【毒杯】怨讐のフラム
明乃そら
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シナリオID:2433
オープニング
首都シルバードの東側にある歓楽街『ヘヴンズロウ』――華やかな建物が並ぶ中心地から離れた片隅の一区画。そこは別世界と思えるくらい寂れた様子で、この歓楽街の裏側の、影の部分と言えるだろう。
街を支配しているガストーニ商会の代表を務めるブルーノが、元締めになったのは10年前。
強引な手段でその座に就いた彼に今も尚反感を抱く住人達、ここはそういう者達の居住区だ。
「……つまりアンタらは、10年前にブルーノに逆らったせいで、今も冷や飯を食わされてるっつーワケか」
情報屋のシャルティナ・カッツェは商会打倒の手掛かりを探るべく、住人達と会っていた。
「ああ。ブルーノのヤツはおやっさん……前の元締めを陥れ、失脚させて追放したんだ。アイツも街に来た頃はおやっさんのお世話になってたくせに、裏切りやがって……っ!」
苛立ち気味に語気を強めるゴブリンの男に、シャルティナは更に詳しく話を聞き出す――10年前にこの街で、一体何が起きたのか。
「当時のここは、今みたいな立派な街じゃねぇ。行き場のない犯罪者共が流れ着く、そんなゴロツキ連中の吹き溜まりみたいなもっと薄汚い場所だった」
だからといって、無法地帯になっていたわけではない。義理と人情を重んじる元締めの、侠気と人望に住人達は心惹かれて、互いに家族の絆で結ばれるような居心地の良さを感じていたのだ。
だがある日、一人の男の手によって、街は大きく変貌してしまう――。
海賊崩れの男、ブルーノがその商才で富を齎し、街を発展させていく。
ガストーニ商会を立ち上げ、住人達を懐柔し、日に日に影響力を強めるブルーノは、いよいよ前の元締めを追い落とそうと計画する。
街でまことしやかに囁かれる噂。元締めは、裏でメドゥの指先と繋がっている、と――。
それは全くの虚言だが、住人達の間に疑念が広がり、ブルーノの思惑通り、最後は街を追われる羽目になってしまった。
「んで、ブルーノは街を乗っ取ったんだな。しかも商会と繋がりのある、メドゥの指先の構成員を巧みに使って」
自分の悪事を前の元締めがしていた事と擦り付け、悪評を吹き込み、煽って住人同士を対立させて、分断を生む。
「俺達はまんまと嵌められたのさ……。結局、おやっさんは争いに敗れて街を去った後、何者かによって殺された。ソイツもおそらく商会の刺客だろうがな」
邪魔な相手は徹底的に排除する。連中の横暴なやり方に異を唱える者も多くいた、が、大半はカネの力で服従させられ、一人、また一人と商会側に寝返ってしまった。
「未だ抵抗している俺達みたいなヤツらは、冷たくあしらわれてしまってこのザマさ。どっちにしても、もう眼中にすらないんだろう……ま、そっちの方が好都合だがな」
途中までは悔しそうに語っていた男だが、どうやら考えがあるのか、思わせぶりに呟いた。
「……お前さん、商会とやり合う心算なんだろう? だったら力を貸してくれねえか。是非とも会ってほしい人物がいる」
男がそう言ったところで、一人の青年ゴブリンがシャルティナの傍に近寄ってきた。
「俺の名はエミル。ここから先は俺が代わりに説明しよう」
精悍な体躯の青年の容姿は、角が生えている以外は一般的な人間と変わらない。おそらく混血種だろうか。
「準備が整い次第、俺と一緒にエラトゥーン都市同盟に行ってほしい。その人物の名前は、シュリナ。今は彼の地で旅芸人をしているが、彼女は――〝前の元締めの娘〟だ」
●旅芸人達の宴
都市同盟の南東に位置する、海岸沿いのとある街。
その先端部分にある岬に設けられた広場は、海を一望できる風光明媚な観光スポットだ。
見渡す限り、海の果てまで蒼穹が広がる青い世界。燦々と眩しく輝く太陽の下、多くの人が広場に集い、賑わっていた。
人だかりの中心にいるのは、都市同盟を拠点にしている旅芸人の一座だ。彼らが披露する芸に歓声と拍手が沸き起こり、人々は束の間の娯楽を堪能していた。
中でもひと際盛り上がりを見せたのは、一座の踊り子でもある褐色の肌のゴブリンの少女。
明るいアップテンポの曲調に合わせて、軽やかな身のこなしから繰り広げる華麗な舞いに、全ての観客の目は釘付けだ。
――やがて日が暮れ、人々が去った広場では、先程のゴブリンの少女が夕陽に染まる海を眺めながら佇んでいた。
「お疲れさん。今日の踊りもキレが良かったな、シュリナ」
同じ一座の仲間の男に、軽く肩を叩かれ労われ、ゴブリンの少女――シュリナはニコリと満足そうに微笑んだ。
「えへへっ、これもみんなと稽古しているからだよ。一人だったボクを受け入れてくれたみんなに恩返しをしたいから、余計に頑張らなくちゃって思うんだ」
屈託のない笑顔を向けるシュリナに、男もフッと口元を緩め、お前さんならもっと大きい舞台でやっていけるさと、無造作にシュリナの髪を撫で回す。
(「大きな舞台、か……。確かにボクには、やらなくちゃいけない事があるから、ね」)
シュリナの心に秘めた決意。しかしそれを叶えようとする時は、一座の仲間と別れる時だ。
街の元締めだった父を追い出し、殺した者への復讐心――この芸人一座に身を預けているのも、連中に見つからない為の隠れ蓑にしか過ぎない。
故に申し訳ないと思いつつ、一方で恩義を感じているのも本音だからこそ、黙って一座から去る事にも躊躇いがあった。
「……立派な船が停まってるね? どこかのお偉いさんが観光にでも来たのかな」
ふとシュリナが目にしたモノは、港に停泊している豪奢な装飾の客船だ。
どんな人が乗ってきたのだろうかと気になるものの、名前を呼ぶ仲間の声に振り返り、広場を後にするのであった。
しかし彼女はこの時、まだ気付いていなかった。
災厄を招く黒い悪意が、すぐ近くまで忍び寄っている事を――。
解説
マスターより
リプレイ
日が沈み、空が宵闇色に染まる世界。
エラトゥーン都市同盟の海沿いに位置する港町では、仕事を終えて繁華街に繰り出す人の数が増え、賑わう声が至る所から聞こえてくる。
ゴブリンの青年、エミルに案内されて町にやってきた一行は、彼の幼馴染で今回の目的であるゴブリンの少女、シュリナと会う為に普段連絡を取り合っているという宿屋に立ち寄ってみたのだが――。
「まだ戻ってきてはいないのか……。ショーはもう終わっている時間なんだが」
店内を見渡し、相手の姿がどこにも見当たらない事に、エミルは不安の色を隠せない。
「んじゃ、ちょっくら探しに行ってみるか? 万が一って事もあるからな」
心配そうなエミルを気遣うように、シャルティナ・カッツェが申し出る。
こういう時はもしもの事態も考えられる。であれば行動するのが先決だと、シャルティナの意見に賛成した一行は、早々にシュリナの捜索に向かうのだった。
エミルの話によれば、シュリナが所属している一座は岬の広場でショーを披露している。仮に彼女がいるならば、そこにまだ留まっている可能性が一番高い。
他の場所には目もくれず、真っ先に広場を目指して走る冒険者達。すると道中で彼らが目にしたものは――苦しそうに倒れて道端に蹲っている人達だった。
「一体これは……大丈夫ですか、何があったのです?」
ネーヴェ・グラヌローザがランタンを翳しながら倒れている一人の男に近付き、身体に手を添え、呼び掛ける。
男は傷を負っているのか流血しており、ネーヴェの呼び掛けにもウゥッと小さく呻き声を上げるのが精一杯だ。
「彼らは一座の者達だ。まさか、シュリナを狙って……!?」
男の顔には見覚えがある。シュリナの所属している芸人一座の面々が、この場で倒れているのは嫌な予感しかない。
「こいつは全員やられてるっぽいな。このタイミングで襲撃されたとなると……とにかく、急いで手当てをしねえと」
邪魔な連中は排除する――事前に聞いた通りなら、襲ったのは商会の仕業に間違いないと確信するブレイド。
何れにしても今は治療が優先と、傷口に掌を当てて魔力を注ぎ、溢れる癒しの光が男の傷を塞いでいく。
「私も手伝うよ。このまま放ってはおけないからね」
何が起きたのか気になるが、早く怪我人を治さなければいけないと、エルシー・サリバンも治癒の力を行使する。
「具合はどうだ? ちったぁ回復したか」
ハヤト=ガラン=ヴォルファングは治療を終えた男の顔を覗き込み、意識があるか反応を確かめる。
「致命傷ではなかったのが幸いかな。ひとまず命に別状はなさそうだ」
医療の心得があるサイラスは、傷の度合いから心配ないと判断し、男達にどうしたのかと事情を訊ねる。
「……街に帰る途中、突然襲われたんだ。黒い服の女達……そいつらがシュリナを攫っていった。彼女も必死に抵抗したんだが、俺達が足手纏いだったせいで……!」
悔しそうに身体を震わせながら、男は自責の念に駆られて声を荒げる。全ては自分に力が無かったせいなのだと。
「貴方達に責任はありません。後は私達が引き受けますから、もう少し詳しく教えてもらえませんか」
怪我の手当てをしていたリコリス・アデュラリアが、更なる情報を得ようと語り掛ける。
「あ、ああ……連中はシュリナを連れて広場の方に向かっていった。ただ、その先は海しかないから、逃げ場はないと思うんだが……」
男の話が本当なら、襲撃者は街の中には行っていない。連中しか知らない隠れ場所でもあるのだろうか。
「何れにしても、犯行の手際から襲撃者は野盗の類ではない。恐らくはその筋の手練れ――マリアベルの配下だ」
彼らを襲った相手に思う節がある。ナハティガル=ラーはこれまでの証言を整理して、黒服の女というのが仮面舞踏会に居たメイド達ではないかと結論付ける。
であれば、連中がわざわざ海に向かった事も頷ける。もしアレが移動手段に使われるなら、こちら側には追い掛ける術がないのだから――。
ナハティガルの予想通りなら、時間の猶予は殆どない。一刻を争う事態に、冒険者達は考えるまでもなくシュリナの救出に向けて動き出す。
「この靴は……もしかしてシュリナが履いてたモノか?」
道端に落ちていた片方だけの靴をハヤトが見つける。襲撃者と揉み合う最中に脱げたのだろうか。こいつは丁度良いと、ハヤトは嗅覚を研ぎ澄まし、シュリナが残した匂いを辿って追跡する。
「では、私達は先を急ぎますので。貴方達は宿でゆっくり休んで下さい」
彼女は必ず救出します――リコリスが一座の面々にそう伝えると、彼らの警護を兼ねて自分も宿で待機しているとエミルが言う。男達も冒険者に全てを託し、広場へ向かう一行の背中を見送るのであった。
岬の広場に到着し、警戒しながら周囲の様子を窺う冒険者達。
夜の帳が下りて薄暗闇に覆われた空。暗がりに紛れて隠れている可能性も考えられるが、身を潜められそうな場所は見当たらない。
広場の先に見えるのは、一面に広がる大海原と、小さな港。そして港に停泊している、豪奢な装飾の客船が一隻。
「あの船は……やはり舞踏会の時と同じものですね」
「ああ。シュリナを攫った連中は、十中八九あのメイド達だ。あまりにもあからさま過ぎるがな」
リコリスとナハティガルは目の前にある客船に見覚えがある。ガストーニ商会に招待された舞踏会、その会場だった島に移動する際に用いた商会所有の船と瓜二つであった。
「悪党って妙なところで自己主張したがるからね。とにかく、あの中にいるのは間違いないかな」
エルシーが船を見据えながら、船内に人影がないか目を凝らす。一人だったとはいえ授恵者を攫う手練れだ、気を付けて調査しなければならない。
「匂いは船の方まで続いてる。狼の鼻からは逃げられねぇぜ?」
そしてハヤトの超嗅覚が推測を裏付け、冒険者達は船内への潜入を試みる。
光源を使用していると、相手に接近を見抜かれる。一行はランタンの火を消し、暗視で視界を確保しながら徐々に距離を縮めていく。
「客船、という割には随分と静かですね。構成員以外には客はいない、と思って良いでしょう」
如何にも目立つ外装だが乗客の気配は感じない。正面から忍び込むのは難しそうだと、ネーヴェは別の手段を模索する。
「海上から回り込む手もありますね。海側でしたら、敵の警備も薄いでしょうし」
リコリスの助言に一行は同意し、彼女の魔力で船影に隠れるように水上を移動。出入り可能な場所を探して見回す。
「俺に任せろ。船だろうが上ってみせるぜ」
船を見上げつつ、ハヤトが脚に魔力を纏って船の側面に着けると、船体に脚がピタリと接着する。
「ついでにこいつを船から垂らしてくれ。そうすれば他の皆も上がれるだろう」
ブレイドがハヤトにロープを差し出し、手渡した。
了解だぜ、とハヤトは地面を進む感覚で船を上がって、続いてナハティガルとシャルティナも同様に能力を使い、船体を伝って先行する。
「海側の警備が手薄とはいえ、急がないと気付かれるだろうしな」
敵が巡視に来る前に、と手すりに素早くロープを括って締め付け具合を確認し、海上の仲間のところに投げ下ろす。
まずはブレイドがロープで船を無事に上がって、後は残った仲間が移動してくるのを待つのみだが――。
「……そうそう素直に通してくれる程、甘くはないってところかね」
甲板に降り立ったブレイドが、気配に気付いて視線を向けると――二人の黒服の女が武器を手にして、身構えていた。
●船に潜む悪意
「全員が上り切る前にお出ましか。まあいい、何れにしても斬り伏せるだけだ」
戦う敵を前にして、ナハティガルは左目を覆う眼帯を外し、眼光鋭く刺客の女を睨め付ける。
「流石は冒険者ですね。こちらの想定以上に来るのが早い……ですが、これ以上先には行かせません」
二人の女が所持する得物は、それぞれ細身の剣と大弓だ。
殺意を纏う彼女らに、話し合いをする余地はない。ならばこちらも応戦あるのみ、冒険者達は迷う事なく武器を構えて、迎え撃つ。
弓使いから射出された矢が、前衛のブレイド目掛けて一直線に迫り来る。
飛来してくる矢の軌道を、ブレイドは見切って避けようとするが。僅かに躱し切れずに肩を掠めて、傷口から薄っすらと血が滲み出る。
「このくらい、掠り傷でしか……うっ!?」
矢の威力自体は大した事はない、が、矢に付与されていた〝何か〟がブレイドの体内を蝕んでいく。
「成る程、毒か。暗殺者らしい手口だな!」
おそらく剣使いの方もそうだろう。ハヤトは敵の手の内を読み、間合いを計って相手の動きを牽制する。
迂闊に仕掛けて毒を喰らえば、相手の思う壺に嵌まる。この場は守りに専念し、仲間が船に上がってくるのを待って全員で仕掛ける方が得策だ。
「待たせたかね。助太刀に加わるとしよう」
その直後、船上に辿り着いたサイラスが、炎の翼のような魔力のオーラを背中に生やし、地面を滑空するかのように距離を詰めつつ、間に割り込む。
冒険者に増援が加わったとなると、分が悪い。そう判断するや、女達は攻撃を止めて引き下がり、早々に船の中へと逃げ込んでしまう。
「随分と見切りが早いものだね。後を追ってもいいけれど、皆で揃って突撃するのが無難かな」
逃走した敵の後ろ姿を目で追いつつ、サイラスは一人でも早く仲間が来れるようにと、持参したロープを備えつける。
「よっ、と……敵が襲ってきたなら、シュリナさんがここにいるのは確実だね。後は船内のどこに囚われてるか……ちょっと探してきてくれるかな」
エルシーはポケットの中からペットの栗鼠を放ち、視覚と聴覚を共有させてシュリナが囚われている場所を探索する。
「先程の襲撃は、警告の意味もあるのでしょう。手札は向こう側にある、相手が有利な状況なのは変わりませんから」
「最悪、人質として利用される可能性もありますからね。見つけたからといっても、こちらがどう動けばいいか……」
冒険者が救出に来る事も、予測の範囲内だと敵の心理を推考するリコリス。
更には万が一の事態も想定し、救出対象に被害が及ばぬように作戦を練る必要があるとネーヴェが説く。
「……俺に考えがある。それを皆に伝えておこう」
ナハティガルの脳裏に浮かんだ一つの策。話を聞いた一行は、彼の提案を受け入れ、作戦の流れを相談し合う。
「話は纏まったみてぇだな。んじゃ、そろそろ行動再開といこうじゃねぇか」
互いの役割も決まったところで、シャルティナがパンッと手を叩いて移動を促す。
冒険者達はそれぞれ顔を見合わせ、頷いて、決意を新たに救出作戦の実行に移る。
「さ~て、可愛い娘ちゃんをちゃちゃっと救出して、ご褒美に……ムフフ……♪」
全員が緊迫している中で、ただ一人、ハヤトは下心のある妄想を膨らませ、締まりのない緩んだ表情を浮かべていた。
そんな彼に対して、周囲は半ば呆れたような冷めた視線を浴びせるのであった――。
船内に侵入した一行は、敵の奇襲に備えて目を光らせながら、歩を進める。
「やはり舞踏会の時と同じ船のようですね。この造りには見覚えがあります」
リコリスは以前この客船に乗った事がある。構造を把握しているのであれば、無暗に探し回らなくても良さそうだ。
「ここは客室がメインみたいだね。ティムから視た限りだと、あの女の人達がいるのは下に降りたところにある広い部屋。そこで私達を待っているのかな」
偵察に送った栗鼠の〝目〟で船内の様子を調べていたエルシーが、判明している結果を報せる。
「こっちも透視をしてみたが、部屋の中には誰もいない。待ち伏せしていないのは助かるがな」
ブレイドが透視の力で部屋を一つずつ覗いてみたが、エルシーの言う通り敵の姿は見当たらない。
「一か所に集まってるなら手っ取り早いね。一網打尽に捕まえようか」
下手に分散されるより、纏まっている方が戦い易いと、サイラスが武器の万力鎖を握り締めながら気合を高める。
「全ては明日への礎を築く為……では、参りましょう」
シュリナを救出する事は、ゴールディの歓楽街の住人達への希望を取り戻す事に繋がっていく。
故にこの作戦は、必ず成功させなければならない。ネーヴェの穏やかな表情が引き締まり、決着を付ける為にサロンの扉の前までやってきた。
この分厚い扉の向こう側に、果たして救出対象は無事でいるのだろうか――。
「……おそらく、もうすぐ冒険者達がここまで来るわ。だけど私達には、貴女がいる。彼らもそう簡単には手を出せないんじゃないかしら」
暗殺者のリーダー格と思わしき女が、横たわるゴブリンの少女に話し掛ける。だが少女は手足を縛られて身動きできず、口には猿轡をされて返事もできない状態だ。
「今まで身を隠せていた心算だったら、残念ね。貴女の事はずっと見張ってて、始末しようと思えばいつでも出来た。でも敢えて泳がせていたというわけよ」
女の口から語られる、今日に至るまでの非情な事実。
芸人一座にいた事も、エミルら住人達と連絡を取り合っていたのも、この連中には全部筒抜けだったのだ。
ゴブリンの少女――シュリナにとって、それは余りに辛い現実で。この10年間、自分がしてきた事が無駄だったと思うと、心に刃を突き刺されたような痛みに身悶えし、悲嘆の涙が頬を伝って零れて落ちる。
身体の自由を束縛されて、声も発せず、恐怖に怯える事しかできない自分。
この苦しみを、誰でもいいから救ってほしいと、必死に足掻きながら心の中で懇願する。その時だった――。
バンッ、と閉ざされた扉が勢いよく開かれ、外から雪崩れ込むように突入してくる冒険者達。
片や待ち受ける暗殺者側は咄嗟に冒険者達を取り囲み、リーダー格の女は床に這い蹲っているシュリナに刃を向ける。
「動かないで頂戴。もし貴方達が手を出せば、この娘もタダでは済まないわよ」
人質の命をどうするかは、自分達次第。暗殺者達は主導権を握って、状況を優位に進めようと冒険者達を脅迫する。
対する冒険者も、人質を利用する事は分かっていた。だからいきなり攻撃を仕掛けようとせず、情報を可能な限り引き出そうと暗殺者達に問う。
「良ければ蒸留酒でも飲みながら、話し合いでもどうでしょう。私達も無意味な争いは好みませんから」
ネーヴェが酒瓶を取り出し、相手の反応を窺いながら交渉話を持ち掛ける。
「商会にとって彼女は邪魔な存在な筈。どうして殺さず、生かしておく必要があるのでしょうか」
特に拒む雰囲気がないのを確認し、リコリスがふとした疑問を口にする。
リーダー格の女はその質問に、どうせだからと、包み隠さず返答する。
「当然、利用する価値があるからよ。因みにこの娘が生きている事を、ブルーノは知らない。全てはマリアベル様の意思、希望という夢を見続けさせて、最後は絶望の淵に叩き落とす。ただそれを愉しむ為に、生かすように命じられてたの」
どうやら今回の件はブルーノを介さず、マリアベル単独の判断による犯行らしい。しかも一人の少女の人生を、弄ぶだけというのが目的だったとは――。
「でも、マリアベル様が気に入れば、吸血鬼にしてもらえるかもしれないわ。クロエがそうだったようにね」
故郷や親の命を奪った挙句、人ならざるモノにしようなど、悪の所業に冒険者達は黙っていられず。これ以上の話は無用とばかりに、救出作戦を実行するのであった。
●示す覚悟と歩む道
ナハティガルがふぅっと一つ息を吐き、意識を集中させて強く念じる。
「待っていろ。今すぐ解放してやる」
刹那、ナハティガルの姿が陽炎のように揺らいで消えて。次の瞬間、彼のいた場所には――囚われていた筈のシュリナが代わって現れた。
「悪いが……その物騒な刃物、仕舞ってくれないか」
そしてリーダー格の女の横には、ナハティガルがシュリナと入れ替わって立っていて、女の腕を掴み取る。
「上手くいったみたいだね。シャルティナさん、保護の方はお願いするよ」
人質との位置を瞬時に入れ替える冒険者達の策が成功し、エルシーが得意げに笑んでシュリナを庇うように前に出る。
「私達は冒険者です、エミルに頼まれて迎えに来ました。無事に彼の許までお連れします」
何が起きたか分からず戸惑うシュリナに、リコリスが事情を伝えて落ち着かせ、暗殺者を退けるべく立ち向かう。
「うるぁ! ブレイブファング傭兵団のハヤト様とは、俺の事だ!!」
ハヤトが機先を制して突撃し、腕に装着させた爪牙を豪快に振るって立ち回り、暗殺者達を威圧する。
次いでサイラスが魔力を練り上げ、両手で生成したのは巨大な砲塔。包囲している暗殺者達に狙いを定めて、発射する。
着弾と同時に爆風が生じ、周りを囲む敵を吹き飛ばして陣形を崩す。
「デカイ砲って何だか浪漫じゃね? まあ個人的な趣味なんだけど」
ニヤリと口角を吊り上げ、赤き鱗の竜人はしてやったりと満足そうにほくそ笑む。
「数多の雪の結晶が、戦う者への力とならん事を――」
詠唱しながらネーヴェが祭刀を頭上に掲げると、雪結晶のブローチに嵌まる紫色の宝石が、光を帯びてまばゆく輝く。
すると全身から溢れ出す、雪結晶のオーラが冒険者達に降り注がれて――体内に吸い込まれるように溶けて消え、仲間の力を引き上げる。
「自分は派手な芸など持ち合わせていない。が、傭兵として仕事はキッチリさせてもらう」
筋肉がはち切れんばかりの力を込めて、ブレイドが俊敏な動作で暗殺者の女に攻撃を仕掛ける。
研ぎ澄まされた感覚が、敵を逃さず正確に捕らえ、両手の刃が繰り出す三連撃が、女の衣服と肌を裂く。
「動き回られても厄介ですから、少し大人しくしてもらいましょう」
斬り掛かってくる相手に対し、リコリスが杖に魔力を集束させて、光の球が標的目掛けて撃ち込まれる。
光球は明滅しながら、対象に纏わりつくかのように回転し続け、行く手を阻んで相手の行動を鈍らせる。
「助かるよ。狙い易くなった分、外さないようにしないとね」
そうした敵に照準を定め、エルシーが弓を構えて、目を眇め、弦を弾いて矢を放つ。
鋭利な矢弾は空気を切り裂き、回避しようとする女の足を見事に射抜き、暗殺者の女は転倒しながら身体を床に激しく打ち付ける。
――斯くして戦闘は、一進一退の攻防が暫く続く。が、次第に冒険者側が暗殺者達を無力化させて、追い詰めていく。
「終いだな。アンタ達には聞きたい事があるから、命までは奪わない。だが、抵抗すればどうなるか――」
リーダー格の女の喉元に短剣を突き付け、ナハティガルが暗殺者達に降伏するよう勧告する。
「痛い目に遭いたくなければ、さっさを吐いた方が楽になれるよ。何なら、全身を蟲塗れにしてあげようか」
女達をロープで縛り上げながら、サイラスは拷問の方法を色々考え、邪悪な笑みが思わず漏れる。
「そいつはともかく……こっちの話も聞いてあげねぇと。なあ、可愛い娘ちゃん♪」
ハヤトがシュリナに歩み寄り、拘束しているロープを切って猿轡を解く。漸く自由になったシュリナは瞳に溜まった涙を拭い、冒険者達に頭を下げてお礼を言う。
「あ……ありがとうございます。改めまして、ボクはシュリナ。エミルから頼まれたっていう事は、商会絡みで……?」
さっきも少しだけ言われたが、冒険者達がどうして来たのか、再度確認するよう訊ね聞く。
「ま、そういう事だ。お前さんを攫ったこの連中も、商会の一味だったみたいだが……救出出来て何よりだ」
頼まれた仕事を無事に果たし、ブレイドはシュリナの元気な姿に安堵しながら、彼女の肩を軽く叩いた。
戦闘の緊張感から解放されて、和やかなムードに包まれる中。シャルティナが小さく咳払いして、説明に入る。
「で、本題なんだが……。アタシ達はエミルから、アンタと合流するよう頼まれた。ガストーニ商会と事を構える為には、アンタの存在が必要なんだ」
シュリナにとって忌むべき宿敵、ガストーニ商会を打ち倒す――その内容を伝えられ、鬼人の少女の燻る心に、僅かな希望の火が灯る。
10年間、永らく耐え忍んできた日々に、終止符を打つ時がやってきた。と同時に、彼女の頭に過ぎるのは、これまで共に過ごしてきた芸人一座の人達の顔だった。
自分の願いを叶える事は、即ち彼らとの別れを意味する。もし本当の理由を伝えたら、一座の人達はどう思うのか。
快く受け入れてもらえるだろうか……迷いを覗かせ、憂わしげな表情を見せるシュリナに、エルシーが気持ちを察して、優しく微笑みながら背中を押すように説得する。
「無理強いはしない……シュリナの気持ちが第一だよ。憂いを乗り越え生きる為に立ち向かう選択肢もありだから」
もしも彼女の望む形とエミル達の目的が重なるなら、互いに守り合う為にも力を貸して欲しい――。
エルシーの真摯な言葉に、シュリナは自分の想いを見つめ直して、何を一番に為すべきかを熟考する。
「どうか、シュリナ様の無念を晴らすお手伝いをさせて下さいまし」
ネーヴェが礼儀正しく両手を揃え、深々とお辞儀しながら、目的を果たす為の協力を切に願う。
「単刀直入に問う。――今のアンタに父親の意思を継ぎ、ガストーニ商会と戦う覚悟はあるか?」
ナハティガルはシュリナと真っ直ぐ目を合わせ、彼女の決意を見極めようと、静かながらも重い口調で問い掛ける。
そんな彼の気持ちに答えるべく、少女は大きく首を縦に振り、強い言葉で断言した。
「……ボクは、その為に生きてきたんだから。父さんを騙して元締めの座を乗っ取り、街を奪い、命を奪ったあの男を……ボクは絶対に許さない」
少女の心に滾った炎が、熱く烈しく燃え盛る。
奪われたモノを取り戻す為、どうか力を貸してほしいとシュリナが手を差し出す。
見つめる一途な眼差しに、覚悟を感じたナハティガルは、その手を握り返して彼女の気持ちを受け止めた。
「私達と共に往くと決めたのでしたら、一座の者と別れの挨拶を済ませておくといいでしょう」
大切な事ですから、とリコリスが想いを汲んで言葉を添える。
理由をしっかり伝えれば、彼らもきっと分かってくれる。
そう告げるリコリスに、シュリナもニコリと顔を綻ばせて、そうだねと、宿で待っている一座の皆と合流する為、勇気と希望を胸に抱いて足を急ぐのであった――。
マスターコメント
ミドルシナリオ普通 報酬:標準7 / 6〜8人
2022年09月12日 17時04分52秒 公開
相談掲示板
シューターのエルシーだよ。ヨロシクね。 出発まで後2人、来て貰えますように。 先ずは探し方…からかな? エミルさんからシュリナについて詳しい事をお聞き…は既に済んでるだろうから横に置いて。 攫われてから日数が経ってないので【残留思念】か【超嗅覚】で追えたら良いな…と言うのと 後は商会の本拠や倉庫と言った、人を生かして置ける建物(客船)を探すのと…と… ん……今のところ、ここ迄だね、何か思いついたら追記するよ。 良かったら気を付けた方が良い点や探し方(アイデア)を聞かせてね。 手数が必要なら、喜んでお手伝いするね。 お話が逸れるけど、相手が攫った理由がちょっと気になったよ… 合流の妨害、後顧の憂いを断つなら殺してしまえば早いのに、手間を掛けたって事は 彼女を囮に、未だ抵抗してる人を集めて一掃とか狙ってるとか、何か他にもあるのかな。 (書き洩らしと書き方が変だったので再投稿したよ。)
シーフのシャルティナだ。 まだちょっと人数は揃ってないみたいだが、ひとまずよろしくな。 もし手伝えることがあったら、何でもするから言ってくれ。
ヒーラーのネーヴェ・グラヌローザと申します。 あとお一方で成立にございますね。どうか出発までに揃いますよう。 まずは一座の方々の治療と、聞き込みでしょうかね。 まださほど時間は経っておりませんから、そう遠くへは行っていないはず。 個人的には攫った後の逃走に馬車など使用していないか、【看破】で轍など見てみたいところですわね。 事件があったことすら気づかれていないと言うのであれば、荷物などにカモフラージュされていると考えた方が自然だと思いますから。 それと、後は……やはり船、でしょうか。連れ去るのであれば、使わない手はないでしょう。荷物の搬入ルートなども合わせて見ておきたいところですわね。
シーフのブレイドだ、よろしく頼む。 【残留思念感応】【超嗅覚】に【看破】と一通り出ている…か。 手分けもあるから被っても問題ないだろうか。 荷物にカモフラは十分ありそうだし片っ端から捜波や双波かけてもいいんだが… 相手のシューターが感波持ちだったら感づかれそうだし、 【透視】なり【サーマルアイ】も持っていくとしようかなと。
――成立したな。 シーフのナハティガル=ラーだ。今回は宜しく頼む。 >方針 やはり気になるのは、『港に停泊している豪奢な装飾の客船』だろうか? 恐らくはガスコーニ商会所有の船であり、マリアベルの配下達を乗せて来たと考えられるが……。 何れにせよ。既に挙げられている様に貨物等への偽装も考慮しつつ、シュリナの行方を追跡する方向で良いかと。 >汎用スキル そうだな。俺は――【暗視】と【超視覚】or【看破】を持って行こうか。 >戦闘 シュリナが人質として盾にされた時等に【プリズムシャドウ】で俺と彼女の位置を入れ替える事を考えている。 使用する場合は合図をするので、発動したらシュリナを保護して貰いたい。
成立だねー改めてよろしくお願いするよ。 汎用は【テレパス】も考えてるよ。 PL情報も合わせると、豪華客船内に囚われてるみたいなので 船内ならその方が連絡を取り易いのと、行動としては船に着いてからを重要視したいの。 ただ、船に辿り着けなかったらアウトなのと、テレパスは一人で持っても仕方ないので迷うところだよ。 【残留思念感応】【超嗅覚】はどちらも持てるので、同じのを考えてる方は教えてね。 (テレパスは、数名組で動くなら、中の一人が持てば良いと思ってるよ) >相手のシューターが感波持ちだったら 判ったよ、捜波も持つので使用の際は気を付ける。 出発まで時間が無いので、お話がうまく纏まらなそうなら ペットのリスで皆に連絡を付けるか何かを考えるね。
No.8
サイラスだ、ギリギリだがよろしくなー とりま一通りあるから看破透視思念感応辺りから何かしら一つ持ち込もうかと?とりあえず入りたてだしもう少し考える テレパスも行けるがこの時間だと班わけとか厳しいと思うので除外候補かなと。
キャスターのリコリス・アデュラリアと申します。 ……よろしくお願いします。 追跡に関する汎用スキルは揃っているようなので 私は客船への潜入や船内での捜索を見据え 【超視覚】と【透視】の併用を想定しています。 これなら敵に感知される事は無いでしょうから。 問題は潜入方法ですが一部が正面などから誘導を行わないのなら 私は【ウォーターウォーク】の用意が出来るので 敵の警戒が薄そうな海側から潜入するのも良いかもしれません。 ただ出入口になりそうな窓などは海面よりも ある程度は上の位置にありそうなので 対策としては壁歩き系スキル持ちのシーフに先行してロープを垂らして貰うか あるいは担ぐなりして連れて行って貰うか、といったところでしょうか。 欠点としては時間が相応にかかる事と無防備な状態で敵に発見される可能性がある事。 あとはシーフの特性スキル枠が絞られる点ですね。 そして今回の目的はあくまでシュリナの救出なので 敵の殲滅には拘らず、状況次第では彼女を連れての撤退を優先した方が良いでしょう。 ナハティガルの【プリズムシャドウ】に関する合図は了解しました。
人手が増えてるー良かったよ。 忘れないうちに……ナハティガルさんごめんよー! 【プリズムシャドウ】ってどんなのかな?って確認する方に気が行って 合図への返事を入れ忘れちゃった…私も了解したからね! リコリスさんの【ウォーターウォーク】も頼りにさせて貰います。 現地に行かないとどんな方法で動けば良いか判らないから、手は沢山ある方が良いよね。 私はペットで先に潜入して、手数な場を探る事は考えてるよ。 それと豪華客船なら客の他に召使とか裏方の仕事をする人もいると思うので メイドか下働きと思わせる服で船内を隠れ回って、怪しまれた時に備えようと思うの。 汎用は、枠的にテレパスは難しいと理解したので【超嗅覚】と夜なので【暗視】にするのと 状況次第で彼女を連れての撤退を優先も了解だよ。
おーっす! ギリギリになっちまってすまねぇ! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 探索に関しちゃ【超嗅覚】を使うつもりであんぜ。 豪華客船に乗り込むのに【真・壁歩き】積んでく予定だからリコリスの【ウォーターウォーク】は頼りにさせて貰うぜ! なんなら客船に乗り込んだ際に単独になってもいいようにってことで一応【テレパス】も持ってくな! ナハティガルの【プリズムシャドウ】も了解だぜ!!
ハヤトさんが【超嗅覚】と【テレパス】を持ってくれるなら 私が【テレパス】と【暗視】に変更するね。