ミオゾティス

津軽無色

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シナリオID:2285

オープニング

●廃忘
 フィルエス大森林。
 この地には源流の五氏族以外にもエルフの集落が数多興り、ときに栄え、時に消えゆく。
 ことに近頃は大異変とも呼ぶべき不可解な様々の事象によって悠久の平穏は著しく損なわれており、事変の渦中となりつつある東部に限らず、もはや全域においてあらゆる危難を覚悟し、備えなくてはならないほどだ。
 こんな状況だが、中にはいずれの氏族にも身を寄せず独りで暮らす、変わり者もいる。
 
 そこは、いつかの氏族が拓いたのであろう、かつての里。
 枯死したまま墓標の如くそびえるくすんだ木々を、そして主なき家々を、苔や茸、蔓性の植物群がこれ幸いとばかり侵し、我が物顔で覆い尽くしている。その間を縫って若芽が次々と生えては背伸びし、やがて成木となって花を咲かせ、実を落として種を蒔き。そうして一度は失われた緑の領域を、緩やかに健やかに取り戻して今へと至るのだろう。
 寄り添うことを諦めて去った輩の力無きを、そして、彼らのいぬ間に自浄した森の強かさを、この廃忘の里の在り様は残酷なほど雄弁に物語っている。
「最高じゃない?」
「うん、来た甲斐があったねえ。これぞフィルエス大森林!」
 モニクとオレリーは、一目見て気に入った。
 しがらみを振り切って駆け落ち同然に旅立ち、やっと見つけた本当の森を。
 自分が草木でもないくせに代弁者の如く振る舞い、共生とは名ばかりの実のないしきたりに縛られ若い世代にも緩やかな滅びを強いる、故郷の年寄り連中に見せたいくらいだ。あんたたちがやろうとしていることなんて所詮こんなものだと、言ってやりたかった。
 二人はここを安住の地と定め、お互いと同じくらいに愛した。
 何十年もの間、誰に邪魔されることもなく、幸福な日々を過ごすことができた。

 なのに、どうしてだろう。
 もうここには、モニクしかいない。

●不忘
 遺品を届けて欲しい。
 この、どこか素っ気ない依頼を申し出た男性が言うには、クリーパーに襲われていた娘をオレリーと名乗るエルフ女性に救われ、しかし当のオレリーはそのときに負った怪我が元でみまかってしまったらしい。そこで、返し切れぬ恩に少しでも報いるべく、今際の際に彼女が遺した幾許かの情報を頼りに冒険者ギルドを訪ねた、という次第のようだ。
 手掛かりは、モニクという人名。恐らく女性だが、これだけでは届けるどころか居場所さえ分からない。だが、女神の導きというやつなのか、時を同じくして預言の魔女オペラから、まさにモニクという名のエルフに纏わる、危急の報が齎された。
 そんなわけで、あなたたち冒険者一行は今、フィルエス大森林の外れにいる。
 オレリーの遺品――空色の花を模した髪飾りを、モニクに届けるために。
 そして、迫り来るクリーパーの脅威から、彼女を救うために。

●勿忘
「……また、か」
 モニクは樹上で息を潜め、里を這い回る異形どもの様子を窺う。
 今までも奴らが来ることはあったが大抵は小物で、頻度も年に数回程度だった。
 しかし、このところやけに遭遇率が高い。
 それも群れていたり、やけに体が大きかったりと面倒な手合いばかり。
 間が悪いことに、今回はその両方に該当した。

 まずは様々の色彩を無作為に混ぜ込んだような奇抜な体色と、体のそこかしこから異臭を伴い垂れ流す体液が嫌でも目を引く、五匹ほどの小型の群れ。この世に染み出る際にたまさか見かけて真似でもしたのだろうか、愛嬌は欠片もないがうさぎのような姿形をしている。動きが素早く、時折耳障りな金切り声をあげると、あの不潔な体液に穢された草木が爆ぜ、塵となった。

 そしてもう一方は大きな熊ほどもある、巨木の枝ばかりを束ねて人型に編み上げた人形のようなモノ。こちらは本体の動作こそ緩慢だが、その足元から伸びた無数の根のような触手が、下世話なほど高速にのたうっている。その鋭い先端は、歩き回る本体の障害となる一切を引き裂いてばらばらにした。しかも、それぞれが独立して動くようで、たとえ複数の敵に囲まれてもそつなく対応し得るのではないかと思わせた。

「厄介ね」
 恐らく見た目通りの手強い相手なのだろう。だが、そんなことはどうでもいい。
「何度だって守ってみせるわ」
 いつかあなたが帰るまで、この場所を。
 モニクは自身の髪を彩る、空色の花を模した飾りに少し触れて。
 そして意を決したように矢を弓に番え、無粋な侵入者に狙いを定めた。

解説

●成功条件 ・犠牲を出さずクリーパーを殲滅 ・オレリーの遺品をモニクに渡す ●状況  日中のフィルエス大森林、その外れにある小さな人里の跡地。  草木が伸び放題で視界と動きが制限されやすい。  OP本文『●勿忘』直後に冒険者は現場へ到着する。 ●登場人物補足(PL情報) ・モニク  授恵者のエルフ女性。あまり感情を表に出さないものの、愛が重いタイプ。  オレリーと喧嘩別れしたことを悔い、彼女の帰還を願いつつ里を守る。  基本的に他のエルフや里と関わろうとしないため、世情に疎い。  戦闘中は樹上よりクリーパーを狙撃。連携できるかどうかは接し方次第。  遺品を受け取ると、礼もそこそこに冒険者を追い返そうとする。 ・オレリー(故人)  授恵者のエルフ女性で、モニクの最愛の恋人。博愛主義者。  人の世の異変を耳にし、森を出て人助けしようとモニクを誘うも断られる。  これが原因で二人は仲違いし、オレリーは感情に任せ一人で森を飛び出してしまう。  なお、元々髪飾りは二つともオレリーの所持品で、片方をモニクに譲った。 (以上の経緯はモニクに尋ねれば労せず聞くことができる)  その後の顛末はOPの通り。  彼女が何を思って死に際にモニクの名を呼んだのかは、誰も知らない。 ・クリーパー  臭くて気持ち悪いうさぎもどきが五体と、木っぽくてやっぱり気持ち悪い人型が一体。  能力などのヒントはOP参照。

マスターより

 少し出遅れてしまった津軽無色です。  というわけで二本目のシナリオは遺品を届ける傍らクリーパーを退治するお仕事となります。  舞台はフィルエス大森林ですが、【樹謂】との直接的な繋がりはありません。ええ、ないんです。  とはいえ敵はそれなりに手強いので、くれぐれも油断などなさいませんように。  それからモニクの扱いについては、すべて皆さんにお任せします。どうか悔いのない選択を。  ご参加お待ちいたしております。

リプレイ

●空色の花《ミオゾティス》
 一行が乱立する木々の狭間に預言された里と思しき家屋を見出し。
「間違いない、同胞(エルフ)だな」
 歩みを進めながら、その驚異的な視力を以て奥を確かめていたライナ・フレイヴァルツが言う。
「モニク様でしょうか……?」
「恐らくそうだ」
 おずおずと尋ねるフロマーシュ・ダイヤドロップにライナは頷く。
 遥か樹上には、今まさに弓を射んとするエルフの女性。
 そして、彼女の射線の先では――胡乱な樹木がその巨躯を引きずるようにゆっくりと移動している。
「――まずいな、既に始まっているようだ。助太刀しよう!」
 ライナの声に冒険者たちが次々進撃する最中。
 トーラだけは見るも無残に荒れ果てた里に目を奪われ、その歩みはゆっくりだ。
(こんなところに独りで……)
「どうした?」
 フロマーシュを伴って自らも動こうとした矢先、ライナは小さな仲間の様子に気が付く。
「遺品、渡すだけでいいのでしょうか? ……本当に、渡してもいいのでしょうか」
「さて」
 トーラが示した逡巡は、ライナにとっての葛藤そのものだ。
「……どんな気持ちで受け取るのだろうな。かと言って渡さないわけにもいかない、如何ともし難いところだ」
 ともあれ、今は。
「その悩みはお互い、後に取っておこう――私たちも出るぞマーシュ!」
「はい! 悲しくて、辛いことを繰り返させないためにも……!」
 ライナは会話を切り上げてフロマーシュと二人、走り出す。
「そう、ですね」
 トーラは両頬をぱちんと叩いてから、頼もしい仲間たちのあとを追うのだった。

 その先では。
 セリオス・オーガストが樹木の如き化け物の巨躯に、その身を侵す矢を放つ。
 折しも最前に放たれた矢の付近を穿ったそれに、件のエルフ女性も気が付いたらしい。
「あなたたちは?」
「冒険者ギルドの要請で来た」
 樹上からの声にぶっきらぼうな返事をしながら、セリオスは草の背の高さに眉をひそめた。
「君に届け物があるのだけれど」
 次いで彼の後方からシルヴィア・A・カペルが声を上げる。
「――まずは無粋な輩に退散願うとしようか。しかしなかなか厄介な手合いのようだ、よかったら手伝っては貰えないかな?」
「前はこちらが受け持とう、支援よろしく」
 更に問いかけは海神・江流が継いで、しれっと役割分担を織り込みつつ草間を駆け抜け。
 そしてライナとフロマーシュ、トーラが続いて。
 少し遅れて来たサイラスが、周囲の木々に勝るとも劣らぬ巨躯の化け物を見上げる。
「……いろいろと使い出がありそうだなあ」
 受けた仕事はしっかりこなすつもりだが、さておき彼の目当ては武具の素材となり得る敵との邂逅だ。特にクリーパーなどは遺骸が残らないケースも少なくないため博打感は否めないが、そんなことを気にしていては良い素材など見つからない。
「期待してるぜ」
 他の者のように樹上のひとを気にすることはなく。
 大柄なリザードマンはその背に焔翼を顕し、仲間たちのあとを追った。

「冒険者……」
 突如として現れた、恐らくは頼もしいのだろう友軍――その素性に、モニクは何を思うのか。

●爆発
「ッ!」
 金切り声と炸裂音がフロマーシュの耳をつんざく。
 だが、そのお陰で彼女は発生源が巨大なクリーパーの付近であることを察知した。
「トーラ様……!」
「任せてください!」
 合図を受けたトーラは手近な木の根を足掛かりに高く跳躍する。
 戦線が重なり得るのなら、一方の動きを制し、もう一方を引き離せばいい。
 ゆえにトーラは眼下の巨木(敵)と接触する刹那、その薄刃に赤光を宿して――一閃する。
 幹を削った細い傷から光糸が走り、巨木に纏わりつく頃、既にトーラは敵の背後に着地していた。
 彼女と入れ替わるように江流もまた樹上へと跳び、太めの枝に宿る。
「小さいのは五匹か――大型の左翼、十歩のところに固まっている」
 そうして速やかに敵の座標を見極め、直ちに仲間たちへ共有すると、すぐに飛び降りて、また移動を開始した。
 フロマーシュ、ライナ、そしてシルヴィアが江流の情報に基いて動こうとした矢先。
 茂みの向こうから、何か小さくて醜い群れが異臭と体液をまき散らして駆けて来る。
 あるいは兎にも似たそれらの耳は聴力に優れ、本能的に先手をとらんとしているのか。
「そんな……!」
 できることなら避けたいが、後ろにはライナとシルヴィアがいる。
 加えて明らかに群れは素早い――先行していたフロマーシュは盾を構え、更に眩いまでのエーテルを全身に纏う。
 四体が立て続けに盾と彼女自身に体当たりをし――それ自体にさほどの衝撃はなかったものの――後続の一体が叫ぶと、触れて穢れたすべての部位が一斉に爆ぜた。
「マーシュ!」
「ごほッ……だ、大丈夫です……!」
「辛いときはすぐに言って欲しい」
「はい……!」
 ライナとシルヴィアに、フロマーシュは気丈な声で応える。
 事実、見目にはひどく煤けているが、内外に大きなダメージは感じられない。
 だったら怖いことなんかない!
(みんなを守ります……!)
 フロマーシュはライナ達の元へ後退しながら、強い意志をエーテルへと替える。
 その誓いは白光となって、叫んだ一匹に真っすぐ差し込み。
 先の重点硬化もあいまって、兎擬きは残らずフロマーシュの虜となったように見えた。
「爆発はお前らの専売特許じゃない」
「ま、そういうことだな」
 これを機と見たセリオスが後方から光の矢を放ち――それは四体の化け物の只中で炸裂した。
 次いでその対となる射線からサイラスもが琴の如き弓よりエーテルの矢を放つ。
 矢は一匹に着弾するや否や、最前の炸裂に怯む四匹に無慈悲な衝撃波を見舞う。
 その頃シルヴィアは祈りを捧げ――兎擬きどもの周囲が、徐々に霧で白み始めていた。
「聖盾を使うまでもない」
 そして今度はライナが、その憤りを核に風から光を、エーテルをより集め。
 目も眩むほどの光を宿した己が身より杖を振るい、あらたかにして強大な光波を撃つ。
 「マーシュ(うちのメイド)を穢してくれた礼だ!」
 草や木の根を抉りながら四体の異形も、その奥の一体も纏めて薙ぎ払った。
 矢継ぎ早の猛攻に不潔な化け物どもはそのたびに体液をまき散らし、また悲鳴を上げて無作為に誘爆を繰り返した。結果として原形を留められないまで自らも損傷を加速させ――なのに、なお蠢いている。
「往生際が悪いよ。でも、ちょうどいい。私も虫の居所が少しね」
 やがて祈りが成就した頃、シルヴィアは微笑む。
 目の前で仲間を傷つけられた、その怒りをぶつけるべき相手が、まだ生きているから。
「――還れ」

 刹那、霧の中に稲光が迸り、荒れ狂った。

●討滅
 迅速に兎擬き討滅を討滅した冒険者たちは、ライナの聖盾を挟んでフロマーシュが惹きつけていることもあり、その後危うげなく巨木の化け物を相手取ることができていた。
 とはいえ、やはり巨躯に見合った生命力を有しているのだろう、先に小物どもへ畳みかけた以上の総攻撃を仕掛けてもなかなか怯む様子はなく、やがて誰もが疲弊し始めた頃――。

「おおっ?」
 その身にエーテルを宿し、大盾でぶつかること通算三度目。
 ついにサイラスの一撃で、胴かも幹かも分からぬ支柱に亀裂が生じ始めた。
「っとにしぶといな、しーるゔぃあの攻撃(破鎧砕)で脆くなってるだろうに」
「まったくだよ」
 シルヴィアがひびに刀を突き立て、蹴って身を退くと同時に衝撃を加える。
 バランスを崩した樹木の化け物は反撃に転じることもなく、ぐらぐらと揺れており。
「チャンスです!」
 すかさずトーラが駄目押しに破脚砕を以て斬りつけ、敵の不安定ぶりはより顕著となる。
「助かるよ、いい加減飽きてきたところだ――」
 直ちに飛び退くトーラと入れ違いで、江流が無造作に前へ飛び、ぐらつく上部目掛け逆袈裟に二度、袈裟掛けに一度を瞬く間に斬りつけた。
 そして江流の後退に応じ、樹上から光の矢が穿たれ、頭部と思しき辺りに炸裂する。
 モニクの援護射撃は江流の三連斬を後押しする結果となり、敵の幹はいかにも生木が折れるような音を響かせて、真っ二つにへし折れた。
「まだ動いてます……!」
 フロマーシュが光槌を顕現した大剣を振りかぶり、これに合わせてライナが光球を放つ。
 果たして槌に穿たれた部位には月の如き明かりが追撃となり、不格好な切り株を自身の破片と光の粒とで取り巻いた。
 その破片が宙で黒化し、やがて霧散する様を認め。
「これだけ苦労させたんだから、少しくらいは素材残しといてくれよー」
 琴弓に持ち替えたサイラスは一縷の望みを込めて、しかし手を抜くことなく矢を放つ。
 セリオスもこれに合わせて発射し、鋭利なまでの矢はつがいの鳥のように螺旋を描いて。

 巨木のなれの果てを貫通し、その身を消滅せしめた。

●勿忘草(ミオゾティス)
 フロマーシュは躊躇いがちにモニクへと歩み寄り、おずおずと布の小包を差し出す。
「その……お届け物、です」
「私に? そういえば、最初に言っていたわね」
 長い耳をひくりと下げて不思議そうにしながら。
 ともかく受け取って包みを開けた途端、モニクは少しだけ目を見開いた。
「どこでこれを」
「託されたんだ。オレリーというエルフに命を救われた人たちがいてね、恩に報いるため、彼女の遺品を君の元に届けて欲しいと」
 江流の説明――特に遺品に纏わるくだりで、またも耳を上下させる。
「なぜ、それが私だと?」
「彼女は今際の際で、モニクという名を呼んでいたそうだ。……貴女で間違いないな?」
 ライナがモニクの髪飾りを見遣り、視線と言葉で、確かめれば。
「……ええ。確かに私はモニクで、これはオレリー(あの子)の持ち物だわ」
 やっと頷いたモニクは、けれど冒険者たちにくるりと背を向けた。
「届けてくれてありがとう。加勢にも感謝しているわ。では、お引き取りを」
「生憎だが」
 謝辞と拒絶とを綯い交ぜにした一方的な物言いを、セリオスが制する。
「今回の仕事はクリーパー退治を兼ねていてな、この辺りの安全を確かめるまで戻るわけにはいかない」
「必要ないわ、そんなこと……もうなんの意味もない」
「その判断も、俺たちの仕事だ」
「では、我々は見回りがてら少し外すとしようか」
 セリオスが急ごしらえした口実を受け、ライナも他の皆を促す。
「ラ、ライナ様……!」
「そっとしておこうマーシュ。今は私たちよりも他に話したい相手がいるだろうから」
「でも……」
 仲間たちが思い思いに移動する中。
 控えめに食い下がるフロマーシュにライナは寂しそうな笑みを見せて――それから立ち尽くす同胞の、背丈はそこそこあるわりになんだかひどく小さな印象の後姿を見遣った。
「私とて同じ立場なら、きっと――」
「あッ…………そう、ですよね。すみません」
 フロマーシュは、はっとして、俯く。
 そんなメイドにライナは気にするなとばかり微笑みかけ、二人はその場を離れた。

 里の中でもひと際大きな、けれど虫食いだらけでとうの昔に枯れ果てた。
 そして今は無数の蔦や苔、茸の温床と化している、この地を象徴するかのような針葉樹。
 その太く無数にうねって籠のようになった根っこの中に遺品(髪飾り)を収め。
 モニクは長いこと瞑目していたのだが――
「何をしているの?」
 ちょうど大樹を挟んで反対側に枯れ枝を踏む足音がして、やっとその目を開く。
「祈りを捧げるくらい大目に見てくれてもいいだろう?」
 そこにいる声の主――シルヴィアは少し悪戯っぽく、けれど穏やかに応える。
「図々しいのね。でも、好きにすればいいわ」
「ではお言葉に甘えて。聞かせてくれないか? 君とオレリーのことを」
「……本当に図々しい人ね」
 果たして、モニクは語り始める。
 二人の馴れ初め、この場所での暮らしと大切な髪飾り、その後の別離に至るまでを。
 シルヴィアは、時折相槌のみ打って、あとはただ耳を傾けた。
 
 大樹の向こう側から聞こえる物語は、いつしか涙声になっていた。

●眼差し
 哀れなエルフの声を、少し離れたところでサイラスも耳にしていた。
 もっとも、だからどうということもないのだが。
 このリザードマンは他人の在り方に口を出す気はないし、もし誰かにそんな権利を与えられたとしても直ちに放棄するだろう。それは彼自身が思うままに在り、振舞うゆえの思考回路と言えた。
 だから、たとえば今後モニクがどのような選択をしようが、それは彼女の自由だ。
「そんなことより今は、と」
 サイラスは、当初の予定通りクリーパーが果てた場所を丁寧に見て回っていた。
 しかし、撃破時の様子から期待はしていなかったが、いかなる部位も、その体液も見当たらない。
「やれやれ、今回は坊主か」
 息を吐いて、ふと大樹のほうに目をやると仲間たちが集いつつある。
「それじゃ戻りましょうかね」
 サイラスは腰を上げた。

 安全確認も済んで、冒険者たちは帰りがけに今一度、モニクの顔を見に来ていた。
 無論、挨拶をするためではなく。
「貴女はこの地に留まるのか?」
「…………」
「“なんの意味もない”――そう言っていたように思うが、あれは嘘か?」
 ライナの問いに俯くだけのモニクへ、セリオスもやや挑発気味な言葉を添える。
「もちろん君の命をどう使おうと君の自由だが」
 そこに江流が前置きして、枯死した大樹を見上げた。
「俺たちが今日ここに来たのは他でもない、君の危機を報せる預言があったからだ。それも丁度、髪飾り(遺品)を預かったタイミングでね」
「……! ……それが?」
「数奇だと思わないか? まるで神が誰かの願いを聞き届けたみたいだ」
 更に江流が語る出来すぎた事実に、モニクは顔を上げる。
 その真正面にいたのは、フロマーシュとシルヴィアだ。
「ほんの少し人となりを聞いただけの私でさえ、オレリー様が何を望んでいたのかは凡そ見当がつきます。モニク様なら、なおさらではないですか……? きっと、モニク様の無事を願っていたのだと……そう思いませんか……?」
「要するに、オレリーは君のことが大切だったんだと思うよ。喧嘩別れしたあとも、変わらずに」
 ここに留まれば、また何かしらの脅威に見舞われるだろうから。
 そうでなくとも、もう誰も帰っては来ないから。
 だから、トーラがもう一歩、モニカの前に、そしてその心に歩み寄らんと進み出た。
「オレリーさんが見た外の世界がどんなものか、興味はありませんか?」
 モニクはトーラの純粋な眼差しを少しの間見つめて、素っ気なく言った。
「ずるい人たちね」
「すみません、差し出がましいとは思ったんですけど」
「そんな目をしていたわ」
「え?」
 訊き返そうとしたトーラとすれ違い、モニカは独り歩き出す。
「あの……?」
 その背中を、冒険者たちが立ち尽くして眺めていると。
「何を呆けているの? 行くわよ」
 さも当然とばかりにそう言ってから、やっと振り向いて。
「見せてくれるんでしょう、世界を」

 戸惑うトーラに、冒険者たちに、モニクは今日初めての、笑顔を見せた。

マスターコメント

 改めまして津軽無色です。  皆さんプレイングに隙がなく実力も伴っていたので、大成功となりました。  お見事です。まさか完封されてしまうとは……。  この次はもっと歯応えのある、かつ楽しいバトルがご用意できるよう精進いたします。  モニクについても、精査の結果このような判断となりました。  とりあえず皆さんについて行ったようなので、今後は街で会う機会もあるかも知れませんね。  ご参加まことにありがとうございました。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:標準7 / 6〜8人

2022年07月18日 22時30分53秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ライナ・フレイヴァルツ

    キャスター、ライナ・フレイヴァルツだ。 宜しく頼む。 依頼としては、クリーパーの討伐のようだな。 兎のようなクリーパーと、人型を象った木のようなクリーパー。 攻撃方法は不明な所も多いが兎型の方は体液が飛び散るとそれすらも攻撃方法になりそうだな。 モニクとの連携も取れるといいが、まずは依頼の人数が成立すると良いのだが…。

  2. フロマーシュ・ダイヤドロップ

    ウォーリアのフロマーシュ・ダイヤドロップと申します。皆様よろしくお願いいたしますっ! 木のようなクリーパーも素早く動く触手を沢山持っていて、攻撃範囲と合わせると かなりの脅威になりそうです… まだまだ人数が足りないのが悩ましいですが、何にせよライナ様を始め、仲間もモニク様もお守りしていきますのでっ!

  3. No.3

    サイラスだ、よろしくなー とりあえずウサギが身体に触れたり攻撃を受けるとつくであろう体液が爆発 樹木がスライムとか系の分裂かな?

  4. セリオス・オーガスト

    ・・・・ん、シューターのエリオスだ、よろしく頼む とりあえず爆発とか厄介そうだからやるなら先に小型から片づけたほうがいいか。体液に反応して爆発みたいなのがあるからうっかり踏んだり触れたりしない方がよさそうだな でかいほうは行動値は遅いほうだろうが攻撃や範囲は高そうだ

  5. トーラ

    シーフのトーラです。 あと一人なので成立して欲しいですね…! ウサギみたいなクリーパーから倒していくなら、群れを纏めて攻撃して手早く済ませたいですね。 人型のクリーパーが邪魔にならないよう、誘導して引き離してみましょうか?

  6. ライナ・フレイヴァルツ

    集まってきてくれて嬉しいよ、頼もしい限りだ。 皆よろしく頼む。 ウサギ型のクリーパーは体液が飛び散ってそれすらも攻撃になりうるのが危ういな。 小型から倒すことに異論はない。 纏まって攻撃できる段階で範囲攻撃を試みてみることにするよ。 体液からの被弾防止で少し思いついたが、 【銃眼光壁】を設置して範囲攻撃だけを当ててなんとか体液飛散を防げないだろうか…? とはいえ木の方のクリーパーも強力な攻撃を持っているようだし、 此方も野放しにはできないな。それぞれでターゲットを分散させて 安全に攻撃できればなんとか戦っていけそうか…?

  7. フロマーシュ・ダイヤドロップ

    皆様来ていただき、ありがとうございますっ! 改めまして、よろしくお願いいたしますっ! ウサギ型を纒められるよう、殺界で足止めをしたり、 木の方をシーザーロアで引き付けて、皆様をお守りしていけますので、 そうして皆様を攻防共に支援していきたいと思いますっ! どちらを優先的に狙うかは悩ましいですが、 より脅威が大きい方を優先したいところですっ。

  8. シルヴィア・A・カペル

    ギリギリの参加で申し訳ない。これで依頼成立だね。 シルヴィアだ。今回はよろしく頼むよ。 うさぎのクリーパーは体液の爆発前に金切り声を上げるんだね。口を開きそうになったら出来るだけ体液から離れたいな。銃眼光壁も心強いよ。 熊人形の方は遠距離攻撃で仕留めたいね。トーラやフロマーシュが誘導してくれるなら有難いけど、厄介な敵みたいだし無理はせずに。 >個人行動 仲間の生命管理を優先しつつ積極的に攻めるよ。 うさぎのクリーパーは動きが素早いようだし、早めに祈雷を使いたいな。 (誤字で書き直したよ。ごめんね)

  9. 海神 江流

    手伝いに来たシーフの海神江流だよ。 小型からの対処、了解。 此方の初手は人型に腱撃入れて命中低下のBSだけ仕掛けてから小型の排除に動くことにするね。 多少安全性が確保できるかなと。 あとは動き回りつつトリプルファングでダメージ取りに行きますかね。

  10. 海神 江流

    あと、人型がフリーになっちまうようならそっちの抑えを優先するようにしておくね。 範囲攻撃のあるシューター、キャスターがうさぎ型に回るなら前衛が前のめりになって各個撃破を優先しなくても良さそうだし。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0