【帝国】エスタル”解放”戦線
真柄 葉
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シナリオID:2169
オープニング
ヴィントから訪れたというその伝令がもたらしたのは『東部鎮守都市エスタル』健在の報だった。
報告にあった東部鎮守都市『エスタル』とは、帝国の四方を固める重要な拠点の一つであり、帝国東部の鎮守だけではなく、辺境都市群、イェルノー荒野にまで睨みをきかせる要衝である。
あの日、帝都に幽界樹が出現し、帝国全土が地獄と化した。主要都市には幽界樹が出現し、民の多くを喰らい尽くした。当然、東の要エスタルもそうであるだろうと思われていたのだが……。
「あの大災害の日より、連絡が途絶し壊滅していたと思っていたが……よもや健在だったとは」
リカルダがさらに詳しい話を聞くと、伝令は現時点で判明している情報ではと前置きして語りだした。
『夢の女神』の導きにより、地下へと逃れた生存者たち。
そして、『草人』と呼ばれる不思議な住民の存在。消えた幽界樹――。
まるで夢物語かと思うような話にリカルダは訝しむが、伝令の表情に偽りは判じられない。
話を終えた伝令は、最後にリカルダをじっと見つめ――。
「レイウェスト殿下は、リカルダ将軍の判断で行動せよとおっしゃっておりました」
と、伝えた。
●
伝令は馬を飛ばし去っていった。
リカルダはイリオスに席を置く頭脳たちを招集し、意見を求める。
「オルグ、どう思うか」
リカルダに意見を求められた蒼鹿のハーフビーストであるオルグは小さく頭を下げると口を開いた。
「迷う必要などありますまい。帝国正規軍かつ、東部鎮守都市エスタルへ最も近くにあるのはこのイリオスに駐在する将軍の軍です。当然、動くべきでしょう」
「ふむ……」
「将軍がここに兵を集める理由は何でしょうか。帝国奪還の為ではないのですか?」
「その通りだ」
「であれば、考えるまでもなく派兵を決めるべきです。我等ベンゼルの兵も死力を尽くし将軍をお助けいたします」
「それは頼もしい限りだな……そうか、エスタル程の大都市であればベンゼル家の情報も手に入るかもしれぬ、か」
そうリカルダに問われ、オルグはこくりと頷いた。
「ロルフはどう考える」
次いで三十代半ばの無精ひげの男、副官であるロルフに問いかける。
「そうですねぇ、この地も冒険者達のおかげで随分と落ち着いてきましたので、軍を動かすにはいいタイミングかもしれません。ちなみに派兵するとして、将軍はどれほどの兵を連れて行かれるおつもりで?」
「そうだな。全軍、と言いたい所だが、ここの守備もある。ベンゼル兵200に、新兵達200。総数400と考えているが、どうだ」
「400ですか、今出せる限界ですね。ただ、そうなると……」
口籠るロルフにリカルダは続きを求める。
「聞けばエスタルには何やら不可思議な住民がいる様子です。しかも、敵か味方かもわからないときた」
「好戦的ではないという情報だが……イリオスの兵では対処しきれないという事か」
「正体がわからない以上、経験の少ない兵に当たらせるのは得策ではないと感じますね。派兵に反対はしませんが、いきなり街へと入らず、外で様子を窺う方がいいかと思いますねぇ」
「ふむ……そうなると、東部方面軍の駐屯地を押さえるのがよさそうか」
「ですね。確かエスタルの東に駐屯地があったはずです。今どうなっているかはわからないですが、一先ずそこを拠点にするのがいいかもしれません」
ロルフの進言にリカルダは考え込んだ。そして――。
「……よし、それで行く。オルグ、ロルフ、兵に出立の令を出せ」
二人にそう命令を下した。
●
帝国北部方面軍の初の遠征という事もあって、新兵達の顔には緊張の色が浮かぶ。
エスタル迄は順調にいって2週間ほどの道のり。同行するベンゼル家の兵達が新兵をフォローしつつ、行軍は順調に進んだ。
予定の2週間が過ぎ兵達に疲労が見え始めた頃、ついにエスタルの城壁が見えてきた。
兵達は安堵すると共に、これから始まる実戦への緊張感に表情を引き締める。
「総員停止!」
リカルダが行軍停止の命令を出し兵を待機させる。
破壊された城門を見つめながら、リカルダは伝令兵を呼んだ。
「内部の冒険者ギルドと連絡を取る必要がある。行けるな」
リカルダの命に伝令兵はこくりと頷き、書簡を携え出立する。
斥候を見送ったリカルダは、懐から道中届いたレイウェストからの書簡を取り出した。
そこには、現地での指揮をリカルダに委ねる事と、冒険者ギルドと協力して事態に当たるようにとの指令が記してある。
「全軍、生存報告のある南門へ向かう! 周囲の警戒を厳にしつつ、街を迂回するぞ!」
再びリカルダの号令が下り、北部方面軍は街を大きく迂回し南門を目指す。途中、警戒の為、斥候を各所に放ちつつエスタルの堀沿いを行軍した北部方面軍は、1時間ほどで南門へと到達した。
リカルダは副官のロルフに軍を任せ、城門前で待機していた伝令兵と共に街の中へと入っていく。
●
2時間ほど経って、エスタル冒険者ギルド長、そして、元魔導院支部長クライス・アクバーとの会談を終えたリカルダが戻ってきた。
「どうでした?」
待機していたロルフがリカルダに問いかける。
リカルダは軍の主要な者達を集めると、会談の内容を簡単に話した。
「……何ともややこしい事になっていますねぇ」
「うむ。帝国軍が救援に駆け付けたと住民が知れば歓迎されるだろうが、今はその時でないように思う」
「『草人』って言われてる連中を変に刺激して、いきなり今までと違う行動を取られる可能性があるから……ですか」
「そうだ。よって、我等は当初の予定通り駐屯地へ向かい、拠点を構築しようと思う」
「それが良いでしょうねぇ。まだ、都市の状況がどう転ぶかわからない以上、冒険者ギルドとの連携強化、そして情報収集が先決でしょうなぁ。その為にもまず腰を落ち着ける場所が欲しい」
そう言ったロルフにリカルダが頷いた時、斥候を出ていたカルラが軍へ合流した。
「旧駐屯地に魔獣の群れを確認したわ」
カルラの報告によれば、駐屯地の主要施設である指令所付近には、キラービーの集団が巣を作っているという。
「どうします?」
「作戦に変更はない。駐屯地に巣食う魔獣を討伐し、エスタル救援の橋頭保とする」
ロルフに答えると同時に、リカルダは【征竜の宝剣】を掲げ東を指す。
兵士達はリカルダの号令に応えるように鬨の声を上げると、再び行軍を開始した――。
解説
マスターより
リプレイ
「草人ですか……」
あの塀の向こうに、謎の生命体が存在する。
アクティオンはチラリと城壁を見やり呟いた。
授恵者になり冒険者として見聞を広げてきたが、いまだに未知との遭遇は尽きない。
「一先ず危険はないようだけど、一体どんな奴等なのか気になるわね」
そんなアクティオンにカルラが応える。
「貴方は確か……カルラ君、でしたか。斥候を担っているとか」
「あら、知ってくれていたのね。そうよ。よろしくね冒険者さん」
カルラはその不自由な瞳でアクティオンに微笑んだ。
一時間ほど歩くと前方に朽ちた木柵が見えてきた。あれが旧駐屯地だ。
リカルダは全軍を停止させると、野営地設営の指示を出した。
本陣となるテントの中に、軍の主要メンバーと共に冒険者達が集められる。
最初にカルラが声を上げ、斥候からの情報を伝えた。
「――状況は以上よ。何か質問はあるかしら」
「私からいいのだ?」
冒険者達を見渡すカルラに、ストレガ・L・リベルガストラが手を上げる。
「敵が蜂という事は、女王バチがいるはずなのだ。その存在は確認が取れているのだ?」
「女王バチ……なるほど確かにいるでしょうね。でも、残念ながら確認はとれていないわ。だけど、駐屯地中央の指令所周りに敵の数が多いから、そこにいる可能性は高いわね――ここよ」
ストレガに問われ、カルラが机上の地図を指さした。
駐屯地でも一番大きな建物。それが指令所だという。
「女王バチがいるなら、そいつさえ倒せば他の蜂たちも大人しくなる?」
地図と睨めっこするストレガに、ララベル・サン・ディーベルは声をかける。
「魔獣が蜂の習性をなぞっているのならその可能性はあるのだ」
「なるほど……それじゃ、僕達冒険者の少数精鋭チームで女王バチ一点狙いの速攻をかけるのはどうかな。見た感じ敵の数はすごく多いし、全部相手にしていたらキリがないと思うんだ」
と、ララベルはいうと仲間達を見渡した。
「いいんじゃないかな! 蜂の習性が利用できるなら、誘導とかもやりやすそうだし、どっちかって言うと帝国軍の人達には駐屯地の復旧の方に力を入れてもらいたいから、体力温存できるに越したことないよ!」
ララベルの意見に賛同したトゥーリは、数々の従軍経験をもとに意見を述べる。
「そうですね、私もお二人の意見に賛成です。帝国軍の方々には野営地の設営及び、奪還後の復旧作業に注力していただき、攻撃は我々冒険者が担う。大勢で行軍し、敵の眼を引き付けるよりは、少数精鋭での敵の眼を掻い潜って敵首魁を狙うのが良いと思います」
確かな戦術眼をもってララベルの作戦を後押しすると、ハリス・アル・ターミルはトゥーリに同意を求めるように視線をやった。
「ソ、ソウダネ。いいんじゃないかな……うん。ワタシは異存ない、ヨ」
返すトゥーリはなぜかもじもじと落ち着かない。
「ありがとうございます。他の皆さんはいかがでしょう」
そう問いかけるハリスに、セリオス・オーガストが無言で手を上げた。
「……作戦内容は概ね理解したが、この野営地はどうする。もしはぐれ蜂が迷い込んできた場合の対処は誰がやるんだ」
「なるほど、そうですね……何名かこの野営地に残って防衛を――」
セリオスの意見に、ハリスが思案に沈むが。
「まさか、冒険者達だけですべてを解決するつもりじゃないだろうな」
リカルダが苦笑しながら声を上げた。
「防衛は我が帝国軍が引き受ける。その程度の事が出来ぬほど、やわな鍛え方はしていないぞ」
困ったようにそう言うリカルダに、ハリスはハッと顔を上げ大きく頭を下げる。
「仰る通りです。失礼いたしました。では、この野営地の防衛も帝国軍の皆さんに任せ、我々は駐屯地奪還に全力を尽くしましょう。リカルダ将軍にも野営地防衛のご協力を賜りたい」
「もちろんだ。私達がこの場所を死守しよう」
リカルダの頼もしい一言により、役割の分担が決まると、改めて作戦会議が始まった――。
「……初任務……任務内容は旧駐屯地の復旧作業及び魔獣の討伐」
白熱する作戦会議をテントの隅でじっと聞いていたラビリアがぽつりと呟いた。
ホムンクルスとして再び生を受け、身に着けた力がようやく役に立つ。
それを確かめるように、ラビリアは『身体』に意識を集中させる。
「……どうやら話は纏まったようだな。では我等が先発しよう。敵本営までのルートを導き出す」
ハリスが作戦の詳細を纏め終えると、今まで黙っていたベルク・オスマットが声を上げる。
「アクティオン殿、カルラ殿、往くぞ」
先発するベルクが二人を連れテントを出たのを合図に、帝国東部方面軍駐屯地奪還作戦は開始された――。
●
仲間達に先駆け駐屯地へと入った彼女達は、物陰に潜み敵の動きを探っていた。
「なんという数だ……これは、兵を置いてきて正解だったな」
【双波】が示すマークの数に、ベルクは目を見開く。
付与したマークだけで10はある。【捜波】の狭いエリアだけでそれだけ捉えたのだ、この広い駐屯地全体では、一体どれほどの数がいるのか。
「確かにこの数に全軍で当たれば、少なからず死傷者が出たでしょう。我々もさすがに兵達を守りながらでは戦えない。……それよりもカルラ君、女王の存在は感じられますか」
同じく【孤高者の捜波】でマークの数を確認したアクティオンが、カルラに問いかける。
「そうね……女王か確証は持てないけど、指令所には何かが蠢く音が固まっているわ」
「蠢くものが固まっている……となれば、『巣』か」
と、ベルクの呟きに、アクティオンとカルラがこくりと頷く。
「蜂の習性と同じであれば、一匹倒せば臭いにつられかなりの数が寄ってくるはずです」
「うむ、囮役が活きてくるな」
「逆に居なければ突破は難しいでしょうね」
「……よし、後続に伝える。この場所の確保を任せた」
ベルクはそれだけを言い残し、すぐに姿を消した。
「――それほど密集を。どうやら間違いなさそうですね」
「ああ、想定通りだが……やれるか」
作戦指揮を担うハリスがベルクの報告に顔を上げた。
「ええ、問題ありません」
ハリスはベルクの問いに一度頷くと仲間達を見る。
「皆さん、作戦に変更はありません。トゥーリ殿、ラビリア殿のお二人には、私と共に囮役をお願いします。大丈夫、必ず私がお守りします」
「ウ、ウン。頼りにしてる、ヨ」
「……頑張る」
「ストレガ殿、貴殿の広域殲滅に期待します。我等が纏めた敵を薙ぎ払ってください」
「全て射落としてやるのだ」
「ベルク殿、アクティオン殿カルラ殿両名と共に威力偵察を。我等が主力の『道』を作ってください」
「承知」
「ララベル殿、セリオス殿、貴殿等が我等の牙だ。敵首魁を見つけ次第、迅速にこれを叩いていただきたい」
「任せてっ!」
「……わかった」
改めて作戦内容を確認したハリスが、大きく息を吸い込むと仲間達を見渡した。
「貴殿等と戦場を共にできる幸運に感謝を」
●
駐屯地を前にした囮役の三人。
「準備はよろしいですか」
「うん……いつでも」
「頼りにします、ラビリア殿。トゥーリ殿も――」
――パチンっ!
「痛ぅ……!」
「トゥ、トゥーリ殿、大丈夫ですか……?」
「……よし、大丈夫。行こう、ハリスさん」
「ええ……行きましょう!」
●
それは矢の光雨から始まった。
駐屯地南に発生した矢の雨が、キラービーを一度に10数体も撃ち抜く。
「ありがとう……もういいよ。下がってて……」
ここからは死地。一般人の彼等は連れていけない。
この初撃の為だけに協力してくれた精兵達に礼を言うと、ラビリアはすぐに彼等を下がらせた。
精兵達と入れ替わる様に、仲間の死を嗅ぎ付けたキラービー達が南へと集まりだす。
「さぁ、こちらですよ! 貴殿達の住処を脅かしに来てあげました!」
巨大な羽音を立て接近してくる蜂に、ハリスが咆哮した。
どうやら音にも敏感らしい蜂達は、標的をハリスに定め、一斉に向かってくる。
ハリスは大盾をかまえ、迎え撃つ姿勢を取った。
「待ってました!」
蜂達の強大な顎がハリスの盾に噛みつかんとした、まさにその時。
ハリスの目の前に無数の光の雨が降りそそぎ、殺到していた蜂達を次々と貫いた。
突然降りかかった光の雨に、蜂達は攻撃を中断しホバリングで辺りを窺うが――。
「止まってくれれば……こちらのもの」
既に『影』はすぐ真下まで迫っていた。
直下から繰り出された二刃が、蜂の最も弱い胴体接合部を一撃で斬り捨てる。
落下してくる蜂の身体を避けつつ、隣の蜂の真下へともぐりこんだラビリアは、先ほどと寸分たがわぬ挙動で、二体目を仕留めた。
「何処を向いているのですか!!」
蜂が攻撃主二人を標的に定めようとした瞬間、再びハリスが咆哮。その注意を一身に引き付けた。
この一連の動きは幾度も繰り返され、ハリス達は駐屯地深く浸透していく――。
●
駐屯地南で激戦が繰り広げられる中、主力は南西から進撃を開始した。
ベルク、アクティオン、カルラの3人が先頭となり、蜂達の動きを察知しながら指令所へ急ぐ。
途中、巡回している蜂と出くわす場面もあったが、これを即座に排除しつつ、5人は兵舎の影を渡り進んだ。
指令所まで100m。ここから先、兵舎はない。
「……南が引き付けているとはいえ、指令所の周りにはまだ敵も多いな」
超視覚で指令所の外観を覗くセリオス。
二階建ての指令所の壁面や屋根には、建物を守る様にキラービー達が蠢いていた。
「……さっきより集まっているわね」
振動を感知し周囲の状況を把握できるカルラが、その能力をもって指令所の中を透かし見る。
「建物は今後も利用すると将軍が言っていましたので、破壊は避けたいところですね」
アクティオンが言った。
これはストレガが作戦会議中に言っていた事だった。彼女曰く――。
『これだけ大量の働き蜂がいる以上、中はきっと巣になっているのだ。巣には卵や幼虫も沢山いるはずなのだ。それに、生態次第では蜜があるかもしれないのだ。無傷で手に入れることが出来れば、食糧問題を同時に解決する事も可能なのだ』
「……昆虫食はちょっと」
と、恐々と呟くララベルに、他の4人は苦笑する。
「……ともかく、突撃のタイミングだ。蜂達の注意が囮に向いたその瞬間を逃さすなよ」
セリオスの言葉に4人は頷いた。そして、囮役の動向をじっと見つめる――。
●
「纏めて捻じり落すのだ」
ストレガは魔導書に満ちたエーテルを、群がってきた蜂達に向けとき放つ。
基点から放射状に広がる衝撃波が、空間そのものを捻じり狂わせた。
荒れ狂う空間にあった蜂達は無残に捻じり斬られ、ぼとぼとと地面へと落下する。
「くっ……陣容が厚い! 皆さん、私から離れないようにお願いします!」
それでも、怯むどころか第二陣三陣と次々と押し寄せる蜂達。
流石に女王が鎮座する場所だ。兵隊達の数が尋常ではない。このまま戦線が膠着すれば、広い駐屯地中に散っている他の兵隊達も押し寄せる事だろう。
「ハリスさん、やっぱり一人じゃ無茶だよ!」
「心配ご無用! この程度の刺突、私の皮膚には通りません! それよりも――」
と、ヒールをかけ続けてくれるトゥーリから視線を外し、ハリスが見るのは――。
●
「――飛んだ。今だ」
指令所に張り付いていた最後の一匹が、正面の囮に釣られ飛び立った。
そのタイミングを逃さず、セリオスが合図する。
「道を切り開きます」
残るのは周囲を警戒する様に飛ぶ数匹の蜂のみ。
アクティオンはそれらを視界に入れると、既にいっぱいまで引き絞られた矢を解き放った。
エーテル光を宿した矢が周回する蜂達の手前に着弾。衝撃波となり蜂達を射落とすと共に、道を切り開く。
「行け、標的は二階西側。我等は外から援護する」
道はできた。
ベルクの言葉にララベルは頷くと、セリオスと共に物陰から飛び出した。
目指すのは指令所の裏口。扉は既に破壊され、蜂達の通り道になっている場所だ。
二人は100mの距離を一気に駆け抜けると、指令所のドアをくぐる。
「うっ……ひどい臭い」
中は薄暗く異臭が立ち込めていた。
二人は辺りに蠢く気配に注意を払いながら、薄暗い廊下を進む。
途中、這出てきたキラービーを討滅しつつ、階段を上がり西を向いた。
「……これは」
しかし、セリオスが目の前の光景に足を止める。
西へと続く廊下を埋め尽くすように、巨大なコロニーが形成されていたのだ。
そして、カルラが言っていた『何かが蠢いている』ものの正体が判明する。
「やっぱり幼虫……それに卵もこんなに。うぅ……背中がゾワゾワする」
ララベルが足先から上がってくる震えに体を抱いた。気配は蜂達の幼生。ストレガが予測した通りのものがそこに蠢いていた。
「女王はまだ奥か……」
「う、うん、巣の向こうだよ」
セリオスが巣を睨み付けるのに合わせ、ララベルが【透視】で廊下を塞ぐ巣の向こう側を見る。
巣の向こう側には廊下が続き、更にその奥には一際巨大な蜂の女王が鎮座していた。そして、それを取り巻く様に、左右の部屋から無数の兵隊達が顔を覗かせている。
「親衛隊……かな。兵隊も沢山いる」
「ちっ……」
セリオスは舌打ちする。この巣を破壊すれば一斉に兵隊たちが襲ってくるだろう。この狭い空間で無数の蜂達の襲撃を受けるのは避けたい。
【炸光矢】での広域殲滅も考えたが、そうすれば食料になるであろう幼虫や卵が被害に遭う。何より、木造の指令所を破壊する事になる。
「贅沢は言ってられないんじゃないかな。排除するのが先決だよ」
そんなセリオスの考えを読んだのか、ララベルが進言した。
「……そうだな。詫びは後で入れよう」
セリオスは進言に頷くと、矢を番える。
そして、目の前の巣に向け光の雨を放った。
●
狭い廊下での戦闘。無数に押し寄せる蜂達。
「なんて数……!」
襲ってきた蜂達をララベルの【闘気槌3】が纏めて吹き飛ばした。
セリオスの一撃で巣の壁を取り払った二人は、一気に女王までの距離を詰めようと廊下を進もうとするが兵隊たちの『壁』に阻まれる。
「泣き言を言うな。ここを抜けねば女王にたどり着けない」
ララベルの一撃ではじけ飛んだ蜂達の穴を埋めるように、新たな兵隊たちがわらわらと沸いてくる。
セリオスは、再び光の雨を降り注がせ撃退するも、その進撃は遅々として進まない。
一時撤退の文字が二人の脳裏に過った、その時だった――。
突然、南に面した部屋の一部が氷の嵐によりえぐり取られた。
女王の真横で発生した異常に、蜂達の羽ばたきが一層賑やかになる。
「……一番」
そんな蜂達の動揺を突き、えぐり取られた壁から『影』が飛び込んできた。
影は一気に女王バチとの距離を詰めると、一閃。
刃は分厚い肉を割き、体液を飛び散らせると同時に、光の糸が女王を絡めとる。女王が人の耳では聴き取れぬ悲鳴を上げると、兵隊たちはラビリアを標的に変えた。
「今だ! 僕に背中を向けた事を後悔しろ!!」
仲間が作ってくれたその隙をララベルは逃さなかった。ララベルは即座に床を蹴ると、すれ違いざまに蜂達を切り落としていく。
「そこだ! 喰らえ、烈風三連突!!」
そして、最も重厚だった『壁』に、必殺の三連撃を放った。
「……見えた」
ララベルの一撃が分厚かった『壁』を撃ち抜いてくれたおかげで、ようやく射線が通った。
兵隊は開いた『壁』を塞ごうと集まり、射撃を阻止しようとセリオスに猛攻撃を仕掛けてくる。
しかし、セリオスは動じない。
顎に皮膚を割かれ、毒針に体を刺されても、見つめるのは女王の頭、ただ一点。
「終わりだ」
極限まで引き絞られた弦がはじかれた。
矢は一条の光となり、ララベルの開けた『穴』を抜け、巨大な女王バチの頭部へ吸い込まれる。
――バシュ!
女王バチの頭部で光が弾け、その巨体が傾ぐ。
「……離脱するぞ」
素早く次の矢を番えたセリオスが床へと向け、再び矢を放った。
矢は着弾と同時に濃い煙幕を発生させ、ララベルとラビリアの脱出を援護する。
ララベルとラビリアの二人は、ストレガの開けた穴から。そして、セリオスは来た道を戻り、指令所を脱出した。
●
「おかえり、ラビリアさん! ララベルさん!」
指令所の二階から飛び降りた二人を、正面広場で激戦を繰り広げていたトゥーリが出迎える。
あれだけ苛烈だった敵の攻勢は、既にない。
女王の統制を失った兵隊たちは目に見えて混乱していた。
「この様子であれば、兵士の方々でも討伐できるかもしれませんね」
「あ、それ僕も考えてた! きっといい練習になると思うんだ」
蜂達を数匹纏めて薙ぎ払ったハリスに、ララベルが応える。
「いいと思うのだ。兵に訓練を積ませれば練度も上がり、死傷率も低下するのだ」
「……教えるの? わかった……頑張る」
ストレガの提案に、ラビリアが頷き野営地のある南を見た。
一方、指令所の裏手では――。
「おつかれさまでした」
「ああ、援護感謝する」
兵舎の影でアクティオンがセリオスを迎える。
「……ベルクはどうした」
「彼女は一足先に野営地へ戻りましたよ」
「……そうか、では我々も一旦引き上げるか」
「そうですね。蜂達も統制を失ったようですし、体勢を立て直すにはいいタイミングかと」
アクティオンの提案に、セリオス、カルラが頷くと、その場を脱した。
冒険者達は一旦野営地へと引き上げると、リカルダに敵首魁討伐の報告と兵士達の訓練を提案した。
「なるほど、それは願ったりだ。頼めるか」
リカルダの同意を得て、冒険者達は兵士達を連れ駐屯地へと舞い戻る。
相変わらず駐屯地内を右往左往するキラービー達の掃討作戦が開始された。
●
「さぁみんな! 残党狩りの時間だよ!」
ララベルが武器を掲げると、兵士達から鬨の声が沸き起こった。
持ち前のカリスマ性で兵士達を先導し、残ったキラービーの討伐に赴くララベル。
「僕が囮になるから、みんなは落ち着いて確実にとどめを刺していくんだよっ!」
ララベルの助けを借りつつ、兵士たちは次々と残党の討伐をこなしていく――。
「……内部に二匹だ。気付かせる間もなく討ち取れ」
サーマルアイで兵舎の内部を覗き見るセリオスが、連れ立った兵士達に指示を出す。
兵士たちは無言で頷くと緊張した面持ちで武器を構えた。
「……行け」
セリオスの合図に兵士達が兵舎の中へと突撃していく――。
「……落ち着いて、狙う。……こう」
ラビリアは足元に転がる瀕死の蜂に刃を振り下ろした。
兵士たちはその妙技をほれぼれと見つめる。
「感心してばかり……ダメ。次……頑張って……」
ラビリアはそんな兵士達を注意しつつ、次の獲物を指さす――。
「命中率に自信がない、又は的が小さい場合は、数で勝負です。槍衾ではありませんが矢の雨を降らして、どれかが命中するように仕向けてください」
アクティオンの指導を真剣な眼差しで聞いていた弓兵達は、ふらふらと浮遊するキラービーに視線を移した。
「弓兵には技量ももちろん大切ですが、位置取りがなお大事です。射線を常に意識し、敵の反撃を貰わない位置を的確につかんでください。あの敵の場合であれば――」
アクティオンの熱心な指導は続く――。
「蜜は……無いのだな」
範囲魔法で指令所内の残兵を倒したストレガは、食料確保に動いていた。
「……帝国東方に巣食うキラービーに蜜を集める習性は無し、と」
ストレガは収集した生態をメモに纏めつつ、更に作業を進める。
「蜂の子は処理が重要なのだ」
幼虫の腹を割き、足を落とす。こうすれば昆虫にしては十分な『肉』がとれる。エスタル攻略中の重要な栄養源になってくれるだろう。
ストレガは手慣れた手つきで幼虫を解体していく――。
「損害が軽微な兵舎を見繕い、復旧に当たってください!」
蜂の脅威が去った場所から復旧作業に取り掛かるハリス。
「ベッドとかの設備も、使えるものを集めてね! 終わったら、食事場の復旧も急ぐよっ!」
その傍らにはトゥーリの姿もあった。
「資材が足りない場合は、他の兵舎を取り壊して集めてください! 今は何より速度が重要です!」
「解体した材料は、一旦製材するからここに集めてねっ!」
二人は兵士達と協力し、駐屯地の復旧作業を進める――。
一人野営地に残ったベルクはリカルダと会談を持っていた。
「将軍、これがざっと見たところの概算費用だ」
「ふむ……やはり高額だな」
ベルクの提出したのは、駐屯地に修繕費用の概算だった。
あくまで彼女が知識を元に捉えた費用であるが、今後の復旧計画の役に立つだろうとリカルダへ渡したのだ。
「だが、これでエスタルの奪還が成れば、西を除く鎮守都市が揃う事になる。ここを拠点に兵力と兵站を整える事さえできれば、帝都を半包囲状態に置くことも可能だ、やる価値はあるだろう……オルセンの動向が読めぬのは痛いが」
「オルセンとて帝国の重要な都市だ。帝都奪還に否は言うまい」
「そうであればいいが……時に将軍」
「なんだ?」
「帝都よりこのエスタルへと続く街道――仮に帝国東部街道と呼ぶとすると、これとは別にオルセン、エスタル、ヴィントを結ぶ外周街道を整備できれば、物流の循環が確保できるのではないか? もし実現できれば復興に弾みがつくだろう」
「ふむ……面白い案だが、今はまだ夢物語だろうな」
「当然だ。今は人も物資も足りぬからな。いずれ帝国が復興した暁には、ぜひ実現させたい所だ」
遠謀を巡らせるベルクを、リカルダは頼もしく見つめた。
●
残敵の掃討は、冒険者と兵士達の連携により、日没までには完了した。
ストレガ主導での『食料』の確保も成果を上げ、その場で兵士達に振舞われる事となる。
駐屯地中央に火が焚かれ、辺りに何とも言えぬ香ばしい香りが漂っていた。
「……うむ、うまいのだ」
香ばしく焼けた蜂の子の串焼きを一口含んだストレガが、その味に納得の表情を浮かべる。
「皆も食べるといいのだ。大丈夫、毒はないのだ」
最初は怪訝そうに見ていた兵士達も、美味しそうに食べる彼女に触発され、串に手を伸ばした。
「塩や香草をまぶしても美味いのだ。色々試すのだ」
ストレガの勧めに兵士達も思い思いの味付けで『肉』を楽しむ。
こうして、2年の時を経て帝国軍の元へと戻った駐屯地の夜は、賑やかに過ぎていった。
マスターコメント
ミドルシナリオ難しい 報酬:標準8 / 6〜8人
2022年05月21日 23時01分31秒 公開
相談掲示板
シューターのアクティオンです、よろしく。 さて、目標は旧駐屯地の復旧と、魔獣(キラービー)の討伐、と。 キラービーは兵士の方々を一撃で命を奪えるくらい、ということなので、仮に兵士の方々に戦闘経験を積ませるにしても先手や奇襲は渡せない、ですね。 斥候責任者のカルラ君の能力があれば少なくとも不意打ちは避けられそうなので、それを中心に制圧範囲を増やしつつ、安全を確保したところで復旧作業……といったところでしょうか。
僕は、シーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、宜しくね!
シーフのラビリアです よろしくお願いします
シーフのベルクだ、よろしく頼む。 とりあえずやるべきはクイーンビーの討伐か? 兵士に戦闘訓練を積ませるにも統率が取れていないほうがやりやすいだろう。
トゥーリだよ、よろしくね! 作業は分けて考えた方が良さそうじゃない? 1.魔獣の討伐 ├兵士さんに戦闘経験を積ませるかどうか └幼虫や卵を確保して、食料へと転用させるかどうか 2.駐屯地の復旧 兵士さんの人数が400人って多いから、戦闘経験を積ませるにしてもかなり効率よくやらないと中途半端になっちゃいそう。逆に、魔獣は授恵者でなんとかしちゃうって割り切るなら復旧の作業人手は兵士さんに手伝ってもらえそうだね。 授恵者じゃない兵士さんが400人だと、休息場所や食事もはやめに確保しなくちゃいけないし、討伐→復旧じゃなくて討伐と復旧は手分けして並行作業した方がいいのかもね……
>作業は分けて 兵士の方々をどうするにせよ、中途半端にあれもこれも、よりは各作業に慣れた人員育成をした方が良いでしょうし、ね。 少なくとも序盤は魔獣索敵・殲滅は授恵者で、駐屯地復旧は兵の方々で、といったところでしょうか。 兵士の方々にも戦闘をという場合は、ある程度駐屯地が形が整ってから(=負傷や疲弊時に安全に休める場所が確保できてから)、という形にすれば、魔獣の数も減っていたりクイーンが撃破できていたりで戦いやすくなっているでしょうから、ある程度安全に経験を積ませることができるかもしれません。
失礼、遅くなりました。 ハリスと申します、どうぞ宜しく。 >目標 此度は駐屯地の奪還、かつリカルダ殿の兵を預かる形となりますか。 この地の復興はエスタル進軍のため急務。人的被害は可能な限り抑えなくてはなりますまい。 トゥーリ殿の言うように、効果的な分業が肝要かと思われます。 >戦闘 敵は飛行しており、かつ攻撃力が極めて高いようです。 女王が健在であれば統率もとれているようですから、もしも無策で突き当たれば兵士の方々に 深刻な被害が出るでしょう。もし起用するなら比較的安全な攻撃が行える弓兵、それも少数の 精鋭を回して頂くのが良いかと。こちらの手が回りきらない小型の処理を任せられれば、女王 への攻撃も円滑に進むでしょう。 女王は戦闘力が低く、恐らく営巣のため定位置に留まる都合上移動も遅いものと思われます。 キラービーは女王を守ろうとする本能が強いので、ある程度数を減らしたなら女王本体へ向けて 多少強引にでも肉薄しにいけば、自然とキラービーがまとわり付いてくるはず。飛行するといえ ど攻撃は毒針と顎による近接物理の様子。毒は多少厳しいですが私の耐久であれば相当の時間を 耐え凌げるはずです。そうして纏まったところへ範囲魔法を叩き込めば一撃で多くを始末できるでしょう。女王本体は単独になればシーフ・シューターを多数有する我々の敵ではありません。 ……ただ問題としては、木造建造物の内部に巣を構えていることですね。 激しい戦闘で倒壊させてしまうと、復興にかかる時間が延びてしまうかもしれません。 放置する訳にはいきませんし致し方ない犠牲ではありますが、なんとか上手く纏めたい処です。
・・・ん、遅くなった、シューターのセリオスだ、よろしく頼む とりあえず復旧は蜂をどうにかしてからでいいとは思う。 安全を確保しないとままならんだろうしな。もしくは最低限俺たちが女王を倒すまで待機する陣地づくりぐらいはしておいてもらってもいいだろうが。 戦闘させるならハリスの言う通り弓兵で距離をとらせてやるか、建物とかを利用してのほうがいいだろうな。 女王討伐だが駐屯地到着後すぐに向かって倒しに行くべきか、それとも多少周辺の蜂を間引いてからどっちがいいだろうか。前者だと早急に倒せれば解説にもあるようの統率ががくっと下がるようだから倒しやすくなるし、後者なら俺たちが女王を倒しに行ってる間に残った兵が襲われにくくはなるのではないかとは思う。
ストレガなのだ。よろしくなのだ。 虫は栄養なので食べるのだ。 範囲魔法なら任せるのだ。 タイダルだと壁に穴開けそうだしメテオライトでも豪風でもぶちこむのだ。 兵士投入は女王倒してからでもいいと思うのだ。
>女王討伐 ふむ……最初から探しに行ってもいい、ような気もします。 理由としては、既に言われているようにクイーン撃破であちらの統率がとれなくなるのもありますし、キラービー達はクイーンを何としても守ろうとする、とのことですから、こちらがクイーンを発見・攻撃を仕掛けられればキラービー達はクイーン防御に動くでしょう。 こちらの戦いは厳しくはなりますが、キラー達がクイーンの防衛を優先するなら他は安全性が高くなるので、兵の方々もある程度安心できそうかと。
ぼ、ぼんやりしてたら時間が…… とりあえず安全が確保できれば作業は追々でも何とかなるかな? どっちにしても、司令部(指令所?)の巣にいる女王をなんとかしないとダメそうだし。 ワタシは討伐優先で、拠点の護衛はリカルダさんにお願いするようにプレイングを書こうかな……
>時間 ははは、時がたつのは早いものですね(←白紙( >流れ などと言ってもいられないのでとりあえず大まかな流れを纏めておきます。 できるだけ調整できるようにはしますので、何かあればご指摘を! 1:到着後駐屯地周囲の安全確保、復旧本部を設置し兵を配置 2:本部との連絡手段を確保後、一部の精兵と共に指令所周辺までの虫を掃討 3:司令部内を透視やペット等で偵察し女王の位置を把握 4:冒険者のみ内部突入(兵は緊急時伝令役)し女王並びに護衛の蜂を強襲・撃破 5:各冒険者が十数名の兵を伴い巡回、統制を失った残敵を各個撃破・殲滅 6:卵や幼虫などに注意しつつ復興を進める 以上のような流れで如何でしょうか。
何時の間にか出発前夜か’(←白紙( 流れはハリス殿の言う通りでいいのではないかな?
流れは大丈夫… わたしは、女王にデバフを仕掛ける…よ…