鷲の騎兵

影絵 企鵝

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シナリオID:2161

オープニング

●遅い報告書

 冬がすっかり過ぎ去った頃、ミネルヴァ・フィーギルは実家を離れ、再び婚約者の下を訪ねていた。すっかり旅装を整えて、外へ飛び立つ準備は万全だ。彼女の身なりを見たフリードリヒ・ホーエンバッハは溜め息を吐く。
「準備は万全らしいな」
「ええ。勉強とお稽古しかすることないんじゃ暇で仕方ないもの。エレアノール姐さんが色々噂話を集めて来てくれたし、そろそろ旅に出たい頃合いね」
「わかった。まあちょうどいい頃合いだろう。ようやく兄貴殿も報告書を仕上げてきたところだ」
「今更? 一体全体どれだけ時間がかかってるんだか」
 言うと、ミーナはうんざりした顔で溜め息を吐いた。もうすでに討伐任務が終わってから一か月以上も経っている。フリッツから待てと言われたミーナは、律儀に故郷で結果報告を待ち続けていたのである。フリッツは静かに肩を竦めた。
「まあそう言ってやるな。兄貴殿はクリーパーやら敵対勢力やらの制圧のために西に東に大忙しだ。右筆を呼ぶ暇も無かったのだろう」
 フリッツは報告書を手に取る。たった一日のたったひと時の出来事に過ぎないにも関わらず、ちょっとした巻子本に纏められていた。ミーナは顔をしかめる。
「わざわざ巻物にする暇はあったくせに?」
「兄貴殿はとにかく様式にこだわるからな。アドラーベルクの誇りをそれで守っているのだから、僕としては特に文句を差し挟むようなこともないが」
 彼は羽根ペンを手に取ると、巻末にさらさらと承認のサインを書き付ける。ミーナは不機嫌な顔のままで尋ねた。
「そうですね。で、結局戦果はどうだったの?」

●這い寄る者の討伐記録

 森を割る林道に集まった冒険者達は、ヘーゼル伯から送られた増援の姿を思わず見つめてしまう。鷲の頭を模した兜を被り、鎧の背には鷲の翼を模した派手な羽根飾り。何より、その馬体は普段見る馬よりも一回りや二回り大きい。長柄の旗槍を掲げて、彼らは悠然と轡を並べている。その先頭に立った青年は、素早く鞍を降りて冒険者達を見渡した。
「応援に感謝する。私こそは有翼重騎兵団長を務めるエルンスト・ツォレルンだ。今回討伐すべきクリーパー、蛸型の『地を這う者』は既に村一つを呑み込み、付近の森で獣を食い荒らしながら勢力を徐々に増している。さらに強大化して手が付けがたい存在となる前に、我らと君達の力を合わせてさっさと一蹴してしまおう」
 彼は部下に向き直り、軽く道の先を指差す。騎士達は軽やかに回頭して歩みを進め、冒険者達とエルンストはその後に続く。街道沿いの草原を、一匹の黒く染まった蛸のようなクリーパーがのそのそと街道を辿って蠢く。どこから逃げてきたのか、山羊がその先を必死に走っていた。
「君達のギルドからもたらされた情報によれば、厄介なのはその姿を自在に変化させ、まるで兵隊のようにしてこちらに対峙してくるという点だな。奴はその能力によって急所から敵を遠ざけると共に、一度に多くの敵に対応することが出来る」
 クリーパーは伸ばした足を鎧を纏う槍兵のように変化させ、山羊へと襲い掛かる。槍の穂先にその哀れな身体を捉えて、そのまま口元へと引きずり込んでしまった。
「だがどこまでこちらに合わせようと、所詮奴の頭はただ一つあるだけだ。さらに言えば、その頭は至極単純に出来ている」
 エルンストは素早く騎馬に跨ると、槍を構えて敵を睨む。
「我々が先行し、正面切って奴に対峙する。そのまま我らは奴らの攻撃を引き受けるから、その隙に君達は裏へと回って素早く奴を狩ってもらいたい。君達の腕があれば造作も無いことだろう。頼んだぞ」
 騎士達は走り出すと、一人が高らかに角笛を鳴らす。クリーパーは振り返ると、彼らに向かって槍を突き出す。彼らも槍を構えると、臆せず一斉に突っ込んでいった。

 冒険者達はその背中を見送ると、自らも森の中を動き始めた。

解説

メイン ランドクロウラーの討伐 ENEMY ☆ランドクローラー  真っ黒な蛸に似た中型クリーパー。無数の足を変化させ、数多くの兵士に擬態して戦うことが出来る。 ●ステータス(PL情報)  長所:物理攻撃、物理防御 短所:魔法防御、機動力 ●スキル(PL情報) ・針鼠  槍を構えた兵士の擬態を作って迎え撃つ。 (発動時、隣接したヘクスを侵入不可にする) ・矢雨  弓兵の大群に変化し、一斉に墨の弾を放つ。 (隣接しあう3ヘクスを指定して攻撃。回避不可) ・絡みつき  擬態を解いた足で絡みつく。 (攻撃してきたPCの移動力を減少させる) NPC ☆有翼重騎兵団×10  ヘーゼル伯が擁するウォーリア中心の精鋭騎兵。旗槍を構えての一斉突撃で敵を蹴散らし、そのまま人馬一体となった重厚な一撃で敵を粉砕する。 ●ステータス  長所:物理攻撃、物理防御 短所:イニシアチブ、回避 ●スキル ・騎馬突撃  強烈な威力の突撃。歩兵槍を上回る長さの槍で強引に壁を突き倒す。 (チャージング使用後に行った攻撃の威力が2倍になる) ・嘶き  立ち上がった馬の重みを乗せて剣を振り下ろす。 (威力の上がった破鎧砕) FIELD ☆街道沿いの平原  平坦で障害物も無く、視線や射線が容易に通る。  平原の脇に森が有り、敵からは若干遠くなるが一応身を隠して移動することが可能。 TIPS ☆シナリオ開始から間もなく重騎兵団はクリーパーと激突する。ほっておいても死にはしないが迅速に行動しなければ連携が保てなくなる。 ☆一撃加えたらさすがに気付く。そこからの行動も重要。

マスターより

お久しぶりです。影絵企鵝です。 新生活に慣れるのに時間がかかってしまい、中々シナリオが出せずにおりました。 続きものなんですが大分間が開いてしまったので事後報告気味な形にしています。 またカンを取り戻すところからなのでどうかお手柔らかにお願いします。

リプレイ

●突撃!
 騎兵が一列になって突撃し、黒い蛸は兵士の群れに擬態して対峙する。アーテミシアは両者を眺めて比べ、小さく溜め息を吐く。
「陸に上がったタコかよ。どンなセンスしてやがンだ」
 蛸は弓兵の群れをつくると、墨の塊を矢のように放って降らす。騎兵達は盾を掲げて受け止め、構わず突進を続けた。華美な身なりのわりに、戦う姿は猛牛のそれである。
「力任せもいいとこだな……」
 アーテミシアはぽつりと呟き、蛸の背後を取るように走った。その隣を抜けるように、コルネリウス・アーラは一直線に蛸へ向かっていく。騎兵達はいよいよ加速し、蛸の兵士へと突っ込んだ。
「すごい……まるで動く城壁……」
 轡を並べて猛進する頑強な騎兵に、コルネは何となく対抗意識をくすぐられる。自分も負けてはいられない。背負った盾と刀を構えると、姿勢を低くし矢のように突っ込んだ。
「こっちですよ!」
 コルネは蛸の軍勢の側面に襲い掛かり、祭刀を頭上高く振るって叩きつける。エーテルの塊が弾け、ぬめつく敵を数体まとめて吹き飛ばした。蛸はその眼をぎょろりと動かし彼女の姿を捉えると、兵士を数体作り直して差し向ける。コルネは剣を構え直そうとするが、足元に流れた粘液が絡みつく。
「む……」
 足止めされる間に敵が迫る。しかし、背後からヘレン・ワーグナーの声が響いた。
「伏せて」
 ヘレンは大太刀を水平に構えると、踊るようにくるりと一回翻る。その勢いに任せて刃を振り抜き、太刀風一陣鋭く吹かせた。コルネが咄嗟に屈んだ背中を掠めて、黒い兵士の上半身を吹き飛ばす。ヘレンはそのままコルネの隣まで押し出すと、剣を構えて群れと対峙する。
「助かりました」
「連携は狩りの基本だからね。こんな食えそうにない大将首に興味はないし……」
 ゆるりと応えたヘレンは、押し寄せる兵士を薙ぎ払いで牽制しながらコルネを一瞥する。
「このままこっちに引き付けるよ……出来る?」
「もちろんです」

 騎士や前衛組が蛸やその兵士の群れと取っ組み合っている間に、後続の仲間が森を抜け、敵軍の背後へ回り込もうとしていた。イズル・M・ヴォルゴールが前衛を一瞥すると、ヘレンが敵の攻撃をやり過ごしながら悠々と剣を振り回していた。一歩間違えば深手を負いそうな紙一重の戦いぶりに、イズルははらはらとさせられる。
(……ヘレンなら特に心配ないってわかってるけど)
 騎兵団ともども負担を掛け続けるわけにもいかない。イズルは指揮棒を振り上げ、周囲に号令を送った。彼の所作に呼応するように真っ先に飛び出したのは、ゴリラだった。
 高らかに咆哮を上げながら、前線へとあっという間に殴り込む。蛸はさらに黒い兵士を繰り出してゴリラを迎え撃った。ゴリラの主、キリアン・フィッツジェラルドは矢の届くギリギリの距離から敵の様子を窺う。
「兵隊のように駒を動かす……指揮官にでもなった気分でしょうかね」
「クリーパーにそんな頭があるとは思えないけどな。目の前の奴を見たまんま真似してるってのがせいぜいだろ」
 キリクはキリアンの隣で弓を引く。騎兵達は熟達した技で猛然と切り結んでいるが、時々鎧を槍で突かれている。
「ウォーリア集団の騎兵ってならあんまり心配してやる必要もないんだろうけど……それでもこっちがもたもたして怪我されるのもバツが悪いよな」
 彼はエーテルの渦巻く鏃を天へ向けると、一気に弦を解き放つ。大きな弧を描いて飛んだ矢は、蛸の足の付け根で炸裂する。鏃に押し込められたエーテルが一気に拡散し、騎馬の足に絡みつこうとする黒い肉を無理矢理押さえ込む。
「うねうね気持ち悪い奴め、お前の十八番を奪ってやったぜ」
 キリクは矢を取って不敵に笑う。キリアンもすかさず弓を引き絞り、蛸の本体目掛けて鋭く矢を放つ。纏わるエーテルが矢を現世から覆い隠し、蛸が反応する間もなく深々と突き刺さった。本体の怯みは軍勢全体に波及し、攻勢が僅かに緩んだ。その間にコルネやヘレンが纏わりつく蛸の肉を蹴り払い、さらに剣を振るって肉を叩き潰す。
「所詮脳がたった一つである以上、一体一体違う意思を以て動くわけではないことは幸い。このまま撹乱すれば、勝利も難くない」

 矢による奇襲で怯んだ蛸を畳み掛けるように、バル・ヌール・スケアクロウが松明と盾で襲いかかった。火を灯した松明を鋭く投げつけると、そのまま盾を構えて突っ込む。蛸へと突っ込む。蛸はそんな彼女を目で捉えると、すぐさま何本もの足を槍兵へと転じて襲い掛かる。バルは両脚で踏ん張ると、盾を振るって敵の攻勢を次々といなしていく。
「後ろに通さなければそれでよし、と見ましょうか」
 彼女は自らに言い含めるように呟く。バルは造られたホムンクルス。人として生きていた頃の記憶はもちろん、今の『自己』さえまだ他人事だ。
「私が倒す必要はありません。必要なのは時間稼ぎとタイミング作成」
 兵士の身体がどろりと溶け、バルの足下にゆるりと纏わりつく。バルはそれでも怯むことなく、敵の攻撃を凌ぎ続ける。
「私の役目は擬態兵の攻撃を捌くこと、そして本体に魔法を叩き込むための隙を作ること。それを果たせさえすれば、十分です」
 バルが言い終わるか言い終わらないかのうちに、緑の光弾が一発飛び抜け、蛸の身体に直撃した。光は破裂し、霧のように広がって沁み込んでいく。アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは杖を構え、悠然と敵の前に姿を現す。
「幾ら軍勢を真似たところで、まとめて焼いてしまえば同じことよ」
 蛸はその眼だけをぐるりと動かして彼女の姿を捉えるが、その脚は騎兵やらゴリラやらと縺れ合ったままだ。アウレーリアは僅かに笑みを浮かべる。
「これは幸いね」
 アウレーリアはもう一度杖を振り抜き、今度は毒々しい光を秘めたエーテルを放つ。彼女の呪詛が籠ったエーテルは、クリーパーの身体を一層蝕む。蛸は脚を何とか数本引き抜いてくると、アウレーリアに向かって矢の雨を降らせた。しかし威力は覚束ない。彼女が頭上に作り出しておいた光の壁を前に、容易く弾き返される。彼女の近くを走るアーテミシアも、頭上に掲げたガントレットで矢の塊をいとも容易く受け止めていた。
「対多数特化ってトコか。少数相手にゃ効率が良くないぜ」
 攻撃を凌がれた蛸は、二本の脚を大きく伸ばして威嚇する。しかし、アーテミシアにとっては虚仮威しにもならない。彼女は一気に間合いを詰めると、兵士達が彼女を囲うよりも先に一撃を叩き込んだ。鈍い音がしてどす黒い肉が潰れる。蛸は仕返しとばかり、アーテミシアの腕や足に肉を絡みつかせるが、彼女は不敵な顔を緩めない。
「オレに絡みついたところで、意味ないんだよなあ」
 アーテミシアは拳を蛸にねじ込み、いっそより深く蛸へ食い込もうとする。イズルはその背後から切り込むと、日輪のように眩い光を戦槌に乗せて叩き込んだ。
「こっちを見ろ!」
 イズルは勇ましく叫ぶと、そのまま走ってエーテルの光を放つ。蛸はぎょろりと眼を動かして彼の背中を追いかけるが、入れ替わるように走り込んできたヘレンが力任せに大太刀を振り抜く。イズルの放ったエーテルを纏った大太刀はやにわに切れ味を増し、蛸の顔面をすっぱりと切り裂いた。どす黒い体液が噴き出し、蛸は慌てて身を縮める。
「そっちをよそ見する余裕があるとか、正気かな……?」
 イズルを危険に晒すつもりはない。ヘレンはひたすら力押しの強打を叩き込み、蛸の注意を自分へ向けようとする。
「ううん……化け物に正気を求めても仕方ないか」
 ヘレンが蛸の意識を引いている間に、イズルは騎兵団の下へと駆け寄った。槌を振り上げると、周囲に癒しの波動を一気に広げ、騎兵達を癒していく。
「皆さんの力、今一度お借り出来ますか!」
 イズルが尋ねると、エルンストは高らかに笑い、襲い掛かる蛸の脚を一撃で斬り伏せた。
「問うまでも無いことよ。君達こそ、ゆめゆめ油断するなよ!」
「はン……指図すンなっての」
 アーテミシアは深々と溜め息を吐き、槌を振るって絡みつく脚を叩き落とす。その身に次々と刻まれていく生傷にエーテルの波動を当てて癒すと、すかさず反撃の一撃を蛸の脳天に叩きつける。彼女の身を切らせる猛攻に、蛸は防戦一方だ。
「ほら、さっさと追撃しな」
 アーテミシアが目配せすると、アウレーリアは静かに杖を振るってエーテルを集める。
「そう言えば、シャルガネでは蛸入りのパンケーキを売っていたわね?」
 アウレーリアは挑発的に語り掛けると、杖を天目掛けて掲げる。縒り集められたエーテルの塊が火の玉となり、次々と蛸の頭上に降り注ぐ。激しい炎の責め苦に、蛸は苦しげに身を捩る。その姿をアーテミシアは嘲り笑う。
「こンなんじゃ焼いても食えそうにねえな? もう少し絵面のセンスを磨くンだな」
 アーテミシアは戦槌を叩きつけ、纏わりつく脚を一気に振り払う。冒険者達の怒涛の攻勢をまともに受け、蛸は既に満身創痍。体液を垂れ流しながらどうにか蠢いていた。
「……さて、そろそろお膳立ては十分ね」
 杖をくるりと弄び、アウレーリアはちらりと騎兵の様子を窺う。
「鷲の騎兵の力、拝ませてもらおうかしら」

「皆さん! もう一度突撃の準備を! 私達が道を拓きます!」
 コルネは剣を振るい、エーテルを込めた叫びを放つ。騎兵を狙う蛸の兵が、その矛先を変えてコルネへと向かう。次々に襲い来る穂先を盾で払い、剣を叩きつけて群れを叩き潰しながら、彼女は騎兵に目配せした。騎兵は頷くと、一斉に蛸から距離を取り始める。
 蛸は地面を打ち鳴らし、その後を追いかけようと腕を伸ばす。しかし、その背後から黒染めの一矢が翔け、腕を一本あっという間に吹き飛ばした。
「よそ見してんなよ。俺達もいるんだ」
 蛸は大きく身を捩ると、キリク目掛けて兵士の群れを差し向ける。
「ちょっと痛い目を見たらすぐ怒る。どこまで行っても単純だな、クリーパーってのは!」
 キリクは素早く後退して蛸の反撃から逃れると、火花を散らす矢を放つ。矢は宙で弾け飛び、光の破片と化して蛸の脚に次々突き刺さる。そこへキリアンのゴリラが組み付き、力任せに足を引っ張り釘付けにする。
「さあ、もう少し頑張ってくださいよ……」
 キリアンは畳み掛けるようにエーテルの矢を放つ。狙い澄ました一撃は頭に突き刺さり、蛸は力無くその場にへたり込む。それを見たコルネが背後を振り返った。
「今です、エルンストさん!」
 その叫びに合わせ、騎兵達は再び轡を並べて走る。槍を水平に構える。雷のように轟く地響きの中で、ツォレルン卿は高らかに叫んだ。
「良かろう! しかと見よ! これが王国一の騎兵の力ぞ!」
 駆け抜けた騎兵の一団は、蛸の頭を形も残らぬほどに踏み潰したのだった。

●遅れた労い
 討伐任務完了から遅れる事およそ一か月、ようやく君達は依頼主であるフリードリヒの邸宅に招かれた。集まった君達を前に、フリッツはいつもの素っ気ない顔で口を開いた。
「足労感謝します。団長の報告が遅れてしまったせいで、中々君達の戦果を確認できずにおりました」
「いいよー、別に。報酬さえちゃんと払ってくれたらねぇ。……わざわざ後日ここまで呼びつけた分も含めて」
 ヘレンが欠伸混じりに言う。若干呑気、若干不遜な態度にイズルは若干ひやひやして彼女を見遣ったが、フリッツは気に留めなかった。
「支払い遅延の利息として多少色を付けましょう。それでよろしいですか」
「感謝します。重騎兵団の助力も頼もしかった。手配して頂けて感謝します」
「君達の活躍にも感謝申し上げます。君達の奮戦ぶりなら、オセール子爵も君達の実力が勝利をもたらしたということにしておけましょう」
「みみっちぃね……貴族のくせに」
 ヘレンがぽつりと呟くと、フリッツは肩を竦めた。
「帝国が消え失せたことで、北方領主は政治ごっこくらいしかすることが無いのですよ。いかに周りの領主の足下を掬うかということばかり考えている」
 キリアンはフリッツの呆れたような物言いに相槌を打つ。クリーパーによる被害は、帝国貴族のキリアンにとってあまり他人事ではない。
「せめて今回の顛末でオセール子爵も危機感を持ってくれればいいのですが。クリーパーの脅威はどこにでも起こり得るものですから」
「そう簡単にはいきませんよ。軍を維持するのは相応に金がかかりますからね」
「ああ、私もそれで苦労しているお家を知っています……」
 コルネは耳を垂らす。彼女の知己であり、目の前の青年の婚約者である少女の家は、今まさに辺境領主として必死に財政立て直しに励んでいるところだった。軍も農民が持ち回りで自警団をこなしているレベルである。アーテミシアは唸った。
「でもアンタ達は違うンだとでも言いたげだな?」
「ええ、当然」
 フリッツはにこりともせず頷く。
「“我々”には意地がありますので」
 彼の背後には、一つの盾を支える鷲、獅子、馬の三紋章が並んで掲げられていた。
「鷲の騎兵は常に王国騎士と共にありました。その誇りを失わないために、私は手を尽くしているのですよ」
「仲の悪い家に増援を出すのもその一環ってわけか」
 キリクは肩を竦める。多種多様な政争の形に、闇の中で育った彼は呆れるばかりだ。フリッツは真面目くさった顔で応える。
「テーブルの上で握手して、テーブルの下では蹴り合いをするのが貴族なのですよ」
「……はぁん」
 会話が一段落し、誰もが一瞬押し黙る。バルはその隙をついて、そっと口を開く。
「領主様。私は今回のクリーパー、妙に気になっておりまして。個でありながら集団、しかし完全に分離するわけでもなく、一つの生態とするにはどこか中途半端で。まるで……」
 バルは長手袋に包まれた自分の左腕をそっと撫でる。
「何者かの試作のような気がするのですよ」
 それを聞くなり、フリッツは難しい顔をした。
「どうでしょうね。作られたクリーパーなど、まず有り得ないと言いたいところですが、それこそ貴方の様な者が現れてしまっては……」
 彼は羽根ペンを取ると、目の前の紙片にさらりと覚書を書き殴る。
「一応気には留めておきましょう」

 一方、アウレーリアはフリッツへの挨拶もそこそこに、バルコニーを目指していた。書斎を訪れる時に、ちょうど立派な旅装に身を包んだ“彼女”を見かけていたのである。
「すっかり『余所行き』の格好ね」
 アウレーリアが話しかけると、ミーナは羊皮紙を見比べる手を止めた。アウレーリアがちらりと目を通すと、それらは全て冒険者ギルドの報告書だ。
「次はどこへ行く心算なのかしら、ミーナ?」
「そうですねぇ……」
 ミーナは羊皮紙を一枚拾い上げると、アウレーリアへと差し出す。
「この辺とか、とっても興味深いと思うんです」
 アウレーリアが取って読むと、そこにはこう記されていた。



 ――ノズドランマーケットは今年も開催される――

マスターコメント

皆さんご参加ありがとうございました。 今回は騎兵団に花まで持たせてもらってしまったようですね。 だからというわけではなく、普通に騎兵団が大した怪我も無く戦えたので今回は大成功といたします。 ちなみに彼らは王国騎士団に配慮して騎兵団を名乗っています。ナイトではなくキャバルリーです。覚えておいていただけると幸い。 では今後もよろしくお願いします。
ショートシナリオ

ショートシナリオ易しい 報酬:少ない8 / 4〜8人

2022年05月30日 00時58分35秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. バル・ヌール・スケアクロウ

    ウォーリアのバル・ヌール・スケアクロウです。 ホムンクルスです、よろしくお願いしますね

  2. イズル・M・ヴォルゴール

    ヒーラーのイズルです。よろしく。 敵は魔法攻撃に弱いので、魔法攻撃出来る人とかスイッチできる人がいたら宣言した方がいいのかな? 俺は出発までに少しでも魔法攻撃出来るように調整しようと思ってる。予定は祈雷と物魔撃スキル。 あと、有翼重騎兵団の使い方。 スキルがあるから、できるなら協力したい。 ヒーラーは俺しかいないから回復は持ってく。内容は未定。

  3. キリアン・フィッツジェラルド

    どうも、シューターのキリアン・フィッツジェラルドと申します。 宜しくお願い致します。 あくまで兵士に擬態して動くというのは、ランドクローラーの無数の足がそれらに擬態するだけであって、本体が行う訳では無いみたいですね。 ただそれも、あくまで足が繋がった状態で行われるのか、それとも擬態の為にパージが可能なのか。 魔法攻撃に関しては、ダマスカスの魔弓ではありますが魔法攻撃は可能です。 強化に関しても、レベルは最大ですので。 あと、僕としてはゴリラとリンクを結んでのZOCにより、擬態した足の群れの動きの阻害も狙ってみたいとも思ってます。 もう1枠は本体と足との識別の為に捜波か、物理面でも防御力に優れるそうですから真ハーツペインでのスリップ狙いか、考え中です。

  4. アーテミシア

    ウォリアーのアーテミシアだ 足は必ずしも相手する必要はないかもしれねえな 足の早いやつが先行して、ある程度のタイミングで一撃食わせて相手してる間に本体を叩くか

  5. キリク

    シューターのキリクだ、よろしく。 僕もメイン武器が魔弓だから魔法攻撃を撃てるぞ。 初手はグラビティボルトで足の動きを鈍らせて、弓でチクチク撃つ感じだな。

  6. バル・ヌール・スケアクロウ

    うーん、そうですねぇ。 今のところ、盾役というかあちらの攻撃を受け止める役目を主として考えています。 ディフェンダーみたいなものですね。

  7. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    キャスター、アウレーリアです。宜しく。 言わずもがな、魔法攻撃は本業ですね。それしかできないとも言いますが。 基本的に立ち回りは距離を取っての撃ち合いです。矢雨が回避不能なのは厄介ですね。 【魔法の壁】を立てるか、森に潜むかといったところでしょう。 少しでも物理攻撃を通しやすくするために、アシッドブリットか魔錆を用意していきましょうか。 軍勢の真似事をしてくるようですが、それも範囲魔法で焼いてしまえば問題ないでしょう。 手も足も出ないたこ焼きになったところで、ヘーゼル伯のフサリアを突撃させて終い、ですね。

  8. キリアン・フィッツジェラルド

    ちょっと取り急ぎ気味ですが、心霊石との交換を終えて、手持ちのアクセと相談して生命4と物防3を習得。 生命509、物防189にまでは高められました。 蛸の各種スキルはPL情報だそうですが、擬態に関しては 「君達のギルドからもたらされた情報によれば、厄介なのはその姿を自在に変化させ、まるで兵隊のようにしてこちらに対峙してくるという点だな。奴はその能力によって急所から敵を遠ざけると共に、一度に多くの敵に対応することが出来る」 と、OPでエルンスト殿が仰ってましたから、これに関しては大まかな情報は知っていると見て宜しいでしょうかね? あと、矢雨からの立て直しも兼ねて、僕もヒール1を持って行ってみます。

  9. コルネリウス・アーラ

    すみません、遅くなりました。 ウォーリアのコルネリウスです、よろしくお願いします。 私は前に出てのタンカーの予定ですね。 アタッカーの方が魔法攻撃を通しやすいよう抑えとフォローを行っています。 タコさん、足一本ずつが一体として認識されると考えて良いのでしょうか…? 足の擬態兵に殺界が通じるようなら、それで抑えられれば良いのですが。

  10. アーテミシア

    まあオレも足は遅いし、タンクだな。ヒールは自前で範囲スキルで叩く感じか こっちも引き付ける必要があるし、正面から突っ込んでいくぜ

  11. イズル・M・ヴォルゴール

    自前のヒール持っていく人がいるなら、俺は騎士団の回復や戦闘の負担を減らすように動こうかな? 挟撃した時の騎士団と背後取った皆との距離感がわからないから今は届かない前提で話を進める。 双方で攻撃して気を引きあった方が隙も作りやすいし、回復に一手使う時間もできそうだしな。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0