【究脈】幽界樹打倒へのシナリオ

革酎

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シナリオID:2714

オープニング

●打倒幽界樹に向けて
 シルトラース帝国とリーンエス王国の間に横たわる山脈の一角。
 雪深い峰の連なりの間に、ロモズ歩兵団が本拠としている山岳集落群カルケルーア・ロモズがある。
 フェアロス・アーラ・アスプロスは帝国南部をビッグオウムで横断し、大した時間を要することも無く、フィルエス大森林からここカルケルーア・ロモズまでひとっ飛びに足を延ばしてきた。
 ビッグオウムは本来冒険者ギルドの移動手段であり、非冒険者が利用することは基本的には出来ないのだが、偶々大森林からリブラネスタ方面へ向かう顔見知りの冒険者達がビッグオウムを利用するというので、彼らに頼み込んで便乗させて貰った格好だった。
 この日フェアロスは、元帝国魔導院エスタル支部長クライス・アクバーから乞われて、ロモズ歩兵団の本部棟へと赴いていた。
 現在クライスは、幽界樹の出現ルートと地下に伸びるエーテル流、所謂龍脈との関連性を調べる為に、幽界樹が出現していると思しき小都市を巡りつつあった。
 幽界樹の出現有無は基本的に、黒い霧が発生しているかどうかで視認することが出来る。が、幽界樹の眷属たる別のクリーパーが黒い霧を発散している可能性もあると考えたクライスは、大地のエーテルの枯渇具合も併せて確認することで、黒い霧内に間違い無く幽界樹が居座っている事実を確定させようとしているらしい。
 そこで白羽の矢が立ったのが、フェアロスだった。
 過去に帝国魔導院に協力していたことでクライスからの信頼も厚く、同時にエーテル浄化についても詳しいことから、フェアロスこそ最も頼りに出来る人物だと思われている様だ。
 クライスからの手紙で、幽界樹が居座っている帝国内小都市の分布を調べたい旨を伝えられたフェアロスは、求めに応じてここカルケルーア・ロモズまで馳せ参じたという訳である。
 初期調査はまず、多くの地で復興が進んでいる帝国南部から東部付近にて進められる運びとなった。そこでクライスは諸々の利便性を考え、当面はロモズ歩兵団本拠地を調査活動の拠点に選んだ。
 カルケルーア・ロモズ内の南集落に位置するロモズ歩兵団本部棟に姿を見せたフェアロスは、重兵20番隊長のジェイソン・ジュピターによる出迎えを受けることとなった。
「これはこれはアーラ師、お待ちしていましたぞ」
 雪深い極寒の日であるにも関わらず白いタンクトップ姿というジェイソンの元気な姿に、フェアロスは幾分驚きつつも彼の歓待を大人しく受けた。
(私の娘の職場には、色々な御仁が居る様ですね……)
 そんなことを考えながら事務棟内の会議室へと招かれるフェアロス。
 そこで、以前は娘の副官だったというふたりの重戦士――ローデス・プレクターとケルフィス・ディクロンの両名からロモズ歩兵団のあらましや現況などについての説明を受ける。
 更には重兵3番隊の現隊長を務めるホムンクルスのオノショタの案内で、集落内を見て廻った。調査期間中にフェアロスへと割り当てられた宿舎も見学し、十分な設備が整っているとの説明も為された。
 やがて、夕食時になって事務棟へ引き返すと、クライスも到着したらしく、顔合わせを兼ねて晩餐会が催される運びとなった。

●黒い霧の捜索
 ロモズ歩兵団の大食堂でクライス、ジェイソン、オノショタといった面々と食卓を囲んだフェアロス。
 そこで改めてクライスから、今回の調査活動の趣旨が語られた。
「以前にもお話した通り、私は幽界樹が龍脈を伝って帝国内の各都市に出現したという仮説を立てています。しかしそれは飽くまでも推測に過ぎない為、幽界樹の出現都市を直接廻って、確認を取りたいのです」
 幽界樹が居座っているかどうかの最初の確認ポイントとして、例の黒い霧の発生状況で判別することが可能だろう。
 しかし、あの黒い霧が本当に幽界樹だけの能力なのかは、未だに確証が持てない。もしかすると、幽界樹の眷属に当たる様な別のクリーパーが同様の能力を持っている可能性もある。
 そこでフェアロスに同行を頼み、黒い霧発生地周辺の大地のエーテルを確認し、枯渇してれば幽界樹が実際に居座っていると判断したい、というのである。
「勿論、それで完全に断定出来る訳ではないでしょうが、正答率は大きく跳ね上がると見ています」
 クライスの説明にフェアロスのみならず、ジェイソンやオノショタも真剣な表情で聞き入っている。
 もしも幽界樹が本当に龍脈を伝って各地に派遣されているというのならば、理論上はロスガリア大陸の全土に出現可能という話になる。
 これは由々しき事態であるといって良い。
 そしてその矛先は、フェアロスの家族が住まうフィルエス大森林も例外ではないだろう。愛する我が子達の平和を脅かすことになるかも知れない――幽界樹の出現の可能性は、フェアロスにとっても脅威であった。
「承知しました。そういうことであれば、お引き受け致しましょう」
「痛み入ります。アーラ師のご協力があれば、我々としても心強いというものです」
 頭を下げるクライスに、フェアロスは小首を傾げた。我々、といういい廻しが気になった様だ。
 クライス曰く、今回の調査にはロモズ歩兵団からも人数を出して貰うことにしているらしい。彼らはダルトートの幽界樹打倒時の調査や、帝国東部街道の整備に於いても実績がある。複数日に跨る調査に必要な食糧や野営装備、飲料水等の輸送にはロモズ歩兵団の機動力と輸送力がうってつけだと考えた様だ。
 そのロモズ歩兵団からはジェイソンとオノショタがそれぞれ部隊を率いて同行する運びとなっていた。
「しかし、現在の歩兵団の戦闘力では魔獣やクリーパーの類には対抗し得ない。そこで何人かの冒険者を護衛として同伴させます」
 既に冒険者ギルドには手を廻している、とクライスはいう。
 準備万端だといって良い。

解説

状況:  PCの皆様はクライス・アクバーの依頼を受けて、幽界樹分布調査隊の護衛としてカルケルーア・ロモズを出発したところからスタートして頂きます。  基本的には警戒と護衛が主な任務ですが、手が空いていれば調査活動の支援に入って頂いても結構です。  黒い霧周辺は敵性生物の出現が考えられる為、遠目に黒い霧が見えてくる位置になればその都度、戦闘態勢を取って警戒することになるでしょう。  尚、同行するロモズ歩兵団の重兵3番隊と20番隊はいずれも大半が一般人であり、訓練されているとはいえ、自衛等の必要最小限の戦闘力しか有しておりません。積極戦闘には加わりませんので、戦力とは考えず、護衛対象として扱って下さい。 敵:  現時点では、どこでどの様な敵が現れるかは全くの不明です。  適切な索敵が行われれば強敵とぶつかる可能性は低いですが、警戒を怠れば致命的な状況に陥る可能性もあります。 NPC:  NPCとしてクライス・アクバー、ジェイソン・ジュピター、オノショタが、EXCとしてとフェアロス・アーラ・アスプロスが登場します。  またロモズ歩兵団重兵3番隊と20番隊の面々も登場する可能性があります。

マスターより

 皆様、こんにちは。  完結済みの連作【究石】からの続編連作の第一弾をリリース致します。  いよいよクライス先生とフェアロスさんが本格的に、打倒幽界樹に向けて動き出します。  【究石】では黒い霧を無効化する為の装置の開発に勤しみましたが、本連作は討伐すべき敵の出現経路や分布状況を調べ、帝都シルトラースでの決戦に向けた情報を掻き集めるストーリーという位置づけとなります。  それでは、ご縁が御座いましたら参加のご検討を頂けますと幸いです。

リプレイ

●冬の激闘
 寒空の中、風が震えた。
「私は3番隊を守ります! ミゼリアさんは20番隊を!」
「はい……ぜんりょくで、おまもりします」
 ロモズ歩兵団長コルネリウス・アーラが放った鋭い叫びに、ミゼリア・L・ステュクスのやや無感情な声が静かに応じた。しかしその声音とは裏腹に、ミゼリアが全身から噴き上げる漆黒の瘴気の如きエーテルは、誰よりも迫力があった。
 今、幽界樹分布調査隊を編成するロモズ歩兵団重兵3番隊と20番隊の前には、巨人を思わせる四体の小型クリーパーが迫りつつあった。
 3番隊を守るのはコルネリウスを筆頭としてハヤト=ガラン=ヴォルファング、ルアンナ・ミュラー(但し彼女の場合は過日の依頼で受けた負傷が未だ癒えず、満足に動けない状態ではあったが)、重兵3番隊長オノショタ、そしてコルネリウスの育ての親でありエーテル研究家でもあるフェアロス・アーラ・アスプロスといった面々だった。
 一方、20番隊の守りには盾役のミゼリアを防御の要として、攻撃担当にルチル・プルメリア・グレイハーツ、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブ、重兵20番隊長ジェイソン・ジュピター、そして今回の依頼主である元帝国魔導院エスタル支部長クライス・アクバーといった面々が揃っている。
 両隊の護衛担当はそれぞれ二体ずつのクリーパーを相手に廻す格好となったが、この戦力であればほぼ瞬殺に等しい勢いで駆逐することが出来るだろう。
 しかし、余りのんびりと時間をかけることは出来ない。実は後方数百メートルの位置には別のクリーパーの群れが徘徊しており、事実上挟み撃ちに近しい形に陥っていたのである。
 ルチルが相棒の狼アルを後方に走らせて確認したところ、そこに居たのは七体のクリーパー共だった。
「前に進む方が楽に思えるけど、どうする?」
 索敵直後に問いかけてきたルチルの言葉を受けて、クライスとコルネリウスは同時に地図を覗き込んだ。
 幽界樹分布調査隊が現在進んでいるのは崖の上の馬車道である。左手は切り立った崖であり、右手は馬車の通行がほぼ不可能な密集した森だった。精々コルネリウスの愛馬きんにくが通り抜けられる程度だ。
 となれば、前に進むか後ろに退くしか無い。
 後方の敵は、前方の群れと比較しても倍近い数だ。そこでルチルはクライスとコルネリウスに前方突破を進言したのだが、クライスもコルネリウスもほとんど即断でルチルと同じく前方突破を決めた、という次第。
「さぁ~……軽くブチかましますよ~……」
 重兵3番隊副官ローデス・プレクターが守る荷馬車の荷台上から、ルアンナが弱々しい声を搾り出しながら愛用の杖の頭をそっと敵に向けた。いつも元気な彼女だけに、この脱力した様な声音は少し新鮮だった。
「あんまり無理すんなよ! ブレイブファング傭兵団の団長が付いてんだし、大船に乗ったつもりで任せとけって!」
 コルネリウスが引き付ける敵に疾風の如き刃と蹴りのコンビネーションを叩き込んでいたハヤトが、一撃離脱で距離を取った際にルアンナへと笑いかけた。対するルアンナも笑みを返すが、その面は幾分、死人を思わせる顔つきだった。
 一方、20番隊側が相手に廻している二体は背後から襲い掛かるサフィラの機動力で引っ掻き回したところに、格闘魔導師クライスの超絶的な破壊力の魔導障壁拳が次々と炸裂。ルチルが後衛位置から放つ矢の連弾とジェイソンの振るう大剣の威力もあり、早々に始末することが出来た。
「にゃ! 次はあっちの二体だね!」
 サフィラはコルネリウスが真正面から相手取っている残り二体に、素早く接敵した。
 この時ハヤトとコンビを組んで機動戦を仕掛ける格好となった訳だが、サフィラもハヤトも言葉はおろか、アイコンタクトによる意思疎通すらせずに完璧なコンビネーション攻撃を展開した。
 まるで事前に申し合わせていたかの様なふたりの連携に、オノショタや重兵3番隊副官ケルフィス・ディクロンなどは心底仰天した様子を見せていた。

●十分の四が語るところ
 無事に四体のクリーパーを撃破し、前方突破を果たした幽界樹分布調査隊は更に二時間程の距離を進んで、漸く安全と判断出来る位置で足を止めた。
 既に陽光は大きく傾いていた為、このまま野営の準備に入る運びとなった。
「団長、忘れる前に事後承諾稟議にサインを頼むぜ」
 コルネリウスが張ったゲルに、クリップボードを携えたジェイソンが顔を覗かせた。ゲル内で荷物の整理を進めていたオノショタも思い出した様に、慌てて別のクリップボードを取り出す。
 ロモズ歩兵団は全体に関わる意思決定の際は団長コルネリウスによる指示命令書を必要とするが、部隊単位での小規模な依頼を個別に引き受ける場合は、各隊長の判断で処理を進めることが出来る。但しその場合でも必ず事後承諾稟議にはコルネリウスがサインを入れる必要があった。
 この事後承諾稟議という制度は前任のリーヴァー・シュランドルが団長を務めていた当時から既に存在していたが、実際に運用されたのは今回が最初だった。
「成程……冒険者ギルドとは随分、様式や手順が異なるのですね」
「元々が私設の市民兵団ですから」
 感心する父フェアロスに、コルネリウスは小さく肩を竦めつつ苦笑を返した。
 その時、ハヤトがゲルの天幕の裾から顔だけを突っ込んできて、
「んじゃあちょっくら見廻りに行ってくらぁ」
 との台詞を残して、そのまま走り去っていった。
 野営の際には索敵範囲の広いハヤト、サフィラ、ルチルの三人でローテーションを決めて周辺巡回に当たることにしている。移動の際もこの三人で順番を決めて先行索敵に走り、敵性生物の早期発見に努めていた。
 そして幽界樹分布調査は、早くも一週間と二日が経過している。この間、一行は小都市や町を合計十カ所、見て廻っていた。
 ハヤトが周辺巡回に出てしばらくしてから、クライスがこれまでの調査結果と今後の予定を仲間達と共有する為に、ゲル内に残っている主だった面々を呼び集め、卓上に地図を開いた。
 クライスのみならず、ルチルやサフィラ、或いはフェアロスの筆跡が所狭しと走っている。彼らの書き込みの多さが、今回の調査の重要性を雄弁に物語っていた。
「うーん……クラさんとフェアパパの推測通りなら、ある程度大きな町に幽界樹が生えてる感じになるんだよねぇ?」
 この時サフィラは冒険者というよりも、ロモズ歩兵団遊兵総長という責任ある立場の顔つきを見せた。依頼を受けた当初は、
「久々の歩兵団とのお仕事! 腕が鳴っちゃうなぁ!」
 などと喜び勇んで腕をぶんぶんと振り回していた彼女だが、調査が進むにつれて、幽界樹の猛威が深刻である事実を把握し始めると、流石にその表情は少しずつ険しく、そして鋭さを増す様になってきていた。
「矢張り、龍脈と幽界樹は関連性ありと見て良さそうかい?」
 特徴的な頭蓋面の奥で、ルチルの金色の瞳が輝きを増した。
 ルチル自身もロモズ歩兵団関係者だから今回の任務を受けるのは自然な流れではあったが、彼女自身、個人的に幽界樹の存在は目下の重大案件だと捉えている。例え部外者だったとしても、是非とも協力したいとの思いがあっただろう。
 特にイダ・バルダスが徐々に表立ってその動きを見せ始める様になった今となっては、その思いは更に強まっている。
 そして現在までに調査を終えた十カ所のうち、黒い霧が発生していたのは四カ所。残りの六カ所は地下に龍脈は走っておらず、そして帝国魔導院の支部も置かれていない。この調査結果だけを見れば、龍脈が関わっている可能性は非常に高いといえるだろう。

●最後の町へ
 凡そ三時間程に亘る情報共有会を終えたところで、ハヤトが戻ってきた。今度は交代でルチルが周辺巡回へと出る番だ。相棒の狼アルもルチルと歩調を揃えて、野営地を飛び出してゆく。
 一方、残った面々は疲労回復に努める者と、見張りに立つ者とに分かれた。
 未だ傷が癒えないルアンナは、焚火の傍らに横たわった。傷を負ってはいるものの、夜襲があった際にはすぐに対応出来る様に備えておく必要がある。
 怪我人だからといって、ゲル内で呑気に寝ている訳にはいかなかった。
 そのルアンナの周辺にはミゼリアとジェイソン、オノショタといった面々が控えていた。広範囲の攻撃魔法では頼りになるルアンナだが、かといって重傷者の彼女をひとりで放っておくことは出来なかった。
「そういえばジェイソンさん……真冬にそんな恰好で出歩けるなんて、凄いですね……」
「ははは、何をいい出すかと思えばそんなことか。ロックンローラーはいつでも熱い魂が燃えたぎってるのさ。この程度の寒さはどうってこたぁない」
 本当か嘘かは分からないが、確かにジェイソンはまるで寒そうな素振りは見せない。しかしルアンナは知らない。ロモズ歩兵団にはジェイソンを更に上回る奇人変人がゴロゴロしているという事実を。
 一方、ミゼリアは同じホムンクルスのオノショタが重兵3番隊長を務めていることに、幾分の興味を示していた。オノショタはコルネリウスの団長就任に併せて入団し、即座に現在の隊長職を与えられた。ミゼリアにとっては、ホムンクルスでもひとの上に立つことが出来るという稀有な例だったのかも知れない。
「ミゼリアお姉さんは、色々と独自色のある技を使いこなしてて、凄いですね」
 十代前半の少年という外観のオノショタから見れば、豊満な肢体と色気十分な顔立ちのミゼリアは大人の女性という風に映ったのだろう。だがホムンクルス化後の生存年数はオノショタもミゼリアもほぼ同じであり、且つ戦闘技術や組織を率いる経験という面で見れば、寧ろオノショタの方が上だ。
 そんなオノショタからお姉さんと呼ばれたミゼリア。内心で戸惑いを感じてしまうのは、無理からぬ話であっただろう。
 その時、疲れた顔つきのコルネリウスが申し訳無さそうに、ミゼリアに対して拝む様な仕草を見せた。睡魔には勝てなかったらしく、今夜の見張り番をミゼリアに託さざるを得なかった様だ。
 ミゼリアは既に十数分程度の睡眠を取っており、この夜はひとりででも見張りを務める腹積もりだった。
 そのコルネリウスと入れ替わる形で、クライスとフェアロスが顔を見せた。巡回から戻ったハヤトが報告がてら、クライスとフェアロスの両名が腰を据えている焚火脇へと歩を寄せてゆく。
「最後の調査ポイント近くまで見てきたけど、特にヤバそうなものは無かったぜ」
 いざという時の為に用意しておいた閃光塗弾を軽くジャグリングしながら、ハヤトは北東方向にちらりと視線を走らせた。
 シルトラース帝国南部から南東部にかけての幽界樹分布調査は、その行程の九割近くが既に終わっている。
 残るは後一カ所、ここから東部鎮守都市エスタル方面へと続く経路上にある町が、今回の調査の最後の未踏破ポイントだった。
「大体の傾向は見えてきたみてぇだし、今回の調査が幽界樹の謎を紐解く一手になりゃ、デカい収穫になりそーだな!」
 意気揚々と語るハヤトの傍ら、クライスは黒眼鏡の奥でしばし瞼を閉じていたが、やがて意を決した様子でハヤトと、そしてフェアロスに視線を向けた。
「そろそろ、龍逓架(りゅうていが)について話しておいた方が良さそうだ」
 クライスは他の主だった面々も呼び集めた。
 コルネリウスは既に就寝しており、ルチルも巡回に出ている。このふたりには、サフィラとフェアロスが後で話の内容を伝えるということになった。

●龍逓架
 龍脈通信装置『龍逓架(りゅうていが)』とは、崩壊前のシルトラース帝国で、帝国魔導院が研究を進めていた即時通信網構築用装置である。帝国内の各都市に所在する魔導院支部に置かれ、地上まで引き上げた龍脈の末端に接続されていた。クライスは、この龍逓架(りゅうていが)が発する魔術的な信号が幽界樹の分樹を呼び寄せた疑いがあると見ている。
「少なくとも俺がエスタルで見た幽界樹は、龍逓架(りゅうていが)の真下から出現した」
 即時通信網はリーンエス王国侵攻に向けて研究されていた。それがよもや、帝国自身を滅ぼすことになったとすれば、何とも皮肉な話であろう。
「そんなだいじなこと……お話してくださって、だいじょうぶなんですか?」
 ミゼリアの疑問も尤もだが、クライスは君達だからこそ話すと短く応じた。冒険者ギルドには既に話を通してはいるが、冒険者個人個人に対しては今まで口をつぐんでいたクライス。その彼が漸く重い口を開いたのは、今後の幽界樹分布調査に於いては必須の情報だと判断したからであろう。
「ということは、余り軽々しく吹聴して良いお話ではありませんね」
「その通りだ。特にメドゥや天陽道辺りの耳には絶対に入らぬ様に、細心の注意が必要となる」
 ルアンナの言葉に頷き返すクライス。
 するとハヤトが、神妙な面持ちで黒い霧が確認された四つの小都市を指先でなぞりながら、低く唸った。
「ってぇことはだ。次の調査段階は本当に奴らが龍逓架を介して出現したかを確認するってことになるのか」
 つまり、実際に黒い霧内に突入して幽界樹の出現ポイントを探る――そうなると、最早通常の調査ではなく、幽界樹討伐をも兼ねた強行侵入調査ということになるだろう。
 ここでフェアロスが成程、と小さく頷いた。
「だから私が、今回の調査に同行する必要があったのですね」
 黒い霧の拡散範囲だけでは、その地に根を下ろす幽界樹個体の正確な規模や強さは分からない。そこでフェアロスが各地で地下エーテル流をつぶさに観察し、流量や流速を正確に知ることで、その地に居座っている幽界樹の強さと規模を推測する判断材料とした訳だ。
 その結果、今までに分かっている四カ所の幽界樹出現小都市のうち、ガルメッツァとテムドブルクの二カ所が比較的攻め易いと推測された。
「この二カ所に生えている幽界樹は恐らく、ガークハーグに出現した分樹個体よりも遥かに小さく、弱いと思われる。明日の最終調査を終えてからの話になるが、近いうちにこの二カ所で強行侵入調査を実施する」
 ここで一旦、この夜の会合はお開きとなった。

 そして最後の調査ポイント。そこは小都市というよりも、町と呼ぶべき規模の人里だったが、ここでは黒い霧は見られなかった。
 その代わりという訳ではなかったが、二体の小型クリーパーと遭遇した。
 ここでミゼリアが妖艶な輝きを見せる紅い瞳で敵を引き付け、漆黒の瘴気の如きエーテルを撒き散らしたが、その暗黒の領域が黒い霧の様相を呈していたのが、何とも可笑しかった。
 そのミゼリアの盾役としての活躍もあって、全ての調査行程は終了した。
 次なる段階は強行侵入調査だが、それはまた別の機会に設けられる。
 一行は、ひとまずカルケルーア・ロモズへと引き返した。今回の調査内容は、これで十分だった。

マスターコメント

 皆様お疲れ様でございました。  調査に必要な提言や装備品の数々、索敵に関する諸々等はリプレイ中には細かく描写しておりませんが、それらも全て判定対象としており、それらの努力があればこその今回の結果となっております。  そして遂に明かされた帝国魔導院の秘密の一端。  リプレイは必ずしも報告書全文という訳ではない為、その存在に関しては報告書中には記されなかったと思って頂ければ幸いです。  それでは次なる作戦、強行侵入調査にてお会いしましょう。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2023年01月06日 11時10分05秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. コルネリウス・アーラ

    ウォーリアのコルネリウスです。よろしくお願いします。 そうそうにお直しすみません。 今回はロモズ歩兵団の重3隊と20番隊の護衛がメインですね。 歩兵団現役の方や過去にご一緒した方もいらっしゃいますが、初めて触れる方もおりますので少し補足しますね。 ロモズ歩兵団は1部隊につき20名。重3隊は団長に就任する前に私が部隊長を務めさせて頂いていた隊になります。 重3隊については当時のままであれば防御に特化した部隊のままだとは思いますが、触れられている通り一般人が殆どですので、20番隊と共に簡単な指示や動き方のお願いに留め、私達が分担して護衛につく形になるでしょうか? 索敵が重要になりそうですし、強敵にぶつからないように対策はしたいですね。 調査も複数日に跨るようですから、私達もゲルや食料などは用意しておく事と、ヒーラーが父さんしか居ませんので、各自回復が出来ると良いかなと思いました。

  2. ミゼリア・L・ステュクス

    ……ウォーリアの、ミゼリア……です。よろしく、おねがいします……。 ほへいだんのひとたちも、まもる対象……とおもって、うごけばよい……のですよね。 わかり……ました。 ……さくてきは、あまり、とくいでは、ないのですが……とりあえず、「飲食不要」と「ショートスリーパー」で、朝も昼も夜も……護衛役が、できたらなと……。 たたかいになれば、タンクのうごき……に、なり……ます。 かいふく用に、ヒールも、持参するつもり……です。

  3. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    情報屋のルチルだ。よろしく。 再編成されたロモズ歩兵団とは初仕事になるね、腕が鳴るよ。 索敵はエーテルリンクをしたペットと捜波で対応できる。 シーフは2人いるから分担すれば問題なく索敵範囲のカバーはできるだろう。 戦闘では後方から歩兵団の傍について射撃支援をするつもりだ。 ヒールスキルも回復量は本職ほどではないが持って行くつもりだよ。 索敵が上手く行けば強敵との戦闘や連続した遭遇戦も避けられそうだから、ヒールだけでも突破に問題はなさそうだね。 >野営 向こうでも物資は用意してあるだろうし、持ち込みした軍馬やゲルを足せば事足りるか。 見張りの事も考えておきたいね。 ミゼリアはほぼ休みなしで張り付けるようだが、策敵役もつけるようになれば更に安心感も増すだろうかと。

  4. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    にゃ!シーフのサフィラだよっ! みんなよろしくねっ! 歩兵団のみんなとは久しぶりのお仕事だから気合い入っちゃうねっ(ぐっ) >索敵 今回は索敵メインでスキルを組んでくね! 双波と看破、夜の索敵に備えて暗視も持っていこうかなっ?

  5. ルアンナ・ミュラー

    キャスターのルアンナですー、なんですが今日返却のリプレイで8日まで重体になってしまいましたーごめんなさい!! 能力が下がるとかは無いみたいですけど、派手には動けなくなってしまいました…。

  6. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! んで、今回の依頼は調査がメインってことみてーだから俺もサフィラも分担して索敵重視の準備で臨もうと思ってんぜ!

  7. コルネリウス・アーラ

    ルアンナさんはお大事にしてください。 サフィラさんとハヤトさんが索敵を重視してくださるようですし、護衛ではなく調査に回るというのもひとつかなと思いますので。 護衛の部隊を分担するのであれば、私は重3隊の方をメインについておこうと思います。 いつも通りタンカーとして動く予定です。

  8. ミゼリア・L・ステュクス

    ……ルチルさんと、サフィラさんと、ハヤトさんが、さくてき、してくださるの……とても、こころづよい……です。 ルアンナさんは、おだいじに、してください……ね。 たたかいになったら、シーザーロアと、殺界で……てきのひきつけとか、あしどめとかを……がんばりますので……後ろのほうから、攻撃魔法とか……おからだの、ふたんにならない程度に、撃ち込んでいただくのも……ありがたいかな……と。 >護衛の分担 では……わたしは、20番隊のほうを、メインにごえい……しますね。

  9. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    >ルアンナ おっと、お大事にだな。 とはいえ致命的な負傷を受けやすい状態であるだけで、ステータスが低下している訳ではない。 今回は敵の射程に入るのを避けて前衛を抜けてくるような強敵との戦闘を回避するルートが取れれば重篤な事態にはならないだろうさ。

  10. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    にゃ、ルアルアは大丈夫? 無理はしないでねっ! んで、るっちーとハヤトはよろしくっ コルネとミゼリんが重3と20を分担するみたいだから索敵組も分担決めちゃう?

  11. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    >分担 どちらの隊の近くで行動するかという事かい? 特にこだわりはないが重20としておこう。

  12. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    >分担 それなら俺は重兵3番隊の方の近くで索敵することにすんな!

  13. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    じゃ!あたしは20の方に行こっかな!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0