【謀都】桃髪誘拐事件

馬車猪

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シナリオID:2410

オープニング

「毛並みがいいのが狩れたな!」
「今日はごちそうっすね!!」
 わははと欲に塗れた笑い声が響く。
 驢馬が牽く荷台には小柄な何かがみっしりと詰め込まれ、車輪の大きな音でも泣き声が消しきれない。
 ねーさま、と救いを求める声が、桃髪の幼児の口からこぼれていた。

●1時間前
 王都グランスパーダ。
 帝国が壊れかけた後は大陸唯一の超大国の首都だ。
 毎日どころか朝昼晩と人、物、金が集まり続け、常に空前の繁栄でありいつ絶後になるか想像もつかない。
「人がいっぱい!」
「若、危ないですぞっ」
 馬車から飛び降りようとした桃髪6歳児がお付きの老人に制止される。
「だいじょうぶ! ぼくがんじょうだもん!」
 平民相手に暴れもせず、言葉で要求を通そうとするのは貴族子弟としてはかなり穏やかな態度だ。
 実際、良い子ではあるのだ。
 この子に強い影響を与えた叔母(セニャ)が酷すぎるだけで。
「いえ、多少頑丈な程度ではですね……」
 揉める主従の前で荷物の積み下ろしが行われている。
 送り主はリーラント伯爵家。
 受取人は王国の大規模商家。
 殖産に力を入れている貴族と大商家の取り引きなので、動く物と金は膨大だ。
「ねえ君! あれなにか知ってる?」
 幼児は器用にお付きの腕から抜け出し飛び降り他人の労働を邪魔する。
「なんだよお前……」
 桃髪6歳児に詰め寄られた子供(十歳前後)がうろたえている。
 日を浴びて宝石のように輝く髪(桃色)も仕立ての良い服も、子供には縁がないものだ。
 なお、お付き達(護衛と隠密)は情操教育のため敢えて口を挟まず手も出していない。
「そうなんだ! じゃああの建物は?」
「だからお前なんなんだよっ」
 一歩下がれば一歩半距離を詰めてくる幼児がちょっと怖い。
 普段住んでいるスラムの流儀で手(拳骨)を出そうとしたときには死角に回り込まれている(6歳児ははしゃいでいるだけです)。
(これが授恵者(レシーバー)って奴か? なんなんだよもう折角うまい仕事にありつけたのに)
 内心泣きそうになりながら、臨時雇いの子供が貴族子弟に絡まれ続けていた。

●賊
「兄貴ぃ、ヤバイっすよぉ」
 頼りなく情けない声と表情だが体は素晴らしい。
 太い骨は強靱な筋肉で分厚く覆われている。授恵者としては駆け出しだが犯罪者としてはかなりのものだ。
「黙れ。気付かれる」
 答えた側は見た目は普通で、しかし力(エーテル)の気配は一回り以上大きく濃い。
 視線の先では薄汚れた子供達が桃髪の幼児(6歳児)と遊んでいる。
 最初はおっかなびっくりだったが既に遠慮など消え失せ、泥遊びの結果全員激しく汚れてしまった。
「ここはリーラントの縄張りっすよ。手ぇ出したら2、3日のうちに頭に穴開いて死んでるって噂の……」
 一部は事実だ。
 外道が実家の商売を邪魔したときはセニャが深夜に挨拶(細剣つんつん)していた。
「噂は噂だ」
 セニャ(高位授恵者)が行方不明になったという情報が今日届いた。
「連中はマジカルポケット使い(売れば高値がつく獲物)を飼ってる。若いうちから優遇してるそうだぜ」
「じゃああいつらもっすか!」
 誤解である。
 しかしリーラント伯爵家が授恵者を優遇し、雇用した授恵者にマジカルポケット習得を強く勧めて運送に役立たせているのは事実だ。
 盛り上がった子供達が駆け出す。
 王都の地理については非常に詳しいので、隠れて護衛していたお付き達は追いつけない。
「門から出てスラムに近付いたら仕掛けるぞ。2度はできない仕掛けだ。全員売り物にする気でいく」
「へい!」
 理性の大小はあっても欲に濁った瞳の賊達が、リーラント家の逆鱗(ジョセフ・リーラント6歳)の正体に気付かぬまま行動を起こすのだった。

●現在
「救出依頼のご紹介です」
 冒険者ギルド職員は騎乗して冒険者と並走中だ。
「ご覧の通り救出(誘拐犯捕縛)作戦が進行中です」
 細く曲がりくねったスラムを駈ける小型馬車を先頭に、怒り狂った貴族私兵(重装中堅授恵者)、騒ぎに気付いた衛兵など長い行列ができている。
「誘拐されたのは王都住民の子供4人と……」
 次期リーラント伯爵であるジョセフ・リーラント(6歳児)だ。
 まだ、誘拐犯は6歳児の正体に気付いていない。
 だが誘拐犯が追っ手をまいて少し落ち着けば、6歳児(ジョセフ)の正体は簡単に見抜かれてしまうだろう。
「依頼目的は救出です」
 リーラント伯爵家はスポンサーではないので6歳児(ジョセフ)の救出を優先する必要はない。
「ですがこの時期に手慣れた誘拐を行う犯罪者です。生きて捕らえることができれば、王都の闇に繋がる情報が得られるかもしれません」
 確実な勝利を狙ってもよいし、より大きな勝利を狙っても構わない。
 これは、冒険者のための依頼だ。

解説

●目的  誘拐の被害者の救出  被害者は王都の隅やスラムに住む子供4人と、桃髪6歳児1人の合計5人です ●戦場  スラムにある、掘っ立て小屋が狭い間隔で建っている場所です  小型馬車がぎりぎり通行できる程度の狭さです  避難誘導などは全くされていないため、気を付けないと無関係の人間を巻き込んでしまうかもしれません  敵は冒険者から直線距離で150メートル離れた場所を逃走中で、冒険者も敵も互いを認識しています ●敵  移動3で走る小型馬車(荷台に被害者5人)の御者台にいます  追いつかれると判断すると、1人が馬車から降ります ・キャスター  小柄で目立たない容姿の中堅以上熟練未満の授恵者です  レベルの割に抵抗と生命が高く、オブジェクト召喚を使った足止めや広範囲攻撃魔法を利用した脅しが得意です ・シーフ  言動は下っ端風な、隠密が苦手な中堅授恵者です  回避に優れていて敵前衛の足止めから突撃まで器用にこなします  兄貴と慕うキャスターが倒れると、判断能力が凄まじく低下します ●救出対象  全員非授恵者です ・王都の子供達  出身も種族も様々ですが貧乏なのは同じです  リーラント伯爵家と関係のある商家で短期雇用されていました  年齢は10歳前後で年齢の割には小柄です ・ジョセフ・リーラント  6歳児。素直で元気。セニャを10歳若くして善良にした外見です  年齢の割には賢く我慢強くもありますが6歳児でしかありません ●敵? ・スラムの住人  キャスター(敵)に「足止めしたら分け前をやる」と言われ、襲いかかってきたり足止めしようとしたり障害物を持ってくるスラム住人がいるかもしれません ●友軍 ・リーラント伯爵の私兵達  授恵者もいますが中堅未満の実力しかなく、重武装すぎて移動が低かったり非番中に慌てて非武装のまま走り出したりしたので今回基本的に役立たずです ・衛兵  非授恵者です。今回の戦場とその周辺の地形についてよく知っています  冒険者に積極的に協力し、指示がない場合は避難誘導や混乱の沈静化を行おうとします ●今回登場しないNPC ・セニャ  6歳児の叔母。6歳児からは姉として慕われています  6歳児が必要以上に活発になってしまった主な原因  今回6歳児に万一のことがあると怒りと嘆きで暴走します

マスターより

 プレイングによって、リプレイがシリアスな雰囲気になったりコメディっぽい雰囲気になったりしますが難易度は変わりません

リプレイ

●
 追っ手(冒険者以外)の怒声がスラムの一角を揺るがした。
 しかしそれらすべてより危険なのがセロンガード・シュタインドルフだ。
 ここ(スラム)の地形をある程度把握しているのに、自身へのダメージも周囲への損害も無視して障害物を蹴り潰しあるいは飛び越えあるいは真剣な表情のまま両手でこじ開けて進路を開拓しほぼ一直線に追って来る。
 全く表情は変わらないが100メートル以上離れても分かるほどに殺気が濃厚だった。
「追いかけるのはあたしたちに任せて!」
 速度も力もないのにいるのは邪魔、という事実を兵士(貴族私兵と衛兵)に指摘しない優しさがツィーラ・イェレミースにはあった。
「関係ないひとたちが追いかけてこないようここで足止めして。衛兵さんは避難誘導を」
 返事を聞く時間はない。
 セロンガード以上に地形を知り尽くし、セロンガード以上に周囲への被害を考えない賊が荷馬車(牽いてるのは驢馬)の速度を限界まで引き出している。
 なお、ツィーラが背負った大剣に下手な字で名前らしきものが書かれていることに気付き、首を傾げる者が結構な数いたらしい。
 邪魔をするな。
 圧倒的強者による威圧は戦いに無縁な人間にも理解できてしまう。
 ストレガ・L・リベルガストラが持つ強いカリスマとそこそこの威圧感が、授恵者としての強さで底上げされて強烈なカリスマと強い威圧感となり予想進路上のスラム住人を襲う。
 手を出すと酷い目に合う、何が起きるかは分からないが授恵者(ストレガ)が勝つ、関わるのは割りに合わないと直感的に思わせる威圧である。
 だが住民の数が多い。
 ストレガと関係なく馬車が引き起こした混乱により弱者が割を食い、足を傷めて混乱続く危険な場所で転倒する。
「そこに隠れておくのだ」
 障害物と住民を避けて駆けていたストレガが立ち止まり、ヒールを使って外傷の全てを治した上で建物の陰へ(騒動の外になるよう)移動させる。
「進路がまた変わったのだ」
 礼を言わなくては、と元怪我人が思ったときにはストレガの姿はスラムの奥へ消えていた。
「待て」
 殺意が滲んだ言葉が賊に投げつけられる。
 体格も良く鎧も全身鎧で、黒く大きくもちろん重くもある黒い盾(ウンボイクザーム)を装備したアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトはリザードマン戦士じみて大きい。
「ひぇっ」
 馬鹿にしようとした賊の1人が目を剥いた。
 人の波や掘っ立て小屋に進路を邪魔されたアルベルト(帝国侯爵令息)が、体格と装備重量を感じさせない加減速で障害物を迂回し標的(荷馬車)との距離を少しずつではあるが縮めていた。
「王子サマでも誘拐しちまったのか」
 誘拐の主犯であり、王都の後ろ暗いところとの繋がりも持つ男は顔が引き攣らせる。
 被害者やその家族からの怒りや悲嘆ではなく、重く硬いまるで国家そのものが牙を剥いたかのような殺意(冷たさ)が吹き付ける。
 その冷たさの源であり中継点でもあるかもしれないベルク・オスマットは、まるでここがホームグラウンドであるかのように素晴らしい速さで追跡する。
 進路の半ば以上は地面ではなく空中で、掘っ立て小屋の屋根や壁に足跡や指の跡を刻んで猛烈な速度を維持し続けている。
 馬車の荷台を覆う毛布が風で飛ばされる。
 露わになった数人の子供の中に、泥遊びで汚れても目立つ桃髪6歳児の姿があった。
(万が一があれば6歳児に放置かまして隙を作った伯爵を帝国代官(セニャ)が襲撃しかねないではないかっ!)
 帝国復興事業に大金を注ぎ込んでいる代官(高位授恵者)との強い血の繋がりを感じる。
 だから帝国のために助ける。帝国関係者という枠でセニャを身内に分類したからという理由もあるが建前では前者が10割だ。
「今なら実行犯である貴様らには特別に【五体満足】で降伏するチャンスをくれてやろう」
 物理的にも見下ろす目付きに賊達の反骨心が刺激される。
「降伏しなくても構わん。生きてさえいれば貴様らの四肢など存在する必要などないのも理解できんか?」
「兄貴あとは頼むっす!」
 大柄なシーフ(軽戦士)の男が馬車から立ち上がる動作で飛び出し迎撃を試みる。
 鋭い斬撃がベルクを襲う。
 攻撃頻度が多いだけでなく1撃1撃が重くしかも正確で、速度は素晴らしいが装備の性質上防御が高くないベルクにとって非常に痛い攻撃だ。
 しかしベルクは早い(INI37&先手必勝)。
 賊の攻撃集中を感じた瞬間自信は回避に集中し、通常なら当たっていたかもしれない複数の斬撃を余裕を以て躱してみせる。
「そうか。犯人には惨たらしい最後をくれてやるとして、とりあえず捕獲して色々と吐かせねばな」
 未だ無傷のまま、シーフは完全に追い詰められていた。

●
 数分前に顔をあわせたばかりと思えないほど呼吸があっている。
 リーラント伯爵家の持ち馬である黒馬と、黒フードでもふもふ金髪と美貌を隠したバンビは小刻みに進路を変えることを延々続けて最も密集した場所を突破した。
 バンビも馬もここが正念場と気合を入れる。
 片手で手綱を操る賊(キャスター)が、バンビにとっては聞き覚えのある術をほぼ詠唱し終わっていた。
「させねえぜ」
 言葉を丁寧にする余裕はない。
 ここまで弓矢も使わず機会を待っていたのは、今から行うこれのためだ。
 馬から飛び降り退避させ、エーテルを伸ばして驢馬の鼻先に光球として出現させる。
 スタティックフィールドというキャスターにとっての基本的な術であり、不意打ちによる動揺で賊の集中と抵抗が乱れて状態異常(【移動阻害】)に侵される。
 賊の視界に、黒フードからこぼれ落ちる豪奢な金と、落下するように前方へ進むフリーダ=ブロムヴィストの姿が現れた。
(誘拐犯の追跡ですが、誘拐犯達は本当に子供達が何者なのか知っているんでしょうか?)
 そろそろ気付く頃合いかもしれませんねと内心考えながら、釣りをするかのように細剣をひく。
 フリーダの意図に気付いた賊(キャスター)が炸裂する火球で反撃するが、対魔法でも防御に優れ生命力にも富むフリーダには有効ではない。
(啓示では「事案では無いので安心です。倫理的にもヘーキヘーキ」との事ですし、実際見る限りではまだ手出しはされていないと思われます。何にせよ早くこの大捕物を終わらせましょうか)
 2度目で釣れた(バーバリアンデスチェーン成功)。
 荷車に子供達を放置したまま、誘拐犯(キャスター)が冒険者(前衛ウォーリア)の至近まで引きずり出される。
(ここは馬車の進路上。ということは)
 馬車は急には止まれない。
 御者(導き手)を失った驢馬はぎりぎりで賊とフリーダを躱せはしたが荷台はそうはいかない。
 薄い防具しかない賊の体にめり込み、フリーダとまとめて強引に前進させる。
(啓示通り「車は急に止まれない。はっきりわかんだね」という結果になる訳ですね。「コメディ依頼ですしお子様にも安心」との事ですがそれは私達の努力があっての結果ですよたぶん)
 いつもより装備は軽いが体力は十分だ。
 フリーダは柔らかく荷台を抑えて荷物(被害者)達への被害を軽減。自らの足と地面をブレーキとして危険な速さから無難に停止可能な速度まで減速させた。
「てめぇらっ!」
 背中の痛みで視界が歪んでいるがこの程度で駄目になるならここ(中堅級)まで強くなる前に死んでいる。
 半数死んでも良いつもりで、荷台に向けて光弾を放つ。
「なにをしようというのだね?」
 若い声が響く。
 その声が届く前に光の柱が荷台と驢馬を包んでいる。
 一般的には純分に攻撃な魔法攻撃が、六角柱の形をした柱にぶつかり突破できなかった。
(この巻き込まれ体質はさすがセニャさんの弟(甥御)さん……なのかなあ)
 掘っ立て小屋というには少々頑丈な、違法な気配のする建物からアルマ・ヴァレンタインが荷台の上に飛び降りた。
「クソッ」
 賊の目の色が変わる。
 金よりも未来よりも今の生き残りを優先させるつもりだ。
「冒険者を足止めしたら金貨1枚くれてやる。これが証拠だっ」
 懐から取り出した貨幣を地面に叩き付けると、普通に生きていては1度も聞けないはずの音が遠くまで響いた。
「分け前なんて信用しないほうがいいよー?」
 ボクみたいにお金持ちじゃないんだから、と戦友(セニャ)を参考に大金持ち貴族令嬢のふりをする。
 アルマが小道具として使った宝石類は低質ではあるが本物で、自然の光を反射して光ると豪華で絢爛でもある。
「そーい!」
 1つずつ高速で投げ渡す。
 ナイフを持っていたスラム住民はナイフを腰に戻して両手で受け取ろうとして、投石して参加したことにしようとしていた住民も石を放りだして宝石を狙う。
「金貨を綺麗にしてたら結果は違ったかもねー。もともと偽物かもしれないけど」
 ふふんという表情をしても見本とは違って人の良さが現れていた。
 賊が状態異常をはね除けて移動しエーテルを集め始める。
「見え見えですわよ」
 攻撃に集中する予兆を把握したバンビが、周囲のエーテルを集めて準備万全で待ち受けていた。
 賊が術を術として行使する前に、高密度のエーテルで不気味に輝く魔矢が薄い防具を貫き賊(キャスター)の腹の一部を焼いた。
 フリーダが退路を塞ぐ。
 速度は素晴らしいが足止め用のスキルまでないので光縛封が時間切れした荷台(被害者)までは守れない。
 体は小柄でも何故か目立つ6歳児に、非授恵者なら戦闘不能ではなく即死を狙える威力の光弾を撃ち込んだ。
「よし!」
 アルマ達の狙い通りだ。
 スケープセイントでダメージを引き受けたアルマは歯を噛みしめる等せず普通に耐えている。
 強力なヒールで一般的には巨大なダメージもあっさり治療完了だ。
「ここで粘っても構いませんわよ」
 矢が飛んでくる。
 バンビは特筆する移動速度はないが判断と判断してから動き始めるまでが非常に早く、賊がどこに逃げようとしても先に矢を撃ち込み遮蔽物に隠れても移動して攻撃する。
 賊が逃げるか留まるか迷う。
 それはわずかな時間ではあったが、スラムの騒動に邪魔された他の冒険者が追い付くのに十分な時間でもあった。

●
「兄貴ぃ!!」
 スラムは大混乱だ。
 ベルクに背を向け大柄なシーフが荷馬車を追い、背中に複数刻まれた傷から血が飛び混乱するスラム住人に降りかかる。
 誰に味方し誰に敵対すれば生き延びられるのか、巻きこまれただけの人間(スラム民)には分からない。
「合流はさせないのだ」
  ストレガが術を使う。
  不可視の重力場が賊(シーフ)を中心に出現し、賊(シーフ)は進むのも下がるのも難しくなる。
 セロンガードは目標(6歳児)に視線を固定したまま、相変わらず賊(シーフ)も住民も目も向けず躱して前進を続けている。
「行かせないっす!」
「貴様ら……俺の義理の甥を誘拐するとはいい度胸だ。フルボッコにしてやる」
 アルベルトの声が賊の声をかき消す。
 全身鎧と大きな盾を装備しているとは思えない速度で竜鉄の大剣が振り上げられ、中堅授恵者程度では反応も難しい速度で振り下ろされる。
 それは奇跡に等しい一瞬だった。
 特性(スキル)だけでは足りず、雑念がたまたま消えたタイミングで全身の力をしぼり出すことに辛うじて成功し、半歩横へ踏み出すことで斬撃を腕の横すれすれで通過させる。
「あぶっ、ぶっ」
 賊(シーフ)の生命はともかく気力はもうすっからかんだ。
 千鳥雷切斬ほどではないが十分に高速かつ当たれば大打撃な斬撃を、汗と涙を流しながら回避に集中することでなんとか回避する。
 へっぴり腰(回避に集中)では筋力があっても威力が足りず、反撃の刃はアルベルトの盾に薄い傷をつけることしかできなかった。
 敵も味方もそれ以外も目まぐるしく変化する戦場に、ツィーラ(エルフの戦士)はわくわくする。
 剣を横に振り抜けば賊(シーフ)の無防備な背中に半ばまで叩き込めるという事実と誘惑に耐えて、エーテルを剣に注いで斬るのではなく飛ばす。フルスイングだ。
 賊の頭(誘拐犯)が逃亡を結構した丁度そのとき無色の刃が着弾。
 授恵者の頑丈な体でも耐えられない。
 細身のエルフがやったとは思えない大威力で防具は大きく凹んで骨も複数折れる。
 ツィーラの動きは止まらない。
 古傷が痛んだような感覚があった直後に剣の構えを防御用に変更。
 無言、無音のまま放たれたナイフが剣に弾かれ地面に転がり誰か(住民)に拾われどこかへ消えた。
「クソッ」
 賊の頭(キャスター)は死を覚悟すると同時に今の状況に原因があることにようやく気付く。
(ガキの中に金持ちの子供でもっ)
 殺意も執着も通り越しどろどろとした気配を放つセロンガードが迫る。
 直撃は回避しようと体を捻り、しかしセロンガードはさらに体を捻って賊の頭を通りすぎた。
 跳び込むようにして両腕の中に確保し、6歳児(ジョセフ)には衝撃を与えず綺麗に前転。
 表情は変わらないまま別人というより別生物じみた気配に、要するに普通の人間の範囲に戻る。
「安全な場所までお連れします」
 他の子供に目も向けないのは残酷だからではない。
 人質としての役に立たないと行動で示した方が、他の子供が安全になるのだ。
 背後から自身を狙う光弾もわざと受けて主君(6歳児)へのダメージを0にする。
 戦場から数百メートル離れてようやく、悲鳴を押し殺したか細い声でなく全力の泣き声が大きく響き始めた。
「捕縛させて貰うのだ」
 ここで殺された方がマシかもしれないが、慈悲をかけられる理由もない。
 爆音とまぶしさを伴う閃光波がストレガから伸び、キャスターの全身(内臓と脳)を揺らしてその意識を断絶させる。
 残ったシーフはアルベルトからの攻撃を生き延びるので精一杯だ。
 わずかな可能性に賭けて逃げようとして、しかし気配を察したバンビに矢で狙われている。
(どうして)
「遅いから……ですわ」
 矢が胸の防具に突き刺さり、貫かれはしなかったが衝撃は心臓に届いてシーフの体力(生命力)を枯渇させた。

●
「いろいろ苦労してるけどセニャさんも元気でやってるよー」
 手紙は預かっていないが、書き損じを持ってくるだけで安定した精神でしか書けない文字と文章を示すことができる。
「心配かけちゃうからヤンチャもほどほどにねー?」
 自身より背の低いアルマの言葉に、目を赤くした6歳児(ジョセフ)がこくりとうなずく。
「無事な姿を見せるのも次期リーラント伯の勤めですよ」
 セロンガードでも、恐怖から解放された直後の子供を宥めて家族に引き渡すのは大変だった。
 バンビが手を護衛を兼ねて同行する必要があったほどだ(ジョセフが手を離してくれないのでやむを得ず屋敷まで同行し両親へ事情を説明しました)。
「あぁ申し訳ありません忘れていました。王都の闇に繋がる情報を手に入れなければならないのでした。生かしておく理由があるわけですね……可哀そうに」
 屠殺される直前の鶏を見る目で賊を一瞥する。
「さてどこまで嬲れば貴様の口は軽くなるのかね?」
 荒野や帝国では効率的にやれるベルクも、王家のお膝元では難しい面がある。
 今も、再利用可能な程度で済ませてくれよという見慣れぬ顔のよく知る種類の気配を持つ人間が近くにいるのだ。
「リーラント家の、ジョセフ殿は同胞が世話になっているので同胞風に言えば商売仲間であり同胞の恩人なのだ」
 ストレガは冒険者ギルドの職員に手紙を渡している。
 御者を通じてマフィア(ブラックデス)に届き、背後を洗うのも含めて適切な手を打つはずだ。
 少なくとも、犯人の2人はすべて奪われるだろう。
 最終的に、指先に繋がる情報は出なかったがブラックデスを除く犯罪組織の情報はいくつか得られたらしい。

マスターコメント

 お疲れ様でした。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2022年08月21日 20時28分10秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウォーリアのアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 今回は移動力を「4」確保して、馬車を全力で追いかけるぜ。 戦闘ではシーフを倒しに行こうかな、キャスターが倒される前に倒すつもりだ。『兄貴と慕うキャスターが倒れると、判断能力が凄まじく低下します』との一文が少し気になるんだ。自棄を起こして攫った子供たちに危害を加えかねないか心配だからな。

  2. ストレガ・L・リベルガストラ

    ストレガなのだ。よろしくなのだ。 敵の足止めはアーケインだろうから 同射程のグラビティで相撃ちしつつ馬車を止めようかと。その後は如何しようか考え中なのだ。

  3. セロンガード・シュタインドルフ

    シューターのセロンガードです。 今回もよろしくお願いいたします。 T‐1000ダッシュで追いかけようか悩んでおります。 その他、詳細に関して(まじめに考える部分)は未定です。

  4. ツィーラ・イェレミース

    ウォーリアのツィーラ・イェレミースだよ。 よろしくねー。 目標までは30ヘクスってことで良いのかな。 全力移動しても結構かかるねぇ。 馬車も結構な速さで動いてるみたいだし・・・。 チャージングで動いてもちょっと時間かかるね。 足止めもしてくるみたいだし、ちょっと考えないといけないかも。

  5. アルマ・ヴァレンタイン

    ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー コメディあり…ヨシ! スラム住人さんの妨害が心配だしあとの分け前より目先の現ナマ、ってことで 宝石(低品質)をバラまいて気を逸らすお金配りおj…お子さま作戦か 衛兵さんに地形を確認のうえ母蜘蛛糸ロープで 掘っ建て小屋をダーマッ!式ショートカットで先回りして光縛封設置 「どこへ行こうというのかね?」作戦で考えてるよ

  6. ベルク・オスマット

    とりあえず我は2ターンあれば追いつけるが、どうするかね。 私一人追いついても手が足らなくなりそうなんだよな。 帝国代官が王国伯爵の暗殺事件を引き起こしかねない事態はぜひとも避けたいので、坊やには何がなんでも無事であってもらわねばいかんのだが。

  7. バンビ

    ハイスピードキャスターのバンビですわ。 早いのは判断力だけで、足は遅いので、足の速い人に先行してもらって馬車の速度を おとしてもらうのがよいかと思いますわ。 あとは先回りできればいいですけれど、俺達も追跡しながらブリーフィング受けているわけで。 射程内に収まってもらえれば何とでもなりますので。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0