【謀都】ヒト・モノ・カネの動きを追え【思錯】
夜帷かもめ
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シナリオID:2402
オープニング
王都グランスパーダの主要な通りに繋がる要所である大きな門の、その一つ。人によってはここを通称、アルヴィゾ門と呼ぶ。
そんな、王家の威容を誇るような立派な門の、その下で。今日も王都を出入りする商人らが荷を検められていた。
「早く通してくれよ! 急ぎの荷なんだ」
急いた様子の商人らしき若い男が声を荒げる。それを鷹揚に聞き流した壮年の憲兵は、ニマリ――と口元に笑みを浮かべてその男へ答えた。
「急ぎの荷……ねえ? 申告書には特に痛むような食材は無かったと記憶しているが、酒や砂糖、穀物の――どこが、急ぎの荷なんでしょうかねぇ……」
ちょっと、奥で話をしましょうか。そう言って、物腰は穏やかに、だが有無を言わせぬ力強さを以て憲兵は商人の男を門の横手にある詰所へと連れて行った。
ややあって、商人の男が先ほどの憲兵を伴って詰所から出てきた。彼は自分の荷馬車へ憲兵を連れていくと、改めて荷を詳らかにする。今度は、憲兵もすぐに頷いて通行の許可を出す。
「なるほど。申告通りですね――通っていいですよ」
その言葉を聞くや否や、商人の男は御者台へと飛び乗って馬車を動かす。
門にはまだ多くの通行を求める人々が列を成している。それらを、後を引き継いだ別の憲兵がまた、先ほどまでと同じように淡々と処理をしていった。
●ファロン通り
早朝。地平線の彼方に日が昇り始めると同時に、一人の男がやってきて通りの検問所の鍵を開ける。
彼は、どれ程長い間この仕事に就いているのだろうか。往来に人が多い日も、少ない日も。こうやって朝に鍵を開けて、夜に閉めるという生活を男は繰り返していた。
通りを通行する人々を確認し、たまに不審な人物がいれば呼び止めて荷を確認するなどする。
全ての通行人を確認することは難しいが、大半は男と顔見知りの人物ばかりだ。これまで、そのやり方が問題になったことはない。
こうして、また今日も男の一日が終わる。日が暮れると、男は検問所を閉じて、周囲を見回り、状況を記録簿に残してそこを後にする。
また明日の仕事も早いのだ。
●エスカメ水門
船の上で、男が合図の鐘を鳴らしていた――カラン、カラン! 大きく響くその音を聞いて、周囲から子供らが集まってくる。
今日はグランスパーダへと接続する交通網の中でも、水運の要となっている水門が開くのだ。
材木や、水物をいっぱいに入れた樽、時には牛や馬などの家畜など街道を運搬するのが難しい大口の貨物などは水路を使ってグランスパーダへと持ち込まれる。その管理の一端を担っているのが、この水門だ。人呼んでエスカメ水門――誰が最初に呼んだかは定かではないが、今となっては通り名として認知されている。
船が水門の傍の桟橋へ横づけすると、地上側の係員がそれっとばかりに船へと飛び乗る。船頭から事前に申請された荷と、実際の積み荷が相違ないかを確認しつつ――同時に、船に痛みなどが無いかも点検していった。
水路の先で船が損壊したりすることの無いよう、簡易的なドックの役割もここの係員は担っているのだ。
そんな男らが忙しくも働く様子を、人々は物珍し気に眺めていた。
●授恵者らへの依頼
「つまりは、王都に持ち込まれている物資の分量が、王家が把握しているそれと相違しているというのがそもそもだ」
ヘンリエッタは授恵者らへと告げる。
「物資の流通量は民衆の生活を左右する。価格も当然だが、物資が乏しくなれば幸福感が下がる。それは好ましくない」
故に、生活に必要な物資――食料品や、酒など一部の嗜好品、貴金属類など市場価格が高いもの――については、流通を統制することこそせぬものの、その物流状況については把握しておきたいというのが国としての本音。必要に応じて備蓄を放出したり、税の徴収を調整するなどの対応も必要だ。
ウィリアム王子の私的な依頼を請けて、任に当たっているヘンリエッタがそれらの状況を調べているうちに、不可解な状況が見えてきたのだという。
「どこかに、こちらの眼をすり抜けている物の行き来がある――そうであるなら、恐らくは人も」
好ましからざる者が出入りしているだろう。彼女はそう、苦々し気に吐き捨てる。
事前の調査でその問題となっている地点は3か所まで絞れているが、その中のどれが実際に不正に手を染めているかの確証が得られていない。
「別件で私は王都を1週間ほど離れなくてはならない。その間、私の後を引き継いで調査を進めておいて欲しい。実行犯の拿捕などは無理にしなくて構わない――どうせ、最初に見つかるのは小物だ」
他に何か、当面の質問は――? と問いかけ、追加が無いことを確認するとヘンリエッタは頷く。
「何の因果かは知らんが、期待しているぞ。新米授恵者達」
そう言って、かつては苦汁を舐めさせられた相手に向かい、彼女は頭を下げた。
解説
マスターより
リプレイ
(うーん……横領や、未申告の別ルートがあるのかな?)
単身、大通りの雑踏に紛れたアステルは思う。卓越した隠密術と鋭敏な聴覚を持ち合わせた彼にしてみれば、一般人に気取られたり訝しまれない遥か遠くに在っても、目的の門の動向を探るのは容易い。1週間という調査期間を有効に使い、慎重に門を通過する人々の様子を具に確認していった。
(これって、もしかして?)
数日掛けて人の流れを見ていると気が付くことがある。1日に数件、最初から憲兵が詰所へ通行人を連れていく場合がある。そして、それらは全て――同じ隊商の旗印や所属証を掲げていた。彼らは詰所の中で何事か、しばらく話した後に通行許可を得て門の中へと入って行った。
(当たりかな――)
声を出すような迂闊な真似はしない。ただ、静かに口を笑みの形に吊り上げるとアステルは門へと近づく。詰所の中の様子を聞き取るには、さすがに少しばかり近づく必要があった。
『しかし、いい商売だな。小遣い稼ぎにはもってこいだ』
詰所の中で衛兵が話している声が聞こえる。どうやらここの衛兵は皆、グルになって賄賂を受け取っているらしい。現場に踏み込めれば一番だが、それは単身では難しいか。授恵者の身体能力に任せて大立ち回りをするも出来なくはないが、それはそれでまた別の問題を引き起こす。彼は一旦、現場からは引き下がることにした。
更に裏を取るために、荷馬車が進んでいく先へとアステルは先回りする。すると、ひとつの大きな商会へとその馬車は入って行った。どうやら、露店や一般向けの商店を開くような小規模な商いではなく、軍相手や集落単位の――大きな取引を専門にする大店のようだ。
(楽しそうなことになってきた――!)
背後で糸を引いている大物の存在を嗅ぎ付け、彼は武者震いする。
●ファロン通り
「抜かるなよな?」
「ハハハ」
少し皮肉めいた声を掛けてきたナハシュに、ヨル・スレイマンは笑みで返す。もう付き合いも長い。これが彼なりの激励であることを理解して、ヨルはそれをただ受け止めた。
役割分担を徹底する以上、任務中は顔を合わせることは無いだろう。依頼を請けた授恵者らの事前の打ち合わせにて、二人はファロン通りの調査を分担することに決まっていた。
――・――・――
(夜中にこっそり通るなんて奴がいるなら、それはそれで話が早いんだが)
夜の闇に紛れてナハシュは独り言ちる。既に検問所の灯は落ちて、時折り回ってくる警邏の提げるカンテラだけが道を照らしていた。だが、ナハシュの瞳は光の無いこの場所でも仔細に状況を捉えている。いたって、静かな夜だった。
(なるほど、鍵回りはしっかりしてるか)
本職の盗賊が本気を出せば解錠や、塀を超えることは可能だろう。だが、それがされていない――その程度の警備だということは、この場所に於いてそういった問題が露見していないことを逆説的に示す。王都の警備隊も莫迦ではない。必要十分、と判断されているのだ。
(となると、問題があるとしたら昼なんだな)
正々堂々と後ろ暗い荷を運ぶ者がいる、か――それはそれで面倒だな。相方へと言伝る伝言を認めながら、ナハシュは闇の中、一人思案を巡らせた。
――・――・――
「……さて」
ありあわせの旅装を身にまとい、旅の商人を装ったヨルは正面からファロン通りの検問所と向かう。朝早くから、ぽつぽつとの通行を求める者の姿が見えるあたり、それなりに交通量はありそうだ。
通行の由を憲兵に申し出ると、ヨルの顔を一瞥して「そうかい。ちょっと調べるからあっちで待っててくれ」と片隅を示す。そこには、荷検めを待つ者らが少ないながらも列を作っていた。
「こんな道があるなんて知らなかったな。有名なのかい?」
「有名――とまではいかねえな。アンタ、初めてかい」
「そうだね。人づてに、他の門よりは混まない道があるって聞いたもんだからさ」
気さくな男の仮面を被り、ヨルは前を並ぶ商人へと話しかける。
荷検めの列は、それなりにてきぱきと進む。その横で、荷検めを通らずに検問所を通過する者らの姿があった。
「――あれは?」
前の男へ問えば、彼が答える。
「ああ……多分、知り合いなんだろうな」
街の中の住人や、よくこの門を使う者までをいちいち留めていたらそれなりに時間がかかる。だから、憲兵が信頼がおけると判断した連中はああやって素通しすることもあるのだと彼は苦笑いした。
「さすがに荷を持ってる連中は検められるがね」
懐に隠しておけるものも知れてるだろうし、それでもいいのかもねえ――と。男が続けた言葉がヨルの脳裏へと残る。
――・――・――
(あれは)
一般人じゃないと。ナハシュの経験が告げていた。
『空荷で検問所を通る連中を尾けろ』
ヨルからの知らせにはそうあった。だが、あれは授恵者。しかも――かなりの手練れだ。どこにでもいる街人の服装をしているが、身体付きが、所作がその実力を物語っている。
幸いにして尾行されているとは思っていないことが、目標の女の追跡を可能にしていた。
(マジカルポケットぐらい覚えてるだろうな)
目的があり、方法があるならそれを止めることは出来ない。授恵者であれば、授恵者のやり口に思いも至るが――こうも授恵者の数が増えたのは帝国崩壊以後だ。
王都の警備兵とはいえ、検問所の荷検めをするだけの男がそこまで気にしているとは思えない。言えば、相談すれば――自分が咎められるのだ。そうして無自覚の共犯者を得て、真犯人は本懐を遂げているのだろう。
王都の中でもひときわ豪奢な屋敷。その中に女が入って行くのを見届け、ナハシュは踵を返す。後日、その屋敷はとある法衣貴族のものであることを彼は知った。
●エスカメ水門
「見学を」と申し出たジュスト・ヴェルジーに対し、水門の管理人は露骨に戸惑い、そして恐れた表情を見せた。それは、遠目に水門を眺めていたロゼットの目からも遠巻きに分かるほどに挙動が怪しいものだった。
「名門ヴェルジー伯爵家のご令息が――ですか」
パンクリアース学園の生徒や、貴族の嫡子が社会見学に来るのは珍しくはない。目の前の青年は、その両方を兼ね備えているという。故に――断れない。タイミングが悪いとは言え、断る理由が無い。だから精一杯の愛想笑いを浮かべ、管理人はこう返すしかなかった。
「どうぞどうぞ。応対に当たっている間はお構いできないかも知れませんが、見学であればご自由に。今日は、門を開けますよ」
質問があれば、問題ない範囲は公開しなければ逆に不自然だろう。
内心で管理人は思う。余計な事を、聞いてくれるなと。聞かれれば嘘は吐けないのだ。嘘や問題になる記録を残さないことで、これまでも安全を保ってきた男だ。面と向かって追及された時に、白を切り通す自信は無かった。
そんな管理人の葛藤を他所に、学生らしい真摯さでジュストは管理人へと質問を投げかける。多くのことが、情報として得られた。
船は一度に運べる物量が多いため、可能な限り管理したい。故に、水門は事前の申告制を採っている。とはいえ――有力者がその権力を盾に通行を求めてくれば、臨時で門を開けざるを得ないこともある。荷検めは書面と内容を現物確認しているが、限られた時間で全ての箱や樽を確認するのは難しい。よって、いくつかを抜き出して検査することになる。だが、そういった無茶を通してくる有力者は、逆に自身の立場を危うくするような不正は行わないようだ。
だから、部分検査でも不正が発覚したことは長い水門の歴史の中でもほとんど無いと。そう、管理人はジュストへと答えた。
「ありがとうございます。大変、参考になりました」
尋問するには証拠が不十分だ。しかし何か後ろ暗いものがあるように思われる。思案するジュストの視線の先に、水路の幅いっぱいほどもある大きな船が開門を待っていた。
「あれは?」
「ああ……ニコラ・ゴルティエ侯爵の船ですね」
――・――・――
「船を使った水運に不正があるとして……」
その前提で物事を見て、初めて見えてくるものがある。微かな痕跡、違和感に過ぎないそれを、ロゼットは見逃さなかった。
水門を通行してくる船の、喫水線の位置が普通よりも高い。船の安定性を確保する為にも、その大きさと喫水線の位置、言い換えれば積み荷の量はある程度の関係性があるものだ。視線の先では一仕事を終えた検査員たちが、もやい綱を巻き取っている。積み荷の検査は問題なく完了しているようだが、何かがおかしい。
そう――あの船は、明らかに通常よりも重く、多くの物を積んでいるはずなのだ。
「失礼します。先ほど水門を通っていった、あの船はどんな荷物を運んでいるのでしょうか?」
船を追いかけるのは、今からでは現実的ではない。だからロゼットは水門の管理事務所を訪ねた。先ほどのジュストとの会話の
「ん……何ですか?」
仕事の手を止めてロゼットに相対する男は、慇懃ではあるが素っ気ない。門外漢であるロゼットの言われるがままに業務上の事項を明らかにする様子は無かった。だが、その程度ではロゼットも食い下がらない。
「記録は、しっかりと残しているのでしょうか」
その言葉には反応があった。そこまでポーカーフェイスが得意ではないらしい。あるいは、授恵者としてのロゼットの経験が――僅かな表情の揺らぎ、声音の変化を逃さなかったのだろうか。
「帳簿には、なにも問題ありませんよ。監査などでも問題が指摘されたことはありませんから」
だから、ロゼットに調べられなくとも、王国から咎められたことは無いと男は胸を張る。
(ああ……なるほど)
同時に、ロゼットは悟った。この管理人らは、事情を分かった上で何らかの不正に関与している。その上で、帳面をいくら調べても証拠は挙がらないだろう。
それほどに周到に、問題ない実績を組織的に積み上げているのだ。それは恐らくこの男ではなく、背後にいる別の人物が描いた絵に他ならない。
●そして――
「なるほど、腐りきっているな」
調査対象となった3か所の地点。その全てが不正に関わっている。特に、ニコラ・ゴルティエ侯爵は商会や憲兵を巻き込み、大規模な汚職を働いている可能性が高い。その他にも、法衣貴族の幾人かがファロン通りの盲点
授恵者らの報告を受け、ヘンリエッタは乾いた笑いを漏らした。帝国も清廉潔白ではなかったが、王国も大概なものだ。
「法衣貴族を追い落とすには、もっと証拠が必要だな」
また別の依頼を出すことになるだろうと、前置きをした上でヘンリエッタは5人の授恵者らの労を労う。
「人数が少ないからどうかと思ったが、十分な仕事だ。ルーキーと呼ぶのは、もう適切ではないかも知れないな……」
そんな自戒を籠めた呟きを後に、あなた達はギルドを後にした。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準5 / 4〜8人
2022年08月29日 11時48分32秒 公開
相談掲示板
一番乗り! シーフのアステル、よろしく! んーオレはハイディングと超聴覚使って、アルヴィゾ門の会話盗み取ってみようかな。
2番!シーフのナハシュだ。今回はよろしく。人集まるといいなー。 とりあえずファロン通りでもあたってみるかな。見た感じ管理者は善人であるがかなり雑そうだ。
ヒーラーのロゼット、参加したわ。 これで依頼自体は成立かな。 なら私は、エスカメ水門にあたりましょうか。
キャスターのジュストだ、よろしく。 俺もエスカメ水門が気になったのでそちらへ向かおうかな。 地上側の係員が買収などされてなければ良いのだけれど。
場所の移動はもう考えなくても良いかしら。 ジュストは同じ場所、よろしくね。 アテはないのだけど、水路の深さによってはタルを水面下に 沈めていたり、ドック、船に痛みありと偽って修理に紛れて 荷物を運び出したりしていないか、探ってみようと思ってるわ。
此方こそよろしく、ロゼット殿。 俺は王国騎士志望で治安維持についての勉強中の学生って体で水門での検閲業務を見学させて貰えないかあたってみるつもり。 見学は無理でも話だけでも聞けたらいいなって。 原則申告制だけど例外はあるか、とか。割と頻回に水路を使用している船についてや、王国の場合貴族が絡むと検閲をちゃんとできない事例もありそうだから、そのあたりも。 聞き出せた情報はロゼット殿に渡すので、潜入する場合などに使えるなら使って欲しい。
ん、みんなよろしく! 人数揃ってよかったー! なるほど、そんな不正もできるんだなー。 アルヴィゾ門は門番と商人ぐるみでやってる可能性もあるしな。直接訊きにいくと証拠消されたりしそうだし、追跡と盗聴のスタイルで行こうと思う。
ヒーラーのヨル・スレイマン。ギリギリになってしまってすまない。宜しくね。 そうしたら見る範囲が広そうなファロン通りにしようかな。 隠れるのがあまり得意でないから、表立って話を聞きに行ったりする形になると思う。 問題がない、と判明することも大事なことだしね。憂いを残さぬようしっかり調査しておこう。