【西局】侍女は冒険者
革酎
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シナリオID:2534
オープニング
リーンエス王国内地の旧ファブランド侯爵領シグロ村出身者エリニア・ストゥが、アクファリテ西方辺境伯邸の住み込み侍女として働き始めてから、早くも半年が経過した。
元々が孤児であり、シグロ村にもこれといった身寄りの無いエリニアにとっては、西方辺境伯邸こそが現在の実家であり、唯一の心の拠り所でもある。
他の侍従や家士、侍女達はエリニアに優しく、皆が家族の様に接してくれている為、今までの人生の中で最も心地の良い時間を過ごすことが出来ているといえるだろう。
そんなエリニアだが、ここ最近、自身に妙な変化が現れ始めていることに気付いた。
ひと言でいえば、彼女は授恵者に覚醒したのである。
その事実をはっきりと意識する様になったのは、西方辺境伯領都に於ける太信党との決戦から、数日が過ぎた頃からであった。
このことを周囲に告げると、皆一様に、是非とも西方辺境伯にご報告すべきだと口を揃えた。
授恵者は冒険者ギルドに登録しなければならないし、いずれ遅かれ早かれ西方辺境伯の耳にも入るだろう。であれば、自分の口から早めに報告した方が良い、というのである。
成程なと内心で頷いたエリニア。
戦後処理で忙しく駆け廻っているところに自己都合でお邪魔するのは幾分気が引けたが、それでも早いに越したことは無いと考えて、エリニアはルーヴェン・アクファリテの執務室の扉をノックした。
強い西陽が射し込む夕食前の時間帯であった。
「よぅエリニア。どうした? 珍しいな」
ルーヴェンは護兵団長ダルヴィン・ケルソーと共に山積みになっている書類を捌きながらも、エリニアを笑顔で出迎えてくれた。どんなに忙しくとも嫌な顔ひとつ見せないのは、この男の美点のひとつといって良い。
「ルーヴェン様……そのぅ、私、なっちゃいました」
「なったって、何に?」
要領を得ないエリニアの告白だが、ルーヴェンは別段腹を立てた様子も見せず、のんびりと訊き返す。
エリニアはここで漸く、勇気を振り絞った。
「その……授恵者に、なっちゃいました」
ほんのしばし――ルーヴェンとダルヴィンは間の抜けた顔で互いの視線を交わした。が、それもほんの数秒程度の話であり、ルーヴェンは勢い良く立ち上がると物凄い速さでエリニアに歩を寄せ、心底嬉しそうな笑顔で彼女の手を取った。
「おぉ、そうだったのかあ! そいつは凄ぇや! こりゃあ祝宴だ!」
「エリニアの授恵者覚醒祝いなら、宴を重ねても文句をいう者は居ないでしょうね」
多くの死傷者を悼む沈んだ空気の中で、戦勝祝いの宴を幾つも開催するのは不謹慎だと眉を顰める者が居たのは事実だ。それ故、これまでに確定している宴の数は決して多いとはいえない規模に収まっている。
だがその一方で、死者の勇気と働きを讃える為にこそ明るく盛大に祝ってやるべきだとの声も少なくない。
どちらの意見にも一理ある為、どうしたものかと頭を抱えていたルーヴェンだったが、エリニアの授恵者覚醒祝いという名目ならば、ひとつぐらい宴が増えても文句はいわれまい。
尤も、身内の話だから余り大勢を招待する訳にはいかないだろう。
「ま、内々でこじんまりと、ってな規模になっちまうが、是非やろう。絶対やろう。こういう明るいニュースが皆の気分を少しは和らげてくれるだろうさ」
そんな訳で、エリニアの授恵者覚醒祝いと称する宴が催される運びとなった。
但し飽くまでも身内の祝い事に過ぎない為、余り大勢を招待する訳にはいかない。冒険者ギルドにも一応声はかけるが、冒険者の招待客は精々数名から十人程度に落ち着きそうであった。
●貴族の品位
西方辺境伯領の東側に位置するオルストフ領は、アクファリテ家の寄り子貴族ながら、どちらかといえば内地の貴族としての権威と誇りに重きを置くオルストフ伯爵家の所領である。
そのオルストフ家の現当主アルターの妻カネーレは貴族派貴族の某伯爵家出身であり、自身が嫁いだオルストフ家の寄り親が、シラー砂漠の蛮族との戦いに明け暮れる武辺な家風の西方辺境伯家という事実に、日々眉を顰めているという人物だった。
そのカネーレの耳に、ルーヴェンがエリニアの為の宴を内々に催すという話が飛び込んできた。
あからさまに不機嫌そうな表情を浮かべたカネーレは、豪奢な調度品で埋め尽くされた自室の窓から遥か西の方角に視線を走らせ、忌々しげに奥歯を噛み鳴らした。
「辺境伯閣下ともあろう御方が、市井の汚らわしい小娘の為に宴を開くなど、何とも軽々しい……辺境伯家の品格を自ら貶める様なものだわ」
「お母様、それは幾ら何でもいい過ぎなのでは……」
そこへ侍女と共に午後のお茶を運んできた愛娘のセティアが、気位の高過ぎる母親を窘める様にそっと声をかけてきた。
カネーレはふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いたが、しばし何かを考え込んだ後、急に顔色を明るくしてセティアに向き直った。
「そうだわ、セティア。あなた、その何とかいう小娘の為の宴に、顔を出していらっしゃい。アクファリテ家に必要なのは小汚い下賤の娘ではなく、本物の貴族の子女こそが相応しいということを見せつけてくるのです」
「でもお母様、私はその、エリニアさんという方のことはよく存じ上げていないのですけど……」
セティアは心底、困り果ててしまった。彼女は別段エリニアに対して敵意など欠片も抱いておらず、わざわざ家格の違いを見せつけることに何の意味があるのかと強い疑念すら抱く始末であった。
しかしオルストフ家に於いては、娘は母の言葉に従わねばならない。
結局、渋りに渋ったものの、セティアはエリニアの授恵者覚醒祝いに出席する運びとなった。
勿論宴に参列する旨を強引にねじ込んだのはカネーレ本人ではあったが。
解説
マスターより
リプレイ
アクファリテ西方辺境伯邸の大食堂は、いつにも増して賑やかだった。
シラー砂漠最大級のバルバロイ組織『太信党』を退けてから数日が経ったある日の夜、ルーヴェン・アクファリテ西方辺境伯は邸内住み込みで働く侍女エリニア・ストゥの授恵者覚醒を祝うという名目で、小さな宴を開いた。
集まったのは冒険者半分、寄り子貴族関係者半分といったところか。宴はルーヴェンの意向を受けて、半ば無礼講に近い自由な飲み会という雰囲気で始まった。
厨房も開放されており、腕に覚えのある料理自慢は誰でも自由に調理技術を披露することが出来た。
「ノイアン、出来たかい?」
「これで全部だ」
厨房の一角でシルヴィア・A・カペルから問われたエル=バ=ノイアンは、大き目の皿を目線で指し示す。
ツナとマヨネーズ、マッシュポテトと出汁を混ぜたペースト状のものをパンに乗せた特製タルティーヌが、香ばしい匂いを漂わせている。梨やオレンジ等も添えて、誰でも気軽に楽しめるひと皿に仕上がっていた。
シルヴィアはルーヴェンの為にと、クランペラーという銘柄のウィスキーを炭酸水で割り、レモンを加えたグラスを用意した。一方、エリニアの為には葡萄ジュースを用意している。まだアルコールに慣れていない主賓をもてなすには、これくらいが丁度良い。
ふたりがそれぞれトレイを掲げて大食堂に入ると、陽気な旋律が流れてきた。
ロゼットとエルが、弦楽器の二重奏を披露し始めたのである。思わず体を揺すりたくなる様な軽快なテンポが心地良く、会場内のそこかしこから手拍子が湧き起こっていた。
「こいつはひとつ、場を盛り上げねぇとな! 護兵団長、一緒にどうだ?」
「ほほぅ、私のダンステクニックをご所望か? 宜しい、披露して進ぜよう」
ハヤト=ガラン=ヴォルファングに誘われて、護兵団長ダルヴィン・ケルソーが一緒になって立ち上がる。ふたりとも華麗な身のこなしがウリの軽戦士だ。ロゼットとエルの奏でる軽やかなリズムに乗って、流れる様な振り付けと巧みなステップでひとびとの注目を浴びた。
実際には踊りの達人たるダルヴィンの技に、ハヤトが見様見真似で合わせていたというのが正確なところではあったが。
そんなふたりのダンスを、ルーヴェンやエリニアと同席するコルネリウス・アーラが幾分可笑しそうに頬を緩めながら眺めていた。
テーブルでルーヴェンと最初に顔を合わせた時、コルネリウスは気品と誇りを滲ませる凛とした表情で、丁寧に挨拶を交わした。今回の戦いを通じて、リーンエス王国の為に何かをしたいという思いが更に強くなったコルネリウス。
ルーヴェンは多くを語らなかったが、コルネリウスの真摯な思いはしっかりと受け止めた様子だった。
「エリニアさんも、実家と呼べる場所……心の拠り所を与えてくれる方の傍で力になれることは、嬉しいことですよね」
「はい! 今まで以上にお役に立とうと思ってます!」
つい先日まで一方的に守られるだけの存在に過ぎなかったエリニアは、心底嬉しそうに頷き返した。その純粋な光を湛える瞳に、コルネリウスは先輩授恵者として微笑ましいと同時に、嬉しくもあった。
「ミュラース出張版の焼き立てパン、出来上がりましたよー! おひとつ如何ですか?」
シルヴィアとノイアンに続いて、ルアンナ・ミュラーが籠一杯に盛り込んだ焼き立てパンを抱えて厨房から顔を出した。焼き上がったばかりの米粉パンは、シラー砂漠名産の岩塩にバターを合わせて塗ると、美味さが倍増する。主食としても酒の肴としても絶品だった。
●授恵者になるということ
景気づけの開幕演奏を終えて自席へと戻ったエルは、ロゼットに誘われ、ルーヴェンとエリニアのもとへ挨拶に伺おうとした。
すると同じタイミングで、ミレイユ・ヴェルジーも主賓席へ向かおうとしていた。エルもミレイユも、西方辺境伯現当主の素顔というものを、余り知らない。
そんなふたりに対し、ロゼットは、
「大丈夫よ。びっくりするぐらい気さくな方だから」
などと太鼓判を押した。
そして事実、ルーヴェンはエルとミレイユを笑顔で出迎えた。
「お前さん達、確か俺とは初めましてだな? いやいや構わんさ。これで縁が出来たってもんだ。もうこの瞬間から俺達は飲み友達だからな。気にせず楽しんでくれ」
名門貴族の現当主とは思えない気さくさとべらんめぇな兄貴肌に、エルは内心で驚きを禁じ得ない。
一方ミレイユは、伯爵令嬢としての落ち着いた所作で、しっかりと貴族の礼を披露した。尤も、その脳内では表面上の態度とは真逆の貴腐人思想が激しく渦巻いていたなどとは、口が裂けてもいえなかった。
(夜のマナズィール、偽装結婚……次に来るのは砂漠のロマンスですわね!)
他人が聞いたら呆れ返るだろうが、これがミレイユの真骨頂。そのスタンスにブレは無い。
その後もミレイユは変に男性客を凝視したり、自分から話しかける様な真似はせず、ひたすら観察に徹した。どんな情報がドゥジンシのネタになるか分からない。ドゥジン神の天啓は彼女に、貴腐人としての在り方を示してくれた。貴腐人一徹の曇りなき眼は今宵、何を見るのだろう。
その傍らで、エルはたどたどしい口調ながらエリニアに祝福を述べた。
「あ、あの、おめでとう……ございます。その、エリニアさんは、何で、戦う、の?」
「ありがとう! 私はね、これで」
エルに答えながら、エリニアは弓を引く仕草を見せた。エルはあぁ成程、と内心で頷く。つまり、彼女と同じという訳だ。
すると脇から一匹の栗鼠が顔を出した。
(……え、リルも、ご挨拶、する、の?)
どうやら相棒の栗鼠は、エリニアとも仲良くなれると本能的に悟った様だ。
ところでエルは、エリニアの授恵者覚醒が何故めでたいのかが、今ひとつピンと来なかった。というのも、エル自身は授恵者であることを知られるのはご法度だと思い込んでいたことがあったからだ。
この疑問に関しては、エリニアは明確な答えを持っていた。
「だって今まで、ただ守られるだけだったし……これからは私も、自分の力で皆さんをお手伝い出来る様になるんですよ!」
「その気持ち、何だか分かるなぁ」
応じたのはロゼットだった。彼女が覚醒したのは、シグモルでの修行中だった。日課の祈りの際に、声が聞こえた様な気がしたらしい。
「空耳だったかも知れない、天啓だと思い込みたかっただけかも知れないけどね。それはそうと、まさかエリニア自身が覚醒するとはね」
平穏無事に過ごしてくれていれば、と思っていただけに、ロゼットとしては意外だった。これまでエリニアの身に連続した不幸を思えば幾分複雑だが、エリニアの進む道に幸運が訪れることを祈ってやまなかった。
●セティア・オルストフ伯爵令嬢
寄り子貴族関係者は大半が各家の家令長や兵団長といった立場の者が参加していたが、ひとりだけ、妙に浮いている存在があった。
端正な顔立ちとおとなしげな立ち居振る舞いが、この賑やかな場では却って目立つ。
アクファリテ西方辺境伯家の寄り子貴族オルストフ伯爵家の令嬢セティアだった。
エリニアへの祝辞が続いた為、少し席を外そうと腰を上げたコルネリウスの視界にセティアの涼やかな美貌が飛び込んできた。何となく興味を引かれたコルネリウスは、挨拶がてら声をかけてみた。
「貴族同士の集まりでもあるのに、何というか、凄く、珍しいですね。こういう雰囲気……」
どうかしたのかとコルネリウスに問われ、セティアは幾分戸惑い気味に笑みを返してきた。格調高い貴族の礼儀作法や貴族子女としての在り方を常に厳しく問われる生き方を強いられてきたセティア。しかしコルネリウスの目には寧ろ、セティアの育ちこそが王国貴族の在り方としては普通なのだろうと思えた。
西方辺境伯家の空気感が、少々特殊なのだ。
貴族としての家格、しがらみ――コルネリウスも多くの貴族と関わり、今も彼らについて学んでいる真っ最中だが、貴族には貴族の苦しみや辛さがある。そんな彼らの姿に胸が痛む思いだった。
「今日は、少しばかり羽目を外して楽しんでみても良いんじゃないでしょうか」
「そう……そうですわね。母からは貴族の在り方を示してこいといわれましたけど、今日は、そんなことは忘れて皆様と楽しみたい気分です」
穏やかに笑うセティアに、コルネリウスは素直なひとだという印象を抱いた。根は真っ直ぐで、人種に対する妙な偏見も持たない女性なのだろう。
と、そこへミレイユが貴族の作法で礼を交わしつつ、声をかけてきた。
「御機嫌よう。ヴェルジー伯爵家が長女、ミレイユと申します」
セティアの名と顔を知らぬ非礼を詫びて自己紹介。パンクリアース学園には今春入学したばかりで、冒険者としても経験が浅く、世間知らずな小娘だが、仲良くして貰えれば僥倖という挨拶口上を述べると、セティアは心の底からの尊敬の眼差しを向けてきた。
「まぁ、冒険者様ですのね……凄いですわ。私も授恵者になれたらと、いつも思っておりますの」
だからエリニアやコルネリウスのことがとても羨ましいと思っていたとの由。
尚、セティアは昨年パンクリアース学園を卒業しているが、彼女は先輩風は一切吹かせず、ただただ丁寧に、同時に尊敬の眼差しを持ってコルネリウスやミレイユに接した。
そしてふたりの勧めで、セティアはエリニアに祝辞を述べることとなった。セティアとエリニアは性格こそ真逆ながら、すぐさま意気投合して親しげに言葉を交わす様になった。
この時、ミレイユの脳裏に新たなキーワードが舞い降りた。
(こ、これはもしかして……百合……!)
殿方や西方辺境伯の筋肉や骨格を、間近で頭に焼き付ける好機だと内心で気合の拳を握り締めていたミレイユにとっては、思わぬ副産物だった。
●一瞬の緊張
エリニアとセティアの会話は更に弾み、そこへルアンナも加わったものだから、ちょっとした女子会の如き様相を呈してきた。
「そうですねぇ。私が授恵者になった時は……」
竈の薪に向かい、遊び半分で火よ、などと指を向けたら本当に勢い良く燃え上がったと思えたらしい。ルアンナの力によるものかは不明だが、それが覚醒を自覚した切っ掛けだった。
「でも正直、怖かったです。今思えば、店が火事にならなくて良かったといいますか」
頭を掻きながら、ぺろっと舌を出すルアンナ。エリニアとセティアは、色々な体験談に接することが出来て嬉しそうではあったが。
気が付くと、会場内には穏やかな旋律が流れている。ロゼットとエルが酒食を楽しみつつ、その傍らで調べを奏でていた。
そんなふたりの演奏に耳を傾けながら、シルヴィアはノイアンと並んで明るい笑顔を見せるエリニアを微笑ましく眺めていた。
「前よりずっと表情が明るくなった。今、幸せなんだろうね」
「授恵者としてはこれからが大変だ。何かの役に立つかも知れないから、指南書を渡しておいたが」
同じくエリニアの談笑する姿を眺めていたノイアンの突拍子も無い告白に、シルヴィアはしばし、呆れた表情で凝り固まった。
「全く、相変わらずだね……まぁそれが、ノイアンらしいといえば、らしいんだけど」
苦笑するシルヴィアに、ノイアンは不思議そうに小首を傾げた。不思議といえば、シルヴィアがセティアに声をかけていたことを思い出し、知り合いなのかと尋ねた。
シルヴィアはセティアとは今宵が初対面だったが、最初にルーヴェンの卓を訪れて挨拶した際に、気にかけてやってくれと頼まれていたらしい。
「どうも母親が貴族派伯爵の妹君らしくてね。色々気苦労が多そうなんだ」
「ただの貴族派じゃねぇぞ。急進派で、しかも少々過激で知られるジルクック伯爵の妹だ」
と、そこへクランペラー入りのグラスを手にしたルーヴェンが席を移動してきた。女子会の雰囲気に中年男の自分が混ざるのは、何となく気が引けたらしい。
実は同じことをつい先程まで、ルーヴェンはハヤトとも話していた。が、ハヤトは盛大に飲み食いした状態で踊りまくった所為か、具合を悪くして寝込んでしまっていた。
今はロレッタ・レーゼンの膝枕で良い気分に浸っている。ロレッタが心配そうに覗き込むと、その豊満で柔らかな胸が、額にむっちりとした重みで触れてくる為、ハヤトの顔は更にだらしない笑みで崩れていた。
それでもハヤトは、外敵の次は内なる敵が顔を覗かせてくるんじゃないかと指摘していたらしい。流石の読みだと、ルーヴェンは感心した。
「お約束通り、閣下のお手伝いが出来て何よりでしたが……今後は内政問題が浮上するのですか」
シルヴィアはエリニアが神の祝福を受けた席だからと幾分遠慮はしたものの、矢張り同じ貴族の子女としては多少不安に思うところがあった。
「肝心な時に駆けつけることが出来ず申し訳なく思っていたが、まだ何か役に立てる様なら、いつでも」
ノイアンが表情を引き締めてルーヴェンの面を正面から見つめる。
ルーヴェンは、余り大きな声ではいえないが、と声を潜めた。
「ロゼットからの報告で、妙な動きがあることが分かってな……もしかするとだが、ラネンターカムが生きてるかも知れねぇ」
その瞬間、シルヴィアとノイアンの表情が緊張に凝り固まった。
ルーヴェンの声が聞こえていたのか、すぐ近くでロレッタの柔らかな太ももに頭を預けていたハヤトも、その一瞬だけは鋭い視線を送ってきた。そして起き上がるや、ロレッタと肩を組んでエリニアやセティアに絡みに行こうなどといい出す。緊張した空気をほぐそうとしたのだろう。
「全く……向こうは今、女子会の真っ最中だぞ」
「良いって良いって。俺はロレッタの柔らか~いお尻に隠れてるから」
笑い飛ばすハヤトに呆れつつも、ロレッタはいわれるがままにエリニアやセティア、或いはルアンナといった面々が話に花を咲かせている卓へと移動していった。
エリニア、セティア、ルアンナ、ロレッタ、そしてハヤトの五人が囲んでいる卓を、シルヴィアとノイアンは複雑そうな面持ちで眺めている。
ハヤトはロレッタの手を借りつつ、エリニアにクリスタルシュガーや蜜花、フルーツカクテルといった贈り物を披露していた。エリニアは心底嬉しそうな笑顔で、ハヤトに何度も礼を述べていた。
明るく、そして穏やかな光景。これがいつまで続くのか。
と、そこへダルヴィンが自身のグラスを手にして、ノイアン正面の席に腰を下ろした。
「ハヤトは、アザンティアを失った悲しみを前へ向かう原動力にしている様です」
「悲しむのは良い。だが、落ち込むな……爺様もそんなことをいっていたな」
ダルヴィンに応じながら、ルーヴェンはグラスに残っていたクランペラーを一気に飲み干した。
新たな脅威が、迫りつつある。
そんなことを密かに予感させつつ、それでも宴は尚も華やかで、楽しい時間を紡ぎ続けた。
マスターコメント
ショートシナリオ易しい 報酬:無し8 / 4〜10人
2022年10月23日 09時16分38秒 公開
相談掲示板
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 西方辺境伯にご挨拶をして、エリニアをお祝いするよ。セティアにも話しかけてみようかなと考え中。 皆にとって良い一日になりますように。
御機嫌よう、ミレイユと申します。 ネタを探……ごほん、西方に興味がありまして。 一冒険者としての参加になりますが貴族の方も見えられるようですし、エリニア様が楽しく過ごせるよう立ち回れたらと思います。 どうぞよろしくお願い致しますね。
ロゼットよ。お邪魔するわね。 あまり貴族や偉い方の社交場には慣れていないのだけど、 エリニアには少し縁があったから、彼女を主に。 他も時間(字数)が許す範囲で、関わらせてもらうわ。
ルアンナです、よろしくお願いします♪ エリニアさんが授恵者になられたんですね! せっかくですし、皆さんが授恵者として覚醒した時の状況とかどんな感じだったとか、色々聞いてみたいです。
>授恵者として覚醒した時の状況 字数が余りそうだから、簡単に絡ませてもらうわ。 あまり大げさな話(設定)ではないのだけどね。 他は、宴の余興に端っこで弦楽器でも爪弾いてようかと。
ノイアンだ、よろしく頼む。 各方面に挨拶ついで、エリニアと話ができたらと考えている。今後面倒ごとに巻き込まれないといいが…まあ、それも含めて。
おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! せっかく西方のゴタゴタが片付いたってのにあんまりパーッと祝えてなかったしな! 何にせよキッカケが貰えたんなら皆で盛大に祝おうぜ♪ 俺も辺境伯のおっちゃんやロレッタ、ダルヴィン辺りの顔見知りと飲み食いしたらエリニアに祝いの挨拶にでも行くつもりでいんぜ!
エル、です。どうぞ、よろしく。 知り合い、ではない、です、けど。 エリニアさん、に、お祝い、を言いに行こう、と、思い、ます。 後、演奏、とか…?
>エル 私もちょっとだけ、余興に演奏と書くつもりだから、 もし良かったら一緒にやりましょう。
>ロゼットさん ありがとうございます。 よろしく、お願い、します。 えっと、どんな感じに、しましょう、か?
>エル あまり深くは考えていないけど、辺境伯の人柄を見るに、 気取らない、リズム感のある楽しげな曲の方が良いかなって。 エルも弦楽器なら、ふたり弦楽器の二重奏って感じで。 それぐらいしか考えていないけど、もし良かったら一緒に。
>ロゼットさん わかりました。 では、わたしも、そんな感じ、で、書きます、ね。