花の領地に咲く恋の行方を。

蓮華・水無月

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シナリオID:2839

オープニング

 リーンエス王国、カペル侯爵領。
 その某所にあるフロルの街にも、今年も『添花祭』の季節がやって来た。
 街に満ちるのは華やかな花々と煌めく宝石、そして甘く香るチョコレート。
 そして何より、幸せそうに微笑む恋人達の甘やかな笑顔。

 “花の領地”とあだ名されるこの地に、恋の花咲く季節が来た。


●
 『添花祭』とは去年からカペル侯爵領で行われるようになった、世に知られる――と言ってもこちらもまだまだ祭としては新しい――『甘輝祭』にあやかったお祭りだ。本家の『2月にチョコレートを、3月に宝石を贈り合う』という趣旨に加えて、『添花祭』はその名の通り、花とチョコレートを、あるいは花と宝石を贈り合うという、何とも“花の領地”らしい催しである。
 それはこの、フロルでも変わりなく。街のあちこちに花売りや宝飾品、チョコレート菓子の屋台が並び、さらには飲食や宝飾品以外の雑貨の屋台も立ち並んで、見ているだけでも実に楽しげだ。
 ――のだが、しかし。

(どうしたものか……)

 そんな楽しげな人々の中を、生真面目な――否、いっそ沈鬱な眼差しでディヴァンス・ファルヴェントは歩いていた。その様子を傍から見れば深遠な、そう、例えばこの世の行く末を憂えているかのようにも見えるのだが、ディヴァンスの悩みはそんな高尚なものではない。
 だが彼にとっては、そして特別に想う相手が居る多くの人々にとっては、その悩みはこの世の行く末以上に重要な事案であった。
 つまり、

(アーカネラに何を贈るべきか……)

 恋人のアーカネラ・ユルヴェウスへの贈り物をどうするか、という話である。ここはやはり特別な品を用意するべきなのか、或いは案外ありきたりなものが良いのか、花はどれを選ぶべきなのか、宝石は、いやチョコレートは、エトセトラ、エトセトラ(その他もうとにかく色々)。
 知識としては豊富であるし、もしこれが仕事で恋愛を仕掛けるのならばこの上なく完璧にやりおおせるであろう美丈夫は、だが一皮剥けばただの朴念仁である。まして大切な恋人の事ともなれば、迷うどころか五里霧中というのが正直な所。
 それでも何か贈り物はしなければ、否、したいと願ってはるばるやって来たは良いものの、実際に贈り物として用意されている品々を見てもいまいちピンと来ない。ならば自分で何か用意するかと考えても、何ならばアーカネラに喜んで貰えるのかとあれこれ考えれば、やっぱり迷いばかりが募ってしまう。
 ふぅ、と細く深いため息を吐いていっそ憂鬱な気分で街並みを見つめたディヴァンスは、だがその中に見覚えのある姿を見かけてはっと目を見開いた。

(……! あれは……)

 冒険者。そう呼ばれる立場にある、カペル侯爵家の令嬢を始めとする人々。
 ――嗚呼そうか、と何かが腑に落ちた。解らないのなら聞けばいい。
 それは情報収集の基本のキと言っても良いくらいの常識で、なぜ気付けなかったのだろう、とディヴァンスは己を深く恥じた。そうして彼らに教えを乞うべく、先ほどまでとは違うしっかりとした足取りで歩き始めたのだった。

解説

◎目的 リーンエス王国カペル侯爵領にある、フロルの街で行われる『添花祭』に参加しよう。 皆さんは誰かに誘われて、または誰かとご一緒に、或いは偶然にもフロルの街を訪れました。 街では今『添花祭』というお祭りが行われており、花や宝石、チョコレート菓子を始めとした様々な屋台が立ち並んでいます。 ぜひ、楽しいひと時を過ごして頂ければ幸いです。 ◎どんな事が出来るの? 1)屋台を楽しもう  街には前述のような屋台の他にも、ドライフラワーを使った雑貨類や、果汁や食べ歩きの出来る食事を売る屋台もあります。  それらの屋台を巡って誰かへの贈り物を探してみては如何でしょうか。  フラワーアレンジメントやアクセサリーの作成、お菓子を作れる体験工房などもありますので、たった1つの特別な贈り物を作るのも良いかもしれません。  (※季節・世界観的にNGなものでなければ大抵の屋台はあるとお考え下さい。祭の性質上、花・宝飾品・チョコレートなどの屋台以外の数は少なめです) 2)花畑を観賞しよう  フロルの街は、郊外に1歩出ると見渡す限りに花畑が広がっています。  今の季節は街の北側に様々な冬の花が植えられており、季節ごとの花の栽培と領内外への流通はフロルの街の産業にもなっています。  利用料を支払う事で、自由に花を摘むことの出来る畑もあります。 3)ディヴァンスのお手伝い  偶然にもフロルを訪れていたディヴァンスに声を掛けられ、またはたまたま出会って、彼の贈り物を探すお手伝いや、アドバイスをすることが出来ます。  アドバイスという名の恋人との惚気を聞かせたい方もこちらをどうぞ。  『大切な人に贈り物をするなら何を贈るか』を話したり、恋人をイメージする宝石や花、チョコレートの紹介をしてあげると、大変喜ばれるでしょう。  なお、ディヴァンスに相手はどんな人かを尋ねると『優しい女性』としか言いません。 ◎登場NPC ディヴァンス・ファルヴェント……  悩めるエルフの美丈夫。  せめて贈り物の方向性だけでもアドバイスが欲しい、と思っている。 フロルの街の方達……  基本的にとても親切です。  何か協力を依頼したい事があれば、快く引き受けてくれるでしょう。

マスターより

いつもお世話になっております、または初めまして、蓮華・水無月と申します。 大切な方への贈り物はいつでも悩ましいものですよね、という事で贈り物がテーマのお祭りにてお邪魔させて頂きます。 宝石やチョコレートに花を添えて贈る『添花祭』、素敵な催しですよね。 しかして、花に込める意味などを考えるとなかなかに、選ぶのにも気を使う場面もありそうです。 そんな蓮華はわりと、花言葉には疎い方なのですが……(あぁ そんなこんなの『添花祭』、お気が向かれましたらお気軽に、どうぞよろしくお願い致します。

リプレイ

「景色の良い、穏やかに過ごせそうな街だな」

 カペル侯爵領(花の領地)フロルの街並みに、エル=バ=ノイアンは淡々(しみじみ)と呟いた。呟き、だがすぐため息を吐く。
 心穏やかではない者(ディヴァンス)もいるようだが、複雑に呟くノイアンとは対照的に、テス・アウレアは嬉々として親友(ディヴァンス)に話しかけた。

「ディヴィ、久しぶり! そんな面白そ……素敵な悩みを相談して貰えるなんて、親友として誇らしいよ!」
「面白そうと言いかけなかったか?」

 剣呑な眼差しを向けるディヴァンスに、まさかとテスは首を振る。ちょっと間違えただけだ。
 ね、と眩い笑顔で夫を見上げて目を輝かせた(この初々しい友をどう料理しようか楽しむ)テスに、ロイ・アウレアは頷いた。そも、ロイの知るディヴァンスは出来る男だのに。

「こう言う一面を見せて貰うと改めて、アーカネラ嬢の素晴らしさが伝わるよ。――ふふ、テスに勝るとも劣らない」

 1番は当然オレのテスだけど、という言外の主張に、ディヴァンスが何か言いかけ、諦めたように首を振る。そんな3人の気の置けない会話を、シルヴィア・A・カペルは嬉しそうに見つめた。
 シルヴィアにとって彼らは、亡き祖父の友人でもある。もし祖父が存命なら、その時は4人でどんな話をしただろう。
 そんな夢想をする、恋人にノイアンはまたため息。かつてディヴァンスがした事を思えば、好意的にはなり難い。
 それでも、彼は恋人(シルヴィア)の信頼を受けている。否――だからこそ複雑なのか?
 自問するノイアンを面白がりつつ、ルーンス・ラグネルはディヴァンスに一礼した。そうして自己紹介をする、内心ではわくわくが止まらない。

(シルヴィアの先生が、恋人の贈り物に悩んでるかぁ。腕が鳴るねー)

 ――標的(エモノ)を見る眼差しだった。


●
 添花祭とはテス(シルヴィアの兄的存在)が名付けた祭だと、ガルシアが聞いたのは誘ってくれたシルヴィア達とチョコマフィンを食べていた時の事である。その直後にディヴァンスに声を掛けられて、その話は終わってしまったが。
 邪魔しては悪いと断ってガルシアは今、街(フロル)を1人で探検して(さ迷って)いる。

「添花祭……花とチョコレート、もしくは花と宝石を贈り合うのですよね。花、ですか……何か似合う花が見つかるといいのですが……」

 幾つかの花の屋台を覗けばなるほど種類は豊富だが、あの人への贈り物と思えば迷いばかりが浮かぶ。吐息を零しながら次に覗き込んだ店は、花束(フラワーアレンジメント)の工房だった。
 ――これは良いかも(無かったら作れば良いのでは)。
 ゆえにおずおず、そわそわお邪魔したガルシアから少し離れた街角では、ヒロ・テスタロッサとララベル・サン・ディーベルが、デート(観光旅行)していて。たまには2人だけで色々と素敵な思い出を作れたら――そう頬を染めるララベルの傍らで、ヒロは大きく深呼吸する。

「んー♪ 花の香りでいっぱいだね♪ けど屋台もいい匂いー♪」
「だね。色々あって、どれにしようか迷っちゃうね……って、ヒロもう食べるの?!」

 そんな恋人(ヒロ)に頷きつつ振り返った、ララベルが驚きの声を上げる。ヒロはさっさと(いつの間にか)、クレープやら串焼きやらを買い込んでいたのだ。
 だが、いーじゃんいーじゃん、とヒロは次々に軽食を確保する。そうしてにっこり、ほら、とララベルにクレープを差し出し(押し付け)た。

「食べて食べて♪」
「わ、わわ……!」

 その勢いに押されて食めば、口一杯に甘さが広がる。ふ、と頬が緩んだララベルの横合いから、ヒロも同じクレープをはむりと齧った。
 ボッ、とララベルの顔が赤くなる。そんな彼の口元に付いたクリームをぺろりと舐め取り、ヒロは悪戯めいた笑みを浮かべた。

「ね、美味しい! 次は何食べよっか?」
「う、うん……花畑でも何か食べようよ」

 そうして尋ねてくるヒロに、ララベルは翻弄されっぱなしだ。いけない、どうにか彼女にもドキドキして貰わなければ。
 そんな攻防を繰り広げ、恋人達は仲睦まじく屋台を覗き歩く。


●
 とまれ落ち着いて迷える子羊(ディヴァンス)の話を聞こうと移動した、休憩スペースでシルヴィアが「先生、アーカネラの特徴が分からないと助言は難しいかと」と知る限りの情報を相談者達に伝えた所で、ルーンスが口火を切った。

「僕に全て答えなくていいので、今からする質問から想像して――彼女はどんな人?」
「優しい人だが……?」
「他人に言われるまま買った11本の豪奢な赤薔薇は、本人が悩み抜いた飾り気のない一輪の野の花に負ける……当商会では従業員にこのように指導しているので」

 それに、疑問を向けたディヴァンスに、ルーンスはにっこりする。答えが出る手伝いはするが、答えを出すのは本人(ディヴァンス)でなければ。
 ゆえに「参考になるかは判らないけど」と前置きし、

「僕が初めて彼女に恋愛的な意味で贈り物を贈ったのは、13歳だったよ」

 語ったのは自身の事。紫の花(彼女の色)を贈りたいと思ったから、ルーンスは花言葉(誰かが定義した意味)を無視した。
 そうして様々な紫を1輪ずつ重ねたその花束は、大変喜ばれたという。

「私の為に時間をかけて、私だけに意味がある花束をくれたってね」
「そうなのか」

 それに頷き、真剣に考える態勢になったディヴァンスに、ルーンスは質問の続きを口にする。――どういう所が優しいと思った? その人のどういう所が好き? 好きな表情は? 共にどんな時間を過ごしたい? してあげたいことは?
 考える時間を考慮し言葉を重ねるルーンスの斜向かいから、ロイが妻(テス)を見つめつつ口を開いた。

「確かに、品物を選んでる時間は自分の事を考えてくれている時間と判るので、彼女(アーカネラ嬢)も貰えたら嬉しいだろうね。でも、一緒に過ごせる時間を作る方が……」
「私もロイの意見に賛成だよ。お祭りに誘いなよ、きっと楽しいよ」

 そんな夫(ロイ)を熱く見つめ返しつつ、テスは大いに同意する。愛しい人とのひと時は、どんな宝にも勝るもの。
 だが、ディヴァンスは微動だにしない(真剣な顔のまま動揺している)。それに、夫婦(ロイとテス)は呆れた顔を見合わせて。

「――お薦めは、ディヴィと彼女の瞳の色の何かかな。2色使い(紫と黒)の花束とか、黒髪に合せて金か銀のベースに、黒真珠やアメジスト、紫スピネルで彩ってアクセントに緑石も入れた簪や髪留めとか」
「私としても装飾品をお勧めするよ。……贈り物はね、『執着』なんだよディヴィ」

 そう語る(ちゃんと提案もする)ロイの手を飾る、指輪とバングルをついっと指でなぞりながらテスが、ディヴァンスを見(挑発し)た。夫の髪に一房口付ければ、お返しの口付けが降ってくる。
 それを、テスはうっとり受け止めて。

「――アーカネラ嬢を思い浮かべてみて」

 彼女(アーカネラ)が喜ぶことも大事だが、贈りたい物を贈ることも大事。

「彼女の装いの中に1つアクセサリーが増える――それは君の瞳の色のブローチかもしれない、彼女の瞳の色のネックレスかもしれない」

 だが決定的に違うのは、

「ディヴィ……君が贈った物だという事実だよ。彼女の好みの中に君の要素が入り込んで輝き、彼女を見守り、彼女の笑顔とともに光るんだ」

 それはとても幸せでゾクゾクする夢想だろうと、テスは甘やかに笑ってロイへ手を伸ばす。その手に、指を絡めたロイが口付ける。
 もちろん贈り物(執着)を身に着けるのも幸せだと、自身の品々を愛おしそうに(見せつけるように)テスは撫でた。「普段からもっと彼女を観察する事もお薦めするよ」と、愛おしげに(惚気るように)テスを見つめるロイが言う。
 シルヴィアが、先生、と声を掛けた。

「1番大切なのは、先生からのストレートな愛の言葉だと思いますよ」
「ストレートな?」
「はい。恋人からの贈り物なら、全て喜んでくれるでしょう」

 例えば赤薔薇の花束とブローチなど、とシルヴィアは考える。花や小枝を現したスプレイモチーフの――あしらう宝石はディヴァンスが選べば、特別な贈り物になるだろう。
 そう、まさか先生(ディヴァンス)から恋愛相談を受ける事になるとは、とくすぐったく思いながらアドバイスするシルヴィアの言葉に、ノイアンは思案顔。何しろノイアンにとってそれは、恋人(シルヴィア)自身の意向(考え)でもある。
 それはとても彼女らしくて、だからこそノイアンの悩みは尽きない。

(『恋人からの贈り物なら全て喜んでくれる』……か)

 シルヴィアが言うのならそうなのだろうが、とため息を吐きながらお茶を淹れて配る。自身の性格上、適切な助言が出来ないだろうと考えノイアンは、端からこうして裏方に徹していた。
 やがて、ディヴァンスの表情が変わった。それをルーンスは察する。

「穏やかな時間ならリラックスアイテムやお茶会できそうなお茶や菓子、輝いて欲しいなら服や宝石、笑ってほしいなら花とかあるからね。此処(フロル)で、いいものが見つかるといいね」

 それに、頷き確かな足取りで歩き出したディヴァンスの結末を見届けるべく、一同も歩き出した。


●
 辿り着いた花畑は、見事に咲き誇っていた。

「わぁ綺麗……早速あっちに行ってみようよ」
「うん♪」

 ヒロの手を引くララベルに、頷きヒロは嬉しそうに歩き出す。今日ばかりは女の子らしく、花畑を共に楽しむつもり。
 ゆえに2人手を繋ぎ、様々な花を見て回る。色とりどりの花の間を歩き回るうち、ヒロの髪にふわりと花弁が舞い降りた。
 ふふー♪ とヒロは嬉しそうにポーズを取る。

「似合うでしょー? ……あっ!?」
「ちょっと待って、ヒロの髪に……わわっ!?」

 それと、取ってあげようとララベルが手を伸ばしたのは、同時。刹那、草の根に足を取られたララベルは、ヒロもろとも花畑の中に倒れ込み。
 ベル君、と頬を赤らめ呼ぶ声に、文字通り飛び上がって立ち上がり、ララベルはヒロを助け起こした。

「ごめん……!」
「ふふ♪ 続きはまた……かな?」

 揶揄うヒロに、ララベルはこれ以上なく赤くなる。だがどうにか気持ちを落ち着ける(何度も大きく深呼吸をする)と、ヒロへ手を差し出して。
 遠くに見えたベンチへ向かうと、並んで腰かける。そうして屋台で買ってきた食べ物を(潰れてなくて良かった)、花を眺めながら食べた。

「どれも美味しいね。ヒロ、これ1口食べる?」
「食べる!」
「はい、あーん」

 そんな風に互いに食べさせ合いっこ(後で間接キスだと気づきララベルはドキドキした)して、ひと息ついた所でヒロが声を上げる。ラッピングした小箱を渡しながら、

「そういえばベル君、誕生日だったよね? はい、ハッピーバースデー♪」
「覚えててくれたんだ、凄く嬉しい!! ずっと大事にするから」

 突然のサプライズに、ヒロの手を握り喜ぶララベルである。何より誕生日を覚えていてくれた事が嬉しくて、この上なく幸せで。
 そんなララベルに、ヒロがはにかむような笑みを浮かべる。そうしてそのまま見つめ合い、――どちらからともなく口付けて。
 名残を惜しむようにゆっくり離れた、ヒロが「開けてみて」と囁いた。頷いたララベルが開封すれば、出て来たのは朱色の(2人の髪色と同じ)宝石をあしらった、ヒロの故郷のデザインのイヤリング。
 その1つをララベルの、もう1つをヒロの耳に飾れば、お揃いの完成だ。吐息の距離で微笑み合って、また啄むように口づけを交わし。
 ララベルも、彼女への贈り物を取り出した。ヒロの赤髪に似合いそうな白い花を添えた、青い宝石のアクセサリー。

「僕からお返し……添花祭の祝福をヒロに」
「ありがとー♪」

 それをヒロは、満面の笑みで早速身に着け「似合う?」と尋ねる。返るのは、もちろんという甘い笑み。
 それから、店で飾る花を摘もうと歩き出した、2人の甘い時間はまだ続く。


●
 真剣な面持ちでガルシアは、店員の説明を受けていた。

「まずは中心になるお花を決めます」

 そうして、幾つか人気の花を見せられる。その中からガルシアが選んだのは、淡い青薔薇と、青紫の百合だ。
 1つは日頃お世話になっているシルヴィアに――もう1つはあの人に。

(……あ、あの人ほど上手には作れないかもですが……、あの人と、シルヴィア様にお見せできる程度のものを……)

 そう思い、丁寧に花を組み合わせて束にしていく。中心(あの人達)の周囲をシロツメクサやスミレといった、様々な白や青の花で埋め尽くし――端に小さな深紅のアカネ(ガルシア)を3輪ほどそっと添え。
 本当は、すぐ隣に飾りたい。だが、花束(見立て)ですら気が引けた。

(やっぱりあの人と比べて、私は装飾とか下手ですね)

 如何にもぶきっちょに映る花束(フラワーアレンジメント)に苦笑い。でもこれが、今の自分の精一杯だ。


●
 ディヴァンスが選んだのは、赤薔薇の花束と、黒真珠とアメジスト、蒼玉で彩った金の簪だった。それらを丁寧に仕舞い、友人らに頭を下げたディヴァンスがふと、ルーンスを見る。

「ラグネルの佳き人とは、どんな女性だ?」
「僕の彼女? 元々年上の幼馴染だったんだけど、彼女は温和な顔で全くそう見えないのに、実は商売にギラギラしてたり、自分の見た目から来る評価を理解して立ち回る狡猾な所があってね。それが僕には最高で、好きなんだよね」

 途端、遠慮なく惚気るルーンスに、そうか……とディヴァンスは頷いた。世の中には、様々な愛の形がある(自分の事でなければ知識は豊富だ)。
 決まって良かったね、と笑顔で肩を叩く(出来れば渡す所までウォッチしたい)テスの髪に、不意に何かが当てられた。振り返れば、ロイが黒地に螺鈿細工が施されたバレッタを手にしていて。

「金が似合うと思ってたが、こうして見ると黒漆の櫛も映える」
「本当?」
「ああ。テスの美しさが引き立つよ。永遠に見惚れそうだ。良かったら1つ贈りたいがどうかな?」
「喜んで。君が私のために見立ててくれた物だもの。そうだ、お揃いにしたらどうかな?」

 あっという間に2人の世界に突入し、甘やかな空気を遠慮なく振り撒き始めた夫婦である。邪魔しないようその場を離れたシルヴィアの傍らを、静かに歩いていたノイアンは、だが少しして足を止めた。
 ノイアン? と恋人(シルヴィア)が振り返れば、小さな箱が差し出される。小首を傾げて受け取り、開ければそこには凍花の指輪があって。
 驚き恋人(ノイアン)を見れば、小さな頷きが返った。

「……俺の心は常にお前のそばにある。その証明として、持っていて欲しい」
「――君もあの思い出を大切にしてくれていて嬉しいよ。私も君に、贈り物がしたいと思っていた」

 そうして彼女が手渡したのは、同じモチーフの懐中時計。添えられた9本の赤薔薇と共に受け取って、ありがとう、とノイアンが目を細める。
 期せずしてお揃いになったと、シルヴィアが嬉しそうに頬を染めた。毎日自分の事を思い出して欲しいから懐中時計にしたなんて、何と可愛らしい我儘か。
 そっと目を伏せ懐中時計を――彼女の指を飾る指輪を見る。

「これからも共に歩んでいく日々を、絶えず刻んでいこう」
「うん。これからもずっと共に」
「――シルヴィア様ぁ!」

 そうして頷き合った時、遠くから呼ぶ声が聞こえて2人同時に振り向けば、ガルシアが花束(フラワーアレンジメント)を抱いて走ってくる所。そうして軽く肩で息をしながら彼女は、「お渡ししたい物が」と告げ。
 恥ずかしそうに渡された、淡い青薔薇の花束(フラワーアレンジメント)にシルヴィアは目を細めた。

「とても嬉しいよ。そうだ、私からも花束(スイトピー)を贈らせて貰えるかな」
「あ……ッ、ありがとうございます……ッ」

 シルヴィアの言葉に、ガルシアは頬を赤くして喜ぶ。そうして、チョコクレープの屋台(戻る途中で見つけた)に行きませんか、と誘って。
 応えを確認し、「こちらです!」とガルシアは歩き出した――もう1つの花束(フラワーアレンジメント)もあの人に届けたい、と思いながら。

マスターコメント

いつもお世話になっております、または初めまして、蓮華・水無月です。 この度はご参加頂きまして、本当にありがとうございました。 祭屋台を楽しんだり、恋のお悩みを解決(?)したり、恋しい方のために頑張ったりする物語、如何でしたでしょうか。 皆さまのプレイングに蓮華もニヤニヤとしながら、精いっぱい紡がせて頂きました。 フロルの街は、東西南北にそれぞれ違う季節のお花畑が広がっている――というかなりどうでも良い脳内設定があります。 皆さまの素敵な恋の花も、それぞれの色や形に美しく咲き誇りますように。 このシナリオが皆様にとって、楽しんで頂けるものでしたら幸いです。 またのご縁がございましたら、どうぞ宜しくお願いいたします(深々と
ショートシナリオR

ショートシナリオR易しい 報酬:無し8 / 4〜8人

2023年03月30日 01時11分23秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. シルヴィア・A・カペル

    シルヴィアだ。 魅力的な依頼にして下さった蓮華・水無月MSに心から感謝を。皆、今回はよろしくね。 先生から恋愛相談を受ける事になるとは……時の流れを感じるよ。 もし良かったら皆からも助言をお願い出来ないかな。大切な人の惚気を聞かせてくれるのも大歓迎だ。

  2. テス・アウレア

    テス・アウレアだよ! シルヴィお誘いありがとうね ふふwふふふw ディヴィが初々しいよ こっちまで、によよしちゃうね 春、春だね(o´艸`) 頑張るよ!応援してさらに美味しい状況にするんだ! というわけで、よろしくねーー!

  3. ルーンス・ラグネル

    商人、ルーンス・ラグネル。 よろしくね。 いやぁ、腕が鳴りそうなお客様がいらっしゃるなぁ……と思ってきたよ。 あと、惚気できるのも凄く貴重なのでね、グフフ。

  4. エル=バ=ノイアン

    ノイアンだ。満員おめでとう。 俺もゆっくりと過ごさせてもらおう。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0