お代はあなたの故郷の話
鍵島
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シナリオID:2177
オープニング
とある晴れた日。
都市同盟、リブラネスタ。おやつの時間を過ぎた、冒険者街のとある飲食店の店先で。
春の到来によって出回りだした果物を、ジュースへ加工し売っている小さな屋台があった。
日替わりで売り出すジュースが変わるのだが、いずれも絶品とはここだけの噂。
花で飾られた屋台の看板には、何とも個性的な文字でこう書かれてある。
リリィベルとライネスのジュースバー! お代はあなたの故郷の話。と。
なんとも不可思議な屋台だろうか。
加えて看板の横には、猫とも狐とも取れない謎の絵が描かれていたりするのだ。
行き交う冒険者の多くは、首を傾げて通り過ぎて行く者が過半数を占める。
けれども時々、面白そうだとにんまり笑って、話しかけに行く冒険者もいるという。
彼らは数分程度立ち話をした後、木造りのカップいっぱいに果物ジュースを注いで貰える。
なんだかとても美味しそうだ。
さて。
あなたも、美味しそうにジュースを飲んだ冒険者が、ご馳走様と声を上げて屋台を後にする姿を目撃した事だろう。
ならば自分もと話し掛けに行くだろうか?
それとも、訝し気に見つめている?
あるいは、何のジュースかだけ気になっている?
はたまた。故郷の話? なんだそれはと、呆れていたりするだろうか。
何れにせよ。
早めに通りすがらないと、屋台を営む店主たちに捕まってしまうのは火を見るよりも明らかで。
「あれ~? お客さん、もしかして、ジュース飲むか悩んでます?」
屋台で木造りのカップを拭いていた若い女性が声を掛けてきた。
ハーフビーストらしいその女性は、黒い髪と揃いの黒い猫耳をぴくぴくと動かしていた。
「まぁ、まぁね。怪しむ気持ちは痛いほどわかる。俺だったら飲まねぇからな」
樽を担いでやってきた若い男性が、屋台の隣にどっかりと置きながら笑っている。
同じくハーフビーストらしい男性の頭部には、髪と揃いの茶色い狐耳が空に伸びている。
「でもでも。結構リピーターさん多いんですよ~! 超美味しいって! ひょうばん!」
「そらそうよ。店で余っ……じゃなくって。熟成済の果物でジュース作ってんだから」
どうやら彼らは、看板にある名のリリィベルとライネスのようだ。
こほん。二人が全く同じタイミングで咳払いをする。仕切り直しとでも、暗に告げるかの如く。
どうぞと手で示せば、彼らは意気揚々としてこう喋りだすだろう。
「リリィベルとライネスのジュースバーへようこそ~!」
「お代はあなたの故郷の話。そんな難しい話じゃあないぜ?」
「此処でずっと商売をしていると、何処かへ足を延ばせる機会なんてないじゃない?」
「だから。色んな場所から集まって来てる冒険者サン達の故郷の話、聞かせてくれよ」
「あなたの国はどんなところ? あなたの故郷は? あなたの生まれたその場所は?」
「故郷で食べた美味しい料理、飲んだ酒、もしくは思い出の中の母の味とか」
一挙に捲し立てられる。さながら流れる水のよう。
口を挟む余裕も無かったのが、呆気にとられるあなたをみて、二人はにっと笑った。
「ま。難しく考えんでさ。故郷を思い出しながら、俺たちに故郷の話をしてくれませんか、ってこと」
「そうそう~! 故郷にはこんな言い伝えが~から、故郷の空はきれいだった~! とかでもいいのよ!」
「押し売りはしませんぜ。興味があったら、ジュースが飲みたかったら。お気軽に」
「でも私はお話した~い! 今ならなんと、あなたの好きな果物のジュースがでてくる! ……といいなぁ!」
はて。なんとも賑やかな屋台であると、あなたはその瞳をしばたたかせる。
話に乗るか乗らないか。ジュースを貰うか、先を急ぐか。
それは不運にも捕まってしまった、冒険者であるあなた次第だ。
都市同盟、リブラネスタ。おやつの時間を過ぎた、冒険者街のとある飲食店の店先で。
春の到来によって出回りだした果物を、ジュースへ加工し売っている小さな屋台があった。
日替わりで売り出すジュースが変わるのだが、いずれも絶品とはここだけの噂。
花で飾られた屋台の看板には、何とも個性的な文字でこう書かれてある。
リリィベルとライネスのジュースバー! お代はあなたの故郷の話。と。
なんとも不可思議な屋台だろうか。
加えて看板の横には、猫とも狐とも取れない謎の絵が描かれていたりするのだ。
行き交う冒険者の多くは、首を傾げて通り過ぎて行く者が過半数を占める。
けれども時々、面白そうだとにんまり笑って、話しかけに行く冒険者もいるという。
彼らは数分程度立ち話をした後、木造りのカップいっぱいに果物ジュースを注いで貰える。
なんだかとても美味しそうだ。
さて。
あなたも、美味しそうにジュースを飲んだ冒険者が、ご馳走様と声を上げて屋台を後にする姿を目撃した事だろう。
ならば自分もと話し掛けに行くだろうか?
それとも、訝し気に見つめている?
あるいは、何のジュースかだけ気になっている?
はたまた。故郷の話? なんだそれはと、呆れていたりするだろうか。
何れにせよ。
早めに通りすがらないと、屋台を営む店主たちに捕まってしまうのは火を見るよりも明らかで。
「あれ~? お客さん、もしかして、ジュース飲むか悩んでます?」
屋台で木造りのカップを拭いていた若い女性が声を掛けてきた。
ハーフビーストらしいその女性は、黒い髪と揃いの黒い猫耳をぴくぴくと動かしていた。
「まぁ、まぁね。怪しむ気持ちは痛いほどわかる。俺だったら飲まねぇからな」
樽を担いでやってきた若い男性が、屋台の隣にどっかりと置きながら笑っている。
同じくハーフビーストらしい男性の頭部には、髪と揃いの茶色い狐耳が空に伸びている。
「でもでも。結構リピーターさん多いんですよ~! 超美味しいって! ひょうばん!」
「そらそうよ。店で余っ……じゃなくって。熟成済の果物でジュース作ってんだから」
どうやら彼らは、看板にある名のリリィベルとライネスのようだ。
こほん。二人が全く同じタイミングで咳払いをする。仕切り直しとでも、暗に告げるかの如く。
どうぞと手で示せば、彼らは意気揚々としてこう喋りだすだろう。
「リリィベルとライネスのジュースバーへようこそ~!」
「お代はあなたの故郷の話。そんな難しい話じゃあないぜ?」
「此処でずっと商売をしていると、何処かへ足を延ばせる機会なんてないじゃない?」
「だから。色んな場所から集まって来てる冒険者サン達の故郷の話、聞かせてくれよ」
「あなたの国はどんなところ? あなたの故郷は? あなたの生まれたその場所は?」
「故郷で食べた美味しい料理、飲んだ酒、もしくは思い出の中の母の味とか」
一挙に捲し立てられる。さながら流れる水のよう。
口を挟む余裕も無かったのが、呆気にとられるあなたをみて、二人はにっと笑った。
「ま。難しく考えんでさ。故郷を思い出しながら、俺たちに故郷の話をしてくれませんか、ってこと」
「そうそう~! 故郷にはこんな言い伝えが~から、故郷の空はきれいだった~! とかでもいいのよ!」
「押し売りはしませんぜ。興味があったら、ジュースが飲みたかったら。お気軽に」
「でも私はお話した~い! 今ならなんと、あなたの好きな果物のジュースがでてくる! ……といいなぁ!」
はて。なんとも賑やかな屋台であると、あなたはその瞳をしばたたかせる。
話に乗るか乗らないか。ジュースを貰うか、先を急ぐか。
それは不運にも捕まってしまった、冒険者であるあなた次第だ。
解説
ロスガリア大陸には様々な国があり、場所があります。
ひとの数だけ故郷があり、懐かしい景色や思い出があるはず。
ぜひともあなたの故郷のお話を、二人にお聞かせくださいませ。
故郷で見た空、見た景色。家族のお話、誰かとの思い出。故郷の自慢話でも。
ちょこっと一息吐いて、故郷の記憶に思いを馳せていただけたら。
以下の二名のうち、どちらかがお話を聞かせていただきます。
ご指名/お任せできます。また、どちらもあなたに質問を投げるかもしれません。
質問内容に全て答えていただく必要はございませんが、答えられそうでしたらぜひ。
・リリィベル
黒猫のハーフビースト。17歳。人懐っこく、間延びした口調で話す。
ジュースの味付けは彼女の担当。評判通り美味しい。
質問:故郷の景色は美しい? 故郷の童話ってある? 好きな人っている?
・ライネス
茶狐のハーフビースト。20歳。意外に饒舌。ちょっと砕けた口調で話す。
果物の選別と運搬は彼の担当。実は看板の絵も担当。
質問:故郷の有名な飯は? 故郷の酒は? 最近依頼で行った場所は?
ジュースは日替わりですが、好きな果物を書くと、ひっそり準備されていたりします。
通りすがりの冒険者の皆さんが、美味しく楽しく過ごせますように。
マスターより
報酬は美味しい果実ジュースでございます。
初めまして、鍵島と申します。
変わった屋台を営む二人組に、故郷の思い出話のご披露をお願いします。
冒険者の皆さんが通りすがってくださる事を、心よりお待ちしております。
リプレイ
●故郷を分かつ
晴れ渡る穏やかな空から、午後の陽が冒険者街へ射す昼下がり。
ひと仕事終えたイズル・M・ヴォルゴールとペルゼィックが、ある飲食店の前に出された看板を見遣っていた。
「読めねぇ看板掲げて何屋だ、ここ」
「ジークも喉乾いた?」
訝し気な顔をしたペルゼィックが、開口一番それと呟く。歯に衣着せぬ物言いだ。
奇特にも看板の文字を読めたらしいイズルが、彼に尋ねていると。
「いらっしゃいませ~!」
屋台の影から店主が顔を出す。
二人は本日初めてのお客。開店準備もそこそこに、店主は彼らを歓迎する。
「こちらの屋台はですね~」
そうして流れるように、屋台のジュースとお代の説明を告げる。
如何ですか? 笑顔で語る店主を前に、二人は視線だけを交わしていた。
「お勧めはどれですか?」
「今だったらメロンが美味しいですよ」
「そろそろだからな。代金が話ってのが怪しい代物が、客に出すのも大概だと思うぜ?」
「えへへ。趣味でやっている屋台ですが味は保証しますよ~」
気を悪くした様子も無く、店主は笑顔のまま。どうです? 彼らに安閑と言葉を並べる。
「コイツはよく喋るから、俺のジュース代はコイツから徴収しろ」
ペルゼィックが間髪入れず代金をイズルへと集った。とても判断が早い。
「は~い! お二人様承りました!」
「えぇ……」
「テメェのよく喋る口、存分に役立てろカス」
有無を言わさぬペルゼィックの声に、イズルは心底困ったように眉宇を寄せる。
「準備もありますので、お代は先払いで頂戴しま~す!」
屋台の隣に備えられた簡素なベンチに腰を掛けると、早速店主はイズルとペルゼィックに故郷の話を強請った。
さて。何を話したものだろう。
流れる雲を見上げたイズルが、まず先に口を開いた。
「俺とジークは辺境の出身なんだ。と言っても、俺の故郷はとにかく古い街で。ジークは……」
「辺境の遺跡都市のどっかだぜ。普通の街だ」
「俺の街は林檎の果樹園が沢山あって、それでシードルも作ってる。酒造も多い。俺の知らない昔から何代も続いてるよ」
「いいですねぇ、たくさんの果樹園! あなたの故郷は、どんな景色です?」
羨ましそうにしていた店主が話の水をペルゼィックへ向ける。
「普通だ」
あまりにも短い三音。
「ジーク。家族の話とかどうだろう?」
きょとんとする店主をよそに、切り上げようとするペルゼィックに代わりイズルが話題の提案を行う。
口を重たくしていたペルゼィックは、悪態もそこそこに、店主とイズルへ一睨を向けた。
「親父殿はそこで鍛治してる。お袋は帝国で名の通った鍛冶師だったらしいぜ。知らねぇけどよ」
ふっと視線を逸らすと、先ほどイズルがそうしていたよう。
真上を揺蕩う青空の白い雲を、ペルゼィックは赤い眼に映す。
「あなたも鍛冶師なんですか?」
何気ない店主の声に、眇めた赤色が雲から誰とも知れない行き交う人の背へと向く。
「鍛冶師じゃないぜ。ガラス作ってる。鍛冶が合わなかった、そんだけ」
「そうですか……」
少しだけ、店主が鳴りを潜めた。どうも次の言葉を迷っているようだ。
そんな彼女に助け船、ではないが。イズルがやんわりと口角を上げる。
「俺は代替わりしてもジークの父上のお世話になりたいと思うよ。……思い出話、というか。ジークの父上は、俺の父上と商業として一族として懇意にしてて。俺の遊び相手にって、ジークの父上が一緒に連れてきたのが。ジークと最初の出会いで」
思い馳せるのは故郷の地でのこと。
幼き日を思い出すイズルの脳裏には、鮮明にあの日の光景が浮かんでくる。
「歳も近かったから、それじゃあ挨拶にって近づいたら、ジークに頭突きをされたんだ」
懐かしい思い出話の頭にバイオレンスという語句がひっついた。
何やらペルゼィックがその横で、先手必勝だ、と何やら得意げにしている。とても自慢げである。
「ヘラヘラ笑って近づいてくるからな、つい」
ついで頭突きをする冒険心。
「頭打ったら星が出る。お話にある比喩じゃないってわかったんだ」
それを笑顔で話せる精神力。
「親父殿とお袋にボコボコにされたわ。最悪だったぜ」
それはそうなるものでは?
ぱちぱちと瞬きをして、彼らという存在に関心を抱いた店主が、一寸の間を置いた後。
「仲良いですね~!」
たくさんの疑問をよそに、楽しそうににっこり笑った。
店主がごそごそと屋台裏に引っ込み、木造りのカップへ綺麗な黄緑のメロンジュースを注いで二人へ手渡した。
爽やかな香りがふわりと鼻をくすぐる。ペルゼィックが何も言わず口をつけている様子から、確かな品質の物らしい。
「そうだ。俺の故郷にはこんな童話があるんだけど」
「また例の話か」
「教えてくださ~い!」
「うちの領地には心霊の世界の入口って言われる地下水脈があって……」
メロンジュースを話の共に、彼らは充分過ぎる代金を置いてくれたのだった。
●彼が想う
屋台の看板を眺めて、半笑いを浮かべる人間はあまり多くない。
ヴィナスには生まれ育った地への思い入れが無いだけに、斯様な表情を浮かべてしまったのだ。
「そこの人、どうです?」
店主がそんな物珍しい彼を見て手招いた。ヴィナスはもう一人の店主が他の客と楽しそうに話す姿を見る。
故郷についてキラキラしている。初対面だし、無難に話そう。
肩を竦めて店主の誘いに応じると、ヴィナスは旬のサクランボジュースをオーダーした。
「俺は同盟に生まれ育ったけど。家族と思える大事に思う存在、彼らがいる場所が故郷って感覚だから、この土地を故郷とは思わないかな」
「大事な存在ですか?」
「そう。容姿はイケメン、優しく聡明で、可愛いのに頼もしい俺の完璧な弟と二人で大事に思う存在が家族なんだ」
弟観は彼なりの主観が入っている。とは店主にも容易に察せられた。同時に、両親を家族と称さずいる事はそれなりの訳があるのだろう。
雲間に陽が隠れ、冒険者街を春の冷えた風が吹いて、ヴィナスの髪先を弄ぶ。
「景色を綺麗だと思う心、ご飯やお酒を美味しいと思うのも。彼らがいてこそだから」
「なるほどね。好きな食べ物はどうです?」
「同盟の生まれだから。好きな食べ物もシェファーズパイやアップルパイ、飲むのはワイン。目新しい話はできないかな」
冒険者街ではありふれた食べ物。
様々な場所からやってくる冒険者達の故郷の話に比べれば、彼が告げる物は普遍的だ。
「大事な人がいるその地を故郷と呼べる人。今までの冒険者サン達にはいなかったですよ。だから、あなたの話は新鮮です」
店主が薄淡い赤のジュースを木造りのカップに注ぎ入れる。
微かな甘酸っぱい匂い。口当たりも爽やかで、後味も良いはずだ。
「そう言ってもらえると。色々あって家族に近況を連絡できない時期もあったけど。弟のお陰でそれも伝えられたからほっとしてるんだ」
空を映すジュースの水面に粗濾しにされたサクランボの実が落ちる。
「シャルガネに行った時や、友人の領の芸術祭に足を運んだ時は、お土産も送ってるよ」
もう一人の店主と盛り上がりを見せる冒険者の姿を横目に、ヴィナスは穏やかそうに口角を緩めた。
「お代はもういいかな? たくさん話すと夜空の詩人が焼きもちを妬くから」
「おつりが多すぎて返せないほどで。どうぞ」
完熟のサクランボが入ったジュースは、甘さを増してヴィナスの喉を潤してくれた。
●王国の二つの故郷
私の故郷はリーンエス王国、カペル侯爵領。
現カペル侯爵の母であるイザベラ・カペルは、孫娘から土産に贈られたシャルガネの白米酒に興味を持った。
昨夏、領内でも指折りの農耕の街、クランペラーにおいて開かれた向日葵祭では、白米酒を用いた菓子コンテストが開催された。
向日葵を肴に飲む冷酒は口を極める程美味しくて。それを機に白米酒は領内へ広く知れ渡っていったんだ。
だけど、領の名産はあくまでもワインなんだ。
白米酒の評判と等しく、ワインの魅力も宣伝しなければならない。伝統ある物だからね。
そこでお祖母様は両者を大いに盛り上げるべく、対決という体をとって秋祭りに取り入れる事とした。
もちろん、ワイン醸造所と白米酒商人の対立や競争をさせる事じゃなくて。
お互いに酒類として商品価値を相互に認め、理解を深めさせる事が一番の狙いだったよ。
秋。街路樹や近郊の山々。数多くの鮮やかなカエデが見られる事で知られる町、シャラエスタでは、毎年収穫祭としてカエデ祭りが開催されるんだけど。
昨年は、前述した白米酒vsワインのテーマを加え、大盛況を収めたんだ。
ほぼ無料で飲めたうえ、商品宣伝合戦も面白かったな。
「と。こんな風に。領民はとてもお祭り好きなんだよ」
「すごくたのしそう~!!!」
キラキラと顔を輝かせたリリィベルは、シルヴィア・A・カペルの話に食い入っていた。
領をあげての盛大な祭事、お酒の対決。ちっぽけなジュースバーを営む店先とはスケールが違う。
「無料で酒を振る舞うとあれば。さぞ多くの人が訪れたのだろうな」
冒険者達がジュースを飲む光景を何かと眺めていたらば、無事に捕まった内の一人であるだわ。得心がいったように頷いている。
「そうだね。それに、花も芸術も新しい趣向も大好きだよ。最近は領都にある劇場と人気の白米酒をタイアップさせようという話もあって……様々な形で料理やお酒を出すつもりだから、もし良かったら訪れてみて」
だわが茶菓子として、良ければと持ち込んでくれたクッキーをひとつ。いただきますと言葉を添えて、シルヴィアが口に運ぶ。
先んじていただいたラズベリージュースの酸味を引き立てるような、素朴な味が心穏やかな気持ちにさせてくれる。
「あなたは何をご所望で?」
「……林檎ジュースを」
「はい。承りました」
シルヴィアの話に夢中となっているリリィベルに代わり、ライネスがだわから注文を貰う。
食感のアクセントにすりおろしにした林檎をカップの底に入れ、丁寧に濾した林檎ジュースを注ぎ込むと。
ふんわりと渦を巻いて、すりおろしの実がカップの中を泳ぐ。同じく木造りのティースプーンが添えられて、だわの手に渡された。
「どうぞ。あなたの故郷の話、聞いても?」
「……俺の故郷はリーンエス王国の中でも、辺境にある。ルクサリア領という、王国の中では端の方の土地だ。名産は……大陸全土で見ての名産地、という程ではないが。林檎だろうか」
ティースプーンでくるりとかき混ぜ、そっと持ち上げてみれば。すりおろされた林檎の果実がジュースの中でゆらりと揺蕩う。
「王国の肥沃な大地の例に漏れず。農業が盛んで、果樹もよく育てられている。シルヴィアの故郷のような盛大さには引けを取るが」
そっと口をつけてみると、芳醇な林檎の香りと味わいが舌を満たしてくれる。美味いな、と。だわは独り言ちる。
「そしたら、自然の恵みもあるんでしょうね」
「野菜や果物、山菜も豊富だ。豊かな森からは獣も獲れる。肉を山菜と共に煮込んだ料理は、今でも野営でよく作るな。……酒は、俺はあまり好まないので分からないんだが。素材は豊富だろう、酒の種類も多くあるのかと」
酒に富んだ故郷の話をしてくれたシルヴィアと、豊かな恵みを享受する故郷を教えてくれるだわ。
リーンエス王国は広いものだ。店主達は興味深そうに話を聞き及んでいた。リリィベルが紙片を片手に、シルヴィアへ白米酒の詳細を強請る頃合い。
「観光地とかではなかったんです?」
ライネスの何気ない質問に、だわが緩慢に目を伏せる。
「……観光名所にはならずとも、美しく穏やかな場所だった」
一時でも忘れた事のない。穏やかで暖かな陽に照らされた故郷の村がまぶたに浮かぶ。
幼い日々にアップルパイを作ってくれた母。優しく迎えてくれたあの頃から、林檎は彼の好きな果物だ。
「……いや。今でも美しい領だ。贔屓目もあるだろうが。国外まで旅したこの目で見ても、ルクサリア領は長閑で落ち着く景観のよい地だと思う。今日のような晴れた日は、本当に」
澄み渡る青空に、真白に流れる雲。
故郷の空を重ねただわが冒険者街の空を見上げると、ライネスも空を仰ぐ。
「なら。あなたの故郷が、いつまでも美しくあるように」
失った故郷の村は、それでもだわの記憶の中で、彼に寄る辺を与え続けるのだろう。
●空と目睫のシグモル火山
「いらっしゃいませ!」
看板の文言に立ち止まったロゼットへ店主がすかさず声を掛けた。
知った顔の冒険者達が話し込んでいた姿も目に留まった事で、彼女は屋台へ足を運んだ。
「私で良かったら。故郷シグモル火山帯の話をさせてもらうわね」
外の世界を知りたがる店主と同じ気持ちを持ったからこそ、ロゼットは都市同盟に居る。親近感を抱いたのだ。
「シグモル火山帯は、ロスガリア大陸でも西の端にあって、此処からは一番遠い場所にあるわね。たくさんの神様の名や教えが今も残っていて、私はボルガニスク神殿に仕える神官の家系なの」
「そこを故郷とする冒険者さんは初めてです~! 景色は美しいです?」
興奮する店主の様子に、笑気を呼気に含み首肯する。
「もちろん。大陸でもっとも高いとも言われてる、空に近い場所からの景色よ。晴れた日は地平線まで広がる絶景が一望できて、夜には澄んだ空に満天の星々が輝いて見られるわ」
「そういう場所ですと、童話もありますか?」
「えぇ。名前の由来にもなったシグモル様の逸話が、信仰と勇気をたたえる御伽噺としてあるの。子どもの頃は毎日、枕元で読んでいたわよ」
人が行き交う賑やかなリブラネスタとはまた違う、雄大で荘厳な景色がロゼットの故郷には存在するのだろう。
ジュースを注文した彼女の話に、店主は顔を綻ばせている。
「私もいつか行ってみた~い! ……ね。冒険者さん好きな人っています?」
ロゼットはゆるりと瞬く。店主の質問は少し突飛であった。
「ボルガニスク様よ。と、答えるのが神官としては正解なのだろうけど。期待されてる答えとはちょっと違うかな」
穏やかに笑むロゼットへ、店主がジュースを注いで木造りのカップを手渡した。
マンゴーの濃厚でまろやかな味わいが口に広がり、後引く甘さに一足早い夏を感じる。
飲み干すまで時間を要さないから、最後の一口まで味わおう。
「冒険者になってから、好ましい人にはたくさん出会ったわ。さっきそこに居た、シルヴィアや、だわも、良い人よ。あなたが期待してるような、素敵な出会いがあると良いのだけど、ね」
「ですね! 此処に寄ってくれた時に、期待してま~す!」
「ふふ。美味しかったわ。ごちそうさまでした」
店主の声を背に受けながら、ロゼットは満足そうに笑みを浮かべて冒険者街へ歩き出して行った。
明日へ向かう冒険者達が行き交う街、リブラネスタ。とある飲食店の店先で。
店主達は気まぐれに開店準備を始めている。
次はあなたの故郷の話が聞けるのを、楽しみに待っていることだろう。
晴れ渡る穏やかな空から、午後の陽が冒険者街へ射す昼下がり。
ひと仕事終えたイズル・M・ヴォルゴールとペルゼィックが、ある飲食店の前に出された看板を見遣っていた。
「読めねぇ看板掲げて何屋だ、ここ」
「ジークも喉乾いた?」
訝し気な顔をしたペルゼィックが、開口一番それと呟く。歯に衣着せぬ物言いだ。
奇特にも看板の文字を読めたらしいイズルが、彼に尋ねていると。
「いらっしゃいませ~!」
屋台の影から店主が顔を出す。
二人は本日初めてのお客。開店準備もそこそこに、店主は彼らを歓迎する。
「こちらの屋台はですね~」
そうして流れるように、屋台のジュースとお代の説明を告げる。
如何ですか? 笑顔で語る店主を前に、二人は視線だけを交わしていた。
「お勧めはどれですか?」
「今だったらメロンが美味しいですよ」
「そろそろだからな。代金が話ってのが怪しい代物が、客に出すのも大概だと思うぜ?」
「えへへ。趣味でやっている屋台ですが味は保証しますよ~」
気を悪くした様子も無く、店主は笑顔のまま。どうです? 彼らに安閑と言葉を並べる。
「コイツはよく喋るから、俺のジュース代はコイツから徴収しろ」
ペルゼィックが間髪入れず代金をイズルへと集った。とても判断が早い。
「は~い! お二人様承りました!」
「えぇ……」
「テメェのよく喋る口、存分に役立てろカス」
有無を言わさぬペルゼィックの声に、イズルは心底困ったように眉宇を寄せる。
「準備もありますので、お代は先払いで頂戴しま~す!」
屋台の隣に備えられた簡素なベンチに腰を掛けると、早速店主はイズルとペルゼィックに故郷の話を強請った。
さて。何を話したものだろう。
流れる雲を見上げたイズルが、まず先に口を開いた。
「俺とジークは辺境の出身なんだ。と言っても、俺の故郷はとにかく古い街で。ジークは……」
「辺境の遺跡都市のどっかだぜ。普通の街だ」
「俺の街は林檎の果樹園が沢山あって、それでシードルも作ってる。酒造も多い。俺の知らない昔から何代も続いてるよ」
「いいですねぇ、たくさんの果樹園! あなたの故郷は、どんな景色です?」
羨ましそうにしていた店主が話の水をペルゼィックへ向ける。
「普通だ」
あまりにも短い三音。
「ジーク。家族の話とかどうだろう?」
きょとんとする店主をよそに、切り上げようとするペルゼィックに代わりイズルが話題の提案を行う。
口を重たくしていたペルゼィックは、悪態もそこそこに、店主とイズルへ一睨を向けた。
「親父殿はそこで鍛治してる。お袋は帝国で名の通った鍛冶師だったらしいぜ。知らねぇけどよ」
ふっと視線を逸らすと、先ほどイズルがそうしていたよう。
真上を揺蕩う青空の白い雲を、ペルゼィックは赤い眼に映す。
「あなたも鍛冶師なんですか?」
何気ない店主の声に、眇めた赤色が雲から誰とも知れない行き交う人の背へと向く。
「鍛冶師じゃないぜ。ガラス作ってる。鍛冶が合わなかった、そんだけ」
「そうですか……」
少しだけ、店主が鳴りを潜めた。どうも次の言葉を迷っているようだ。
そんな彼女に助け船、ではないが。イズルがやんわりと口角を上げる。
「俺は代替わりしてもジークの父上のお世話になりたいと思うよ。……思い出話、というか。ジークの父上は、俺の父上と商業として一族として懇意にしてて。俺の遊び相手にって、ジークの父上が一緒に連れてきたのが。ジークと最初の出会いで」
思い馳せるのは故郷の地でのこと。
幼き日を思い出すイズルの脳裏には、鮮明にあの日の光景が浮かんでくる。
「歳も近かったから、それじゃあ挨拶にって近づいたら、ジークに頭突きをされたんだ」
懐かしい思い出話の頭にバイオレンスという語句がひっついた。
何やらペルゼィックがその横で、先手必勝だ、と何やら得意げにしている。とても自慢げである。
「ヘラヘラ笑って近づいてくるからな、つい」
ついで頭突きをする冒険心。
「頭打ったら星が出る。お話にある比喩じゃないってわかったんだ」
それを笑顔で話せる精神力。
「親父殿とお袋にボコボコにされたわ。最悪だったぜ」
それはそうなるものでは?
ぱちぱちと瞬きをして、彼らという存在に関心を抱いた店主が、一寸の間を置いた後。
「仲良いですね~!」
たくさんの疑問をよそに、楽しそうににっこり笑った。
店主がごそごそと屋台裏に引っ込み、木造りのカップへ綺麗な黄緑のメロンジュースを注いで二人へ手渡した。
爽やかな香りがふわりと鼻をくすぐる。ペルゼィックが何も言わず口をつけている様子から、確かな品質の物らしい。
「そうだ。俺の故郷にはこんな童話があるんだけど」
「また例の話か」
「教えてくださ~い!」
「うちの領地には心霊の世界の入口って言われる地下水脈があって……」
メロンジュースを話の共に、彼らは充分過ぎる代金を置いてくれたのだった。
●彼が想う
屋台の看板を眺めて、半笑いを浮かべる人間はあまり多くない。
ヴィナスには生まれ育った地への思い入れが無いだけに、斯様な表情を浮かべてしまったのだ。
「そこの人、どうです?」
店主がそんな物珍しい彼を見て手招いた。ヴィナスはもう一人の店主が他の客と楽しそうに話す姿を見る。
故郷についてキラキラしている。初対面だし、無難に話そう。
肩を竦めて店主の誘いに応じると、ヴィナスは旬のサクランボジュースをオーダーした。
「俺は同盟に生まれ育ったけど。家族と思える大事に思う存在、彼らがいる場所が故郷って感覚だから、この土地を故郷とは思わないかな」
「大事な存在ですか?」
「そう。容姿はイケメン、優しく聡明で、可愛いのに頼もしい俺の完璧な弟と二人で大事に思う存在が家族なんだ」
弟観は彼なりの主観が入っている。とは店主にも容易に察せられた。同時に、両親を家族と称さずいる事はそれなりの訳があるのだろう。
雲間に陽が隠れ、冒険者街を春の冷えた風が吹いて、ヴィナスの髪先を弄ぶ。
「景色を綺麗だと思う心、ご飯やお酒を美味しいと思うのも。彼らがいてこそだから」
「なるほどね。好きな食べ物はどうです?」
「同盟の生まれだから。好きな食べ物もシェファーズパイやアップルパイ、飲むのはワイン。目新しい話はできないかな」
冒険者街ではありふれた食べ物。
様々な場所からやってくる冒険者達の故郷の話に比べれば、彼が告げる物は普遍的だ。
「大事な人がいるその地を故郷と呼べる人。今までの冒険者サン達にはいなかったですよ。だから、あなたの話は新鮮です」
店主が薄淡い赤のジュースを木造りのカップに注ぎ入れる。
微かな甘酸っぱい匂い。口当たりも爽やかで、後味も良いはずだ。
「そう言ってもらえると。色々あって家族に近況を連絡できない時期もあったけど。弟のお陰でそれも伝えられたからほっとしてるんだ」
空を映すジュースの水面に粗濾しにされたサクランボの実が落ちる。
「シャルガネに行った時や、友人の領の芸術祭に足を運んだ時は、お土産も送ってるよ」
もう一人の店主と盛り上がりを見せる冒険者の姿を横目に、ヴィナスは穏やかそうに口角を緩めた。
「お代はもういいかな? たくさん話すと夜空の詩人が焼きもちを妬くから」
「おつりが多すぎて返せないほどで。どうぞ」
完熟のサクランボが入ったジュースは、甘さを増してヴィナスの喉を潤してくれた。
●王国の二つの故郷
私の故郷はリーンエス王国、カペル侯爵領。
現カペル侯爵の母であるイザベラ・カペルは、孫娘から土産に贈られたシャルガネの白米酒に興味を持った。
昨夏、領内でも指折りの農耕の街、クランペラーにおいて開かれた向日葵祭では、白米酒を用いた菓子コンテストが開催された。
向日葵を肴に飲む冷酒は口を極める程美味しくて。それを機に白米酒は領内へ広く知れ渡っていったんだ。
だけど、領の名産はあくまでもワインなんだ。
白米酒の評判と等しく、ワインの魅力も宣伝しなければならない。伝統ある物だからね。
そこでお祖母様は両者を大いに盛り上げるべく、対決という体をとって秋祭りに取り入れる事とした。
もちろん、ワイン醸造所と白米酒商人の対立や競争をさせる事じゃなくて。
お互いに酒類として商品価値を相互に認め、理解を深めさせる事が一番の狙いだったよ。
秋。街路樹や近郊の山々。数多くの鮮やかなカエデが見られる事で知られる町、シャラエスタでは、毎年収穫祭としてカエデ祭りが開催されるんだけど。
昨年は、前述した白米酒vsワインのテーマを加え、大盛況を収めたんだ。
ほぼ無料で飲めたうえ、商品宣伝合戦も面白かったな。
「と。こんな風に。領民はとてもお祭り好きなんだよ」
「すごくたのしそう~!!!」
キラキラと顔を輝かせたリリィベルは、シルヴィア・A・カペルの話に食い入っていた。
領をあげての盛大な祭事、お酒の対決。ちっぽけなジュースバーを営む店先とはスケールが違う。
「無料で酒を振る舞うとあれば。さぞ多くの人が訪れたのだろうな」
冒険者達がジュースを飲む光景を何かと眺めていたらば、無事に捕まった内の一人であるだわ。得心がいったように頷いている。
「そうだね。それに、花も芸術も新しい趣向も大好きだよ。最近は領都にある劇場と人気の白米酒をタイアップさせようという話もあって……様々な形で料理やお酒を出すつもりだから、もし良かったら訪れてみて」
だわが茶菓子として、良ければと持ち込んでくれたクッキーをひとつ。いただきますと言葉を添えて、シルヴィアが口に運ぶ。
先んじていただいたラズベリージュースの酸味を引き立てるような、素朴な味が心穏やかな気持ちにさせてくれる。
「あなたは何をご所望で?」
「……林檎ジュースを」
「はい。承りました」
シルヴィアの話に夢中となっているリリィベルに代わり、ライネスがだわから注文を貰う。
食感のアクセントにすりおろしにした林檎をカップの底に入れ、丁寧に濾した林檎ジュースを注ぎ込むと。
ふんわりと渦を巻いて、すりおろしの実がカップの中を泳ぐ。同じく木造りのティースプーンが添えられて、だわの手に渡された。
「どうぞ。あなたの故郷の話、聞いても?」
「……俺の故郷はリーンエス王国の中でも、辺境にある。ルクサリア領という、王国の中では端の方の土地だ。名産は……大陸全土で見ての名産地、という程ではないが。林檎だろうか」
ティースプーンでくるりとかき混ぜ、そっと持ち上げてみれば。すりおろされた林檎の果実がジュースの中でゆらりと揺蕩う。
「王国の肥沃な大地の例に漏れず。農業が盛んで、果樹もよく育てられている。シルヴィアの故郷のような盛大さには引けを取るが」
そっと口をつけてみると、芳醇な林檎の香りと味わいが舌を満たしてくれる。美味いな、と。だわは独り言ちる。
「そしたら、自然の恵みもあるんでしょうね」
「野菜や果物、山菜も豊富だ。豊かな森からは獣も獲れる。肉を山菜と共に煮込んだ料理は、今でも野営でよく作るな。……酒は、俺はあまり好まないので分からないんだが。素材は豊富だろう、酒の種類も多くあるのかと」
酒に富んだ故郷の話をしてくれたシルヴィアと、豊かな恵みを享受する故郷を教えてくれるだわ。
リーンエス王国は広いものだ。店主達は興味深そうに話を聞き及んでいた。リリィベルが紙片を片手に、シルヴィアへ白米酒の詳細を強請る頃合い。
「観光地とかではなかったんです?」
ライネスの何気ない質問に、だわが緩慢に目を伏せる。
「……観光名所にはならずとも、美しく穏やかな場所だった」
一時でも忘れた事のない。穏やかで暖かな陽に照らされた故郷の村がまぶたに浮かぶ。
幼い日々にアップルパイを作ってくれた母。優しく迎えてくれたあの頃から、林檎は彼の好きな果物だ。
「……いや。今でも美しい領だ。贔屓目もあるだろうが。国外まで旅したこの目で見ても、ルクサリア領は長閑で落ち着く景観のよい地だと思う。今日のような晴れた日は、本当に」
澄み渡る青空に、真白に流れる雲。
故郷の空を重ねただわが冒険者街の空を見上げると、ライネスも空を仰ぐ。
「なら。あなたの故郷が、いつまでも美しくあるように」
失った故郷の村は、それでもだわの記憶の中で、彼に寄る辺を与え続けるのだろう。
●空と目睫のシグモル火山
「いらっしゃいませ!」
看板の文言に立ち止まったロゼットへ店主がすかさず声を掛けた。
知った顔の冒険者達が話し込んでいた姿も目に留まった事で、彼女は屋台へ足を運んだ。
「私で良かったら。故郷シグモル火山帯の話をさせてもらうわね」
外の世界を知りたがる店主と同じ気持ちを持ったからこそ、ロゼットは都市同盟に居る。親近感を抱いたのだ。
「シグモル火山帯は、ロスガリア大陸でも西の端にあって、此処からは一番遠い場所にあるわね。たくさんの神様の名や教えが今も残っていて、私はボルガニスク神殿に仕える神官の家系なの」
「そこを故郷とする冒険者さんは初めてです~! 景色は美しいです?」
興奮する店主の様子に、笑気を呼気に含み首肯する。
「もちろん。大陸でもっとも高いとも言われてる、空に近い場所からの景色よ。晴れた日は地平線まで広がる絶景が一望できて、夜には澄んだ空に満天の星々が輝いて見られるわ」
「そういう場所ですと、童話もありますか?」
「えぇ。名前の由来にもなったシグモル様の逸話が、信仰と勇気をたたえる御伽噺としてあるの。子どもの頃は毎日、枕元で読んでいたわよ」
人が行き交う賑やかなリブラネスタとはまた違う、雄大で荘厳な景色がロゼットの故郷には存在するのだろう。
ジュースを注文した彼女の話に、店主は顔を綻ばせている。
「私もいつか行ってみた~い! ……ね。冒険者さん好きな人っています?」
ロゼットはゆるりと瞬く。店主の質問は少し突飛であった。
「ボルガニスク様よ。と、答えるのが神官としては正解なのだろうけど。期待されてる答えとはちょっと違うかな」
穏やかに笑むロゼットへ、店主がジュースを注いで木造りのカップを手渡した。
マンゴーの濃厚でまろやかな味わいが口に広がり、後引く甘さに一足早い夏を感じる。
飲み干すまで時間を要さないから、最後の一口まで味わおう。
「冒険者になってから、好ましい人にはたくさん出会ったわ。さっきそこに居た、シルヴィアや、だわも、良い人よ。あなたが期待してるような、素敵な出会いがあると良いのだけど、ね」
「ですね! 此処に寄ってくれた時に、期待してま~す!」
「ふふ。美味しかったわ。ごちそうさまでした」
店主の声を背に受けながら、ロゼットは満足そうに笑みを浮かべて冒険者街へ歩き出して行った。
明日へ向かう冒険者達が行き交う街、リブラネスタ。とある飲食店の店先で。
店主達は気まぐれに開店準備を始めている。
次はあなたの故郷の話が聞けるのを、楽しみに待っていることだろう。
マスターコメント
通りすがっていただいた冒険者の皆様の故郷のお話、拝見させていただきました。
三者三様、とても楽しく書かせていただきました。
この度は当MSにおける初めてのシナリオへのご参加、誠にありがとうございました。
またの機会をお待ちしております。
ショートシナリオ易しい 報酬:無し6 / 4〜6人
2022年05月25日 09時47分19秒 公開
成功
相談掲示板
ヒーラーの神官戦士ロゼットよ。 出身はシグモル火山帯、よろしくね。 MSさんの初仕事が満員で埋まって良かったわ。 皆の話も、楽しみにさせてもらうわね。 ジュース…何の果物にしようかしら(悩)。
シルヴィアだ。 出身はリーンエス王国のカペル領。よろしく頼むよ。 (ラズベリーのジュースを注文しつつ) ああ、MSさんの初依頼が満員になって良かった。私も皆の話を楽しみにしているね。
ヴィナスだよ、よろしく。 俺は同盟出身だから、彼らにとって目新しいかなって気はするけど…ジュース飲みたくて。 旬の果物だと、ベリーとかサクランボかな…。
だわと呼んでもらえれば。よろしく頼む。 リーンエス王国辺境領の出身だ。 俺はアップルジュースを貰おうか。 茶請けじゃないが、ついでにその辺の喫茶店で買ったクッキーでも持ち込んでシェアするかな。
なら私はマンゴージュースにしようかな。 旬じゃなくても良いでしょうけけど、オレンジなんかの 柑橘系も、この時期は盛りと聞くわね。
挨拶が遅れました。 イズルです。よろしく。 辺境都市郡にある、農業を主産業とした街の出身です。 ジュースはどれにするか、考えておきます(MSにお任せの予定です
ペルゼィック(←挨拶 (出身は)辺境の古代都市のどっかだ。 メロンとかも旬らしいからそのへん吹っ掛ける予定だ。