蠱毒な吸血鬼の蒐集

空色みなも

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シナリオID:2650

オープニング

●
 今日は厄日だ。

 鎧を纏った冒険者の少女、シール・ドガールは剣と盾を構えながら心の中で毒づいていた。

 思えば昼間にこなした依頼でも、この日はやたらと不運に見舞われた。
 普段なら何でもない魔獣を相手に、石に躓いたせいで剣を空振りする羽目になったり。
 ふらついた結果、そのまま魔獣に噛みつかれる羽目になったり。

 そして極めつきの不運が、これだ。
 夜遅くとなった帰り道、まさかこんな目に遭うなんて――。

●
『このところ、領内で女性が行方不明になる事件が頻発しています』
 金髪を二本のおさげにした冒険者ギルド職員から、そう依頼を斡旋されたのが、しばらく前のこと。
 冒険者たちは、事件の現場となっているリーンエス王国のさる領内で調査を行っていた。

 職員の話によると、一連の事件において女性の足取りが途絶えるのは決まって夜間のことであるらしい。
 そのため、日が落ちたのを見て冒険者たちが警戒を深めていると――。

 暗闇の中に、桃色が浮かび上がっていた。
 それは――女の後ろ髪であった。

「あら、冒険者の方々? ごきげんようですわ」
 そう言って振り返った女の目は、ギラギラと赤く光っており。
 凶暴に笑う口元には、鋭い犬歯が覗いている。

 そう、この女は吸血鬼――。
 そして冒険者たちは、女が領内で手配されていたことを知っていた。

 マルグリット・ライヒシュタイン。
 かつて自身を商品として取り扱った奴隷商たちに復讐を誓っている吸血鬼だ。

 その傍らには、銀髪を一つ結びにした少女の姿があった。
 さてはマルグリットこそが行方不明事件の犯人であり、今も少女を攫おうとしているところか。
 冒険者たちがマルグリットを問い詰めると――。

「ふふ、ご明察ですわ。ワタクシ少々、手駒を必要としているもので」
 手駒――マルグリットは今、そう口にした。

 よく見れば銀髪の少女は冒険者らしい装いをしていたが、マルグリットに抗う様子がない。
 冒険者たちの背筋に、嫌な予感のようなものが走る――。

「アナタの働きぶりに期待しておりますわよ?」
 マルグリットに声をかけられ、虚ろな目をした少女――シールは冒険者たちの前に立ちはだかった。

解説

●目的  マルグリットを撃退する。  冒険者たちが重傷を受けない。  シールの無事。 ●状況  リーンエス王国のとある領内、時刻は夜。  シールは『行動操作』状態でマルグリットと同へクスにいる。  PCの初期配置はマルグリットから半直線上に距離4~20へクスの範囲から選択可能。 ●敵情報  ▽マルグリット・ライヒシュタイン  桃色の髪を持つ女吸血鬼。  能力傾向としては【命中】【回避】【付与】が高め。  暗視能力などを持つ他、今回、以下のような能力を使用できる。  ・毒を以て毒を制す  セットアップ。  自身の受けたバッドステータス一つの【付与性能】×5をダメージとして受ける代わりに、そのバッドステータスを解除する。  ・血染めの赤い糸  サブアクション。  射程0~6の対象一体に対し命中判定を行う。  命中した場合、自身のいるへクスに対象を移動させるか、または、対象のいるへクスに自身が移動する。  さらに、命中した対象に特殊なバッドステータス『血塗られた運命』の付与判定を行う。  バッドステータス『血塗られた運命』の効果中、対象は移動を行えなくなり、また、マルグリットの攻撃に対する回避判定を行えなくなる。  代わりに、マルグリットは『血塗られた運命』が付与された対象からの攻撃に対し回避判定が行えない。  また、なんらかの理由でマルグリットと別のへクスになった場合、対象の『血塗られた運命』は解除される。  ・恐怖と言う名の精神毒  サブアクションとメインアクションを同時消費。  射程0。バッドステータス『血塗られた運命』または『行動操作』が付与されている対象に使用できる。  対象に『行動操作』の付与判定を行う。  ただし、すでに『行動操作』が付与されている対象に使用した場合、その【付与性能】を増加させる効果になる。  ・刃喰らわば毒まで  メインアクション。  ダメージを与えた対象に高強度の『スリップ』の付与を行う近接物理攻撃。  ・孤独な蟲毒の壺の底  メインアクション。  自身を中心とした【自己識別】を持つ直径1へクスの範囲魔法射撃攻撃。  ・変身  定型外行動。  翅の生えた小さな蜘蛛の姿に変身する。  変身中は飛行能力を得て、回避力が非常に高くなる。  代わりに「刃喰らわば毒まで」「孤独な蟲毒の壺の底」は使用できなくなる。 ●NPC  ▽シール・ドガール  リーンエス王国で活動する冒険者の少女。  クラスはウォーリアで、3回まで[カバリング]を使用可能。

マスターより

 お世話になっております、空色みなもです。  EXCのマルグリット・ライヒシュタインを紐づけたシナリオとしてお送りいたします。  吸血鬼の言いなりになるくらいなら死んだ方がマシだ、など言いながらあっさり操られてしまうシール・ドガールを肴に楽しんでいただければ幸いです。  スケジュールの都合上、念のため執筆期間を調整させて頂いております。  ご確認のうえ、ご参加いただければ幸いです。  精神を蝕む毒に打ち勝つ皆さんのプレイングをお待ちしております。

リプレイ

●
 宵闇の中、冒険者たちとマルグリット・ライヒシュタインが対峙する。
 冒険者たちに光源を持ち込んだ者がいることもあり、その姿ははっきりと浮かび上がっていた。
 また、暗闇を見通す能力を身に着けた冒険者たちの目は、より鮮明に戦場を映し出している。
 その戦場で、シール・ドガールが光のない目をしたままマルグリットを庇うように立ちふさがっていた。
 シールは剣と盾を構え、あからさまに冒険者たちへ敵意を向けている。

「あ? まーたテメエか。顔の斑模様は取れたかよ? お望みならもう一回プレゼントしてやるぜ」
「ワタクシからしても、またアナタたちか、と言いたくなりますわ。あの時のようなつまらない贈り物は遠慮させて貰いたいですわね」
 アーテミシアの売り言葉に、買い言葉を返すマルグリット。
 マルグリットも前回、冒険者たちに煮え湯を飲まされたことをよく覚えているらしい。
 その不敵な笑みは、どこか引きつっているようにも見えた。

「と言っても、見ない顔の方もいらっしゃるようですけど」
「お初おめにかかります……ですが、今はともかく。その人を、まもらせていただきます」
 マルグリットに視線を向けられ、ミゼリア・L・ステュクスが漆黒に染まった両刃の直剣を構えた。
 どのような境遇にあろうと、相手は人攫いの吸血鬼。
 ここは任務として受けた依頼を果たすのみ。

(正直、吸血鬼でなければ復讐の方に協力してあげたくなっちゃう境遇よね)
 エミリア・シバは口にこそ出さないが、内心、マルグリットの置かれた境遇に同情を感じていた。
 だが、それも相手が吸血鬼ともなれば、討つべき存在であることに変わりはない。
 一般人が近づいたり、増援が現れたりすることも警戒し、エミリアは周囲に耳を澄ませながら戦いの構えをとる。

「前回逃しちゃったもんね……そりゃ、次を狙うよね。困ったなぁ。片付くまで寝不足が続きそう」
 腰にランタンをぶら下げたディレイン・オールドケイジは、自身の睡眠時間を気にする様子を見せつつも、その目は真剣だ。
 なにせ、今回は人の命が関わっている事件である。
 ここでマルグリットに操られているであろうシールをみすみす連れ帰させるわけにはいかない。
 万一にもそのようなことがあれば、この後の目覚めが悪くなる。

「人を攫って何を企んでるのか知りませんが、その方を返して貰いますよ!」
「アナタの命と引き換えにであれば考えないこともないですわよ、ルアンナ!」
 ルアンナ・ミュラーが杖を突きつけるように向けると、余裕の態度を見せていたマルグリットが声を荒げる。
 ルアンナはマルグリットにとって、仇敵ともいえる関係にあるのだ。

「……なるほど、まだ復讐を終えてないから『子』ではなく『手駒』なんだな。ならば今のうちに止めないとな」
 光源に魔法の光球を伴ったレピド・クロサイトは、マルグリットが口にした言葉の意味を理解する。
 そう、マルグリットは吸血鬼として『子』を成すのを復讐の後と決めていた。
 ならば世に彼女の眷属が増え始める前に、決着をつける必要があるだろう。

「今、射るとそこの女が邪魔をしてきそうだな」
 セリオス・オーガストはすでに弓の狙いをマルグリットにつけていたが、盾を構えたシールが射線に割り込もうと待ち構えているのを見て取って、射撃を控えていた。

「まずは彼女を引きはがす必要がありそうだねぇ……いずれにしても備えは必要だ。ちょっと失礼するよ、っと」
 強く息を吐いたディレインから光り輝くエーテルが解き放たれる。
 その淡い光はディレイン自身に加え、近くにいたレピド、エミリア、ミゼリアをまとめて包み込み、四人の持つ能力をより大きく引き出した。

「ハ、テメエに一つ教えといてやろーか。オレがこいつに加減してやる理由はどこにもねーンだぜ?」
 そこへやや後ろに控えていたアーテミシアが前に飛び出し、助走をつけてシールに突っ込んだ。
 アーテミシアの構えるガントレットがシールの体を強かに打つと、シールは勢いで大きく吹き飛ばされ、その体は何度か地面でバウンドしながら遥か遠くまで滑った後にようやく止まった。

「合流は、わたしがさせません」
 瘴気の如く黒きエーテルを後方に大きくなびかせながら、ミゼリアが疾く駆ける。
 ミゼリアは瞬時にマルグリットの後方まで回り込むと、今度は漆黒のエーテルを自らを守らせるように身にまとった。

「よし、今なら遠慮なくやれる」
「……っ! またアナタですの。本当に面倒なお方ですわね」
 セリオスが弓に番えた矢が陽炎のような重力波をまとい、直後、マルグリットの体に吸い込まれる。
 重力波で動き重くなるのはマルグリットにとっても鬱陶しいらしく、造作のいい顔をこの時ばかりは歪ませた。
 また、純粋な攻撃の威力だけを見ても、セリオスはこの場に集った冒険者の中で頭一つ抜き出ている。
 マルグリットが顔をしかめているのは、単純な傷の痛みによるものもあるかもしれない。

「わざわざワタクシに命を差し出しに来られるとは殊勝な心掛けですわね」
「……そのようなつもりはありません。わたしはみなさんを生きてかえします」
 マルグリットの突き出した鈍色のナイフを、自らの腕にはまった手枷を用いて防ぐミゼリア。
 ミゼリアの腕を刃先がかすかに傷つけ血を流すが、ミゼリアに痛みはない。
 痛覚など、どこかへ置いてきてしまったから。
 とはいえ、刃に仕込まれた毒性のエーテルがミゼリアの体に浸透し、蝕んでいくのには抗えなかった。
 時間を経るごとに、ミゼリアの体力は失われていくだろう。

「流石に一筋縄ではいかないようですね……!」
 ルアンナは筋力を衰えさせるエーテルをマルグリットに向け放つが、これは動きの鈍ったマルグリットに命中するも抵抗される。
 全く平気という様子ではなかったため、あるいは繰り返せば通る可能性はあるかもしれないと思える結果だった。

「俺がアンタを見失うことはない。逃げようとは思わないことだ」
 レピドがエーテルの波動により、マルグリットに『印』をつける。
 この印があれば、たとえマルグリットを逃がしたとしてもその方向を追うことができるだろう。

「あら、アナタは人を追い回すのが趣味なのかしら?」
「あいにくこれは仕事でな」
 自身の体ごと重力波を瘴気で焼き焦がすことで、マルグリットは自由となる。
 その懐へレピドが飛び込んで、エーテルの刃をまとった暗器の針を突き立てた。
 エーテルはマルグリットを致死性の毒のように蝕んでいく。
 範囲攻撃を警戒したレピドは、その後すかさず後方へ跳躍して距離をとる。

「今回はいつまで余裕な口をきけるか見ものだな」
 セリオスはマルグリットの得ている耐性を計算して矢にエーテルを込める。
 今度マルグリットに突き刺さった矢は、マルグリットの攻撃の精度を衰えさせた。

「これなら!」
「くっ……いいですわ! 少しは歯ごたえがなくては復讐のやりがいがありませんですものね!」
 ルアンナが大きく振りかぶってマルグリットに投げつけたのは、雷から成る魔法の槍。
 槍に宿された雷の力が、マルグリットの身体中に強い衝撃を走らせる。
 このままであれば、マルグリットは痺れによりその場を動くこともままならないだろう。

「しかし洗脳とかまさかの新技披露じゃん。吸血鬼も成長ってするんだねえ」
 ディレインがシールに正気を取り戻させようと、その抵抗力を活性化させるが――。

「……ダメか。時間を置いて試してみるかねえ」
 ディレインの使用した術は複数の変調から復調する機会を生み出すのには向くが、抵抗力はもともと対象が持つものに頼る他ないこともあり、シールは目の焦点が合わないままだ。
 シールを復調させるためには、もう少し洗脳の影響が薄まるのを待つ他あるまい。
 マルグリットのもとへ駆けつけようと、走るシールであったが――。

「さあて、後は皆で仲良くごゆっくり……ってな。アンタはオレと遊んでて貰うぜ」
 アーテミシアがそのシールの足を踏みつけた。
 それで勢いを削がれたシールは、目の前に現れたアーテミシアに切りかかる。
 だがシールの剣はアーテミシアのガントレットに阻まれ、高い金属音を鳴らすばかりであった。

「アナタも少しはやるようですわね。だけど、これならどうかしら?」
「……これくらい、なんてことはありません」
 マルグリットが命を奪うために噴き上げた瘴気と、ミゼリアが命を守るためにまとった瘴気の如きエーテルがぶつかり合った。
 それらは互いに相殺し、ミゼリアは大きく傷つくことなく立っていた。
 とはいえ、全くの無傷とはいかない。
 ナイフにより受けた体を蝕む瘴気の影響も一度は脱したものの、こうした積み重ねは着実にミゼリアの体力を奪っていくだろう。

「どういう事情があろうと、吸血鬼に容赦する理由にならないわね」
 もしもの際に動きやすいよう待機していたエミリアが飛び出し、暗器を手に舞う。
 針がマルグリットの脛を突き刺した。
 エーテルがマルグリットの体へと浸透し、回避力を衰えさせていく。
 マルグリットはここで自らの身を蝕む毒性のエーテルを瘴気で焼き、雷の痺れからも自由となる。

「やってくれますわね。ちょっとこちらへおいでになりませんこと?」
「悪いけどお断りするわ」
 マルグリットの指先から鮮血のように赤い糸が迸り、エミリアを襲う。
 しかし糸がエミリアを手繰り寄せることは、なかった。
 エミリアは研ぎ澄ませた感覚をもって糸を回避したのだ。

 マルグリットは少し残念そうな顔をした後、気持ちを切り替えたのかミゼリアを瘴気で攻撃した。
 ミゼリアはやはり漆黒のエーテルによりそれを耐えている。

「今は確実に傷を負わせるべきか」
 変調を与えることは十分と見たセリオスは、鋭い一射によりマルグリットへ深い傷を刻む。
 マルグリットの美しいドレスが、肌が、赤黒い血で汚れていく。

「今度こそ……!」
 ルアンナが二度目の挑戦として飛ばしたエーテルは、今度はマルグリットの筋力を衰えさせた。

「キミも命は大事にね」
「わかっているつもり……です」
 ディレインのエーテルがミゼリアの傷を癒し。
 ミゼリアはマルグリットを両刃の剣で切りつける。

「オイオイ、余所見たぁつれねーじゃねェか」
 アーテミシアは離脱からマルグリットへの合流を目指そうとするシールの腕を掴んで離さない。
 精一杯の抵抗としてシールが剣を振るが、アーテミシアはその攻撃をものともしていなかった。

「どこかにいいカモはいないかしら――あら?」
 自らの回避を妨げるエーテルを焦がし、自然治癒で筋力も取り戻したマルグリットが戦場を見回すと。
 じわじわと距離を詰めてきているルアンナが、赤い糸の射程圏内に踏み込んでいることに気づいた。

 これは――罠か?
 マルグリットは過去にルアンナと自らを血塗られた運命で繋いだ際、手痛い反撃を受けた経験がある。
 一瞬、躊躇する様子を見せたマルグリットであったが――。

「いいですわ。アナタの誘い、受けて差し上げるのですわ!」
 マルグリットの指から伸びた血染めの糸が、ルアンナを引き寄せる。
 肉薄する宿敵の二人――。

「さあ、勝負です――!」
 ルアンナは杖を構え、マルグリットのナイフを待ち受ける。
 ナイフが自らの目前に迫った瞬間、ルアンナは杖から眩いエーテル光を放射した。
 突然の出来事に吐き気を催すマルグリット――で、あったが。

 二人を繋ぐ悍ましい糸は、惑うことなくナイフをルアンナの腹部へと導いた。
 攻撃をかわす機会を再び生み出したとして、赤い糸はその成功を許さなかったのだ。

「くっ……ですが、私を落としたければ、一撃でやることですね」
「また無茶をして、ルアンナちゃん……!」
 ルアンナが自らに治癒魔術をかけ、ディレインからも治療を受けるも、流れ出る血は完全には止まらない。

「ち、向こうは面倒になってるみてー、だがっと」
 アーテミシアが隙を見て、シールの剣を叩き落とす。
 シールは剣を拾うことで再びアーテミシアに切りつけてきたが、この場はできるだけ時間稼ぎを行うことこそが重要だ。

「ルアンナちゃん、大丈夫――? くっ、ちょっとやそっとじゃ引きはがせそうにないわね」
「そのようですね……すぐにこの場を離れてください。このままではおそらくまとめて――」
 駆けつけたエミリアがルアンナを抱えてマルグリットから引き離そうとするが、赤い糸はルアンナを強固に繋ぎ止めていた。
 一人が持つ力ではどうにもならない――せめて相手を強力に吹き飛ばす技でもあれば。
 しかし無いものねだりをしても仕方がない。
 エミリアはマルグリットの脚を崩すようにエーテルを込めた一撃を見舞い、混戦となっているマルグリットの周囲から離脱した。

「ルアンナ! アナタ、もう観念してはいかがでして?」
「私は吸血鬼に屈したりはしま……せ……」
 瘴気の力で回避力を取り戻したマルグリットが、ルアンナを睨みつけた。
 するとルアンナの目から、スッと光が失われ――。

「まずいまずい、棒立ちになっちゃってるよ、ルアンナちゃん」
 ディレインがルアンナの抵抗力を引き出そうとするも、かかったばかりの強力な変調の影響を脱することは難しい。
 ルアンナは最初にディレインの支援を受けられる範囲にいなかったためなおさらだ。
 その場でルアンナはマルグリットの放った瘴気に巻き込まれ――。

「今回はワタクシの勝ちですわね? トドメは最後のお楽しみに残しておいて差し上げますわ」
「あ……」
 マルグリットのナイフの刃先が、ルアンナの背から覗いていた――。

●
「ルアンナちゃん!」
 ディレインが必死に呼びかけながら頽れたルアンナに治療術を使う。
 ルアンナは一瞬、意識を取り戻してうわ言を呟くも、体を蝕む瘴気の影響か、再び目を閉じた。

「幸い、マルグリットはまだトドメを刺すつもりはないらしい。今はマルグリットを倒すことを優先しよう」
 敵に矢を鋭く送り込み続けているセリオスは、ここでも冷静さを失わずに自分たちの成すべきことを冒険者たちへ呼びかける。

 マルグリットは冒険者から様々な変調を受け続けているが、そうした変調は時に瘴気で焼き、時に自然回復することで引き続き対処しているようだ。
 とはいえ瘴気を操ればその分、マルグリットも体力を消耗するようであるから、決して無駄にはなっていないはずだ。

「次はアナタがこっちに来るかしら?」
「既に散々、操られた身なんでな。また操られるのは御免被る」
 マルグリットが次に糸の標的としたのは、レピドだった。
 しかしレピドは素早く身をひねり、糸はその脇の宙を貫くに留まった。

「こいつ……少し目の焦点が合ってきてやがるな」
 ここでアーテミシアが気付く。
 徐々にではあるが、シールに目の光が取り戻されつつあることを。

「ルアンナちゃんが気がかりだけど、今は彼女をなんとかしないとか……」
 そこでディレインはシールの抵抗力を活性化させ――。

「はっ! 私は何を……」
「キミ、あの吸血鬼に操られてたんだよ。悪いけど、俺の護衛としてこっちついて貰えるかな――おじさんが守ってあげる、とか言えればよかったんだけどね」
 今度こそ正気を取り戻したシールに、ディレインは簡潔に事情を説明した。

「すまない、迷惑をかけたようだ……! 私はシール。シール・ドガールだ。よろしく頼む」
 シールは即座に事情を理解したようで、ディレインのすぐそばに控えるように移動した。

「ハッ! 後ろががら空きだぜ!」
 そうなると自由になるのがアーテミシアだ。
 アーテミシアは重厚な戦槌を手に、軽やかに駆け。
 マルグリットの背面に強烈な一打を叩きつけた。

「ぐっ……そうですわね。こうなれば長居は不要ですわ。残念ながら、その方も正気に戻されてしまったようですし。では皆様――ごきげんよう」
 苦痛に顔を歪めたマルグリットが――姿を消した。

「にがしません……」
 それを見たミゼリアが足下に剣を突き立てた。
 周囲に甘い香りが立ち込め、エーテルの作用で近くにいる誰もが足を止める。
 それはマルグリットも例外ではないはずだ。

「あっちから羽音がするわ」
 エミリアが優れた聴覚で、翅の生えた蜘蛛に変身したであろうマルグリットの羽音を聞きつけ、周囲にその方向を知らせる。

「俺の付けた印が示しているのも、そっちだな」
 レピドはマルグリットの位置をマークしていたため、その位置を引き続き追い続けることができていた。
 虫の形をした相手を捕獲するのに向くだろうと用意した鍋を被せに行きたいところだが、今は敵味方含めてミゼリアの展開したエーテルの影響下にある。
 となれば、今はマルグリットに近づけずとも攻撃できる味方が頼りになるわけで――。

「――あそこか」
 セリオス自身、隠れた相手を発見する能力には極めて秀でている。
 その弓矢には、すでに強烈な光が宿っていた。
 矢が爆発的な加速で宙へと飛び出し、蜘蛛となったマルグリットに向かう。
 変身したマルグリットがいかに回避に優れているとはいえ、これにはひとたまりもない。
 翅の一枚ごと、背中を矢に抉られた。
 だが彼女もある程度、体力に余裕を残して変身していたのか、それで地に堕ちる気配もない。

「わたしに……きますか」
 足止めを行うミゼリアへ、蜘蛛となったマルグリットが赤い糸を放つ。
 一度は糸に抗ったミゼリアであったが、二度目で絡めとられた。
 ある意味、ミゼリアにとっては攻撃を当てる好機でもある。
 大地より茨状のエーテルが生え、マルグリットの体表を引き裂いていく。

(ワタクシをこの場から開放なさい)
「うっ……」
 だがマルグリットは血の糸で人形を操るかのごとく、ミゼリアの精神へと命じた。
 ミゼリアが戦場に張り巡らせていたエーテルが、途切れる。

「この矢も精度は高いほうなのだがな」
 セリオスの放った矢が風のエーテルをまとって加速するも、これをマルグリットは急上昇することによって逃れた。

「逃がした……かしら?」
「ああ、そのようだ。だが『印』はつけた。奴がどこへ逃げようとしているか、ある程度の目星はつくだろう」
 エミリアが遠ざかっていく羽音を追うように夜空を見上げ。
 レピドはマルグリットの行先を割り出すため、マルグリットに再度付与した印の気配を追うのだった。

●
 戦い終わって。
 エミリアの耳が何者かの足音を聞きつけたかと思えば、冒険者のサイラスが姿を現した。
 近くを通りかかったところ戦闘音が聞こえたので駆けつけてみたらしく、後処理を手伝うことになった。

「皆にはたいへん迷惑をかけた。そして、礼を言わねばならないな。私を助けてくれて、ありがとう」
 助け出されたシールは、冒険者たちの作戦の甲斐もあってほとんど傷を負っていなかった。

「なんだかんだ無事に済んだのだから、実は幸運だったのではないか……?」
 印の効果が切れるまでは追跡を行っていたレピドも戻ってきており、シールに慰めの言葉をかけていた。
 マルグリットはおそらく自らの居城に真っすぐに向かったのであろうと考えられる。
 であれば、その位置の特定まではまだ無理でも、方角を頼りに調査を行うことはできるはずだ。
 今回の結果をもとに、そのうちマルグリットの居城を突き止める調査が依頼として出されることもあるかもしれない。

「まったくだ、皆がこうして駆けつけてくれたのは運がよかったよ」
 シールは自身の不運を嘆いていたことをバツが悪く思ったのか、頭を掻いている。

「ま、あいつも生きちゃいるみたいだしな。迷惑かけたのも許してやるさ」
 そう言ってアーテミシアがちらりと視線を向けた先では。
 ディレインがルアンナを治療し、助け起こしていた。

「ありがとうございます……しかし、彼女とはいつか決着をつけなければなりませんね」
 目を覚ましたルアンナが決意を新たにする中で。

(お互いに生きるための戦いだし、どの命を優先するかを決めてるのは俺だけど、まあ、ちょっと、なんかなあってところはあるんだよね……)
 ディレインは靄がかかっているような心持ちで、深いため息をついていた。
 こういう時は、早く酒でも飲んで寝てしまいたい――そんなことを考えながら。

「逃がしたとはいえ、奴も無傷ではない。蜘蛛の状態で負った傷を癒すのには、相応の時間がかかるだろうな」
 セリオスの指摘するように、マルグリット本人がなんらかの暗躍を行うことは、しばらくはできないはずだ。
 彼女が回復するまでの間が、その居城について調べるチャンスになるかもしれない。
 マルグリットは手駒を抱えていると言っていたので、あるいは配下を通じた間接的な活動は見られるかもしれないが。

「決着をつけるためにも、どうにか逃げられないようにできないものかしら」
「夜は奴ら吸血鬼の時間だしな。外を自由に動き回れる状態で、あの能力は厄介だ」
 考え込むエミリアの言葉に、レピドが応じた。

「それこそ昼間に寝込みを襲えたら楽なんでしょうね」
 寝込みを襲う時間帯が昼と言うのも相手が吸血鬼ならではの話だが、エミリアも口にしてみて案外、冗談で済ますにはもったいない案に思えた。
 なにせ今回、レピドがマルグリットの暮らす居城の位置特定に繋がる情報を手に入れてくれた。
 ここから調査が進めば、マルグリットの居城へ冒険者側から攻め込むというのも不可能な話ではない。

「とにかく……シールさんがぶじでよかったです。みなさんボロボロですし……今はやすみましょう」
 ミゼリアの言うように、現在は激戦の直後。
 マルグリットと再び相まみえるその日の為にも、まずは英気を養う必要があるだろう。

「おう、そうすっか。さあ、そいつ連れてとっとと帰るぞ」
 アーテミシアの言葉をきっかけに、冒険者たちは帰路に就く。
 いつかマルグリットを決着をつける――その決意を胸に。

マスターコメント

 お疲れ様でした。空色みなもです。  このたびは当シナリオにご参加頂き、誠にありがとうございました。  諸々を加味した結果、今回はこのような成功度とさせていただきました。  提示された目標の成功度のみではなく、皆さんのとった一つ一つの行動もまた、マルグリットに関わるシナリオの以降の展開に影響することになります。  また皆さんにシナリオ参加して頂けるのを心よりお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
ミドルシナリオ

ミドルシナリオ非常に難しい 報酬:標準8 / 6〜8人

2023年01月01日 16時58分17秒 公開

成功

相談掲示板

  1. ミゼリア・L・ステュクス

    ……ウォーリアの、ミゼリア……です。よろしく、おねがいします……ね。 (以下、漢字フィルター発動です) ひとまず……壁になるような、動きができたらと、思ってますが……シーザーロアは、すぐに解除されてしまいそうなので……体で敵の攻撃を、遮る感じで、いこうかなと……。 物理防御と、魔法防御を、揃える感じで、出発するつもり……です。 あとは……アンチ・サイで、少しは抵抗の足しに、できたらいいなと……思って……ます。

  2. アーテミシア

    ウォリアーのアーテミシアだ。 とりあえず洗脳されたアレはドラチャリで吹っ飛ばすか。9ヘクスも飛ばせばカバリングもできねーだろうし、何ならもう1回やってもいい。 5か6くらいの初期位置にすればチャージングから届くし。

  3. レピド・クロサイト

    レピド・クロサイト、シーフだ。よろしく頼む。 以前戦った時には「毒を以て毒を制す」を利用して地道にダメージを重ねた感じだったよな。 時間はかかるものの有効ではあったから、今回もデバフを多目に積んでみるかな……

  4. No.4

    サイラスだ、よろしくなー とりあえずドラチャリ使う人いるなら後は普通に殴るかねと とりあえず行動操作どうするかが問題かね。ウォーリアだとシーザーロア、カバリングは使うと利用されそう

  5. ディレイン・オールドケイジ

    はいどうも。ディレイン・オールドケイジ、ヒーラーだよ。 よろしく。 赤い糸→精神毒のコンボがいやらしいなあ…とりあえずデバフ解除は持ってくつもり。 それと、ヒール積むかな…場合によってはシールちゃんに使おうかと。行動操作されてるシールちゃんでも、たぶん蟲毒の対象になるよね。 あとは、蜘蛛に変身した場合の逃走妨害手段が必要かねえ。

  6. ルアンナ・ミュラー

    キャスターのルアンナです、前回に引き続きよろしくお願いします。 シールさんに関してはウォーリアの皆さんにお任せして大丈夫そうですし、マルグリットの方に専念しようと思います。 前は血塗られた運命でノーガードになった所を昏倒させて集中砲火が出来ましたが、「恐怖と言う名の精神毒」で対策されてますね…。でもメイン行動とサブ行動を消費するとあるので「血染めの赤い糸」との同時使用は出来ないみたい?

  7. ミゼリア・L・ステュクス

    蜘蛛になった時の、逃走妨害……。 殺界で、あしどめしてみましょうか……??

  8. アーテミシア

    とりあえず、オレはドラチャリでシールふっ飛ばした後は追いかけて抑え込む感じで行くか。 ふっ飛ばしに失敗したら吸血鬼の方をふっ飛ばすということで。

  9. エミリア・シバ

    シーフのエミリアよ、今回はよろしくね。 >シールちゃん 強制移動とかできる方がいるようなので、お任せするわね。 >赤い糸→精神毒 サブアクションが二回できるとも書いてないから 1ラウンド内の彼女のターンで一気にできないと思うので、次ラウンドの彼女の手番までに、狙われた人や彼女を移動させるかなどで『血塗られた運命』解除できればコンボは止められる感じかしらね。 デバフ解除や強制移動とかできる人は『血塗られた運命』や行動操作付与されてる人がいないときは、手番を遅らせればラウンド内後出しで解除とかできるかしら? 後は命中判定や付与判定を挟むので、バフ・デバフをしっかり入れておけば防げる可能性はあるって感じかしら? >個人行動 上でできそうなのがデバフをつけることなので、お姉さんもデバフ系を積む形になるかしらね。 レピドちゃんが言ってるように『毒を以て毒を制す』でダメージにもなるし。 >変身からの逃走妨害 小さいのだと視認もし難くなるのがいやらしいわねぇ。 ミゼリアちゃんの殺界は有用そうよねぇ。 あとは、移動力下げるとか移動を阻害する系とか…になるのかしらね。

  10. レピド・クロサイト

    >逃走妨害 虫(蜘蛛)になるなら虫取網で……なんて一瞬考えたが、普通に破られるか。 双波(捜波)でマーキングすれば多少は姿を追いやすくなるかなと思ったのでやってみようかと思う。 ちなみにマークは「バッドステータス解除スキルや自然回復判定で解除できない」らしい。

  11. ミゼリア・L・ステュクス

    では……蜘蛛になったら、真殺界を、つかってみます……ね。 回避が、とてもあがるみたいですが……移動不能にさせれたら、すこしはこうげきも、あてやすく……なるといいな……とも……。 デバフ解除も、強制移動も、こころづよい……です……。 逃げるまえに、マーキングしておけたら……きゅうけつきの、ほんきょちが、わかったりとか……するでしょうか……。

  12. セリオス・オーガスト

    ・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む とりあえずシールと引きはがす作戦でいいと思う。無事も成功条件の一つだしな。 あとは前回同様BS付与しての地道に削っていくのと蜘蛛変身対策か。BSは付与しても解除されるから命中率を最大限にあげたのを当てるぐらいか

  13. ディレイン・オールドケイジ

    んじゃあ、シールちゃんをマルグリットから剥がせたら聖別を使おうかな。 正気に戻ってくれたら、カバリングできるってことなんで、自分で言うのもなんだけど俺のカバーしてもらうのもあり? とりあえず、前に出さないほうがいいのかなーとは思ってる。 前回、レゾナンスオブヴァローが結構有用だったんだよね。 そっちを最初に使うとして、時間切れになったりヴァローから漏れてたりしたら、輝腕を追加で使う感じで行こうかな。

  14. アーテミシア

    聖別は失敗してもオレが抑え込んでおくぞ。成功したらまあ、下げておいたほうがいいかもな。 吸血鬼の方はあんまり周りを取り囲むと範囲魔法食らうから、接近戦は一人か二人くらいがいいかもしれねえ。

  15. レピド・クロサイト

    スキルの関係で俺は出来れば接近戦でいきたいが…… フェザーステップで攻撃後に離れるを徹底すれば範囲魔法は防げるだろうか?

  16. ディレイン・オールドケイジ

    ヒーリングオーラを持っていくんで、範囲攻撃されても致命傷でもない限りは立て直せると思う。 まあそのためにはある程度前に出なきゃなんで、シールちゃんにはそこで狙われた場合の盾をしてもらいたいのもあるんだよね。 シールちゃんが正気に戻ってなくて俺が狙われたら、早急に吹っ飛ばしてくれていいよ。 マルグリットを回復しだしたらたまんない…

  17. エミリア・シバ

    そういえば、今更だけれど、みんな暗闇対策は大丈夫かしら? 日が落ちた後ってあるからそれなりに暗そうだけれど。 私は暗視持っていく予定だけれど シールちゃんが正気に戻ってくれたら、ディレインちゃんのカバリングしてもらうのはありだと思うわ。

  18. レピド・クロサイト

    取り急ぎ エンライトを持っていく、これで最低限視界は確保できるはずだ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0