【恨源】その饗宴は誰のためにあるのか?

広大野人

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シナリオID:2734

オープニング

●
 筆頭執事オーキサ・ゼィパムからの招待状を受け取った王国騎士エナハルト・ティルムは冒険者ギルドの受付男子イシアを呼んで、冒険者達への依頼を手配していた。
「……冒険者の随伴もお願いされている。顔を合わせておきたいから……という理由らしいが、同時並行で調査も継続しておきたい」
 調査の為の時間は限られている事もあるので、正直な所、お断りしたいものだが……宴の誘いを無下に断るのも立場上、難しい。
「冒険者への依頼は、『宴への参加』あるいは『調査』という形にしておきます。あくまでも随伴は『お願い』という事でしょうから」
「それで頼む。ダルダニエ領主は不在のようだが……調査自体には問題ないだろう」
 領主であるユーゴ=ダルダニエは近隣領に住まう血族に新年の挨拶回りで出掛けていた。たまたま今年は血族から呼ばれたという。
「挨拶回りの理由は、やっぱり後継者問題でしょうか?」
 イシアの疑問にエナハルトは小さく頷いて応えた。
「血族の中から養子を取る為の準備かもしれない。と言っても、すぐさま決められる事でもないだろうけど」
「冒険者への依頼はどうしましょうか? 近隣領にまで範囲を広げますか?」
「いや、まずはダルダニエ領内でしっかりと情報を集めるのが先決だ。貴族の養子縁組の話なら、別の情報経路も使える訳だし」
 前回、冒険者達が集めた情報をより広く深く、調べる事が優先されるべきだろうとエナハルトは考えた。貴族間の出来事は、冒険者でなくても調査可能だが、街中での調査は冒険者の方が動き易いというのもある。
「分かりました。調査がより進めばいいですね。前回の調査では、幾つかの謎も浮かび出たようですし」
 領都では『スラム街が縮小されており、失踪者よりも死因が明らかにされているケースが多い事』『領主の評価は概ね良好だが、冷酷な一面もあるという事』『納税できなかった者に対する裏マニュアルと夜逃げ屋の存在』……これらに対する追跡調査は必要だろうか。
 勿論、それ以外にもまだ明らかにされていない情報もあるかもしれない。
「では、冒険者への依頼手配をよろしく頼むよ。僕は父に頼んで、貴族間の情報ルートが使えないか確認してみるつもりだ」
 次の調査で真相にぐっと近づきたいものだと、そう思うエナハルトだった。

●スラム街
 数人の衛兵達が今にも崩れそうな小屋にやって来ていた。
 犯罪者がいる訳ではない。持病が悪化して働けなくなった男の様子を確認する為だ。
「具合はどうだ?」
「……あまり、よく……ねぇ……なに喰っても飲んでも、くだしちまって……」
 寝床で横になったまま男は力無くそう言った。
 水分も満足に摂れていないようだ。
「そうか。水ぐらいは変えてもらえているのか?」
「あぁ……1日1回、親切な、人が……来てくれてる……」
「だったらいいが……まぁ、早く健康になれよ。以前の納税も滞っているしな」
 衛兵のその言葉に男は黙り込む。
 果たして体調が良くなる日が来るのか、全く分からないからだ。命を繋いでいるのは、たまに訪れる親切な人の差し入れがあるからで、毎日が死と隣り合わせだった。
 男が住む小屋から離れた所で衛兵同士が複雑な表情を浮かべる。
「あれは長くは保たないな」
「少し、巡回の頻度をあげるか……こっちも忙しいが、腐った死体になってから発見すると、掃除が大変だからな」
 この街では、街中の衛生維持も衛兵の大事な仕事の一つだった。
「次の休みはナキーノ湖で釣りでもしようと思ったのに……」
 一人の衛兵が疲れた様子で空を見上げた。
 ナキーノ湖は街の郊外にある大き目の湖だ。風景も良いし、色々な魚が獲れる。周囲を森に囲まれており、山菜や茸も採れるので、領民にとっては憩いの場になっているのだ。
「仕方ねぇよ……さ、仕事しようぜ。領主様に怒られちまう」
 背筋を無理矢理伸ばし、衛兵達は詰所へと戻るのであった。

●???
 どこかの地下室だろうか。
 石壁に囲まれたその場所は窓もなければ扉は一つしかない。それも二重扉になっており、部屋の中の音が外に漏れないような仕組みになっている。
「わざわざここに呼び出して、つまらない話なら容赦しないからな」
 威圧的な態度でその男は告げた。
 向かい合っている男が大袈裟な身振りを交えて話す。
「トレゾルを見つけた!」
「なんだと……嘘じゃないだろうな」
「本物かどうかは分からないから、こうして呼び出したんだ」
 そう言って男は似顔絵のようなものを見せた。
 だが、不幸な事に男は絵が限りなく下手糞だった……。
「……わからん。直接、確認するしかないな。どこにいるか分かるか?」
「多分……――だ」
 気持ち慎重になったのか、声のトーンを落として伝える。
 その言葉に高圧的な態度の男は唸って応えた。
「まだ慌てる所ではないだろうな……機会があれば探りを入れ必要があるか。あの王国騎士も何が目的でこの地に訪れているのか、警戒は必要だ。例の組織は壊滅しているそうだが、あっちの方はどうだ?」
「それについては吉報になりそうです。もう暫く、お時間を頂く事になりますが」
「使えるものは何でも使わんとな」
 ニヤリと笑った男は気が付かなかった。
 この部屋に予め潜り込んで聞き耳を立てている人物がいた事を。

解説

●目的 『宴への参加』あるいは『調査の実施』 ●宴 ・ダルダニエ領筆頭執事から、調査を続ける王国騎士を労うという名目で宴の席が用意されています。調査に協力している冒険者の随伴もお願いされています。冒険者の参加は強制ではありませんが、エナハルト曰く、一人か二人は一緒に同行して欲しいそうです。 ・宴の席では、これまでの冒険者としての活躍や実績を筆頭執事から尋ねられます。また、余興として、筆頭執事が雇っている凄腕の傭兵(授恵者の元冒険者)との模擬戦も可能です。 ・領主館以外の調査を試みる場合、時間的な都合によって相当なペナルティーが発生します。 ●調査&情報収集 ・基本的には調べようとする行為に対し、プレイングやスキルなどを考慮した一般判定を用います。推測した内容が真実と違っても、その方向性によっては判定時に有利となります(逆に不利になる事はありません)。 ・ダルダニエ領の領都及び郊外において情報収集や調査活動を行う事になります。調査方法は冒険者達に一任されています(各自、フリーアタックとなります)。ただし、一方的な犯罪行為による情報収集は禁止です。 ・領都には一般的な設備などが揃っている事とします(規模の大小はありますが)。 (例)大通り、大広場、職人街、商会街、住宅街、酒場や宿、城門、路地……等々。 ・前回調査で『切っ掛け』を得た人はその伝手を使って更なる情報収集が可能となります。 ●NPC エナハルト・ティルム:王国騎士であり冒険者達の依頼主。 ユーゴ=ダルダニエ:ダルダニエ領の現領主。現在、外出中で接触不可。 オーキサ・ゼィパム:筆頭執事。宴を取り仕切っている。 他のNPCも調査によっては出会ったりする可能性がありますし、前回『切っ掛け』を得ている場合は、その人物を指定する事ができます。 ※NPCとの関わりにおいては、これまでの関わりによる友好度が存在します。友好度による『差』はあるものとしてご理解下さい。 ●その他 ※プレイング内容によってはアドリブ対応になる場合があります。ご了承下さい。 ※OP『???』のシーンはPL情報となります。 ※EXCが紐付けされていますが、プロフィール外の情報や設定はマスタリング対象となっております。質問への回答は致しませんのでご了承ください。

マスターより

 おはようございます。当依頼にて64作目となった広大野人です。  個人連作【恨源】(こんげん)は第2話となります。前回の結果を早速影響された上でのオープニングです。  次も引き続き調査系フリーアタックとなっていますが、一部は宴への参加をお願いされていますので、参加者同士で役割を決めていただければと思います。  前回参加された方の中で『切っ掛け』を得た人は、それを活かしての調査も可能です。もちろん、『切っ掛け』を使わないで別の調査をするのも良しですので、柔軟に行動を考えていただければ!  それでは、ご参加の程、お待ちしております!

リプレイ

●
 衛兵詰所で情報を収集した後、ルベア・ベルニはスラム街に到着していた。
(この街に来ると、複雑な気分になるけど……私は、彼女の為にもすべきことをやるだけ)
 グッと拳を握って己に活を入れる。
 彼女(ミア)の出自と本領の関係については、本人が依頼に集中したいと言っている以上、その想いを支えるだけだ。
 スラムの住民に変装(フェイクカバー)した上で、ルベアは夜逃げ屋の情報を求めて、動く――狙いは何らかの理由で働けなくなった人だ。
(この街に夜逃げ屋が存在しているのは衛兵も知る所のようだけど……)
 滞納や借金を抱える者の逃亡を手伝う事は罪なはずだが、積極的な捜査活動はしていないという。手を抜いている訳ではなく、他の事で忙しいという事だ……あるいは、本当の事は言えないという可能性もある。
 ルベアは幾つかの家を訪れ、やがて体調を崩して寝床に転がっている男性に辿り着いた。
「アナタ、大丈夫なの?」
「……」
 何とか発した声は小さく掠れている。
 医術の心得はないが、酷く衰弱しているようにも見えた。
「水は飲んでいるみたいだけど……食事は?」
「……ど、食べ、られ……吐い……くだし………」
「そんなんじゃ、いつまで経っても治らないよ」
 何か食べ物になるような物を探すと、ルベアはバスケットの中に乾燥した茸を見つけた。
(初めて見るわね)
 心の中で呟いた疑問を言葉にするよりも早く、外から人の気配を感じ、ルベアは窓からサッと出ると身を隠す。
「玄関が開けっ放しですよ。誰か来たのですか?」
「……」
「若い女の人? お迎えじゃないはず……それで、決心つきましたか?」
「……」
「そうか……なら、仕方ないです」
 会話はそれで終わると、突然の来訪者は去っていった。
 例の夜逃げ屋かもしれないと思い、ルベアは急いでその来訪者を追う。
 身なりの良い青年の後ろ姿が見えた。駆け足気味だったが、授恵者であるルベアに追いつけない程のものではない。
 だが、ルベアの足は路地の角でキッと止まった。
 見廻りの衛兵達と青年が鉢合わせしたからだ。だが、その雰囲気は良さそうだった。
「ゼィパム様、お疲れ様です!」
「皆様も見廻り、ご苦労様です」
「お戻りになる所でしたら、ご同行致します」
 青年が衛兵達と楽しそうに雑談しながら戻る様子をルベアは眺めるしかできなかった。
(あれ……茸持ってきちゃった……)
 それが決定的な物証になると判明するのは後日の事である――。

●
 衛兵が見廻りに来るタイミングが若干ズレた事を気にしつつも、ゼラルム・エルホワイトはスラム街での調査を継続していた。
(納税能力のない者を強制労働させる……程度では、正直肩透かしにも程がある)
 死因はそれを記録する側の都合で割とどうとでもなる。
 強制労働させた結果、死なせたとしても、それが記録する側であれば問題はない。
(利があるから行動を起こすのであり、行動には必ず理由があるはずです)
 スラムに移って来る人は、働けなくなって納税が出来なくなった者が多く、それは元々住んでいる者も余所者も変わらないと確認できた。
 納税義務を果たしている者には市民権が与えられ、治安や設備の整った地区に居を構えられる。その暮らしぶりは不自由のないように感じられる。
(スラムの縮小が目的ではなく手段だとしたら……夜逃げ屋は、手段に対抗する為の存在なのでしょうか?)
 当初、ゼラルムはスラム街に隠れ住んだ者を炙りだす為にスラムの縮小が行われていると推測していたが、調査してみると、強制労働よりも先に、夜逃げ屋が声を掛けてくるという重大な情報が得られた。
 何者かが、強制労働させたくない為に夜逃げを促している構図となる。
(何のために……何の利があって……)
 例えば――勢力争い。しかし、治政の評価は悪くないし、対抗勢力の話は聞かない。優秀な執事団を抱えて、領内そのものは安定しているのだ。
 そこまで推察した所で、ゼラルムは足を止めた。スラム街の外れの露店に並べられた茸を眺めつつ、別の考えが閃いたからだ。
(夜逃げする事も、強制労働に連れ出されもしなかった者を切り捨てる為に、急死や病死でカモフラージュしているのなら……)
 必然的にスラム街は縮小していく事になる。
 死ぬまで働かされる強制労働の噂と、それよりも早く街から出て行く事を促す夜逃げ屋の噂。強制労働させれば使用者側に何らかの『利』は発生するだろう。けれど、夜逃げ屋側に『利』は生まれない。
(『利』でなければ……『義』で動いている者がいるという事ですよね)
 強制労働から帰って来た者がいないという事実から、その労働内容は、人道に反するような事なのだろう。支配者側……つまり、領主以外の誰かが『義』の心を持って夜逃げ屋をしている事になる。
 一通り、情報収集と推測が出来た所で、ゼラルムは思い出したように湖へと向かうのであった。

●
「しばらくの間、よろしく頼むよ……レサタ」
 エリザ・A・ミシャールは『青い星』亭の看板娘であるレサタにそう告げた。
 彼女は嬉しそうな笑みを浮かべて、エリザの色白に装った手を取って応える。
「えぇ、変に遠慮しないで、いつでも頼って。そうだ、徴税吏さんの所には行った?」
「教えて貰った通り、な。何かと物入りでね。働くにしても、整えておきたいものさ」
 彼女の紹介で徴税吏に会いに行き、納税について説明を受けて来た。
 結果、納税さえしていれば、短期の滞在であっても市民権と同様のものを得られるという話をされたのだ。
「領主が厳しい御方だと再認識したよ」
 徴税吏からもそこは念を押された。
 きちんと税を納めなければ厳しいペナルティーが課せられる事。状況によっては強制的に働く事になるとも言われたのだ。
「だからと言って、スラムに逃げ込んじゃダメだからね」
「なぜだ?」
「衛兵が見廻っているもの。いよいよ、支払いに厳しくなったら、夜逃げ屋に頼むのが良いと思うわ」
 さらっと出て来た話題に内心驚くエリザ。
 『青い星』亭で給仕として働きながら市民達から情報収集していたが、夜逃げ屋の事や裏マニュアルに繋がる情報はそれほど得られなかった。噂として、存在する……という程度だったのに、レサタの言い方は、確定的だった。
「そんな簡単に夜逃げ屋へ頼めるものかい?」
 レサタは周囲をチラっと確認し、声を潜めてエリザの耳元で告げる。
「ここだけの話、私が紹介した徴税吏さんと夜逃げ屋さんは裏で繋がっているの。だから、税を納めるのが難しくなってきたら、遠慮しないで」
「つまり、レサタも一枚噛んでいると?」
「一枚どころか、もう沢山よ。夜逃げ屋の人とは、よく知った仲だから」
 満面の笑顔を魅せるレサタ。
 今までは愛想の良い看板娘という印象があったが、それが覆される気がした。
(だが……不思議と悪い人間には感じないな)
 この街では、納税ができない状態になれば罪人になる。
 それを夜逃げという手段で街の外へ手引きするのだから、為政者側から見れば、悪質な共犯者とも言えよう。捕まればただでは済まない事にこの看板娘は関わっているのだ……肝が据わっているのか、ただの天然か。
「その話、もう少し詳しく聞いておきたいな……いや、夜逃げするつもりはないが」
「夜逃げしなくても、今度、機会があったら紹介するわ」
 レサタはニッコニコで胸を張って応えた。
 ここまで堂々とできるのだから、やましいつもりはないのだろう。

●
 変装(フェイクカバー)にて旅人を装い、キオルティスは商人バーキンズに接触しようとしていた。
「お久しぶり。バーキンズさん」
 声に反応して振り返った商人の顔に疑問符が浮かんでいる。
 それは承知の上だ。よほどの天才か、特性を持っていなければ、記憶はいつか忘れてしまうもの。もっとも、バーキンズは商人だ。商売柄、相手の顔を忘れたとあっては致命的な事になりかねないはず。
「以前、街道で助けていただいた事が」
「あぁ! そうだったね……いや、申し訳ない。すっかり忘れていたよ。えっと……」
「キオです」
 爽やかな笑顔を作り、相手を安心させる。
 まるで思い出した様な大袈裟な身振りでバーキンズはそうそうと手を叩いた。
「ここには旅の途中かな?」
「はい。バーキンズさんはお仕事が一息ついた所なのかい?」
 質問を返しつつ、さり気なく蒸留酒を取り出すキオルティス。
 バーキンズの頭の中では会話に応じながら、目の前の人物が何者か必死に思い出そうとしているようだった。この商人が冷静さを取り戻す前に懐に根掘り葉掘り話を引き出すべきだろう。
「そうだ、バーキンズさん。俺は定住先を探していているんだよね」
 キオルティスの巧みな話術にすっかり嵌り、色々と答えてしまう商人だった。

 まず、バーキンズという商人は近隣領の街や王都との間で各地の特産を売り買いしている、普通の商人だという事が分かった。
 夜に街道に出るのは、送り先へのタイミングによるもの……らしい。もっとも、その時間に城門の外に出る商人は他には居なかったが。
「……という事で表向きはただの商人だが、ゼィパムの息子とは関わりがあるようだ」
 王国騎士エナハルト・ティルムにそう報告するキオルティスは調査で得た情報を話続ける。
「筆頭執事であるオーキサの一人息子、プラザ・ゼィパム。かなりの実力者のようで、普段は領主館か組合、街中を巡って仕事と関係者との調整をしているそうだ」
「接触はできましたか?」
「いや、そこまでは時間が足りなかった……というより、相手が忙しかったというべきなんだよ」
 入口近くの壁に寄り掛かりながら煙草に火をつけたキオルティスにエナハルトが訊ねる。
「オーキサの一人息子とその商人にはどんな関わりが?」
「……詳しくは教えてくれなかったけど、特別な依頼も受ける……だそうだよ」
 昇っていく煙草の煙を眺めながら、その特別について推察を続けるキオルティスであった。

●
 領主館に向かう馬車の中で、冒険者達が集めた情報をエナハルトから伝えられたシルヴィア・A・カペルとミア=リゼルの二人は、改めて、領主館での対応を確認していた。
「筆頭執事はミアに任せ、私は他の参加者から聞き取ろう。領主とその子の事、筆頭執事と一人息子の仕事振り……そして、領主館の構造だよ」
 白と青を基調とした軍服風の外套に身を包んだシルヴィアの台詞にミアが続く。
「私が執事さんの興味を引いておきます。万が一の時の準備も万端です。というわけでエナ、よろしくお願いします!」
「戦いに行く訳じゃないけど……一応、宴だからね、ミア?」
「この格好ですか? はい、戦いに備えて!」
 宴も戦いの場、おまけに冒険者として参加するのだから、戦装束も間違いではない訳で……。
「……まぁ、ミアらしいと言えばそれまでか」
「たしかに」
 エナハルトとシルヴィアが二人揃って控え目な笑顔を浮かべるのであった。

 宴は主催者代理である筆頭執事オーキサ・ゼィパムの挨拶、エナハルトと付き添う冒険者二人の紹介から始まった。
 次から次に訪れる出席者と言葉を交わし、一段落した所でオーキサがエナハルト達のテーブルへ戻って来た。
「出席者には遠慮しろと申しつけていたのですが、申し訳ないです」
「いえいえ、商魂逞しい方ばかりで、感心していた所です」
 見事な所作で応えるシルヴィア。流石、侯爵家の令嬢である。
 もっとも多く人が集まっていたのは彼女の所だったのは、貴族令嬢でありながら、優秀な冒険者でもあったからだろう。出席者の中には帝国出の者もいたようで、金陽剣記章を持つシルヴィアは英雄にも映っていたのかもしれない。
「ただ方々へと出向き、王国の為に戦っているだけです」
「後ほど、この街随一の侍衛であるヘディンと手合わせいただけると」
 宴の余興としては盛り上がる事になるだろう。
 順番とばかりに視線を向けて来たオーキサにミアは応える。
「私は大規模な作戦にこそ参加はしていませんが……代わりに王国内を方々巡っています。最近では、メドゥの指先の関連組織と対峙しました」
「ほう。だからこの地でもエナハルト殿と一緒に調査を。見た所、まだまだ、若いのに素晴らしい活躍だ」
「……活躍と呼ぶには」
 食い入るようなオーキサの勢いに、ミアは思わず引く。
「シルヴィア嬢は貴族のご令嬢としての道があるでしょうが、ミアさんはこれからも冒険者を続けるので?」
「えっと、それは……そのうち、落ち着くと思います。それで、参考に訊いておきたいのですが、この街の人々の暮らしはどのようでしょうか?」
 曖昧に言葉を返しつつ、逆に質問を投げかけるミア。
 オーキサは嬉しそうな態度を見せて自信満々に応える。その雰囲気は、先程、シルヴィアに向けたもの以上だった。
「領政は極めて順調。スラムも縮小し、市民の暮らしは年々、向上しています。是非とも、腰を下ろして頂きたい! そうだ、ご結婚を考えているお相手はいますかな?」
 意図していたか分からないが思わぬ反撃にミアがエナハルトに視線を向ける。
「ミアは私の婚約者であります」
「ほう。エナハルト殿の……これは失礼な質問をした。許されよ」
 スッと頭を下げたオーキサにミアは慌てて手を振るのであった。

 その後もあれこれと質問を続けるオーキサをミアに任せ、シルヴィアは出席者や給仕から有益な情報が得られないか聞き取りを行っていた。
「スラム街の縮小は容易では無かった筈。後学の為にも是非その方策をご教授頂きたいものです」
「プラザ様が市民一人ひとりの台帳を整理する所から始まりましたから、いや本当に素晴らしいですよ」
 有力者の一人がそう応える。オーキサの一人息子らしく、その実力は誰もが認める所だという。住民台帳と納税台帳の統合化と、関係部署との連携強化……話を少し聞いただけでも、労力の大きさをシルヴィアは理解した。
(領主の血族に婿入りさせるに足る能力はあるという事……)
 不思議なのは宴の出席者のほとんどが、婿入りさせるという認識だった事だ。
 果たして領主もそれで良いと思っているのだろうか。
「少し、庭で風に当たりたい」
 模擬戦の前にシルヴィアはそう告げてバルコニーに出た。
 同規模の屋敷に比べ庭が広く感じられる……その一角に石造りの建物を見つけた。ただの建物にしては……見張りの人数が厳重だと思うし、馬車が直接出入りできる様子を見ると重要な施設なのかもしれない。
 それが何かを確認するよりも前に、余興の呼び出しが掛かった。
 シルヴィアは軍刀の柄を確認する。
(適当に打ち合えば良い……という訳にはいかなそうだね)
 ホールで待つ侍衛からは自信が溢れている。オーキサに対する態度も雇い主へのもので違和感もない。
「お手柔らかにお願いします」
「こちらこそ。ご令嬢に傷をつける訳にはいかないので」
 ヘディンという名の侍衛は、少なくとも――自分より力量は上だと、打ち合ってみて思うシルヴィアであった。

マスターコメント

 お疲れ様でした&ご依頼にご参加いただき、ありがとうございました。  さて、2話目という事もあり、新たな情報や前回の補強などができたのではないでしょうか。今回、人という『切っ掛け』ではなく、推察や物証などの『切っ掛け』も得られましたので、そこから推理できるだけの情報も集まったのかな……と。次どんな展開になるかは楽しみに待っていていただければと思います!  それでは、改めて、依頼へのご参加、ありがとうございました。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2023年02月01日 01時09分12秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ミア=リゼル

    ヒーラーのミア=リゼルです。前回より続投の方も、そうでない方も、よろしくお願いしますね。 前回に参加されていなかった方向けに、前回の依頼で判明し、今回追求する必要があることはOPに書かれていますので、抜粋しますね。 >領都では『スラム街が縮小されており、失踪者よりも死因が明らかにされているケースが多い事』『領主の評価は概ね良好だが、冷酷な一面もあるという事』『納税できなかった者に対する裏マニュアルと夜逃げ屋の存在』……これらに対する追跡調査は必要だろうか。 続きにあるように、それ以外にもまだ明らかにされていない情報もあるかもしれません。フリーアタックですので、制約がない分調査対象の絞り込みが難しいところはあると思いますが… わからないことや気づいたことなどは挙げていただければ、一緒に考えることができると思います。気負わず書き込んでいただければ。

  2. ミア=リゼル

    個人行動も協力や手分けができるように、私の分は共有させていただきますね。 私は…私情を挟んでも良いのであれば、エナハルトさんについて宴に出席したく思います。領主不在の場で執り行われるということもあり、宴自体も少し気に掛かって…。 前回エミリアさんが入手してくださった情報によりますと、筆頭執事の息子さんがとても優秀で、ダルダニエ家の後継者候補として挙がっているらしいです。可能であれば、それも探りを入れたいところですね。 より具体的な方針や推論は、これからなんですけど…ひとまず取り急ぎ書き込んでおきますっ

  3. シルヴィア・A・カペル

    シルヴィアだ。このシリーズには初参加になる。出来る限り頑張るからよろしく頼むよ。 『宴への参加』にするか『調査の実施』にするかについては、皆の動きを見つつ決めたいと思っている。 >宴 冒険者としての活躍や実績を聞かれるらしいね。エナハルトの調査の本気度を探られている? 単に優秀な人材がいれば引き抜こうとしているのかな。筆頭執事の信用を得られれば今後動きやすくなりそうではある。 >調査 筆頭執事の息子は歓楽街の商会組合にも顔が利くらしいね。もし調査班になるなら商会組合に行って、筆頭執事の息子についてと、『領主の評価は概ね良好だが、冷酷な一面もあるという事』『納税できなかった者に対する裏マニュアルと夜逃げ屋の存在』について調査するのも良さそうだ。 あとは、領民の憩いの場になっているナキーノ湖を訪れて噂話を集めるとかかな。

  4. ルベア・ベルニ

    シーフのルベアよ、宜しく。 >行動 調査かなって。 夜逃げ屋については前回私が掴んだ情報だし、もうちょっと深掘りしたいと思ってる。 夜逃げ当事者は当然もう街にはいないだろうからー…、それを目前で逃した衛兵あたりから話聞けそう。他に調べる人がいなければ、裏マニュアルの話も併せて訊きたいかな…。

  5. キオルティス

    キオルティス。前回からの人も今回からの人も宜しくね。 >行動 えっと…俺は調査、かな。 現時点で立てている推察が当たりかどうか、確かめる為に前回の俺の切欠の バーキンズのことから夜逃げ屋、ゼィパムの息子と衛兵を調べてみたい。 その為に必要だとすれば…照会組合か歓楽街の何処でゼィパムの息子の噂や 普段見掛ける場所なんかを調査、それを基軸に動きたいな、とか。 恐らく調査個所は商会組合、歓楽街、スラム街になるかな。

  6. キオルティス

    連投申し訳ない。 時間が許せば城門にももう1度行ってみたいと思ってるよ。 あまり欲張り過ぎてもアレなのかもしれないけれど、少しずつでも確証を 得て行きたいからね。新たな手掛かりも有って損は無いし。

  7. シルヴィア・A・カペル

    >行動予定 キオが商会組合を調べてくれるなら、私は宴に参加しよう。バーキンズは商人、商会組合なら彼や周辺人物の情報も集めやすそうだ。キオ、よろしく頼むよ。 >宴 宴に参加予定のミアもよろしくね。 私は顔合わせをしつつ、ダルダニエ家の詳しい状況について宴に参加する貴族や従者達に探りを入れてみるつもりだ。何か手伝えることがあれば言ってね。 (誤字で書き直したよ。ごめんね)

  8. ゼラルム・エルホワイト

    エルホワイトと申します。どうぞよろしくお願いしますね では、私の方は調査へと赴きましょうか 宴の人員が多すぎても調査に支障が出るでしょう 現状手持ちの切欠が無いので一からとはなってしまいますが、選択肢がいくつかある様ですので、既に切欠をお持ちの方の動きを補完できる様に動ければと

  9. ミア=リゼル

    皆さん、ありがとうございます。 宴の真意は…相手方もこちらの手の内を知りたいのかもしれません。 私の推論は前回の調査分だけでは確信できるものとはいえないので、継続して調査にあたる皆様のご報告を待ちたいと思います。 私は、その調査をつつがなく行えるような状況を作ることに専念しますね。道中、くれぐれもお気をつけください。 >シルヴィアさん はい、よろしくお願いしますっ。 それでしたら私は、筆頭執事さんを担当しますね。息子さんと会えるならそちらも意識していきます。持ち寄るスキルは礼儀作法と、洞察と…それくらいでしょうか。 念の為、先輩と私の交友関係は伏せておいたほうが良いかと思います。調べればわかることですから偽る必要はありませんが、予防線、ですね。

  10. キオルティス

    >シルヴィさん 了解、承ったよ。 商会組合では個人的には筆頭執事の息子のことを訊くことがメインだと思ってたけれど 確かにバーキンズの情報も得られそうだね。 バーキンズについて探る内容もちょっと固まったし、色々聞いてみるよ。 商会組合で聞き込みがしたかったシルヴィさん的に何か必要な情報なんかがあるなら それも代理として持って行くけれど、どうしようか。 領主のことなら前回の様子じゃ酒場とかでも多いに話題になってたみたいだけれど。

  11. シルヴィア・A・カペル

    昨日書き込もうと思っていたのだけれど寝落ちてしまった。申し訳ない……!( >ミア 了解だ、私とミアの交友関係については伏せよう。私の実家はダルダニエ家とは派閥が違うから今後にどう影響を及ぼすか分からないしね。 (王家直属の王国騎士に協力する事自体は貴族として問題はないと思うし、隠して後で素性がバレる方がややこしくなるからそのまま名乗るつもりだ)。 ミアが礼儀作法と洞察なら、私が持っていくスキルは政治知識と話術にするよ。 >キオ 気にかけてくれてありがとう。 筆頭執事の息子は優秀らしいから、彼自身を探った時には当たり障りのない情報しか出ない可能性もあるかなと思ったんだ。なら筆頭執事親子と関わりがあるであろうバーキンズの方から攻めていって尻尾を掴むのも良さそうだと思って。質問が多くなるとキオの字数が大変になってしまうし、キオが聞いてくれる筆頭執事の息子のことと、バーキンズのことを聞いてもらえれば大丈夫だ。ダルダニエ家については頑張って調べてみるね。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0