【夏果】火龍果とイルカの海【碧島】
コースケ
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シナリオID:2337
オープニング
●スリカータ伯爵領:南岸の村
浜辺で漁師達が海の向こうの島を眺めていた。
「騎士団と冒険者のお陰で粗方魔物は居なくなったし、もう漁に出てもいいんじゃねぇか?」
「そうだなあ。子供も海に入りたがってるし、蟹に気を付ければ大丈夫だとは思うんだが」
この村は長年海棲魔獣による被害を受けていたが、先日行われた討伐作戦で魔獣も減り、今後を話し合っていたのだ。
「しかし、また魔物が出て来たらどうする? えーてるだまりってのはまだあるんだろう?」
「「それなんだよなあ……」」
隻腕の村長の言葉に、一同がううむと唸る。そんな一同へ、今まで黙っていた老人が口を開く。
「……イルカを呼べばいい」
「イルカ? 俺が若い頃にはこの辺にも居ましたけど。そんなもん呼んでどうするんです?」
村長の問いに、村長が若い頃は村一番の漁師だった老人が答える。
「魔物が出てイルカが居なくなった。魔物が減った今、イルカはここの海が安全だと分かれば戻ってくるだろう。そしてまた魔物が増えればイルカは去る」
「つまり、イルカが居る内は安全って事ですかい?」
村長の言葉に頷き、老人は懐から筒のような物を取り出した。
「これは……笛ですか?」
「俺が若い頃使ってた鯆笛だ。あいつらは音に敏感で、笛や竪琴の音を聞けば寄ってくる。うまく使えば寄ってくるだろう」
●スリカータ伯爵領:領主の館
「イルカを呼ぶ為に冒険者の手を借りたい……?」
「はい。冒険者にはイルカの好む楽器の演奏が得意な者や、動物と意思疏通のできる者も居ると聞きます。そういった者が居なくても、好奇心が旺盛ということで海に人が多ければ、近寄って来るかもしれないという事です」
領主であるミーア・スリカータは、執事からの報告に難色を示す。
「しかし、今はティフブルー島の攻略に向けての準備中。大勢の冒険者を雇う余裕はありませんわよ?」
「それなのですが、農民と商人達からも提案がありまして、我が領の火龍果を大々的に宣伝したいというものです。エドゥノーグのカカオに押されて売上が落ちているらしく、他の地域の品物も合わせてトロピカルフルーツを売り出そうという流れらしく、この機会を逃す訳には行かない……と」
そう言って出された計画書には、領地で取れる火龍果の販路拡大計画が記されていた。
火龍果とは領内でも気温の高い一部の地域で栽培されている果実で、完熟させれば非常に甘くなるが、その分日持ちしないため流通が難しい。
その火龍果を、授恵者のマジカルポケットで鮮度を保ったまま運ぶというものだった。その分価格は高くなるが、高級品としての需要を見込んでいるのだろう。
宣伝も兼ね、農家から提供される火龍果が食べ放題との記述もある。また、火龍果を使ったデザートなど料理のアイデアも募集しているらしい。
「……なるほど。集まった冒険者達で海辺を賑わわせてイルカを呼ぶという事ですわね。そういう事でしたら許可します。大々的に冒険者を集めなさい」
主人の許可を得た執事は、恭しく頭を下げ退出すると、ギルドへの使いを出すために歩き出した。
浜辺で漁師達が海の向こうの島を眺めていた。
「騎士団と冒険者のお陰で粗方魔物は居なくなったし、もう漁に出てもいいんじゃねぇか?」
「そうだなあ。子供も海に入りたがってるし、蟹に気を付ければ大丈夫だとは思うんだが」
この村は長年海棲魔獣による被害を受けていたが、先日行われた討伐作戦で魔獣も減り、今後を話し合っていたのだ。
「しかし、また魔物が出て来たらどうする? えーてるだまりってのはまだあるんだろう?」
「「それなんだよなあ……」」
隻腕の村長の言葉に、一同がううむと唸る。そんな一同へ、今まで黙っていた老人が口を開く。
「……イルカを呼べばいい」
「イルカ? 俺が若い頃にはこの辺にも居ましたけど。そんなもん呼んでどうするんです?」
村長の問いに、村長が若い頃は村一番の漁師だった老人が答える。
「魔物が出てイルカが居なくなった。魔物が減った今、イルカはここの海が安全だと分かれば戻ってくるだろう。そしてまた魔物が増えればイルカは去る」
「つまり、イルカが居る内は安全って事ですかい?」
村長の言葉に頷き、老人は懐から筒のような物を取り出した。
「これは……笛ですか?」
「俺が若い頃使ってた鯆笛だ。あいつらは音に敏感で、笛や竪琴の音を聞けば寄ってくる。うまく使えば寄ってくるだろう」
●スリカータ伯爵領:領主の館
「イルカを呼ぶ為に冒険者の手を借りたい……?」
「はい。冒険者にはイルカの好む楽器の演奏が得意な者や、動物と意思疏通のできる者も居ると聞きます。そういった者が居なくても、好奇心が旺盛ということで海に人が多ければ、近寄って来るかもしれないという事です」
領主であるミーア・スリカータは、執事からの報告に難色を示す。
「しかし、今はティフブルー島の攻略に向けての準備中。大勢の冒険者を雇う余裕はありませんわよ?」
「それなのですが、農民と商人達からも提案がありまして、我が領の火龍果を大々的に宣伝したいというものです。エドゥノーグのカカオに押されて売上が落ちているらしく、他の地域の品物も合わせてトロピカルフルーツを売り出そうという流れらしく、この機会を逃す訳には行かない……と」
そう言って出された計画書には、領地で取れる火龍果の販路拡大計画が記されていた。
火龍果とは領内でも気温の高い一部の地域で栽培されている果実で、完熟させれば非常に甘くなるが、その分日持ちしないため流通が難しい。
その火龍果を、授恵者のマジカルポケットで鮮度を保ったまま運ぶというものだった。その分価格は高くなるが、高級品としての需要を見込んでいるのだろう。
宣伝も兼ね、農家から提供される火龍果が食べ放題との記述もある。また、火龍果を使ったデザートなど料理のアイデアも募集しているらしい。
「……なるほど。集まった冒険者達で海辺を賑わわせてイルカを呼ぶという事ですわね。そういう事でしたら許可します。大々的に冒険者を集めなさい」
主人の許可を得た執事は、恭しく頭を下げ退出すると、ギルドへの使いを出すために歩き出した。
解説
リーンエス王国南部のスリカータ伯爵領で、冒険者を大々的に集めています。
以下から選んでプレイングに番号を記入して下さい。『1人につき2つまで選択可能』です。3つ以上書いた場合、いずれかは不採用となります。
このシナリオ限定で、SP(スリカータポイント)を設定し、その合計で成功度を判定します。
各行動には獲得出来る限りのSPが設定されています。獲得合計が20SP以上なら普通判定、30SP以上なら成功判定、40SP以上なら大成功判定となります。
【1】海を楽しむ……1SP
現地は砂浜と入り江になっています。海水浴でも浜辺でバーベキューなどをやっても構いません。
【2】楽器演奏でイルカを呼ぶ……?SP
演奏の一般判定を行い、成功度の十分の一(端数切り捨て。最低1)のSPが獲得出来ます。
【3】イルカを誘う……1SP
一緒に泳ぎたい方はコチラです。動物交感(+1SP)やプレイングによりボーナスがあります。
【4】海の安全確保……1SP
温帯の海程度の魚などが棲んでいます。中には危険なものもいるかもしれません。また、海底に大蟹の魔獣が二体生息しており、討伐すると一体につき+2SPされます。
【5】火龍果を楽しむ……1SP
火龍果(ピタヤ)はサボテンの一種で、竜の鱗の様な皮に包まれた赤い果実(我々の世界でドラゴンフルーツの名前で流通しているものです)が食べ放題です。
完熟させれば濃厚な甘味を持ちますが、日持ちしないため流通が限られています。
【6】火龍果を運ぶ……3SP(マジカルポケット必須)
【7】火龍果料理を作る……?SP
浜辺のキッチンで行います。どんなものを作るか具体的な指定をお願いします。調理の一般判定を行い、成功度の十分の一(端数切り捨て。最低1)のSPが獲得出来ます。メシマズスキル等で達成値がマイナスになった場合でも、1SPは獲得出来るのでお気軽にどうぞ。
【8】自由行動……?SP
他の行動を取りたい時にどうぞ。
●その他
・クラップクラブ
魔獣化し右のハサミが肥大化した体長4m程の蟹です。単体で海底に潜み、ハサミを打ち鳴らした衝撃で自己識別の範囲魔法攻撃を行う他、ハサミで挟んだり、固い甲羅は防御力も高かったりします。煮てよし焼いてよし。
・コビトイルカ
最大でも体長1.2m程の小型のイルカです。4~10頭の群で行動し、臆病ですが好奇心旺盛です。人の音楽にも興味を示し、敵意が無いと分かれば人にも近付いて来ます。
マスターより
お世話になっております。コースケです。
【碧島】連作でやりたかったことが内容に重なっていたので、【夏果】連動にお邪魔させて頂きました。
連作のタグが付いていますが、『イルカを呼ぶために海で賑やかに遊ぼう』という内容なので、単発シナリオ的に気軽に参加して頂けたらと思います。火龍果も食べ放題!!
そして、ミニゲーム的な楽しみ方も出来る仕様になっているので、得意なスキルや普段活かせないスキルの使い処があるようなら如何でしょう?
難易度も易しいので初心者の方も安心ですし、特にホワイトレターからアニエピカに興味を持って頂けた方などいらっしゃれば大歓迎です。
オープニングや解説等で分からないことなどありましたら、掲示板で質問して頂ければ何でも屋のオッターか、依頼人のミーアが回答させて頂きます。
それでは、よろしければご参加お願い致します!
リプレイ
●暑い日差しの下で
スリカータ伯爵領南岸の砂浜に、十数人の冒険者達が集まっていた。
彼等の目的は様々だが、多くは珍しい果実やイルカの海に惹かれての参加であり、晴天の青空に浮かぶ白い雲と、海底が透けて見えるような青い海に歓声を上げている。
「イルカと遊べるかな! 一緒に泳いでみたいんだよ♪」
ルルト・アーキスは、イルカとの出会いに期待し新緑の瞳を輝かせていた。その肩に乗るシロと名付けられたイイヅナが、くりっとした瞳でルルトを見ている。
「火龍果……。珍しい果物らしいけどどんな味かな……」
「あんたも火龍果目当てか。料理に使えば結構いい色が出るらしいから俺も期待してる。楽しみだよな」
こちらは火龍果目的で参加したキリクに、ファと名付けた白い大鼬を連れたカイン・ステラが声をかけた。
「色が出る? パンに色を付けたりも……?」
「どうだろうな。火を通して色落ちや変色しないなら付けれると思うが。試しにやってみるか?」
大柄で目付きの悪いカインに警戒する様子を見せたキリクだったが、自分の住むパン屋の商品に火龍果を使えないか考えていたため、そのヒントになりそうな発言に反応する。
「うん。見せて貰って良い?」
「構わねぇぜ。じゃあ行こうか」
周りの冒険者達も思い思いの場所へ歩き出しており、浜辺に用意されたキッチンへ足を向けるカインに続き、キリクも歩き出した。
●マジカル配達員
「それじゃあ、これを頼むよ」
「うわ~っ、すごい見た目だね? どんな味がするのかな……?」
目の前に置かれた火龍果に、トゥーリは赤い瞳を丸くする。
初めて見る火龍果は両掌にすっぽり収まるくらいの大きさの楕円形で、ピンクを濃くした様な赤紫色の肌に付いた突起は鱗を想像させる。それが名前の由来になっているのだろう。
「味見して行くかい?」
「えっ、いいの?」
「勿論さ。その代わり、届けた先で味の宣伝も頼むぜ? そっちのに、……姉ちゃん? も食っていきなよ」
そう言うと、男は果実を割り、手際よく皮と果肉を切り分けて食べ易いサイズにカットした火龍果をトゥーリとエルに差し出す。
「それじゃいただきます。……ん。あまーい!」
初めて食べる火龍果は、ほのかな酸味を感じる優しい甘さだった。サクッとした食感の果肉に、小さな黒い種も良いアクセントになっている。
「本当。すごく、美味しい」
表情豊かなトゥーリに対し、表情の変化に乏しいエルだったが、追加の火龍果へ手が伸びている所を見ると気に入ったのだろう。
「美味いだろう? 俺が丹精込めて育てた火龍果だからな!」
二人は満足そうな笑顔を見せる男に見送られ、マジカルポケットに入るだけの火龍果を納めると配達に出るのだった。
●海の安全を
(今度こそ仕留めてしまわないとねぇ)
黒褌を締めたサイラスは拍子蟹を探していた。
以前の依頼で蟹を仕留め損なったため、今度こそ全て仕留めようと海の安全確保がてら海に入っていたのだ。
鮫などの危険な生物が他に居ないかも警戒しつつ、本命の蟹を探して沖へ泳いでゆく。入江を出ると潮の流れが早くなったが、泳ぎの達者なサイラスは力強く進んでゆく。
(お。発見)
サイラスは海底に潜む拍子蟹を確認すると、呼吸を整え、大蛇身と銘を打った万力鎖の射程一杯から攻撃を仕掛けた。分厚い甲羅を持つ蟹だったが、魔法的な攻撃力を持つ大蛇身は難無く甲羅を穿ち、驚いた蟹は鋏を掲げて威嚇のポーズを取る。
(逃げもせず向かっても来ないなら只の的やん)
胸中で呟くサイラスが放った第二撃に、敵わないと悟った拍子蟹は沖の方へ逃げ出すが、サイラスは魚のように身体をくねらせた泳ぎで後を追い、更に数回の追撃を加えて蟹を仕留める。
(まず一匹と。けどこれ、どうやって浜まで上げるかねぇ)
体長4mの大蟹を一人で運ぶのは、退治するより骨が折れそうだった。
●夏の海で
「ちょっと深くないですか?」
「大丈夫です。さあ、溺れそうになったら抱き上げてあげますから思いきりいきましょう!」
人里離れたエルフの森で暮らしていたため、海初体験のキラリ=マバユイは、つま先立ちでやっと息が出来る水深に不安そうな声を出す。
自分を引っ張ってきたシルク・メイプルリーフに不安を訴えるが、シルクはいつもの人懐っこい笑みでキラリの手を引いてバタ足の練習を促す。
「もががっ?」
「はい息継ぎ失敗するとしょっぱいですよー?」
シルクはある程度慣れたところでキラリの手を離す。
「!?」
離された瞬間慌てたものの、息継ぎのコツを掴んでいたキラリは、何とか姿勢を立て直し懸命に水を掻く。やがて手がもふもふと沈み込むように柔らかいものに触れ、次に顔にそれが押し付けられる。
「うわぷっ!?」
「キラリ君、よくここまで泳げましたね!」
言われて気付いたが、水深はキラリの腰ほどだった。必死でかなりの距離を泳いでいたらしい。
「泳げ……た……ぁ、ぅ、ぇ……」
喜びの声を上げようとするキラリだったが、シルクの喜びのハグに包まれているため言葉にならない。
「ひふふはんいひはれひな……!」
顔を真っ赤にしてもがくキラリはまだ、この状況での息継ぎを会得していなかった。
●イルカの海
ロゼットと火龍果の配達から戻ったエルは、漁師の船に乗ってイルカのいるという海域を目指していた。
「すみません。鯆笛とは、どんな、物、でしょう?」
「んん? 興味あるのか?」
頷くエルに、操船する老人が細長い筒のような笛を取り出す。古びた木製のそれは幾つかの切れ込みが入れられており、老人が息を吹き込むと甲高い音が響く。
「音色がイルカが仲間を呼ぶときの声に似ているんだよ。興味を持って近付いて来る奴もいてな。その内何匹かは慣れて付いてくる様になったのも居たもんさ」
老人は若い頃、仲良くなったイルカを使って魚を網に追い込んだりしていたという。
「イルカって頭が良いのね」
それを聞いたロゼットが感心している。シグモル火山生まれの彼女は、修行の旅に出るまでは海と縁遠い生活を送っていたため、話に聞いていたイルカに興味を持っての参加だった。
やがて目的の海域に近付き、老人が鯆笛を吹こうとしたところで、エルが訴える。
「わたしも、吹いて、みたい」
「そうか。軽くでいい。強く吹いても音は出んぞ」
老人はエルに笛を渡すと、船の操船に専念する。
「じゃあ、折角だし合わせてみましょうか?」
鯆笛を受け取って音が出せるか確認したエルに、ロゼットも自前のフルートを取り出して合奏を提案する。
「うん。こっちは、曲は、何でもいい、けど」
「自由にいきましょう。その方が楽しい様子が伝わると思うわ」
ロゼットの提案に頷くと、エルは鯆笛を口にし、甲高い音を響かせる。ロゼットもフルートを口に当て、それよりやや低い音色でエルに続く。
その音色は会話のように交互に響き、時に合唱するように重なりながら、波間に流れていった。
「イルカさん、来てくれるかな……?」
南岸の村の近くの岬でオカリナを吹くサラに、だわは麦わら帽子で陽射しを遮ってやりながら彼女の演奏に感心していた。
濡れることが苦手な自分に付き合い、海岸に残ったサラに気を遣わせてしまった事への埋め合わせをと考えただわは、作戦で使ったホイッスルがあったことを思い出し、取り出して鳴らしてみる。
「だわおにいちゃんも手伝ってくれるの?」
嬉しそうに笑うサラに頷き返し、二人で楽器に息を吹き込む。
力強いホイッスルと柔らかなオカリナの音色。暫く合奏を続けていると、エル達の乗った船が帰って来た。ロゼットが手を振っているのが見える。
「エルおねえちゃん、ロゼットおねえちゃん!」
サラも手を振り返し、だわは周囲にイルカの影が無いか目を凝らす。
『キュキュキュー』
「イルカさん!」
そんな二人の目の前でイルカが跳ね、サラが歓声をあげ、傍らに座っていたジュジュという名の白いフェレットも顔を上げる。
「キュキュキュー」
『キュ? キキキュ?』
サラがイルカの鳴き声に似せて呼びかけると、興味を引いたのか船の周りのイルカも集まって来る。海面から顔を出し、何かを訴えてくる姿は愛嬌があった。
「こんなにたくさん! すごいね、だわおにいちゃん」
「(声でコミュニケーションが取れるのか)頭がいいな……」
感激に目を輝かせるサラの隣で、最初は警戒していただわも感心していた。そこへ、ロゼット達の船が到着する。
「上手く連れてくることが出来たわ!」
「みんな、良い子、だよ」
ロゼットが誇らしげに告げ、続くエルの声にも喜色が滲んでいる。
「おかえりなさい! イルカさん、可愛いね……!」
「ええ。聞いていた通り可愛いわね」
そんな話をしながら、鳴き声と楽器で交流し、イルカ達も人懐っこく鳴いたり身体を回転させて泳いだりと、こちらに敵意がないと安心しているようだ。
やがてイルカ達が入り江の中に興味を示し、そちらへ泳いで行く。
「ばいばい、またね」
「イルカさん、可愛かったね」
「……そうだな」
イルカの向かう入江には何人かの冒険者が泳いでいる。この海域が安全なことをアピールする役目は、そちらのメンバーに任せて良いだろう。
「私はイルカと泳いで来るわ。お爺さんもお疲れさまでした」
一行の内、ロゼットはイルカの泳いでいった入江に向かう。折角の機会、もう少しイルカと触れ合ってみるのも良いだろう。
●浜辺のキッチン
漁師村前の浜に用意されたキッチンでは、冒険者達が火龍果の料理に挑戦していた。
火龍果は、大型で果肉の白いもの、小ぶりだが果肉まで赤いもの、そして日持ちさせるため完熟前に収穫したものなどが用意されている。
カインはカットした火龍果を味見し、どんな料理にするか考えを巡らせていた。
(どちらも甘いがあっさりした甘味だな。果肉の赤い方がより甘いが、シロップにすると甘露アリの恵みに負けるか。ただ、色が付くのは面白いかもな)
そう考え、赤い果肉を取り出しシロップとジャムの作成にかかる。更に、果汁を絞ってクレープ生地に混ぜて焼いてみる。
「少量でも結構色がつくな」
「しかも、熱を加えてもあまり色が落ちませんね」
キリクはパン作りに活かせないかと考え、それを見学していた。
そのキリクの目の前で、カインは甘すぎたり、色が毒々しくならないよう果汁の量を調整して生地を焼くと粗熱を取り、マジカルポケットで保存していたクリームと他の果物を挟んだクレープを作る。
「見事なものです。赤いクレープ生地にクリームの白とカラフルなフルーツが映えますね。食べるのが勿体ない位です」
「何言ってんだ。クレープは気軽に食べる物だぜ」
カインはキリクにクレープを渡し、ジャムに柑橘を絞って酸味を足す。シロップにも見事な赤い色が付いていた。
更に、焼いたクレープ生地にクリームを塗り、フルーツを挟む。それを何層にも重ねミルクレープを作り上げた。切り分けると赤と白の層と、散りばめられたフルーツの黄色や緑が顔を出す。
「店に出しても良さそうだな」
そうやってカインが作った品、特にシロップとジャムは保存が利くだけでなく、売り物にならない傷物火龍果の有効利用方法として、視察に来た生産者とスリカータ家の執事から大きく評価を受ける事になった。
配達から戻ったトゥーリは、火龍果にチョコレートを合わせれないかと試行錯誤していた。
(カカオに対抗したいみたいだけど、一緒に宣伝すれば良いんじゃないかな)
先程の火龍果の生産者の様に、カカオにも丹精込めて育てる生産者がいる筈なのだ。作るものは違っても、愛情を込めて農業に携わっているのだから通じるものもあるだろうし、手を取り合う事も出来る筈だ。
こういう事を考えるのは、隣を歩いてくれる彼の影響だろうか。火龍果とカカオどちらも広める事が出来れば、農業を愛する彼はきっと喜んでくれるだろう。
(甘いもの同士より、片方がさっぱりした方が相性良くないかな……?)
そう考えたトゥーリは、乾燥した火龍果の果肉にビターなチョコレートをかけ固めたものと、ライスペーパーでチョコレートと一緒に火龍果を包んでみる。こちらは完熟前の火龍果を使ってみた。
「ん、これは良くできたと思う!」
味見をしてみると、乾燥して甘みの増した火龍果に、チョコレートのほろ苦さが加わった大人の味のお菓子になっていた。
ライスペーパー包みは、サクサクした未熟果にライスペーパーのもっちりとした食感が楽しく、未熟果の控え目な甘さをチョコレートが補っていた。
「後はいろんな人の感想を聞いてみなきゃね!」
そう言って、トゥーリは追加を準備にかかるのだった。
「知ってますか? 実は火龍果の皮って食べられるんですよ」
「え、これ食べるんですか?」
カインやトゥーリから火龍果の皮を分けて貰ったシルクの言葉に、味見役のキラリは驚きの声を上げる。
シルクは皮の表面に付いた突起を取り除くと、食べやすいサイズに切って下味を付け、衣を付けて熱した油で揚げはじめる。
(見事な手際ですけど、流石に皮は……)
それを眺めるキラリは内心疑っていたが、出来上がったものを見て更に眉をひそめる。衣の下から覗く赤紫の皮を口にするには勇気がいる。揚げた果物に対する抵抗も大きかった。
「本当に食べるんですか?」
「モチロン。大地の恵みは無駄にしてはいけません、キラリ君はい、あ〜ん」
火龍果を差し出してくるシルクの邪気のない笑顔に負け、渋々口にするキラリ。
サクッとした衣を噛むと、火龍果の皮から苦みと粘りのある汁と共に、青い香りが鼻に抜ける。だが、苦みも香りも不快なものではなく、下味と揚げたことによって程よいアクセントとして感じられるものになっていた。これはシルクの調理技術の高さによるところも大きい。
気付けば、キラリはもりもりと火龍果を頬張っていた。目を輝かせ、表情が美味しいと語っている。
「これ凄く美味しいですよ! ほらほら、シルクさんも! はい、あ~ん」
「でしょう?」
キラリが差し出す火龍果に、シルクもあ~んと口を開けて頬張る。互いの喜ぶ顔も、最高の調味料だった。
「火龍果もこんなに沢山あると圧巻だね」
珍しい果実が食べられると聞いて来たヨル・スレイマンは、味を見るという口実で火龍果を堪能していた。
白い果肉と赤い果肉を食べ比べ、完熟前の果肉の食感も含めて一通り楽しむ。
「これは美味しい。流通が難しいのが惜しいくらいだね……」
未熟果なら比較的長持ちするのだが、火龍果は収穫後に追熟しないため、完熟果を楽しむにはこうして産地を訪れなければならないのだ。
「まあ、それならここで目一杯楽しむ事にしようか」
ヨルは気持ちを切り替え、火龍果をマンゴーなど他のフルーツと裏漉ししてミードで割り、火龍果の赤と白の果肉を角切りにしてミントと浮かべる。
自分が飲みたいものを作ったと言われれば『そうだ!』と開き直るしかないが、販促の為に楽しんでくれと言う話なのだから問題ないだろう。
「他にも何か作った方がいいかな」
カクテルを転がしながら、興が乗ったヨルはキッチンを物色し始めた。
●退治完了
(この間の魔獣化したサメみたいなのが来たら、どうしようかと思ってたけど……)
青い紐で髪を纏め、同じく青い水着に着替えて海に入っていたロゼットは、海底を進む拍子蟹に気付いて泳ぎを止める。
このまま進むと入江に向かうと判断し、まるで人魚の様に俊敏な泳ぎで蟹の進行方向に出る。
(せっかく呼んだイルカを怯えさせる訳にはいかないのよ)
ロゼットは突き付けた指先から光の矢を放つ!
矢を受けた蟹は鋏を振り上げロゼット威嚇するが、その背に鎖付きの短剣が突き刺さる。蟹を追って来たサイラスが、大蛇身で攻撃したのだ。
そのままロゼットが蟹を足止めし、サイラスが攻撃することで難無く討伐は終了した。
「ありがとね。中々追い付け無かったから助かったわ」
「こちらこそ止めるので精一杯だったから助かったわ。一人だと大変でしょうし、良かったら討伐手伝うわよ?」
「いや、いいよ。これで二匹目だし、こないだの討ち漏らしは片付けたから居ても小物でしょ」
「そう。何かあったら言って頂戴。私は入江にいるから」
蟹を引き上げるため、漁師の手を借りに行くサイラスと分かれ、ロゼットはイルカの居る入江に向かうのだった。
●一人砂浜で
「たまには一人でのんびり釣りもいいよな」
入江のため波も穏やかで、打ち寄せる波の陰に小魚が見える。のんびり釣るにはこのくらいが良いだろうと判断し、ナキルはそこへ竿を出した。
(イルカってのもここから見れたらいいな)
当たりを待ちつつ地元では見ないイルカの姿を探して波間に視線をやるが、今のところその姿はない。だが、イルカが付近に居付けばいつでも見れるようになるだろうし、その時は恋人と一緒に見に来てもいいかもしれない。
可愛いというイルカの姿を見れば、彼女は喜んでくれるだろうか。その笑顔(きっとイルカの万倍可愛い)を想像していたナキルの手に、ぶるぶる……という振動が伝わってくる。
「っと、来たか」
竿を上げると、細長く黄色がかった白い魚が上がってくる。サイズはナキルの拳を二つ並べたくらい。この種の魚としては中々のサイズだった。
「コイツか。油で揚げると美味いんだよな」
針を外して再び投入すると、次々に当たりがある。想定ほどのんびり出来ないナキルだったが、魚が釣れれば楽しいものだ。
これだけ魚影が濃いなら釣りデートも良いかもしれない。そんな事を考えながら、ナキルは竿を振るのだった。
●イルカと泳ごう
「大福、一緒に競争するんだよ!」
入江では、ルルトと大福がはしゃいでいる。ルルトはゴーグルも含め、自身の瞳と同じ新緑色で統一された水着で海を満喫していた。
「分かったのだ。粽が居るから負けないのだ!」
「ち、粽に引っ張って貰うのはズルいんだよ~?」
対する大福は、紺色の海水パンツに水色の水泳帽を被り、革製の浮袋に捕まって父親の様に寄り添う狼の粽と泳いでいる。
「楽し、そう……」
ホムンクルスであるアンジェは、フードで右目の賢者の石を隠しながら、生身の左目ではしゃぐ二人と一匹を追っていた。
泳ぎが苦手なため、借りてきたボートに揺られイルカを待っていたが、内気な性格なためその輪に入れないでいたのだ。そんなアンジェのボートにはルルトの相棒のシロが同乗しており、舳先からルルトの様子を見ている。
『キュー?』
「わっ……?」
そんなアンジェの前に、灰色の顔がぬっと現れ、アンジェは後ろに倒れ込んでボートが大きく揺れる。
「粽、イルカさんが来たのだー!」
「ボクも遊びたいんだよー!」
それに気付いた大福が近付いて、子供のイルカの鳴き真似で誘い 、ルルトも水中でくるりと回って遊ぼうと誘いかける。
「アンジェが大丈夫か心配してるみたいなんだよ」
「頭を打ったりはしてないのだ?」
倒れた拍子にフードが脱げたアンジェは、白金の髪と空色の瞳をを陽光に晒していることを忘れ、自分を覗き込むイルカとルルト達に頷き返す。
「うん……、アンジェは平気。触っても、いい……?」
『キュルル』
嫌がる様子も無いのでそっと手を伸ばす。触れて感じるのは、張りのあるすべすべの皮膚と温かな体温だった。更に、エーテルを介してイルカが自分を案じていることを感じ、感謝の気持ちを伝えると喜びの感情が返ってくる。
「あ、イルカさん、怪我とかないですか? ヒール、いる……?」
『キュキュ?』
イルカにヒールという単語が通じたかは分からないが、不調は無いように見えた。
「そうだ! おやつがあるんだよー?」
ルルトが用意していた魚をボートから取り出し与えると、イルカはぱくりと呑み込んでもっとくれと訴えるように口を開ける。
「意外と歯が鋭いのだ!?」
「でも……、噛みついたりしないって」
大福が粽にしがみつくが、アンジェは恐れずに触れてイルカの気持ちを伝えると、粽もイルカに鼻をくんくんさせて危険は無いと判断したようだ。
「ふむぅ。そういえばイルカさんの仲間は何処に居るのだ? 漁師さんがここに来て欲しいって言ってるのだ!」
「ここに敵は居ないから、安心して欲しいんだよー?」
『キュア?』
大福とルルトも動物交感で仲間を呼ぶように伝えると、イルカは入江の外に泳いで行き、暫くして十数頭の仲間を連れて来る。
「さっきより増えてるわね」
ちょうどロゼットもそこへ合流し、イルカ達との遊泳が始まった。
「にゃははは! かわいいのだ~……もがっ!?」
「凄いジャンプ力なんだよー!」
大福とルルトを背に乗せたままイルカがジャンプし、水飛沫を上げ着水する。
大福はその衝撃で振り落とされ粽に回収され、ルルトもイルカの背から落ちたものの、魚のような泳ぎでイルカを追いかける。
「あの二人が羨ましいわね」
ロゼットは小柄な二人を眺めつつ、イルカと戯れていた。
小型なイルカのため背に乗る事は出来なかったが、イルカはロゼットに背鰭に手をかけさた状態で潜水し、ゆっくり泳いでゆく。イルカに引かれて見る水中の光景は中々に新鮮だった。
「ありがとう。素敵な体験だったわ」
通じてはいないだろうが、ロゼットはキュエエと鳴いて遠ざかって行くイルカへ感謝を告げる。時間を忘れて泳いでいたため、気がつけば日が暮れようとしていた。
「キミは、遊ばなくて良かったの……?」
『キューキュー』
アンジェは、隣のイルカに声をかける。アンジェはロゼット達がイルカと泳いでいたのを眺めていたのだが、最初に近寄ってきたイルカはずっとアンジェを気にかけてか離れなかったのだ。
「ありがとう、キミが、いてくれて、楽しかった……」
『キュー』
イルカに触れて感謝を伝えると、喜びの感情が返ってくる。
「うん、アンジェも嬉しい。でも、もう帰らなきゃ……」
そう伝えて、アンジェは岸に向かってボートを進める。
「ばいばい、またね……」
「遊んでくれてありがと!」
夕陽に染まる茜色の海に、一際大きくイルカが跳ねると、仲間と一緒にアンジェ達を見送るのだった。
●猟の特権
討伐を終えたサイラスは、浜辺で火を起こし蟹を焼き、冷ました身をペットの狼の大福に与えていた。
「ほい。これなら食えるだろ」
サイラスの仕事中待機する事の多い大福は、ありつけたご馳走に上機嫌で噛り付いている。
サイラスも蟹の殻を割り、身を口にして蟹の旨味を堪能する。
『ウォフッ』
「なんだ。もう食ったのか」
お代わりを要求する大福に、サイラスは冷ましていた蟹を放ってやる。幸い、蟹は大量にあった。
●火龍果を食べよう
キッチンの周りには椅子とテーブルが並べられ、冒険者達は思い思いに火龍果を楽しんでいた。
カットしたものだけでなく、有志が作った火龍果料理も提供されている。
「コッチの甘いのはそのままでもいい。甘くねえのはそれはそれでシャクシャクしていい。どっちもうめえ!」
砂浜が似合う半裸の男、ナハシュは運ぶ前の味見として、カットした火龍果を制覇していた。そこへ、キッチンでの調理を終えたヨルが合流する。
「お、なんだそれ?」
「キッチンを借りて作ってみたんだ。あと、作ったものを分けて貰って来たよ」
自分の持つ料理に目敏く反応したナハシュに苦笑しつつ、ヨルは相棒の前に皿を置く。そこにはヨル作の火龍果の皮の醤油漬けと、シルク作の揚げた皮が盛られていた。
「へぇ。皮も食えんのか。……お。しょっぱくて酒が欲しくなるな。この揚げたのもさくっとした衣と塩味がしてうめえ」
さっそく醤油漬けをつまんで口に放り込むナハシュの前に座り、醤油漬けについてヨルが解説する。
「茹でて醤油に漬けたら青臭さが抜けていい感じになったんだ。というか、酒は止めときなよ。配達あるんだろう?」
「んなこと言いながらヨルは酒持ってんじゃねぇか。酔うほど飲まねぇからくれよ」
「はあ、仕方ない。一杯だけだからね」
ため息をつき、ヨルはナハシュへグラスを渡す。こうなるのなら、自分も配達に手を上げておけば良かったかもしれない。
「粽、カッコイイ果物なのだ~! 割ると龍の赤ちゃんが出て来たりしないのだ?」
「確かに、ホントにフルーツか心配になりますよね」
こちらでは、大福が火龍果を見て目を丸くし、キリクが笑いながら粽が選んだ小ぶりな火龍果にナイフを入れると、真っ赤に熟した果肉が現れる。
「ん! あま~いのだ」
「食べてみると美味しいですよね」
スプーンで掬って口に入れると、優しい甘さが口に広がる。氷を手に入れて冷たくして食べたかった大福だったが、冷やしすぎると甘みを感じにくくなると聞いてそのまま食べて正解だったようだ。
「えへへ、甘くて美味しい、ね!」
「……ん。そうだな、よく熟していて美味い」
少し離れた浜辺では、サラとだわが並んで火龍果を食べていた。上機嫌なサラに、だわは自分の火龍果を差し出す。
「昼は暑かった。確り水分補給しておくといい」
「! ありがとう。でも、だわおにいちゃんも、食べなきゃ。はい、あーん」
差し出された果肉を少し恥ずかしそうに口にしたサラは、お返しに自分の火龍果をだわの前に突き付ける。
「いや……」
「わたしのは、イヤ……?」
それでは意味がないと断ろうとしただわだが、不安そうに見上げてくるサラに断れず口を開く。
「こうやって食べたら、きっと、もっと、もーっと美味しくなる、よ!」
「……そうだな」
顔を綻ばせるサラから顔をそらし、だわは果肉を呑み込む。なぜか、自分のものより甘い気がした。
●イルカの唄
日の暮れた波打ち際を、アンジェはミニビヒモーを連れて歩いていた。
海からは暖かい風が吹いてくるが、陽射しが無いため過ごしやすい。
「あ、綺麗な貝、見つけた…」
薄暗い浜辺でも目立つ輝きを手に取り、アンジェはフードを下ろして貝殻を耳に当てた。
「ちょっと遅くなったな」
魚で一杯のバケツを抱え、ナキルは浜辺を歩く。釣りに集中していて、気づけばこの時間になっていたのだ。
「ん? ……何かいるのか?」
海からの風に乗って、何か聞こえて気がしてナキルは足を止めた。
ナハシュはマジカルポケットに火龍果を詰め、配達先へ向かっていた。
「もうちょい飲みたかったのになあ」
そんな事を口にしつつも、いい気持ちになっていたナハシュは鼻唄混じりに浜辺を歩く。
その唄に返すように、海から唄が返ってきた。
『キュキュキュキュ……』
『キュー、キュキュ』
この三人以外にも、浜辺で耳を澄ませた者はイルカの唄を聞いたという。
そしてその唄は、この日以降もこの海に響くこととなった。
スリカータ伯爵領南岸の砂浜に、十数人の冒険者達が集まっていた。
彼等の目的は様々だが、多くは珍しい果実やイルカの海に惹かれての参加であり、晴天の青空に浮かぶ白い雲と、海底が透けて見えるような青い海に歓声を上げている。
「イルカと遊べるかな! 一緒に泳いでみたいんだよ♪」
ルルト・アーキスは、イルカとの出会いに期待し新緑の瞳を輝かせていた。その肩に乗るシロと名付けられたイイヅナが、くりっとした瞳でルルトを見ている。
「火龍果……。珍しい果物らしいけどどんな味かな……」
「あんたも火龍果目当てか。料理に使えば結構いい色が出るらしいから俺も期待してる。楽しみだよな」
こちらは火龍果目的で参加したキリクに、ファと名付けた白い大鼬を連れたカイン・ステラが声をかけた。
「色が出る? パンに色を付けたりも……?」
「どうだろうな。火を通して色落ちや変色しないなら付けれると思うが。試しにやってみるか?」
大柄で目付きの悪いカインに警戒する様子を見せたキリクだったが、自分の住むパン屋の商品に火龍果を使えないか考えていたため、そのヒントになりそうな発言に反応する。
「うん。見せて貰って良い?」
「構わねぇぜ。じゃあ行こうか」
周りの冒険者達も思い思いの場所へ歩き出しており、浜辺に用意されたキッチンへ足を向けるカインに続き、キリクも歩き出した。
●マジカル配達員
「それじゃあ、これを頼むよ」
「うわ~っ、すごい見た目だね? どんな味がするのかな……?」
目の前に置かれた火龍果に、トゥーリは赤い瞳を丸くする。
初めて見る火龍果は両掌にすっぽり収まるくらいの大きさの楕円形で、ピンクを濃くした様な赤紫色の肌に付いた突起は鱗を想像させる。それが名前の由来になっているのだろう。
「味見して行くかい?」
「えっ、いいの?」
「勿論さ。その代わり、届けた先で味の宣伝も頼むぜ? そっちのに、……姉ちゃん? も食っていきなよ」
そう言うと、男は果実を割り、手際よく皮と果肉を切り分けて食べ易いサイズにカットした火龍果をトゥーリとエルに差し出す。
「それじゃいただきます。……ん。あまーい!」
初めて食べる火龍果は、ほのかな酸味を感じる優しい甘さだった。サクッとした食感の果肉に、小さな黒い種も良いアクセントになっている。
「本当。すごく、美味しい」
表情豊かなトゥーリに対し、表情の変化に乏しいエルだったが、追加の火龍果へ手が伸びている所を見ると気に入ったのだろう。
「美味いだろう? 俺が丹精込めて育てた火龍果だからな!」
二人は満足そうな笑顔を見せる男に見送られ、マジカルポケットに入るだけの火龍果を納めると配達に出るのだった。
●海の安全を
(今度こそ仕留めてしまわないとねぇ)
黒褌を締めたサイラスは拍子蟹を探していた。
以前の依頼で蟹を仕留め損なったため、今度こそ全て仕留めようと海の安全確保がてら海に入っていたのだ。
鮫などの危険な生物が他に居ないかも警戒しつつ、本命の蟹を探して沖へ泳いでゆく。入江を出ると潮の流れが早くなったが、泳ぎの達者なサイラスは力強く進んでゆく。
(お。発見)
サイラスは海底に潜む拍子蟹を確認すると、呼吸を整え、大蛇身と銘を打った万力鎖の射程一杯から攻撃を仕掛けた。分厚い甲羅を持つ蟹だったが、魔法的な攻撃力を持つ大蛇身は難無く甲羅を穿ち、驚いた蟹は鋏を掲げて威嚇のポーズを取る。
(逃げもせず向かっても来ないなら只の的やん)
胸中で呟くサイラスが放った第二撃に、敵わないと悟った拍子蟹は沖の方へ逃げ出すが、サイラスは魚のように身体をくねらせた泳ぎで後を追い、更に数回の追撃を加えて蟹を仕留める。
(まず一匹と。けどこれ、どうやって浜まで上げるかねぇ)
体長4mの大蟹を一人で運ぶのは、退治するより骨が折れそうだった。
●夏の海で
「ちょっと深くないですか?」
「大丈夫です。さあ、溺れそうになったら抱き上げてあげますから思いきりいきましょう!」
人里離れたエルフの森で暮らしていたため、海初体験のキラリ=マバユイは、つま先立ちでやっと息が出来る水深に不安そうな声を出す。
自分を引っ張ってきたシルク・メイプルリーフに不安を訴えるが、シルクはいつもの人懐っこい笑みでキラリの手を引いてバタ足の練習を促す。
「もががっ?」
「はい息継ぎ失敗するとしょっぱいですよー?」
シルクはある程度慣れたところでキラリの手を離す。
「!?」
離された瞬間慌てたものの、息継ぎのコツを掴んでいたキラリは、何とか姿勢を立て直し懸命に水を掻く。やがて手がもふもふと沈み込むように柔らかいものに触れ、次に顔にそれが押し付けられる。
「うわぷっ!?」
「キラリ君、よくここまで泳げましたね!」
言われて気付いたが、水深はキラリの腰ほどだった。必死でかなりの距離を泳いでいたらしい。
「泳げ……た……ぁ、ぅ、ぇ……」
喜びの声を上げようとするキラリだったが、シルクの喜びのハグに包まれているため言葉にならない。
「ひふふはんいひはれひな……!」
顔を真っ赤にしてもがくキラリはまだ、この状況での息継ぎを会得していなかった。
●イルカの海
ロゼットと火龍果の配達から戻ったエルは、漁師の船に乗ってイルカのいるという海域を目指していた。
「すみません。鯆笛とは、どんな、物、でしょう?」
「んん? 興味あるのか?」
頷くエルに、操船する老人が細長い筒のような笛を取り出す。古びた木製のそれは幾つかの切れ込みが入れられており、老人が息を吹き込むと甲高い音が響く。
「音色がイルカが仲間を呼ぶときの声に似ているんだよ。興味を持って近付いて来る奴もいてな。その内何匹かは慣れて付いてくる様になったのも居たもんさ」
老人は若い頃、仲良くなったイルカを使って魚を網に追い込んだりしていたという。
「イルカって頭が良いのね」
それを聞いたロゼットが感心している。シグモル火山生まれの彼女は、修行の旅に出るまでは海と縁遠い生活を送っていたため、話に聞いていたイルカに興味を持っての参加だった。
やがて目的の海域に近付き、老人が鯆笛を吹こうとしたところで、エルが訴える。
「わたしも、吹いて、みたい」
「そうか。軽くでいい。強く吹いても音は出んぞ」
老人はエルに笛を渡すと、船の操船に専念する。
「じゃあ、折角だし合わせてみましょうか?」
鯆笛を受け取って音が出せるか確認したエルに、ロゼットも自前のフルートを取り出して合奏を提案する。
「うん。こっちは、曲は、何でもいい、けど」
「自由にいきましょう。その方が楽しい様子が伝わると思うわ」
ロゼットの提案に頷くと、エルは鯆笛を口にし、甲高い音を響かせる。ロゼットもフルートを口に当て、それよりやや低い音色でエルに続く。
その音色は会話のように交互に響き、時に合唱するように重なりながら、波間に流れていった。
「イルカさん、来てくれるかな……?」
南岸の村の近くの岬でオカリナを吹くサラに、だわは麦わら帽子で陽射しを遮ってやりながら彼女の演奏に感心していた。
濡れることが苦手な自分に付き合い、海岸に残ったサラに気を遣わせてしまった事への埋め合わせをと考えただわは、作戦で使ったホイッスルがあったことを思い出し、取り出して鳴らしてみる。
「だわおにいちゃんも手伝ってくれるの?」
嬉しそうに笑うサラに頷き返し、二人で楽器に息を吹き込む。
力強いホイッスルと柔らかなオカリナの音色。暫く合奏を続けていると、エル達の乗った船が帰って来た。ロゼットが手を振っているのが見える。
「エルおねえちゃん、ロゼットおねえちゃん!」
サラも手を振り返し、だわは周囲にイルカの影が無いか目を凝らす。
『キュキュキュー』
「イルカさん!」
そんな二人の目の前でイルカが跳ね、サラが歓声をあげ、傍らに座っていたジュジュという名の白いフェレットも顔を上げる。
「キュキュキュー」
『キュ? キキキュ?』
サラがイルカの鳴き声に似せて呼びかけると、興味を引いたのか船の周りのイルカも集まって来る。海面から顔を出し、何かを訴えてくる姿は愛嬌があった。
「こんなにたくさん! すごいね、だわおにいちゃん」
「(声でコミュニケーションが取れるのか)頭がいいな……」
感激に目を輝かせるサラの隣で、最初は警戒していただわも感心していた。そこへ、ロゼット達の船が到着する。
「上手く連れてくることが出来たわ!」
「みんな、良い子、だよ」
ロゼットが誇らしげに告げ、続くエルの声にも喜色が滲んでいる。
「おかえりなさい! イルカさん、可愛いね……!」
「ええ。聞いていた通り可愛いわね」
そんな話をしながら、鳴き声と楽器で交流し、イルカ達も人懐っこく鳴いたり身体を回転させて泳いだりと、こちらに敵意がないと安心しているようだ。
やがてイルカ達が入り江の中に興味を示し、そちらへ泳いで行く。
「ばいばい、またね」
「イルカさん、可愛かったね」
「……そうだな」
イルカの向かう入江には何人かの冒険者が泳いでいる。この海域が安全なことをアピールする役目は、そちらのメンバーに任せて良いだろう。
「私はイルカと泳いで来るわ。お爺さんもお疲れさまでした」
一行の内、ロゼットはイルカの泳いでいった入江に向かう。折角の機会、もう少しイルカと触れ合ってみるのも良いだろう。
●浜辺のキッチン
漁師村前の浜に用意されたキッチンでは、冒険者達が火龍果の料理に挑戦していた。
火龍果は、大型で果肉の白いもの、小ぶりだが果肉まで赤いもの、そして日持ちさせるため完熟前に収穫したものなどが用意されている。
カインはカットした火龍果を味見し、どんな料理にするか考えを巡らせていた。
(どちらも甘いがあっさりした甘味だな。果肉の赤い方がより甘いが、シロップにすると甘露アリの恵みに負けるか。ただ、色が付くのは面白いかもな)
そう考え、赤い果肉を取り出しシロップとジャムの作成にかかる。更に、果汁を絞ってクレープ生地に混ぜて焼いてみる。
「少量でも結構色がつくな」
「しかも、熱を加えてもあまり色が落ちませんね」
キリクはパン作りに活かせないかと考え、それを見学していた。
そのキリクの目の前で、カインは甘すぎたり、色が毒々しくならないよう果汁の量を調整して生地を焼くと粗熱を取り、マジカルポケットで保存していたクリームと他の果物を挟んだクレープを作る。
「見事なものです。赤いクレープ生地にクリームの白とカラフルなフルーツが映えますね。食べるのが勿体ない位です」
「何言ってんだ。クレープは気軽に食べる物だぜ」
カインはキリクにクレープを渡し、ジャムに柑橘を絞って酸味を足す。シロップにも見事な赤い色が付いていた。
更に、焼いたクレープ生地にクリームを塗り、フルーツを挟む。それを何層にも重ねミルクレープを作り上げた。切り分けると赤と白の層と、散りばめられたフルーツの黄色や緑が顔を出す。
「店に出しても良さそうだな」
そうやってカインが作った品、特にシロップとジャムは保存が利くだけでなく、売り物にならない傷物火龍果の有効利用方法として、視察に来た生産者とスリカータ家の執事から大きく評価を受ける事になった。
配達から戻ったトゥーリは、火龍果にチョコレートを合わせれないかと試行錯誤していた。
(カカオに対抗したいみたいだけど、一緒に宣伝すれば良いんじゃないかな)
先程の火龍果の生産者の様に、カカオにも丹精込めて育てる生産者がいる筈なのだ。作るものは違っても、愛情を込めて農業に携わっているのだから通じるものもあるだろうし、手を取り合う事も出来る筈だ。
こういう事を考えるのは、隣を歩いてくれる彼の影響だろうか。火龍果とカカオどちらも広める事が出来れば、農業を愛する彼はきっと喜んでくれるだろう。
(甘いもの同士より、片方がさっぱりした方が相性良くないかな……?)
そう考えたトゥーリは、乾燥した火龍果の果肉にビターなチョコレートをかけ固めたものと、ライスペーパーでチョコレートと一緒に火龍果を包んでみる。こちらは完熟前の火龍果を使ってみた。
「ん、これは良くできたと思う!」
味見をしてみると、乾燥して甘みの増した火龍果に、チョコレートのほろ苦さが加わった大人の味のお菓子になっていた。
ライスペーパー包みは、サクサクした未熟果にライスペーパーのもっちりとした食感が楽しく、未熟果の控え目な甘さをチョコレートが補っていた。
「後はいろんな人の感想を聞いてみなきゃね!」
そう言って、トゥーリは追加を準備にかかるのだった。
「知ってますか? 実は火龍果の皮って食べられるんですよ」
「え、これ食べるんですか?」
カインやトゥーリから火龍果の皮を分けて貰ったシルクの言葉に、味見役のキラリは驚きの声を上げる。
シルクは皮の表面に付いた突起を取り除くと、食べやすいサイズに切って下味を付け、衣を付けて熱した油で揚げはじめる。
(見事な手際ですけど、流石に皮は……)
それを眺めるキラリは内心疑っていたが、出来上がったものを見て更に眉をひそめる。衣の下から覗く赤紫の皮を口にするには勇気がいる。揚げた果物に対する抵抗も大きかった。
「本当に食べるんですか?」
「モチロン。大地の恵みは無駄にしてはいけません、キラリ君はい、あ〜ん」
火龍果を差し出してくるシルクの邪気のない笑顔に負け、渋々口にするキラリ。
サクッとした衣を噛むと、火龍果の皮から苦みと粘りのある汁と共に、青い香りが鼻に抜ける。だが、苦みも香りも不快なものではなく、下味と揚げたことによって程よいアクセントとして感じられるものになっていた。これはシルクの調理技術の高さによるところも大きい。
気付けば、キラリはもりもりと火龍果を頬張っていた。目を輝かせ、表情が美味しいと語っている。
「これ凄く美味しいですよ! ほらほら、シルクさんも! はい、あ~ん」
「でしょう?」
キラリが差し出す火龍果に、シルクもあ~んと口を開けて頬張る。互いの喜ぶ顔も、最高の調味料だった。
「火龍果もこんなに沢山あると圧巻だね」
珍しい果実が食べられると聞いて来たヨル・スレイマンは、味を見るという口実で火龍果を堪能していた。
白い果肉と赤い果肉を食べ比べ、完熟前の果肉の食感も含めて一通り楽しむ。
「これは美味しい。流通が難しいのが惜しいくらいだね……」
未熟果なら比較的長持ちするのだが、火龍果は収穫後に追熟しないため、完熟果を楽しむにはこうして産地を訪れなければならないのだ。
「まあ、それならここで目一杯楽しむ事にしようか」
ヨルは気持ちを切り替え、火龍果をマンゴーなど他のフルーツと裏漉ししてミードで割り、火龍果の赤と白の果肉を角切りにしてミントと浮かべる。
自分が飲みたいものを作ったと言われれば『そうだ!』と開き直るしかないが、販促の為に楽しんでくれと言う話なのだから問題ないだろう。
「他にも何か作った方がいいかな」
カクテルを転がしながら、興が乗ったヨルはキッチンを物色し始めた。
●退治完了
(この間の魔獣化したサメみたいなのが来たら、どうしようかと思ってたけど……)
青い紐で髪を纏め、同じく青い水着に着替えて海に入っていたロゼットは、海底を進む拍子蟹に気付いて泳ぎを止める。
このまま進むと入江に向かうと判断し、まるで人魚の様に俊敏な泳ぎで蟹の進行方向に出る。
(せっかく呼んだイルカを怯えさせる訳にはいかないのよ)
ロゼットは突き付けた指先から光の矢を放つ!
矢を受けた蟹は鋏を振り上げロゼット威嚇するが、その背に鎖付きの短剣が突き刺さる。蟹を追って来たサイラスが、大蛇身で攻撃したのだ。
そのままロゼットが蟹を足止めし、サイラスが攻撃することで難無く討伐は終了した。
「ありがとね。中々追い付け無かったから助かったわ」
「こちらこそ止めるので精一杯だったから助かったわ。一人だと大変でしょうし、良かったら討伐手伝うわよ?」
「いや、いいよ。これで二匹目だし、こないだの討ち漏らしは片付けたから居ても小物でしょ」
「そう。何かあったら言って頂戴。私は入江にいるから」
蟹を引き上げるため、漁師の手を借りに行くサイラスと分かれ、ロゼットはイルカの居る入江に向かうのだった。
●一人砂浜で
「たまには一人でのんびり釣りもいいよな」
入江のため波も穏やかで、打ち寄せる波の陰に小魚が見える。のんびり釣るにはこのくらいが良いだろうと判断し、ナキルはそこへ竿を出した。
(イルカってのもここから見れたらいいな)
当たりを待ちつつ地元では見ないイルカの姿を探して波間に視線をやるが、今のところその姿はない。だが、イルカが付近に居付けばいつでも見れるようになるだろうし、その時は恋人と一緒に見に来てもいいかもしれない。
可愛いというイルカの姿を見れば、彼女は喜んでくれるだろうか。その笑顔(きっとイルカの万倍可愛い)を想像していたナキルの手に、ぶるぶる……という振動が伝わってくる。
「っと、来たか」
竿を上げると、細長く黄色がかった白い魚が上がってくる。サイズはナキルの拳を二つ並べたくらい。この種の魚としては中々のサイズだった。
「コイツか。油で揚げると美味いんだよな」
針を外して再び投入すると、次々に当たりがある。想定ほどのんびり出来ないナキルだったが、魚が釣れれば楽しいものだ。
これだけ魚影が濃いなら釣りデートも良いかもしれない。そんな事を考えながら、ナキルは竿を振るのだった。
●イルカと泳ごう
「大福、一緒に競争するんだよ!」
入江では、ルルトと大福がはしゃいでいる。ルルトはゴーグルも含め、自身の瞳と同じ新緑色で統一された水着で海を満喫していた。
「分かったのだ。粽が居るから負けないのだ!」
「ち、粽に引っ張って貰うのはズルいんだよ~?」
対する大福は、紺色の海水パンツに水色の水泳帽を被り、革製の浮袋に捕まって父親の様に寄り添う狼の粽と泳いでいる。
「楽し、そう……」
ホムンクルスであるアンジェは、フードで右目の賢者の石を隠しながら、生身の左目ではしゃぐ二人と一匹を追っていた。
泳ぎが苦手なため、借りてきたボートに揺られイルカを待っていたが、内気な性格なためその輪に入れないでいたのだ。そんなアンジェのボートにはルルトの相棒のシロが同乗しており、舳先からルルトの様子を見ている。
『キュー?』
「わっ……?」
そんなアンジェの前に、灰色の顔がぬっと現れ、アンジェは後ろに倒れ込んでボートが大きく揺れる。
「粽、イルカさんが来たのだー!」
「ボクも遊びたいんだよー!」
それに気付いた大福が近付いて、子供のイルカの鳴き真似で誘い 、ルルトも水中でくるりと回って遊ぼうと誘いかける。
「アンジェが大丈夫か心配してるみたいなんだよ」
「頭を打ったりはしてないのだ?」
倒れた拍子にフードが脱げたアンジェは、白金の髪と空色の瞳をを陽光に晒していることを忘れ、自分を覗き込むイルカとルルト達に頷き返す。
「うん……、アンジェは平気。触っても、いい……?」
『キュルル』
嫌がる様子も無いのでそっと手を伸ばす。触れて感じるのは、張りのあるすべすべの皮膚と温かな体温だった。更に、エーテルを介してイルカが自分を案じていることを感じ、感謝の気持ちを伝えると喜びの感情が返ってくる。
「あ、イルカさん、怪我とかないですか? ヒール、いる……?」
『キュキュ?』
イルカにヒールという単語が通じたかは分からないが、不調は無いように見えた。
「そうだ! おやつがあるんだよー?」
ルルトが用意していた魚をボートから取り出し与えると、イルカはぱくりと呑み込んでもっとくれと訴えるように口を開ける。
「意外と歯が鋭いのだ!?」
「でも……、噛みついたりしないって」
大福が粽にしがみつくが、アンジェは恐れずに触れてイルカの気持ちを伝えると、粽もイルカに鼻をくんくんさせて危険は無いと判断したようだ。
「ふむぅ。そういえばイルカさんの仲間は何処に居るのだ? 漁師さんがここに来て欲しいって言ってるのだ!」
「ここに敵は居ないから、安心して欲しいんだよー?」
『キュア?』
大福とルルトも動物交感で仲間を呼ぶように伝えると、イルカは入江の外に泳いで行き、暫くして十数頭の仲間を連れて来る。
「さっきより増えてるわね」
ちょうどロゼットもそこへ合流し、イルカ達との遊泳が始まった。
「にゃははは! かわいいのだ~……もがっ!?」
「凄いジャンプ力なんだよー!」
大福とルルトを背に乗せたままイルカがジャンプし、水飛沫を上げ着水する。
大福はその衝撃で振り落とされ粽に回収され、ルルトもイルカの背から落ちたものの、魚のような泳ぎでイルカを追いかける。
「あの二人が羨ましいわね」
ロゼットは小柄な二人を眺めつつ、イルカと戯れていた。
小型なイルカのため背に乗る事は出来なかったが、イルカはロゼットに背鰭に手をかけさた状態で潜水し、ゆっくり泳いでゆく。イルカに引かれて見る水中の光景は中々に新鮮だった。
「ありがとう。素敵な体験だったわ」
通じてはいないだろうが、ロゼットはキュエエと鳴いて遠ざかって行くイルカへ感謝を告げる。時間を忘れて泳いでいたため、気がつけば日が暮れようとしていた。
「キミは、遊ばなくて良かったの……?」
『キューキュー』
アンジェは、隣のイルカに声をかける。アンジェはロゼット達がイルカと泳いでいたのを眺めていたのだが、最初に近寄ってきたイルカはずっとアンジェを気にかけてか離れなかったのだ。
「ありがとう、キミが、いてくれて、楽しかった……」
『キュー』
イルカに触れて感謝を伝えると、喜びの感情が返ってくる。
「うん、アンジェも嬉しい。でも、もう帰らなきゃ……」
そう伝えて、アンジェは岸に向かってボートを進める。
「ばいばい、またね……」
「遊んでくれてありがと!」
夕陽に染まる茜色の海に、一際大きくイルカが跳ねると、仲間と一緒にアンジェ達を見送るのだった。
●猟の特権
討伐を終えたサイラスは、浜辺で火を起こし蟹を焼き、冷ました身をペットの狼の大福に与えていた。
「ほい。これなら食えるだろ」
サイラスの仕事中待機する事の多い大福は、ありつけたご馳走に上機嫌で噛り付いている。
サイラスも蟹の殻を割り、身を口にして蟹の旨味を堪能する。
『ウォフッ』
「なんだ。もう食ったのか」
お代わりを要求する大福に、サイラスは冷ましていた蟹を放ってやる。幸い、蟹は大量にあった。
●火龍果を食べよう
キッチンの周りには椅子とテーブルが並べられ、冒険者達は思い思いに火龍果を楽しんでいた。
カットしたものだけでなく、有志が作った火龍果料理も提供されている。
「コッチの甘いのはそのままでもいい。甘くねえのはそれはそれでシャクシャクしていい。どっちもうめえ!」
砂浜が似合う半裸の男、ナハシュは運ぶ前の味見として、カットした火龍果を制覇していた。そこへ、キッチンでの調理を終えたヨルが合流する。
「お、なんだそれ?」
「キッチンを借りて作ってみたんだ。あと、作ったものを分けて貰って来たよ」
自分の持つ料理に目敏く反応したナハシュに苦笑しつつ、ヨルは相棒の前に皿を置く。そこにはヨル作の火龍果の皮の醤油漬けと、シルク作の揚げた皮が盛られていた。
「へぇ。皮も食えんのか。……お。しょっぱくて酒が欲しくなるな。この揚げたのもさくっとした衣と塩味がしてうめえ」
さっそく醤油漬けをつまんで口に放り込むナハシュの前に座り、醤油漬けについてヨルが解説する。
「茹でて醤油に漬けたら青臭さが抜けていい感じになったんだ。というか、酒は止めときなよ。配達あるんだろう?」
「んなこと言いながらヨルは酒持ってんじゃねぇか。酔うほど飲まねぇからくれよ」
「はあ、仕方ない。一杯だけだからね」
ため息をつき、ヨルはナハシュへグラスを渡す。こうなるのなら、自分も配達に手を上げておけば良かったかもしれない。
「粽、カッコイイ果物なのだ~! 割ると龍の赤ちゃんが出て来たりしないのだ?」
「確かに、ホントにフルーツか心配になりますよね」
こちらでは、大福が火龍果を見て目を丸くし、キリクが笑いながら粽が選んだ小ぶりな火龍果にナイフを入れると、真っ赤に熟した果肉が現れる。
「ん! あま~いのだ」
「食べてみると美味しいですよね」
スプーンで掬って口に入れると、優しい甘さが口に広がる。氷を手に入れて冷たくして食べたかった大福だったが、冷やしすぎると甘みを感じにくくなると聞いてそのまま食べて正解だったようだ。
「えへへ、甘くて美味しい、ね!」
「……ん。そうだな、よく熟していて美味い」
少し離れた浜辺では、サラとだわが並んで火龍果を食べていた。上機嫌なサラに、だわは自分の火龍果を差し出す。
「昼は暑かった。確り水分補給しておくといい」
「! ありがとう。でも、だわおにいちゃんも、食べなきゃ。はい、あーん」
差し出された果肉を少し恥ずかしそうに口にしたサラは、お返しに自分の火龍果をだわの前に突き付ける。
「いや……」
「わたしのは、イヤ……?」
それでは意味がないと断ろうとしただわだが、不安そうに見上げてくるサラに断れず口を開く。
「こうやって食べたら、きっと、もっと、もーっと美味しくなる、よ!」
「……そうだな」
顔を綻ばせるサラから顔をそらし、だわは果肉を呑み込む。なぜか、自分のものより甘い気がした。
●イルカの唄
日の暮れた波打ち際を、アンジェはミニビヒモーを連れて歩いていた。
海からは暖かい風が吹いてくるが、陽射しが無いため過ごしやすい。
「あ、綺麗な貝、見つけた…」
薄暗い浜辺でも目立つ輝きを手に取り、アンジェはフードを下ろして貝殻を耳に当てた。
「ちょっと遅くなったな」
魚で一杯のバケツを抱え、ナキルは浜辺を歩く。釣りに集中していて、気づけばこの時間になっていたのだ。
「ん? ……何かいるのか?」
海からの風に乗って、何か聞こえて気がしてナキルは足を止めた。
ナハシュはマジカルポケットに火龍果を詰め、配達先へ向かっていた。
「もうちょい飲みたかったのになあ」
そんな事を口にしつつも、いい気持ちになっていたナハシュは鼻唄混じりに浜辺を歩く。
その唄に返すように、海から唄が返ってきた。
『キュキュキュキュ……』
『キュー、キュキュ』
この三人以外にも、浜辺で耳を澄ませた者はイルカの唄を聞いたという。
そしてその唄は、この日以降もこの海に響くこととなった。
マスターコメント
お待たせしました。
リプレイでは混ざった描写になったりしていますが、各行動の獲得SPは以下のようになっています。
【1】海を楽しむ……4SP
【2】楽器演奏でイルカを呼ぶ……8SP
【3】イルカを誘う……8SP
【4】海の安全確保……5SP
【5】火龍果を楽しむ……6SP
【6】火龍果を運ぶ……9SP
【7】火龍果料理を作る……13SP
【8】自由行動……0SP
イルカに対するアプローチで声帯模写を使われた方がいて、有効と判断してSPにボーナスとさせて頂きました。また、料理のアイデアが光った方にもボーナスを入れさせて頂いております。
合計53SPとなったので大成功となります。
おめでとうございます!
TP報酬も追加されていますので、残りの【夏果】シナリオも楽しんで報酬獲得を目指していただけたらと思います。
ご参加ありがとうございました!
イベントシナリオ(50人)易しい 報酬:標準16 / 8〜40人
2022年08月01日 01時54分38秒 公開
大成功
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