【天馬】ケンタウロス・グルメレース~人馬の花婿
おおくまねこ
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オープニング
一面の銀世界となった帝国東部の草原に、馬の下半身とヒトの上半身を持つ異形の者達が集まっていた。彼らは『ケンタウロス』。人馬とも呼ばれる、亜人の一種族である。
ケンタウロスは人類に敵対的な種族であり、長きに渡って帝国を始めとする各国に侵略を行ってきた。言語も通じない為、彼らとの相互理解は決して不可能だと言われてきた。
しかし、1222年の春、シルトラース帝国の将軍バルディオンと帝国東部辺境の『聖地』に住まうケンタウロスの大族長レミーラが停戦協議を行い、両者はそれに合意した。歴史上初めて、人類の国家とケンタウロスが約束を交わしたのだ。それ以来、帝国においてケンタウロスと人類の距離は少しずつだが縮まりつつある。此度、帝国の皇子レイウェスト・バルダスや冒険者達がレミーラの葬儀に招かれたのも、ケンタウロスと人類の関係が変わりつつあることの証左であった。
天馬葬。それは、現世での使命を果たし終えた偉大な指導者を天へと見送る、ケンタウロス達の生前葬にして、大運動会の名であった。
●ランランの婿選び
『本日の競技は、『人馬味勝負』です!』
天馬葬の喪主ランランの宣言に、雄ケンタウロス達はにわかに色めき立った。ランランは今年で十歳。人間よりも成長の早いケンタウロスとしては結婚適齢期である。そして、天馬葬はまだ伴侶を得ていない族長クラスのケンタウロスの婿選びという側面もあるのだ。
それはすなわち、この競技を制することは聖地有数の美女ケンタウロスである、ランランの花婿の有力候補となることを意味する!
『人馬味勝負……料理大会ということか?』
競技についてよく知らない若いケンタウロスは首を捻る。そんな連中を見て、レミーラはくっくと笑う。
『なかなか面白い競技を選んだものだね。ランラン。人馬味勝負はただの料理大会じゃないよ。もっと奥が深い勝負さ』
人馬味勝負。その名の通り料理を作り、味を競う競技である。だが、この競技においては、「今日獲った食材」しか使用が許可されない。つまり、競技者は料理の腕だけではなく狩りの腕も試されるのだ。ケンタウロスの料理は人類より遥かに原始的なので、勝負の鍵を握るのは「食材の鮮度」であり、スピードだ。……いかに素早く獲物を狩り、素早く大地を駆けてここに戻ってこれるかが重要なのである。
それだけではない。この競技は団体での参加も許可されている。人望あるケンタウロスならば、かなり有利なのだ。
(ランランの夫にはアタシが死んだあと、この部族を引っ張っていってもらわなきゃならない。頼りないヤツにはあの子の伴侶は務まらないね)
必然的に勝者は人望溢れるケンタウロス、あるいは個の力で全てを圧倒する古今無双の狩人となるだろう。人望と強さ、両方兼ね備えていれば文句なしだ。そして、夫候補は多ければ多いほどよい。ケンタウロス社会は一妻多夫制である。
(アタシを支えてくれた夫たちはみんな先に逝っちまったがね。そういえば、アタシの夫達を選んだ時は槍で決闘させたんだったか……)
レミーラはふと、先立たれてしまった夫たちのことを思い浮かべていた。レミーラは人間換算で120歳近い年齢を生きている特異個体である。レミーラの生命力には誰もついてこれなかった。
(ずいぶんと待たせてしまったが、じきにアタシもそっちに行くよ)
『今日の日没までに、食材を調達して、料理を一品作って持ってきて下さい。調理方法は自由です! 審査員は私が務めます! そして、ボウケンシャ族の方の参加も認めます!』
『んあ!?』
ランランの言葉にレミーラは目を丸くした。
(ま、まあ、あくまで花婿候補だしね。このぐらいの我儘は認めてやろうじゃないか。それに、知恵のある強力な授恵者が一族に加わってくれれば部族の未来も安泰だ。……子種は流石に期待できないが)
自分はじきにこの世を去る身だが、ランランの婿候補についてしっかり見届けよう。レミーラは強く心に誓ったのだった。
解説
マスターより
リプレイ
『ふむ、なかなかの盛り上がりだね。モテるな、ランラン。アタシの若い頃に似て』
人馬味勝負に参加するケンタウロスは数十体だった。とはいえ、チーム単位の参加が多数だろうから、実際に嫁候補に名乗りを上げているのは十人ぐらいだろう。そして、ボウケンシャ族からの参加者は13名。ハーフリングやヒューマン、エルフ、ハーフビーストだけではなく、亜人そっくりのゴブリンやリザードマンまでもがいる。なぜか婿選びなのに女性も混ざっている気がするが、レミーラはそれについては考えるのをやめた。きっと婿候補の協力者なのだろう。
『さて、どんな料理を作ってくるのか、じっくり見させてもらおうか』
レミーラは部族の行く末を占うこの一戦を見守るべく、姿勢を正した。
●
「生前葬とは良い文化を持ってるのだ。この文化を世に伝える為に良き物を捧げるべき」
珍しい文化に触れ、テンションが上がったストレガ・L・リベルガストラは人馬味勝負でいい料理を出品しようと張り切っていた。
「さすがにいつもの格好だとここは寒いのだ」
ストレガはいつもの肌色多めファッションをやめ、厚手のコートを着て雪原へ向かう。
「うむ……。寒冷地に適応したクリーパーや魔獣がちらほら見えるのだ。あれはビヒモーの亜種かな? 片っ端から狩るのだ」
ストレガは武器を構えると、毛の長い牛のような魔獣の群れへと突進していった。魔獣達は気が強いのか、ストレガを迎撃すべく、雄叫びを上げてストレガへと立ち向かってきた。
「重力場」
ストレガが呟くと、彼女の手にした分厚いノートから不可視のエーテルが迸り、野牛の群れを強力な重力場で抑えつけた。突進の勢いを殺された野牛たちは混乱し、のろのろと重力場から脱出しようと暴れはじめる。しかし、ストレガがそれを待つはずもない。追撃の『魔弾』が野牛達の頭部を次々と破壊し、野牛達を絶命させた。運よく魔弾が弾切れになるまで生き延びた野牛達は悲しげな悲鳴を上げ、元いた方向へと引き返していく。ストレガは逃げた野牛達は追わず、仕留めた魔獣達の下処理を始めた。
「四頭分も肉があれば全体に行き渡るだろう。審査員だけなら猪1頭程度あれば充分だが、見ているだけの者を出したくないのだ」
……。
ストレガはてきぱきと血抜きをしていくが、野牛魔獣四体分ともなればそれなりに時間がかかる。しばらくすると、ケンタウロスの群れが弓矢を構えてストレガに近づいて来た。
『たくさん狩ったなあ。食いきれねえだろ? 俺達がもらってやるよ』(ケンタウロス語)
「メテオライト」
ズドドド! ストレガが放った光弾はケンタウロスの体をすり抜け、大地に無数の穴ぼこを作った。
「横取りは許さんのだ」
『す、すみませんでした!』
ビビったケンタウロス達は全速力で逃げ出していった。
「む。できれば手伝ってもらいたかったのだが……言葉が通じないのであれば仕方ないのだ」
●
荷馬車で魔獣を持ち帰ったストレガは、肉を解体しながら、丸焼きにしていくことにした。
(シンプルが1番強いのだ。草食獣なら内臓も食えるだろう)
丁寧に皮を剥ぎ、内臓と肉を切り分けていく。さらに塩・ハーブと醤油を使用し、味付けをした。木の枝に牛を吊るし、下から焚火で豪快に焼く。牛肉が焼けるいい匂いに、ケンタウロス達もぞろぞろと近づいてきた。
「骨付き肉は骨ごと鍋で煮込み、野草を足してスープにするのだ」
でかい鍋でスープを作りつつ、ストレガは出来上がった肉を順次テーブルの上に乗っけていく。
「どうぞ。ランラン殿の分だけと言わず、全員分あるのだ」
『ボウケンシャ族は太っ腹だなぁ! ごちそうさん!』
●
「聖地のケンタウロス達との関係は重要だ。狩りの腕を示すのもいいだろう」
テテリカは狩りの腕を示す為、人馬味勝負に参加した。ランランの婿選びの側面があるという話だが、テテリカはそちらには特に興味はなかった。
「おーい、俺も参加したいんだが」
テテリカが手を上げてケンタウロス達に呼びかけると、ドドドド、とランランが駆け寄ってきた。
「アナタも参加者デスネ。よろしくおねがいしマス、これ、ゼッケンです」
「ああ、ありがとう……」
上からテテリカを見下ろし、ゼッケンをかけてくれるランラン。だがその時、テテリカはランランの佇まいに圧倒されていた。
(間近で見るとでかい……)
突然だが、テテリカは身長128cmである。ゴブリンとしては平均的な大きさだ。一方、ランランはケンタウロスの為、身長はテテリカの優に二倍はある。間近でみるランランは大迫力だ。
(屈強な蹄……もし踏みつけられたら逃げ出せそうにない……)
テテリカはランランの力強くも逞しい馬脚に思わず目を奪われた。
「?」
(……なんだ、この胸が締め付けられるような感じは。もしや、これが恋?)
●
「俺達は鳥を狩ろう。頼むぞ、ベニテング」
迷彩と防寒を兼ね、白い毛布を被って森へとやってきたテテリカは相棒の大鼬に声をかけた。テテリカは狩人だ。冬の森での狩りも心得ている。ベニテングに樹上を先行させながら、テテリカは気配を殺して森の中を進む。今回はベニテングと自分の二人だけだ。強敵との交戦は避けたい。
「キュイ、キュイ」
獲物の鳥魔獣を見つけたベニテングが鳥魔獣を追い立て、テテリカの潜伏している方向に誘導してきた。完全に木になりきっていたテテリカは弓矢を引き絞り、肉を傷つけないように頭を狙って矢を放った。命中。眉間を貫かれた大きな鳥魔獣はどさりと地面に落ちた。
「でかい鳥だな。食べがいがありそうだ。良くやってくれた、ベニテング」
●
「俺の料理は鳥ローストの果実ソース、ハーブ添えだ」
マジカルポケットに鶏肉をしまい、手ぶらを装って帰ってきたテテリカは、ハーブで香り付けしたハツやレバーが詰め物の鳥の丸焼きをランランに提供した。
「美味しいデス、ソースが味の決め手デスネ!」
「そ、そうか、口に合ったようで良かった」
馬座りし、手づかみでワイルドに肉を貪るランランの姿にテテリカはちょっとドキドキしていた……。
●
「ケンタウロスの料理大会か。へぇ、なかなか面白そうじゃねえか。俺も参加してみようかね。冒険者からも何人か参加するみたいだしな……ん」
ヴァンゲルス・ロッドは参加証のゼッケンを受け取るために列に並んでいると、近くをたむろしていた冒険者達の中に見知った顔を見つけた。
「お、ハーヴィ。お前さん、確か料理得意だったよな。折角ここまで来たんだ、少し手伝えよ」
「もー、ほんと人使い荒いなぁ。ま、頼られるのは嫌じゃないけどね」
ハーヴィの返答に、ヴァンゲルスはニヤリと笑う。
「よし、狩場は森だ。行くぞ」
「……って僕も現地まで行かなきゃなの!? 肉体労働はそっちの仕事でしょ?」
いかにもめんどくさそうに抗議の声を上げるハーヴィ。てっきり自分は調理担当だとばかり思っていたのだ。
「は? 当たり前だろ。お前さんの火力、頼りにしてるぜ」
「……僕、後ろで魔法撃つしかしないからね」
●
食材を求めて森へとやってきた二人。ヴァンゲルスは不可視のエーテルを飛ばし、辺りの地形と気配を探りながら進んでいた。その少し後ろには、モコモコに着こんだハーヴィがついてきている。凶暴な獣との接触を避けながら、ある程度の量のキノコや野草を確保した後、ヴァンゲルスは立ち止まり、呟く。
「野菜やキノコも良いが、やっぱ肉が要るな。……狩るか」
「罠を張るの?」
「ああ」
ヴァンゲルスはバックパックから母蜘蛛糸のロープを取り出した。これはゴムのような性質を持つ上、エーテルを通わせると粘着性を帯びるという、優れものだ。ヴァンゲルスは木の上によじ登ると、ロープで即席の罠を作った。
……。
「いたな」
ハーヴィと共に獣の足跡を追っていたヴァンゲルスは、こっそりハーヴィに手で前方を指し示した。物音を立てないよう、ハーヴィがそちらを覗き込むと、白い毛皮を持つ猪のような魔獣が雪を掘り返していた。植物やキノコでも探しているのだろう。
「あいつらを狩るぞ。ハーヴィ、罠を張った方向に追い込んでくれ」
「了解」
ハーヴィは姿勢を低くしたまま、猪の後ろの方に回り込んだ。幸い、猪は食事に夢中で周囲への警戒は疎かになっている。ハーヴィは難なく、猪の後ろに回り込むことができた。
「よし、行くよ!」
ハーヴィは念のために光の壁を自身の前に貼った後、短杖から光弾を放った。光弾をまともに浴びた猪は悲鳴を上げ、その場から離れようと全力で逃げていく。
「よし、いいぞ!」
脇に潜んでいたヴァンゲルスは猪を追いかけた。そして、狙い通りに猪魔獣はヴァンゲルスが仕掛けていた罠へと突っこむ。上から降ってきた丸太に顔面を強打された猪はひっくり返った。
「止めだ!」
ヴァンゲルスは素早く猪に近づくと、後ろ脚を暗針で突き刺した。もはや立てまい。起き上がれなくなった猪をヴァンゲルスが攻撃していると、追い付いてきたハーヴィも猪に魔法で攻撃してくれた。やがて、猪魔獣は動かなくなった。
「やった! 大物だね」
「おう、お疲れさん。さて、まずは血抜きだな。気温が低いとはいえ、さっさと処理せんと傷んじまう」
ヴァンゲルスはハーヴィとハイタッチした後、短剣を取り出し、猪の解体作業を始めた。手早く解体作業を終えたヴァンゲルスはバックパックごと猪をマジカルポケットにしまうと、代わりにハーヴィを背負った。
「よし、帰ろう。帰りは楽させてやる」
●
ヴァンゲルスにおぶわれ、調理場に戻って来たハーヴィは猪の肉とキノコや野菜を使い、シチューを作り上げた。小皿にシチューをもらい、試食したヴァンゲルスは「旨い」と顔を綻ばせた。二人はすぐランランの所に行き、シチューを提出した。
「これは食べ応えのあるスープ料理デスネ! 美味しいデス!」
『うむ。野菜たっぷりで栄養もありそうだ。これは良いものだね』
ハーヴィの卓越した調理技術はランランと、つまみ食いしに来たレミーラの舌をうならせた。ランラン一人で猪一頭分の肉を食うのは無理だったので、余ったシチューは他のケンタウロス達にも振舞われた。
「評判は上々だが……さて、名誉婿とやらにはなれるのかね?」
ヴァンゲルスはニヤリとハーヴィに笑いかける。すると、ハーヴィは顔を逸らした。
「えっ婿? 僕は別に良いよ。だって……や、何でもないっ」
●
「とりあえず雪原で獲物を狩るか」
シャドウは雪原にやってきていた。狙うのは草食型の魔獣だ。ヤギや牛など、肉のうまい獣には草食獣が多い。草原ならそういった草食獣も多いだろうと踏んだのだ。雪原には、エーテルを求めて彷徨う血の気の多いクリーパーや、過酷な雪原に適応した俊敏な魔獣があちこちに生息していた。シャドウはクリーパーとの接触を避け、草食獣を狩るべく雪原を彷徨い歩いた。しばらくすると、シャドウは血が点々と雪の上に垂れているのを発見した。
(獣同士の争いか……? なら、好機だな)
シャドウはほくそ笑み、血の痕を辿っていく。しばらく進むと、一体の野牛型の魔獣が座り込んで体を休めていた。全身が血だらけなので、やはり他の魔獣やクリーパーと激しく戦ったのだろう。
(よし、仕留める!)
シャドウは短単距離ならばケンタウロスすらも凌駕する脚力を発揮し、野牛の首にダガーを突き立てた。一瞬の三連撃が首の骨を強引に断ち切り、野牛はばたりと倒れた。
「よし、メインの肉は確保だ。できればハーブも欲しいんだが……これは森に行かないと難しいかな?」
●
「天馬葬、何かできる、こと……?」
ケンタウロスの聖地へとやってきていたエルは首を捻る。天魔葬は大族長レミーラの生前葬だという。高齢で天に召されつつあるレミーラの寿命を延ばしてやるのは無理だろうが、故人の為に、自分が何かできることはあるだろうか。
「人馬味勝負……婿選び? 冒険者も参加可能、って。まあ、仲良くなれる、のは、良い事」
結局、エルは人馬味勝負に参加することにした。審査を務めるランランはレミーラの後を継ぎ、族長となるケンタウロスだという。今回の天馬葬でも喪主として忙しそうにしていた。彼女の為に料理を作ってあげるのは、やりがいのある仕事になりそうだ。……婿選びはともかく。
●
雪に覆われた森へとやってきたエルは、エーテルを飛ばし、魔獣やクリーパーを避けて移動していた。彼女の狙いは肉ではなく、キノコや野菜だ。他の生物との交戦はできるだけ避けたい。
「キノコがあるのは、風があまり当たらなくて湿気がある所? あった」
首尾よくキノコの群生地を発見したエルは、毒キノコを避け、食べられるキノコだけを選んで採取していく。
「うん、十分とれた」
エルは取れたキノコや野草を袋に詰め込み、マジカルポケットに入れて持ち帰った。
●
「なあ、ハーブを持ってたら分けてくれないか?」
「うん、分かった」
シャドウの問いにエルはこくりと頷く。シャドウはエルにハーブを分けてもらう代わりに、持参した調味料を少し渡した。
(なるほど……別の狩場に行った選手同士で食材を交換するとは、考えましたね)
二人のやり取りを見ていたランランは感心していた。この競技は花嫁選びという性質上、チームの異なるケンタウロス同士が協力することは少ない。だがエルとシャドウはケンタウロス達とは異なり、本気でランランに求婚しているわけではない為、「他人を蹴落としてでも勝ちたい」、いう考えはなかったのだ。
「さて、始めるか」
マジカルポケットから牛の肉を取り出し、シャドウはまな板の上に置いた。彼の心にあるのはただ、ひたすらにうまい料理を作りたいという、情熱のみであった。シャドウは羊型魔獣の肉をステーキ状に切り出し、塩コショウをまぶした。
「焼き色がついたら、弱火で中まで火を通す」
シャドウは火を通した肉を一旦脇にどけると、今度はソース作りを始めた。
「ぶどう酒とバターを加え、更に隠し味としてシャルガネ産の醬油を加える」
「おっと、珍しい食材が出ましたね。それは何デショウ?」
ソースの香りに惹かれたのか、ランランが尋ねられ、シャドウはワインの瓶を手で示しながら返答する。
「葡萄酒とバターだ。肉と醤油の相性は抜群で味にグッと深みが出る」
「なるほど! これは楽しみデス!」
「そして今回の料理の決め手、シャルガネ産ワサビの登場だ」
(このワサビの鮮烈な風味は人馬族には経験があるまい。きっと驚くこと間違いなし!)
シャドウは最後にエルにもらったハーブを添え、料理を完成させた。
「『魔獣ロースのステーキ』の出来上がり! ご賞味あれ!」
「おいひいデス! 文句ナシ!」
魔獣ロースステーキをむしゃむしゃと頬張るランラン。ランランは肉料理が好きだったらしい。
「私は、キノコを焼きました」
エルは網でキノコを焼き、巴屋の高級醤油で味付けしたものを出した。付け合わせとして、シャドウにもらったわざびも皿の隅に乗せている。醤油とわさびは相性がいい調味料なので、いいアクセントになるだろう。
「これもおいしいデス! アナタも名誉花婿デスね!」
「花婿、じゃなくて。お友達、で、お願い、し、ます」
「分かりました、今日から私達は友達デス。エル」
ランランはニッコリ笑った。
●
「恐竜食いてえだろ! 俺は食いたい」
「私も食べたいです! 恐竜! 故郷の森にはいませんでしたが、でっかいトカゲのことですよね!」
「恐竜かー。なかなか手ごわい相手を選んだね! おじさんも協力するよ!」
「やっぱ狙うなら恐竜だよな!」
ナハシュは男のロマンを求め、雪原へと繰り出すことにした。相手は大物だ。万全を期すべく、自称プロの狩人であるティカにも応援を要請したところ、ティカはあっさり承諾した。さらに、通りすがりのアラン・スミシーとティカの護衛の帝国兵(注:ティカは帝国に頼まれて協力している希少な『エーテル浄化者』である)も加わり、「恐竜の肉食べ隊」が結成された。
「さぁてと、狩りの時間だねぇ~。む」
「オッサンは狩りは得意か?」
「まあ、それなりには……うん、知識は豊富だよ。長生きしてるしね」
ナハシュの問いにアランは頷いた。アランはどちらかというとインドア派で、故郷では本を読んでいることの方が多かった。とはいえ、このあたりの環境や狩りの仕方、ついでにおいしいアウトドア料理の作り方は事前に書物で調べてきたので、知識という点では十分役に立てるだろう。
●
「うう、寒い……早く春にならないかな……ナハシュさん、その格好で寒くないんですか?」
モコモコのジャケットを着こんだティカは半裸のナハシュへと問いかけた。
「割と寒い。速攻で狩ろうぜ!」
「うん、この寒さはなかなかキツイな。さっさと獲物を見つけよう!」
恐竜を求めて雪原を彷徨う冒険者達。その活動限界は短いと思われたが、ナハシュの強運のおかげか、探索を始めてすぐに恐竜クリーパーの痕跡が発見された。
「あ、この足跡そうじゃないですか?」
「うん。この足跡は大型爬虫類のものだね。たぶん恐竜じゃないかな」
「お、それか! よし! こっちの方を探そう!」
ティカとアランのサポートでだいたいの方角の検討をつけたナハシュは宗波を駆使し、恐竜クリーパーを追い込んでいく。
「このあたりにいそうだな! 隠れて待とうぜ!」
「「了解!」」
ナハシュ達は寒さ避けに作ったかまくらに身を隠し、恐竜クリーパーの出現を待った。
「出たぞ、恐竜だ! でけえ!」
「うわお、これは大物だ!」
「ギャオオオオオ!」
ナハシュはかまくらから勢いよく飛び出すと、馬サイズの恐竜へと飛び掛かった。籠手で恐竜の顔面を殴りつけ、暗針を首へと突き刺す。すぐさまアランがナハシュへと青い炎を放ち、彼に加護を与えた。当然恐竜も怒って猛反撃してきたが、ナハシュは恐竜に纏わりついたまま、爪や牙を器用に躱し、ひたすら恐竜をどつき回した。恐竜は激しく抵抗したが、青い炎を纏ったナハシュは器用に恐竜の死角に回り込み、まるで攻撃を寄せ付けなかった。
「おじさんも加勢するよ!」
アランは祭刀を抜き、自身も恐竜に接近戦を挑んだ。ティカや帝国兵も二人を誤射しないように気を付けながら、弓矢で援護してくれた。そして……。
「おらぁ!」
数分間の激闘の末、ナハシュのいいパンチが恐竜クリーパーの顔面を撃ち抜き、ズズン、とクリーパーは大地に沈んだ。
「やったぜ! 一体丸々フルコースだ!」
「すごーい! やりましたね!」
●
『へっへっへ、なんか獲物持ってるだろ? 俺達が全部もらってやるぜ!』
アラン達が森を出ると、柄の悪いケンタウロスが接近してきた。
「めっ!」
アランは威嚇態勢を取り、衝撃刃を放った。ケンタウロスには当たらなかったが、その辺にあった岩を一撃で真っ二つに切り裂いた。その威力に恐れをなし、ケンタウロス達はUターンして逃げていった。
「横取りはいけないぞ! お嫁さんが欲しいならちゃんとルールを守って狩りをしなさい!」
「恐竜のステーキ! これも好物デス!」
帰還したアラン達は、ステーキや串焼き、骨髄入りスープ、心臓の刺身などの大量の恐竜料理を作った。そして、コース料理としてそれなりの量をランランに提出した後、恐竜の肉食べ隊で残った肉を山分けした。
●
「ランランのむ、婿だぁ? それで人馬に認めてもらえんなら。やるさ。味も大事だけどよ、ランランの喜ぶ顔もみてみてぇな……」
パヴェル・A・サムルガチェフは驚きはしたものの、人馬味勝負に乗り気だった。レミーラの部族とは知らぬ仲ではない。ランランのみならず、レミーラとも(通訳を介して)多少言葉を交わしたこともある。
「うめえ料理……そうだなぁ、学園祭の喫茶店で仕出ししてた光景を真似てみるかぁ」
●
パヴェルはオムレツを作ることにした。材料は卵とたまねぎ、そしてトマトだ。食材を求め、パヴェルは森へと分け入っていく。
「一応鳥も取っておくかぁ」
森に入ったパヴェルは枝を拾い、簡単な鳥用の檻の罠を作った。オムレツと相性のいい鳥ひき肉をオムレツに混ぜるつもりなのだ。
「さて、獲物を待ってる間にも仕事しねぇとな」
パヴェルは罠を放置し、野菜を探し始めた。
「トマトとたまねぎ……はさすがに無ぇだろうが、似たような奴ならあるかもしれねぇ」
……。
「うん……まあこんなもんだろう」
パヴェルは甘みの強い食物と、すっぱい果物を見つけた。本物よりは劣るだろうが、オムレツのソースに使い分には相性は悪くなさそうだ。
「さて、始めるかぁ」
パヴェルはナイフを器用に使い、調理を終えた後、ゲルのセッティングを始めた。パヴェルが再現しようとしているのはパンクリアース学園の屋台。オムレツだけではなく、出店ごと再現するつもりなのだ。
「よし、こんなもんだなぁ」
ゲル内を貴族風に飾りつけし、ブロッサムティーセットの皿に盛り付けたパヴェルは、執事風の衣装に着替え、ケチャップソースを絞り袋にいれたものを準備し、ランランを呼んだ。
●
「これは……変わったゲルですネ」
「おう。人間の建物を再現してみたんだぁ」
「ナルホド、人間はこんな感じの建物で生活しているんデスネ!」
ランランは内装に興味津々だ。体が大きいので小物をひっくり返さないかどうか、パヴェルはヒヤヒヤしたが。
(みんながみんなこんな立派な家ってわけじゃねぇんだが……まあいいか)
「嬢ちゃんは好きな言葉とかあるか?」
気を取り直し、パヴェルはランランへと問いかける。
「好きな言葉は『スピード』デス!」
「了解だぁ」
パヴェルは頷くと、ケチャップで『スピード』と書いた。
「人類ではこれがスピードという意味なのですネ」
「おぅ。さぁ、召し上がれ。『仮装喫茶』ってのでなぁ、めぇど服の嬢ちゃんがサービスするんだってよ」
ランランはナイフとフォークを使い、オムレツに挑戦したが、結局手づかみでオムレツを平らげ、顔はケチャップだらけになった。
「美味しいデスね!」
「はは……。本当はトマトと玉ねぎで作るんだがよぉ、口に合ったようで何よりだぁ」
●
「ふむ、まぁ常識的に考えれば、人馬族のお膝元なのだから地の利に精通した人馬族が有利だろうな」
全力疾走で狩り場に向かっていくケンタウロス達の背を見送りながら、ベルク・オスマットは呟いた。
(単に食材勝負では負けるのは見えている。ここは文明発展した人類圏の腕の見せ所だな)
「頼むぞ、我が愛馬よ」
ベルクは愛馬の背を撫で、その背に跨った。
「ふ、ランランの部族では試験的に農業や畜産を試していたはず。ならば将来の部族の味の一端を味合わせるべき!」
ベルクが狩場に選んだのは森だ。肉、野菜、キノコなど、豊富な食材を集め、その旨味を凝縮した煮込み料理を作るつもりであった。ちなみにレミーラの部族の農業と畜産についてだが、農業の方はあまりうまくいっていないようだ。幽界樹の影響で帝国の農業の難易度は爆上がりしているので、初心者にはなかなか逆境なのだろう(それでもジャガイモなどの簡単な食物については一定の成果は出ているようだ)。その代わり、畜産の方はたまたま部族に『ビーストテイマー』の才能を持つ個体がいたらしく、ある程度うまくいっているらしい。ベルクは卓越した狩猟技術を駆使し、獣や鳥、キノコ、フキノトウなど、様々な食材を素早くかき集めた。
「これぞ人類の英知! 調味料!」
調理場に戻って来たベルクが取り出したのは塩と胡椒だった。
「とう!」
「おっと、ベルク選手! 凄まじい刀工技術デス!」
ベルク手早く包丁を入れ、瞬く間に鶏肉をバラした。そして鍋に水を入れ、鳥ガラを投入。強火でダシを揺さぶり出した。
「よし、次は野菜だ。そして肉!」
ベルクは野菜や肉を次々と放り込む。そして丁寧にアクを取り、見事な鳥スープを作った。
「レミーラ殿、貴殿も食すがいい」
(たっぷり煮込んで肉が柔らかくなったスープだ。レミーラ婆でも無理せず食べられるだろう)
ランランが通訳し、レミーラもスープを口にする。レミーラはどこで覚えたのか、ベルクに指で「OK」のサインを作った。
「うむ、口に合ったようで何よりだ」
●
「ここなら山菜が取れるはず。あれも見つかるといいのですが……」
マントを羽織り、防寒対策を整えたトーラは、雪に閉ざされた森へと分け入っていく。
「今回は一人です。クリーパーとの交戦はできれば避けたいですね……」
トーラはエーテルをソナーのように飛ばし、周囲の地形を探った。同時に、危険な獣と出くわさないよう、生命体の探知を行う。
「この反応は狼かな? こちらを通るのはやめておきましょう」
トーラはうまく獣との遭遇を避けながら、慎重に森を探索した。
「竹藪発見! なら、まだ時期は早いですけど、地中を注意深く探れば見つかるかもしれません!
首尾よく探し物を見つけたトーラは、スコップでゴリゴリと地面を掘る。目的はイワタケ(キノコではなく藻類である)と、レミーラの好物であるタケノコの採取だ。
「やった! ありました!」
トーラは掘り起こしたタケノコをマジカルポケットに素早くしまった。
『ヒャッハー! 食材をよこしな!』
トーラが森を出て草原を走っていると、ケンタウロスの一団が突進してきた。獲物を横取りするために森の近くを張っていた連中だろう。
「ずるいケンタウロスさんですね! 何も渡しませんよ!」
トーラは一気に加速してケンタウロスを引き離し、調理場へと無事に帰還した。
●
「醤油で味付けした筍とイワタケの煮物です。レミーラさんは筍がお好きと聞きましたので、ランランさんも馴染みのあるかと思って作ってみました」
トーラが料理を出すと、二人の反応は分かれた。ランランの反応は淡白だったが、レミーラの方は目に見えて御機嫌だ。どうやら、二人の食べ物の好みは違ったらしい。
「うん、おいしいデスね。レミーラ様も喜んでおられマス」
『うまい! ありがとうよ!』
トーラの調理はランランよりもむしろレミーラにいたく気に入られ、レミーラ特別賞を受賞した。
●
『よし、やっと魚が釣れたぞ!』
凍った湖にて。ランランへの婿入りを希望するケンタウロスのチームが釣りに励んでいた。このチームは1時間ほどかけ、ようやく魚を釣り上げたのだ。だが……。
『ヒャッハー! その獲物、俺達によこしな!』
そこにやってきたのはガラの悪いケンタウロス。ランランの美貌に目が眩みつつも、真面目に狩りをするつもりがない不届き者達である。不良ケンタウロス達は魚を釣ったケンタウロス達を叩きのめしてしまった。
『ひゃはは、これでランランの婿の座は俺達のものだぜ!』
「待った! ルール違反を見過ごすわけにはいかねえ!」
『誰だ!?』
そこに登場したのは、色鮮やかな赤と白のコートを着たアリッグ・レイダーだった。アリッグも人馬味勝負の参加者だが、彼は自分の調理は後回しにし、競技運営の手伝いに回っていたのだ。その一環として湖を見回りに来たら、ケンタウロスのカツアゲの現場を目撃したというわけである。
『お前は、もしやジド・ルウ……!?』
アリッグの派手な衣装に瞠目するケンタウロス達。そう、この衣装は聖地のケンタウロス達の間でも語り継がれている伝説の英雄、ジド・ルウのコスプレである。アリッグはジド・ルウと同じハーフリング族なので、再現率はかなり高かった。
「おらぁ!」
アリッグは悪いケンタウロスに駆け寄ると、腹にパンチを叩き込んだ。人馬たちは抵抗して暴れたが、特異個体ではない普通の人馬がアリッグに敵うはずもなく、やがて、降参して立ち去っていった。
「もう大丈夫ですよ」
アリッグは傷付いたケンタウロス達にヒールをかけた後、その場を去って行った。ランランに不正を報告する為にだ。去っていく小さな背中を見送り、手当されたケンタウロス達は呟く。
『ジド・ルウ……。本当にいたんだ……』
アリッグは結局手の込んだ料理を作る暇はなく、川エビの串焼きを提出するのが精一杯だったが、代わりにルール違反のケンタウロスを成敗したり、クリーパーに返り討ちに遭いそうになっているケンタウロスを救助したりと、運営方面では八面六臂の活躍をした。
(料理はまともにできなかったけど、ランランが一番喜ぶのはこういう事じゃねえの)
「アリッグ、アリガトウ」
その甲斐あってか、アリッグは競技が終わった後、ランランに頭を撫でられた。
●
人馬味勝負の日の夕暮れ。冒険者達に遅れ、ケンタウロス達も料理を持参し、会場には大量の料理が集まった。
『モテるねランラン。全部食えるかい?』
『全部残さずとなると、流石に厳しいです』
レミーラに問いかけられ、ランランは苦笑いした。
『だろうね。自分の分は小皿にでも取り分けて、残りは他のケンタウロスにも振舞ってやんな。ボウケンシャ族もそのつもりでたくさん作ったみたいだし』
『ですね』
結局今回の人馬味勝負は途中から立食パーティに変更された。思いがけず、異文化の料理のご相伴に預かることになったケンタウロス達も大喜びだ。それはそれとして、成績優秀者はちゃんとランランに表彰され、花婿候補として選ばれた。もちろん(?)、冒険者達の中からも何名か名誉花婿が出ている。
「皆さん、ありがとうございました! 人馬味勝負、これにて閉幕デス!」
『ジド・ルウも祝福してくれている……幸せになりな、ランラン』
優秀なケンタウロスの雄や冒険者に囲まれたランランの姿を遠目に見ながら、レミーラは目を細めた。
マスターコメント
イベントシナリオ普通 報酬:多い13 / 4〜25人
2023年02月12日 21時53分46秒 公開
相談掲示板
シーフのトーラです。 よろしくお願いします! 冬の森に行くつもりなので、行き先が同じ方はよろしくお願いしますね。
シャドウだ。よろしく。 俺が本物の魔獣料理ってやつを食べさせてやりますよ。(シャド岡
俺はテテリカ。よろしく頼む。 料理の腕前は平凡だが、狩りや採取、人馬の文化に興味があって参加した。 さて、何を作ろうかな……。
キャスター・パヴェルだ。よろしくなぁ。 まだ行き先についてはきめてねぇが、 冬の森あたりで考えてるぜ。
ナハシュだ!よろしく。 行先は同じく決めてねえが、たぶん雪原の恐竜か湖の魚系を食いに行くぜ。 コンテスト用以外で多めに作ったら食べていいんだろ?(わからない(ただの参加動機です(
エル、です。…シューター、です。 どうぞ、よろしく。 冬の森、で、キノコ採り、しようか、と思って、ます。
ヒーラーのアリッグ・レイダーと申します! 今回は料理対決ですか。 僕は湖の魚を捕りに行こうかと思います。 一緒に湖に向かう方がいれば、クリーパー退治は協力しますよ! 獲物の横取り防止も考えたいですね。 ムカつk……いえ、悪いケンタウロスの方を止めたいですし。 個人的には料理と採取での協力も考えてますので、 どなたか協力できる方がいれば、お誘いください!
やっほー!ヒーラーのアラン・スミシーだ! 雪原に行く予定だけど、もしバフやヒーリングがご入用なら声をかけておくれ~!
こんにちは、ボウケンシャ族の戦士たち。アタシの天馬葬にようこそ。出発は明日の朝8時だ。忘れ物がないように注意しとくれ。
行動は提出済みです。 『この魔獣料理を作ったのは誰だぁ!』と怒られないよう頑張りましょう!