【獗烙】激情アテクルウ異形

広大野人

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シナリオID:2496

オープニング

●
 メドゥの指先『黄の中指』ジード・ランスウッドの捕縛と暗躍組織ソーン・クリエの撃破は――大々的に報じられる事は無かった。
 王国内のどこにメドゥの関係者がいるか分からない状況で、捕縛したジードの安全を確保する事に王国騎士エナハルト・ティルムが難色を示し、騎士団本部も同様の考えに至ったからだ。
「ユーゲン・フォリングの移送完了しました」
 兵士の一人がエナハルトに報告する。
 ゾンバルダの裏切りによって致命傷を負ったジードに付き添う形で碧髪碧眼の青年は投降した。彼の素性を調べて肉親に知らせた所、家族の申し出により、騎士団本部から近い屋敷を借り上げ、そこに勾留する事になったのだ。
 異例とも言える処置だが莫大な保証金と彼自身からの情報提供協力という名目によって認められた。
「分かった。警備は万全に頼む」
 答えたエナハルトの言葉に了解の返事をすると兵士は退室する。
 それを見送ってからギルドの受付男子イシアが幾つかの資料をテーブルの上に並べた。
「ゾンバルダの行方ですが、ユーゲンからの情報提供と目撃者の話によってほぼ確定しました」
 ユーゲンからは組織の隠家の各場所が知らされた。
 そして、ゾンバルダの逃亡を目撃したサーンゾ達によって、逃亡先の方向が分かったのだ。
「海賊のアジトから陸路で『ファナータの街』に、か……組織幹部の一人、リロ子爵がウシタに居なかったのは、後詰だったという訳だ」
「主要街道に検問を敷いていますので、ゾンバルダがファナータに到着するまで、時間がかかるはずです」
「先回りは難しくとも、ファナータで捕捉はできるか……よし、出立する。イシアは冒険者達に依頼を出して欲しい」
 席から立ちあがったエナハルトにイシアは深く頷いた。

●
 追跡を振り切ってゾンバルダはリロ・ルエファナータが治める『ファナータの街』に到着した。なりふり構わず、リロが滞在している塔へと乗り込む。
 抵抗する者を容赦なく打ち倒しながら。
 もともと、ファナータは治安が悪い。それに自警組織もソーン・クリエと繋がっていた事もあり、あっという間にゾンバルダと彼の配下達によって制圧されてしまった。
「……これだけの金があれば、暫く高飛びしても大丈夫だな」
 ホールに集められた金銀財宝を見てゾンバルダが満足そうに言った。この街とソーン・クリエが溜め込んだ資産の一部だ。
 ゾンバルダはやる気無く座り込んでいるリロの首根っこを引っ張る。
「本当にこれで全部だろうな!」
「……知らない。だって、何も分からないのよ」
「そういや、てめぇはそんな人間だった。身体だけは大人になったガキだ」
 リロの細い身体をガシっと引き上げ、乱暴に衣服をはぎ取る。
 真っ白い肌が窓から入って来る光を反射しているようだ。
「抵抗もしねぇのかよ」
「好きにすれば……もう……どうでもいい……ジード様も、居ないから……」
 ジードの名が出て来た事でゾンバルダは不機嫌になると、リロの顔をはたいた。
「イラつく名前を口にするんじゃねぇ! てめぇは一思いに殺してやろうと思ったが、気が変わったぜ。俺らの慰みものにして、徹底的に壊してから殺してやる!」
「……言ったでしょ。好きにすればって」
 リロが返した台詞にゾンバルダは声にならない叫びを発するのであった。

●
 依頼を受けた冒険者と部下を引き連れ、エナハルトがファナータに到着したのは、それから間もなくの事だった。
「王国騎士エナハルト・ティルムだ! 大人しく、投降しろ!」
 大きな扉を蹴り破ってホールに踏み込んだエナハルト。
 その姿を認め、ゾンバルダが舌打ちした。
「チッ! 思ったより早かったな……くそガキで遊び過ぎたか」
 大剣で串刺しにしていた『人だったもの』を雑に薙ぎ抜く。
 リロを全員で嬲っていたら、無駄な時間を費やしてしまったようだ。さっさと逃げていれば街から脱出できていたろうに。
「……間に合わなかったか……」
 エナハルトは凄惨な様子を見て呟いた。
 組織を裏切ったゾンバルダが他の幹部に危害を加える可能性は考慮していた。だから、精兵を引き連れ、出来るだけ急いで来た訳ではあるが……。
 せめて、リロが塔に立てこもって抵抗していれば、結果は違っただろうに。
「馬鹿なガキだぜ。言われるがままにしか動けないなんてよ」
「……違う。リロ子爵は大きな『欠落』を抱えていただけだ」
 生まれた時から極度な溺愛で自立する心を失った少女は、それでもジードという救いによって『人』であった。親身に関わる人が居れば、少女の『欠落』は埋まっていたはずだ……自身と同じように。
「ゾンバルダ、もう一度言う。投降しろ」
「俺が投降するってよ、者共!」
 ふざけた様子で部下に向かって言うと、部下共が一斉に笑い声をあげた。
 そして、各々が錠剤のようなものを口の中に放り込む。
「てめぇら全員皆殺しにして、ほとぼりが冷めるまで高飛びさせて貰うぜ。『瞳』の製造法はトレイシーが知っているんだ。あの女を探し出して、嫌でも作らせてな!」
 宣言するとゾンバルダも『瞳』を飲み込む。
 それも一つではない。数個いっぺんにだ。
「……異形になろうが、知った事じゃねぇ! 俺は最強だ! 負ける訳ねぇ!!」
 直後、ゾンバルダの肩甲骨辺りから新たな腕が出現。
 両肘と両膝からも新たな部位が発生し、体中の筋肉が膨れあがり、一回りも二回りも体躯が増した。
 これが『神実の瞳』の力。
 授恵者の能力を飛躍的に向上させる劇薬。ただし、使えば使うほど『人』でなくなるのだ。
 エナハルトは絡繰り籠手が正常に作動する事を確認しつつ、直剣を構える。
「投降を拒否したと見なす。総員、気を引き締めてかかれ!」
 異形の怪物との戦いが始まろうとしていた。

解説

●目的 ゾンバルダの討伐 ●状況 塔のホール内(4~5ヘクス四方)。 幾つかの窓と照明器具によって明かりの問題はなし。 敵勢力はホール中央。 冒険者達は入口付近からスタート(事前準備は可とする)。 ゾンバルダの部下は王国騎士が連れて来た精兵達が対応する為、冒険者はゾンバルダに集中する事となる(精兵への支援RPを否定するものではありません)。 ●敵勢力 ゾンバルダ 組織を裏切った元幹部。元々、実力が高いところに『瞳』により超強化されている。もはや『人』ではないので、『人』としての急所が通じない可能性が高い。 攻撃方法はスタート時不明だが、ウォーリアとしての特性は残っている模様。 ●味方勢力 エナハルト・ティルム 王国騎士。左腕に絡繰り籠手を装着。クラスはシーフ。 冒険者と共にゾンバルダ対応。それなりの実力はあるが、強化されたゾンバルダには劣る。 リロ・ルエファナータ ファナータの領主であり子爵。冒険者達が塔に踏み込んだ時点で絶命している。 (声を掛けるなどのRPを否定するものではありません) ●その他 ジードがシナリオに紐付けされていますが、掲示板への挨拶や質問への回答は致しません。 組織の情報についてはユーゲンからある程度、提供されており、ゾンバルダを捕縛する必要はありませんし、そもそも『神実の瞳』によって異形と化しているので、逃亡を許さない限り生存は望めませんので、これ以上、被害が増えないよう、王国騎士から『速やかな討伐』を依頼されています。

マスターより

 おはようございます。当依頼にて55作目となった広大野人です。  【獗烙】の事後シナリオとなります! それも二本立てです!  こちらは、逃亡したゾンバルダを討伐するシナリオとなっています。ゾンバルダは冒険者達を全滅させて高飛びするつもりで、ここで奴を逃してしまうと、被害が増えてしまいます。  ここで必ず決着をつけていただければ!

リプレイ

●
 王国騎士エナハルト・ティルムの宣言と共に、ホール内が光に包まれる。
 冒険者達が投げた閃光塗弾だ。
「ハハッ! 普段だったら目を潰していた所だ、ぜ!」
 異形(ゾンバルダ)が叫ぶと最接近していたベルク・オスマットに向かって腕を振り下ろした。直撃するような間合いではなかったがベルクは素早く反応し、転がるように衝撃波を避けた。
「蛮族にすら劣る倫理観しか持たない野蛮な獣共とは、蛮族と呼ぶ価値すらない」
「煩い! 半獣がぁ!」
「底抜けの阿呆だな。元々、持てる器官以外を自在に動かせるわけが――」
 次の瞬間、殺気を感じて跳ねるように飛びのくと、別の腕から放たれた衝撃波が掠める。
 どうやら異形と化したゾンバルダには人の概念そのものが変わってしまっているらしい。
 注意がベルクに向いた所で霞状のエーテルがゾンバルダに纏わりつくように出現。
 シルヴィア・A・カペルが放ったものだ。
(ゾンバルダの欠落故に、ジードは刺され、リロはこれ程惨い事をされたというのか)
 視界の中に残る少女の無残な姿。
 込み上がる怒りを……しかし、シルヴィアは抑える。こういう時こそ、冷静に物事を視なければならない。それが、自らの役割と課して。
「どれほど強くなっても、君を認める人はいない」
 魔霞の影響を確かめながらシルヴィアは告げた。
 効いている。だが、弾け飛ぶように霞状のエーテルは四散する。異形特有の能力なのかもしれない。
「俺は人を超えた存在だ!」
「強さを求めるだけの外道は魔獣と相違無い……此処で斬る」
 軍刀の先端をゾンバルダに向けたシルヴィアに続くように、強力なエーテルに包まれた一矢がセリオス・オーガストの弓から放たれる。
 避ける動作が間に合わず、ゾンバルダの肉体に深々と突き刺さった。
「これは通じる、か。いや……なんだ……」
 言い表しようのない違和感。
 フェイタルアローによる効果は発揮しているが、先の魔霞とは異なる様子だった。
「小賢しい! そんな物で俺を倒せると思うなぁ!」
(増えた腕……に秘密があるはず。普通の人間ではありえない動きに……)
 注意深く観察しつつ、セリオスは次の矢を番えた。
 ゾンバルダとの仲間達との立ち位置を調整しながらミア=リゼルも慎重に挑む。
(私とせんせいの決着を邪魔したこと、リロさんを辱めたこと……許せません)
 けれど今、無理はできない。まずは大切な事を成し遂げないといけないからだ。
 一歩進み出たミアの背後からエミリア・シバが飛び出ると一気に距離を詰める。
「仲間は裏切るわ。女の子に八つ当たりするわ。強くなるのに薬に頼よるわ……本当に小っちゃい男ねぇ」
 そんな風に挑発しつつも、エミリアには自責があった。
 港町ウシタで取り逃がさなければ……と。だから、必殺の念を抱いて赤光を宿す暗針を突き立てる。
 確かな手応えを感じつつ、次に繰り出す技は――。
(止められた!?)
 そのまま素早く距離を取って離れるエミリア。
 一連の動きの中に得た違和感。その正体を探るようにエミリアは仲間達に視線を合わせるのであった。

 ゾンバルダの注意を引いてもらう援護を受け、ルベア・ベルニはリロの元へ駆け寄った。
「リロ、ごめん……」
 少女の血塗れの頬を拭い、半端に開かれた目を閉じる。
 エナハルトが手早くマントを外すと遺体を包んだ。ルベアはそれを手伝うと、後を託して、立ち上がる。
 不意に生前のリロを思い出した。人を疑うことのないような無邪気な微笑みを……。
(むざむざ殺させてしまったのは、アナタを変えられなかった私のせい)
 閃光塗弾を握る手に力を込める。ゾンバルダへの殺意と至らなかった自身への怒りと共に。
 戦闘は激しさを増している。
 仲間達が次々に斬り込むが底なしとも思える耐久力を持つゾンバルダに有効打を与え切れていない。だが、ゾンバルダの攻撃も冒険者には致命傷になっていない。
 堅い防御力を誇るミアが積極的にカバーに入っているからだ。
 ただこの拮抗はスキル在りきによって作られている。敵の防御を突破し、猛攻を仕掛ける為の手札が必要だろう。
「畜生以下の化物に、生きてこの部屋を出る権利は微塵もないわ」
 そう言い切るとルベアは壁を駆けあがった。

●
 閃光が効かない事は承知の上だ。
 それでもルベアには試す事があったのだ。
 彼女の動きを視界に入れながらエミリアがフォローに入りつつ、これまでの戦いの経過から、ゾンバルダが持つ力に気が付く。
「新しく増えた四肢が、庇いに入っているわ」
 冒険者達の攻撃を積極的に受け止めているのだ。
「一つの身体に複数の別の存在が入っているようなもの、かな?」
 シルヴィアも同様に気が付く。
 複数目標に対する別個の攻撃、バッドステータスが本体に入らない理由……新たに出現した四肢が別の存在なら理由にはなる。
「つまり、庇われずに本体だけを狙えば……」
 番えた矢にエーテルを込めながらセリオスが狙いをつける。
 本来なら四肢を関節部から吹き飛ばせればいいのだろうが、簡単にはいかなそうだ。
「元々あった手足を直接狙いたい所だ」
 猛攻を避けながらベルクが暗爪刀を握り直した。
 そんな冒険者達の変化にゾンバルダが吠える。
「何かを考えるだけ、無駄だぁ!!」
 豪快な振り回しをミアが受け止めた。
 強い衝撃に耐え、生じた隙とタイミングの糸を手繰り寄せる。
「ルベアさん! 今です!!」
 叫んだ台詞と共に天井際から空間を飛び越した半獣人の冒険者。
 ゾンバルダは素早く反応するが、異常過ぎる程に先鋭化された能力が逆に仇となった。
「ッ!!」
 庇いに入った腕に身体ごとぶつかるルベア。
「馬鹿めっ!」
 獲物が自分から捕まりに来たのだ。
 ゾンバルダは不気味な笑みを浮かべる。掴まえた冒険者を人質か盾代わりにしてやろうと思う。まずは鎧や服をはぎ取ろうと思った直後の事だった。
「なんだぁぁぁ!?」
 ルベアが伸ばした手から塗りたくられたのは閃光塗弾の中身。
 それがゾンバルダの目を覆い、急に視界を奪われた事で混乱する。
「くそ! なにしやがる!」
 閃光自体は効かなくとも物理的に塗られれば見えなくなるようだ。
 一歩間違えれば大惨事になりかねなかったが、ルベアは幸運にもやり遂げる。
 この絶好の機会に背中側に回り込んでいたベルクが猛攻を繰り出した。
「汚れた獣風情が言葉を喋るな。惨たらしく殺してやるから澱みの底に沈んで逝け!」
 合わせるようにセリオスが極大の光を纏った矢を放った。
「これで吹き飛ばすぞ!」
 強力無比な一撃は肩ごと二本の腕を吹き飛ばした。
 腕と共に吹き飛ばされたルベアをミアが身体を張って受け止めるのを見届けつつ、シルヴィアが無数の光弾を胴体に向かって放つ。
「今なら、庇いに入られる心配はないはずだよ」
 四肢の一部は残っているが、視界を封じた事で的確に本体を庇えない状態だからだ。
 ヒット&アウェイで戦っていたエミリアも攻勢に絞る。
「ここで畳み掛けるわ」
 逃がさないように本体の足を狙う。ここまで追い詰めたのだから逃亡は絶対に阻止しなければならない。
 腱を切られ、バランスを崩しながらもゾンバルダは悪あがきを続けた。
「うざってぇんだよ! 俺は、最強だ! こんな……こんな所で終われるか!」
 残っている自身の腕で目が在った場所を抉る。
 直後、鎖骨の辺りに新しい『目』が血飛沫と共に開いた。ぎょろぎょろと冒険者を睨む。
 その間にも冒険者達の一気呵成な攻撃が続いた。
「足を――」
「討ったぞ!」
 エミリアとベルクの二人が同じ個所を狙い、膝下を切り落とす。
 無様に転がるゾンバルダ。
「まだだ! 俺は人を超えた存在! 俺を認めない愚かな者共を根絶やしするまで、止まらねぇ!」
 身体を支える為の杖のようなものが腰の辺りから幾本も飛び出す。
 一部は全周囲への衝撃波となって冒険者達に襲い掛かった。
 拮抗していた戦況は完全に崩れ、壮絶な殴り合いのような事態だ。冒険者側の回復能力を上回っているので全員で攻撃に回る。
 先に生命力が尽きた方の負けだ。
 やがて、叫び続けるゾンバルダの口から血が溢れ、代わりに異様に膨らんだ腹から新たな『口』が出現する。
「全て! 全て壊して奪ってやる! 人を超えた俺を認めない全てをぉ!」
 大気を震わす叫び。
 これこそゾンバルダの『欠落』だったのだろう。何をしても認められる事はなく、また、本人も満足できず、その矛先は、王国そのものが自分を認めない事だと至ってしまったのだ。
「その姿が人を超えたと……醜いものだな」
「言ったはず。君を認める人はいない、と」
 セリオスとシルヴィアから放たれる矢と光弾が、もはや人の形を成さないゾンバルダを直撃。それにより、残っていたもう片方の肩が根本から弾き飛ぶ。
「認めろ! 人を超えタ存在だト! 俺にヒレ伏せ! 俺ヲ敬エ! オレヲタタエロォォォ!!」
 傷を塞ぐように内側から身体が盛り上がり、バランスを保つ為に身体の至る所から棒のような物が飛び出てきて、不格好な肉塊へと化す。
 更に無数の目と口が至る場所に現れては不気味に睨み奇声を発した。
 これは、ただの化け物だ。ジードが目指した王国の変革とは程遠い、姿。
 壮絶な攻防だが、勝負は見えてきた。
 冒険者の攻勢の方がゾンバルダを上回ったからだ。
「誰も認めません! あなたは、もはや、人ではないのですから!」
「これは………意趣返しよ」
 苦し紛れの反撃をミアが強引に抑え、ルベアがダメ押しの斬撃を刻み込む。
 文字通り、冒険者達によって袋叩き状態になり、その都度、傷口の再生と破壊を繰り返すゾンバルダだったが、やがて言葉を発する事もなくなり、思考すらも止まると、そのまま生命力が尽き果てるのであった。

●
「ルベアさん! ルベアさん!」
 ミアの必死の呼び掛けに、ルベアは真っ赤に染まる短剣を握る手を掴まれている事に気が付いた。リロを惨殺された事に加えて、トレイシーを探すなどと言い出された事への怒りでいっぱいだったのだ。
 眼下にはゾンバルダだった肉の塊が腐臭と共に崩れ始めている。
「……私……何を……」
「もう終わりました。ルベアさん……」
「終わった……そう……」
 その時になって頬に涙が流れているのを理解した。
 訪れた静寂の中、床に落ちた短剣の音が虚しく響くと、もう二度と見る事ができないリロの微笑んだ顔が浮かぶ。
「私が――」
 続く台詞をミアが遮った。
 ミアは知っている。彼女が優しい人だから、何もかも背負い込んでしまうのだと。
「何を抱えていくのか、そのために何を捨てていくのかは……今ここで決めずに、リロさんを弔ったあとで、ゆっくり考えましょう」
 抱き締めながら掛けられた台詞に、ルベアは嗚咽と共に静かに頷いた。

 エナハルトが連れてきた精兵は冒険者の援護を受けながらゾンバルダの部下を速やかに一掃。敵を殲滅させた所でリロの遺体を改めてホールへと運び入れる。
「……本当に酷い事を」
 遺体の状況を確認し、エミリアが呟いた。
 様々な経験を積んで来た彼女ですらそう思うのだから、相当な状態だ。
「…………」
 シルヴィアが頭を下げていた。
 間に合わなかった事を詫びて安らかに眠れるように祈る。
 その重たい空気にエナハルトがゆっくりと言葉を紡いだ。
「悪いのは全て、ゾンバルダです」
 これまで冒険者達が歩んできた内容を振り返れば、誰も悪くないのは明らかだ。冒険者一人ひとり、その時出来る事、やらなければならない事を行って来たのだから。
 そこに無駄な事は一つもなかったはずだ。
「エナハルトちゃん、それでもね……」
「分かっています。だからこそ、僕はそう言わなければいけない。皆さんは、悪くないと」
 一同を見渡してエナハルトはそう宣言した。
 何か状況が違えば、自身も救われる事なく死んでいたのだから。
 王国騎士の哀しそうな顔にエミリアは小さく頷いた。
「……遺体の状態から、抵抗らしいものは全くしていなかったと思うわ。いっぱい、痛くて苦しかっただろうけど」
「ジードに殉じた……と?」
 エミリアの推測にシルヴィアが考えながら訊ねる。
「確証はできないけれど」
「きっと、そうなのだろう」
 リロなりの覚悟……だったのかもしれない。
 褒められる事ではない。けれど、その想いの強さは、褒めても良いはずだ。その覚悟がなければ、ゾンバルダを取り逃がしていたのだから。

 エナハルトと塔に残っていたリロの関係者の許可を得て、ベルクはセリオスと共にリロの衣装や私物の類を取りに行って戻って来ていた。
「……幾つかの衣装と装飾品、タオルと湯……他に必要なものがあれば言ってくれ」
「分かった」
 シーツで即席の幕を作ったセリオスからの申し出にベルクは短く答えた。
 そこにリロの遺体が運ばれる。
「俺は外しておく」
 これからベルクが行おうとする事の邪魔をしたくない以上に、リロに気を遣ったからだ。
「……感謝する」
 だから、そうベルクは返した。
 ゾンバルダ共によって汚された身体を清め、傷ついた個所を出来るだけ修復させるつもりなのだ。
「変装というのは化粧の技術でもある。体が大きいだけの幼子が、こんな姿で送られるなどあってはならぬよ」
 せめて安らかに旅立つ事ができるようにと。

●
 リロの遺体が納められた棺は本来であればファナータの街で眠る事になるのだが、家族親族がおらず、親戚からは犯罪集団に加担した領主の事など抱えたくないようで、表向き組織(ソーン・クリエ)の関係者という形で王都へと運ばれる事になった。
「酷い話ね」
「全くだ」
 頬を膨らませるエミリアに同意するセリオス。
 これではまるで追い出すようなものだ。結局、領民すらもリロを領主として見ていなかったのだろう。少女が抱えていた欠落の一部を垣間見た冒険者達だった。
 棺を積んだ馬車が動き出すのをシルヴィアとベルクが見届ける。最後に見たリロの姿は、可愛らしい少女の姿になっていた。
 穢れを知らない無垢な幼子のように。
「……そういえば、ゾンバルダの残骸は屑になったよ」
「野蛮な獣に相応しい最後だな」
 それが『神実の瞳』の副作用かどうか分からない。
 だが、人ではなくなったのだから、それが当たり前というものだろう。片付ける手間が省けたというものだ。
 馬車が見えなくなった後も街道を見つめ続けるルベアとミアにエナハルトが並び立った。
「僕達も戻りましょうか」
「リロさんの遺体はこれからどうなるのですか?」
 ミアの質問にルベアが視線を重ねる。
 王都に運ばれた後は未定だからだ。
 エナハルトは僅かな迷いの後、二人を見つめて答える。
「出来るかどうかまだ分かりませんが、僕なりの方法で……応えようと思います」
 この王国騎士がそう言うのだから良い方向に信じようと思いながら、ルベアは気持ちを切り替えるように息を出し切る。
(……さよなら、リロ)
 夕陽に照らされた街道の先、一人の少女にそう呼び掛けるのであった。

マスターコメント

 お疲れ様でした&ご依頼にご参加いただき、ありがとうございました。  ゾンバルダ討伐のリプレイを先にお返し致します。本連作における最終ボスと繰り上げられただけあって、相当な強さを用意したのですけど……皆さん、強すぎでは? いや……殺意の高さでしょうか。  結果的には無事に討伐できて良かったです(帝国領内に逃げられるとトレイシーが狙われる事になり、ストーリーラインが大変な事になっていたので)。  それでは、改めて、依頼へのご参加、ありがとうございました。また機会があれば冒険者の方々のご参加の程、お待ちしております。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:多い6 / 4〜6人

2022年10月11日 00時34分41秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ミア=リゼル

    ヒーラー、ミア=リゼルです。皆様のことは、必ずお守りいたします。よろしくお願いしますね。 …瞳をひとつといわずにいくつも…ただでさえ侮れない膂力と身のこなしの持ち主です。油断せずに参りましょう。 …個人的にはリロさんの遺骸を確保したいのですが、余裕があるかどうか…一手たりとも無駄にはできないのが現実と思われます。ですが、皆様がそれを望むのであれば、私が全力で不沈の盾となりましょう。 (PL<現実的にはバフがないとこんな大口叩けないので頼らせてください…;ω;)

  2. シルヴィア・A・カペル

    シルヴィアだ。今回はよろしくね。 >リロの遺骸 保護するのは賛成だ。……このまま晒しておくのは忍びない。 ただ、意外と戦場が狭い気がする。ゾンバルダは大剣持ちらしいのと、三本目の腕が肩甲骨にあるから、背後に衝撃刃を撃てる可能性があるかなって。保護している隙を突かれるのも不味い。 冒険者が足止めや射線妨害をして、エナハルトにリロの保護に行って貰うのが良さそうな気がするけれど、女性の方がとも思う。既に言って貰っているように強化された敵相手に遺骸保護の余裕があるかも分からないから、希望者がいれば……かな。 >行動予定について 私は何時でも回復や支援を出来るよう前線を支えている方が良さそうだ。 最初は全員入口付近にいるから、私は初手でウェイブ・オブ・インフィニティロアを使って皆にバフを掛けるつもりだよ。勿論ミアにも付与するから、盾役はよろしくね。 もう一つの特性スキルについては、今の所は招霊呪怨縛かハイパーヒーリングオーラを考えている。ゾンバルダは抵抗も上がっていそうだしBSスキルは悩ましい所でもあるけれど。特性スキルはミアと分担して持っていけたらと思っているよ。 >ゾンバルダ 体の部位が増えたなら1ラウンドで複数回攻撃も有り得るのかな? 元がウォーリアなら白兵戦には強いだろうし、弓や杖で遠距離から攻撃したりBSを試みたりするのも良さそうだね。 ホール内の財宝に足を引っかけて転ぶ……という事は無いと思うけど、一応足場にも気をつけたい。リロの遺骸を保護する時、移動で音が鳴ってしまう事はありそうだ。

  3. ルベア・ベルニ

    シーフのルベアよ、宜しく。 …まずリロの遺骸保護の件だけど、やるなら私にやらせて。 多分一連の事件の中で一番接点があって、彼女の欠落をどうにか出来た可能性が一番高かったのも、私だから。責任は取りたい。 やるかどうかは他の皆の意見待ちとして…。 >行動予定 いくら腕が増えようと、目の数は変わらない。 閃光塗弾なんかで視界を奪えれば遠距離攻撃も含め効果のある攻撃は増える筈だし、うまく視界を奪うまではそうする為の動きをしたいと思ってる。 集団でリロを嬲ったことへの意趣返しをしたい、が本音。

  4. エミリア・シバ

    シーフのエミリアよ。 私は前回ゾンバルダを逃してしまった責任は取らないとね。 遺骸の確保は心情的にもそれ以外でも気にならなくなるのはありだと思うので、ルベアちゃんにお願いできるならしたいところね。 >ゾンバルダ ウォーリアーの特性は残ってるということだしシーフとしては厄介ね。 現状だとウォーリアー的に防御が高そうってことで、真・死齎刃【スリップ】(強度14)と縛糸刃【束縛】(強度2)を持っていこうかと思っているけれど、同系統のを持っていく人がいれば他を持っていこうかと思ってるわ。

  5. ベルク・オスマット

    シーフのベルクだ、よろしく頼む。 とりあえずは逃走阻止が最優先ということで足を潰すことから始めるかな? 腕が増えたのであればその腕を使って逃げそうだが、足で逃げるよりは機動力を落として逃げづらくは出きるだろう。 …絶対逃がさずこの場で殺す。 >遺骸 回収はルベア殿にお願いするよ、私は組織自体とは関わりが基本なかったしな。

  6. ミア=リゼル

    >リロさんの遺骸確保 みなさん、ありがとうございます。 もしこの流れでいく場合は、ルベアさんに確保をお願いする形で…私が射線を塞ぎますね。 >NPC エナハルトさんのクラスがシーフでありウォーリアと相性が悪いこともありますので、こちらのカバーも検討しています。具体的には射線妨害とライフアンカーなどですね。近い距離で動くことになると思いますので、もしNPCさんに頼みたい動きがあれば把握しておきたいです。 >行動予定について シルヴィア先輩、ありがとうございます。自分ではウェイブをまだ使えないので…頼りにさせていただきますね。 私の特性は、上述の通りライフアンカーがひとつ。もうひとつは…そうですね、コモンブラッド+輝足でみなさんの回避を上げられたら。回復を厚くした方がいい場合は、ハイパーヒーリングオーラとなるかとおもいます。 ゾンバルダの手数が増えると仮定した場合、耐久力・回避力もそうですが、復帰にかかる回復力も捨て置けませんから…。範囲回復がいいでしょうね。 >ゾンバルダ その上で、閃光塗弾による目潰しは試してみる価値があると思います。シーフ陣によるBS付与も効果的でしょう。分担はお任せしますが、優先度としては物理防御減衰や、今出ている継続ダメージ系、が挙げられそうですね。

  7. シルヴィア・A・カペル

    ミアは特性スキルについて教えてくれてありがとう。私も頼りにさせて貰うね。 >リロの遺骸の保護 私もルベアにお願いしたい。どうかよろしく頼むよ。 >ゾンバルダ 実は私も回避重視型だから、縛糸刃や輝足を使って貰えるのはとても有難い。 閃光塗弾による目潰しは良いね。強化された五感で視覚を補ってくる可能性は有るけれど、そうだとしても視界を奪えるのは助かると思う。 >スキル ゾンバルダに何か隠し玉があるかもしれないし、やっぱり範囲回復は欲しいね。私がハイパーヒーリングオーラを持って行くよ。招霊呪怨縛はセットしないから、エミリアは気にせず縛糸刃を持って行って貰えたらと思う。 BSスキルについては魔錆か破鎧砕で【物防低下:20%】を試みるつもり。あとは……輝刃を持って行って前衛に付与しようか。回復スキルを優先しつつ、戦況の合間を縫ってになる。刀か弓かは未定だけれど、私も集中撃破に加勢するよ。 >エナハルトに頼みたいこと 盾役のミアに近い距離にいるなら、ゾンバルダが負傷した箇所は見えやすい位置取りかな。可能な範囲で敵の負傷箇所の共有(集中攻撃用)と、仲間との挟撃をお願いしたい(プレの字数と相談になるけれど……!)。

  8. エミリア・シバ

    とりあえず装備で可能な範囲で付与特化にしてみたけれど、40が限界だったわ。 これ以上だとちょっとさすがに回避が下がりすぎて心配ね。 とりあえず作戦的には、補助かけて、ルベアちゃんはリロちゃんの遺骸回収優先、残りは突っ込んでBSなどの付与を試みながら、逃がさないことも考えて囲んでタコ殴りって感じな、ある意味シンプルな認識で大丈夫かしらね? >BS 了解よ、シルヴィアちゃん。 縛糸刃もっていかせてもらうわね。 BSは事故率軽減のため縛糸刃を優先をしようかと思うわ。 破鎧砕は私も持ってはいるけれど、シルヴィアちゃんが持っていくならほかにしたほうがよさそうかしらね? >補助 『冒険者達は入口付近からスタート(事前準備は可とする)。』 とあるのでそれに甘えて、ラウンド数とか減ってしまうかもしれないけれど、事前準備段階でかけておくっていうのはどうかしら? 手練れのウォーリアーがさらに強化されてる状態で、補助のために集まってるところに範囲攻撃でまとめて狙われるのを避けたいと思うのよね。 >閃光塗弾 乱戦中に使うと味方も隙ができる可能性があるから、初手で数人がかりで投げててみるってどうかしら、とか思ったわね。 それならエナハルトちゃんの部下の初動の援護にもなるかもって思ったり? >複数攻撃 腕以外にも色々増えているみたいだから確実にしてきそうよね。 攻撃だけじゃなくてリアクションや移動も複数の可能性もあるわね、そういえば。

  9. セリオス・オーガスト

    ・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む とりあえず俺は後方から射撃で援護だな。BSを付与するならフェイタルアローでスリップダメージを付与するつもりだ。 <閃光塗弾 こちらも問題ない。複数でやるなら俺も持ってるから合同は可能だ。やるならエミリアも言うように初手、OPの気を引き締めてかかれのセリフの後ぶつかる前にでいいだろうな。あらかじめ騎士団にやること言っておけば巻き込まないで済むだろうし <遺体の回収 異論無いので任せる

  10. シルヴィア・A・カペル

    確かにリアクションや移動も複数になっている可能性があるね……! 前衛を攻撃してから後衛の方へ移動する、とか。各自遠距離攻撃手段も持っていた方が良さそうだ。 作戦についてはエミリアが言ってくれた方針で良いと思う。私達はゾンバルダ対応に集中して良いとの事だし、全力で袋叩きにしよう。 >BS エミリア、縛糸刃をありがとう。付与特化も心強いよ。 私は防御低下>命中低下>回避低下で、皆が持って行かないBSスキルを持って行こうかなと考えていた。エミリアは今回付与特化だし、破鎧砕を持って行ってくれるならお任せしたいな。私は魔霞【命中低下】にしよう。 >補助と閃光塗弾 そうだね、事前準備でGSと閃光塗弾を使ってから中央のゾンバルダに接近したい。皆INIが高めだから、初期位置の入り口付近に纏まっている時に範囲バフを使っておきたいというのもある。 私は初手のサブアクションでウェイブ、メインアクションで閃光塗弾にするね。

  11. シルヴィア・A・カペル

    ◆使用予定のBSスキル ・エミリア 真・死齎刃【スリップ】 縛糸刃【束縛】 (破鎧砕【物防低下】) ・シルヴィア 魔霞【命中低下】 ・セリオス フェイタルアロー【スリップ】 ◆使用予定のGSスキル ・ミア コモンブラッド+輝足(回避値強化) ・シルヴィア ウェイブ・オブ・インフィニティロア【物理攻撃&魔法攻撃&命中&回避&物理防御&魔法防御&抵抗上昇】 輝刃(攻撃値強化) 修正や追記があればよろしくね。 (あ、BSを回復された時すぐ付与出来るよう、複数の人が同じ効果のBSスキルを持って行くのも有りだと思っているよ)

  12. エミリア・シバ

    >BS 破鎧砕の件は了解、持っていくわね。 縛糸刃>破鎧砕>真・死齎刃の優先順位で付与を狙ってみるわ。 >閃光塗弾 今回はコスト的に持てる構成だから私も持っていくわ。

  13. ミア=リゼル

    そういえば、エリア内の家具や調度品など……あるなら、遮蔽物として利用できる可能性はあるかもですね。敵の図体が大きく腕のリーチが(おそらく)長い分、攻撃の邪魔にも使えそうです。 >閃光塗弾や事前準備 タイミング、了解です。私も積載に余裕があれば持っていきますね。 バフも事前にかけておけるならそのほうがいいですし、意識しておきます。 >BS (うっかり優先と書いてしまいましたが、個々に効果的だと思うものを持っていってくださって大丈夫です…!よろしくお願いします!) 出発までまだ時間がありますし、何か気づいたことがあればまた書き込みますが…ぼっこぼこにしてやりましょう!!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0