夏の夜の満月に咲く花
狐野径
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シナリオID:2425
オープニング
●夏季休業のある日
メアリベル・ヴァイオレットは子爵家令嬢であり、パンクリアース学園二年生である。貴族の少女らしく振舞う一方で、人には知られないようにしている趣味があった。
オカルト好きということだ。学園に通っている間に七不思議に出会いたいと考えている。
冒険者に護衛に手伝ってもらいつつ、これまで「これが七不思議」と思うものに向き合ってみた。
不思議と出会えたり、噂だったらしいでとどまったり……。
出会えればいいけれども、噂や情報を集めるだけでなく、実地調査することができるのは、何より楽しく、充実した時間になるのだった。
さて、今回はメアリベルは夏季休業で実家に戻っていた。
帰宅してすることといえば、領内にある各種の話を集めることやら観察やら、近隣の貴族との交流やら。
その中で、領内の森に、満月の夜に咲く花があるという事を耳にした。
大きな木に小さな花をたくさんつけるらしいが、この時期の満月の夜のしか咲かないらしい。
名はエノーラ・ルーナという。
木自体を見つけられれば花が咲くのは見やすいという話だ。
大きな問題が発生しているわけではない森だが、その木が生えているあたりは動物などの通りが多いというのだ。必然、魔物や魔獣といった人間や動植物に影響を出す存在も通りやすいという。
昼間でもあまり人は近づかないというから、夜はどうであるかわからないという。
話をしてくれた領民たちは、それを見たことがある人もいるという。個人ではなく集団で、若くて元気な人たちでいくという。幸い、今のところ事件事故は発生していない。
だから、見た人から「きれいだった」という話が伝わるのだ。
そういった流れで「是非、見てみたいです!」とメアリベルは目を輝かせた。
とはいえ、単独で行くなど家が許さないだろうし、何より自分が何かあったら対応できないと承知していた。
だから、屋敷の者との相談で、道案内はできるが、護衛は冒険者に頼んだ方がいいといわれる。
道案内はメイドのレーン。
レーンはヴァイオレット家のメイドである授恵者だ。一応、護衛という事を考えて、訓練も積んでいるけれども、実戦経験はない。それでも、道案内やメアリベルを守るという事はできる。
満月の日も迫るため、メアリベルは早速、冒険者に依頼を出しておく。
なお、メアリベルは花について調べていた。
木がわかればすぐにわかるといわれても、その木自体がどんなかを知っておく必要があった。
その木は意外と小さく、高さ二メートルになるかならないかだという。
葉は落葉樹に多いタイプで、花は淡いピンクだという。
見つけられるか不安になるが、この時期にこの手の樹木の花がこの辺りではないような気がするので見つけられそうな気がしてきた。
「そういえば、人の名前のようにも見えますが……なるほど、由来があるんですね」
メアリベルは一通り予習をし、当日、晴れることを願った。
メアリベル・ヴァイオレットは子爵家令嬢であり、パンクリアース学園二年生である。貴族の少女らしく振舞う一方で、人には知られないようにしている趣味があった。
オカルト好きということだ。学園に通っている間に七不思議に出会いたいと考えている。
冒険者に護衛に手伝ってもらいつつ、これまで「これが七不思議」と思うものに向き合ってみた。
不思議と出会えたり、噂だったらしいでとどまったり……。
出会えればいいけれども、噂や情報を集めるだけでなく、実地調査することができるのは、何より楽しく、充実した時間になるのだった。
さて、今回はメアリベルは夏季休業で実家に戻っていた。
帰宅してすることといえば、領内にある各種の話を集めることやら観察やら、近隣の貴族との交流やら。
その中で、領内の森に、満月の夜に咲く花があるという事を耳にした。
大きな木に小さな花をたくさんつけるらしいが、この時期の満月の夜のしか咲かないらしい。
名はエノーラ・ルーナという。
木自体を見つけられれば花が咲くのは見やすいという話だ。
大きな問題が発生しているわけではない森だが、その木が生えているあたりは動物などの通りが多いというのだ。必然、魔物や魔獣といった人間や動植物に影響を出す存在も通りやすいという。
昼間でもあまり人は近づかないというから、夜はどうであるかわからないという。
話をしてくれた領民たちは、それを見たことがある人もいるという。個人ではなく集団で、若くて元気な人たちでいくという。幸い、今のところ事件事故は発生していない。
だから、見た人から「きれいだった」という話が伝わるのだ。
そういった流れで「是非、見てみたいです!」とメアリベルは目を輝かせた。
とはいえ、単独で行くなど家が許さないだろうし、何より自分が何かあったら対応できないと承知していた。
だから、屋敷の者との相談で、道案内はできるが、護衛は冒険者に頼んだ方がいいといわれる。
道案内はメイドのレーン。
レーンはヴァイオレット家のメイドである授恵者だ。一応、護衛という事を考えて、訓練も積んでいるけれども、実戦経験はない。それでも、道案内やメアリベルを守るという事はできる。
満月の日も迫るため、メアリベルは早速、冒険者に依頼を出しておく。
なお、メアリベルは花について調べていた。
木がわかればすぐにわかるといわれても、その木自体がどんなかを知っておく必要があった。
その木は意外と小さく、高さ二メートルになるかならないかだという。
葉は落葉樹に多いタイプで、花は淡いピンクだという。
見つけられるか不安になるが、この時期にこの手の樹木の花がこの辺りではないような気がするので見つけられそうな気がしてきた。
「そういえば、人の名前のようにも見えますが……なるほど、由来があるんですね」
メアリベルは一通り予習をし、当日、晴れることを願った。
解説
●目的・目標
一晩だけ咲く花を見に行く。
メアリベルの護衛。
※出発は日が落ちかけたくらい。
何事もなければ、二時間ほどで到着はできる。
●同行NPC
・メアリベル・ヴァイオレット
子爵令嬢。パンクリアース学園二年在籍。
オカルト好きで学園七不思議を探すのに余念がない。
今回は一晩だけ咲く花を見に行くという、オカルト関係なく、好奇心。
基本的に指示があれば従う。
なお、普段は穏やかそうな、思慮深そうな様子であるけれども、オカルト話題を前にすると我を忘れる傾向がある。
・レーン メアリベルより若干年上のメイド。
授恵者だけれども、実戦経験はなし。そのため、今回、大役だということで緊張感漂う。
道案内が主体。また、何かあればお嬢様は守る。
短剣と小ぶりの盾を持っている。
●途中で出会いそうなもの
街で情報を集めておくと、このようなものが夜いそうという事はわかる。
・鳥類 変な鳴き声を出したり騒いだりしても、いたって普通のフクロウなどの鳥たち。
鳴いたり、ガサガサ動くかもしれない。
・オオカミ いたって普通のオオカミ。
ごはんが満足に食べられていたらわざわざ人間には近づかない。
一応、人間は観察対象。
・魔獣や魔物 いたりいなかったりする、どこからか流れてくる生き物。
森ということで植物が動いたような、蛇が本当に蛇かと悩ましかったりするかもしれない。
●エノーラ・ルーナ(花の名前)
低木であり、葉は平たく小さめ。
花は薄いピンクで、星型になる。
森の中にたくさんあるわけではなく、一定の地域に少しある。
マスターより
こんにちは、狐野径です。
一夜咲く花……名前より形状……形状……。
巨大な南国系の花から可憐な小さな花になり、OPの通りになりました。
さて、森の中には何が出るかわかりませんし、出ないかもしれません。
花を楽しみにできますが、油断すれば危険です。何事もバランスですね。
よろしくお願いします。
リプレイ
●出かける前の準備
街についてから出発まで、時間があった。
サイラスは白い狼の大福を連れていくことにした。大福は花より団子な性質であるため運動させたい。また、目的地の情報集めをする際に、大福がいることで町の人の印象をよくできるのではないかと考えた。
また、大福が動くように釣るため、食べ物は用意した。
さて、情報収集はスムーズに進んだ。
目的地は森でも岩場が近いあたりだとわかる。基本的に道なりに行くことや、目印で脇道というか道から外れるという。そのあたりが道で気を付けるべき点だという。
「道案内もいるから、そのくらいか」
セリオス・オーガストは花の咲いている場所と道中の情報を集めておく。
野生動物など詳しそうな猟師や花の場所を知っている人に接触することを試みた。
現れる動物については飢えていないはずだから、脅威になるとは思えないという。道中になわばりでも重要なもの――例えば、子どもがいる――などがあれば話は別である。ただし、花が咲いているあたりには特殊な状況はないはずだという。
「危険そうな生き物が寄ってこないようにできればしたい。嫌う匂いなどあるか?」
セリオスの問いに「特にないから、人間がいるって存在感でいいはず」と返答があった。
魔獣や魔物とは最近出たと聞いていないという。時折、蛇や植物の魔獣は通り過ぎることがあっても、住みついていることはないようだという。
助言ももらい、セリオスは準備を進めた。
ミゼリア・L・ステュクスは今回が初仕事だった。
冒険者ギルドで生活や仕事のことなどきちんと教わった。その仕事については今回が実践となる。
依頼の内容を見て、レーンの状況と今の自分が重なった。レーンはヴァイオレット家のメイドであり、今回道案内として参加する。その人は授恵者であるけれども、戦闘経験はなく、戦闘になったとき仕える家のお嬢様を守れるかなど不安もあるだろうとわかる。
だからこそ、レーンの気持ちに寄り添いたい。もちろん、メアリベル・ヴァイオレットに花を見せてあげたい。
仕事の手順を考え、花のある場所について情報収集をする。
森にはどんな生物が生息しているのか、最近に何か森で被害が遭ったかどうかなど。
生息している物はこの辺りでは狼など森でよく見かけるような動物や鳥が主体であり、被害は特にないという。
魔物や魔獣といったものはまれにみられることがあるが、最近はないということだった。
一通り情報を得たところで、集合場所に遅れないように余裕を持って向かった。
セロンガード・シュタインドルフは依頼人がパンクリアース学園の生徒であること、七不思議に興味があり冒険者と出かけているらしいという事を知る。メアリベルの行動や学園生活が興味深かった。
自身が歩んできた道を考えると、メアリベルはまったく違う人生。
「私も軍役さえなければ、そういうことに精を出してキャンパスライフを充実させたかったですね……」
それはどういう人生になっていたのか、など考えつつ、集合場所に向かうのだった。
ゲルトは集合場所で依頼人のメアリベルやレーンに挨拶をする。
「一夜しか花が見られない植物、オレも気になります」
「わたくしも今日が楽しみで昨晩から眠れませんでしたわ」
メアリベルも心が浮き立っているようだった。
「実は由来もあるらしくて……」
探すエノーラ・ルーナの花について話し始めかけたとき、冒険者一同を見渡し、はっとした。
初めて会う人もいるのに、挨拶や今日のことなど話していないことに気付いた。
「依頼を受けていただきありがとうございます。わたくし、メアリベル・ヴァイオレットですわ。こちらがレーンで、道案内をしてくれます。本日はよろしくお願いします」
紹介されたレーンがお辞儀した。軽装だけれども小ぶりの盾、短剣は持っており、いざとなれば戦えるようにしているのだった。
冒険者も名乗り、道中の状況の擦り合わせ等をしてから、出発するのだった。
太陽は沈みかけ、森の外はまだ明るい。
ただ、森の中に一歩入れば、薄暗く、もう、夜が迫るのが明白だった。
●道中
生活で使う森であるため、木々の間隔も適宜あり、危険はさほど感じさせない。
それでも、昼と夜では森の様相は変わる。周囲が見えづらいだけでなく、動物や鳥は休む種類もいれば活動時間となるものもある。また、魔物や魔獣の脅威はいずれも否定はできない。最近目撃証言はなかったが、いつ現れるかわからないからだ。気を抜くともしもの対応は難しくなる。
セロンガードは若干前に出て暗視や超視覚、孤高者の双波を用いて危害を加えてくるものがないか調べる。ランタンは手にし、光源の確保を行うとともに、メアリベルたちの目印とする。
レーンが道案内はできるのだから、それに従う。
ただ、出発の時の様子から、レーンはかなり緊張していることがわかる。
歩き出してから様子を窺っても、緊張したままである。このままでは当人も疲れるだろうし、ミスを誘発するかもしれない。
レーンに声を掛ける。
「道案内は私たちでは難しいですが、守ることはできます。だから、実戦の経験がなくとも大丈夫。何かあってもただの散歩にして見せますから」
レーンは「ありがとうございます」と応じる。
「もちろん、皆様のことは信頼しています。ただ、なかなか、自分の役割に緊張しています」
声は不安があるのか、少し揺れる。
だから、セロンガードは気が楽になるように、軽い感じで言う。
「肩の力を抜いてください。それに、最近、事件事故の報告もないみたいですから、心配しすぎですよ。ハハッ」
「そ、そうですよね」
レーンはほっと息を吐いた。
言葉とは別で、セロンガードは、依頼人の安全を確保するため、警戒を怠らない。
セリオスは暗視で視界を確保し、超聴覚で周囲の物音、ホークアイと孤高者の宗波で見えないところなどのサーチを行うことを心掛ける。
獣については、猟師が言っている通りであれば、こちら戦うつもりで威圧などすれば、よほどでなければ近づいてこないだろう。
さらに、道の状態に気を配る。森の中はデコボコもするし、時には木の根が張り出し不安定な状況になることもある。
サーチしていると、そういった所は散見される。
「この先、少し、足下が不安定になる。根があるから、気を付けて」
その言葉を聞き、レーンはメアリベルの足下にランタンを向けるのだった。
ゲルトは暗視で視界は確保した。何かあればメアリベルを守れるように盾は使えるようにしていた。
「エノーラ・ルーナはどういう花なんですか? あと、由来が……と言いていたけど」
ゲルトはメアリベルに尋ねる。
「エノーラ・ルーナは樹木になる花だそうです」
「木?」
ゲルトはメアリベルが言う葉や花の形などから、想像した。低木であり、平たい小さな葉、星形のピンク色の花が咲く――。
ゲルトは低木であるのだから、地面ではなく、上の方を見るようにする。
不意に木が突然動いた。
ゲルトも他の者も注意を払う。そこにはフクロウがいてじっと見ている。
「なんだ……」
ゲルトは拍子抜けした。
メアリベルは「よかったですわ」と微笑む。
「由来についてでしたわね……昔むかし、エノーラという女性がおりました。彼女には結婚の約束をした恋人がおりました。ただ、大きな戦が起こり、彼女の恋人も戦場に向かいました。恋人は約束をしていたそうです。夏の満月の日には戻ってくるから、と。夏の一回目の満月の日に、彼女は約束の場所で待っていました。しかし、彼は返ってきません。また、次の満月も待ちました――夏の最後の満月がやってきました。満月が見守る中、彼女は木の下で待っていました。そこに彼が帰ってきました」
メアリベルは一旦言葉を切る。
「戻ってきたのは、気持ちだけでした。だから、彼女を抱きしめた直後、消えてしまいました。エノーラは彼の死を悲しみ、泣きました。その涙を受け咲くようになったのが、星形の花。恋焦がれた人との気持ちが重なった瞬間を表現するようになったというのです」
ゲルトは「悲しい由来だったんですね」とつぶやいた。
サイラスは遭遇するのは狼くらいだろうと捉えつつも、魔獣が来たら研究のために素材集めできると考える。魔獣を倒せたとしても、素材集めは後回し。護衛依頼が優先であるのだから。その線引きはきっちりと。
もし、何か来るならば護衛対象と自分のところの大福は庇護翼でカバリングするつもり。
「結局、何が出るかがわからないし、森だし」
大福はおとなしくついてくる。散歩すればいい予感はしているのだろうか。
ミゼリアは細い腕に不釣り合いな剣と盾を構え、メアリベルのそばで護衛の仕事を試みる。
どこか不安そうなレーンに対して、
「……わたしも、まだ……実戦経験が、なくて……。他のみんなにくらべたら、きっと……大したことは、できないと……思いますが。メアリベルさんの、護衛は……わたしも、がんばりますので……道案内、よろしく、おねがいします……ね」
と告げる。レーンは驚いた顔をしたが「いえ、こちらこそ」と言うが固い。
「初めてのことはたくさんあるものですわ」
メアリベルが言う。
「私だって、学園生活だって『初めてのこと』でしたし、七不思議で依頼を出したのも『初めて』がありましたもの」
微笑む。
ミゼリアもレーンも、気持ちが少し軽くなった。
ミゼリアは集めた情報から護衛をこなすことを考える。
鳥は飛び立つだけなら無害だ。狼は状況によっては脅威になるが、何もなければ戦わずにやり過ごしたい。
魔物と魔獣についてはそういうのがいるというだけで、直接見たことがない。だから、何かあれば、先輩冒険者に従いできることをする。
ここまでは一行の進路妨害となる出来事はなかった。鳥が飛ぶとか狼の集団が遠くを走り抜けたとことくらいだ。
道から少し外れた、レーンが指差し「あの先です」という。
「いよいよですわね!」
メアリベルの足が速くなる。
セリオスが「待て」と制止をかけると、弓に矢をつがえる。
セロンガードがサーチした結果から「何か、近づいてくるかもしれないですね」と告げる。こちらも弓に矢をつがえ、追い払うでも、攻撃でもできるようにしておく。
戦闘になったら、細心の注意を払い、誤射は避けないとならない。
サイラスはいつでも動けるように、大蛇身を構える。
「大福は、そこでおとなしくしてくれ」
依頼人のそばに待機するよういう。さすがに、状況を察知して、じっとしていた。
バサバサバサと鳥が慌てて飛び立つ音がする。
ゲルトは一瞬ビクリとなるが、それ以外の動くものに気を配る。鳥が飛び立つには理由がある。
「何がいるんだ?」
何かを発見したらしいセリオスとセロンガードに問う。
二人は「蛇か魔獣」という。
ミゼリアが「ただのヘビか、魔獣か……区別つきます……か?」と問う。
サイラスが「見てみないとわからない」と答えた。
「それにどっちが安全とかもない」
ミゼリアはうなずいた。
しばらくすると、一行の近くに妙に長い蛇が来た。少し離れた木の上でじっと見ているのがわかった。巻き付かれると厄介そうな雰囲気。
それは、臨戦態勢の冒険者を見て、何か考えているようだった。
方向を変え、森に消えていった。
「逃げた?」
ゲルトの問いかけに、セリオスとセロンガードが、
「逃げた」
「立ち去ってくれたみたいですよ」
と同時に応えた。
「無理に追わないが、構わないか?」
セリオスが一応問う。メアリベルは「注意は促しますが、構いません」と同意した。
そして、一行は進んだ。
●エノーラ・ルーナ
満月の夜にだけ咲くという花エノーラ・ルーナの群生地。
木々の間隔はそれなりにあるため、空も見え、満月が登る。
「このあたりですわね」
メアリベルはきょろきょろしているが、冒険者が囲うようにいるため、移動距離は限られている。
冒険者たちもどこにあるか周囲を見渡す。
葉が茂り黒っぽく見えるが、ピンク色の点がある木が多い。
近寄ると、枝の先には細い枝があり、ひし形の立体のようなふくらみがたくさんついていた。立体的であるが、形は五角形というか星の形だ。
セリオスは周囲をしつつ、花の様子から「一斉に咲くのか」と感じ取る。
満月の光で周囲が明るく見える。
ひし形のようにとがった蕾がパカリと開き、広がっていく。
桃色の小さな星がたくさん、木になる。
木々にピンク色に染まった。
「木の色が変わった……!」
ゲルトの目が輝く。
ミゼリアは木の変化に驚く。
「ほんとう……です。ほんのすこしで、こんなに木の色が……かわる……とは思いませんでした」
サイラスの大福やゲルトが連れている狼のノーラがそわそわしている。
「どうかした?」
ゲルトはノーラに尋ねてみると、匂いを嗅いでいることがわかる。
サイラスは大福とノーラの様子から、
「こちらにわからない匂いがあるわけだ?」
と捉え、花が咲くことで広がった匂いに反応していると考えた。
花に近づき嗅ぐ。かすかに甘い香りがしている。
それに加え、花に向かってアリなど虫が近寄ってきていた。
セロンガードは「ここまで咲くと見事です」と花見を楽しむ。
警戒は怠らないとしても、珍しいものはしっかりと目に留めておく。
「きれいです。それに、不思議です……領内七不思議……とか考えるのも……」
「お嬢様……妙なものを作らないでください」
「観光名所と考えれば、妙なものではないですわ」
レーンの言葉にメアリベルは反論した。
そういいながらも、メアリベルは花を、この風景を心に焼き付けるのだった。
月の位置から時間を考え、一行は帰ることになる。
セロンガードが「一輪、もらってもいいですか?」とメアリベルに問う。
「そのくらいならば、構いませんわ」
「ありがとうございます」
セロンガードは一輪手折り、丁寧にしまった。
セリオスは前に立ち、
「では、行こうか」
と告げた。
帰り道も警戒は怠らず、無事メアリベルを送り届ける。
「ありがとうございました! おかげで素敵なものを見られました。明日見たら咲いていないのかしらと思いましたけど、あの咲き方だと、本当に一晩でしおれてしまいそうです」
メアリベルは残念そうに言うが、珍しい花を見た余韻で、顔は輝いているのだった。
街についてから出発まで、時間があった。
サイラスは白い狼の大福を連れていくことにした。大福は花より団子な性質であるため運動させたい。また、目的地の情報集めをする際に、大福がいることで町の人の印象をよくできるのではないかと考えた。
また、大福が動くように釣るため、食べ物は用意した。
さて、情報収集はスムーズに進んだ。
目的地は森でも岩場が近いあたりだとわかる。基本的に道なりに行くことや、目印で脇道というか道から外れるという。そのあたりが道で気を付けるべき点だという。
「道案内もいるから、そのくらいか」
セリオス・オーガストは花の咲いている場所と道中の情報を集めておく。
野生動物など詳しそうな猟師や花の場所を知っている人に接触することを試みた。
現れる動物については飢えていないはずだから、脅威になるとは思えないという。道中になわばりでも重要なもの――例えば、子どもがいる――などがあれば話は別である。ただし、花が咲いているあたりには特殊な状況はないはずだという。
「危険そうな生き物が寄ってこないようにできればしたい。嫌う匂いなどあるか?」
セリオスの問いに「特にないから、人間がいるって存在感でいいはず」と返答があった。
魔獣や魔物とは最近出たと聞いていないという。時折、蛇や植物の魔獣は通り過ぎることがあっても、住みついていることはないようだという。
助言ももらい、セリオスは準備を進めた。
ミゼリア・L・ステュクスは今回が初仕事だった。
冒険者ギルドで生活や仕事のことなどきちんと教わった。その仕事については今回が実践となる。
依頼の内容を見て、レーンの状況と今の自分が重なった。レーンはヴァイオレット家のメイドであり、今回道案内として参加する。その人は授恵者であるけれども、戦闘経験はなく、戦闘になったとき仕える家のお嬢様を守れるかなど不安もあるだろうとわかる。
だからこそ、レーンの気持ちに寄り添いたい。もちろん、メアリベル・ヴァイオレットに花を見せてあげたい。
仕事の手順を考え、花のある場所について情報収集をする。
森にはどんな生物が生息しているのか、最近に何か森で被害が遭ったかどうかなど。
生息している物はこの辺りでは狼など森でよく見かけるような動物や鳥が主体であり、被害は特にないという。
魔物や魔獣といったものはまれにみられることがあるが、最近はないということだった。
一通り情報を得たところで、集合場所に遅れないように余裕を持って向かった。
セロンガード・シュタインドルフは依頼人がパンクリアース学園の生徒であること、七不思議に興味があり冒険者と出かけているらしいという事を知る。メアリベルの行動や学園生活が興味深かった。
自身が歩んできた道を考えると、メアリベルはまったく違う人生。
「私も軍役さえなければ、そういうことに精を出してキャンパスライフを充実させたかったですね……」
それはどういう人生になっていたのか、など考えつつ、集合場所に向かうのだった。
ゲルトは集合場所で依頼人のメアリベルやレーンに挨拶をする。
「一夜しか花が見られない植物、オレも気になります」
「わたくしも今日が楽しみで昨晩から眠れませんでしたわ」
メアリベルも心が浮き立っているようだった。
「実は由来もあるらしくて……」
探すエノーラ・ルーナの花について話し始めかけたとき、冒険者一同を見渡し、はっとした。
初めて会う人もいるのに、挨拶や今日のことなど話していないことに気付いた。
「依頼を受けていただきありがとうございます。わたくし、メアリベル・ヴァイオレットですわ。こちらがレーンで、道案内をしてくれます。本日はよろしくお願いします」
紹介されたレーンがお辞儀した。軽装だけれども小ぶりの盾、短剣は持っており、いざとなれば戦えるようにしているのだった。
冒険者も名乗り、道中の状況の擦り合わせ等をしてから、出発するのだった。
太陽は沈みかけ、森の外はまだ明るい。
ただ、森の中に一歩入れば、薄暗く、もう、夜が迫るのが明白だった。
●道中
生活で使う森であるため、木々の間隔も適宜あり、危険はさほど感じさせない。
それでも、昼と夜では森の様相は変わる。周囲が見えづらいだけでなく、動物や鳥は休む種類もいれば活動時間となるものもある。また、魔物や魔獣の脅威はいずれも否定はできない。最近目撃証言はなかったが、いつ現れるかわからないからだ。気を抜くともしもの対応は難しくなる。
セロンガードは若干前に出て暗視や超視覚、孤高者の双波を用いて危害を加えてくるものがないか調べる。ランタンは手にし、光源の確保を行うとともに、メアリベルたちの目印とする。
レーンが道案内はできるのだから、それに従う。
ただ、出発の時の様子から、レーンはかなり緊張していることがわかる。
歩き出してから様子を窺っても、緊張したままである。このままでは当人も疲れるだろうし、ミスを誘発するかもしれない。
レーンに声を掛ける。
「道案内は私たちでは難しいですが、守ることはできます。だから、実戦の経験がなくとも大丈夫。何かあってもただの散歩にして見せますから」
レーンは「ありがとうございます」と応じる。
「もちろん、皆様のことは信頼しています。ただ、なかなか、自分の役割に緊張しています」
声は不安があるのか、少し揺れる。
だから、セロンガードは気が楽になるように、軽い感じで言う。
「肩の力を抜いてください。それに、最近、事件事故の報告もないみたいですから、心配しすぎですよ。ハハッ」
「そ、そうですよね」
レーンはほっと息を吐いた。
言葉とは別で、セロンガードは、依頼人の安全を確保するため、警戒を怠らない。
セリオスは暗視で視界を確保し、超聴覚で周囲の物音、ホークアイと孤高者の宗波で見えないところなどのサーチを行うことを心掛ける。
獣については、猟師が言っている通りであれば、こちら戦うつもりで威圧などすれば、よほどでなければ近づいてこないだろう。
さらに、道の状態に気を配る。森の中はデコボコもするし、時には木の根が張り出し不安定な状況になることもある。
サーチしていると、そういった所は散見される。
「この先、少し、足下が不安定になる。根があるから、気を付けて」
その言葉を聞き、レーンはメアリベルの足下にランタンを向けるのだった。
ゲルトは暗視で視界は確保した。何かあればメアリベルを守れるように盾は使えるようにしていた。
「エノーラ・ルーナはどういう花なんですか? あと、由来が……と言いていたけど」
ゲルトはメアリベルに尋ねる。
「エノーラ・ルーナは樹木になる花だそうです」
「木?」
ゲルトはメアリベルが言う葉や花の形などから、想像した。低木であり、平たい小さな葉、星形のピンク色の花が咲く――。
ゲルトは低木であるのだから、地面ではなく、上の方を見るようにする。
不意に木が突然動いた。
ゲルトも他の者も注意を払う。そこにはフクロウがいてじっと見ている。
「なんだ……」
ゲルトは拍子抜けした。
メアリベルは「よかったですわ」と微笑む。
「由来についてでしたわね……昔むかし、エノーラという女性がおりました。彼女には結婚の約束をした恋人がおりました。ただ、大きな戦が起こり、彼女の恋人も戦場に向かいました。恋人は約束をしていたそうです。夏の満月の日には戻ってくるから、と。夏の一回目の満月の日に、彼女は約束の場所で待っていました。しかし、彼は返ってきません。また、次の満月も待ちました――夏の最後の満月がやってきました。満月が見守る中、彼女は木の下で待っていました。そこに彼が帰ってきました」
メアリベルは一旦言葉を切る。
「戻ってきたのは、気持ちだけでした。だから、彼女を抱きしめた直後、消えてしまいました。エノーラは彼の死を悲しみ、泣きました。その涙を受け咲くようになったのが、星形の花。恋焦がれた人との気持ちが重なった瞬間を表現するようになったというのです」
ゲルトは「悲しい由来だったんですね」とつぶやいた。
サイラスは遭遇するのは狼くらいだろうと捉えつつも、魔獣が来たら研究のために素材集めできると考える。魔獣を倒せたとしても、素材集めは後回し。護衛依頼が優先であるのだから。その線引きはきっちりと。
もし、何か来るならば護衛対象と自分のところの大福は庇護翼でカバリングするつもり。
「結局、何が出るかがわからないし、森だし」
大福はおとなしくついてくる。散歩すればいい予感はしているのだろうか。
ミゼリアは細い腕に不釣り合いな剣と盾を構え、メアリベルのそばで護衛の仕事を試みる。
どこか不安そうなレーンに対して、
「……わたしも、まだ……実戦経験が、なくて……。他のみんなにくらべたら、きっと……大したことは、できないと……思いますが。メアリベルさんの、護衛は……わたしも、がんばりますので……道案内、よろしく、おねがいします……ね」
と告げる。レーンは驚いた顔をしたが「いえ、こちらこそ」と言うが固い。
「初めてのことはたくさんあるものですわ」
メアリベルが言う。
「私だって、学園生活だって『初めてのこと』でしたし、七不思議で依頼を出したのも『初めて』がありましたもの」
微笑む。
ミゼリアもレーンも、気持ちが少し軽くなった。
ミゼリアは集めた情報から護衛をこなすことを考える。
鳥は飛び立つだけなら無害だ。狼は状況によっては脅威になるが、何もなければ戦わずにやり過ごしたい。
魔物と魔獣についてはそういうのがいるというだけで、直接見たことがない。だから、何かあれば、先輩冒険者に従いできることをする。
ここまでは一行の進路妨害となる出来事はなかった。鳥が飛ぶとか狼の集団が遠くを走り抜けたとことくらいだ。
道から少し外れた、レーンが指差し「あの先です」という。
「いよいよですわね!」
メアリベルの足が速くなる。
セリオスが「待て」と制止をかけると、弓に矢をつがえる。
セロンガードがサーチした結果から「何か、近づいてくるかもしれないですね」と告げる。こちらも弓に矢をつがえ、追い払うでも、攻撃でもできるようにしておく。
戦闘になったら、細心の注意を払い、誤射は避けないとならない。
サイラスはいつでも動けるように、大蛇身を構える。
「大福は、そこでおとなしくしてくれ」
依頼人のそばに待機するよういう。さすがに、状況を察知して、じっとしていた。
バサバサバサと鳥が慌てて飛び立つ音がする。
ゲルトは一瞬ビクリとなるが、それ以外の動くものに気を配る。鳥が飛び立つには理由がある。
「何がいるんだ?」
何かを発見したらしいセリオスとセロンガードに問う。
二人は「蛇か魔獣」という。
ミゼリアが「ただのヘビか、魔獣か……区別つきます……か?」と問う。
サイラスが「見てみないとわからない」と答えた。
「それにどっちが安全とかもない」
ミゼリアはうなずいた。
しばらくすると、一行の近くに妙に長い蛇が来た。少し離れた木の上でじっと見ているのがわかった。巻き付かれると厄介そうな雰囲気。
それは、臨戦態勢の冒険者を見て、何か考えているようだった。
方向を変え、森に消えていった。
「逃げた?」
ゲルトの問いかけに、セリオスとセロンガードが、
「逃げた」
「立ち去ってくれたみたいですよ」
と同時に応えた。
「無理に追わないが、構わないか?」
セリオスが一応問う。メアリベルは「注意は促しますが、構いません」と同意した。
そして、一行は進んだ。
●エノーラ・ルーナ
満月の夜にだけ咲くという花エノーラ・ルーナの群生地。
木々の間隔はそれなりにあるため、空も見え、満月が登る。
「このあたりですわね」
メアリベルはきょろきょろしているが、冒険者が囲うようにいるため、移動距離は限られている。
冒険者たちもどこにあるか周囲を見渡す。
葉が茂り黒っぽく見えるが、ピンク色の点がある木が多い。
近寄ると、枝の先には細い枝があり、ひし形の立体のようなふくらみがたくさんついていた。立体的であるが、形は五角形というか星の形だ。
セリオスは周囲をしつつ、花の様子から「一斉に咲くのか」と感じ取る。
満月の光で周囲が明るく見える。
ひし形のようにとがった蕾がパカリと開き、広がっていく。
桃色の小さな星がたくさん、木になる。
木々にピンク色に染まった。
「木の色が変わった……!」
ゲルトの目が輝く。
ミゼリアは木の変化に驚く。
「ほんとう……です。ほんのすこしで、こんなに木の色が……かわる……とは思いませんでした」
サイラスの大福やゲルトが連れている狼のノーラがそわそわしている。
「どうかした?」
ゲルトはノーラに尋ねてみると、匂いを嗅いでいることがわかる。
サイラスは大福とノーラの様子から、
「こちらにわからない匂いがあるわけだ?」
と捉え、花が咲くことで広がった匂いに反応していると考えた。
花に近づき嗅ぐ。かすかに甘い香りがしている。
それに加え、花に向かってアリなど虫が近寄ってきていた。
セロンガードは「ここまで咲くと見事です」と花見を楽しむ。
警戒は怠らないとしても、珍しいものはしっかりと目に留めておく。
「きれいです。それに、不思議です……領内七不思議……とか考えるのも……」
「お嬢様……妙なものを作らないでください」
「観光名所と考えれば、妙なものではないですわ」
レーンの言葉にメアリベルは反論した。
そういいながらも、メアリベルは花を、この風景を心に焼き付けるのだった。
月の位置から時間を考え、一行は帰ることになる。
セロンガードが「一輪、もらってもいいですか?」とメアリベルに問う。
「そのくらいならば、構いませんわ」
「ありがとうございます」
セロンガードは一輪手折り、丁寧にしまった。
セリオスは前に立ち、
「では、行こうか」
と告げた。
帰り道も警戒は怠らず、無事メアリベルを送り届ける。
「ありがとうございました! おかげで素敵なものを見られました。明日見たら咲いていないのかしらと思いましたけど、あの咲き方だと、本当に一晩でしおれてしまいそうです」
メアリベルは残念そうに言うが、珍しい花を見た余韻で、顔は輝いているのだった。
マスターコメント
ご参加ありがとうございます。
護衛をきちんとしたことはもちろん、情報収集をしたり、各種行動問題なく任務は完了です。
なお、花の由来、聞かれなかったら、どうしようと思ってました。いえ、どうもしないのですけれども、聞いてもらえてうれしいです。実は二つ考えましたが……血なまぐさくない方向にしました。
どちらでも、メアリベルさんにとっては「オカルトでは!?」と思える内容のような気がするのはなぜでしょう。
レーンにも寄り添っていただきありがとうございます。
ご縁があればお会いしましょう。
ショートシナリオR普通 報酬:標準5 / 4〜8人
2022年09月10日 00時08分50秒 公開
大成功
相談掲示板
成立人数は集まったな、ヒーラーのゲルトだ。 夜の森で護衛しつつ珍しい花を探すって内容だから、そんなに打ち合わせはいらなそうだが…。 とりあえず暗視は持っていく。
…ウォーリアの、ミゼリアです。…よろしく、おねがいします。 おしごと…初めてで、まだ…色々、よくわかっていませんが… メアリベルさんと、レーンさんが、ケガしないですむように…がんばりたい、です。
・・・ん、遅くなってすまない、シューターのセリオスだ、よろしく頼む とりあえず暗視と超聴覚で周辺の警戒を行うつもりだ 護衛がメインだし無理に敵は倒さず追い払うレベルでいいだろう