【猟姫】自衛という名の謀略
革酎
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シナリオID:2577
オープニング
リーンエス王国南西部には、貴族派貴族アルゼマン侯爵とその寄り子貴族達の領地がひと塊になって集まっている地方がある。
更にその北隣には同じく貴族派貴族ジルクック伯爵の領地が鎮座している。
このアルゼマンとジルクックの両陣営はいずれも、西側で西方辺境伯とその寄り子貴族達の領地と境を接しており、これまでは大きなトラブルも無く、お互いに無関心を貫くことでそれぞれが平和な領地経営に専念することが出来ていた。
ところが昨今、西方辺境伯領ではシラー砂漠最大級と呼ばれたバルバロイ組織『太信党』との大規模な戦闘が勃発し、そのパワーバランスに幾分の歪みが生じ始めていた。
これまでは西方辺境伯の威光に配慮し、周辺の王統派貴族とも表面上は友好的に振る舞っていたアルゼマン侯爵とジルクック伯爵。
だが、王国内地では貴族派のレギンレイヴ侯爵やファブランド侯爵が立て続けに王家と矛を交える格好で取り潰しの憂き目に遭い、過激派と目される貴族派貴族達は戦々恐々とした緊張感に包まれつつあった。
次は自分達の番なのでは無いか、という疑念が渦巻き始めているといって良い。
アルゼマン侯爵家の現当主ドルコフと、ジルクック伯爵家の現当主カムレオも例外では無かった。彼らは旧ファブランド侯爵家とは長年の友好関係にあり、王家から警戒されている空気がひしひしと伝わってきている。
このままでは拙い――ふたりは今後の対応を協議すべく、双方の領境となる深い森の中で密会を設けることにした。
●密会
深夜――。
鬱蒼と茂る樹々の間に、馬車道が走る。その一角に、数十という人数が重厚な防衛線を築いていた。
アルゼマン侯爵家騎士団とジルクック伯爵家私兵団の連合部隊が、両貴族の密会を守る為に陣形を組んでいたのである。
ドルコフ・アルゼマン侯爵とカムレオ・ジルクック伯爵は、ひと際豪奢な大型馬車内で顔を合わせた。
しかし、件の馬車内に居たのはふたりだけではなかった。更にもうひとり、病的に白い肌と背筋が震える程に美しい顔立ちの女が同席している。
議題は、西方辺境伯を如何にして孤立させるかという点に絞られた。
「我が領の北側には王党派のシュバート伯爵領があります。更にその北側は貴族派のベントレード伯爵領。つまりシュバートさえ押さえれば、辺境伯領南部は広い地域で内地から孤立することになりますな」
ジルクック伯爵は地図を車内卓に広げながら、ふたりに説明した。
西方辺境伯領は南北にやや細長い。シラー砂漠との領境に接しているのだから、その形状自体には何の疑問も無い。しかし王家からの支援を内地から受けるには北側、中央、南側の三カ所のルートが必要となる。
シュバート伯爵領はそのうちの南側に接している。強力なバルバロイや魔獣がシラー砂漠南方から攻めてきた場合に内地からの支援が必要となれば、どうしてもシュバート伯爵領を通る支援路が重要となってくる。
「南の支援路を潰し、西方辺境伯領南部にシラー砂漠側から仕掛ける。そうなれば防衛線のバランスが微妙に崩れ、中央と北側に皺寄せがいくという寸法だな」
アルゼマン侯爵は地図上の西方辺境伯領南部にペン先でバツ印を記入した。
西方辺境伯領の力が衰えれば、その周辺に位置する王党派貴族にも大なり小なり影響が出るだろう。そうなれば彼らは、何か問題が生じても初手の段階で西方辺境伯家を頼れなくなる。
「西方辺境伯が自領南部の防衛で手一杯になったところで、中央と北側に接する王党派にも仕掛ける。これで西方辺境伯は袋の鼠だ。我ら貴族派の助力無しには対シラー戦略は成立し辛くなる」
そうなれば王家とて我らには容易に手出し出来ない、とアルゼマン侯爵は低い声音で笑った。
ここでふたりの貴族派貴族は同時に、それまで沈黙を押し通していた美女へと視線を転じた。
美女は異様に紅い唇を笑みの形に歪めて、満足そうに頷き返す。
「良かろう。では我が戦力でシュバート伯爵領最西端を攻める。うぬらはシュバートへの支援という名目で奴の領地に居座り、事実上の支配権をもぎ取れ」
謎の美女はそれだけ告げると、宙空に溶け込む様にして車内から姿を消した。
●不審なる強襲
王党派貴族シュバート伯爵領最西端の商業街テモルスは、規模としては然程に大きくない。
しかしテモルスを東西に走る街道は西方辺境伯領へと繋がる交易路であり、西方辺境伯領南部に於いては、唯一の王党派用支援路としての役割を担っていた。
このテモルスを突如アンデッドの群れが襲った。いずれもゾンビだが、素体に用いられているのは人間ではなく、岩蠍型魔獣をアンデッド化した特殊なゾンビだった。その為か、通常のゾンビに比べるとやけに耐久力が高いらしく、テモルス冒険者ギルド支部は急遽冒険者を周辺各地から呼び集めなければならなくなった。
そして同時に、テモルス冒険者ギルド支部にはジルクック伯爵私兵団が応援に駆けつけてくるという連絡も入った。
何故領主シュバート伯爵の私兵団よりも早く、隣領のジルクック伯爵私兵団が駆けつけてくるのか。
疑問は尽きなかったが、事態は急を要する。
テモルス冒険者ギルドはジルクック伯爵私兵団の受け入れ準備を進めると同時に、岩蠍型魔獣ゾンビの群れにも対処しなくてはならなくなった。勿論、シュバート伯爵領都に対しても急報を知らせる早馬は出した。
それにしても、何かがおかしい。
余りに異例な事態の数々に、不審に感じるギルド職員も少なからず居た様だが、兎に角今はゾンビ集団を撃退する方が先であった。
西方辺境伯寄り子貴族領内東部に位置するオルストフ伯爵領にも、シュバート伯爵領の商業街テモルスへの支援派兵の要請が届いた。
が、要請を出したのはシュバート伯爵ではなく、ジルクック伯爵だった。
「カネーレ、これは一体どういうことだ?」
西方辺境伯の寄り子貴族オルストフ伯爵家当主アルターは、妻のカネーレを書斎に呼び出した。
カネーレはカムレオ・ジルクック伯爵の妹である。つまりアルターから見ればカムレオは義理の兄に当たる訳だが、その義兄が何故シュバート伯爵領に出兵したのか。そして何故、オルストフ伯爵私兵団に支援要請を送り付けてきたのか。
「さぁ? 私は何も存じ上げておりませんけど」
幾分芝居がかった仕草で、カネーレはそっぽを向いた。その様子を、同席していたひとり娘セティアは内心落ち着かない様子でじっと眺めている。
カネーレは嘘をつく時、左の瞼が軽く痙攣する。この時も、母の左瞼はぴくぴくと小刻みに動いていた。
(お母様は何か、隠していらっしゃる……)
セティアは途轍も無く嫌な予感を覚えた。それが何なのかは、まだこの時点では分からない。
だが、このまま放ってはおけない気がする――セティアはその夜、誰にも断りを入れずにひとり馬を駆って、伯爵邸を出た。
行く先は西方辺境伯領都。
先日交友を結んだ新米冒険者エリニア・ストゥに相談を持ち掛ける為であった。
解説
マスターより
リプレイ
王党派貴族シュバート伯爵領最西端の商業街テモルスは、混乱の渦中にあった。
岩蠍型魔獣を素体としたアンデッドが十体、突如として町中に乱入してきたからだ。
テモルスの冒険者ギルドが急遽呼び集めた授恵者達は即座に防衛線を敷き、この恐るべきゾンビ共の対処に当たった。
「太信党は皆、斃した筈なんですが……何であの岩蠍が居るんです? それもゾンビになってますし……」
眉間に皺を寄せながらも得意の攻撃魔法で敵の出足を鈍らせているルアンナ・ミュラー。
岩蠍型ゾンビはただの屍だ。痛覚など無い。進行速度がやや落ちたのは単純にルアンナが張り巡らせた稲光の網と、続いて放たれた輝く蝶のうねりが物理的に敵の進行を押し返しただけに過ぎない。
しかしそれも、僅かな時間稼ぎにとどまっている。岩蠍型ゾンビは打撃を被ったことなどまるで無視して、ひたすらに前進を続けた。
そこへ、周辺の索敵に走っていたナハト・シュライバーとモネタ・シャローニャが町の西方を大きく迂回する形で引き返してきた。敵がアンデッドの群れならば、どこかに死霊術師が潜んでいる可能性があった。
戦闘開始当初は後衛として射撃に専念していたふたりだが、モネタが放った大鼬がテモルス近くに小さな森を発見し、ひとが隠れるには十分な隠密性を具えていることが分かったのである。
「そんな遠くに?」
仲間達の回復支援として防衛線のやや後方に控えていたグレイブ・ヤードが、幾分意外そうな面持ちで小首を捻った。
グレイブとしては、今回襲って来た岩蠍型ゾンビのいずれか一体の中に死霊術師が隠れているのではとの推測を立ててみたが、どの岩蠍型ゾンビも全長はそこそこあるが、人間が内部に入り込むには少々どころか、かなり窮屈であることがその外観から一目で分かった。
であれば、矢張り近くの別の場所に死霊術師が潜んでいる筈だとの推測に切り替えたが、町から離れた森の中となると、制御可能な距離といえるかどうか。
にも関わらず、敵は統制の取れた動きを見せている。否――統制が取れていると思えただけで、実はそうでもなかったということか。
「それを確かめる為にもサイラスさん、ジャマーを」
「話を聞く限りじゃあ、効果あるかどうかも怪しいけど、まぁやるだけやってみるか」
岩蠍型ゾンビとは間合いを取り、多彩な射撃術による遠距離攻撃で敵の出足を止めていたサイラスだったが、ナハトの要請に応じてまずは死霊術師との分断を図ることにした。
一方のナハトはサイラスのサポートに入り、敵の統率が乱れた瞬間に生じるであろう新たな射線にじっと目を凝らす。
ところが、サイラスが仕掛けたジャマーは不発に終わった。
岩蠍型ゾンビの群れには、全く動きの変化が無かった。
「ジャマーが利かないのですか……仕方ありませんね」
サイラスとナハトの策が上手く機能することに期待していたリディリディ・トゥラ・イェレミースだったが、効果が無いと分かった以上、オーソドックスな足止め戦術に切り替えるしかない。
大通りを進んでくる十体に対し、リディリディは稲光の網を絡ませた。続けてエーテルの波動を叩きつける攻撃魔術の発動態勢に入る。
その威力は極めて強大だ。巻き込まれては流石に拙いと、それまで接近戦を仕掛けていたナハティガル=ラーが飛ぶような勢いで引き返してきた。
「ジャマーが利かないのか」
「面倒臭い相手だってことは分かってたけど、こんなことってある?」
ナハティガルに応じながら、モネタは渋い表情でかぶりを振った。
ところがナハティガルは、可能性は大いにあり得ると頷き返す。これにはモネタも驚きを禁じ得ない。
「それって、どういうこと?」
「メドゥの指先の死霊術師が以前、吸血屍という自律型のゾンビを完成させたことがある。この岩蠍型ゾンビも同様の製法で生み出された可能性は否定出来ない」
ナハティガルの分析に、モネタは絶句した。
●殲滅
吸血屍とは獲物の血を吸うゾンビという意味だが、その特性は自律型にある。
相手が動く物であれば手当たり次第に襲いかかるという攻撃性を付与する代わりに、死霊術師からの命令はほとんど受け付けない。その為、死霊術師やその仲間たる使役者が襲われぬ様に、製造時に攻撃禁止命令を刷り込ませておくらしい。
そうすることで死霊術師や使役者は動く囮となって吸血屍の群れを誘導し、攻撃対象の近くまで率いることが可能となる。吸血屍共は別の動く物を発見すればそちらに攻撃対象を切り替える為、それ以降は死霊術師や使役者は別の場所に隠れて高みの見物に洒落込むことが出来るという訳だ。
この吸血屍製造術は、過日冒険者に斃されたアリバ・ジャハール・カサドというメドゥの指先の死霊術師が開発した。その製法は既に一部の死霊術師の間に出回っているらしく、今回この岩蠍型ゾンビを生み出した輩も、同じ製法の一部を流用したものと思われる。
「成程ね……だから統制が取れている様に見えたんだ」
グレイブと同じく後方で味方の支援をしながら敵の動きを観察していたトゥーリが、納得した様に頷いた。
岩蠍型ゾンビが同じ方向に足並みを揃えていたのは、このテモルスに大勢の住民、即ち動く標的が揃っていたからだ。
だが、それさえ分かれば攻略法はある。要は、住民には家屋内でじっと息を潜めて貰い、町中で動く物は冒険者のみという状況を作れば、この恐るべき敵の群れをこちらの戦い易い位置へ誘い出すことが出来る。
「俺が奴らを町の中央広場にまで誘い込む。その間、皆は建物の陰に隠れながら広場を目指してくれ。奴らが一カ所に集まったところで、一網打尽にするんだ」
方針は決まった。後は確実に斃し切るだけだ。
ナハティガルのサポート役としてグレイブとトゥーリが路地裏を並走しつつ、その間にサイラス、ルアンナ、リディリディ、モネタ、ナハトといった火力担当は中央広場を目指す。
「全力でサポートするけど、なるべく被弾は避けてね。どんな状態異常攻撃を持っているか分からないから」
「状況的にキツければ、私も囮に加わります。殻は硬くても継ぎ目は狙えますからね。脚を狙って移動力を奪えば、私でも奴らを広場に引っ張っていくことは出来るでしょう」
トゥーリとグレイブの声に頷き返してから、ナハティガルは大通りを進んでくる十体に向き直った。
同時に、広場へ向かう火力担当達は路地裏へと駆け込み、それぞれが両脚を回転させて集合地点へと走る。
「さて……鬼ごっこの始まりだな。俺が鬼から逃げる役というのも皮肉な話だが」
ナハティガルは単身、十体の群れの目と鼻の先にまで距離を詰めた。その驚異的な機動力があればこそ、単独での囮役が可能となる。
岩蠍型ゾンビ共は思惑通り、ナハティガルの姿に照準を定めて一斉に群がってきた。ナハティガルは巨大な鋏と尾針の攻撃を巧みに躱しつつ、中央広場へと後退してゆく。
グレイブとトゥーリは大通りに並走する裏道を同じ速度で走りながら、いつでも回復支援に入れる様にと術式発動態勢を整えていた。
如何にナハティガルとはいえ、毒に侵されて身動きが止まれば、十体の魔物共の総攻撃を浴びてしまう。そうなれば彼を待つのは死以外に無い。
一歩間違えば全ての作戦が一気に瓦解する、恐ろしく緊張度の高い時間帯だった。
しかし、ナハティガルは見事に囮役をやり切ってみせた。
岩蠍型ゾンビの群れは大通りを抜けて、中央広場へと雪崩れ込んでくる。ここでナハティガルは瞬時に宙空を奔り、敵との間合いを十分に離した。
その瞬間、ルアンナとリディリディの放つ怒涛の魔法攻撃が炸裂した。
辛うじて攻撃範囲から逃れた岩蠍型ゾンビに対してはナハトとモネタ、サイラスによる遠隔攻撃が容赦なく襲い掛かる。
この一気呵成の集中砲火で、十体のうち八体が屍へと帰した。残る二体は、冒険者が四、五人も居れば十分に仕留め切れるだろう。
「……行きますか。死霊術師を捕らえに」
ナハトの呼びかけに、モネタとナハティガルは無言で頷いた。
今回の襲撃には何か裏がある――そう睨んだ三人は、貴重な情報源たり得る死霊術師の捕縛へと挑むこととなった。
●静かに進む闇
ナハティガル、モネタ、ナハトの三人が町近くの小さな森へと走った直後、一頭の馬がふたりの女性を乗せてテモルスの町へと駆け込んできた。
手綱を握っていたのはエリニア・ストゥ、そしてその後ろにタンデム騎乗していたのはセティア・オルストフ伯爵令嬢だった。
「エリニアさん……それにセティアさんも? どうしてここに?」
ふたりとは面識のあるルアンナが、幾分驚いた様子で出迎えた。丁度リディリディの攻撃魔法と、サイラスの操る竜花琴が残る二体をの岩蠍型ゾンビを仕留めたところだった。
ここでセティアが、オルストフ伯爵私兵団に対してジルクック伯爵からの支援要請があった旨を告げた。ジルクック伯爵私兵団がここテモルス防衛の為に駆けつけようとしていることは既に冒険者ギルドから情報として聞き知っていた授恵者達も、オルストフ伯爵の元にまで要請が来ていたという事実に、思わず顔を見合わせた。
「でも西方辺境伯閣下が私をここに寄越したのは、それだけじゃないんです」
エリニアはサイラスが始末しようとしていた岩蠍型ゾンビの巨大な屍に近づき、手にした資料と見比べながら何やら鑑定作業を始めた。
ルアンナが横合いから覗き込むと、そこには複数の岩蠍の種類の特徴が事細かに記されている。岩蠍は単一種ではなく、生息地域によって幾つかの種に分かれるらしい。
やがてエリニアの表情が見る見る険しくなってゆく。
サイラスがどうしたのかと訊くと、エリニアは驚くべきひと言を放った。
「この岩蠍……全部、戦蠍王の子供達ですね」
その名を聞いて、ルアンナとトゥーリは思わず顔を見合わせた。
戦蠍王――滅亡したバルバロイ組織『太信党』の首領ウザリ・クル・タハーラが使役した超大型の魔獣。西方辺境伯領都攻防戦では結局仕留め切れず、いずこかへと逃げ去った筈だ。
その子供達が何故、ゾンビとして使役されていたのか。
冒険者達の脳裏に嫌な予感が去来した。
その時、数十にも上る足音が整然と近づいてきた。ジルクック伯爵私兵団から派遣された、テモルス防衛の為の応援兵力らしい。
「これはこれは、冒険者の皆様方」
指揮官と思しき中年戦士が笑顔で呼びかけると、トゥーリが手を挙げて応対した。
「アンデッドはワタシ達が倒したから、もう大丈夫だよ! それにしても、早かったねぇ! ジルクック伯爵様って、いっつもこんなに動きが速いの?」
「いえいえ、今回は偶々です。我らが領境での訓練中に、テモルスの急を知らせる早馬が見えたもので」
明らかに嘘だ。が、それを嘘だと決定付ける証拠は無い。
陰謀の臭いを嗅ぎつけたトゥーリは、この町はもう大丈夫だからお引き取り頂いて結構という意味合いの台詞を口にすると、指揮官の中年戦士は更に驚くべきひと言を放った。
「我がジルクック私兵団の情報網によりますと、別の岩蠍型ゾンビの群れがシュバート伯爵領都を目指して進撃中のとことです。シュバート伯爵は恐らく、このテモルスを防衛する為の兵力を割くだけの余力は無いでしょうから、ここは引き続き我らがお守り致します」
その想定外の説明にトゥーリのみならず、エリニアやセティアも驚きの念を禁じ得ない。
これで事実上、テモルスはジルクック伯爵私兵団の庇護下に置かれたことになる。
●止められぬ陰謀
テモルス近くの小さな森の中は、意外な程に暗い。空はほぼ樹々の枝葉で隠され、その薄暗さは日中とは思えない程の不気味さを醸し出している。
その陰の下でナハト、モネタ、ナハティガルの三人は想定外の相手と遭遇していた。
病的に青白い肌を惜しげも無く晒ている美女が彼らを出迎えたのである。
恐ろしい敵だということが、ほぼ直感的に分かった。とてもではないが、三人でどうこう出来る相手ではなさそうだった。
「成程……冒険者とはその名の通り、危険を冒す者。ここまで来たことは褒めてやろう」
死臭漂う絶世の美女は、妖艶に嗤った。その笑顔ですら恐怖の極致にある様に思えた。
アンデッド狩りを自認するモネタには、ひと目で理解出来た。この女は、吸血鬼だ。
「名前を、聞いておこうかな」
勝てないことは分かっている。それでもモネタは愛用の弓を構えつつ訊いた。吸血鬼の美女は口角を吊り上げて低い笑い声を漏らした。我が名を訊くとは不遜ながらも度胸がある、と。
「ラ・ネント・アーク・ナムン。うぬらの間では、ラネンターカムといえば通じる筈だな……西方辺境伯に伝えるが良い。うぬの祖父が討ち損じた女が、舞い戻ってきたとな」
その女ラネンターカムは、ゆっくりと立ち上がった。しかし戦闘態勢は取らない。三人の冒険者とこの場で戦う意思は無いように見えた。
「安心せい。わしはこれからシュバートの私兵とやらを痛めつけてやらんといかんのでな。うぬらとはまた日を改めて遊んでやろう」
直後、森の中に疾風が吹いた。と思った次の瞬間には、ラネンターカムの姿は忽然と消えていた。
ラネンターカムと遭遇した三人は急ぎ、テモルスへと引き返した。
既に町はジルクック伯爵私兵団が防衛線構築という名の支配体制を敷きつつあったが、住民は別段、抵抗感を見せてはいない。彼らにしてみれば相手が誰であろうと、町を守ってくれるのであれば問題は無いという認識なのだろう。
一方、ラネンターカム出現の知らせを聞いたエリニアは表情が一瞬で青ざめた。
「すみませんが、これから私と一緒に西方辺境伯領都まで、来て頂けますか? 辺境伯閣下に、ラネンターカムを名乗った女の様子を報告して欲しいのです」
エリニアの申し出に、ナハティガルは拒否など出来る筈も無かった。
ジルクック伯爵が事実上テモルスを手中に収め、西方辺境伯領への王党派支援路は完全に潰えた。そしてラネンターカムの出現。
これらが何を意味するのか。
「ちょっと、挨拶してくる」
不穏な物を感じたモネタは、敢えてジルクック私兵団と顔を繋いでおこうと考えた。彼らが何を意図してここテモルスに現れたのかは分からないまでも、知己を結んでおくことは今後に活きると感じたからだ。
そのジルクック私兵団の指揮官は早くも冒険者の懐柔に出ている。どこから仕入れた情報なのか、リディリディにテモルス防衛の功を労って肉料理を振る舞っていた。
リディリディは機嫌良く、彼らの称賛を受けながら上手い肉料理にありついていた。
更にそこへ、オルストフ伯爵私兵団が到着した。セティアは顔を見られては拙いと、慌ててサイラスの巨躯の後ろ側へと身を隠した。
嫌な予感が漂う――ナハトは思わず、西の空をじっと凝視した。
マスターコメント
ショートシナリオ難しい 報酬:標準8 / 4〜8人
2022年11月06日 20時44分49秒 公開
参加者
トゥーリ
- サイラス
ルアンナ・ミュラー
- イェレミース トゥラ リディリディ
グレイブ・ヤード
ナハティガル=ラー
ナハト・シュライバー
モネタ・シャローニャ
相談掲示板
シューターのナハトです、よろしくお願いします。 通常の岩蠍型魔獣と岩蠍型魔獣ゾンビには性質差があることが示唆されていますが…… 通常の岩蠍型魔獣が突破力のあるアタッカータイプなのに対してゾンビはどちらかというと攻撃より防御、耐久性に優れているかもしれません。元々硬い岩蠍型魔獣ですが、それよりもしぶといことは覚悟しておいた方が良いのかな、と。 あとは完全に憶測ですが、通常にはなかった状態異常付与攻撃なども警戒すべきでしょうか? 色々不自然な状況に加えて統率がとれているとなると、単純に岩蠍型魔獣ゾンビで被害を与えるだけでなく、他の意図を疑ってしまいますね。 とりあえず僕はゾンビを使役している死霊術士の類を探して排除しようかなと考えています。 ジャマーを使えば統率が乱れることもありそうですが、範囲魔法で掃討するなら統率が取れていた方が好都合ということもあるかもしれませんし、そのあたりは魔術師の方々の意向も踏まえて使用を検討したいです。
ヒーラー、グレイブ・ヤードです。よろしくお願いしますね。 ゾンビともなると重要器官とか痛覚とか意味をなさなくなりますからね。 文字通り「壊れるまで」動けるというのは大きいですよ。 足など移動手段から破壊するのがよいかもしれません
トゥーリだよ、よろしくね! 周辺状況とかは特に言及が無いし、概ね平坦で特に足場や視界の悪さも無い、正面からのぶつかり合いってことでいいのかな。とりあえず魔獣を倒して、調査とかは別途終わってからって流れになりそうだね。 ゾンビ化で強くなってるって話だけれど、こう……何というか魔改造的なものをされてなければ基本的には射程を持った攻撃はないのかな? 基本的には距離を取って集中砲火するのがいいんじゃないかなぁ……
モネタだ。よろしく。 シューターで中衛と言った所だ。 今回は捜波で探りつつ、動物(イタチ)をちょろちょろ走り回らせて周囲を探らせるのも悪くないか、とは思っている。隠れているとはいえ術師もおのれが大事だ。自身を守らせるように無意識に敵の配置をしているのではないか……というのは根拠のない話だけど。
No.5
あ、キャスターのリディリディです。 よろしく・・・、お願いします。 ゾンビとなった後の性質が具体的にわからないのはこちらにとって不利ですね。 ジャマーで使役を解除するという方法ですが、私は賛成です。 操っている者が範囲魔法を警戒してバラけさせるという手段も使ってきそうです。 そうなると、本能のみとなったゾンビが突撃してくれる方が範囲魔法をうまく当てることが出来そうです。 移動力を阻害する魔法も避けられる心配が減りそうですし。
No.6
サイラスだ、よろしくなー とりあえず相手の動向見てジャマー使うか否か決める感じ、後足破壊して足止め試みつつ遠隔で削るでいいと思う。ただMSさん的にあんまりルールにない事はさせてくれるか怪しいが。 後は死霊術師探さないとアレかな?潜んでる可能性とあるし
キャスターのルアンナです、よろしくお願いします。 岩蠍魔獣自体は砂漠での戦闘で出会ってますが、ゾンビになっているんですね…。 知能自体は低そうですし、操っているネクロマンサーをどうにかしたり妨害すれば統率が崩れて倒しやすくなりそうですね! リディさんもおっしゃってますが、突っ込んでくるだけの敵を倒すだけなら簡単になりそうです。
では僕もジャマーは用意しておきましょう。 死霊術士探しは今の所僕と、あとはモネタさんも試みてみる感じでしょうか? ゾンビの討伐方針に関しては現時点では性能が推測の域を出ませんし、距離をとって攻撃して削っていく、可能なら足を潰して移動させない、あたりで僕も賛成です。 調査に関しては死霊術士探しも兼ねて戦闘と並行して出来る範囲で不審なところを探っていこうかと。
私は探索などに有効なものを持っていませんからね。 皆さんの安全確保、余裕を広げることに専念しようと思います。
シーフのナハティガル=ラーだ。――宜しく頼む。 >死霊術士 魔獣使いの場合、魔獣を使役できる範囲はエーテルリンクど同様に1㎞程と広範囲だが、死霊術士の使役範囲はどの位なのだろうな? ジャマーは使用する方向で異論はない。 >岩蠍型魔獣ゾンビ BSが効くかどうかは不明だが【破鎧砕】で防御力を低下を狙いつつ、フェザーステップによる一撃離脱で岩蠍の足を潰す/範囲魔法の効果範囲内への誘導を試みる予定だ。 >戦闘後半 セティア・オルストフ伯爵令嬢、新米冒険者エリニア・ストゥの2名が駆け付けてくる可能性があるとの事だが…… これはテモルスへの支援派兵の件について報せに来る、という事だろうか? 到着後は伯爵令嬢の方には護衛を就けないと危険かも知れない。
No.12
今回の依頼の内容に入っていないですからね・・・。 新米とはいえ冒険者ではありますが、下手に手を出すのもどうかと思いました。 それでなくとも依頼の最中でしょうし。 テモルスのギルド職員が追加として依頼されるのならば動こうと思いますが。
>死霊術師 使役有効範囲ははっきり分からないのですが、エーテルリンクのように感覚まで共有していないならゾンビ達の動きが視認できる範囲にいないと的確な指示が出せないのではないかと思いました。 >戦闘後半 NPC2人の参入理由はナハティガルさんが挙げて下さったのと同じ認識です。 恐らくエリニアさんがセティアさんを守って下さると思うのですが、後半までにある程度蠍ゾンビの数を減らしておいた方が安全だと思いました。 裏取りとの兼ね合いもありますし、連携とれるように僕の方でコンタクトをとっておきますね。
>護衛の問題? やりたいのであればかまわないとは思いますよ? 個人行動の分野であれば外からとやかく言うのもおかしいですからね 自身の優先度の問題かと思います 実際、単純にゾンビ相手の戦闘はそこまで苦労はしないといわれていますからね。 >使役 使役、というかおおよそ羊飼いのような「進行方向の大まかな向きを指示する」のであればそこまで近くでなくても問題はないか、とは思います。 これはただの思い付きですが、 死霊術師が「外」にいるとは限らないですよね。 「乗り物」とできそうなものはいるわけですし
>死霊術士 成程。現状では遠近双方で使役している可能性を想定しておいた方が良さそうだな。 >戦闘後半 ナハトにコンタクトを取って貰えるのなら助かる。 俺の方でも彼女達については気に懸けておこうと思う。 場合によっては戦場から離脱し、伝令に走る事も念頭に入れておいた方が良いかも知れんな。
No.16
とりあえず今回参加者唯一のウォーリアだが護衛回らんでええかね? チャージングで強引に出れるには出れるが砲台系火力のセットするつもりでいるし、耐久面が鎧の性能でゴリ押しになるのよな とりあえず看破持ち込んで遠距離から見える範囲で何か感じれるものがないか、ジャマーで妨害、資金戦になれば前で壁しつつ弓で射撃してこうかと。
全体的にレンジ戦闘寄りの構成にこっちが寄ってるし、サイラスさん一人でカバリングできる範囲も限度があるから……いっそのことカバリング無しでいいんじゃないかなとは思うよ。 回復とかバフは多めに持っていくから、攻撃貰っちゃったら回復するぐらいのイメージだよ。
No.18
であれば一応カバリングは持ち込むが(他スキルは大体ウォーリア武器持たないのでアウト)NPCの護衛とかはせん方針でやるわ 出現位置とか次第ではチャージングないと移動1だし無理するのも微妙やし