。
「僕の兄弟はにいさまだけ」
「妬かれるのは兄冥利だね」
ルーンスがニコニコしながら言うと、ヴィナスは微笑んだ。
●イズルとペルゼィックの場合
イズル・M・ヴォルゴールとペルゼィックは気が付くと、どこかのお屋敷の庭先にいた。
「イル? あれ、俺達何してたんだっけ」
「ジーク? 確か仕事の途中だったような……」
(なんだか、やらないといけないことがあったような。離れ離れになってるなんてかわいそうだし……ん? 誰の事だろう?)
「さあ、お二方。初めてくださいませ」
イズルとペルゼィックが困惑していると、メアリー王女が二人に声をかけた。彼女の傍らには、見覚えのないちっこい子供もいる。
(見覚えがない? いや、あの子は俺とイルの『姉さん』じゃねえか)
(そうだ。思い出したぞ。俺はフラン姉さんに見せるために今からジークと剣術の手合わせをするんだった)
フランの幻覚に取り込まれたペルゼィックとイズルは、フランと合わせて自分達が三人きょうだいであったことを思い出した。メアリー王女は……たぶん今回の雇い主か何かだろう。
「いくぞ、ジーク!」
「こい、イル!」
二人の試合が始まった。先に仕掛けたのはイズルだ。戦槌を手にペルゼィックの懐まで飛び込んだイズルは、勢いよく、ハンマーをイズルへと叩きつけた。
ガキン!
逆腕のロングソードで戦槌の一撃を受け止めたペルゼィックは、利き腕のレイピアでイズルに鋭く反撃した。針のように鋭い一突き。渾身の一撃を捌かれた直後で動けなかったイズルは、あっさり戦槌を弾き飛ばされた。
「一本ですわ! 勝者、ペルゼィック!」
メアリー王女が試合終了を宣言した。
「くっ……! もう一回だ!」
「いいぜ、何度でも相手してやる」
……。
「修練が足りねぇ」
ペルゼィックはドヤ顔で言った。
「ジーク強い!」
くたくたになったジークはそう言って笑い、地面に座り込んだ。
(誰とも別け隔てなく同じ態度を崩さず、口調とは裏腹に人に優しくて、いつも俺の前を歩く兄は憧れで自慢の兄さんだ)
「ジーク、イル、お疲れ!」
二人に駆け寄ってくるフラン。
「おう。フラン。お前もしっかり見てたか? 俺の雄姿を」
ペルゼィックはドヤ顔で姉にも勝者アピールした。
「うん、すごかった」
(あれ? ジーク、こんなキャラだったかな……)
イズルは訝しんだが、姉の前では格好つけたいんだろうと流すことにした。
「さて」
(なんか、やたら強そうな奴の視線を感じるんだが……。それも一人じゃねえな……)
不審な気配を感じ、ペルゼィックはきょろきょろと周囲を見渡した。ペルゼィックが探知していたのは、実は敵ではなく、メアリー王女の護衛としてこっそりついてきていたエリート王国騎士達の気配だった。一人しかいない王女であり、末っ子であるメアリーの護衛なので、ぶっちゃけこの場にいる冒険者達の誰よりも強い方々である。
「ちょっと周り見てくる。お前らは屋敷入ってろ」
ペルゼィックは二本の剣を取り、視線の正体を確かめに行こうとした。しかしその時、突然イズルがペルゼィックにしがみついた。
「俺も行く。一人より二人だ」
「ダメだ、お前はこいつ《フラン》守ってろ」
ペルゼィックは首を横に振り、服の袖を掴んできたイズルを引きはがそうとした。
「それならジークもここにいて! ここで守ればいい! 一人で行くなら離さない」
イズルはジークを羽交い締めにし、なぜか頬までくっつけてきた。
「あらあら、まあまあ」
まだその場にいたメアリー王女は頬を染めた。
「これは……本にするか」
なんの脈絡もなく、突然その場に登場したレタラ(ドゥジン作家)も唸った。
「うるせぇ! 離せ言ってるだろぉがっ」
ペルゼィックはイズルを引き離そうと力込めるが……。
「フランも止めて!兄上にギュ!ってして
「了解! ダメよジーク! 行かないで!」
ちっこいフランもイズルの指示に従い、ペルゼィックの腰にしがみついてきた。
「お 前 も 離 れ ろ !」
●
「あれ、ジーク……あれ!? なんで俺達同じベッドで寝てんだ!?」
「イル? うおお!? なんだこりゃ! さっさと離れろ!」
目覚めると、二人はなぜか同じベッドで寝かされており、二人の枕元には、二輪の薔薇の花が置かれていた。
●昇天
――今日はとても楽しかった。『きょうだい』のみんな、ありがとう。
冒険者達は幻覚から覚める前、小さな子供の声を聞いた。それ以降、このお屋敷で幽霊が目撃されることはなくなったという。
マスターコメント
きょうだいたちと楽しく遊べたことで、無事に幽霊は成仏できたようです。お疲れ様でした!
イベントシナリオ易しい 報酬:多い9 / 4〜25人
2023年04月22日 11時05分49秒 公開
大成功
相談掲示板
ヒーラーのアリッグです。よろしくお願いします! 「きょうだい」ですか……。ふーむ。 催眠バグ?幻覚? ははは、そんなのにかかる人なんているんですかねぇ?(フラグ
いよいよ出発は明日の朝8時ですわ。お兄様、お姉様、よろしくお願いいたします!(催眠中)。