【樹謂】今は眠れ、またいつか出会う友よ
菊華 伴
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シナリオID:2407
オープニング
「これは……」
事の次第を道すがら聞いていたユアン・イェーガーを始めとしたエルタニン里のエルフ達であったが、沢山の遺体に胸を痛めていた。同行していた冒険者達も皆、痛々しい惨状に息をのむ。
「このままでは哀れすぎる。早々に墓を用意しよう」
「そうですね。どなたか別れの詩を呼んでいただけませんか?」
「墓地も作らねば。苗木は足りるかな……」
エルタニン里のエルフたちは口々にそういい、手袋をはめ、口元に布を巻いては速やかに行動を開始する。
嘗て吸血鬼の魅了により授恵者ばかりに縋っていたエルタニン里の人々。彼らは吸血鬼が討伐されて以後、里の復興と同時並行で、大森林内で発生したトラブルによりケガをしたり、里を失ったりした人々をできる範囲で救っていた。
そして、戦いが終わり……アンデッドとして操られ、解放された遺体を弔う為に嘗ての戦場へと足を運んでいた。
遺体の一つ一つに清めの水をかけ祈りの言葉を紡ぐ人々。その間に墓穴を掘る人々。そして、遺体を運ぶ人々……。その中に、元里長の息子、コトヌシもいた。
(死んでなお、操られるとは……。悲しい事だ)
命への冒涜だ、と憤りを覚えると同時に、彼らに対する哀れみも覚え……目を開いた遺体の瞼を閉じさせる。
「ユアン。この人たちの為に私たちは墓を作る以外になにができるだろうか?」
「そうですね……。今は、よき転生を願う事しか、できないかも……しれません」
ユアンはコトヌシの問いに、酷く悲し気に呟いた。
ユアンは他の里から来た応援の人と話し合い、埋葬している場所に花の種を植え始めた。近隣の里の人曰く、それがこの辺りの弔いなのだそうな。
(彼らが、安らかに眠れるように……どうしましょう?)
コトヌシがその様子を見ていると、ひらりと蝶が飛んでいるのを見かける。そして……彼はぽん、と手を叩いた。
●慰霊祭をしよう
「……という理由で、簡単にではあるが、慰霊祭をおこないたい」
と、コトヌシは冒険者達に説明した。
冒険者達はエルタニン里の者と共に墓を作り、弔っていた最中である。だが、ひと段落したら死後、アンデッドとして弄ばれた人々を慰めるために、生き残った人々が少しでも前を向いて明日へ向かえるように、そういう時間を作るのもいいかもしれない。冒険者達は頷き合い、コトヌシの話に耳を傾けた。
彼曰く。エルタニンでは、年に一度死者へ祈りを捧げる日があるという。その際、『魂送りの儀式』という物を行うそうで、それを今回やりたいと語る。
「木を組み、火をつけます。その炎の中に……」
と言いながら木の葉の蝶を見せるコトヌシ。彼は静かに言葉を続ける。
「この、蝶の形に組み合わせた樹木の葉を入れ、燃やします。こうして蝶に乗って魂がそれぞれ信仰する死者の行く先へと運んでくれる、と考えられています」
コトヌシは、そっと微笑んで頷いた。
幸いこの辺りは木々に囲まれている。枯れた葉には事欠かない。作り方はエルタニンの人々が教えてくれるので問題はないだろう。
「それと、歌や楽器の演奏をしてくれる方もいると嬉しい。……死者の弔いに、エルタニン周辺ではよく行っているが、他の里ではどうかわからない。だが……」
コトヌシたちエルタニンの住人なりに考えての事だと考えた冒険者達は……。
解説
マスターより
リプレイ
(そういえば一年前くらいにもお墓が荒らされて、スケルトンさんを倒してあらためて埋葬とかしてたっけ……)
アルマ・ヴァレンタインは、埋葬作業をやりながらその時の事を思い出した。あの時はエルタニン里の墓地を舞台に、ネクロマンサーの少年によって操られたスケルトンと、それらに守られた魔獣を相手にした。あの時はまさか吸血鬼が里に潜んでいようとは思わなかったなぁ、と僅かに目を細めた。
「このぐらいでいいか?」
アルマに問いかけたのは、赤い髪が目立つ青年。後頭部に賢者の石がある為解りづらいが、ホムンクルスの一人で名をレピド・クロサイトといった。
彼は遺体に触れる事に対し抵抗がない為埋葬の手伝いを買って出た。今は丁度墓穴を掘っている所だったのだ。
「こっちのほうも、いつでも埋葬できるよ」
そう言ったのは整えられた遺体を担架に乗せて運んできたアラン・スミシー。彼はエルタニンの里人と共に慎重に運んできてくれたようだ。
「それじゃあ、一人ずつ奥の方から埋葬していくね。それから、土を被せた上に……」
アルマが里のエルフと打ち合わせした内容で埋葬の指示を出す。アランとレピドは里の人々と一緒に一体ずつ丁寧に穴へと横たえた。
(やっと、安らげるのかもしれないね)
アルマは、眠っている人に毛布を掛けるような気持ちで、そっと土を被せた。
レピドはホムンクルスである。
それ故に依頼の話を聞いた際、憐憫や憧憬、そして同族意識……と、微妙に整理がつかない感情を抱いた。だから、参加した。
(生前に罪を重ねてきた俺が二度目の生を得て、何の罪もなかった彼らは眠る。なんて皮肉なのだろう)
過去に暗殺業をやっていた事を朧気ながら覚えていた彼は、己の外見とあまり年齢が変わらないように見えるヒューマンの男性を見つめ、僅かに赤い瞳を細める。
――死んで、利用された所までは同じなのに、どこでこうして分かれたのだろう。
「どうしたんだ?」「何か異変があった?」
アランとアルマの声で我に帰ったレピドは「なんでもない」と小さな声で答えて立ち上がった。
「残りは、どれぐらいだっけ?」
「そうだね。向こうの方にもざっと20体ほど、この奥にもあと……」
アルマの問いにアランが出来上がった墓穴を数えながら答える。どうしようかと考えていたレピドだったが、エルフたちが遺体の上に土を被せ始めたのを見る。頷いた彼は、道具を手に取ってその中に混じるのだった。
(里も変われば、雰囲気も変わるねぇ)
と、かなり閉鎖的なエルフの里の中で育ったアランは周りのエルフ達を見て考える。と、一人の里人がアランに花の種を渡してきた。
「これを、お墓の上に。指で浅く溝を作ってから少しずつ蒔くといいよ」
「あぁ、ありがとう」
礼を述べ、言われた通りの作業をやっていく内に、「故郷ではどんな弔いをしていたかな」となんとなく考える。
(遺体の上に咲く花々かぁ。花に包まれてみる夢は、どんな物だろうね)
アランは想像してみる。墓一面に咲く花々を。それはきっと、とても綺麗な光景だろう。作業を終えた彼は、僅かな間その光景をイメージしてみるのだった。
(あっ……)
アルマは、遺体の中に幼い子供のモノを見つけた。胸の痛みを堪え、整えられた遺体の上に土を被せながら、小さな声で「おやすみ」と囁いた。
様々な年齢、様々な種族の遺体を埋葬しながら何気なく遺体を見ていると死化粧を施す前より少し表情が柔らかくなった気がする。
中には戦闘でボロボロになっただろう遺体や、体の一部がない物、骨が剥き出しになった物もあった。が、それを花や木の枝、綺麗な布などで補い、顔や頭部の損傷が酷い物には仮面をつけ、と丁寧に作業をしていくエルフ達がいた。
「凄い……」
ボロボロの遺体を少しでも生前に近づけようとした彼らの技に瞳を細めていると、片目がない遺体を見つけた。アルマは一輪の花を摘むとその眼孔に挿し、そっと祈った。
3人は他のエルフ達と共に埋葬作業に勤しむ。
埋葬班の纏め役曰く、花が咲くのは来年の春になるだろう、という事だった。
(その頃になったら、見に行きたいな)
アルマは、花の頃の墓地に思いを馳せ、小さく頷いた。
●蝶よ、蝶よ……
「木の葉の蝶は、このように作ります」
ユアン・イェーガーが木の葉を重ね、木の細い枝をさして止める。それをもう一つ作り、最後に枝の間に折り曲げた葉を入れて見せた。
ややゆっくりめの動作と、丁寧な説明に集まった人々は解りやすいな、と感じつつ蝶を作った。
「……葉っぱ4枚と枝で……、蝶になった」
凄い、と内心で呟きエルは少々目を見開く。傍らにいるリスのリルはエルの様子にきょとんとしているようだった。
(成程、確かにこれは単純な作りの蝶だな)
一点集中して、少しでも多く作ろう……と、ナタリア・フィッツジェラルドは真剣な顔で頷いた。
言われた通りにやってみると、力加減も大切だという事が分かった。間違うと上手に枝が挿せず葉が破れてしまうのだ。
(葉の選び方も重要なのか)
少しだけ亀裂が入った蝶を見、ナタリアは僅かに目を細める。
「材料の葉は、乾きすぎていない物を、選びました。でも、中には、そういうものも交じっている事があるの、です」
だから気にしないでほしい、とユアンは言う。
「この葉ならば、程よく作れると思います。この種類の枝は……」
と材料選びのコツを教えてくれたおかげで、ナタリアとエルは徐々に蝶作りが上手くなっていった。
エルが「リルも、どの葉っぱがいいか教えてね」と小さな相棒に言えば、リスはちょろちょろと葉っぱを見……木の実を見つけて自慢げに見せてくる。そんな姿も可愛く、エルフたちもほのぼのと見つめていた。
それを愛らしいと思いながらも、ナタリアは祈りを込めて蝶を作る。
(蛹を破り、蝶となるのと同じように、かつて森の一部だった者達が人の手により蝶となる)
出来上がった蝶を見つめ、ナタリアは思う。これまでにどれだけの命が失われ、その尊厳を歪められてきたのかは分からない。だが、願わくは……。
(この蝶達が燃え尽きた暁には、犠牲になった無辜の民が次の健やかな生を歩めるべく、善き転生が為されん事を……)
そっと、篭に乗せた蝶を見、1つ頷くと彼女は再び蝶を作る為葉を手に取った。
「あの……思いついたのですが……」
エルは、葉にお祈りの模様や言葉を、描いてみるのはどうか、と提案した。それにユアンは笑顔で頷く。
「とても素敵、ですね! 是非、やってみて、下さい!」
ユアンは葉の裏になら枝で色々書けますよ、と教えてくれた。エルは早速祈りの言葉をそっと刻み込む。
その様子を見ていたのは、エヴァン・ピオネロ。彼は場の雰囲気を壊さないよう気を使って、別の場所で亡くなった方の好きな物などわかる範囲で調べていた。
(似たようなことを考える方は、いるのですね)
その事を嬉しく思いながら、彼もまた蝶を作る。
甘い物が好きな人の為に一滴花の蜜を垂らし、花が好きな人の為に小さな花を挿す。そして、お酒が好きな人の為に酒を一滴垂らす。
(どうか、道中の慰めにして下さい)
エヴァンが祈るように目を閉ざし、そっと篭へと入れる。目を開けた時、埋葬に勤しんでいたアルマを見かけ、小さく微笑んだ。
彼女は持てる技術を使い、かなり奮闘しているようだ。
その事を微笑ましく思っていると、新しい篭が運ばれる。ナタリアが他のエルフから篭を貰ったようだ。よく見れば、慣れている里の民たちは彼らより沢山蝶を作っていた。
その事に少し驚きながらも、3人は顔を見合わせる。
「先ほどイェーガーから話を聞いたが、目安として遺体の数だけ蝶を作るらしい」
我々も頑張ろう、とナタリアが言えば、エヴァンとエルも頷いた。
だが、エヴァンはちらり、とユアンを見る。彼は、なんとなくだが、ユアンの事が気がかりだった。
●次の巡りへ繋ぐ為
一方、慰霊祭の会場準備。
広場の真ん中に薪が組まれ、中にはよく乾燥した葉や枝が入れられている。
エルシー・サリバンはコトヌシ・エルタニンに指示を貰いながら、準備を手伝っていた。
「次は何をするの?」
「そうですね……」
コトヌシは辺りを見渡し、人が足りない所に向かってもらうよう彼女に伝える。エルシーは笑顔で頷き準備を手伝うが、ちらり、とコトヌシを見る。彼女は、コトヌシの事が気がかりなのだ。
(こう言うのは自分の中に落とし込むのに時間が掛かるから……)
たとえ今、落ち着いているように見えても、何かのきっかけで、溢れてしまうかもしれない。
(私でも良いなら、泣いて良いんだよって、手を握ったりできたらな)
ふとコトヌシを見る。彼は背をピンッ、と伸ばしてテキパキと指示を下す。その顔に疲れはなく……。それでも、やはり気になっていた。
ヴィナスとキリアン・フィッツジェラルドは演奏を担当する者達と打ち合わせをしていた。
(亡くなった者達の魂を送り出す……僕としても思う所がありますね)
話し合いながら、キリアンは思う。生きる為とはいえ、狩りを以って命を食らい、自分達の命を明日へと続けているのだから。
「慰霊祭とは死者だけでなく、生きている者の為でもあると俺は思う。そうして、彼らを忘れず、けれど、前を向いて歩く為のもの、と」
自分が逆の立場ならばそう願うから、とヴィナスが言えばキリアンも頷く。
だからこそ、彼らに馴染みのある曲で送りたい、とヴィナスがエルフ達に春夏秋冬で奏でられる曲があるか、と問いかけると幾つか教えてもらうことが出来た。
「今の季節なら、丁度『星降りの歌』が合うかもしれない。これは少し離れた里から伝わった、別れの曲だが……」
「もう少し後の季節になるが、『月滴の歌』もいいんじゃないか?」
「冬ならば『木枯らしの踊り』で送るのもアリだと思うんだが……」
と、次々に提案される。
「そのいくつかを編曲するのですか?」
ふと、キリアンが問えばヴィナスが1つ頷く。本番まで時間は短いが、続けて演奏するための工夫ならば、間に合うだろう。
賑やかな曲はスローテンポにすれば合うかもしれない、とヴィナスが提案すれば、おおむね賛成の声が返ってくる。
「さぁ、練習を始めようか」
「時間もありません。やりましょう」
キリアンも頷き、楽師たちは早速音合わせから始めた。
(綺麗な音色……)
エルシーが作業の合間に聞こえてくる音色に瞳を細めていると、「おつかれさま」とコトヌシが飲み物を持って声をかけてきた。礼を言って受け取ったエルシーだが、コトヌシの横顔が、ほんのりと寂しそうに見えてしまい、ふと顔を逸らす。
脳裏に過ったのはエルタニンを影で操っていた吸血鬼の女性――アルナダブ。里長であったコトヌシの父親は彼女の手によって吸血鬼となり、冒険者達の手によってアルダナブ共々葬られたのだ。
――ねぇ、私と貴方何が違うの?
(違い……。多分、心の支えになる、大切な人がいた事かな)
散り際に零したアルダナブの言葉についてエルシーが考えていると、コトヌシが優しく微笑んでいる。
「どうしました?」
エルシーは彼の顔を見、里長の事を思う。何故吸血鬼に加担したのか。
「あの……」
エルシーはほんのりと寂し気な雰囲気が漂うコトヌシに、そっと問う。
「里長さんの事……もう、大丈夫なの?」
「はっきりとは、そういえないと思う。……でも、気にかけてくれてありがとう」
コトヌシは、そっと礼を言うとエルシーに自分の仕事を手伝ってくれないか、と頼むのだった。
「埋葬は終わったよ」
アランがレピドと共にコトヌシの所にやってくる。また、蝶を作っていたエルたちも蝶が入った籠を持ってきてくれた。
「これだけ蝶があれば、事足りますね」
コトヌシが篭一杯の蝶を見て頷けば、傍らのエルシーが準備の為に持って行く。
少し離れた場所では、演奏を担当するヴィナスとキリアンが最終的な打ち合わせをしていた。その姿をナタリアが微笑まし気に見つめていた。
「お疲れ様」
「アルマもね」
アルマとエヴァンは互いに労い合いながら慰霊祭の会場を見た。広場の真ん中に組まれた木にもうすぐ火が灯る。それが、慰霊祭の始まりだ。
「そろそろ始めましょうか」
夕日が静かに沈みゆく様を見ながら、ユアンが言った。
●魂送りの儀
やがて、日が沈み夜の帳が降りる。
炎が灯され、大きくなり、代表となったユアンが朗々と弔いの詩を読む。静かな森に響く彼女の声は、とても優しく、子供を寝かしつける母親のようにも思えた。
詩の朗読が終わると、そっと音楽が聞こえてくる。これを合図に蝶を炎の中に入れて祈るのだ。
(どうか、よき旅路を)
祈りながらヴィナスが丁寧に曲を演奏する。その傍ら、キリアンもまた真剣な表情で演奏をしていた。
(姉さんが見ている手前、失敗は許されません)
ふと、姉でありナタリアを見つけ身が引き締まる思いになる。そう言えば本番直前に目が合ったのだが、「無様な姿を見せるんじゃないぞ」と言っているかのようだった。
(せめて墓前の花々が、輝かしく咲きほこらん事を)
いつの日か咲く花を思いながら、キリアンは心を込めて演奏した。
エルは、葉っぱの蝶が無事に燃やされるよう、お手伝いをしていた。火の番であり、上手く入らなかった蝶を火に入れてあげるお仕事だ。
(今度のことで、亡くなった人達、残った人達も、少しでも気が休まりますように)
彼女も祈り、蝶を火の中に入れ……ユアンと目が合った。
「エルタニンの人たちも、元気そうでなによりです」
完全にではないだろうが、エルはそう声をかけた。ユアンは小さく頷き「お陰様で……」と微笑む。
「もしかして、アルダナブ関係で亡くなった人たちも……一緒に?」
「えぇ。ここのところ、慌ただしくて」
それはそうだろう。大森林のあちこちでトラブルが発生し、エルタニンでも避難した人々を助けていたのだから。
「みんな、安らかに眠れますように」
エルはそっと祈り、ユアンは小さく「ありがとう、ごさいます」と優しい顔で呟いた。
「ユアンさんは、許せましたか?」
ふと、エヴァンが問う。ユアンは暫く黙ったまま炎を見つめていたがやがて「いいえ」と小さく答えた。
「多分、これからも、このしこりは残る、でしょう。けれど、もう……これ以上責めることはしません、よ」
原因は解り、排除された。だが、彼女の心に刻み込まれた猜疑心や苦しみは、癒えていない。だが、ユアンは「少しずつでも、許せるようになりたい」と呟いた。
「ご両親は、今、自由に飛びまわっているでしょうね。あっちで里人との蟠りを解消出来る事を祈ります」
「……そうだと、いいですね」
ユアンはエヴァンの言葉にそっと微笑み、手を組んで祈った。
エヴァンの傍らで、アルマも祈りを捧げていた。彼女は大切な人と手を繋ぎ、静かに瞳を閉ざす。
(この前の戦いでもたくさんの人が犠牲になっちゃったけど……、みんなの祈りがこもった枯葉の蝶に歌と演奏でお弔いして、還るべきところに還れたらいいなぁ)
ちらりと傍らをみると、エヴァンと目が合った。二人は微笑み合い、想いは同じだと感じた。固く繋いだ手から伝わる温もりが、確かに今、二人ともにある事を感じさせる。エヴァンとアルマは、しばし手を繋いだまま祈りを捧げた。
炎の中に木の葉で作られた蝶が入れられ、燃えていく。
その様子と立ち上る煙を見つめ、ナタリアは静かに思う。
(人々の常識は数多の屍と血文字で描かれているが故に、私達はここで折れてはならない)
だから、立ち止まってはならない、と彼女は真剣な眼差しを炎に向ける。
「また、いつか」
会えるその時まで、さよなら……と、ナタリアは小さく呟いた。
赤々と燃えあがる炎を見つめ、レピドは己の事を振り返る。
(この今ある『生』は、生前の贖罪の為なのか、それとも──)
ふと、レピドは傍らのアランに問う。――なぁ、アンタはどう思う? と。
「うーん……」
アランは顎を撫でながら考え、炎を見つめたまま口を開いた。
「人が生きるのに、最初から理由はないよ。見つけて、そしてどう生きるか決める。そして人が死ぬのに、大体、理由はないな」
そこまで言うと、振る舞われた果実のお茶を飲み、言葉を重ねる。
「ま、おじさんも、君も偶然、今、生きているという他にないね。運がなければ死ぬ……というわけではないけれどさ、どれだけ善い人も悪い人も、状況によって生きたり死んだりするから、だからほんとうに、偶然」
そこまで聞いたレピドは、僅かに目をぱちくりさせる。
「そうなのか?」
「うん。それだけ。それだけだけど……」
アランは頬をかきながら、そっと、小さく微笑んだ。
「まぁ、善くあって長生きしたいし、喪われた人は大切に弔ってやりたいな」
「そうか……」
最初、ピンとこなかった。だが、言葉を脳内で繰り返していく内に……少しだけ胸の中が軽くなった気がする。
「そう、だな。きっと、そういう事、なんだ」
レピドは、胸に手を当て、刻み込むように呟いた。少しだけ表情が明るくなったような気がした、アランは小さく微笑んだのだった。
少し離れた所で、エルシーはコトヌシと共に儀式を見守っていた。二人は、しばし炎を黙って見つめていたが……ふと、エルシーが口を開く。
「自分が崩れると回りも不幸にするから、私は何時も自分を律するの」
急に何を出だしたのだろう、とコトヌシが不思議そうにしている。ややあってエルシーは炎を見つめたまま、再び口を開いた。
「私、考えたんだ。どうして、里長はアルダナブに思い入れたのかって。もしかしたら、アルダナブを慰める事で、コトヌシや里の人間を守りたかったんじゃないかな」
コトヌシはしばしエルシーを見つめていたが、ややあってため息を吐く。
「……だったのかも、しれませんね」
どこか遠くを見つめながら、コトヌシはエルシーに微笑みを思わせる声色で呟いた。その横顔があまりにも寂しくて、悲しそうで。だから、エルシーは、そっとコトヌシの手を取った。
「この炎が消えるまで傍にいるよ」
コトヌシの青い目が見開かれる。そこから滴が溢れ、頬を濡らした。
「父さん……」
彼は声を押し殺し、父を思って泣いた。エルシーはただ黙って手を握り、炎が燃え尽きるまで寄り添った。
やがて、全ての蝶が燃やされ……炎も小さくなっていく。
演奏を終えたヴィナスとキリアンは楽器の手入れをしながら、燃え尽きた焚火をみた。蝶は全て灰になり、片付けられていく。だが、蝶だった灰をエルフ達は固めの葉っぱを使い、灰を集め、遺体を埋葬した場所へと巻き始めた。
「これは……?」
「こうして、慰霊祭に使った蝶の灰は花の種をまいた場所に撒かれます。魂は煙と共に巡りへ、燃え残った灰は、今眠りいつか花咲く種へ。きっと花を見られるように」
疑問に思ったキリアンの言葉に、ユアンは静かに答える。ヴィナスはその光景を見つめながら、小さく微笑んだ。
「命はこうやって、送られ、回っていく……」
ヴィナスは、静かに頷いた。
埋葬と慰霊祭も終わり、冒険者達と大森林の住人たちが帰路につくころには既に真っ暗となっていた。焚火の炎からカンテラに火を灯され、近くの里へと向かう。
「既に休む準備が出来ているらしい。今宵は、食事をとって汚れを落としたら休むように」
目を赤くしたコトヌシが冒険者達に伝える。その傍ら、エルシーは優しい顔で彼に寄り添っていた。
「長い一日でしたね」
キリアンの呟きに、ナタリアも「そうだな」と頷く。彼女はしばし黙っていたが、ややあって、静かに弟の名を呼んだ。不思議に思いキリアンがナタリアを見る。彼女はしっかりと前を見たまま、小さくもはっきりとこう言った。
「今日埋葬された者達の為にも、私達は、歩き続けなければ」
「そうですね……。こんなことがおこらないように」
二人並んで歩くその先、どんなことが待っていようとも。
そう、誓いを立てて……。
(終)
マスターコメント
イベントシナリオ普通 報酬:標準9 / 5〜25人
2022年09月05日 11時58分29秒 公開
相談掲示板
アルマだよ、どーぞよろしくねー 今のところは 2)埋葬をしよう/お墓周辺に花の種を植えよう に参加しようかなと思ってるよ あとは先日の戦いにも参加してたし『魂送りの儀式』でもその辺を振り返ったりー…の予定
エルシー・サリバンです。皆さまヨロシクね。 コトヌシさんとお話がしたいので、3)会場整備、に参加するね。
アラン・スミシーだ!2のお手伝いに行くことにするよ。 どうぞよろしく~!
レピド・クロサイトだ。 2の埋葬の手伝いに行く予定。よろしくな。
エル、です。どうぞ、よろしく。 3)で、演奏に混ぜてもらおう、と思い、ます。
ヴィナスだよ、よろしく。 3)で演奏する予定。
エヴァンです。宜しくお願いします。 1)『魂運びの蝶』の人がまだ居ないので一緒に折らせて頂きますね。
遅くなりました!シューターのキリアン・フィッツジェラルド。 姉のナタリア共々参じました。宜しくお願い致します。 僕達姉弟は共に【3】の演奏の打ち合わせに参加したいと思います。 その際、姉は別件で舞踊スキルを取ったので、演奏に合わせて葬送の舞踊をも披露するつもりです。
…ん、1)、が少ないみたい、なので、そっちに変わろうと、思い、ます。 枯葉の蝶、を作るのも、いいかも、です。
ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 先程愚弟が言っていたように、私は当初【3】にて演奏なり舞踊なりを披露するつもりではあったのだが…… 【1】の数が少なめともなれば、そっちに移って作業の手伝いを願い出たい。 蝶もまた、変化と転生の象徴ともいえよう……個人的に、思う所があってな。
慰霊祭に、お集まりいただき、誠にありがとう、ございます。 報告書(プレイング及びアイテム、スキルのセット)の締め切りは17日の23:00になりますので、白紙などに気をつけて……下さい。 よろしくお願いします。