【夏果】夏の残滓、スイカの怨霊
眞石ユキヒロ
コメント 13
シナリオID:2394
オープニング
辺境都市群冒険者ギルド職員、兼、ドゥジン信徒のライリー・ベルは現在、職務から解放されている。
これまでの破天荒な言動が原因でクビになった、というわけではない。三日ほど休暇を貰い、以前から熱望していた旅行へやってきた、というだけだ。
サイドテールを解き、パンツスーツから涼やかな軽装へ着替え、興味のある施設をゆっくりと見て回る。それだけでだいぶ、気持ちが解放される。
二日目の今日はシャルガネ居住区の商店街を散策している。チリン、と手招くような柔らかい音に惹かれ、ライリーは雑貨屋へと足を踏み入れた。
涼しげな音で店内を満たす無数の風鈴、汗を拭うための手ぬぐいやハンカチ。いずれも職人の手で作られたカラフルで美しい品だ。
「あら、いらっしゃい。ゆっくり見ていってね」
にこやかな老婆が、帳簿の置かれた長机の向こうで丸椅子に座ったまま声をかけてくる。
「ありがとうございます! どれも綺麗で迷っちゃいますね!」
「でしょう! 私も手放すのが惜しくて……。なんてね。大切にしてもらえれば嬉しいわ! たくさん買っていってね」
言葉に合わせて表情を変えて、最後にウィンクをする老婆にたくましさを感じながら、ライリーは微笑みを返した。
(えっと、このあとって確か、スイカ畑の見学会があるんだよなぁ……)
スイカ。先日、ギルド主催のイベントで大量に目にしたトロピカルフルーツである。
(王国では見ない果物だったけど、美味しかったよね。あれが育つ畑ってどんな感じなんだろ……)
「風鈴はちゃんと梱包しておくからね」
「あっ、はい! ありがとうございます!」
「こちらこそありがとう。大切にしてね!」
ライリーは涼しげな緑色の風鈴と、青のラインが入った手ぬぐいを購入し、雑貨屋を後にした。
●どうしてこうなった
「うわ~! おっきくって丸い~!」
「割って良いの? ねぇ、割って良いの?」
夏の日差しがガンガンに照りつけるスイカ畑には、帽子を被った親子連れや、日傘を差したカップルが溢れていた。
(トロピカルフルーツブーム、確実に訪れてるんだな……。ブームは作るもの、かぁ)
ドゥジン界隈にもそういった側面はある。人気のある信徒の創作物に影響される信徒は後を絶たない。ライリー自身にもそういう経験はあった。
「それではみなさん、蔓に足を取られないよう気をつけて、間近でスイカを見てみましょう」
ライリーは案内役の指示に従い、スイカ畑に踏み込む。あまりに土がふかふかなので全身が沈むのではないかと錯覚した。
足下が安定したところで、しゃがんでスイカを観察する。緑と黒の縞々の球体が、陽光を跳ね返し輝いている。まじまじと眺めていると、スイカの表面の縞模様がぐにゃりと円を描くように歪んだ気がした。
「……何だろ?」
めまいか見間違いか。
「どうしたのー?」
背の低い女の子が、ライリーの疑問に興味を引かれ近寄ってくる。
そして――。
「きゃああああああ!!!」
「なっ、なんだよっ、あれっ!?」
無数のスイカを繋いで人の形にしたような、体高五メートルほどの魔獣がライリーの近くに現れた。
スイカ畑を見学して、最後にスイカを一切れいただくだけのだけのほのぼのとしたイベントが、一瞬にして死の入り口に変化する。
「スイカの、おばけぇ……!」
ライリーに近寄ってきた女の子は腰を抜かし、スイカの蔓の上に尻餅をついた。
(魔獣!? なんでこんな所に出てくるの!?)
瞬間、ライリーの脳裏に過去がフラッシュバックする。大量の亜人と魔獣、逸る彼、何もできずに泣く無力な自分――。
歯を食いしばる。今も無力なのは事実だ。けれど状況はほんの少し違う。
授恵者たちが、寄り添ってくれた。授恵者たちを、ほんの少し理解した。
あの時みたいに足が震える。柔らかい土を踏みしめるのがやっとだ。
(でも、このくらいは、できるから)
「にげ、て……!」
無理矢理声を振り絞り、大きく両腕を広げて、女の子と魔獣の間に立つ。
色を失ったスイカやひび割れたスイカ、うねる模様のスイカで構成された魔獣がライリーを見おろすように頭を下げる。
それから大小様々なサイズのスイカからなる歪でしなやかな腕を伸ばし、天へ掲げた。
振り下ろす先はもう決まっている。
解説
マスターより
リプレイ
シャルガネ居住区のスイカ畑は混乱と悲鳴でぐちゃぐちゃであった。
その原因たるスイカの魔獣――スイカをつなぎ合わせて人型にしたような巨大なモンスターは今まさに、一般人に襲いかからんとしている。
圧倒的な恐怖の中でも冷静な者たち、冷静であろうとする者たちはいる。
「まあ大きなスイカですよブレイドさん、お化けスイカとでも申しましょうか……?」
おそらく前者にあたる東雲・更紗は、どこか遠い出来事のように、自分よりも遙かに大きな魔獣を眺めていた。彼女のおっとりした気質も、その天然な反応に拍車をかけている。
「いやいや暢気に見とれてる場合でもないぞ更紗さん。クリーパーでいえば中型クラスだし一般人ではひとたまりもないぞアレは」
対して更紗の保護者的存在であるブレイドも、どちらかといえば前者であった。突如現れた魔獣の大きさや挙動を冷静に観察している。
「見知った顔に目の前で死なれては寝ざめが悪い。支援を待てずにスマンが先に仕掛けさせてもらうぞ」
そしてここは自分が真っ先に向かうべきだと判断し、先手必勝で魔獣へ向かい疾風足した。
黒いバンダナの下から覗くジェイブルーの瞳に、ギラリとした力が宿る。
「っと、そうですね、このままではライリーさんも女の子も危険ですし何とかいたしませんと」
ブレイドを追うように、代赭色の髪を靡かせ、フリル付きの袖とスカートを揺らし、更紗もブレイドを追いかけ駆ける。
サシャ・テーリングは後者であった。孔雀石の瞳で確認した事実は、サシャにとっては度し難いものであった。
(……過剰な反応で魔獣を興奮させないよう自制です)
魔獣と対峙している一般人はサシャの友人だ。
「培ってきた事を思い出し成功率の高い行動を取る様、努めて冷静にまいりましょう」
自分に言い聞かせる。頭の中で何度も反芻する。
●
(足場が悪いなりにやりようってのもある)
アクロバティックアーツで駆け抜け、ブレイドはスイカ魔獣に最初に辿り着く。
竜爪の篭手、竜爪の短剣によるトリプルファング改を見舞おうと、両腕を振り抜く。スイカ魔獣は身体をぐにゃりと歪めて全て回避した。
(ならばより早い、あるいは範囲の大きな攻撃が必要だと思うが……)
ブレイドは表情を歪め、長期戦を覚悟する必要もあるかと考える。
(こいつらまさか、枯れて打ち捨てられたスイカの怨霊とかじゃないだろうな?)
ナタリア・フィッツジェラルドは少し変わったことを考えていた。とはいえナタリアが聡明な学者であり、対クリーパーの戦術構築に精を出している事も事実である。
そのサルビアブルーの瞳には伶俐な光が宿っていた。
「巻き込まれた民間人の生命を守る事を至上目的にするぞ」
そのための戦術を素速く練り上げながら、結い上げた錫色の長髪を揺らし、冒険者たちの中心位置――つまるところ子供の近くへ向かって行く。
「民間人の生命を守るためには速攻を優先すべきだ」
魂刈の銀鉤を掲げ、ウェイブ・オブ・インフィニティロアを解放する。
ナタリア、ブレイド、更紗、ユークリア、サシャ、ディレインを、燃え上がるような黄金の光が包む。
「この大陸のスイカって危険種が多いですよね……。スイカを警戒する表札とか必要なのでは。『この先スイカあり! 注意されたし!』」
ユークリア・フィナンシェは冗談めいた発言をする。
しかし全くその通りだ。これが戦闘時でなければ誰も異論を挟まないだろう。
(スイカは割るものに変わりはないので、サクっといきましょう)
ゼニスブルーの澄んだ瞳を細める。エーテルで金色に光るシルトラース帝国の槍を握れば、たちまち戦意が漲る。
「か、怪物め~~~! かかって来なさい! あなたたちになんて負けません!」
ユークリアは長い金髪を煌めかせながら素っ頓狂な声を上げ、子供の近くへと駆けていった。
「その身を持って悔い改めよ、神の雷!!」
雷の投擲を生み出し、ユークリア式格闘術でスイカ魔獣へと投げつける。スイカ魔獣は身体をうねらせ、回避してみせた。
「なぜなのです!? 私の渾身の一撃がこんな!?」
ユークリアはどこか芝居がかった嘆きをみせた。
セリオス・オーガストは気温の高さにやられ気味……。とはいえ気力や判断力は健在だ。
(目的は一般人を無事助けだして魔獣を駆除することだな)
銀色の目を鋭く細めて状況を観察する。白銅色の髪がふわりと揺れ、白いマントがわずかに風をはらんだ。
混乱のあまり動けなくなっている者もそれなりにいる。そういう人間をカバーすることも重要だ。
「あまり固まりすぎるのも危険だ。俺は離れた位置から注意を逸らすことに注力するぞ」
セリオスはそう宣言して、竜骨の強弓に矢を番えた。
「案内役、避難誘導を頼む。……誰一人こちらに近づかせるな!」
威圧感を込めた視線で刺しながら、セリオスは魔獣が掲げた腕の付け根に狙いを定めた。
矢にエーテル光を集め、極限まで高まった破壊力と速度を解き放つ。
ハイパーバスターアローはスイカ魔獣の腕の付け根を貫き破壊することに成功した。スイカ汁が飛び散り、辺りをほんのり赤く染める。
スイカ魔獣の腕はまた生えてきたがその動きはどこか鈍く、破壊にはそれなりに意味があることを教えてくれた。
サシャは真っ先に自身に輝刃3による支援を行った。
(少しでも、少しでも私自身が強くなることが、今できる最大の支援なんです……!)
マロンブラウンのワンピースをはためかせ、サシャは走った。友人とその背後で泣く子供の前に立ち、ダマスカス鋼の盾Reを構える。
「絶対に私が守ります。……判断を間違えたりしません」
盾を構える手に汗がじわりと滲む。それでも握る力を弱めることなど決してできなかった。
ディレイン・オールドケイジは、ぼやく。
「俺もさ、スイカを食べに来ただけのはずだったんだけどなあ……。なんでこうなるかねえ」
美味しいスイカをいただけると聞きつけての参加であった。実際それなりに楽しみにしていた。
細い目を閉ざし、緩くウェーブのかかった黒髪ごと額を抑える。想定外のハプニングだ。
「けどさ、起こったことは仕方ないよね。お姉さん、ここは冒険者に任せて避難誘導よろしくねー」
近くで混乱と戦っている案内役に軽く声をかけ、ディレインも補助へ向かう。
(補助がかかってないのって、セリオス君だけだよね? なら、まずはそっちかな)
セリオスの近くでレゾナンス・オブ・ヴァローを解き放った。ディレインには何も起こらないが、セリオスの身体は淡い光に包まれる。
スイカ魔獣は自分の隣にピタリと貼り付くブレイドを薙ぎ払うように腕を横に振るった。
ブレイドは軌道を見切り、素速く身をかがめて回避する。
「そう簡単には当たらんぞ?」
素速く元の体勢に戻ったブレイドの、ジェイブルーの瞳のギラつきが増す。
サイラスもスイカ魔獣へ駆け、攻撃に参加する。
「案内役さん、皆さまは私たちで守りますので、安心して避難誘導なさってくださいね」
更紗は駆けながらも案内役に優しく声をかけた。案内役はようやく混乱から立ち直り、スイカ魔獣のいない畑道への避難を叫んだ。
(ライリーさんと女の子の護りは手厚いでしょうし、私はブレイドさんの斬り込みに合わせて攻撃しましょう)
攻撃に回すエーテルを多めにし、高速展開式超魔法を発動している。
「お覚悟ください!」
極限まで高まったエーテルが魔弾2に凝縮され、竜石の杖の先端から発射された。
スイカ魔獣は回避を試みたが、先ほどのセリオスの攻撃で運動能力が鈍ったようだ。
スイカ魔獣の全身が色を失い砕け、零れたスイカ汁が土に染みた。
「やったか!? なのです」
ユークリアが元気に叫んだ。更紗も一瞬笑顔になりかけたが、すぐに追加が二体やってきた。
(これは……周囲の一般人の位置を確認して立ち位置を決めなくてはな)
ブレイドは天眼で周囲を一気に把握する。一般人はライリーたち以外存在しない。
スイカ魔獣の一体は近くの冒険者の人数が多い。残る一体はほぼノーマークと言って良い。
ブレイドは足下をものともせず走り、ノーマークのスイカ魔獣に駆け寄ると三閃を繰り出した。最後の一撃にひときわ強い手応えがあった。
(数を打てば当たる……確かにそうだな)
スイカ魔獣の視線が一般人に向かないよう立ち位置を調整しながら、ならば勝ちの目も出るかと考える。
ナタリアは攻撃集中しながら足下にも注意を払う。サシャの前に移動しメテオライト3を呼び、スイカ魔獣たちに豪雨のごとく浴びせた。
回避を試みたスイカ魔獣の一体が蔓に足を引っかけ動けなくなり、光に撃ち抜かれる。
「ライリー、今のうちに女の子の隣へ!」
一体はブレイドが逃さず、もう一体はナタリアの攻撃から逃れようとして致命的なミスをした。
サシャは鋭く叫び、スイカ魔獣に向けて盾を構えたまま自分も後退した。サシャ、ライリー、子供が固まったところで竜石の祭刀に持替え、光縛封で自分たちを包み込む。
(これで不測の事態が起きてもスケープセイントになることができます)
経験の成果で周囲の状況を確認し、上空から攻撃が飛んできた場合の覚悟を固める。
(今は濃煙炸弾2より注意を逸らす方が先だな)
淡い光を纏った鋭射2がセリオスの弓から鋭く放たれる。当たりはしなくとも、強力な攻撃が集中しているという事実だけで引きつけることは充分可能だ。
「もう一回! 晴れ時々曇り、所により雷! 逃げるな手遅れもしくは向かえ!」
ユークリアは再度雷の槍を現出させ、その手に握る。
「消し飛ばせ! 神の雷!」
バチバチと音を立てるそれを、ブレイドと格闘しているスイカ魔獣に力一杯投げつけた!
スイカの胴体が音を立てて破裂したかと思うと再生する。しかし動きはどこかぎこちない。
「くっ、硬い……! ですが負けません!」
強烈な一撃をぶつけたというのに、ユークリアは芝居がかった不利の演出をやめない。ノリノリで続けている。
「みんな歴戦の猛者みたいなんで、俺は大人しく補助に回るとするよ。入用なら回復もね」
ディレインは全員に宣言してからセリオスに輝刃2を贈った。
「助かる」
「助かるんなら良かったかな」
ディレインはへらりと笑って次は誰を支援しようかと周囲を見渡した。
同時に更紗も天眼で一般人の避難状況を確認する。案内役が平静を取り戻したためか、避難は順調である。近づいてくる者などはいない。
(ですが一応、保険として……)
更紗は避難経路とスイカ魔獣を区切るように、クレネルウォールを縦に二つ設置した。
ブレイドは諦めることなく三連撃をスイカ魔獣に叩きつける。強い手応えが二回発生し、スイカ魔獣の身体から汁が噴きだした。
(この仕事が終わったらまずはシャワーといきたいところだな。スイカ汁でベトベトの身体は流石に気分が悪い……)
目の前のスイカ魔獣の動きはあからさまに鈍くなっている。
すかさずセリオスが鋭射2をかけるが、回避された。
(足止めの手段が欲しいところだが……)
しかし落ち込んだりなどしない、状況を改善する方法を考える方が先だ。
クレネルウォールの間に移動したユークリアも雷の槍を投げるが、同様に。
「ど、どうして勝てないのです……!」
悔しさを滲ませてはいるが、悲壮ではない。むしろどこか楽しげだ。
ユークリアの隣に移動したナタリアの光の豪雨もかわされてしまう。
「危機が魔獣を生存へと駆り立てているのか?」
しかし冷静に考察する。ナタリアも諦めてなどいない。
「私は女の子へのスケープセイントを行います!」
サシャは万が一に備え、宣言する。不測の事態が発生し自分が二人への攻撃を防御しきれなかった場合は、優先的に子供の身代わりとなる。
サシャは背後のライリーに悲壮な決意を秘めた笑みを向けた。ライリーは静かに頷いた。
ディレインは二刀流の戦いを続けているブレイドへの補助を行うべく移動している。ブレイドの近くのクレネルウォールの後ろに到達した。
「よく頑張ってるよ。もうちょっといけそう? いざとなったらあっちまで走れる?」
結界の中で涙ぐむ子供にへらりと笑顔で語りかける。自分が平常心でいることが子供の安心に繋がると良いなと期待して。
(このままでは戦いはどんどん長引いてしまいますね)
更紗はクレネルウォールの前に飛び出し、比較的無傷のスイカ魔獣に魔糸3のエーテルを投げつけた。
スイカ魔獣は見事に絡め取られ、見るからに動きが鈍くなった。
「これで少しでも当たりやすくなれば良いのですが……!」
スイカ魔獣は反撃に出た。先ほどから魔法で自分たちを苦しめるナタリアに頭の蔓を伸ばし、巻き付けようとする。
「私を捕らえるつもりなら、もう少し策を練るべきだったな」
蔓を御神体でいなし、ナタリアが不敵に笑う。
ブレイドにマークされているスイカ魔獣は最初の魔獣がいた位置に移動し、腐ったスイカ汁を放射線状に噴きだした。
目の前にいたブレイドは異変を察知しひらりと身を躱して回避したが――。
「更紗さん!?」
エーテルバリア改を発動した更紗は、その代償として生命力を持って行かれた。
「わ、私は大丈夫ですから……」
倒れてこそいないが、充分に危機的状況にある。
「こんな魔法を隠し持っていたのか……」
思わぬ高威力の魔法にナタリアもわずかに動揺する。敵の性質上ある程度密集して戦う必要があるが、こんな危険な飛び道具を隠していたとは……。
「くっ、ここまでですか……!」
ユークリアはというと、芝居がかった台詞を口にできる程度には元気が残っていた。
サイラスはスイカ汁の異様な匂いに顔をしかめている。
クレネルウォールと結界にもヒビが入った。
(結界はまだ大丈夫でしょうが、万一のことがあった場合はライリーに女の子を連れて走ってもらうしかないでしょうか)
サシャは一番ヒビが細かく入った場所の近くに立ち、盾を構える。
とはいえ退くわけにはいかない。ブレイドは再び爪と短剣の三連撃でスイカ汁の主に斬りかかっていく。
(敵の意識は極力、自分が引きつけなければ……!)
先ほどの攻撃を見切ることもできた。上手くすれば具体的な予兆を発見することもできるかもしれない。
(敵の攻撃が厳しい今、範囲魔法を使える者が手を止めるのはかえって危険だ)
ナタリアは戦術眼ですぐさま現状を把握し、ユークリアに回復は任せたという視線を送る。先生の視線を受け止めたユークリアはにこりと笑い、頷いた。
ナタリアは御神体を掲げ、攻撃集中を乗せた光の豪雨でスイカ魔獣たちを狙う。魔糸に絡め取られたスイカ魔獣は逃れられず、全身に魔法を浴びて痛みに身体をくねらせた。
サシャは自分たちの背後を確認した。逃げる一般人たちが整然と列を成している。
「逃げる際はあの列を目指してまっすぐにお願いします。できるだけ足下には気をつけてください」
続いて敵の動向を確認する。向こうからすれば格好のチャンスだというのに追加戦力などは未だ現れない。ここにいる魔獣はこれで全部なのかもしれない。
「まだ諦めてはなりません! 回復ならお任せください!」
自信たっぷりに発言しながら、ユークリアは更紗に治療強化3×2のサイドヒール改を灯した。
「ありがとうございます! 私もまだ頑張れそうです」
完全回復した更紗は杖を握り直す。
「あと少しのはずだ!」
セリオスはあと一撃でも当たれば倒れそうなスイカ魔獣に鋭射2を放つ。
「俺もできることはやるよ。こういうのはどうかなあ?」
ディレインはクレネルウォールの隣に立ち、ブレイドに輝刃2を与えた。
スイカ魔獣はブレイドに巨大なスイカの種を発射した。勢いよく放たれたそれを、ブレイドはわずかに横に身体を反らすだけで回避する。
「お待たせしましたブレイドさん。今、私が助けますからね」
ブレイドの隣に立った更紗が蜘蛛の糸状のエーテルを発射する。スイカ魔獣は大きく身体を反らして回避した。
今度はもう一体のスイカ魔獣が腐ったスイカ汁を放射線状に噴出した。
ブレイド、ユークリア、ディレインが反応するよりも早く。ナタリアがスイカの蔓に足を取られて転倒しかけるよりも遅く。
「なんということだ……」
転倒しかけたことによって敵の強力な攻撃を回避するとは。ナタリアは自らの幸運に苦笑いしそうになって、やめた。
クレネルウォールは砕け散った。ブレイドはその巨体を大きくふらつかせ、ユークリアは槍を杖代わりにギリギリ立っている。
ユークリアの目に光はない。ついでに感情も「すんっ」と消えてしまっている。
ディレインは攻撃を受けて「うぇっ」と嫌悪感を漏らしたが、まだ支えも無しに立っていられる状態だ。サイラスも同様に。
更紗はブレイドが盾となり、直撃を免れた。
結界のヒビはより細かくなっている。サシャはいよいよ二人を逃がす準備をしなければならないかと考えた。
「ここで手を止めて何になる。自分は行くぞ!」
ふらつきながらも不安定な地面に足を取られることはない。ブレイドは目の前の敵に二刀流で向かっていく。
ジェイブルーの瞳に宿るギラついた輝きはますます増している。
ナタリアは攻撃集中し、大鎌の切っ先に魔弾2の光を集める。
「……私も一切加減はしない!」
スイカ汁で戦況をぐちゃぐちゃにしてくれた魔獣を、全力の光弾で撃ち抜いた。
スイカ魔獣の身体は色を失いボロボロに崩れた。残るは一体。
「何度だって狙い続けるぞ」
セリオスも威圧感を高めながら鋭く矢を放ち続ける。敵の注意を逸らす事を自らの為すべき事と認識しながら。
「……」
異様なまでに静かになったユークリアが無言で治療強化3×2のサイドヒール改をブレイドに与える。
「あ、ありがとう……?」
先ほどまでとの落差に困惑しながらも、ブレイドは感謝を告げた。
「失礼いたしますね」
結界内のサシャは子供の軽い身体をひょと片腕で担いだ。戦況は次第に有利になりつつある。そしてあと数秒でこの結界は消え失せる。
「ライリーも、走れるだけ走ってください。フォローは私がします」
凜々しい表情で語るサシャに、ライリーは見とれつつも頷いた。
「ところでユークリア君の方もどう見ても回復が入り用だよね?」
ディレインが治療強化2したヒール2をユークリアに放つ。
ユークリアは無表情かつ無言で頭を下げたが、内心で感謝はしている。
「今度こそ……!」
更紗は再び蜘蛛糸状のエーテルをスイカ魔獣に放った。今度こそスイカ魔獣は絡め取られる。
「やりました! 皆さま、一気呵成にたたみかけましょう!」
不利を察知したスイカ魔獣は、後退しつつブレイドの身体に頭の蔓を伸ばした。
「触し……蔓の対処については経験があるのでな」
ブレイドは蔓の間をするりと抜け。ギラつく瞳で魔獣に笑いかけた。
結界がすうっと消えて無くなる。
「これで最後にしたいところだが……!」
ブレイドは一撃一撃に渾身の力を込める。最初の一撃に確かな手応えはあった。それでもスイカ魔獣はまだ止まらない。
「ならば次は私の番だな」
ナタリアの攻撃集中が籠もった鋭い魔弾2がスイカ魔獣に襲いかかる。
「……!」
ユークリアによる無言の雷の槍投げが開始される。容赦無しの一撃はスイカ魔獣の身体に深々と突き刺さった!
スイカ魔獣は色を失い粉々になり、スイカ汁の零れた土の上に自らの死体の欠片を落とす。
ユークリアのゼニスブルーの瞳がそれをぼんやりと見つめた。
●
「もう大丈夫ですよ」
サシャはしゃがみ、孔雀石の瞳を細め、子供の頭をゆっくりと優しく撫でた。
子供の親が迎えに来たところで、笑顔で手を振って別れる。そして。
「ライリー、よく頑張りましたね」
涙声だ。サシャは同じく瞳に涙を浮かべているライリーを抱きしめた。
「少し前に美味しくいただいたスイカが……。ライリーに何かあったら二度と食べられなくなっていました……」
声には痛々しいほどの切実さがつまっていた。
「旅先でコレとは災難というかなんというか……。まあ無事でなによりだ」
「無茶をなさって……。でも無事で本当に良かったです」
わずかに口角の上がったブレイドと、喜色満面の更紗が二人に話しかける。
(誘拐事件といいライリーさんは巻き込まれ体質というやつなのだろうか……?)
ブレイドはあまり関係の無いユーモラスなことも考えていたが、空気を読んで口にはしない。
「サシャさんもお疲れ様でした。気が気では無かったでしょうし」
四人の会話はふんわりとした雰囲気に包まれていた。
●
冒険者たちはギルドに向かい、報告を行いシャワーを借りた。スイカ汁とその匂いが落ちたところで、イベント主催者のもとへ向かう。
主催者は精一杯の感謝と全員分のスイカをプレゼントした。
「……これっってさ、祭刀の柄とかで適当に割れたりしない?」
ディレインの提案にほぼ全員が驚く。切るのではなく割るのか。
「さすがにひとりじゃ食べきれないんで、みんなに分けたいんだけどどうかなあ?」
主催者が弾かれたように動き出し、簡素なテーブルと包丁を用意した。
「切り分けは……私が行うか」
ナタリアが包丁を手にし、スイカを回しながら二等分していく。
サイラスはまだかまだかと待ちわびている。
「スイカは割るものだと思いますが、ナタリアさんがそれでいいなら私は構いません」
戦闘が終わり、表情と元気を取り戻したユークリアがナタリアの包丁捌きを眺める。
「どちらにせよ食べて涼めるのなら俺はそれで構わない」
戦闘時には忘れていた暑さを思い出し、顔を赤くしているセリオスがスイカの等分を促す。
全員で分けあったスイカは甘く、悪夢のようなスイカ魔獣の思い出は綺麗に上書きされた。
マスターコメント
ミドルシナリオ難しい 報酬:多い8 / 6〜10人
2022年08月19日 15時43分16秒 公開
相談掲示板
ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 まだ規定人数に達していないが、要綱を述べておくか。 初期位置からして、ライリーの三方を取り囲むようにスイカ魔獣が配置されている。 単に前方だけ立ちふさがっているとかなら、進路上に光縛封をセットしてバリケードにでもしておこうかと思っていたが、囲まれるような形ともなれば、彼女を囲むように光縛封をセットした方がマシかもしれん。 その間、彼女は出る事も出来ない訳だから、ラウンドが持つ間に1つでも魔獣を倒す必要があるのだが、何分魔法攻撃の腐ったスイカ汁もあるから効果が予想より早く消滅する可能性もある。 その上、弾道が放射線状ともなれば、光縛封は真上ががら空きだから汁がそのままホールインワン、という最悪の事態もあり得る。 そうした事態に備えて、スケープセイントを持って行ってライリーへのダメージを肩代わりというのも考えている所だ。
ヒーラーのサシャ・テーリングです。お見知りおき下さいませ。 ナタリア様、案をありがとうございます。 そうですわね、光縛封の高さは4hexですので射程6で狙われたら越えてしまいますね。 どうかそこまでの知恵が(上が空いてると判断し上空へ仕掛ける)ありませんように…。 また、放射線状が噴水のように全方位ではありませんように…。 そうなれば、スケープセイントに頼らせて頂きたいです。 敵は3体…優先度はライリー&女の子、続いて案内役の方と見て 案内役の方が射程外へ逃げられるように 上から2段目の敵を引き付ける方が居れば、ライリーと女の子への脅威も1下がりますね。 以下は一案として提示ですので、ご意見下さいね。 >彼女を囲むように光縛封 同意で、良ければ私が行います。 火力的に私の光縛封は弱いので保って1、2ターンですが 魔獣の注意を引離すまでの繋ぎとしてなら十分かと。 光縛封の効力中に走り寄り、切れた瞬間に二人を抱いて敵射程外へ走り撤退(或いはその場で2人の盾に)と思いますが 各魔獣を引き付けて下さる方は居ますでしょうか?(又は二人を抱き避難して下さる方) 救助方法、魔獣の引寄せと戦闘と 皆さまの得意と動きに合せ、別の形と成るのは構いませんのでご意見聞かせて頂きたいです。
No.3
サイラスだ、よろしくなー とりあえずカバリングじゃなくてシーザーロアすべきかね?それで受け持つほうがよさげかこれ。他にウォーリア今いなそうだし
あああーーーシーザーロアと言う手が…ありますね! サイラス様のレベルでしたら効果は絶大と思います(グッ)
ヒーラーのユークリアです。よろしくお願いしますね。 スケープセイント、ものすごく役に立ちそうなので私も持っていった方が良いでしょうか。しかし結構物騒なスイカですね(
No.6
とりまシーザーロア持ち込むで良さげやね。レベルやなくて付与が重要なんであんまレベルは意味ないけど。ロア3今んとこ取る気ないし 火力はあまり期待しないでな。射程無いから
>付与が重要なんで はい、レベルが上がりますと付与も上がりますよね。(ニコニコと) ところで…スケープセイント…私も取れるレベルだと先ほど気付きましたわ…。 ユークリアさもも持って下さるなら3名で保護対象も3名…ですわね(ホッ)
ブレイドだ、よろしく頼む。 息抜き旅行でコレとは災難なことだ、巻き込まれ体質というやつだろうか… ひとまず開幕で見えてるのは左端の一体だけのようだし アクロバティックアーツで足場の悪さ無効化と補正も得つつ 先手必勝と疾風足で切り結びにいって注意を引き付けてみるつもりだ 光縛封にスケープセイントにシーザーロアと保護とかも充実しているし 2ラウンド以降に追加が出てもなんとかなるといいな
・・・ん、シューターのセリオスだ。 とりあえず今出てる案で問題はないと思う。 最初にどうにかスイカの注意を引かないとな。 3体のうち2体は2ラウンド目から出てくるから最初はライリーの目の前にいる敵だけに集中できそうだな それ以降は分かれたほうがいいだろうが
テーリングが実際に習得したかは分からんが、スケープセイント持ちが2~3名は居るのに加えてシーザーロア持ちも居ると。 これなら、要救助対象のカバーも殆ど完璧だな。 案内役は比較的離れた箇所に居るものの、避難誘導の鍵ともいえる存在であり、彼に死なれる成功度が1下がるとあるから、それも無視出来ないか。 火力と命中に関しては、こちらがインフィニティロアを使う事で何とかしよう。 移動こそ上がらない上にINIの調整を求める形になってしまうものの、火力と回避が高い反面各種防御面と移動力が低めとなれば、一気に片付けられそうな気がするからな。
>スケープセイント ライリーとお子様のカバーで2名必要で、続いて3体の引き付けが成功すれば 案内役はご無事でしょうし、2度使えますから私の出番は無しかも知れませんが それでも、一層の安心が欲しかったので所持しました。 ナタリア様がインフィニティロアをして下さいますので もう1枠は光縛封を持ちますね。 ところで…「彼女を囲むように光縛封」と話しましたが光縛封に包まれた状態でも スケープセイントは発動可能でしょうか? 勉強不足で良く判ってませんので、不可の時は 案内役と魔獣の間に設置するイメージで光縛封を使用しますね。 実は…初手で盾を構えてライリーの元に走ってしまいそうで。 もっと効率的で有効な動きが出来ると良いのですが…まだ思いつかずで…。 なので動きの詳細は、現状に合せ声を掛け合う(状況次第なプレ)としてます。 その後は皆様に支援をしつつ魔矢で参戦か、避難誘導のお手伝いをさせて頂きますね。
挨拶が遅れて申し訳ありません。 東雲更紗と申します、よろしくお願いしますね。 ライリーさんや子供さん達の保護は頼りにさせていただきますね。 1ラウンド目は出現済みのスイカに魔法攻撃と 2ラウンド目は出てきたスイカの前面にクレネルウォールを張りまして こちらの攻撃を通しつつスイカ汁の飛び散りを防いでみようかと思います。
滑り込み参加でごめんねえ。 ディレイン・オールドケイジ。ヒーラーだよよろしく。 みんなの命中と防御を上げる方向でいこうかなって考えてるとこ。 といっても依頼受けるの久しぶりでね。 おじさんにできそうなことがあれば言ってほしい。