【帝国】東へ繋がる道
真柄 葉
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シナリオID:2257
オープニング
「復旧作業を急げよ!」
陣頭指揮に立つリカルダ=アーレンスが声を張り上げた。
先日、魔獣が巣食うこの場所を奪還し、帝国軍の拠点とした迄はいいが、いかんせん荒廃がひどい。
数建つ兵舎の中、比較的無事なものを選び利用しているが、それも都合よく一か所に固まっていてくれるわけではなかった。
リカルダは駐屯地中央にある指令所の復旧を最優先に、周囲の兵舎の簡易復旧を並行して行わせる。
「将軍、やっぱり資材と人材が足りませんね。冒険者達のアドバイスで使えそうにない兵舎を解体して資材にしていますが、強度に問題があるのと、修理に当たる人手が圧倒的に足りません」
指揮を執るリカルダにそう進言してきたのは、副官であるロルフ。
本来は作戦参謀であるのだが、今は自らも汗を流し施設の復旧作業に当たっていた。
当初の計画では、この駐屯地をリカルダ率いる『帝国北部方面軍』の拠点とする予定であった。しかし、内部の事情が急変した事もあり、住民達の避難場所としての役目も負わねばならなくなったのだ。
「愚痴なら後でいくらでも聞く。今はできる所から手をつけろ」
それでもリカルダが無理を強いるには理由があった。
兵士と避難住民。この駐屯地に身を寄せる『命』を目当てに、周辺のクリーパーが活性化しているとの報告を受けているのだ。
レイウェストがヴィントから送ってくれた増援を合わせても、この地にある帝国軍の総数は1000にも満たない。
この広大な駐屯地を守るには、なんとも心許ない戦力である。
「ロルフ、避難してくる住民の数を予測し、最小限の陣地を形成しろ」
「……また、無茶言いますね。だから人手が足りないんですって」
「だからこその冒険者だろう。彼等がクリーパーの進行を止めてくれている間に、なんとしてもこの安全地帯の確保を成せ。要請は既に終えた。彼等ならば必ずや食い止めてくれるだろう」
「随分と信頼しているんですね。正直、妬けてしまいますよ?」
「なんだ、お前は私に恋慕でもしていたのか?」
「ええ、それはもう。心の底から敬愛していますので」
冗談っぽく問いかけてくるリカルダに、ロルフは肩をすくめる。
「別動隊の動きに遅れるなよ。避難民が押し寄せて来たはいいが受け入れる場所がないでは笑い話にもならんぞ」
「はっ! もう一汗流してきます!」
「ああ、よろしく頼む」
規律よく敬礼する部下を頼もしく思いながら、リカルダはエスタルの城壁へ視線を移す――。
●
リカルダの命を受けた別部隊がエスタルの東門より内部へと入った。
「……ひどい有様ね」
ほとんど光を感じる事の出来ない瞳を開き、部隊の責任者カルラが呟く。
このカルラ率いる部隊は、幽界樹との決戦を前に、避難してくる住民達の『道標』となるべく送り込まれたものだった。
「この場所の確保と整備を行うわ! みんな、早速取り掛かって!」
カルラの声に応えたのは帝国軍の工兵と冒険者達で結成された混成部隊。
隊の面々は、頼もしく「おうっ」と答えると早速割り当てられた作業に取り掛かった。
もうそれほど時を置かずして、この道を通って草人の呪縛から脱した住民達が避難してくるだろう。
今は瓦礫に塞がれたこの道だが、ここを通らなければ、リカルダ将軍が待つ安全地帯へ逃げる事も出来ない。一刻も早い復旧が必要だった。
破壊され尽くした通りを見ながら、カルラは陣頭指揮を執る――。
解説
マスターより
リプレイ
「あっちゃ、こりゃまた随分と派手にぶっちぎれてんなー」
落ちた跳ね橋を見下ろし、サイラスはうんざりとため息をつく。
つり橋を支える太い鎖が完全に切れ、跳ね橋はバランスを崩し堀へと落下していた。
「ふむ、正直これを吊り直すのは手間じゃな」
落ちた橋を覗き見る皆から少し離れ(自主的)、様子を窺うク・サーヤ・クッセーワ。
「機構を回復させるか、それとも橋だけ再利用するか決めた方がいいと思うのじゃが、皆の意見はどうじゃ?」
サーヤは少し離れた(当社比)仲間達に問いかけた。
「どちらにせよ、まずは破損状態を調べる必要があるだろう。これだけ大きな跳ね橋だ、動力部やら滑車やらを復旧するのが一番手っ取り早い。……まぁ、生きていればだが」
答えたのはベルク・オスマットだった。
卓越した建築技術を持つ彼女だからこそわかる。言葉ではそうは言ったもののあまり期待できないだろう。跳ね橋の駆動部があるのは城壁の中。しかし、その片側は随分と崩れてしまっていた。
「そうだね。でももし装置が壊れていても、『ただの吊り橋』にパターン変更する事も出来るだろうし、調べてみようよ。生きてればラッキーって感じでさ」
ベルクの意見に賛同したアルシエラ・ライゼルは、半ば崩壊している城門の城壁を指さした。
「まぁ、どっちにするか決めるのは任せるわー。どっちにせよ鎖は必要になるだろうし、俺は鎖造ってくる。正確な長さがわかったらまた知らせてくれー」
そういうとサイラスは堀へと駆け下り、ぬかるみに沈んでいた千切れた鎖を見つけた。
「おぉ……結構沈むな。降りる時は気をつけろよー」
ずぶずぶと沈んでいきながらも鎖の断片を回収したサイラスは、「よっ」っと小さく声を上げると【焔翼】で一息に堀から脱した。
●
先に街へと渡った3人は、跳ね橋の復旧を仲間達に任せ、通りや城門の修復にあたる。
「合法的に! 公共のものを! 弄れる!!」
崩壊した街を何故かキラッキラの瞳で見つめるのはキラリ=マバユイだった。
平時であれば、城門や城壁など防衛に直結する大切な場所は、軍や専門家が手を入れるべき部分だが、今は緊急時。こういう時こその冒険者だと、キラリは張り切っていた。
「とはいえ……どうしよう?」
そう意気込んだものの、城門の崩れ具合は中々ひどい。帝国軍工兵の協力を取り付けたとはいえ、復旧するには随分と時間がかかるだろう。
「城門は外部からの敵性体の侵入を防ぐという意味でも重要なものですし、出来れば直したいとは思いますが……」
同じく城門の修理を買って出たセツリも頭を悩ませていた。
「一先ず、避難民の通行だけを考えるのであれば、城門を破壊し通れるようにするのがてっとり早いとは思いますが、どうですか?」
と、セツリはキラリに問いかける。
「うん、確かに避難してくる人を一番に考えるならそれが一番だよね。やっぱり、壊して……壊して?」
「どうかしましたか?」
突然考え出したキラリに、セツリは首をひねった。
「壊して!」
すると、キラリは何を思ったのか、城壁沿いに移動。コンコンと城壁を盾の端で叩きながら、ここでもない、あそこも違うと、どんどん城門から離れていった。
「あの……キラリくん?」
突飛なキラリの行動を呆然と見つめるセツリと工兵の皆さん。しばらく、成り行きを見守っていたら――。
「ここだっ!!」
突然キラリが叫んで、手招きし始める。
セツリ達が困惑しながらも、キラリの元へ赴くと。
「ここ! ここならいけると思うんだよね!」
「いける……とは、なにがでしょうか?」
セツリが問いかけると、キラリはまるで玩具を貰った子供のように目を輝かせ、『壁』を指さした。
「ここに、こーーんくらいの穴を開ければ、わざわざ危険な城門を通らなくても、外へ脱出できると思うんだよね!」
「穴……ですか?」
「そう! ここならあんまり壊れていないし、人が通れるくらいの穴をあけても問題ないと睨んだんだ!」
まさに奇想天外なキラリのアイデアに、セツリだけでなく工兵の皆さんもびっくり。
互いの顔を見合わせて、どうなんだと同僚に意見を求めている。
「流石にそれは、無茶ではないかと思います」
と、しばらくして工兵の一人が申し訳なさそうに声を上げた。
「あ……だめ、かな」
「アイデアは面白いとは思うのですが、城壁の厚みを考えると穴をあける作業は困難だと考えます」
残念そうに問いかけてくるキラリに、工兵はこくりと頷く。
「それに、例え城壁を貫通できたとしても、抜けた先が堀では逆に危ないのでは?」
「むむ……そうかー。いいアイデアだと思ったんだけどな」
「しかし、避難路を複数個所用意するのはいいアイデアなのではないでしょうか」
しゅんとしぼんでしまったキラリに、セツリが声をかけた。
「複数個所?」
「はい、城門を通るルートは復旧するとして、何か不測の事態が起こった時に利用できる別ルートを作っておくのは悪くないアイデアだと思います」
「……なるほど」
セツリの案を受け、キラリは先ほどまでの子供っぽい仕草を潜め、真剣に考えこむ。
「穴を開けるのが無理なら……崩れている所を利用する?」
「そうですね。すでに崩れている場所であれば、多少の補強で行けますよ」
と、キラリの新たなアイデアを聞いた工兵が答えた。
「それなら、非常時用に、人が通れるくらいの隙間を作る、というのはどうかな」
「はい、いいアイデアだと思います。堀に橋を架けるのは難しいでしょうが、ロープを渡すくらいならできるでしょう」
セツリはキラリのアイデアを受け、工兵の問いかけると、彼等はしばらく思案した後、行けると頷いた。
●
かつては賑やかな暮らしがここにあったのだろう。
通りを囲む左右の建物は完全に崩壊しているが、その造りは帝国様式の立派なものだった。
過去にあっただろう風景を思いながら、ヴィルヘルミナは通りを埋め尽くす瓦礫の撤去を行っていた。
「埋め尽くす、と言われていた理由がわかりますね」
額に浮いた汗を拭いながら、ヴィルヘルミナは剣を振るう。
全ての瓦礫を撤去するのではなく、避難民の通行を最優先に考え、建築知識を持って使える石畳を選定。頭に描いたルートをなぞる様に、スキルを駆使しつつ瓦礫を吹き飛ばしていく。
「この穴は流石に無視できませんね。……しかし、よくもまぁここまでの大穴を。崩壊当初は一体どれほどのクリーパーが居たのでしょうね」
通りを分断する勢いで開いた穴を見下ろしながら、ヴィルヘルミナは溜息をついた。
「さて、どうやって埋めましょうか」
この穴を何とかしなければ、この通りを再使用する事は難しい。
迂回路を考えたりもしたが、通りの周りは崩壊した建物だらけで、とても別ルートを作るには向かない。
「仕方ありません、無限に転がっている資材を使いますか」
そう言ってヴィルヘルミナは剣を構え腰を落とした。
大穴の左右に山と積まれた瓦礫に狙いを定め、不動の構えから一閃。
衝撃波が地面を走り、瓦礫の山二つを同時に弾き飛ばす。
吹き飛んだ瓦礫は大穴へとなだれ込み、その一部を塞いだ。
「……これは、わりといいゴミ箱ですね。他のものも放り込みましょう」
再び大穴を覗き込んだヴィルヘルミナの瓦礫掃除は続く――。
●
エスタルの東にある駐屯地に戻ったサイラス。
復旧された火事場を借り、新たな鎖の製作に乗り出していた。
「んー、火力が上がらねー。やっぱ、廃材じゃ無理かー」
復旧したばかりの火事場ではサイラスの望む火力を出せていない。
ドワーフ達が使う石炭があればと思うが、ここは戦場、贅沢は言えない。
「ま、何とかするかね」
とはいえ、サイラスは悲観していなかった。
鋳つぶして作り直すのならまだしも、今はつなぎ合わせるだけで済む。
ならばいくらでもやり様があると、燃料となる廃材を路に放り込み、ふいごを吹かした。
●
「どう、こっちの部屋のは使えそう?」
「いや、これは使えんな」
アルシエラに答えたベルクが肩を落とす。
二人は城壁の中に設置された跳ね橋の駆動部分を調べていた。
駆動装置の置かれた部屋は、その体裁こそ保っていたものの、崩落した天井により肝心の駆動装置が壊れていた。
「という事は、機構の復旧は諦めるべきだね」
「いたしかたあるまい。本復旧はエスタル復旧が成った後だな。一先ず大規模な修復が必要だとリカルダ将軍へ提言しておこう」
ベルクは脳内の報告メモに提案を書き込んだ。
「そういえば。反対側はどうだ? あちらは鎖も千切れていないから使えるだろう」
「うん、動かせそうだったよ。ただ、動かしたら鎖が切れちゃうかもね」
「ふむ……確かに現時点で跳ね橋の重量を一本で支えている事になるか……これは早々に補強が必要だな」
そういうとベルクは立ち上がり、部屋を出る。
「どうするの?」
「堀から櫓なりを組んで橋を支える。引き上げはその後だな」
「ふむふむ。でも資材ないんじゃ?」
「……将軍に相談して捻出してもらうしかあるまい。橋の復旧には必要な物だ」
「うーん、それならさ。こういうのはどうだろう」
と、アルシエラが地面に何やら描き出した。
「こうやって……こう。で、ここから――――こうしたら」
アルシエラは絵を描きつつ、説明していく。それは、まるで――。
「吊り橋か」
「うん。もう跳ね上げの機構は使えないんだよね。それなら、固定したらどうかな」
アルシエラの書いた図は、橋の両端に太い杭を打ち、そこへ落ちた橋を架け直そうというものだった。
「ふむ……だが、これでは橋の引き上げには心許ないな。……ここを、こうして……こうだな」
アルシエラの書いた図をベルクが書き足していく。
「……なるほど、滑車を利用するんだ」
「うむ、鎖は切れても滑車は使えるからな。利用できるものは何でも利用せねば」
そう言って、ベルクは崩れかけの城門を見上げた。
●
「進捗はどうですか?」
城門の復旧を目指す二人の元へ、ヴィルヘルミナがやってきた。
「今方針が決まった所です。そちらは……随分と速かったですね」
答えたセツリがちらりと通りを見ると、目立った瓦礫の山は綺麗さっぱり無くなっていた。
「ええ、丁度いいゴミ捨て場があったもので、思いのほか順調に行きました」
ヴィルヘルミナの言うように、通りは機能を回復していた。
もちろん、綺麗にという訳にはいかないが、避難民が通行するには十分だろう。
「それじゃ、こっちを手伝ってもらえるのかな?」
「ええ、何かする事はありますか」
キラリに答えたヴィルヘルミナは崩れかけの城門を見上げた。
二人は城門復旧の方針を彼女に伝える。
「なるほど、では破壊してしまいましょう」
「はい、そのつもりなのですが、城門の骨材が他の場所の復旧に使えそうなので、闇雲に壊すわけにもいかないのです」
「ふむ、それではしばらく待機でしょうか」
ヴィルヘルミナは城門の奥、堀で始まった跳ね橋の復旧作業へ視線をやった。
「あ、それじゃ、もう一つの避難路の方手伝ってもらえないかな」
「もう一つ、ですか?」
城壁の随分向こうを指さしているキラリに、ヴィルヘルミナは首を傾げる。
「うん、こっちが万が一使えなくなった時用に、もう一本逃げ道を作るんだ」
「なるほど、保険という訳ですか。わかりました、では私はそちらに回りましょう」
「よろしくお願いします」
ヴィルヘルミナはセツリと工兵たちと別れ、キラリについて城壁に向かった。
●
「ちょい右……ストップなのじゃ!!」
サーヤに率いられた工兵たちが、アルシエラの案を元に杭を立てていた。
「間に滑車を挟むから、接合部には注意するのじゃ!」
工兵から、離れた場所で指示をお願いしますと必死に嘆願されたサーヤは、渋々全体が俯瞰できる位置まで下がって声を張り上げていた。
跳ね橋復旧作業の概要はこうだった。
まず、落ちた跳ね橋の両端に太い杭を打ち、滑車を設置できるようにする。
そこへ丈夫な【母蜘蛛糸のロープ】を伝わせ、落ちた跳ね橋に結び付けたら、冒険者&工兵総出で吊り上げる。
跳ね橋の位置が復元できれば、サイラスが鍛造し直した鎖で固定するのだ。
「跳ね橋の重量を軽減するために、外せる横板は全部外してしまうのじゃ! ついでに折れかけている骨材は補強しておくのじゃ!」
遠くから聞こえるサーヤの指示に従い、工兵たちは安全綱をつけ、傾いた橋に取り付いた。
そして、アルシエラと共に用意した工具で、手際よく横板を外していく――。
「よし、ベルク殿! 橋とロープの接合を頼むのじゃ!」
横板も外し終え、いよいよ跳ね橋のつり上げ作業に移る。
サーヤの合図を受け、ベルクは堀の城門側に立てられた杭の天辺にロープで補強した太い綱を結び付けると、堀を下り、落ちた橋の丁度中央部分に、それを括り付ける。
「投げるぞ! 受け取れぃ!」
そして、もう片端を対岸で待つアルシエラへ向け投げた。
ロープの端を受け取ったアルシエラは、駐屯地側に立てられた杭の天辺に取り付けた滑車にロープを通すと、サーヤの元まで駆けてくる。
「設置完了! ロープがもつかはオスマットさんが見張っててくれるって!」
「うむ! では、跳ね橋引き上げ作戦開始じゃ! 者共出会えい!!」
アルシエラからロープを受け取ったサーヤが拳を上げる。
すると、待機していた工兵40人が一斉にロープにとり付いた。
「ゆっくりじゃ! 勢い良く引きすぎると真っ二つになる可能性があるからの! では、行くのじゃ…………ひけぇぇぇぇぃ!!」
「行くよ! 行くよ! みんなっ、ごーごー!!」
サーヤとアルシエラが同時に声を上げる。
それに合わせ、工兵達も一斉に綱を引いた。
すると、堀の底にも着きそうなほど落ちていた跳ね橋がゆっくりと持ち上がっていく。
「おー、頑張ってんな」
と、そこへ修復を終えた鎖を摘んだ荷車を曳きながら、サイラスが戻ってきた。
「手伝うか?」
「いや、そちは定位置まで復旧した跳ね橋に鎖をかけて固定するのじゃ!」
「ほいほい、んじゃ、そっち行っとくわ」
綱の最後尾を支えるサーヤに言われ、サイラスはそのまま荷車を曳き跳ね橋へ。
落ちていた跳ね橋は順調に上昇しており、もうすぐで水平位置まで復帰する。
サイラスは荷車から鎖を引き出し、その端を――――。
「うわっ!? ちょ、危ないでしょっ!?」
アルシエラの足元に杭で打ち付けた。
「わりぃわりぃ、この位置がベストだったからよー」
「んもぉ! そういう事は先に言ってよねっ!」
綱を維持しつつも憤慨するアルシエラ。一方のサイラスは悪びれた様子もなく、鎖を引きずり杭の前で待機する。
「よし、このまま一気に引き上げるのじゃ!」
サイラスが位置についたことを確認したサーヤが最後の一声を上げた。
綱を引く者達が最後だと力を振り絞り――――ついに、跳ね橋が水平位置へと復帰した。
●
「ここがいいと思ったんだけどどうかな」
キラリとヴィルヘルミナの二人は、非常路の確保に乗り出していた。
場所は城門から少し南にいった場所。城壁が大きく崩れている地点だった。
「そうですね、もう少し崩した方が通りやすいと思いますが、いいんじゃないでしょうか」
「やったっ!」
土木に聡いヴィルヘルミナのお墨付きをもらい、キラリはガッツポーズ。
そんなキラリを微笑ましく見つめながら、ヴィルヘルミナは地面に具体的な改修行程を記していく。
「……まず、大雑把に崩しましょう。中途半端にすると通行中に雪崩れてくる、なんてことにもなりかねません」
崩れた城壁と地面の図を見比べながら、ヴィルヘルミナは仔細を詰めていく。
「あ、一つ提案があるんだけどいいかな」
「はい、何か気になる所がありましたか?」
「ううん、そうじゃなくて、ちょっとしたギミックを仕込みたいと思って」
「ギミック?」
そういうと、キラリがヴィルヘルミナの書いた図に注釈を足した。
「……こんなのなんだけど、どうかな? 本当は城門の方でやりたかったんだけど、あっちは崩すって決まっちゃったしね」
「ふむ……これは『落石罠』ですか」
キラリの書いた図と崩れかけの城壁を見比べながらヴィルヘルミナは考える。
「ううん、これは『自業自得システム』だよ」
「じごうじとくしすてむ? なんですかそれは」
「読んで字の如く。この城壁を崩したのはクリーパーでしょ。だから、もしクリーパーがここを通ることがあった時に、瓦礫を崩せるようにしておくの。自分達で崩した城壁を通るのに、自分達が崩した瓦礫でぺちゃんこ! ほら、自業自得でしょ」
「な、なるほど……まあ、いいんじゃないでしょうか」
妙に力説するキラリに頷いたヴィルヘルミナ。
「では作業にかかりましょうか。一先ず補強しつつ崩して、後で工兵の手も借りて仕上げましょう」
そう言ったヴィルヘルミナに、キラリはこくりと頷いた。
●
「カルラくん、確認してもらえますか」
崩れかけの城門へと登ったセツリが、下で耳を澄ますカルラに声をかける。
「いつでもいいわよ、セツリ」
下からの承認を得て、セツリは城門の一部をコツコツと叩いた。
「……もう少し右ね」
カルラの声にこくりと頷いたセツリは、体を入れ替え別の場所を叩く。
「……いいわ、そこにして頂戴」
ほんのわずかな音の違いを聞き分けたカルラがゴーサインを出した。
「わかりました、では――」
セツリがその体躯に似合わない大槌を構えると、カルラが指示した箇所に思い切り打ちつけた。
――ガラガラガラガラっ!
盛大に崩れる城壁と共に、辺り一帯を覆い隠す程の土埃が上がった。
「ごほごほごほ……」
しばらくして土煙が晴れると――――命綱に吊られたセツリがぷらーんとぶら下がっている。
「セツリ、大丈夫?」
「はい、何とか……こういう事が起こるのなら先に言っておいてほしかったですが」
「あら、ごめんなさいね。私、目が見えないもので」
そう言って悪びれる様子もなくぺろりと舌を出すカルラに、セツリはうんざりとため息をついた。
「もういいので、下ろしていただけますか?」
「はいはい、ちょっと待っていて。それじゃ、工兵の皆さん、お願いね」
カルラの合図で、セツリをさせていたロープが下ろされた。
●
「鎖はこんなもんかね。両端をもうちょっと補強しときたいとこだが」
無事にかけ直された跳ね橋を眺め、サイラスが呟いた。
橋は両端の杭を支柱とし『M』字型に鎖で吊るされている。
「補強というのなら、反対側もやるべきじゃろうな。一旦落としてしまうか?」
「うーん。落とすとなると、城壁のバランスも考えないとだしな。新しく支えた方で重さも分散されてるし、とりま、補強だけ入れとくのがいいんじゃね」
サーヤに答えたサイラスは、先ほどセツリが崩した城門を見上げた。
巨大な門を擁していた城門の上部は綺麗さっぱり解体されていた。
今、工兵達が瓦礫の撤去を進めている所だ。
「バランスはいいとしても、支柱の補強はした方がいいだろう。思いのほか跳ね橋と鎖が重い」
と、ベルクが改めて提案する。
「あー、そうだな。城門崩した後の資材使わせてもらうかー」
「うむ、いくつか拝借してこよう」
こうして、三人は跳ね橋を支える支柱や鎖の補強に乗り出す。
そして、跳ね橋本体でも――。
「城門の扉の木材が使えるから、ダメそうな床板は交換してね!」
アルシエラの指示の元、復旧作業が進んでいた。
外されていた横板が再び打ち付けられ、傷んだものは城門の扉を解体した資材で賄われる。
多少不格好なのは仕方がないが、人が渡るには十分だろう。
こうして、橋の復旧は進められていく――。
「橋もいいようじゃの。どれ、試しに渡ってみるか」
復旧作業は進み、外された横板の設置が終わった。
支柱の補強や、鎖の張り直し作業も十分な強度が確認された。
サーヤはまずは自分がと、堂々と橋の真ん中を歩き、対岸へと渡って見せる。
「次は重量チェックじゃ。誰ぞ、わらわと一緒に渡らぬか」
と、休憩していた工兵達に声をかけるサーヤ。
互いに顔を見合わせる工兵達。いやいやと首を振る工兵達。じりじりと後退する工兵達。
「ええぃ! 纏めて来い! 強度試験までが任務じゃろうが!!」
そんな工兵達を、サーヤは猛ダッシュで追いかけた。
●
「崩れちまったから旗を立ててもあんま目立たねーか」
崩れた城門を見上げサイラスが呟いた。
「やっぱ狼煙か?」
「あまり遠くから目立つのもクリーパーに見つかる可能性がありますよ」
「あー、それもそうか。どうすっかね」
ヴィルヘルミナの指摘に頷いたサイラスが顎を撫でる。
「街の住民であれば東門の場所はわかっているでしょうし、安全かどうかだけ伝えればいいんじゃないでしょうか」
「ふむー。どうやって伝えるんだ?」
「これです」
そう言ってヴィルヘルミナが取り出したのは閃光塗弾だった。
「これで、『逃げ道』と大きく字を書けばわかると思います」
「ふむふむ。まぁ、夜も光って見えるし、それがいいかもな」
二日しか持ちませんがと添えたヴィルヘルミナに、サイラスは頷いた。
こうして住民達の退路は着々と整えられていった――。
●
「何とか間に合ったかしらね」
作業責任者であるカルラが呟く。
「ええ、これなら問題なく避難できるでしょう」
その隣にはセツリが居た。
「本格的な復旧はエスタル奪還が成ってからじゃな」
大きく口を開けた城門からも見える巨大な異形を見やり、ベルクが決意を新たにする。
「復旧と言えば、街中も大変じゃな。南部以外はほとんどの建物が破壊されているみたいではないか」
「まー、その辺は帝国の奴らがやるだろ」
と、サーヤの言葉に頷いたサイラスが、工兵達をちらりと見た。
「あれ、そういえばマバユイさんは?」
「最後の仕上げをしているはず……どうやら終わったようですね」
最後の仕上げ? と首をかしげるアルシエラに、ヴィルヘルミナは城門を指さした。
「お待たせっ。避難路も完成だよ」
崩れた城門からキラリが駆けてくる。
これで依頼された全ての作業が完了した。後はあの異形との決戦を待つばかりである――。
マスターコメント
ミドルシナリオ普通 報酬:標準7 / 6〜8人
2022年06月16日 19時19分21秒 公開
相談掲示板
ヒーラーのセツリです、よろしくお願いします。 さて、作業が多いので手間が省けるところは省いてしまいたいところでもありますが……目印の事を考えると城門も破壊よりは修復、あるいは形を残したいところでしょうか。
シューターのキラリだよ、よろしくね。 初依頼の参加だけど……いきなりにしてはちょっと責任重大そうかな? でも、戦闘が無さそうなだけいいか。 やるべきことは4つだね。 ・道の整備 ・城門の修復 ・堀の橋の対処 ・住民を誘導するための目印 目印に関しては、他の箇所の修復やら整備やらと一緒にやってしまえば、一石二鳥な気がするけど、どうかな?
シーフのベルクだ。よろしく頼む。 片側だけ落ちた橋とか、どうやって引き上げればいいのだろうか? とりあえず避難民の誘導に回るかね? もちろん他に人手が必要ならそちらに回るが。
No.4
サイラスだ、よろしくなー 重量次第だが、堀に長板とかで仮橋作って、そこから持ち上げるとか、切れた鎖を新しいのに繋げ直して支えつつ戻すとか?跳ね橋は あとは城門を完全に破壊するか否かとかかね相談事は とりあえず目印としては城門修繕に回るなら旗と夜は松明とか灯りがいい気がする
>目印 城門作業と合わせて何かできれば、といったところですね(こく) 城門を修復するにせよ一部は壊さないといけないと思うので、それを資材として利用するとか? 物としては出ている旗か灯りというのも良いと思います。狼煙……なんかもあり、かも? >橋 堀はぬかるんでいるということで直接降りて作業は大変そうですしね。 仮橋が難しそうなら、ロープ等で上から降りつつ作業とか……
つり橋というならやりようはあるじゃろうな。 まず踏み板を全部は外して吊ロープだけにする。 これでかなりの重量が減るじゃロウ。 そしてロープだけをかけなおして後は端から順繰りに板を入れていくだけで治せるのではないとか思うがどうか? 城門は邪魔なら壊してしまうべきじゃな。 住民が通過して後で治せばよかろう。
ヴィルヘルミナです。今回はよろしくお願いしますね。 作業内容的に土木・建築のスキルが役立ちそうなのでセットしていきますか。 >橋 橋の長さと重さ次第では鎖はロープで代用可能かもしれませんね。 城の跳ね橋だと城側から開閉するタイプだと思いますが、半分落ちているとなると橋が傾いているイメージでしょうか。 >城門 いつ崩れてもおかしくないという事なので修繕は難しそうですね。 根元の基礎の部分は無事なら残していいとは思いますが。崩落が怖いので壊すとしても上の部分でしょうし。 >目印 閃光塗弾の塗料もついでに塗っておきますか?暗くなれば視認しやすそうですし。 二日しかもちませんが恐らく十分かと。
工兵50人のマンパワーも借りられるみたいだし、何とかなりそうかな? もし修復難しいと判断して壊してもいいのなら、城門の対処は僕がやってみてもいいかな? と言っても、どうするかまだ決まってないし、アイデアもないんだけど……。 場合によってはちょっと工兵さんを何人かお借りするかも。
あ、一応聞いておこう。活かせるかどうかわかんないけど。 「Q:城門ってどういうタイプのものですか?観音開きなのか、落とし格子なのか、それとも戸襖なのか」 問題なければ回答お願いします。
と、出発は明日で、僕はこれが最後の顔出しになるかな。 とりあえず、僕は城門をなるべく残すようにするね。 具体的には、避難民は扉があった場所を通らず、全然壊れていない箇所に穴を開けて小門みたいにしようかなーって思ってる。 勿論、出来るかどうか工兵さんに聞いてからやるけど。 出来なさそうなら……安全優先で壊すかな。 ただアルシエラさんの予想も全然あるから、現場行ってからの判断と相談も兼ねるって形かな。 あと城門の方にヴィルヘルミナさんの言うように閃光塗弾の中身をぶちまけて目印にしておくね。
ギリギリ参加のアルシエラだよ、よろしく。 ギリギリだから予想含めて書くね。 城門の跳ね橋って、そのまま上がると城の入り口が橋で塞がるものかもって予想だよ。 だから城門を壊したらそのまま城門の上から伸びてる鎖も落ちて溝に全部橋が落ちちゃうかも。 まずは橋の外側の両側に杭を一つずつ撃って、そこを橋を引き上げながら鎖(切れた長さ次第では代用品)で固定するとかどうだろ。普通の吊り橋にする感じ。 城と向こう側を行き来する方法は思いついてないよ。誰か向こう側に一人渡れれば向こう側に下に降りた人をロープで引っ張り上げられるけど。 バランス感覚があればそのまま危ない橋渡れそう。
実戦で確かめるプレイングにして行動を分岐させる、かしこい…。 私は書いた様な路線を注意してやってみるね。
ギリギリですみません! Q:城門ってどういうタイプのものですか?観音開きなのか、落とし格子なのか、それとも戸襖なのか A:観音開きです! ご回答遅くなって申し訳ありませんでした!(平伏
お答えありがとうございました!