【夏果】フルーツが多すぎる!

蓮華・水無月

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シナリオID:2378

オープニング

 さてその日、リブラネスタから馬車で2日ほど行った所にある村の広場には、馬車の荷台に山のように積まれた様々なトロピカルフルーツが鎮座していた。

「果物……?」

 それをぐるりと取り囲んだ、村人達が一様に首をかしげて顔を見合わせたのは何も、トロピカルフルーツを見慣れていなかったからではない。なぜここにトロピカルフルーツが山盛りになっているのか、まったく理解できなかったからである。
 ゆえに、しばし互いに不思議そうに顔を見合わせた村人たちの眼差しが、荷馬車のそばに立つ村人に向けられたのは必然だった。鍛冶屋のアルセント――彼が今回の、リブラネスタへの買い出し担当だったので。
 ここ、シルキンス村では10日に1度、村人達が持ち回りでリブラネスタまで、村では手に入らない品々を買い出しに行く。それは生活用品だったり、食料だったり、時にはちょっとした娯楽の品だったりするのだが、頼まれ物の他にも村で必要になりがちな幾つかの消耗品だとか、買い出し当番の役得として好きな物を少しばかり、自由に購入する事もあった。
 だから、その役得として、あるいは村への珍しいお土産として、トロピカルフルーツを幾つか買ってきた――というのなら何も、珍しいことはない。ただ、荷台いっぱいとなるといささか、どころではなく量が多すぎる。
 ゆえに説明を求める眼差しを向けた村人たちに、向けられたアルセントは「う」とたじろいだ。代わりにアルセントの前に立ち、1人と1匹が誇らしげに胸を張る。

「あのね、街でたっくさんトロピカルフルーツが売ってたの! 今、すっごく人気だからってとっても安くしてくれたのよ!」
――にゃっ!
「食べたらすっごくおいしかったの! それでね、カリンももっと食べたいって言ってたし、村のみんなも食べたらきっと喜ぶかなって思って、お父さんに頼んでいっぱい買ってもらったのよ!」
「――という訳です……」

 そうして一片の曇りもない笑顔でそう言った、アルセントの娘リィゼとその愛猫カリンの後ろで、当のアルセントは肩身狭そうに心なしか小さくなって頷いた。はぁ、と誰からともなくため息と苦笑いが漏れたのは、アルセントが愛娘と愛妻の尻に敷かれているのは、村では周知の事実だったからで。
 皆と同じくため息を吐いたアルセントの妻レーネが、頭痛をこらえるような表情で「それで」と少しばかり低い声で尋ねる。

「この山どうするつもり? いくらカリンがフルーツ好きだからって、うちだけじゃこんなに食べられないんだけど?」
「レーネ、うちも幾つかもらってやるよ。――けどねぇ」
「村中に配っても、さすがに食べ切れないんじゃないかい?」

 そんなレーネに他の村人も協力を申し出たものの、どうしたもんか、と困り顔なのは変わらない。ふわ、と馬車の周囲に漂ってくる甘い匂いから判断するに、恐らくちょうど今が食べごろ、つまり日持ちはあまりしそうにない。
 愛妻と村人達の言葉に、うぅ、とアルセントの背中に冷たい汗が流れた。おろおろと視線をあちこちに向けてから、その、と必死の思いで言葉を絞り出し。

「ちゃんと食べ方とか、その、わかる人に手伝いを頼んできたから……! なあ、冒険者さん!?」

 縋るような眼差しで冒険者たちの乗る馬車を振り返ったアルセントの顔には、助けてくださいと書かれていた。そんな人間達の騒ぎをよそに、猫のカリンだけはフルーツの甘い匂いにふんふん鼻を鳴らして、どれからかじり付こうかそわそわしていたのだった。

解説

皆さんは、リブラネスタで父娘に助けを求められて、または大量の荷物を見て手助けを申し出たり、何となく興味を惹かれたりして、馬車で2日ほど揺られシルキンスという農村にやってきました。 ぜひ、アルセントの窮地(?)を救ってやってください。 ◎目的 大量のトロピカルフルーツを、どうにかして使い切るためのご協力をお願いします。 ◎トロピカルフルーツ 荷馬車に山のように積まれています。 種類はバナナ、マンゴー、オレンジ、パイナップル、etc、etc。 珍しいものはありませんが、よく見られる夏のフルーツは大体揃っているようです。 これほどのフルーツを、安かったとはいえ一体いくらで買ったのかレーネが問い詰めたものの、アルセントは決して口を割らなかったとのこと。 村では買い出しの時にたまに買ってきてもらって食べるくらいで、フルーツを使って何かする……という事はあまりないようです。 ◎設備など 村にはレストランのような設備はなく、調理する場合は一般的な家庭用のキッチンか、広場にかまどなどを組んで調理することになります。 水は井戸から適時汲んでご利用頂けます。 調味料は一般的な物(塩コショウ、砂糖など)しかありません。 特殊なスパイスなどが必要な場合、ご持参頂く必要があります。 ◎NPCとの関係について アルセントとリィゼについては、道中ですでに面識があるという前提の描写になります。 親しさの程度については、無理のない範囲でご自由に設定頂いて構いません。 ◎登場NPC カリン……  茶トラの好奇心旺盛な2歳の雄猫。  首に巻いた赤いリボンがトレードマーク。  人懐こく、人が多い場所を好む。  大好物は甘い果物。 リィゼ……  11歳。  はしばみ色の髪と瞳の、可愛いお人形が大好きな少女。  ご近所のボス猫が生んだ子猫のカリンに一目惚れして、一週間のハンストを決行して飼う事を了承してもらった。  カリンの事を弟か息子のように大事にしている。 アルセント……  リィゼの父親。  村で唯一の鍛冶職人として剛腕を振るっているが、その勇猛な姿に反して草花を愛する穏やかな気性。  自宅では妻と娘の尻に敷かれっ放しだとか。 レーネ……  アルセントの妻。  お料理は人並みにはできるが、決して得意という訳ではない。  アルセントを尻に敷いているのは決して怖いからとかではない、決して。

マスターより

初めまして、またはお久しぶりです、或いはいつもお世話になっております、蓮華・水無月と申します。 夏の華やかな気配に心惹かれまして、こんなお困りごとで失礼いたします。 甘いフルーツは美味しいですが、程度が過ぎるとちょっと大変になってしまいますね。 我が家ではみかん缶詰とりんごが常備されておりまして、子ども達のサラダ代わりに活用されております。 サラダも食べるようになって欲しい。 そんなこんなでとある村のお困りごと、お気が向かれましたらどうぞお気軽に、お助け頂けますようよろしくお願い致します。

リプレイ

 もちろん冒険者達も、その多さは知っていた。けれども、

「改めて、この数は凄いですね……果物屋さんが出来そうです」

 そう苦笑いしたリサ・ベイカーに、ルアンナ・ミュラーがうんうん頷いたのも、仕方のない事だった。とはいえ買ってしまったものは仕方ないと、少しばかりの呆れと共に手助けを申し出たゲルダ・クラインは、「頑張りますね!」と小さく拳を握って気合を入れる。
 その横でストレガ・L・リベルガストラと、御邑 奈月と御邑 都の姉妹が、彼女達の想像を少しだけ超えた果物の山を眺めていた。

「おー!! 凄い量だねぇ~♪」
「……く、果物が、沢山……です……」

 本当に凄い、とため息を吐く奈月の横で、都はと言えば背丈よりも大きな山の天辺にある果物(マンゴー)に「頑張れば届くかも?」と挑戦している所。よいしょ! と伸ばした手がほんの少し果物(マンゴー)に触れ。

「わ……っと」
「危ない!」

 ぐらり、体勢を崩した都を、セロンガード・シュタインドルフが慌てて支えた。ありがとう~♪ との礼に首を振り、果物の山にこっそり息を吐く。
 実の所セロンガードは、果物の扱いには詳しくない。勢いでやって来たものの、依頼人(アルセント)と同じく誰か助けてという心境。
 とはいえ、まったくの無策でもない。

(昔、帝国で貰った乾燥させた果物(ドライフルーツ)とやら……あれなら)

 試してみる価値はある、と考えるセロンガードら冒険者達を、見つめるアルセントは不安げだ。それをじっと見るカイン・ステラの脳裏に、道中で密かに告げた忠告が蘇った。

「この後の生活費考えて金使った?」

 そう言ったカインに、言われたアルセントは顔を伏せたものである。それに、盛大な溜息を吐いてしまったのは無理からぬことだ。
 この量、そして頑なに買価を言わないことから、かなりの金を使ったのだろう。それも子どもに言われるまま――それは大人として、親として問題があるのではないか。
 リィゼにも恐らくその辺り、きちんと教えるのだろうと思ってはいるが、

「度が過ぎる優しさは毒だぜ」

 その折にも告げた言葉を、カインは口中でまた呟いた。娘(リィゼ)の未来(この先)の為に、彼の言葉を参考にするか否かはアルセント次第だ。


●
 広場にかまどが幾つも組まれていく。その中でルアンナが取り掛かったのは、本職(パン屋)を活かしたパンやお菓子の作成だった。
 作るのは砂糖で煮たフルーツをたっぷり使ったパイやデニッシュ、フルーツケーキ、etc(などなど)。生地を先に仕込んで発酵の間にフルーツの下拵えをするか、それとも。
 段取りを考えるルアンナに、ストレガが「煮るだけで良いのか?」と声を掛けた。

「果物を大量に消費するならジャムがいいのでな。ついでに煮よう」
「助かります! 使う分を切るので、砂糖で煮てもらえますか?」

 そう言いながら手早くナイフを動かし始めたルアンナに、頷きストレガもジャムにする果物を見繕う。同じくゲルダも、果物の山からジャムに適してそうな、オレンジやパイナップル等を選び始めた。
 と、視界の隅にちらちら映る、少女の姿に頬を緩ませる。リィゼ様、と振り返った。

「お手すきでしたら手伝って頂けますか?」
「はーい!」

 それに良いお返事で駆け寄ってくる少女(リィゼ)に、触発された何人かがそわそわする。それに気付いたリサは、こちらも手伝ってもらえますか? と声を掛けた。

「お肉料理にフルーツを使って見ようと思ってるんです。鶏の胸肉のオレンジソース煮とか」
「料理に?」

 それには村の奥様方も興味津々らしい。一緒にチャレンジしてみますか? と誘えば二つ返事が返ってきた。
 ならば、と一緒に作業することにしたリサは、ストレガとゲルダに「後で少し分けてもらえますか?」と頼んでおく。ジャムとフルーツで、パイやタルトを作ってみたい。
 それに快く頷いた2人は、選んだ果物の皮をむいて刻み始めた。同時にゲルダは別の大鍋に、水を入れて沸かし始める。
 井戸から水を汲む手伝いをした、セロンガードが首を傾げた。

「これは?」
「ジャムを入れる瓶を煮沸消毒するんです」
「なるほど。では、瓶の確保も手伝います」

 それにゲルダが説明すると、頷いたセロンガードは村人に、余っている瓶を借りられないか尋ね始める。ジャムにして瓶詰に、というのは彼も思いついた果物利用手段の1つだ。
 幸い、使ってない保存容器を幾らか借りられた。それをセロンガードと、それから奈月の準備が整うまで都が手分けして洗浄していく。
 そんな姉達や、他の皆の案や製作工程にも興味があって、邪魔をしないようあちこち覗いていた奈月は、その手際の良さやアイデアに息を呑んだ。

(ふあ!! 凄い……)

 自分も頑張らなくてはと、小さく小さく拳を握った奈月にアルセントが、あの、と声を掛ける。差し出したのは、小さな手桶にささやかに入った氷だ。

「これだけしかなかったんですが」
「ふあ! ありがとうございます!」

 その手桶を受け取って、奈月はぺこんと頭を下げる。
 果物をどう消費するか、考えて思いついたのは氷菓子(ソルベ)だった。だが、真夏に何かを凍らせるのは、氷の取れる地域以外では難しい。
 フリーズボルトの威力を抑えられたら出来るのでは……? とも思ったが、試してみると上手く行かなかった。となると――と考え込む奈月の独り言を耳にしたアルセントが、馬で1時間ほどの森にある天然氷室にもしかしたら氷が残ってるかも、とお使いを出したのだ。
 その結果が、この手桶。氷に塩を混ぜて冷やせば、果汁を凍らせるくらいは何とか出来そうだ。
 氷を少しでも無駄にしないため、到着したらすぐに取り掛かれるよう、ソルベにする果物はすでに潰して、その甘みを殺さない程度の僅かな砂糖で味を調えてある。

「お姉ちゃん」
「力仕事? おー♪ わかったよぉ~」

 そうして姉を振り返れば、都はぴょこんと立ち上がって、妹の元へ駆け付けた。料理そのものは得意じゃなくても、都にも手伝える事はある。
 ゆえに力の加減を教わりながら、ぐるぐる果汁をかき混ぜ始めた都の横で、奈月も別の果汁を冷やして混ぜ始めた。本当は都度試食してもらって、アルセント達の意見を聞いて味を調整したいのだが――時間勝負だ、仕方ない。
 にわかに忙しくなった姉妹から、離れたかまどではゲルダとストレガが、ジャムを煮始めていた。鍋は2種類だ――砂糖とレモン汁で味付けしたものと、蜂蜜で味付けをしたもの。

「さすがにこの量では、山のような砂糖が必要になるだろうからな」

 それは妖精の助力が必要だろう(現実的ではない)、と考えたストレガである。ゆえに彼女が作る分は蜂蜜で――果実の甘みのおかげで、手持ちの甘露アリの恵みは使わずとも良さそうだ。
 幾つも並んだ大鍋を、ゲルダがくるくるかき混ぜ、灰汁を取って煮詰めていく。決して料理が得意という訳ではないから、基本に忠実に、火傷や焦付きに気を付けて――

「ストレガ様、このくらいですか?」
「ああ。少し冷ましたら濾そう」

 鍋を見たストレガが、頷き細かめのザルを用意する。そのままでも食べられるが、濾すと口当たりが滑らかになるのだ。
 後はセロンガード達が用意してくれた瓶に入れ、暗所で保存すればしばらく保つだろう。とはいえ夏のこと、早く食べ切るに越したことはない。
 そんな注意を添えていたら、頼まれた果物煮も程よく仕上がった。ルアンナが礼を言って鍋を受け取り、代わりに「果物の味見もどうぞ」と目配せして、一口大に切った果物を置いていく。
 そうしてルアンナは、煮上がった果実を下拵えの終わったパイやデニッシュ、ケーキ生地に加えた。それを今度は焼き釜に運び、焼成をお願いして。

「あとは……生のままを活かしたものや、ドリンクがあっても良いですよね」

 幸いチョコレートファウンテンがある、チョコを絡めればまた違う味わいになるだろう。そう、新たに果物を見繕うルアンナと、すれ違ったカインは籠に果物を山積みにして、作業台にどんと置いた。
 彼が作るのは、かまどで作るドライフルーツである。一般的には天日干しのイメージが強いが、乾くまでに数日はかかるし、その間の埃とか衛生面で心配な場合もある。
 その点、低温のかまどで乾かせば、短時間で出来るし天日干しより衛生的だ、と考えたカインだ。ゆえに見繕った果物を、種や芯を取ってから薄切りにして、天板に並べていく。

「あの人(アルセント)でも作れそうね」

 それを見ていたレーネが呟いた。今までも色々あったのだろう、雰囲気が妙に重い。
 心の中でだけ同情しつつ、カインは手際よく下処理していった。――が、そもそもの数が多過ぎる。

「かまどが足りない分は天日で干すしかないだろう――なに、4日ほどかかるが気長にやるのだ」

 鳥などに取られぬよう注意するように、とストレガが言い置いた傍から悪戯猫(カリン)が、そっと果物に手を伸ばす。カインが「行儀が悪い!」と叱り飛ばすのと、レーネが「リィゼ!」と娘(カリンの姉貴分)を呼びつけるのは同時。
 苦労がなんだか手に取るように解る気がして、改めて同情の念を送ったカインの手元を見たセロンガードが、「これが」と目を見開く。それから小首を傾げ、そう言えば、と提案した。

「確かドライフルーツは湿気に弱かったはず。安定した蔵などあるか聞いてみましょうか。熱や酸化に気を遣えば数週間は持つ……でしょうか」
「ああ、頼んだ」
「承知しました」

 頷き解る村人を探すセロンガードの、背中に感謝しながらカインは次いで、保存食も兼ねて様々な味のクッキーを作ることにした。大量に作ってくれたジャムのクッキーや、持参した醤油やハーブ塩を使った甘くないクッキー。
 ベースのクッキー生地さえ作れば、あとは味付けを変えるだけだ。

「……けど、まーだ余ってるな? あとは……ミントのコーディアルと果物のジュース作るか」
「フレッシュジュースも消費には良いですし、子ども達用に氷砂糖でシロップ漬けも作ってみようかと」

 そんなカインの言葉に、タルトの焼き上がりを待つリサが頷いた。冷暗所に数日置いて、砂糖が果物の水分で溶けたら出来上がりの、ジュースにしたり、シロップとしても使える優れ物だ。
 あとは飲み物、と言えば、

「私は若年なので最後の手段として取っておきましたが、お酒に漬けてもおいしい……はずです。もちろん飲んだことも食べたこともないですが」
「赤ワインとシナモンがあるから、サングリアも作れますよ。一晩寝かせた方が美味しいから、飲めるのは明日になっちゃうけど」
「果実酒も作ってみましょうか。煮沸殺菌した容器に、綺麗に洗ったフルーツを入れて、お酒を入れて、そのまま保存するだけなので。マンゴーやパイナップル、オレンジ……飲み頃は冬でしょうか」

 セロンガードとルアンナ、リサがどこか熱量高く語るのは、大人向けの酒類。セロンガードはなんなら、自分でも味見をしてみたそうだ――いや、飲まないが。
 お酒と聞いた村の大人達が、やる気を漲らせて「どうやって作るんだ?」「うちにある酒でも作れるか?」と前のめりになった。それに、やれやれ、と顔を見合わせて3人は、果実酒を作り始めたのだった。


●
 夕暮れ頃、ようやく果物の山が尽きた。後は、気になるのはそのお味。
 広場に村人が持ち寄った机が並べられ、中央にチョコレートファウンテンが置かれると、フレッシュジュースやフルーツオレを飲んでいた村人が一列に行儀よく並ぶ。お酒は早くても明日のお楽しみだが、大人(酒飲み)達が待てるかは怪しい。
 奈月と都が作成した、ソルベも無事にお目見えした。

「……え、えと……。ど……どうで……しょう、か……?」

 試食してもらうのはこれが初めてだ。もちろんその最初はアルセント一家に――だが、実はあまり作ったことがないから不安が募る。
 美味しく出来ているか。――喜んでもらえるのか。
 不安に震える奈月の体を、都がぎゅぅっと抱きしめる。力強いぬくもりが、奈月の緊張を和らげる。
 そうして都はにっこりして、妹の耳元で囁いた。それは都にとって絶対の真実(奈月にとって魔法の言葉)。

「きっと大丈夫だよ。月ちゃん♪」
「……お姉ちゃん」

 ほっ、と小さな息を吐く奈月と都の見守る中、3人がソルベを口に運んだ。真夏の氷はただそれだけで高価ゆえ、3人の顔に驚きが浮かぶ。
 「冷たーい!」と嬉しそうなリィゼの横で、夫婦が「凄いな」「美味しいわね」と頷き合った。冬、容易に氷が手に入るようになればまた食べたいと作り方を問われ、

「ふあ?! …あ、えと…………あ、ありゅがとうごじゃいまふ……ぷ!」
「やったね、月ちゃん♪ 流石、僕の妹だよねぇ~♪」
「……えへへ♪ よかった。喜んでくれました♪」

 再度ぎゅぅぅっと強く奈月を抱き締め頬と頬をスリスリする都に、抱き締められた奈月は喜びに頬を紅潮させる。それがまた可愛いと、都はますます抱き締める腕に力を込めた。
 ソルベの試作は他にも色々、味を変えて用意していた。ぜひ好みの味を見つけて欲しいとアルセントや、周りの村人にも声を掛ければ、あっという間に取り合いになる。
 そんな中、ソルベの器をもう1つ確保して、今度は愛猫(カリン)と一緒に楽しもうとしていたリィゼを見つけ、カインが「コラ!」と雷を落とした。

「行儀が悪い。お姉ちゃんが弟に手本見せないでどうする」
「……はぁい。ごめんなさい」

 そうしてきちんと教え諭せば、リィゼはしょんぼりする。だが、よし、とそれを褒めてやり、ご褒美に味見用の切れ端を「はい、いただきます、は?」とあげれば、あっという間ににっこり笑顔。
 そのやり取りに都が、「おー? ……君も本当に果物好きなんだねぇ~♪」とカリンの頭をなでた。とはいえ、猫にソルベはどうだろう、と小首を傾げる都の横から、ゲルダがパンに塗ったジャムを少女に手渡す。

「リィゼ様、どうぞ。美味しく出来てますか? カリンちゃんには果物です、お砂糖が多過ぎて体によくありませんからね」
「果物飴もどうぞ」

 さらに横合いからセロンガードにも飴で固めた果物を貰い、リィゼはすっかりご機嫌である。ストレガの「ちなみに猫、マンゴーやオレンジが毒となると聞いている。切って与えるならスイカやりんごがよいのだ」という助言には真剣な顔で頷くと、友達の所に駆けて行った。
 そんな1人と1匹を見送って、カインも試食の輪に加わる。ストレガのパウンドケーキにルアンナやリサのパイやタルト、フルーツケーキと、色々あって面白い。

「どれも美味いな」
「ですね。リサちゃんのお料理も美味しいです」

 実は大好物なので楽しみにしていたのだと、微笑むゲルダにリサが笑う。おずおずと手を伸ばした奈月が、目を丸くして「美味しい……」と呟いた。
 あれこれ摘まみながら、あとでまた苦言(アドバイス)するか、とカインは思う。かなりの量の保存食が確保出来たはずだから、余剰はリブラネスタで売って金子を補填した方がいい、と考えていた。

(楽観できるような世の中じゃねぇよ?)

 冬の備えも必要だからな、と齧りついた鶏肉は、オレンジの風味が爽やかだった。

マスターコメント

いつもお世話になっております、または初めまして、蓮華・水無月です。 この度はご参加頂きまして、本当にありがとうございました。 とある村での果物の山をやっつける(?)物語、如何でしたでしょうか。 皆様の美味しそうなメニューの数々に、書いていた蓮華の胃が大いに刺激されながら、精一杯紡がせて頂きました。 もしかしたら次の買い出しからは、果物をたくさん買ってきて! というお使いが増えるのかも知れません。 それにしても、程々にして欲しいものです。 このシナリオが皆様にとって、楽しんで頂けるものでしたら幸いです。 またのご縁がございましたら、どうぞ宜しくお願いいたします(深々と
ショートシナリオ

ショートシナリオ易しい 報酬:少ない8 / 4〜8人

2022年08月21日 10時23分01秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. リサ・ベイカー

    時間、あまり無かったりしますね。 とくに相談は必須では無さそうですが。 ともあれ、わたしは、フルーツを使ったパイとか、パン生地に…と… パンは本職さんがいましたかね? 大量消費なら、ジュースとかも良いかな? お肉料理にも使えるものもありそうなので、創作料理も良いかもですね。 と、言い出すと迷いますね。 まあ、よろしくおねがいします。

  2. ゲルダ・クライン

    ゲルダです、よろしくお願いしますね。 ええと、無難に?ジャムにしてしまうのがよいかな、と思いましたので、ことこと煮込んでジャム作り、がんばります!!

  3. カイン・ステラ

    カイン・ステラ、よろしく。 保存可能なもの作ったり、今食べるように作るかなー。

  4. ルアンナ・ミュラー

    はーいパン屋さんのルアンナです♪ パンに限らず、焼き菓子にしたりジャムを作ったり色々出来そうです。 とにかく大量にあるので、痛まないうちに調理しちゃわないとですね!

  5. 御邑 都

    ギリギリでごめんなさーい。 御邑都ってゆーのぉー。よろしくお願いしまーす。 僕は妹の月ちゃんと一緒に作るねぇ~。 今の時期にぴったりなソルベでも作ろうと思ってるよぉ~。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0