卓上の世界から飛び立って
空色みなも
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シナリオID:2841
オープニング
●
「月並みな言い方だけど、月日が流れるのは早いものね」
「ええ、本当に」
二人の少女の、優雅な茶会。
それは、卓上遊戯の数々を収めた棚に囲まれて。
ここはパンクリアース学園、卓上遊戯部の部室。
湯気を立てるカップを手に語らう二人は、その部員。
ジュエリア・シャイニー、六年生で現部長。
カーリィ・ブロンド、同じく六年生の金髪巻き毛。
「ふふっ、それにしても――」
「なんですの? わたくしの顔に何かついておりまして?」
ジュエリアが急に可笑しそうに息を吐いたものだから、カーリィが怪訝そうな顔をする。
「いえ、こうしてあなたと仲良く部室でお茶会する日が来るなんてね」
「それは――アナタがあの時、わたくしを巻き込んだからでしょう」
ジュエリアとカーリィがまだ五年生だった頃、二人は対立する立場にあった。
当時、王党派の生徒が部長を務めていた卓上遊戯部に入り浸るジュエリアは貴族派。
生徒会総選挙で王党派と貴族派が睨み合う最中、カーリィも同じ貴族派の生徒としてジュエリアを牽制していたのだ。
しかし気づいてみれば、いつしかカーリィも卓上遊戯部に入部するまでとなる。
これも、卓上遊戯部から依頼を受けた冒険者たちとの交流の結果であろう。
「それであなた、卒業後の件はどうなったの?」
「どうにかお父様にかけあって、嫁ぐことを決めるまでの猶予は頂けましたわ」
ここでジュエリアが気にかけたのは、カーリィの進路だ。
実は、カーリィの家は下級貴族。
伯爵家である実家は、経済的にそれほど成功していないという。
他家へカーリィを嫁に出すことで、資金援助を得るという案が出ていたらしいのだが――。
「聞いたわ。ずいぶんと勉強も頑張っていたみたいね」
「こ、これもわたくしの秘められた実力の内ですわ」
ジュエリアに微笑みを向けられて、カーリィは照れくさそうにそっぽを向いた。
家の中での発言力を増すために、カーリィは好成績で卒業するための努力をしていたようだ。
そう、卒業。二人は六年生。
この年の三月をもって、長く親しんだ学園を離れなければならないのだ。
ふわりとした香りに包まれた空間を。
しばし、上品に紅茶を啜る音だけが満たした。
●
「お世話になった先輩たちに何かお礼をしましょう!」
元気いっぱいの声が響くとともに、狼耳がぴこんと揺れる。
声の主はホロウ・ミラー。卓上遊戯部の一年生だ。
「そのアイデア自体には賛成だ。しかし――具体的に何をする?」
それに応じたエルン・フェランドも同じく卓上遊戯部一年生。
顔の横には、長い耳。
ハーフビーストにエルフ。
多文化を受け入れようとするパンクリアース学園のムーブメントは、卓上遊戯部にも及んでいたのだ。
「贈り物とかも定番だけど――」
「どうせなら、卓上遊戯部らしいことをしたい――ということかな」
といってもクロネ・クラゲンやハンデルス・トレイダーといった、ヒューマンの部員もやはりいる。
クロネは一年生、ハンデルスは四年生で現副部長だ。
彼らは六年生たちのいない場所にこっそり集合し、送別会の相談中である。
「この際、遊戯は遊戯でもテーブルの上を飛び出しちゃいませんか? ほら、卓上遊戯部から旅立っていく先輩たちですし!」
お祭りめいた催し物をたいそう好む、ホロウらしい意見だった。
彼女が構想したのは、卒業する先輩たちに学園の施設を様々に巡って貰いながら、訪れた各施設で起こるイベントを攻略して貰う体験型遊戯。
なるほど、これなら卒業前に学園のあちこちを見て回ることになり、学園という場所を思い出に残して貰えることになるだろう。
「いい案だと思う。しかし――具体的に何をする?」
エルンは賛同を示しつつも、どこかで聞いたばかりのような台詞を再び口にする。
これには一同、腕組みをして考え込んでしまう。
この構想を形にするには、どこで何を起こすのか、学園内のあちこちで発生させるイベントを詳細に煮詰めなければならない。
内容を考えるだけでなく、実行のための手も必要だろう。
「ここはやっぱり――」
冒険者。
ハンデルスの言葉を皮切りに、部員一同が口を揃えて同じ単語を発した。
「月並みな言い方だけど、月日が流れるのは早いものね」
「ええ、本当に」
二人の少女の、優雅な茶会。
それは、卓上遊戯の数々を収めた棚に囲まれて。
ここはパンクリアース学園、卓上遊戯部の部室。
湯気を立てるカップを手に語らう二人は、その部員。
ジュエリア・シャイニー、六年生で現部長。
カーリィ・ブロンド、同じく六年生の金髪巻き毛。
「ふふっ、それにしても――」
「なんですの? わたくしの顔に何かついておりまして?」
ジュエリアが急に可笑しそうに息を吐いたものだから、カーリィが怪訝そうな顔をする。
「いえ、こうしてあなたと仲良く部室でお茶会する日が来るなんてね」
「それは――アナタがあの時、わたくしを巻き込んだからでしょう」
ジュエリアとカーリィがまだ五年生だった頃、二人は対立する立場にあった。
当時、王党派の生徒が部長を務めていた卓上遊戯部に入り浸るジュエリアは貴族派。
生徒会総選挙で王党派と貴族派が睨み合う最中、カーリィも同じ貴族派の生徒としてジュエリアを牽制していたのだ。
しかし気づいてみれば、いつしかカーリィも卓上遊戯部に入部するまでとなる。
これも、卓上遊戯部から依頼を受けた冒険者たちとの交流の結果であろう。
「それであなた、卒業後の件はどうなったの?」
「どうにかお父様にかけあって、嫁ぐことを決めるまでの猶予は頂けましたわ」
ここでジュエリアが気にかけたのは、カーリィの進路だ。
実は、カーリィの家は下級貴族。
伯爵家である実家は、経済的にそれほど成功していないという。
他家へカーリィを嫁に出すことで、資金援助を得るという案が出ていたらしいのだが――。
「聞いたわ。ずいぶんと勉強も頑張っていたみたいね」
「こ、これもわたくしの秘められた実力の内ですわ」
ジュエリアに微笑みを向けられて、カーリィは照れくさそうにそっぽを向いた。
家の中での発言力を増すために、カーリィは好成績で卒業するための努力をしていたようだ。
そう、卒業。二人は六年生。
この年の三月をもって、長く親しんだ学園を離れなければならないのだ。
ふわりとした香りに包まれた空間を。
しばし、上品に紅茶を啜る音だけが満たした。
●
「お世話になった先輩たちに何かお礼をしましょう!」
元気いっぱいの声が響くとともに、狼耳がぴこんと揺れる。
声の主はホロウ・ミラー。卓上遊戯部の一年生だ。
「そのアイデア自体には賛成だ。しかし――具体的に何をする?」
それに応じたエルン・フェランドも同じく卓上遊戯部一年生。
顔の横には、長い耳。
ハーフビーストにエルフ。
多文化を受け入れようとするパンクリアース学園のムーブメントは、卓上遊戯部にも及んでいたのだ。
「贈り物とかも定番だけど――」
「どうせなら、卓上遊戯部らしいことをしたい――ということかな」
といってもクロネ・クラゲンやハンデルス・トレイダーといった、ヒューマンの部員もやはりいる。
クロネは一年生、ハンデルスは四年生で現副部長だ。
彼らは六年生たちのいない場所にこっそり集合し、送別会の相談中である。
「この際、遊戯は遊戯でもテーブルの上を飛び出しちゃいませんか? ほら、卓上遊戯部から旅立っていく先輩たちですし!」
お祭りめいた催し物をたいそう好む、ホロウらしい意見だった。
彼女が構想したのは、卒業する先輩たちに学園の施設を様々に巡って貰いながら、訪れた各施設で起こるイベントを攻略して貰う体験型遊戯。
なるほど、これなら卒業前に学園のあちこちを見て回ることになり、学園という場所を思い出に残して貰えることになるだろう。
「いい案だと思う。しかし――具体的に何をする?」
エルンは賛同を示しつつも、どこかで聞いたばかりのような台詞を再び口にする。
これには一同、腕組みをして考え込んでしまう。
この構想を形にするには、どこで何を起こすのか、学園内のあちこちで発生させるイベントを詳細に煮詰めなければならない。
内容を考えるだけでなく、実行のための手も必要だろう。
「ここはやっぱり――」
冒険者。
ハンデルスの言葉を皮切りに、部員一同が口を揃えて同じ単語を発した。
解説
●目的
パンクリアース学園の卓上遊戯部で卒業する生徒たちの送別会を成功させる。
●状況
今年度で学園を卒業するジュエリア・シャイニーとカーリィ・ブロンドへの餞に、見送る側の部員たちは送別会を計画します。
学園全体を使って遊戯の企画をする、というところまでは部員たちで到達したものの。具体的にどのようなイベントを行うかの案も、実施のための手も足りません。
そこで彼ら卓上遊戯部員は冒険者たちに助力を願う依頼を出すのでした。
●できること
・企画立案
こういうゴールを設定する、こういうルールで施設を巡る、こういうイベントを各施設でこなす、などの企画立案をします。実現可能性や他に出た案との兼ね合いの関係で、部員たちによりアレンジがなされる可能性はあります。
・設営と運営
各部屋で起こすイベントのために必要な道具をセッティングしたり、各部屋で待機してイベントを実施したりする役目を請け負います。
・イベントを楽しむ
ある晴れた日の昼頃。卒業する部員たちと一緒になって学園を巡り、見送る部員たちが企画した送別会を楽しみます。
●会場
学園にある設備の一部をイベントのために使用させて貰うことになっています。
ワールドガイドのパンクリアース学園施設案内のうち、以下の施設の一画(全ての範囲を貸し切りではない)が利用可能です。
・学生棟(教室・廊下)
・大図書館(図書室ではお静かに)
・第一運動場(地面は普通の土)
・大食堂(六人がけのテーブルがずらり)
・小食堂(屋台の出店のような設備がずらり)
・体育館裏の大木(告白スポットとして有名らしい)
・中庭(うとうとできるようなベンチ)
・動物小屋(魔獣のいるところは管理が厳しいから普通の動物小屋)
●登場NPC
▽ジュエリア・シャイニー
学園の六年生女子で、今年度で卒業。
卓上遊戯部の現部長。
実家は貴族派の貴族。
▽カーリィ・ブロンド
ジュエリアの同級生で、やはり今年度で卒業。
実家は貴族派の貴族。
▽ハンデルス・トレイダー
学園の四年生男子で、卓上遊戯部の副部長。
実家は平民だが、貴族の推薦を得て学園に入学した経緯を持つ。
次期部長に指名されている。
▽クロネ・クラゲン
ヒューマン男子、卓上遊戯部の一年生。
実家は王党派貴族。
▽エルン・フェランド
エルフ男子、卓上遊戯部の一年生。
▽ホロウ・ミラー
狼耳のハーフビースト女子、卓上遊戯部の一年生。
マスターより
お世話になっております、空色みなもです。
卓上遊戯部の最初のシナリオが出てから、部員が卒業していくのも気付けば二回目となりました。長らくお付き合いありがとうございます。
相談は必須ではありませんが、全体に影響するプレイングが複数提出された場合マスタリングが生じますため、その点についてはご了承ください。
スケジュールの都合上、念のため執筆期間を調整させて頂いております。
ご確認のうえ、ご参加いただければ幸いです。
巣立っていく生徒たちを見送る皆さんのプレイングをお待ちしております。
リプレイ
●
「皆さん、今日は集まってくださってありがとうございます」
「卓上遊戯部のことなら私は飛んできますよ!」
冒険者たちを出迎えたハンデルス・トレイダーへ、ルアンナ・ミュラーが朗らかに笑む。
実際にビッグオウムで大陸各地を飛び回っている冒険者が言うのであるから、なかなかに説得力の高い言葉だ。
「このような大事な機会に呼んでいただき、こちらこそありがとうございます」
「ジュエリア様とカーリィ様も、もうすぐ卒業……寂しいですけれど、最後の思い出は素敵なものにしたいですよね。わたしも、お手伝いがんばります!」
ルアンナの口にした、大事な機会――それはゲルダ・クラインの言うように、部員二人の卒業。
六年生であるジュエリア・シャイニーとカーリィ・ブロンドが学園を巣立っていく餞に、大掛かりなイベントを企画しようというのが今回の依頼趣旨だ。
「それで企画内容なんですが――学園内に散りばめたヒントを辿って各チェックポイントを巡ってもらいながら、ゴールを目指すというのはどうでしょうか」
「いいですね。それなら最終的には隠された宝物に辿り着くという形で、皆さんからの贈り物をしませんか?」
ルアンナとゲルダの発案もあり、イベントの大枠はすんなり決まる。
ストーリーとしては宝探し。
宝の在処に繋がる謎かけを手に入れ、訪れる先々で次のヒントを手に入れるというものだ。
「それじゃあ俺はそれぞれの部屋で出会うミニゲームでも準備するか。ここはやっぱ卓上遊戯の要素もあったほうがいいだろ?」
そう言ったナハシュの手には、カードゲームを収めた小箱が握られていた。
昨年の学園祭で卓上遊戯部が出展したものの一つだ。
「なら俺に二人のエスコート役をさせちゃくれねぇか」
「ええ、先輩方をよろしくお願いします」
ヴァンゲルス・ロッドの申し出も、ハンデルスは快く受け入れて。
準備されたヒントやミニゲーム、そして『宝物』を手に。
現役部員と冒険者たちが、各ポイントへと散っていった。
●
「嬢ちゃんたちも遂に卒業か。部室で一緒にゲームをした頃が懐かしいな」
「ええ――感慨深いですわね」
ヴァンゲルスは六年生の二人をスタート地点である第一運動場へ案内していた。
いつもは威勢のいいカーリィであるが、この日ばかりは少々しおらしくしている。
卒業を目の前に、感じ入っているのだろう。
「せっかく嬢ちゃんたちの後輩が頑張って準備してくれたんだ。ここは楽しんでいこうぜ。さあ、これが宝探しへの入り口だ」
ヴァンゲルスは巻物を一本、取り出して。
カーリィの手にしっかりと握らせる。
「『知識が集う場所』――これが宝の在処ですの?」
「学園で知識といえば――大図書館かしら?」
くるくると広げた巻物に書かれているヒントを、カーリィとジュエリアが顔を並べて覗き込んでいる。
その様子をヴァンゲルスは満足気に見守っていた。
●
「ようこそ『知識が集う場所』へ。わたしが知識の番人です」
大図書館では進行役としてゲルダが待ち受けていた。
「ここに宝はありません。ですが、宝に近づくための鍵をお渡ししますね」
「これは――ひょっとして、パズルですの?」
ゲルダが渡した紙片を見て、カーリィが目を白黒させる。
そこに描かれていたのは、ワードパズルであった。
ナハシュの発案により、ミニゲームとして組み込まれたものである。
枠の中に文字を当てはめていった結果、浮かび上がった単語が次のヒントと言うわけだ。
「ここに入る単語は――」
「なるほど……アナタ賢いですわね」
ジュエリアとカーリィは、二人で相談しながらパズルを埋めていく。
時折、解くのに詰まったときはヴァンゲルスがそれとなく助け舟を出したりもして。
「できましたわ……!」
パズルが完成した瞬間、思わず叫びそうになって慌てて口を押えたカーリィを。
知識の番人ことゲルダも、微笑ましく眺めていた。
●
小食堂の中でもたっぷりの具材を乗せたパンが名物の屋台を、六年生たちが訪れると。
「ようこそ『パン上の舞踏会』へ! 私がパンの番人です♪」
待っていたのはルアンナだった。
ここで六年生たちの障害となったのは、これまたナハシュの準備した卓上遊戯の一種。
土地の開拓を競争する、対戦型の遊戯だ。
この遊戯でルアンナに勝利すると、解くのが簡単なヒントを貰え。
敗北すると解くのが難しいヒントしか貰えない、という趣向である。
「おもてなしではありますが、遊戯に手加減はしませんからね」
「ええ、もちろんそれで構いません。どうせならカーリィさんとも、どっちが勝つか競争したいわね」
不敵な笑みを浮かべるルアンナに、ジュエリアも勝負に乗り気な様子を見せて。
屋台の前に並んだテーブルで、サイコロの転がる音が響いた。
●
「よっ。俺がここの番人ってやつだ」
ナハシュは学生棟にある教室の一つで、六年生たちを迎えた。
「ここでやってもらうのは、これだ。覚えてるか?」
「『ゴールディのお使い』――昨年の学園祭で出展したものですね」
ナハシュの取り出したカードを見て、ジュエリアは懐かしそうに目を細める。
去年の『各国文化の理解』を掲げた学園祭で、卓上遊戯部はゲームを通してテーマ実現に臨んでいた。
その際、ナハシュは自身も多文化クラスに属する学園生としてゴールディのブースを担当していたのだ。
「今回はカードを五回引いたうえで、最後に銀貨十枚のアップルパイを買えたら勝ちの簡易版だ。ま、ちょっとした運試しと思ってやってくれ」
ナハシュは器用にシャッフルしたカードの山を、机に積んで。
ではまずわたくしがと、カーリィの手が山札に伸びた。
●
ジュエリアとカーリィの二人は、行く先々で様々な景色を見た。
中庭を担当していたのは一年生のクロネ・クラゲン。
そこで六年生たちは花をテーマにした簡易なカードゲームを楽しむことになる。
動物小屋ではホロウ・ミラーが番人をやっていた。
六年生たちの到着を待っている間、動物を可愛がれるからと本人たっての希望だったらしい。
そしてエルン・フェランドの居場所は体育館裏の大木。
なんでも樹木の根元にいると落ち着くのだとか。
「『私たちの思い出』――これが最後のヒント、ですの? これは――」
「ええ、行きましょう。私たちの思い出の場所へ」
カーリィとジュエリアは顔を見合わせて、そして頷き合う。
二人の向かう先はもちろん――。
●
卓上遊戯部の部室では、各所に散っていた部員たちや冒険者たちが集合して待っていた。
「お二人にとって、一番の思い出の場所と言ったらここしかないですよね♪」
「学園内を回ってみて、いかがでしたか? これまでの学園生活を振り返る一助になれていたら幸いです」
ルアンナとゲルダも、番人の役目を終えた際に部室へ戻っていたようだ。
ここまで辿り着いたジュエリアとカーリィを、温かく出迎える。
「せっかくだ、全員でカードをやろうぜ。二人合わせてチップを五十枚溜めたら、お宝ゲットだ」
ナハシュの提案で、最後は全員の参加できるカードゲームが選ばれた。
「あの、ヴァンさんも参加されません? わたくし、最後にヴァンさんとも――」
「ああ、いいぜ。ただ言っておくが、やるからには真剣勝負だからな?」
カーリィの誘いに、ヴァンゲルスがニッと歯を見せて。
卓上遊戯部の部室は、部員たちの楽し気な笑い声に満たされた。
●
「いよいよ卒業だな。勉強、頑張ってるって聞いたぜ」
「――ええ」
送別会が終わった後、ヴァンゲルスはカーリィに声をかけ部室を離れていた。
「……俺の為か? なんて、これは自惚れだな」
ヴァンゲルスの言葉に、カーリィは何も言わず。
ただ静かに、微笑んだ。
「これで最後じゃねえよな。お前さんとはまた会える、だろう? この賭けにゃ負ける気がしねぇぜ」
「そうですわね。きっと、チップが倍以上になって返ってくることでしょう」
ヴァンゲルスの言い回しに精一杯、気の利いた台詞を返そうとしたカーリィが。
妙に可愛らしく見えたのか、ヴァンゲルスはくつくつと笑った。
カーリィの胸には部員たちから贈られた寄せ書きが抱えられて。
そこに冒険者たちからの言葉も寄せられていた。
『一緒に卓上遊戯を遊べて嬉しかったです。ご卒業おめでとうございます――ゲルダ・クライン』
『卒業おめでとうございます♪ またいつでも、遊びに来てくださいね――ルアンナ・ミュラー』
『去年のイベントけっこう楽しかったぜ! ありがとさん! ――ナハシュ』
『よく頑張ったな。卒業おめでとう――ヴァンゲルス・ロッド』
それはカーリィの手に入れた『宝物』。
体育館裏で、日の傾きかけた空を風が通り過ぎ。
大木の梢を、そよそよと揺らした。
「皆さん、今日は集まってくださってありがとうございます」
「卓上遊戯部のことなら私は飛んできますよ!」
冒険者たちを出迎えたハンデルス・トレイダーへ、ルアンナ・ミュラーが朗らかに笑む。
実際にビッグオウムで大陸各地を飛び回っている冒険者が言うのであるから、なかなかに説得力の高い言葉だ。
「このような大事な機会に呼んでいただき、こちらこそありがとうございます」
「ジュエリア様とカーリィ様も、もうすぐ卒業……寂しいですけれど、最後の思い出は素敵なものにしたいですよね。わたしも、お手伝いがんばります!」
ルアンナの口にした、大事な機会――それはゲルダ・クラインの言うように、部員二人の卒業。
六年生であるジュエリア・シャイニーとカーリィ・ブロンドが学園を巣立っていく餞に、大掛かりなイベントを企画しようというのが今回の依頼趣旨だ。
「それで企画内容なんですが――学園内に散りばめたヒントを辿って各チェックポイントを巡ってもらいながら、ゴールを目指すというのはどうでしょうか」
「いいですね。それなら最終的には隠された宝物に辿り着くという形で、皆さんからの贈り物をしませんか?」
ルアンナとゲルダの発案もあり、イベントの大枠はすんなり決まる。
ストーリーとしては宝探し。
宝の在処に繋がる謎かけを手に入れ、訪れる先々で次のヒントを手に入れるというものだ。
「それじゃあ俺はそれぞれの部屋で出会うミニゲームでも準備するか。ここはやっぱ卓上遊戯の要素もあったほうがいいだろ?」
そう言ったナハシュの手には、カードゲームを収めた小箱が握られていた。
昨年の学園祭で卓上遊戯部が出展したものの一つだ。
「なら俺に二人のエスコート役をさせちゃくれねぇか」
「ええ、先輩方をよろしくお願いします」
ヴァンゲルス・ロッドの申し出も、ハンデルスは快く受け入れて。
準備されたヒントやミニゲーム、そして『宝物』を手に。
現役部員と冒険者たちが、各ポイントへと散っていった。
●
「嬢ちゃんたちも遂に卒業か。部室で一緒にゲームをした頃が懐かしいな」
「ええ――感慨深いですわね」
ヴァンゲルスは六年生の二人をスタート地点である第一運動場へ案内していた。
いつもは威勢のいいカーリィであるが、この日ばかりは少々しおらしくしている。
卒業を目の前に、感じ入っているのだろう。
「せっかく嬢ちゃんたちの後輩が頑張って準備してくれたんだ。ここは楽しんでいこうぜ。さあ、これが宝探しへの入り口だ」
ヴァンゲルスは巻物を一本、取り出して。
カーリィの手にしっかりと握らせる。
「『知識が集う場所』――これが宝の在処ですの?」
「学園で知識といえば――大図書館かしら?」
くるくると広げた巻物に書かれているヒントを、カーリィとジュエリアが顔を並べて覗き込んでいる。
その様子をヴァンゲルスは満足気に見守っていた。
●
「ようこそ『知識が集う場所』へ。わたしが知識の番人です」
大図書館では進行役としてゲルダが待ち受けていた。
「ここに宝はありません。ですが、宝に近づくための鍵をお渡ししますね」
「これは――ひょっとして、パズルですの?」
ゲルダが渡した紙片を見て、カーリィが目を白黒させる。
そこに描かれていたのは、ワードパズルであった。
ナハシュの発案により、ミニゲームとして組み込まれたものである。
枠の中に文字を当てはめていった結果、浮かび上がった単語が次のヒントと言うわけだ。
「ここに入る単語は――」
「なるほど……アナタ賢いですわね」
ジュエリアとカーリィは、二人で相談しながらパズルを埋めていく。
時折、解くのに詰まったときはヴァンゲルスがそれとなく助け舟を出したりもして。
「できましたわ……!」
パズルが完成した瞬間、思わず叫びそうになって慌てて口を押えたカーリィを。
知識の番人ことゲルダも、微笑ましく眺めていた。
●
小食堂の中でもたっぷりの具材を乗せたパンが名物の屋台を、六年生たちが訪れると。
「ようこそ『パン上の舞踏会』へ! 私がパンの番人です♪」
待っていたのはルアンナだった。
ここで六年生たちの障害となったのは、これまたナハシュの準備した卓上遊戯の一種。
土地の開拓を競争する、対戦型の遊戯だ。
この遊戯でルアンナに勝利すると、解くのが簡単なヒントを貰え。
敗北すると解くのが難しいヒントしか貰えない、という趣向である。
「おもてなしではありますが、遊戯に手加減はしませんからね」
「ええ、もちろんそれで構いません。どうせならカーリィさんとも、どっちが勝つか競争したいわね」
不敵な笑みを浮かべるルアンナに、ジュエリアも勝負に乗り気な様子を見せて。
屋台の前に並んだテーブルで、サイコロの転がる音が響いた。
●
「よっ。俺がここの番人ってやつだ」
ナハシュは学生棟にある教室の一つで、六年生たちを迎えた。
「ここでやってもらうのは、これだ。覚えてるか?」
「『ゴールディのお使い』――昨年の学園祭で出展したものですね」
ナハシュの取り出したカードを見て、ジュエリアは懐かしそうに目を細める。
去年の『各国文化の理解』を掲げた学園祭で、卓上遊戯部はゲームを通してテーマ実現に臨んでいた。
その際、ナハシュは自身も多文化クラスに属する学園生としてゴールディのブースを担当していたのだ。
「今回はカードを五回引いたうえで、最後に銀貨十枚のアップルパイを買えたら勝ちの簡易版だ。ま、ちょっとした運試しと思ってやってくれ」
ナハシュは器用にシャッフルしたカードの山を、机に積んで。
ではまずわたくしがと、カーリィの手が山札に伸びた。
●
ジュエリアとカーリィの二人は、行く先々で様々な景色を見た。
中庭を担当していたのは一年生のクロネ・クラゲン。
そこで六年生たちは花をテーマにした簡易なカードゲームを楽しむことになる。
動物小屋ではホロウ・ミラーが番人をやっていた。
六年生たちの到着を待っている間、動物を可愛がれるからと本人たっての希望だったらしい。
そしてエルン・フェランドの居場所は体育館裏の大木。
なんでも樹木の根元にいると落ち着くのだとか。
「『私たちの思い出』――これが最後のヒント、ですの? これは――」
「ええ、行きましょう。私たちの思い出の場所へ」
カーリィとジュエリアは顔を見合わせて、そして頷き合う。
二人の向かう先はもちろん――。
●
卓上遊戯部の部室では、各所に散っていた部員たちや冒険者たちが集合して待っていた。
「お二人にとって、一番の思い出の場所と言ったらここしかないですよね♪」
「学園内を回ってみて、いかがでしたか? これまでの学園生活を振り返る一助になれていたら幸いです」
ルアンナとゲルダも、番人の役目を終えた際に部室へ戻っていたようだ。
ここまで辿り着いたジュエリアとカーリィを、温かく出迎える。
「せっかくだ、全員でカードをやろうぜ。二人合わせてチップを五十枚溜めたら、お宝ゲットだ」
ナハシュの提案で、最後は全員の参加できるカードゲームが選ばれた。
「あの、ヴァンさんも参加されません? わたくし、最後にヴァンさんとも――」
「ああ、いいぜ。ただ言っておくが、やるからには真剣勝負だからな?」
カーリィの誘いに、ヴァンゲルスがニッと歯を見せて。
卓上遊戯部の部室は、部員たちの楽し気な笑い声に満たされた。
●
「いよいよ卒業だな。勉強、頑張ってるって聞いたぜ」
「――ええ」
送別会が終わった後、ヴァンゲルスはカーリィに声をかけ部室を離れていた。
「……俺の為か? なんて、これは自惚れだな」
ヴァンゲルスの言葉に、カーリィは何も言わず。
ただ静かに、微笑んだ。
「これで最後じゃねえよな。お前さんとはまた会える、だろう? この賭けにゃ負ける気がしねぇぜ」
「そうですわね。きっと、チップが倍以上になって返ってくることでしょう」
ヴァンゲルスの言い回しに精一杯、気の利いた台詞を返そうとしたカーリィが。
妙に可愛らしく見えたのか、ヴァンゲルスはくつくつと笑った。
カーリィの胸には部員たちから贈られた寄せ書きが抱えられて。
そこに冒険者たちからの言葉も寄せられていた。
『一緒に卓上遊戯を遊べて嬉しかったです。ご卒業おめでとうございます――ゲルダ・クライン』
『卒業おめでとうございます♪ またいつでも、遊びに来てくださいね――ルアンナ・ミュラー』
『去年のイベントけっこう楽しかったぜ! ありがとさん! ――ナハシュ』
『よく頑張ったな。卒業おめでとう――ヴァンゲルス・ロッド』
それはカーリィの手に入れた『宝物』。
体育館裏で、日の傾きかけた空を風が通り過ぎ。
大木の梢を、そよそよと揺らした。
マスターコメント
お疲れ様でした。空色みなもです。
このたびは当シナリオにご参加頂き、誠にありがとうございました。
別れと出会いの季節――春ですね。
皆様に支えられての、卓上遊戯部でした。
また皆さんにシナリオ参加して頂けるのを心よりお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
イベントシナリオ普通 報酬:標準4 / 4〜25人
2023年03月05日 22時55分02秒 公開
大成功
相談掲示板
いつの間にか明日が出発日ですね…! 学園全体を使ったものとなると、リアル脱出ゲームみたいなものが良いんでしょうか
ゲルダです。よろしくお願いしますね! リアル脱出ゲームのようなもの……そう、ですね、簡単なアイディアではありますがヒントをもとに学内のどこかに隠された宝物を探していただく、というものはいかがでしょうか。 あらかじめチェックポイントを決めておいて、各チェックポイントで次のチェックポイントの場所がどこかのヒントをお教えしていって、最後のチェックポイントで宝物の場所のヒントをお伝えする、という流れのイメージです。 ヒントは紙に書いておいてもいいですし、誰かが直接お教えするのも良さそうかなと。 宝物は部員の皆様からの贈り物やお祝いのメッセージが書かれた色紙にすれば、素敵な思い出にできるかな、と思いました。
ナハシュだ!よろしく。 脱出ゲームも宝箱を探すのも楽しそうだな!色紙やお祝いメッセージも定番ですごくいいと思う。 そしたらなんか、それらの障害になるようなミニゲームでも考えておくかな。採用されるかはそれとして!
ヴァンゲルスだ、よろしく頼む。 脱出ゲームに宝探し、いいんじゃねぇか。贈り物案もいいと思うぜ。 俺自身は個人的に用のある相手が居るモンでな、そっちの対応メインになると思うが、もし余裕があればゲーム立案の方にも加わらせて貰う。