桜の街と風鈴祭
崎田航輝
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シナリオID:2355
オープニング
風が暖かさを抱き、草花を生き生きとそよがせる。
夏も本番になってゆく頃。日中は陽光も眩くて、美しい景色の中にも季節の熱気を感じるけれど――
――りん、りん。
と、その中でも涼やかさを思わせる音色が耳朶を打つ。
瓦屋根の軒につるされているのは、彩りも形も千差万別な風鈴。一つ一つが異なる美しさを持つその音で、清らかな涼を感じさせてくれていた。
燈籠に石畳、柳に鹿威し。
歩めば雅な眺めが瞳に移り、風流な心持ちにさせてくれる――倭桜ノ街。
シャルガネの一端に位置するその街区では、日々穏やかな時間の中で……人々ものんびりと暮らしている。
ただ、今の時期は平素より人通りが増えて、町人も一層楽しげだ。
何故ならば――
りん、りん、と。
響くのは透明感のある音色。
「何とも、美しいものだね」
人々がそう言って眺めるのは、家並みに飾られた風鈴だ。
夏も本番が始まると、家々が一軒、また一軒と風鈴をつり下げ始める。それは神社や桜広場でも例外ではなく……街全体が清らかな音に包まれてゆく。
それに合わせて風鈴市も開かれて――この時期を街では風鈴祭と呼んで楽しむのが慣習になっていた。
風鈴は美しい色ガラスで出来たものや、見事な彩色の施されたもの、造詣が巧みな金属製のものまで千差万別。
だけでなく、職人のもとで風鈴を作れる催しも開かれていて……人々は買ったものや作った物を土産にしたり、街に飾って風流を味わうのだ。
勿論、屋台も出るから食事も楽しめるし……この時期は川遊びも出来るから。
「今年も楽しくなりそうだな――」
そんな街の様子を眺めて、町長もまたわくわくとしている。
だからこそ、一層祭りを盛り上げる為に、そして街の魅力を広めるために……祭りに招待したい者達がいた。
「やっぱり、彼らがいないと始まらないからね」
そうして町長は早速、手配をしようと歩み出す。
そうして冒険者達は、風鈴の音の響く街に招かれた。
夏も本番を迎え始め、桜は緑の葉を鮮やかに色づかせている。
そんな景色を雅に彩る音色の中を、冒険者達はそれぞれに歩み出してゆく――
夏も本番になってゆく頃。日中は陽光も眩くて、美しい景色の中にも季節の熱気を感じるけれど――
――りん、りん。
と、その中でも涼やかさを思わせる音色が耳朶を打つ。
瓦屋根の軒につるされているのは、彩りも形も千差万別な風鈴。一つ一つが異なる美しさを持つその音で、清らかな涼を感じさせてくれていた。
燈籠に石畳、柳に鹿威し。
歩めば雅な眺めが瞳に移り、風流な心持ちにさせてくれる――倭桜ノ街。
シャルガネの一端に位置するその街区では、日々穏やかな時間の中で……人々ものんびりと暮らしている。
ただ、今の時期は平素より人通りが増えて、町人も一層楽しげだ。
何故ならば――
りん、りん、と。
響くのは透明感のある音色。
「何とも、美しいものだね」
人々がそう言って眺めるのは、家並みに飾られた風鈴だ。
夏も本番が始まると、家々が一軒、また一軒と風鈴をつり下げ始める。それは神社や桜広場でも例外ではなく……街全体が清らかな音に包まれてゆく。
それに合わせて風鈴市も開かれて――この時期を街では風鈴祭と呼んで楽しむのが慣習になっていた。
風鈴は美しい色ガラスで出来たものや、見事な彩色の施されたもの、造詣が巧みな金属製のものまで千差万別。
だけでなく、職人のもとで風鈴を作れる催しも開かれていて……人々は買ったものや作った物を土産にしたり、街に飾って風流を味わうのだ。
勿論、屋台も出るから食事も楽しめるし……この時期は川遊びも出来るから。
「今年も楽しくなりそうだな――」
そんな街の様子を眺めて、町長もまたわくわくとしている。
だからこそ、一層祭りを盛り上げる為に、そして街の魅力を広めるために……祭りに招待したい者達がいた。
「やっぱり、彼らがいないと始まらないからね」
そうして町長は早速、手配をしようと歩み出す。
そうして冒険者達は、風鈴の音の響く街に招かれた。
夏も本番を迎え始め、桜は緑の葉を鮮やかに色づかせている。
そんな景色を雅に彩る音色の中を、冒険者達はそれぞれに歩み出してゆく――
解説
●概要
シャルガネにある「倭桜ノ街」へ観光に招かれました。
街の中にて過ごしてゆく事が出来ます。
時間帯、訪れる場所などは自由です。
●倭桜ノ街について
シャルガネの一端にある街区。東方文化の色濃い街並みが特徴的。
長らく平和を保っており、おおらかな人々が多い印象です。
この時期は神社や桜広場も含め、街の様々な場所に風鈴が飾られて趣深い眺めになっています。
夜は灯籠、提灯に照らされます。
●行える事
街を自由に散策する事が出来ます。
以下、立ち寄れる場所やイベントなどの例を示します。
1.風鈴市
多様なデザインの風鈴を買う事が出来ます。
色ガラスで作った透明感の強いものや、複雑な造詣が魅力的な金属製のもの、変わり種として火箸や備長炭を使ったものもあります。
風鈴はお土産にする他、街の好きな場所に飾り付ける事も出来ます。
2.風鈴作り
オリジナルの風鈴を作る事が出来ます。
ガラス製のものは拭きガラスで作ります。色を自由に選び、多様な色彩を作る事が出来ます。
金属製のものは粘土で型を成型して作ります。立体的な造詣を細かく出来るのが特徴です。
どの風鈴も、顔料などで色を塗ったり絵を描く事が出来ます。
紐や短冊も自由なデザインに出来ます。組紐や藍染の紐など、東方風の色濃いものがメインとなるでしょう。
音を鳴らす舌の部分も、澄んだ音色から明瞭な音色まで自由に選べます。
3.散策
風鈴の飾られた街を散策できます。
神社や桜広場も、この時期は各所に風鈴が飾られて違った趣を楽しめます。
また、7月中は吹き流しなどの七夕飾りや、笹も飾られています。短冊を書いて結ぶ風習にならっても良いでしょう。
4.食事
屋台は定番の焼きそばやたこ焼き、あんず飴などの他、かき氷などの氷菓が人気です。かき氷は桜シロップを始め、色々な味があります。
食事処では鮎、うなぎが食べ頃です。
甘味は善哉や餅、団子などをそれぞれ冷やしたものが人気です。西瓜もあります。
5.川遊び
下流の一部をプールのように引き込んだ場所があり、自由に遊ぶ事が出来ます。
川辺でバーベキュー、魚釣りなども出来るでしょう。
マスターより
シャルガネの一地区で観光を楽しむシナリオとなります。
今回は風鈴に飾られた中を散策します。
行わなければならない事などはないので、自由に過ごしてみて下さい。
街には例として示した以外にも、普通の街にありそうな機能を持った施設なら存在します。
適宜過ごしたい場所を訪れてみると良いでしょう。
同行者がいらっしゃる場合は、お名前や共通のグループ名(人数なども併記して下されば確実です)などを記載して頂けると助かります。
皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。
リプレイ
●夏の音色
風鈴が風に戯れ、景色を清廉な音色で満たす。
そんな通りを、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブとコルネリウス・アーラは共に歩み出していた。
「にゃ! この街に来るのも久しぶりだなぁ」
「ええ、そうですね」
くるりと見回すサフィラに、コルネリウスは瞳を細めて微笑む。遊びに来るのも、そして浴衣を着るのもまた久しぶりだから……一層風流な心持ちだ。
「サフィラさんの浴衣、涼しげで可愛いですね」
言ってコルネリウスが見つめるサフィラは、青地に金魚と水草が描かれた何とも涼し気な一着。
「ありがとっ! コルネの浴衣もかわいーねっ!」
そうサフィラが笑顔で瞳に映すコルネリウスは、白地に黄色が入った花柄で。上品さの中に華やかさも兼ねた浴衣姿だった。
そんな装いで道を進んでいくと、りん、りん、と音が一層耳朶を打つ。
「風鈴が涼しげで、気持ちがいいですね」
コルネリウスが視線を巡らすと、サフィラは頷いて視線を前方にやっていた。
「これを作れるんだよね! あっ、あの場所みたい!」
そこに見えてくるのが、俄に賑やかになっている工房。
作業中の人々や職人、いくつもの風鈴が垣間見えて……二人も早速参加してみる事にする。
「風鈴って見たことあるけど作るのって初めてかもっ」
「どんなものが出来るか、楽しみですね」
と、わくわくするサフィラにコルネリウスも笑んで……まずは硝子選び。
一口に硝子といっても、無垢な透明や鮮やかな赤、高貴な紫と選択肢があって……どれも美しいから少々迷ってしまうけれど。
「そうですね……では、私はこちらで」
と、コルネリウスが透明色を選ぶと……サフィラは「じゃああたしはこれっ!」と青色を選択。
まずは溶解炉で硝子を溶かし、それを管に巻き取る作業から始めた。
そこまでは順調。けれどサフィラが慎重に息を吹きかけて膨らませようとする、と――形が少しばかり歪に。
「にゃ……失敗しちゃった……」
「思った以上に難しいのですね、職人さんは凄いです」
コルネリウスも少々難儀しつつ、そんな実感を得ていた。
勿論、諦めずにすぐに再チャレンジ。サフィラは巻き取る所からやり直して――
「もう一度!」
コツを職人に聞きつつ、均一に息を吹き入れて……綺麗な形に。
「よし! 今度は上手くいった!」
「こちらも、綺麗に出来ました!」
コルネリウスも管を上手く回しつつ丁寧に、そして素早く吹いて――歪みのない形を作ることに成功する。
それを二人で喜び合うと……硝子を冷まして装飾へ。
コルネリウスは青や黄色、赤と複数の色の紐を編み上げて、それ単体で芸術作品のような美しさに仕上げていく。
その間にサフィラは、硝子に星で河を描き……可愛らしさと幻想的な趣を演出した。
「でーきたっ! 短冊は青紫のやつ付けよーっと♪」
と、選んだその短冊を結びつけて――澄んだ青の硝子と合わせて、夏にぴったりの色合いの逸品が出来上がる。
それを改めて自分で眺めて、うん、と一つ頷いてから視線を隣へ移して。
「コルネはどんなデザインにするのかなっ?」
「私は……風鈴にも同じ色を施して――」
コルネリウスは応えつつ、硝子も紐と同じ色で彩って統一感を演出。
短冊を鳥の形にすると、揺れるそれがまるで宙を遊んでいるかのように見えて。
「わぁっ、可愛いね!」
「ありがとうございます。上手に出来たと思います!」
チリン、と高く澄んだ音が耳に心地良く、コルネリウスは満足。サフィラの夏の夜のような風鈴にも笑みを見せて。
「サフィラさんの風鈴も素敵です」
「にゃ、ありがとっ!」
サフィラも明るい笑顔で応えて、その音色を楽しんでいた。
そうして出来た風鈴を手にして……二人は散策しながら夕涼み。日の落ちてきた空の下、そっと耳を澄ませて。
「風鈴の音が涼やかだねっ」
「ええ」
サフィラが笑みかけると、コルネリウスも穏やかに笑み返す。
夕暮れに風鈴、涼風に夏の音。趣深い時間に、雅なひとときを楽しんで……二人はゆるりと散策を続けていった。
●輝ける時間を共に
商店街の端に居を構える、万屋兼託児所「やおよろず亭」。
午前中から繁盛の様相が続いていた店も、ようやく忙しさの一段落を迎えた時間帯――大福は狼の粽と一緒に店内から飛び出してきていた。
「粽~! この後はテスとロイと待ち合わせなのだ~!」
そわそわと尻尾を揺らし、楽しみな態度を抑え切れないのは……もうすぐその時間がやってくるから。
わふっと応える粽の尻尾もまたゆれゆれで。期待の心を隠せず、ふたりしてもふもふと戯れないではいられない。
と、程なくしてそこへやってくるのが――
「大福さん! 粽さん! 遊びに来たよ!」
「久しぶりだね! 今日はありがとう!」
手を振りながら並んで歩む、テス・アウレアとロイ・アウレア。
近くまでくると、まずはテスが小走りに駆け寄って。大福もそこへ飛びついてくるから……ギュッとハグしてつやつやな毛並みを堪能する。
「よく来たのだ~!」
「ぁ、ずるいぞ! オレも!」
ロイもそこへ走り寄ると、大福もまたそれに応えて。ぎゅっぎゅっと存分にハグして喜びと親愛を伝えるのだった。
勿論、テスは粽もナデナデもふもふ。柔らかな毛並みを沢山触れて、表情をほころばせて。
「天国!」
「粽も喜んでるのだ~!」
言葉通り、粽もしっぽを振って歓迎の意。
そこへロイの傍らから狼のルプスも歩み出て、鼻を合わせて挨拶。テスの元から猫のレグルスもそこに加わって、親愛を交わしていた。
そうして挨拶も済むと、皆で歩み出す。
「今日は、よろしくね」
「任せるのだ~!」
テスの言葉に、大福は明るく応えて先導。今日は地元案内をする事になっていたのだ。
「楽しみだ」
街も、そして皆で一緒の時間を過ごせる事も、と。
思いをロイが口にすると、テスも「うん」と頷くから。二人で見合い、大福ともまた笑みを交わし……心躍る時間が始まった。
「この時期はやっぱり、ここなのだ!」
るんるんと、軽やかな足取りで街を案内していく大福は……粽の鼻先と共に、もっちりとした手先で前方を示す。
そこは清らかな音色に満ちる、風鈴市。
「わぁ!」
レグルスを腕に抱いたまま歩むテスは、広がる景色に瞳を輝かす。煌めく硝子製に艶めく金属製、色彩も千差万別な風鈴が無数に揺れていた。
ロイもまた歩み入って、感心の声音。
「これは見事だな――」
「ロイ、あれ見て!」
と、そわそわと見回していたテスは一つに目を留めて駆け寄っている。
それは金魚柄の卓上風鈴で……短冊に金魚を狙う猫の絵が描かれていた。
「レグそっくり」
「確かに」
ロイが笑み返すと、テスはそれを気に入って購入。満足気に音を楽しむ。
「ここの風鈴は可愛い動物の絵柄が多いのだ。他にも――」
と、大福は更に先を案内しようとして……はっと気づく。そこに狼の柄が目を引く風鈴がつるされていたのだ。
「おっちゃん! このカッコイイ狼の風鈴ちょうだいなのだ!」
『あいよ!』
「ありがとうなのだ! 粽なのだ~!」
それを受け取り、大福もまた満足の面持ち。確かにそれは粽そっくりな柄で……粽も親近感ゆえか鼻先を近づけているのだった。
テスも「本当だ!」とそれを見て楽しげだから……ロイはうんうんと、満悦の気持ち。
(良いね――)
再びぴょこぴょこ歩き出す大福達に、いつもより一層楽しげなテス。仕草一つにも癒やされるから、ロイは自然と顔が綻んで戻らないのだった。
その後風鈴市を出た一行は――
「川で涼むのだ~!」
丁度日も落ちてきた頃合いだからと、せせらぎの傍へ夕涼みにやってきた。
近づく夜と、水面に冷やされた風が快く肌を撫ぜて……ロイは瞳を細めている。
「良い川風だ……」
「うん。そうだ――お腹も減ってきたし、食事にしようか」
言ったテスはマジカルポケットに収納してきた机に、ティーセットを広げていた。
お弁当も並べていて……大福はわくわくと覗き込む。
「お弁当持ってきてくれたのだ? 美味しそうなのだ!」
「準備が早い……流石テスだね」
ロイがそう言う頃には、お箸もフォークもしっかりと揃っていて。大福も「そうなのだ」と荷を取り出していた。
「おっ母からわらび餅の差し入れなのだ」
「わらび餅かぁ。どんなお味だろ……」
と、テスがそれに瞳を輝かせていると――強めの風でぶわっときな粉が舞い上がり、大福の顔面を直撃。
「ぶほッ!」
「わわ、粉が!?」
テスも一瞬視界がきな粉色に染まり、思わず目を閉じる。ロイは笑いを零しつつ、「大丈夫?」とタオルを渡しているのだった。
「ありがとう。こっちは先に食べよう!」
テスが言うと、二人も頷いてまずはわらび餅を実食。
「っ美味しい!」
テスが素直に言うと、ロイも口に運んで……優しい甘みに舌鼓。
「お母さんは料理上手だね。後でお礼を言わせてもらおう」
「そう言ってもらえると嬉しいのだ~!」
大福もそう述べつつ「いただきますなのだ!」と餅と共にお弁当もいただく。するとどのおかずも美味で――
「美味しいのだ~!」
「沢山あるからね」
テスが微笑んで言うと、ロイもまたその味を楽しんで……風鈴の音と共に和やかな時間を送ってゆく。
食事が済んで休憩を挟むと……大福は川へ走っていた。
「折角だから皆で遊ぶのだ!」
「良いね。涼しそう!」
テスは勿論首肯。レグルスを優しく撫でて寝かしつけると――川に飛び込む大福に続いて自分も水に足を踏み入れた。
「冷たくて気持ち良い! ほら、ロイも!」
「よし」
頷くロイも、ボトムを捲って浅い場所から川へ。するとひんやりとした感覚が心地良く、一歩二歩と歩んでいくだけでも楽しい。
そうしていると童心に帰ったようで……ちょっと笑みを浮かべてから、テスへと走って水をパシャっと跳ね上げさせる。
「テス覚悟ー!」
「わっ!」
テスは上手く避けるも、ロイは更にぱしゃぱしゃと追撃するから……ならばとテスも微笑んで。
「負けないよ?」
気合を入れて、金剛撥水の力を発揮。水を弾いて防御しながら、逆に攻撃に打って出る。
そこへ大福も加わって、一気にバシャリ! ロイの髪を濡らして優勢を取ってみせた。
「にゃはは~!」
「大福と組むとは!」
ロイは形勢が傾くのを感じ取るが――直後には「ルプスーっ」と助けを呼んだ。
するとバシャン! と飛び込んだルプスが大福達の周囲を旋回。一気に飛沫の雨に閉じ込めてみせる。
「わぁ!」
テスは全身に冷たさを感じるも……それもまた心地良くて。皆濡れてしまったので、こうなると敵も味方もなくなって。
「えい!」
「わぷ! やったのだ! こうなったらテスもロイも、ルプスも粽も覚悟なのだー!」
大福はバシャバシャと大きな波を立てて皆へ頭から水を被せていく。それに皆もまた笑いながらわいわいと楽しんだのだった。
そうして川から上がると……粽はそのずぶ濡れ具合で、自慢のもふもふもなくなって。
「粽~ほっそりなのだ!」
「ルプスもだね」
テスもその姿をみてクスクスと微笑ましげに笑う。
ロイも二人と共に笑いながら、タオルを用意して。皆で最後まで楽しげな声を響かせながら、拭き合うのだった。
「今日はありがとう」
夜の帳も下り始めた頃、川から戻り……ロイは大福、そしてテスにも心から伝える。
テスも頷いて、二人に笑みを向けた。
「楽しかったよ」
「こっちこそ、とっても楽しかったのだ~!」
店の前に着くと、大福はそこで見送る形。「また一緒に遊ぼうなのだ!」と、テスとロイへ手を振り続ける。
二人はその姿が見えなくなるまで、振り返っては手を振り返し――心に残る思い出と共に道を歩んでいくのだった。
●色彩と音色
「ふふふー、またお祭りに来れて嬉しいんだよ♪」
暖かな風に夏の花が薫る。
そんな道を軽やかに歩みながら、ルルト・アーキスは声音を明るく華やがせていた。
「あっ! あっちに風鈴、いっぱいあるよ!」
「ああ」
隣で頷くアルバス・ロウルは、先を楽しみに進むルルトに歩幅を合わせて微笑む。
祭りの気分が楽しい。何より、ルルトが随分この街を気に入っているようだから……自分も嬉しくなる気持ちだった。
だけじゃなく、今日は自身も楽しみにしてきた事がある。
「あの先だな」
彩り豊かな風鈴の音色に耳を澄ませながら進む、通りの先。そこに俄に人の集まる……工房が見えてきた。
わぁ、とルルトは目を輝かす。
「あそこで風鈴、作れるんだね♪」
「早速行こうか」
という訳で共にそこへ入り……それぞれの風鈴を作ってみる事になった。
主な材料は硝子と金属。どちらも違った美しさがあるけれど、澄んだ煌めきに惹かれて……ルルトは硝子に決める。
「ボクはこっちにしよっと。アルバスは?」
「俺は金属製のにするよ」
互いに違ったのを作るのも面白い。それに金属製の自由度にもまた惹かれて、アルバスはそちらを選択した。
ふふっとルルトは笑みを向ける。
「どんな音色になるか楽しみだね!」
「ああ、楽しみだな!」
きっと良いものになる。
ルルトと一緒に作るなら、そうなるだろうという確信にも似た思いで頷いて……アルバスは粘土で型を成型し始めた。
どこまでも凝る事が出来るのが、粘土型のいいところ。ただ初めてでもあるからと、アルバスはシンプルなベル型を想定して整え始めた。
「こここうして、と」
大きさの違うヘラを上手く使い、流線型を美しくして。縁はチューリップの花びらのように綺麗に波打たせてみる。
型が出来たら、後は金属を流し込んで待機だ。
「さて、少し時間がかかるかな」
その間に、アルバスはルルトの方を見やる。
ルルトは丁度、職人の手本を見終えて……自分も拭き硝子に挑戦するところだ。
「えっと、これを上手く取って――」
選んだ硝子は澄んだ美しい黄色。それを上手く吹き竿に巻き取ると……力を入れすぎないようにふーっと息を吹き入れる。
そのままくるくると回す、その一生懸命な姿にアルバスは微笑ましい気持ち。
だけじゃなく――
「見事じゃないか」
「ありがとっ!」
笑みを返すルルトが仕上げたそれは……歪みのない綺麗な球形に広がっていた。
ルルトがそこから柄の作業に移り始めると――アルバスも出来た金属に色つけを始める。
「色は、と――」
選んだのは落ち着いた赤色。
ムラにならぬよう、筆を使ってしかと全体を塗装すると……舌も同色に仕上げた。
そうして組紐と和紙の短冊を結ぶと――オリエンタルな上品さが漂う、東方風の趣深い風鈴が出来上がる。
りん、と鳴らすと音色もまた落ち着いていて綺麗なものだった。
(ルルトのは……)
ふと目をやると、ルルトは「んー」と思案中。
周りを見回しつつ少し考えてから……ひとつ頷いて、後は迷わず彩色し始めた。
硝子にまず描いたのは、青や緑の線。そこに黒と白の水玉をぽんぽんと付け足して……可愛らしい水風船のような風鈴となった。
短冊は和柄のものを選んで、結びつけ――
「これで完成!」
「可愛く出来たな」
アルバスが笑みを向けると、ルルトは「うんっ!」と嬉しい気持ちで笑顔を返す。
というのも、色も漫然と選んだ訳じゃなく――
「タマさんにシロに……ボクとアルバス! 皆の色を使ってみたんだよ」
「なるほど、皆の色か」
アルバスもすぐに得心。
毛に瞳、その色は確かに見慣れたもので。皆で一緒にいる時のように、それを眺めていると温かな気持ちになれるようだった。
「アルバスのはお花みたいで綺麗だね♪」
「ありがとう。上手く出来て良かったよ」
二人で風鈴を見せ合い、音色を重ねる。
それぞれ個性があって、違った音だけれど……どちらも耳に優しく感じられた。
「昨年買った風鈴の隣に並べようね!」
「賑やかになるな」
それを想像してアルバスは、また笑みを見せて。清らかな音色と共にルルトと隣り合って歩み出してゆく。
●ふしぎ亭の夏
眩い陽光の下でも、吹いてくる風が涼しく快い。
何より、その度にりん、りんと心地良い音色が響くから――夏の暖かさの中でも、ルーシカは爽やかな気持ちだった。
「いい音だね」
言って見回すのはふしぎ亭の面々。
今回もいつものメンバーで、観光を楽しみに来た所。うん、と頷くヒロ・テスタロッサもその音色に足取りが軽やかだ。
「フーリンって、素敵な音がするんだねー♪」
「うん。綺麗だよね」
聞いているだけでも癒されるようで。
通りに沢山の風鈴がつるされる、その見た目も壮観で美しいから……ララベル・サン・ディーベルも同意するように頷いていた。
アリエッタもまた、鮮やかな絵柄や珍しい形の風鈴に目を惹かれては足を止めつつ。
「可愛いのもいっぱいあるし、お土産にほしいな」
「それじゃあ、まずあそこに寄ってく?」
と、ヒロが指したのは近くに見えた風鈴市。
皆が頷くので早速そこへ入ると……音色も色彩も千差万別の風鈴が並んでいて、よりどりみどりだ。
テュリン・ヴィングは視線を巡らせつつ、へえ、と感心の声音。
「見事なものね」
「ふしぎ亭に飾るのなら……んー、どれも綺麗で迷っちゃうね!」
ヒロも決めかねるように幾つもを見比べては悩んでいく。その中でも、目についたものを手にとって――
「これなんかどうかな? 波っぽい模様がぴったりだと思うよ♪」
「いいじゃないかしら。あ、でも――」
と、テュリンは思い出したように見回す。
「そういえば、風鈴作りが楽しめる場所があるんじゃなかったかしら。自分達で作ってみるのも良さそうね」
「風鈴作りか、良いね」
ルーシカは興味深げに頷く。
料理以外のものを作るのに勤しむ――そんな挑戦もたまには楽しそうだったから。
「それじゃあ、行こうか」
「了解♪ それじゃあ、これもとりあえず買って、と」
ヒロは気に入ったその風鈴も一応購入して。りん、りん、と音色を楽しみながら――皆で近くにある工房へと向かった。
工房は訪れている人も多く、賑やかだ。
そこに参加したララベル達は、早速材料選び。赤に青に緑にと、澄んだ硝子にアリエッタは目移りしていた。
「どれも綺麗だね」
「だねー」
ヒロも頷きながら、他の材料も見ていく。金属もまた自由な造形と独特の照りが美しく、何を選んでも良いものが出来そうだ。
ララベルはそんな中から青の硝子を複数選ぶ。
「これで、上手くいくかな――」
「じゃあボクもガラスを、っと」
言ってルーシカもガラスを選ぶ。ただこちらは後に柄を描く事を考えて……透明に近い色合いの物にしていた。
そんな様子を眺めつつ、テュリンは金属製の物を作る事に決めていた。
「これなら色々と凝れそうだからね」
そうして素早く構想を決めると――早速土で型を成型し始める。
ヘラや細い刃を使って近づけていくイメージは、月だ。更にその上で飛び跳ねる兎も立体的な造形で加えてゆき……細かい部分も整えた。
後は型が固まりきってから金属を流して――冷えるのを待っている間に装飾の作業へ。仄かに鼻歌も口ずさみながら、短冊を星をモチーフにしたデザインにしていく。
「これでいいかな? こういう物作りも、結構楽しいわね」
「そうだね……!」
そう楽しげに応えるのはララベル。複数の青がグラデーションとなるよう、上手く熱した硝子を繋ぎ合わせて膨らませていた。
それも簡単ではないけれど、数度目のチャレンジで成功。上手く球形になった硝子を切り離し……海と空色の風鈴が出来た。
「模様は、こうして――」
と、描くのは舵輪やカモメ。爽やかな海のイメージに仕上がっていく。
「いい感じだね」
作業を横目に見て言いつつ、ルーシカもまた柄の作業に移っている所。
「何を描くかは、悩ましいところだけど……」
呟きつつも、決めれば後は迷わない。透明に近い硝子に多様な色で描くのは――料理の図柄だ。
それも一品ではなく複数。スープに肉料理、サラダ……ルーシカが得意とする幾つもの料理をポップに描き、見てて楽しい風鈴に仕立てていった。
「ん、これで完成っと」
「わぁ、良い風鈴だね!」
そう言うララベルのものも、短冊に「ふしぎ亭」と銘を書いて完成だ。
「宿に飾ろうかなって」
「素敵ね。こっちも出来たところよ」
と、テュリンも自身のものを見せる。月に兎、星と……どこか幻想的で、それでいて可憐なデザインの逸品となった。
「あたしも出来たよー!」
言ってヒロも、完成品を披露。
それは先刻買った風鈴を参考にしつつ作ったもので――波模様にオリジナルな色合いと形を加えたものだ。
「皆で飾ったら、とっても良い眺めになりそうだね」
と、そういうアリエッタの風鈴も完成している。こちらも海風の爽やかさを感じさせつつ、花をモチーフにした色彩で可憐に仕上がっていた。
「皆の風鈴、どれもすごくいいと思うよ」
ララベルはそう心から飾らず言って、笑顔を見せる。
一緒に鳴らした時の、音色のハーモニーもまた美しくて……暫し皆でその響きに耳を傾けていた。
「楽しかったね!」
工房を後にして、踊るような足取りのヒロは……風鈴を手に上機嫌。
次はどこで楽しもうかと視線を巡らせていると――通りの先に食事処が並んでいるのを見つけてまた笑顔になった。
「そうだ、あれ! あの細長いやつ……ウナギ? ってのも食べてみたかったんだ!」
「鰻か、いいね」
ルーシカは妙案だと頷く。
「この時期はバテ易いから、その防止にも良いし。あっ、お店もあるみたい」
と、歩んだ先に丁度「うなぎ」と書かれた暖簾があるのを見つけた。
近づくと、漂ってくるのは何とも芳しい香りだ。
テュリンはのぼりを見て「なるほど」と好奇心を見せる。
「鰻のかば焼きね。中々に美味しそうな匂いがするわ」
「かば焼き――って食べ方知らないから、楽しみ」
ララベルも声音に期待を含め、皆と共に暖簾をくぐり……お品書きを眺めてうな重をメインに注文した。
「じゃあ私もうな重で――」
テュリンも頼みつつ、わくわくと期待感を抱いていた。
というのも――
(あとは御飯食べるだけだし。今回は流石にベルのラキスケも起こらないみたいね)
何事もなく済む、その事実に安堵していたのだ。
と、そこでふと店主が声をかけてきた。
「良ければ、捌く鰻を選んでいただけますよ」
言って案内してくれるのは鰻の泳ぐ水槽。
つかみ取りにも挑戦出来るという事で……ヒロは興味津々だ。
「へー、そんな体験出来るんだ。やってみたい!」
「何だか、滑って難しそうだけど……」
アリエッタが覗き込みつつ言うと、店主いわく確かにぬるぬるとぬめって簡単ではないらしい。
ただ、ヒロは自信満々に肩を回して。
「だいじょーぶ!」
ふんすと息を吐くと、早速桶に出された鰻へ手を伸ばす。すると確かに手元で滑る感覚はあったけれど――
「逃さないよっ!」
落とさずにしっかり両手でキャッチしてみせたのだった。
「わっ、すごいね!」
ララベルは素直に感心して拍手しつつも……「よし」と気合を入れる。
「あれなら僕でもいけるかも」
「そう? あれはヒロが上手いだけな感じもするけど――」
と、隣ではテュリンが呟くけれど……ララベルは既にやる気。選んだ鰻が桶に放たれると、それを自分も同じように掴もうとした。
けれど――つるん。
「わ、わわっ! はわわわわ」
掴み直そうとした先からどんどん滑って、鰻はつるつると空中散歩。いつしか吸い込まれるように……テュリンの服に入り込んでいた。
「ふにゃっ!?」
「わわわ、ごめん!」
ララベルは謝るが、既に鰻は服の中で大暴れ。テュリンは冷たさとくすぐったさに倒れ込んで悶絶していた。
「なんでこうなるのよっ!?」
「うーん。ベルはやっぱりどんな時でも事件を起こすね」
やはり才能なのかな、と。
しみじみと呟いているのはルーシカである。
「かもね~」
と、ヒロもその騒ぎを暫し眺めて、ニヤニヤと楽しんでいるのだった。
その後は食事に移り――うな重をはむりと食べてアリエッタは「うん」と頷く。
「美味しいね」
「うん! 本当に」
ララベルもそれには心から同意する。
濃厚な甘辛さながら、鰻の脂とふわふわさを邪魔しないタレ。香りと共に快い風味を与えてくれる山椒。
何より鰻そのものの美味しさに箸も進んだ。
「ん~、沢山歩いてきて食べるこの味は、最高だね!」
ヒロもはふはふと口に運んで、その無二の美味に笑顔を浮かべているのだった。
ルーシカも味を楽しみながら……料理人としての思考も巡らせる。
「ウチのメニューにも取り入れてみたいけれど――用意するのは簡単じゃないね」
調理が熟練の技だというのもあるが、この味はやはり新鮮さがあっての事。それを自身の店で出すとなると難しそうだ、と。
「生きたまま仕入れれば何とかなりそうだけど、コストもかかるし――」
ただ、それだけの価値があるメニューでもあるから……と。美味であるがゆえに、暫し悩んでいるのだった。
「何にしても、他所では中々味わえない料理だから。食べられて良かったわ」
テュリンも言って鰻と米のハーモニーを楽しみ、出汁を加えてさらなる美味を堪能して。先の騒ぎのぶんも取り戻そうと、最後の一口までしっかりと味わうのだった。
その後も皆で、外を散策して回った。
日も落ちて、提灯と灯籠が灯り始めると――街はその淡い光に照らされてどこか幻想的な空気を帯びてゆく。
そうして遠くで風鈴が響くのが聞こえる中……ララベル達は最後に清流沿いの、草花の美しい一角へ訪れた。
「このあたりは涼しいね」
アリエッタの言葉にヒロも「そうだね」と伸びをする。
「今日は一日遊んだね♪ 美味しいものも沢山食べられたし」
「ええ。案の定、酷い目に遇ったけど……」
テュリンは目を伏せつつ、それでも最後には笑みを見せた。
「鰻は美味しかったわ」
「うん。勉強にもなったし、いい一日だったかな」
ルーシカが言うと、ララベルは「こっちこそありがとう」と声を返した。
それは皆への気持ちでもある。
「とても楽しかったから。一緒に来てくれてありがとう」
そうして心地良い涼風の中――皆へお礼の口づけをした。
するとまた、風鈴がりん、りんと響くから。ララベルと皆は、暫くの間その音を静かに聞いていた。
●二人の音色
吹き抜ける風に風鈴が揺れている。
幾つもの硝子が陽光に煌めき、色彩豊かな光にも満ちる――そんな街並みを、アルマ・ヴァレンタインとエヴァン・ピオネロは歩み始めていた。
「町中から涼やかな音色が聞こえますね……!」
「うん、キレイな音色だねー」
瞳を輝かすエヴァンに、アルマもこくりと頷いて笑顔。通りを歩むほどに少しずつ異なった音が聞こえる――その心地良さを共に味わってゆく。
更に、耳で楽しむだけじゃなく……前方には工房も見えてきて。
「あっ、あそこで風鈴作りもやってるみたいだし、行ってみよっかー」
「良いですね~、作りたいです!」
笑みかけられれば、エヴァンも勿論首肯して。早速その工房でオリジナルの風鈴を作り始める事にする。
「どんな風鈴を作ろっかー」
「そうですね。ぼくはやっぱり……」
と、エヴァンが心に浮かべるのは直ぐ側にいるアルマの姿。
そのイメージを膨らませるよう、まずはスケッチしてみると……アルマはわー! と声音を明るくする。
「とっても可愛いデザインだねー」
「ふふ、アルマをイメージしてみました」
「そうなんだー、うれしいな」
それなら、とアルマも気合を入れて。
「ボクもしっかり可愛く作らないとだね」
言って材料を選び、吹き硝子に挑戦していく。
その様子を見つつ、エヴァンもまた硝子でチャレンジ。
透明な硝子を使って、流線型の美しい形に整えると……桃色の塗料で色を塗って逆さチューリップにした。
舌の部分は蝶を付けて舞うようにして……完成。最後まで真剣に作業に打ち込んで、美しくも可憐な逸品を仕上げる。
「可愛く……できました!」
「こっちも出来たよー。エヴァくんをイメージしてみたよー」
と、アルマも丁度完成。灯火のようなあたたかな色味に、空のように爽やかなポイントの入った風鈴だ。
音色もまた優しいから、エヴァンはわぁ、と微笑んで。
「とっても綺麗です!」
「エヴァくんのもすっごく可愛くできてるよー」
そう二人で笑み合うと、作った風鈴は持ち帰って自室に飾る事に決めるのだった。
「ガラス吹き、暑かったですね」
工房を出ると、エヴァンは涼を求めて……屋台が並んでいるのをみつけた。
ベストタイミングだと、そちらを指さして。
「氷を食べて行きませんか?」
「いいね、ちょうどヒンヤリしたの食べたい気分だし――」
アルマも頷いてかき氷の屋台へ。
エヴァンが抹茶シロップに練乳のかかった、見た目にも綺麗な品を頼むと……アルマは人気でもあるという桜シロップのものを購入。
早速二人で日陰の一角に座り、食べ始める。
するとエヴァンのものは抹茶は香り高さと仄かな苦味に、練乳の甘みが相性抜群で。
「美味しいです!」
「こっちの桜シロップのも美味しいよー」
アルマのかき氷は優しい甘みと共に上品な桜の香りが感じられる逸品で……「はい、あーん」とアルマが掬って差し出すと、エヴァンもその美味に「ん」と頷いていた。
ただ、そうやってしゃくしゃくと食べ進めるから――
「あ……キーーンッと」
頭痛がやってきてエヴァンは暫し目を閉じる。それが治まるとまた互いに食べていくけれど……今度はアルマがキーン。
「うう、頭がキンキンするーっ」
でも美味しくてまた食べてしまうから……二人で顔を見合わせて笑うのだった。
そうして渇きも癒えたら、エヴァンはお腹がくぅ、と鳴るのを自覚する。
「……何か食べたくないですか?」
「うん。丁度お腹もすいてきたもんねー」
応えるアルマは見回して……あっと気づく。
「あの、ずらーっとワイルドな佇まいで並んでる鮎の塩焼きがボク気になる……!」
「鮎! 賛成です」
エヴァンはこくこく頷くと、早速そちらへ。香ばしい匂いを漂わすそれを買って、また二人で一緒に味わって。
「ぱりぱり、ふわふわです!」
「焼き立ては最高だねー」
そうしてまた顔を見合わせては笑う。
楽しくて賑やかな時間。けれどまだまだ一日は終わらないから……二人はまた一緒に歩み出してゆく。
●踊る音色と共に
澄んだ硝子が優しく陽光を透かして輝いている。
「みて、イュン。風鈴綺麗やろ?」
軒につるされたその煌めきを――フリューリングスルフト=ティエラは兎と共に眺めながら歩み始めていた。
イュンが肯定するように耳を揺らして頬ずりすると、フリューは微笑んで更に先へ。
「音も綺麗なんさぁ♪」
言葉通り、程なくそれらがそよ風に揺れ、清涼な響きを聞かせた。
そのまま夏の街並みをイュンと楽しみながら進んで……工房が見えるとそこに寄ってみる。
「せっかくやから風鈴作ろか」
そうして材料を吟味して――形と、柄もイュンの手形をイメージしたものに仕上げた。
「ふふっ可愛いさぁ」
軽く揺らすときらきらと鳴って、耳に快く。その音色に、イュンもまた耳をぴこぴこと揺らして喜ばしげなのだった。
「それじゃあ、もっと風鈴のある場所にいくさぁ」
道を歩んでいくと、木々が立ち並ぶ景色が見え、鮮やかな夏の花が視界に映る。
そこでもまた枝や東屋に風鈴がつるされていて……風と協奏するように、涼やかな反響を生み出していた。
その中で軽やかなステップを踏み、フリューはイュンと共に歌い、踊り始める。
――夏の光、風鈴に反射。綺麗だと君と笑う。
――今年は一緒に。それが嬉しいんだ。
思いと共にくるりと回り、伸びやかな歌声を紡いでいく。
イュンも囀るように鳴いては、フリューの腕から肩へ、そして頭へと駆けてはぴょんと跳んでいく。
フリューはそれに笑みながら、風鈴の音色にもまた声を重ねた。
――リン、楽しいね。
――チリン、綺麗だね。
――リン、リン、チリン。
また来年。また一緒に。未来の約束、交わそう――と。
楽しく旋律を歌い上げると……いつしか人々も集まって、そこに感激の声と拍手を送っているのだった。
「……いっぱい楽しんださぁ!」
そうして通りを抜けると、店々が見えてきたので……お腹も空いたからと食事をする事に。
「こんにちは! 今年も来たさぁ♪」
『おお、いらっしゃい!』
威勢の良い声で迎えた屋台を眺め、まずはかき氷を選択。
「桜シロップ! それにするさぁ。――ん、美味しい!」
フリューは香り高い甘みに感嘆を零しつつ……甘味処でもお品書きに目移り。
「は! 冷やし団子もある! 西瓜も!」
迷いながらも折角だからと全部注文して――イュンには特性の野菜スティックと果物の盛り合わせを買ってあげて、共に清涼な美味を楽しんだ。
「イュン楽しかったさぁ?」
それにイュンが肯定の鳴き声を返すと……フリューは笑顔を見せて。
「また来年も来ようね! 今度はあの二人と一緒に!」
その期待と共に、また道を歩み出していった。
●音の彩りの中で
風の奏でる音色が、耳に心地良い。
幾つもの風鈴が家々に飾られる――そんな街並みの中をロゼットは散策中。
「季節によって、色々な姿を見せてくれる街ね」
風流な景色に、心も穏やかになりながら……賑わう人々の浮かべる笑顔を眺めて、道をゆっくりと進んでいた。
と、その先に見えるのがロゼットの目的地。
のぼりが立ち、多くの人々が行き交っていて。そして涼し気な音色が一層響いている――風鈴市だ。
「壮観ねぇ……」
そこに並ぶ風鈴の数々に、ロゼットは思わず目を惹かれる。
多様な色彩に、思い思いの形。違った音色を奏でる風鈴達は、眺めるほどに千差万別の魅力を感じさせて。
「こっちの透明なガラスの風鈴は色が鮮やかだけど――」
と、目に留めるそれは差し込む陽光を抱いてまるで宝石のように煌めいている。透き通ったその色を楽しんでいると、次には金属製の風鈴が視界に入って。
「こっちの鉄製の風鈴は見た目は大人しいのね。ああ、でも音の響きが……」
鳴らしてみると、軽やかながら深い反響を伴った音色を楽しめる。
(ガラスのはリン、リン、という感じだけど……鉄製の方はリーン、リーンと長く響くように聞こえるのね)
音と見た目、どちらも甲乙つけがたい気持ちだ。
折角だからお土産に買っていきたいけれど――魅力的だからこそ少々考え込んでしまう。
「どれにしようかしら。うぅん……そうね。鉄製のにしましょう」
と、それでも迷った末に決める。
硝子のものも美しかったけれど、割れてしまったらと思うともったいなく感じられるし――金属製なら長く使えそうだという判断だ。
勿論、金属のものも多様だけれど。
「デザインは……この釣鐘にしようかな」
自然と惹かれて手に取ったのは、優美さと品を兼ねた逸品だ。
「あ、そうだ。二つ買っていきましょうか」
一つはお土産にして……もう一つはシグモルにいる両親に送ろうと思ったのだ。
「教会や神殿に風鈴というのは、少し変かもしれないけど、ね」
それでも今自分の感じるこの風流さを、味わってもらいたいから。
思いと共にそれを購入したロゼットは、その優しい音色を楽しみながら――また散策へと向かっていった。
●共に響く音色
夕刻、少しずつ日が落ちるに連れて空が茜色に染まってゆく。
風も僅かな涼しさを抱く、そんな時分に……キーゼとネーヴェ・グラヌローザは揃いの浴衣を身に着けて歩んでいた。
「そろそろですね」
「ええ」
ネーヴェの少し華やいだ声音に、キーゼも頷いて視線を向ける。見えてくるのは――美しい音色が響く風鈴市だった。
早速二人歩み入ると、煌めくような風鈴の音色が幾重にも重なって聞こえる。
だけでなく、千差万別の色彩と形を持つそれが目にも楽しくて……二人はゆっくりと進みながら視線を巡らせていた。
「同じような作りなのに少しずつ音色が違うわけですね」
キーゼは揺れる一つ一つを目に留めながら、その微妙な違いに耳を楽しませる。
「素材や僅かな形の違い、ですか」
「こうしてよく見てみてると、とても興味深いものですわ」
ネーヴェもそう応えて、高い音や低い音、小さい音や大きな音……どれもが違った表情を見せてくれる風鈴を愛でていく。
目を閉じて、遠くの音まで感じれば――
「涼やかな音色が彼方此方から響いてきて、まるでちょっとした演奏会のようですわね」
折角ですし、と。
再び数歩歩んだネーヴェは……一つの店の前で足を止めて。
「私達も演奏に彩りを添えましょうか」
言葉と共に見つめているのは黒猫が描かれた風鈴だ。可愛らしく風流で、自然とその見目と音色に惹かれていた。
「いいですね」
と、そう声を添えたキーゼも、何か選んでいく事にした。
こんな季節だから涼し気なものを、と初めから考えていた訳ではないけれど……目についたのは白地に青い波形の入ったもので。
「海っぽくありません? これ」
「ええ。とても爽やかで綺麗です」
ネーヴェが瞳を細めて微笑みを向けるから、キーゼはそれ以上は迷わずにその風鈴を購入。風鈴市を出て……桜広場へと足を向けた。
すると――りん、りん、と。
夏らしい緑の葉をつけた桜の木々や、東屋の軒につるされた風鈴が風に揺れて音を奏でているのが聞こえてくる。
草花の中ではそれが一層清涼に感じられて――
「何とも心地の良い空間ですね」
「ええ、本当に」
キーゼの言葉に頷いて、ネーヴェも暫し爽風と音色を楽しむ。そして自分も風鈴を手に、少し高いところに飾ろうと手を伸ばした。
ただ、少しだけ高さが足りなくて、背伸びをしても手こずってしまう。
――と、不意に体が軽くなった。
キーゼが苦戦するネーヴェを見て、その腰に手を回して……抱えるように持ち上げていたのだ。
「ありがとうございます」
ネーヴェは少し照れた気持ちになりながらも礼を述べ、風鈴を括り付ける。
それが終わると、キーゼもまたその傍に自分の風鈴も飾り付けて……二つが並んで風にそよぐ様を暫し見つめていた。
ネーヴェをその様子を瞳に映しながら、そっと口を開く。
「……暫くこのまま、風鈴の音色を楽しんでいても構いませんか?」
「もちろん構いませんよ?」
キーゼがそう返すから、ネーヴェはその腕に自身の腕を絡めて。仄かにだけ寄り添うように距離を狭めた。
日が暮れゆくと共に、灯籠や提灯が灯り、淡く幻想的な光に景色が照らされる。風鈴もまたその灯りの中で穏やかな音色を奏でていた。
暫くその響きを味わった二人は……帰りしなにも風鈴市に寄る事にする。この機会にと、キーゼがお土産を買う事に決めたのだ。
選んだのは、硝子でも金属でもなく――備長炭を用いたもの。
艶めく黒が美しく、音色もよく響いていて。
「色といい、僕っぽくないですかね。金属質で割と好みですし――」
その独特の魅力に惹かれて、購入する事にした。
ネーヴェはその様子に「ふふ」と微笑みを見せながら――
「じゃあ、これは私から」
と、用意したのは青い飾り紐だ。
精緻ながら、飾らぬ上品さもあって。それをキーゼの買ったものに括り付けて……二つとない風鈴の出来上がりだ。
「いいですね。もう少し、見ていきますか」
「そうですね」
キーゼが言うとネーヴェも頷いて、散策を続ける。二人の足取りを、風鈴の音色が優しく見送っているようだった。
●何度でも
風鈴の音が街を飾る、涼やかな道を……エル=バ=ノイアンとシルヴィア・A・カペルは隣り合って歩んでゆく。
風流な街並みは、ただ眺めるだけでも楽しくて。
「どの季節に来ても、良いものだね」
「そうだな」
シルヴィアの言葉に頷き、ノイアンも視線を巡らせていた。
すると風鈴ばかりでなく、この季節特有の食べ物を出している店々も見える。それを目にとめて……ノイアンは口を開いた。
「ふと思ったんだが、シルヴィアの手料理も食べてみたいな」
「手料理?」
シルヴィアの反応にノイアンは「ああ」と応える。
料理というほどのものでなくても――と。
「お前が俺のために作ってくれたものが食べたくて」
「ん……」
シルヴィアはそれに少し嬉しい気持ちで――「それなら」とノイアンの顔を見た。
「魚の焼き加減には自信があるよ。料理はまだ不慣れだけれど……先生と旅をしていた時、野営で魚を釣って焼いて食べた事は何度もあるんだ」
だから焼き魚なら美味しいものを用意してあげられる、と。
ノイアンは話を聞きながら成程と頷いた。
「魚に関しては玄人、というわけか」
それからすぐに思い立って遠くの方を見やる。
「川辺があったな。釣りも出来るようだったから……魚はそこで俺が釣ろう」
「本当? それは嬉しいね」
「焼く方は、楽しみにさせてもらおう」
シルヴィアの笑顔にノイアンはそう応えて――早速二人で翠の園の川辺へと向かう事にした。
「あ、そうだ」
と、道中にはシルヴィアが店で粗塩と冷茶を購入してマジカルポケットにしっかりと収納。準備も万端にしてから川の傍に到着する。
そうして二人で並んで座り……ノイアンが川面に糸を垂らし始めた。
「上手くかかってくれるといいんだが」
時折餌を動かしながら、ノイアンが呟くと……シルヴィアはそっと微笑みを向ける。
「ノイアンなら、きっと上手くいくよ」
「……ん」
ノイアンは静かに応え、定期的に糸を引いていく。
そういえば、とふと思い出して
「前に来たときも、メインは食事だったな」
「あのときも良かったね。今回も負けないくらい美味しく出来るように頑張るよ」
シルヴィアはそんなふうに言葉を返して……それからもぽつぽつと言葉を交わしていった。
何気ないやり取りが楽しくて、ゆっくりとした時間の中でも退屈しない。ふと会話が止まっても、二人の間にあるのは心地良い沈黙で。
「――来たぞ」
と、釣り竿に力を感じてノイアンが一気に引き上げる。そこにかかったのは――活きの良い鮎二匹であった。
「これで良さそうか」
「凄いよ。ありがとう」
言ったシルヴィアは、早速その鮎の滑りを取って内蔵処理。
手際よく串打ちすると、化粧塩と共に全体にも塩をまぶした。
「後はこれを、と」
それを置くのは生活魔法による焚き火。丁度よい火加減の位置で固定して、新鮮さがなくならぬ内に焼き上げていく。
程なくぱちぱちと快い音が鳴って、香ばしい香りが立ち昇る。そしていいタイミングで火から離して……片方をノイアンへ差し出した。
「出来たよ」
「ああ」
ノイアンは受け取ると、早速一口。
皮がぱりっと小気味好い音を立てて……程よい塩味と共に香り高さが鼻先をくすぐる。
身はふわふわで、溢れる脂が何ともジューシー。シルヴィアの言葉通り、それは絶品の焼き魚であった。
「……とてもうまい。好きだな」
「そう言ってもらえると、嬉しい」
シルヴィアも自分のぶんを実食。皮の丁度よい歯ごたえと、柔らかな身のコントラストを楽しんで……懐かしい味に舌鼓。
何よりノイアンに喜んで貰えたのが、幸せな気持ち。
恋人の為に作るのは緊張したけれど。
「……とても、あたたかい気持ちだ」
「ああ――」
ノイアンも同じ気持ちで応える。
恋人が作ってくれるものも、恋人と共に火を囲む事も。立場を考えれば頻繁に、というのは難しいだろう。
だからこそ、と。
「また……何度も、ここに立ち戻る事が出来たら――」
「私もだ」
シルヴィアもそっと頷く。
何度でも立ち戻りたい、と。
「きっと君との穏やかな時間を何度も思い出す。だから――」
この時間を作る為ならいくらでも頑張れる。
伝えたその言葉に、ノイアンもまた「ああ」と柔らかな声を返して。短いけれど、何より大切な時間を……二人で過ごしてゆく。
●甘味と共に
風に戯れてる音色が、きらきらと静やかに響く。
見回せば幾つもの風鈴が、音だけでなくその色彩でも楽しませてくれるから――ルベア・ベルニは道々を眺めながら散策をしていた。
「綺麗ね……」
楚々と歩む、その見目は淡い水色地に流水柄の浴衣。髪は簪でまとめ、可憐ながら雅な風流さに整っている。
シャルガネを歩むなら、こうした格好を召すのも楽しみの一つ。今日は一人の観光だし、そのままルベアは心の赴くままに散歩して帰るつもりだった。
――けれど。
「……ルベア嬢?」
ふと聞いた事のある声音が耳朶に届いて、ルベアは足を止めた。
ティトリー=R=アルバートは取材を兼ねて街の文化を体験しながら歩んでいた。
実際、シャルガネらしさに溢れる景色は趣深く……王国では見られない家並みや人々の様子など、目を引くものも多い。
けれどその中で、ふと意識を惹かれたのが――近くを歩む浴衣姿の人影だった。
「ルベア嬢?」
最初は半信半疑でもあったけれど……声に振り返った姿は確かにルベアだ。
ルベアも、はっとしながら数歩歩んできて……この遠方の地で顔を見るティトリーに驚いてもいる。
「びっくりした……。まさかシャルガネで会うなんて」
「き、奇遇……ですね」
ティトリーは言いながら、少しルベアの姿を見つめている。
「その、いつもと雰囲気が違うので、すぐには分かりませんでした。シャルガネ風の服……とてもお似合いです」
「……ありがとう」
ルベアは照れた気持ちで、少し顔を背ける。
それから軽く腕を上げて裾を揺らしてみせた。
「その……浴衣はこの辺りではたまに着るけど。色は、この間アナタが勧めてくれたのを何となく……ね」
「ぼくの勧めたものを……?」
ティトリーは仄かにだけ目を開く。
それから意識せず、嬉しい気持ちを声音に表していた。
「それは重畳――明るい色も、愛らしい出立ちも、ルベア嬢をより魅力的にしてくれています」
と、そう言ってからはっとして。
「……ふ、深い意味はないです!」
その様子に、ルベアも少し恥ずかしげな気持ちになりながら……ふと尋ねる。
「ていうか、何でこんなところに……?」
「ぼくは、えっと……こちらの文化に興味があって」
方々を見て回っていたのだとティトリーは説明した。
それからほんの短い時間考えて、作品の為に、とルベアの方を見つめる。
「ユカタの感想、聞かせていただけないですか?」
「浴衣の感想……私のでよかったら……うん」
「本当ですか?」
良かった、と息をついたティトリーは、「えっと」と見回して――店が並ぶ一角を見つけてそちらを指した。
「では立ち話もなんですし、向こうの茶店で……デザートやお茶をいただきながら。どうでしょう?」
「茶店……」
ルベアは一瞬、その提案には「デートなんじゃ」と思考がよぎる。
けれどティトリーにそんなつもりはないだろうし、実際そんなふうに見える態度でもないから――「うん」と頷いた。
二人でそのお店の暖簾をくぐると、ルベアはあんみつを、ティトリーは暫し悩んでからくずきりを注文していた。
そうして品がやってくると……まずは一緒に頼んだお茶を啜りながら、ティトリーが質問してゆく。
「浴衣は、どうですか? 着ていて何か普段と違う事は――」
「違う事……心持ちは変わるかも」
涼しげで気取らない服装ではあるけれど、洗練されていて美しい。
街の風流な景色にも合っているから、自分がその一員になったような気分にもなると、ルベアはぽつぽつと答えていった。
丁寧な説明に、ティトリーは感謝を述べつつ……くずきりと食べようとする。が、箸の扱いが難しく、くずきり自体も滑るので少々苦戦していた。
「大丈夫?」
「ええ、何とか……。シャルガネの甘味は食器も独特ですね――」
ティトリーは答えてやっと一口食べている。
その様子に、ルベアは微笑みを零していた。
(貴族でも、普通の男の子っぽいところもあるんだ――)
何となくそこに、親しみやすさのようなものを感じたのだ。
ティトリーはその内に慣れ始め、味を楽しむから……ルベアもまたあんみつの優しい甘みを味わって。
互いに食事が済むと、ティトリーは立ち上がる。
「あ、会計はぼくが」
「いいの?」
「勿論。ぼくからお誘いしましたから」
その言葉に、ルベアはそれ以上は言わずに。「それじゃあお言葉に甘えて」と、お願いする事にした。
彼を立てる気持ちもあったけれど……多分、無意識に甘えてもいたのかも知れない。
「今日はお話、ありがとうございました」
そうしてティトリーが頭を下げると、ルベアも「こちらこそ」と応えて。また風鈴の響く道へと歩み出していく。
●二人と二匹で
りん、りん、と。
風が揺らす音色の中を、パルドとウォーゼルは散策していた。
「これが道にずっとつるされてるんだ。すごいな!」
「そうだね」
視線を巡らすパルドに、ウォーゼルも微笑んで壮観な眺めを楽しむ。
勿論、傍らには猫のショコラとミニコボのチョコも一緒で。
りんりんと響く音に、二匹ともが耳を興味深げにぴこぴこ揺らしているのも……パルドとウォーゼルは微笑ましげに見ていた。
と、道の先に見えてくるのは――そんな風鈴を作る工房だ。
「風鈴て自分で作れるのか?」
パルドが思わず覗き込んでいると、ウォーゼルも頷く。
「みたいだね。自由に参加出来るみたい」
「面白そう――やってみたい!」
パルドが言うならば、ウォーゼルも行かない理由はない。何より自分もそれには興味を惹かれていたから。
「いいね、やってみようよ!」
という事で早速参加して、やり方を教えてもらいつつ実践へ。
「俺は、こっち!」
と、パルドが選んだのは拭き硝子だ。
色は幾つもの中から青と透明を選び……熱されたその硝子がグラデーションになるよう、上手く巻き取りながら接合する。
そうして完成をイメージしながら、慎重に息を吹き入れて――
「よし、上手くできた!」
綺麗に膨らんだら、後は切り離して冷えるのを待ち……尖った部分を削って綺麗な風鈴の形に整えていた。
(パルド、上手くやってそうだね)
と、その作業を横目にしつつ――ウォーゼルは材料に金属を選び、その型の為の粘土を成型し始めている。
「さて、どんな感じにしようかな?」
思案すると……ぱっと思い浮かんだのはショコラとチョコ、二匹の家族が仲良く遊んでいるところで。
「よし」
ひとつ頷くと、後は迷わずに。花をイメージした型を作ると、舌の部分は蝶の形になるようにして……後は流した金属が冷えている間に短冊も作っていく。
一方、パルドも装飾の作業中。
こちらも思いついたのは二匹の家族。イメージを浮かべながら、寄り添う黒いシルエットを硝子に描いていった。
紐は藍染、短冊は薄桃色にして美しくも風流な仕上がりにして。
「うん」
ちりんと澄んだ音色を鳴らし、満足気ににんまりと微笑んだ。
それから隣に目を向けて。
「こっちは完成! ウォーゼルはどんなの作った?」
「俺はこんな感じにしてみたよ」
と、答えてウォーゼルが見せるそれも、丁度完成した所。
それはカンパニュラのような淡い紫色の風鈴に……黄色い蝶の姿をした舌が、まるで宙に遊んでいるように見える逸品だ。
短冊に描かれたのは、仲良く蝶に手を伸ばすチョコとショコラ。
それを見て、パルドは思わず笑みを零していた。
「考えることは一緒だな」
「パルドのは?」
「これ」
と、パルドが自身の風鈴を見せると……ウォーゼルもなるほどと得心。
「ふふふ、確かに同じだね」
それが何だか嬉しくて、楽しくて。こちらもまた笑みを零さないではいられない。
風鈴を見せ合う下では、チョコとショコラも短冊の絵のように手を伸ばしていて。じゃれようとするその姿が可愛らしくて、二人はまた笑みを交わしていた。
そうして完成した風鈴を手に、皆で改めて散策へ。
夕暮れの街並みを眺めながら歩んで……川縁にたどり着く。
「風鈴の音色を聴くと何だか涼しく感じるね」
「ああ」
ウォーゼルの言葉にパルドは頷いて、遠くから響く音色と……そして自分達の風鈴にもまた耳を傾けて。
「風を音で楽しむなんて面白いこと考えるよな」
りん、りん、と。
耳朶を撫ぜるその音色は優しくて、心地良くて。二人はせせらぎも聞こえるその場所で隣り合って座り、のんびりと音を楽しむ。
チョコとショコラも傍に寄り添ってくるから、二人はそれにも微笑みを交わして。
「少し、ゆっくりしていこうか」
「そうだな」
涼し気な音色と共に、緩やかな時間が流れる。二人と二匹はその中で暫し、のんびりと過ごしていった。
風鈴が風に戯れ、景色を清廉な音色で満たす。
そんな通りを、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブとコルネリウス・アーラは共に歩み出していた。
「にゃ! この街に来るのも久しぶりだなぁ」
「ええ、そうですね」
くるりと見回すサフィラに、コルネリウスは瞳を細めて微笑む。遊びに来るのも、そして浴衣を着るのもまた久しぶりだから……一層風流な心持ちだ。
「サフィラさんの浴衣、涼しげで可愛いですね」
言ってコルネリウスが見つめるサフィラは、青地に金魚と水草が描かれた何とも涼し気な一着。
「ありがとっ! コルネの浴衣もかわいーねっ!」
そうサフィラが笑顔で瞳に映すコルネリウスは、白地に黄色が入った花柄で。上品さの中に華やかさも兼ねた浴衣姿だった。
そんな装いで道を進んでいくと、りん、りん、と音が一層耳朶を打つ。
「風鈴が涼しげで、気持ちがいいですね」
コルネリウスが視線を巡らすと、サフィラは頷いて視線を前方にやっていた。
「これを作れるんだよね! あっ、あの場所みたい!」
そこに見えてくるのが、俄に賑やかになっている工房。
作業中の人々や職人、いくつもの風鈴が垣間見えて……二人も早速参加してみる事にする。
「風鈴って見たことあるけど作るのって初めてかもっ」
「どんなものが出来るか、楽しみですね」
と、わくわくするサフィラにコルネリウスも笑んで……まずは硝子選び。
一口に硝子といっても、無垢な透明や鮮やかな赤、高貴な紫と選択肢があって……どれも美しいから少々迷ってしまうけれど。
「そうですね……では、私はこちらで」
と、コルネリウスが透明色を選ぶと……サフィラは「じゃああたしはこれっ!」と青色を選択。
まずは溶解炉で硝子を溶かし、それを管に巻き取る作業から始めた。
そこまでは順調。けれどサフィラが慎重に息を吹きかけて膨らませようとする、と――形が少しばかり歪に。
「にゃ……失敗しちゃった……」
「思った以上に難しいのですね、職人さんは凄いです」
コルネリウスも少々難儀しつつ、そんな実感を得ていた。
勿論、諦めずにすぐに再チャレンジ。サフィラは巻き取る所からやり直して――
「もう一度!」
コツを職人に聞きつつ、均一に息を吹き入れて……綺麗な形に。
「よし! 今度は上手くいった!」
「こちらも、綺麗に出来ました!」
コルネリウスも管を上手く回しつつ丁寧に、そして素早く吹いて――歪みのない形を作ることに成功する。
それを二人で喜び合うと……硝子を冷まして装飾へ。
コルネリウスは青や黄色、赤と複数の色の紐を編み上げて、それ単体で芸術作品のような美しさに仕上げていく。
その間にサフィラは、硝子に星で河を描き……可愛らしさと幻想的な趣を演出した。
「でーきたっ! 短冊は青紫のやつ付けよーっと♪」
と、選んだその短冊を結びつけて――澄んだ青の硝子と合わせて、夏にぴったりの色合いの逸品が出来上がる。
それを改めて自分で眺めて、うん、と一つ頷いてから視線を隣へ移して。
「コルネはどんなデザインにするのかなっ?」
「私は……風鈴にも同じ色を施して――」
コルネリウスは応えつつ、硝子も紐と同じ色で彩って統一感を演出。
短冊を鳥の形にすると、揺れるそれがまるで宙を遊んでいるかのように見えて。
「わぁっ、可愛いね!」
「ありがとうございます。上手に出来たと思います!」
チリン、と高く澄んだ音が耳に心地良く、コルネリウスは満足。サフィラの夏の夜のような風鈴にも笑みを見せて。
「サフィラさんの風鈴も素敵です」
「にゃ、ありがとっ!」
サフィラも明るい笑顔で応えて、その音色を楽しんでいた。
そうして出来た風鈴を手にして……二人は散策しながら夕涼み。日の落ちてきた空の下、そっと耳を澄ませて。
「風鈴の音が涼やかだねっ」
「ええ」
サフィラが笑みかけると、コルネリウスも穏やかに笑み返す。
夕暮れに風鈴、涼風に夏の音。趣深い時間に、雅なひとときを楽しんで……二人はゆるりと散策を続けていった。
●輝ける時間を共に
商店街の端に居を構える、万屋兼託児所「やおよろず亭」。
午前中から繁盛の様相が続いていた店も、ようやく忙しさの一段落を迎えた時間帯――大福は狼の粽と一緒に店内から飛び出してきていた。
「粽~! この後はテスとロイと待ち合わせなのだ~!」
そわそわと尻尾を揺らし、楽しみな態度を抑え切れないのは……もうすぐその時間がやってくるから。
わふっと応える粽の尻尾もまたゆれゆれで。期待の心を隠せず、ふたりしてもふもふと戯れないではいられない。
と、程なくしてそこへやってくるのが――
「大福さん! 粽さん! 遊びに来たよ!」
「久しぶりだね! 今日はありがとう!」
手を振りながら並んで歩む、テス・アウレアとロイ・アウレア。
近くまでくると、まずはテスが小走りに駆け寄って。大福もそこへ飛びついてくるから……ギュッとハグしてつやつやな毛並みを堪能する。
「よく来たのだ~!」
「ぁ、ずるいぞ! オレも!」
ロイもそこへ走り寄ると、大福もまたそれに応えて。ぎゅっぎゅっと存分にハグして喜びと親愛を伝えるのだった。
勿論、テスは粽もナデナデもふもふ。柔らかな毛並みを沢山触れて、表情をほころばせて。
「天国!」
「粽も喜んでるのだ~!」
言葉通り、粽もしっぽを振って歓迎の意。
そこへロイの傍らから狼のルプスも歩み出て、鼻を合わせて挨拶。テスの元から猫のレグルスもそこに加わって、親愛を交わしていた。
そうして挨拶も済むと、皆で歩み出す。
「今日は、よろしくね」
「任せるのだ~!」
テスの言葉に、大福は明るく応えて先導。今日は地元案内をする事になっていたのだ。
「楽しみだ」
街も、そして皆で一緒の時間を過ごせる事も、と。
思いをロイが口にすると、テスも「うん」と頷くから。二人で見合い、大福ともまた笑みを交わし……心躍る時間が始まった。
「この時期はやっぱり、ここなのだ!」
るんるんと、軽やかな足取りで街を案内していく大福は……粽の鼻先と共に、もっちりとした手先で前方を示す。
そこは清らかな音色に満ちる、風鈴市。
「わぁ!」
レグルスを腕に抱いたまま歩むテスは、広がる景色に瞳を輝かす。煌めく硝子製に艶めく金属製、色彩も千差万別な風鈴が無数に揺れていた。
ロイもまた歩み入って、感心の声音。
「これは見事だな――」
「ロイ、あれ見て!」
と、そわそわと見回していたテスは一つに目を留めて駆け寄っている。
それは金魚柄の卓上風鈴で……短冊に金魚を狙う猫の絵が描かれていた。
「レグそっくり」
「確かに」
ロイが笑み返すと、テスはそれを気に入って購入。満足気に音を楽しむ。
「ここの風鈴は可愛い動物の絵柄が多いのだ。他にも――」
と、大福は更に先を案内しようとして……はっと気づく。そこに狼の柄が目を引く風鈴がつるされていたのだ。
「おっちゃん! このカッコイイ狼の風鈴ちょうだいなのだ!」
『あいよ!』
「ありがとうなのだ! 粽なのだ~!」
それを受け取り、大福もまた満足の面持ち。確かにそれは粽そっくりな柄で……粽も親近感ゆえか鼻先を近づけているのだった。
テスも「本当だ!」とそれを見て楽しげだから……ロイはうんうんと、満悦の気持ち。
(良いね――)
再びぴょこぴょこ歩き出す大福達に、いつもより一層楽しげなテス。仕草一つにも癒やされるから、ロイは自然と顔が綻んで戻らないのだった。
その後風鈴市を出た一行は――
「川で涼むのだ~!」
丁度日も落ちてきた頃合いだからと、せせらぎの傍へ夕涼みにやってきた。
近づく夜と、水面に冷やされた風が快く肌を撫ぜて……ロイは瞳を細めている。
「良い川風だ……」
「うん。そうだ――お腹も減ってきたし、食事にしようか」
言ったテスはマジカルポケットに収納してきた机に、ティーセットを広げていた。
お弁当も並べていて……大福はわくわくと覗き込む。
「お弁当持ってきてくれたのだ? 美味しそうなのだ!」
「準備が早い……流石テスだね」
ロイがそう言う頃には、お箸もフォークもしっかりと揃っていて。大福も「そうなのだ」と荷を取り出していた。
「おっ母からわらび餅の差し入れなのだ」
「わらび餅かぁ。どんなお味だろ……」
と、テスがそれに瞳を輝かせていると――強めの風でぶわっときな粉が舞い上がり、大福の顔面を直撃。
「ぶほッ!」
「わわ、粉が!?」
テスも一瞬視界がきな粉色に染まり、思わず目を閉じる。ロイは笑いを零しつつ、「大丈夫?」とタオルを渡しているのだった。
「ありがとう。こっちは先に食べよう!」
テスが言うと、二人も頷いてまずはわらび餅を実食。
「っ美味しい!」
テスが素直に言うと、ロイも口に運んで……優しい甘みに舌鼓。
「お母さんは料理上手だね。後でお礼を言わせてもらおう」
「そう言ってもらえると嬉しいのだ~!」
大福もそう述べつつ「いただきますなのだ!」と餅と共にお弁当もいただく。するとどのおかずも美味で――
「美味しいのだ~!」
「沢山あるからね」
テスが微笑んで言うと、ロイもまたその味を楽しんで……風鈴の音と共に和やかな時間を送ってゆく。
食事が済んで休憩を挟むと……大福は川へ走っていた。
「折角だから皆で遊ぶのだ!」
「良いね。涼しそう!」
テスは勿論首肯。レグルスを優しく撫でて寝かしつけると――川に飛び込む大福に続いて自分も水に足を踏み入れた。
「冷たくて気持ち良い! ほら、ロイも!」
「よし」
頷くロイも、ボトムを捲って浅い場所から川へ。するとひんやりとした感覚が心地良く、一歩二歩と歩んでいくだけでも楽しい。
そうしていると童心に帰ったようで……ちょっと笑みを浮かべてから、テスへと走って水をパシャっと跳ね上げさせる。
「テス覚悟ー!」
「わっ!」
テスは上手く避けるも、ロイは更にぱしゃぱしゃと追撃するから……ならばとテスも微笑んで。
「負けないよ?」
気合を入れて、金剛撥水の力を発揮。水を弾いて防御しながら、逆に攻撃に打って出る。
そこへ大福も加わって、一気にバシャリ! ロイの髪を濡らして優勢を取ってみせた。
「にゃはは~!」
「大福と組むとは!」
ロイは形勢が傾くのを感じ取るが――直後には「ルプスーっ」と助けを呼んだ。
するとバシャン! と飛び込んだルプスが大福達の周囲を旋回。一気に飛沫の雨に閉じ込めてみせる。
「わぁ!」
テスは全身に冷たさを感じるも……それもまた心地良くて。皆濡れてしまったので、こうなると敵も味方もなくなって。
「えい!」
「わぷ! やったのだ! こうなったらテスもロイも、ルプスも粽も覚悟なのだー!」
大福はバシャバシャと大きな波を立てて皆へ頭から水を被せていく。それに皆もまた笑いながらわいわいと楽しんだのだった。
そうして川から上がると……粽はそのずぶ濡れ具合で、自慢のもふもふもなくなって。
「粽~ほっそりなのだ!」
「ルプスもだね」
テスもその姿をみてクスクスと微笑ましげに笑う。
ロイも二人と共に笑いながら、タオルを用意して。皆で最後まで楽しげな声を響かせながら、拭き合うのだった。
「今日はありがとう」
夜の帳も下り始めた頃、川から戻り……ロイは大福、そしてテスにも心から伝える。
テスも頷いて、二人に笑みを向けた。
「楽しかったよ」
「こっちこそ、とっても楽しかったのだ~!」
店の前に着くと、大福はそこで見送る形。「また一緒に遊ぼうなのだ!」と、テスとロイへ手を振り続ける。
二人はその姿が見えなくなるまで、振り返っては手を振り返し――心に残る思い出と共に道を歩んでいくのだった。
●色彩と音色
「ふふふー、またお祭りに来れて嬉しいんだよ♪」
暖かな風に夏の花が薫る。
そんな道を軽やかに歩みながら、ルルト・アーキスは声音を明るく華やがせていた。
「あっ! あっちに風鈴、いっぱいあるよ!」
「ああ」
隣で頷くアルバス・ロウルは、先を楽しみに進むルルトに歩幅を合わせて微笑む。
祭りの気分が楽しい。何より、ルルトが随分この街を気に入っているようだから……自分も嬉しくなる気持ちだった。
だけじゃなく、今日は自身も楽しみにしてきた事がある。
「あの先だな」
彩り豊かな風鈴の音色に耳を澄ませながら進む、通りの先。そこに俄に人の集まる……工房が見えてきた。
わぁ、とルルトは目を輝かす。
「あそこで風鈴、作れるんだね♪」
「早速行こうか」
という訳で共にそこへ入り……それぞれの風鈴を作ってみる事になった。
主な材料は硝子と金属。どちらも違った美しさがあるけれど、澄んだ煌めきに惹かれて……ルルトは硝子に決める。
「ボクはこっちにしよっと。アルバスは?」
「俺は金属製のにするよ」
互いに違ったのを作るのも面白い。それに金属製の自由度にもまた惹かれて、アルバスはそちらを選択した。
ふふっとルルトは笑みを向ける。
「どんな音色になるか楽しみだね!」
「ああ、楽しみだな!」
きっと良いものになる。
ルルトと一緒に作るなら、そうなるだろうという確信にも似た思いで頷いて……アルバスは粘土で型を成型し始めた。
どこまでも凝る事が出来るのが、粘土型のいいところ。ただ初めてでもあるからと、アルバスはシンプルなベル型を想定して整え始めた。
「こここうして、と」
大きさの違うヘラを上手く使い、流線型を美しくして。縁はチューリップの花びらのように綺麗に波打たせてみる。
型が出来たら、後は金属を流し込んで待機だ。
「さて、少し時間がかかるかな」
その間に、アルバスはルルトの方を見やる。
ルルトは丁度、職人の手本を見終えて……自分も拭き硝子に挑戦するところだ。
「えっと、これを上手く取って――」
選んだ硝子は澄んだ美しい黄色。それを上手く吹き竿に巻き取ると……力を入れすぎないようにふーっと息を吹き入れる。
そのままくるくると回す、その一生懸命な姿にアルバスは微笑ましい気持ち。
だけじゃなく――
「見事じゃないか」
「ありがとっ!」
笑みを返すルルトが仕上げたそれは……歪みのない綺麗な球形に広がっていた。
ルルトがそこから柄の作業に移り始めると――アルバスも出来た金属に色つけを始める。
「色は、と――」
選んだのは落ち着いた赤色。
ムラにならぬよう、筆を使ってしかと全体を塗装すると……舌も同色に仕上げた。
そうして組紐と和紙の短冊を結ぶと――オリエンタルな上品さが漂う、東方風の趣深い風鈴が出来上がる。
りん、と鳴らすと音色もまた落ち着いていて綺麗なものだった。
(ルルトのは……)
ふと目をやると、ルルトは「んー」と思案中。
周りを見回しつつ少し考えてから……ひとつ頷いて、後は迷わず彩色し始めた。
硝子にまず描いたのは、青や緑の線。そこに黒と白の水玉をぽんぽんと付け足して……可愛らしい水風船のような風鈴となった。
短冊は和柄のものを選んで、結びつけ――
「これで完成!」
「可愛く出来たな」
アルバスが笑みを向けると、ルルトは「うんっ!」と嬉しい気持ちで笑顔を返す。
というのも、色も漫然と選んだ訳じゃなく――
「タマさんにシロに……ボクとアルバス! 皆の色を使ってみたんだよ」
「なるほど、皆の色か」
アルバスもすぐに得心。
毛に瞳、その色は確かに見慣れたもので。皆で一緒にいる時のように、それを眺めていると温かな気持ちになれるようだった。
「アルバスのはお花みたいで綺麗だね♪」
「ありがとう。上手く出来て良かったよ」
二人で風鈴を見せ合い、音色を重ねる。
それぞれ個性があって、違った音だけれど……どちらも耳に優しく感じられた。
「昨年買った風鈴の隣に並べようね!」
「賑やかになるな」
それを想像してアルバスは、また笑みを見せて。清らかな音色と共にルルトと隣り合って歩み出してゆく。
●ふしぎ亭の夏
眩い陽光の下でも、吹いてくる風が涼しく快い。
何より、その度にりん、りんと心地良い音色が響くから――夏の暖かさの中でも、ルーシカは爽やかな気持ちだった。
「いい音だね」
言って見回すのはふしぎ亭の面々。
今回もいつものメンバーで、観光を楽しみに来た所。うん、と頷くヒロ・テスタロッサもその音色に足取りが軽やかだ。
「フーリンって、素敵な音がするんだねー♪」
「うん。綺麗だよね」
聞いているだけでも癒されるようで。
通りに沢山の風鈴がつるされる、その見た目も壮観で美しいから……ララベル・サン・ディーベルも同意するように頷いていた。
アリエッタもまた、鮮やかな絵柄や珍しい形の風鈴に目を惹かれては足を止めつつ。
「可愛いのもいっぱいあるし、お土産にほしいな」
「それじゃあ、まずあそこに寄ってく?」
と、ヒロが指したのは近くに見えた風鈴市。
皆が頷くので早速そこへ入ると……音色も色彩も千差万別の風鈴が並んでいて、よりどりみどりだ。
テュリン・ヴィングは視線を巡らせつつ、へえ、と感心の声音。
「見事なものね」
「ふしぎ亭に飾るのなら……んー、どれも綺麗で迷っちゃうね!」
ヒロも決めかねるように幾つもを見比べては悩んでいく。その中でも、目についたものを手にとって――
「これなんかどうかな? 波っぽい模様がぴったりだと思うよ♪」
「いいじゃないかしら。あ、でも――」
と、テュリンは思い出したように見回す。
「そういえば、風鈴作りが楽しめる場所があるんじゃなかったかしら。自分達で作ってみるのも良さそうね」
「風鈴作りか、良いね」
ルーシカは興味深げに頷く。
料理以外のものを作るのに勤しむ――そんな挑戦もたまには楽しそうだったから。
「それじゃあ、行こうか」
「了解♪ それじゃあ、これもとりあえず買って、と」
ヒロは気に入ったその風鈴も一応購入して。りん、りん、と音色を楽しみながら――皆で近くにある工房へと向かった。
工房は訪れている人も多く、賑やかだ。
そこに参加したララベル達は、早速材料選び。赤に青に緑にと、澄んだ硝子にアリエッタは目移りしていた。
「どれも綺麗だね」
「だねー」
ヒロも頷きながら、他の材料も見ていく。金属もまた自由な造形と独特の照りが美しく、何を選んでも良いものが出来そうだ。
ララベルはそんな中から青の硝子を複数選ぶ。
「これで、上手くいくかな――」
「じゃあボクもガラスを、っと」
言ってルーシカもガラスを選ぶ。ただこちらは後に柄を描く事を考えて……透明に近い色合いの物にしていた。
そんな様子を眺めつつ、テュリンは金属製の物を作る事に決めていた。
「これなら色々と凝れそうだからね」
そうして素早く構想を決めると――早速土で型を成型し始める。
ヘラや細い刃を使って近づけていくイメージは、月だ。更にその上で飛び跳ねる兎も立体的な造形で加えてゆき……細かい部分も整えた。
後は型が固まりきってから金属を流して――冷えるのを待っている間に装飾の作業へ。仄かに鼻歌も口ずさみながら、短冊を星をモチーフにしたデザインにしていく。
「これでいいかな? こういう物作りも、結構楽しいわね」
「そうだね……!」
そう楽しげに応えるのはララベル。複数の青がグラデーションとなるよう、上手く熱した硝子を繋ぎ合わせて膨らませていた。
それも簡単ではないけれど、数度目のチャレンジで成功。上手く球形になった硝子を切り離し……海と空色の風鈴が出来た。
「模様は、こうして――」
と、描くのは舵輪やカモメ。爽やかな海のイメージに仕上がっていく。
「いい感じだね」
作業を横目に見て言いつつ、ルーシカもまた柄の作業に移っている所。
「何を描くかは、悩ましいところだけど……」
呟きつつも、決めれば後は迷わない。透明に近い硝子に多様な色で描くのは――料理の図柄だ。
それも一品ではなく複数。スープに肉料理、サラダ……ルーシカが得意とする幾つもの料理をポップに描き、見てて楽しい風鈴に仕立てていった。
「ん、これで完成っと」
「わぁ、良い風鈴だね!」
そう言うララベルのものも、短冊に「ふしぎ亭」と銘を書いて完成だ。
「宿に飾ろうかなって」
「素敵ね。こっちも出来たところよ」
と、テュリンも自身のものを見せる。月に兎、星と……どこか幻想的で、それでいて可憐なデザインの逸品となった。
「あたしも出来たよー!」
言ってヒロも、完成品を披露。
それは先刻買った風鈴を参考にしつつ作ったもので――波模様にオリジナルな色合いと形を加えたものだ。
「皆で飾ったら、とっても良い眺めになりそうだね」
と、そういうアリエッタの風鈴も完成している。こちらも海風の爽やかさを感じさせつつ、花をモチーフにした色彩で可憐に仕上がっていた。
「皆の風鈴、どれもすごくいいと思うよ」
ララベルはそう心から飾らず言って、笑顔を見せる。
一緒に鳴らした時の、音色のハーモニーもまた美しくて……暫し皆でその響きに耳を傾けていた。
「楽しかったね!」
工房を後にして、踊るような足取りのヒロは……風鈴を手に上機嫌。
次はどこで楽しもうかと視線を巡らせていると――通りの先に食事処が並んでいるのを見つけてまた笑顔になった。
「そうだ、あれ! あの細長いやつ……ウナギ? ってのも食べてみたかったんだ!」
「鰻か、いいね」
ルーシカは妙案だと頷く。
「この時期はバテ易いから、その防止にも良いし。あっ、お店もあるみたい」
と、歩んだ先に丁度「うなぎ」と書かれた暖簾があるのを見つけた。
近づくと、漂ってくるのは何とも芳しい香りだ。
テュリンはのぼりを見て「なるほど」と好奇心を見せる。
「鰻のかば焼きね。中々に美味しそうな匂いがするわ」
「かば焼き――って食べ方知らないから、楽しみ」
ララベルも声音に期待を含め、皆と共に暖簾をくぐり……お品書きを眺めてうな重をメインに注文した。
「じゃあ私もうな重で――」
テュリンも頼みつつ、わくわくと期待感を抱いていた。
というのも――
(あとは御飯食べるだけだし。今回は流石にベルのラキスケも起こらないみたいね)
何事もなく済む、その事実に安堵していたのだ。
と、そこでふと店主が声をかけてきた。
「良ければ、捌く鰻を選んでいただけますよ」
言って案内してくれるのは鰻の泳ぐ水槽。
つかみ取りにも挑戦出来るという事で……ヒロは興味津々だ。
「へー、そんな体験出来るんだ。やってみたい!」
「何だか、滑って難しそうだけど……」
アリエッタが覗き込みつつ言うと、店主いわく確かにぬるぬるとぬめって簡単ではないらしい。
ただ、ヒロは自信満々に肩を回して。
「だいじょーぶ!」
ふんすと息を吐くと、早速桶に出された鰻へ手を伸ばす。すると確かに手元で滑る感覚はあったけれど――
「逃さないよっ!」
落とさずにしっかり両手でキャッチしてみせたのだった。
「わっ、すごいね!」
ララベルは素直に感心して拍手しつつも……「よし」と気合を入れる。
「あれなら僕でもいけるかも」
「そう? あれはヒロが上手いだけな感じもするけど――」
と、隣ではテュリンが呟くけれど……ララベルは既にやる気。選んだ鰻が桶に放たれると、それを自分も同じように掴もうとした。
けれど――つるん。
「わ、わわっ! はわわわわ」
掴み直そうとした先からどんどん滑って、鰻はつるつると空中散歩。いつしか吸い込まれるように……テュリンの服に入り込んでいた。
「ふにゃっ!?」
「わわわ、ごめん!」
ララベルは謝るが、既に鰻は服の中で大暴れ。テュリンは冷たさとくすぐったさに倒れ込んで悶絶していた。
「なんでこうなるのよっ!?」
「うーん。ベルはやっぱりどんな時でも事件を起こすね」
やはり才能なのかな、と。
しみじみと呟いているのはルーシカである。
「かもね~」
と、ヒロもその騒ぎを暫し眺めて、ニヤニヤと楽しんでいるのだった。
その後は食事に移り――うな重をはむりと食べてアリエッタは「うん」と頷く。
「美味しいね」
「うん! 本当に」
ララベルもそれには心から同意する。
濃厚な甘辛さながら、鰻の脂とふわふわさを邪魔しないタレ。香りと共に快い風味を与えてくれる山椒。
何より鰻そのものの美味しさに箸も進んだ。
「ん~、沢山歩いてきて食べるこの味は、最高だね!」
ヒロもはふはふと口に運んで、その無二の美味に笑顔を浮かべているのだった。
ルーシカも味を楽しみながら……料理人としての思考も巡らせる。
「ウチのメニューにも取り入れてみたいけれど――用意するのは簡単じゃないね」
調理が熟練の技だというのもあるが、この味はやはり新鮮さがあっての事。それを自身の店で出すとなると難しそうだ、と。
「生きたまま仕入れれば何とかなりそうだけど、コストもかかるし――」
ただ、それだけの価値があるメニューでもあるから……と。美味であるがゆえに、暫し悩んでいるのだった。
「何にしても、他所では中々味わえない料理だから。食べられて良かったわ」
テュリンも言って鰻と米のハーモニーを楽しみ、出汁を加えてさらなる美味を堪能して。先の騒ぎのぶんも取り戻そうと、最後の一口までしっかりと味わうのだった。
その後も皆で、外を散策して回った。
日も落ちて、提灯と灯籠が灯り始めると――街はその淡い光に照らされてどこか幻想的な空気を帯びてゆく。
そうして遠くで風鈴が響くのが聞こえる中……ララベル達は最後に清流沿いの、草花の美しい一角へ訪れた。
「このあたりは涼しいね」
アリエッタの言葉にヒロも「そうだね」と伸びをする。
「今日は一日遊んだね♪ 美味しいものも沢山食べられたし」
「ええ。案の定、酷い目に遇ったけど……」
テュリンは目を伏せつつ、それでも最後には笑みを見せた。
「鰻は美味しかったわ」
「うん。勉強にもなったし、いい一日だったかな」
ルーシカが言うと、ララベルは「こっちこそありがとう」と声を返した。
それは皆への気持ちでもある。
「とても楽しかったから。一緒に来てくれてありがとう」
そうして心地良い涼風の中――皆へお礼の口づけをした。
するとまた、風鈴がりん、りんと響くから。ララベルと皆は、暫くの間その音を静かに聞いていた。
●二人の音色
吹き抜ける風に風鈴が揺れている。
幾つもの硝子が陽光に煌めき、色彩豊かな光にも満ちる――そんな街並みを、アルマ・ヴァレンタインとエヴァン・ピオネロは歩み始めていた。
「町中から涼やかな音色が聞こえますね……!」
「うん、キレイな音色だねー」
瞳を輝かすエヴァンに、アルマもこくりと頷いて笑顔。通りを歩むほどに少しずつ異なった音が聞こえる――その心地良さを共に味わってゆく。
更に、耳で楽しむだけじゃなく……前方には工房も見えてきて。
「あっ、あそこで風鈴作りもやってるみたいだし、行ってみよっかー」
「良いですね~、作りたいです!」
笑みかけられれば、エヴァンも勿論首肯して。早速その工房でオリジナルの風鈴を作り始める事にする。
「どんな風鈴を作ろっかー」
「そうですね。ぼくはやっぱり……」
と、エヴァンが心に浮かべるのは直ぐ側にいるアルマの姿。
そのイメージを膨らませるよう、まずはスケッチしてみると……アルマはわー! と声音を明るくする。
「とっても可愛いデザインだねー」
「ふふ、アルマをイメージしてみました」
「そうなんだー、うれしいな」
それなら、とアルマも気合を入れて。
「ボクもしっかり可愛く作らないとだね」
言って材料を選び、吹き硝子に挑戦していく。
その様子を見つつ、エヴァンもまた硝子でチャレンジ。
透明な硝子を使って、流線型の美しい形に整えると……桃色の塗料で色を塗って逆さチューリップにした。
舌の部分は蝶を付けて舞うようにして……完成。最後まで真剣に作業に打ち込んで、美しくも可憐な逸品を仕上げる。
「可愛く……できました!」
「こっちも出来たよー。エヴァくんをイメージしてみたよー」
と、アルマも丁度完成。灯火のようなあたたかな色味に、空のように爽やかなポイントの入った風鈴だ。
音色もまた優しいから、エヴァンはわぁ、と微笑んで。
「とっても綺麗です!」
「エヴァくんのもすっごく可愛くできてるよー」
そう二人で笑み合うと、作った風鈴は持ち帰って自室に飾る事に決めるのだった。
「ガラス吹き、暑かったですね」
工房を出ると、エヴァンは涼を求めて……屋台が並んでいるのをみつけた。
ベストタイミングだと、そちらを指さして。
「氷を食べて行きませんか?」
「いいね、ちょうどヒンヤリしたの食べたい気分だし――」
アルマも頷いてかき氷の屋台へ。
エヴァンが抹茶シロップに練乳のかかった、見た目にも綺麗な品を頼むと……アルマは人気でもあるという桜シロップのものを購入。
早速二人で日陰の一角に座り、食べ始める。
するとエヴァンのものは抹茶は香り高さと仄かな苦味に、練乳の甘みが相性抜群で。
「美味しいです!」
「こっちの桜シロップのも美味しいよー」
アルマのかき氷は優しい甘みと共に上品な桜の香りが感じられる逸品で……「はい、あーん」とアルマが掬って差し出すと、エヴァンもその美味に「ん」と頷いていた。
ただ、そうやってしゃくしゃくと食べ進めるから――
「あ……キーーンッと」
頭痛がやってきてエヴァンは暫し目を閉じる。それが治まるとまた互いに食べていくけれど……今度はアルマがキーン。
「うう、頭がキンキンするーっ」
でも美味しくてまた食べてしまうから……二人で顔を見合わせて笑うのだった。
そうして渇きも癒えたら、エヴァンはお腹がくぅ、と鳴るのを自覚する。
「……何か食べたくないですか?」
「うん。丁度お腹もすいてきたもんねー」
応えるアルマは見回して……あっと気づく。
「あの、ずらーっとワイルドな佇まいで並んでる鮎の塩焼きがボク気になる……!」
「鮎! 賛成です」
エヴァンはこくこく頷くと、早速そちらへ。香ばしい匂いを漂わすそれを買って、また二人で一緒に味わって。
「ぱりぱり、ふわふわです!」
「焼き立ては最高だねー」
そうしてまた顔を見合わせては笑う。
楽しくて賑やかな時間。けれどまだまだ一日は終わらないから……二人はまた一緒に歩み出してゆく。
●踊る音色と共に
澄んだ硝子が優しく陽光を透かして輝いている。
「みて、イュン。風鈴綺麗やろ?」
軒につるされたその煌めきを――フリューリングスルフト=ティエラは兎と共に眺めながら歩み始めていた。
イュンが肯定するように耳を揺らして頬ずりすると、フリューは微笑んで更に先へ。
「音も綺麗なんさぁ♪」
言葉通り、程なくそれらがそよ風に揺れ、清涼な響きを聞かせた。
そのまま夏の街並みをイュンと楽しみながら進んで……工房が見えるとそこに寄ってみる。
「せっかくやから風鈴作ろか」
そうして材料を吟味して――形と、柄もイュンの手形をイメージしたものに仕上げた。
「ふふっ可愛いさぁ」
軽く揺らすときらきらと鳴って、耳に快く。その音色に、イュンもまた耳をぴこぴこと揺らして喜ばしげなのだった。
「それじゃあ、もっと風鈴のある場所にいくさぁ」
道を歩んでいくと、木々が立ち並ぶ景色が見え、鮮やかな夏の花が視界に映る。
そこでもまた枝や東屋に風鈴がつるされていて……風と協奏するように、涼やかな反響を生み出していた。
その中で軽やかなステップを踏み、フリューはイュンと共に歌い、踊り始める。
――夏の光、風鈴に反射。綺麗だと君と笑う。
――今年は一緒に。それが嬉しいんだ。
思いと共にくるりと回り、伸びやかな歌声を紡いでいく。
イュンも囀るように鳴いては、フリューの腕から肩へ、そして頭へと駆けてはぴょんと跳んでいく。
フリューはそれに笑みながら、風鈴の音色にもまた声を重ねた。
――リン、楽しいね。
――チリン、綺麗だね。
――リン、リン、チリン。
また来年。また一緒に。未来の約束、交わそう――と。
楽しく旋律を歌い上げると……いつしか人々も集まって、そこに感激の声と拍手を送っているのだった。
「……いっぱい楽しんださぁ!」
そうして通りを抜けると、店々が見えてきたので……お腹も空いたからと食事をする事に。
「こんにちは! 今年も来たさぁ♪」
『おお、いらっしゃい!』
威勢の良い声で迎えた屋台を眺め、まずはかき氷を選択。
「桜シロップ! それにするさぁ。――ん、美味しい!」
フリューは香り高い甘みに感嘆を零しつつ……甘味処でもお品書きに目移り。
「は! 冷やし団子もある! 西瓜も!」
迷いながらも折角だからと全部注文して――イュンには特性の野菜スティックと果物の盛り合わせを買ってあげて、共に清涼な美味を楽しんだ。
「イュン楽しかったさぁ?」
それにイュンが肯定の鳴き声を返すと……フリューは笑顔を見せて。
「また来年も来ようね! 今度はあの二人と一緒に!」
その期待と共に、また道を歩み出していった。
●音の彩りの中で
風の奏でる音色が、耳に心地良い。
幾つもの風鈴が家々に飾られる――そんな街並みの中をロゼットは散策中。
「季節によって、色々な姿を見せてくれる街ね」
風流な景色に、心も穏やかになりながら……賑わう人々の浮かべる笑顔を眺めて、道をゆっくりと進んでいた。
と、その先に見えるのがロゼットの目的地。
のぼりが立ち、多くの人々が行き交っていて。そして涼し気な音色が一層響いている――風鈴市だ。
「壮観ねぇ……」
そこに並ぶ風鈴の数々に、ロゼットは思わず目を惹かれる。
多様な色彩に、思い思いの形。違った音色を奏でる風鈴達は、眺めるほどに千差万別の魅力を感じさせて。
「こっちの透明なガラスの風鈴は色が鮮やかだけど――」
と、目に留めるそれは差し込む陽光を抱いてまるで宝石のように煌めいている。透き通ったその色を楽しんでいると、次には金属製の風鈴が視界に入って。
「こっちの鉄製の風鈴は見た目は大人しいのね。ああ、でも音の響きが……」
鳴らしてみると、軽やかながら深い反響を伴った音色を楽しめる。
(ガラスのはリン、リン、という感じだけど……鉄製の方はリーン、リーンと長く響くように聞こえるのね)
音と見た目、どちらも甲乙つけがたい気持ちだ。
折角だからお土産に買っていきたいけれど――魅力的だからこそ少々考え込んでしまう。
「どれにしようかしら。うぅん……そうね。鉄製のにしましょう」
と、それでも迷った末に決める。
硝子のものも美しかったけれど、割れてしまったらと思うともったいなく感じられるし――金属製なら長く使えそうだという判断だ。
勿論、金属のものも多様だけれど。
「デザインは……この釣鐘にしようかな」
自然と惹かれて手に取ったのは、優美さと品を兼ねた逸品だ。
「あ、そうだ。二つ買っていきましょうか」
一つはお土産にして……もう一つはシグモルにいる両親に送ろうと思ったのだ。
「教会や神殿に風鈴というのは、少し変かもしれないけど、ね」
それでも今自分の感じるこの風流さを、味わってもらいたいから。
思いと共にそれを購入したロゼットは、その優しい音色を楽しみながら――また散策へと向かっていった。
●共に響く音色
夕刻、少しずつ日が落ちるに連れて空が茜色に染まってゆく。
風も僅かな涼しさを抱く、そんな時分に……キーゼとネーヴェ・グラヌローザは揃いの浴衣を身に着けて歩んでいた。
「そろそろですね」
「ええ」
ネーヴェの少し華やいだ声音に、キーゼも頷いて視線を向ける。見えてくるのは――美しい音色が響く風鈴市だった。
早速二人歩み入ると、煌めくような風鈴の音色が幾重にも重なって聞こえる。
だけでなく、千差万別の色彩と形を持つそれが目にも楽しくて……二人はゆっくりと進みながら視線を巡らせていた。
「同じような作りなのに少しずつ音色が違うわけですね」
キーゼは揺れる一つ一つを目に留めながら、その微妙な違いに耳を楽しませる。
「素材や僅かな形の違い、ですか」
「こうしてよく見てみてると、とても興味深いものですわ」
ネーヴェもそう応えて、高い音や低い音、小さい音や大きな音……どれもが違った表情を見せてくれる風鈴を愛でていく。
目を閉じて、遠くの音まで感じれば――
「涼やかな音色が彼方此方から響いてきて、まるでちょっとした演奏会のようですわね」
折角ですし、と。
再び数歩歩んだネーヴェは……一つの店の前で足を止めて。
「私達も演奏に彩りを添えましょうか」
言葉と共に見つめているのは黒猫が描かれた風鈴だ。可愛らしく風流で、自然とその見目と音色に惹かれていた。
「いいですね」
と、そう声を添えたキーゼも、何か選んでいく事にした。
こんな季節だから涼し気なものを、と初めから考えていた訳ではないけれど……目についたのは白地に青い波形の入ったもので。
「海っぽくありません? これ」
「ええ。とても爽やかで綺麗です」
ネーヴェが瞳を細めて微笑みを向けるから、キーゼはそれ以上は迷わずにその風鈴を購入。風鈴市を出て……桜広場へと足を向けた。
すると――りん、りん、と。
夏らしい緑の葉をつけた桜の木々や、東屋の軒につるされた風鈴が風に揺れて音を奏でているのが聞こえてくる。
草花の中ではそれが一層清涼に感じられて――
「何とも心地の良い空間ですね」
「ええ、本当に」
キーゼの言葉に頷いて、ネーヴェも暫し爽風と音色を楽しむ。そして自分も風鈴を手に、少し高いところに飾ろうと手を伸ばした。
ただ、少しだけ高さが足りなくて、背伸びをしても手こずってしまう。
――と、不意に体が軽くなった。
キーゼが苦戦するネーヴェを見て、その腰に手を回して……抱えるように持ち上げていたのだ。
「ありがとうございます」
ネーヴェは少し照れた気持ちになりながらも礼を述べ、風鈴を括り付ける。
それが終わると、キーゼもまたその傍に自分の風鈴も飾り付けて……二つが並んで風にそよぐ様を暫し見つめていた。
ネーヴェをその様子を瞳に映しながら、そっと口を開く。
「……暫くこのまま、風鈴の音色を楽しんでいても構いませんか?」
「もちろん構いませんよ?」
キーゼがそう返すから、ネーヴェはその腕に自身の腕を絡めて。仄かにだけ寄り添うように距離を狭めた。
日が暮れゆくと共に、灯籠や提灯が灯り、淡く幻想的な光に景色が照らされる。風鈴もまたその灯りの中で穏やかな音色を奏でていた。
暫くその響きを味わった二人は……帰りしなにも風鈴市に寄る事にする。この機会にと、キーゼがお土産を買う事に決めたのだ。
選んだのは、硝子でも金属でもなく――備長炭を用いたもの。
艶めく黒が美しく、音色もよく響いていて。
「色といい、僕っぽくないですかね。金属質で割と好みですし――」
その独特の魅力に惹かれて、購入する事にした。
ネーヴェはその様子に「ふふ」と微笑みを見せながら――
「じゃあ、これは私から」
と、用意したのは青い飾り紐だ。
精緻ながら、飾らぬ上品さもあって。それをキーゼの買ったものに括り付けて……二つとない風鈴の出来上がりだ。
「いいですね。もう少し、見ていきますか」
「そうですね」
キーゼが言うとネーヴェも頷いて、散策を続ける。二人の足取りを、風鈴の音色が優しく見送っているようだった。
●何度でも
風鈴の音が街を飾る、涼やかな道を……エル=バ=ノイアンとシルヴィア・A・カペルは隣り合って歩んでゆく。
風流な街並みは、ただ眺めるだけでも楽しくて。
「どの季節に来ても、良いものだね」
「そうだな」
シルヴィアの言葉に頷き、ノイアンも視線を巡らせていた。
すると風鈴ばかりでなく、この季節特有の食べ物を出している店々も見える。それを目にとめて……ノイアンは口を開いた。
「ふと思ったんだが、シルヴィアの手料理も食べてみたいな」
「手料理?」
シルヴィアの反応にノイアンは「ああ」と応える。
料理というほどのものでなくても――と。
「お前が俺のために作ってくれたものが食べたくて」
「ん……」
シルヴィアはそれに少し嬉しい気持ちで――「それなら」とノイアンの顔を見た。
「魚の焼き加減には自信があるよ。料理はまだ不慣れだけれど……先生と旅をしていた時、野営で魚を釣って焼いて食べた事は何度もあるんだ」
だから焼き魚なら美味しいものを用意してあげられる、と。
ノイアンは話を聞きながら成程と頷いた。
「魚に関しては玄人、というわけか」
それからすぐに思い立って遠くの方を見やる。
「川辺があったな。釣りも出来るようだったから……魚はそこで俺が釣ろう」
「本当? それは嬉しいね」
「焼く方は、楽しみにさせてもらおう」
シルヴィアの笑顔にノイアンはそう応えて――早速二人で翠の園の川辺へと向かう事にした。
「あ、そうだ」
と、道中にはシルヴィアが店で粗塩と冷茶を購入してマジカルポケットにしっかりと収納。準備も万端にしてから川の傍に到着する。
そうして二人で並んで座り……ノイアンが川面に糸を垂らし始めた。
「上手くかかってくれるといいんだが」
時折餌を動かしながら、ノイアンが呟くと……シルヴィアはそっと微笑みを向ける。
「ノイアンなら、きっと上手くいくよ」
「……ん」
ノイアンは静かに応え、定期的に糸を引いていく。
そういえば、とふと思い出して
「前に来たときも、メインは食事だったな」
「あのときも良かったね。今回も負けないくらい美味しく出来るように頑張るよ」
シルヴィアはそんなふうに言葉を返して……それからもぽつぽつと言葉を交わしていった。
何気ないやり取りが楽しくて、ゆっくりとした時間の中でも退屈しない。ふと会話が止まっても、二人の間にあるのは心地良い沈黙で。
「――来たぞ」
と、釣り竿に力を感じてノイアンが一気に引き上げる。そこにかかったのは――活きの良い鮎二匹であった。
「これで良さそうか」
「凄いよ。ありがとう」
言ったシルヴィアは、早速その鮎の滑りを取って内蔵処理。
手際よく串打ちすると、化粧塩と共に全体にも塩をまぶした。
「後はこれを、と」
それを置くのは生活魔法による焚き火。丁度よい火加減の位置で固定して、新鮮さがなくならぬ内に焼き上げていく。
程なくぱちぱちと快い音が鳴って、香ばしい香りが立ち昇る。そしていいタイミングで火から離して……片方をノイアンへ差し出した。
「出来たよ」
「ああ」
ノイアンは受け取ると、早速一口。
皮がぱりっと小気味好い音を立てて……程よい塩味と共に香り高さが鼻先をくすぐる。
身はふわふわで、溢れる脂が何ともジューシー。シルヴィアの言葉通り、それは絶品の焼き魚であった。
「……とてもうまい。好きだな」
「そう言ってもらえると、嬉しい」
シルヴィアも自分のぶんを実食。皮の丁度よい歯ごたえと、柔らかな身のコントラストを楽しんで……懐かしい味に舌鼓。
何よりノイアンに喜んで貰えたのが、幸せな気持ち。
恋人の為に作るのは緊張したけれど。
「……とても、あたたかい気持ちだ」
「ああ――」
ノイアンも同じ気持ちで応える。
恋人が作ってくれるものも、恋人と共に火を囲む事も。立場を考えれば頻繁に、というのは難しいだろう。
だからこそ、と。
「また……何度も、ここに立ち戻る事が出来たら――」
「私もだ」
シルヴィアもそっと頷く。
何度でも立ち戻りたい、と。
「きっと君との穏やかな時間を何度も思い出す。だから――」
この時間を作る為ならいくらでも頑張れる。
伝えたその言葉に、ノイアンもまた「ああ」と柔らかな声を返して。短いけれど、何より大切な時間を……二人で過ごしてゆく。
●甘味と共に
風に戯れてる音色が、きらきらと静やかに響く。
見回せば幾つもの風鈴が、音だけでなくその色彩でも楽しませてくれるから――ルベア・ベルニは道々を眺めながら散策をしていた。
「綺麗ね……」
楚々と歩む、その見目は淡い水色地に流水柄の浴衣。髪は簪でまとめ、可憐ながら雅な風流さに整っている。
シャルガネを歩むなら、こうした格好を召すのも楽しみの一つ。今日は一人の観光だし、そのままルベアは心の赴くままに散歩して帰るつもりだった。
――けれど。
「……ルベア嬢?」
ふと聞いた事のある声音が耳朶に届いて、ルベアは足を止めた。
ティトリー=R=アルバートは取材を兼ねて街の文化を体験しながら歩んでいた。
実際、シャルガネらしさに溢れる景色は趣深く……王国では見られない家並みや人々の様子など、目を引くものも多い。
けれどその中で、ふと意識を惹かれたのが――近くを歩む浴衣姿の人影だった。
「ルベア嬢?」
最初は半信半疑でもあったけれど……声に振り返った姿は確かにルベアだ。
ルベアも、はっとしながら数歩歩んできて……この遠方の地で顔を見るティトリーに驚いてもいる。
「びっくりした……。まさかシャルガネで会うなんて」
「き、奇遇……ですね」
ティトリーは言いながら、少しルベアの姿を見つめている。
「その、いつもと雰囲気が違うので、すぐには分かりませんでした。シャルガネ風の服……とてもお似合いです」
「……ありがとう」
ルベアは照れた気持ちで、少し顔を背ける。
それから軽く腕を上げて裾を揺らしてみせた。
「その……浴衣はこの辺りではたまに着るけど。色は、この間アナタが勧めてくれたのを何となく……ね」
「ぼくの勧めたものを……?」
ティトリーは仄かにだけ目を開く。
それから意識せず、嬉しい気持ちを声音に表していた。
「それは重畳――明るい色も、愛らしい出立ちも、ルベア嬢をより魅力的にしてくれています」
と、そう言ってからはっとして。
「……ふ、深い意味はないです!」
その様子に、ルベアも少し恥ずかしげな気持ちになりながら……ふと尋ねる。
「ていうか、何でこんなところに……?」
「ぼくは、えっと……こちらの文化に興味があって」
方々を見て回っていたのだとティトリーは説明した。
それからほんの短い時間考えて、作品の為に、とルベアの方を見つめる。
「ユカタの感想、聞かせていただけないですか?」
「浴衣の感想……私のでよかったら……うん」
「本当ですか?」
良かった、と息をついたティトリーは、「えっと」と見回して――店が並ぶ一角を見つけてそちらを指した。
「では立ち話もなんですし、向こうの茶店で……デザートやお茶をいただきながら。どうでしょう?」
「茶店……」
ルベアは一瞬、その提案には「デートなんじゃ」と思考がよぎる。
けれどティトリーにそんなつもりはないだろうし、実際そんなふうに見える態度でもないから――「うん」と頷いた。
二人でそのお店の暖簾をくぐると、ルベアはあんみつを、ティトリーは暫し悩んでからくずきりを注文していた。
そうして品がやってくると……まずは一緒に頼んだお茶を啜りながら、ティトリーが質問してゆく。
「浴衣は、どうですか? 着ていて何か普段と違う事は――」
「違う事……心持ちは変わるかも」
涼しげで気取らない服装ではあるけれど、洗練されていて美しい。
街の風流な景色にも合っているから、自分がその一員になったような気分にもなると、ルベアはぽつぽつと答えていった。
丁寧な説明に、ティトリーは感謝を述べつつ……くずきりと食べようとする。が、箸の扱いが難しく、くずきり自体も滑るので少々苦戦していた。
「大丈夫?」
「ええ、何とか……。シャルガネの甘味は食器も独特ですね――」
ティトリーは答えてやっと一口食べている。
その様子に、ルベアは微笑みを零していた。
(貴族でも、普通の男の子っぽいところもあるんだ――)
何となくそこに、親しみやすさのようなものを感じたのだ。
ティトリーはその内に慣れ始め、味を楽しむから……ルベアもまたあんみつの優しい甘みを味わって。
互いに食事が済むと、ティトリーは立ち上がる。
「あ、会計はぼくが」
「いいの?」
「勿論。ぼくからお誘いしましたから」
その言葉に、ルベアはそれ以上は言わずに。「それじゃあお言葉に甘えて」と、お願いする事にした。
彼を立てる気持ちもあったけれど……多分、無意識に甘えてもいたのかも知れない。
「今日はお話、ありがとうございました」
そうしてティトリーが頭を下げると、ルベアも「こちらこそ」と応えて。また風鈴の響く道へと歩み出していく。
●二人と二匹で
りん、りん、と。
風が揺らす音色の中を、パルドとウォーゼルは散策していた。
「これが道にずっとつるされてるんだ。すごいな!」
「そうだね」
視線を巡らすパルドに、ウォーゼルも微笑んで壮観な眺めを楽しむ。
勿論、傍らには猫のショコラとミニコボのチョコも一緒で。
りんりんと響く音に、二匹ともが耳を興味深げにぴこぴこ揺らしているのも……パルドとウォーゼルは微笑ましげに見ていた。
と、道の先に見えてくるのは――そんな風鈴を作る工房だ。
「風鈴て自分で作れるのか?」
パルドが思わず覗き込んでいると、ウォーゼルも頷く。
「みたいだね。自由に参加出来るみたい」
「面白そう――やってみたい!」
パルドが言うならば、ウォーゼルも行かない理由はない。何より自分もそれには興味を惹かれていたから。
「いいね、やってみようよ!」
という事で早速参加して、やり方を教えてもらいつつ実践へ。
「俺は、こっち!」
と、パルドが選んだのは拭き硝子だ。
色は幾つもの中から青と透明を選び……熱されたその硝子がグラデーションになるよう、上手く巻き取りながら接合する。
そうして完成をイメージしながら、慎重に息を吹き入れて――
「よし、上手くできた!」
綺麗に膨らんだら、後は切り離して冷えるのを待ち……尖った部分を削って綺麗な風鈴の形に整えていた。
(パルド、上手くやってそうだね)
と、その作業を横目にしつつ――ウォーゼルは材料に金属を選び、その型の為の粘土を成型し始めている。
「さて、どんな感じにしようかな?」
思案すると……ぱっと思い浮かんだのはショコラとチョコ、二匹の家族が仲良く遊んでいるところで。
「よし」
ひとつ頷くと、後は迷わずに。花をイメージした型を作ると、舌の部分は蝶の形になるようにして……後は流した金属が冷えている間に短冊も作っていく。
一方、パルドも装飾の作業中。
こちらも思いついたのは二匹の家族。イメージを浮かべながら、寄り添う黒いシルエットを硝子に描いていった。
紐は藍染、短冊は薄桃色にして美しくも風流な仕上がりにして。
「うん」
ちりんと澄んだ音色を鳴らし、満足気ににんまりと微笑んだ。
それから隣に目を向けて。
「こっちは完成! ウォーゼルはどんなの作った?」
「俺はこんな感じにしてみたよ」
と、答えてウォーゼルが見せるそれも、丁度完成した所。
それはカンパニュラのような淡い紫色の風鈴に……黄色い蝶の姿をした舌が、まるで宙に遊んでいるように見える逸品だ。
短冊に描かれたのは、仲良く蝶に手を伸ばすチョコとショコラ。
それを見て、パルドは思わず笑みを零していた。
「考えることは一緒だな」
「パルドのは?」
「これ」
と、パルドが自身の風鈴を見せると……ウォーゼルもなるほどと得心。
「ふふふ、確かに同じだね」
それが何だか嬉しくて、楽しくて。こちらもまた笑みを零さないではいられない。
風鈴を見せ合う下では、チョコとショコラも短冊の絵のように手を伸ばしていて。じゃれようとするその姿が可愛らしくて、二人はまた笑みを交わしていた。
そうして完成した風鈴を手に、皆で改めて散策へ。
夕暮れの街並みを眺めながら歩んで……川縁にたどり着く。
「風鈴の音色を聴くと何だか涼しく感じるね」
「ああ」
ウォーゼルの言葉にパルドは頷いて、遠くから響く音色と……そして自分達の風鈴にもまた耳を傾けて。
「風を音で楽しむなんて面白いこと考えるよな」
りん、りん、と。
耳朶を撫ぜるその音色は優しくて、心地良くて。二人はせせらぎも聞こえるその場所で隣り合って座り、のんびりと音を楽しむ。
チョコとショコラも傍に寄り添ってくるから、二人はそれにも微笑みを交わして。
「少し、ゆっくりしていこうか」
「そうだな」
涼し気な音色と共に、緩やかな時間が流れる。二人と二匹はその中で暫し、のんびりと過ごしていった。
マスターコメント
お疲れ様でした。
風鈴市や工房は盛況となり、祭りは多いに盛り上がりました。街の各所に多くの人が訪れて賑わった事で、町長としては理想的な結果となったことでしょう。
イベントシナリオ(50人)易しい 報酬:標準24 / 4〜50人
2022年08月06日 15時59分04秒 公開
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