【再起】水貪る土蛇
馬車猪
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シナリオID:2417
オープニング
土地が枯れていた。
10日前には青々と茂っていた草が晩秋を思わせる枯れた色になっている。
「待ちなさい」
代官が強い口調で井戸堀り職人を止めた。
専門家には敬意を以て接してきた彼女には珍しく威圧的だ。
「護衛をつけるから砦まで下がりなさい。反論は受け付けないわ」
セニャにとってここは既に戦場だ。
索敵用の特性もスキルもないが高位授恵者の五感は膨大な情報を収集する。
(参ったわね)
全然分からない。
生き物の気配が感じられないのは分かるがそれ以上はさっぱりだ。故に敵は強い。
(砦から部下を呼ぶ? でも今動かすと予定が狂うのよね)
高い金を払って呼び寄せた職人が十分離れたのを確認し、地面から石を拾って全力投球。
ぼん、と枯れ草が数メートルほど砕けて散る。
地面にめり込んだ石の周辺では乾ききった土煙が舞っているがそれだけだ。
(気のせいかしら)
鈍ったのかなとつぶやいて念のため2投目、3投目を枯れた土地に叩き付けていく。
結構楽しい。
ストレス解消にもう1投げしようと4つめの石に手を伸ばしたそのとき、音もなく土色の蛇が地面から身を起こした。
全長は3メートルほどだがセニャを飲み込める程度には太く、そしてこの地の水を吸い尽くしたそれは飢えきっていた。
(えっ)
思考するより早く地面を蹴っていた。
蹴りの衝撃で地面がひび割れた直後に土地色の蛇が地面に食らいついて1メートル近く掘り進む。
勢いよく振られた同色の尻尾が高速の刺突とぶつかり火花が散る。
「強っ」
細剣は鱗のいくつかを凹ませることしかできず、しかし真トリプルファングの使い手とクリーパーでは手数が違う。
右の細剣を引き戻す勢いを活かして左の細剣で口の中を狙い、口が閉じられる前に左を引き戻して右を鼻先に叩き付ける。
(何体いる? 2体? それとも……)
別の個体からの奇襲を警戒しながらの戦いは、精神がヤスリがけされているかのように疲弊が酷い。
10刺し、20刺し、30刺しと攻撃を繰り返し、体が耐え難い熱を持った頃にようやく決着がつく。
「もう1体いるかどうか分からないこと以上に」
乱れた呼吸を元に戻しながら、全身に凹みがついた土色蛇をちらりと見る。
「不自然に草が枯れた場所が複数あるのが怖いわ」
砦に戻るまで一瞬も気を抜けず、疲弊はさらに深刻になった。
●
小山のてっぺんにビッグオウムが着陸する。
地面は衝撃を弱める工夫が施され、てっぺんを囲む砦は麓からの侵入だけでなく空からの襲撃も警戒している。
強い緊張と疲労に晒されてきたビッグオウムと御者にとって、この小さな安全地帯の存在価値は非常に大きい。
「この砦、たまにゴブリンの方が多くなるのよね」
この地の代官であり砦の責任者でもあるセニャが、オウムから鞍を外す御者を一瞥して息を吐いた。
「追い出します?」
「危ない冗談はやめて頂戴」
セニャは疲れた表情で冒険者ギルド職員に向きなおる。
「ここで依頼の解説をするの?」
「いえ、依頼人から聴き取った内容と私が見聞きした内容をまとめて依頼票にする予定です」
職員は、ぎょっとした御者に頭を下げてから話を続ける。
「今回の依頼も代官の補佐でよろしいでしょうか」
「名目はそれで構わないけど」
代官は職員を砦の一室へ案内していく。
「ここよ」
執務室には大きな地図があった。
冒険者やセニャが直接調べたり御者が飛行中に目にしたものを反映した、再入植したばかりの土地としては詳しすぎる地図だ。
「今回は井戸を優先して」
この土地には水が少ない。
河川はあるのだが土地面積を考えると水量は少ない。
かつては確実に存在したはずの井戸も何故かほとんど見つからず、冒険者が当たりをつけた場所に大急ぎで井戸職人を派遣する予定だった。
「クリーパーが出たという話を聞きましたが」
「中型1体と遭遇して撃破。その後は調査を行わず撤退よ」
「調査と討伐優先ですか」
「それで終わればいいのだけどね」
代官は頭痛に耐えるような表情だ。
「クリーパーと交戦した場所と同じような状態になっている場所が複数あるの」
地図に描き入れる。
井戸職人派遣予定地の半分以上に危険を示す色がつく。
「クリーパーは魔獣のような繁殖はしないらしいけど、同時期に同内容の変化があった土地には似たようなモノがいそうじゃない?」
「元は同じ場所にいたクリーパーの群れがばらばらになった可能性もありますね」
「その説は外れて欲しいわ。ほんとに」
セニャの表情はますます渋くなる。
「幸いなことに新規住民の流入は好調よ。だから井戸が増えないと農地の不足で新規住民が失業者になってしまうの」
「分かりました。井戸を掘る予定地の安全確保という内容で依頼を受け付けます」
書面を交わして交渉を終える。
「ところで、この復興事業は後何依頼になりそうですか? 財布の方はまだもつようですが」
「私が知りたいわよ。婚約者の領地を取り返してハッピーエンドで終わりたいけど……」
2人揃って移動し窓を開ける。
小山の麓にある広場にはテントや急造の長屋が建ち並び、南からは食料が、北からは水瓶が、ビヒモーや馬によって運ばれてくる。
「この復興事業、当たり前だけど他から影響を受けるのよ」
帝都がある方向を心底嫌そうな顔でみつめてから、ヴィントがある方向に懸念の目を向ける。
脅威の上限は予測不可能で、後方からの支援や黙認もいつまで続くか分からない。
「今以上に冒険者を頼っては?」
「そんな依頼を出せるほど財布に余裕はないわ」
目先の脅威を撃破すれば現状維持。
撃破した上で復興事業を加速させてようやく前進だ。
「では冒険者の自由にさせるということで。あなたがするより素晴らしい結果になるかもしれませんよ」
そう言われた代官は怒りはせず、そうなると楽でいいわねと答えていた。
10日前には青々と茂っていた草が晩秋を思わせる枯れた色になっている。
「待ちなさい」
代官が強い口調で井戸堀り職人を止めた。
専門家には敬意を以て接してきた彼女には珍しく威圧的だ。
「護衛をつけるから砦まで下がりなさい。反論は受け付けないわ」
セニャにとってここは既に戦場だ。
索敵用の特性もスキルもないが高位授恵者の五感は膨大な情報を収集する。
(参ったわね)
全然分からない。
生き物の気配が感じられないのは分かるがそれ以上はさっぱりだ。故に敵は強い。
(砦から部下を呼ぶ? でも今動かすと予定が狂うのよね)
高い金を払って呼び寄せた職人が十分離れたのを確認し、地面から石を拾って全力投球。
ぼん、と枯れ草が数メートルほど砕けて散る。
地面にめり込んだ石の周辺では乾ききった土煙が舞っているがそれだけだ。
(気のせいかしら)
鈍ったのかなとつぶやいて念のため2投目、3投目を枯れた土地に叩き付けていく。
結構楽しい。
ストレス解消にもう1投げしようと4つめの石に手を伸ばしたそのとき、音もなく土色の蛇が地面から身を起こした。
全長は3メートルほどだがセニャを飲み込める程度には太く、そしてこの地の水を吸い尽くしたそれは飢えきっていた。
(えっ)
思考するより早く地面を蹴っていた。
蹴りの衝撃で地面がひび割れた直後に土地色の蛇が地面に食らいついて1メートル近く掘り進む。
勢いよく振られた同色の尻尾が高速の刺突とぶつかり火花が散る。
「強っ」
細剣は鱗のいくつかを凹ませることしかできず、しかし真トリプルファングの使い手とクリーパーでは手数が違う。
右の細剣を引き戻す勢いを活かして左の細剣で口の中を狙い、口が閉じられる前に左を引き戻して右を鼻先に叩き付ける。
(何体いる? 2体? それとも……)
別の個体からの奇襲を警戒しながらの戦いは、精神がヤスリがけされているかのように疲弊が酷い。
10刺し、20刺し、30刺しと攻撃を繰り返し、体が耐え難い熱を持った頃にようやく決着がつく。
「もう1体いるかどうか分からないこと以上に」
乱れた呼吸を元に戻しながら、全身に凹みがついた土色蛇をちらりと見る。
「不自然に草が枯れた場所が複数あるのが怖いわ」
砦に戻るまで一瞬も気を抜けず、疲弊はさらに深刻になった。
●
小山のてっぺんにビッグオウムが着陸する。
地面は衝撃を弱める工夫が施され、てっぺんを囲む砦は麓からの侵入だけでなく空からの襲撃も警戒している。
強い緊張と疲労に晒されてきたビッグオウムと御者にとって、この小さな安全地帯の存在価値は非常に大きい。
「この砦、たまにゴブリンの方が多くなるのよね」
この地の代官であり砦の責任者でもあるセニャが、オウムから鞍を外す御者を一瞥して息を吐いた。
「追い出します?」
「危ない冗談はやめて頂戴」
セニャは疲れた表情で冒険者ギルド職員に向きなおる。
「ここで依頼の解説をするの?」
「いえ、依頼人から聴き取った内容と私が見聞きした内容をまとめて依頼票にする予定です」
職員は、ぎょっとした御者に頭を下げてから話を続ける。
「今回の依頼も代官の補佐でよろしいでしょうか」
「名目はそれで構わないけど」
代官は職員を砦の一室へ案内していく。
「ここよ」
執務室には大きな地図があった。
冒険者やセニャが直接調べたり御者が飛行中に目にしたものを反映した、再入植したばかりの土地としては詳しすぎる地図だ。
「今回は井戸を優先して」
この土地には水が少ない。
河川はあるのだが土地面積を考えると水量は少ない。
かつては確実に存在したはずの井戸も何故かほとんど見つからず、冒険者が当たりをつけた場所に大急ぎで井戸職人を派遣する予定だった。
「クリーパーが出たという話を聞きましたが」
「中型1体と遭遇して撃破。その後は調査を行わず撤退よ」
「調査と討伐優先ですか」
「それで終わればいいのだけどね」
代官は頭痛に耐えるような表情だ。
「クリーパーと交戦した場所と同じような状態になっている場所が複数あるの」
地図に描き入れる。
井戸職人派遣予定地の半分以上に危険を示す色がつく。
「クリーパーは魔獣のような繁殖はしないらしいけど、同時期に同内容の変化があった土地には似たようなモノがいそうじゃない?」
「元は同じ場所にいたクリーパーの群れがばらばらになった可能性もありますね」
「その説は外れて欲しいわ。ほんとに」
セニャの表情はますます渋くなる。
「幸いなことに新規住民の流入は好調よ。だから井戸が増えないと農地の不足で新規住民が失業者になってしまうの」
「分かりました。井戸を掘る予定地の安全確保という内容で依頼を受け付けます」
書面を交わして交渉を終える。
「ところで、この復興事業は後何依頼になりそうですか? 財布の方はまだもつようですが」
「私が知りたいわよ。婚約者の領地を取り返してハッピーエンドで終わりたいけど……」
2人揃って移動し窓を開ける。
小山の麓にある広場にはテントや急造の長屋が建ち並び、南からは食料が、北からは水瓶が、ビヒモーや馬によって運ばれてくる。
「この復興事業、当たり前だけど他から影響を受けるのよ」
帝都がある方向を心底嫌そうな顔でみつめてから、ヴィントがある方向に懸念の目を向ける。
脅威の上限は予測不可能で、後方からの支援や黙認もいつまで続くか分からない。
「今以上に冒険者を頼っては?」
「そんな依頼を出せるほど財布に余裕はないわ」
目先の脅威を撃破すれば現状維持。
撃破した上で復興事業を加速させてようやく前進だ。
「では冒険者の自由にさせるということで。あなたがするより素晴らしい結果になるかもしれませんよ」
そう言われた代官は怒りはせず、そうなると楽でいいわねと答えていた。
解説
●目的
蛇型クリーパー3体以上の撃破
●敵戦力
・水貪る土蛇
枯れ草や乾燥した地面とそっくりな色と模様をした蛇型クリーパー
全長は3~4メートルで、大きいほど強力です
同じ名称で呼ばれてはいますが実際は種類が異なり、牙が光る魔法攻撃が得意な個体や、鱗が分厚く魔法防御も高い個体などもいます
いずれも高い隠密能力と優れた物理防御を兼ね備え、飲み込み(並命中高付与【窒息】)が可能です
ただし隠密に長けるのは乾燥した土地だけで、そこから1歩でも外へ出ると非常に目立ちます
地表から3メートルまで潜ることができ、地上でも地下でも移動3で移動可能です
・鳩魔獣
全高2メートル、翼込みで全幅4メートル程度の低空飛行魔獣
冒険者なら(戦闘用装備を身につけていないとかでない限り)単独で複数蹴散らせる敵です
出現数と出現頻度は減っていますが、弱く見える相手が襲われることがあります
●戦場候補
・丘に近い集落建設予定地
水貪る土蛇が移動してきたばかりで、枯れた地面がまばらに存在する平地です
敵を全て撃破できれば複数の井戸を掘ることができ、いずれは大きな村に発展するかもしれません
ここには3体の水貪る土蛇が潜んでいます
・セニャが1体倒した廃村跡
水は枯れエーテルもかなり減少した場所です
建物は土台すらほとんど残っていません
直径数百メートルの範囲を粘り強く調べれば、水貪る土蛇が1体見つかるか襲いかかってきます
近接魔法攻撃(牙)が強い個体です
・井戸を掘る予定の場所(複数)
クリーパーは出現しません
いくつか草が枯れている場所がありますが、これは草の病気が流行っているためです(焼却等で対策可)
鳩魔獣が登場する可能性があり、倒せば倒すほど付近での鳩魔獣被害が減ります
上手に倒せば肉やそれ以外の資源を得ることができます
●他
・小山
帝国代官の1人であるセニャが復興事業を担当している元男爵領の物理的な中心地
頂上には夜間に火が灯り、ビッグオウムの飛行の助けになっています
守備兵は少ないですがセニャの飼い狼の群れが侵入者を警戒中です
・砦
小山の頂上付近にある砦
水瓶保管用の建物や、代官やその部下のための建物や、普通の倉庫があります
休憩所が欲しいという要望が複数の御者から出ています
・広場
小山の麓にあるただの平地です。治安は低め
・道
ビヒモーや馬に踏み固められた道?が、砦からだいたい南北にのびています
マスターより
帝国のすみっこで復興を進めていく連作です
リプレイ
●
繊細さを感じさせる美貌とやわらかな物腰。
太陽の下できらめく金髪と美貌よりも聡明さと思慮深さが印象的という、多くの人間がエルフと聞いて想像するもの以上の存在がリディリディ・トゥラ・イェレミースだ。
そんな存在がうんしょうんしょと母蜘蛛糸のロープを地面に張り巡らせる様は、道案内の脳が混乱から回復しないほど印象強い。
「待ちましょう」
立ち上がり真面目な顔をすると本当に美人ではあるのだ。
「セニャ、ここに水貪る土蛇が現れたのか?」
幸運であり高位の授恵者として優れた五感も持つアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトでも敵の気配や痕跡を見つけられない。
「現れた場所と酷似してるの」
同じく全く見つけられない代官も、疲れた体で警戒を続けている。
「今回も難易度まちがってる気がするよー」
小柄なハーフリングの中でも特に小柄なアルマ・ヴァレンタインは警戒を強めている。
「ボクちっちゃいからパックンチョで丸呑みされたら大変なことになっちゃうし」
優れた看破技術を持つアルマではあるが、油断できる状況でも油断していい相手でもない。
得意な回避術も不意討ちされた場面では完璧には機能してくれないのだ。
だからとにかく奇襲を避けるため、リディリディの仕掛けの助けも借りて近距離を警戒している。
(草、土地を枯らす、蛇? やっかい。ビヒモーさんたちの、食べ物が、無くなる、し)
平和なことを考えていてもエルの索敵は凄まじい。
リルがエルの肩に乗り後ろを警戒しているのは索敵の極一部でしかない。
1度で直径15メートルの敵を暴くエーテル波を、5秒ごとに狙いを変えて送り出して敵のいる場所を広大な土地から絞り込んでいく。
「水が枯れて草も生えずエーテルも碌に宿らん土地か」
ベルク・オスマットは渋面だ。
(もともとクリーパーはそんな存在だが、例のクリーパーの仕業だとすると看過できないどころか問題は帝国全土、あるいは大陸全土に波及しかねんぞ)
帝都に巣くっているはずのクリーパーのことを考えると頭が痛くなる。
(優先度を考えるとエーテル浄化者を呼ぶのは難しいか。代官殿に頑張ってもらう方が帝国全体の……)
考察を一時中断して術に専念する。
不審な土地の外側から始め、螺旋を描き中央に収束していく形で探知用エーテル波動を飛ばす。
エーテルの気配や敵からの探知用エーテル波動の気配は未だ掴めず、しかし地形についての情報は5秒ごとに直径15メートルずつ増えている。
(これで中央。気配を消したまま移動して躱せたと思ったか?)
地形の情報も収集済みだ。
自然には生じにくい地形を狙ってエーテル波動を飛ばす。
1つめから3つめは外れて、4つめで効果範囲の端に1つ反応があった。
いわゆる【マーク】の状態であり、密かに逃げようとしてもベルクは決して見逃さない。
「んじゃ、ちゃっちゃと蛇退治して復興のお手伝いといきますかね」
任せろとばかりにハヤト=ガラン=ヴォルファングが飛び出す。
看破に特に優れた彼でも、ベルクに時折指示されなければ見逃してしまうほど敵は見つけにくい。
だがその程度ではピンチとは呼べない。
「やるじゃねぇか!」
右後方から蛇の頭が飛んでくる。
絶妙な速度とタイミングでの奇襲でありハヤトの防御も不完全。
「臭いがなけりゃ危なかったぜ?」
空気に混じった酷い臭いに鼻を鳴らし、圧倒的な加速で牙も口も必要以上には近付かせない。
(正面からじゃ相性が悪い相手ではあるがな)
踵落とし気味に口を閉じさせ、忍刀で目を狙った直後に爪先で鼻先を蹴り上げる。
感触が良くない。
セニャから聞いていたように、外皮を壊せないだけでなく衝撃が中にほとんど伝わっていない。
「それならそれでやりようはあるさ」
2体の蛇クリーパーに挟み込まれる前に、ハヤトは一撃離脱を成功させた。
「この土地の開墾を成功させるために水貪る土蛇を全滅させるぜ」
アルベルトは今が平時であるかのような声で、恐るべき腕力と精妙な技術で剣を振るう。
大型両手剣サイズの刃が分厚いエーテルで覆われたまま加速。
大きな黒盾で片方からの攻撃を防いだ上で、最高速に達した刃を土色の蛇に叩き付けた。
セニャは驚きを隠せない。
彼女がもっと小さな蛇の装甲を抜けなかったのに、婚約者は鱗を切り裂いたのだ。
「堅いな」
ウェイブ・オブ・インフィニティロアという攻撃力まで引き上げる術の影響下にあるのに、アルベルトにとっては浅い傷しか与えられていない。
「長期戦になるかもな」
比喩でなしに全力を振り絞る。
速さ、重さ、鋭さという剣術の基本を突き詰めた斬撃が、直前の攻撃で脆くなった鱗だけでなく肉と骨も全て両断する。
一瞬骨と肉の断面が見え、噴き出した体液が断面を隠し地面にこぼれ落ちた。
もう1体は無傷のまま。
長さが半減した蛇も動きは鈍ったが戦意は十分以上だ。
2方向からの牙と飲み込みがアルベルトへ同時に襲いかかる。
牙は問題ない。
黒盾にエーテルを集中すれば容易に跳ね返すことが可能だ。
問題は、アルベルトすら飲み込める大きさの口だ。
「うるぁ! 隠れて奇襲はテメェらの専売特許じゃねーんだよ!!」
アルベルトの頭上に蛇が躍り上がる前にハヤトの蹴りが直撃する。
蛇の不十分な不意打ちとは違い、視界と意識の外からの完璧な奇襲だ。
喉に当たって奥まで入り、骨だけでなく重要な欠陥と神経に重大な打撃を与える。
(皮が分厚いなっ)
有効な攻撃だったのは凄いが、物理攻撃と回避が得意なハヤトにとっては相性が悪すぎる相手だ。
前に立つのをアルベルトに任せて次の奇襲を狙うが、時間あたりのダメージはあまり高くなかった。
●
極大の閃光波が轟音と共に飛来する。
地面と水平に飛ぶと横向きの光柱のようで、先端とぶつかった1体が全体の2割を焼き尽くされるがこれは副産物でしかない。
極めて高度な付与術で制御された熱と衝撃が、クリーパーの中にある知性と本能を侵した上で回復を妨げる。
「ふう」
リディリディはあからさまに安堵の息を吐き、汗をぬぐう仕草をした。
「さっすがー」
アルマは拍手をする。
もう1体がハヤトとアルベルトを邪魔しようとしているが、能動的な行動が一切できなくなった蛇など多少頑丈なだけの的でしかない。
セニャが焦っている。
後衛、といってもアルマは前衛もこなせるしリディリディもエーテルバリアによる防御があるが、奇襲がロープで露見した蛇相手に足止め戦闘を行っている。
リディリディが術で妨害はしている。それでも状態異常からの回復の可能性はあるので前衛0はまずいのだ。
「がんばれー」
たまに蛇尻尾の一撃が当たるが2連続や3連続は考えづらいし、2連続でもアルマの強力なヒールがあれば次の一撃を食らうまでに全回復する。
「大丈夫だからそのままがんばれー」
ウェイブ・オブ・インフィニティロアとヒールでも目立っているがアルマは魔力も強力だ。
ただの魔弾が鱗を砕き筋肉をかき分け骨を砕いて内臓に穴を開ける。
隠密と物理防御という2つの長所を持つクリーパーは、歪な能力故に脆い部分が多く中でも魔法防御の弱さは致命的だ。
エーテルが凝縮されすぎて槍と化した光がリディリディから蛇へ伸びて深い傷を増やしていく。
前衛が2体目にとりかかる前に撃破は終わり、最後に残った魔法防御にも強い個体は弱い攻撃力が災いして何もできずに滅ぶのだった。
●
エルは弓を下ろし、つがえていた矢を矢筒に戻す。
「行こう」
刃を収めたベルクと共に代官が同種の蛇に襲われた元廃村へ向かう。
「無理をする必要はないわ」
気遣うセニャの声に素直にうなずき、エルは異空間から砦からの借り物を出現させる。
マジカルポケット用なのでかなり大きい。
「水、撒く」
「この場所に撒くなら足りそうね」
セニャは感嘆の色を浮かべた目をエルに向ける。
水を吸えば土の色は変わるし、水を撒いたのに色が変わらないならクリーパーが吸収しているということだ。
ベルクやセニャのように回避に特化した者が乾いた地面の端から水撒き開始。
蛇は慎重に後退して水を躱すが乾いた地面は急速に狭くなり、探知用エーテル波動を数度飛ばすだけで見つかる狭い範囲に追い詰められた。
「距離、とって」
エルは戦術でも妥協はしない。
数の差を最大限に活かし、囲んで叩いて逃がさずそれでいて敵が唯一可能な接近戦は可能な限り避ける。
近づかれた冒険者は後退してそれ以外はひたすら攻撃。
物理と魔法の両方に強くても、躱せないならダメージは受けるので蛇側が一方的にダメージを受けることになる。
途中、セニャの顔色が疲労で酷いことになったが些細な問題だ。
エルが最後に放った矢が蛇の口の真新しい傷から奥へ突き刺さり、膨大ともいえる生命を削り切った。
●
視察は大変だ。
気力体力が尽きて代官が仮眠中の今は特にそうで、代理または補佐っぽい立場にいるアウレーリア・フォン・ネーベルベルクに負担が集中している。
「地形や気候が同じなら地下の水脈も同じように流れる筈よ。枯渇の原因を取り除けば、時間経過で枯れた井戸も戻るかも知れないわね」
ヴィントから派遣されてきた頼りない事務員達へ優しく説明する。
「机上だけで計算すると現実から離れてしまうわ」
アウレーリアの言葉に納得した新人をじろりと見る。
「でも、調査すればするほど人手ではなく人材が拘束されることを忘れないようにね」
この言動でもモブパワーが機能するのはさすが高位授恵者である。
襲撃を試みた鳩魔獣を足止めの光で絡め取って外見だけは普通の高威力魔弾で打ち落とす。
(……偶然よね?)
襲撃された場所が枯れ草の多い所だったので懸念を抱く。
残念ながら関係があるか確かめる手段がない。
アウレーリアは一時的な効率の悪さを覚悟し、事務員に人足の指揮を任せる。
(私が仕上げた区割り案でそのままいけそうなのはいいけど……問題は予算ね)
農産物が足りても足らなくても輸送は必要だ。できれば水運で他地域との輸出入を行いたいが、時間もかかるし金も必須だ。
「通行管理権を担保に投資でも募ってみる?」
代官がうんざりした表情で手配を始めている関係者親睦会の内容を思い出し、アウレーリアは眉間にうっすら皺を寄せる。
新規住民に混じったごろつき同然な連中の扱いも含めて苦労ばかりだ。
「何かが近付いて来ます!」
彼女は静かにするよう事務員に合図して、ミニビヒモーに牽かれた荷馬車の接近を待った。
「人手は足りているのだ?」
アウレーリアは解体が得意ではあるがストレガ・L・リベルガストラと比べると平凡だ。
任されたストレガの手により血抜きと解体がほとんど同時に進行する。
冷やすものが風しかないので冷却は不十分。しかし設備らしい設備がないのに解体の効率は非常に良い。
無駄となる肉や皮は非常に少なく、持ち帰り倉庫の中に安置するだけで大丈夫な塩まみれ肉が量産される。
「灰はすき込んで肥料にするのだ?」
「ええ」
アウレーリアの返事に称賛の思いを込めてうなずく。
まず大丈夫でも危険は0ではない。危険は少しあるが燃やして駄目ならこのあたりを放棄するしかない。
だが今は、危険に怯えて歩みを緩める訳にはいかないのでアウレーリアの行動が最も正解に近い。
「城下の屋台にでも納入すれば、多少は食費の足しになりましょう」
「ではそのように頼むのだ」
ストレガは自ら運んでいた鳩肉もまとめて渡し、次の目的地へ向かう。
幸いなことに草の枯れた範囲は大森林規模ではない。大型クリーパーがこの地に潜んでいる可能性は低いはずだ。
(数が減って見つけるのが難しくなっているのだ)
雷蛇大禍を逆三角形上向きに展開する。
降下途中でストレガの実力に気付いた逃げようとした鳩が引っかかり、そこに強い爆発を撃ち込んで打ち落とす。
「……ふむ」
上と左右と前後を見て敵の不在を確認。
口笛を吹いて、安全な場所からミニビヒモーと荷車を呼び寄せる。
(素材は砦の食料や資材、資金になるだろう。勝手を知っているもの方が何が必要か詳しいので任せるのだ)
これを繰り返す。
習熟はさらに進んで解体の速度は上がり無駄も減っている。穴を掘って焼く頻度も低下した。
ストレガは依頼された内容を完遂した上で、同胞に利益をもたらすため物資をできる限り多く得てその中の多くを同胞のため使うつもりであった。
●執務室
「我に書かせるのは怠慢ではないかな代官殿」
「人手が足りないのよ」
ソファーの上でぐったりとした代官をじろりとにらんでから、ベルクはヴィントの帝国軍宛ての報告書を書き始める。
(他の地に出現し飢饉を引き起こしかねない……だけではないか。ここは帝都から敵勢が来かねない位置の1つ。それに)
客観的事実とベルク個人の推察は分けて書いてはいるが事実だけでもきな臭すぎる。
(さすがに穿ちすぎだとは思うが、今までの所業からエフレム卿の召喚物、ないし実験の産物である可能性を否定できん)
自然に零れた息は、非常に重かった。
なお、エルは書式に従うのを非常に面倒に思いつつ、ビヒモーの食い扶持確保に繋がる情報と提案を報告書にまとめていた。
「よっ、噂は聞いてんぜ、頑張ってるみてぇじゃねーか」
ハヤトは普段より声を小さくしている。
「依頼は毎回成功してもらっているのに復興に結びつけるのが難しくてね」
復興には複数世代かかることも珍しくないのにこのセリフである。セニャの自己評価は呆れるほどに高い。
「セニャ、俺は我がシュタールシュヴェーアト家の領地を取り戻す事を諦めてはいない。いつの日か我が領地を取り戻したらその時には結婚式を挙げよう」
アルベルトは甲斐甲斐しく毛布をかけている。
(いいけど土地だけあってもだめ。侯爵家という組織を再建して私の領地も確保してからじゃないと安心してくっつけないわよ)
睡魔が強く、むにゃむにゃと曖昧な発言になり聞こえたかどうか分からなかった。
●新規村建設地
「リーラントさんは頑張りましたね。ひとりであのクリーパーを相手取るのは負担がかかったと思います」
しかし今顔を出さないのは不義理。
「否定できないよー」
実績も行動もセニャよりなアルマも賛同する。
「……予想より堅いみたいだね」
指示を受けた井戸職人が苦悶の表情で予定の修正と念のため持って来た道具の手入れを始める。
井戸職人としてのキャリアは職人が上でも、スキルについては高位授恵者でもあるアルマに及ばないのだ。
「今回はサービスです。少し村の復興に手を貸しましょう。」
特定の貴族に肩入れする気はないが今のセニャは平民だ。
術使いとしてだけでなく魔法の専門家としても優れたエルフが、エーテルの面で被害を受けた井戸候補を候補から外させる。
代官が仮眠をとっている間も、復興事業は急速に進んでいた。
繊細さを感じさせる美貌とやわらかな物腰。
太陽の下できらめく金髪と美貌よりも聡明さと思慮深さが印象的という、多くの人間がエルフと聞いて想像するもの以上の存在がリディリディ・トゥラ・イェレミースだ。
そんな存在がうんしょうんしょと母蜘蛛糸のロープを地面に張り巡らせる様は、道案内の脳が混乱から回復しないほど印象強い。
「待ちましょう」
立ち上がり真面目な顔をすると本当に美人ではあるのだ。
「セニャ、ここに水貪る土蛇が現れたのか?」
幸運であり高位の授恵者として優れた五感も持つアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトでも敵の気配や痕跡を見つけられない。
「現れた場所と酷似してるの」
同じく全く見つけられない代官も、疲れた体で警戒を続けている。
「今回も難易度まちがってる気がするよー」
小柄なハーフリングの中でも特に小柄なアルマ・ヴァレンタインは警戒を強めている。
「ボクちっちゃいからパックンチョで丸呑みされたら大変なことになっちゃうし」
優れた看破技術を持つアルマではあるが、油断できる状況でも油断していい相手でもない。
得意な回避術も不意討ちされた場面では完璧には機能してくれないのだ。
だからとにかく奇襲を避けるため、リディリディの仕掛けの助けも借りて近距離を警戒している。
(草、土地を枯らす、蛇? やっかい。ビヒモーさんたちの、食べ物が、無くなる、し)
平和なことを考えていてもエルの索敵は凄まじい。
リルがエルの肩に乗り後ろを警戒しているのは索敵の極一部でしかない。
1度で直径15メートルの敵を暴くエーテル波を、5秒ごとに狙いを変えて送り出して敵のいる場所を広大な土地から絞り込んでいく。
「水が枯れて草も生えずエーテルも碌に宿らん土地か」
ベルク・オスマットは渋面だ。
(もともとクリーパーはそんな存在だが、例のクリーパーの仕業だとすると看過できないどころか問題は帝国全土、あるいは大陸全土に波及しかねんぞ)
帝都に巣くっているはずのクリーパーのことを考えると頭が痛くなる。
(優先度を考えるとエーテル浄化者を呼ぶのは難しいか。代官殿に頑張ってもらう方が帝国全体の……)
考察を一時中断して術に専念する。
不審な土地の外側から始め、螺旋を描き中央に収束していく形で探知用エーテル波動を飛ばす。
エーテルの気配や敵からの探知用エーテル波動の気配は未だ掴めず、しかし地形についての情報は5秒ごとに直径15メートルずつ増えている。
(これで中央。気配を消したまま移動して躱せたと思ったか?)
地形の情報も収集済みだ。
自然には生じにくい地形を狙ってエーテル波動を飛ばす。
1つめから3つめは外れて、4つめで効果範囲の端に1つ反応があった。
いわゆる【マーク】の状態であり、密かに逃げようとしてもベルクは決して見逃さない。
「んじゃ、ちゃっちゃと蛇退治して復興のお手伝いといきますかね」
任せろとばかりにハヤト=ガラン=ヴォルファングが飛び出す。
看破に特に優れた彼でも、ベルクに時折指示されなければ見逃してしまうほど敵は見つけにくい。
だがその程度ではピンチとは呼べない。
「やるじゃねぇか!」
右後方から蛇の頭が飛んでくる。
絶妙な速度とタイミングでの奇襲でありハヤトの防御も不完全。
「臭いがなけりゃ危なかったぜ?」
空気に混じった酷い臭いに鼻を鳴らし、圧倒的な加速で牙も口も必要以上には近付かせない。
(正面からじゃ相性が悪い相手ではあるがな)
踵落とし気味に口を閉じさせ、忍刀で目を狙った直後に爪先で鼻先を蹴り上げる。
感触が良くない。
セニャから聞いていたように、外皮を壊せないだけでなく衝撃が中にほとんど伝わっていない。
「それならそれでやりようはあるさ」
2体の蛇クリーパーに挟み込まれる前に、ハヤトは一撃離脱を成功させた。
「この土地の開墾を成功させるために水貪る土蛇を全滅させるぜ」
アルベルトは今が平時であるかのような声で、恐るべき腕力と精妙な技術で剣を振るう。
大型両手剣サイズの刃が分厚いエーテルで覆われたまま加速。
大きな黒盾で片方からの攻撃を防いだ上で、最高速に達した刃を土色の蛇に叩き付けた。
セニャは驚きを隠せない。
彼女がもっと小さな蛇の装甲を抜けなかったのに、婚約者は鱗を切り裂いたのだ。
「堅いな」
ウェイブ・オブ・インフィニティロアという攻撃力まで引き上げる術の影響下にあるのに、アルベルトにとっては浅い傷しか与えられていない。
「長期戦になるかもな」
比喩でなしに全力を振り絞る。
速さ、重さ、鋭さという剣術の基本を突き詰めた斬撃が、直前の攻撃で脆くなった鱗だけでなく肉と骨も全て両断する。
一瞬骨と肉の断面が見え、噴き出した体液が断面を隠し地面にこぼれ落ちた。
もう1体は無傷のまま。
長さが半減した蛇も動きは鈍ったが戦意は十分以上だ。
2方向からの牙と飲み込みがアルベルトへ同時に襲いかかる。
牙は問題ない。
黒盾にエーテルを集中すれば容易に跳ね返すことが可能だ。
問題は、アルベルトすら飲み込める大きさの口だ。
「うるぁ! 隠れて奇襲はテメェらの専売特許じゃねーんだよ!!」
アルベルトの頭上に蛇が躍り上がる前にハヤトの蹴りが直撃する。
蛇の不十分な不意打ちとは違い、視界と意識の外からの完璧な奇襲だ。
喉に当たって奥まで入り、骨だけでなく重要な欠陥と神経に重大な打撃を与える。
(皮が分厚いなっ)
有効な攻撃だったのは凄いが、物理攻撃と回避が得意なハヤトにとっては相性が悪すぎる相手だ。
前に立つのをアルベルトに任せて次の奇襲を狙うが、時間あたりのダメージはあまり高くなかった。
●
極大の閃光波が轟音と共に飛来する。
地面と水平に飛ぶと横向きの光柱のようで、先端とぶつかった1体が全体の2割を焼き尽くされるがこれは副産物でしかない。
極めて高度な付与術で制御された熱と衝撃が、クリーパーの中にある知性と本能を侵した上で回復を妨げる。
「ふう」
リディリディはあからさまに安堵の息を吐き、汗をぬぐう仕草をした。
「さっすがー」
アルマは拍手をする。
もう1体がハヤトとアルベルトを邪魔しようとしているが、能動的な行動が一切できなくなった蛇など多少頑丈なだけの的でしかない。
セニャが焦っている。
後衛、といってもアルマは前衛もこなせるしリディリディもエーテルバリアによる防御があるが、奇襲がロープで露見した蛇相手に足止め戦闘を行っている。
リディリディが術で妨害はしている。それでも状態異常からの回復の可能性はあるので前衛0はまずいのだ。
「がんばれー」
たまに蛇尻尾の一撃が当たるが2連続や3連続は考えづらいし、2連続でもアルマの強力なヒールがあれば次の一撃を食らうまでに全回復する。
「大丈夫だからそのままがんばれー」
ウェイブ・オブ・インフィニティロアとヒールでも目立っているがアルマは魔力も強力だ。
ただの魔弾が鱗を砕き筋肉をかき分け骨を砕いて内臓に穴を開ける。
隠密と物理防御という2つの長所を持つクリーパーは、歪な能力故に脆い部分が多く中でも魔法防御の弱さは致命的だ。
エーテルが凝縮されすぎて槍と化した光がリディリディから蛇へ伸びて深い傷を増やしていく。
前衛が2体目にとりかかる前に撃破は終わり、最後に残った魔法防御にも強い個体は弱い攻撃力が災いして何もできずに滅ぶのだった。
●
エルは弓を下ろし、つがえていた矢を矢筒に戻す。
「行こう」
刃を収めたベルクと共に代官が同種の蛇に襲われた元廃村へ向かう。
「無理をする必要はないわ」
気遣うセニャの声に素直にうなずき、エルは異空間から砦からの借り物を出現させる。
マジカルポケット用なのでかなり大きい。
「水、撒く」
「この場所に撒くなら足りそうね」
セニャは感嘆の色を浮かべた目をエルに向ける。
水を吸えば土の色は変わるし、水を撒いたのに色が変わらないならクリーパーが吸収しているということだ。
ベルクやセニャのように回避に特化した者が乾いた地面の端から水撒き開始。
蛇は慎重に後退して水を躱すが乾いた地面は急速に狭くなり、探知用エーテル波動を数度飛ばすだけで見つかる狭い範囲に追い詰められた。
「距離、とって」
エルは戦術でも妥協はしない。
数の差を最大限に活かし、囲んで叩いて逃がさずそれでいて敵が唯一可能な接近戦は可能な限り避ける。
近づかれた冒険者は後退してそれ以外はひたすら攻撃。
物理と魔法の両方に強くても、躱せないならダメージは受けるので蛇側が一方的にダメージを受けることになる。
途中、セニャの顔色が疲労で酷いことになったが些細な問題だ。
エルが最後に放った矢が蛇の口の真新しい傷から奥へ突き刺さり、膨大ともいえる生命を削り切った。
●
視察は大変だ。
気力体力が尽きて代官が仮眠中の今は特にそうで、代理または補佐っぽい立場にいるアウレーリア・フォン・ネーベルベルクに負担が集中している。
「地形や気候が同じなら地下の水脈も同じように流れる筈よ。枯渇の原因を取り除けば、時間経過で枯れた井戸も戻るかも知れないわね」
ヴィントから派遣されてきた頼りない事務員達へ優しく説明する。
「机上だけで計算すると現実から離れてしまうわ」
アウレーリアの言葉に納得した新人をじろりと見る。
「でも、調査すればするほど人手ではなく人材が拘束されることを忘れないようにね」
この言動でもモブパワーが機能するのはさすが高位授恵者である。
襲撃を試みた鳩魔獣を足止めの光で絡め取って外見だけは普通の高威力魔弾で打ち落とす。
(……偶然よね?)
襲撃された場所が枯れ草の多い所だったので懸念を抱く。
残念ながら関係があるか確かめる手段がない。
アウレーリアは一時的な効率の悪さを覚悟し、事務員に人足の指揮を任せる。
(私が仕上げた区割り案でそのままいけそうなのはいいけど……問題は予算ね)
農産物が足りても足らなくても輸送は必要だ。できれば水運で他地域との輸出入を行いたいが、時間もかかるし金も必須だ。
「通行管理権を担保に投資でも募ってみる?」
代官がうんざりした表情で手配を始めている関係者親睦会の内容を思い出し、アウレーリアは眉間にうっすら皺を寄せる。
新規住民に混じったごろつき同然な連中の扱いも含めて苦労ばかりだ。
「何かが近付いて来ます!」
彼女は静かにするよう事務員に合図して、ミニビヒモーに牽かれた荷馬車の接近を待った。
「人手は足りているのだ?」
アウレーリアは解体が得意ではあるがストレガ・L・リベルガストラと比べると平凡だ。
任されたストレガの手により血抜きと解体がほとんど同時に進行する。
冷やすものが風しかないので冷却は不十分。しかし設備らしい設備がないのに解体の効率は非常に良い。
無駄となる肉や皮は非常に少なく、持ち帰り倉庫の中に安置するだけで大丈夫な塩まみれ肉が量産される。
「灰はすき込んで肥料にするのだ?」
「ええ」
アウレーリアの返事に称賛の思いを込めてうなずく。
まず大丈夫でも危険は0ではない。危険は少しあるが燃やして駄目ならこのあたりを放棄するしかない。
だが今は、危険に怯えて歩みを緩める訳にはいかないのでアウレーリアの行動が最も正解に近い。
「城下の屋台にでも納入すれば、多少は食費の足しになりましょう」
「ではそのように頼むのだ」
ストレガは自ら運んでいた鳩肉もまとめて渡し、次の目的地へ向かう。
幸いなことに草の枯れた範囲は大森林規模ではない。大型クリーパーがこの地に潜んでいる可能性は低いはずだ。
(数が減って見つけるのが難しくなっているのだ)
雷蛇大禍を逆三角形上向きに展開する。
降下途中でストレガの実力に気付いた逃げようとした鳩が引っかかり、そこに強い爆発を撃ち込んで打ち落とす。
「……ふむ」
上と左右と前後を見て敵の不在を確認。
口笛を吹いて、安全な場所からミニビヒモーと荷車を呼び寄せる。
(素材は砦の食料や資材、資金になるだろう。勝手を知っているもの方が何が必要か詳しいので任せるのだ)
これを繰り返す。
習熟はさらに進んで解体の速度は上がり無駄も減っている。穴を掘って焼く頻度も低下した。
ストレガは依頼された内容を完遂した上で、同胞に利益をもたらすため物資をできる限り多く得てその中の多くを同胞のため使うつもりであった。
●執務室
「我に書かせるのは怠慢ではないかな代官殿」
「人手が足りないのよ」
ソファーの上でぐったりとした代官をじろりとにらんでから、ベルクはヴィントの帝国軍宛ての報告書を書き始める。
(他の地に出現し飢饉を引き起こしかねない……だけではないか。ここは帝都から敵勢が来かねない位置の1つ。それに)
客観的事実とベルク個人の推察は分けて書いてはいるが事実だけでもきな臭すぎる。
(さすがに穿ちすぎだとは思うが、今までの所業からエフレム卿の召喚物、ないし実験の産物である可能性を否定できん)
自然に零れた息は、非常に重かった。
なお、エルは書式に従うのを非常に面倒に思いつつ、ビヒモーの食い扶持確保に繋がる情報と提案を報告書にまとめていた。
「よっ、噂は聞いてんぜ、頑張ってるみてぇじゃねーか」
ハヤトは普段より声を小さくしている。
「依頼は毎回成功してもらっているのに復興に結びつけるのが難しくてね」
復興には複数世代かかることも珍しくないのにこのセリフである。セニャの自己評価は呆れるほどに高い。
「セニャ、俺は我がシュタールシュヴェーアト家の領地を取り戻す事を諦めてはいない。いつの日か我が領地を取り戻したらその時には結婚式を挙げよう」
アルベルトは甲斐甲斐しく毛布をかけている。
(いいけど土地だけあってもだめ。侯爵家という組織を再建して私の領地も確保してからじゃないと安心してくっつけないわよ)
睡魔が強く、むにゃむにゃと曖昧な発言になり聞こえたかどうか分からなかった。
●新規村建設地
「リーラントさんは頑張りましたね。ひとりであのクリーパーを相手取るのは負担がかかったと思います」
しかし今顔を出さないのは不義理。
「否定できないよー」
実績も行動もセニャよりなアルマも賛同する。
「……予想より堅いみたいだね」
指示を受けた井戸職人が苦悶の表情で予定の修正と念のため持って来た道具の手入れを始める。
井戸職人としてのキャリアは職人が上でも、スキルについては高位授恵者でもあるアルマに及ばないのだ。
「今回はサービスです。少し村の復興に手を貸しましょう。」
特定の貴族に肩入れする気はないが今のセニャは平民だ。
術使いとしてだけでなく魔法の専門家としても優れたエルフが、エーテルの面で被害を受けた井戸候補を候補から外させる。
代官が仮眠をとっている間も、復興事業は急速に進んでいた。
マスターコメント
お疲れ様でした。
ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人
2022年08月24日 14時36分22秒 公開
成功
参加者
相談掲示板
No.1
キャスターのリディリディです。 その・・・、よろしくお願いします。 とりあえずは蛇型のクリーパー3体の退治ですね。 3体よりも多く居るかもしれないということです。 加えて鳩の魔獣を退治して欲しいということみたいですが、 蛇型クリーパーと鳩の魔獣が居る場所は恐らく別のようですね・・・。 おまけに復興を進めるとリーラントさんの助けにはなるのでしょうが・・・。 さすがにそこまで出来るかはわかりません。 まずは蛇型クリーパー3体の退治を目標にしたほうが良さそうです。
ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー はい、穴掘り紋具~!(テッテレテッテッテー♪テッテー♪)の交換も間に合ったし ・丘に近い集落建設予定地 で土蛇さんをやっつけたあとに余力があれば試掘もやってみる予定だよ
ストレガなのだ。よろしくなのだ。 では、草の調査かねて鳥落としをやるのだ。 蛇は任せるのだ。
シーフのベルクだ、よろしく頼む。 宗波で探索はできるから蛇探しに回ろう。
エル、です。…シューター、です。 どうぞ、よろしく。 捜波、で蛇を探そうと、思い、ます。
帝国で代官をしているシーフのセニャよ。 よろしくね。
ウォーリアのアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 蛇4体を虱潰しに倒しに行く予定だぜ 『幸運の星』で探してみるか・・・
キャスター、アウレーリアです。宜しく。 蛇対応は索敵も戦力も揃っていそうですから、私も鳩狩りに参加しましょう。 ついでに草の焼却作業も手伝っておきましょうね。