【空器】交錯する影

崎田航輝

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シナリオID:2882

オープニング

●1.
「お頭、次の仕事は?」
 蔦で迷彩された、森の家屋。
 粗い木組みで造られたその中で、男が最奥に声を向けた。
 そこに座る“頭”と呼ばれた男は――配下の言葉に楽しげな笑みで肩をすくめる。
「お前も血の気が多いやつだな。この前やったばかりだろ?」
「でも、物はいくらあっても困らない」
 室内や外の物置には、町から奪った金品や食料が積まれている。
 全て、力で奪い取った。仕事の成果だ。
 配下らはそれをもっと欲している。
 頭にはそれが分かっている。だから「確かに」と言って立ち上がった。
「明日にまた始めるか」
「場所は?」
「同じ所の近辺で良い。あそこの兵はザルだ」
 ただし、と頭は声を低める。
「警戒はしておけ。例の邪魔だけじゃなく……ここの所、普通じゃねえ奴まで現れてるからな」
 それに配下達は返事をして、出発の準備を始める。

●2.
「来たか」
 深夜、森の方から現れる賊の集団を……陰から見据える者達がいた。
 盾に兜、そして鋭い剣。
 鈍色に武装したその男達は、全身に夜の彩を映してまるで薄闇に溶け込むようだ。
 それでいて、揺蕩う焔のような戦意を秘めている。
「行くぞ」
 それを発露するように――先頭の剣士が合図をした瞬間、部下達は一斉に走り出して賊の集団へと戦いを仕掛けた。
「ちっ、来やがったか!」
 賊の頭は毒づきながら応戦する。
 それでも個の力は剣士達が上。今宵ばかりは、形勢が傾くかに思えた。
 が、そこで剣士達ははっとする。
 争う両者の側面から……魔法の光がきらめいたのだ。
 その輝きは剣士達を穿ちながら、賊にも大きな被害を齎していく。
「今叩かれるとまずい、退却するぞ」
 剣士達は早々に下がっていく。賊らもまた、夜闇に散開していった。

●3.
 略奪に走る者。
 そこへ刃を突きつける者。
 町の灯りに群がるように蠢くその影は、まるで虫のように見えた。
 いや、事実虫なのだろう。
 餌場の近くで這う事しか出来ない、蛆虫だ。剣戟、悲鳴、足音――それらは差詰、無様な羽音といったところか。
「愚かなものだ」
 装束を深く被った男は、思いと共に呟く。
「好きなだけ踊れ」
 最後にその場に立っているのは自分なのだから、と。
 男は真っ直ぐに手を翳す。すると同じ装束の男達が、その争いの渦中へと走っていった。

●静寂の町
「来てくださってありがとうございます」
 冒険者達にそう言った青年の顔には、疲弊が浮かんで見えた。
 気の所為ではないだろう。
 歩みだすその町は静かで、緊張した空気が流れている。それが穏やかな平和と言うには、かけ離れた印象を与えていたから。
 そして彼は依頼を述べる。
「皆さんには……この町の周辺で争う“三つの勢力”を止めて、町を平和にして欲しいんです」

 キンザ男爵領アダムワール。
 王国の中心からは遠い小さな領地の、ミニッツという小さな町。
 そこに冒険者達を招いた依頼人――町役場の青年は、畑の見える一角でいきさつの説明を始めていた。
「始まりは、農地が荒らされた事でした。最初はこそ泥あたりなのだと思いましたよ」
 だが、何者かによるその悪行はエスカレートしたという。
 農地が荒らされるだけでなく、農家が略奪に遭ったのだ。
「重い怪我を負う住人も出ました」
 ――町が賊に、目をつけられたのかもしれない。
 そう考えた町人は、武器を手に見回りを強化しはじめた。賊の一人や二人なら、皆でかかれば相手に出来ると考えたのだ。
 だが――
「ならず者は、一人や二人ではなかったんです」
 ある夜に現れた略奪者の正体は……集団だった。
「おそらく、よく統率されていたと思います」
 略奪に慣れている無法者――とても一般人が立ち向かえる相手ではなかったのだ。
 ここまででも十二分に、苦境。
「けれど」
 彼は目を伏せる。
「問題はそれで終わりではありませんでした」

 青年は町長と共に、領主の男爵へ解決してほしいと陳情に行ったという。
「すると、男爵の答えが意外なものだったんです」
 曰く、賊らしきものの存在は把握している。
 ただその賊らは、更に別の何者かと争っていて……その戦いに領地が巻き込まれている可能性があるといったのだ。
「その解決の為に今、寄り親に相談を行う算段をしていると」
 はじめはどういう事が判らなかった。
 ただ――説明通りの事件が起こって意味を理解したという。
「ある夜、略奪に来た賊が……全く別の集団と戦う所を見たのです」
 どうやら賊は、何度もその集団と戦っていて……その争いが領地へ波及したという事らしい、と。
 事態はそれだけに留まらない。
「ミニッツ以外の町にも、被害が出ていました。先の“別の集団”の他に、新たな勢力があって……その二者が争っていたのです」
 新たな勢力は、時に賊とも戦いを繰り広げている。
「つまり、三つの勢力がこの近辺を拠点に争っている、という事のようなのです」

●平和の為に
 男爵はミニッツに兵を出してくれているという。
 それでも青年の顔は明るくない。
「相手は大勢いて、いつ現れるかも分かりません。領地の兵だけでは……対処がしきれないみたいで」
 元来が、広くない領地の下級貴族。
 男爵に出せる兵力も限界があるのだろう。既に数度の略奪を防げなかったという。
「男爵様も、奔走して下さってはいるようです。ただ、寄り親は侯爵様でお忙しいらしく、こちらの問題に手を付けるのが遅れているとか」
 いつかは、兵も増えるかも知れない。
 だがミニッツに住む者は明日をも知れぬ身。それを待ってはいられない。
「だから皆さんを頼らせて頂きたいのです」
 青年は町の仲間と共に、出来る限りでならず者達の動向を調べたという。
「それで、彼らがどこから来るのか……おおよその推測を立てる事はできました。勿論、正しいかどうかは分かりませんが」
 彼が指すのは三つの方向だ。
 ――北の森。
 ――東の渓谷。
 ――西の丘陵。
「勢力が人里に居を構えていないなら……その辺りにアジトがあるかも知れません」
 冒険者に望むのは、町の平和。
 故にこの情報を元に調査し、必要に応じて討伐をお願いしたい、と。
「僕達も何とかしたいけれど……悔しい事に、こういった事には素人です。調査方法などは、全ておまかせしたいと思います」
 言いながら青年は静かに頭を下げる。
「相手は、有無を言わさず人を襲うような者達です。どうか、お気をつけて」

解説

●目的  三つの敵勢力について調査する。  必要に応じて、町の平和の為に行動する。 ●状態  正体不明の三つの勢力が、ミニッツの町や近隣で略奪や争いを繰り返している。  勢力はそれぞれに敵対関係にある可能性が高く、どの勢力同士も戦っている姿が確認されている。 ●勢力について 1.賊  主にミニッツの町の略奪を行っている集団。  三つの勢力の中で、一番始めに領地に被害を齎した。  剣や斧などを装備した集団で、バルバロイなどの集まりではないかと推測されている。  北の森から現れている。 2.武装集団  1の集団と争う姿が多く目撃されている。  1の集団と比べ、質の高い武器や防具を装備している。  戦いの練度も高いと思われるが、数が多いわけではなく、他の勢力に対してそれぞれ優位をとる事は出来ていない模様。  傭兵か何かの集団と推測されている。  東の渓谷から現れている。 3.装束の男達  主に装束を纏って顔を隠している集団。  他二つの勢力に比べ、目撃数は少ない。  ただ、出現のたびに他の勢力に大きな被害を与えている。時に略奪も行っている。  魔法の力を使う者がいる模様。  西の丘陵から現れている。 ●場所 ・北の森  小さな山を中心に広がる森林地帯。  木々はそれなりに深い。 ・東の渓谷  川が多く流れる渓谷地帯。  猪や熊などの野生動物が出没し、一般人には危険地帯とされる。 ・西の丘陵  荒野に近い環境。  大地の隆起や気温の上下が激しく、常人には過ごし辛い。  砂風が吹いており視界も不明瞭。 ・ミニッツ  三勢力の争いや略奪で被害を受けている町。  領地の北側に位置しており、森、渓谷、丘陵、どこからも距離が遠く離れていない。 ・キンザ男爵領アダムワール  ミニッツを内に含む小領地。  領地の被害を問題視しており、兵を町に置いているが守り切れてはいない状況。  男爵は寄り親貴族の元へ出向く為にと、今は不在。 ●勢力との邂逅タイミングについて  森や渓谷や丘陵に直接出向く場合、各勢力に単独で出会える可能性が高い。  争いや略奪に来るのを待つ場合、複数の勢力が現れる可能性が高い。 ●調査について  どのタイミングで、どの勢力をどのように調査するかは冒険者の任意。  調査期間は一週間程度の予定(伸びても構わない)。

マスターより

連作の第一話となります。 正体不明の複数の勢力について、調査を行うシナリオとなります。 この連作では、調査の為にどう動くかを自分達で決定します。 基本は一つの勢力を深掘りしていくか、複数勢力を並行して調べるかという形になるでしょう。 領地に被害を与える敵ではあるので、各勢力へ即討伐に向かう事も出来ます。 ただ、現状では各勢力のアジトや人数が詳細不明なので、慎重さも必要になるでしょう。 どれかの勢力に加担する動きをしてみても、得られる情報はあるかも知れません。ただ、各勢力ともよそ者を受け入れる可能性は低いのでリスクはあるでしょう。 町の平和が保証出来た段階で連作は終了になります。 皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。

リプレイ

●調査へ
「それじゃ、頼むな」
 歩み出すカイン・ステラに、皆も頷いて答えた。
 町を背に、調査へ赴く所。勢力全てを網羅する算段で……カインは山を目指す予定だ。
 道中、町を振り返る。
(やっぱり妙だよな)
 ミニッツは普通の町だった。
 軽く見た限りは、領として特筆する点も無い。敵がここに拘る何かがあるのか――不可解さは拭えなかった。
 一応、男爵の寄り親の名も聞いたが――
「まずはこっちかね」
 望む遠景に、北方の森がシルエットを現す。

「さて、と。頼むぞ」
 森に入ったカインは、栗鼠のランに木の枝上を先行させた。
 自身は茂みに身を潜めつつ、ランの視界も活用して隠密してゆく。
 と――
(あったな。足跡)
 枝が折れた場所も見つけ、辿ると……木が切り開かれた空間が現れた。
 先に見えたのが――
(アジトだな)
 小屋や物置が並んだ場だ。
(しかし、立派なもんだな)
 そこは生活拠点が出来上がっており、まるで集落。
 随分うまくやっている。そんな印象を抱く眺めだった。
(何が出てくるかね)
 それを確かめる為に――賊の姿が見えると、ランをそこへ滑り込ませてゆく。

 川の水音と共に岩場が目立ち始める。
 シンディー・ホシカとエルナ・クルプファルツは、東の渓谷まで足を伸ばしていた。
 仲間達も調査を進めてくれている――故にとエルナは気合を込めて。
「頑張らなくてはいけませんね!」
「ええ」
 頷くシンディーは結い直した髪にそっと触れる。
 ツインテールとなったその見目は、普段の育ちの良い印象とは一風違えて、目を惹く華やかさがある。
 それは“シンディー”ではやりにくい策も出来る「踊り子のツバキ」としての姿。
「それじゃ、後で」
「はい!」
 エルナが応えると、まずはシンディーが正面から渓谷に入った。
 そうして川沿いを進み、岩場を越え――河原にテントを張る剣士達を見つける。
 件の武装集団だ。
 そこへ、シンディーは警戒する素振りなく近づいた。
「何者だ!」
 即座に剣士の一人が敵意を見せる。
 ただ、他の剣士が「待て」と制止して目を向けた。
「女一人か。どうした?」
「ああ、良かった……。こんな所まで入り込んじゃって困ってたのよ」
 シンディーは安堵の声を出す。
 その仕草は女芸人。与える印象に、寸分違わぬ言動を見せていた。
「あたしはツバキ。踊り子をしてるの。道に迷ってしまって」
「旅芸人か」
 一人が息を吐くと、別の剣士が口を開く。
「折角だ、踊ってもらうのは? 今日は休むだけだろう」
「だが――」
 数人が渋るが、シンディーは好機と見て言った。
「道案内とか、一晩を過ごせる場所を教えてくれるなら――勿論、お礼に踊るわ」
 軽くステップを踏む。
 すると彼らは、暫しそれに視線を奪われていた。

(うまく行っているようですね!)
 エルナは別方向から剣士達に近づいていた。
 シンディーが彼らの意識を惹き付けている間に……まずは近場の草むらへ。
 そして――
(お願いしますね!)
 小声に小さく鳴いて応えるのが、栗鼠のプリニウス。
 エルナと離れた岩陰に居り……両者の視界を合わせて拠点を広く見回せた。
 改めて観察すると、そこは岩場に守られた好立地。
 防御に強く逃げ道もある。傍に川が流れ、動物も狩りやすい環境だ。
 拠点としては欠点が無いほどで。
(時間をかけて探したのでしょうか!)
 そんな印象も抱きながら、エルナは剣士の配置にも目を配る。
 彼らはシンディーに目を取られているが、全体で一箇所には集まらず……防備は崩れていない。
 二十にも満たない人数だが、一人一人が手練のようだ。
 ――と。
(動き出しましたね……!)
 対話がうまく運び、シンディーが剣士らと拠点の中心へ移動し始める。
(こちらも移動しましょう!)
 エルナの思いにプリニウスもしっぽを振って答え、さらに距離を狭めてゆく。

 ミニッツにて、アドルフ・ジーノとナタリア・フィッツジェラルドは役場の資料を探っていた。
 求める情報は、男爵の寄り親貴族。だが――
「侯爵様の事は余り判りません」
 と、依頼人の青年が見せた資料は対外的にも公開されているものだけだ。
「普通の貴族、みたいだね」
「ああ」
 アドルフに頷き、ナタリアも資料を眺める。
「爵位に見合う知名度、領地、寄り子を持つ侯爵、か」
 典型的な上級貴族であり、近隣では有名。判る範囲から怪しい情報は無かった。
(真っ当な貴族か。それなら、ここの問題もうまく対処しそうなものだが)
 思いながら――ナタリアはアドルフと分かれ、町の調査に入った。
(欲しいのは生の声だ)
 故に冒険者ではなく――医者として行動。
 農地を中心に、怪我人は多くいる。その付近にゲルを用意し……簡易の診療所を設営。
 その上で荷馬車を従え、医療物資を運び込んだ。
 すると助けを求める者が多く現れるから、ナタリアは彼らの手当をしつつ話を聞く。
「この傷は賊に?」
「ええ。酷いものでした」
 農民の一人が言うと、ナタリアは武装勢力についても問う。
「彼らも町に被害を?」
「略奪の話は聞きませんが……戦いのどさくさで、建物を壊されたって人はいます」
 どちらも悪者ですよ、と。農民達は言葉を零していた。
(武装勢力も善ではないか)
 そんな情報を一つ一つ飲み込みながら――ナタリアは手助けも続けてゆく。

 砂混じりの景色が、風に毛羽立つようなざらつきを与える。
 荒野へ続くその場所で、アドルフはロゼットと合流していた。
「行きましょうか」
 ロゼットが指す先は隆起した大地の間。その先が目指すべき真っ直ぐの西だと、観察と感覚で把握してあった。
 頷くアドルフは、歩み出して呟く。
「何か工作めいたものがあるなら……こっちの勢力の可能性が高いよね」
「ええ。複雑な状況ではあるけど、少なくとも蛮族や傭兵とは毛色が違いそうだわ」
 ロゼットは応える。
 故にこそ、足を伸ばす事に決めたのだ――彼らへ接触を図る為に。
 その内に風が冷え、砂風が強くなる。ロゼットはマントを被り直した。
「気をつけてね」
「うん」
 アドルフも声を返して周囲を警戒する。
 と、遠方に大きな岩場を見つける。その陰に……何者かが潜む気配を捉えた。
 二人は見合ってから、足を向ける。
 すると岩陰から、装束を纏った男が歩み出て声を飛ばした。
「止まれ」
 そこにあるのは敵意。
 場合によっては攻撃を仕掛ける――そんな意図も感じられた。
 だからロゼットは声を投げ返す。
「戦闘の意思はないわ。少し話をさせてもらえないかしら」
 一瞬の沈黙。
 それから数人の装束姿が、こちらを左右から囲うように立った。
「貴様らは」
「冒険者だよ」
 アドルフが隠さず答える。
「ミニッツの街から依頼されて。三つの集団……その争いを止めるようにって」
 言いながらアドルフは彼らを観察する。
 只者でない事はすぐに判った。授恵者もいるだろうと感じられる。
 だがその中でも、ロゼットは怯まずに言った。
「略奪と戦闘を止めて頂戴」
「……我らが略奪者だとして。請われた所で聞き入れると思うか」
 と、一人が返す。
 ロゼットはそちらを見た。
 最奥に立つその男は、他の男とも異質な気配を纏っていた。
 或いは一番の実力者か。
 だがこちらの前に姿を現した事に……ロゼットは一つの仮説を立てて、言った。
「勿論、簡単にとは思っていないわ。だからこそ、こうして足を運んだの」
 何故なら、と続ける。
「三つの集団の中では、貴方達が一番、優位に立ち回っている。優秀なリーダーがいる証拠――それなら話し合いができないかと考えたのよ」
「……」
 最奥の男は僅かに黙る。
 だが微かに顎をしゃくる。話だけは聞いてやる、というように。

●影
 ――俺達も稼げるようになったな。
 ――ああ、もうチンピラとは違え。
 カインは賊のそんな会話に耳を澄ます。
 聞こえるのは彼ら――“泥雨団”の成功を喜ぶ自尊の声だ。
(泥雨団、ね。目的は略奪みたいだが)
 気になるのは、彼らが町を熟知していた事。
 反面他の勢力に詳しくはなく、印象の上でも“ただの賊”。ならば――
(情報源がいる筈だ)
 思いつつランを走らせ……見つけたのが賊の一人と話す男だ。
 装備も立居も、他の賊とは違う。
(首領格だな)
 カインはその会話に意識を集中した。
『今回の成功もお頭の力ですね』
『伊達に以前捕まってた訳じゃねえ。怪我の功名さ』
 カインは目を細める。
(……首領は過去、領で捕縛を?)
 とすれば、町の土地勘があってもおかしくはない。
(だが賊が無罪放免されたのか? それに“今”の町に詳しいのはなぜだ)
 カインは引き上げず、ぎりぎりまで情報を狙う。
 と、一人になった首領が声を零す。
『さて。次に守りが緩くなる日は、暫く先だな』
 カインは目を閉じる。
(町の兵の動きを知ってるのか。それを派遣したのは――)

 煮炊きが始まると、鍋から良い香りが昇る。
 その中でシンディーは忙しく動いていた。
「女手が無くて困ってることがあったら、手伝うわよ」
 勿論お礼はもらうけど、と。そんな交渉もうまく運び……料理に加わっていたのだ。
 剣士達は寛いでいる。食事を味わい、シンディーが踊りを見せれば……指笛も響いた。
 その間も冷静に、シンディーは彼らを観察する。
(羽目を外している感じはないのよね)
 彼らはこちらを歓迎している。
 ただ、常に仕事も意識はしているようだった。
 彼らは出自の違う人間が、都度集められた集団らしいが……全体の統制が取れている。シンディーに対しても紳士的ではあった。
 その理由は、判る。
 シンディーがターンすると拍手が響く。その中でも、表情一つ変えず鞘に手を置く剣士がいた。
(彼がリーダーね)
 その剣士の傍では、仲間も比較的静かだ。
 メイズ、と呼ばれるその男が……この集団を強く統(す)べているのは間違いなかった。

 エルナも彼らの会話に集中する。
 判るのは、剣士らも他勢力には詳しくないという事だ。
 彼らが持つ情報は少ない。
 それでも不和の一つも起きないのは――
(メイズさんが束ねているからですね……!)
 一番の手練なのだろう。メイズの言葉には皆従っていて――
「俺は休む。女には道案内を」
「判りました。明日も同じで?」
「ああ。ただ剣はいつでも取れるようにしておけ」
 メイズが言うと、全員が従順に頷いていた。
(なら、調べるべきは彼ですね!)
 と、エルナはメイズが水浴びを始めた隙に、テントをプリニウスに探らせた。
 すると、そこに怪しいものはなかったが……エルナはメイズが脱いだ鎧の間に、封書を見つける。
 メイズは封書を読んで即座に焼き捨てた、が。
(間に合いましたね!)
 エルナはテントから出したプリニウスと、自身の視界を合わせて……読み取っていた。
 書かれていたものは――
(“泥雨の行動予定”。日時からすると、蛮族さん達の事でしょうか!)
 ひとまず覚えた内容をメモして……離脱の準備も整えていく。

 ナタリアは聞き込みを続けた。
 判ったのは、装束の集団は略奪を丁寧には行っていない事。
「争いの後は酷い荒れ方でしたよ」
 そんな住人の話を聞くに、戦いぶりは苛烈だったようだが――
(物資が目的では無いな)
 他、男爵と侯爵の調べも深めた。
 すると両者は、さほど密に関わっていない事が判る。
「侯爵様の元へ出向くなんて珍しいですよ。若い頃はやんちゃだったようだけど……やっと貴族の自覚が出来たんでしょう」
 老齢の町人はそう言った。
(男爵は嫡子の頃は品行方正ではなかったようだな)
 今、まともになったとして……侯爵も真っ当なら、やはり状況には齟齬がある。
(侯爵が、と思っていたが、或いは――)
 その後町の帳簿を見せてもらうと、最近、税が上がっているのが判った。
 それを尋ねると、役場の青年は言う。
「当時は不作でもありませんでしたよ。領も困窮はしていなかったはずです」
「なら、男爵の実入りは増えたのか。どこかに還元が?」
「いえ、特に変化は」
「……そうか」
 ナタリアは呟く。男爵はその利益を何に使ったのか、と。

(付け入る隙はあるわね)
 ロゼットは相手の態度に、洞察を得ていた。
 最奥の男はこちらの言葉に気を良くしている。尊大で自信家――その推測通りなのだろう、と。
 故にロゼットは続ける。
「貴方達が何者で、どんな目的があるのか教えてもらいたいわ」
「我々は敵と戦っている」
 男は答えた。
 ただ言葉は短く、それ以上の事は伝える意思はないようだ。
 だからアドルフはもう一歩踏み込む。
「争いを止めるつもりはないの?」
 それに男は言葉を返さない。
 愚問という意味か、それとも別の意味があるのか。
 アドルフは考えを働かせながらも、引き下がらず続けた。
「もし戦いを止められないなら……その理由だけでも教えてほしいんだ」
「我々は負けて去る事はしない」
 即ち止めるつもりはない、という事だ。
(“目的”に関しては、どうしても伏せたいのかしら)
 ロゼットが思いを抱くと、そこで男は続ける。
「これ以上は他者が介入する問題ではない。余計な詮索は身を滅ぼすぞ」
 話は終わり、というように。周りも実力行使の態勢を取り始める。
 それでもロゼットは「戦う意思はない」と繰り返した。
「私たちだって、わざわざ強い相手と戦いたくないわ。貴方たちの欲する所を知りたいの」
「……戦いの目的は、相手を倒す事だ」
 男の言葉に、ロゼットは違和感を覚えた。
 今、彼らに感じる実力からすれば――
「蛮族の類は少なくとも、貴方たちの敵ではなさそうだけど」
 全力を出せば、と。
 言ったその言葉に、男は反応して合図する。
 周りの装束達が攻撃する素振りを見せた。
 故に瞬間――アドルフが閃光塗弾を投擲。一帯を光に包んだ。
「ロゼットお姉さん!」
 アドルフが言って走りだすと、ロゼットも砂風に紛れ逃走していく。
 距離が出来るとアドルフは呟いた。
「図星をつかれてる感じだったね」
「ええ。彼らは――きっと“全力で戦ってない”。それに彼らの正体は……」

 町で皆と合流後。
 ロゼットの伝えた可能性に、ナタリアは頷いていた。
「メドゥの指先、か」
「授恵者が揃っていたから、あり得ると思う」
 アドルフもそう荒野での様子を告げると――カインも自身の収穫を話す。
「賊の仕事には、男爵が関わってそうだ」
「なら、こちらも同じかも知れません!」
 と、エルナが言った理由はあの封書だ。
 賊の動きは武装集団に伝わっていた。辿れば、同じ情報源の可能性は高い。
 シンディーは成程、と呟く。
「あの団長、他の剣士と様子が違ったわ」
「男爵の手下、かもな」
 ナタリアは言った。
 既知の賊と手下。うまく操る事も出来るだろう。
 ロゼットは声を静める。
「なら、装束の男達も……?」
「状況を知ってて合わせていた可能性はあるな」
 少なくない金を受け取れば、そのくらいはやるだろう、とナタリアは返す。
 見据えるのは領地の中心。町の先にある、男爵邸の方角だった。

マスターコメント

お疲れ様でした。 三勢力と町からの情報収集に成功し、彼らを動かしていた情報源を浮かび上がらせる事ができました。 次回以降、自由な調査を基本に、より積極的な行動に移る事も出来るようになるでしょう。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜8人

2023年04月07日 00時52分13秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. シンディー・ホシカ

    キャスターのシンディーよ。 依頼は成立ね、良かった。 三つの集団の中で、まだマトモな方に思える2の武装集団に接触してみようかなって。 道に迷った旅の踊り子という振りで、渓谷に。 接触したら話をして、どんな集団なのか探りを入れてみようかなって思ってる。 今のところは、こういう方針ね。

  2. カイン・ステラ

    シューター、カイン・ステラ。 よろしくな。 俺の場合は大鼬のファか栗鼠のランを潜り込ませ、聞き耳立てることもできるが、そうなると、森か渓谷になるかな。 丘陵も環境を考えると、接触して、の方がいいだろうが。 一勢力に集中するか、複数の勢力を並行するか、調査方法はこちらに委ねられてるし、まずはそこからかな。

  3. エルナ・クルプファルツ

    エルヴンシューターのエルナです!みなさまよろしくお願いしますね! 私もリスさんに潜入と盗聴をお願いしつつ、捜波で内部の人数を探っていく感じの動きを考えています! 向かうなら1か3かなとは思いつつ、まずは手分けするかみなさんで同じところに向かうかを話し合う方が良さそうですね! 参加者が増えるかにもよりますが、私は手分けするのもありかもと思っていたりしますね!

  4. ロゼット

    ヒーラーのロゼットよ。 まだ断定はできないけど、略奪に関わっていない 2の武装集団は、まだ対話の余地があるかもしれないわね。 2の武装集団の目的や背後関係を調べつつ、 1の賊の規模や3の装束の正体を探る…という感じかしら。 必ず3つ全部を今回、調べなきゃいけない訳でもないけど 既に方針が分かれているようだし、分かれても良さそうね。 私の場合は1なら普通に隠れて偵察、2ならシンディーと 同じように接触、3は何か一芝居を入れての接触かなと。 偵察ではシューターとペットに負けそうだし、 2>3>1くらいの希望順かな。ひとまず、ここまで。

  5. アドルフ・ジーノ

    ヒーラーのアドルフだよ。よろしくね。 今のところ2に向かう人が2人いるなら、ぼくは3に行こうかな。 敵の敵は味方…かは分からないけど、少なくとも盗賊よりかは話し易いと思うよ。 接触方法は、荒野に近い環境の丘陵で遮蔽が少ないんじゃないかというのと、こそこそするのは向いてないという理由でシンディーお姉さんと同じく変装やなにかをするつもり。 でも、わざわざ荒野に行く理由が今のところ思いつかないからちょっと考えてみるよ。

  6. ロゼット

    1の賊は最初に略奪を始めたなら、裏のない賊っぽいから、 戦力や規模を調べたら、次は討伐ってなりそうなのよね。 2の武装集団は、事情によっては話し合いができるかしら。 1の賊を倒すためなら、手を組んだりできるのかなって。 3の装束が分からない…。略奪もしているようだけど、 それが目的ではなさそうな動き。1と2に敵対してる感じ? >アドルフ >荒野に行く理由 2に行くシンディーのように、旅人を装って接触するのがひとつ。 ただ旅人のフリだと、あれこれ聞いて答えてもらうのも難しそう。 私が行くとしたら、いっそ真っ向から、争いを止めてくれと 依頼された者だが、なぜこの領地で暴れる?と突っ込んでみるとか。 リスクはあるけど魔法を使える、キャスターが率いているあたり、 いきなり襲ってくるとは限らないんじゃないかなって。 3は謎が多いから調べてはおきたいし、なんなら一緒にやる? ひとりは危ないけど複数なら最悪、逃走ぐらいはできるかなって。 他の案でいきたいなら、邪魔はせず2とかに行くわ。

  7. ナタリア・フィッツジェラルド

    ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 暫し考え込んで参じた。 概要でも相談の流れでも、おおむね目を通したつもりだが。 気になっているのはキンザ男爵が寄り親の下へと向かっていて不在とされる状況で、彼の寄り親というのがどういう勢力・人物なのかというところだ。 賊に関しては、単に物量?に物を言わせて手頃な町や集落を襲撃しては略奪ともなれば数はさておき統制はそれ程でも無い筈で、装備の質に関しても特に言われていないなら裏に何者かがついているというのは考えにくいだろう。 寧ろ2の武装勢力の装備の質に加え、破壊行為は行っていても略奪は行っていないというのが気掛かりだし、3は双方を相手取れるだけの実力や戦力を持っているとなれば何らかのバックがついているとも考えられる。 なので2と3の正体と情報を鮮明なものとするべく、略奪や争乱によって損耗したミニッツに赴いた、流浪の医者という体を装って聞き込みなどの情報収集をしてみるつもりだ。 その際、荷馬車一式を用いて男爵量からの医療物資を送り届けたり、自前のゲルを用いて簡易的な病院設置という装いもしつつな。

  8. シンディー・ホシカ

    シンディーよ。 とりあえず、道に迷ったという旅人にどういう対応をするかで集団の性格はある程度の目安は付けられると思うから。 今回だけで、一つの勢力の全ての情報を得ようというのは欲張りすぎかな、とか。

  9. エルナ・クルプファルツ

    ナタリアさんの分析すごいですね!なんとなくそんな気もします! そう考えると3が時折略奪を行っているというのも、何かしらの工作めいた狙いがあったりしそうな気もしてきますね! ロゼットさんとアドルフさんで3に向かわれるなら、私は2へと向かいましょうか! シンディーさんが表から接触してくださるなら、私は裏から潜入して隠している何かを捜索してみようかなと思います! 後は捜波での人数や見張りや巡回などなどを把握しつつ、万一の際にシンディーさんが脱出出来るように退路を確保しておきたいですね! テレパス用意できるようでしたら、情報をやり取りするのもありかもしれません!

  10. ロゼット

    削除ゴメンなさい。エルナと発言が被ってしまって。 ちょっと行動を考え直したいから、希望を取り下げるわ。 エルナやシンディー、ルドルフの行き先は了解してるから。

  11. エルナ・クルプファルツ

    とと、そうでしたか! ちなみに私は他へ行き先を変える事もできますので、ロゼットさんが2を調査したいなどありましたら言っていただければ大丈夫ですよ!

  12. アドルフ・ジーノ

    工作めいた狙い> もしそうだとしたら、3つの勢力のうち盗賊の集団以外の人たちがその可能性がありそうだね。 2の勢力に関しては、町に被害を与えるというより盗賊に対して襲撃を繰り返しているみたいだから、どっちかといえば3の勢力ということになるのかしら…? あと、ミニッツ以外の町も被害が出ているから、キンザ男爵領自体を攻撃してるイメージがあるね。男爵領自体の国力を疲弊させるとか…略奪した物資の横流しとかをしたいのかしら? うーん…この辺はまだ情報が少ないからひとまず置いておこうかな。 ロゼットお姉さん> リスクはあるけど一番確実ではありそうだね。 ロゼットお姉さんさえ良ければ、一緒について行ってくれると心強いよ。 いざとなれば、2人がかりで光封縛で足止めして逃走するとかもできそうだし。 時間があるなら、ナタリアお姉さんが行ってた寄り親の勢力や人物についてあたってみたいね。資料に残ってるなら、僕が役に立つと思うのだけれど。

  13. アドルフ・ジーノ

    あ、すれ違いになっちゃったね… ロゼットお姉さんの取り下げは了解だよ。 とりあえず僕が3に行く予定は変わってないから、一緒に来てくれる人がいると助かるよ。

  14. ナタリア・フィッツジェラルド

    前回の発言では行先というか、3つの中からどの勢力を重点的に調べるかの表明まではしていなかったな。 2の希望者が多めみたいだから、私も3に焦点を絞りたい。 「時に」略奪も行っているともなると、何か目的のブツがあればそいつを狙うという意見も頷けるものだ……それが横流しでも横領でも。 ただ、行先としてはミニッツに居ついて医者という体で聞き込みや資料検索を行う形となるから、事と次第によってはアドルフとの行動は制約される形になるが、どうする? 一緒に行動するともなれば、私の助手という事も出来そうなものだが。 3の行動は双方とも敵に回しておきながら、手痛い反撃を特に受けてもいないようだからマトモな連中とは思えん。

  15. ロゼット

    >エルナ 意見がコロコロ変わって申し訳ないわ。 人手が増えて、ちょっと迷ってしまって。 そのまま2で大丈夫よ。 >アドルフ(先の発言で名前ミス、謝罪) じゃあ、一緒にやりましょうか。 危なくなったら撤退で、光縛封は了解よ。 視界の悪さも、上手く使えば逃げやすいとも言えるわね。 >ナタリア コロコロ変えて、申し訳ないわ。 街での聞き込みをメインにするなら、そちらをお願いしたいわ。 色んな方向から、調べてみるのが良いと思うし。 >カイン もし可能なら、賊について森で偵察をお願いできないかしら。 賊についても、規模や裏がないかの確認はしておきたいし。 とりあえず、3集団を誰かが調べてる形にはしたいなって。

  16. シンディー・ホシカ

    >エルナさん 協力ありがとう! テレパスなんだけど…… 「旅の踊り子」という設定で行くから「舞踏」が必須なのと、接触した際に好印象与えるためのスキルを取るから、こちらは取れないのよ。 ごめんなさい。

  17. アドルフ・ジーノ

    ロゼットお姉さん(お気になさらず)> わざわざありがとう。 それじゃあ、僕とロゼットお姉さんで3を偵察ということになるかな。 ナタリアお姉さん> ロゼットお姉さんが同行してくれることになったし、今回は3に行くことを主軸にするよ。 お誘いしてくれたのにごめんなさい。 ただ、出発前の準備段階で時間があるなら、資料検索で調べられることの範囲で僕もお手伝いするよ。

  18. エルナ・クルプファルツ

    >ロゼットさん わかりました! ではでは私は2へ向かいますね! >シンディーさん 踊り子力高めで行く感じですね! でしたら非常時の退路はリスさんが先導しますね!

  19. カイン・ステラ

    少し間が空いた、悪いな。 俺は森の方へ行くよ。 盗賊が何で男爵領を選んでるか知りたいし。

  20. ロゼット

    カインは賊の調査ありがとう。 明日は出発ね。プレイングの出し忘れには気をつけて。 後は現地で、頑張りましょう。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0